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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 F16F
管理番号 1377733
審判番号 不服2020-15862  
総通号数 262 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-10-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-11-17 
確定日 2021-10-04 
事件の表示 特願2015- 94955「多段積み式免震床」拒絶査定不服審判事件〔平成28年12月15日出願公開、特開2016-211641、請求項の数(3)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本件に係る出願(以下、「本願」という。)は、平成27年 5月 7日の出願であって、平成31年 2月15日付けで拒絶理由通知がされ、令和 1年 6月27日に意見書及び手続補正書が提出され、同年11月18日付けで拒絶理由通知がされ、令和 2年 3月17日に意見書及び手続補正書が提出され、同年 8月 7日付けで拒絶査定(以下、「原査定」という。)がされ、これに対し、同年11月17日に拒絶査定不服審判の請求がされ、同時に手続補正書が提出されたものである。

第2 原査定の概要
原査定の概要は次のとおりである
本願の請求項1ないし3に係る発明は、以下の引用文献1ないし5に記載された発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1:登録実用新案第3190575号公報
引用文献2:特開2000-291734号公報(周知技術を示す文献)
引用文献3:特開平9-242379号公報(周知技術を示す文献)
引用文献4:特開平9-296627号公報(周知技術を示す文献)
引用文献5:特開2001-263416号公報

第3 審判請求時の補正について
1. 審判請求時の補正(以下、「本件補正」という。)について
本件補正により、特許請求の範囲の記載は、次のとおり補正された(下線部は、補正箇所である。)。

【請求項1】
建物床上において支持脚により支持されつつ支持脚に設置したレベル調整部材により上面が同一高さに調整された固定床と、
前記支持脚のレベル調整部材により上面が前記固定床の上面と同一高さに調整して設置され、かつ、固定床の中央部に設けた四角形状の穴部に固定床と同一高さとなるように組み込まれた下架台と、この下架台上の上架台との間に配置され、水平方向の免震動作を行う支承のローラー転動型の免震機構とを具備し、前記固定床に対して上架台側を上方に突出させて組み込んだ前記固定床より平面視狭寸法の下免震床と、
前記下免震床の上架台の上に配置した下架台と、この下架台上の上架台との間に配置され、水平方向の免震動作を行う支承のローラー転動型の免震機構とを具備し、前記下免震床上に積み上げ式で配置した前記下免震床と同一寸法の1又は2以上の上免震床と、
を有し、
前記上免震床のうち、最上段の上免震床上に搭載した免震対象物を地震動時に保護するために、前記下免震床の免震支承の地震作動時における移動ストロークと、前記積み上げ式で配置した各免震床の各免震支承の地震作動時における各移動ストロークとの総和からなり、かつ、前記各免震床の最大変位時の端部が前記固定床の端部よりはみ出ない移動ストロークにより前記上免震床上に載置された被免震物の水平地震動から保護を行うようにしたことを特徴とする多段積み式免震床。
【請求項2】
建物床上において支持脚により支持されつつ支持脚に設置したレベル調整部材により上面が同一高さに調整された固定床と、
前記支持脚のレベル調整部材により前記固定床の上面と同一高さに上面を調整して設置され、かつ、固定床の中央部に設けた四角形状の穴部に固定床と同一高さとなるように組み込まれた下架台と、この下架台上の上架台と、これら下架台と上架台との間に配置した水平方向の免震動作を行う支承のローラー転動型の免震機構と、を具備する前記固定床より平面視狭寸法の下免震床と、
前記下免震床の上架台上における下架台と、この下架台上の上に配置されるとともに上面に踏面状部を有する上架台との間に配置され、水平方向の免震動作を行う支承のローラー転動型の免震機構とを具備する前記下免震床より平面視狭寸法の二段以上の上免震床と、
を積み上げ式で配置した積み上げ式免震床であって、
前記固定床と下免震床、前記下免震床と上免震床を、階段状の形態となるように構成し、前記二段以上の上免震床における最上段の上免震床上に搭載した免震対象物を地震動時に保護するために、当該上免震床上に載置した免震対象物の地震動時の移動ストロークを、前記下免震床の免震支承の地震作動時における移動ストロークと、前記積み上げ式で配置した上免震床の免震支承の地震作動時における移動ストロークとの総和からなり、かつ、前記各免震床の最大変位時の端部が前記固定床の端部よりはみ出ない移動ストロークにより前記上免震床上に載置された被免震物の水平地震動から保護を行うようにしたことを特徴とする多段積み式免震床。
【請求項3】
前記上免震床における上架台の免震動作時の最大移動ストロークを、前記下免震床における上架台上面の踏面状部の水平寸法と同一又は略同一に設定し、前記固定床上の空間を確保して多段積み式免震床自体の占有面積のコンパクト化を図るようにしたことを特徴とする請求項2記載の多段積み式免震床。

2.本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の特許請求の範囲の記載は、令和 2年 3月17日に手続補正された特許請求の範囲の記載によって特定される次のとおりである。

