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審決分類 |
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C12Q 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C12Q |
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管理番号 | 1377447 |
審判番号 | 不服2019-15363 |
総通号数 | 262 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2021-10-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2019-11-18 |
確定日 | 2021-08-26 |
事件の表示 | 特願2016-520073「細胞株からラブドウイルスを検出および除去する方法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 4月 9日国際公開、WO2015/051255、平成28年10月27日国内公表、特表2016-533172〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯、本願発明 本願は、平成26年10月 3日(パリ条約による優先権主張 2013年10月 3日、米国(US))を国際出願日とする出願であって、令和 1年 7月11日付けで拒絶査定がなされ、同年11月18日に拒絶査定不服の審判請求がなされると同時に手続補正がなされ、令和 2年 9月30日付けで当審より拒絶理由が通知され、同年12月25日に意見書、手続補正書が提出されたものである。 そして、本願の請求項1?34に係る発明は、令和 2年12月25日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?34に記載されたものであり、そのうち請求項13に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりのものと認める。 「【請求項13】 SF9細胞において産生された、タンパク質またはウイルス様粒子(VLP)調製物を含む組成物であって、配列番号1の少なくとも250個の近接ヌクレオチドを有する配列を含むウイルスゲノムを実質的に含まず、前記タンパク質またはVLP調製物がグリコシル化されている組成物。」 なお、本願特許請求の範囲、明細書、図面において、「SF9」と「Sf9」という二種類の表記がみられるが、これら表記は同じものを意味するものと解される。 第2 当審拒絶理由について 令和 2年 9月30日付けで当審が通知した拒絶理由は、次の理由3.(新規性)、理由4.(進歩性)を含むものである。 1 理由3.(新規性) この出願の請求項13?15または13?20に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用例1、2または3に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 2 理由4.(進歩性) この出願の請求項13?20に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となつた、下記の引用例3に記載された発明及び引用例4、5に記載された周知技術に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 3 引用例 引用例1 In Vitro Cell. Dev. Biol.-Animal, 2000年, 36, 205-210 引用例2 In Vitro Cell. Dev. Biol.-Animal, 2001年, 37, 367-373 引用例3 特表平03-500602号公報 引用例4 特開2011-6489号公報(周知技術を示す文献) 引用例5 国際公開第2010/109920号(周知技術を示す文献) 第3 当審の判断 1 理由3.(新規性)、理由4.(進歩性)について (1)引用例の記載について ア 引用例1の記載について 本願の出願日前に頒布された引用例1には、以下の事項が記載されている(原文は英語のため、当審が和訳した。また、下線は当審が付した)。 (ア)要約 「ポリヘドリンプロモーター(polh)の下流に緑色蛍光タンパク質(gfp)遺伝子を含む組換えAcMNPV(当審注 Autographa californica multiple nucleopolyhedrovirus、すなわち、Autographa californicaより分離された核多角体病ウイルスの略語であり、バキュロウイルスの一種。)を使用して、次の14個の昆虫細胞株におけるgfp遺伝子の発現と組換え細胞外ウイルスの産生を調査した。すなわち、Heliothis virescens(BCIRL-HV-AM1)、Helicoverpa zea(BCIRL-HZ-AM1)、Anticarsia gemmatalis(BCIRL-AG-AM1)、Trichoplusia ni(TN-CL1)、Spodoptera frugiperda(IPLB-SF21)、Spodoptera exigua(BCIRL/AMCY-Se-E1およびBCIRL/AMCY-Se-E5)、Bombyx mori(BMN)、Sf9(IPLB-SF21のクローン)、およびBCIRL-HV-AM1の5つの細胞株クローンである。組換えウイルス(AcMNPV.GFP)に対する細胞株の感受性は、緑色発光細胞の平均パーセンテージ数を計算すること、および感染の兆候として蛍光を用いた細胞外ウイルスのTCID_(50)滴定によって確認された。試験した14の細胞株のうち、ウイルスに対して非許容であった、血清含有培地で増殖したBCIRL-HV-AMCL2とBCIRL-HZ-AM1、および無血清培地で増殖したBMNを除いて、すべての細胞株は、AcMNPV.GFPに対してさまざまな程度で許容であった(当審注 ここでいう許容(permissiveの訳語)とは、宿主細胞においてウイルス複製が可能であることを意味する。)。BCIRL / AMCY-Se-E1、IPLB-SF21、および5つのBCIRL-HV-AM1クローンのうち4つを除いて、他のすべての細胞株(BCIRL-HV-AM1、BCIRL-AG-AM1、TN-CL1、Se-E5およびSf9)は、接種後48時間までに検出可能なレベルのGFPを発現した。無血清培地(Ex-Cell 401)で増殖させたBCIRL/AMCY-Se-E1およびIPLB-SF21細胞は、接種後72時間で検出可能なレベルのGFPを発現した。対照的に、血清含有培地(Ex-Cell 401 + 10%FBS [ウシ胎児血清])中のBCIRL/AMCY-Se-E1では、GFPは接種後48時間で検出された。さらに、TN-CL1細胞は、接種後120時間の血清含有培地と無血清培地(64.8%)の両方において、最大の平均蛍光パーセンテージ細胞数を生成した(76.6%)。すべてのBCIRL-HV-AM1クローンは、接種後96時間までGFP発現を示さず、その後、細胞集団の約1%が蛍光を発した。接種後120時間での平均細胞外ウイルス(ECV)産生は、Ex-Cell 401 + 10%FBS(37.8 x 10^(6)TCID_(50) / ml)で増殖したBCIRL/AMCY-Se-E5細胞で最も高く、続いてC199-MK(33.4 x 10^(6)TCID_(50) / ml)で増殖したBCIRL-HV-AM1で高かった。BCIRL-HV-AMCL3クローンのみが、接種後120時間で実質的なレベルのECVを生成した(16.9 x 10^(6)TCID_(50)/ml)。ただし、ECVの生成と蛍光細胞の平均パーセンテージ数の間に有意な相関関係はなかった。この研究は、緑色蛍光タンパク質遺伝子を含む組換えAcMNPVに対する14の昆虫細胞株の感受性に関するさらなる情報を提供する。」 (イ)はじめに 「バキュロウイルスの生物的防除剤としての開発、製造、および使用を成功させるためには、バキュロウイルスの宿主範囲に関する情報の必要性が重要な考慮事項である。これを念頭に置いて、組換えバキュロウイルスによるgfp遺伝子の発現は、細胞株の感染と複製が成功したかどうか、特に半許容細胞、すなわち、細胞病理学的効果または包埋体(OB)産生を観察することが難しいかもしれない細胞株(ポリヘドリンプロモーター以外のプロモーターの制御下にあるgfp遺伝子の場合において)で成功したかどうかをより簡単に区別することにより、ウイルスの宿主範囲の決定を容易にする。他の細胞株でgfp遺伝子を含む組換えバキュロウイルスをテストすると、特定の研究ニーズに合わせた最適な細胞株を選択できるようにする外来タンパク質を発現する特定の細胞株の能力に関する詳細情報も得られる可能性がある。この研究では、ポリヘドリンプロモーター(polh)の下にgfp遺伝子を含む組換えAcMNPVを使用して、6つの細胞株クローンを含む14の連続昆虫細胞株におけるgfp遺伝子の発現と組換え細胞外ウイルスの産生を調べた。」(205頁右欄5行?206頁左欄10行) (ウ)材料と方法 「AcMNPE.GFP細胞外ウイルスの細胞株への接種。選択した系統を、3つのT-25-cm^(2)フラスコのそれぞれの5mlの培地に1 x 10^(5) cells / mlで播種し、室温で2時間付着させた。 古い培地を除去し、1 mlの新しい培地と交換した後、感染多重度0.03で細胞にAcMNPV.GFPECVを接種した。 ウイルスの付着を可能にするために、室温下、2セットで、ベルコロッカープラットフォーム(ベルコテクノロジー、ニュージャージー州バインランド)で2時間揺り動かした。 