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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C09J
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C09J
審判 全部申し立て 2項進歩性  C09J
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C09J
管理番号 1377749
異議申立番号 異議2018-700983  
総通号数 262 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-10-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-12-04 
確定日 2021-07-08 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6370477号発明「両面粘着テープ、車載部品固定用両面粘着テープ、及び、車載用ヘッドアップディスプレイカバー固定用両面粘着テープ」の特許異議申立事件についてされた令和元年11月20日付け取消決定に対し、知的財産高等裁判所において取消決定取消しの判決(令和元年(行ケ)10173号、令和2年9月3日言渡、その後確定)があったので、更に審理の上、次のとおり決定する。 
結論 特許第6370477号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-7〕について訂正することを認める。 特許第6370477号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6370477号の請求項1?7に係る特許についての出願は、平成29年2月22日(優先権主張 2016年2月22日 (JP)日本国)を国際出願日とするものであって、平成30年7月20日にその特許権の設定登録がされ、同年8月8日に特許掲載公報が発行された。その特許についての本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
平成30年12月4日:特許異議申立人 舟橋 すみ枝(以下、「申立人A」という。)による特許異議の申立て
平成31年2月1日 :特許異議申立人 八代 瑞子(以下、「申立人B」という。)による特許異議の申立て
平成31年2月4日 :特許異議申立人 特許業務法人朝日奈特許事務所(以下、「申立人C」という。)による特許異議の申立て
令和元年5月9日付 :取消理由通知書
同年7月12日 :特許権者による意見書の提出
同年8月19日付 :取消理由通知書(決定の予告)
同年10月28日 :特許権者による意見書の提出
同年11月20日付 :当審が取消決定(以下「本件第1次決定」という。)
同年12月24日 :特許権者が取消決定取消訴訟を提起
令和2年9月3日 :知財高裁が、本件第1次決定を取り消す判決(以下「本件先行判決」という。)を言渡、その後確定
同年12月22日 :取消理由通知(決定の予告)
令和3年3月3日 :特許権者による意見書の提出及び訂正の請求(以下「本件訂正」という。)
同年3月17日付 :当審から申立人A?Cへ通知書
同年4月15日 :申立人Cによる意見書の提出
同年4月20日 :申立人Bによる意見書の提出
なお、申立人Aは意見書提出の希望をせず、意見書の提出がなかった。

第2 本件訂正についての判断
1 訂正事項
本件訂正は次の訂正事項からなるものである。当審が訂正箇所に下線を付した。
(1)訂正事項1
訂正前の請求項1に
「基材の両面にアクリル粘着剤層を有する両面粘着テープであって、
前記基材は、発泡体からなり、
前記基材の厚みが1500μm以下であり、
前記発泡体は、示差走査熱量計により測定される結晶融解温度ピークが140℃以上であり、発泡倍率が15cm^(3)/g以下であり、気泡のアスペクト比(MDの平均気泡径/TDの平均気泡径)が0.9?3であり、
前記発泡体がポリプロピレン系樹脂を含有する
ことを特徴とする両面粘着テープ。」と記載されているのを、
「基材の両面にアクリル粘着剤層を有する両面粘着テープであって、
前記基材は、発泡体からなり、
前記基材の厚みが200μm以上1500μm以下であり、
前記発泡体は、示差走査熱量計により測定される結晶融解温度ピークが140℃以上であり、発泡倍率が15cm^(3)/g以下であり、気泡のアスペクト比(MDの平均気泡径/TDの平均気泡径)が0.9?3であり、ホモポリプロピレン、プロピレン含有量が50重量%以上であるエチレン-プロピレンランダム共重合体又はプロピレン含有量が50重量%以上であるエチレン-プロピレンブロック共重合体の少なくとも1つからなるポリプロピレン系樹脂を30重量%以上含有する
ことを特徴とする両面粘着テープ。」と訂正する。(請求項1を直接または間接的に引用する請求項2?7も同様に訂正する。)
(2)訂正事項2
訂正前の請求項2に「前記発泡体は、ポリプロピレン系樹脂を30?90重量%含有するポリオレフィン発泡体であることを特徴とする請求項1記載の両面粘着テープ。」と記載されているのを、「前記発泡体は、前記ポリプロピレン系樹脂を30?90重量%含有するポリオレフィン発泡体であることを特徴とする請求項1記載の両面粘着テープ。」と訂正する。(請求項2を直接または間接的に引用する請求項3?7も同様に訂正する。)
(3)訂正事項3
訂正前の請求項3に「前記ポリプロピレン系樹脂は、プロピレンを主成分とするエチレン-プロピレンランダム共重合体であることを特徴とする請求項1又は2記載の両面粘着テープ。」と記載されているのを、「前記ポリプロピレン系樹脂は、プロピレン含有量が50重量%以上であるエチレン-プロピレンランダム共重合体であることを特徴とする請求項1又は2記載の両面粘着テープ。(請求項3を直接または間接的に引用する請求項4?7も同様に訂正する。)
(4)訂正事項4
訂正前の請求項5に「総厚みが30?2000μmであることを特徴とする請求項1、2、3又は4記載の両面粘着テープ。」と記載されているのを、「総厚みが220?2000μmであることを特徴とする請求項1、2、3又は4記載の両面粘着テープ。」と訂正する。(請求項5を引用する請求項6、7も同様に訂正する。)
2 訂正要件についての判断
(1)一群の請求項について
訂正前の請求項2?7は、いずれも訂正前の請求項1を直接または間接的に引用しているから、訂正前の請求項1?7は特許法第120条の5第4項に規定される一群の請求項である。したがって、本件訂正は、一群の請求項ごとになされたものである。
(2)訂正事項1について
ア 訂正の目的
訂正事項1は、(ア)訂正前には限定のなかった基材の厚みの下限値を「200μm」と限定し、(イ)訂正前には限定のなかった「ポリプロピレン系樹脂」を「ホモポリプロピレン、プロピレン含有量が50重量%以上であるエチレン-プロピレンランダム共重合体又はプロピレン含有量が50重量%以上であるエチレン-プロピレンブロック共重合体の少なくとも1つからなるポリプロピレン系樹脂」と限定し、(ウ)訂正前には限定のなかった発泡体中のポリプロピレン系樹脂の含有量を「30重量%以上」と限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものといえる。また、訂正前の「プロピレン系樹脂」という特定事項を「プロピレン含有量が50重量%以上」と訂正し、明確化するものでもあるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明をも目的とするものといえる。
新規事項の追加の有無
(ア)訂正事項1のうち、基材の厚みの下限値を200μmとする訂正は、本件特許明細書の段落【0042】に、「上記基材の厚みのより好ましい下限は150μm、より好ましい上限は900μmであり、更に好ましい下限は200μm、更に好ましい上限は800μmである。」と記載されていることから、願書に添付した明細書に記載された範囲内の訂正であり、新規事項を追加するものとはいえない。
(イ)訂正事項1のうち、ポリプロピレン系樹脂を「ホモポリプロピレン、プロピレン含有量が50重量%以上であるエチレン-プロピレンランダム共重合体又はプロピレン含有量が50重量%以上であるエチレン-プロピレンブロック共重合体の少なくとも1つからなるポリプロピレン系樹脂」に限定する訂正は、本件特許明細書の段落【0010】に、「上記ポリプロピレン系樹脂は特に限定されず、例えば、ホモポリプロピレン、プロピレンを主成分とするエチレン-プロピレンランダム共重合体、プロピレンを主成分とするエチレン-プロピレンブロック共重合体等が挙げられる。これらのポリプロピレン系樹脂は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。・・・なお、ここで主成分とするとは共重合体中のプロピレン含有量が50重量%以上であることを意味する。」と記載されていることから、願書に添付した明細書に記載された範囲内の訂正であり、新規事項を追加するものとはいえない。
(ウ)訂正事項1のうち、発泡体中のポリプロピレン系樹脂の含有量を「30重量%以上」と限定する訂正は、本件明細書の段落【0015】に「上記ポリオレフィン発泡体のポリプロピレン系樹脂の含有量の好ましい下限は30重量%、好ましい上限は90重量%である。」と記載されていることから、願書に添付した明細書に記載された範囲内の訂正であり、新規事項を追加するものとはいえない。
(エ)そうすると、訂正事項1は新規事項を追加するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
ウ 実質上の拡張・変更の有無
訂正事項1は、(ア)訂正前には限定のなかった基材の厚みの下限値を「200μm」と限定し、(イ)訂正前には限定のなかった「ポリプロピレン系樹脂」を「ホモポリプロピレン、プロピレン含有量が50重量%以上であるエチレン-プロピレンランダム共重合体又はプロピレン含有量が50重量%以上であるエチレン-プロピレンブロック共重合体の少なくとも1つからなるポリプロピレン系樹脂」と限定し、(ウ)訂正前には限定のなかった発泡体中のポリプロピレン系樹脂の含有量を「30重量%以上」と限定するものであって、いずれもカテゴリーや対象、目的を変更するものではない。
