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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H03H
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 H03H
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 H03H
管理番号 1377579
審判番号 不服2020-15732  
総通号数 262 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-10-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-11-13 
確定日 2021-09-28 
事件の表示 特願2017-203112「弾性波装置」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年 5月23日出願公開、特開2019- 80093、請求項の数(11)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 結 論
原査定を取り消す。
本願の発明は、特許すべきものとする。

理 由
第1 手続の経緯
本願は、2017年10月20日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。

2020年 2月 6日付け:拒絶理由通知書
2020年 4月 7日 :意見書、手続補正書の提出
2020年 8月13日付け:拒絶査定
2020年11月13日 :審判請求書、手続補正書の提出

第2 原査定の概要
原査定(2020年 8月13日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

1.(新規性)この出願の請求項1?7に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用文献1に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

2.(進歩性)この出願の請求項1?11に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用文献1?5に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

3.(明確性)この出願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

1.国際公開第2016/084526号
2.特開平11-298286号公報
3.国際公開第2014/192756号
4.特表2013-544041号公報
5.特表2013-518455号公報

なお、各請求項にかかる発明と各引用文献の対応関係は、以下のとおりである。
・請求項1?7に係る発明ついては、引用文献1に記載された発明を引用
・請求項8、10、11に係る発明については、引用文献1?4に記載された発明を引用
・請求項9にかかる発明については、引用文献1?3、5に記載された発明を引用

第3 本願発明
本願請求項1?11に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」?「本願発明11」という。)は、2020年11月13日の手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1?11に記載された事項により特定される以下のとおりの発明である。

「【請求項1】
圧電膜と、
前記圧電膜を伝搬する弾性波の音速よりも低速のバルク波が伝搬する低音速材料層と、
前記圧電膜を伝搬する弾性波の音速よりも高速のバルク波が伝搬する高音速材料層とを有し、前記高音速材料層と前記圧電膜との間に前記低音速材料層が配置されており、逆速度面が凸である積層型基板と、
前記圧電膜上に設けられたIDT電極とを備え、
前記IDT電極が、対向し合っている第1及び第2のバスバーと、前記第1のバスバーから前記第2のバスバー側に延ばされた複数本の第1の電極指と、前記第2のバスバーから前記第1のバスバーに向かって延ばされた複数本の第2の電極指とを有し、
前記IDT電極の電極指ピッチで定まる波長をλとしたときに、
前記第1の電極指の先端と前記第2のバスバーとの間の第1のギャップ、及び前記第2の電極指の先端と前記第1のバスバーとの間の第2のギャップの前記第1及び前記第2の電極指が延びる方向に沿う寸法であるギャップ長が、0.22λ以下である、弾性波装置。
【請求項2】
前記IDT電極において、前記第1の電極指と前記第2の電極指とが弾性波伝搬方向に重なり合っている交差領域が、前記第1及び前記第2の電極指の延びる方向中央における中央領域と、前記中央領域の前記第1及び前記第2の電極指の延びる方向両外側に配置された第1及び第2のエッジ領域とを有し、前記第1及び前記第2のエッジ領域の音速が、前記中央領域の音速よりも低くされている、請求項1に記載の弾性波装置。
【請求項3】
前記第1及び前記第2のエッジ領域において、前記第1及び前記第2の電極指の弾性波伝搬方向に沿う寸法である幅が、前記中央領域における前記第1及び前記第2の電極指の幅よりも太くされている、請求項2に記載の弾性波装置。
【請求項4】
前記第1及び前記第2のバスバーが、弾性波伝搬方向に沿って延びる複数の開口を有し、前記第1及び前記第2のバスバーにおける、前記複数の開口の前記交差領域側の部分が、それぞれ第1及び第2の細バスバー部とされており、前記第1及び前記第2のバスバーにおける、前記複数の開口の前記交差領域とは反対側の部分がそれぞれ第1及び第2の外側バスバー部とされており、前記第1及び前記第2の細バスバー部と、前記第1及び前記第2の外側バスバー部とが、前記複数の開口間に配置された連結部により連結されている、請求項2または3に記載の弾性波装置。
【請求項5】
前記圧電膜がLiTaO_(3)からなり、厚みが3.5λ以下である、請求項1?4のいずれか1項に記載の弾性波装置。
【請求項6】
前記高音速材料層が、高音速材料からなる支持基板である、請求項1?5のいずれか1項に記載の弾性波装置。
【請求項7】
前記高音速材料層を支持している支持基板をさらに備える、請求項1?5のいずれか1項に記載の弾性波装置。
【請求項8】
前記第1及び前記第2のエッジ領域に質量付加膜として第1の誘電体膜が積層されている、請求項3または4に記載の弾性波装置。
【請求項9】
前記第1及び前記第2の電極指の前記第1及び前記第2のエッジ領域に位置している部分に質量付加膜として金属膜が積層されている、請求項3または4に記載の弾性波装置。
【請求項10】
前記第1の誘電体膜が、前記第1及び前記第2のバスバー、及び前記第1及び前記第2のギャップにおいても積層されている、請求項8に記載の弾性波装置。
【請求項11】
前記IDT電極上に周波数調整膜として第2の誘電体膜が積層されており、前記第2の誘電体膜を介して、前記第1の誘電体膜が積層されている、請求項10に記載の弾性波装置。」

