• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C07K
管理番号 1377684
審判番号 不服2019-5085  
総通号数 262 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-10-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-04-17 
確定日 2021-09-08 
事件の表示 特願2016-509148「獣医学的デコリン組成物及びそれらの使用」拒絶査定不服審判事件〔平成26年10月30日国際公開、WO2014/176198、平成28年 6月30日国内公表、特表2016-519110〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26年 4月22日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 平成25年 4月22日 米国)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成30年 1月22日付け:拒絶理由通知書
同年 7月30日 :意見書、手続補正書の提出
平成30年11月20日付け:拒絶査定
平成31年 4月17日 :審判請求書、手続補正書の提出
令和 2年 8月 7日付け:拒絶理由通知書
令和 3年 1月18日 :意見書、手続補正書の提出

第2 本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、令和 3年 1月18日提出の手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
それを必要とする獣医学的対象に治療を施す方法における使用のための獣医学的デコリン組成物であって、当該獣医学的デコリン組成物が、有効量における、獣医学的デコリンコアタンパク質分子を含み、
当該獣医学的デコリンコアタンパク質分子が、
配列番号4、10、13、16、19、22、及び27のうちの1つと同一であり、
前記獣医学的対象が、創傷、損傷または疾患を患っており、
当該創傷、損傷または疾患が、
a)前記獣医学的デコリンコアタンパク質が、肉芽形成を阻害するために投与される、肉芽を生じる創傷または他の損傷;
b)眼に対する損傷または疾患;
c)肺疾患;
d)腎疾患;
e)肝疾患
からなる群から選択される、獣医学的デコリン組成物。」

第3 当審が通知した拒絶理由
当審が令和2年 8月 7日付けで通知した拒絶理由は、概略、以下のとおりのものである。

1.(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
引用文献2には、「精製デコリンを含む、TGF-β調節活性により生じた病状を処置する方法における使用のための組成物」に係る発明(「引用発明」)が記載されているといえる。
本願発明と引用発明とは、「それを必要とする疾患を患った対象に治療を施す方法における使用のための、デコリン組成物であって、当該デコリン組成物が、有効量における、デコリンタンパク質を含む、デコリン組成物」である点において一致し、以下の2点で相違する。
<相違点1>
本願発明は、治療対象が「獣医学的対象」であり、「獣医学的デコリンコアタンパク質分子を含み、当該獣医学的デコリンコアタンパク質分子が、配列番号4、7、10、13、16、19、22、及び27のうちの1つと少なくとも95%同一であるが、但し、前記獣医学的デコリンコアタンパク質が、アミノ酸4位で突然変異を含む」のに対して引用発明はかかる特定を有しない点。
<相違点2>
本願発明は、「a)前記獣医学的デコリンコアタンパク質が、肉芽形成を阻害するために投与される、肉芽を生じる創傷または他の損傷;b)眼に対する損傷または疾患、眼に対する当該損傷が、好ましくは角膜手術、眼熱傷、眼感染、及び擦傷性損傷の結果である;c)好ましくは間質性肺疾患及び肺線維症からなる群から選択される、肺疾患;d)好ましくは糖尿性腎症及び腎線維症からなる群から選択される、腎疾患;e)好ましくは肝硬変及び肝線維症からなる群から選択される、肝疾患から選択される、神経外傷からなる群から選択される、創傷、損傷または疾患」を対象が患っているのに対して、引用発明は「TGF-β調節活性により生じた病状」を対象が患っている点。
本願発明と引用発明の相違点1、2は、引用文献1?3の記載、及び引用文献4?10又は11の開示によって、当業者が容易に想到しうることであり、本願発明の効果は、技術水準から予測される範囲を超えた顕著な効果を奏するものとはいえない。
したがって、本願発明は、引用発明、引用文献1?3の記載、及び引用文献4?10又は11の開示に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

<引用文献等一覧>
1.国際公開第2012/125626号(拒絶査定において文献1として引用された文献)
2.特表平7-504886号公報(当審で新たに引用した文献)
3.Curr. Mol. Med.、 2011年、Vol.11、 pp.110-128
4.RecName: Full=Decorin; AltName: Full=Bone proteoglycan II; AltName: Full=PG-S2; Flags: Precursor、UniProtKB/Swiss-Prot Accession No.P28675,2013年4月6日,[検索日2020年7月10日]インターネット<URL:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/129950?sat=17&satkey=34938721>(当審で新たに引用した文献)
5.RecName: Full=Decorin; AltName: Full=Bone proteoglycan II; AltName: Full=PG-S2; Flags: Precursor、UniProtKB/Swiss-Prot Accession No.P21793,2013年4月6日,[検索日2020年7月10日]インターネット<URL:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/68845449?sat=17&satkey=33207005>(当審で新たに引用した文献)
6.RecName: Full=Decorin; AltName: Full=Bone proteoglycan II; AltName: Full=PG-S2; Flags: Precursor、UniProtKB/Swiss-Prot Accession No.Q29393,2013年4月6日,[検索日2020年7月10日]インターネット<URL:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/3024407?sat=17&satkey=37871638>(当審で新たに引用した文献)
7.SubName: Full=Decorin、UniProtKB Accession No.F2X2Y7,2012年 5月16日,[検索日2020年7月10日]インターネット<URL:https://www.uniprot.org/uniprot/F2X2Y7.txt?version=4>(当審で新たに引用した文献)
8.RecName: Full=Decorin、UniProtKB Accession No.O46542,2013年 3月 6日,[検索日2020年7月10日]インターネット<URL:https://www.uniprot.org/uniprot/O46542.txt?version=84>(当審で新たに引用した文献)
9.RecName: Full=Decorin、UniProtKB Accession No.Q9XSH4,2013年 1月 9日,[検索日2020年7月10日]インターネット<URL:https://www.uniprot.org/uniprot/Q9XSD9.txt?version=81>(当審で新たに引用した文献)
10.RecName: Full=Decorin、UniProtKB Accession No.Q9TTE2,2012年 3月21日,[検索日2020年7月10日]インターネット<URL:https://www.uniprot.org/uniprot/Q9TTE2.txt?version=67>(当審で新たに引用した文献)
11.Name: Decorin、UniProtKB Accession No.M3X0W2,2013年 5月 1日,[検索日2020年7月10日]インターネット<URL:https://www.uniprot.org/uniprot/M3X0W2.txt?version=1>(当審で新たに引用した文献)

