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審決分類 審判 判定 同一 属する(申立て成立) G02F
管理番号 1376793
判定請求番号 判定2020-600027  
総通号数 261 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許判定公報 
発行日 2021-09-24 
種別 判定 
判定請求日 2020-09-08 
確定日 2021-08-02 
事件の表示 上記当事者間の特許第4952425号発明「液晶装置および電子機器」の判定請求事件(判定2020-600027号事件(以下、「本件判定事件」という。))について、次のとおり判定する。 
結論 イ号図面及びその説明書に示す液晶ディスプレイは、特許第4952425号発明の特許請求の範囲の請求項1に記載された特許発明の技術的範囲に属する。 
理由 理由
第1 請求の趣旨
本件判定事件の判定の請求の趣旨は、いずれも、イ号物件説明書に示す液晶ディスプレイは、特許第4952425号の特許請求の範囲の請求項1に記載された特許発明の技術的範囲に属する、との判定を求めるものである。

第2 本件特許及び本件判定事件に係る手続の経緯等
本件特許及び本件判定事件に係る手続の経緯等は以下のとおりである。
平成19年 7月23日 本件特許に係る出願(特願2007-1904 32号)(優先権主張平成18年8月21日)
平成24年 3月23日 特許登録(特許第4952425号)
令和 2年 9月 8日 判定請求
令和 2年12月25日 手続補正書
令和 3年 2月15日 答弁書

第3 本件発明
本件特許の請求項1に記載された発明(以下「本件発明」という。)は、本件特許に係る願書に添付した特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるものであるところ、その内容は次のとおりである。なお、構成要件の分説は、本件判定事件の判定請求書にならった。

A 液晶を挟持して互いに対向する第1基板と第2基板とを具備し、
B 前記第1基板上に、スイッチング素子と、
C 該スイッチング素子に接続された信号配線と、
D 該信号配線および前記スイッチング素子の上側に設けられた平坦性を有 する絶縁膜からなる平坦化膜と、
E 該平坦化膜の上側に設けられた第1電極と、
F 該第1電極の上側に設けられた電極絶縁膜と、
G 該電極絶縁膜の上側に設けられ、複数のスリットを有するとともに前記 第1電極との間で前記スリットの各々を通じて電界を発生させる第2電 極と、を備え、
H 前記第1基板上の前記平坦化膜の非形成領域の少なくとも一部に、実装 部品を接続する端子が設けられており、
I 該端子は、前記信号配線と同一材質の端子本体部と、
J 前記電極絶縁膜と同一材質であって、前記端子本体部の側面を覆うとと もに、前記端子本体部における開口領域で開口するように該端子本体部 上に形成された端子絶縁膜と、
K 前記第2電極と同一材質であって、前記開口領域と前記端子本体部の側 面とを覆って形成され、前記端子本体部とは前記開口領域を介して電気 的に接続された端子電極部と、
L を有することを特徴とする液晶装置。

第4 当審の判断
1 イ号物件について
(1)本件判定事件の判定請求に係るイ号物件
型式番号TL062FVMC70-00。

(2)イ号物件の構成
令和2年12月25日付手続補正書により補正された甲第2号証(調査報告書(特許第4952425号/TL062FVMC70-00)、令和2年8月26日、弁護士 高橋雄一郎作成)(以下、証拠は、「第」及び「号証」を略して表記する。)によれば、イ号物件の構成について次の事実が認められる。なお、断りがない限り、頁番号や図面番号は甲2のものを示し、色彩は甲2に基づいて特定する。

ア イ号物件は、「液晶ディスプレイ」である(4頁?6頁)。

イ(ア)図10は、イ号物件のTFTアレイ基板とされる基板(以下「本件基板」という。)の光学顕微鏡写真である。図10の各写真のうち、上段の左側にある写真(以下「図10上段左写真」という。以下、他の写真も同様に、図面番号にその写真が配置された位置を後置して表記する。)が本件基板の表面を撮影したものであり、その一部の領域を順次拡大して撮影した写真が、同下段左写真及び同下段右写真である。


また、図10の2左写真は、図10右写真の一部を拡大したものである。図10の2中央写真は左写真に対応するSEM像、右写真は、左写真あるいは中央写真のb-b’断面のSEM像である。


(イ)イ号物件は、「液晶表示装置」であるから、イ号物件の本件基板は、信号線、TFTを有しており、また、本件基板に液晶分子を介して対向配置される基板を有することは明らかであるといえる。