【請求項1】
建物床上において支持脚により支持されつつ支持脚に設置したレベル調整部材により上面が同一高さに調整された固定床と、
前記支持脚のレベル調整部材により上面が前記固定床の上面と同一高さに調整して設置され、かつ、固定床の中央部に設けた四角形状の穴部に固定床と同一高さとなるように組み込まれた下架台と、この下架台上の上架台との間に配置され、水平方向の免震動作を行う支承のローラー転動型の免震機構とを具備し、前記固定床に対して上架台側を上方に突出させて組み込んだ下免震床と、
前記下免震床の上架台の上に配置した下架台と、この下架台上の上架台との間に配置され、水平方向の免震動作を行う支承のローラー転動型の免震機構とを具備し、前記下免震床上に積み上げ式で配置した前記下免震床と同一寸法の1又は2以上の上免震床と、
を有し、
前記上免震床のうち、最上段の上免震床上に搭載した免震対象物を地震動時に保護するために、前記下免震床の免震支承の地震作動時における移動ストロークと、前記積み上げ式で配置した各免震床の各免震支承の地震作動時における各移動ストロークとの総和からなる移動ストロークにより前記上免震床上に載置された被免震物の水平地震動から保護を行うようにしたことを特徴とする多段積み式免震床。
【請求項2】
建物床上において支持脚により支持されつつ支持脚に設置したレベル調整部材により上面が同一高さに調整された固定床と、
前記支持脚のレベル調整部材により前記固定床の上面と同一高さに上面を調整して設置され、かつ、固定床の中央部に設けた四角形状の穴部に固定床と同一高さとなるように組み込まれた下架台と、この下架台上の上架台と、これら下架台と上架台との間に配置した水平方向の免震動作を行う支承のローラー転動型の免震機構と、を具備する下免震床と、
前記下免震床の上架台上における下架台と、この下架台上の上に配置されるとともに上面に踏面状部を有する上架台との間に配置され、水平方向の免震動作を行う支承のローラー転動型の免震機構とを具備する二段以上の上免震床と、
を積み上げ式で配置した積み上げ式免震床であって、
前記固定床と下免震床、前記下免震床と上免震床を、階段状の形態となるように構成し、前記二段以上の上免震床における最上段の上免震床上に搭載した免震対象物を地震動時に保護するために、当該上免震床上に載置した免震対象物の地震動時の移動ストロークを、前記下免震床の免震支承の地震作動時における移動ストロークと、前記積み上げ式で配置した上免震床の免震支承の地震作動時における移動ストロークとの総和からなる移動ストロークにより前記上免震床上に載置された被免震物の水平地震動から保護を行うようにしたことを特徴とする多段積み式免震床。
【請求項3】
前記上免震床における上架台の免震動作時の最大移動ストロークを、前記下免震床における上架台上面の踏面状部の水平寸法と同一又は略同一に設定したことを特徴とする請求項2記載の多段積み式免震床。

3.本件補正の適否
本件補正は、請求項1に関し、「下免震床」について「前記固定床より平面視狭寸法の(下免震床)」と発明特定事項を限定するとともに、「移動ストローク」について「かつ、前記各免震床の最大変位時の端部が前記固定床の端部よりはみ出ない(移動ストローク)」と発明特定事項を限定するものあるから、特許法第17条の2第5項第2号に規定する特許請求の範囲の限定的減縮を目的とするものである。
当該下免震床の寸法については、願書に最初に添付した明細書の段落【0022】に、「上述した各要素の寸法例について言及すると、前記固定床4は、例えば、X-X方向の寸法が4500mm、Y-Y方向の寸法が4500mmの平面視正方形状に形成している。また、前記下免震床51、上免震床61は、例えば、いずれもX-X方向の寸法が2500mm、Y-Y方向の寸法が2500mmの平面視正方形状に形成している。」と記載されているし、当該移動ストロークについては、願書に最初に添付した明細書の段落【0023】ないし【0025】に、「そして、前記下免震床51、上免震床61を、前記固定床4に対して同心配置に組み込んでいる。更に、前記下免震床51における支承の免震機構54による免震動作時の上架台53の移動ストローク(最大移動ストローク)Lは、X-X方向、Y-Y方向とも例えば片側250mm(両側500mm)に設定している。同様に、前記上免震床61における支承の免震機構54による免震動作時の上架台63の移動ストローク(最大移動ストローク)Lも、X-X方向、Y-Y方向とも例えば片側250mm(両側500mm)に設定している。」と記載されているから、先の同段落【0022】の記載と併せれば、いずれも願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであって、特許法第17条の2第3項の規定に適合するものである。

