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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B25J
管理番号 1377307
審判番号 不服2020-6703  
総通号数 262 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-10-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-05-18 
確定日 2021-09-07 
事件の表示 特願2017-553531「ワーク把持装置」拒絶査定不服審判事件〔2017年(平成29年)6月8日国際公開、WO2017/094113、請求項の数(7)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 理 由
第1 手続の経緯
本願は、2015年(平成27年)12月1日を国際出願日とする出願であって、その後の手続の概要は、以下のとおりである。

令和 元年 6月28日付け:拒絶理由通知(発送日同年7月2日)
令和 元年 8月 9日 :意見書及び手続補正書の提出
令和 元年10月31日付け:拒絶理由通知(発送日同年11月12日)
令和 元年12月16日 :意見書及び手続補正書の提出
令和 2年 2月28日付け:拒絶査定(発送日同年3月3日)
令和 2年 5月18日 :審判請求及びそれと同時に手続補正書の提出

第2 原査定の概要
原査定(令和2年2月28日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。
本願請求項1-7に係る発明は、以下の引用文献1-3に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.特開2014-124711号公報
2.実願昭53-146905号(実開昭55-66791号)のマイクロフィルム
3.実願昭60-11575号(実開昭61-127995号)のマイクロフィルム

第3 本願発明
本願請求項1-7に係る発明(以下、それぞれ請求項の番号に対応して、「本願発明1」-「本願発明7」という。)は、審判請求時の補正(以下、「請求時補正」という。)で補正された特許請求の範囲の請求項1-7に記載された事項により特定される発明であり、このうち、本願発明1は、以下のとおりの発明である。(下線は、請求時補正による補正箇所である。)

「 【請求項1】
多軸ロボットアームのアーム先端に取り付けられ、ばらばらに載置されたワークを、開閉可能な第1及び第2把持爪部により把持するワーク把持装置であって、
先端に前記ワークの所定位置を引き付けて前記ワークを保持する引付部と、
前記引付部の先端よりも高い上昇位置と前記引付部によって保持された前記ワークを把持可能な下降位置との間で前記第1及び第2把持爪部を上下動させる昇降部材と、
前記第1把持爪部は、間隔をあけて配列された複数の第1板部材で構成され、該複数の第1板部材の全体をみたときに前記ワークと対向するワーク対向面から奥へ進むにつれて開口幅が狭くなる第1凹部が形成され、
前記第2把持爪部は、前記第1板部材同士の間に入り込むことが可能な第2板部材で構成され、該第2板部材の全体をみたときに前記ワークと対向するワーク対向面から奥へ進むにつれて開口幅が狭くなる第2凹部が形成され、
前記ワークへ前記引付部を移動させる時及び前記ワークを前記引付部の先端に引き付ける時は前記第1及び第2把持爪部は前記昇降部材によって前記上昇位置に配置され、前記引付部によって保持された前記ワークを前記第1及び第2把持爪部で把持する時は前記第1及び第2把持爪部が前記昇降部材によって前記下降位置に配置されたあと閉状態になることにより前記ワークを前記第1及び第2把持爪部で把持する、
ワーク把持装置。」