次に培地を除去し、細胞を5mlのHBSSで2回洗浄して残留接種物をすべて除去し、5mlの新鮮な培地を加え、細胞を28℃でインキュベートした。」(206頁右欄8?17行) (エ)結果 「Ex-Cell 401 + 10% FBSで培養されたBCIRL/AMCY-Se-E1、Ex-Cell 401 +10% FBS で培養されたBCIRL/AMCY-Se-E5、血清培地、無血清培地の両方で培養された BCIRL-AG-AM1、BCIRL-HV-AM1、 TN-CL1、Ex-Cell 401で培養されたSf9(SFM)という名称のいくつかの細胞は、接種後48時間で緑色の発光細胞を示した。」(207頁左欄11?15行) 「緑色発光細胞の数に基づく感染率。組換えAcMNPV.GFPによるさまざまな細胞の平均感染率を表2に示す。この場合も、以前の研究で野生型AcMNPVを許容することがわかったすべての細胞株は、組換えAcMNPVにも感受性があった。Ex-Cell 401 + 10%FBSで増殖したTN-CL1細胞は、接種後96時間(73.4%)および120時間(76.6%)に試験した細胞株の中で最も高い感染率を示した。 Ex-Cell401(SFM)で増殖させた同じ細胞株が、接種後120時間で同等の割合の緑色発光細胞に到達するまで、さらに24時間かかった。 BCIRL/AMCY-Se-E1細胞株は、接種後120時間で高い割合の緑色発光細胞(57.5%)を示した唯一の他の細胞株であった。テストした5つのBCIRL-HV-AM1クローンのうち、BCIRL-HV-AMCL2は組換えウイルスを許容しなかったが、残りの4つのクローンは、接種後96時間までGFPタンパク質を発現せず、細胞の1%未満しか蛍光を発しなかった。」(207頁左欄下から17?1行) 「TCID_(50)アッセイに基づく細胞外ウイルス産生。接種後120時間で測定された細胞外ウイルス産生は、BCIRL/AMCY-Se-E5(37.81 x 10^(6) TCID_(50) / ml)およびBCIRLHV-AM1(33.4 x 10^(6) TCID_(50)/ml細胞株で最も高く、BCIRL/AMCY-Se-E1(17.3 X 10^(6) TCID_(50) / ml)がそれに続いた(表3)。これらの細胞株と、Ex-Cell 401 + 10%FBS(8.86 X 10^(6) TCID_(50) / ml)で増殖したBCIRL-HV-AM1、およびTC199-MK(15.1 X 10^(6) TCID_(50) / ml)で増殖したBCIRL-AG-AM1の間には、統計的に有意な差はなかった。TN-CL1細胞は、血清含有培地で増殖したすべての細胞株の中で最低レベルのウイルス(4.42 X 10^(6) TCID_(50) / ml)を産生しましたが、一方で、Sf9細胞は、無血清培地で増殖したすべての細胞株の中で最高レベルのウイルス(4.81 X 10^(6) TCID_(50) / ml)を産生した。さらに、IPLB-SF21は、テストしたすべての細胞株の中で有意に低いECV産生を示した(P <0.05)。 5つのBCIRL-HV-AM1クローンのうち4つでECVの生成に有意差はなかったが(P = 0.066)、BCIRL-HV-AMCL2は、緑色発光細胞が観察されず、ECVが産生されなかったため、このウイルスに対して明らかに非許容であった(表4)。また、スピアマンの順位相関検定(P> 0.05)に基づくと、接種後120時間で生成されたECVのレベルと緑色発光細胞のパーセンテージ数との間に有意な関係はなかった。」(207頁右欄1?22行) (オ)検討 「本研究の結果は、特に、研究の目的が、異なるプロモーター下で別の外来タンパク質との融合産物としてGFP組換えウイルスを産生することである場合、いくつかの昆虫細胞株、すなわち、BCIRL-HV-AM1、BCIRL-AG-AM1、およびBCIRL / AMCY-Se-E5がAcMNPV.GFPの高いECV力価を産生でき、SF21、Sf9、TNCL1などのより一般的に使用される細胞株よりも適切な選択である可能性があることを示している。」(209頁左欄下から8?1行) イ 引用例2の記載について 本願の出願日前に頒布された引用例2には、以下の事項が記載されている(原文は英語のため、当審が和訳した。また、下線は当審が付した)。 (ア)要約 「選択された鱗翅目種からの細胞株は、バキュロウイルス生産での使用の全体的な目的のために樹立された。メイガの一種であるヨーロッパ・アワノメイガ、すなわち、Ostrinia nubilalis、クチブサガの一種であるコナガ、すなわち、Plutella xylostella、および次の8種類のヤガ:タマナヤガ、すなわち、Agrotis ipsilon 、セロリシャクトリムシ、すなわち、Anagrapha falcifera、ハッショウマメキャタピラー、すなわち、Anticarsia gemmatalis、アメリカタバコガ、すなわち、Helicoverpa zea、オオタバコガ、すなわち、Heliothis virescens、シロイチモジヨトウ、すなわち、Spodoptera exigua、ツマジロクサヨトウ、すなわち、Spodoptera frugiperda、そして、イラクサギンウワバ、すなわち、Trichoplusia niからの細胞株を含む、10種の鱗翅目から合計36の新しい細胞株が生成された。細胞株の樹立に使用された組織には、脂肪体、卵巣、精巣、または全胚/幼虫/蛹が含まれていた。すべての細胞株は何度も継代培養され、アイソザイム分析および/またはポリメラーゼ連鎖反応を使用したデオキシリボ核酸増幅フィンガープリントによって特徴付けられ、液体窒素に保存された。細胞株の多くは無血清培地で増殖するように適応され、A.ipsilonおよびH.virescensからの細胞株はシェーカーフラスコを使用した浮遊培養に適応された。バキュロウイルス生産におけるこれらの細胞株の潜在的な使用について説明する。」 (イ)結果 「細胞株の樹立と維持。表1に、生成された細胞株と、それらの種および起源の組織を示す。 細胞株は、8種類のヤガ科、1種類のクチブサガ科、および1種類のメイガ科を含む10の鱗翅目種から樹立された。 培養樹立の成功は、種ではなく、選択された組織に依存していた。 使用された組織タイプの中で、全胚ホモジネートおよび細かく刻まれた成体生殖組織は、最も多くの連続細胞株を産生した。さらに、細胞株は、たった2回の試行でコナガホモジネート全体から生成された。 対照的に、多くの培養は特定の幼虫組織(主に脂肪体、血球、精巣)から開始されたが、5つだけが二次培養された(HvTS、OnFB1、OnFB3、TnTS1、TnTS3)。」(370頁右欄下から7行?371頁左欄5行) (ウ)表1 「 」(368頁) (エ)表3 「 」(371頁) (オ)検討 「潜在的な用途。ウイルス性農薬または組換えタンパク質の大量生産における昆虫細胞株の使用は、多くの場合、無血清培地を用いた浮遊培養条件を伴う(GoodmanとMcIntosh, 1994; Murhammer, 1996; Blackら,1997))。この研究では、36個の新しい細胞株のうち13個が無血清培地に容易に適応し、さらに3個が低血清条件に適応することがわかった。 さらに、2個の細胞株が浮遊培養でよく増殖し(調べた3つの系統のうち)、浮遊バイオリアクターを使用してさらにスケールアップすることが可能になった。 追加の研究はまた、この研究で確立された細胞株の多くが選択されたバキュロウイルスに感受性があることを示した(Goodmanら, 2001)。まとめると、これらのデータは、新しく確立された細胞株のいくつかがバキュロウイルスの大量生産スキームで役立つ可能性があることを示している。」(372頁左欄下から11行?同右欄3行) ウ 引用例3の記載について 本願の出願日前に頒布された引用例3には、以下の事項が記載されている(下線は当審が付した)。 (ア)特許請求の範囲 「無機塩、糖、アミノ酸を含有し、そして更にビタミンおよび有機酸を含有することがある栄養素混合物中で昆虫細胞による組換え生産物およびウイルス生産物の生産のために昆虫細胞を培養および繁殖させることを含んで成る方法において、血清および/または血清アルブミンを脂質成分およびペプトン成分で置き換えることを含んで成る改良方法。」(請求項17) (イ)発明の詳細な説明 「本発明は、組換えバクロウイルスまたは野生型ウイルスのいずれかによりそれぞれ感染され前記無血清培地中で増殖された昆虫細胞による組換え生産物またはウイルス生産物の発現に関する。」(3頁左上欄5?8行) 「更に、約10%の血清を含むIPL-41基礎培地中で増殖できる昆虫細胞は、本発明の無血清培地中で増殖させることができる。例えば、ボンビクス・モリ(Bombyx mori)、リマントリア・ディスバー(Lymantria dispar)、トリコプルシア・ニィ(Trichoplusia ni)およびスポドプテラ・フルギペルダ(Spodoptera frugiperda)由来の昆虫細胞系は、約10%の血清を含む基礎培地、例えばIPL-41中で好結果に増殖されている幾つかの昆虫細胞である。〔一般に、Granadosら(編)、The Biology of Baculoviruses(CRC Press 1986);Vaughn,Adv.Cell Cult., 1:281(1981);Vaughn,J.Invert.Pathol.,28:233(1976);Vaughn,Maramorosh (編)、Invert,TissueCulture:Research App1ics.,p.295(1976):およびVaughn,Barigozzi(編)Proceedings of Internatl.Colloq.Invert.Tissue Culture (2nd,Tremezzo.1967).p.119(1968)。