(ウ)小括
以上によれば、イ号物件は、信号線、TFTを有する基板と液晶分子を介して対向配置される基板とを有するといえる。

ウ(ア)図10の右写真によれば、イ号物件には、複数本の概ね縦方向に延びた線状構造(以下、概ね縦方向に延びた線状構造を「縦線状構造」という。)と上下2本の概ね横方向に延びた線状構造(以下、概ね横方向に延びた線状構造を「横線状構造」という。)とが配されており、隣り合った縦線状構造と隣り合った横線状構造とによって略平行四辺形の領域が形成されていることが分かる(以下、液晶表示装置の表示面を正面からみるときの観測者の視点を「平面視」という。)。また、図10右写真の一部領域の拡大写真である図10の2左写真によれば、縦線状構造と横線状構造の交点付近に、縦線状構造付近を一方の端部とするとともに横線状構造付近を他方の端部とする黄色のL字状(アルファベットの「L」を反時計回りに90°回転させた形状である。)の構造が配されていることが分かる。

(イ)ところで、液晶表示装置においては、複数行のゲート信号線と複数列の映像信号線とが配されること、隣り合ったゲート信号線と隣り合った映像信号線とで囲まれた各領域(以下「画素領域」という。)には、それぞれ画素電極があること、ゲート信号線及び映像信号線にそれぞれ接続されるTFTがそれらの信号線の交点付近に配されること、画素電極はゲート信号線を通るゲート信号によって駆動されるTFTを介して映像信号線と接続されること、がいずれも技術常識である。
そうすると、図10右写真及び図10の2左写真においては、縦線状構造が映像信号線、横線状構造がゲート信号線、黄色のL字状構造がTFTをそれぞれ意味しており、また、図10の2右写真や技術常識も参酌すると、TFTが縦線状構造である映像信号線と接続されていることが推認できる。

(ウ)小括
以上によれば、イ号物件は、本件基板上に、概ね縦方向に延びた複数本の映像信号線と概ね横方向に延びた複数のゲート信号線とをそれぞれ備えるとともに、TFTが映像信号線と接続された構造を備える。

エ(ア)図11は、図10の2に関連する写真である。図11左写真、中央写真は、図10の2左写真、中央写真と同じものであり、図11右写真は、図11左写真及び図11中央写真に表されたa-a’切断部分を斜視したSEM像を表している。



また、図12は、図8右写真のある部分の断面SEM写真である。


(イ)図10の2右写真、図12の写真によれば、画素領域には、基板の下側に上面が一部凹凸形状となっている複数の比較的薄い層(以下、「下側薄膜層」という。)が存在し、その上に、上面が略平坦な比較的厚い層(以下、「中央層」という。)、その上部に複数の比較的薄い層(以下、「上側薄膜層」という。)が重なっている部分が存在することがわかる。そして液晶表示装置における技術常識を参酌すれば、下側薄膜層は、TFTの半導体層、ゲート信号線や映像信号線などの配線と絶縁層とが積層された構造であり、中央層は絶縁層であり、上側薄膜層は、画素電極などの電極と絶縁層とが積層された構造であることが推認される。

(ウ)小括
以上によれば、イ号物件は、TFTの半導体層、ゲート信号線や映像信号線などの配線と絶縁層とが積層された、上面が一部凹凸形状となっている構造の上に、上面が略平坦な比較的厚い絶縁層が設けられ、その上に、電極と絶縁層とが積層された構造が設けられている。

オ(ア)図13は、図10の2に関連する写真である。図13左写真、中央写真は、図10の2左写真、中央写真と同じものであり、図13右写真は、図13左写真及び図13中央写真に表されたb-b’切断部分(以下、当該切断部分の断面を「第1bb’断面」という。)のSEM像を表している。



図14は、第1bb’断面に関する写真である。図14の上段写真は、図13右写真と同じものであり、中段と下段の各写真は当該上段写真に関連する写真である。図14中段と下段の各写真は、中段左写真、中段右写真、下段左写真、下段右写真が、この順に、同上段写真に表された領域の一部である破線で囲まれた領域におけるIn分布、O分布、N分布及びSi分布を表している(図14中段左写真、中段右写真、下段左写真、下段右写真をこの順に、以下、「分析(1)第1写真」、「分析(1)第2写真」、「分析(1)第3写真」及び「分析(1)第4写真」という。)。










(イ)図13中央写真と同右写真とによれば、同中央写真の中央付近から左上方向に延びている3つの明灰色のラインは、同右写真の左側の、極めて薄い表面に沿って形成された白色の層(第2電極と印字された矢印が指す層、以下、「第1の薄い白色層」という。)であることがわかる。また、同右写真によると、第1の薄い白色層の直下に、極めて薄く全面に形成された灰色層(電極絶縁膜と印字された矢印が指す層、以下、「薄い灰色層」という。)極めて薄く全面に形成された白色層(第1電極と印字された矢印が指す層、以下、「第2の薄い白色層」という。)を有していることが分かる。そして、図14分析(1)第1写真、同分析(1)第2写真によれば、第1の薄い白色層と第2の薄い白色層とは、InとOを含むことが分かる。また、図14分析(1)第3写真、同分析(1)第4写真によれば、第1、第2の薄い白色層の間の薄い灰色層は、SiとNを含むことが分かる。
また、図13右写真によれば、中央層の一番下には、映像信号線が配置されていることがわかる。