本願発明2-7は、請求項1を引用する引用形式請求項の発明であって、本願発明1の発明特定事項の全てを含むものである。

第4 引用文献
1 引用文献1について
(1)引用文献1の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は当審で付与したもの。以下同じ。)。
(a)「【0020】
本発明の軸状物品の移送方法を具体化した実施の形態例(第1実施形態例)を、図1?図4を参照しながら詳細に説明する。ただし、本例では移送対象の軸状物品(ワーク)は、上記したのと同じグロープラグ10である。また、これを搭載する搭載用装置(トレイ装置)も、上記したのと同じ構成のもである。したがって、図1に示したように、トレイ装置20をなす薄板製の支持体25の支持穴(円形穴)23に、上記したのと同様にして、グロープラグ10を立てて搭載した場合で説明する。すなわち、図1及び図2に示したように、グロープラグ10は、その先端のヒータ素子11側から支持穴23に挿入され、後端寄り部位のねじ込み用の多角形部15の下向き面(先端向き面)を、この支持体25の支持穴23の周縁上面に係止させて、それより下方を吊下げ状としている。
【0021】
これにより、グロープラグ10は、その後端の円軸部(端子)13を支持体25(支持穴23)より上に突出させてトレイ装置20に搭載されている。この場合、グロープラグ10は正規の搭載状態では略鉛直状になるが、図示のように傾くことがある。しかして、本例では、このようなグロープラグ10を1個ずつ引き上げて、別の場所であるエージング用のインデックステーブル200に取付けられたジグ210に移送する場合で説明する。なお、トレイ装置20をなす薄板からなる支持体25は、基台21の上に水平配置で設けられており、平面視、矩形のこの支持体25には多数の支持穴23が縦横に一定のピッチで設けられており、ここに多数のグロープラグ10が挿入され支持されているものとする。
【0022】
また、図1においてチャック装置100は、トレイ装置20の上方において設けられている。このチャック装置100は、これを上下動させる軌道をなすマスト150に取り付けられており、このマスト150は、これを水平方向に移動制御するように設けられた水平軌道160に取り付けられており、それぞれ、図示しない駆動、制御手段で駆動、制御されるように構成されている。チャック装置100は、その図示下端に位置する爪111で円軸部13をチャッキングできる高さまで下動され、そのチャッキング後、グロープラグ10を水平動できる所定の高さまで引き上げ得るように設けられている。また、水平軌道160は、詳しくは図示しないが、チャック装置100を、平面視、所定範囲内で任意位置に移動させ得るように、一方の固定軌道に対し、他方の移動軌道が平面視、直交状態において水平動するように取り付けられており、マスト150はこのうちの移動軌道に沿って、水平動できるように設けられている。なお、図1の右下は、エージング用のインデックステーブル200の部分を示している。」
(b)「【0023】
本例において、2つ爪構造のチャック装置100は、下向きに延びる爪本体110の下端部に爪111を有している。この爪111は、図3に示したようにチャック装置100の正面視(図3参照)、中央、すなわち、鉛直状態に立てられたグロープラグ10の後端の円軸部13が、チャッキングされるときの中心位置C1に対し、180度の対向配置となるように設けられている。そして、この各爪111は、例えば、チャック装置100本体内に設けられた図示しないエアシリンダのロッドの進退駆動によって、両爪111が、正面視、同時に同量(同速)、開又は閉方向に移動する機構を有するものとされている。また、図3に示したように、チャック装置100はその正面視、両爪111とも、締付け面113が、円軸部13の外周面を2点接触で挟み付け得る凹となすV形とされ、両端寄り部位が、チャッキング対象をなす円軸部13を跨ぐように、それぞれ外側(図3における紙面上下方向)に張出している。すなわち、両爪111とも、正面視、締付け面113の幅W1は、円軸部13の外径より大きく、両端寄り部位とも、相手方の爪111の各端寄り部位と対面する大きさ(幅W1寸法)を有しており、正面視においては、同寸、同形状の爪111であり、対称配置で設けられている。このように本例では、対向する各爪111における締付け面113が、正面視、V形を成していることから、その両端又は両端寄り部位が、対向する相手方の爪111におけるそれらと近接するようになっている。なお、本例では1つの爪111における締付け面113のなすVの開き角(谷の角度)θは、90?130度の範囲で設定されている。
【0024】