第4 引用文献、引用発明等
1.国際公開第2016/084526号(以下、「引用文献1」という。)
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている。

「[0007] 本発明に係る弾性波装置は、圧電膜を有する弾性波装置であって、前記圧電膜を伝搬する弾性波の音速よりも、伝搬するバルク波音速が高速である高音速材と、前記高音速材上に積層されており、前記圧電膜を伝搬する弾性波音速よりも伝搬するバルク波音速が低速である低音速膜と、前記低音速膜上に積層された前記圧電膜と、前記圧電膜の一方面に形成されているIDT電極とを備え、前記IDT電極が、第1のバスバーと、前記第1のバスバーと隔てられて配置された第2のバスバーと、前記第1のバスバーに基端が電気的に接続されており、先端が前記第2のバスバーに向かって延ばされている複数本の第1の電極指と、前記第2のバスバーに基端が接続されており、先端が前記第1のバスバーに向かって延ばされている複数本の第2の電極指とを有し、前記第1及び第2の電極指の延びる方向と直交する方向を幅方向としたときに、前記第1及び第2の電極指の少なくとも一方において、前記第1及び第2の電極指の長さ方向中央に比べて幅方向寸法が大きくされている太幅部が、中央領域よりも前記基端側および前記先端側のうちの少なくとも一方の側に設けられており、前記第1及び第2のバスバーの少なくとも一方が前記第1または第2のバスバーの長さ方向に沿って分離配置された複数の開口部を有し、前記第1及び第2のバスバーが、前記開口部よりも前記第1または第2の電極指側に位置しており、かつ前記第1及び第2のバスバーの長さ方向に延びる内側バスバー部と、前記開口部が設けられている中央バスバー部と、前記内側バスバー部に対して、前記中央バスバー部を挟んで反対側に位置している外側バスバー部とを有する。」

「[0012] 本発明に係る弾性波装置の別の特定の局面では、前記第1及び第2の電極指の先端と、前記第1及び第2の電極指の先端と対向している第2,第1のバスバーとの間の距離が、弾性表面波の波長をλとしたときに、0.5λ以下とされている。この場合には、低音速領域中の高音速な部分の幅を小さくすることができる。従って、伝搬するモードを理想的なピストンモードに近づけることができる。」

「[0025] 図2に示すように、弾性波装置1は、高音速材としての高音速支持基板7を有する。高音速支持基板7は、Siからなる。高音速支持基板7上に、音速が相対的に低い低音速膜8が積層されている。また、低音速膜8上に圧電膜9が積層されている。この圧電膜9の上面にIDT電極3が積層されている。なお、圧電膜9の下面にIDT電極3が積層されていてもよい。」

「[0041] IDT電極3は、交叉幅重み付けが施されていない正規型のIDT電極であり、電極指周期は2.0μmである。もっとも、IDT電極の電極指周期は特に限定されない。また、電極指の対数は150対、交叉部は10λ(λはIDT電極で励振される弾性波の波長)である。反射器4,5は両端を短絡してなるグレーティング反射器である。反射器4,5における電極指の本数は20本である。」