また、本件補正は、請求項2に関し、請求項2の記載を引用する請求項3を含め「下免震床」について「前記固定床より平面視狭寸法の(下免震床)」と発明特定事項を限定し、「二段以上の上免震床」について「前記下免震床より平面視狭寸法の(二段以上の上免震床)」と発明特定事項を限定するとともに、「移動ストローク」について「かつ、前記各免震床の最大変位時の端部が前記固定床の端部よりはみ出ない(移動ストローク)」と発明特定事項を限定するものあるから、特許法第17条の2第5項第2号に規定する特許請求の範囲の限定的減縮を目的とするものである。
当該下免震床の寸法については、願書に最初に添付した明細書の段落【0066】ないし【0068】に、「本実施例2の多段積み式免震床1Aにおける各要素の寸法例について言及すると、前記固定床4は、X-X方向の寸法が5500mm、Y-Y方向の寸法が5500mmの平面視正方形状に形成している。また、前記下免震床51は、実施例1の場合と同様、X-X方向の寸法が3500mm、Y-Y方向の寸法が3500mmの平面視正方形状に形成している。 一方、前記上免震床61Aは、X-X方向の寸法が例えば2500mm、Y-Y方向の寸法が例えば2500mmの平面視正方形状に形成している。」と記載されているし、当該二段以上の上免震床の寸法については、願書に最初に添付した明細書の段落【0063】に、「本実施例2に係る多段積み式免震床1Aは、基本的構成は実施例1の多段積み式免震床1の場合と同様であるが、前記固定床4上に、実施例1の場合と同様な下免震床51の下架台52、上架台53を設置し、更に、下免震床51上に前記下免震床51より狭面積の下架台62A、上架台63A、これら下架台62A、上架台63A間に内装した既述した場合と同様な免震機構54からなる上免震床61Aを設置した2段同心配置の積み上げ式の構成としたことが特徴である。(なお、令和 2年 3月17日の手続補正により、上記「51」、「52」及び「53」は順に「51A」、「52A」及び「53A」と補正された。)」と記載されているし、当該移動ストロークについては、願書に最初に添付した明細書の段落【0072】に、「前記上架台63Aの移動ストローク(最大移動ストローク)L1を、前記踏面状部66の幅Wと同等とすることにより、前記上免震床61Aの免震動作時に、その上架台63Aの端部が下免震床51の上架台53の端部より外方にはみ出ることは無くなり」と記載されているから、いずれも願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであって、特許法第17条の2第3項の規定に適合するものである。

本件補正は、請求項3に関し、「多段積み式免震床」の機能について「前記固定床上の空間を確保して多段積み式免震床自体の占有面積のコンパクト化を図るように(した)」と発明特定事項を限定するものあるから、特許法第17条の2第5項第2号に規定する特許請求の範囲の限定的減縮を目的とするものである。
当該多段積み式免震床の機能については、願書に最初に添付した明細書の段落【0072】に、「本実施例2に係る多段積み式免震床1A全体として占有面積のコンパクト化を図ることができる。」と記載されているから、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであって、特許法第17条の2第3項の規定に適合するものである。

ここで、補正後の請求項1ないし3に係る発明は、特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第7項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなければならないので、以下、検討する。

4.独立特許要件について
4-1 本願発明1ないし3について
本願の請求項1ないし3に係る発明(以下、「本願発明1」ないし「本願発明3」という。)は、令和 2年11月17日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定される、上記第3の1.のとおりである。

4-2 引用文献に記載された事項及び引用発明
(1)引用文献1に記載された事項及び引用発明について
原査定で引用した引用文献1には、図面とともに以下の事項が記載されている(下線は審決で付した。以下同様。)。
ア 「【0030】
本実施例に係る免震床1は、図2乃至図4に示すように、免震床設置室101内において、例えばその中央床領域に、周辺床領域に設置した固定床2により四辺を囲まれるように配置している。」

イ 「【0034】
前記したように、図示する実施例では複数の免震支承体4を配置した例を示しているが、本考案においては免震支承体4の配置数を限定するものではなく、当該免震支承体4の配置数は4以上複数を用いたものに広く適用できることは勿論である。
すなわち、図示する実施例の前記免震床1は、前記固定床2に四角形状の開口状態で形成した内周端縁部により囲まれる領域に、四角形状の免震装置4aと連結ユニット3を配置することにより構成している。
【0035】
前記連結ユニット3を構成する各免震装置4aは、地震時に水平移動する機構や装置のものであれば特に限定するものではないが、図示例では、例えば、図9乃至図11に示す免震装置4aを内蔵しこれらの各免震装置4aをもって構成した連結ユニット3でもって免震支承体4を構成している。
本実施例の免震支承体4は、前記レベル調整部材2bによりレベル調整した支持脚7の上部面に固定されて、上架台フレーム6と下架台フレーム5との間に、地震時に水平移動する免震装置4aを内蔵している。
【0036】
すなわち、図示する実施例の免震装置4aは、下架台10、免震要素及び上架台11を含み、縦横(X-X方向、Y-Y方向)に所定の間隔をもって列設し、全体として四角形状配置とした例えば9台の詳細構造は後述する免震装置4aを備えている。
【0037】
そして、これら9台の免震装置4aにおける各下架台10を下架台フレーム5により、また、9台の免震装置4aにおける各上架台11を上架台フレーム6により各々一体化し、9台の免震装置4aが連動してX-X方向、又はY-Y方向の免震性能を発揮するように構成している。
【0038】
更に、図4に示すように、前記固定床2、免震装置4aは、免震床設置室101の床スラブ2cから起立配置されてレベル調整部材2bをもってレベル調整されたで所要数の支持脚7により各々水平に支持されるとともに、前記下架台フレーム5の外周端縁部が前記固定床2の内周端縁部と密着又は近接する状態で配置されている。
【0039】
本実施例に係る免震床1は、前記免震装置4aにおける前記固定床2より高位置となる上架台フレーム6とその上面にタイル材又はカーペット類等を敷設した平板材からなる敷物材8とにより平坦に形成している。
【0040】
そして、前記免震床1上に被免震物52を設置し、前記各免震装置4aの連動した動作で前記被免震物52に対する免震機能を発揮させるように構成している。
本実施例に係る免震床1においては、前記上架台フレーム6の四辺の外周端縁部から前記固定床2側にカバー体62aを突設した構成としても良い。
【0041】
前記カバー体62aは、例えば、図5に示すように、鋼板又はアルミニウム板等により一体構成した垂直片13、突出片14を有するL形状の突出体15と、前記突出片14の突出端部に被覆した前記固定床2の上面における敷物材8の上面と非接触状態の例えば弾性ゴム材からなる弾性部材62と、を備えている。弾性部材62を具備するか否かは自在に選択できる。
【0042】
次に、前記免震支承体4を構成している図示例の免震装置4aの具体的構成例について図9乃至図11を参照して説明する。
【0043】
本考案における免震支承体4としては、地震時に水平移動する機構のものであれば、図示例に限定するものでないことは前述した通りである。」

