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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L |
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管理番号 | 1377127 |
審判番号 | 不服2020-11089 |
総通号数 | 262 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2021-10-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2020-08-07 |
確定日 | 2021-08-11 |
事件の表示 | 特願2017-526835「ペロブスカイト太陽電池におけるPEDOT」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 5月26日国際公開、WO2016/079145、平成30年 2月22日国内公表、特表2018-505542〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、2015年(平成27年)11月17日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2014年11月21日、欧州特許庁)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。 令和元年11月15日付け:拒絶理由通知書 令和2年2月18日 :意見書、手続補正書の提出 令和2年3月31日付け :拒絶査定 令和2年8月 7日 :審判請求書、手続補正書の提出 令和3年 1月13日 :上申書の提出 第2 令和2年8月7日にされた手続補正についての補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 令和2年8月7日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。 [理由] 1 本件補正について(補正の内容) (1)本件補正後の特許請求の範囲の記載 本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された。(下線部は、補正箇所として、請求人が付したものである。) 「層状体を生成するためのプロセスであって、 I)ペロブスカイト型結晶構造を有する材料を含む光活性層を提供するプロセス工程と、 II)導電性ポリマーa)及び有機溶媒b)を含むコーティング組成物A)で少なくとも部分的に前記光活性層を重畳するプロセス工程であって、ここで、前記導電性ポリマーa)が、カチオンポリチオフェン及び対イオンを含む塩又は複合体であり、プロセス工程II)において前記光活性層が少なくとも部分的に重畳される前記組成物A)の含水量が、組成物A)の総重量に基づいて、2重量%未満である工程と、 III)プロセス工程II)において重畳された前記コーティング組成物A)から前記有機溶媒b)を少なくとも部分的に除去し、それによって、前記光活性層に重畳された導電層を得るプロセス工程と、を少なくとも含む、プロセス。」 (2)本件補正前の特許請求の範囲 本件補正前の、令和2年2月18日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。 「層状体を生成するためのプロセスであって、 I)ペロブスカイト型結晶構造を有する材料を含む光活性層を提供するプロセス工程と、 II)導電性ポリマーa)及び有機溶媒b)を含むコーティング組成物A)で少なくとも部分的に前記光活性層を重畳するプロセス工程であって、プロセス工程II)において前記光活性層が少なくとも部分的に重畳される前記組成物A)の含水量が、組成物A)の総重量に基づいて、2重量%未満である工程と、 III)プロセス工程II)において重畳された前記コーティング組成物A)から前記有機溶媒b)を少なくとも部分的に除去し、それによって、前記光活性層に重畳された導電層を得るプロセス工程と、を少なくとも含む、プロセス。」 2 補正の適否 本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「導電性ポリマーa)」について、発明の詳細な説明【0078】における、「塩又は複合体は、有機溶媒b)中に対イオンの存在下で、ポリチオフェンの基礎となるモノマー、特に好ましくは、3,4-エチレンジオキシチオフェンを酸化的に重合させることによって調製される」との記載に基づき、「導電性ポリマーa)が、カチオンポリチオフェン及び対イオンを含む塩又は複合体であ」ると限定を付加するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下に検討する。 (1)本件補正発明 本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。 (2)引用文献の記載事項 ア 引用文献1 (ア)原査定の拒絶の理由で引用された本願の優先日前に頒布された電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、国際公開第2014/042449号(以下「引用文献1」という。)には、図面とともに、次の記載がある(下線は当審が付した。以下、同じ。)。 なお、日本語訳として、引用文献1に係る国際出願の日本国内段階における公表公報である「特表2015-529982号公報」を参酌した。 (日本語訳:【請求項1】 第1電極と、第1電極上に位置し、光吸収体が取り込まれた複合層と、前記複合層の上部に位置し、光吸収体からなる光吸収構造体と、前記光吸収構造体の上部に位置する正孔伝導層と、前記正孔伝導層の上部に位置する第2電極と、を含む太陽電池。)」 (日本語訳:【請求項19】 前記複合層の光吸収体および前記光吸収構造体の光吸収体は、互いに独立して、下記化学式1乃至2を満たす無/有機ハイブリッドペロブスカイト化合物から選択される1つまたは2つ以上の物質を含む、請求項1に記載の太陽電池。 AMX_(3) (化学式1) (化学式1中、Aは1価の有機アンモニウムイオンまたはCs+であり、Mは2価の金属イオンであり、Xはハロゲンイオンである。) A_(2)MX_(4) (化学式2) (化学式2中、Aは1価の有機アンモニウムイオンまたはCs+であり、Mは2価の金属イオンであり、Xはハロゲンイオンである。))」 (日本語訳:【請求項22】 前記正孔伝導層の正孔伝達物質が、チオフェン系、パラフェニレンビニレン系、カルバゾール系、およびトリフェニルアミン系から選択される1つまたは2つ以上の正孔伝導性高分子である、請求項1に記載の太陽電池。 【請求項23】 前記正孔伝導層の正孔伝達物質が、チオフェン系およびトリフェニルアミン系から選択される1つまたは2つ以上の正孔伝導性高分子である、請求項22に記載の太陽電池。)」 (日本語訳:【0184】 詳細に、有機正孔伝達物質は、P3HT(poly[3-hexylthiophene])、…(中略)…, PEDOT(poly(3,4-ethylenedioxythiophene))、PEDOT:PSS poly(3,4-ethylenedioxythiophene)poly(styrenesulfonate)、PTAA(poly(triarylamine))、Poly(4-butylphenyl-diphenyl-amine)、およびこれらの共重合体から選択される1つまたは2つ以上であることができる。)」 (日本語訳:【0238】 溶液塗布法は、光吸収体溶液を多孔性電極に塗布した後、乾燥することで行われることができる。光吸収体溶液の溶媒としては、光吸収体を溶解して乾燥する時に容易に揮発除去される溶媒であればよい。一例として、溶媒は非水系極性有機溶媒であることができ、具体的な一例として、20℃で蒸気圧が0.01mmHg?10mmHgである非水系極性有機溶媒であることができる。)」 (日本語訳:【0241】 光吸収体溶液を塗布および乾燥することで、単一工程で複合層および複合層上の光吸収構造体を同時に製造する、詳細な溶液塗布法を提供する。単一工程を用いる場合、太陽電池の生産性の増大は勿論、複合層および光吸収構造体に粗大結晶の光吸収体を形成することができ、複合層の光吸収体と光吸収構造体との優れた界面特性を有するため好ましい。)」 (日本語訳:【0300】 正孔伝導層を形成する段階は、光吸収構造体が形成された複合層の上部を覆うように、有機正孔伝達物質を含有する溶液を塗布および乾燥することで行うことができる。)」 (日本語訳:【0301】 正孔伝導層を形成するために使用される溶媒は、有機正孔伝達物質が溶解され、光吸収体および多孔性電極の物質と化学的に反応しない溶媒であればよい。例えば、正孔伝導層を形成するために使用される溶媒は無極性溶媒であることができ、実質的な一例として、トルエン(toluene)、クロロホルム(chloroform)、クロロベンゼン(chlorobenzene)、ジクロロベンゼン(dichlorobenzene)、アニソール(anisole)、キシレン(xylene)、および6?14の炭素数を有する炭化水素系溶媒から選択される1つまたは2つ以上の溶媒であることができるが、これに限定されるものではない。」 (日本語訳:(実施例1) 製造例1-3で製造された平均粒径(直径)50nmのTiO2ナノ粒子を使用して製造された厚さ600nmの多孔性電子伝達体が形成された多孔性電極に、0.8M(製造例2-2)または1.2M(製造例2-1)の光吸収体溶液(メチルアンモニウムリードトリヨージド溶液)を3000rpmの条件で塗布して光吸収体を形成したサンプル(製造例5-2または製造例5-1)を、光吸収構造体が形成された複合層として用いた。その後、光吸収構造体が形成された複合層上に、PTAAが溶解されたトルエン溶液[15mg(PTAA)/1mL(ジクロロベンゼン)]を3000rpmで60秒間スピンコーティングすることで、正孔伝導層を形成した。この際、PTAA溶液に、2.31mgのLiTFSIおよび6.28mgのTBPを添加した。(【0329】))」 「図4 」 (イ)引用文献1に記載された技術的な事項 a 【0184】には、「有機正孔伝達物質」が列記されているところ、その一つである「PEDOT:PSS」は、「ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)ポリスチレンスルホン酸」であるから、チオフェン系正孔伝導性高分子である。 b 【0301】には、正孔伝導層を形成するために使用される溶媒として「無極性溶媒」が示され、実質的な一例として、トルエン等の炭化水素系の有機溶媒が例示されていることから、「正孔伝導層を形成するために使用される溶媒」として、「有機無極性溶媒」が開示されるものと解される。 (ウ)上記(ア)及び(イ)より、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 なお、参考までに、引用発明の認定に用いた引用文献1の記載等に係る段落番号等を括弧内に付してある。 <引用発明> 「光吸収体が取り込まれた複合層と、(【請求項1】) 複合層の上部に位置し、光吸収体からなる光吸収構造体と、(【請求項1】) 光吸収構造体の上部に位置する正孔伝導層と、を含む太陽電池の製造方法であって、(【請求項1】、) 複合層の光吸収体および光吸収構造体の光吸収体は、無/有機ハイブリッドペロブスカイト化合物を含み、(【請求項19) 正孔伝導層を形成するために使用される溶媒は、有機正孔伝達物質が溶解され、(【0301】) 正孔伝導層の正孔伝達物質が、チオフェン系およびトリフェニルアミン系から選択される1つまたは2つ以上の正孔伝導性高分子であり、(【請求項23】) チオフェン系正孔伝導性高分子は、PEDOT:PSSであり、(【0184】、上記(イ)a) 正孔伝導層を形成するために使用される溶媒は有機無極性溶媒であり、(【0301】、上記(イ)b) 光吸収体溶液を塗布および乾燥することで、単一工程で複合層および複合層上の光吸収構造体を同時に製造し、(【0241】) 正孔伝導層を形成する段階は、光吸収構造体が形成された複合層の上部を覆うように、有機正孔伝達物質を含有する溶液を塗布および乾燥することで行う、(【0300】) 太陽電池の製造方法。」 (3)引用発明との対比 ア 本件補正発明と引用発明とを、以下に対比する。 (ア)引用発明の「光吸収体が取り込まれた複合層」及び「光吸収体からなる光吸収構造体」(以下、合わせて「光吸収層」という。)」は、光吸収体を含む、光を吸収する層であるから、本件補正発明の「光活性層」に相当するといえる。 (イ)引用発明の「光吸収体」は、「無/有機ハイブリッドペロブスカイト化合物を含」むから、本件補正発明の「ペロブスカイト型結晶構造を有する材料を含む」との構成を備えるといえる。 (ウ)引用発明は、「光吸収体溶液を塗布および乾燥することで、単一工程で複合層および複合層上の光吸収構造体を同時に製造し」ているから、上記(ア)及び(イ)を踏まえ、本件補正発明の「I)ペロブスカイト型結晶構造を有する材料を含む光活性層を提供するプロセス工程」を備えるといえる。 (エ)引用発明の「有機正孔伝達物質を含有する溶液」は、「正孔伝導層を形成する」溶液であり、「有機正孔伝達物質」及び「有機無極性溶媒」を含むものであるから、引用発明の「有機正孔伝達物質を含有する溶液」、「有機正孔伝達物質」、「有機無極性溶媒」は、それぞれ本件補正発明の「コーティング組成物A)」、「導電性ポリマーa)」、「有機溶媒b)」に相当する。 (オ)引用発明は、「光吸収構造体が形成された複合層の上部を覆うように、有機正孔伝達物質を含有する溶液を塗布および乾燥することで」、「正孔伝導層を形成」しているから、本件補正発明の「コーティング組成物A)で少なくとも部分的に前記光活性層を重畳するプロセス工程」を備えるといえる。 (カ)引用発明の「正孔伝達物質」は、「PEDOT:PSS」であるところ、PEDOT(ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン))は、ポリカチオンであり、ポリアニオンであるPSS(ポリスチレンスルホン酸)は、対イオンである。 したがって、引用発明は、本件補正発明の「導電性ポリマーa)が、カチオンポリチオフェン及び対イオンを含む塩又は複合体であり」との構成を有する。 (キ)引用発明において、「正孔伝導層を形成する段階は、光吸収構造体が形成された複合層の上部を覆うように、有機正孔伝達物質を含有する溶液を塗布および乾燥することで行う」ことから、当該「乾燥」により、「溶媒」が揮発除去され、「正孔伝導層」が形成されるものと解される。 したがって、引用発明は、本願発明の「III)プロセス工程II)において重畳された前記コーティング組成物A)から前記有機溶媒b)を少なくとも部分的に除去し、それによって、前記光活性層に重畳された導電層を得るプロセス工程」を備えるといえる。 (ク)引用発明は、「太陽電池の製造方法」であって、層状の「複合層」、「光吸収構造体」及び「正孔伝導層」を形成する工程を含むものであるから、本件補正発明の「層状体を生成するためのプロセス」に相当する構成を含むといえる。 イ 以上のことから、本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。 <一致点> 「層状体を生成するためのプロセスであって、 I)ペロブスカイト型結晶構造を有する材料を含む光活性層を提供するプロセス工程と、 II)導電性ポリマー及び有機溶媒を含むコーティング組成物で少なくとも部分的に前記光活性層を重畳するプロセス工程であって、ここで、前記導電性ポリマーが、カチオンポリチオフェン及び対イオンを含む塩又は複合体であり、 III)プロセス工程II)において重畳された前記コーティング組成物から前記有機溶媒を少なくとも部分的に除去し、それによって、前記光活性層に重畳された導電層を得るプロセス工程と、を少なくとも含む、プロセス。」 <相違点> 本件補正発明は、「プロセス工程II)において前記光活性層が少なくとも部分的に重畳される組成物の含水量」について、「組成物の総重量に基づいて、2重量%未満である」のに対し、引用発明は、「有機正孔伝達物質を含有する溶液」の含水量について。特定されていない点。 (4)判断 引用文献1の【0301】には、「正孔伝導層を形成するために使用される溶媒は、有機正孔伝達物質が溶解され、光吸収体および多孔性電極の物質と化学的に反応しない溶媒であればよい」と記載されており、引用発明の「有機無極性溶媒」は、光吸収体(無/有機ハイブリッドペロブスカイト化合物)と化学的に反応しない無極性の溶媒であると理解できる。 ここで、イオン性の固体であるペロブスカイト型結晶構造を有する材料が水分に弱いことは、周知の事項(例えば、下記文献6及び文献7参照。)であり、引用文献1の【0238】に、「光吸収体溶液の溶媒としては、光吸収体を溶解して乾燥する時に容易に揮発除去される溶媒であればよい。一例として、溶媒は非水系極性有機溶媒であることができ」と、「非水系」の有機溶媒が例示されていることからも、明らかである。 してみると、引用発明において、(水分に弱い)無/有機ハイブリッドペロブスカイト化合物からなる光吸収構造体の上部を覆うように、有機正孔伝達物質を含有する溶液を塗布するのであるから、当該「有機正孔伝達物質を含有する溶液」の含水量を、できるかぎり抑制することは、上記周知の事項に照らして、当業者であれば容易に想起し得ることといえる。 そして、水分の混入を全くなくすことはできない等の技術常識を踏まえ、「有機正孔伝達物質を含有する溶液」の含水量を、当該溶液の総重量に基づいて、2重量%未満と特定することは、当業者であれば容易になし得る事項である。 なお、チオフェン系正孔伝導性高分子である「PEDOT:PSS」は、水(極性溶媒)を溶媒として用いることも一般的であるが、水以外の非極性溶媒(非水系または低水分含量溶剤、例えばトルエン等)を溶媒として用いることも周知(例えば、下記文献2及び文献3参照。)である。 <周知技術を示す文献> 以下の文献2及び文献3は、令和元年11月15日付け拒絶理由通知書及び令和2年3月31日付け拒絶査定において、文献6は、同拒絶査定において、周知技術を示す文献として提示された文献である。 ・文献2:特表2011-523427号公報 「【0015】 従って、非極性溶媒に可溶で、かつ導電性膜を製造することができるポリチオフェンの分散液を調製することが本発明の目的であった。合成において使用される溶媒が同時に完成した分散液の溶媒であり、そのため溶媒の交換が必要とはされないような分散液を調製することが、本発明のさらなる目的であった。」 「【0090】 実施例8(本発明):ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)/ポリ(p-スチレンスルホン酸-co-p-ドデシルスチレン)錯体の合成 50mlの丸底フラスコに、最初に、12.5gのトルエンおよび1gの実施例7からのポリ(p-スチレンスルホン酸-co-p-ドデシルスチレン)を入れ、10分間撹拌した。その後、0.3g(2.1mmol)のエチレンジオキシチオフェン(Clevios M V2、H.C.Starck GmbH)を加えた。その後、1.33gのトシル酸鉄(III)(2.3mmol)を加え、この混合物を室温で24時間撹拌した。 このあと、撹拌機のスイッチを切り、得られた分散液を10分後に傾瀉した。さらに48時間後、この混合物を0.45μmの細孔径を有するフィルターに通して濾過した。」 ・文献3:特表2014-502288号公報 「【0008】 非水系または低水分含量溶剤系に基づくPEDOTを含む系は、すでに先行技術から公知である。」 「【0090】 実施例1(本発明に係る) トシル酸鉄(III)を酸化剤として用いるPEDOT分散液の製造 800mLのビーカーの中で、スルホン化合成ゴムのシクロヘキサン溶液(11.2%、Fumion F CL HC 510、イオン交換能1.9meq/g、ポリマーの分子量 100,000g/mol超、Fumatech、ドイツ)90gに45gのトルエンを加える。9.0gのエチレンジオキシチオフェン(Clevios(登録商標) M V2、H.C.Starck Clevios GmbH、ドイツ、またはHeraeus Precious Metals GmbH、ドイツ)を加える。次いで、トシル酸鉄(III)のエタノール溶液(55%、Clevios CE 55、H.C.Starck Clevios GmbH、ドイツ)47.7gを加える。この混合物を室温で1時間撹拌する。次いで、450gのシクロヘキサンを加える。この混合物を2分間撹拌し、1リットルのプラスチック瓶に移す。1時間後、上澄み分散液を沈殿物から傾瀉する。14日後に再度上澄み分散液を傾瀉する。 【0091】 この混合物の固形分含量は4.0%であった。 【0092】 本願明細書に記載される試験方法によって求めた比抵抗は5Ω・cmであった。 【0093】 本願明細書に記載される試験方法によって求めた水分含量は0.2%であった。」 ・文献6:韓国登録特許第10-1373815号公報 (日本語仮訳【0240】図1で分かるように、比較例1と一緒に光吸収体がCH3NH3PbI3を含む場合水分に対して極めて脆弱で急激な発電効率減少を見せることを分かる。) ・文献7:若宮淳志,“ペロブスカイト材料のX線結晶構造解析と光電変換効率の高効率化”,太陽エネルギー,一般社団法人日本太陽エネルギー学会,2014年7月31日,第40巻、第4号,pp.33-37 「ペロブスカイトはイオン性の固体であり、水や酸素の影響を受けるものと考えられる。そこで、セル作成の段階からこれらの影響をできるかぎり抑制して、この新型太陽電池の本質を明らかにすることが重要であると考え、本研究では、ペロブスカイト層の作製過程以降はすべてArガス雰囲気下のグローブボックス内(H_(2)O、O_(2)<0.1ppm)で行うこととした。また、用いる溶媒は、市販の超脱水グレードのものをさらに脱水し、含水量が8ppm以下のものを用いることとした。」(第33頁右欄第4行?第13行) ウ 本件補正発明の効果について そして、本件補正発明の奏する作用効果は、引用発明及び周知技術より奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。 エ 結論 したがって、本件補正発明は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 オ 請求人の主張について (ア)請求人は、審判請求書において、「キ.審査官殿の見解、すなわち正孔輸送層の形成に用いられる引用文献1実施例のPTAA溶液を引用文献2又は3開示のポリチオフェン溶液で置き換えることは当業者に自明であるとの見解は、明らかに後知恵的分析に基づくものであり、断じて許容されるべきではありません。