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審決分類 |
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 E04F 審判 全部申し立て 2項進歩性 E04F |
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管理番号 | 1376783 |
異議申立番号 | 異議2021-700324 |
総通号数 | 261 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2021-09-24 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2021-04-06 |
確定日 | 2021-08-20 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6764641号発明「改修工法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6764641号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6764641号の請求項1ないし6に係る特許についての出願は、平成27年10月20日に出願され、令和2年9月16日にその特許権の設定登録がされ、同年10月7日に特許掲載公報が発行された。その後、令和3年4月6日に、特許異議申立人 竹原 尚彦(以下「申立人」という。)より、請求項1ないし6に係る特許に対して特許異議の申立てがされたものである。 第2 本件発明 特許第6764641号の請求項1ないし6の特許に係る発明(以下、「本件発明1」などといい、本件発明1ないし6をまとめて「本件発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。 【請求項1】 既設の躯体の表面に施された既設の仕上げ層を改修する改修工法であって、 前記仕上げ層から前記躯体に至るようにピンを打ち込むことで、又は前記打ち込んだピンによって前記仕上げ層と前記躯体との間に注入材を注入することで、前記仕上げ層の補修を行う補修工程と、 前記補修工程の後、前記仕上げ層の表面に、加水分解性シリル基を有する硬化性樹脂を含有する不陸調整用組成物を塗布して不陸調整層を形成する不陸調整層形成工程と、 前記不陸調整層形成工程にて形成された前記不陸調整層の表面に、反応硬化型接着剤を用いて外装材を張り付ける外装工程と、を含み、 前記補修工程において、前記ピンを、前記不陸調整層よりも外側に突出しない位置に打ち込む、 改修工法。 【請求項2】 前記仕上げ層と前記外装材との間にネットを含まない、 請求項1に記載の改修工法。 【請求項3】 前記不陸調整層形成工程に用いる不陸調整用組成物が、B型回転粘度計を用いて、JIS K6833-1に準拠し、23[℃]の温度条件下、回転数1[r/min]で測定した粘度Aが1000[Pa・s]?3000[Pa・s]であり、当該粘度Aと回転数10[r/min]で測定した粘度Bとの粘度比(A/B)が6以上であり、且つ、硬化して得られた硬化物が示すJIS A5557に準拠して測定したダンベル物性が、最大引っ張り強さが0.4[N/mm^(2)]?2.0[N/mm^(2)]であり、破断時の伸び率が40[%]?200[%]である、 請求項1又は2に記載の改修工法。 【請求項4】 前記仕上げ層は、複数のタイルを前記躯体の表面に沿って並設した層である、 請求項1から3のいずれか一項に記載の改修工法。 【請求項5】 前記不陸調整層形成工程にて用いる前記不陸調整用組成物が、更にエポキシ樹脂を含有する、 請求項1から4のいずれか一項に記載の改修工法。 【請求項6】 前記外装工程にて張り付ける前記外装材が、タイル又は石材である、 請求項1から5のいずれか一項に記載の改修工法。 第3 申立理由の概要 申立人が特許異議申立書(以下「申立書」という。)において主張する申立理由の要旨は、次のとおりである。 (1)申立理由1(進歩性:甲第1号証を主引用例とするもの) 本件特許の請求項1ないし6に係る発明は、本件特許の出願前に頒布された甲第1号証に記載された発明に基いて、又は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証又は甲第3号証に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、これらの発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当するから、取り消されるべきものである。 (2)申立理由2(新規性、進歩性:甲第4号証を主引用例とするもの) 本件特許の請求項1、5、6に係る発明は、甲第4号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであり、本件特許の請求項1ないし4に係る発明は、甲第4号証に記載された発明に基いて、又は、甲第4号証に記載された発明及び甲第2号証又は甲第3号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、これらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 第4 証拠について 1 証拠一覧 申立人が提出した証拠は、次のとおりである。なお、以下では、甲第1号証、甲第2号証等を、それぞれ「甲1」、「甲2」等という。 甲1: 特開2011-132784号公報 甲2: 特開2013-32675号公報 甲3: 特開2003-56157号公報 甲4: LIXIL INAX 「リタイル」施工マニュアル、 株式会社LIXIL、平成25年12月発行 2 各証拠の記載 (1)甲1 ア 記載事項 甲1には、次の事項が記載されている(下線は、当審で付した。以下同様)。 (ア)技術分野及び背景技術 「【0001】 本発明は、コンクリート構造物の外壁としてのコンクリート躯体の表面又は該コンクリート躯体上に形成された仕上材層の表面の浮き部分のはく落を防止する外壁のはく落防止技術に関し、詳しくは、外壁の表面に光透過性部材によるはく落防止層を形成することで補修前の外壁に意匠性が与えられていた場合の美観を活かすようにする外壁はく落防止構造及び外壁はく落防止工法に係るものである。 【0002】 土木構造物並びに公共建築物及び集合住宅等の大型建築物は、鉄筋コンクリート構造物が主であり、その外壁は、打放しのコンクリート躯体のままで使用される外、コンクリート躯体上にモルタル等の下地層が形成され、その上に塗材やタイル等の仕上材によって仕上げられて使用される。ところが、これらの外壁は、長期間使用されるうちに、浮きやひび割れ、欠損等を生じて、外壁のはく落事故が発生することがあった。そこで、この外壁のはく落事故を防止するために、従来からはく落防止構造が工夫されてきた。」 (イ)発明が解決しようとする課題 「【0010】 このような問題点に対処し、本発明が解決しようとする課題は、補修前の外壁に意匠性が与えられていた場合の美観を活かすことができるうえ、溶剤を配合した透明な樹脂による臭気、硬化収縮、ひび割れ・白化などの問題を除去することができる外壁はく落防止構造及び外壁はく落防止工法を提供することにある。」 (ウ)課題を解決するための手段 「【0019】 また、本発明による外壁はく落防止工法は、コンクリート構造物の外壁としてのコンクリート躯体の表面又は該コンクリート躯体上に形成された仕上材層の表面に、不揮発分が92質量%以上の透明な硬化性液状樹脂組成物を層状に塗布する工程と、この層状に塗布された硬化性液状樹脂組成物の上に該硬化性液状樹脂組成物が含浸した状態で光透過性になる繊維から成る織物を層状に貼り付ける工程と、さらに上記層状に貼り付けられた織物を覆うように上記硬化性液状樹脂組成物を層状に塗布する工程と、その後、上記織物を含んで層状に塗布された硬化性液状樹脂組成物を硬化させて光透過性とされる繊維強化プラスチックを構成してはく落防止層を形成する工程と、を行うものである。」 (エ)発明の効果 「【0028】 また、請求項8に係る外壁はく落防止工法によれば、外壁としてのコンクリート躯体の表面又は該コンクリート躯体上に形成された仕上材層の表面に、不揮発分が92質量%以上の透明な硬化性液状樹脂組成物を層状に塗布し、この層状に塗布された硬化性液状樹脂組成物の上に該硬化性液状樹脂組成物が含浸した状態で光透過性になる繊維から成る織物を層状に貼り付け、さらに上記層状に貼り付けられた織物を覆うように上記硬化性液状樹脂組成物を層状に塗布し、その後、上記織物を含んで層状に塗布された硬化性液状樹脂組成物を硬化させて光透過性とされる繊維強化プラスチックを構成してはく落防止層を形成することにより、外壁の表面に光透過性部材によるはく落防止層を形成することができる。これにより、補修前の外壁に意匠性が与えられていた場合、例えば仕上材層が形成されていた場合に、光透過性の繊維強化プラスチックによるはく落防止層を通して既存仕上材層が見え、その既存仕上材層の美観を活かすことができる。したがって、上記光透過性の繊維強化プラスチックの表面に、改めて新規仕上材層を形成する必要がなく、外壁のはく落防止の工期を短縮でき、コストも低減することができる。さらに、上記透明な硬化性液状樹脂組成物は、不揮発分が92質量%以上であるので、溶剤を配合した樹脂による臭気、硬化収縮、ひび割れ・白化などの問題を除去することができる。」 (オ)発明を実施するための形態 「【0049】 次に、上記のような構成の外壁はく落防止構造を施工する外壁はく落防止工法について、図3を参照して説明する。まず、図3(a)は、本発明による外壁はく落防止構造を施工する前のコンクリート構造物の外壁を示す断面図である。このコンクリート構造物の外壁は、図1に示すと同様に、コンクリート構造物の外壁の主要部をなすコンクリート躯体1の上に、既存の仕上材層2が形成されている。この仕上材層2は、上記コンクリート躯体1の上を覆って外表面の美観を整えたり、意匠性を与えたりするもので、コンクリート躯体1のすぐ上には浮きを調整するための下地モルタル4が塗布され、この下地モルタル4の上にはタイル6を貼り付けるためのタイル貼付けモルタル5が塗布され、このタイル貼付けモルタル5によってタイル(例えば磁器質タイル)6が貼り付けられ、最後に、隣り合うタイル6、6間の目地部に目地詰め用モルタル7が充填されて仕上げられている。 【0050】 このようなコンクリート構造物の外壁に対して、まず、図3(B)に示すように、コンクリート躯体1上に形成された仕上材層2の表面に、不揮発分が92質量%以上の透明な硬化性液状樹脂組成物8aを層状に塗布する。このとき、硬化性液状樹脂組成物8aを、仕上材層2の表面のタイル6に対して、例えばペイントローラー等で塗布する。これにより、硬化性液状樹脂組成物8aが、タイル6及び目地詰め用モルタル7に染み込んで仕上材層2の表面に固着される。上記のようにペイントローラー等で塗布するには、硬化性液状樹脂組成物8aに適切な作業性がなくてはならない。 ・・・ 【0052】 次に、図3(c)に示すように、上記塗付された透明な硬化性液状樹脂組成物層(8a)の上にその樹脂が含浸して光透過性になる網目状の織物9を層状に貼り付ける。このとき、該貼り付けられた網目状の織物9の隙間から硬化性液状樹脂組成物層(8a)として塗付された硬化性液状樹脂組成物8aを十分染み出させるように、脱泡ローラーやゴム製へら等を用いて押圧し、含浸させる。 【0053】 次に、図3(d)に示すように、上記貼り付けられた網目状の織物層(9)の上に該網目状の織物層(9)を覆うように透明な硬化性液状樹脂組成物8Bを層状に塗布する。このとき、硬化性液状樹脂組成物8Bを、網目状の織物層(9)に対して、例えばペイントローラー等で塗布し、ゴム製へら又は左官鏝等により平滑に仕上げる。 【0054】 その後、図3(d)の状態で、上記層状に積層された硬化性液状樹脂組成物8a、8Bと網目状の織物9とを硬化させて光透過性の繊維強化プラスチックを構成してはく落防止層3を形成する。