したがって、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条6項の規定に適合するものといえる。
(2)訂正事項2
ア 訂正の目的
訂正事項2は、訂正前の請求項2において「ポリプロピレン系樹脂」とされていたのを「前記ポリプロピレン系樹脂」と請求項1において既出であることを明確にするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものいえる。
新規事項の追加の有無
前記アのとおり、訂正事項2は明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、新規事項を追加するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
ウ 実質上の拡張・変更の有無
前記アのとおり、訂正事項2は明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、特許請求の範囲を実質上拡張又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
(3)訂正事項3
ア 訂正の目的
訂正事項3は、訂正前の「プロピレンを主成分とする」という特定事項を「プロピレン含有量が50重量%以上」と訂正し、明確化するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものといえる。
新規事項の追加の有無
前記アのとおり、訂正事項3は明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、主成分の定義は、本件特許明細書の段落【0010】に、「主成分とするとは共重合体中のプロピレン含有量が50重量%以上であることを意味する。」と記載されていることから、新規事項を追加するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
ウ 実質上の拡張・変更の有無
前記アのとおり、訂正事項3は明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、特許請求の範囲を実質上拡張又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
(4)訂正事項4
ア 訂正の目的
訂正事項4は、訂正前の請求項5における「総厚み」の下限値が30μmであったものを、220μmに訂正するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものといえる。
新規事項の追加の有無
本件特許明細書の段落【0042】に、「上記基材の下限は特に限定されないが、・・・更に好ましい下限は200μm」と記載され、同段落【0051】に、「片面のアクリル粘着剤層の厚みの好ましい下限は10μm」と記載されている。ここで、両面粘着テープの総厚みは、基材の厚みに両面の粘着剤層の厚みを加えたものであるから、下限値として、200+10+10=220μmが開示されていることが読み取れる。したがって、訂正事項2は新規事項を追加するものでなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
ウ 実質上の拡張・変更の有無
前記アのとおり、訂正事項4は、訂正前の請求項5における「総厚み」の下限値が30μmであったものを、220μmに訂正するものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではない。
したがって、訂正事項4は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条6項の規定に適合するものといえる。
3 小括
以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号を目的とするものであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するから、本件訂正を認める。

第3 本件発明
1 前記第2での判断のとおり本件訂正は認められるから、本件特許の請求項1?7に係る発明(以下、「本件発明1」?「本件発明7」といい、まとめて、「本件発明」ともいう。)は、以下のとおりである。
「【請求項1】
基材の両面にアクリル粘着剤層を有する両面粘着テープであって、
前記基材は、発泡体からなり、
前記基材の厚みが200μm以上1500μm以下であり、
前記発泡体は、示差走査熱量計により測定される結晶融解温度ピークが140℃以上であり、発泡倍率が15cm^(3)/g以下であり、気泡のアスペクト比(MDの平均気泡径/TDの平均気泡径)が0.9?3であり、ホモポリプロピレン、プロピレン含有量が50重量%以上であるエチレン-プロピレンランダム共重合体又はプロピレン含有量が50重量%以上であるエチレン-プロピレンブロック共重合体の少なくとも1つからなるポリプロピレン系樹脂を30重量%以上含有する
ことを特徴とする両面粘着テープ。
【請求項2】
前記発泡体は、前記ポリプロピレン系樹脂を30?90重量%含有するポリオレフィン発泡体であることを特徴とする請求項1記載の両面粘着テープ。
【請求項3】
前記ポリプロピレン系樹脂は、プロピレン含有量が50重量%以上であるエチレン-プロピレンランダム共重合体であることを特徴とする請求項1又は2記載の両面粘着テープ。
【請求項4】
前記発泡体は、厚さ方向の25%圧縮強度が50?1000kPaであることを特徴とする請求項1、2又は3記載の両面粘着テープ。
【請求項5】
総厚みが220?2000μmであることを特徴とする請求項1、2、3又は4記載の両面粘着テープ。
【請求項6】
請求項1、2、3、4又は5記載の両面粘着テープからなることを特徴とする車載部品固定用両面粘着テープ。
【請求項7】
請求項1、2、3、4又は5記載の両面粘着テープからなることを特徴とする車載用ヘッドアップディスプレイカバー固定用両面粘着テープ。」
2 本件特許明細書の記載
本件特許明細書には以下の記載がある。
(1)「【0008】
本発明者は、鋭意検討の結果、基材の両面にアクリル粘着剤層を有する両面粘着テープにおいて、基材として発泡体を用い、該発泡体の結晶融解温度ピーク、発泡倍率、及び、気泡のアスペクト比を特定範囲に調整することにより、薄型の両面粘着テープであっても、耐熱性を向上させて車載部品の固定用途にて想定される高温下でも剥離しにくくなるとともに、曲面に適用したときにでも剥離しにくい耐反発性を発揮できることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
本発明の両面粘着テープは、基材の両面にアクリル粘着剤層を有する。
上記基材は、発泡体からなる。上記発泡体は、例えばシート状であってもよい。
上記発泡体は、示差走査熱量計により測定される結晶融解温度ピークが140℃以上である。また、上記発泡体の発泡倍率は15cm^(3)/g以下である。また、上記発泡体の気泡のアスペクト比(MDの平均気泡径/TDの平均気泡径)は、0.9?3である。このような発泡体を基材として用いることにより、本発明の両面粘着テープは、高い耐熱性を発揮して車載部品の固定用途にて想定される高温下でも剥離しにくく、かつ、曲面に適用したときにでも剥離しにくい耐反発性を発揮することができる。
【0010】
上記発泡体は特に限定されず、例えば、ポリオレフィン発泡体を用いることができる。
上記ポリオレフィン発泡体としては、ポリエチレン系樹脂やポリプロピレン系樹脂を含有するポリオレフィン発泡体を用いることができる。なかでも、ポリプロピレン系樹脂を含有するポリオレフィン発泡体が好ましい。
上記ポリプロピレン系樹脂は特に限定されず、例えば、ホモポリプロピレン、プロピレンを主成分とするエチレン-プロピレンランダム共重合体、プロピレンを主成分とするエチレン-プロピレンブロック共重合体等が挙げられる。これらのポリプロピレン系樹脂は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、得られるポリオレフィン発泡体の耐熱性及び耐反発性を両立しやすくことから、プロピレンを主成分とするエチレン-プロピレンランダム共重合体を含有することが好ましい。また、耐寒性向上の観点から、プロピレンを主成分とするエチレン-プロピレンブロック共重合体を含有してもよい。
なお、ここで主成分とするとは共重合体中のプロピレン含有量が50重量%以上であることを意味する。」
(2)「【0020】
上記発泡体の示差走査熱量計により測定される結晶融解温度ピークは、140℃以上であれば特には限定されないが、好ましい下限は145℃、好ましい上限は175℃である。上記結晶融解温度ピークがこの範囲内であると、得られる発泡体の耐熱性をより向上させることができる。上記結晶融解温度ピークのより好ましい下限は147℃、更に好ましい下限は149℃、特に好ましい下限は152℃である。
上記発泡体の示差走査熱量計により測定される結晶融解温度ピークは、上記発泡体の材料、発泡倍率、厚み等により調整することができる。
なお、本明細書において示差走査熱量計により測定される結晶融解温度ピークとは、発泡体100mgを示差走査熱量計を用いて大気中において昇温速度10℃/分の条件下で測定された際のピーク温度を意味する。上記示差走査熱量計は、具体的には例えば、セイコーインスツルメンツ社製の商品名「220C」等を用いることができる。
【0021】
上記発泡体の発泡倍率の上限は15cm^(3)/gである。上記発泡体の発泡倍率がこの範囲内であると、得られる両面粘着テープは高い耐衝撃性と耐反発性とを両立することができる。上記発泡体の発泡倍率の下限は特に限定されないが、好ましい下限は3cm^(3)/gである。上記発泡体の発泡倍率が3cm^(3)/g未満であると、基材としての反発力が強くなりすぎて耐反発性が低下し、得られる両面粘着テープを曲面に適用したときに剥がれやすくなることがあり、15cm^(3)/gを超えると、基材の強度が不足して、得られる両面粘着テープを曲面に適用したときに基材が厚み方向に延びたり割れてしまったりすることがある。上記発泡体の発泡倍率の好ましい下限は4cm^(3)/g、好ましい上限は8cm^(3)/gであり、より好ましい下限は4.5cm^(3)/g、より好ましい上限は6cm^(3)/gである。
上記発泡体の発泡倍率は、上記発泡体の材料、厚み等により調整することができる。
