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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H05K
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H05K
管理番号 1376771
異議申立番号 異議2021-700394  
総通号数 261 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-09-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-04-27 
確定日 2021-08-11 
異議申立件数
事件の表示 特許第6781786号発明「放熱構造」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6781786号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6781786号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし3に係る特許についての出願は、平成30年2月21日(優先権主張 平成29年2月23日)の出願である特願2018-28596号の一部を平成30年10月3日に新たな特許出願とした、特願2018-188354号の一部を平成31年3月15日に新たな特許出願としたものであって、令和2年10月20日に特許権の設定登録がされ、令和2年11月4日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対して、令和3年4月27日に特許異議申立人遠藤三規子により特許異議の申立てがなされたものである。

第2 本件特許発明
本件特許の請求項1-3の特許に係る発明(以下、「本件特許発明1」-「本件特許発明3」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1-3に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】
基板に設置された電子部品から発生する熱を放熱部に伝熱して放熱する放熱構造であって、
前記基板の表裏方向の一方側には、前記基板の表裏方向に直交する第1幅方向及び第2幅方向に延設されて、前記基板の表裏方向の一方側に伝熱された熱を、前記基板の面方向に沿って伝熱させる面方向伝熱部が備えられ、
前記面方向伝熱部は、第1幅方向の一方側から切り欠いた切欠部が形成され、高温域の熱が伝熱される高温領域部位と高温域よりも低温の低温域の熱が伝熱される低温領域部位とを有し、
前記高温領域部位は、第2幅方向で前記切欠部に隣接する位置に配置され、前記低温領域部位は、第1幅方向で前記切欠部に隣接する位置に配置されている放熱構造。
【請求項2】
前記基板の表裏方向の一方側には、前記基板の面方向に延設されて、前記基板の表裏方向の一方側に伝熱された熱を、前記基板の面方向に沿って伝熱させる面方向伝熱部が備えられ、
前記面方向伝熱部は、高温域の熱が伝熱される高温領域部位と、高温域よりも低温の低温域の熱が伝熱される低温領域部位とを有し、
前記基板よりも表裏方向の一方側の熱を、前記基板よりも表裏方向の他方側に移動させ、前記放熱部に伝熱させて放熱する第2伝熱部が備えられ、
前記第2伝熱部は、前記面方向伝熱部にて前記基板の面方向に沿って伝熱された熱を、前記基板の周囲を通して前記放熱部に伝熱させ、
前記第2伝熱部は、前記基板の面方向で前記面方向伝熱部の前記高温領域部位が位置する側から前記基板の表裏方向の他方側に延設された第1延設部と、前記基板の面方向で前記面方向伝熱部の前記低温領域部位が位置する側から前記基板の表裏方向の他方側に延設された第2延設部とが備えられ、
前記第1延設部は、前記第2延設部よりも熱が伝熱される伝熱面積が小さく設定されている請求項1記載の放熱構造。
【請求項3】
前記基板の表裏方向の一方側には、前記基板の面方向に延設されて、前記基板の表裏方向の一方側に伝熱された熱を、前記基板の面方向に沿って伝熱させる面方向伝熱部が備えられ、
前記面方向伝熱部は、高温域の熱が伝熱される高温領域部位と、高温域よりも低温の低温域の熱が伝熱される低温領域部位とを有し、
前記基板よりも表裏方向の一方側の熱を、前記基板よりも表裏方向の他方側に移動させ、前記放熱部に伝熱させて放熱する第2伝熱部が備えられ、
前記第2伝熱部は、前記面方向伝熱部にて前記基板の面方向に沿って伝熱された熱を、前記基板の周囲を通して前記放熱部に伝熱させ、
前記第2伝熱部は、前記面方向伝熱部において、前記基板の面方向で前記低温領域部位よりも前記高温領域部位に隣接する箇所に配置されている請求項1又は2に記載の放熱構造。」

第3 申立理由の概要
理由1 請求項1に係る発明は、甲第1号証、甲第3号証及び甲第4号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、請求項1に係る特許は特許法第29条第1項の規定に違反してなされたものであるため、同法第113条第2号により取り消されるべきである。

理由2 請求項1に係る発明は、甲第1号証又は甲第3号証又は甲第4号証に記載された発明、及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、
請求項1に係る発明は、甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、
請求項2に係る発明は、甲第1号証又は甲第2号証又は甲第3号証又は甲第4号証に記載された発明、甲第7号証に記載された事項及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、
請求項3に係る発明は、甲第1号証又は甲第2号証又は甲第3号証又は甲第4号証に記載された発明、及び、甲第8号証又は甲第9号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、
請求項1ないし3に係る特許は第29条第2項の規定に違反してなされたものであるため、同法第113条第2号により取り消されるべきである。

理由3 請求項1ないし3に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるので、同法第113条第4号により取り消されるべきである。

<証拠方法>
甲第1号証:特開2017-22251号公報
甲第2号証:特開2007-49015号公報
甲第3号証:特開2004-342325号公報
甲第4号証:特開2013-12508号公報
甲第5号証:実用新案登録第3193907号公報
甲第6号証:特開2012-95517号公報
甲第7号証:特開2016-100512号公報
甲第8号証:特開2006-286757号公報
甲第9号証:特開平11-97869号公報

第4 理由1(第29条第1項第3号)、理由2(第29条第2項)について
1 甲第1号証ないし甲第9号証の記載事項、引用発明
(1)甲第1号証には、以下の事項が記載されている(下線は、当審で付与したものである。以下同様。)。
「【0001】
本発明は、電気回路部品が登載される回路基板及び当該回路基板を備える電子装置に関し、特に小面積であっても高い放熱性を有する回路基板及び当該回路基板を備える電子装置に関する。」

「【0006】
上記の背景より、小面積で且つ放熱性の高い回路基板、及び当該回路基板を備える電子装置の実現が望まれている。」

「【0010】
〔第1実施形態〕
図1は、本発明の第1の実施形態に係る電子装置の構成を示す三面図である。
本電子装置10は、車両に搭載されて当該車両のエンジン制御を行う電子制御ユニット(ECU、Electronic Control Unit)であり、熱伝導性と導電性とを有する材料(例えばアルミニウム等の金属や導電性樹脂など)から成るベース100aとカバー100bとにより構成される導電性の筐体100と、筐体100内部に収容された回路基板102と、回路基板102に登載されてその一部が筐体100外に露出したコネクタ104と、を有する。ベース100aとカバー100bとは、図1に示す上面図の四隅部分に設けられたネジ106a?dにより結合される。また、カバー100bは、凸部108を有し、カバー100bのうち凸部108に隣接する部分に放熱器110が設けられている。また、回路基板102は、ネジ112a、112b、112c、112dによりカバー100bに固定されている。」

「【0012】
図2(a)に示すように、回路基板102は、図示右側のハッチングで示した所定の面積の広がりを持つ矩形形状の本体部200と、当該本体部200から図示左方へ延在する矩形形状の2つの延在部202a及び202bから構成されている(図2には、本体部200と延在部202a、202bとの境界が点線で示されている)。延在部202aは、図2(a)における上部の辺が本体部200の上部の辺と直線的に繋がり、延在部202a、202bは同じ幅Wと長さLとを持ち、且つ、当該幅と同じ距離Wを隔てて互いに平行に形成されている。」

「【0015】
更に、回路基板102のウラ面の延在部202a、202bには(すなわち、延在部202a、202bの一の露出面には)、それぞれ、所定の面積の広がりを持つ矩形形状の金属膜で構成されたグランドパターン204a、204bが形成されている(図2(a))。」

「【0017】
回路基板102の本体部200には、そのオモテ面及びウラ面に種々の回路部品を登載することができ、これらの回路部品は、図2(a)(b)において、符号210、212、214、216、218、220、222、224、226、228として示されている。
【0018】
さらに、回路基板102の延在部202a、202bのオモテ面には、動作時に熱を発散する発熱部品230、232、234、236が登載されている(図2(b))。ここで、発熱部品230?236は、CPU等の集積回路、MOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)等のトランジスタ、抵抗器、コンデンサ等とすることができる。
【0019】
上記の構成を有する回路基板102は、本体部200から延在する延在部202a、202bを有し、当該延在部202a、202bに発熱部品230?236が集中配置されることで、本体部200に登載される回路部品210?228を、これら発熱部品の熱発散から遠ざけて保護することができる。すなわち、従来のように矩形基板の周辺部に発熱部品を配置する構成に比べて、発熱部品と他の部品との距離を大きくとって発熱部品から他の部品への熱的な干渉を抑制することができる。」

「【0022】
さらに、延在部202a、202bの、発熱部品230?236が実装されているオモテ面に対向するウラ面(すなわち、一の露出面)の部分には、金属膜で構成されたグランドパターン204a、204bが形成されているため、延在部202a、202bのウラ面を熱伝導性の素材で構成された構造物(例えば、筐体100)に接触させることにより、発熱部品230?236から生ずる熱を、グランドパターン204a、204bを介して筐体へ効果的に放熱することができる。
【0023】
図4は図1に示す電子装置10のAA矢視断面図、図5は図1に示す電子装置10のBB矢視断面図である。回路基板102の延在部202a、202bは、共に、ウラ面(即ち、グランドパターン204a、204bが形成された面)が、カバー100bの内面に接触するように取り付けられており、カバー100b(従って、筐体100)に対して電気的に直流的に接続されると共に、熱的にも接続される。これにより、延在部202a、202bに登載された発熱部品230?236から発生する熱は、カバー100bを介して放熱器110へ伝達して効果的に放熱される。
【0024】
このため、回路基板102の本体部200に登載された回路部品210?228は、発熱部品230?236からの熱的な干渉を受けることなく、安定に動作することができる。また、発熱部品230?236から発生する熱は、延在部202a、202bから筐体100のカバー100bへ即座に放熱されるので、本体部200の露出面は、回路基板102を筐体100へ取り付けるためのネジ112a、112bが配される少なくともエッジ部を除き、放熱を目的として筐体100のベース100a又はカバー100bに接触させる必要はない。このため、図4に示すように、本体部200のオモテ面及びウラ面の両面に回路部品を実装することが可能となる。」

「【0026】
なお、発熱部品230?236からの熱をカバー100bに効率的に伝達するためには、延在部202a及び202bのウラ面に形成されるグランドパターンは、これら延在部202a、202bのオモテ面に登載された発熱部品230?236の実装領域に対応するウラ面の領域を含むように形成することが望ましい。」