また、両爪111を閉じて円軸部13をチャッキングしたとき、対向する両爪111のチャック装置100における、正面視、両端、又は両端寄り用部位とも、対向する相手方の爪111と衝突することなく、相互に嵌り合うように形成されている。すなわち、図3、図4に示したように、各爪111とも、締付け面113のうち、その両端、又は両端寄り用部位に凹部116が切り込み形成されており、相対的に凸となす相手方の爪111の締付け面113の部位が、その凹部116に相互に嵌る様に、図4に示したように、上下において相対的に凹凸状をなすように形成されている(図3、図4参照)。これにより、両爪111とも、これを締付け面113側から見たときは、同一の櫛歯形状を呈しており、両爪111は、閉じる過程、及び閉じた状態において、各端寄り用部位のうち、相対的に凸となす締付け面113の部位が、相手方の爪111の端寄り部位の相対的な凹部116に嵌合するように形成されている。これにより各爪111における締付け面113は、円軸部13をチャッキングした際、これを周方向において、連なる形で囲い込むように形成されている。なお、本例では、凹部116を含め、締付け面113を含む爪111の全体が樹脂製部材から形成され、図示はしないが、この爪が、爪本体110の下端部にビスでネジ止めされている。」
(c)「【0025】
本例の軸状物品の移送方法において、前記したチャック装置100は次のようにして使用される(図1参照)。上記したようにグロープラグ10が搭載されたトレイ装置20が、移送装置の所定位置に送られたとき、チャック装置100の正面視、中心C1が、引き上げ対象をなすグロープラグ10の真上に位置するように、マスト150を水平移動、制御する。このときは、例えば、チャック装置100の正面視、中心C1が、このグロープラグ10が吊下げられている支持穴23の中心に位置するように、マスト150を水平移動、制御する。そして、両爪111を開いたチャック装置100をマスト150に沿って下動(降下)させ、爪111がグロープラグ10の後端の端子をなす円軸部13を掴む高さに位置させる。このとき、そのグロープラグ10が傾斜してトレイ装置20の支持体25に吊下げられているとき、その後端の円軸部13は、その傾斜の分、正規位置(中心C1)に対し横にずれている(図2-A(左図)、図3-A(上図)参照)。ただし、円軸部13は、平面視(チャック装置の正面視)、対向する両爪111の締付け面113が向き合う内側にあり、かつ、その各爪111の両端よりも内側にあるものとする。
【0026】
この状態において、両爪111を閉じる。すると、その過程でその円軸部13は、一方の爪111の締付け面113にて、チャック装置100の正面視、中心C1に向けて押されるようにその位置の補正を受ける(図3-A参照)。これにより、両爪111が閉じられてその円軸部13がチャッキングされる過程で、そのグロープラグ10は、正規位置(チャック装置100の中心C1)にその円軸部13が位置するようにその姿勢が建て直される。すなわち、グロープラグ10は、上下に略真っ直ぐに立てられた形となってチャッキングされる(図2-B(右図)参照)。かくして、図1において、チャック装置100をマスト150に沿って上動することで、グロープラグ10は真っ直ぐに立てられた形態か、或いは、許容角度範囲内の傾斜状態で、トレイ装置20から引き上げられる。したがって、その後は、水平移動手段(装置)を駆動、制御して、インデックステーブル200のジグ210の穴215の真上にグロープラグ10が位置するようにチャック装置100を移動する。そして、その位置において、チャック装置100をマスト150に沿って所定量下動し、爪111を開く。こうすることで、グロープラグ10は、その先端のヒータ素子11から、ジグ210の穴215に挿入され、ジグ210に供給される。以後は、チャック装置100を上動し、上記したのと同様にして、グロープラグ10の移送を繰り返す一方、同テーブル210は、所定角度、回転され、供給されたグロープラグ10はエージング工程へと回される。」
(d)「【0027】
本例においては、前記したようなチャック装置100の2つ爪構造に基づき、各爪111は、従来の3つ爪構造のものにおけるそれに比べ、幅W1が広い。しかも、各爪111は、凹となすV形の締付け面113を有している。これにより、円軸部13は、ある程度の傾斜があるとしても、チャック装置100の正面視、中心C1に位置するように補正(矯正)されてチャッキングされる。このように、本例によれば、従来のような3つ爪構造のもので、締付け面の幅W1が小さく、平坦な爪を有するチャック装置によるチャッキングによる場合に比べると、トレイ装置に搭載されている軸状物品が傾斜状態にあるとしても、チャッキングできなかったり、傾斜状態でチャッキングされてしまうなどの異常チャックの発生が有効に防止される。これにより、エージング用のジグ210への供給も円滑に行われる。さらに、チャッキングのし損ないや、移動途中での落下の危険性も低減できるため、工程の円滑化が図られる。
【0028】
しかも、本例では、各爪111を上記したように、その両端側を櫛歯状とし、かつ、両爪111を閉じたとき、対向する相手方の爪111と相互に嵌り合うように凹凸状に形成したものとされているため、その幅W1を十分に大きく確保することができる。よって、グロープラグ10に大きな傾斜があり、円軸部13が正規位置から大きくずれているとしても、その円軸部13をチャック装置100の正面視、中心C1に位置するように補正することができる。なお、本発明において、チャック装置の両爪は、前例のようにその両端側が相互に嵌り合うよう形成されているものに限定されるものではない。すなわち、図5に例示したように、両爪111は、これを閉じて円軸部13をチャッキングしたとき、対向する両爪111の正面視、両端、又は両端寄り用部位とも、対向する相手方の爪111に衝突しない範囲で、その締付け面113を凹となす形に形成してもよい。」
(e)図1、2、3及び4



