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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B22D
管理番号 1377573
審判番号 不服2020-6895  
総通号数 262 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-10-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-05-21 
確定日 2021-09-09 
事件の表示 特願2016-531478「放熱部品及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔2016年(平成28年)1月7日国際公開、WO2016/002943〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2015年(平成27年)7月3日(優先権主張 平成16年7月4日)を国際出願日とする特許出願であって、その後の手続の概要は、以下のとおりである。
平成28年12月15日 : 国内書面
令和 元年 7月25日付け : 拒絶理由通知書
令和 元年 9月25日 : 意見書
令和 元年 9月25日 : 手続補正書
令和 2年 2月17日付け : 拒絶査定
令和 2年 5月21日 : 審判請求書
令和 2年11月26日付け : 当審による審尋
令和 3年 1月28日 : 回答書

第2 本願発明
本願の請求項1-7に係る発明は、令和元年9月25日提出の手続補正書により補正(以下、単に「補正」という。)した特許請求の範囲の請求項1-7に記載した事項により特定されるとおりのものである。そして、そのうち請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。なお、本願発明は、補正前の請求項2に係る発明をさらに限定したものである。

「【請求項1】
炭化珪素を含む平板状の成形体を含む複合化部と複合化部の周縁部に形成された孔形成部とを備え、
孔形成部は貫通孔を有し、
孔形成部は無機繊維を3?30体積%含み、
成形体及び無機繊維にアルミニウムを含有する金属が含浸され、
孔形成部が外周面の一部を形成していることを特徴とする放熱部品。」

第3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由のうち、補正前の請求項2に係る発明に対して通知した理由であり、補正後の請求項1に対する原査定の理由は、本願の優先権主張の日(以下「優先日」という。)前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献1:特開2003-204022号公報

第4 引用文献の記載及び引用発明
1 引用文献の記載事項
(1)原査定の拒絶の理由で引用された本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、特開2003-204022号公報には、図面とともに、次の記載がある(下線は理解の便のため当審にて付与。以下同じ。)。

ア 特許請求の範囲
「【特許請求の範囲】
【請求項1】炭化珪素成形体にアルミニウム又はアルミニウム合金を含浸してなり、その少なくとも一部表面に前記アルミニウム又はアルミニウム合金からなる金属層を有する平板状の放熱部品であって、他の部品への取り付け用孔部を前記平板の主面に有しており、しかも前記孔部が前記炭化珪素成形体に取り囲まれないように設けられていることを特徴とする放熱部品。
【請求項2】前記孔部を形成している金属層が、前記炭化珪素成形体とは異なる無機物質を含有することを特徴とする請求項1記載の放熱部品。
・・・・・」

