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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01B
管理番号 1377503
審判番号 不服2021-1303  
総通号数 262 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-10-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-01-29 
確定日 2021-09-16 
事件の表示 特願2020- 13380「電線およびケーブル」拒絶査定不服審判事件〔令和 2年 9月10日出願公開、特開2020-145180、請求項の数(6)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は令和2年1月30日(優先権主張 平成31年3月1日)の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
令和 2年 7月13日付け :拒絶理由通知書
令和 2年 9月11日 :意見書、手続補正書の提出
令和 2年10月29日付け :拒絶査定(原査定)
令和 3年 1月29日 :審判請求書、手続補正書の提出

第2 原査定の概要
原査定(令和2年10月29日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。
1.(進歩性)この出願の請求項1ないし7に係る発明は、その優先権主張日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用文献に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その優先権主張日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

<引用文献等一覧>
1.特開2010-095573号公報
2.特開2017-031337号公報(周知技術を示す文献)

第3 本願発明
本願の請求項1ないし6に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明6」という。)は、令和3年1月29日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定される発明であり、以下のとおりの発明である。

「【請求項1】
導体と、前記導体の周囲に被覆される絶縁層とを有する電線であって、
前記絶縁層は、ベースポリマと、難燃剤とを含む難燃性樹脂組成物からなり、
前記ベースポリマは、エチレン-酢酸ビニル共重合体と、変性ポリマとを含み、
前記難燃剤は、金属水酸化物と、窒素系難燃剤と、亜鉛系化合物とを含み、
前記変性ポリマは、不飽和カルボン酸またはその誘導体で変性されたポリオレフィンであり、
前記金属水酸化物は、シランカップリング剤と脂肪酸類とにより表面処理された水酸化マグネシウムを含み、
前記エチレン-酢酸ビニル共重合体は、酢酸ビニル含有量が60質量%以上の第1のエチレン-酢酸ビニル共重合体と、酢酸ビニル含有量が60質量%未満の第2のエチレン-酢酸ビニル共重合体とを含み、
前記第2のエチレン-酢酸ビニル共重合体は、酢酸ビニル含有量が20質量%以上60質量%未満の第5のエチレン-酢酸ビニル共重合体と、酢酸ビニル含有量が20質量%未満の第6のエチレン-酢酸ビニル共重合体とを含み、
前記難燃性樹脂組成物は、前記ベースポリマ100質量部に対して、前記難燃剤を265質量部以上330質量部以下含有し、
前記難燃性樹脂組成物は、前記ベースポリマ100質量部に対して、前記金属水酸化物を235質量部以上300質量部未満含有し、
前記難燃性樹脂組成物は、前記ベースポリマ100質量部に対して、前記窒素系難燃剤を25質量部以上80質量部未満含有し、
前記難燃性樹脂組成物は、前記ベースポリマ100質量部に対して、前記亜鉛系化合物を5質量部以上40質量部未満含有し、
UL1581に準拠した試験を実施し、前記絶縁層の引張強度が10.3MPa以上、前記絶縁層の伸びが150%以上であり、
UL1581に準拠した低温巻き付け試験を実施し、-10℃で4時間冷却した後、冷却した前記電線の被覆外径の2倍径を有する金属マンドレルに巻き付けた後に、前記絶縁層にクラックが入らない低温特性とを有する、
電線。
【請求項2】
請求項1記載の電線において、
前記窒素系難燃剤は、メラミンシアヌレートである、電線。
【請求項3】
請求項1記載の電線において、
前記金属水酸化物は、シランカップリング剤と脂肪酸類とにより表面処理された第1の水酸化マグネシウムと、シランカップリング剤により表面処理された第2の水酸化マグネシウムを含む、電線。
【請求項4】
請求項1記載の電線において、
前記金属水酸化物は、シランカップリング剤と脂肪酸類とにより表面処理された第1の水酸化マグネシウムであって、平均粒径が第1粒径である水酸化マグネシウムと、平均粒径が第2粒径である水酸化マグネシウムとを含む、電線。
【請求項5】
請求項1記載の電線において、
前記絶縁層に対する前記導体の横断面積比が0.35以下である、電線。
【請求項6】
請求項1記載の電線において、
前記絶縁層において、前記難燃性樹脂組成物が架橋されている、電線。」