これにより、図1に示すと同様の構成の外壁はく落防止構造が形成される。 【0055】 さらにその後、図3(e)に示すように、上記のように形成されたはく落防止層3の上から、コンクリート躯体1に達するアンカーピン10を打設し、該はく落防止層3を上記コンクリート躯体1に対して一体的に結合させてもよい。この場合、はく落防止層3の上から、仕上材層2のタイル6の目地部に、例えばハンマードリルを用いてコンクリート躯体1に達するまで穴11を穿設した後、注入口を有するアンカーピン10を上記穴11の入口からワッシャー12を通して挿入し、このアンカーピン10の先端部内側に配置させている拡張子を、該アンカーピン10の注入口から打込み棒を打ち込んでその先端部を拡開させて、上記アンカーピン10をコンクリート躯体1に固定する。これにより、図2に示すと同様の構成の外壁はく落防止構造が形成される。 ・・・ 【0057】 図4は、コンクリート躯体1に対するアンカーピン10の打設状態の変形例を示す断面図である。前述の図3(e)においては、はく落防止層3の上からコンクリート躯体1に対してアンカーピン10を打設したものとしたが、これに限られず、図4(a)に示すように、コンクリート躯体1の上に既存の仕上材層2が形成された状態にてはく落防止層3を施工する前に、上記仕上材層2のタイル6の上からアンカーピン10を打設してもよい。また、図4(B)に示すように、既存の仕上材層2の表面に透明な硬化性液状樹脂組成物8aを層状に塗布した後にて網目状の織物9を層状に貼り付ける前に、上記硬化性液状樹脂組成物層(8a)の上からアンカーピン10を打設してもよい。さらに、図4(c)に示すように、上記硬化性液状樹脂組成物層(8a)の上に網目状の織物9を層状に貼り付けた後にて透明な硬化性液状樹脂組成物8Bを層状に塗布する前に、上記織物9の上からアンカーピン10を打設してもよい。」 (カ)図3、図4 「 【図3】 【図4】 」 イ 上記アの記載事項によれば、甲1には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているといえる。 【甲1発明】 コンクリート構造物の外壁は、コンクリート構造物の外壁の主要部をなすコンクリート躯体1の上に、既存の仕上材層2が形成され、この仕上材層2は、上記コンクリート躯体1の上を覆って外表面の美観を整えたり、意匠性を与えたりするもので、タイル6が貼り付けられ、 コンクリート躯体1の上に既存の仕上材層2が形成された状態にてはく落防止層3を施工する前に、上記仕上材層2のタイル6の上からアンカーピン10を打設し、 コンクリート躯体1上に形成された仕上材層2の表面に、不揮発分が92質量%以上の透明な硬化性液状樹脂組成物8aを層状に塗布し、 上記塗付された透明な硬化性液状樹脂組成物層(8a)の上にその樹脂が含浸して光透過性になる網目状の織物9を層状に貼り付け、 上記貼り付けられた網目状の織物層(9)の上に該網目状の織物層(9)を覆うように透明な硬化性液状樹脂組成物8Bを層状に塗布し、 上記層状に積層された硬化性液状樹脂組成物8a、8Bと網目状の織物9とを硬化させて光透過性の繊維強化プラスチックを構成してはく落防止層3を形成する、 外壁はく落防止工法。 (2)甲2 ア 記載事項 甲2には、次の事項が記載されている。 (ア)技術分野 「【0001】 本発明は、外装工法に関する。」 (イ)発明が解決しようとする課題 「【0009】 本発明は、前記の状況に鑑みなされたものであり、不陸を有する下地材に対して、外装材を優れた密着性及び追従性にて張ることができ、且つ、施工が簡易な外装工法を提供することを課題とする。」 (ウ)課題を解決するための手段 「【0010】 本発明者らは鋭意検討の結果、特定の不陸調製用組成物を用いた工法により前記課題を解決しうることを見出し、本発明を完成するに至った。 前記課題を解決するための手段は、以下に示す通りである。 【0011】 <1> 下地材表面の少なくとも一部に、B形粘度計を用いて、JIS K6833-1に準拠し、23℃の温度条件下、回転数1r/minで測定した粘度Aが、1000Pa・s?3000Pa・sの範囲であり、該粘度Aと回転数10r/minで測定した粘度Bとの粘度比(A/B)が6以上であり、且つ、硬化して得られた硬化物が示すJIS A5557に準拠して測定したダンベル物性が、最大引張強さが0.4N/mm^(2)?2.0N/mm^(2)であり、破断時の伸び率が40%?200%である不陸調整用組成物を塗布して不陸調整層を形成する工程Xと、 該不陸調整層が形成された下地材上に、反応硬化型接着剤を用いて、外装材を張り付ける工程Yと、を含む外装工法。 <2> 前記下地材が、セメント系硬化体である<1>に記載の外装工法。 【0012】 <3> 前記X工程に用いる不陸調整用組成物が、下記一般式(1)で表される加水分解性シリル基を有する硬化性樹脂(A)、エポキシ化合物(B)、非反応性液状成分(C)、及び、無機系充填材(D)を含有し、且つ、前記硬化性樹脂(A)及びエポキシ化合物(B)の合計100質量部に対し、70?150質量部の前記非反応性液状成分(C)及び150?400質量部の無機系充填材(D)を含有する<1>又は<2>に記載の外装工法。 -SiR^(1)_(n)(X)_(3-n) ・・・(1) (一般式(1)中、Xは、加水分解性基を示し、R^(1)は炭素数1?20のアルキル基を示し、nは0、1又は2を示す。)」 (エ)発明を実施するための形態 「【0048】 [エポキシ化合物(B)] 不陸調整用組成物は、エポキシ化合物(B)を含有する。 エポキシ化合物(B)は、分子内に1個以上のエポキシ基を有する化合物である。 不陸調整用組成物において、硬化性樹脂(A)とエポキシ化合物(B)とが併用されることにより、不陸調整用組成物により形成された不陸調整層と下地材及び反応硬化型接着剤により形成された層との密着性、不陸調整層の耐水性が向上する。 ・・・ 【0110】 (外装材の張り付け) 反応硬化型接着剤の塗布に次いで、外装材を張り付ける。 外装材としては、タイル、石材、レンガ、外装用ボード、等が挙げられる。