なお、上記記載事項(b)の段落【0024】において、「両端寄り用部位」、及び「各端寄り用部位」の語は、特許請求の範囲等の記載に照らして誤記であり、以下、それぞれ、「両端寄り部位」及び「各端寄り部位」の語に正して用いる。

(2)引用文献1に記載された技術的事項
そして、上記記載事項から、引用文献1には、次の技術的事項が記載されているものと認められる。

ア 記載事項(a)-(b)、図1の記載からみて、引用文献1記載のチャック装置100は、水平方向に移動制御するように設けられた水平軌道160に取り付けられた上下動させる軌道をなすマスト150に取り付けられており(段落【0022】)、トレイ装置20に搭載されたグロープラグ10(段落【0020】-【0021】)を、開閉する機構を有する両爪111(段落【0023】)によりチャッキングするものである。

イ 記載事項(c)、図1の記載からみて、引用文献1記載のチャック装置100は、グロープラグ10を水平動出来る所定の高さと、グロープラグ10の円軸部13をチャッキングできる高さとの間で、両爪111上動及び下動させる駆動・制御手段及びチャック装置を上下動させる軌道をなすマスト150を備える(段落【0025】-【0026】)。

ウ 記載事項(b)、図3-4の記載からみて、両爪111のそれぞれを、「一方の爪111」、及び「他方の爪111」としたときに、「一方の爪111」は、「両端、又は両端寄り部位に凹部116が切り込み形成されることで上下において相対的に凹凸状をなすように形成された締付け面113のうち、相対的に凸となす締付け面113の部位」(段落【0024】)で構成され、「正面視で円軸部13の外周面を2点接触で挟み付け得る凹となすV形とされ、両端寄り部位が、チャッキング対象をなす該円軸部13を跨ぐように、それぞれ外側に張出している締付け面113」(段落【0023】)が形成されている。そして、「他方の爪111」は、「相手方の爪111の相対的な凹部116に嵌合する相対的に凸となす締付け面113の部位」(段落【0024】)で構成され、「正面視でチャッキング対象をなす円軸部13の外周面を2点接触で挟み付け得る凹となすV形とされ、両端寄り部位が、該円軸部13を跨ぐように、それぞれ外側に張出している締付け面113」(段落【0023】)が形成されている。

(3)引用発明1
したがって、上記引用文献1には次の発明(以下、「引用発明1」という。)が、記載されていると認められる。
「 水平方向に移動制御するように設けられた水平軌道160に取り付けられた上下動させる軌道をなすマスト150に取り付けられ、トレイ装置20に搭載されたグロープラグ10を、開閉する機構を有する両爪111によりチャッキングするチャック装置100であって、
グロープラグ10を水平動出来る所定の高さとグロープラグ10の円軸部13をチャッキングできる高さとの間で前記両爪111を上動及び下動させる駆動・制御手段及びチャック装置を上下動させる軌道をなすマスト150と、
両爪111の一方の爪111は、両端、又は両端寄り部位に凹部116が切り込み形成されることで上下において相対的に凹凸状をなすように形成された締付け面113のうち、相対的に凸となす締付け面113の部位で構成され、正面視で円軸部13の外周面を2点接触で挟み付け得る凹となすV形とされ、両端寄り部位が、チャッキング対象をなす該円軸部13を跨ぐように、それぞれ外側に張出している締付け面113が形成され、
前記両爪111の他方の爪111は、相手方の爪111の相対的な凹部116に嵌合する相対的に凸となす締付け面113の部位で構成され、正面視でチャッキング対象をなす該円軸部13の外周面を2点接触で挟み付け得る凹となすV形とされ、両端寄り部位が、該円軸部13を跨ぐように、それぞれ外側に張出している締付け面113が形成された、
チャック装置100。」