「【0028】
また、本実施形態の回路基板102は、2つの延在部202a、202bを含むものとなっているが、これに限らず、発熱部品の大きさや数に応じて、1つ又は3つ以上の延在部を有するものとしても良い。
【0029】
また、図2(a)には図示していないが、本体部200にもグランドパターンが形成されていてもよい。更に、そのような本体部200のグランドパターンは、延在部202a、延在部202bのグランドパターン204a及び又は204bと電気的に接続されていても良い。この場合、延在部202a、202bのグランドパターン204a、204bとカバー100bとの接触部を介して、回路基板102上に構成された電子回路のグランド電流が、筐体100に接続された外部電源装置のグランド端子へ還流するものとすることができる。また、本体部200に形成されるそのようなグランドパターンは、回路基板102が多層基板の場合には、内層又は表面(ひょうめん)層に形成されるものとすることができる。」

図2


図4


図2より、矩形形状の2つのグランドパターン204a及び204bが見て取れる。

図4より、回路基板102の延在部202a、202b、カバー100b及び放熱器110が積層されていることが見て取れる。

上記の記載事項を総合すると、甲第1号証には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる(括弧内は、甲第1号証の記載箇所を示す。)。
「ベース100aとカバー100bとにより構成される筐体100と、筐体100内部に収容された回路基板102と、カバー100bに設けられた放熱器110を有する電子装置10であって(【0010】)、
回路基板102は、矩形形状の本体部200と、当該本体部200から延在する矩形形状の2つの延在部202a及び202bから構成され(【0012】)、
本体部200には、オモテ面及びウラ面に種々の回路部品を登載し(【0017】)、
延在部202a、202bのオモテ面には、発熱部品230、232、234、236が登載され(【0018】)、
延在部202a、202bの、発熱部品230?236が実装されているオモテ面に対向するウラ面には、発熱部品230?236の実装領域に対応するウラ面の領域を含む、矩形形状の2つのグランドパターン204a及び204bが形成され(【0022】、【0026】、図2)、
本体部200にもグランドパターンが形成され(【0029】)、
延在部202a、202b、カバー100b及び放熱器110は積層されており(図4)、
延在部202a、202bは、グランドパターン204a、204bが形成されたウラ面が、カバー100bの内面に接触するように取り付けられており、カバー100bに対して熱的に接続され(【0023】)、
延在部202a、202bに登載された発熱部品230?236から発生する熱は、グランドパターン204a、204b、カバー100bを介して放熱器110へ伝達して効果的に放熱される(【0022】、【0023】)、
電子装置10。」

(2)甲第2号証には、以下の事項が記載されている。
「【請求項1】
一部が発熱部品である複数の部品を含む電子機器であって、
前記発熱部品の周辺と、前記発熱部品を除いた部品の周辺との間で熱を遮断する構造を有することを特徴とする電子機器構造。」

「【請求項6】
前記熱を遮断する構造が、前記発熱部品の周辺と、前記発熱部品を除いた部品の周辺と、の間の回路基板における構造である請求項1の電子機器構造。」

「【請求項12】
前記回路基板における構造が、前記発熱部品が配置された箇所と、前記箇所を除く箇所との間の前記回路基板の一部が取り除かれた構造である請求項6の電子機器構造。」

「【0008】
そこで本発明は、かかる問題に鑑み、回路基板上の発熱部品からの熱を局所的に封じ込め、回路基板上の他の部品への熱伝導を低減する電子機器構造を提供することを目的とする。」

「【0028】
以上、説明したように、本発明の電子機器構造と電子機器は、発熱部品の周辺と、発熱部品を除いた部品の周辺との間で熱を遮断する構造を有することを特徴とする。
これによって、電子機器内の発熱箇所からの熱が、発熱箇所以外へ伝わり、問題が発生することを抑止することが可能となる。」

「【実施例1】
【0030】
図1は、本発明の第1実施例を示す電子機器構造を表した図である。図1において2は、通常は、図示されていない筐体内部に収められるプリント基板等の回路基板である。3、4、5は、回路基板2に実装されたICやLSI、さらにはPAやFET等の電子部品である。1は、断熱材を示す。ここで、断熱材1に付された矢印記号について説明する。本実施例において断熱材1は、回路基板2や部品3および4により近接するように配置される。しかし、図1においては、説明のために、上方に離されて図示されている。断熱材1に付された矢印記号は、以上のように断熱材1が説明のために、本来の位置とは異なる位置に図示されていることを示す。」

「【0032】
ここで、部品3、4が動作状態によって発熱する部品であるとする。本実施例では、図1に示されるように、回路基板2における部品3、4が配置された近辺のみを断熱材1で覆う。これにより、部品3や4から発せられる熱が断熱材1によって遮断ないしは低減される。断熱材1が無ければ、部品3や4の熱は、様々な経路で伝導して拡散してしまう。例えば図示されていない筐体内の気体の対流や筐体などにより熱が伝導される。筐体によって熱が伝導される過程においては、筐体自身の温度が上がるため、例えば携帯端末など、利用者の人体が筐体に触れる箇所が高温となると、利用者に不快感をもたらす。また部品5に示される、回路基板上の他の部品に熱が伝わった場合にも、さまざまな問題が発生する。例えば、動作特性が周囲の温度変化に敏感である部品においては、周囲温度の上昇により動作が不安定になる、所定の特性を得られなくなる、等の問題が発生する。さらに高温の状況下での使用は部品を劣化させ、長期的には部品の寿命を短くする。」

「【0052】
図9の8は、回路基板2の、特に電源やグランドの配線パターンのイメージを示す。図9には、回路基板2と配線パターン8の2つが図に示されているが、配線パターン8は回路基板2の内部構造を示すものであり、配線パターン8が回路基板2とは別に物理的に存在するわけでない。図9の9に示される破線の枠は、発熱部品3、4が配置される箇所と、部品5の箇所との、回路基板上の境界箇所を示す。
【0053】
第6の実施例では、回路基板2上の、境界9の箇所の、電源あるいはグランドの配線パターンが、図に示す10や11のように絞られている。プリント基板等のおいては、配線パターンに銅などが用いられるため、熱伝導率が高い。また特に電源やグランドのパターンはノイズ対策や回路の安定化のために広い面積で配線するよう、パターン設計されることが多い。本実施例では、特に広い面積で設計された電源やグランドのパターンを敢えて狭くすることで、熱の伝導を抑えることが可能となっている。本実施例には、実施例7や8のように複数の回路基板と、それらの回路基板を接続するケーブルやコネクタなどの付加的な部品を用いないため、部品原価や組み立て工数が少ないという利点がある。」

「【0060】
第8の実施例を、図11を用いて説明する。
【0061】
図11は、回路基板2の、発熱部品3や4が配置された箇所と、部品5が配置された箇所の、回路基板2上の接続箇所の一部が取り除かれていることを示す。基板の一部を取り除くことにより、実施例7と同様に、熱伝導する接続面が減り、発熱部から伝導する熱を減らすことが可能となる。
【0062】
変形回路基板となるが、実施例6と同様に複数の回路基板や、回路基板を接続するケーブルやコネクタなどの付加的な部品を用いないため、部品原価や組み立て工数が少ないという利点がある。」

図11


上記の記載事項を総合すると、甲第2号証には、次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されていると認められる(括弧内は、甲第2号証の記載箇所を示す。)。
「発熱部品3や4が配置された箇所と、部品5が配置された箇所の接続箇所の一部が取り除かれている回路基板2を用い(【0061】)、
発熱部品3や4の周辺と、発熱部品を除いた部品5の周辺との間で熱を遮断する電子機器構造(【0028】)。」

(3)甲第3号証には、以下の事項が記載されている。
「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、放電灯点灯装置に関し、特に車載用のバッテリーなどの直流電源を用いて放電灯を点灯させるための放電灯点灯装置に関するものである。」

「【0011】
従来は、コンバータ部1のスイッチング素子Q1,Q2やインバータ部2のスイッチング素子Q4?Q7のように相対的に発熱量の多い発熱部品と、制御部5を構成する回路部品のように相対的に発熱量の少ない非発熱部品とを1個の回路基板10上に混在させていた。このため、発熱部品の熱が、回路基板10を介した熱伝導や、輻射などによって、非発熱部品に伝わり温度を上昇させていた。従って、熱に弱い回路部品の温度が動作保証温度を超えて熱暴走等の動作異常の原因となることを防ぐために、通常よりも大きな放熱板を発熱部品に取り付けたり、発熱部品だけでなく非発熱部品にも放熱板を取り付けたり、動作保証温度の高い回路部品を用いるなどの対策を施す必要があったため、製造コストが増大していた。
【0012】
本発明は上記事由に鑑みてなされたものであり、その目的は、製造コストを増大させることなく、非発熱部品の温度上昇を防ぐことができる放電灯点灯装置を提供することにある。」

「【0030】
(実施形態1)
本実施形態の回路構成は従来例と同様であるので、回路構成については図示並びに説明を省略し、本実施形態の特徴である構造について説明する。本実施形態は、図1及び図2に示すように、コンバータ部1やインバータ部2や制御部5を構成する回路部品がそれぞれ実装された第1の回路基板11a及び第2の回路基板11bと、凹部21aが設けられ一面(図1における上面)が開放された直方体形箱状に形成されて第1の回路基板11aと第2の回路基板11bとが収納されたボディ21と、ボディ21の開口を閉塞する形でボディ21に結合しボディ21とともにハウジングを構成するカバー22(図5参照)とを備える。制御部5を構成する回路部品などの非発熱部品は第1の回路基板11aに実装され、コンバータ部1のスイッチング素子Q1,Q2やインバータ部2のスイッチング素子Q4?Q7などの発熱部品は第2の回路基板11bに実装されている。
【0031】
第1の回路基板11aと第2の回路基板11bとはそれぞれ実装面の反対面(以下、「反実装面」と呼ぶ)をボディ21に向けてボディ21の凹部21aに収納されている。全ての回路部品は、第1の回路基板11a又は第2の回路基板11bにリフロー実装されている。また、ボディ21の凹部21a底面には他の部位よりも深さ寸法を小さくした台座部21bが設けられている。第2の回路基板11bは、反実装面がボディ21の台座部21bに接触することによりボディ21に熱結合されている。さらに、ボディ21の凹部21aの底面であって台座部21bでない部位には複数の突部21cが上方へ突設され、第1の回路基板11aは突部21cに取り付けられている。これにより、第1の回路基板11aとボディ21との接触面積は第2の回路基板11bとボディ21との接触面積よりも小さくなっており、第2の回路基板11bから第1の回路基板11aへのボディ21を介した熱伝導が抑えられている。
【0032】
第1の回路基板11aと第2の回路基板11bとは、複数本(図2では5本)のボンディングワイヤ又は電線などの導電部材12を介して互いに電気的に接続されている。また、第2の回路基板11bには、第2の回路基板11bと図示しない放電灯用ソケットとを電気的に接続するためのコネクタ13と、コンバータ部1と図示しない直流電源Bとを接続するため図示しないコネクタとが実装されている。
【0033】
上記構成によれば、非発熱部品と発熱部品とを第1の回路基板11aと第2の回路基板11bとに分けて実装したことにより、発熱部品の熱が回路基板を伝わることによる非発熱部品の温度上昇を抑えることができるから、製造コストを増大させることなく、非発熱部品の温度上昇を抑えることができる。」