本発明の工法は、タイルの張り付けに特に好適に適用することができる。 タイルの種類としては、特に限定はされないが、JIS A 5209(2008年度版)に記載される規格を満たすタイルであることが好ましい。 ・・・ 【0113】 -実態態様例1- 図1は、本発明の工法の実施形態の一例を示す概略断面図である。 図1中、1はコンクリートからなる下地材を示す。実施態様例1においては、該下地材1の表面に存在する不陸部分のみを埋めるように不陸調整用組成物を塗布し、硬化させて、不陸調整層2(硬化物)が形成される(工程X)。 次いで、不陸調整層2の形成後の下地材1の表面の所定の領域に反応硬化型接着剤3を塗布した後、外装材であるタイル4を張り付ける(工程Y)。 反応硬化型接着剤3が硬化した後、目地にシーリング処理を施す(不図示)。 【0114】 -実施態様例2- 図2は、本発明の工法の他の実施形態の一例を示す概略断面図である。図2中に示される各符号は、図1と同一のものを示す。 図2に示す実施形態2では、図1に示す実施態様例1において、下地材1の表面に存在する不陸部分のみを埋めるように形成された不陸調整層2を、下地材1の表面全体に亘って形成した以外は、実施態様例1と同様の工程を実施する。」 (オ)図2 「 」 (3)甲3 ア 記載事項 甲3には、次の事項が記載されている。 (ア)「【0001】 【発明の属する技術分野】本願発明は、既存外壁等の既存壁面をタイル張りにより改修するための方法に関する。 (イ)「【0016】 【発明の実施の形態】以下、図1を参照して実施の形態について説明する。 【0017】この実施の形態においても、コンクリート等よりなる躯体1にモルタル2を介してモルタル3が張り付けられ、これによって既存壁面が構成されている。 【0018】この既存壁面が劣化してきた場合や、模様替えを行う場合などには次のようにして改修を行う。 【0019】まず、この既存壁面即ちタイル張り壁面に有機系接着剤を所定厚み(例えば1?10mm)に塗着して下地20を形成する。この下地20を形成するための有機系接着剤には、必要に応じ長さが0.5?30mm程度のガラス繊維、パルプ、ナイロン等の有機繊維を5?200重量%程度混入して下地の強度を高めるようにしてもよい。 【0020】この下地20が硬化した後、躯体1にまで達するようにピンや釘等の固定用金具21を打ち込み、下地20を躯体1に固定するのが好ましい。ピンや釘等を打ち込むときには、ワッシャを通して打ち込むのが好ましい。 【0021】その後、張り付け用の有機系接着剤22を用いてタイル23を下地20に張り付ける。この実施の形態では、接着剤22として黒やグレーなど有色とくに暗色のものを採用すると共に、タイル23間の目地を空目地としている。 【0022】このように、この実施の形態によるとセメント系モルタルを全く用いることなく改修を行うことができ、改修施工が容易であり、施工バラツキもない。とくに、この実施の形態では空目地としており、目地詰め作業を省いているので、改修施工がきわめて簡単である。また、セメント系モルタルを用いていないので改修による壁面の重量増加も少ない。 【0023】この改修された壁面は、タイル張りの美麗なものである。また、この下地20は、既存壁面の種類に関りなく既存壁面への付着強度が高いと共に、ピンや釘等の金具によって躯体1に固定されているので、モルタル2やタイル3に浮きが存在する場合でも、下地20は躯体1に対ししっかりと固定されている。この下地20は、有機系接着剤よりなるものであるから、漏水が確実に防止される。」 (ウ)図1 「 」 (4)甲4 ア 記載事項 甲4には、次の事項が記載されている。 (ア)2枚目1?6行 「はじめに タイルラップ工法は、既存外壁の上から直接タイルを張る外壁改修工法です。従来難しかった本物のタイルを用いたリフォームにより、汚れに強く、耐久性に優れた住宅の外壁を実現します。 また万が一のタイルの脱落を防止するネットを併用するために、リフォームでも安心してタイルを張ることができます。タイルと専用接着剤、Rネット等を合わせたシステム重量が約18kg/m^(2)と軽量であるため、既存外壁を取り壊すことなく施工できるタイルリフォーム工法です。」 (イ-1)10頁(各頁下部に記載の数字による。以下同じ)1?5行 「3-1-4 鉄骨造薄型ALC(50mm塗装仕上げ) 建物構造が鉄骨造で既存外壁が薄型ALCの場合には、ALCにRネットを固定するためにALC用ビス((JR)R-ALCB35)を使用し、ALCの留め付け補強のためにドリルビス((JR)F-TN70)を使用します。また、ALC・タイルの破損を防止するために、ALCの縦・横ジョイント部ともにジョイントテープを貼ります。」 (イ-2)10頁5行目の下の図 「 」 (イ-3)10頁の上記(イ-2)の図の下の表 「 」 (ウ)25頁1?12行 「4-2-3 リタイル工事(ラスモルタル塗装仕上げ・釘留めサイディング) 4-2-3-1 プライマー塗布 ・既存外装材の表面塗装とタイルの良好な接着性を確保するため、Rプライマーを必ず全面に塗布してください。 ・Rプライマーは既存外壁表面が乾燥した状態で塗布してください。 ・・・」 (エ)26頁1?33行 「4-2-3-3 下地調整 <下地の面段差や凹凸柄の調整> ・既存壁面に、面段差や深い凹凸柄がある場合には、下地調整パテで下地を平滑にしてください。 ・既存壁面にRプライマーを塗布した後に下地調整パテを使用します。・・・ ・下地調整パテの塗布は、Rプライマーが乾燥してから (夏場20分、冬場30分程度)行って下さい。 ・下地調整パテの塗布量は、一度に5mm厚までとしてください。5mm以上塗布すると硬化が遅くなります。2度塗りを行う場合には、パテの硬化後に最大7mm厚まで重ねて塗布することができます。・・・」 (オ-1)38頁5?18行 「4-2-3-7 接着剤の塗布 施工のポイント ●接着剤は、必ず指定の接着剤を使用してください。 品名:ワンパックボーイV1、ワンパックボーイV1ライト 品番:(JR)EG-V1,EG-V1LT ・タイル別の使用くし目ゴテおよび接着剤塗り付けの手順は下表のとおりです。 ・・・ ・既存壁面が見えないよう細部まで接着剤(ワンパックボーイV1(ライト))を塗布してください。 (オ-2)38頁の18行目の下の図表 「 」 (カ)39頁下から17行?最下行 「4-2-3-8 タイルの張り付け ・接着剤(ワンパックボーイV1(ライト))塗布後、直ちにタイルを張り付けてください。タイルを張り付けるときは、十分に押えつけてください。凹凸の大きな面状のタイルがありますので、個々のタイルが十分接着剤になじむように押えるようにしてください。 ・・・」 (キ-1)42頁1?3行 「4-2-4 リタイル工事(薄型ALC35・37mm塗装仕上げ) 4-2-4-1 プライマー塗布 ・プライマーの塗布方法はP.26を参照してください。 (キ-2)42頁8?29行 「4-2-4-3 下地調整 ・下地調整にあたっては、使用するタイルの種類と張り付け方向を事前に確認の上、施工を行ってください。 <下地の面段差や凹凸柄の調整> ・下地調整パテを金コテを使用して、ALCの全面に塗布してください。ただし、既存塗装仕上げがフラットもしくはリシン仕上げの場合でALCの面段差がない場合には、ALCのジョイントのみに、使用するジョイントテープ幅以上の部分にパテを塗布することも可能です。 ・パネル目地間へのパテ充填は、目地底のシーリング部分まで確実に充填するようにしてください。 ・下地調整パテの塗布量は、既存壁面の面状により異なります。P.47の表を参照してください。 ・その他の注意事項等の詳細はP.27を参照してください。 <既存塗装仕上げがフラットもしくはリシンの場合のALCジョイント部の処理> ・ALCの縦横ジョイント部に金コテを使用して、ALCの目地部および使用するジョイントテープ幅以上の部分にパテを塗布します。 ・パテの塗り厚は約0.5mm程度です。 ・下地調整パテの塗布量は、P.47の表を参照してください。 (キ-3)44頁1?4行 「4-2-4-5 Rネットの施工 Rネットは、仮止めテープやステープルNを用いて仮止めを行い、ワッシャー30とALC用ビス((JR)R-ALCB35)で本固定を行います。RネットはALC用ビス((JR)R-ALCB35)でALC自体に固定するために、縦張りでも横張りでも施工可能です。」 (キ-4)46頁20行?下から4行 「4-2-4-8 接着剤の塗布 施工のポイント ●接着剤は必ず指定の接着剤を使用してください。 品名:ワンパックボーイV1、ワンパックボーイV1ライト 品番:(JR)EG-V1,EG-V1LT ※ ALC下地へのタイルラップ工法では、既存塗膜の上にタイル張りするため、ワンパックボーイV1(ライト)を使用します。新築の場合(はるかべ工法、ワンパックボーイR-V2(ライト)使用)と異なる接着剤を使用しますので、ご注意ください。 ・ラスモルタル・釘留めサイディングの場合の接着剤塗布方法を参考に作業を行ってください。P.38を参照してください。 ・接着剤(ワンパックボーイV1(ライト))使用量はP.48を参照してください。」 (キ-5)46頁下から3行?最終行 「4-2-4-9 タイルの張り付け ・ラスモルタル・釘留めサイディングの場合のタイル工事を参考に作業を行ってください。P.39を参照してください。」 (ク-1)67頁1?5行 「鉄骨造編5-1 鉄骨造薄型ALC50mm塗装仕上げにおける注意点 基本的な施工方法は、「木造編リタイル工事(薄型ALC35・37mm塗装仕上げ)」と同様になります。詳細はP.42?46を参照してください。以下に施工時のポイントを示します。」 (クー2)67頁16?21行 「<下地調整> ・鉄骨造薄型ALCの場合には厚さが50mmとなり、木造の35・37mmよりもスリット柄などの意匠パネルでは柄が深くなっているので、パテの使用量に注意が必要です。パテの使用量についてはP.68の表を参照してください。」 (ケ)68頁1?5行 「5-2 下地調整パテ・接着剤の使用量の目安 ALCの面状および施工するタイル種類により接着剤(ワンパックボーイV1(ライト))および下地調整パテの使用量は異なります。下表に接着剤(ワンパックボーイV1(ライト))および下地調整パテの使用量の目安を示します。なお、既存外壁面に段差がある場合には更に下地調整パテの量が必要になることがありますので、現場診断の際にご確認ください。」 イ 上記アの記載事項によれば、甲4には、次の発明(以下「甲4発明」という。)が記載されているといえる。 【甲4発明】 既存外壁の上から直接タイルを張る外壁改修工法であり、 建物構造が鉄骨造で既存外壁が薄型ALCの鉄骨造薄型ALC(50mm塗装仕上げ)の場合、 既存外装材の表面塗装とタイルの良好な接着性を確保するため、Rプライマーを必ず全面に塗布し、 既存壁面にRプライマーを塗布した後に下地調整パテを使用し、既存壁面に、面段差や深い凹凸柄がある場合には、下地調整パテで下地を平滑にし、 接着剤の塗布は、指定の接着剤を使用し、ネットを埋め込むように接着剤を下地に塗りのばし、塗膜が均一となるようにし、 タイルの張り付けは、接着剤塗布後、直ちにタイルを張り付け、個々のタイルが十分接着剤になじむように押える、 外壁改修工法。 第5 当審の判断 1 申立理由1(甲1を主引用例とする進歩性)について (1)本件発明1について ア 対比 本件発明1と甲1発明とを対比する。 (ア)甲1発明における「コンクリート躯体1」、「コンクリート躯体1の上を覆って外表面の美観を整えたり、意匠性を与えたりする」「既存の仕上材層2」は、それぞれ、本件発明1の『既設の躯体』、『既設の仕上げ層』に相当し、甲1発明は、「コンクリート躯体1の上に既存の仕上材層2が形成された状態にて」「はく落防止層3を施工する」「改修工法」といえるから、このような工法は、本件発明1における『既設の躯体の表面に施された既設の仕上げ層を改修する改修工法』に相当するといえる。 (イ)甲1発明において、「コンクリート躯体1の上に既存の仕上材層2が形成された状態にてはく落防止層3を施工する前に、上記仕上材層2のタイル6の上からアンカーピン10を打設」することは、技術常識を踏まえれば、既存の仕上材層をコンクリート躯体へ結合させるから、本件発明1において、『前記仕上げ層から前記躯体に至るようにピンを打ち込むことで、』『前記仕上げ層の補修を行う』ことに相当し、本件発明1における『前記仕上げ層から前記躯体に至るようにピンを打ち込むことで、又は前記打ち込んだピンによって前記仕上げ層と前記躯体との間に注入材を注入することで、前記仕上げ層の補修を行う補修工程』に相当する。 (ウ)甲1発明において、「コンクリート躯体1上に形成された仕上材層2の表面に、不揮発分が92質量%以上の透明な硬化性液状樹脂組成物8aを層状に塗布」することは、技術常識を踏まえれば、「硬化性液状樹脂組成物8a」は、仕上材層のタイルの剥がれた部分やタイルとタイルの隙間に入り込み、本件発明1の『硬化性樹脂を含有する不陸調整用組成物』に相当するから、本件発明1における『前記補修工程の後、前記仕上げ層の表面に、』『硬化性樹脂を含有する不陸調整用組成物を塗布して不陸調整層を形成する不陸調整層形成工程』に相当する。 (エ)そして、甲1発明における「コンクリート躯体1の上に既存の仕上材層2が形成された状態にてはく落防止層3を施工する前に、上記仕上材層2のタイル6の上からアンカーピン10を打設」する『補修工程』(上記(イ))は、「はく落防止層3を施工する前に」「上記仕上材層2のタイル6の上からアンカーピン10を打設」するから、本件発明1と同様、『前記補修工程において、前記ピンを、前記不陸調整層よりも外側に突出しない位置に打ち込む』こととなる。 上記(ア)?(エ)によれば、本件発明1と甲1発明とは、次の一致点及び相違点を有する。 【一致点】 既設の躯体の表面に施された既設の仕上げ層を改修する改修工法であって、 前記仕上げ層から前記躯体に至るようにピンを打ち込むことで、又は前記打ち込んだピンによって前記仕上げ層と前記躯体との間に注入材を注入することで、前記仕上げ層の補修を行う補修工程と、 前記補修工程の後、前記仕上げ層の表面に、硬化性樹脂を含有する不陸調整用組成物を塗布して不陸調整層を形成する不陸調整層形成工程と、を含み、 前記補修工程において、前記ピンを、前記不陸調整層よりも外側に突出しない位置に打ち込む、 改修工法。 【相違点1】 本件発明1では、不陸調整用組成物は『加水分解性シリル基を有する硬化性樹脂』を含有し、 『前記不陸調整層形成工程にて形成された前記不陸調整層の表面に、反応硬化型接着剤を用いて外装材を張り付ける外装工程』含むのに対し、 甲1発明では、不陸調整用組成物に相当する「硬化性液状樹脂組成物8a」は『加水分解性シリル基を有する硬化性樹脂』を含有せず、 「上記塗付された透明な硬化性液状樹脂組成物層(8a)の上にその樹脂が含浸して光透過性になる網目状の織物9を層状に貼り付け、 上記貼り付けられた網目状の織物層(9)の上に該網目状の織物層(9)を覆うように透明な硬化性液状樹脂組成物8Bを層状に塗布し、 上記層状に積層された硬化性液状樹脂組成物8a、8Bと網目状の織物9とを硬化させて光透過性の繊維強化プラスチックを構成してはく落防止層3を形成する」点。 イ 判断 上記相違点1について検討する。 甲2には、加水分解性シリル基を有する硬化性樹脂を含む不陸調整用組成物を下地材1に塗布して硬化させ不陸調整層2を形成し、不陸調整層2の形成後の下地材1の表面に反応硬化型接着剤3を塗布した後、外装材であるタイル4を張り付けことが記載されているから(上記「第4」「2(2)」参照)、相違点1に係る本件発明1の構成が記載されているといえる。 しかし、甲1発明が解決しようとする課題は、補修前の外壁に意匠性が与えられていた場合の美観を活かすことであり(【0010】)、層状に積層された硬化性液状樹脂組成物8a、8bと網目状の織物9とを硬化させて「光透過性」の繊維強化プラスチックにより「はく落防止層3」を形成し、新規仕上材層を形成する必要がないようにしたものであるところ(【0028】)、甲1発明に甲2に記載の上記技術的事項を採用すると、既存の仕上材層が見えなくなり、既存仕上材層の美観を活かすことができなくなる上、新規に仕上材層を形成する必要が生じるから、甲1発明に甲2に記載の技術的事項を採用することに阻害要因があり、甲1発明において甲2に記載の技術的事項を採用する動機付けがない。 甲3にも、既存壁面が劣化した場合、既存のタイル張り壁面に有機系接着剤を塗着して下地20を形成した後、張り付け用の有機系接着剤22を用いてタイル23を張り付け、改修された壁面を美麗なものとすることが記載されているが(上記「第4」「2(3)」参照)、加水分解性シリル基を有する硬化性樹脂を含むことは記載されていないから、甲3には、相違点1に係る本件発明1の構成が記載されているとはいえない。また、甲1発明に甲3に記載の技術的事項を採用することには、甲1発明に甲2に記載の技術的事項を採用する場合と同様の阻害要因がある。 また、既存壁面に加水分解性シリル基を有する硬化性樹脂を含む接着剤を用いてタイルを張り付けることが仮に周知技術であるとしても、甲1発明は、補修前の外壁に意匠性が与えられていた場合の美観を活かすようにしたものであるから、甲1発明において、既存の仕上材層の美観を活かすことができなくなる上、新規に仕上材層を形成する必要が生じる設計変更は行わない。 そうすると、相違点1に係る本件発明1の構成は、甲1発明、又は、甲1発明及び甲2又は甲3に記載された技術的事項から当業者が容易に想到し得たものということはできない。 ウ 申立人の主張 申立人は、甲1発明と甲2に記載の技術的事項について、両者は、いずれも壁に外装材を張り付ける工程に関するもので技術分野は関連し、壁の外装材が剥がれないようにするという課題が共通し、甲1では、硬化性液状樹脂組成物8aを平坦に形成することで織物9及び硬化性液状樹脂組成物8bを精度よく形成でき、甲2では、不陸調整層2を設けることで不陸を吸収し、タイル4を平らに密着させることができるという点で作用、機能も共通しているから、甲1発明に甲2に記載の技術的事項を採用する動機付けがあるという旨主張している(申立書39頁17行?40頁15行)。 