イ 発明の詳細な説明
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、高熱伝導でしかも熱膨張係数が小さいことから、パワーモジュール等に使用されるアルミニウム-炭化けい素質放熱部品に関するものであり、特に高い信頼性を有したアルミニウム-炭化けい素質放熱部品を提供するものである。
【0002】
【従来の技術】近年、電気自動車や電鉄用途におけるパワ-モジュ-ル用放熱板として、従来の銅に替わりアルミニウム-炭化けい素質複合体が使用されている。・・・・・
・・・・・
【0004】また、前記アルミニウム-炭化けい素質複合体は、表面加工や研磨を施したのち、メッキされ電子・電気部品から発生する熱を放熱するための部品、即ち放熱部品として用いられるが、電子・電気製品の中間工程においては、さらに放熱フィン等の他の放熱用の部品或いは製品外枠等にネジ止めされてモジュールとなる。そのため、アルミニウム-炭化けい素質複合体には、予めその外周或いはその近傍にネジ止め用の孔部が形成されている。
【0005】前記孔部の形成方法としては様々な方法が知られているが、プリフォームを作製する際に、予め成形時にピン等を用いて所定位置に孔を形成したプリフォ-ム、或いはプリフォ-ム作製後に所定位置を加工して孔部を設けたプリフォームなどを用いて、アルミニウム若しくはアルミニウム合金を含浸した後、金属部位を機械加工して孔部を形成する方法が行われている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、前記手法で形成された孔部をもつアルミニウム-炭化けい素質複合体を放熱フィン等の部品にネジ止めしようとすると、従来のものでは前記孔部で割れたり、またたとえ取り付け時には問題がなくとも、熱サイクルのかかる実使用時に、孔部にクラックが入る等の問題が発生するため、より信頼性の高い孔部をもつアルミニウム-炭化けい素質複合体が望まれていた。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明者は、上記状況に鑑み、孔及びその周辺部でのクラックや割れの発生原因及びその対策につき鋭意検討を重ねた結果、クラックや割れの発生は、孔及びその周辺部に存在する微小クラック等の欠陥が存在していることが原因であること、そして、アルミニウム-炭化けい素質複合体は高強度は有するものの、靭性が不足しているため、破壊につながること等を見出すとともに、その対策として、孔の周囲をアルミニウム-炭化けい素質複合体で取り囲まないようにし、孔から外周に至る少なくとも1方向については、プリフォ-ムに由来する炭化けい素成分を排除し、積極的にアルミニウムまたはその合金で満たす構造を採用することで、孔部並びにその周辺の靱性を高め、クラックや割れが発生することを防止することに有効であることを見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0008】すなわち、本発明は炭化珪素成形体にアルミニウム又はアルミニウム合金を含浸してなり、その少なくと一部表面に前記アルミニウム又はアルミニウム合金からなる金属層を有する平板状の放熱部品であって、放熱フィン等への取り付け用孔部を前記平板の主面に有しており、しかも前記孔部が前記炭化珪素成形体に取り囲まれないように設けられていることを特徴とする放熱部品であり、好ましくは、前記孔部を形成している金属層が、前記炭化珪素成形体とは異なる無機物質を含有することを特徴とする前記の放熱部品である。
・・・・・
【0010】
【発明の実施の形態】本発明の最大の特徴は、アルミニウム-炭化けい素質からなる平板状放熱部品を放熱フィン等の他の放熱部品や製品外枠等の他の部品にネジ止めする際やネジ止め後の実使用時において発生する孔やその周辺部のクラック、割れ等の破損を抑制する新規な構造を見出した点にある。
・・・・・
【0012】一方、図2は本発明の平板状放熱部品の一例を示したものであり、外観的には図1の従来の平板状放熱部品と同じ外観を有し、上方から眺めたときに長方形をしていて、その4隅に他の部品にネジ止め固定するための貫通孔1が設けられ、また、アルミニウム-炭化珪素質複合材部分2と、アルミニウム又はその合金からなる金属部分3とからなるが、その構造、特に貫通孔1よりも外周部に存在する部分には、アルミニウム又はその合金からなる金属部分3が存在するのみで、従来のものと異なり、この部分にアルミニウム-炭化珪素質複合材部分2を存在させていない特徴がある。
【0013】本発明の放熱部品は、前述の構造を有しているので、この部分の靱性が向上し、その結果として、従来構造のもので発生しやすかったクラックや割れの発生を防止することができるという特徴を有している。尚、従来の放熱部品の場合と同じく、主平面にアルミニウム又はその合金からなる金属部分3が存在しても、或いは存在していなくても構わない。