〕 また、本発明の培地中で増殖できるそのような昆虫細胞は、バクロウイルス発現ベクター系または他の野生型ウイルスに対する宿主であることができる昆虫類のいずれの目からのものでもあることができるが、好ましくは双翅類目または鱗翅類目からのものである。約300種の昆虫が核多角体病ウイルス(NPV)病を有することが報告されており、その大部分(243種)が鱗翅類から単離された(Granadosら(編)TheBiology of Baculoviruses:Vol.II Practical Application for Insect Control,pp.63-87中、p.64のWeissら“大スケールでのバクロウイルスの増殖のための細胞培養法”〕。次の昆虫由来の昆虫細胞系が模範的である:トリコプルシア・ニィ (Trichoplusia ni)(好ましくはTN-368細胞系);オートグラファ・カリフォルニカ(Autograha californica);スポドプテラ・フルギペルダ(Spodoptera frugiperda)(好ましくはSf9細胞系);リマントリア・ディスパー(Lymantria dispar);マメストラ・ブラッシカエ(Mamestra brassicae);アエデス・アルボピクツス(Aedes albopictus);オルギィア・シュードツガタ(Orgyia pseudotsugata);ネオディブリオン・サーティファー(Neodiprion sertifer);アエデス・アエギプティ(Aedes aegypti);アンセレア・ユーカリブティ(Antheraeaeucalypti);グノリモシェマ・オペルクレラ(Gnorieoschema opercullela);ガレリア・メロネーラ(Galleria mellonella);スポドプテラ・リットラリス(Spodoptera littolaris);ブラテラ・ゲルマニカ(Blatella germanica);ドロソフィラ・メラノガスター(Drosophila melanogaster);ヘリオシス・ゼア(Heliothis zea);スポドプテラ・エクシグア(Spodoptera exigua);ラチプルシア・オウ(Rachiplusia ou);プロディア・インターパンクテラ(Prodia interpunctella);アンセタ・モーレイ(Amsaeta moorei);アグロティス・C-ニグラム(Agrotis c-nigrum);アドクソフィエス・オラナ(Adoxophyes orana);アグロティス・セゲツム(Agrotis segetum);ボンビクス・モリ(Bombyx mori);ヒポノミュータ・マリネルス(Hyponomeuta malinellus);コリアス・ユーリサメ(Colias eurytheme);アンチカルシア・ゲルメタリア(Anticarsia germmetalia);アパンテレス・メラノスセルス(Apanteles melanoscelus);アルクチア・カジャ(Arctia caja) ;およびポルセトリア・ディスパー(Porthetria dispar)。好ましい昆虫細胞系はスポドプテラ・フルギペルダ(Spodoptera frugiperda)由来のものであり、そして特に好ましいのはSf9細胞系である。本明細書中の例において使用するSf9細胞系は、Max D.Summers(Texas A & M University.College Station,TX77843 USA)から得られた。他のS.フルギペルダ細胞系、例えばIPL-Sf-21AE IIIは、Vaughnら、In Vitro.13:213-217(1977)中に記載されている。」(10頁左上欄下から7行?同右下欄6行) 「本発明の例によれば、本発明に従って培養された宿主昆虫細胞により組換えCSF-1が生産される。しかしながら、本開示および引用により組み込まれた上記出願明細書の利得を有する当業者は、本発明に従って組換えバクロウイルスで感染された昆虫により多数の他の組換えタンパク質が生産され得ることを知るだろう。BEVSを介して昆虫細胞中で発現されている他の異種タンパク質は、Summerら、Banbury Report:Genetically Alterd Viruses in the Environment, 22:319-329(1985)において概説されている。典型的な組換えタンパク質としては、限定なしに、同時係属中の出願(Cetus Docket Nos.2347,2382および2883)明細書中に記載されるものを含み、コロニー刺激因子〔例えば、長い形および短い形のCSF-1またはM-CSF(後述)、G-CSF,GM-CSFおよび特にインターロイキン-3〕、改変されたプロウロキナーゼまたはウロキナーゼ、組織プラスミノーゲン活性化因子(TPA)、TPA-ウロキナーゼハイブリッド、毒性タンパク質、例えば完全リシン毒素、リシンA鎖、リシンA含有生成物、並びにインターフェロン(α,βおよびγ並びにそれらのハイブリッド)、インターロイキン、腫瘍壊死因子、エリスロポイエチンおよび他の造血成長因子、ヒト成長ホルモン、並びにブタ、ウシおよび他の成長ホルモン、表皮増殖因子、インスリン、B型肝炎ワクチン、スーパーオキシドジスムターゼ、第VIII因子、第VIIIC因子、心房性ナトリウム利尿因子、ネコ白血病ウイルスワクチン、例えばgp70ポリペプチド、レクチン、例えばヒマ(Ricin communis)凝集素(RCA)、ジフテリア毒素、ゲロニン、シュードモナス・アエルギノーザ(Pseudomonas aeruginosa)からの外毒素、フィトラッカ・アメリカナ(Phytolacca americana)からの毒性タンパク質(PAPI,PAPIIおよびPAP-S)、バシラス・スリンジェンシス(Bacillus thuringiensis)からの殺虫性タンパク質、多数の酵素、例えばCAT、並びに無数の他のハイブリッドタンパク質が含まれる。」(11頁左上欄下から5行?同左下欄2行) (ウ)実施例 「例7 無血清培地中で増殖されそして組換えバクロウイルスAcM4で感染された昆虫細胞による組換えCSF-1の生産本発明の無血清培地中で25-30継代(75-120世代)間増殖されたSf9細胞を、組換えバクロウイルスAcM4での感染によるrCSF-1の生産についてテストした。第3表は、同様な指数増殖条件下でAcM4で感染されたそのようなSf9培養物を示す。そのような培養物は、上記の例において概説された方法に従って増殖された。……第3表に示されるように、全ての培養物が、RIAにより評価すると約10^(6)U/mlの同じレベルのrCSF-1を生産した。rCSF-1の生産は、BSAを含まないSFM2M培地により生じる遅い指数増殖速度により影響されなかった。」(15頁右下欄下から9行?16頁左上欄14行) エ 引用例4の記載について 本願の出願日前に頒布された引用例4には、以下の事項が記載されている(下線は当審が付した)。 (ア)背景技術 「【0003】 このような遺伝子組換え技術によって産生された生理活性タンパク質を含有する製剤においては、宿主DNAやウイルスの汚染による不純物、例えばDNA夾雑物を除去する必要がある。現在、バイオ医薬品におけるDNAの許容量は100pgDNA/一投与量以下であることが世界保健機構(WHO)により示されている。この基準を満たすために、一般には、宿主細胞から得られる生理活性タンパク質を含有する水性培地を陰イオン交換クロマトグラフィー、ハイドロキシアパタイトクロマトグラフィー、もしくはこれらの組合せで処理することによりDNAを除去している。」 (イ)発明を実施するための形態 「【0024】 本発明の方法によって除去される不純物は、目的のタンパク質以外の物質であれば、いかなる物質でもよい。不純物の例としては、DNA夾雑物、ウイルス、プロテインA(カラムからの溶出物)、エンドトキシン、HCP(細胞由来蛋白質)、培地成分であるHy-Fish(FL)、IGFなどを挙げることができるが、好ましくはDNA夾雑物又はウイルスである。ここでDNA夾雑物とは、生理活性タンパク質含有試料中のDNAであり、宿主由来のDNAや汚染したウイルス由来のDNAが含まれる。 【0025】 本発明の方法によって除去されるウイルスには特に制限はなく、どのようなウイルスを除去してもよく、DNAウイルス及びRNAウイルスが含まれる。RNAウイルスとしては、X-MuLVといったレトロウイルス、Reo 3といったレオウイルス、MVMといったパラボウイルスが挙げられる。本発明の方法によって除去されるウイルスの具体的な例としては、例えば、X-MuLV、PRV、Reo 3、MVM、VSV、ヘルペスシンプレックス、CHV、シンドビス、ムンプス、ワクチニア、Measle、Rubella、インフルエンザ、ヘルペスゾスター、サイトメガロ、パラ-インフルエンザ、EB、HIV、HA、HB、NANB、ATL、ECHO、バルポなどを挙げることができるが、好ましくは、X-MuLV、Reo 3、MVM、PRVである。」 「【0037】 従って、本発明のさらに別の好ましい態様では、以下の段階: 1)抗体含有試料をプロテインAもしくはプロテインGのアフィニティクロマト グラフィーに適用して、低伝導度の酸性水溶液で溶出し、 2)得られる溶出液に緩衝液を添加してpHを該生理活性タンパク質の等電点以下のpHに調整し、 3)生じる粒子を除去する、 を含む方法によって、生理活性タンパク質含有試料中の不純物を除去する。本発明の方法によって除去される不純物は、前述の通りである。 【0038】 この方法で使用する低伝導度の酸性水溶液は上記したものを使用することができ、また緩衝液としては、例えばTris-HCl、リン酸、Tris、Na2HPO4、NaOHなどを挙げることができる。 