(ウ)小括
以上によれば、イ号物件は、画素領域において、上側薄膜層として、表面から順にInとOを含む第1の薄い層、SiとNを含む薄い層、InとOを含む第2の薄い層を有している。
また、イ号物件は、中央層の一番下に映像信号線が配置されている。

カ(ア)図15は、イ号物件のSIMS分析結果に関する写真である。図15左写真及び同右写真は、それぞれ、In及びSnの2次元マッピングを表している。

(イ)図15左写真によれば、イ号物件には、SIMS分析結果上の構造として、平面視でやや上方に傾斜して横に延びるInの量が大きい値で一定となっている領域(以下「In大量一定領域」という。)が配されていること、In大量一定領域の周囲に存在するInの量が少ない領域(以下「In少量領域」という。)と、Inが存在しない領域(以下「In不存在領域」という。)とが配されていることが分かる。
図13中央写真と図15左写真とを対比すると、図9中央写真における上下方向に延びる明るい灰色の形状とIn大量一定領域の形状とが、90度回転したものであると考えると、よく一致することが分かる。そして、図15右写真から分かるSnの分布の大小は、同左写真のInの分布の大小に、概ね対応していることがうかがわれる。
図13中央写真、図14各写真、図15各写真によると、上側薄膜層のInとOを含む第1の薄い白色層は、平面視で、一つの画素領域につき略上下方向に3本延びておりSnをも含むことが分かる。

(ウ)小括
以上によれば、イ号物件は、InとOを含む第1の薄い層が、平面視で一つの画素領域につき上下方向に3本延び、Snをも含んでいる。

キ(ア)図16は、イ号物件の本件基板とフレキシブル基板に関する写真である。


図17は、本件基板のフレキシブル基板との接続部に関する写真であり、上段写真、中段中央写真、下段中央写真、右写真は、フレキシブル基板との接続部における本件基板の一部の領域を順次拡大して撮影した写真である。


図19は、本件基板のフレキシブル基板との接続部に関する写真であり、左写真は、図17右写真の四角で囲まれた部分を拡大した写真、また、右写真は左写真に対応するSEM像である。



図18は、図19右写真の断面形状に関するものである。左写真は、図19右写真のA’-A断面のSEM像であり、右写真は同b-b’断面のSEM像である。



(イ)図16左右の各写真から、本件基板とフレキシブル基板とが接続されていることがわかる。図19左写真からは、下側に配置された複数の端子から上側に配線が伸びていることがわかる。図18左右の各写真から、端子が形成されている領域には、厚い層は存在しないが、平面視で図19右写真の端子が形成される領域の上側には、厚い層が形成されていることがわかる。

(ウ)小括
以上によれば、イ号物件は、本件基板にはフレキシブル基板との接続部に端子が設けられ、端子が形成されている領域には厚い層が存在せず、端子が形成される領域から外れた領域には、厚い層が形成されているといえる。

ク(ア)図20は端子に関するものであり、左写真は図19右写真と同じもの、右写真は左写真におけるa-a’断面のSEM像である。



図21は、端子と、第1bb’断面に関するものである。図21の上段左写真は、図20右写真の四角で囲った部分であり、図21上段右写真は、図13右写真と同じものである。下段各写真は左から順に2枚は、同上段左写真に表された領域におけるAl分布及びTi分布を表しており、3、4枚目は、同上段右写真において、破線で囲まれた領域におけるAl分布及びTi分布を表している(図21下段各写真を、左から順に、以下、「分析(2)第1写真」、「分析(2)第2写真」、「分析(3)第1写真」、「分析(3)第2写真」という。)。



図22は、端子と第1bb’断面に関するものである。図22上段左写真は、図21上段左写真と同じものであり、図22上段右写真は、図21上段右写真と同じものである。下段各写真は左から順に2枚は、同上段左写真に表された領域におけるSi分布及びN分布を表しており、3枚目、4枚目は、同上段右写真において、破線で囲まれた領域におけるSi分布及びN分布を表している(図22下段各写真を、左から順に、以下、「分析(4)第1写真」、「分析(4)第2写真」、「分析(5)第1写真」、及び「分析(5)第2写真」という。)。