【0014】本発明において、前記アルミニウム又はその合金からなる金属部分3には、無機成分を含むことが好ましい。これにより、貫通孔1付近を構成する部分の高靱性化が一層達成され易くなり、本発明の目的を一層達成しやすくなるからである。前記無機成分としては、プリフォームを形成している炭化珪素以外のものを選択するとき、貫通孔1並びにその近傍の構造、形状に応じて適切な高靱性化ができ、しかも含浸時のひけ、巣の発生を防止できるので好ましい。この様な無機成分の例として、アルミナ繊維等が挙げられる。
・・・・・
【0016】次に、本発明の平板状放熱部品を得る方法について、主として、湿式プレス法で炭化珪素成形体(プリフォーム)を得てこれにアルミニウムを溶湯鍛造法により含浸する方法を例に説明する。
・・・・・
【0018】前記炭化珪素粉末を成形する方法としては、従来より公知の乾式プレス法、湿式プレス法、押出し成型法、インジェクション法、キャスティング法、シート成形後打ち抜く方法等を用いることができる。また、含浸時に割れなどの異常を発生しないような強度を発現させるために、無機質或いは有機質のバインダーを前記成形方法に応じて適宜添加することもできる。前記バインダーとしてシリカゾルが、高強度のプリフォームが得やすいので、好ましい。
【0019】例えば、湿式プレス法を適用する場合には、多孔質の凹凸型を用意し、凹型内に炭化珪素粉末と無機バインダー及び水を主成分とするスラリーを充填し、凸型で圧縮成形すれば良いが、本発明では、得られるプリフォームが、例えば図2や図3に示した通りに、貫通孔を形成する部分とならないように、付形されていれば良い。
・・・・・
【0021】アルミニウムやアルミニウム合金の前記プリフォームへの含浸は、いわゆる溶湯鍛造法やダイカスト法が採用できる。・・・・・
・・・・・
【0022】なお、含浸で発生する引けスの発生防止のために、貫通孔を開ける部位に、予め炭化珪素以外の無機物、たとえばアルミナ繊維等を充填した成形体を使用し、含浸することが好適に行われる。この際、使用する無機物はアルミニウムまたはその合金との反応性が低いことが望ましく、また、その充填率は使用する無機物により異なるが、通常30体積%以下が好ましい。充填率を高くすると、この部分が硬くなるため、後の貫通孔加工時に負担がかかるためである。
・・・・・
【0024】
【実施例】〔実施例1〕平均粒径が100μmの炭化けい素粉末(大平洋ランダム社製)65質量部と平均粒径が13μmの炭化けい素粉末(大平洋ランダム社製)35質量部とを混合し、水を9質量部、コロイダルシリカ溶液(日産化学社製、商品名スノーテックスO)を12質量部ならびに減水剤(グレースケミカルズ社製、商品名スーパー200)を3質量部、さらには増粘剤を0.5質量部(ビックケミー・ジャパン社製 商品名BYK-P104S)添加し、十分に攪拌混合し、スラリーを作製した。
【0025】前記スラリーを、真空攪拌脱泡機にて脱泡後、長さが120mmで幅が70mmのキャビティー(但し、4隅が15mmサイズで残っている)を有し、前記キャビティー表面に配置され、しかも外部から真空引きできる構造の吸水スリットを有しいる凹型内に充填し、その後、凸型を載せ、真空引きを行いながら総荷重5000Kg重(4.9×10^(8)Pa)下で成形後脱型して、厚み3mmの成形体を得た。前記成形体を120℃で乾燥後、800℃にて2時間、空気中で焼成して、プリフォームを得た。前記プリフォームは、重量及び寸法測定から、相対密度を算出した。
【0026】次に、前記プリフォームを、外形が140mm×90mm×6mmで、片面に120mm×70mm×3mmのキャビティーをもち、さらに前記70mmの辺から垂直方向に外部に向けて幅15mm、深さ2mmの湯口となる溝を有し、かつ前記6mmの厚み部分で、その厚み方向にボルト止め用の穴を4つ有するステンレス製の型内にセットした。この際、型と成形体にできる4隅の空隙部には、アルミニウム質短繊維を充填した。次に、この上に、厚さ3mmで前記のキャビティーを有する型の穴位置に対応する穴を有するステンレス製の板を載せ、ボルトにて固定して、一つのブロックとした。なお、予めキャビティーを有する型及びステンレス製板には、含浸後の成形体の離型性をよくするため、カーボン粉末を塗布した。
【0027】前記ブロックを、600℃で1時間加熱した後、すぐに含浸用の容器内にセットし、850℃の溶融アルミニウム合金(シリコンを12質量%、マグネシウムを0.5質量%含有する)を前記ブロックが隠れるまで注入し、容器をピストン状の凸型にて密閉し、前記ピストンを押圧することで前記溶融アルミニウム合金を加圧した。冷却後、アルミニウム(Al)合金に包まれたブロックを脱型し、ブロックを覆うアルミニウム合金を除くことで、ブロックを解体し、アルミニウム合金と炭化珪素とからなる120mm×70mm×3mmの平板状のアルミニウム-炭化珪素質複合体を取り出した。前記複合体の主面の4隅に、周囲から7.5mmの位置に中心のある、直径7.5mmの貫通孔を機械加工にて形成し、図2に示した形状の複合体とした。」