「【0052】
ここで、本発明においては、発熱部品と非発熱部品とを別々の回路基板に実装することにより非発熱部品の温度上昇を抑えたが、1枚の回路基板10を用いても、例えば、スイッチング素子Q1のような発熱部品を図15に示すようにボディ21の台座部21bに接触させることによりボディ21に熱結合させれば、発熱部品のボディ21を介した放熱が可
能となり、発熱部品から非発熱部品に伝わる熱が減少するので、従来例に比べて非発熱部品の温度上昇を抑えることは可能である。
【0053】
また、図16に示すように、非発熱部品を回路基板10の一部である第1の領域Z1にまとめて実装し、発熱部品を第1の領域Z1から離れた第2の領域Z2に実装するとともに、回路基板10の第1の領域Z1と第2の領域Z2との間にスリット10aを設けても、発熱部品から非発熱部品への回路基板10を通じた熱伝導が抑えられるから、従来例に比べて非発熱部品の温度上昇を抑えることは可能である。」

図16


上記の記載事項を総合すると、甲第3号証には、次の発明(以下、「引用発明3」という。)が記載されていると認められる(括弧内は、甲第3号証の記載箇所を示す。)。
「非発熱部品を回路基板10の一部である第1の領域Z1にまとめて実装し、発熱部品を第1の領域Z1から離れた第2の領域Z2に実装するとともに、回路基板10の第1の領域Z1と第2の領域Z2との間にスリット10aを設けて、発熱部品から非発熱部品への回路基板10を通じた熱伝導が抑えられる(【0053】)、放電灯点灯装置(【0001】)。」

(4)甲第4号証には、以下の事項が記載されている。
「【0001】
本発明は、放熱性を向上する電源構成を採用した電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器の電源装置は、一般に多大な熱を発する。この熱に適切に対処しないと、電源装置のみならず、電子機器全体にも悪影響を与える。当然、電子機器中の電源装置以外の本体回路からも発熱があるため、熱への対処は電子機器全体に対して必要となる。」

「【0011】
本願発明の電子機器では、前記放熱板、前記本体回路の基板及び前記多層基板の外縁の少なくとも一部は、切欠きを有し、前記切欠きに、前記本体回路よりも高さの高い回路が配置されていてもよい。
本発明により、背の高い回路を電子機器に搭載することができる。ここで、熱源となる回路を電子機器の隅に集めることができ、電子機器の側面から効率よく放熱することができる。また、多層基板上における回路の設置スペースを有効に利用することができる。」

「【0014】
本発明によれば、本発明は、薄型で放熱性がよく、長寿命化の可能な電子機器を提供することができる。」

「【0017】
図1は、本実施形態に係る電子機器の採用する電源構成の一例を示す斜視図である。図2は、本実施形態に係る電子機器の採用する電源構成の横断面図の一例を示す。本実施形態に係る電子機器は、多層基板11と、電源回路と、本体回路基板38と、放熱板13と、を備える。最上面に放熱板13が配置される。これにより、電子機器全体における放熱性を高めている。
【0018】
電源回路は、本体回路基板38に電力を供給する。例えば、電源回路は、板状コンデンサ31と、トランス51と、制御回路52と、コイル54と、グランド53、55と、スイッチング素子61と、ダイオード62と、を備える。電源回路の回路部品は多層基板11上に搭載される。
【0019】
板状コンデンサ31は、制御回路52とシールド線で接続され、電源回路用のコンデンサとして機能する。スイッチング素子61及びダイオード62は、制御回路52とシールド線で接続される。ここで、スイッチング素子61及びダイオード62は、放熱板13に設けられた収容部に埋め込まれ、ねじ等の固定具を用いて固定されていることが好ましい。収容部は、放熱板13のうちの本体回路基板38側の面に設けられていることが好ましい。
【0020】
本体回路は、電子機器のうちの電源以外の機能を発揮させるための回路であって、電源回路からの電力供給によって動作する。例えば、本体回路は、本体回路基板38と、LSI(Large Scale Integration)21と、LSI22と、IC(Integrated Circuit)56と、板状コンデンサ36と、を備える。LSI21、22などの熱源となる回路部品は多層基板11上に搭載される。例えば、LSI21、22及びIC56が搭載されている本体回路基板38は、多層基板11上に搭載される。なお、本体回路は、本体回路に電力を供給する電源回路とは異なるサブの電源回路、例えば電源電圧を下げるDC-DCコンバータを備えていてもよい。また、本体回路は、本体回路に電力を供給する電源回路の一部、例えばスイッチング回路を備えていてもよい。電源回路のうちのスイッチング回路が放熱板13に接していることで、発熱量の大きいスイッチング回路の熱を放熱板13から放熱することができる。
【0021】
放熱板13は、電源回路及び本体回路の発する熱を放熱する。放熱板13は、アルミニウムなどの熱伝導率の高い金属からなることが好ましい。さらに、熱放射を高めるため、放熱板13は、黒色アルマイト加工が施されていることが好ましい。また、放熱板13はグランドに接続されていることが好ましい。これにより、電子機器の内外の電磁波の影響や不要放射を低減することができる。
【0022】
放熱板13は、多層基板11との間に、熱源となる本体回路を挟むように配置される。多層基板11と放熱板13は略平行に対峙して配置されている。このように、多層基板11と放熱板13が層状に重なっているため、電子機器の薄型化が可能になる。ここで、多層基板11の下面から放熱板13の上面までの高さは、電子機器の高さ未満である。例えば電子機器の高さが1Uである場合は1Uに収まるようにする。
【0023】
本体回路の上端は放熱板13と接する。例えば、本体回路の回路部品のうちの最も背の高いLSI21の上端面は放熱板13と接する。LSI22のようにLSI21よりも背の低い回路部品の場合は、LSI22の放熱板13側の面が熱伝導体24を介して放熱板13と接する。これにより、LSI22の発する熱を放熱板13に効率よく伝導させることができる。熱伝導体24は、熱伝導率の高い物質が好ましく、例えば金属板又は熱伝導シートである。
【0024】
一方、本体回路特にLSI21よりも高さの高いトランス51、制御回路52及びコイル54は、多層基板11の端に寄せ集めて実装する。この場合、最上面の放熱板13及び中間の本体回路基板38は必要に応じて切欠きを入れる。そして、この切欠きにトランス51、制御回路52及びコイル54を配置する。トランス51、制御回路52及びコイル54の筐体側や、本体回路基板38に搭載されている回路との境界に、電子機器の内外の電磁波の影響や不用放射を低減するためのグランド53、55を設けても良い。なお、必要に応じて、多層基板11にも切欠きを入れてもよい。」

「【0030】
図3に、本実施形態に係る電子機器の全体構成の一例を示す。電子機器の上面に、大面積の放熱板13が配置される。これにより、電子機器に搭載されているほとんどの回路からの発熱を十分に放熱することができる。
【0031】
また、筐体側面には通気孔が設けられ、冷却用のファン57が適宜用意されることが好ましい。これにより、放熱板13を冷却したり、多層基板11と放熱板13との間にこもった熱を放出したりすることができる。
【0032】
電子機器の上部に配置される放熱板13がグランドに接続され、電子機器の下部に配置される多層基板11の最下面の層がグランドに接続されているため、内外からの電磁波の影響や不要放射を低減することができる。
【0033】
放熱板13の隅には切欠きが設けられており、切欠き部分に背の高い回路71が配置されている。そして、放熱板13にはスイッチング素子などの素子72が埋め込まれている。
【0034】
多層基板11に電源用の板状コンデンサが配置され、多層基板11と放熱板13との間が中空になる。このため、電子機器の動作に用いる種々の回路部品を本体回路基板(図1及び図2に示す符号38)上に配置することができる。種々の回路部品を本体回路基板38に搭載することで、各回路から放出される熱を放熱板13から放熱することができる。このため、薄型で放熱性がよく、長寿命化の可能な電子機器を提供することができる。」


上記の記載事項を総合すると、甲第4号証には、次の発明(以下、「引用発明4」という。)が記載されていると認められる(括弧内は、甲第4号証の記載箇所を示す。)。
「多層基板11と、電源回路と、本体回路基板38と、放熱板13と、を備える電子機器であって(【0017】)、
放熱板13の隅には切欠きが設けられ、スイッチング素子61、ダイオード62及び素子72が埋め込まれており(【0019】、【0033】)、
LSI21、22などの熱源は多層基板11上に搭載され(【0020】)、
LSI21の上端面は放熱板13と接し、
LSI22の放熱板13側の面が熱伝導体24を介して放熱板13と接し、LSI22の発する熱を放熱板13に効率よく伝導させることができる(【0023】)、
電子機器。」

(5)甲第5号証には、以下の事項が記載されている。
「【0022】
本発明は、樹脂ケース1と電子回路基板2を前記形状となすと共に、電子回路基板2の接続点2aから半径25mmの範囲内、より好ましくは20mmの範囲内に、他の電子部品5aに比べて発熱量の大きい電子部品5bを可能な限り配置するものである。ここで、発熱量の大きい電子部品5bとは、主に電源回路等の集積回路部品をいう。部品内部にトランジスタ等の半導体部品を複数含み、当該部品の作動中に、その内部に例えば85℃を超すような部品を少なくとも含むような集積回路部品が発熱量の大きい電子部品5bである。」