図23は、端子と、第1bb’断面に関するものである。図23上段左写真は、図21上段左写真と同じものであり、図23上段右写真は、図21上段右写真と同じものである。下段各写真は左から順に2枚は、同上段左写真に表された領域におけるIn分布及びO分布を表しており、3枚目、4枚目は、同上段右写真において、破線で囲まれた領域におけるIn分布及びO分布を表している(図23下段各写真を、左から順に、以下、「分析(6)第1写真」、「分析(6)第2写真」、「分析(7)第1写真」、及び「分析(7)第2写真」という。)。



図24の左上写真、左下写真は、端子を平面視した写真である。また、同中央写真、右写真は、イ号物件のSIMS分析結果に関する写真である。中央写真及び右写真は、それぞれ、In及びSnの2次元マッピングを表している。


(イ)図20右写真によると、端子断面は、略平坦な積層構造の中央部(以下、「端子中央部」という。)と、凸状に盛り上がった端部(以下、「端子端部」という。)とからなっていることがわかる。
図21上段左写真の中央付近には端子端部が存在し、その左側に端子中央部が存在していることがわかる。そして、図21下段の分析(2)第1写真、分析(2)第2写真によると、端子中央部は、下から順に、Tiの層(以下、「第1Ti層」という。)、Alの層(以下、「第1Al層」という。)、Tiの層(以下、「第2Ti層」という。)の積層構造(以下、「第1Al-Ti積層構造」という。)となっており、当該積層構造は端部にまで延びていることがわかる。
図21上段右写真は、図13右写真と同じ写真であり、中央層の一番下には、映像信号線が配置されている。そして、図21下段の分析(3)第1写真及び分析(3)第2写真によると、映像信号線は、下から順に、Tiの層(以下、「第3Ti層」という。)、Alの層(以下、「第2Al層」という。)、Tiの層(以下、「第4Ti層」という。)の積層構造(以下、「第2Al-Ti積層構造」という。)となっていることがわかる。
図22上段左写真と、図22下段の、分析(4)第1写真、分析(4)第2写真を併せみると、端子端部にのみ積層された積層体は、第1Al-Ti積層構造の直上と、第1Al-Ti積層構造が途切れたことにより形成された、第1Al-Ti積層構造の側面全体を覆うとともに端子中央部とは反対側に延在しており、SiとNを含むことが分かる。また、図14分析(1)第3写真、同分析(1)第4写真によれば、第1、第2の薄い白色層の間の薄い灰色層は、SiとNを含むことが分かる(第5 1 (2) オ(イ))。
図23上段左写真と、図23下段の、分析(6)第1写真、分析(6)第2写真を併せみると、端子中央部と端子端部の全体の最上面を覆う薄い層は、端子端部の第1Al-Ti積層構造の側面全体を覆っているSiとNを含む積層体の直上に、上記端子中央部とは反対側に延在している部分も含めて形成され、InとOを含むことが分かる。また、図23上段右写真と、図23下段の「分析(7)第1写真」、及び「分析(7)第2写真」を併せみると、第1の薄い白色層、第2の薄い白色層は、いずれも、InとOを含むことが分かる。
図24中央写真によれば、イ号物件には、SIMS分析結果上の構造として、平面視でInの量が大きい値で一定となっている領域(以下「端子In大量一定領域」という。)が配されていること、当該領域に接したInが存在しない領域(以下「端子In不存在領域」という。)が配されていることが分かる。
図24左下写真と同中央写真とを対比すると、図24左下写真における端子の形状と端子In大量一定領域の形状とがよく一致することが分かる。そして、図24右写真から分かるSnの分布の大小は、同中央写真のInの分布の大小に、概ね対応していることがわかる。
分析(6)第1写真、分析(6)第2写真、図24中央写真、同右写真によると、端子中央部と端子端部の全体の最上面を覆う薄い層は、平面視で、端子が存在する領域にInが集中的に存在し、Snをも含んでいることが分かる。

(ウ)小括
以上によれば、イ号物件は、端子中央部で、下から順に第1Ti層、第1Al層、第2Ti層の積層構造である第1Al-Ti積層構造の直上に、In、Sn、Oを含む薄い層が形成されており、端子端部で、第1Al-Ti積層構造は途切れており、端子端部は、SiとNを含む積層体が積層され、第1Al-Ti積層構造の直上と、第1Al-Ti積層構造が途切れたことにより形成された、第1Al-Ti積層構造の側面全体を覆うとともに端子中央部とは反対側に延在しており、当該積層体の直上には、In、Sn、Oを含む薄い層が、当該積層体の上記端子中央部とは反対側に延在している部分も含めて形成され、
映像信号線は下側から順に、第3Ti層、第2Al層、第4Ti層の積層構造である第2Al-Ti積層構造となっている。