第4 引用文献、引用発明等
1 引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている。(当審注:下線は、参考のために当審で付与したものである。以下、同じ。)
「【背景技術】
【0002】
電気・電子機器の内部および外部配線に使用される絶縁電線の被覆材料には、難燃性、引張特性、耐熱性など種々の特性が要求される。このため、これら絶縁電線の被覆材料として、ポリ塩化ビニル(PVC)コンパウンドやエチレン系共重合体を主成分とするベース樹脂に分子中に臭素原子や塩素原子を含有するハロゲン系難燃剤を配合した、樹脂組成物を使用することがよく知られている。
【0003】
近年、このような被覆材料を用いた絶縁電線を適切な処理をせずに廃棄した場合の種々の問題が提起されている。例えば、埋立により廃棄した場合には、被覆材料に配合されている可塑剤や重金属安定剤の溶出、また焼却した場合には、多量の腐食性ガスの発生、ダイオキシンの発生などという問題が起こる。
このため、有害な重金属やハロゲン系ガスなどの発生がないノンハロゲン難燃材料で電線を被覆する技術の検討が盛んに行われている。
【0004】
従来のノンハロゲン難燃材料は、ハロゲンを含有しない難燃剤を樹脂に配合することで難燃性を発現させたものであり、このような被覆材料の難燃剤としては、例えば、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムなどの金属水和物が、また、樹脂としては、ポリエチレン、エチレン-1-ブテン共重合体、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-アクリル酸エチル共重合体、エチレン-プロピレン-ジエン三元共重合体などが用いられている。
【0005】
ところで電子機器内に使用される電子ワイヤハーネスには、安全性の面から高い難燃性が要求されており、非常に厳しい難燃性規格 UL1581(Reference Standard for Electrical Wires,Cables, and Flexible Cords)などに規定される垂直燃焼試験(Vertical Flame Test)のVW-1規格や水平難燃規格、JIS C3005に規定される60度傾斜難燃特性をクリアするものでなければならない。さらに、難燃性以外の特性についても、ULや電気用品取締規格などで、破断伸び100%以上、破断抗張力10MPa以上という高い機械特性が要求されている。
【0006】
ノンハロゲン難燃材料を用いた絶縁電線においてこのような高度の難燃性と機械特性を実現するために、以下のような技術が検討されてきた。
まず、赤燐と水酸化マグネシウムを併用した絶縁組成物が検討されてきたが、赤燐の発色のために電線を白をはじめとする任意の色に着色できないことや、廃棄する際に赤燐が地中に流出し湖沼を富養化するおそれがあることなどの問題がある。
また、水酸化マグネシウムを多量に加えた絶縁組成物が検討されているが、絶縁層の肉厚によっては燃えてしまうことがあり、また、難燃性が不十分であったり、機械的強度が著しく低下したりするという問題がある。
【0007】
特許文献1には、ポリオレフィン又はエチレン系共重合体に対して無機難燃剤とメラミンシアヌレート化合物を併用した例が開示されている。しかしこの組成物を用いた絶縁電線では前記のVW-1規格に不適合であり、また通常用いられる高級脂肪酸で表面処理した水酸化マグネシウムを200質量部程度まで加えてゆくと機械的強度が著しく低下する。
【0008】
さらに絶縁電線は、高い絶縁電気特性が要求される。しかし前述の難燃性を適合させるためには例えば高いVA含有量を有するエチレン酢酸ビニル共重合体等をベース材料として用いなければならず、絶縁電気特性の保持が困難であった。
さらにこのような高難燃のノンハロゲン絶縁電線は絶縁破壊電圧が低く、動力線として使用する場合薄肉化が困難であった。
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、これらの問題を解決し、絶縁電線に要求される高度の難燃性と優れた機械特性を有し、任意の色に着色でき、電気特性を保持しかつ、廃棄時の埋立による重金属化合物やリン化合物の溶出や、焼却による多量の煙、腐食性ガスの発生などの問題のない樹脂組成物及びこの組成物を絶縁被覆材とする絶縁電線などの樹脂成形体を提供することを目的とする。」