ウ 「【0062】
前記ローラー42a、42b、42cのローラー径に関しても、図6に示すように、前記ローラー32a、32b、32cのローラー径の場合と同様である。
前記一対の下部レール10a、10aと、一対の上部レール12、12と、前記各ローラー群を支持したローラー支持軸枠体21とにより前記免震装置4a におけるローラー転動型の免震要素を構成している。」

エ 「【図1】



オ 「【図2】



カ 「【図3】



上記摘記事項ア?カから、引用文献1には、次の発明が記載されているものといえる(以下、「引用発明」という。)。

(引用発明)
「床スラブ2cの所定位置に固定した支持脚7の上部面に形成されて支持脚7に具備したレベル調整部材2bにより上部面を同一高さレベルに調整した固定床2と、
前記支持脚7のレベル調整部材2bにより上部面が前記固定床2の上部面と同一高さレベルに調整して配置され、かつ、固定床2の中央領域に四角形状の開口状態で形成した内周端縁部により囲まれる領域に固定床2と同一高さレベルに調整して配置された下架台フレーム5と、この下架台フレーム5の上方の上架台フレーム6との間に固定され、地震時に水平移動する免震支承体4を構成するローラー転動型の免震装置4aとを備え、前記固定床2より高位置となる上架台フレーム6を備え前記固定床2に四角形状の開口状態で形成した内周端縁部により囲まれる領域に近接する状態で配置した免震床1と、
を有し、
前記免震床1上に設置された被免震物52に対して地震時に水平移動する機構で免震機能を発揮させるようにした免震床1。」

(2)引用文献2に記載された事項について
原査定で引用した引用文献2には、図面とともに以下の事項が記載されている。
ア 「【0028】
【発明の実施の形態】(実施の形態1)図1?図3は、本発明に係る多段滑り複合免震ユニットおよびこれを用いた免震構造物の第1の実施形態を示すものである。図1および図2に示すように、この免震構造物は、基礎(下部構造)1と、建物(上部構造)2の柱(軸力材)の下方位置との間に、多段滑り複合免震ユニット3が介装されたものである。ここで、多段滑り複合免震ユニット3は、二組の同形の複合免震ユニット4、4が一体化されることによって構成されている。各々の複合免震ユニットは、対向配置された一対の定着板5a、5bと、これら定着板5a、5b間に配設された連結板6と、この連結板6と定着板5a、5bとの間にそれぞれ設けられた滑り支承による第1の免震装置7および積層ゴムを用いた第2の免震装置8と、定着板5a、5bの外周部間に設けられた防塵カバー9とから概略構成されたものである。」

イ 「【0032】そして、上記多段滑り複合免震ユニット3は、上記2組の複合免震ユニット4が、中間部に位置する互いの定着板5a、5b(本ユニット3において一の連結板として機能する)間に密着板12が介装されたうえで、ボルト13によって連結一体化されることによって構成されている。以上の構成からなる多段滑り複合免震ユニット3は、下部の定着板5aがアンカーボルト14を介して基礎1の上面に定着され、他方上部の定着板5bがアンカーボルト15を介して建物2の下面に定着されることにより、これら基礎1および建物2の間に設置されている。」

ウ 「【0043】また、上記多段滑り複合免震ユニット3においては、4段の滑り支承による第1の免震装置7が上下に組み込まれている。したがって、図4に示すように、一般的な片面滑りによる免震装置においては、当該免震装置の直径をφとすると、片側最大滑り量δに対する所要の滑り板の寸法をL=2δ+φになり、また図5に示すように、2段の免震装置による両面滑りの場合に、L′=δ+φになるのに対して、上記ユニット3によれば、図6に示すように、片側最大滑り量δに対する所要の滑り板の長さ寸法L″=δ/2+φになるために、片面滑りの場合のほぼ1/4にすることができ、よってユニット3の小型化を達成することが可能になる。」