ケ イ号物件の構成についての小括
以上によれば、イ号物件は、次のとおりの構成(以下「本件判定事件当審認定構成」という。)を備えると認められる(以下、分説は当審が行った。)。
a 信号線、TFTを有する基板と液晶分子を介して対向配置される基板とを有し、(上記イ(ウ))
b 概ね縦方向に延びた複数本の映像信号線と概ね横方向に延びた複数のゲート信号線とをそれぞれ備えるとともに、TFTが映像信号線と接続された構造を備え、(上記ウ(ウ))
c TFTの半導体層、ゲート信号線や映像信号線などの配線と絶縁層とが積層された、上面が一部凹凸形状となっている構造の上に、上面が略平坦な比較的厚い絶縁層が設けられ、その上に、電極と絶縁層とが積層された構造が設けられ、(上記エ(ウ))
d 画素領域において、上側薄膜層として、表面から順にInとSnとOを含む第1の薄い層、SiとNを含む薄い層、InとOを含む第2の薄い層を有しており、また、中央層の一番下に映像信号線が配置され、(上記オ(ウ)、カ(ウ))
e 第1の薄い層として、平面視で一つの画素領域につき上下方向に3本延び、(上記カ(ウ))
f 信号線、TFTを有する基板にはフレキシブル基板との接続部に端子が設けられ、端子が形成されている領域には厚い層が存在せず、端子が形成される領域から外れた領域には、厚い層が形成されており、(上記キ(ウ))
g 端子中央部で、下側から順に、第1Ti層、第1Al層、第2Ti層の積層構造である第1Al-Ti積層構造の直上に、In、Sn、Oを含む薄い層が形成されており、端子端部で、第1Al-Ti積層構造は途切れており、端子端部は、SiとNを含む積層体が積層され、第1Al-Ti積層構造の直上と、第1Al-Ti積層構造が途切れたことにより形成された、第1Al-Ti積層構造の側面全体を覆うとともに端子中央部とは反対側に延在しており、当該積層体の直上には、In、Sn、Oを含む薄い層が当該積層体の上記端子中央部とは反対側に延在している部分も含めて形成され、
映像信号線が下側から順に、第3Ti層、第2Al層、第4Ti層の積層構造である第2Al-Ti積層構造となっている(上記ク(ウ))
h 液晶ディスプレイ

2 充足性の有無
(1)構成要件A?Cについて
ア イ号物件の「信号線、TFTを有する基板」、「(液晶分子を介して)対向配置される基板」はそれぞれ、構成要件Aの「第1基板」、「第2基板」に相当する。また、液晶ディスプレイにおけるTFTが、スイッチング素子であることは明らかであり、イ号物件の「信号線、TFTを有する基板」が基板上に多数のTFTを有していることも明らかである。

イ イ号物件の「映像信号線」は構成要件Cの「信号配線」に相当する。

ウ 以上のとおりであるから、イ号物件は、構成要件A?Cを充足する。

(2)構成要件Dについて
ア 平坦化膜について
イ号物件の、TFTの半導体層、ゲート信号線や映像信号線などの配線と絶縁層とが積層された、上面が一部凹凸形状となっている構造(下側薄膜層)の上に設けられた、上面が略平坦な比較的厚い絶縁層(中央層)には、その上に、電極と絶縁層とが積層された構造(上側薄膜層)が設けられている(本件判定事件当審認定構成のc、第5 1 (2) エ (イ))。
ところで、液晶表示装置においては、半導体層や、配線と絶縁層とが積層された領域においては比較的凹凸があること、また、電極が設けられる領域は、平坦である必要があること、そのため、半導体層や、配線と絶縁層とが積層された領域には比較的厚い絶縁層を積層して、表面を平坦化した上で電極を設けること、当該比較的厚い絶縁層が平坦化膜などと呼ばれていること、がいずれも技術常識である(以下、「液晶表示装置に関する技術常識1」という。)。例えば、特開平11-149095号公報の【0036】には、「平坦化層間絶縁膜24により画素電極26の表面の平坦性を向上させることが可能であるため、画素電極26の表面の凹凸による液晶分子の配向の乱れも防止することが可能となっている。」と記載され、また、特開平6-242433号公報の【0009】には、「本発明の特徴事項として、第二層間絶縁膜8と画素電極10との間に平坦化層11が介在している。この平坦化層11はTFT3や金属配線パターン7の凹凸を埋め平坦化する為に充分な厚みを有している。平坦化層11の表面は略完全な平面状態にあり、その上に画素電極10がパタニング形成される。」と記載されている。特開平11-149095号公報の図2、特開平6-242433号公報の図1は、それぞれ次のものである。
特開平11-149095号公報の図2