「【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の樹脂組成物は、ポリオレフィン樹脂、エチレン系共重合体、及びアクリルゴムからなる群から選ばれる少なくとも1種に対しモノエステル(メタ)アクリレート0.5?15質量%を加えグラフトしてなる樹脂組成物(A)100?20質量%と、ポリオレフィン樹脂、エチレン系共重合体、及びアクリルゴムからなる群から選ばれる少なくとも1種(B)0?80質量%とからなる樹脂成分(C)100質量部に対し、金属水和物150?300質量部を含有してなる。
【0016】
通常ノンハロゲン樹脂組成物やこれを用いた電線は体積固有抵抗や絶縁抵抗が低く、さらに長期浸水させるとさらに体積固有抵抗や絶縁抵抗が低下する。しかし、本発明の樹脂組成物では、モノエステル(メタ)アクリレートをベース材料にグラフトすることにより、体積固有抵抗や絶縁抵抗が改善されるのみならず、長期浸水後の体積固有抵抗や絶縁抵抗も大幅に改善される。さらに絶縁破壊電圧も向上し、特に浸水後の絶縁破壊電圧も大幅に向上することがわかった。この絶縁抵抗、絶縁破壊電圧の向上の理由についてははっきりしていないが、グラフトされたエステル部分が金属水和物を囲い込むことにより、樹脂と金属水和物の界面が緩和され、体積固有抵抗や絶縁破壊電圧が向上したものと推定される。さらに金属水和物の周りを取り囲むことにより、金属水和物が水の影響を受けにくくなり、浸水による変化が少なくなったものと考えられる。
【0017】
このようなモノエステル(メタ)アクリレートを添加すると樹脂組成物の強度や伸び、難燃性は大幅に低下する。ところがこの様なモノエステル(メタ)アクリレートをベース材料にグラフトして添加することにより、力学的特性は逆に良好になり、難燃性も大幅に向上することがわかった。さらにグラフトしていない場合と比較しても樹脂の成形性は良好になっており、生産性の面でも優れている。
この難燃性が向上する理由についてもはっきりしていないが、含酸素部分がグラフトされることにより、樹脂自体の酸素係数が向上したものと推定される。
【0018】
以下、本発明の樹脂組成物、詳しくは絶縁樹脂組成物に含まれる各成分について説明する。
【0019】
(樹脂成分(C))
<1>エチレン系共重合体
本発明の樹脂組成物は、樹脂の1成分にエチレン系共重合体を用いることができる。本発明に用いることのできるエチレン系共重合体として具体的には例えば、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン-(メタ)アルキルアクリレート共重合体などが挙げられる。これらは、1種を単独で用いても2種以上を混合して用いてもよい。
【0020】
難燃性および機械特性向上の点からは、本発明で用いるエチレン系重合体として好ましいものはエチレン-酢酸ビニル共重合体である。また、難燃性を向上させるうえでエチレンに対し共重合させた共重合成分の含有量(例えばEVAでは酢酸ビニル(VA)含有量、EEAではエチルアクリレート(EA)含有量)が、23?80質量%が好ましく、さらに好ましくは25?80質量%である。また、エチレン系共重合体のMFR(メルトフローレイト)(ASTM‐D‐1238)は、強度の面、樹脂組成物の混練り加工性の面から0.2?20、さらに好ましくは0.5?10程度が好ましい。
通常高いVA含有量のEVAを使用すると難燃性は向上するものの、体積固有抵抗や絶縁電気抵抗、絶縁破壊電圧が著しく低下する。本発明のモノエステル(メタ)アクリレートをグラフトすることにより絶縁抵抗の低下や絶縁破壊電圧の低下を抑えることができる。さらに同レベルの難燃性はVA含有量を下げても維持できるので、さらに体積固有抵抗や絶縁破壊電圧を向上させることができる。
【0021】
本発明においてエチレン系共重合体はモノエステル(メタ)アクリレートをグラフトする部分(樹脂組成物)(A)、しない部分(B)の両方で使用することができる。樹脂成分(C)中のエチレン系共重合体の酸含有量の合計は15質量%?65質量%が好ましく、さらに好ましくは18質量%?55質量%である。この含有量があまり大きすぎると、モノエステル(メタ)アクリレートをグラフトすることにより生まれる電気特性や難燃性の効果が殆どなくなる為である。またこの含有量が低すぎると、難燃性が低下したり力学的強度が著しく低下したりする。
・・・中略・・・
【0027】
<4>不飽和カルボン酸で変性されたポリオレフィン・エチレン系共重合体
不飽和カルボン酸で変性されたポリオレフィンまたはエチレン系共重合体はそれぞれ上記の<3>ポリオレフィンまたは<1>エチレン系共重合体の全部又は一部として使用することができる。
不飽和カルボン酸で変性されたポリオレフィンとは、直鎖状ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレンやエチレン-酢酸ビニル(VA)共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-エチルアクリレート(EA)共重合体、エチレン-メタクリレート共重合体等のエチレン系共重合体、不飽和カルボン酸やその誘導体で変性された樹脂のことであり、変性に用いられる不飽和カルボン酸としては、例えば、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸等が挙げられ、不飽和カルボン酸の誘導体としては、マレイン酸モノエステル、マレイン酸ジエステル、無水マレイン酸、イタコン酸モノエステル、イタコン酸ジエステル、無水イタコン酸、フマル酸モノエステル、フマル酸ジエステル、無水フマル酸などがある。ポリオレフィンの変性は、例えば、ポリオレフィンと不飽和カルボン酸等を有機パーオキサイドの存在下に溶融、混練することにより行うことができる。マレイン酸の変性量は通常0.5?7質量%程度である。
【0028】
不飽和カルボン酸で変性されたポリオレフィンは樹脂とフィラーの接着、エチレン系共重合体とスチレン系エラストマー、スチレン系樹脂を側鎖に有するポリオレフィン、エチレンプロピレンゴムの相溶化剤としての効果があり、電気特性の向上や浸水させたときの絶縁抵抗の低下を抑える効果やコンパウンドの強度を高める効果がある。
この<4>成分の配合量は、樹脂成分(C)中のうち好ましくは2?30質量%、さらに好ましくは5?20質量%である。」