2 引用文献2について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2には、図面とともに次の事項が記載されている。

(f)「次に第6図、第7図に異る実施例を示し、掴み爪12’は、前述の掴み爪12と同様にV形掴み面の中央線上でピン13により設定角度回動できるようにフィンガーアーム11,11に枢着されているが、両側の対向する掴み爪12a’,12b’は互いに噛み合う櫛歯状V形面を呈し、このため大巾に外径寸法の異る棒材でもその噛み合い程度により確実に掴持可能であり、前述の掴み爪より更に広範囲の用途に適用しうる。」(明細書第4頁第15行-第5頁第3行)

上記記載事項(f)からみて、引用文献2には、「掴み爪12a’は、櫛歯状V形面を呈し、当該櫛歯状V型面は棒材aと対向する対向面から奥へ進むにつれて開口幅が狭くなり、掴み爪12b’は、櫛歯状V形面を呈し、当該櫛歯状V型面は棒材aと対向する対向面から奥へ進むにつれて開口幅が狭くなる産業用ロボットの掴み装置」の発明(以下、「引用発明2」という。)が、記載されている。

3 引用文献3について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献3には、図面とともに次の事項が記載されている。

(g)「第1図?第6図において、1は本考案に係るロボットハンドで、該ロボットハンド1の取付部2にはブラケット3が取付けられている。プラケット3の上面にはリニアアクチュエータ4、例えばエアシリンダが取付けられており、該リニアアクチュエータ4の出力軸4aは伸縮可能にブラケット3を貫通して下方に伸びている。出力軸4aにはプレート5がナット6で固定されており、プレート5にはー対ロッド7の上端がそれぞれ固定され、該一対ロッド7の下端はプレート8にそれぞれ固定されている。そのプレート8には電磁石9が取付けられている。ブラケット3の下方には、一対ロッド10を介してブラケット3に連結されたプレート11が設けられており、プレート11を前記一対ロッド7が摺動可能に貫通している。プレート11の上面にはリニアアクチュエータ12が固定されており、該リニアアクチュエータ12の出力軸12aは伸縮可能にプレート11を貫通して下方に伸びている。その出力軸12aには突出ピン12bが突設されている。プレート11の下面には、前記出力軸12aを間に位置させて一対の支持具13が固定されており、その一対の支持具13には爪部材としての一対のグリッパ14がそれぞれ揺動可能に支持されている。各グリッパ14は、作動杆部14aと、爪部14bとからなる。各作動杆部14aは、その軸方向中央で直角に屈曲しており、その各屈曲部が前記支持具13に支持ピン13aを介して回動可能に支持されている。各作動杆部14aの一端側は前記出力軸12aに向って伸びており、その各一端部には、各作動杆部14aの軸方向に向う長孔15がそれぞれ形成されている。各長礼15には、前記突出ピン12bが該各長孔15の伸びる方向に摺動可能に嵌合されており、前記出力軸12aの伸縮動に応じて各作動杆部14aは前記支持ピン13aを中心として揺動することになる。各作動杆部14aの他端側は下方に向って伸びており、各作動杆部14aの他端部には爪部14bがそれぞれ設けられている。各爪部14bは、把持するワークに対応しており、その互いに対向する内面は、各作動杆部14aがその揺動によって互いに遠のく方向に向って湾曲している。」(明細書第3頁第17行-第5頁第19行)
(h)「したがって、パレット16にワークWがすき間なく隣接して収容されているような場合において、該パレット15からワークWを取出すには(第4図?第6図参照)、先ず、ロボットによりロボットハンド1をワークW上方に位置決めする。次に、リニアアクチュエータ4により電磁石9を下降させ、該電磁石9の吸着面をワークWに押し当てる(第4図参照)。次いで、電磁石9をオン状態とし、ワークWを吸着する。この状態で、リニアアクチュエータ4の出力軸4aを短縮して電磁石9を上昇させると、ワークWも一緒に持上げられることになり、これにより、ワークWは、一対のグリッパ14により把持可能な位置まで運ばれる(第5図参照)。
ワークWが、一対のグリッパ14により把持可能な位置まで運ばれると、リニアアクチュエータ12の出力軸12aが短縮し、一対のグリッパ14は、互いに近ずく方向に各支持ピン13aを中心として揺動する。これにより、ワークWは一対のグリッパ14により強固に把持されると共に、電磁石9の吸着面の所定位置に位置決めされる(いわゆるセンタリング、第5図参照)。
そして、この後、ロボットハンド1の移動により、ワークWは高速で次工程に搬送される。
このように、直接、一対のグリッパ14で把持できないようにパレット16に収容されたワークWでも、電磁石9により、一対のグリッパ14にて把持可能な位置まで一旦、持上げるため、一対のグリッパ14により把持が可能となる。この結果、ワークWを所定位置に確実に保持できることになり、ワークWの高速搬送が可能となる。これにより、電磁石9だけを備えたロボットハンド1だけでは困難だった次工程への位置決め供給が容易に行えると共に、搬送時間が大幅に短縮され、生産性が向上する。」(明細書第5頁第20行-第7頁第14行)
(i)「以上実施例について説明したが、本考案にあっては、次のような態様を包含する。
○a各爪部14bの内面を、各作動杆部14aがその揺動によって互いに遠のく方向に向うV字状のテーパ面にする等、ワークWの形状に対応させること。」(明細書第7頁第15-20行、なお、上記「○a」は、「a」を「○」で囲った文字を代替表記したものである。)
上記記載事項(g)-(i)からみて、引用文献3には、ロボットハンドのグリッパ14の各爪部14bの内面を、各作動杆部14aがその揺動によって互いに遠のく方向に向うV字状のテーパ面にすることが示されているといえる。