第4 当審の判断
当審は、上記第3の当審が通知した拒絶理由の理由1のとおり、本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された引用文献2、4、6、8?10に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、と判断する。

その理由は、以下のとおりである。

1 引用文献の記載
ア 引用文献2に記載された事項
引用文献2には、次の事項が記載されている。

(ア)記載事項2-1(特許請求の範囲)
「1.デコリンあるいはデコリンの機能的等価物を創傷に投与することを包含する、はん痕形成を予防あるいは緩和する方法。
……
4.前記はん痕形成が、皮膚はん痕形成である、請求項1に記載の方法。
5.デコリンあるいはその機能的等価物と、薬学的に許容可能な担体とを含有する、薬剤組成物。
……
10.TGF-βと精製ポリペプチドとを接触させることを包含する、TGF-β調節活性により生じた病状を処置する方法であって、該ポリペプチドが、タンパク質のTGF-β結合ドメインを含み、該タンパク質が、約24のアミノ酸のロイシンリッチ操り返し単位によって特徴づけられ、それによって該病状がもたらされる活性を妨害するかまたは低下させる、方法。
11.前記タンパク質が、デコリンである、請求項10に記載の方法。
……
14.前記病状が、慢性関節リウマチ、糸球体腎炎、動脈硬化症、成人呼吸促進症候群、肝硬変、肺線維症、術後心筋梗塞、心臓線維症、血管形成術後再狭窄、腎間質性線維症、あるいは皮膚線維症の症状である、請求項10に記載の方法。
15.前記病状が、糸球体腎炎である、請求項14に記載の方法。」

(イ)記載事項2-2(第6頁左下欄第22行乃至同右上欄第5行)
「「デコリン」は、未変性の組成物と、機能的特徴を実質的に保持する改変物との両方を称している。デコリンコアタンパク質は、実質的にグリコサミノグリカンとは置換を行わないデコリンを称し、デコリンの定義内に含まれる。デコリンは、変異あるいは他の手段(例えば、グリコサミノグリカン鎖をコアタンパク質に付着させることのできない細胞において、組換デコリンを生成すること)によって、グリコサミノグリカンを取り除く。」

(ウ)記載事項2-3(第7頁左下欄第2行乃至第16行)
「 さらに本発明は、TGF-β-調節活性により生じた病状を処置する方法を提供する。この方法は、TGF-βを精製ポリペプチドと接触させることを包含し、ここで、このポリペプチドはタンパク質のTGF-β結合ドメインを含み、そして、このタンパク質は約24のアミノ酸のロイシンリッチ繰り返し単位により特徴づけられており、それによって病状がもたらされる活性を妨害するか、あるいは低下させる。本方法は一般的に用いられ得るが、処置され得る病状の特定の例は、癌、線維症の疾病、および糸球体腎炎を含む。例えば、線維症の癌では、デコリンはTGF-βに結合するために使用され得、癌細胞におけるTGF-βの増殖刺激活性を破壊する。他の増殖性の病状は、慢性関節リウマチ、動脈硬化症、成人呼吸促進症候群、肝硬変、肺線維症、術後心筋梗塞、心臓線維症、血管形成術後回狭窄、腎間質性線維症、およびケロイドおよびはん痕形成などの特定の皮膚線維症の症状を含む。」