「【0036】
(金属水和物)
本発明において用いることのできる金属水和物の種類は特に制限はないが、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水和珪酸アルミニウム、水和珪酸マグネシウム、塩基性炭酸マグネシウム、オルト珪酸アルミニウム、ハイドロタルサイドなどの水酸基あるいは結晶水を有する金属化合物があげられ、1種単独でも、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの金属水和物のうち、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムが好ましい。中でも水酸化マグネシウムが好ましい。
【0037】
金属水和物は無処理のもの、脂肪酸処理したもの、リン酸エステルで処理したもの、シランカップリング剤で処理したものが挙げられる。中でもシランカップリング剤で処理されたものが好ましい。
上記金属水和物は表面処理に用いられるシランカップリング剤としては、例えば、末端にアルキル基、アルコキシ基、アミノ基、ビニル基、エポキシ基を有するものが挙げられる。これらのシランカップリング剤は単独でも2種以上併用してもよい。その中でも末端にアミノ基、ビニル基、エポキシ基等の反応性のシランカップリング剤を用いることが好ましく、さらにその中でもビニル基またはエポキシ基を有するものをその一成分として用いることが好ましく、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン等が挙げられる。これらの末端に反応性を有するシランカップリング剤は1種単独でも、2種以上併用して使用してもよい。これらのシランカップリング剤は全シランカップリング剤中の少なくとも20質量%以上、好ましくは40質量%以上、さらに好ましくは60質量%以上である。
【0038】
本発明で用いることができるシランカップリング剤表面処理水酸化アルミニウムとしては、表面未処理の水酸化アルミニウム(ハイジライトH42M(商品名、昭和電工社製)など)を上記の末端に反応性を有するシランカップリング剤により表面処理したものなどがあげられる。
【0039】
また、本発明で用いることができるシランカップリング剤表面処理水酸化マグネシウムとしては、表面無処理のもの(市販品としては、キスマ5(商品名、協和化学社製)など)、ステアリン酸、オレイン酸などの脂肪酸で表面処理されたもの(キスマ5A(商品名、協和化学社製)など)、リン酸エステル処理されたものなどを上記の末端に反応性を有するシランカップリング剤により表面処理したもの、または末端に反応性を有するシランカップリング剤によりすでに表面処理された水酸化マグネシウムの市販品(キスマ5L、キスマ5P(いずれも商品名、協和化学社製)など)がある。
【0040】
また、上記以外にも、予め脂肪酸やリン酸エステルなどで部分的に表面処理した水酸化マグネシウムや水酸化アルミニウムに追加的に末端に反応性の有するシランカップリング剤を用い表面処理を行った金属水和物なども用いることができる。
【0041】
金属水和物の表面処理を行う場合は、未処理又は部分表面処理金属水和物に予め又は混練りの際シランカップリング剤をブレンドして行うことができる。このときのシランカップリング剤は、表面処理するに十分な量が適宜加えられるが、具体的には金属水和物に対し0.1?3.0質量%、好ましくは0.15?2.5質量%、さらに好ましくは0.2?1.5質量%である。
【0042】
本発明においてこの金属水和物の配合量は、樹脂成分(C)100質量部に対して、150質量部?300質量部、好ましくは170?280質量部である。この金属水和物の配合量が少なすぎると要求される難燃性が確保できず、また多すぎると力学的強度が著しく低下する。
【0043】
また特には限定しないがビニル基又はエポキシ基を末端に有するシランカップリング剤で表面処理された金属水和物とともに、末端に反応性を有するシランカップリング剤以外で表面処理された金属水和物や無処理の金属水和物を用いることもできるが、全金属水和物の50質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上が末端に反応性を有するシランカップリング剤で表面処理された金属水和物となるようにするのが好ましい。
【0044】
(その他成分)
本発明においては必要に応じ、上記の金属水和物の分散性を向上するため、亜鉛、マグネシウム、カルシウムから選ばれる少なくとも1種の脂肪酸金属塩を配合することができる。脂肪酸金属塩の脂肪酸としては、例えば、オレイン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸などがあり、ステアリン酸が好ましい。
【0045】
本発明において難燃性をより向上させるため、メラミンシアヌレート化合物を添加しても良い。メラミンシアヌレート化合物は、粒径が細かい物が好ましい。本発明で用いるメラミンシアヌレート化合物の平均粒径は好ましくは10μm以下、より好ましくは7μm以下、さらに好ましくは5μm以下である。また、分散性の面から表面処理されたメラミンシアヌレート化合物が好ましく用いられる。
本発明で用いることのできるメラミンシアヌレート化合物としては、例えばMCA-6000(商品名、日産化学社製)や、Merpur 15(商品名:(株)チバジャパン)より上市されているものがある。
【0046】
本発明においてメラミンシアヌレート化合物の配合量は、エチレン系共重合体とアクリルゴムの合計100質量部に対して0?70質量部、好ましくは0?60質量部である。メラミンシアヌレート化合物が多すぎると力学的強度、特に伸びが低下し、電線としたときの外観が著しく悪くなる。メラミンシアヌレート化合物はアクリルゴムとの相乗効果により難燃性を大幅に向上させる効果があるため、高難燃性が必要な場合には加えるのが望ましい。
【0047】
本発明の絶縁樹脂組成物には、必要に応じスズ酸亜鉛、ヒドロキシスズ酸亜鉛及びホウ酸亜鉛から選ばれる少なくとも1種を配合することができ、さらに難燃性を向上することができる。これらの化合物を用いることにより、燃焼時の殻形成の速度が増大し、殻形成がより強固になる。従って、燃焼時に内部よりガスを発生するメラミンシアヌレート化合物とともに、難燃性を飛躍的に向上させることができる。
・・・中略・・・
【0048】
本発明の絶縁樹脂組成物には、電線・ケ-ブルにおいて、一般的に使用されている各種の添加剤、例えば、酸化防止剤、金属不活性剤、難燃(助)剤、充填剤、滑剤などを本発明の目的を損なわない範囲で適宜配合することができる。」