なお、上記発泡体の発泡倍率は、上記発泡体の密度の逆数から算出できる。例えば、JIS K 7222に準拠して測定することができる。
【0022】
上記発泡体は、気泡のアスペクト比(MDの平均気泡径/TDの平均気泡径)が0.9?3である。上記気泡のアスペクト比、すなわちMDの平均気泡径とTDの平均気泡径との比が小さいと、発泡倍率が低下して耐反発性が低下したり、発泡体の厚み、耐反発性及び引張強度にばらつきが発生したりすることがある。上記気泡のアスペクト比が大きいと、発泡体の耐反発性が低下する。上記気泡のアスペクト比の好ましい下限は1.2、好ましい上限は2であり、より好ましい下限は1.4、より好ましい上限は1.5である。
上記発泡体の気泡のアスペクト比は、上記発泡体の材料、発泡倍率、厚み等により調整することができる。」
(3)「【0037】
工程(2)において、ポリオレフィン樹脂組成物を架橋する方法としては、例えば、ポリオレフィン樹脂組成物に電子線、α線、β線、γ線等の電離性放射線を照射する方法や、ポリオレフィン樹脂組成物を形成する際に予め有機過酸化物を配合しておき、その後、ポリオレフィン樹脂組成物を加熱して有機過酸化物を分解させる方法等が挙げられる。これらの方法は単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。なかでも、均質に架橋を行う観点から、電離性放射線を照射する方法が好ましい。」
(4)「【0056】
本発明によれば、耐熱性、耐反発性に優れ、特に車載用パネルや車載用ヘッドアップディスプレイのカバーを固定したときにでも剥離しにくい両面粘着テープ、及び、該両面粘着テープからなる車載部品固定用両面粘着テープ、車載用ヘッドアップディスプレイカバー固定用両面粘着テープを提供することができる。」
(5)「【0058】
(実施例1)
(1)ポリオレフィン発泡体の調製
ポリプロピレン系樹脂(エチレン-プロピレンランダム共重合体:住友化学社製、商品名「AD571」、密度0.90g/cm^(3)、MFR0.5g/10分)80重量部と、直鎖状低密度ポリエチレン(東ソー社製、商品名「ZF231」、MFR2g/10分、密度0.917g/cm3)20重量部とからなる樹脂成分に、アゾジカルボンアミド(熱分解型発泡剤)7.5重量部及びジビニルベンゼン(架橋助剤)3重量部を添加し、更に2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール(酸化防止剤)0.3重量部、ジラウリルチオプロピオネート(酸化防止剤)0.3重量部、及び、メチルベンゾトリアゾール(金属害防止剤)0.5重量部を添加して得たポリオレフィン樹脂組成物を、単軸押出機により、温度185℃で溶融混練して、厚み600μmの原反シートとして押出した。
【0059】
次に、上記原反シートを、その両面に加速電圧800kVの電子線を1.5Mrad照射して架橋した後、熱風及び赤外線ヒーターにより250℃に保持された発泡炉内に連続的に送り込んで加熱して発泡させ、厚さ1000μmのポリオレフィン発泡体を得た。得られたポリオレフィン発泡体の発泡倍率を、JISK-6767に準拠してミラージュ社製の電子比重計(商品名「ED120T」)を使用して測定した密度から算出した。また、得られたポリオレフィン発泡体の結晶融解温度ピーク、気泡アスペクト比、及び、25%圧縮強度を求めた。」
(6)【0062】?【0067】
「(実施例2)
アゾジカルボンアミド(熱分解型発泡剤)を7重量部に変更したこと以外は実施例1と同様にしてポリオレフィン発泡体を得た。得られたポリオレフィン発泡体を用いた以外は実施例1と同様にして両面粘着テープを得た。
(実施例3)
ポリプロピレン系樹脂(エチレン-プロピレンランダム共重合体:住友化学社製、商品名「AD571」、密度0.90g/cm3、MFR0.5g/10分)を70重量部、直鎖状低密度ポリエチレン(東ソー社製、商品名「ZF231」、MFR2g/10分、密度0.917g/cm3)を30重量部、アゾジカルボンアミド(熱分解型発泡剤)を7重量部に変更したこと以外は実施例1と同様にしてポリオレフィン発泡体を得た。得られたポリオレフィン発泡体を用いた以外は実施例1と同様にして両面粘着テープを得た。
(実施例4)
ポリプロピレン系樹脂(エチレン-プロピレンランダム共重合体:住友化学社製、商品名「AD571」、密度0.90g/cm3、MFR0.5g/10分)を60重量部、直鎖状低密度ポリエチレン(東ソー社製、商品名「ZF231」、MFR2g/10分、密度0.917g/cm3)を40重量部、アゾジカルボンアミド(熱分解型発泡剤)を3.8重量部に変更し、原反シートの厚みを300μmにしたこと以外は実施例1と同様にして、厚さ500μmのポリオレフィン発泡体を得た。得られたポリオレフィン発泡体を用いた以外は実施例1と同様にして両面粘着テープを得た。
(実施例5)
ポリプロピレン系樹脂(エチレン-プロピレンランダム共重合体:住友化学社製、商品名「AD571」、密度0.90g/cm3、MFR0.5g/10分)を60重量部、直鎖状低密度ポリエチレン(東ソー社製、商品名「ZF231」、MFR2g/10分、密度0.917g/cm3)を40重量部、アゾジカルボンアミド(熱分解型発泡剤)を3.5重量部に変更し、原反シートの厚みを150μmにしたこと以外は実施例1と同様にして、厚さ200μmのポリオレフィン発泡体を得た。得られたポリオレフィン発泡体を用いた以外は実施例1と同様にして両面粘着テープを得た。
(実施例6)
ポリプロピレン系樹脂(エチレン-プロピレンランダム共重合体:住友化学社製、商品名「AD571」、密度0.90g/cm3、MFR0.5g/10分)を70重量部、直鎖状低密度ポリエチレン(東ソー社製、商品名「ZF231」、MFR2g/10分、密度0.917g/cm3)を30重量部、アゾジカルボンアミド(熱分解型発泡剤)を3.0重量部に変更し、原反シートの厚みを400μmにしたこと以外は実施例1と同様にして、厚さ500μmのポリオレフィン発泡体を得た。得られたポリオレフィン発泡体を用いた以外は実施例1と同様にして両面粘着テープを得た。
(実施例7)
ポリプロピレン系樹脂(エチレン-プロピレンランダム共重合体:住友化学社製、商品名「AD571」、密度0.90g/cm3、MFR0.5g/10分)を40重量部、直鎖状低密度ポリエチレン(東ソー社製、商品名「ZF231」、MFR2g/10分、密度0.917g/cm3)を60重量部、アゾジカルボンアミド(熱分解型発泡剤)を4.5重量部に変更し、原反シートの厚みを400μmにしたこと以外は実施例1と同様にして、厚さ800μmのポリオレフィン発泡体を得た。得られたポリオレフィン発泡体を用いた以外は実施例1と同様にして両面粘着テープを得た。」
(7)【0068】?【0072】
「(比較例1)
ポリプロピレン系樹脂(エチレン-プロピレンランダム共重合体:住友化学社製、商品名「AD571」、密度0.90g/cm3、MFR0.5g/10分)を70重量部、直鎖状低密度ポリエチレン(東ソー社製、商品名「ZF231」、MFR2g/10分、密度0.917g/cm3)を30重量部、アゾジカルボンアミド(熱分解型発泡剤)を4.5重量部に変更し、原反シートの厚みを200μmにしたこと以外は実施例1と同様にして、厚さ400μmのポリオレフィン発泡体を得た。得られたポリオレフィン発泡体を用いた以外は実施例1と同様にして両面粘着テープを得た。
(比較例2)
ポリプロピレン系樹脂(エチレン-プロピレンランダム共重合体:住友化学社製、商品名「AD571」、密度0.90g/cm3、MFR0.5g/10分)を0重量部、直鎖状低密度ポリエチレン(東ソー社製、商品名「ZF231」、MFR2g/10分、密度0.917g/cm3)を100重量部、アゾジカルボンアミド(熱分解型発泡剤)を4.5重量部に変更し、原反シートの厚みを400μmにしたこと以外は実施例1と同様にして、厚さ800μmのポリオレフィン発泡体を得た。得られたポリオレフィン発泡体を用いた以外は実施例1と同様にして両面粘着テープを得た。
(比較例3)
ポリプロピレン系樹脂(エチレン-プロピレンランダム共重合体:住友化学社製、商品名「AD571」、密度0.90g/cm3、MFR0.5g/10分)を0重量部、直鎖状低密度ポリエチレン(東ソー社製、商品名「ZF231」、MFR2g/10分、密度0.917g/cm3)を100重量部、アゾジカルボンアミド(熱分解型発泡剤)を2.2重量部に変更し、原反シートの厚みを170μmにしたこと以外は実施例1と同様にして、厚さ100μmのポリオレフィン発泡体を得た。得られたポリオレフィン発泡体を用いた以外は実施例1と同様にして両面粘着テープを得た。
(比較例4)
ポリプロピレン系樹脂(エチレン-プロピレンランダム共重合体:住友化学社製、商品名「AD571」、密度0.90g/cm3、MFR0.5g/10分)を70重量部、直鎖状低密度ポリエチレン(東ソー社製、商品名「ZF231」、MFR2g/10分、密度0.917g/cm3)を30重量部、アゾジカルボンアミド(熱分解型発泡剤)を13重量部に変更し、原反シートの厚みを400μmにしたこと以外は実施例1と同様にして、厚さ1000μmのポリオレフィン発泡体を得た。得られたポリオレフィン発泡体を用いた以外は実施例1と同様にして両面粘着テープを得た。
(評価)
実施例、比較例で得られた両面粘着テープについて以下の評価を行った。結果を表1に示した。」
(8)「【0073】
(1)耐熱性の評価
得られた両面粘着テープを、MD及びTDが辺になるように縦10mm、横10mmの正方形状に切り出してサンプルとした。
得られたサンプルを、110℃に調整したオーブン中に500時間置いた後、取り出して23℃にまで自然冷却した。
熱処理後のサンプルの各辺の長さを測定し、熱処理による収縮率を算出した。MD及びTDともに収縮率が5%以下であった場合を「○」と、MD及びTDのいずれか又は両方において収縮率が5%を超えた場合を「×」と評価した。
また、「○」と評価された場合については同様にサンプルをもうひとつ作製し、120℃に調整したオーブン中に500時間置いた後、取り出して23℃にまで自然冷却し、上記と同様にして収縮率を評価した。120℃の熱処理でもMD及びTDともに収縮率が5%以下であった場合を「◎」、110℃ではMD及びTDともに収縮率が5%以下であったが120℃ではMD及びTDのいずれか又は両方において収縮率が5%を超えた場合を「○」、と評価した。
【0074】