(エ)記載事項2-4(第8頁右上欄第14行乃至第10頁左下欄第11行)
「 実施例I
組換デコリンおよびデコリンコアタンパクの発現
および精製
……デコリンコアタンパク質の発現に対して、cDNAは変異を生じ、その結果、セリンをコードする4番目のコドン、TCTが、トレニオンをコードするACTまたはアラニンをコードするGCTに変化した。これは、Kunkel,Proc.Natl.Acad.Sci USA 82:488(1985)(この開示内容は、本明細書に参考として援用されている)の方法に従って、部位特異的変異誘発によって作製する。適切な変異の存在は、DNA配列決定によって確認される。
哺乳類発現ベクターpSV2-デコリンおよびpSV2-デコリン/CP-thr4コアタンパク質は、デコリンcDNAまたは変異デコリンcDNAを、pSV2の3.4kb HindIII-Ban HIのフラグメントに連結することによって構築した(MulliganおよびBerg、Science 209:1423 (1980)、この開示内容は、本明細書に参考として援用されている)。
ジヒドロ葉酸レダクターゼ(dhfr)-ネガティブCHO細胞(CHO-DG44)を、リン酸カルシウム共沈法によって、pSV2-デコリンまたはpSV2-デコリン/CPおよびpSV2dhfで共にトランスフェクトした。pSV2-デコリンによってトランスフェクトされたCHO-DG44細胞は、寄託番号ATCC No.CRL10332に基づいて、American Type Culture Collectionに寄託されている。トランスフェクト細胞を、9%の透析ウシ胎児血清、2mMのグルタミン、100単位/mlのペニシリンおよび100μg/mlのストレプトマイシンを補足した、ヌクレオシド非含有α改変最小必須培地(α-MEM)(GIBCO.Long Island)中で培養した。トランスフェクト細胞から生じるコロニーをクローニングシリンダーを用いて選び取り、膨張させ、^(35)SO_(4)で標識した培養の上澄みから免疫沈降させることによって、デコリンの発現を調べる。次いで、実質的な量のデコリンを発現するクローンを、0.64μMまで段階的に増加する濃度のメトトレキセート(MTX)によって、遺伝子増幅した(kaufmanおよびSharp,J.Mol.Biol.159:601(1982)、その開示内容は、本明細書に参考として援用されている)。希釈液を限定するか、または単一MTX抵抗性コロニーを選択するかによって、全ての増幅細胞系をクローニングした。これらの樹立細胞系の保存培養を、MTX含有培地で維持した。タンパク質生成に使用する前に、細胞を、保存培養からMTX非含有培地に副次培養し、そして、この培地を少なくとも一度通し、存在し得るMTX効果を取り除いた。
一方、AdamsおよびRose,Ce1l 41:1007、(1985)(この開示内容は、本明細書に参考として援用されている)に記載されているように、コアタンパク質をCOS-1細胞で発現させた。簡潔に言えば、6つのウェルのマルチウェルプレートに、9.6cm^(2)の増殖面積当り、3?5×10^(5)の細胞を接種し、24時間の間に付着させて増殖させた。培養物は、50?70%集密となったときに、これをプラスミドDNAによってトランスフェクトした。細胞とプレートの剥離を防ぐために、細胞層を、50mMのトリス、150mMのNaC1(pH7.2)を含み、1mMのCaCl_(2)および0.5mMのMgCl_(2)を補足したトリス緩衝生理食塩水(TBS)によつて37℃で短時間で洗浄した。2μgの閉環形プラスミドDNAおよび平均分子量が500,000である0.5mg/mlのDEAE-デキストラン(Sigma)を含む上記の水溶液を1ml用い、37℃で30分間、このウェルをインキュベートした。対照として、培養物を、あらゆるデコリン挿入フラグメントが欠如しているpSV2発現プラスミドによってトランスフェクトすること、またはDNAを用いずに、模擬的にトランスフェクトすることを行った。DNA/TBS/DEAE-デキストラン溶液を取り除き、TBSでウェルを洗浄した後、10%のウシ胎児血清および100μMのクロロキン(Sigma)を含むDulbecco改変Eagle培地(Irvine Scientific)を用いて、培養物を37℃で3時間インキュベートした。次いで、細胞層を、2回洗浄し、クロロキンを含まない上記の培地で、約36時間の間培養した。W138ヒト胎児肺繊維芽細胞を、同じ培地で手順通りに培養した。
COS-1培養物を、プラスミドDNAによるトランスフェクションの後、36?48時間の間、放射標識した。全ての放射線標識された代謝前駆体は、New England Nuclear(Boston,MA)から購入した。使用した同位体は、^(35)S-硫酸塩(460mCi/ml)、L-[3,4,5-^(3)H(N)]-ロイシン(140Ci/ml)およびL -[^(14)C(U)]-アミノ酸混合物(製品番号445E)であった。10%の透析ウシ胎児血清、2mMのグルタミンおよび1mMのピルビン酸を補足した、200μCi/mlの^(35)S-硫酸塩または^(3)H-ロイシン、または10μCi/mlの^(14)C-アミノ酸混合物を含む、HamのF-12培地(GIBCO Labs)中で、培養物を24時間の間標識した。培地を採集し、これに5mMのEDTA、0.5mMのフェニルメチルスルフォニルフルオライド、0.04mg/lのアプロチニンおよび1μg/mlのペプスタチンを補足してプロテアーゼの活性を阻害し、20分間、2,000×Gの遠心分離によって細胞デブリを除去し、-20℃で貯蔵した。TBSで細胞層を洗浄し、次いで、ゴム冠ポリスマンによって、1ml/ウェルの氷冷細胞溶解緩衝液、すなわち、0.05Mトリス-HCl、0.5M NaC1、0.1%BSA、1% NP-40、0.5%トリトン X-100、0.1%SDS、PH8.3、中にこすり落とすことによって、細胞抽出物を調製した。その細胞抽出物を、1.5時間、13,000×G、4℃の条件下の遠心分離によって清澄化した。
ウサギの抗血清を、ヒトのデコリンのコアタンパク質の成熟形態の最初の15残基(Asp-Glu-Ala-Ser-Gly-IIe-Gly-Pro-Glu-Val-Pro-Asp-Asp-Arg-Asp)に基づく合成ペプチドに対して調製した。合成ペプチドおよびそれに対する抗血清は、他に記載されている(KrusiusおよびRuoslahti、1986 (前出))。簡潔に言えば、ペプチドを、製造業者によって考案された化学物質を用いて、固相ペプチド合成機(Applied Biosystems,Foster City,CA)によって合成した。製造業者の指示に従い、N-スクシンイシジル3-(2-ピリジルジチオ)プロピオネート(Pharmacia Fine Chemicals,Piscataway, NJ)を用いて、ペプチドを、キーホールリンぺットヘモシアニンに結合させた。得られた結合体を、Freund完全アジュバント中で乳化し、ウサギに注入した。さらに、1、2、および3力月後に、Freund不完全アジニバント中で結合体を、ウサギに注入した。各注入の投与量は、0.6mgのペプチドに等しい。3回目および4回目の注入の10日後、血液を採血した。当該技術分野で周知のように、抗血清を、グルタールアルデヒドで架橋したペプチドおよび単離されたデコリンに対して、ELISA(Engvall, Meth. Enzymol.70:419-439(1980))、免疫沈降、およびイムノブロッティングにおいて、そして蛍光抗体法で細胞を染色することによって、試験した。
馴化培地、または、2組のウェルから採集した細胞抽出物に、20μlの抗血清を添加し、次いで、4℃で一晩かけて混合することによって、免疫沈降を行った。20μlの充填されたプロテインA-アガロース(Sigma)と、4℃で2時間インキュベーションすることによって、免疫複合体を単離した。ビーズを、3つの異なる管を用いて細胞溶解緩衝液で洗浄し、次いで、10%のメルカプトエタノールを含むゲルの電気泳動試料緩衝液の中で煮沸する前に、リン酸緩衝生理食塩水で2回洗浄した。当該技術分野で周知のように、免疫沈降したタンパク質を、7.5-20%グラジエントゲルまたは7.5%の非グラジエントゲルのSDS-PAGEによって分離した。フルオログラフィーを、増感スクリーンを用い、Enlightning (New England Nuclear)によって行った。典型的な露光時間は、-70℃で7?10日間である。オートラジオグラフを、LKB Ultroscan XL Enhanced Laser Densitometerによって走査し、プロテオグリカンバンドの相対強度および移動度を比較した。
デコリン-pSV2構築物によってトランスフェクトされ、^(35)S-硫酸塩によって代謝的に放射標識されたCOS-1細胞から、細胞抽出物および培地をSDS-PAGE分析にかけることによって、模擬トランスフェクト細胞中に硫酸化バンドが存在しないことがわかった。デコリンコアタンパク質由来の合成ペプチドに対して生じた抗血清による免疫沈降によって、新たなバンドがデコリンであることがわかった。
通常は、グリコサミノグリカン(セリン-4)に置換されているセリン残基が、SDS-PAGEによってトレオニン残基に置換されたような変異を生じた構築物の発現は、野生型の構築物によって得られるプロテオグリカンのレベルの、約10%しか表さない。免疫反応性物質の残りは、遊離コアタンパク質の位置に移動する。
アラニン変異cDNA構築物が、同様の方法で発現されて分析される場合、コアタンパク質のみを得、デコリンのプロテオグリカン型は得られない。図1は、デコリン(レーン1)およびそのトレオニン-4変異コアタンパク質(レーン3)およびアラニン-4変異コアタンパク質(レーン2)の発現は、COS細胞のトランスフェクタント中で発現したことを示す。^(35)SO_(4)で標識された(A)および^(3)H-ロイシンで標識された(B)培養の上澄みを、ヒトデコリンのNH_(2)-末端に対して調製されたウサギアンチペプチド抗血清を用いて免疫沈降した。
培養に使用した後の(spent)培地からのデコリンおよび
デコリンコアタンパク質の精製
pSV2-デコリンベクターでトランスフェクトされ、そして、上記、ならびにYamaguchiおよびRuoslahtiがNature 36(1988)の244-246ページで記述しているようにして(これらの開示内容は本明細書に参考として援用されている)、増殖した細胞を、9%の透析ウシ胎児血清、2mMのグルタミン、100ユニット/mlのペニシリンおよび100μg/mlのストレプトマイシンで補足されたヌクレオシド非含有のα-MEMの、8個の175cm^(2)の培地フラスコ中で90%集密まで増殖させた。90%集密した時点で、培地を、以下のカラムを通過した、6%の透析ウシ胎児血清で補足された、ヌクレオシドを有しないα-MEMが入ったフラスコ毎に25mlに変更した:上記カラムは、pH7.4、0.05Mのリン酸緩衝液中の0.25MのNaClによって平衡化したDEAE-セファロース Fast Flowカラム(Pharmacia)である。細胞を3日間培養し、培養に使用した後の培地を集め、即座に0.5mMのフェニルメチルスルフォニルフルオライド、1μg/mlのペプスタチン、0.04mg/mlのアプロチニンおよび5mMのEDTAで処理した。
400mlの上記培養に使用した後の培地を、最初にゼラチン-セファロースに通し、フィブロネクチン、およびセファロースに付着する物質を取り除いた。次いで、その素通り画分を、pH7.4、50mMのTris/HClおよび0.2MのNaClで前もって平衡化したDEAE-セファロースと混合し、そして4℃で緩やかに撹拌しながらバッチ吸着させた。このスラリーを1.6×24cmのカラムに注ぎ、0.2MのNaClを含有するpH7.4、50mMのTris/HClで十分に洗浄し、pH7.4、50mMのTris/HCl中の、NaClの0.2M-0.6Mの直線グラジエントで溶出した。デコリン濃度を、YamaguchiおよびRuoslahti(前出)が記述しているような競合ELISAによって測定した。デコリンを含有する画分を、プールし、さらにTris-HCl緩衝液中の8Mの尿素によって平衡化したSephadexゲル濾過カラム上で分画した。デコリンを含有する画分を集めた。
pSV2-デコリン/CPベクター、または、アラニン変性cDNAを含有するベクターでトランスフェクトされ、そして上記のように増殖されたクローン細胞系から、コアタンパク質を精製した。これらの細胞を、上記のように集密まで増殖する。集密した時点で、この細胞単層を無血清培地で4度洗浄し、そして2mMのグルタミンで補足されたαMEM中で2時間インキュベートする。この培養に使用した後の培地を捨てる。細胞を次いで2mMのグルタミンで補足されたαMEMで24時間インキュベートし、そしてこの培養に使用した後の培地を集め、即座に0.5mMのフェニルメチルスルフォニルフルオライド、1μg/mlのペプスタチン、0.04mg/mlのアプロチニンおよび5mMのEDTAで処理し、無血清の培養に使用した後の培地とする。この培養に使用した後の培地を、最初にゼラチン-セファロースに通し、次いでその素通り画分を、0.1MのNaClを含有するpH7.4、50mMのTris/HCl中で前もって平衡化した、CM-セファロース Fast Flow(Pharmacia Fine Chemicals,Piscataway, NJ)にバッチ吸着させる。4℃で終夜インキュベートした後、そのスラリーをカラムに注ぎ、前もって平衡化した緩衝液で十分に洗浄し、pH7.4、50mMのTris/HCl中で、0.1M-1Mの直線グラジエントのNaClで溶出する。このデコリンを含有する画分をプールし、50mMのNH_(4)HCO_(3)で透析し、そして凍結乾燥する。この凍結乾燥された材料を、8Mの尿素を含有するpH7.4、50mMのTrisに溶解し、Sephacryl S-200カラム(1.5×110cm)にかける。SDS-ポリアクリルアミドの電気泳動によって表わされるようなデコリンコアタンパク質を含有する画分を集め、精製デコリンコアタンパク質を定義する。」