以上から、引用文献3には、次の発明(以下「引用発明3」という。)が記載されている。
「ワークWを、グリッパ14の開閉可能な爪部14bにより把持するロボットハンド1であって、吸着面にワークWを吸着してワークWを保持する電磁石9と、
出力軸12aの伸縮動に応じて、電磁石9が吸着したワークWを把持可能な位置へグリッパ14を揺動させるリニアアクチュエータ12と
各爪部14bの内面は、各作動杆部14aがその揺動によって互いに遠のく方向に向かうV字状のテーパ面とされ、
ワークW上方へロボットハンド1を位置決めする時及び電磁石部9を下降させてワークWを吸着させる時は、一対のグリッパ14は互いに遠のく方向にあり、電磁石9によって吸着されたワークWをグリッパ14で把持する時は、リニアアクチュエータ12の出力軸12aが短縮し、一対のグリッパが互いに近づく方向に各支持ピン13aを中心として揺動することにより、ワークWを一対のグリッパ14により強固に把持するロボットハンド1」

第5 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明1とを対比すると、次のことがいえる。
ア 引用発明1の「トレイ装置20に搭載されたグロープラグ10」は、本願発明1の「載置されたワーク」に相当し、以下同様に、「開閉する機構を有する両爪111」は「開閉可能な第1及び第2把持爪部」に、「チャッキング」は「把持」に、「チャック装置100」は「ワーク把持装置」に、それぞれ相当する。

イ 引用発明1の「グロープラグ10を水平動出来る所定の高さ」は、本願発明1の「上昇位置」に相当し、以下同様に、「グロープラグ10の円軸部13をチャッキングできる高さ」は「下降位置」に、「上動及び下動」は「上下動」に、「駆動・制御手段及びチャック装置を上下動させる軌道をなすマスト150」は「昇降部材」に、それぞれ相当する。