「【0059】
実施例及び比較例
まず、下記表に示す第一工程で示される各成分(質量部)を室温にてドライブレンドし、バンバリーミキサーを用いて溶融混練して、グラフトした樹脂組成物を作成した。さらにこの樹脂を用い、第二工程で示される各成分(質量部)を室温にてドライブレンドし、バンバリーミキサーを用いて溶融混練して、各絶縁樹脂組成物を製造した。
次に、電線製造用の押出被覆装置を用いて、導体(導体径0.76mmφの錫メッキ軟銅撚線 構成:17本/0.16mmφ)上に、予め溶融混練した絶縁樹脂組成物を押し出し法により被覆して、各々絶縁電線を製造した。外径は1.64mm(被覆層の肉厚0.42mm)とした。一部の電線(実施例15)については被覆後、5Mradで電子線照射して架橋を行った。
なお、下記表に示す各成分は下記のものを使用した。
【0060】
(01)エチレン-酢酸ビニル共重合体
EV180(商品名、三井デュポンポリケミカル社製)
VA含有量 33質量%
(02)エチレン-酢酸ビニル共重合体
YX-21(商品名、東ソー社製)
VA含有量 41質量%
(03)エチレン-酢酸ビニル共重合体
レバプレン800HV(商品名、ランクセス社製)
VA含有量 80質量%
(04)エチレン-酢酸ビニル共重合体
レバプレンVPKA8784(商品名、ランクセス社製)
VA含有量 70質量%
(05)エチレン-エチルアクリレート共重合体
A-714(商品名、三井デュポンポリケミカル社製)
EA含有量 25質量%
(06)三元共重合体アクリルゴム
ベイマックDP(商品名、三井デュポンポリケミカル社製)
(07)ブロックポリプロピレン
BC3A(商品名:日本ポリプロピレン製)
(08)変性ポリプロピレン
ポリボンドP1001(商品名、ケムチュラ社製)
(09)マレイン酸変性LLDPE
L-6100M(商品名、日本ポリエチレン社製)
(10)モノエステルメタクリレート
NK-エステル M-40G(商品名、新中村化学社製)
(11)モノエステルメタクリレート
NK-エステル M-90G(商品名、新中村化学社製)
(12)モノエステルメタクリレート
NK-エステル M-230G(商品名、新中村化学社製)
(13)モノエステルメタクリレート
NK-エステル PHE-6G(商品名、新中村化学社製)
(14)モノエステルアクリレート
NK-エステル AM-30G(商品名、新中村化学社製)
(15)メタロセンポリエチレン
カーネルKF360(商品名、日本ポリエチレン社製)
(16)末端にビニル基を有するシランカップリング剤表面処理水酸化マグネシウム
キスマ5L(商品名、協和化学社製)
(17)有機過酸化物
パーヘキサ25B(商品名、日油社製)
(18)ヒンダートフェノール系老化防止剤
イルガノックス1010(商品名、チバガイギー社製)
(19)滑剤
ACポリエチレンNO.6(PE-WAX)(商品名、ハネウエル社製)
【0061】
得られた各絶縁電線について、以下の評価試験を行った。結果を表1に示した。
1)伸び、抗張力
各絶縁電線の伸び(%)と被覆層の抗張力(MPa)を、JIS C 3005に基づき、標線間25mm、引張速度500mm/分の条件で測定した。伸びおよび抗張力の要求特性はそれぞれ、各々100%以上、10MPa以上である。
2)難燃性
各絶縁電線について、UL1581の Vertical Flame Test をおこない、合格数を示した(合格数/N数)。
3)絶縁抵抗(IR)
各絶縁電線について、JIS C 3005に規定される絶縁抵抗の初期値(1h)および24時間浸水後(24h)の絶縁抵抗を測定した。
初期値は100MΩ・km以上、24時間後は20MΩ・km以上が必要である
4)絶縁破壊電圧(BDV)
電線を60cmに切り取り、両端の導体を結束し、リング状にしたサンプルを用い、JIS C 3005に基づき、水中耐圧試験を行った。昇圧速度は1kV/秒で破壊電圧を求めた。
またサンプルを20℃24時間水中に浸せきしたサンプルについても、水分を拭き取った後に、同様な試験を行った。
初期値は20kV以上、水中浸せき後は10kV以上が必要である
5)電線の量産性
電線の量産性を電線の押し出し可能線速を確認した
○:押し出し速度100m/分以上で外観が良く量産性に問題がない。
×:押し出し速度、外観のいずれかに問題あり。
【0062】

【0063】
表1に示すように、比較例1?3では、24時間水中に浸せき後の絶縁破壊電圧が必要とされる値に達していない。また、比較例1および3では、抗張力の要求特性をみたさず、加えて、引用例2では難燃性に難があり、引用例3では量産性に難があった。これに対して、実施例1?15では、いずれの評価試験においても問題のない結果となった。」

上記段落【0059】、【0060】及び【表1】の記載から、引用文献1には、実施例1ないし15として、モノエステル(メタ)アクリレートをグラフトする部分(樹脂組成物)(A)、しない部分(B)に使用することができるエチレン系共重合体として、VA含有量が80質量%のレバプレン800HV(商品名、ランクセス社製)、及び、VA含有量が41質量%のYX-21(商品名、東ソー社製)が少なくとも使用されていることがわかる。

上記記載事項によれば、上記引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「ポリオレフィン樹脂、エチレン系共重合体、及びアクリルゴムからなる群から選ばれる少なくとも1種に対しモノエステル(メタ)アクリレート0.5?15質量%を加えグラフトしてなる樹脂組成物(A)100?20質量%と、ポリオレフィン樹脂、エチレン系共重合体、及びアクリルゴムからなる群から選ばれる少なくとも1種(B)0?80質量%とからなる樹脂成分(C)100質量部に対し、金属水和物150?300質量部を含有してなる樹脂組成物を絶縁被覆材とする絶縁電線であって、
モノエステル(メタ)アクリレートをグラフトする部分(樹脂組成物)(A)、しない部分(B)の両方で使用することができるエチレン系共重合体は、エチレン-酢酸ビニル共重合体であり、難燃性を向上させるうえでエチレンに対し共重合させた共重合成分が23?80質量%が好ましく、さらに好ましくは25?80質量%であり(実施例1ないし15では、VA含有量が80質量%のレバプレン800HV(商品名、ランクセス社製)、及び、VA含有量が41質量%のYX-21(商品名、東ソー社製)を少なくとも使用している。)、
不飽和カルボン酸で変性されたポリオレフィンは上記ポリオレフィンの全部又は一部として使用することができ、不飽和カルボン酸で変性されたポリオレフィンの配合量は、樹脂成分(C)中のうち好ましくは2?30質量%、さらに好ましくは5?20質量%であり、
金属水和物は、予め脂肪酸やリン酸エステルなどで部分的に表面処理した水酸化マグネシウムに追加的に末端に反応性の有するシランカップリング剤を用い表面処理を行ったものも用いることができ、金属水和物の配合量は、樹脂成分(C)100質量部に対して、150質量部?300質量部、好ましくは170?280質量部であり、
難燃性をより向上させるため、メラミンシアヌレート化合物を添加しても良く、メラミンシアヌレート化合物の配合量は、エチレン系共重合体とアクリルゴムの合計100質量部に対して0?70質量部、好ましくは0?60質量部であり、必要に応じスズ酸亜鉛、ヒドロキシスズ酸亜鉛及びホウ酸亜鉛から選ばれる少なくとも1種を配合することができ、さらに難燃性を向上することができる、絶縁電線。」