(オ)記載事項2-5(第10頁左下欄第12行乃至第12頁左上欄第10行)
「 実施例II
TGF-βのデコリンへの結合
a. デコリン-Serharoseに基づくTGF-βのアフィニ
ティクロマトグラフィー
……
コアタンパク質を調製するために、プロテオグリカンをコンドロイチナーゼABC(Seikagaku、 Tokyo、 Japan)で以下のようにして消化した:500μgのプロテオグリカンを、0.1MのTris/Cl (pH8.0)250μl中のコンドロイチナーゼABC 0.8ユニット、30mMの酢酸ナトリウム、2mMのPMSF、10mMのN-エチルマレイミド、10mMのEDTA、および0.36mMのペプスタチンと共に、37℃で1時間インキュベートすることによって消化した。組換デコリンおよびウシの皮膚から単離したデコリン(PGII)は予想通り[^(125)I]-TGF-β1の結合を阻害した(図3A)。ウシの関節の軟骨から単離したバイグリカンは、インヒビターとしてデコリンと同様に有効であった。多くの硫酸コンドロイチン鎖を含有するニワトリの軟骨のプロテオグリカンは、阻害効果を全く示さなかったので、デコリンおよびバイグリカンの効果は、グリコサミノグリカンが原因ではないと考えられる。ウシ血清アルブミンは阻害効果を全く示さなかった。この考えは、上記変性デコリンコアタンパク質(図示されていない)およびコンドロイチナーゼABC-消化デコリンおよびバイグリカンを用いた競合試験によって、さらに裏付けられた(図3B)。これらの各タンパク質は阻害性であるが、軟骨のプロテオグリカンコアタンパク質は阻害性ではなかった。上記デコリンおよびバイグリカンコアタンパク質は、元のプロテオグリカンよりもいくらか活性であった。コンドロイチナーゼABCで処理されたウシ血清アルブミンは、阻害性を全く示さなかった。別の結合試験は、[^(125)I]-TGF-β1が、バイグリカンまたはそのコンドロイチナーゼ処理コアタンパク質でコートされたマイクロタイターウェルに結合することを示した。これらの結果は、TGF-β1が、デコリンおよびバイグリカンのコアタンパク質に結合すること、ならびに、これらのタンパク質の潜在的な結合部位として機能するロイシンリッチ繰り返し単位を含むことを示す。」