エ 「【図1】



オ 「【図5】



カ 「【図6】



(3)引用文献3に記載された事項について
原査定で引用した引用文献3には、図面とともに以下の事項が記載されている。
ア 「【0017】
【発明の実施の形態】以下、この発明の実施の形態を図面に従って説明する。
(実施形態1)この軽荷重用免震装置は、図1に示すように、戸建等の軽量の構造物Aと地盤側基礎体Bとの間に設置され、基本的には、同図や図2に示すように間隔を設けて上下に配置された複数の硬質板材1と、前記硬質板材1,1相互間に配置された環状の支承3と、前記硬質板材1,1相互間であって支承3の内部空間に配置された弾性体2とから構成されている。そして、この実施形態では、上記した弾性体2の上下面はそれぞれ対面する硬質板材1,1に固着してあり、支承3はその上面を下側の硬質板材1に対して相対移動不能に固着すると共に下面を上側の硬質板材1に対して滑動可能となるようにしてある。」

イ 「【0026】単位免震装置Uは、図5に示すように、間隔を設けて上下に配置された一対の硬質板材1aと、前記硬質板材1a,1a相互間に配置された環状の弾性体2と、前記硬質板材1a,1a相互間であって弾性体2の内部空間に配置された支承3とから構成されている。
【0027】硬質板材1aは、実施形態1の硬質板材1の2/3程度の厚みを有する平面視円形の鋼板により形成されており、図5に示すように、外周円近傍にはボルト挿通孔が形成されている。
【0028】弾性体2、支承3及びすべり部材4は、実施形態2において硬質板材1,1相互間に設けられているものと全く同一のものが使用されている。
【0029】ここで、上記した弾性体2の上下面はそれぞれ対面する硬質板材1a,1aに固着してあり、支承3と硬質板材1a,1aとの対面部分のうち下面は相対移動不能に固着されていると共に、上面は摺動可能に、それぞれしてある。
【0030】したがって、複数の単位免震装置Uを上下に重ねてボルト止めした状態では実施形態1とほぼ同様の構造の免震装置となり、同様の機能を有したものとなると共に許容剪断変形量や装置の高さを必要に応じて自由にかえることができるものとなる。」

ウ 「【図1】



エ 「【図5】



(4)引用文献4に記載された事項について
原査定で引用した引用文献4には、図面とともに以下の事項が記載されている。
ア 「【0008】第5の発明にかかる免震体は、免震体を多数叉は複合叉は互合に設けることにより生ずる特徴を成す免震体である。免震体を構成している、転動体叉は摺動体とそれに接する面の形状に於いて、上記面の形状を窪み・斜面・平面・係止・小段所持・波状等を形成させ、その形状に球体、又は円柱体、叉は円筒体、又は螺状体、ジャバラ円筒体等の転動体を摺接させて免震体と成す。それを1ヶの免震体と成す。その1ヶの免震体を免震要求の物品の物体の下部に上記免震体を複数単体に用い、それを個々別々に配列・配設を行う。叉は、転動体叉は摺動体とそれに接する面の形状に於いて、上記面の形状の窪み・斜面・平面・係止・小段所持・波状等を形成させ、その形状に球体、又は円柱体、叉は円筒体、又は螺状体、ジャバラ円筒体等の転動体を摺接させて成る構造体を連続に複数組み合わせて一体・一対化した形状の摺接面を製作して免震体と成す。その免震体を免震要求の物品の物体の下部に配設を行う。(後略)」

イ 「【0013】第三図は請求項1・2・3・5の発明にかかる免震体を示す斜視図である。弾性力を有するゴム材叉はゲル材を有したクッション材で、斜面と凹みとの組み合わせした形状を多数連いだ一連の形成体 2 に転動体の球体 1 を摺接させて転動体の転がりの制御・抵抗を為し、移動量の減少にて免震体の上乗板の安定を為す。更にその免震体の下面及び上面に硬質板を添付して衝撃に対処してゴム材及び免震体の保護と為す。その上記免震体を二層に設定して振動移動幅・ 振動移動量・振動クッション量・圧押量の作用の減少を為した免震体である。」

ウ 「【図3】



(5)引用文献5に記載された事項について
原査定で引用した引用文献5には、図面とともに以下の事項が記載されている。
ア 「【0013】この免震装置10は、相互に間隔をあけて配置された多数のプレート12と、これら各プレート12間に本発明のゴム柱体として介設された複数の柱体状の積層ゴム14a,14b,14cとを備える。プレート12と積層ゴム14a,14b,14cは交互に多段に積み重ねられて構成されている。各プレート12と各積層ゴム14a,14b,14cとは相互に一体的に接合されている。各プレート12は鋼板で形成されている。各プレート12の外形形状はそれぞれ矩形状に成形され、その外形寸法は上層部から下層部に向かって順次水平方向に拡大している。各プレート12間の積層ゴム14a,14b,14cは、その配置領域が上層部から下層部に向かって順次水平方向に拡大されている。これにより全体がピラミッド状の積層体となっている。免震対象となる建築構造物等からの荷重は、積層体の頂部で支持するようになっている。」