2 引用文献2について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2には、図面とともに次の事項が記載されている。
「【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、難燃剤として金属水和物を多量に添加すると、押出性、熱衝撃性及び可とう性が低下するおそれがある。
【0008】
また、昨今、電線被覆材料に対する信頼性の向上を図るため、難燃性のさらなる向上が求められている。
【0009】
そこで、本発明は、金属水和物を多量に用いても押出性、熱衝撃性及び可とう性を維持することができ、かつ難燃性の向上が図られたノンハロゲン難燃性樹脂組成物、並びに当該樹脂組成物からなる被覆層を備えた絶縁電線及びケーブルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明によれば、以下のノンハロゲン難燃性樹脂組成物、絶縁電線及びケーブルが提供される。
【0011】
[1]2種類以上のエチレン-酢酸ビニル共重合体を合計で55質量部以上含有するポリオレフィン系樹脂100質量部に対して、シランにより表面処理された水酸化アルミニウムを100質量部以上250質量部以下含有し、かつメラミンシアヌレート、すず酸亜鉛及び非晶質シリカから選ばれる1種類以上を5質量部以上50質量部以下含有しており、前記2種類以上のエチレン-酢酸ビニル共重合体の平均酢酸ビニル含有量(単位:質量%)が37.5以上45以下であり、かつ、平均MFR(単位:g/10分)が10以上50以下であるノンハロゲン難燃性樹脂組成物。
[2]前記2種類以上のエチレン-酢酸ビニル共重合体はいずれも、酢酸ビニル含有量(単位:質量%)が30以上65以下である前記[1]に記載のノンハロゲン難燃性樹脂組成物。
[3]前記ポリオレフィン系樹脂として、エチレン-アクリル酸エチル-無水マレイン酸3元共重合体、エチレン-アクリル酸エチル、マレイン酸変性高密度ポリエチレン、メタロセン直鎖状低密度ポリエチレン、及びメタロセン系ポリプロピレンから選ばれる1種以上を含有する前記[1]又は前記[2]に記載のノンハロゲン難燃性樹脂組成物。
[4]前記[1]?[3]のいずれか1つに記載のノンハロゲン難燃性樹脂組成物からなる絶縁層を備えたことを特徴とする絶縁電線。
[5]前記[1]?[3]のいずれか1つに記載のノンハロゲン難燃性樹脂組成物からなるシースを備えたことを特徴とするケーブル。
[6]前記[4]に記載の絶縁電線を備えたことを特徴とする前記[5]に記載のケーブル。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、金属水和物を多量に用いても押出性、熱衝撃性及び可とう性を維持することができ、かつ難燃性の向上が図られたノンハロゲン難燃性樹脂組成物、並びに当該樹脂組成物からなる被覆層を備えた絶縁電線及びケーブルが提供される。」

「【0017】
ノンハロゲン難燃性樹脂組成物は、ポリオレフィン系樹脂として、2種以上のエチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)を含有する。2?5種のEVAを含有することが好ましく、2?4種のEVAを含有することがより好ましく、2?3種のEVAを含有することが更に好ましい。
【0018】
含有された2種以上のEVAは、平均酢酸ビニル含有量(平均VA量)が37.5質量%以上45質量%以下である。平均VA量の下限値は38質量%であることが好ましく、38.5質量%であることがより好ましい。平均VA量の上限値は44質量%であることが好ましく、43質量%であることがより好ましい。平均VA量が37.5質量%未満であると必要な難燃性が発現せず、45質量%を超えると粘着性が増し、押出性が悪くなる。」

「【0033】
(難燃助剤)
本発明の実施形態に係るノンハロゲン難燃性樹脂組成物は、上記ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して、難燃助剤として、メラミンシアヌレート、すず酸亜鉛及び非晶質シリカから選ばれる1種類以上を5質量部以上50質量部以下の割合で含有する。上記難燃助剤の含有合計量が5質量部未満であると燃殻が維持されず、難燃性が悪化し、50質量部を超えると熱衝撃性、可とう性及び押出性が低下するためである。
【0034】
上記難燃助剤を2種以上併用する場合には、メラミンシアヌレート及びすず酸亜鉛、メラミンシアヌレート及び非晶質シリカ、すず酸亜鉛及び非晶質シリカ、3種すべて、の4通りの組み合わせが可能であるが、特にメラミンシアヌレート及びすず酸亜鉛の組み合わせが好ましい。メラミンシアヌレートとすず酸亜鉛の配合比(メラミンシアヌレート/すず酸亜鉛)は、2?6であることが好ましく、3?5であることがより好ましい。」

第5 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
ア 本願発明1と引用発明とを対比する。
(ア)引用発明の「樹脂組成物を絶縁被覆材とする絶縁電線」は、本願発明1の「導体と、前記導体の周囲に被覆される絶縁層とを有する電線」に対応するといえる。

(イ)引用発明の「ポリオレフィン樹脂、エチレン系共重合体、及びアクリルゴムからなる群から選ばれる少なくとも1種に対しモノエステル(メタ)アクリレート0.5?15質量%を加えグラフトしてなる樹脂組成物(A)100?20質量%と、ポリオレフィン樹脂、エチレン系共重合体、及びアクリルゴムからなる群から選ばれる少なくとも1種(B)0?80質量%とからなる樹脂成分(C)100質量部に対し、金属水和物150?300質量部を含有してなる樹脂組成物を絶縁被覆材」とする構成は、本願発明1の「前記絶縁層は、ベースポリマと、難燃剤とを含む難燃性樹脂組成物」からなる構成に一致するといえる。