(カ)記載事項2-6(第4頁右上欄第6行乃至第17行、図3A、図3B)
「 図3は、プロテオグリカンおよびそのコアタンパク質による、[^(125)I]-TGF-β1とデコリンとの結合の阻害を示す。図3Aは、組換デコリン(●)、ウシの皮膚から単離されたデコリン(PGII)(■)、ウシの関節軟骨(PGI)から単離されたバイグリカン(▲)、ニワトリの軟骨プロテオグリカン(○)、およびBSA(口)による、[^(125)I]-TGF-β1と、デコリンでコートされたマイクロタイターウェルとの結合の競合を示す。各点は、2組の決定群の平均を示す。図3Bは、[^(125)I]-TGF-β1と、コンドロイチナーゼABC処理プロテオグリカンおよびBSAとの結合の競合を示す。競合物質の濃度を、無傷のプロテオグリカンとして表した。シンボルは、図3Aのシンボルと同一である。」




(キ)記載事項2-7(第14頁右下欄第1行乃至第18行)
「 実施例VI
はん痕形成研究
成体マウスの剃毛した背中の皮膚に、一対の縦の傷をつけた。処置は、層を貫いて背中の皮膚の骨格筋系まで切開した。切開部分を、10mg/mlのヒアルロン酸(対照)、または、TBS中のデコリン(0.5mg/ml)/ヒアルロン酸(10mg/ml)混合物のいずれかの一回投与量250μlで処理した。上記混合物を形成するために、0.5mg/mlの組換デコリンを10mg/mlのヒアルロン酸と混合した。各マウスは、処理しない対照傷および処理された傷を有する。この傷を縫合してふさいだ。14日後、傷を大まかにモニターし、組織を採取した。対照および処理された傷の部位(4ミクロン)の凍結切片を、Massonの三色染色法で可視化した標準の組織学的方法を用いて分析した。
上記ヒアルロン酸対照は、通常の成体の動物に見られるような典型的な皮膚はん痕を阻害した。これに対して、デコリン処理した傷は、検出可能なはん痕の阻害は見られず本質的に組織学的に通常であった。デコリン処理した傷は、第1および第2のトリメスターの胎児の傷に類似した。」

イ 引用文献4に開示された事項
本願の優先日である2013年 4月 22日より前に電気通信回線を通じて公開された「RecName: Full=Decorin; AltName: Full=Bone proteoglycan II; AltName: Full=PG-S2; Flags: Precursor、UniProtKB/Swiss-Prot Accession No.P28675,2013年 4月 6日,[検索日2020年7月10日]インターネット<URL:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/129950?sat=17&satkey=34938721>」以下、「引用文献4」という。)には、次の事項が開示されている。

(ア)開示事項4-1
「DEFINITION RecName: Full=Decorin; AltName: Full=Boneproteoglycan II; AltName:Full=PG-S2; Flags: Precursor.
ACCESSION P28675

SOURCE Gallus gallus (chicken)
……
gene 1..357
/gene="DCN"
Protein 1..357
/product="Decorin"
/note="Boneproteoglycan II; PG-S2"
/UniProtKB_evidence="Evidence at protein level"
Region 1..16
/region_name="Signal"
/experiment="experimentalevidence, no additional details
recorded"
Region 17..30
/region_name="Propeptide"
/experiment="experimental evidence, no additional details
recorded"
/note="/FTId=PRO_0000032723."
Region 31..357
/region_name="Maturechain"
/experiment="experimental evidence, no additional details
recorded"
/note="Decorin./FTId=PRO_0000032724."
……ORIGIN
1 mrlvllfvll lpvclatrfh qkglfdfmie degsadmapt ddpvisgfgp vcpfrcqchl
61 rvvqcsdlgl ervpkdlppd ttlldlqnnk iteikegdfk nlknlhalil vnnkiskisp
121 aafaplkkle rlylsknnlk elpenmpksl qeiraheneisklrkavfng lnqvivlelg
181 tnplkssgie ngafqgmkrl syiriadtni tsipkglpps ltelhldgnk iskidaegls
241 gltnlaklgl sfnsissven gslnnvphlr elhlnnnelv rvpsglgehk yiqvvylhnn
301 kiasigindf cplgyntkka tysgvslfsn pvqyweiqps afrcihersa vqignyk」

引用文献4には、31番目から357番目のアミノ酸配列が成熟鎖であることが開示されているから、その4番目のアミノ酸がセリン(S)であるニワトリ由来の成熟デコリンであって、以下のアミノ酸配列からなる成熟デコリンが記載されている。
「31 degsadmapt ddpvisgfgp vcpfrcqchl
61 rvvqcsdlgl ervpkdlppd ttlldlqnnk iteikegdfk nlknlhalil vnnkiskisp
121 aafaplkkle rlylsknnlk elpenmpksl qeiraheneisklrkavfng lnqvivlelg
181 tnplkssgie ngafqgmkrl syiriadtni tsipkglpps ltelhldgnk iskidaegls
241 gltnlaklgl sfnsissven gslnnvphlr elhlnnnelv rvpsglgehk yiqvvylhnn
301 kiasigindf cplgyntkka tysgvslfsn pvqyweiqps afrcihersa vqignyk」

ウ 引用文献6に開示された事項
本願の優先日である2013年 4月 22日より前に電気通信回線を通じて公開された「RecName: Full=Decorin; AltName: Full=Bone proteoglycan II; AltName: Full=PG-S2; Flags: Precursor、UniProtKB/Swiss-Prot Accession No.Q29393,2013年 4月 6日,[検索日2020年7月10日]インターネット<URL:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/3024407?sat=17&satkey=37871638>」以下、「引用文献6」という。)には、次の事項が開示されている。