【0039】 本発明の方法では、上記段階で生理活性タンパク質の等電点以下のpHになった溶液は粒子(白濁)を生じる。この粒子をフィルター濾過によって除去することによって、DNA夾雑物といった不純物を効率よく除去することができる。濾過に用いるフィルターは、例えば、1.0?0.2μmのCellulose Acetate Filter System(Corning製)もしくはTFFなどを用いることができるが、これらに限定されるものではない。 【0040】 また、上記粒子を除去するための方法としては遠心分離操作等も考えられ、粒子を効率的に除去できる手法であればよく、フィルター濾過に限定されるものではない。 本発明者らは特別の理論に拘束されるものではないが、不純物がDNAである場合、上記粒子は生理活性タンパク質とDNAとによって形成される複合体であると推定している。タンパク質が等電点より低いpHになることにより正に帯電し、一方、DNAが負に帯電することにより、DNAとタンパク質の複合体が形成されると推定している。さらに、低伝導度の水溶液にすることにより、より複合体が形成されやすくなると考えている。粒子をフィルター除去することによってDNA-生理活性タンパク質複合体中に含まれる生理活性タンパク質が少量ロスとなるが、生理活性タンパク質の全体からすると数%であり、後述する実施例に記載するように、生理活性タンパク質の約90%を回収することができた。」 (ウ)実施例 「【0051】 実施例2:ヒト型化抗PTHrP抗体の精製 ヒト型化抗PTHrP抗体含有試料(CHO細胞で培養した培養上清を0.45+0.2μm CA SARTOBRAN Pフィルター(sartorius)で濾過したもの)をプロテインAアフィニティーカラムクロマトグラフィーを用いる方法で以下の条件により精製した。なお、PTHrP抗体は、国際特許出願公開番号WO98/13388号公報に記載の方法によって作成した(等電点:pH8.3)。…… 【0052】 ……2.2.溶出後の残存DNA除去条件検討 残存DNAを効率的に除去するために、フィルター濾過時の最適pH条件を設定する検討を行った。プロテインA溶出画分を、1.0M Tris 水溶液により以下の各検討pH(未調整(2.7), 4.0, 4.5, 5.0, 5.5, 6.0, 6.5, 7.0, 7.5 )に調整した。その後、一定時間放置し、0.22um CAフィルター濾過処理を行った。その後1.0M Tris水溶液によりpH7に調整し、DNA定量を行った。表3に各検討pH及び放置時間と残存DNAの結果示す。 【0053】 【0054】 表から明らかなように、pH5.5、6.0における0,6,24時間放置すべてにおいてDNAが検出限界以下となった。またDNA除去状況に関してはpH5.5、6.0を中心としてpHが高く、又は低くなるにつれてDNA除去の効率が悪くなることが観察された。」 オ 引用例5の記載について 本願の出願日前に頒布された、又は電気通信回路を通じて公衆に利用可能となった引用例5には、以下の事項が記載されている(下線は当審が付した)。 (ア)背景技術 「[0002] 細胞培養により製造されたモノクローナル抗体を含む抗体医薬には原料由来または工程由来のウイルスの混入が懸念されるため、抗体医薬を製造する過程でウイルスを不活化、あるいは除去する必要がある。抗体医薬に混入するおそれのあるウイルスの不活化方法としては、加熱処理や化学薬品による処理などが行なわれているが、それら単独の処理だけではウイルスの不活化は充分でなく、またこれらの方法では抗体医薬中の抗体そのものも変性するおそれがある。このような背景から、化学的な変性を伴わない物理的なウイルス除去手段として、濾過膜によるウイルスの分離除去が実施されている。 [0003] ウイルス除去用の濾過膜としては、セルロースのような天然素材よりなる膜、あるいはポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリエーテルスルホン(PES)のような合成高分子素材よりなるウイルス除去膜が知られている(非特許文献1?4)。」 (イ)実施例 「[0064](ウイルス除去性能の測定) 培養したPK-13細胞(ATCCより入手、ATCC No.CRL-6489)を、牛血清(Upstate社製、56℃の水浴で30分間加熱し、非働化させた後に使用)3体積%、およびペニシリン/ストレプトマイシン(+10000 Units/ml Penicillin,+10000μg/ml Streptomycin、インビトロジェン製)1体積%入りD-MEM(インビトロジェン製、high-glucose)(この混合液は以後3%FBS/D-MEMと記載)で希釈し、細胞濃度2.0×10^(5)(cells/ml)の希釈懸濁液を調製した。この細胞懸濁液を、96well丸底細胞培養プレート(Falcon社製)を10枚準備し、全てのwellに100(μl)ずつ分注した。 [0065] 次いで、下記3時間濾過を行った濾液の全量混合液について、それらの3%FBS/D-MEMによる10倍、10^(2)倍、10^(3)倍、10^(4)倍、10^(5)倍希釈液を調製した。さらに、濾過直前に採取した各元液について、それらの3%FBS/D-MEMによる10^(2)倍、10^(3)倍、10^(4)倍、10^(5)倍、10^(6)倍、10^(7)倍希釈液を調製した。上記細胞懸濁液を分注した96穴細胞培養プレートに、各濾液および濾液の10倍、10^(2)倍、10^(3)倍、10^(4)倍、10^(5)倍希釈液と、元液の10^(2)倍、10^(3)倍、10^(4)倍、10^(5)倍、10^(6)倍、10^(7)倍希釈液を、8wellに100(μl)ずつ分注し、37℃、5%二酸化炭素雰囲気下、インキュベーター中で、10日間培養した。 [0066] 次いで、10日間培養した上記の細胞培養プレートに対し、赤血球吸着法(ウイルス実験学 総論 国立予防衛生研究所学友会編、p.173)によるTCID50(50%感染価)の測定を行った。ニワトリ保存血(日本バイオテスト製)をPBS(-)(日水製薬株式会社製、商品に添付の方法で調製)で5倍に希釈後、2500( rpm ) 、4℃で5分間遠心分離し赤血球を沈殿させた後、上清を吸引除去して、得られた赤血球を含む沈殿物を再度PBS(-)で200倍に希釈した。 [0067] 次いで、調製した赤血球沈殿物のPBS(-)希釈液を、上記細胞培養プレートの全wellに100(μl)ずつ分注し、2時間静置した後、培養した細胞組織の表面に対する赤血球の吸着の有無を目視で確認し、吸着が確認されたものをウイルス感染が起きたwell、吸着が確認されなかったものを感染なしのwellとして数えた。得られた培養液ごとのウイルス感染の有無について、濾液ないしその希釈液、又は元液の希釈液ごとに割合を確認し、Reed-Muench法(ウイルス実験学 総論 国立予防衛生研究所学友会編、p.479-480)により、感染価としてlog(TCID_(50)/ml)を算出し、ウイルス除去率LRVを求めたところ、LRV4以上となった。」 (2)引用発明1との対比判断について ア 引用発明1について 上記(1)ア(ア)?(エ)の下線部より、引用例1には、Heliothis virescens (BCIRL-HV-AM1)、Helicoverpa zea (BCIRL-HZ-AM1)、Anticarsia gemmatalis (BCIRL-AG-AM1)、Spodoptera exigua(BCIRL/AMCY-Se-E1、BCIRL/AMCY-Se-E5)という名前の昆虫細胞株にポリヘドリンプロモーター(polh)下流に緑色蛍光タンパク質(gfp)遺伝子を含む組換えAcMNPVを接種させた後に培養し、緑色蛍光タンパク質の発光を確認していることから、これら昆虫細胞株によって緑色蛍光タンパク質が産生されたことが記載されているといえる。 そうすると、引用例1には、次の発明が記載されていると認められる。 「Heliothis virescens (BCIRL-HV-AM1)、Helicoverpa zea (BCIRL-HZ-AM1)、Anticarsia gemmatalis (BCIRL-AG-AM1)、Spodoptera exigua(BCIRL/AMCY-Se-E1、BCIRL/AMCY-Se-E5)のいずれかの昆虫細胞株において産生された、緑色蛍光タンパク質を含む組成物。」(以下、引用発明1という。) イ 対比 本願発明と引用発明1とを対比すると、本願発明のSF9細胞は昆虫細胞であるから、引用発明1の「昆虫細胞株において産生された」は本願発明と「昆虫細胞において産生された」点で共通する。 したがって、本願発明と引用発明1とは「昆虫細胞において産生された、タンパク質を含む組成物」である点で一致し、次の点で一応相違する。 (相違点1)昆虫細胞が、本願発明では「SF9細胞」であるのに対して、引用発明1では「Heliothis virescens (BCIRL-HV-AM1)、Helicoverpa zea (BCIRL-HZ-AM1)、Anticarsia gemmatalis (BCIRL-AG-AM1)、Spodoptera exigua(BCIRL/AMCY-Se-E1、BCIRL/AMCY-Se-E5)のいずれかの昆虫細胞株」である点 (相違点2)組成物が、本願発明では「配列番号1の少なくとも250個の近接ヌクレオチドを有する配列を含むウイルスゲノムを実質的に含ま」ないのに対して引用発明1にはこのことが特定されていない点 (相違点3)タンパク質が、本願発明では「グリコシル化されている」のに対して引用発明1にはこのことが特定されていない点 ウ 判断 (ア)相違点1及び3について 本願発明は、「SF9細胞において産生された」という、その物の製造方法が記載された物の発明である。