「[0077] また、本実施形態では、上記第2の電極指14の先端と、第1のバスバー11との間の弾性表面波伝搬方向と直交する方向に沿う距離、すなわち領域V3で示される電極指先端と相手側のバスバーとの間のギャップの寸法は小さい方が望ましい。もっとも、領域V3の上記寸法を小さくするにも、プロセス上の限界がある。本願発明者らの実験によれば、弾性表面波の波長をλとしたとき、0.5λ以下、より好ましくは0.25λ以下であることが望ましい。」

「【図1】


「【図2】



したがって、上記引用文献1には次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されている。

「圧電膜を有する弾性波装置であって、
前記圧電膜を伝搬する弾性波の音速よりも、伝搬するバルク波音速が高速である高音速材としての高音速支持基板と、
前記高音速材としての高音速基板上に積層されており、前記圧電膜を伝搬する弾性波音速よりも伝搬するバルク波音速が低速である低音速膜と、
前記低音速膜上に積層された前記圧電膜と、
前記圧電膜の一方面に形成されているIDT電極とを備え、
前記IDT電極が、第1のバスバーと、前記第1のバスバーと隔てられて配置された第2のバスバーと、前記第1のバスバーに基端が電気的に接続されており、先端が前記第2のバスバーに向かって延ばされている複数本の第1の電極指と、前記第2のバスバーに基端が接続されており、先端が前記第1のバスバーに向かって延ばされている複数本の第2の電極指とを有し、
前記第1及び第2の電極指の先端と対向している第2,第1のバスバーとの間の距離が、IDT電極で励振される弾性波の波長をλとしたときに、0.5λ以下とされ、より好ましくは0.25λ以下であることが望ましい、
弾性波装置。」

2.特開平11-298286号公報(以下、「引用文献2」という。)
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2には、図面とともに次の事項が記載されている。

「【0005】上記のような、導波状態、即ち表面波の振動エネルギーが閉じ込められる状態を形成するためには、いくつかの条件を充たす必要がある。橋本らが「有限厚金属グレーティングを斜め伝搬する弾性表面波の高速解析法」、電子情報通信学会技報、US95-47(1955-09)に示しているように、導波状態を形成するためには、IDT電極20の電極指の垂直方向(主伝搬方向)と表面波の伝搬方向とのなす角度が小さい範囲で、表面波の逆速度面(逆速度とは表面波の位相速度の逆数即ちSlownessを云う)が図7(a)に示すように進行方向に凸である場合には、図6に示す内側のグレーティング領域Aにおける表面波の速度を外側の領域Bのそれよりも遅く、また、図7(b)に示すように逆速度面が進行方向に凹である場合には、領域Bの速度の方を領域Aのそれよりも遅くしなければならないことが示されている。」

3.国際公開第2014/192756号(以下、引用文献3という。)
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献3には、図面とともに次の事項が記載されている。

「[0021] 弾性波装置1は、本実施形態では、1ポート型弾性表面波共振子である。図1(a)に示すように、弾性波装置1は、圧電基板2を有する。本実施形態では、圧電基板2は、128度Y-XのLiNbO_(3)基板からなる。もっとも、圧電基板2は、逆速度面が凸であり、例えばLiNbO_(3)やLiTaO_(3)などのように電気機械結合係数が比較的大きければ、他の圧電単結晶、あるいは圧電セラミックスにより形成されてもよい。圧電基板2上には、IDT電極3が形成されている。IDT電極3の弾性表面波伝播方向両側に、反射器4,5が形成されている。IDT電極3の詳細を、図1(b)を参照して後ほど詳述する。」

4.特表2013-544041号公報(以下、引用文献4という。)
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献4には、図面とともに次の事項が記載されている。

「【0031】
また、弾性波デバイス100においては、バスバー領域の一部を誘電体膜で覆うことによって、バスバー領域に対するパッシベーション効果が得られる。このとき、音速関係は、(交差領域の音速)>(バスバー領域の音速)、(エッジ領域の音速)>(バスバー領域の音速)となる。」

「【0036】
図6に示すように、誘電体膜104は、2つの二酸化ケイ素膜104a、104bの積層構造であっても良い。この場合、二酸化ケイ素膜104aは、IDT電極102の上面の全面に積層されると共に、二酸化ケイ素膜104bは、IDT電極102の上面の交差領域以外の領域であるエッジ領域とギャップ領域とダミー領域に積層される。こうすることで、弾性波デバイス100の製造工程の歩留まりが良くなる。なお、二酸化ケイ素膜104bは、二酸化ケイ素膜より音速の速い他の材料の誘電体膜であっても良い。」