(ア)開示事項6-1
「RecName: Full=Decorin;AltName: Full=Bone proteoglycan II; AltName: Full=PG-S2; Flags: Precursor.
ACCESSION Q29393
……
SOURCE Canis lupus familiaris (dog)
……
gene 1..360
/gene="DCN"
/gene_synonym="DCN1C"
Protein 1..360
/product="Decorin"
/note="Boneproteoglycan II; PG-S2"
/UniProtKB_evidence="Evidence attranscript level"
Region 1..16
/region_name="Signal"
/inference="non-experimental evidence, no additional
details recorded"
/note="Potential."
Region 17..30
/region_name="Propeptide"
/inference="non-experimental evidence, no additional
details recorded"
/note="By similarity./FTId=PRO_0000032705."
Region 31..360
/region_name="Maturechain"
/experiment="experimental evidence, no additional details
recorded"
/note="Decorin./FTId=PRO_0000032706."
Site 34
/site_type="glycosylation"
/inference="non-experimental evidence, no additional
details recorded"
/note="O-linked(Xyl...) (glycosaminoglycan) (By
similarity)."
……
ORIGIN
1 mkatiiflll aqvswagpfq qrglfdfmle deasgigped rapdmpdlel lgpvcpfrcq
61 chlrvvqcsd lgldkvpkdl ppdttlldlq nnkiteikdg dfknlknlht lilvnnkisk
121 ispgaftpll klerlylskn hlkelpekmp ktlqelrahe neitkvrkav fnglnqmivv
181 elgtnplkss giengafqgm kklsyiriad tnittipqgl ppsltelhle gnkitkvdas
241 slkglnnlak lglsfnsisa vdngtlantp hlrelhldnn klirvpggla ehkyiqvvyl
301 hnnnisavgs ndfcppgynt kkasysgvsl fsnpvqywei qpstfrcvyv rsaiqlgnyk」

引用文献6には、31番目から360番目のアミノ酸配列が成熟鎖であることが開示されているから、その4番目のアミノ酸がセリン(S)であるイヌ由来の成熟デコリンであって、以下のアミノ酸配列からなる成熟デコリンが記載されている。
「31 deasgigped rapdmpdlel lgpvcpfrcq
61 chlrvvqcsd lgldkvpkdl ppdttlldlq nnkiteikdg dfknlknlht lilvnnkisk
121 ispgaftpll klerlylskn hlkelpekmp ktlqelrahe neitkvrkav fnglnqmivv
181 elgtnplkss giengafqgm kklsyiriad tnittipqgl ppsltelhle gnkitkvdas
241 slkglnnlak lglsfnsisa vdngtlantp hlrelhldnn klirvpggla ehkyiqvvyl
301 hnnnisavgs ndfcppgynt kkasysgvsl fsnpvqywei qpstfrcvyv rsaiqlgnyk」

エ 引用文献8に開示された事項
本願の優先日である2013年 4月 22日より前に電気通信回線を通じて公開された「RecName: Full=Decorin、UniProtKB Accession No.O46542,2013年 3月 6日,[検索日2020年7月10日]インターネット<URL:https://www.uniprot.org/uniprot/O46542.txt?version=84>」以下、「引用文献8」という。)には、次の事項が開示されている。

(ア)開示事項8-1
「AC O46542;
……
DE RecName: Full=Decorin;
……
OS Equus caballus (Horse)
……
FT SIGNAL 1 16 Potential.
FT PROPEP 17 30 By similarity.
FT /FTId=PRO_0000032707.
FT CHAIN 31 360 Decorin.
FT /FTId=PRO_0000032708.
……
FT CARBOHYD 34 34 O-linked (Xyl...) (glycosaminoglycan) (By
FT similarity).
……
SQ SEQUENCE 360 AA; 39939 MW;2DAE97CDE16F7C45 CRC64;
MKATIIFLLL AQVSWAGPFQ QRGLFDFMLE DEASGIGPED RIHEVLDLEP LGPVCPFRCQ
CHLRVVQCSD LGLDKVPKDL PPDTTLLDLQ NNKITEIKDG DFKNLKNLHA LILVNNKISK
ISPGAFTPLV KLERLYLSKN HLKELPEKMP KTLQELRVHE NEITKVRKAV FNGLNQMIVV
ELGTNPLKSS GIENGAFQGM KKLSYIRIAD TNITTIPPGL PPSLTELHLD GNKITKVDAA
SLRGLNNLAK LGLSFNSISA VDNGSLANTP HLRELHLDNN KLIKVPGGLA DHKYIQVVYL
HNNNISAVGS NDFCPPGYNT KKASYSGVSL FSNPVQYWEI QPSTFRCVYV RSAIQLGNYK」

引用文献8には、31番目から360番目のアミノ酸配列がシグナル及びプロペプチドが除去されたデコリンであることが開示されているから、その4番目のアミノ酸がセリン(S)であるウマ由来の成熟デコリンであって、以下のアミノ酸配列からなる成熟デコリンが記載されている。
「31 DEASGIGPED RIHEVLDLEP LGPVCPFRCQ
CHLRVVQCSD LGLDKVPKDL PPDTTLLDLQ NNKITEIKDG DFKNLKNLHA LILVNNKISK
ISPGAFTPLV KLERLYLSKN HLKELPEKMP KTLQELRVHE NEITKVRKAV FNGLNQMIVV
ELGTNPLKSS GIENGAFQGM KKLSYIRIAD TNITTIPPGL PPSLTELHLD GNKITKVDAA
SLRGLNNLAK LGLSFNSISA VDNGSLANTP HLRELHLDNN KLIKVPGGLA DHKYIQVVYL
HNNNISAVGS NDFCPPGYNT KKASYSGVSL FSNPVQYWEI QPSTFRCVYV RSAIQLGNYK」

オ 引用文献9に開示された事項
本願の優先日である2013年 4月 22日より前に電気通信回線を通じて公開された「RecName: Full=Decorin、UniProtKB Accession No.Q9XSH4,2013年 1月 9日,[検索日2020年7月10日]インターネット<URL:https://www.uniprot.org/uniprot/Q9XSD9.txt?version=81>」以下、「引用文献9」という。)には、次の事項が開示されている。

(ア)開示事項9-1
「AC Q9XSD9; Q9XSH4;
……
DE RecName: Full=Decorin;
……
OS Sus scrofa (Pig)
……
FT SIGNAL 1 16 Potential.
FT PROPEP 17 30 By similarity.
FT /FTId=PRO_0000032715.
FT CHAIN 31 360 Decorin.
FT /FTId=PRO_0000032716.
……
FT CARBOHYD 34 34 O-linked (Xyl...) (glycosaminoglycan) (By
FT similarity).
……
SQ SEQUENCE 360 AA; 39899 MW;8573DE8DDEBA7509 CRC64;
MKATIVFLLL AQVSWAGPFQ QKGLFDFMLE DEASGIGPED RFPEVPELEP LGPMCPFRCQ
CHLRVVQCSD LGLDKVPKDL PPDTALLDLQ NNKITEIKDG DFKNLKNLHT LILINNKISK
ISPGAFAPLV KLERLYLSKN QLKELPEKMP KTLQELRVHE NEITKVRKAV FNGLNQMIVV
ELGTNPLKSS GIENGAFQGM KKLSYIRIAD TNITTIPQGL PPSLTELHLD GNKISKVDAA
SLKGLNNLAK LGLGFNSIST VDNGSLANTP HLRELHLNNN KLNKVPGGLA EHKYIQVVYL
HNNNISAVGS NDFCPPGYNT KKASYSGVSL FSNPVQYWEI QPSTFRCVYV RSAIQLGNYK」