イ 「【図1】



4-3 対比・判断


(1)本願発明1について
ア 対比
引用発明の「床スラブ2c」、「支持脚7」、「支持脚7に具備した」態様、「レベル調整部材2b」、「上部面を同一高さレベルに調整した」態様及び「固定床2」は、それぞれ、本願発明1の「建物床」、「支持脚」、「支持脚に設置した」態様、「レベル調整部材」、「上面が同一高さに調整された」態様及び「固定床」に相当する。また、引用発明の「床スラブ2cの所定位置に固定した支持脚7の上部面に形成されて」の態様は本願発明1の「建物床上において支持脚により支持されつつ」の態様に相当する。したがって、引用発明の「床スラブ2cの所定位置に固定した支持脚7の上部面に形成されて支持脚7に具備したレベル調整部材2bにより上部面を同一高さレベルに調整した固定床2」は本願発明1の「建物床上において支持脚により支持されつつ支持脚に設置したレベル調整部材により上面が同一高さに調整された固定床」に相当する。

また、引用発明の「上部面」、「同一高さレベルに調整して」の態様、「配置され」た態様、「固定床2の中央領域に四角形状の開口状態で形成した内周端縁部により囲まれる領域」、「同一高さレベルに調整して配置された」態様及び「下架台フレーム5」は、それぞれ、本願発明1の「上面」、「同一高さに調整して」の態様、「設置され」た態様、「固定床の中央部に設けた四角形状の穴部」、「同一高さとなるように組み込まれた」態様及び「下架台」に相当する。したがって、引用発明の「前記支持脚7のレベル調整部材2bにより上部面が前記固定床2の上部面と同一高さレベルに調整して配置され、かつ、固定床2の中央領域に四角形状の開口状態で形成した内周端縁部により囲まれる領域に固定床2と同一高さレベルに調整して配置された下架台フレーム5」は本願発明1の「前記支持脚のレベル調整部材により上面が前記固定床の上面と同一高さに調整して設置され、かつ、固定床の中央部に設けた四角形状の穴部に固定床同一高さとなるように組み込まれた下架台」に相当する。

そして、引用発明の「下架台フレーム5の上方の上架台フレーム6」、「固定され」た態様、「地震時に水平移動する免震支承体4を構成する」態様、「免震装置4a」及び「備え」た態様は、それぞれ、本願発明1の「下架台上の上架台」、「配置され」た態様、「水平方向の免震動作を行う支承の」態様、「免震機構」及び「具備し」た態様に相当する。したがって、引用発明の「下架台フレーム5と、この下架台フレーム5の上方の上架台フレーム6との間に固定され、地震時に水平移動する免震支承体4を構成するローラー転動型の免震装置4aとを備え」た態様は本願発明1の「下架台と、この下架台上の上架台との間に配置され、水平方向の免震動作を行う支承のローラー転動型の免震機構とを具備し」た態様に相当する。

また、引用発明の「前記固定床2より高位置となる上架台フレーム6を備え」た態様は本願発明1の「前記固定床に対して上架台側を上方に突出させて組み込んだ」態様に相当し、引用発明の「前記固定床2に四角形状の開口状態で形成した内周端縁部により囲まれる領域に近接する状態で配置した」態様は本願発明1の「前記固定床より平面視狭寸法の」態様に相当する。
さらに、引用発明の「設置された」た態様は本願発明1の「載置された」態様に相当し、引用発明の「被免震物52に対して地震時に水平移動する機構で免震機能を発揮させる」態様は本願発明1の「被免震物の水平地震動から保護を行う」態様に相当する。

そして、本願発明1の「下免震床」、「上免震床」及び「多段積み式免震床」と引用発明の「免震床1」とは「免震床」の限りにおいてに一致する。

してみると、本願発明1と引用発明とは、両者が
「建物床上において支持脚により支持されつつ支持脚に設置したレベル調整部材により上面が同一高さに調整された固定床と、
前記支持脚のレベル調整部材により上面が前記固定床の上面と同一高さに調整して設置され、かつ、固定床の中央部に設けた四角形状の穴部に固定床と同一高さとなるように組み込まれた下架台と、この下架台上の上架台との間に配置され、水平方向の免震動作を行う支承のローラー転動型の免震機構とを具備し、前記固定床に対して上架台側を上方に突出させて組み込んだ前記固定床より平面視狭寸法の免震床と、
を有し、
前記免震床上に載置された被免震物の水平地震動から保護を行うようにした免震床。」
である点で一致し、次の点で相違する。

(相違点1)
本願発明1は、「多段積み式免震床」であって、当該多段積み式に係る構成である「前記下免震床の上架台の上に配置した下架台と、この下架台上の上架台との間に配置され、水平方向の免震動作を行う支承のローラー転動型の免震機構とを具備し、前記下免震床上に積み上げ式で配置した前記下免震床と同一寸法の1又は2以上の上免震床と、を有し、前記上免震床のうち、最上段の上免震床上に搭載した免震対象物を地震動時に保護するために、前記下免震床の免震支承の地震作動時における移動ストロークと、前記積み上げ式で配置した各免震床の各免震支承の地震作動時における各移動ストロークとの総和からなり、かつ、前記各免震床の最大変位時の端部が前記固定床の端部よりはみ出ない移動ストローク」を備えるのに対して、引用発明では、多段積み式ではない、「下免震床」でもなく「上免震床」でもない「免震床1」であって、多段積み式に係る上記構成を備えていない点。