物の発明についての特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されていても、その発明の技術的範囲は、当該製造方法により製造された物と構造、特性等が同一である物として確定されるものと解するのが相当である。そして、SF9細胞が由来する昆虫と引用発明1の細胞株が由来する昆虫とは近縁種であり、そのタンパク質合成系は類似しているといえるから、両者の細胞により得られたタンパク質はグリコシル化の構造やパターンを含め、構造、特性等が同一である蓋然性が高く、相違点1及び3は実質的な相違点ではない。 (イ)相違点2について SF9細胞が有するラブドウイルスについて、本願明細書には、次のことが記載されている(なお、下線は当審が付した。)。 「 【0029】 [0031] 用語「Sf9ラブドウイルス」は、本明細書において、本明細書に開示されている新規ウイルスを指す。Sf9ラブドウイルスの核酸配列は、配列番号1として本明細書に提示されている。」 「 【0083】 [0075] Sf9ラブドウイルスの感染力アッセイを開発するため、実験を開始して、追加的な昆虫細胞株においてSf9ラブドウイルスが繁殖できるかを決定した。表10は、米国農務省(U.S. Department of Agriculture)(USDA)の農業研究局(Agricultural Research Service)(ARS)から入手した数種類の昆虫細胞株のリストを示す。 【0084】 【表10】 【0085】 [0076] 表10に示す細胞株のそれぞれを、10mlのEX-Cell420培地+10%ウシ胎仔血清の入ったT25組織培養フラスコに配置し、培養培地のうち5mLを除去し、Sf9細胞の持ち越しがないことを確実にするために遠心分離および0.2ミクロン膜による濾過に付したSf9細胞由来の5mlの馴化培地とこれを交換することにより、Sf9ラブドウイルスに曝露した。Sf9馴化培地を細胞培養に24時間残し、その後、培地を除去し、EX-Cell420培地+10%FBSにおいて昆虫細胞株をさらに培養した。コンフルエンスに達したら、各培養物の細胞のおよそ10%を採取し、凍結細胞ペレット(p0)として貯蔵した一方、継続した成長および継代のためにそれぞれの新たな継代培養を確立した。このようにして、各細胞株の2種の追加的な凍結細胞ペレットを継代数p1およびp2のために採取した。 【0086】 [0077] Sf9ラブドウイルスに曝露された各細胞株由来の凍結細胞試料の採取後に、各細胞試料ならびにSf9ラブドウイルスに曝露されていない各細胞株由来の対照細胞から全細胞RNAを精製した。上述のSf9ラブドウイルスqRT-PCRアッセイにおいて、いずれかのラブドウイルスRNAシグナルの検出および定量に関して各RNA試料を検査した。「全細胞RNA1μg当たりのfgラブドウイルスRNA」を単位としてデータを表し、これを図3に示す。 【0087】 [0078] 図3におけるデータの検査は、いくつかの有意な観察をもたらす。第一に、細胞株HsAM1は、Sf9細胞馴化培地への曝露の前後にSf9ラブドウイルスRNAシグナルを提示し、この細胞株が、Sf9ラブドウイルスまたはそのごく近縁の種に既に感染されていることを示す。Sf9細胞馴化培地へのさらなる曝露は、感染力シグナルのさらなる増加をもたらさなかった。第二に、細胞株HvAM1、HzAM1、HzFB33およびAgAM1は、Sf9ラブドウイルスを有意に複製する能力を提示しなかった。予想されるとおり、馴化培地への即時曝露後に、低レベルRNAシグナルが観察されたが、このようなシグナルは、その後の継代におけるウイルス複製の場合に予想されるとおり増加しなかった。最後に、対照的に3種のS.exigua細胞株は、Sf9ラブドウイルスの著しい複製を示し、RNAシグナルは各継代に伴い少なくとも2桁増加する。継代2におけるこれらの細胞におけるSf9ラブドウイルスRNAシグナルレベルは、Sf9細胞において構成的に観察されるレベルに等しい。 【0088】 [0079] よって、試験の結果は、Sf9 Spodoptera frugiperda細胞株において元々同定されたSf9ラブドウイルス(または近縁種)が、Heliothis sublexa卵巣に由来する異なるlepidopteran種由来の第2の昆虫細胞株に構成的に存在することを示した。加えて、Sf9ラブドウイルスは、元のS.exigua卵に由来する3種のSpodoptera exigua細胞株において容易に複製することが観察された。」 また、本願明細書段落【0086】、【0087】で言及されている図3は次のとおりである。 「 」 図3より、AMCY-SeE1、AMCY-SeE5、HvAM1、HzAM1、HzFB33、HsAM1、AgAM1は、感染前のfgラブドRNA/μg細胞RNA量が10^(-2)であること、AMCY-SeE4は、感染前のfgラブドRNA/μg細胞RNA量が10^(-1)であることから、これら細胞において、Sf9ラブドウイルス感染前にSf9ラブドウイルスに感染していなかったことが理解できる。さらに、段落【0087】においてHvAM1、HzAM1、HzFB33およびAgAM1は、Sf9ラブドウイルスを有意に複製する能力を提示しなかったと記載されているから、仮にこれら細胞株にSf9ラブドウイルスを感染させてもSf9ラブドウイルスは増殖することができないから、Sf9ラブドウイルスに汚染される虞はないといえる。そして、本願の図3、表10から、AMCY-SeE1、AMCY-SeE5、HvAM1、HzAM1、HzFB33、HsAM1、AgAM1は、それぞれBCIRL/AMCY-SeE1、BCIRL/AMCY-SeE5、BCIRL/HvAM1、BCIRL/HzAM1、BCIRL/HzFB33、BCIRL/HsAM1、BCIRL/AgAM1という名称でもあることが理解できる。そうすると、表10に記載された細胞株名や起源の種および組織に関する開示を踏まえると、引用例1に記載された、Heliothis virescens (BCIRL-HV-AM1)、Helicoverpa zea (BCIRL-HZ-AM1)、Anticarsia gemmatalis (BCIRL-AG-AM1)、Spodoptera exigua(BCIRL/AMCY-Se-E1、BCIRL/AMCY-Se-E5)は、本願明細書の表10と同じものであるといえ、図3の結果から、これら細胞株は、Sf9ラブドウイルスに感染していないものであることが理解できる。さらに、本願明細書段落【0029】の記載から、Sf9ラブドウイルスは、配列番号1の核酸配列を含むものである。そうすると、引用発明1の昆虫細胞株において産生された緑色蛍光タンパク質は、配列番号1の少なくとも250個の近接ヌクレオチドを有する配列を含むウイルスゲノムを実質的に含まないことは明らかであるから、相違点2は実質的な相違点ではない。 エ 請求人の主張とそれに対する判断について (ア)請求人の主張 請求人は、令和 2年12月25日付け意見書で次の主張をする。そして、当該主張の根拠として、令和 2年12月28日付け手続補足書に添付の参考資料A(Insect Cell Glycosylation Patterns in the Context of Biopharmaceuticals(Geisler and Jarvis, 2009年))、参考資料B(Rendic et al., CROATICA CHEMICA ACTA CCACAA 81 (1) 7-21 (2008)))を提出した。 (主張1)SF9細胞で産生されたグリコシル化産物(例えば、グリコシル化されたタンパク質またはウイルス様粒子調製物)は、他の昆虫細胞株等の細胞株で産生されたものと同じではなく、SF9細胞により製造されたものと、他の細胞で製造されたものとは、構造、特性等が同一ではない。 そして、参考資料Aにおいて「BEVSで最も一般的に使用される2つの鱗翅目昆虫細胞株に関して、Sf9細胞は比較的小さな画分を生成する一方、High Five細胞は、α1,3-結合フコースを含むN-グリカンのはるかに大きな画分を生成する」(参考資料A、172頁第1パラグラフ最終行)と記載があり、参考資料Bにおいて「Spodoptera frugiperda(Sf9)またはEstigmene acrea(Ea)細胞のいずれかで発現させた、インフルエンザウイルスのヘマグルチニンに存在するグリカンを比較した研究がある。この研究では、MM:MGn:GnGnは、Sf9細胞で90:10:0、Ea細胞で12:72:16の相対存在量を示した・・・関連するfdl(fused lobes)遺伝子の欠失は、Drosophila属のN-グリカンプロファイルと、そのin vitro活性に大きな影響を与える。一方、Sf9細胞からの2つの新たなヘキソサミニダーゼは、N-グリカンに対して同様の正確な特異性を有しない。」(参考資料Bの10頁右欄第2段落)という記載があり、後者の記載から、Sf9細胞がユニークなヘキソサミニダーゼ特異性と、マンノース(M)とアセチルグルコサミン(Gn)の構造の相対的な存在量の多さという特徴的なグリカンパターンを有することが記載されているといえる。 (イ)上記主張に対する当審の判断 上記の主張1について検討する。上記ウ(ア)で検討したとおり、本願発明のSF9細胞が由来する昆虫と引用発明の細胞株が由来する昆虫とは近縁種であり、そのタンパク質合成系は類似しているといえるから、両者の細胞により得られたタンパク質は、グリコシル化の構造やパターンが同一である蓋然性が高い。 