5.特表2013-518455号公報(以下、引用文献5という。)
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献5には、図面とともに次の事項が記載されている。

「【0123】
誘電性を有する重み付け層又は金属で構成された重み付け層の層厚は,10nm?1μmとすることができる。」

第5 対比・判断
1.本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明1とを対比すると、次のことがいえる。

(ア)引用発明1における「圧電膜」、「圧電膜を伝搬する弾性波の音速よりも、伝搬するバルク波音速が高速である高音速材としての高音速支持基板」及び「圧電膜を伝搬する弾性波音速よりも伝搬するバルク波音速が低速である低音速膜」は、それぞれ、本願発明1でいう『圧電膜』、『圧電膜を伝搬する弾性波の音速よりも高速のバルク波が伝搬する高音速材料層』及び『圧電膜を伝搬する弾性波の音速よりも低速のバルク波が伝搬する低音速材料層』に相当する。

(イ)引用発明1は、【図2】の記載からも明らかなように、「高音速材としての高音速支持基板」上に「低音速膜」が積層され、該「低音速膜」上に「圧電膜」が積層されており、引用発明1における「圧電膜」、「低音速膜」及び「高音速材としての高音速支持基板」は、本願発明1でいう『高音速材料層と圧電膜との間に低音速材料層が配置されている積層型基板』を構成しているといえる。

(ウ)引用発明1における「圧電膜の一方面に形成されているIDT電極」、「第1のバスバー」、「第1のバスバーと隔てられて配置された第2のバスバー」、「前記第1のバスバーに基端が電気的に接続されており、先端が前記第2のバスバーに向かって延ばされている複数本の第1の電極指」及び「前記第2のバスバーに基端が接続されており、先端が前記第1のバスバーに向かって延ばされている複数本の第2の電極指」は、【図1】及び【図2】の記載からも明らかなように、本願発明1でいう『圧電膜上に設けられたIDT電極』、『第1のバスバー』、『第2のバスバー』、『前記第1のバスバーから前記第2のバスバー側に延ばされた複数本の第1の電極指』及び『前記第2のバスバーから前記第1のバスバーに向かって延ばされた複数本の第2の電極指』に相当する。

(エ)IDT電極で励振される弾性波の波長は、IDT電極の電極指ピッチにより定まることは技術常識であるから、引用発明1における「IDT電極で励振される弾性波の波長」は、本願発明1でいう『IDT電極の電極指ピッチで定まる波長』に相当する。

(オ)引用発明1における「第1及び第2の電極指の先端と対向している第2,第1のバスバーとの間の距離」について、「第1の電極指の先端と対向している第2のバスバーとの間」及び「第2の電極指の先端と対向している第1のバスバーとの間」は、本願発明1でいう『第1の電極指の先端と第2のバスバーとの間の第1のギャップ』及び『第2の電極指の先端と第1のバスバーとの間の第2のギャップ』に相当し、それぞれの「距離」は、本願発明1でいう『前記第1及び前記第2の電極指が延びる方向に沿う寸法であるギャップ長』に相当することは明らかである。

(カ)引用発明1における「第1及び第2の電極指の先端と対向している第2,第1のバスバーとの間の距離」は、0.25λ以下であることが望ましいとされ、本願発明1における『第1のギャップ』及び『第2のギャップ』の『ギャップ長』は、0.22λ以下である。
してみると、本願発明1と引用発明1とは、「ギャップ長が、所定の長さ以下である」という点で共通している。

したがって、本願発明1と引用発明1との間には、次の一致点、相違点がある。

(一致点)
「圧電膜と、
前記圧電膜を伝搬する弾性波の音速よりも低速のバルク波が伝搬する低音速材料層と、
前記圧電膜を伝搬する弾性波の音速よりも高速のバルク波が伝搬する高音速材料層とを有し、前記高音速材料層と前記圧電膜との間に前記低音速材料層が配置されている積層型基板と、
前記圧電膜上に設けられたIDT電極とを備え、
前記IDT電極が、対向し合っている第1及び第2のバスバーと、前記第1のバスバーから前記第2のバスバー側に延ばされた複数本の第1の電極指と、前記第2のバスバーから前記第1のバスバーに向かって延ばされた複数本の第2の電極指とを有し、
前記IDT電極の電極指ピッチで定まる波長をλとしたときに、
前記第1の電極指の先端と前記第2のバスバーとの間の第1のギャップ、及び前記第2の電極指の先端と前記第1のバスバーとの間の第2のギャップの前記第1及び前記第2の電極指が延びる方向に沿う寸法であるギャップ長が、所定の長さ以下である、弾性波装置。」