特開平6-242433号公報の図1

そうすると、イ号物件の「比較的厚い絶縁層」は、「上端が略平坦な」ものであるから、構成要件Dの「平坦化膜」を充足し、さらに上記のような液晶表示装置に関する技術常識1も踏まえれば、イ号物件の「比較的厚い絶縁層」はいわゆる「平坦化膜」であることが分かり、このような点からも構成要件Dの「平坦化膜」を充足するといえる。

イ これに対し、被請求人は次のとおり主張する。
「甲2の図13によれば、請求人が「平坦化膜」であると主張する膜は、少なくとも請求人が主張するところの「信号配線」の上側において盛り上がっている。」(答弁書5?6ページ)「すなわち、「信号配線」によって生じた段差を平坦化していない。よって、イ号物件は構成要件Dの「平坦性を有する・・・平坦化膜」を充足しない」(答弁書12ページ)
しかしながら、「平坦化膜」における「平坦」とは、略平坦であることを意味し、顕微鏡等で大幅に拡大した上でも完全に平坦である必要はないことは技術常識であるといえるから、被請求人の主張は採用できない。

ウ 以上のとおりであるから、イ号物件は、構成要件Dを充足する。

(3)構成要件E?Gについて
ア イ号物件の比較的厚い絶縁層上の上側薄膜層は、画素電極などの電極と絶縁層とが積層された構造である(第5 1 (2) エ (イ))ことも踏まえれば、「InとOを含む第2の薄い層」、「InとSnとOを含む第1の薄い層」は電極であり、「SiとNを含む薄い層」は絶縁層であることが分かる。そうすると、イ号物件の「InとOを含む第2の薄い層」、「SiとNを含む薄い層」はそれぞれ、構成要件E、Fの「第1電極」、「電極絶縁膜」に相当する。また、イ号物件の「InとSnとOを含む第1の薄い層」は、平面視で一つの画素領域につき上下方向に3本延びるものであるから、3本の間の2つの細長い領域と、画素の端とInとSnとOを含む第1の薄い層との間の細長い領域とはいずれも、スリット形状であるといえる。そして、SiとNを含む薄い層の上にInとSnとOを含む第1の薄い層は存在するから、イ号物件の「InとSnとOを含む第1の薄い層」は、構成要件Gの「電極絶縁膜の上側に設けられ、複数のスリットを有する第2電極」を充足する。

イ 液晶表示装置において、電極に電圧を印加することにより電界を発生させて液晶を駆動することは、技術常識である。そうすると、イ号物件の「InとSnとOを含む第1の薄い層」は、構成要件Gの「第1電極との間で前記スリットの各々を通じて電界を発生させる」ことを充足する。

ウ 以上のとおりであるから、イ号物件は、構成要件E?Gを充足する。

(4)構成要件Hについて
ア イ号物件は、本件基板にはフレキシブル基板との接続部に端子が設けられている。そして、フレキシブル基板に実装部品が実装されていることは技術常識であるといえるから、イ号物件は、構成要件Hの「第1基板上に、実装部品を接続する端子が設けられ」を充足する。

イ イ号物件においては、端子が形成されている領域には厚い層が存在しておらず、その他、当該領域に平坦化膜となり得る層があることを認めるに足りる証拠はない。
してみれば、イ号物件は、構成要件Hの「平坦化膜の非形成領域の少なくとも一部に・・・端子が設けられて」いることを充足する。

ウ 以上のとおりであるから、イ号物件は、構成要件Hを充足する。

(5)構成要件Iについて
ア 端子本体部について
本件発明において、「端子本体部は、端子電極部と電気的に接続されている」(構成要件K)のであるから、「端子本体部」が導電性であることは明らかであり、また、「本体」の字義が「物の、付属物をのぞいた主要な部分。主体。」(広辞苑第五版)であることや、本件特許に係る願書に添付した図面の【図7】(この図における「端子本体部」は70)も考慮すると、本件発明の「端子本体部」は、端子の大部分を占め、端子の導通に関して中心的な役割を果たすものであることがわかる。
これをイ号物件についてみると、端子中央部で、下側から順に、第1Ti層、第1Al層、第2Ti層の積層構造である第1Al-Ti積層構造となっている。そして、Al、Tiはいずれも導電性の材料であって、当該第1Al-Ti積層構造は、端子の大部分を占め、端子の導通に関して中心的な役割を果たしていることは明らかである。
以上を踏まえると、イ号物件の端子中央部の第1Al-Ti積層構造は、本件発明の「端子本体部」に相当する。