一方、参考資料Aの請求人が引用した部分に記載されているのは、Sf9細胞産生物とHigh Five細胞産生物との1,3-結合フコースを持つN-グリカン画分の大きさの違いであるところ、High Five細胞とは、Trichoplusia ni由来の細胞株であり(参考資料Aの165頁6,7行)、これは、引用発明1のいずれの細胞とも由来が異なるものであるから、この記載をもってSf9細胞において産生されたタンパク質のグリコシル化の構造やパターンと引用発明1の細胞株において産生された緑色蛍光タンパク質のグリコシル化の構造やパターンとが異なるとまではいうことができない。例えば、引用発明1の「BCIRL/AMCY-Se-E1、BCIRL/AMCY-Se-E5)」が由来する「Spodoptera exigua」は、Trichoplusia niよりもSf9細胞が由来するSpodoptera frugiperdaに近い種であるから、Sf9細胞産生物とHigh Five細胞産生物との間で上記の違いがあるとしても、より近い種に由来する細胞株同士である、Sf9細胞産生物と「BCIRL/AMCY-Se-E1、BCIRL/AMCY-Se-E5)」産生物との間でも両者のグリコシル化の構造に違いがあるとまではいうことができない。 さらに、参考資料Aには、次の記載がある。 「極めて重要な実験では、ワーグナーらは、ポリヘドリンプロモーターの制御下で、ヒトGNT-Iをコードするバキュロウイルスと家禽ペストウイルス血球凝集素をSf9細胞に感染させた[85]。 感染細胞は、細胞のGNT-I活性の上昇によって示されるように、哺乳類のGNT-Iを機能的に発現し、これにより、末端のN-アセチルグルコサミン残基を含むN-グリカンを含む組換え血球凝集素が産生された。」(175頁7.6.2.1。なお、原文は英語のため当審が和訳し、下線を付した。以下同様。また、「GNT-I」はN-Acetylglucosaminyltransferase Iの略であり、糖転移酵素の一種である。) 「ジャービスとフィン [86]は、プロモーター制御下でウシb1-4ガラクトシルトランスフェラーゼ(b1,4GalT)をコードするウイルスに感染したSf9細胞が、高レベルのガラクトシルトランスフェラーゼ活性を発現することを示した。 さらに、このウイルスに感染した細胞から単離された子孫のビリオンエンベロープ糖タンパク質、gp64は、ガラクトース末端N-グリカンを有することが示された。 その後、b1,4GalTとヒトトランスフェリンをコードするウイルスに同時感染したT. ni細胞は、単一アンテナの末端ガラクトシル化N-グリカンを含む組換えトランスフェリンを産生することが示された[29]。 これらの報告は、哺乳類のグリコシルトランスフェラーゼが、内因性のN-グリカンプロセシング経路を機能的に拡張できるように、昆虫細胞の分泌経路に局在することを示している。 彼らはまた、ポリヘドリンプロモーター下で高レベルで発現される組換え糖タンパク質のN-グリコシル化パターンが、ウイルスにコードされたグリコシルトランスフェラーゼを使用して変更できることを示した。」(175頁7.6.2.2) これらの記載を踏まえると、SF9細胞株が産生するタンパク質のグリコシル化の構造やパターンは、タンパク質産生に用いられる細胞株の種類のみによって決定されるわけではなく、外部から導入された酵素遺伝子の有無や種類によって変更することができるということが理解できる。そして、本願発明のSF9細胞は、タンパク質の産生時または産生前にグリコシル化の構造やパターンに影響を及ぼす酵素遺伝子が導入されたものを除外しているわけでもない。そうすると、本願発明の「SF9細胞において産生された」という文言によって、得られるタンパク質のグリコシル化の構造やパターンが特定のものに限定されているということはできず、かえって多岐に亘るものを包含しているといえるから、本願発明のタンパク質のグリコシル化の構造やパターンが他の昆虫細胞株において産生されたタンパク質のグリコシル化の構造やパターンと必ず異なるものであると一概にいうことはできない。 同様に、参考資料Bの請求人が引用した部分に記載されているのは、Sf9細胞産生物とEstigmene acrea由来の細胞株の産生物とにおけるN-グリカンプロファイルの相違であるところ、Estigmene acrea由来の細胞株は、引用発明1のいずれの細胞とも由来が異なるものであるから、この記載をもってSf9細胞において産生されたタンパク質のグリコシル化の構造やパターンと引用発明1の細胞株において産生された緑色蛍光タンパク質のグリコシル化の構造やパターンとが異なるとまではいうことができない。また、請求人の主張する「Sf9細胞がユニークなヘキソサミニダーゼ特異性」とは、あくまでもEstigmene acrea由来の細胞株との比較における「ユニーク」さであり、この記載から、Sf9細胞がいずれの昆虫細胞株とも全く異なるヘキソサミニダーゼ特異性を有し、そのために、産生されるタンパク質のグリコシル化の構造やパターンが他の昆虫細胞株由来のタンパク質のグリコシル化の構造やパターンと異なるとまではいうことができない。 したがって、請求人の上記主張1を採用することはできない。 オ 小括 よって、本願発明は、引用発明1と相違しないか、引用発明1に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 (3)引用発明2との対比判断について ア 引用発明2について 引用例2には、上記1イ(ア)より、Anticarsia gemmatalis、Helicoverpa zea、Heliothis virescens、Spodoptera exiguaという昆虫からそれぞれ昆虫細胞株を樹立したこと、上記1イ(オ)より、これら昆虫細胞株は、ウイルス性農薬または組換えタンパク質の大量生産に使用されることが記載されている。さらに、上記1イ(ウ)において、Spodoptera exiguaは、Seと省略され、胚はEと省略され、Spodoptera exiguaの胚から樹立された細胞株の完全な名称は、BCIRL/AMCY-Se-E-CLG1、BCIRL/AMCY-Se-E-CLG4、BCIRL/AMCY-Se-E-CLG5であること、上記1イ(エ)において、これら細胞株は単にSeE1、SeE4、SeE5とも称されることが記載されている。 そうすると、引用例2には、次の発明が記載されていると認められる。 「Anticarsia gemmatalis、Helicoverpa zea、Heliothis virescensのいずれかからの昆虫細胞株またはSpodoptera exiguaから樹立されたBCIRL/AMCY-Se-E-CLG1、同4、同5という昆虫細胞株から産生された、組換えタンパク質を含む組成物。」(以下、引用発明2という。) イ 対比 本願発明と引用発明2とを対比すると、本願発明のSF9細胞は昆虫細胞であるから、引用発明2の「昆虫細胞株から産生された」は本願発明と「細昆虫胞において産生された」点で共通する。 そうすると、本願発明と引用発明2とは「昆虫細胞において産生された、タンパク質を含む組成物」である点で一致し、次の点で一応相違する。 (相違点4)昆虫細胞が、本願発明では「SF9細胞」であるのに対して、引用発明2では「Anticarsia gemmatalis、Helicoverpa zea、Heliothis virescensのいずれかからの昆虫細胞株またはSpodoptera exiguaから樹立されたBCIRL/AMCY-Se-E-CLG1、同4、同5という昆虫細胞株」である点 (相違点5)組成物が、本願発明では「配列番号1の少なくとも250個の近接ヌクレオチドを有する配列を含むウイルスゲノムを実質的に含ま」ないのに対して引用発明2にはこのことが特定されていない点 (相違点6)タンパク質が、本願発明では「グリコシル化されている」のに対して引用発明2にはこのことが特定されていない点 ウ 判断 (ア)相違点4及び6について 相違点4及び6については、上記(2)ウ(ア)で述べた相違点1及び3と同様に判断され、SF9細胞が由来する昆虫と引用発明2の細胞株が由来する昆虫とは近縁種であり、そのタンパク質合成系は類似しているといえるから、両者の細胞により得られたタンパク質はグリコシル化の構造やパターンを含め、構造、特性等が同一である蓋然性が高い。加えて、本願発明のタンパク質は、その種類や構造について特段の限定はないから、如何なるタンパク質をも包含する。上記(2)エ(イ)で述べたとおり、このような多岐に亘るタンパク質においてグリコシル化の構造やパターンもまた多岐に亘るといえる。このように多岐に亘るタンパク質の多岐に亘るグリコシル化の構造やパターンが、如何なる場合であっても、引用発明2の組換えタンパク質におけるグリコシル化の構造やパターンと異なるといえるだけの根拠を見いだせないから、両者が構造やパターンにおいて相違するとまではいうことができない。したがって、相違点4,6は実質的な相違点ではない。 (イ)相違点5について 上記(2)ウ(イ)に記載したとおり、本願明細書段落【0083】-【0086】の記載や図3のデータを踏まえると、Anticarsia gemmatalis、Helicoverpa zea、Heliothis virescensから樹立した細胞株である、BCIRL‐AgAM1、BCIRL/HzAM1、BCIRL/HvAM1は、Sf9ラブドウイルスに感染していないものであることが理解できるし、Sf9ラブドウイルスを有意に複製する能力を提示しなかったことが確認されたことから、引用発明2の、Anticarsia gemmatalis、Helicoverpa zea、Heliothis virescensのいずれかからの昆虫細胞株もまたSf9ラブドウイルスに感染しておらず、また、これを有意に複製する能力を有しないといえ、したがって、これら昆虫細胞株は、「配列番号1の少なくとも250個の近接ヌクレオチドを有する配列を含むウイルスを実質的に含まない」といえる。