ウ 引用発明1の「両爪111の一方の爪111」は、本願発明1の「第1把持爪部」に相当する。そして、引用発明1の「両端、又は両端寄り部位に凹部116が切り込み形成されることで上下において相対的に凹凸状をなすように形成された締付け面113のうち、相対的に凸となす締付け面113の部位」と本願発明1の「間隔をあけて配列された複数の第1板部材」を対比すると、「間隔をあけて配列された複数の第1部材」という点に限って一致する。次いで、引用発明1の「正面視」と本願発明1の「複数の第1板部材の全体をみたとき」を対比すると、「複数の第1部材の全体をみたとき」という点で一致し、引用発明1の「円軸部13の外周面を2点接触で挟み付け得る凹となすV形とされ、両端寄り部位が、チャッキング対象をなす該円軸部13を跨ぐように、それぞれ外側に張出している締付け面113」は、本願発明1の「前記ワークと対向するワーク対向面から奥へ進むにつれて開口幅が狭くなる第1凹部」に相当する。

エ 引用発明1の「前記両爪111の他方の爪111」は、本願発明1の「第2把持爪部」に相当する。そして、引用発明1の「相手方の爪111の相対的な凹部116に嵌合する相対的に凸となす締付け面113の部位」と本願発明1の「前記第1板部材同士の間に入り込むことが可能な第2板部材」とを対比すると、「前記第1部材同士の間に入り込むことが可能な第2部材」という点に限って一致する。次いで、引用発明1の「正面視」と本願発明1の「該第2板部材の全体をみたとき」を対比すると、「該第2部材の全体をみたとき」という点で一致し、引用発明1の「チャッキング対象をなす円軸部13の外周面を2点接触で挟み付け得る凹となすV形とされ、両端寄り部位が、該円軸部13を跨ぐように、それぞれ外側に張出している締付け面113」は、本願発明1の「前記ワークと対向するワーク対向面から奥へ進むにつれて開口幅が狭くなる第2凹部」に相当する。
したがって、本願発明1と引用発明1には、次の一致点、相違点があるといえる。

(2)一致点
「 載置されたワークを、開閉可能な第1及び第2把持爪部により把持するワーク把持装置であって、
上昇位置と下降位置との間で前記第1及び第2把持爪部を上下動させる昇降部材と、
前記第1把持爪部は、間隔をあけて配列された複数の第1部材で構成され、該複数の第1部材の全体をみたときに前記ワークと対向するワーク対向面から奥へ進むにつれて開口幅が狭くなる第1凹部が形成され、
前記第2把持爪部は、前記第1部材同士の間に入り込むことが可能な第2部材で構成され、該第2部材の全体をみたときに前記ワークと対向するワーク対向面から奥へ進むにつれて開口幅が狭くなる第2凹部が形成された、
ワーク把持装置。」

(3)相違点
<相違点1>
「ワーク把持装置」及び「ワーク」が、本願発明1では、「多軸ロボットアームのアーム先端に取り付け」られるものであり、また、「ばらばらに載置されたワーク」であるのに対して、引用発明1では、「水平方向に移動制御するように設けられた水平軌道160に取り付けられた上下動させる軌道をなすマスト150に取り付け」られるものであり、また、「トレイ装置20に搭載されたグロープラグ10」である点。

<相違点2>
第1部材及び第2部材が、本願発明1では、「第1板部材」及び「第2板部材」であるのに対して、引用発明1では、いずれも板部材ではない点。

<相違点3>
本願発明1が、「先端に前記ワークの所定位置を引き付けて前記ワークを保持する引付部」を備え、「上昇位置」及び「下降位置」が、「前記引付部の先端よりも高い上昇位置」及び「前記引付部によって保持された前記ワークを把持可能な下降位置」であり、また、「前記ワークへ前記引付部を移動させる時及び前記ワークを前記引付部の先端に引き付ける時は前記第1及び第2把持爪部は前記昇降部材によって前記上昇位置に配置され、前記引付部によって保持された前記ワークを前記第1及び第2把持爪部で把持する時は前記第1及び第2把持爪部が前記昇降部材によって前記下降位置に配置されたあと閉状態になることにより前記ワークを前記第1及び第2把持爪部で把持する」のに対して、引用発明1は、本件発明1の「引付部」に相当する要素を備えておらず、当然にグロープラグ10を水平動出来る所定の高さ(上昇位置)及びグロープラグ10の円軸部13をチャッキングできる高さ(下降位置)は「引付部」とは関係がないことから、本件発明1のように、「ワークへ引付部を移動させる時及びワークを引付部の先端に引き付ける時」に「第1及び第2把持爪部」が「昇降部材」によって当該「上昇位置に配置され」ることがなく、また、「引付部によって保持されたワークを第1及び第2把持爪部で把持する時」に「第1及び第2把持爪部」が「昇降部材によって当該下降位置に配置されたあと閉状態になることによりワークを第1及び第2把持爪部で把持する」こともない点。