(2)耐反発性の評価
得られた両面粘着テープを、MDが縦方向の辺、TDが横方向の辺になるように縦150mm、横25mmの長方形状に切り出した。得られたサンプルの片面を、縦150mm、横25mm、厚み1mmのポリカーボネート板に貼り合わせ、更にもう片面を縦200mm、横25mm、厚み1mmのポリカーボネート板に貼り合わせ、2kgのローラーで1往復圧着し、24時間静置した。その後、試験片を縦200mmから190mmになるように曲げて固定し、サンプルとした。
サンプルを110℃に調整したオーブン中に500時間置き、観察して、「浮き」の発生が全く認められなかった場合を「○」、一部にでも「浮き」が認められた場合を「×」と評価した。
また、「○」と評価された場合については同様に試験片をもうひとつ作製し、縦200mmから165mmになるように曲げて固定し、サンプルとし、上記と同様にして「浮き」の発生を評価した。165mmまで曲げても「浮き」の発生が全く認められなかった場合を「◎」、190mmまで曲げた際は「浮き」の発生が全く認められなかったが165mmまで曲げた際は一部にでも「浮き」が認められた場合を「○」と評価した。
【0075】
【表1】



第4 本件第1次決定について
1 本件第1次決定の概要
本件第1次決定は、次に要約する理由により、本件発明に係る特許は、特許法第113条第4号に該当し取り消すべきものと決定した。
(1)明確性要件違背
本件発明1における「前記発泡体は、示差走査熱量計により測定される結晶融解温度ピークが140℃以上であり、」という特定は、ピークが複数観測される場合に、どのような態様を含むかが明確でない。
(2)実施可能要件違背
本件発明1は上記(1)のとおり明確でなく、かつ本件発明1に規定されたア「基材の厚み」、イ「結晶融解温度ピーク」、ウ「発泡倍率」、エ「気泡のアスペクト比」について、本件特許明細書の記載を参照しても、ア?エのすべてを同時に満たすように、本件発明1に規定された数値範囲内になるように実施することができない。
(3)サポート要件違背
本件発明1は上記(1)のとおり明確でなく、かつ本件特許明細書に発明の課題が解決できるものして記載されているのは、特定のポリプロピレン樹脂(商品名「AD-571」)を用いたものでしかないので、本件発明のように、「ポリプロピレン系樹脂」全般に渡って拡張・一般化することはできず、特許請求の範囲の記載はサポート要件を欠く。
2 当審の判断
(1)本件先行判決について
本件先行判決は、次の理由により本件第1次決定を取り消した。
ア 前記1(1)について
複数ピークが存在したとしても、他のピークとは無関係に、1つのピークが、「示差走査熱量計により測定される結晶融解温度ピークが140℃以上」であることを特定していると解されるから、本件発明1は、不明確ではない。
イ 前記1(2)について
(ア)本件特許明細書には、7つの実施例(【0058】?【0067】、【表1】)及び発泡体を製造する方法についての一般的記載(【0031】、【0032】)が記載されており、実施例に記載された態様は実施できる。
(イ)実施例以外の本件発明について
実施例に記載された態様を参考にし、また、「結晶融解温度ピーク」については一定量のポリプロピレン系樹脂を含有させれば足り、「発泡倍率」については発泡剤の量を調整し、「気泡のアスペクト比」については基材の厚みを調整することによって、本件発明1に規定された数値範囲を満たすことは過度の試行錯誤なく可能である。
ウ 前記1(3)について
ポリプロピレン系樹脂が、耐熱性や機械的強度(耐衝撃性)に優れた樹脂であることは、本件特許の出願時の技術常識であるから、商品名AD571以外のポリプロピレン系樹脂を使用した場合であっても、本件特許明細書の記載や技術常識に照らし、本件発明1の両面接着テープが課題を解決できるものと認識できる。
(2)行政事件訴訟法第32条第1項の規定により、前記(1)の判断理由は、当審を拘束する。したがって、前記1(1)?(3)の取消理由によって、本件発明1?7が特許法第113条第4項に該当し、本件発明1?7に係る特許を取り消すべきということはできない。

第5 前記第4で検討した理由以外の取消理由についての判断
1 特許異議の申立の概要
(1)申立人Aによる特許異議申立て理由
ア 証拠について
申立人Aは、次の証拠を提示した。以下、甲第1号証を「甲A1」などという。
甲A1:特開2004-204154号公報
甲A2:特開2012-214626号公報
甲A3:鷲尾万一監修、佐々木隆(外1名)編集、低エネルギー電子線照射の技術と応用、シーエムシー出版、2006年8月22日、114?117頁
甲A4:国際公開第2005/007731号
甲A5:特開2012-214623号公報
甲A6:野尻昭夫(外4名)、ポリプロピレンの架橋と発泡体への応用、古河電工時報、No.71、1981年3月、81及び84?87頁
甲A7:中井康二(外2名)、電子線照射技術の工業利用、日新電機技報、Vol.54、No.2、2009年10月、9及び14?15頁
イ 申立人Aが主張する取消理由の概要
申立人Aの主張の概要は、「本件発明1?7は、甲A1に記載された発明及び甲A2?甲A6に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができた発明であるから、本件発明1?7に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。」ということである。
(2)申立人Bによる特許異議申立て理由
申立人Bの申立て理由は以下のとおりである。
ア 証拠について
申立人Bは、次の証拠を提示した。以下、甲第1号証を「甲B1」などという。
甲B1:特開2012-214626号公報
甲B2:特開2015-155528号公報
甲B3:特開2013-57070号公報
甲B4:特開平6-220238号公報
甲B5:特開平9-124819号公報
甲B6:特開2000-273232号公報
甲B7:ネロ・パスクイーニ編著、横山裕(外1名)翻訳監修、新版ポリプロピレンハンドブック-基礎から用途開発まで、2012年9月、376?377頁
甲B8:本件特許の国際出願段階での平成29年3国際予備審査報告書
甲B9:本件特許の審査段階の平成29年12月27日付け拒絶理由通知書
甲B10:本件特許の審査段階で平成30年3月7日提出の手続補正書
甲B11:特開2004-204154号公報
甲B12:十時稔、高分子のDSCとTMA、熱測定、Vol.31、No.5、2004年、241?248頁
甲B13:大石剛史(外1名)、新機能を有するSISブロックコポリマー、日本ゴム協会誌、Vol.79、No.9、2006年、443?447頁
イ 申立人Bが主張する取消理由の概要
申立人Bの申立て理由のうち、前記第4で検討した理由を除く申立て理由は以下のとおりである。
(ア)本件発明1?7は、甲B1に記載された発明及び甲B2?7に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができた発明であるから、本件発明1?7に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(イ)本件発明1?7は、甲B2に記載された発明及び甲B1、3?7に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができた発明であるから、本件発明1?7に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(ウ)本件発明1のうち、エチレンを5?50重量%含有するエチレン-プロピレンランダム共重合体は、令和3年3月3日提出の意見書による特許権者の主張によると、結晶融解温度ピークが140℃以下となってしまうため、実施可能要件を満たさない。
(エ)本件特許明細書に記載された実施例1?7は、すべて電子線架橋処理を施したものであるが、本件発明1には電子線架橋処理についての特定がないから、本件発明1?7は、サポート要件を満たさない。
(3)申立人Cによる特許異議申立て理由
申立人Cの申立て理由は以下のとおりである。
ア 証拠について
申立人Cは、次の証拠を提示した。以下、甲第1号証を「甲C1」などという。
(ア)特許異議申立書において提示した証拠
甲C1:特開昭57-10671号公報
甲C2:特開2015-203044号公報
甲C3:特開2012-214626号公報
甲C4:特開2004-204154号公報
甲C5:特開平9-25351号公報
(イ)意見書において提示した証拠
甲C6:株式会社富士キメラ総研研究開発本部編、2006年発泡プラスチックスの現状と将来展望、144頁、(2006年)
甲C7:大阪市立工業研究所(外2名)共編、プラスチック読本(改訂第18版)、150?151頁、(1992)
甲C8:住友化学株式会社、「住友化学のポリオレフィン情報サイト」と題するウェブページ、https://www.sumitomo-chem.co.jp/polyolefin/03product/13nobrene_b.html、(2006)
イ 申立人Cが主張する取消理由の概要
申立人Cの申立て理由のうち、前記第4で検討した理由を除く申立て理由は以下のとおりである。
(ア)本件発明1?7は、甲C1に記載された発明及び甲C2?5に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができた発明であるから、本件発明1?7に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(イ)本件発明1?7は、甲C2に記載された発明及び甲C1、3?5に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができた発明であるから、本件発明1?7に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(ウ)本件発明1?7は、甲C3に記載された発明及び甲C1、2、4、5に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができた発明であるから、本件発明1?7に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(エ)本件発明1には、「示差走査熱量計により測定される結晶融解温度ピークが140℃以上」と規定されているが、本件特許明細書に記載された実施例においては、141.5?147.4℃しか開示されていない。実施例に開示された数値範囲以外のピーク温度を有する場合について課題が解決できるといえない。