次に、Spodoptera exiguaから樹立されたBCIRL/AMCY-Se-E-CLG1、同4、同5は、(BCIRL/AMCY)SeE1、SeE4、SeE5とも称されるから、本願明細書段落【0084】の表10に記載された細胞株と同じものであるといえ、したがって、これら昆虫細胞株は、「配列番号1の少なくとも250個の近接ヌクレオチドを有する配列を含むウイルスを実質的に含まない」といえる。したがって、相違点5は実質的な相違点ではない。 エ 請求人の主張とそれに対する判断について 請求人は、令和 2年12月25日付け意見書で上記(2)エに記載の主張をするところ、上記(2)エに記載のとおり、当該主張を採用することはできない。 オ 小括 よって、本願発明は、引用発明2と相違しないか、引用発明2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 (4)引用発明3との対比判断について ア 引用発明3について 引用例3には、上記(1)ウ(イ)に記載のアンチカルシア・ゲルメタリア(Anticarsia germmetalia)を含む昆虫細胞に組換え型バクロウイルスまたは野生型ウイルスを感染させ、当該昆虫細胞を栄養素混合物中で増殖し、上記(1)ウ(イ)に記載された、B型肝炎ワクチン、ネコ白血病ウイルスワクチン、ジフテリア毒素、ゲロニン、シュードモナス・アエルギノーザ(Pseudomonas aeruginosa)からの外毒素、フィトラッカ・アメリカナ(Phytolacca americana)からの毒性タンパク質のような組換え生産物およびウイルス生産物を生産することが記載されている。 そうすると、引用例3には次の発明が記載されていると認められる。 「組換えバクロウイルスまたは野生型ウイルスのいずれかによりそれぞれ感染され、増殖された、アンチカルシア・ゲルメタリア(Anticarsia germmetalia)のような昆虫細胞により産生された、B型肝炎ワクチン、ネコ白血病ウイルスワクチン、ジフテリア毒素、ゲロニン、シュードモナス・アエルギノーザ(Pseudomonas aeruginosa)からの外毒素、フィトラッカ・アメリカナ(Phytolacca americana)からの毒性タンパク質のような組換え生産物またはウイルス生産物を含む組成物。」(以下、引用発明3という。) イ 対比 本願発明と引用発明3とを対比すると、引用発明3の「B型肝炎ワクチン、ネコ白血病ウイルスワクチン、ジフテリア毒素、ゲロニン、シュードモナス・アエルギノーザ(Pseudomonas aeruginosa)からの外毒素、フィトラッカ・アメリカナ(Phytolacca americana)からの毒性タンパク質のような組換え生産物またはウイルス生産物を含む組成物」は本願発明の「タンパク質またはウイルス様粒子(VLP)調製物を含む組成物」に相当する。さらに、本願発明のSF9細胞は昆虫細胞であるから、引用発明3の「昆虫細胞により産生された」は本願発明と「細昆虫胞において産生された」点で共通する。 そうすると、本願発明と引用発明3とは「昆虫細胞において産生された、タンパク質またはウイルス様粒子(VLP)調製物を含む組成物」である点で一致し、次の点で一応相違する。 (相違点7)昆虫細胞が、本願発明では「SF9細胞」であるのに対して、引用発明3では「アンチカルシア・ゲルメタリア(Anticarsia germmetalia)のような昆虫細胞」である点 (相違点8)組成物が、本願発明では「配列番号1の少なくとも250個の近接ヌクレオチドを有する配列を含むウイルスゲノムを実質的に含ま」ないのに対して引用発明3にはこのことが特定されていない点 (相違点9)タンパク質が、本願発明では「グリコシル化されている」のに対して引用発明3にはこのことが特定されていない点 ウ 判断 (ア)相違点7及び9について 相違点7及び9については、上記(2)ウ(ア)で述べた相違点1及び3または上記(3)ウ(ア)で述べた相違点4及び6と同様に判断される。すなわち、SF9細胞が由来する昆虫と引用発明3の細胞株が由来する昆虫とは近縁種であり、そのタンパク質合成系は類似しているといえるから、両者の細胞により得られたタンパク質はグリコシル化の構造やパターンを含め、構造、特性等が同一である蓋然性が高い。さらに、本願発明の多岐に亘るタンパク質の多岐に亘るグリコシル化の構造やパターンが、如何なる場合であっても、引用発明3の組換えタンパク質におけるグリコシル化の構造やパターンと異なるといえるだけの根拠を見いだせないから、両者が構造やパターンにおいて相違するとまではいうことができない。したがって、相違点7,9は実質的な相違点ではない。 (イ)相違点8について 上記(2)ウ(イ)に記載したとおり、本願明細書段落【0083】-【0086】の記載や図3のデータを踏まえると、Anticarsia germmetaliaから樹立した細胞株であるBCIRL-AgAM1は、Sf9ラブドウイルスに感染していないものであることが理解できるし、Sf9ラブドウイルスを有意に複製する能力を提示しなかったことが確認されたことから、引用発明3の、アンチカルシア・ゲルメタリア(Anticarsia germmetalia)からの細胞株もまたSf9ラブドウイルスに感染しておらず、また、Sf9ラブドウイルスを有意に複製する能力を有しないといえ、したがって、これら細胞株は、「配列番号1の少なくとも250個の近接ヌクレオチドを有する配列を含むウイルスを実質的に含まない」といえる。したがって、相違点8は実質的な相違点ではない。 エ 請求人の主張とそれに対する判断について 請求人は、令和 2年12月25日付け意見書で上記(2)エに記載の主張をするところ、上記(2)エに記載のとおり、当該主張を採用することはできない。 オ 小括 よって、本願発明は、引用発明3と相違しないか、引用発明3に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 2 理由4.(進歩性)について (1)引用発明3’について 引用例3には、上記1(1)ウ(イ)に記載の昆虫細胞に組換え型バクロウイルスまたは野生型ウイルスを感染させ、当該昆虫細胞を栄養素混合物中で増殖し、上記(1)ウ(イ)に記載された、B型肝炎ワクチン、ネコ白血病ウイルスワクチン、ジフテリア毒素、ゲロニン、シュードモナス・アエルギノーザ(Pseudomonas aeruginosa)からの外毒素、フィトラッカ・アメリカナ(Phytolacca americana)からの毒性タンパク質のような組換え生産物およびウイルス生産物を生産すること、昆虫細胞として特にSf9細胞系が好ましいことが記載されている。さらに、引用例3には、上記1(1)ウ(ウ)において、Sf9細胞に組換え暴露ウイルスを感染させ、タンパク質の一種である組換えCSF-1を産生させたことが記載されている。 そうすると、引用例3には次の発明が記載されていると認められる。 「組換えバクロウイルスまたは野生型ウイルスのいずれかによりそれぞれ感染され、増殖された、Sf9細胞系のような昆虫細胞により産生された、B型肝炎ワクチン、ネコ白血病ウイルスワクチン、ジフテリア毒素、ゲロニン、シュードモナス・アエルギノーザ(Pseudomonas aeruginosa)からの外毒素、フィトラッカ・アメリカナ(Phytolacca americana)からの毒性タンパク質のような組換え生産物またはウイルス生産物を含む組成物。」(以下、引用発明3’という) (2)対比 本願発明と引用発明3’とを対比すると、引用発明3’の「Sf9細胞系のような昆虫細胞により産生された」は本願発明の「SF9細胞において産生された」に相当し、引用発明3’の「B型肝炎ワクチン、ネコ白血病ウイルスワクチン、ジフテリア毒素、ゲロニン、シュードモナス・アエルギノーザ(Pseudomonas aeruginosa)からの外毒素、フィトラッカ・アメリカナ(Phytolacca americana)からの毒性タンパク質のような組換え生産物またはウイルス生産物を含む組成物」は本願発明の「タンパク質またはウイルス様粒子(VLP)調製物を含む組成物」に相当する。 本願発明と引用発明3’とは、「SF9細胞において産生された、タンパク質またはウイルス様粒子(VLP)調製物を含む組成物」である点で一致し、次の点で相違する。 (相違点10)本願発明が「配列番号1の少なくとも250個の近接ヌクレオチドを有する配列を含むウイルスを実質的に含まない」のに対して、引用発明3’にはこのことについて記載がない点。 (相違点11)タンパク質が、本願発明では「グリコシル化されている」のに対して引用発明3’にはこのことについて記載がない点 (3)判断 ア 相違点10について 相違点10について検討する。引用発明3’は、Sf9細胞系のような昆虫細胞を用いてワクチンや生物製剤に用いると推測される外毒素、毒性タンパク質を製造するものである。そして、生理活性タンパク質製剤を遺伝子組換え技術で宿主細胞に産生させる場合にDNA夾雑物のようなウイルス汚染による不純物を除去する必要があり、バイオ医薬品におけるDNAの許容量は100pgDAN/一投与量以下であることは引用例4に記載があるように(【0003】)、DNA夾雑物のような不純物の除去にフィルター濾過処理をすることは引用例4,5に記載があるように(引用例4:【0039】、引用例5:[0002])、当業者によく知られていることである。そして、抗体を宿主細胞により産生させた事例であるが、引用例4,5の実施例には、フィルター濾過処理をして、不純物であるDNAを定量限界以下にまで除去できたこと(引用例4:【0063】?【0067】)やウイルス除去率LRV4以上となったこと(引用例5:[0064]?[0067])が記載されている。このような程度にまでウイルス除去されれば、得られたタンパク質製剤は、ウイルスを実質的に含まないといえる。