しかし、上記イで述べたとおり、甲1は、既存の仕上材層の美観を活かすもので新規に仕上材層を形成しないのに対し、甲2は、既存の仕上材層の美観を活かすのではなく新規に仕上材層を形成するというもので、両者は、採用する解決手段とそれによって得られる効果が全く異なるから、甲1発明に甲2に記載の技術的事項を採用する動機付けがない。 申立人は、甲1発明に甲3に記載の技術的事項を適用する動機付けについても主張しているが(申立書45頁下から4行?46頁下から5行)、同様の理由により、甲1発明に甲3に記載の技術的事項を採用する動機付けがない。 したがって、申立人の上記主張は採用することができない。 エ まとめ したがって、本件発明1は、甲1発明に基づいて、又は、甲1発明及び甲2又は甲3に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということができない。 (2)本件発明2ないし6について 本件発明2ないし6は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに限定したものであるから、上記(1)と同様の理由により、甲1発明に基づいて、又は、甲1発明及び甲2又は甲3に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということができない。 (3)小括 以上のとおりであるから、本件発明1ないし6は、甲1発明に基づいて、又は、甲1発明及び甲2又は甲3に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということができない。 したがって、申立人が主張する申立理由1によっては、本件請求項1ないし6に係る特許が特許法第29条第2項の規定に違反してされたものということはできない。 2 申立理由2(甲4を主引用例とする新規性、進歩性)について (1)本件発明1について ア 対比 本件発明1と甲4発明とを対比する。 (ア)甲4発明における「薄型ALC」は、「建物構造が鉄骨造」の「既存外壁」を構成するから、本件発明1の『既設の躯体』に相当し、甲4発明の「薄型ALC」は、「塗装仕上げ」がされているから、本件発明1の『既設の仕上げ層』に相当する構成を備えているといえる。そして、甲4発明は、「既存外壁」としての「鉄骨造薄型ALC(50mm塗装仕上げ)」の「上から直接タイルを張る外壁改修工法」であるから、このような工法は、本件発明1における『既設の躯体の表面に施された既設の仕上げ層を改修する改修工法』に相当するといえる。 (イ)甲4発明における「ALC用ビス」は、本件発明1の『ピン』に相当し、「ALC用ビス」は、「薄型ALC」(既設の躯体)に対してRネットを固定するものであるところ、Rネットの固定により、甲4発明の「薄型ALC」の「塗装仕上げ」部分に割れなどが生じてもその落下を防止し得るから、甲4発明において、「ALC用ビス」を用いて「薄型ALC」(既設の躯体)に対してRネットを固定することは、本件発明1における『前記仕上げ層から前記躯体に至るようにピンを打ち込むことで、又は前記打ち込んだピンによって前記仕上げ層と前記躯体との間に注入材を注入することで、前記仕上げ層の補修を行う補修工程』に相当するといえる。 (ウ)甲4発明において、「既存壁面にRプライマーを塗布した後に下地調整パテを使用し、既存壁面に、面段差や深い凹凸柄がある場合には、下地調整パテで下地を平滑」にすることは、甲4発明の「下地調整パテ」とこれが硬化したものは、それぞれ、本件発明1の『不陸調整用組成物』、『不陸調整層』に相当することを踏まえると、本件発明1における『前記補修工程の後、前記仕上げ層の表面に、加水分解性シリル基を有する硬化性樹脂を含有する不陸調整用組成物を塗布して不陸調整層を形成する不陸調整層形成工程』と、『前記仕上げ層の表面に』『不陸調整用組成物を塗布して不陸調整層を形成する不陸調整層形成工程』である点で共通する。 (エ)甲4発明において、「接着剤の塗布は、指定の接着剤を使用し、ネットを埋め込むように接着剤を下地に塗りのばし、塗膜が均一となるようにし、」「タイルの張り付けは、接着剤塗布後、直ちにタイルを張り付け、個々のタイルが十分接着剤になじむように押える」ことは、上記「接着剤」が「下地に塗りのば」されること、「下地」は「下地調整パテ」で「平滑」にされていることを踏まえると、本件発明1における『前記不陸調整層形成工程にて形成された前記不陸調整層の表面に、反応硬化型接着剤を用いて外装材を張り付ける外装工程』に相当する。 上記(ア)?(エ)によれば、本件発明1と甲4発明とは、次の一致点及び相違点を有する。 【一致点】 既設の躯体の表面に施された既設の仕上げ層を改修する改修工法であって、 前記仕上げ層から前記躯体に至るようにピンを打ち込むことで、又は前記打ち込んだピンによって前記仕上げ層と前記躯体との間に注入材を注入することで、前記仕上げ層の補修を行う補修工程と、 前記仕上げ層の表面に、不陸調整用組成物を塗布して不陸調整層を形成する不陸調整層形成工程と、 前記不陸調整層形成工程にて形成された前記不陸調整層の表面に、反応硬化型接着剤を用いて外装材を張り付ける外装工程と、を含む、 改修工法。 【相違点2】 本件発明1では、「不陸調整用組成物」が「加水分解性シリル基を有する硬化性樹脂を含有」し、「不陸調整層形成工程」が「前記補修工程の後」になされ、「前記補修工程において、前記ピン」が「前記不陸調整層よりも外側に突出しない位置に打ち込」まれるのに対し、 甲4発明では、「下地調整パテ」が「加水分解性シリル基を有する硬化性樹脂を含有」しておらず、「下地調整パテ」により「下地」を「平滑」にする不陸調整層形成工程の後に、「ALC用ビス」を用いて「薄型ALC」(既設の躯体)へ「Rネット」を「固定」する補修工程がなされ、したがって、「ALC用ビス」が「下地調整パテ」及び「Rネット」の外側に突出する位置に打ち込まれる点。 イ 判断 上記相違点2について検討する。 ここで、上記相違点2が実質的な相違点であることは明らかであるから、本件発明1は、甲4に記載された発明であるということはできない。 