(オ)本件発明1には、「発泡倍率が15cm^(3)/g以下」と規定されているが、本件特許明細書に記載された実施例においては、3.5?10m^(3)/gしか開示されていない。実施例に開示された数値範囲以外の発泡倍率を有する場合について課題が解決できるといえない。
(カ)本件特許明細書に記載された実施例1?7において用いられている商品名AD571におけるプロピレン含有量が明らかでないから、前記実施例1?7が本件発明1の実施例であるともいえないし、仮にAD571におけるプロピレン含有量が50重量%以上であったとしても、本件発明1に規定された「ホモポリプロピレン、プロピレン含有量が50重量%以上であるエチレン-プロピレンランダム共重合体又はプロピレン含有量が50重量%以上であるエチレン-プロピレンブロック共重合体」のすべてが課題を解決できるとはいえないから、本件発明1はサポート要件を満たさない。
(キ)本件特許明細書には、AD571は、「エチレン-プロピレンランダム共重合体」であると記載されているが、甲C8によると、AD571は、「Random」でなく、「Block」とされているから、本件特許明細書の実施例1?7に用いられた樹脂は、当業者であっても入手可能でなく、本件発明1?7は実施可能要件を満たさない。
2 令和2年12月22日付の取消理由通知についての判断
(1)当審が通知した取消理由の概要
本件発明1?7は、本件優先日前に頒布された下記の文献アに記載された発明であるか、下記文献アに記載された発明及び下記の各文献に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができた発明であるから、特許法第29条第1項第3号の発明に該当するか、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。したがって、本件発明1?7に係る特許は、特許法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。

ア 甲B2:特開2015-155528号公報
イ 甲B3:特開2013-57070号公報
ウ 甲A1(甲C4):特開2004-204154号公報
エ 甲C2:特開2015-203044号公報
(2)甲B2の記載事項
甲B2には次の記載がある。下線は当審が付した。
ア 「【請求項1】
発泡体基材と、
前記発泡体基材の第一面に設けられた第一粘着剤層と、
前記発泡体基材の第二面に設けられた第二粘着剤層とを含み、
前記発泡体基材は、その厚さが1000μm以下であり、
前記発泡体基材は、前記発泡体基材の厚さ方向(VD)の平均気泡径に対する前記発泡体基材の幅方向(CD)の平均気泡径の比で表されるアスペクト比(CD/VD)が3以下であり、
前記発泡体基材は、前記発泡体基材の幅方向(CD)の平均気泡径に対する前記発泡体基材の流れ方向(MD)の平均気泡径の比で表されるアスペクト比(MD/CD)が1より大きい、両面粘着シート。」
イ 「【0001】
本発明は、発泡体基材を備えた両面粘着シートに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、粘着剤(感圧接着剤ともいう。以下同じ。)は、室温付近の温度域において柔らかい固体(粘弾性体)の状態を呈し、圧力により簡単に被着体に接着する性質を有する。このような性質を活かして、粘着剤は、例えば基材の両面に粘着剤層を設けた基材付き両面粘着シートの形態で、様々な分野において接合や固定などの目的で広く利用されている。
【0003】
上記基材付き両面粘着シートにおける基材としては一般に、プラスチックフィルム、不織布、紙などの他に、気泡構造を有する発泡体などを用いることができる。上記発泡体を用いた両面粘着シート(発泡体基材付き両面粘着シート)は、気泡構造を有しないプラスチックフィルム、あるいは不織布等、を基材とする両面粘着シートに比べて、衝撃吸収性、凹凸追従性、防水性、シール性等の点で有利なものとなり得る。このため、例えば携帯電話、スマートフォン、タブレット型パソコン、ノートパソコン等の携帯型電子機器における部品の接合や固定等にも好ましく適用することができる。」
ウ 「【0020】
発泡体基材の材質は特に制限されない。通常は、プラスチック材料の発泡体(プラスチック発泡体)により形成された発泡体層を含む発泡体基材が好ましい。プラスチック発泡体を形成するためのプラスチック材料(ゴム材料を包含する意味である。)は、特に制限されず、公知のプラスチック材料の中から適宜選択することができる。プラスチック材料は、1種を単独で、または2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0021】
プラスチック発泡体の具体例としては、ポリエチレン発泡体、ポリプロピレン発泡体等のポリオレフィン系樹脂発泡体;ポリエチレンテレフタレート発泡体、ポリエチレンナフタレート発泡体、ポリブチレンテレフタレート発泡体等のポリエステル系樹脂発泡体;ポリ塩化ビニル発泡体等のポリ塩化ビニル系樹脂発泡体;酢酸ビニル系樹脂発泡体;ポリフェニレンスルフィド樹脂発泡体;ポリアミド(ナイロン)樹脂発泡体、全芳香族ポリアミド(アラミド)樹脂発泡体等のアミド系樹脂発泡体;ポリイミド系樹脂発泡体;ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)発泡体;ポリスチレン発泡体等のスチレン系樹脂発泡体;ポリウレタン樹脂発泡体等のウレタン系樹脂発泡体;等が挙げられる。また、プラスチック発泡体として、ポリクロロプレンゴム発泡体等のゴム系樹脂発泡体を用いてもよい。
【0022】
好ましい発泡体として、ポリオレフィン系樹脂発泡体(以下、ポリオレフィン系発泡体ともいう。)が例示される。上記ポリオレフィン系発泡体を構成するプラスチック材料(すなわちポリオレフィン系樹脂)としては、公知または慣用の各種のポリオレフィン系樹脂を特に限定なく用いることができる。例えば、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、メタロセン触媒系直鎖状低密度ポリエチレン等のポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体等が挙げられる。このようなポリオレフィン系樹脂は、1種を単独で、または2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0023】
ここに開示される技術における発泡体基材の好適例としては、耐衝撃性、防水性等の観点から、ポリエチレン系樹脂の発泡体から実質的に構成されるポリエチレン系発泡体基材、ポリプロピレン系樹脂の発泡体から実質的に構成されるポリプロピレン系発泡体基材等が挙げられる。ここで、ポリエチレン系樹脂とは、エチレンを主モノマー(すなわち、モノマーのなかの主成分)とする樹脂を指し、HDPE、LDPE、LLDPE等のほか、エチレンの共重合割合が50重量%を超えるエチレン-プロピレン共重合体やエチレン-酢酸ビニル共重合体等を包含し得る。同様に、ポリプロピレン系樹脂とは、プロピレンを主モノマーとする樹脂を指す。ここに開示される技術における発泡体基材としては、ポリエチレン系発泡体基材を好ましく採用し得る。」
エ 「【0029】
本明細書において、上記発泡体基材に含まれる気泡の形状を示す指標として、下記式(1)で示されるように、該発泡体基材の厚さ方向(VD)の平均気泡径に対する該発泡体基材の幅方向(CD)の平均気泡径の比で表される「アスペクト比(CD/VD)」、および、下記式(2)で示されるように、該発泡体基材の幅方向(CD)の平均気泡径に対する該発泡体基材の流れ方向(MD)の平均気泡径の比で表される「アスペクト比(MD/CD)」を用いる。
アスペクト比(CD/VD)=CDの平均気泡径/VDの平均気泡径(1)
アスペクト比(MD/CD)=MDの平均気泡径/CDの平均気泡径(2)」
オ 「【0030】
ここで本明細書において、「MDの平均気泡径」は以下のようにして測定されるものと定義する。 すなわち、上記発泡体基材をそのCDにおけるほぼ中央部において、MDおよびVDに平行する平面(すなわち垂線の向きがCDと一致するような平面)に沿って切断し、その切断面の中央部を上記走査型電子顕微鏡(SEM)にて撮影する。 次に、撮影した画像をA4サイズの用紙上に印刷し、画像上にMDに平行する長さ60mmの直線を一本、描く。このとき、60mmの直線上に気泡が10?20個程度存在するように、上記の電子顕微鏡での拡大倍率を調整する。 上記直線上に存在する気泡数を目視により数え、下記式(3)に基づいて上記発泡体基材におけるMDの平均気泡径とする。
MDの平均気泡径(μm)=60(mm)×10^(3)/(気泡数(個)×拡大倍率) (3)」
カ 「【0031】
さらに、「CDの平均気泡径」は以下のようにして測定されるものと定義する。 すなわち、上記発泡体基材をCDおよびVDに平行する平面(すなわち垂線の向きがMDと一致するような平面)に沿って切断し、その切断面の中央部を上記走査型電子顕微鏡にて撮影する。
次に、撮影した画像をA4サイズの用紙上に印刷し、画像上にCDに平行する長さ60mmの直線を一本、描く。このとき、60mmの直線上に気泡が10?20個程度存在する様に、上記の電子顕微鏡での拡大倍率を調整する。 上記直線上に存在する気泡数を目視により数え、下記式(4)に基づいて上記発泡体基材におけるCDの平均気泡径とする。
CDの平均気泡径(μm)=60(mm)×10^(3)/(気泡数(個)×拡大倍率)(4)」
キ 「【0036】
上記発泡体基材は、そのアスペクト比(MD/CD)が1より大きいことが好ましい。上記アスペクト比(MD/CD)は、より好ましくは1.4以上、さらに好ましくは1.6以上、典型的には2以上、例えば2.3以上であることが好ましい。また、上記アスペクト比(MD/CD)は5以下であることが好ましく、より好ましくは4以下、さらに好ましくは3.5以下、例えば3以下であることが好ましい。上記アスペクト比(MD/CD)を上述した下限値より大きくすることにより、上記発泡体基材を用いた両面粘着シートの取扱性が向上し得る。また、上記アスペクト比(MD/CD)を上述した上限値以下とすることにより、上記発泡体基材を用いた両面粘着シートの防水性が向上し得る。」
ク 「【0037】