(相違点)
(相違点1)本願発明1の『積層型基板』は、逆速度面が凸であるのに対し、引用発明1においては、引用文献1には逆速度面に関する記載がされていないため、逆速度面が凸であるかどうかは明らかでない点。
(相違点2)本願発明1における『第1のギャップ』及び『第2のギャップ』の『ギャップ長』は、0.22λ以下であるのに対し、引用発明1においては、0.25λ以下とされる点。

(2)相違点についての判断
事案に鑑みて、上記相違点2について検討すると、相違点2に係る本願発明1の『第1のギャップ』及び『第2のギャップ』の『ギャップ長』を0.22λ以下とする構成は、引用文献1に記載も示唆もされておらず、また、そのような構成が当該技術分野において周知であるとの合理的な理由又は証拠もないことを踏まえると、本願発明1は、当業者といえども、引用発明1に基づいて容易に発明できたものとはいえない。
そして、本願の【図7】のグラフに示されるように、ギャップ長を0.22λ以下にする数値限定は、0.22λにおいて伝搬損失(リターンロス)を0.24λ以上と比較して大幅に小さくするという、いわゆる、臨界的意義を有していると認められるので、引用文献1の記載からは予測し得ない効果を有するものである。

したがって、上記相違点1について検討するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても、引用発明1に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

本願発明2?7も、本願発明1の『第1のギャップ』及び『第2のギャップ』の『ギャップ長』を0.22λ以下とする構成と同一の構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明1に基いて容易に発明できたものとはいえない。

本願発明8、10、11も、本願発明1の『第1のギャップ』及び『第2のギャップ』の『ギャップ長』を0.22λ以下とする構成と同一の構成を備えるものであり、引用文献2?4のいずれの文献にも『第1のギャップ』及び『第2のギャップ』の『ギャップ長』を0.22λ以下とする構成は記載も示唆もされていないから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明1及び引用文献2?4に記載の発明に基いて容易に発明できたものとはいえない。

本願発明9も、本願発明1の『第1のギャップ』及び『第2のギャップ』の『ギャップ長』を0.22λ以下とする構成と同一の構成を備えるものであり、引用文献2、3、5のいずれの文献にも『第1のギャップ』及び『第2のギャップ』の『ギャップ長』を0.22λ以下とする構成は記載も示唆もされていないから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明1及び引用文献2、3、5に記載の発明に基いて容易に発明できたものとはいえない。

第6 原査定について
1.新規性(特許法第29条第2項)について
本願発明1?7は、前述のとおり、引用発明1と対比して、相違点1及び相違点2を有するから、拒絶査定において引用された引用文献1に記載された発明と同一であるとはいえない。したがって、原査定の理由1を維持することはできない。

2.進歩性(特許法第29条第2項)について
本願発明1?11は、前述のとおり、上記相違点2に関する構成を備えるものであるから、当業者であっても、拒絶査定において引用された引用文献1?5に基づいて、容易に発明できたものとはいえない。したがって、原査定の理由2を維持することはできない。

3.明確性(特許法第36条第6項第2号)について
審判請求時の補正により、記号「λ」は、「前記IDT電極の電極指ピッチで定まる波長をλとしたときに、」と定義され、特許請求の範囲の記載は明確となった。したがって、原査定の理由3を維持することはできない。

第7 むすび
以上のとおり、原査定の理由によって、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。

 
審決日 2021-09-08 
出願番号 特願2017-203112(P2017-203112)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H03H)
P 1 8・ 537- WY (H03H)
P 1 8・ 113- WY (H03H)
最終処分 成立  
前審関与審査官 ▲高▼橋 徳浩  
特許庁審判長 佐藤 智康
特許庁審判官 伊藤 隆夫
吉田 隆之
発明の名称 弾性波装置  
代理人 特許業務法人 宮▲崎▼・目次特許事務所  

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