(6)甲第6号証には、以下の事項が記載されている。
「【0015】
図2は本発明に係る電力変換モジュールの放熱装置を概略的に示す斜視図、図3は図2に示した電力変換モジュールの放熱装置を概略的に示す分解斜視図である。図示したように、前記電力変換モジュールの放熱装置200は、電力変換モジュールのケース210、高放熱ヒートシンク220、回路ボード230および締結部材240を含んでなる。
【0016】
前記ケース210は、複数の放熱フィンが所定間隔離隔されて配置された放熱フィン部211、および放熱フィン部同士の間に設けられた空間部212が形成される。
【0017】
前記高放熱ヒートシンク220は、放熱フィンのみが形成されたケース210に比べて放熱効果が大きいヒートシンクであって、アルミニウムまたは銅で構成され、前記ケースの空間部212に装着される。
【0018】
前記回路ボード230は、電力変換素子が装着され、前記ケース210の下部に結合される。これにより、前記回路ボード230からの発熱は放熱フィンを含むケース210および高放熱ヒートシンク220によって放射され、前記回路ボード230は冷却される。
【0019】
本発明に係る電力変換モジュールの放熱装置をより効率よく実現するために、前記ケースの空間部212は回路ボードにおいて他の領域に比べて高い熱が発生する高発熱部の対応される位置に形成され、前記空間部には高放熱ヒートシンク220が装着されることにより、前記回路ボード230から放射される熱をより効率よく冷却させることができる。」

(7)甲第7号証には、以下の事項が記載されている。
「【0019】
図1に示されるように、第1の放熱部110は、基板210の表面上に実装された第1の発熱部品220に熱的に結合されている。図1および図2に示されるように、第1の放熱部110は、複数のフィン111と、凹部112とを備えている。複数のフィン111は、板状に基板110の表面から離れる方向に延出するように設けられている。凹部112は、第1の放熱部110の両端部側に、基板110の表面から離れる方向に凹状に形成されている。
【0020】
また、第1の放熱部110では、一括固定ネジ170a、170bおよび板材固定ネジ160a、160bが取り付けられる位置に、ネジ穴(不図示)が設けられている。第1の放熱部110の材料には、鉄やアルミニウムなど、熱伝導性の高い金属材料等が、用いられる。第1の放熱部110は、ヒートシンクとも呼ばれる。
【0021】
図1および図2に示されるように、第2の放熱部120は、基板110の裏面に向かい合うように設けられている。図1および図2に示されるように、第2の放熱部120は、板状に形成されている。また、図1および図2に示されるように、第2の放熱部120の両端部は、第1の放熱部110へ近づく方向に向けて曲げられている。第2の放熱部120の一方の面上には、熱伝導部130が積層されている。熱伝導部130は、第2の放熱部120の一方の面に、密着されている。
【0022】
また、第2の放熱部120には、一括固定ネジ170a、170bが取り付けられる位置に、ネジ穴(不図示)が設けられている。第2の放熱部120の材料には、鉄やアルミニウムなど、熱伝導性の高い金属材料等が、用いられる。第2の放熱部120は、放熱板とも呼ばれる。
【0023】
図1および図2に示されるように、熱伝導部130は、第2の放熱部120の一方の面に密着されている。より具体的には、熱伝導部130は、第2の放熱部120のうちで基板210の裏面に向かい合う面に、密着されている。図1に示されるように、熱伝導部130は、基板210の裏面上に実装された第2の発熱部品230a、230bに熱的に結合する。熱伝導部130は、柔軟性を有する。
【0024】
また、図1および図2に示されるように、熱伝導部130は、第2の放熱部120の両端部側にて、外方へ延出する部分(延出部分)が設けられている。図1および図2に示されるように、熱伝導部130の延出部分は、第2の放熱部120の両端部側にて、第1の放熱部110へ近づく方向に向けて延びるように設けられている。
【0025】
図1に示されるように、冷却装置100が電子基板200に取り付けられたとき、熱伝導部130の延出部分は、第1の放熱部110の凹部111内で、第1の放熱部110に熱的に結合する。また、熱伝導部130の延出部分は、第1の放熱部110の凹部111内で、袋体140a、140bを包み込んでいる。熱伝導部130の材料には、例えばグラファイトが用いられる。熱伝導部130は、グラファイトシートとも呼ばれる。」

「【0045】
第2の発熱部品230a、230bは、熱伝導部130に密着し、熱的に結合している。このため、第2の発熱部品230a、230bの熱は、まず、熱伝導部130へ伝わる。第2の発熱部品230a、230bで発生した熱は、熱伝導部130の面方向に伝わった後、凹部112内部まで伝わる。凹部112内では、第1の放熱部110と熱伝導部130が熱的に結合している。この接触部では、熱伝導部130の上面が、第1の放熱部110に密着している。熱伝導部130の上面は、第2の発熱部品230a、230bと熱的に結合している面でもある。これにより、第2の発熱部品230a、230bで発生した熱が、熱伝導部130を介して、効率よく第1の放熱部110に伝わる。」

「【0047】
ここで、熱伝導部130にグラファイトを用いた場合を説明する。グラファイトは一般的に面方向に高い熱伝導率(同銅の2?4倍)を有することが知られている。このため、熱伝導部130にグラファイトを用いた場合、第2の発熱部品230a、230bで発生した熱を、熱伝導部130を介して、より効率よく第1の放熱部110に伝えることができる。」



ア 段落【0019】、【0023】ないし【0025】、【0045】の記載より甲第7号証には、次の技術が記載されている。
「基板の表面上に実装された発熱部品に熱的に結合した放熱部と、基板の裏面上に実装された発熱部品に熱的に結合して面方向に熱を伝える熱伝導部を設け、熱伝導部には放熱部へ近づく方向に向けて延びる延出部分が設けられ、延出部分を放熱部に熱的に結合する技術。」

イ 段落【0045】及び【0047】の記載より甲第7号証には、次の技術が記載されている。
「発熱部品で発生した熱を、面方向に熱を伝えるグラファイトを用いた熱伝導部を介して、放熱部に伝える技術。」

(8)甲第8号証には、以下の事項が記載されている。
「【0001】
発熱電子部品を表裏に実装した回路基板と、前記回路基板を互いに対向させて複数収納することができる熱伝導性を有する筐体からなり、筐体により各々の発熱電子部品の放熱を行う電子機器の放熱構造に関する。」

「【0007】
図1は本発明の第1実施例を示す電子機器に実装された発熱電子部品の放熱構造の側断面図である。
図において、1は筐体、11は内部隔壁、12は筐体側面、13は溝部、2は回路基板、21は発熱電子部品、22は部品高さの高い発熱電子部品、23はコネクタ、3は熱伝導性を有する蓋である。
本発明が従来技術と異なる点は、筐体1は内部に筐体側面12と一体となった内部隔壁11を有しており、回路基板2は内部隔壁11の両面を挟み込むように2つ取り付けられており、回路基板2の表裏に実装された複数の発熱電子部品21、22を内部隔壁11に押し当てることにより、発熱電子部品21、22の熱を内部隔壁11に伝熱させ、外部へ放熱させるようにした点である。
また、発熱電子部品21と比較して部品高さが高い発熱電子部品22を筐体1に収納する際に、内部隔壁11に容易に押し込むことができるように、内部隔壁11の一部が凹状の溝部13を有すると共に、該部品高さに合わせて溝部13の深さが調整されたものとなっている。
また、コネクタ23は回路基板2間を電気的に接続するために用いており、各々の基板2に実装されている。それから、筐体1の上部には蓋3を取り付けることにより、対向する回路基板2に実装された発熱電子部品21を押し当てるようになっている。
【0008】
次に、電子機器内部の熱の移動を図1を用いて説明する。
図において、蓋3に対向する回路基板2に実装されている発熱電子部品21の熱は、この蓋3を介して外部へと放熱が行われる。一方、回路基板2間に実装された発熱電子部品21、および部品高さの高い発熱電子部品22の熱は、対向する内部隔壁11へ伝熱し、さらに筐体側面12へ伝熱した後、外部へ放熱が行われる。ここで部品高さの高い発熱電子部品22は凹状の溝部13の底面に押し当てられ、他の発熱電子部品21と同様に内部隔壁11に伝熱することが可能となっている。
なお、蓋3、内部隔壁11と発熱電子部品21、発熱電子部品22の間には、電気的絶縁を行うとともに良好な伝熱性を得るために熱伝導性弾性体を用いても良い。また22が発熱電子部品でないならば、13の凹状の溝部はくり貫いても良く、対向する回路基板に実装された部品に接触しないまで回路基板間を狭めることができる。
【0009】
本発明の第1実施例は、複数の発熱電子部品を表裏に実装した回路基板と、回路基板を互いに対向させて複数収納することができる熱伝導性を有する筐体からなり、筐体により各々の発熱電子部品の放熱を行う電子機器の放熱構造において、筐体は、内部に内部隔壁を有しており、回路基板は前記内部隔壁の両面を挟み込むように少なくとも2つ取り付けられており、回路基板の表裏に実装された複数の発熱電子部品を内部隔壁に押し当てることにより、発熱電子部品の熱を前記内部隔壁に伝熱させ、外部へ放熱させる構成にしたので、回路基板に実装されているすべての発熱電子部品の放熱を筐体により良好に行うことができる。
また、筐体の内部隔壁の一部を凹状の溝部形状にしたので、回路基板の距離を短くすることができ、電子機器を小形にすることができる。」

上記記載より甲第8号証には、次の技術が記載されている。
「発熱電子部品の熱を、筐体側面と一体となった対向する内部隔壁へ伝熱し、さらに筐体側面へ伝熱した後、外部へ放熱する技術。」

(9)甲第9号証には、以下の事項が記載されている。
「【0016】図1は、本発明の一実施形態を示す小型電子機器の分解斜視図である。図2は、図1に示す小型電子機器のA平面での断面図である。
【0017】図において、1は印刷配線基板2に実装されたLSIやマイコンなどの回路素子である発熱体、3は発熱体1が実装された印刷配線基板1を内包する第1熱伝導部材である放熱ケース、4は前記放熱ケース3と機械的及び熱的に結合した第2熱伝導部材であるヒートシンク、5a,5bは筺体、6は通気穴6aを有する放熱カバーである。
【0018】ヒートシンク4は、放熱ケース3から伝導される熱を気中に放出する放熱フィンを備える。そして、筐体5a,5bは、ヒートシンク4が該筐体5a,5bの外側に位置するようにするための凹部5cを備える。前記放熱カバー6は、前記凹部5cを塞いでヒートシンク4を覆う。
【0019】このような小型電子機器において、発熱体1で発生した熱は、これを包囲する放熱ケース3に伝導され、この放熱ケース3と熱的に結合状態にあるヒートシンク4に伝導される。そして、ヒートシンク4は筺体5a,5bの外側に位置しているために、放熱カバー6の通気穴6aを通過して循環する外気に放熱する。従って、発熱体1で発生した熱が筺体5a,5b内に多量に放散して内部温度や表面温度が大きく上昇することはない。
【0020】発熱体1から放熱ケース3への熱伝導効率を高めれば、発熱体1の温度上昇を一層低く抑えることができる。図3に示す実施形態は、発熱体1と放熱ケース3の間の熱伝導効率を高めるために、発熱体1と放熱ケース3の間に熱伝導率の大きな第3の熱伝導部材7a,7bを介在させたものである。この第3熱伝導部材7a,7bは、発熱体1と放熱ケース3の間の熱伝導を促進させる。」