なぜならば、先行技術文献には、そこで開示される溶液が適することを示す手がかりはなく、もしてや逆構造太陽電池の形成に有利であることを示す教示若しくは示唆は一切存在しないからです。」(第5頁第24行?第29行)と主張している。 しかしながら、引用文献の請求項23では、「正孔伝達物質」として、「チオフェン系およびトリフェニルアミン系」が記載されており、また、引用文献1の【図4】から見てとれるとおり、引用発明は「逆構造太陽電池」であるから、「逆構造太陽電池」と「チオフェン系正孔伝達物質」との組み合わせは、引用文献1において、既に開示されているものといえる。 (イ)請求人は、上申書において、「ペロブスカイト型結晶構造を有する材料」及び「対イオン」の構造を特定する補正案を提示している。 しかしながら、補正案による「ペロブスカイト型結晶構造を有する材料」の特定は、一般的なペロブスカイト型結晶構造に用いられるものであり、特別なものではない。また、「対イオン」の構造についても、上記文献3の【0031】に開示されている。 (ウ)上記のとおりであるから、請求人の主張は、上記判断を左右するものではない。 3 本件補正についてのむすび よって、本件補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので、同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。 よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。 第3 本願発明について 1 本願発明 令和2年8月7日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、令和2年2月18日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?14に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、前記第2[理由]の1(2)に記載のとおりのものである。 2 原査定の拒絶の理由 原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1?14に係る発明は、本願の優先日前に頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明及び周知技術(文献2?3、5?6)に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものを含むものである。 1.国際公開第2014/042449号 2.特表2011-523427号公報 3.特表2014-502288号公報 5.欧州特許出願公開第2688117号明細書 6.韓国登録特許第10-1373815号公報 3 引用文献 原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1及び周知技術(文献2?3、6)の記載事項は、前記第2の[理由]2(2)ア及びに(4)イに記載したとおりである。 4 対比・判断 本願発明は、前記第2の[理由]2で検討した本件補正発明から、「導電性ポリマーa)」に係る「導電性ポリマーa)が、カチオンポリチオフェン及び対イオンを含む塩又は複合体であ」るとの限定事項を削除したものである。 そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、その発明特定事項を限定したものに相当する本件補正発明が、前記第2の[理由]2(3)、(4)に記載したとおり、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 第4 むすび 以上のとおり、本願発明は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
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審理終結日 | 2021-03-05 |
結審通知日 | 2021-03-09 |
審決日 | 2021-03-25 |
出願番号 | 特願2017-526835(P2017-526835) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(H01L)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 佐竹 政彦 |
特許庁審判長 |
井上 博之 |
特許庁審判官 |
吉野 三寛 近藤 幸浩 |
発明の名称 | ペロブスカイト太陽電池におけるPEDOT |
代理人 | 林 一好 |