引用文献9には、31番目から360番目のアミノ酸配列がシグナル及びプロペプチドが除去されたデコリンであることが記載されているから、その4番目のアミノ酸がセリン(S)であるブタ由来の成熟デコリンであって、以下のアミノ酸配列からなる成熟デコリンが記載されている。
「31 DEASGIGPED RFPEVPELEP LGPMCPFRCQ
CHLRVVQCSD LGLDKVPKDL PPDTALLDLQ NNKITEIKDG DFKNLKNLHT LILINNKISK
ISPGAFAPLV KLERLYLSKN QLKELPEKMP KTLQELRVHE NEITKVRKAV FNGLNQMIVV
ELGTNPLKSS GIENGAFQGM KKLSYIRIAD TNITTIPQGL PPSLTELHLD GNKISKVDAA
SLKGLNNLAK LGLGFNSIST VDNGSLANTP HLRELHLNNN KLNKVPGGLA EHKYIQVVYL
HNNNISAVGS NDFCPPGYNT KKASYSGVSL FSNPVQYWEI QPSTFRCVYV RSAIQLGNYK」

カ 引用文献10に開示された事項
本願の優先日である2013年 4月 22日より前に電気通信回線を通じて公開された「RecName: Full=Decorin、UniProtKB Accession No.Q9TTE2,2012年 3月 21日,[検索日2020年7月10日]インターネット<URL:https://www.uniprot.org/uniprot/Q9TTE2.txt?version=67>」以下、「引用文献10」という。)には、次の事項が開示されている。

(ア)開示事項10-1
「AC Q9TTE2;
……
OS Ovis aries (Sheep).
……
FT SIGNAL 1 16 Potential.
FT PROPEP 17 30 By similarity.
FT /FTId=PRO_0000032721.
FT CHAIN 31 360 Decorin.
FT /FTId=PRO_0000032722.
……
FT CARBOHYD 34 34 O-linked (Xyl...) (glycosaminoglycan) (By
FT similarity).
……
SQ SEQUENCE 360 AA; 39972 MW;0095D0DFDAB88624 CRC64;
MKATIIFFLV AQVSWAGPFQ QKGLFDFMLE DEASGIGPEE RFHEVPELEP MGPVCPFRCQ
CHLRVVQCSD LGLEKVPKDL PPDTALLDLQ NNKITEIKDG DFKNLKNLHT LILINNKISK
ISPGAFAPLV KLERLYLSKN QLKELPEKMP KTLQELRVHE NEITKVRKSV FNGLNQMIVV
ELGTNPLKSS GIENGAFQGM KKLSYIRIAD TNITTIPQGL PPSLTELHLD GNKITKVDAA
SLKGLNNLAK LGLSFNSISA VDNGSLANTP HLRELHLNNN KLVKVPGGLA DHKYIQVVYL
HNNNISAIGS NDFCPPGYNT KKASYSGVSL FSNPVQYWEI QPSTFRCVYV RAAVQLGNYK」

引用文献10には、31番目から360番目のアミノ酸配列がシグナル及びプロペプチドが除去されたデコリンであることが記載されているから、その4番目のアミノ酸がセリン(S)であるヒツジ由来の成熟デコリンであって、以下のアミノ酸配列からなる成熟デコリンが記載されている。
「31 DEASGIGPEE RFHEVPELEP MGPVCPFRCQ
CHLRVVQCSD LGLEKVPKDL PPDTALLDLQ NNKITEIKDG DFKNLKNLHT LILINNKISK
ISPGAFAPLV KLERLYLSKN QLKELPEKMP KTLQELRVHE NEITKVRKSV FNGLNQMIVV
ELGTNPLKSS GIENGAFQGM KKLSYIRIAD TNITTIPQGL PPSLTELHLD GNKITKVDAA
SLKGLNNLAK LGLSFNSISA VDNGSLANTP HLRELHLNNN KLVKVPGGLA DHKYIQVVYL
HNNNISAIGS NDFCPPGYNT KKASYSGVSL FSNPVQYWEI QPSTFRCVYV RAAVQLGNYK」

2 引用文献2に記載された発明
引用文献2の特に記載事項2-1の(請求項10の引用形式で記載される)請求項11には「TGF-βと精製デコリンとを接触させることを包含する、TGF-β調節活性により生じた病状を処置する方法であって、それによって該病状がもたらされる活性を妨害するかまたは低下させる、方法」が記載されており、また、精製デコリンを組成物の形態で同方法に用いることも実施例と共に記載されている(記載事項2-1請求項5、記載事項2-7)。

そうすると、引用文献2には、以下の発明が記載されているといえる。
「精製デコリンを含む、TGF-β調節活性により生じた病状を処置する方法における使用のための組成物」
(以下、「引用発明」という。)

3 対比
本願発明と引用発明とを対比する。

引用発明における「精製デコリン」は本願発明における「デコリン」に相当する。
また、引用発明における「病状を処置する方法」とは、本願発明における、「それを必要とする疾患を患った対象に治療を施す方法」に相当する。
さらに、引用発明において、デコリンコアタンパク質は、デコリンの定義内に含まれており(記載事項2-2)、「病状を処置する・・・ための組成物」は当然に処置に必要な量のデコリンタンパク質分子を含むものであるから、引用発明における組成物は有効量の精製デコリンタンパク質を含むものである。

したがって、本願発明と引用発明とは、
「それを必要とする疾患を患った対象に治療を施す方法における使用のための、デコリン組成物であって、当該デコリン組成物が、有効量における、デコリンタンパク質を含む、デコリン組成物」
である点において一致し、以下の2点で相違する。

<相違点1>
本願発明は、治療対象が「獣医学的対象」であり、「獣医学的デコリンコアタンパク質分子を含み、当該獣医学的デコリンコアタンパク質分子が、配列番号4、10、13、16、19、22、及び27のうちの1つと同一であ」るのに対して引用発明はかかる特定を有しない点。