ウ 図面




(2)上記記載のうち、特に段落【0024】-【0027】の「実施例1」に着目すると、次の技術的事項が記載されているものと認められる。
ア 炭化けい素粉末、水、コロイダルシリカ溶液、減水剤、増粘剤を添加したスラリー(【0024】)を、長さ120mm、幅70mmで4隅が15mmサイズで残っているキャビティーに充填して、真空引きを行いながら荷重をかけて成形することで、厚み3mmの成形体とし、成形体を焼成してプリフォームとすること(【0025】)。

イ プリフォームを外形が140mm×90mm×6mmで、片面に120mm×70mm×3mmのキャビティーをもつステンレス製の型内にセットし、この際に、型と成形体にできる4隅の空隙部には、アルミニウム質短繊維を充填すること(【0026】)。

ウ ステンレス製の型の上にステンレス製の板を載せてボルトで固定してブロックとすること(【0026】)。

エ ブロックを加熱した後、含浸用の容器内にセットし、溶融アルミニウム合金をブロックが隠れるまで注入し、アルミニウム合金を加圧して、冷却後、ブロックを脱型し、ブロックを覆うアルミニウム合金を除くことで、ブロックを解体し、アルミニウム合金と炭化けい素とからなる120mm×70mm×3mmの平板状のアルミニウム-炭化珪素質複合体を取り出すこと(【0027】)。

オ 平板状のアルミニウム-炭化珪素質複合体の主面の4隅に周囲から7.5mmの位置に中心のある直径7.5mmの貫通孔を形成し、図2の形状の複合体とすること(【0027】)。

カ 上記アの成形体は、長さ120mm、幅70mmで、4隅が15mmサイズで残っているキャビティーによって成形されているから、4隅が15mmサイズで欠けたものといえるところ、上記イのステンレス製の型内にセットする際に、型と成形体にできる4隅の空隙部にアルミニウム質短繊維を充填するものであり、特段のスペーサ等を用いる等、空隙内における充填の度合いを偏在させることについての記載があるわけではないから、成形体の4隅の欠けた部分には、型に接する部位にまでアルミニウム質短繊維が充填されているといえる。

キ したがって、上記エの平板状のアルミニウム-炭化珪素質複合体の4隅の少なくとも15mmの部分には、アルミニウム質短繊維にアルミニウム合金が含浸された部分が存在するといえるし、上記オのとおり、当該アルミニウム質短繊維にアルミニウム合金が含浸された部分に貫通孔が形成されることは明らかである。なお、複合体の4隅の15mmの部分は、図2の記載からみて、4隅を中心とする半径15mmの円弧状の部分と推認できる。

(3)上記(1)、(2)から、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
「120mm×70mm×3mmの平板状のアルミニウム-炭化珪素質複合体と複合体の4隅の15mmの部分とを備え、
複合体の4隅の15mmの部分は周囲から7.5mmの位置に中心のある直径7.5mmの貫通孔を有し、
複合体の4隅の15mmの部分はアルミニウム質短繊維を含み、
複合体及びアルミニウム質短繊維にアルミニウム合金が含浸され、
複合体の4隅の15mmの部分が複合体の4隅を形成している放熱部品。」

第5 対比
本願発明と引用発明を対比すると、以下のとおりとなる。
1 本願発明と引用発明の相当関係
(1)引用発明の「120mm×70mm×3mmの平板状のアルミニウム-炭化珪素質複合体」は本願発明の「炭化珪素を含む平板状の成形体を含む複合化部」に相当し、以下同様に、「周囲から7.5mmの位置に中心のある直径7.5mmの貫通孔」は「貫通孔」に、「アルミニウム質短繊維」は「無機繊維」に、「アルミニウム合金」は「アルミニウムを含有する金属」に、「複合体の4隅」が「外周面の一部」に、それぞれ相当する。

(2)引用発明の「複合体の4隅の15mmの部分」は、引用文献の段落【0027】の「前記複合体の主面の4隅に、周囲から7.5mmの位置に中心のある、直径7.5mmの貫通孔を機械加工にて形成し、図2に示した形状の複合体とした」との記載、及び本願明細書の段落【0035】の「放熱部品1の周縁部とは、放熱部品1の外周面(側面)から内側に所定の距離までの範囲を意味する。」との周縁部の定義を踏まえれば、本願発明の「複合化部の周縁部に形成された孔形成部」に相当する。

2 一致点
本願発明と引用発明は、以下の構成において一致する。
「炭化珪素を含む平板状の成形体を含む複合化部と複合化部の周縁部に形成された孔形成部とを備え、
孔形成部は貫通孔を有し、
孔形成部は無機繊維を含み、
成形体及び無機繊維にアルミニウムを含有する金属が含浸され、
孔形成部が外周面の一部を形成している放熱部品。」

3 相違点
本願発明と引用発明は、以下の点で相違する。
本願発明の孔形成部は無機繊維を「3?30体積%」含むのに対して、引用発明は孔形成部である複合体の4隅の15mmの部分の無機繊維であるアルミナ繊維等の無機物の充填率は不明である点。