(4)相違点についての判断
事案に鑑みて、相違点3から検討する。
ア 上記「第4 引用文献」の「3 引用文献3について」で認定したとおり、引用発明3においては、「ワークW上方へロボットハンド1を位置決めする時及び電磁石9を下降させてワークWを吸着させる時は、一対のグリッパ14は互いに遠のく方向にあり、電磁石9によって吸着されたワークWをグリッパ14で把持する時は、リニアアクチュエータ12の出力軸12aが短縮し、一対のグリッパが互いに近づく方向に各支持ピン13を中心として揺動することにより、ワークWを一対のグリッパ14により強固に把持する」ことが認められる。
すなわち、引用発明3は、「先端にワークの所定位置を引き付けてワークを保持する引付部」としての電磁石9を備え、「第1及び第2把持爪部」としてのグリッパ14は、互いに遠のく方向にある位置と、互いに近づく方向であって電磁石9(引付部)によって保持されたワークWを把持可能な位置との間で揺動するものであるが、これは、パレット16にすき間なく隣接して収容されていて、グリッパ14のみでは把持が困難なワークWを、電磁石9で吸着してグリッパ14により把持可能な位置まで持ち上げてからグリッパ14により把持する[記載事項(h)]ためである。
その一方で、引用発明1は、トレイ装置20に搭載された「ワーク」であるグロープラグ10間に、「ワーク把持装置」であるチャック装置100の「第1及び第2の把持爪部」である爪111を下動(降下)させて、爪111の動作のみにより把持すること[記載事項(c)]を前提としており、当該グロープラグ10はチャック装置100の爪111が円軸部13をチャッキングできる高さに下降し得る程度の隙間を有して搭載されていることから、引用発明3のように、すき間なく隣接して収容されていてグリッパ14のみでは把持が困難なワークを把持するのとは異なるため、「第1及び第2の把持爪部」である爪111に加えて、さらに上記電磁石9を下降させてワークWを吸着させる引付部を設ける必要性は存在しない。
したがって、引用発明1に引用発明3に係る引付部(電磁石部9)を適用する動機を見出すことができない。

イ 加えて、引用発明3のグリッパ14は、上昇位置と下降位置の間を上下動するものとはいえず、引用発明3自体が相違点3の構成を充足することにもならない。

ウ また、他の引用文献についてみても、引用発明2は、上記「第5 引用文献」の「2.引用文献2について」のとおりであり、相違点3については開示するものではない。

(5)小括
したがって、他の相違点について判断するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても、引用発明1-3に基いて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

2 本願発明2-7について
本願発明2-7も、本願発明1の特定事項の全てを含むものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明1-3に基いて、容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

第6 原査定について
原査定の理由(特許法第29条第2項)について、
「第3 審判請求時の補正について」における請求時補正により、本願発明1-7は、上記「第4 本願発明」の内容のとおり補正されており、当業者であっても、拒絶査定において引用された引用文献1-3に基いて、容易に発明をすることができたものとはいえない。したがって、原査定の理由を維持することはできない。

第7 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。

 
審決日 2021-08-19 
出願番号 特願2017-553531(P2017-553531)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (B25J)
最終処分 成立  
前審関与審査官 牧 初  
特許庁審判長 河端 賢
特許庁審判官 刈間 宏信
田々井 正吾
発明の名称 ワーク把持装置  
代理人 特許業務法人アイテック国際特許事務所  

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