上記記載より甲第9号証には、次の技術が記載されている。
「発熱体で発生した熱を、これを包囲する放熱ケースに伝導し、放熱ケースと熱的に結合状態にあるヒートシンクに伝導する技術。」

2 対比・判断
2-1 甲第1号証に記載された発明について
(1)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と引用発明1を対比する。
(ア)引用発明1の「回路基板102」、「発熱部品230、232、234、236」(発熱部品「230?236」に同じ)、「放熱器110」は、それぞれ、本件特許発明1の「基板」、「電子部品」、「放熱部」に相当する。
そして、引用発明1の「回路基板102」の「延在部202a、202bに登載された発熱部品230?236から発生する熱」を「グランドパターン204a、204b、カバー100bを介して放熱器110へ伝達して効果的に放熱」する構造は、本件特許発明1の「基板に設置された電子部品から発生する熱を放熱部に伝熱して放熱する放熱構造」に相当する。

(イ)引用発明1は「発熱部品230?236から発生する熱は、グランドパターン204a、204b、カバー100bを介して放熱器110へ伝達して効果的に放熱される」のであるから、「グランドパターン204a、204b」は、伝熱部であるといえる。そして、「グランドパターン204a、204b」は、「発熱部品230?236の実装領域に対応するウラ面の領域を含む」よう「形成され」ているので、「回路基板102」の表裏方向に直交する第1幅方向及び第2幅方向に延設されているとえる。
また、引用発明1は「延在部202a、202b、カバー100b及び放熱器110は積層されており、延在部202a、202bは、グランドパターン204a、204bが形成されたウラ面が、カバー100bの内面に接触するように取り付けられており、カバー100bに対して熱的に接続され、延在部202a、202b」「のオモテ面」「に登載された発熱部品230?236から発生する熱は、グランドパターン204a、204b、カバー100bを介して放熱器110へ伝達して効果的に放熱される」のであるから、「グランドパターン204a、204b」は、「延在部202a、202b」の「ウラ面」に伝熱された熱を、「延在部202a、202b」の面と垂直な方向に「発熱部品230?236」から「カバー100b」へ伝熱している。
そうすると、引用発明1の「回路基板102」の「延在部202a、202bの」「ウラ面に」「グランドパターン204a及び204bが形成され」ていることと本件特許発明1とは、「前記基板の表裏方向の一方側には、前記基板の表裏方向に直交する第1幅方向及び第2幅方向に延設されて、前記基板の表裏方向の一方側に伝熱された熱を」「伝熱させる」「伝熱部が備えられ」ている点で共通する。
但し、伝熱部が、本件特許発明1は「熱を、前記基板の面方向に沿って伝熱させる面方向伝熱部」であるのに対して、引用発明1は、熱を「延在部202a、202b」の面と垂直な方向に伝熱している「グランドパターン204a、204b」である点で相違する。

(ウ)引用発明1の「グランドパターン204a及び204b」は「矩形形状」であるが、「本体部200」の「グランドパターン」の形状は不明である。また、「本体部200」に搭載された「回路部品」と、「本体部200」の「グランドパターン」との関係についても不明である。
そうすると、伝熱部について、本件特許発明1は「前記面方向伝熱部は、第1幅方向の一方側から切り欠いた切欠部が形成され、高温域の熱が伝熱される高温領域部位と高温域よりも低温の低温域の熱が伝熱される低温領域部位とを有し、前記高温領域部位は、第2幅方向で前記切欠部に隣接する位置に配置され、前記低温領域部位は、第1幅方向で前記切欠部に隣接する位置に配置されている」のに対して、引用発明1はそのような特定がない点で相違する。

したがって、本件特許発明1と引用発明1とは、次の一致点及び相違点を有する。
(一致点)
「基板に設置された電子部品から発生する熱を放熱部に伝熱して放熱する放熱構造であって、
前記基板の表裏方向の一方側には、前記基板の表裏方向に直交する第1幅方向及び第2幅方向に延設されて、前記基板の表裏方向の一方側に伝熱された熱を、伝熱させる伝熱部が備えられている放熱構造。」

(相違点1)
伝熱部が、本件特許発明1は「熱を、前記基板の面方向に沿って伝熱させる面方向伝熱部」であるのに対して、引用発明1は、熱を「延在部202a、202b」の面と垂直な方向に伝熱している「グランドパターン204a、204b」である点。
(相違点2)
伝熱部について、本件特許発明1は「前記面方向伝熱部は、第1幅方向の一方側から切り欠いた切欠部が形成され、高温域の熱が伝熱される高温領域部位と高温域よりも低温の低温域の熱が伝熱される低温領域部位とを有し、前記高温領域部位は、第2幅方向で前記切欠部に隣接する位置に配置され、前記低温領域部位は、第1幅方向で前記切欠部に隣接する位置に配置されている」のに対して、引用発明1はそのような特定がない点。

イ 判断
(ア)第29条第1項第3号について
本件特許発明1と引用発明1は、上記のとおり相違点がある。
よって、本件特許発明1は、甲第1号証に記載された発明でない。

(イ)第29条第2項について
まず、上記相違点1について検討する。
引用発明1はグランドパターン204a、204bがカバー100bの内面に接触するように取り付けられて、熱をグランドパターン204a、204bからカバー100bへ、グランドパターン204a、204bの面と垂直な方向に伝熱しているのであるから、それに換えて、グランドパターン204a、204bの面方向に沿って伝熱させる構成にすることは、熱の伝熱断面積を減少させることに加えて伝熱距離を長くして、放熱の効率を低下させることになるので当業者といえども想定し難いことである。
ここで、甲第7号証には、発熱部品で発生した熱を、面方向に熱を伝えるグラファイトを用いた熱伝導部を介して、放熱部に伝える技術が記載されている(上記「1 (7)イ」)。しかしながら、該技術は、甲第7号証の「1 (7)ア」に記載されているように、基板の裏面から、基板の表面側に設けられた放熱部に熱を伝えるものに適用すれば有効となるのであって、該技術を引用発明のようにグランドパターン204a、204b、カバー100bを介して放熱器110へ熱を伝達するものに適用しても、上記のように、放熱の効率を低下させるだけである。よって、甲第7号証に記載の面方向に熱を伝えるグラファイトを用いた熱伝導部を、引用発明1の「グランドパターン204a、204b」に適用することは、当業者に動機付けられないことである。

したがって、上記相違点1に係る構成は、甲第7号証の記載を考慮しても、引用発明1に基づいて、当業者が容易になし得たこととはいえない。

さらに、特許異議申立人の主張について検討する。
特許異議申立人は、また、仮に、本件特許発明1と甲1号証に記載された発明とに相違点があったとしても、本件特許発明1は、甲1号証に記載された発明および周知技術(甲2?甲9)に基づいて、当業者が容易に発明することができたものと主張している(特許異議申立書第22頁第3ないし7行)。
ここで、「周知技術(甲2?甲9)」について、どのようなものであるのか記載されていないが、仮に、発熱部品で発生した熱を、面方向に熱を伝える熱伝導部を介して、放熱部に伝える技術が周知であったとしても、該周知技術を、引用発明1に適用して「グランドパターン204a、204b」の面方向に沿って伝熱させる構成しても、放熱の効率を低下させることになるだけである。したがって、引用発明1に上記周知技術を適用することは、当業者に動機付けられないことである。
そうすると、上記相違点1に係る構成は、引用発明1及び周知技術に基づいて、当業者が容易になし得たこととはいえず、特許異議申立人の主張を採用することができない。

よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲第1号証に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。

(2)本件特許発明2について
本件特許発明2は、本件特許発明1に対して、さらに「前記基板よりも表裏方向の一方側の熱を、前記基板よりも表裏方向の他方側に移動させ、前記放熱部に伝熱させて放熱する第2伝熱部が備えられ、前記第2伝熱部は、前記面方向伝熱部にて前記基板の面方向に沿って伝熱された熱を、前記基板の周囲を通して前記放熱部に伝熱させ、前記第2伝熱部は、前記基板の面方向で前記面方向伝熱部の前記高温領域部位が位置する側から前記基板の表裏方向の他方側に延設された第1延設部と、前記基板の面方向で前記面方向伝熱部の前記低温領域部位が位置する側から前記基板の表裏方向の他方側に延設された第2延設部とが備えられ、前記第1延設部は、前記第2延設部よりも熱が伝熱される伝熱面積が小さく設定されている」という技術事項(以下、「技術事項1」という。)を追加したものである。

甲第7号証には、基板の表面上に実装された発熱部品に熱的に結合した放熱部と、基板の裏面上に実装された発熱部品に熱的に結合して面方向に熱を伝える熱伝導部を設け、熱伝導部には放熱部へ近づく方向に向けて延びる延出部分が設けられ、延出部分を放熱部に熱的に結合する技術が記載されているが(上記「1 (7)ア」)、該技術が、甲第1号証に記載された発明に周知技術を適用する動機付けとなるものでないことは上記「(1)イ (イ)」で述べたとおりである。

そうすると、本件特許発明1を引用する本件特許発明2は、本件特許発明1をさらに減縮したものであるから、上記本件特許発明1についての判断と同様の理由により、甲第1号証に記載された発明、甲第7号証に記載された事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。

(3)本件特許発明3について
本件特許発明3は、本件特許発明1に対して、さらに「前記基板よりも表裏方向の一方側の熱を、前記基板よりも表裏方向の他方側に移動させ、前記放熱部に伝熱させて放熱する第2伝熱部が備えられ、前記第2伝熱部は、前記面方向伝熱部にて前記基板の面方向に沿って伝熱された熱を、前記基板の周囲を通して前記放熱部に伝熱させ、前記第2伝熱部は、前記面方向伝熱部において、前記基板の面方向で前記低温領域部位よりも前記高温領域部位に隣接する箇所に配置されている」という技術事項(以下、「技術事項2」という。)を追加したものである。