(ウ)引用発明の「モノエステル(メタ)アクリレートをグラフトする部分(樹脂組成物)(A)、しない部分(B)の両方で使用することができるエチレン系共重合体」が「エチレン-酢酸ビニル共重合体」であり、「不飽和カルボン酸で変性されたポリオレフィン」が「上記ポリオレフィンの全部又は一部として使用する」ことができる構成は、本願発明1の「前記ベースポリマは、エチレン-酢酸ビニル共重合体と、変性ポリマとを」含む構成及び「前記変性ポリマは、不飽和カルボン酸またはその誘導体で変性されたポリオレフィン」である構成に一致するといえる。

(エ)引用発明の「金属水和物」を含有し、「メラミンシアヌレート化合物を添加しても良く」、「必要に応じスズ酸亜鉛、ヒドロキシスズ酸亜鉛及びホウ酸亜鉛から選ばれる少なくとも1種を配合」した構成は、本願発明1の「前記難燃剤は、金属水酸化物と、窒素系難燃剤と、亜鉛系化合物とを」含む構成に一致するといえる。

(オ)引用発明の「金属水和物は、予め脂肪酸やリン酸エステルなどで部分的に表面処理した水酸化マグネシウムに追加的に末端に反応性の有するシランカップリング剤を用い表面処理を行ったもの」であるから、引用発明の「金属水和物」は、本願発明1の「シランカップリング剤と脂肪酸類とにより表面処理された水酸化マグネシウムを含」む「前記金属水酸化物」に一致するといえる。

(カ)引用発明の「エチレン-酢酸ビニル共重合体」について、引用発明の実施例1ないし15で、VA含有量が80質量%のレバプレン800HV(商品名、ランクセス社製)、及び、VA含有量が41質量%のYX-21(商品名、東ソー社製)を少なくとも使用している。
そして、この「VA含有量が80質量%のレバプレン800HV(商品名、ランクセス社製)」及び「VA含有量が41質量%のYX-21(商品名、東ソー社製)」は、それそれ、「酢酸ビニル含有量が60質量%以上」のエチレン-酢酸ビニル共重合体及び「酢酸ビニル含有量が60質量%未満」のエチレン-酢酸ビニル共重合体であることから、引用発明の「VA含有量が80質量%のレバプレン800HV(商品名、ランクセス社製)」、及び、「VA含有量が41質量%のYX-21(商品名、東ソー社製)」は、本願発明1の「酢酸ビニル含有量が60質量%以上の第1のエチレン-酢酸ビニル共重合体」及び「酢酸ビニル含有量が60質量%未満の第2のエチレン-酢酸ビニル共重合体」に対応する。
してみると、引用発明の「モノエステル(メタ)アクリレートをグラフトする部分(樹脂組成物)(A)、しない部分(B)の両方で使用することができるエチレン系共重合体は、エチレン-酢酸ビニル共重合体であり」、「VA含有量が80質量%のレバプレン800HV(商品名、ランクセス社製)、及び、VA含有量が41質量%のYX-21(商品名、東ソー社製)を少なくとも使用している」ことは、本願発明1の「前記エチレン-酢酸ビニル共重合体」と、「酢酸ビニル含有量が60質量%以上の第1のエチレン-酢酸ビニル共重合体と、酢酸ビニル含有量が60質量%未満の第2のエチレン-酢酸ビニル共重合体とを含」む点で一致するといえる。

(キ)引用発明の「金属水和物の配合量は、樹脂成分(C)100質量部に対して、150質量部?300質量部」であり、「メラミンシアヌレート化合物の配合量は、エチレン系共重合体とアクリルゴムの合計100質量部に対して0?70質量部、好ましくは0?60質量部」である構成と、本願発明1の「前記難燃性樹脂組成物は、」「前記ベースポリマ100質量部に対して、前記難燃剤を265質量部以上330質量部以下含有し、」「前記ベースポリマ100質量部に対して、前記金属水酸化物を235質量部以上300質量部未満含有し、」「前記ベースポリマ100質量部に対して、前記窒素系難燃剤を25質量部以上80質量部未満含有し、」「前記ベースポリマ100質量部に対して、前記亜鉛系化合物を5質量部以上40質量部未満含有」する構成は、「前記難燃性樹脂組成物は、」「前記ベースポリマ100質量部に対して、前記金属水酸化物を235質量部?300質量部未満含有し、」「前記ベースポリマ100質量部に対して、前記窒素系難燃剤を25質量部以上70質量部未満含有」することを含む構成である点で共通するといえる。

(ク)引用発明の「絶縁電線」は、後述する相違点を除き、本願発明1の「電線」に一致するといえる。

イ したがって、本願発明1と引用発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。

(一致点)
「導体と、前記導体の周囲に被覆される絶縁層とを有する電線であって、
前記絶縁層は、ベースポリマと、難燃剤とを含む難燃性樹脂組成物からなり、
前記ベースポリマは、エチレン-酢酸ビニル共重合体と、変性ポリマとを含み、
前記難燃剤は、金属水酸化物と、窒素系難燃剤と、亜鉛系化合物とを含み、
前記変性ポリマは、不飽和カルボン酸またはその誘導体で変性されたポリオレフィンであり、
前記金属水酸化物は、シランカップリング剤と脂肪酸類とにより表面処理された水酸化マグネシウムを含み、
前記エチレン-酢酸ビニル共重合体は、酢酸ビニル含有量が60質量%以上の第1のエチレン-酢酸ビニル共重合体と、酢酸ビニル含有量が60質量%未満の第2のエチレン-酢酸ビニル共重合体とを含み、
前記難燃性樹脂組成物は、前記ベースポリマ100質量部に対して、前記金属水酸化物を235質量部以上300質量部未満含有し、
前記難燃性樹脂組成物は、前記ベースポリマ100質量部に対して、前記窒素系難燃剤を25質量部以上70質量部未満含有する、電線。」