<相違点2>
本願発明は、「a)前記獣医学的デコリンコアタンパク質が、肉芽形成を阻害するために投与される、肉芽を生じる創傷または他の損傷;b)眼に対する損傷または疾患;c)肺疾患;d)腎疾患;e)肝疾患からなる群から選択される、創傷、損傷または疾患」を対象が患っているのに対して、引用発明は「TGF-β調節活性により生じた病状」を対象が患っている点。

4 判断
そこで、上記相違点について検討する。

(1)相違点1について
引用文献2には、デコリンおよびバイグリカンの効果は、グリコサミノグリカンが原因ではないと考えられることが記載されているとともに(記載事項2-5及び記載事項2-6)、デコリンの定義に含まれるデコリンコアタンパク質を得るためにグリコサミノグリカンを取り除く手段として変異を導入することが記載されており(記載事項2-2)、具体的には成熟デコリンの4位のセリンをアラニンに変異させることも記載されている(記載事項2-4)。そうすると、記載事項2-5及び記載事項2-6の記載をみた当業者は、引用発明の精製デコリンとして、4位変異デコリン(グリコサミノグリカンを有さない)を用いても、野生型デコリン(グリコサミノグリカンを有する)を用いた場合と同様のTGF-β1に対する作用が見込まれることを理解するものである
さらに、引用文献2には、ヒト以外のデコリンであるウシデコリンも記載されており(記載事項2-6及び記載事項2-7)、人畜共通の疾患について、獣医学的な治療を行うことは当然の課題であった。
そうすると、引用発明において、デコリンとして、引用文献4(本願の配列番号4と4番目のアラニンがセリンである点のみで相違する)、引用文献6(本願の配列番号10と4番目のアラニンがセリンである点のみで相違する)、引用文献8(本願の配列番号16と4番目のアラニンがセリンである点のみで相違する)、引用文献9(本願の配列番号19と4番目のアラニンがセリンである点のみで相違する)、引用文献10(本願の配列番号22と4番目のアラニンがセリンである点のみで相違する)にそれぞれ開示される獣医学的なデコリンタンパク質の成熟鎖部分のいずれかの4位のセリンをアラニンに変異させてなる変異デコリンを記載事項2-4に例示される周知の技術手段を用いて製造し、これを精製デコリンとして用いることは当業者が容易に想到しうることである。

(2)相違点2について
引用文献2には、TGF-β調節活性により生じた病状として「慢性関節リウマチ、糸球体腎炎、動脈硬化症、成人呼吸促進症候群、肝硬変、肺線維症、術後心筋梗塞、心臓線維症、血管形成術後再狭窄、腎間質性線維症、あるいは皮膚線維症」が記載されており(記載事項2-1)、皮膚線維症の中には肉芽を生じる創傷であることが技術常識である、はん痕やケロイドが挙げられることも記載されるとともに(記載事項2-3)、実際にデコリンの投与によりはん痕の治療を行うことも具体的なデータを以て記載されているから(記載事項2-7)、引用発明において、TGF-β調節活性により生じた病状として、腎疾患である腎間質性線維症及び糸球体腎炎、肝疾患である肝硬変、肺疾患である肺線維症、肉芽を生じる創傷または他の損傷であるはん痕跡やケロイド等の皮膚線維症を選択することは、当業者が容易になしうることである。

(3)効果について
本願の発明の詳細な説明には、デコリンのヒトへの治療的使用方法について従来技術が記載されており(段落【0004】)、獣医学的デコリン組成物の用途、投与方法、用量について一応の記載があるものの(段落【0015】乃至【0022】、【0057】乃至【0065】)、実施例において示されているのは獣医学的デコリンコアタンパク質に変異を導入し、細胞を用いて前記タンパク質を発現させることに留まり、本願発明について実施例すら存在せず、技術水準から予測される範囲を超えた顕著な効果を奏するものとはいえない。

(4)請求人の主張について
請求人は令和 3年 1月18日提出の意見書において、以下の点を主張している。

補正の結果として、本願の請求項1に係る発明は、配列番号4、10、13、16、19、22、及び27のうちの1つと同一である獣医学的デコリンコアタンパク質分子を含む、獣医学的デコリン組成物に限定された。
これに対し、いずれの引用文献も、N末端から4番目のアミノ酸に変異を含めるための、野生型配列と比較した上記配列のうちの変更を、記載も示唆もしていない。

そこで、上記主張について検討する。
引用文献2及び引用文献4、6、8?10には、配列番号4、10、13、16、19、22、及び27のうちの1つと同一である獣医学的デコリンコアタンパク質は開示されていないものの、上記(1)にて検討したとおり、引用発明において、デコリンとして、引用文献4(本願の配列番号4と4番目のアラニンがセリンである点のみで相違する)、引用文献6(本願の配列番号10と4番目のアラニンがセリンである点のみで相違する)、引用文献8(本願の配列番号16と4番目のアラニンがセリンである点のみで相違する)、引用文献9(本願の配列番号19と4番目のアラニンがセリンである点のみで相違する)、引用文献10(本願の配列番号22と4番目のアラニンがセリンである点のみで相違する)にそれぞれ開示される獣医学的なデコリンタンパク質の成熟鎖部分のいずれかの4位のセリンをアラニンに変異させてなる変異デコリンを記載事項2-4に例示される周知の技術手段を用いて製造し、これを精製デコリンとして用いることは当業者が容易に想到しうることに過ぎない。また、上記主張は配列番号4、10、13、16、19、22、及び27のうちの1つと同一である獣医学的デコリンコアタンパク質分子を含む、獣医学的デコリン組成物を用いることによる効果等を主張するものでもなく、上記(3)にて検討したとおり、本願発明については、技術水準から予測される範囲を超えた顕著な効果を奏するものとはいえない。
したがって、請求人による上記主張は採用できない。

(5)まとめ
したがって、本願発明は、引用発明、引用文献2の記載、及び引用文献4、6、8?10の開示に基づいて、当業者が容易になし得たものである。

第5 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明、引用文献2の記載、及び引用文献4、6、8?10の開示に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2021-03-22 
結審通知日 2021-03-23 
審決日 2021-04-16 
出願番号 特願2016-509148(P2016-509148)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C07K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 千葉 直紀  
特許庁審判長 原田 隆興
特許庁審判官 西村 亜希子
大久保 元浩
発明の名称 獣医学的デコリン組成物及びそれらの使用  
代理人 特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