ここで、甲第8号証に、発熱電子部品の熱を、筐体側面と一体となった対向する内部隔壁へ伝熱し、さらに筐体側面へ伝熱した後、外部へ放熱する技術が記載されている(上記「1 (8)」)。
また、甲第9号証には、発熱体で発生した熱を、これを包囲する放熱ケースに伝導し、放熱ケースと熱的に結合状態にあるヒートシンクに伝導する技術が記載されている(上記「1 (9)」)。
しかしながら、甲第8号証及び甲第9号証の記載は、引用発明1において上記相違点1に係る構成を採用する動機付けとなるものではない。

そうすると、本件特許発明1を引用する本件特許発明3は、本件特許発明1をさらに減縮したものであるから、上記本件特許発明1についての判断と同様の理由により、甲第1号証に記載された発明、甲第8号証又は甲第9号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。

2-2 甲第2号証に記載された発明について
(1)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と引用発明2を対比する。
(ア)引用発明2の「回路基板2」に「配置された」「発熱部品3や4」は、本件特許発明1の「基板に設置された電子部品」に相当する。
ここで、引用発明2は「発熱部品3や4の周辺と、発熱部品を除いた部品5の周辺との間で熱を遮断する」のであるから、引用発明2は、回路基板2に配置された発熱部品3や4から発生する熱に関する構造であるものの、熱を伝熱する構造ではなく熱を遮断する構造である。
したがって、引用発明2の「発熱部品3や4が配置された箇所と、部品5が配置された箇所の接続箇所の一部が取り除かれている回路基板2を用い」る「電子機器構造」と本件特許発明1とは、「基板に設置された電子部品から発生する熱に関する構造」である点で共通するが、
本件特許発明1は「熱を放熱部に伝熱して放熱する放熱構造」であるのに対して、引用発明2は「熱を遮断する電子機器構造」である点で相違する。

(イ)本件特許発明1は「前記基板の表裏方向の一方側には、前記基板の表裏方向に直交する第1幅方向及び第2幅方向に延設されて、前記基板の表裏方向の一方側に伝熱された熱を、前記基板の面方向に沿って伝熱させる面方向伝熱部が備えられ、前記面方向伝熱部は、第1幅方向の一方側から切り欠いた切欠部が形成され、高温域の熱が伝熱される高温領域部位と高温域よりも低温の低温域の熱が伝熱される低温領域部位とを有し、前記高温領域部位は、第2幅方向で前記切欠部に隣接する位置に配置され、前記低温領域部位は、第1幅方向で前記切欠部に隣接する位置に配置されている」のに対して、引用発明2はそのような特定がない点で相違する。

したがって、本件特許発明1と引用発明2とは、次の一致点及び相違点を有する。
(一致点)
「基板に設置された電子部品から発生する熱に関する構造。」

(相違点3)
本件特許発明1は「熱を放熱部に伝熱して放熱する放熱構造」であるのに対して、引用発明2は「熱を遮断する電子機器構造」である点。
(相違点4)
本件特許発明1は「前記基板の表裏方向の一方側には、前記基板の表裏方向に直交する第1幅方向及び第2幅方向に延設されて、前記基板の表裏方向の一方側に伝熱された熱を、前記基板の面方向に沿って伝熱させる面方向伝熱部が備えられ、前記面方向伝熱部は、第1幅方向の一方側から切り欠いた切欠部が形成され、高温域の熱が伝熱される高温領域部位と高温域よりも低温の低温域の熱が伝熱される低温領域部位とを有し、前記高温領域部位は、第2幅方向で前記切欠部に隣接する位置に配置され、前記低温領域部位は、第1幅方向で前記切欠部に隣接する位置に配置されている」のに対して、引用発明2はそのような特定がない点。

イ 判断
まず、上記相違点4について検討する。
引用発明2は、回路基板2の一部を取り除き、発熱部品3や4の周辺と、発熱部品を除いた部品5の周辺との間で熱を遮断するものであるから、引用発明2において、回路基板2の面方向に沿って伝熱させる面方向伝熱部を設け、上記相違点4に係る構成とすることは、当業者といえども想定できないことである。

したがって、上記相違点4に係る構成は、引用発明2に基づいて当業者が容易になし得たこととはいえない。

よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲第2号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。

(2)本件特許発明2について
本件特許発明2は、本件特許発明1に対して、さらに技術事項1を追加したものである。

甲第7号証には、基板の表面上に実装された発熱部品に熱的に結合した放熱部と、基板の裏面上に実装された発熱部品に熱的に結合して面方向に熱を伝える熱伝導部を設け、熱伝導部には放熱部へ近づく方向に向けて延びる延出部分が設けられ、延出部分を放熱部に熱的に結合する技術が記載されているが(上記「1 (7)ア」)、上記相違点4に係る構成は記載されていない。
また、上記相違点4に係る構成は周知技術であるといえない。

そうすると、本件特許発明1を引用する本件特許発明2は、本件特許発明1をさらに減縮したものであるから、上記本件特許発明1についての判断と同様の理由により、甲第2号証に記載された発明、甲第7号証に記載された事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。

(3)本件特許発明3について
本件特許発明3は、本件特許発明1に対して、さらに技術事項2を追加したものである。

ここで、甲第8号証に、発熱電子部品の熱を、筐体側面と一体となった対向する内部隔壁へ伝熱し、さらに筐体側面へ伝熱した後、外部へ放熱する技術が記載されている(上記「1 (8)」)。
また、甲第9号証には、発熱体で発生した熱を、これを包囲する放熱ケースに伝導し、放熱ケースと熱的に結合状態にあるヒートシンクに伝導する技術が記載されている(上記「1 (9)」)。
しかしながら、甲第8号証及び甲第9号証には、上記相違点4に係る構成は記載されていない。

そうすると、本件特許発明1を引用する本件特許発明3は、本件特許発明1をさらに減縮したものであるから、上記本件特許発明1についての判断と同様の理由により、甲第2号証に記載された発明、甲第8号証又は甲第9号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。

2-3 甲第3号証に記載された発明について
(1)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と引用発明3を対比する。
(ア)引用発明3の「回路基板10の」「第2の領域Z2に実装」した「発熱部品」は、本件特許発明1の「基板に設置された電子部品」に相当する。
ここで、引用発明3は「発熱部品から非発熱部品への回路基板10を通じた熱伝導が抑えられる」のであるから、引用発明3は、回路基板10に実装された発熱部品から発生する熱に関する構造であるものの、熱を伝熱する構造ではなく熱伝導を抑える構造である。
したがって、引用発明3の「非発熱部品を回路基板10の一部である第1の領域Z1にまとめて実装し、発熱部品を第1の領域Z1から離れた第2の領域Z2に実装するとともに、回路基板10の第1の領域Z1と第2の領域Z2との間にスリット10aを設け」た「放電灯点灯装置」と本件特許発明1とは、「基板に設置された電子部品から発生する熱に関する構造」である点で共通するが、
本件特許発明1は「熱を放熱部に伝熱して放熱する放熱構造」であるのに対して、引用発明3は「熱伝導が抑えられる、放電灯点灯装置」である点で相違する。

(イ)本件特許発明1は「前記基板の表裏方向の一方側には、前記基板の表裏方向に直交する第1幅方向及び第2幅方向に延設されて、前記基板の表裏方向の一方側に伝熱された熱を、前記基板の面方向に沿って伝熱させる面方向伝熱部が備えられ、前記面方向伝熱部は、第1幅方向の一方側から切り欠いた切欠部が形成され、高温域の熱が伝熱される高温領域部位と高温域よりも低温の低温域の熱が伝熱される低温領域部位とを有し、前記高温領域部位は、第2幅方向で前記切欠部に隣接する位置に配置され、前記低温領域部位は、第1幅方向で前記切欠部に隣接する位置に配置されている」のに対して、引用発明3はそのような特定がない点で相違する。

したがって、本件特許発明1と引用発明3とは、次の一致点及び相違点を有する。
(一致点)
「基板に設置された電子部品から発生する熱に関する構造。」

(相違点5)
本件特許発明1は「熱を放熱部に伝熱して放熱する放熱構造」であるのに対して、引用発明3は「熱伝導が抑えられる、放電灯点灯装置」である点。
(相違点6)
本件特許発明1は「前記基板の表裏方向の一方側には、前記基板の表裏方向に直交する第1幅方向及び第2幅方向に延設されて、前記基板の表裏方向の一方側に伝熱された熱を、前記基板の面方向に沿って伝熱させる面方向伝熱部が備えられ、前記面方向伝熱部は、第1幅方向の一方側から切り欠いた切欠部が形成され、高温域の熱が伝熱される高温領域部位と高温域よりも低温の低温域の熱が伝熱される低温領域部位とを有し、前記高温領域部位は、第2幅方向で前記切欠部に隣接する位置に配置され、前記低温領域部位は、第1幅方向で前記切欠部に隣接する位置に配置されている」のに対して、引用発明3はそのような特定がない点。

イ 判断
(ア)第29条第1項第3号について
本件特許発明1と引用発明3は、上記のとおり相違点がある。
よって、本件特許発明1は、甲第3号証に記載された発明でない。

(イ)第29条第2項について
まず、上記相違点6について検討する。
引用発明3は、回路基板10の第1の領域Z1と第2の領域Z2との間にスリット10aを設けて、発熱部品から非発熱部品への回路基板10を通じた熱伝導を抑えるのであるから、回路基板10の面方向に沿って伝熱させる面方向伝熱部を設け上記相違点6に係る構成とすることは、当業者といえども想定できないことである。

したがって、上記相違点6に係る構成は、引用発明3に基づいて当業者が容易になし得たこととはいえない。

さらに、特許異議申立人の主張について検討する。
特許異議申立人は、また、仮に、本件特許発明1と甲3号証に記載された発明とに相違点があったとしても、本件特許発明1は、甲3号証に記載された発明および周知技術(甲2?甲9)に基づいて、当業者が容易に発明することができたものと主張している(特許異議申立書第32頁第10ないし13行)。
ここで、「周知技術(甲1?甲9)」について、どのようなものであるのか記載されていないが、仮に、発熱部品で発生した熱を、面方向に熱を伝える熱伝導部を介して、放熱部に伝える技術が周知であったとしても、上記のように、引用発明3は、熱伝導を抑えるべきものであるから、引用発明3において、回路基板10の面方向に沿って伝熱させる面方向伝熱部を設けることには阻害要因があり、当業者が容易になし得たこととはいえない。
そうすると、上記相違点6に係る構成は、引用発明3及び周知技術に基づいて、当業者が容易になし得たこととはいえず、特許異議申立人の主張を採用することができない。

よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲第3号証に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。

(2)本件特許発明2について
本件特許発明2は、本件特許発明1に対して、さらに技術事項1を追加したものである。

甲第7号証には、基板の表面上に実装された発熱部品に熱的に結合した放熱部と、基板の裏面上に実装された発熱部品に熱的に結合して面方向に熱を伝える熱伝導部を設け、熱伝導部には放熱部へ近づく方向に向けて延びる延出部分が設けられ、延出部分を放熱部に熱的に結合する技術が記載されているが(上記「1 (7)ア」)、該技術は上記阻害要因を解消するものではない。

そうすると、本件特許発明1を引用する本件特許発明2は、本件特許発明1をさらに減縮したものであるから、上記本件特許発明1についての判断と同様の理由により、甲第3号証に記載された発明、甲第7号証に記載された事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。

(3)本件特許発明3について
本件特許発明3は、本件特許発明1に対して、さらに技術事項2を追加したものである。

ここで、甲第8号証に、発熱電子部品の熱を、筐体側面と一体となった対向する内部隔壁へ伝熱し、さらに筐体側面へ伝熱した後、外部へ放熱する技術が記載されている(上記「1 (8)」)。
また、甲第9号証には、発熱体で発生した熱を、これを包囲する放熱ケースに伝導し、放熱ケースと熱的に結合状態にあるヒートシンクに伝導する技術が記載されている(上記「1 (9)」)。
しかしながら、甲第8号証及び甲第9号証の上記各記載は、上記阻害要因を解消するものではない。

そうすると、本件特許発明1を引用する本件特許発明3は、本件特許発明1をさらに減縮したものであるから、上記本件特許発明1についての判断と同様の理由により、甲第3号証に記載された発明、甲第8号証又は甲第9号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。

2-4 甲第4号証に記載された発明について
(1)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と引用発明4を対比する。
(ア)引用発明4の「多層基板11」、「LSI21、22」、「放熱板13」は、それぞれ、本件特許発明1の「基板」、「電子部品」、「放熱部」に相当する。
そして、引用発明4の「多層基板11上に搭載され」た「LSI22の発する熱を放熱板13に効率よく伝導させることができる」構造は、本件特許発明1の「基板に設置された電子部品から発生する熱を放熱部に伝熱して放熱する放熱構造」に相当する。

(イ)引用発明4は「LSI21、22などの熱源は多層基板11上に搭載され、」「LSI22の放熱板13側の面が熱伝導体24を介して放熱板13と接し、LSI22の発する熱を放熱板13に効率よく伝導させることができる」のであるから、「熱伝導体24」は、「多層基板11」の一方側に備えられた伝熱部であるといえる。そして、「LSI22の放熱板13側の面が熱伝導体24を介して放熱板13と接し」ているので、「熱伝導体24」は面状であり、「多層基板11上」の表裏方向に直交する第1幅方向及び第2幅方向に延設されているとえる。
また、引用発明4は「LSI22の放熱板13側の面が熱伝導体24を介して放熱板13と接し、LSI22の発する熱を放熱板13に効率よく伝導させることができる」のであるから、「熱伝導体24」は、「多層基板11」の面と垂直な方向(表裏方向)に「LSI22」から伝熱された熱を、「LSI22」から「放熱板13」へ伝熱している。
そうすると、引用発明4の「多層基板11上に搭載され」た「LSI22の」「面」に「熱伝導体24」が備えられていることと本件特許発明1とは、「前記基板の表裏方向の一方側には、前記基板の表裏方向に直交する第1幅方向及び第2幅方向に延設されて、前記基板の表裏方向の一方側に伝熱された熱を、」「伝熱させる」「伝熱部が備えられ」ている点で共通する。
但し、伝熱部が、本件特許発明1は「熱を、前記基板の面方向に沿って伝熱させる面方向伝熱部」であるのに対して、引用発明4は、熱を「多層基板11」の面と垂直な方向に伝熱している「熱伝導体24」である点で相違する。

(ウ)引用発明4の「熱伝導体24」に接する熱源は「LSI22」のみであり、その形状は「LSI22の放熱板13側の面」の形状である。
そうすると、伝熱部について、本件特許発明1は「前記面方向伝熱部は、第1幅方向の一方側から切り欠いた切欠部が形成され、高温域の熱が伝熱される高温領域部位と高温域よりも低温の低温域の熱が伝熱される低温領域部位とを有し、前記高温領域部位は、第2幅方向で前記切欠部に隣接する位置に配置され、前記低温領域部位は、第1幅方向で前記切欠部に隣接する位置に配置されている」のに対して、引用発明4はそのような特定がない点で相違する。

したがって、本件特許発明1と引用発明4とは、次の一致点及び相違点を有する。
(一致点)
「基板に設置された電子部品から発生する熱を放熱部に伝熱して放熱する放熱構造であって、
前記基板の表裏方向の一方側には、前記基板の表裏方向に直交する第1幅方向及び第2幅方向に延設されて、前記基板の表裏方向の一方側に伝熱された熱を、伝熱させる伝熱部が備えられている放熱構造。」

(相違点7)
伝熱部が、本件特許発明1は「熱を、前記基板の面方向に沿って伝熱させる面方向伝熱部」であるのに対して、引用発明1は、熱を「多層基板11」の面と垂直な方向に伝熱している「熱伝導体24」である点。
(相違点8)
伝熱部について、本件特許発明1は「前記面方向伝熱部は、第1幅方向の一方側から切り欠いた切欠部が形成され、高温域の熱が伝熱される高温領域部位と高温域よりも低温の低温域の熱が伝熱される低温領域部位とを有し、前記高温領域部位は、第2幅方向で前記切欠部に隣接する位置に配置され、前記低温領域部位は、第1幅方向で前記切欠部に隣接する位置に配置されている」のに対して、引用発明4はそのような特定がない点。

イ 判断
(ア)第29条第1項第3号について
本件特許発明1と引用発明4は、上記のとおり相違点がある。
よって、本件特許発明1は、甲第4号証に記載された発明でない。

(イ)第29条第2項について
まず、上記相違点7について検討する。
引用発明4は熱伝導体24が放熱板13と接するように取り付けられて、熱を熱伝導体24から放熱板13へ、熱伝導体24の面と垂直な方向に伝熱しているのであるから、それに換えて、熱伝導体24の面方向に沿って伝熱させる構成にすることは、熱の伝熱断面積を減少させることに加えて伝熱距離を長くして、放熱の効率を低下させることになるので当業者といえども想定し難いことである。
ここで、甲第7号証には、発熱部品で発生した熱を、面方向に熱を伝えるグラファイトを用いた熱伝導部を介して、放熱部に伝える技術が記載されている(上記「1 (7)イ」)。しかしながら、上記のように、引用発明4において「熱伝導体24」の面方向に沿って伝熱させる構成にすることは、放熱の効率を低下させることになるので、甲第7号証に記載の面方向に熱を伝えるグラファイトを用いた熱伝導部を、引用発明4の「熱伝導体24」に適用することは、当業者に動機付けられないことである。
したがって、上記相違点7に係る構成は、甲第7号証の記載を考慮しても、引用発明4に基づいて、当業者が容易になし得たこととはいえない。

さらに、特許異議申立人の主張について検討する。
特許異議申立人は、また、仮に、本件特許発明1と甲4号証に記載された発明とに相違点があったとしても、本件特許発明1は、甲4号証に記載された発明および周知技術(甲2?甲9)に基づいて、当業者が容易に発明することができたものと主張している(特許異議申立書第38頁第11ないし14行)。
ここで、「周知技術(甲2?甲9)」について、どのようなものであるのか記載されていないが、仮に、発熱部品で発生した熱を、面方向に熱を伝える熱伝導部を介して、放熱部に伝える技術が周知であったとしても、上記のように、引用発明4において「熱伝導体24」の面方向に沿って伝熱させる構成にすることは、放熱の効率を低下させることになるから、引用発明4に上記周知技術を適用することは、当業者に動機付けられないことである。
そうすると、上記相違点7に係る構成は、引用発明4及び周知技術に基づいて、当業者が容易になし得たこととはいえず、特許異議申立人の主張を採用することができない。

よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲第4号証に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。

(2)本件特許発明2について
本件特許発明2は、本件特許発明1に対して、さらに技術事項1を追加したものである。

甲第7号証には、基板の表面上に実装された発熱部品に熱的に結合した放熱部と、基板の裏面上に実装された発熱部品に熱的に結合して面方向に熱を伝える熱伝導部を設け、熱伝導部には放熱部へ近づく方向に向けて延びる延出部分が設けられ、延出部分を放熱部に熱的に結合する技術が記載されているが(上記「1 (7)ア」)、該技術が、甲第4号証に記載された発明に周知技術を適用する動機付けとなるものでないことは、上記「(1)イ (イ)」で述べたとおりである。

そうすると、本件特許発明1を引用する本件特許発明2は、本件特許発明1をさらに減縮したものであるから、上記本件特許発明1についての判断と同様の理由により、甲第4号証に記載された発明、甲第7号証に記載された事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。

(3)本件特許発明3について
本件特許発明3は、本件特許発明1に対して、さらに技術事項2を追加したものである。

ここで、甲第8号証に、発熱電子部品の熱を、筐体側面と一体となった対向する内部隔壁へ伝熱し、さらに筐体側面へ伝熱した後、外部へ放熱する技術が記載されている(上記「1 (8)」)。
また、甲第9号証には、発熱体で発生した熱を、これを包囲する放熱ケースに伝導し、放熱ケースと熱的に結合状態にあるヒートシンクに伝導する技術が記載されている(上記「1 (9)」)。
しかしながら、甲第8号証及び甲第9号証の上記各記載は、引用発明4において上記相違点7に係る構成を採用する動機付けとなるものではない。

そうすると、本件特許発明1を引用する本件特許発明3は、本件特許発明1をさらに減縮したものであるから、上記本件特許発明1についての判断と同様の理由により、甲第4号証に記載された発明、甲第8号証又は甲第9号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。

3 まとめ
以上のとおりであるから、本件特許発明1ないし3は、いずれも、特許法第29条第1項及び特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるということができず、同法第113条第2号により取り消すことができない。