第6 判断
1 相違点について
引用文献1の段落【0022】には、アルミニウムまたはその合金との反応性が低く、アルミナ繊維等が例示された炭化珪素以外の無機物について、貫通孔を開ける部位への充填率が、通常30体積%以下であることが好ましい旨記載されている。
この無機物の充填率に関する記載内容は、その具体例である実施例1に示された複合体の貫通孔を開ける部位である、4隅の15mmの部分に充填されるアルミ質短繊維にも敷衍されることが明らかである。
そして、上記の段落【0022】の記載には下限値が示されていないが、アルミナ繊維等の無機物を含むことの理由として、段落【0014】には、「貫通孔1付近を構成する部分の高靱性化が一層達成され易く」なること、「貫通孔1並びにその近傍の構造、形状に応じて適切な高靱性化ができ、しかも含浸時のひけ、巣の発生を防止できる」こと、段落【0022】には、「含浸で発生する引けスの発生防止」のためであることが記載されていることからみて、アルミナ繊維等の無機物は積極的に含まれるべきものであるから、下限値を0体積%とすることは想定されないものであるところ、貫通孔1付近を構成する部分の高靱性化、及び含浸時のひけ、巣(引けス)の発生を防止させるという観点から、3体積%を下限値とすることは、設計的事項に過ぎない。
また、上記のとおり、引用発明においてアルミナ繊維等の無機物を含まないことは想定されないものであるから、0体積%を含まないことは明らかであるところ、本願発明において下限値を3体積%としたことによる臨界的意義等、格別の意義も認められないから、この点からも適宜設定し得た事項といえる。
さらに、上限値は両発明とも30体積%であるが、その理由も、ともに貫通孔の加工を容易にする(本願明細書の段落【0046】)、及び貫通孔加工時に負担がかかることを抑制する(引用文献1の段落【0022】)ためであって共通することからみて、数値範囲全体においても本願発明に有利な点を見出すことはできない。

2 請求人の主張について
(1)審判請求書の請求の理由における主張
ア 請求人は、請求の理由において、本願発明と引用発明の相違点を、
「本願請求項1の放熱部品は、孔形成部全体に3?30体積%の無機繊維が含まれ、放熱部品の外周面の少なくとも一部が無機繊維を含む孔形成部により形成されているが、引用文献1の放熱部品はこれらの特定が無い点。」
であるとした上で、「引用文献1の放熱部品において、無機繊維は、貫通孔とその周辺のみに存在しており、『放熱部品の外周面を形成する孔形成部全体』」には存在していません。」との主張をする。

イ 上記アの主張に関して、請求人は、引用文献1では、貫通孔を設ける部位に無機繊維を充填していること、引用文献1の段落【0026】の「プリフォームの空隙部にアルミニウム質短繊維を充填する」ことについて、U字型の長方形のフレームを用いて、貫通孔を設ける部位に無機繊維を充填し、フレームが配置されていた場所は、「空隙」となって無機繊維が充填されないことから、引用文献1の放熱部品では、放熱部品の外周面には無機繊維が存在しないことを説明する。

ウ 令和2年2月17日付けの拒絶査定の備考欄において、引用文献1の段落【0022】の記載から、「引けスの発生防止という効果についても、引用文献1に記載されている。」と説示したことに対しては、請求人は、引用文献1の当該記載は、「貫通孔を設ける部位で発生する引け鬆の発生を抑制できる」ことを記載しているのみであることを主張する。

エ 本願にかかる放熱部品は製造時に切り出し加工を行うため、放熱部品の少なくとも一部の外周面を形成する孔形成部全体に、3?30体積%の無機繊維を含んでおり、放熱部品の外周面に、無機繊維が露出している構成となっていることから、本願発明の放熱部品の構成と、引用発明の放熱部品の構成は明らかに異なり、引用発明に基づいて本願発明の構成に想到するのは容易ではないことを主張し、さらに、本願発明が、貫通孔周辺の割れやクラックの発生を抑制できるだけでなく、引け鬆や穴鬆の発生をも、効果的に抑制することができるという予測し得ない効果を奏する旨を主張する。