(相違点1)
「第2のエチレン-酢酸ビニル共重合体」に関し、本願発明1では、「前記第2のエチレン-酢酸ビニル共重合体は、酢酸ビニル含有量が20質量%以上60質量%未満の第5のエチレン-酢酸ビニル共重合体と、酢酸ビニル含有量が20質量%未満の第6のエチレン-酢酸ビニル共重合体とを含」んでいるのに対して、引用発明は「VA含有量が41質量%のYX-21(商品名、東ソー社製)」を含むことから、「酢酸ビニル含有量が20質量%以上60質量%未満の第5のエチレン-酢酸ビニル共重合体」を含むとはいえるものの、「酢酸ビニル含有量が20質量%未満の第6のエチレン-酢酸ビニル共重合体」に対応する成分を含んでいない点。

(相違点2)
「難燃性樹脂組成物」に関し、本願発明1では、「前記難燃性樹脂組成物は、」「前記ベースポリマ100質量部に対して、前記難燃剤を265質量部以上330質量部以下含有し、」「前記ベースポリマ100質量部に対して、前記金属水酸化物を235質量部以上300質量部未満含有し、」「前記ベースポリマ100質量部に対して、前記窒素系難燃剤を25質量部以上80質量部未満含有し、」「前記ベースポリマ100質量部に対して、前記亜鉛系化合物を5質量部以上40質量部未満含有」するのに対し、引用発明では、金属水和物の配合量は、樹脂成分(C)100質量部に対して、150質量部?300質量部」であり、「メラミンシアヌレート化合物の配合量は、エチレン系共重合体とアクリルゴムの合計100質量部に対して0?70質量部」であり、「スズ酸亜鉛、ヒドロキシスズ酸亜鉛及びホウ酸亜鉛から選ばれる少なくとも1種」の配合割合は示されておらず、難燃剤全体の配合割合も特定されていない点。

(相違点3)
UL1581に準拠した試験に関し、本願発明1では、「UL1581に準拠した試験を実施し、前記絶縁層の引張強度が10.3MPa以上、前記絶縁層の伸びが150%以上であり、UL1581に準拠した低温巻き付け試験を実施し、-10℃で4時間冷却した後、冷却した前記電線の被覆外径の2倍径を有する金属マンドレルに巻き付けた後に、前記絶縁層にクラックが入らない低温特性とを有する」のに対し、引用発明では、絶縁層が上記のようなUL1581に準拠した試験に基づいて特定されていない点。

(2)相違点についての判断
上記相違点1について検討する。
上記相違点1に係る本願発明1の構成は、引用文献1、2には記載されておらず、示唆されてもいない。また、上記相違点1に係る本願発明1の構成は、本願の優先権主張日前に当該技術分野における周知技術であったとはいえない。
加えて、引用文献1には、「難燃性および機械特性向上の点からは、本発明で用いるエチレン系重合体として好ましいものはエチレン-酢酸ビニル共重合体である。また、難燃性を向上させるうえでエチレンに対し共重合させた共重合成分の含有量(例えばEVAでは酢酸ビニル(VA)含有量、EEAではエチルアクリレート(EA)含有量)が、23?80質量%が好ましく、さらに好ましくは25?80質量%である。」(【0020】)と記載されており、引用発明において、酢酸ビニル含有量が20質量%未満のエチレン-酢酸ビニル共重合体を含むようにする動機付けはない。

そして、上記相違点1に係る本願発明1の構成により、本願明細書に記載された「具体的には、(A2)VA量が60質量%未満のエチレン-酢酸ビニル共重合体として、(A21)VA量が60質量%未満20質量%以上のものと、(A22)VA量が20質量%未満のものとにより構成した場合には、VA量の異なる3種類のエチレン-酢酸ビニル共重合体の、それぞれの相溶性が高くなり、難燃性樹脂組成物としての機械特性をさらに向上させることができる」(【0117】)という効果を奏するものである。

そうすると、引用発明において、「酢酸ビニル含有量が20質量%未満のエチレン-酢酸ビニル共重合体を含む」ようにすること、すなわち、相違点1に係る本願発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。

したがって、他の相違点について判断するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても引用発明、引用文献2に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

2 本願発明2ないし6について
本願発明2ないし6も、本願発明1と同一の構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明及び引用文献2に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

第6 原査定について
上記第5で検討したように、本願発明1ないし6は、「前記第2のエチレン-酢酸ビニル共重合体は、酢酸ビニル含有量が20質量%以上60質量%未満の第5のエチレン-酢酸ビニル共重合体と、酢酸ビニル含有量が20質量%未満の第6のエチレン-酢酸ビニル共重合体」とを含むものであるから、当業者であっても、拒絶査定において引用された引用文献1及び2に基づいて、容易に発明できたものであるとはいえない。
したがって、原査定の理由を維持することはできない。

第7 むすび
以上のとおり、原査定の理由によって、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2021-09-01 
出願番号 特願2020-13380(P2020-13380)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H01B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 和田 財太  
特許庁審判長 辻本 泰隆
特許庁審判官 ▲吉▼澤 雅博
小田 浩
発明の名称 電線およびケーブル  

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