上記発泡体基材の密度(見掛け密度)は、特に限定されないが、例えば0.2g/cm^(3)以上0.6g/cm^(3)以下であることが好ましい。上記発泡体基材の密度は、より好ましくは0.25g/cm^(3)以上0.55g/cm^(3)以下であり、さらに好ましくは0.3g/cm^(3)より大きく0.5g/cm^(3)以下(例えば0.35g/cm^(3)以上0.5g/cm^(3)以下)である。密度を0.2g/cm^(3)以上とすることにより、発泡体基材の強度(ひいては両面粘着シートの強度)の向上、耐衝撃性や取扱性の向上が達成される傾向にある。一方、密度を0.6g/cm^(3)以下とすることにより、凹凸追従性、耐反撥性、防水性が向上する傾向にある。なお、発泡体基材の密度(見掛け密度)は、例えば、JIS K 6767に準拠する方法により測定することができる。」
ケ 「【0039】
上記発泡体基材(例えばポリオレフィン系発泡体基材)の25%圧縮強度は、特に限定されないが、例えば、50kPa以上1000kPa以下であることが好ましい。上記発泡体基材の25%圧縮強度は、より好ましくは60kPaより大きく1000kPa以下、75kPa以上1000kPa以下、75kPa以上500kPa以下、さらに好ましくは80kPa以上500kPa以下、典型的には90kPa以上300kPa以下、例えば100kPa以上250kPa以下であることが好ましい。ここで上記発泡体基材の25%圧縮強度とは、該発泡体基材を約25mmの厚さとなるように積み重ねて平板で挟み込み、それを当初の厚さの25%に相当する厚さ分だけ圧縮したときの荷重、すなわち該基材の厚さが当初厚さの75%になるまで圧縮したときの荷重をいう。25%圧縮強度を50kPa以上とすることにより、両面粘着シートの耐衝撃性が向上する傾向があり、また、加工時の寸法安定性が向上し得る。一方、25%圧縮強度を1000kPa以下とすることにより、耐反撥性や凹凸追従性が向上し得る。発泡体基材の25%圧縮強度は、JIS K 6767に準拠して測定される。上記発泡体基材の25%圧縮強度は、例えば、架橋度や密度等により制御することができる。」
コ 「【0040】
上記発泡体基材(例えばポリオレフィン系発泡体基材)の90℃におけるMDの加熱寸法変化率(90℃加熱寸法変化率(MD))は、特に限定されないが、例えば、-10%以上10%以下であることが好ましい。上記発泡体基材の90℃加熱寸法変化率(MD)は、より好ましくは-5%以上5%以下、さらに好ましくは-4%以上4%以下である。90℃加熱寸法変化率(MD)を上述する範囲内とすることにより、高温環境下(例えば40℃?90℃)においても上記発泡体基材を備えた両面粘着シートの膨張・収縮が抑制され、優れた接着信頼性を示し得る。 上記発泡体基材(例えばポリオレフィン系発泡体基材)の90℃におけるCDの加熱寸法変化率(90℃加熱寸法変化率(CD))は、特に限定されないが、例えば、-10%以上10%以下であることが好ましい。上記発泡体基材の90℃加熱寸法変化率(CD)は、より好ましくは-5%以上5%以下、さらに好ましくは-4%以上4%以下である。90℃加熱寸法変化率(CD)を上述する範囲内とすることにより、高温環境下(例えば40℃?90℃)においても上記発泡体基材を備えた両面粘着シートの膨張・収縮が抑制され、優れた接着信頼性を示し得る。 発泡体基材のMDおよびCDの90℃加熱寸法変化率は、加熱温度を90℃とした点以外はJIS K 6767に準拠して測定される。」
サ 「【0051】
発泡体基材の表面には、必要に応じて、適宜の表面処理が施されていてもよい。この表面処理は、例えば、隣接する材料(例えば粘着剤層)に対する密着性を高めるための化学的または物理的な処理であり得る。かかる表面処理の例としては、コロナ放電処理、クロム酸処理、オゾン曝露、火炎曝露、紫外線照射処理、プラズマ処理、下塗剤(プライマー)の塗付等が挙げられる。」
シ 「【0053】
ここで「アクリル系粘着剤」とは、アクリル系ポリマーをベースポリマー(ポリマー成分のなかの主成分、すなわち50重量%以上を占める成分)とする粘着剤を指す。「アクリル系ポリマー」とは、一分子中に少なくとも一つの(メタ)アクリロイル基を有するモノマー(以下、これを「アクリル系モノマー」ということがある。)を主構成単量体成分(モノマーの主成分、すなわちアクリル系ポリマーを構成するモノマーの総量のうち50重量%よりも多くを占める成分)とするポリマーを指す。また、本明細書中において「(メタ)アクリロイル基」とは、アクリロイル基およびメタクリロイル基を包括的に指す意味である。同様に、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレートおよびメタクリレートを包括的に指す意味である。」
ス 「【0096】
ここに開示される両面粘着シートは、優れた押圧接着力を示し、接着信頼性が高いものとなり得る。また、ここに開示される両面粘着シートは、発泡体基材を含むことから防水性、凹凸追従性、シール性、耐反撥性に優れたものとなり得る。したがって、このような特長を生かして、電子機器用途、例えば、携帯型電子機器(例えば、携帯電話、スマートフォン、タブレット型パソコン、ノートパソコン等)の表示部を保護する保護パネル(レンズ)固定用、携帯電話のキーモジュール部材固定用、テレビのデコレーションパネル固定用、パソコンのバッテリーパック固定用、デジタルビデオカメラのレンズ防水用等の用途に好ましく適用され得る。特に好ましい用途として、携帯型電子機器に好ましく使用され得る。例えば、このような携帯型電子機器において、表示部を保護する保護パネル(レンズ)と筐体とを接合する用途等に好適である。・・・」
セ 「【0099】
両面粘着シート(例1?例4)のサンプルは、それぞれ次のようにして作製した。」
ソ 「(例1)
[アクリル系ポリマーの作製]
攪拌機、温度計、窒素ガス導入管、還流冷却器、滴下ロートを備えた反応容器内において、n-ブチルアクリレート100部と、アクリル酸5部と、重合開始剤として過酸化ベンゾイル0.2部とを、トルエンを溶媒として溶解させた。その後、緩やかに攪拌しながら窒素ガスを導入し、反応容器内の液温を60℃付近に保って約6時間重合反応を行い、アクリル系ポリマーを得た。得られた溶液中のアクリル系ポリマーは重量平均分子量Mwが55×10^(4)であった。
[粘着剤組成物の作製]
次に、上記アクリル系ポリマー溶液(不揮発分)100部に対し、粘着付与樹脂としてテルペンフェノール樹脂(荒川化学工業株式会社製、製品名「タマノル803L」)30部と、テルペンフェノール樹脂(ヤスハラケミカル株式会社製、製品名「YSポリスターS145」)10部とを添加し、架橋剤としてイソシアネート系架橋剤(日本ポリウレタン工業株式会社製、製品名「コロネートL」)1部と、エポキシ系架橋剤(三菱瓦斯化学株式会社製、製品名「テトラッドC」)0.03部とを加えてアクリル系粘着剤組成物を作製した。
【0100】
発泡体基材としてポリエチレン樹脂製発泡体シート(以下「基材A」という。)を用意した。上記基材Aの厚みは150μmであり、25%圧縮強度は108kPaであり、流れ方向の引張強さ(引張強度(MD))は3.18MPaであり、幅方向の引張強さ(引張強度(CD))は5.50MPaであった。上記基材Aに含まれる気泡の流れ方向(MD)、幅方向(CD)、厚み方向(VD)の各平均気泡径と、それらの比であるアスペクト比(CD/VD)およびアスペクト比(MD/CD)を、上述した測定方法により測定ならびに算出したところ、上記基材Aのアスペクト比(CD/VD)は2.3であり、アスペクト比(MD/CD)は2.6であった。・・・
【0101】
上記粘着剤組成物を、市販の剥離ライナー(住化加工紙株式会社製、製品名「SLB-80W3D」)の一方の面に、乾燥後の厚さが25μmとなるように塗付し、100℃で2分間乾燥させて粘着剤層を形成した。次に、上記粘着剤層を、上記基材Aの一方の表面に貼り合わせることにより、片面粘着シートを得た。
次に、上記粘着剤組成物を上記と同じ剥離ライナーの一方の面に、乾燥後の厚さが25μmとなるように塗付し、100℃で2分間乾燥させて粘着剤層を形成した。その粘着剤層を、上記片面粘着シートにおける発泡体基材の他方の表面に貼り合わせた。その後、得られた構造体を80℃のラミネータ(0.3MPa、速度0.5m/分)に1回通過させた後、50℃のオーブン中で1日間養生した。このようにして総厚みが200μmである両面粘着シート(例1)を得た。」
タ 「【0102】
(例2)
上記基材Aの代わりに基材Bを使用すること以外は、上記例1の両面粘着シートの作製と同様にして、総厚みが150μmである両面粘着シート(例2)を得た。
ここで基材Bは、その厚みは100μmであり、25%圧縮強度は149kPaであり、流れ方向の引張強さ(引張強度(MD))は4.62MPaであり、幅方向の引張強さ(引張強度(CD))は7.51MPaであった。上記基材Bは、そのアスペクト比(CD/VD)は1.9であり、アスペクト比(MD/CD)は2.8であった。」
チ 「【0103】
・・・
(例4)
上記基材Aの代わりに基材Dを使用すること以外は、上記例1の両面粘着シートの作製と同様にして、総厚みが150μmである両面粘着シート(例4)を得た。
ここで基材Dは、その厚みは100μmであり、25%圧縮強度は75kPaであり、流れ方向の引張強さ(引張強度(MD))は1.99MPaであり、幅方向の引張強さ(引張強度(CD))は2.97MPaであった。上記基材Dは、そのアスペクト比(CD/VD)は4.3であり、アスペクト比(MD/CD)は0.9であった。」
ツ 「【0104】
上記例1?例4の両面粘着シートを作製するのに用いた基材の厚さ、種類、見かけ密度、架橋度、平均気泡径アスペクト比(CD/VD、およびMD/CD)、25%圧縮強度、引張強さ(MDおよびCD)、90℃加熱寸法変化率(MDおよびCD)を表1にまとめた。また、上記基材の両面に形成された粘着剤層の厚さ、および上記両面粘着シートの総厚さについて表1にまとめた。
【0105】
【表1】


(3)甲B3の記載事項
甲B3には次の記載がある。
ア 「【請求項1】
示差走査熱量計による吸熱ピークの少なくとも1つが160℃以上のポリプロピレン系樹脂(A)20?50重量%と、示差走査熱量計による吸熱ピークが160℃未満のポリプロピレン系樹脂(B)20?50重量%と、ポリエチレン系樹脂(C)20?40重量%を含むポリオレフィン系樹脂組成物からなることを特徴とする架橋ポリオレフィン系樹脂発泡体。」