イ イ号物件では、映像信号線が下側から順に、第3Ti層、第2Al層、第4Ti層の積層構造である第2Al-Ti積層構造となっている。そして、端子本体部の第1Al-Ti積層構造の「第1Ti層」、「第1Al層」、「第2Ti層」はそれぞれ、映像信号線の「第3Ti層」、「第2Al層」、「第4Ti層」に相当するといえるから、端子本体部と映像信号線とは同一材質であり、イ号物件は構成要件Iを充足する。

ウ これに対し、被請求人は次のとおり主張する。
イ号物件において、「スイッチング素子」に接続された「信号配線」に該当するのは「第1Ti配線」のみである。そうすると、「Al端子層」と「第2Ti端子層」とは、
「端子は、信号配線と同一材質の端子本体部」を満足せず、イ号物件は構成要件Iを充足しない。(答弁書14?15ページ)
なお、ここで、被請求人がいう「信号配線」、「第1Ti配線」、「Al端子層」、「第2Ti端子層」はそれぞれ、本件判定事件当審認定構成における「映像信号線」、「第3Ti層」、「第1Al層」、「第2Ti層」である。

エ しかしながら、Ti、Alはともに導電性の材料であり、イ号物件においては、第3Ti層、第2Al層、第4Ti層の積層構造である、第2Al-Ti積層構造が一体となって、「映像信号線」を構成していることは明らかである。そして、一体的な第2Al-Ti積層構造は、スイッチング素子に接続されたといえるし、第1Ti層、第1Al層、第2Ti層の積層構造である、第1Al-Ti積層構造である端子本体部と同一材質であるといえる。

オ 以上のとおりであるから、イ号物件は、構成要件Iを充足する。

(6)構成要件Jについて
ア イ号物件では、端子端部で、第1Al-Ti積層構造の直上にSiとNを含む積層体が積層されており、当該積層体が絶縁層であることが分かる。そして、この絶縁層は、第1Al-Ti積層構造が端子端部で途切れたことにより形成された、第1Al-Ti積層構造の側面をも覆っている。また、SiとNを含む積層体は、端子端部のみを覆っており、端子中央部は覆っていないことが分かる。そうすると、イ号物件は構成要件Jのうち「端子本体部の側面を覆うとともに、端子本体部における開口領域で開口するように該端子本体部上に形成された端子絶縁膜」を充足する。

イ イ号物件では、画素領域の上側薄膜層にあるSiとNを含む薄い層は「第5 2 (3) ア」のとおり、「電極絶縁膜」に相当するから、イ号物件は構成要件Jのうち(端子絶縁膜が)「電極絶縁膜と同一材質であ」ることを充足する。

ウ これに対し、被請求人は次のとおり主張する。
イ号物件の「第1Ti端子層」、「第2Ti端子層」は極めて薄く、側面を持たない。(答弁書8?9ページ)したがって、構成要件Jの「(端子絶縁膜が)端子本体部側面を覆う」ことを充足しない。(答弁書14?15ページ)
なお、ここで、被請求人がいう「第1Ti端子層」、「第2Ti端子層」は、本件判定事件当審認定構成における「第1Ti層」、「第2Ti層」である。

エ しかしながら、イ号物件の第1Al-Ti積層構造は、第1Ti層、第1Al層、第2Ti層の積層構造が一体となって端子本体部を構成しているといえ、SiとNを含む積層体が、当該一体となった端子本体部の側面を覆っていることは明らかであるといえる。

オ 以上のとおりであるから、イ号物件は、構成要件Jを充足する。

(7)構成要件Kについて
ア イ号物件では、端子中央部で、第1Al-Ti積層構造の直上に、In、Sn、Oを含む薄い層が形成されており、また、端子端部でSiとNを含む積層体の直上には、In、Sn、Oを含む薄い層が形成されている。そして端子表面に位置する層が、導電性であることは技術常識であるといえるから、イ号物件の「In、Sn、Oを含む薄い層」は、構成要件Kの「端子電極部」に相当する。また、「InとSnとOを含む第1の薄い層」は「第5 2 (3) ア」によると、「第2電極」に相当する。
そうすると、イ号物件は、構成要件Kのうち、「第2電極と同一材質であって、開口領域を覆って形成され、端子本体部とは前記開口領域を介して電気的に接続された端子電極部」を充足する。

イ 端子電極部が「端子本体部の側面を覆って形成され」ることについて
構成要件Kは、端子電極部が「端子本体部の側面を覆って形成され」る旨特定するが、このことについて検討する。
本件特許に係る願書に添付した明細書の【0043】には、端子電極部が「端子本体部の側面を覆って形成され」ることに関して、「シリコン窒化膜を領域61にも成膜して、端子絶縁膜77を形成する。・・・ITO膜を領域61にも成膜し、当該ITO膜をパターニングして開口部82および端子本体部70の側部64を覆うように端子電極部71を形成する。(図9(e)・第5工程)」との記載がある。また、図9(e)は次のものである。