甲4発明は、「下地調整パテ」により「下地」を「平滑」にする『不陸調整層形成工程』の後に、「ALC用ビス」を用いて「薄型ALC」(既設の躯体)へ「Rネット」を「固定」する『補修工程』を行うものであるところ、後者の補修工程を前者の不陸調整層形成工程の前に行うこととすると、先に張られた「Rネット」が「下地調整パテ」の既存壁面への塗布の妨げになるし、「下地調整パテ」の割れによる落下を「Rネット」により防止できなくなるから、甲4発明においては、「ALC用ビス」を用いて「薄型ALC」(既設の躯体)へ「Rネット」を「固定」する『補修工程』を、「下地調整パテ」により「下地」を「平滑」にする『不陸調整層形成工程』の前に行うこととする設計変更は行わない。 また、甲2には、そもそも既存壁面にピンを用いてネットを固定することに関する記載はないし、甲3には、従来技術として、既存壁面にピンを用いてネットを固定することに関する記載はあるものの、既存壁面に左官用モルタル4をコテ塗りし、このモルタル4の上にネット組織体6を重ねるもので、不陸調整工程の後に補修工程を行うものであるから、甲2又は甲3の記載を参酌しても、甲4発明において、「ALC用ビス」を用いて「薄型ALC」(既設の躯体)へ「Rネット」を「固定」する『補修工程』を、「下地調整パテ」により「下地」を「平滑」にする『不陸調整層形成工程』の前に行うという構成は得られない。 そうすると、相違点2に係る本件発明1の構成は、甲4発明、又は、甲4発明及び甲2又は甲3に記載された技術的事項から当業者が容易に想到し得たものということはできない。 ウ 申立人の主張 申立人は、甲4発明の接着剤(ワンパックボーイ)は、「加水分解性シリル基を有する硬化性樹脂」に相当し、甲4の19頁に「・Rネットを埋め込むように接着剤(ワンパックボーイV1(ライト))を塗り付け、タイル張りが可能なように均一に塗り広げます。」と記載されていることや、46頁に「施工のポイント●木用ビス((JR)F-CSR65)は、斜めに留め付けないでください。斜めに留め付けた場合、ビス頭が不陸となりタイルの仕上りを損なう恐れがあります」と記載されているように、新しい外装材(タイル等)を張り付ける前に、不陸を設けないことが記載されているから、甲4発明における「接着剤の塗布」が、本件発明1における『不陸調整層形成工程』に相当するという旨主張している(申立書52頁1?18行)。 しかし、本件明細書の【0029】に「不陸調整用組成物は、既設仕上げ層20の不陸を埋めるように塗布されており」と記載されているように、本件発明1の「不陸調整層」は、既設仕上げ層の不陸を埋めるものであるところ、甲4の10頁の図(上記「第4」「2(4)ア(イ-2)」)において、既存壁面の段差部分を平滑にしているのは「下地調整パテ」であることや、甲4の26頁1?33行の記載(上記「第4」「2(4)ア(エ)」)を踏まえると、甲4発明においては、「下地調整パテ」により「下地」を「平滑」にする工程が、『不陸調整層形成工程』に相当するというべきである。他方、甲4に記載の上記「接着剤(ワンパックボーイV1(ライト))」について、甲4には、上記接着剤を用いて既設仕上げ層の不陸を埋めることは記載されておらず、上記「タイル張りが可能なように均一に塗り広げます。」との記載はタイルを張り付けるために当然なすべきことを述べていると理解するのが自然であるから、甲4発明における上記「接着剤」は、本件発明1における「不陸調整層」に相当するものではなく、甲4発明における「接着剤の塗布」は、本件発明1における『不陸調整層形成工程』に相当するものではない。 したがって、申立人の上記主張は採用することができない。 エ まとめ したがって、本件発明1は、甲4に記載された発明であるとはいえず、甲4発明に基づいて、又は、甲4発明及び甲2又は甲3に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるであるということができない。 (2)本件発明2ないし6について 本件発明2ないし6は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに限定したものであるから、上記(1)と同様の理由により、甲4に記載された発明であるということができないし、甲4発明に基づいて、又は、甲4発明及び甲2又は甲3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということができない。 (3)小括 以上のとおりであるから、本件発明1、5及び6は、甲4に記載された発明であるとはいえず、本件発明1ないし4は、甲2ないし甲4に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 したがって、申立人が主張する申立理由2によっては、本件請求項1ないし6に係る特許が特許法第29条第1項第3号又は同法第29条第2項の規定に違反してされたものということはできない。 第6 むすび したがって、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件請求項1ないし6に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件請求項1ないし6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2021-08-06 |
出願番号 | 特願2015-206057(P2015-206057) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
Y
(E04F)
P 1 651・ 113- Y (E04F) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 五十幡 直子、小笠原 かれん |
特許庁審判長 |
森次 顕 |
特許庁審判官 |
土屋 真理子 長井 真一 |
登録日 | 2020-09-16 |
登録番号 | 特許第6764641号(P6764641) |
権利者 | 株式会社竹中工務店 コニシ株式会社 |
発明の名称 | 改修工法 |
代理人 | 斉藤 達也 |
代理人 | 斉藤 達也 |