イ 判断
上記相違点1について検討する。
本願発明1の「多段積み式免震床」は、「下架台」と「上架台」と「免震機構」とを具備する「下免震床」と、同じく「下架台」と「上架台」と「免震機構」とを具備する「上免震床」とからなり、「下免震床」に「上免震床」を「積み上げ式で配置した」ものといえる。そして、最上段の上免震床の「上架台」には被免震物が「載置され」るものである。
一方、引用文献2には、4-2の(2)のアに摘記したように「多段滑り複合免震ユニットおよび免震構造物」が開示され、基礎(下部構造)1と、建物(上部構造)2との間に、多段滑り複合免震ユニット3が介装されたものであり、多段滑り複合免震ユニット3は、二組の同形の複合免震ユニット4、4が一体化されることによって構成されており、「建物(上部構造)2」に被免震物が載置されといえるので、これら「基礎(下部構造)1」、「建物(上部構造)2」及び「多段滑り複合免震ユニット3」が、それぞれ引用発明の「下架台フレーム5」、「上架台フレーム6」及び「免震装置4a」に相当するといえる。そうすると、仮に、引用発明に引用文献2に記載された「多段滑り複合免震ユニット3は、二組の同形の複合免震ユニット4、4が一体化されることによって構成され」るとの技術的事項を適用したとしても、引用発明における「免震装置4a」が多段となるのであって、「下架台フレーム5」、「上架台フレーム6」及び「免震装置4a」とを備える「免震床1」が「積み上げ式で配置した」ものとはならないから、当業者であっても、引用発明をして上記相違点1に係る本願発明1の構成とすることはできない。
また、引用文献3ないし5に開示された技術的事項も、引用文献2と同様なものといえる。
そして、引用文献1ないし5には、引用発明において「下架台フレーム5」、「上架台フレーム6」及び「免震装置4a」とを備える「免震床1」をして「積み上げ式で配置した」ものとすることを示唆する記載もない。
また、技術常識を参酌しても、引用発明において「下架台フレーム5」、「上架台フレーム6」及び「免震装置4a」とを備える「免震床1」をして「積み上げ式で配置した」ものとすることが、当業者にとって容易であったということはできないものである。
そして、本願発明1は上記相違点1に係る本願発明1の構成を備えることで、本件補正により補正された本願明細書の段落【0009】に記載された「免震床自体の通常時の占有面積を抑えつつ例えば大地震発生時には、下免震床の免震支承の地震作動時における移動ストロークと、前記積み上げ式で配置した各免震床の各免震支承の地震作動時における各移動ストロークとの総和からなり、かつ、前記各免震床の最大変位時の端部が前記固定床の端部よりはみ出ない大きな移動ストロークをもって免震対象物の水平方向の免震動作を有効に行うことができる多段積み式免震床を実現し提供することができる」との効果を奏するといえる。

してみると、本願発明1は、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができた発明ではないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明ではない。

(2)本願発明2について
ア 対比
上記「(1)本願発明1について」の「ア 対比」にて、既に検討した本願発明1と引用発明との対比に係る事項を考慮すると、さらに、次のことがいえる。
引用発明の「下架台フレーム5と、この下架台フレーム5の上方の上架台フレーム6との間に固定され、地震時に水平移動する免震支承体4を構成するローラー転動型の免震装置4aとを備え」の態様は本願発明2の「下架台と、この下架台上の上架台と、これら下架台と上架台との間に配置した水平方向の免震動作を行う支承のローラー転動型の免震機構と、を具備する」態様に相当する。

してみると、本願発明2と引用発明とは、両者が
「建物床上において支持脚により支持されつつ支持脚に設置したレベル調整部材により上面が同一高さに調整された固定床と、
前記支持脚のレベル調整部材により前記固定床の上面と同一高さに上面を調整して設置され、かつ、固定床の中央部に設けた四角形状の穴部に固定床と同一高さとなるように組み込まれた下架台と、この下架台上の上架台と、これら下架台と上架台との間に配置した水平方向の免震動作を行う支承のローラー転動型の免震機構と、を具備する前記固定床より平面視狭寸法の免震床と、
前記免震床上に載置された被免震物の水平地震動から保護を行うようにした免震床。」
である点で一致し、次の点で相違する。