イ 「【0019】
本発明で用いられるポリプロピレン系樹脂(A)としては、例えば、エチレン-プロピレンランダム共重合体、エチレン-プロピレンブロック共重合体、エチレン-プロピレンランダムブロック共重合体およびホモポリプロピレンなどに代表される樹脂が挙げられ、中でも、本発明が達成しようとする耐熱性を保持しながら低温特性に優れているエチレン-プロピレンブロック共重合体が特に好ましく用いられる。
【0020】
ここで挙げられる共重合体のうち、エチレン-プロピレンランダム共重合体とエチレン-プロピレンランダムブロック共重合体のエチレン含有量は、示差走査熱量計による吸熱ピークとの関係から1重量%未満であることが好ましい。また、エチレン-プロピレンブロック共重合体、エチレン-プロピレンランダムブロック共重合体中のエチレン-プロピレンゴムの含有量に関しては特に規定はしないが本発明の効果を損なわない範囲、例えば30重量%未満であることが好ましい。
・・・
【0025】
本発明において用いられるポリプロピレン系樹脂(A)は、示差走査熱量計による吸熱ピークの少なくとも1つが160℃以上であることが重要である。
【0026】
ここでいう吸熱ピークとは、結晶性ポリマーの結晶が融解する際に起こる吸熱反応を示差走査差熱量計により測定し、一般的に融点として扱われるものを言う。この吸熱ピークが高ければ、高いほど融解しにくく、耐熱性が高いと言える。」
ウ 「【0029】
本発明で用いられるポリプロピレン系樹脂(B)は、示差走査熱量計による吸熱ピークが160℃未満であることが重要である。ここでの吸熱ピークは、上記ポリプロピレン系樹脂(A)についての吸熱ピークと同義である。
【0030】
ホモプロピレン、エチレン-プロピレンブロック共重合体にあっては重量平均分子量が100,000以下であることが好ましく、もしくはエチレン-プロピレンランダム共重合体やエチレン-プロピレンランダムブロック共重合体にあってはエチレン含有量が1重量%以上含まれることが好ましい。本発明で用いられるこのようなポリプロピレン系樹脂(B)としては、例えば、アイソタクチックホモポリプロピレン、シンジオタクチックホモポリプロピレンおよびアタクチックホモポリプロピレンなどのプロピレン単独重合体、エチレン-プロピレンランダム共重合体、エチレン-プロピレンブロック共重合体およびエチレン-プロピレンランダムブロック共重合体などに代表されるα-オレフィン-プロピレン共重合体(ここでいうα-オレフィンとは、エチレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテンおよび1-ノネンなどのことを言う。)、その他に変性ポリプロピレン樹脂、およびエチレン、イソプレン、ブタジエンおよびスチレンなどのブロック部をもつプロピレンブロック共重合体などが挙げられる。これらは1種類もしくは2種類以上混合して使用してもよい。ポリプロピレン系樹脂(B)としては、成形性と耐熱性との両立がバランス良く得られるという点で、エチレン-プロピレンランダム共重合体が特に好ましく用いられる。ポリプロピレン系樹脂(B)のMFRは、特に規定はしない。所望の物性と製造上の不具合の起こらない範囲で任意に決定すると良い。
【0031】
本発明におけるポリプロピレン系樹脂(B)の分子量は、一般的な分子量で良く特に規定はしない。例えば、重量平均分子量は1,000?1,500,000の範囲のものを使用すると良い。本発明の架橋ポリオレフィン系樹脂発泡体においては、かかる示差走査熱量計による吸熱ピークが160℃未満のポリプロピレン系樹脂(B)の量が、20?50重量%の範囲であることが重要であり、好ましくは30?40重量%の範囲である。ポリプロピレン系樹脂(B)の量が、50重量%より多いと耐熱性に問題が生じ、また、20重量%より少ないと所望の成形性が得られない。」
エ 「【0054】
樹脂が架橋された発泡性のシート状物は、例えば、熱風、赤外線、メタルバス、オイルバスおよびソルトバス等により、熱分解型発泡剤の分解温度以上でかつ樹脂の融点以上の温度、例えば、190?290℃の温度に加熱し、発泡剤の分解ガスによって樹脂を発泡させ、本発明の架橋ポリオレフィン系樹脂発泡体を得る。このようして得られた架橋ポリオレフィン系樹脂発泡体の示差走査熱量計による吸熱ピークは、155℃以上になることが好ましい。その理由は、特に、低圧射出成形時に発生する溶融樹脂を射出するゲート部分の発泡体の溶融(ゲートマーク)や、縦壁部などで高剪断がかかることによって起こる発泡体の溶融(アバタ)などの外観欠点の発生量が、これを満たさない場合と比べて低下することが期待できるためである。」
オ 「【0066】
(示差走査熱量計による吸熱ピークの分析方法)
本発明における示差走査熱量計による吸熱ピークの分析は、下記の方法で行った。約10mgのポリオレフィン系樹脂(本発明でいうポリプロピレン系樹脂やポリエチレン系樹脂など)もしくは架橋ポリオレフィン系樹脂発泡体の気泡をロールなどで潰したものを、白金パンにいれ、示差走査熱量計(DSC:セイコー電子工業株式会社製RDC220-ロボットDSC)を用いて吸熱ピークを測定した。吸熱ピークの測定条件は、サンプルを一度溶融させた後、10℃/分の速度で-50℃の温度まで冷却させ、それから5℃/分の速度で昇温して、吸熱ピークを測定した。」
カ(ア)「【0075】
(実施例1)
ポリプロピレン系樹脂(A)(エチレン-プロピレンブロック共重合体:MFR=1.3g/10min、DSCピーク温度164℃、Mw=470,000)40重量%と、ポリプロピレン系樹脂(B)(エチレン-プロピレンランダム共重合体:MFR=0.8g/10min、DSCピーク温度148℃、Mw=1,100,000)40重量%と、ポリエチレン系樹脂(C)(線状低密度ポリエチレン:MFR=12g/10min、密度0.932g/cm^(3)、Mw=60,000)20重量%と、発泡剤としてアゾジカルボンアミド8部と、架橋助剤としてジビニルベンゼン5部を、ヘンシェルミキサーで混合し得られた混合物を、ベント付き60mmφ一軸押出機で押出し1mmの厚さのシートに成形した。
【0076】
このようにして得られたシートに、電子線照射器を用いて100kGyの電子線を照射し樹脂を架橋させた。これを240℃の温度に加熱したソルトバスに浸積させることにより、厚さが2.1mm、見掛け密度が67kg/m^(3)で、ゲル分率が56%の架橋ポリオレフィン系樹脂発泡体を得た。
【0077】
得られた架橋ポリオレフィン系樹脂発泡体について、常温における引張伸度を測定したところ180%であった。また、得られた架橋ポリオレフィン系樹脂発泡体をミキシングロールで押圧して気泡を潰し、示差走査熱量計により吸熱ピーク温度を確認したところ156℃であった。さらに成形絞り比を測定したところ160℃、180℃および200℃全ての温度で0.50以上の値であった。また、150℃の温度での引張伸度は200%であり、170℃の温度での引張伸度は220%であった。また、表面粗さRa75値は20μmであった。」
(イ)「【0078】
(実施例2)
ポリプロピレン系樹脂(A)(ホモポリプロピレン:MFR=0.9g/10min、DSCピーク温度167℃、Mw=560,000)30重量%と、ポリプロピレン系樹脂(B)(エチレン-プロピレンランダム共重合体:MFR=0.8g/10min、DSCピーク温度148℃、Mw=1,100,000)40重量%と、ポリエチレン系樹脂(C)(線状低密度ポリエチレン:MFR=12g/10min、密度0.932g/cm^(3)、Mw=60,000)30重量%と、発泡剤としてアゾジカルボンアミド9部と、架橋助剤としてジビニルベンゼン5部を、ヘンシェルミキサーで混合し得られた混合物を、ベント付き60mmφ一軸押出機で押出し1mmの厚さのシートに成形した。
【0079】
このようにして得られたシートに、電子線照射器を用いて150kGyの電子線を照射し樹脂を架橋させた。これを240℃の温度に加熱したソルトバスに浸積させることにより厚さが1.9mm、見掛け密度が70kg/m^(3)で、ゲル分率が54%の架橋ポリオレフィン系樹脂発泡体を得た。
【0080】
得られた架橋ポリオレフィン系樹脂発泡体について、常温における引張伸度を測定したところ190%であった。また、得られた架橋ポリオレフィン系樹脂発泡体をミキシングロールで押圧して気泡を潰し、示差走査熱量計により吸熱ピーク温度を確認したところ159℃であった。さらに成形絞り比を測定したところ160℃、180℃および200℃全ての温度で0.50以上の値であった。また、150℃の温度での引張伸度は190%であり、170℃の温度での引張伸度は210%であった。また、表面粗さRa75値は19μmであった。」
(ウ)「【0081】
(実施例3)
ポリプロピレン系樹脂(A)(エチレン-プロピレンブロック共重合体:MFR=1.3g/10min、DSCピーク温度164℃、Mw=470,000)50重量%と、ポリプロピレン系樹脂(B)(エチレン-プロピレンランダム共重合体:MFR=0.8g/10min、DSCピーク温度148℃、Mw=1,100,000)30重量%と、ポリエチレン系樹脂(C)(線状低密度ポリエチレン:MFR=12g/10min、密度0.932g/cm^(3)、Mw=60,000)20重量%と、発泡剤としてアゾジカルボンアミド6部と、架橋助剤としてジビニルベンゼン5部を、ヘンシェルミキサーで混合し得られた混合物を、ベント付き60mmφ一軸押出機で押出し1mmの厚さのシートに成形した。
【0082】
このようにして得られたシートに、電子線照射器を用いて110kGyの電子線を照射し樹脂を架橋させた。これを240℃の温度に加熱したソルトバスに浸積させることにより厚さが1.6mm、見掛け密度が85kg/m^(3)で、ル分率(当審注:ゲル分率の誤記)が54%の架橋ポリオレフィン系樹脂発泡体を得た。
【0083】
得られた架橋ポリオレフィン系樹脂発泡体について、常温における引張伸度を測定したところ240%であった。また、得られた架橋ポリオレフィン系樹脂発泡体をミキシングロールで押圧して気泡を潰し、示差走査熱量計により吸熱ピーク温度を確認したところ156℃であった。さらに成形絞り比を測定したところ180℃および200℃の温度で0.50以上の値であった。また、150℃の温度での引張伸度は210%であり、170℃の温度での引張伸度は260%であった。また、表面粗さRa75値は17μmであった。
(エ)「【0084】
(実施例4)