そうすると、引用発明3’において、DNA夾雑物のような不純物を除去するため、フィルター濾過のような従来から当業者に知られている適当な方法でワクチンや外毒素、毒性タンパク質を処理することは当業者が容易に想到することであるといえる。そして、当該処理の結果、不純物であるDNAは定量限界以下にまで除去されたという引用例4の上記結果を踏まえると、「配列番号1の少なくとも250個の近接ヌクレオチドを有する配列を含むウイルスゲノム」についても実質的に含まない程度にまで除去されるといえる。そして、それによって引用例3?5から予測できない効果が奏されたと認められない。 イ 相違点11について 相違点11については、相違点3と同様に判断される。したがって、相違点11は実質的な相違点ではない。 (4)請求人の主張とそれに対する判断について ア 請求人の主張 請求人は、令和 3年12月25日付け意見書において次の主張をする。 (主張2)従来、SF9細胞は、広範な検査の結果、ウイルスの混入がない細胞と考えられていた細胞であった(段落0003参照)。よって、当業者には、このSF9細胞から汚染ウイルスを除去するような処理をする動機づけはなかった。このように、従来、ウイルス混入のないと考えられていたSF9細胞を精製する動機づけがそもそもないところ、実際はこのSF9細胞から単離された組成物は、特定のウイルス配列を有するものであったため、たとえ当業者であっても、配列番号1の少なくとも250個の近接ヌクレオチドを有する配列を含むウイルスゲノムを実質的に含まないことを構成要件とする本願発明には、容易に想到し得たものではない。 (主張3)さらに、引用例4?5を考慮しても、本願発明には、決して容易に想到し得たものではない。これらの文献は、低レベルの汚染ウイルスを除去する方法のみを記載しているのに対し、SF9細胞において生産された産物に含まれるラブドウイルスは、はるかに高い開始濃度を有するため、これらの文献に記載の方法で、容易に除去できるものではない。具体的には、引用例4及び5は、拒絶理由通知書においても指摘されているとおり、を約LRV(対数減少値)4のウイルス除去率でウイルスを除去することを記載するところ(当審注 下線部の「を約LRV」は原文のままであり、その目的語が記載されていない)、本願のエンド・オブ・プロダクション細胞(EOPC)材料中のラブドウイルスRNAの量ははるかに多く、1mL当たりおよそ10e+07?10e+08 RNAコピーのラブドウイルスRNA濃度を明示した(本願明細書中実施例3および段落0055等を参照)。したがって、当業者であれば、引用例4や5に記載の低レベルの汚染ウイルスを除去する方法を本願において適用しても、ラブドウイルスRNAが生物学的産物の調製物中に残ってしまうことは、容易に理解できるものと思料する。 イ 上記主張に対する当審の判断 (ア)主張2について 上記の主張2について検討する。引用例4の段落【0003】に記載があるように、生理活性タンパク質製剤を遺伝子組換え技術で宿主細胞に産生させる場合にDNA夾雑物のようなウイルス汚染による不純物を除去する必要があり、バイオ医薬品におけるDNAの許容量は100pgDAN/一投与量以下であることを踏まえると、Sf9細胞を用いて毒性タンパク質のような組換え生産物またはウイルス生産物を産生する引用発明3’において、DNA夾雑物のような不純物の除去を行うことは、当業者が当然に検討することである。そして、上記(3)アで検討したように、引用例4にはDNA夾雑物のような不純物をフィルター濾過処理をして除去した場合に、DNAを定量限界以下まで除去できたことが記載(【0063】?【0067】)されていること、引用例4の方法で除去されるウイルスはRNAウイルスも含まれること(引用例4:【0025】)を踏まえると、フィルター濾過処理による不純物除去の結果として、「配列番号1の少なくとも250個の近接ヌクレオチドを有する配列を含むウイルスゲノム」もまた除去され、これを実質的に含まないようになるといえる。 したがって、請求人の上記主張2を採用することはできない。 (イ)主張3について 上記の主張3について検討する。引用例4には、ヒト型化抗PTHrP抗体含有試料(CHO細胞で培養した培養上清を0.45+0.2μm CA SARTOBRAN Pフィルター(sartorius)で濾過したもの)をプロテインAアフィニティーカラムクロマトグラフィーを用いる方法で精製したところ、精製前における培養上清中のDNAが6,637,200pg/mLであり、フィルター未処理中のDNAが25,110pg/mLであったものが、フィルター濾過後の残存DNAが検出限界以下(<15.0pg/mLまたは22.5pg/mL)になったことが記載されている(【0051】?【0054】)。引用例4の段落【0024】、【0025】をみると、引用例4に記載の方法で除去される不純物はRNAウイルスであってもよいのであるから、引用例4に記載の方法によって、RNAウイルスであるSf9ラブドウイルスもまた上記程度にまで除去されるといえる。 一方、本願明細書段落【0053】、【0054】において、Sf9細胞馴化培地を100,000kD分子量カットオフ膜を用いて膜濃縮することで、膜濃縮前のSf9細胞馴化培地のSf9ラブドウイルスRNAシグナルが2.87e+07(2.87×10^(7))分子/mLまたは2.79e+07(2.79×10^(7))分子/mLであったものが、膜濃縮後に0分子/mLとなったことが記載されている(段落【0054】の表2の上から1,2番目、5,6番目)。ここで、「分子/mL」とは、試験液1mLあたりSf9ラブドウイルスRNAが何分子存在するかを意味する単位であると理解されるから、本願発明と引用例4とにおけるフィルター濾過前後の核酸含有量を比較するためには両者の単位を一致させる必要がある。本願明細書の「分子/mL」を引用例4の「pg/mL」に換算するためには、Sf9ラブドウイルスRNAの(平均)分子量を乗じた上で、1モル(6.02×10^(23))で除せばよい。そして、本願明細書段落【0052】において「定量目的では、したがって、検量線RNAの平均分子量は、4.25kbまたは1.4×10^(6)ダルトンである。」と記載されているから、Sf9ラブドウイルスの平均分子量は1.4×10^(6)ダルトンであると理解される。そうすると、2.87e+07(2.87×10^(7))分子/mLまたは2.79e+07(2.79×10^(7))分子/mLを単位「pg/mL」に換算した結果は次のとおりである。 (2.87×10^(7)×1.4×10^(6))/(6.02×10^(23))≒66.7×10^(-12)g/mL=66.7pg/mL (2.79×10^(7)×1.4×10^(6))/(6.02×10^(23))≒64.9×10^(-12)g/mL=64.9pg/mL そうすると、引用例4におけるフィルター除去前のDNA量は本願明細書段落【0054】に記載のSf9馴化培地中のSf9ラブドウイルスRNA量よりもはるかに大きいにもかかわらず、当該DNA量を検出限界以下にまで低減できたといえる。 さらに、本願明細書段落【0053】、【0054】に記載されたSf9ラブドウイルスRNAの除去方法は、100,000kD分子量カットオフ膜を用いた膜濃縮であり、このような方法が、本願優先日当時にウイルスや宿主DNAを除去するための方法として一般的な方法であったことは例示するまでもなく明らかであるから、本願優先日当時の一般的な方法を用いて達成された、Sf9ラブドウイルスRNAを0にまで除去できたことが、格別顕著な効果であるということもできない。なお、本願明細書において、膜濃縮後のSf9ラブドウイルスRNAシグナルが「0」と記載されているが、これは実際にSfラブドウイルスRNAが0分子/mLであったことを意味するのではなく、引用例4のように検出限界以下であったことを意味すると解される。 したがって、請求人の上記主張3を採用することはできない。 (5)小括 よって、本願発明は、引用発明3’及び引用例4、5に記載された周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 第4 むすび 以上のとおり、請求項13に係る発明は、引用例1、2または3に記載された発明であるから特許法第29条第1項第3号の規定に該当するか、引用例1、2または3に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであり、また、請求項13に係る発明は、引用例3に記載された発明及び引用例4、5に記載された周知技術から当業者が容易に発明をすることができたものでもあるから特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、他の請求項に係る発明について言及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
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審理終結日 | 2021-03-31 |
結審通知日 | 2021-04-01 |
審決日 | 2021-04-13 |
出願番号 | 特願2016-520073(P2016-520073) |
審決分類 |
P
1
8・
113-
WZ
(C12Q)
P 1 8・ 121- WZ (C12Q) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 高山 敏充 |
特許庁審判長 |
中島 庸子 |
特許庁審判官 |
大久保 智之 高堀 栄二 |
発明の名称 | 細胞株からラブドウイルスを検出および除去する方法 |
代理人 | 大貫 敏史 |
代理人 | 稲葉 良幸 |
代理人 | 内藤 和彦 |
代理人 | 江口 昭彦 |