(相違点2)
本願発明2は、「多段積み式免震床」であって、当該多段積み式に係る構成である「前記下免震床の上架台上における下架台と、この下架台上の上に配置されるとともに上面に踏面状部を有する上架台との間に配置され、水平方向の免震動作を行う支承のローラー転動型の免震機構とを具備する前記下免震床より平面視狭寸法の二段以上の上免震床と、を積み上げ式で配置した積み上げ式免震床であって、前記固定床と下免震床、前記下免震床と上免震床を、階段状の形態となるように構成し、前記二段以上の上免震床における最上段の上免震床上に搭載した免震対象物を地震動時に保護するために、当該上免震床上に載置した免震対象物の地震動時の移動ストロークを、前記下免震床の免震支承の地震作動時における移動ストロークと、前記積み上げ式で配置した上免震床の免震支承の地震作動時における移動ストロークとの総和からなり、かつ、前記各免震床の最大変位時の端部が前記固定床の端部よりはみ出ない移動ストローク」を備えるのに対して、引用発明では、多段積み式ではない、「下免震床」でもなく「上免震床」でもない「免震床1」であって、多段積み式に係る上記構成を備えていない点。

イ 判断
上記相違点2について検討する。
本願発明2の「多段積み式免震床」も、「下架台」と「上架台」と「免震機構」とを具備する「下免震床」と、同じく「下架台」と「上架台」と「免震機構」とを具備する「上免震床」とからなり、「下免震床」に「上免震床」を「積み上げ式で配置した」ものといえる。そして、最上段の上免震床の「上架台」には被免震物が「載置され」るものである。
そして、上記相違点2は既に検討した相違点1と同様であるから、当業者であっても、引用文献2ないし5に開示された技術的事項を参酌しても、引用発明をして上記相違点2に係る本願発明2の構成とすることはできない。
さらに、引用文献1ないし5には、引用発明において「免震床1」をして「積み上げ式で配置した」ものとすることを示唆する記載もないし、技術常識を参酌しても、引用発明において「免震床1」をして「積み上げ式で配置した」ものとすることが、当業者にとって容易であったということはできないものである。
そして、本願発明2は上記相違点2に係る本願発明2の構成を備えることで、本件補正により補正された本願明細書の段落【0011】に記載された「免震床自体の通常時の占有面積を抑えつつ例えば大地震発生時には、下免震床の免震支承の地震作動時における移動ストロークと、前記積み上げ式で配置した各免震床の各免震支承の地震作動時における各移動ストロークとの総和からなり、かつ、前記各免震床の最大変位時の端部が前記固定床の端部よりはみ出ない大きな移動ストロークをもって免震対象物の水平方向の免震動作を有効に行うことができる多段積み式免震床を実現し提供することができる」との効果を奏するといえる。

してみると、本願発明2は、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができた発明ではないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明ではない。

(3)本願発明3について
本願発明3は、上記相違点2に係る本願発明2の構成と同一の構成を備えるものであるから、本願発明2と同じ理由により、当業者であっても、引用発明に基いて容易に発明をすることができたものとはいえない。

5.小括
以上のとおりであるから、本願発明1ないし3は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明ではなく、その他の拒絶理由も発見できないから、特許出願の際独立して特許を受けることができる発明であるので、特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第7項の規定に適合する。

第4 原査定について
審判請求時の補正により、本願発明1は、「前記下免震床の上架台の上に配置した下架台と、この下架台上の上架台との間に配置され、水平方向の免震動作を行う支承のローラー転動型の免震機構とを具備し、前記下免震床上に積み上げ式で配置した前記下免震床と同一寸法の1又は2以上の上免震床と、を有し、前記上免震床のうち、最上段の上免震床上に搭載した免震対象物を地震動時に保護するために、前記下免震床の免震支承の地震作動時における移動ストロークと、前記積み上げ式で配置した各免震床の各免震支承の地震作動時における各移動ストロークとの総和からなり、かつ、前記各免震床の最大変位時の端部が前記固定床の端部よりはみ出ない移動ストローク」の「多段積み式免震床」という発明特定事項を備えるものとなっており、また、本願発明2及び3は、「前記下免震床の上架台上における下架台と、この下架台上の上に配置されるとともに上面に踏面状部を有する上架台との間に配置され、水平方向の免震動作を行う支承のローラー転動型の免震機構とを具備する前記下免震床より平面視狭寸法の二段以上の上免震床と、を積み上げ式で配置した積み上げ式免震床であって、前記固定床と下免震床、前記下免震床と上免震床を、階段状の形態となるように構成し、前記二段以上の上免震床における最上段の上免震床上に搭載した免震対象物を地震動時に保護するために、当該上免震床上に載置した免震対象物の地震動時の移動ストロークを、前記下免震床の免震支承の地震作動時における移動ストロークと、前記積み上げ式で配置した上免震床の免震支承の地震作動時における移動ストロークとの総和からなり、かつ、前記各免震床の最大変位時の端部が前記固定床の端部よりはみ出ない移動ストローク」の「多段積み式免震床」という発明特定事項を備えるものとなっており、いずれも、当業者であっても、拒絶査定において引用された引用発明に基いて、容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって、原査定の理由を維持することはできない。

第5 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。

 
審決日 2021-09-17 
出願番号 特願2015-94955(P2015-94955)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (F16F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 熊谷 健治  
特許庁審判長 平田 信勝
特許庁審判官 尾崎 和寛
田村 嘉章
発明の名称 多段積み式免震床  
代理人 下山 冨士男  
代理人 前田 和男  

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