(2)請求の理由における主張の検討
ア 上記(1)ア-ウの主張に対して、引用文献1の段落【0014】には「本発明において、前記アルミニウム又はその合金からなる金属部分3には、無機成分を含むことが好ましい。これにより、貫通孔1付近を構成する部分の高靱性化が一層達成され易くなり、本発明の目的を一層達成しやすくなるからである。」との記載が、段落【0022】には、「なお、含浸で発生する引けスの発生防止のために、貫通孔を開ける部位に、予め炭化珪素以外の無機物、たとえばアルミナ繊維等を充填した成形体を使用し、含浸することが好適に行われる。・・・また、その充填率は使用する無機物により異なるが、通常30体積%以下が好ましい。・・・」との記載が、段落【0029】には、「・・・この際、型と成形体にできる4隅の空隙部には、アルミニウム質短繊維を充填した。・・・」との記載がある。
また、段落【0022】には、「貫通孔を開ける部位に、予め炭化珪素以外の無機物、たとえばアルミナ繊維等を充填した成形体を使用し、含浸することが好適に行われる。」と記載される一方、実施例についての説明である段落【0026】には「型と成形体にできる4隅の空隙部には、アルミニウム質短繊維を充填した。」とのみ記載されていることから、4隅の空隙部には均等にアルミニウム質短繊維が充填されるものであって、無機物は、全体に亘って30体積%以下の充填率となっているものと理解するのが自然である。
加えて、請求人による、無機繊維は、貫通孔とその周辺のみに存在するものであるとの主張は、引用文献1にそのような記載がないのであるから、根拠がない。
よって、引用発明の放熱部品が、無機繊維は、貫通孔とその周辺のみに存在しているとも、アルミニウム又はその合金からなる金属部分3の放熱部品の外周面には無機繊維が存在しないものとも認められない。

イ 次に、上記(1)エの主張を検討すると、そもそも本願発明は、切り出し加工について特定していないから、請求人の主張は特許請求の範囲の裏付けを欠き、失当である。
加えて、上記第4の1(1)カのとおり、成形体の4隅の欠けている部分には、型に接する部位にまでアルミニウム質短繊維が充填されているといえるから、無機繊維であるアルミニウム質短繊維は、外周面まで存在するものと理解できる。

ウ したがって、本願発明と引用発明の相違点は、請求人が請求の理由で主張する「本願請求項1の放熱部品は、孔形成部全体に3?30体積%の無機繊維が含まれ、放熱部品の外周面の少なくとも一部が無機繊維を含む孔形成部により形成されているが、引用文献1の放熱部品はこれらの特定が無い点。」ではなく、上記第5の3「相違点」で認定したとおりである。
そして、これに対する判断は、上記1の「相違点について」のとおりである。

(2)審尋に対する回答書における主張
ア 当審は、上記(1)ア及びイに示す請求人の主張の根拠が判然とせず、また、請求人は審判請求書において、さらなる弁明の機会を希望していたことから、当審は、令和2年11月26日付けで、請求人に「審判請求書に記載した請求の理由において、引用文献1の放熱部品において、無機繊維は、貫通孔とその周辺のみに存在しており、『放熱部品の外周面を形成する孔形成部全体』には存在していないことを主張するが、その根拠を引用文献1の記載に基づいて説明すること」を内容とする審尋を行った。

イ これに対して、請求人は、引用文献1の段落【0006】、【0007】、【0014】の記載から、「引用文献1で問題としているのは、孔部付近を構成する部分の高靭性化であり、金属部分全体の高靭性化ではありません。」と説明し、これらの記載に加えて、段落【0022】、【0026】、【0027】の記載、及び無機繊維を用いると放熱部品のコストが上昇することから経済的な合理性を考慮することで、引用発明について、「“貫通孔を開ける部位”に無機繊維が充填されている」といえることを主張し、加えて、本願発明では、切り出し加工を行うために「無機繊維を含む孔形成部が外周面を形成するという構成」を有し、この構成が引用発明との相違点となる旨を主張する。

ウ しかしながら、上記(1)で検討したとおり、4隅の空隙部には均等にアルミニウム質短繊維が充填されるものであって、無機物は、全体に亘って30体積%以下の充填率となっているものと理解するのが自然であり、引用発明は、無機物を貫通孔とその周辺のみに限って充填するものではない。
また、本願発明に、切り出し加工に関する特定がない以上、切り出し加工を前提とする主張は採用できない。
さらに、請求人は、「フェルト状の無機繊維の使用」に基づいた主張もするが、引用文献1の記載に基づいたものではない。

したがって、請求人の主張は、いずれも採用することができない。



第7 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用文献1に記載された発明に基づいて、本願の優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。

 
審理終結日 2021-06-30 
結審通知日 2021-07-06 
審決日 2021-07-21 
出願番号 特願2016-531478(P2016-531478)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B22D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 藤長 千香子  
特許庁審判長 刈間 宏信
特許庁審判官 田々井 正吾
見目 省二
発明の名称 放熱部品及びその製造方法  
代理人 園田・小林特許業務法人  

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