図9(e)からは、端子電極部71は、端子本体部70の側面を覆う端子絶縁膜77の直上に形成されるものであることが理解できる。さらに、同図からは、端子本体部70の側面に配される端子電極部71は、当該側面の全体を覆っていないことが理解でき、そのことは、端子絶縁膜77における端子中央部とは反対側に延在している部分の厚みに起因していることも理解できる。
そうすると、構成要件Kのうち、端子電極部が「端子本体部の側面を覆って形成され」るというためには、端子電極部が、端子本体部の側面全体を覆って形成されていないとしても、端子本体部の側面を覆う端子絶縁膜の直上に形成されており、端子本体部の側面全体のうち端子電極部に覆われていない部分が、端子絶縁膜における端子中央部とは反対側に延在している部分の厚みに起因する範囲にとどまれば足りると解される。

ウ 上記イを踏まえ、イ号物件についてみると、SiとNを含む積層体は、端子端部の第1Al-Ti積層構造の側面全体を覆うとともに端子中央部とは反対側に延在しているものであり、In、Sn、Oを含む薄い層は、当該積層体の直上を、当該延在している部分も含めて覆うものであるから、In、Sn、Oを含む薄い層(端子電極部)は、第1Al-Ti積層構造(端子本体部)の側面全体を覆って形成されていないとしても、第1Al-Ti積層構造(端子本体部)の側面を覆うSiとNを含む積層体(端子絶縁膜)の直上に形成されており、第1Al-Ti積層構造(端子本体部)の側面全体のうちIn、Sn、Oを含む薄い層(端子電極部)に覆われていない部分が、SiとNを含む積層体(端子絶縁膜)における第1Al-Ti積層構造(端子本体部)とは反対側に延在している厚みに起因する範囲にとどまるものといえる。
してみれば、In、Sn、Oを含む薄い層(端子電極部)が、第1Al-Ti積層構造(端子本体部)の側面を覆って形成しているといえ、そうすると、イ号物件は、構成要件Kのうち、端子電極部が「端子本体部の側面を覆って形成され」ることを充足する。

エ これに対し、被請求人は次のとおり主張する。
(ア)イ号物件の「第1Ti端子層」、「第2Ti端子層」は極めて薄く、側面を持たない。(答弁書8?9ページ)
したがって、構成要件Kの「(端子電極部が、)端子本体部側面を覆う」ことを充足しない。(答弁書14?15ページ)
(イ)イ号物件の「端子電極部」は、「第1Ti端子層」、「Al端子層」、「第2Ti端子層」の側面の斜め上方に形成されるのであって、側面の全体に設けられていないから、構成要件Kを充足しない。(答弁書14?15ページ)
なお、ここで、被請求人がいう「第1Ti端子層」、「Al端子層」、「第2Ti端子層」は、本件判定事件当審認定構成における「第1Ti層」、「第1Al層」、「第2Ti層」である。

オ しかしながら、上記(ア)については、(6)エで検討したように、イ号物件の第1Al-Ti積層構造は、第1Ti層、第1Al層、第2Ti層の積層構造が一体となって端子本体部を構成しているといえ、In、Sn、Oを含む薄い層が、当該一体となった端子本体部の側面を覆っているといえる。また、上記(イ)については、上記イ、ウで検討したとおりであるから、被請求人の主張は採用できない。

カ 以上のとおりであるから、イ号物件は、構成要件Kを充足する。

(8)構成要件Lについて
イ号物件の液晶ディスプレイが、本件発明の「液晶装置」を充足することは明らかである。
よって、イ号物件は、構成要件Lを充足する。

(9)小括
したがって、イ号物件は、本件発明の構成要件をすべて充足する。

3 本件判定事件についてのまとめ
以上のとおり、イ号物件は、本件発明の構成要件をすべて充足するから、本件発明の技術的範囲に属する。

第5 むすび
以上のとおりであるから、本件判定事件のイ号物件は、本件発明の技術的範囲に属する。
よって、結論のとおり判定する。

 
判定日 2021-07-19 
出願番号 特願2007-190432(P2007-190432)
審決分類 P 1 2・ 1- YA (G02F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 藤田 都志行  
特許庁審判長 井上 博之
特許庁審判官 山村 浩
瀬川 勝久
登録日 2012-03-23 
登録番号 特許第4952425号(P4952425)
発明の名称 液晶装置および電子機器  
代理人 小林 英了  
代理人 野本 裕史  
代理人 大野 聖二  
代理人 松野 知紘  
代理人 盛田 真智子  
代理人 特許業務法人高橋・林アンドパートナーズ  

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