第5 理由3(第36条第6項第2号)について
1 特許異議申立人の主張
(1)「高温領域部位」及び「低温領域部位」について
本件特許発明1には「高温域の熱が伝熱される高温領域部位」及び「低温域の熱が伝熱される低温領域部位」との特定事項がある。したがって、「高温領域部位」は、面方向伝熱部のうち高温域の熱が伝熱される部位であり、「低温領域部位」は、面方向伝熱部のうち低温域の熱が伝熱される部位と特定されている。しかしながら、面方向伝熱部のうちどの範囲までが、高温域(または低温域)の熱が伝熱される部位と特定されているのか否かが、当業者が理解できるように記載されていない。
このため、本件特許発明1及びこれを引用する本件特許発明2ないし3は明確でない。(特許異議申立書第11頁第2行ないし第12頁最終行)

(2)「隣接する位置」について
本件特許発明1には、「前記高温領域部位は、第2幅方向で前記切欠部に隣接する位置に配置され」ていることが特定され、また、「前記低温領域部位は、第1幅方向で前記切欠部に隣接する位置に配置され」ていることが特定されている。
しかしながら、「切欠部に隣接する位置」が、どのような位置を特定しているのか否かが不明であるため、第2幅方向で切欠部に隣接する位置に配置される「高温領域部位」、および第1幅方向で切欠部に隣接する位置に配置される「低温領域部位」は、当業者が理解できるように記載されていない。
このため、本件特許発明1及びこれを引用する本件特許発明2ないし3は明確でない。(特許異議申立書第13頁第1行ないし第14頁第1行)

(3)「切欠部」について
本件特許発明1には、「前記面方向伝熱部は、第1幅方向の一方側から切り欠いた切欠部が形成され」と記載されている。しかしながら、切り欠きは様々な形状が存在し得るところ、対象発明の切欠部がどのような形状であるのか否かが、当業者に理解できるように記載されていない。
このため、本件特許発明1及びこれを引用する本件特許発明2ないし3は明確でない。(特許異議申立書第14頁第2行ないし第14頁最終行)

2 当審の判断
(1)「高温領域部位」及び「低温領域部位」について
ア 特許異議申立人の主張について
(ア)特許異議申立人は、本件特許の明細書に
「【0071】 第4板状体63は、図9に示すように、熱が伝熱される領域部位として、第1熱伝導体51の第1伝導領域部位51aにて第1温度域の熱が伝熱される第1温度領域部位63aと、第1熱伝導体51の第2伝導領域部位51bにて第2温度域の熱が伝熱される第2温度領域部位63bと、第1熱伝導体51の第3伝導領域部位51cにて第3温度域の熱が伝熱される第3温度領域部位63cとを有している。
【0072】
ここで、第2基板38において、第1?第3電子部品64a?64cをどのような位置に配置させるかは適宜変更が可能である。そして、第1?第3電子部品64a?64cの配置位置に対応して、第1熱伝導体51の第1?第3伝導領域部位51a?51cの配置位置、及び、第4板状体63の第1?第3温度領域部位63a?63cの配置位置を適宜変更させることができる。」と記載されているので、「高温領域部位」は少なくとも第1電子部品64aに対応する部位よりも、大きな面積をもった部位(領域)であることは明らかであり、どの範囲の領域までが高温域の熱が伝熱される部位と特定されているのか否かが不明であり、「低温領域部位」も同様に不明である旨を主張している。(特許異議申立書第11頁第11行ないし第12頁第2行)

上記主張について検討する。
請求項1では、「高温域の熱が伝達される部位」を「高温領域部位」、「低温域の熱が伝達される部位」を「低温領域部位」と規定している。
ここで、「熱が伝達される部位」とは、電子部品で発生した熱が、該電子部品から「放熱構造」の「面方向伝熱部」に流れ込む部位を意味し、さらに、その部位の温度が「高温」か「低温」であるかによって、それぞれ「高温領域部位」「低温領域部位」が区別されていることは明らかである。
異議申立人の主張は、要するに、「面方向伝熱部」における「高温領域部位」、「低温領域部位」の具体的範囲が請求項1に記載されていない、というものであるが、本件特許発明1は、「高温領域部位」、「低温領域部位」の具体的範囲を明らかにした点で特徴づけられる発明ではなく、「放熱構造」として「切欠部」が形成された「面方向伝熱部」用い、その「面方向伝熱部」における「高温領域部位」「低温領域部位」と「切欠部」との位置関係を特定した点で特徴づけられる発明であるから、「高温領域部位」、「低温領域部位」の具体的範囲が請求項1に記載されていないからといって、本件特許発明1が不明確となるわけではない。
よって、特許異議申立人の主張は採用できない。

(イ)特許異議申立人は、本件特許の明細書に
「【0074】・・・切欠部65は、上下方向で高温領域部位となる第1温度領域部位63aに隣接し、且つ、左右方向で低温領域部位となる第3温度領域部位63cに隣接しているので、第4板状体63において第2基板38の面方向に熱を伝熱させるに当たり、高温領域部位となる第1温度領域部位63aと低温領域部位となる第3温度領域部位63cとの間に切欠部65を存在させることができる。よって、第3温度領域部位63cへの熱の伝熱面積を小さくすることができ、第1温度領域部位63aから第3温度領域部位63cへの直接的な熱の伝熱を防止することができる。」と記載されているので、
第1電子部品(高温)の熱は第3電子部品(低温)まで間接的に到達していると考えられ、高温領域部位は、低温領域部位と重複した範囲の領域になり、不明確である旨を主張している。(特許異議申立書第12頁第3ないし22行)

しかし、上述のように、請求項1における「熱が伝達される部位」とは、電子部品で発生した熱が、電子部品から「放熱構造」の「面方向伝熱部」に流れ込む部位を意味し、さらに、その部位の温度が「高温」か「低温」であるかによって、それぞれ「高温領域部位」「低温領域部位」が区別されているのであるから、請求項1には「高温領域部位」と「低温領域部位」とが明確に区別して記載されている。
よって、特許異議申立人の主張は採用できない。

(ウ)特許異議申立人は、熱は面方向伝熱部63を拡散するので、高温領域部63aおよび低温領域部63cは一定の形があるわけでなく、拡がりをもっていることは明らかであるから、不明確である旨を主張している(特許異議申立書第12頁第23ないし30行)。

しかし、異議申立人の主張は、要するに、「面方向伝熱部」における「高温領域部位」、「低温領域部位」の形状が請求項1に特定されていない、というものであるが、本件特許発明1は、「高温領域部位」、「低温領域部位」の具体的形状を明らかにした点で特徴づけられる発明ではないから、「高温領域部位」、「低温領域部位」の形状が請求項1に特定されていないからといって、本件特許発明1が不明確となるわけではない。
よって、特許異議申立人の主張は採用できない。

イ まとめ
以上のとおり、特許異議申立人の主張を何れを採用することができない、
よって、特許請求の範囲の請求項1における「高温域の熱が伝熱される高温領域部位と高温域よりも低温の低温域の熱が伝熱される低温領域部位とを有し」の記載は明確である。

(2)「隣接する位置」について
ア 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、「前記高温領域部位は、第2幅方向で前記切欠部に隣接する位置に配置され」とは、どの程度の距離をもって近接した場合に、”隣接する位置”の範囲に入るか否かが当業者が理解できるように記載されていない、また、「前記低温領域部位は、第1幅方向で前記切欠部に隣接する位置に配置されている」の記載も同様である旨を主張している(特許異議申立書第13頁第27ないし30行)。

しかし、「高温領域部位」が「切欠部」に隣接する位置に配置されているか否かは、当業者が、「面方向伝熱部」の全体構成から見て「高温領域部位」と「切欠部」の位置が近いことや、「面方向伝熱部」において「高温領域部位」と「切欠部」の間に他の部位がないことなどを考慮して判断すればよいことである。
したがって、「前記高温領域部位は、第2幅方向で前記切欠部に隣接する位置に配置され」の記載は、当業者が理解できることである。
また、「前記低温領域部位は、第1幅方向で前記切欠部に隣接する位置に配置されている」の記載も同様である。
したがって、特許異議申立人の主張を採用することができない。

よって、特許請求の範囲の請求項1における「前記高温領域部位は、第2幅方向で前記切欠部に隣接する位置に配置され、前記低温領域部位は、第1幅方向で前記切欠部に隣接する位置に配置されている」の記載は明確である。

(3)「切欠部」について
ア 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、切り欠きは様々な形状が存在し得るところ、対象発明の切欠部がどのような形状であるのか否かが、当業者に理解できるように記載されていない旨を主張している。(特許異議申立書第14頁第4ないし6行)

しかし、本件特許の明細書に「【0074】・・・切欠部65は、上下方向で高温領域部位となる第1温度領域部位63aに隣接し、且つ、左右方向で低温領域部位となる第3温度領域部位63cに隣接しているので、第4板状体63において第2基板38の面方向に熱を伝熱させるに当たり、高温領域部位となる第1温度領域部位63aと低温領域部位となる第3温度領域部位63cとの間に切欠部65を存在させることができる。よって、第3温度領域部位63cへの熱の伝熱面積を小さくすることができ、第1温度領域部位63aから第3温度領域部位63cへの直接的な熱の伝熱を防止することができる。」と記載されているように、本件特許発明1は「前記高温領域部位は、第2幅方向で前記切欠部に隣接する位置に配置され、前記低温領域部位は、第1幅方向で前記切欠部に隣接する位置に配置されている」ことにより、「切欠部」が、「記高温領域部位」から「低温領域部位」への直接的な熱の伝熱を防止するためものである。
そうすると、「切欠部」が存在すれば、その形状により熱の伝熱を防止する効果の程度に差異が生じるとしても、熱の伝熱を防止するという機能を果たすことができることに変わりはないから、請求項1に「切欠部」の形状が特定されていないからといって、請求項1の記載は不明確とはならない。
したがって、特許異議申立人の主張を採用することができない。

よって、特許請求の範囲の請求項1における「前記面方向伝熱部は、第1幅方向の一方側から切り欠いた切欠部が形成され」の記載は明確である。

3 まとめ
本件特許発明1ないし3は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないから、特許法第113条第4号により取り消すことはできない。

第6 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1ないし3に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1ないし3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2021-07-28 
出願番号 特願2019-48094(P2019-48094)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (H05K)
P 1 651・ 537- Y (H05K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 小林 大介  
特許庁審判長 清水 稔
特許庁審判官 須原 宏光
畑中 博幸
登録日 2020-10-20 
登録番号 特許第6781786号(P6781786)
権利者 因幡電機産業株式会社
発明の名称 放熱構造  
代理人 宮地 正浩  

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