ポリプロピレン系樹脂(A)(エチレン-プロピレンブロック共重合体:MFR=1.7g/10min、DSCピーク温度162℃、Mw=420,000)40重量%と、ポリプロピレン系樹脂(B)(エチレン-プロピレンランダム共重合体:MFR=0.8g/10min、DSCピーク温度148℃、Mw=1,100,000)40重量%と、ポリエチレン系樹脂(C)(線状低密度ポリエチレン:MFR=12g/10min、密度0.932g/cm^(3)、Mw=60,000)20重量%と、発泡剤としてアゾジカルボンアミド7部と、架橋助剤としてジビニルベンゼン5部を、ヘンシェルミキサーで混合し得られた混合物を、ベント付き60mmφ一軸押出機で押出し1mmの厚さのシートに成形した。
【0085】
このようにして得られたシートに、電子線照射器を用いて90kGyの電子線を照射し樹脂を架橋させた。これを240℃の温度に加熱したソルトバスに浸積させることにより厚さが2.0mm、見掛け密度が67kg/m^(3)で、ゲル分率が50%の架橋ポリオレフィン系樹脂発泡体を得た。
【0086】
得られた架橋ポリオレフィン系樹脂発泡体について、常温における引張伸度を測定したところ250%であった。また、得られた架橋ポリオレフィン系樹脂発泡体をミキシングロールで押圧して気泡を潰し、示差走査熱量計により吸熱ピーク温度を確認したところ155℃であった。さらに成形絞り比を測定したところ160℃、180℃および200℃全ての温度で0.50以上の値であった。また、150℃の温度での引張伸度は210%であり、170℃の温度での引張伸度は260%であった。また、表面粗さRa75値は17μmであった。」
(オ)「【0087】
(実施例5)
ポリプロピレン系樹脂(A)(ホモポリプロピレン:MFR=0.5g/10min、DSCピーク温度165℃、Mw=860,000)40重量%と、ポリプロピレン系樹脂(B)(エチレン-プロピレンランダム共重合体:MFR=2.2g/10min、DSCピーク温度138℃、Mw=830,000)40重量%と、ポリエチレン系樹脂(C)(線状低密度ポリエチレン:MFR=12g/10min、密度0.932g/cm^(3)、Mw=60,000)20重量%と、発泡剤としてアゾジカルボンアミド6部と、架橋助剤としてジビニルベンゼン5部を、ヘンシェルミキサーで混合し得られた混合物を、ベント付き60mmφ一軸押出機で押出し1mmの厚さのシートに成形した。
【0088】
このようにして得られたシートに、電子線照射器を用いて120kGyの電子線を照射し樹脂を架橋させた。これを240℃の温度に加熱したソルトバスに浸積させることにより厚さが1.7mm、見掛け密度が72kg/m^(3)で、ゲル分率が52%の架橋ポリオレフィン系樹脂発泡体を得た。
【0089】
得られた架橋ポリオレフィン系樹脂発泡体について、常温における引張伸度を測定したところ220%であった。また、得られた架橋ポリオレフィン系樹脂発泡体をミキシングロールで押圧して気泡を潰し、示差走査熱量計により吸熱ピーク温度を確認したところ155℃であった。さらに成形絞り比を測定したところ160、180℃および200℃全ての温度で0.50以上の値であった。また、150℃の温度での引張伸度は210%であり、170℃の温度での引張伸度は230%であった。また、表面粗さRa75値は22μmであった。」
(カ)「【0090】
(実施例6)
ポリプロピレン系樹脂(A)(エチレン-プロピレンブロック共重合体:MFR=1.3g/10min、DSCピーク温度164℃、Mw=470,000)50重量%と、ポリプロピレン系樹脂(B)(エチレン-プロピレンランダム共重合体:MFR=0.8g/10min、DSCピーク温度148℃、Mw=1,100,000)25重量%と、ポリエチレン系樹脂(C)(線状低密度ポリエチレン:MFR=12g/10min、密度0.932g/cm^(3)、Mw=60,000**)25重量%と、発泡剤としてアゾジカルボンアミド10部と、架橋助剤としてジビニルベンゼン5部を、ヘンシェルミキサーで混合し得られた樹脂混合物を、ベント付き60mmφ一軸押出機で押出し1mmの厚さのシートに成形した。
【0091】
このようにして得られたシートに、電子線照射器を用いて100kGyの電子線を照射し樹脂を架橋させた。これを240℃の温度に加熱したソルトバスに浸積させることにより厚さが2.0mm、見掛け密度が53kg/m^(3)で、ゲル分率が52%の架橋ポリオレフィン系樹脂発泡体を得た。
【0092】
得られた架橋ポリオレフィン系樹脂発泡体について、常温における引張伸度を測定したところ190%であった。また、得られた架橋ポリオレフィン系樹脂発泡体をミキシングロールで押圧して気泡を潰し、示差走査熱量計により吸熱ピーク温度を確認したところ159℃であった。さらに成形絞り比を測定したところ200℃の温度のみ0.50以上の値であった。また、150℃の温度での引張伸度は200%であり、170℃の温度での引張伸度は220%であった。また、表面粗さRa75値は21μmであった。」
(キ)「【0093】
(実施例7)
ポリプロピレン系樹脂(A)(ホモポリプロピレン:MFR=2.2g/10min、DSCピーク温度166℃、Mw=350,000)40重量%と、ポリプロピレン系樹脂(B)(エチレン-プロピレンランダム共重合体:MFR=2.2g/10min、DSCピーク温度138℃、Mw=830,000)40重量%と、ポリエチレン系樹脂(C)(線状低密度ポリエチレン:MFR=12g/10min、密度0.932g/cm^(3)、Mw=60,000)20重量%と、発泡剤としてアゾジカルボンアミド12部と、架橋助剤としてジビニルベンゼン5部を、ヘンシェルミキサーで混合し得られた混合物を、ベント付き60mmφ一軸押出機で押出し1mmの厚さのシートに成形した。
【0094】
このようにして得られたシートに、電子線照射器を用いて100kGyの電子線を照射し樹脂を架橋させた。これを240℃の温度に加熱したソルトバスに浸積させることにより厚さが2.2mm、見掛け密度が49kg/m^(3)で、ゲル分率が51%の架橋ポリオレフィン系樹脂発泡体を得た。
【0095】
得られた架橋ポリオレフィン系樹脂発泡体について、常温における引張伸度を測定したところ220%であった。また、得られた架橋ポリオレフィン系樹脂発泡体をミキシングロールで押圧して気泡を潰し、示差走査熱量計により吸熱ピーク温度を確認したところ157℃であった。さらに成形絞り比を測定したところ180℃の温度で0.50以上の値であった。また、150℃の温度での引張伸度は210%であり、170℃の温度での引張伸度は220%であった。また、表面粗さRa75値は23μmであった。」
(ク)「【0096】
(実施例8)
ポリプロピレン系樹脂(A)(エチレン-プロピレンブロック共重合体:MFR=0.35g/10min、DSCピーク温度165℃、Mw=1,050,000)40重量%と、ポリプロピレン系樹脂(B)(エチレン-プロピレンランダム共重合体:MFR=0.8g/10min、DSCピーク温度148℃、Mw=1,100,000)40重量%と、ポリエチレン系樹脂(C)(線状低密度ポリエチレン:MFR=12g/10min、密度0.932g/cm^(3)、Mw=60,000)20重量%と、発泡剤としてアゾジカルボンアミド8部と、架橋助剤としてジビニルベンゼン5部を、ヘンシェルミキサーで混合し得られた混合物を、ベント付き60mmφ一軸押出機で押出し1mmの厚さのシートに成形した。
【0097】
このようにして得られたシートに、電子線照射器を用いて80kGyの電子線を照射し樹脂を架橋させた。これを240℃の温度に加熱したソルトバスに浸積させることにより厚さが2.3mm、見掛け密度が61kg/m^(3)で、ゲル分率が52%の架橋ポリオレフィン系樹脂発泡体を得た。
【0098】
得られた架橋ポリオレフィン系樹脂発泡体について、常温における引張伸度を測定したところ200%であった。また、得られた架橋ポリオレフィン系樹脂発泡体をミキシングロールで押圧して気泡を潰し、示差走査熱量計により吸熱ピーク温度を確認したところ156℃であった。さらに成形絞り比を測定したところ160℃、180℃および200℃全ての温度で0.50以上の値であった。また、150℃の温度での引張伸度は220%であり、170℃の温度での引張伸度は240%であった。また、表面粗さRa75値は25μmであった。」
(ケ)「【0099】
実施例1?8の結果をまとめて、表1に示す。
【0100】
【表1】



(4)引用発明の認定
ア 前記(2)ソに摘記した甲B2の段落【0100】には、「ポリエチレン樹脂製発泡体シート(以下「基材A」という。)」と記載されているが、前記(2)ツに摘記した同段落【0105】の【表1】における「基材A」が用いられた「例1」の列及び「種類」の行に記載の「ポリエチレン系発泡体」の記載から、前記段落【0100】の記載は「ポリエチレン系樹脂製発泡体シート」の誤記と解される。
イ 特許権者は、甲1の段落【0100】の記載が誤記ではないと主張するが、前記アのとおり、表1には、「ポリエチレン系発泡体」と記載されており、前記(2)ウに摘記した同段落【0023】には「ポリエチレン系樹脂とは、エチレンを主モノマー(すなわち、モノマーのなかの主成分)とする樹脂を指し」と明記されているのであって、「ポリエチレン樹脂」とは明らかに異なるから、当該主張は採用できない。
ウ 引用発明A
前記2(11)イに摘記した甲B2の前記【0100】に記載された基材Aを用いた例1について、次の発明(以下「引用発明A」という。)が認定できる。
「基材Aの両面にアクリル系粘着剤組成物が設けられ、
基材がポリエチレン系発泡体であり、
基材厚みが150μmであり、
見かけ密度が0.37g/cm^(2)であり、
気泡のアスペクト比(MD/CD)が2.6であり、
25%圧縮密度が108kPaであり、
総厚さが200μmである両面粘着シート」
(5)本件発明1と引用発明Aの対比、判断
ア 対比
(ア)引用発明Aにおける「見かけ密度が0.37g/cm^(2)」について、前記第3、2(2)に摘記した本件明細書の段落【0021】にも記載されているように、発泡倍率は密度の逆数であるから、発泡倍率に換算すると、1/0.37=2.7cm^(2)/gとなり、本件発明1の「15cm^(2)/g以下」を充足する。
(イ)引用発明Aにおける、気泡のアスペクト比(MD/CD)は、本件発明1の数値範囲を充足する。また、引用発明Aにおける基材厚みは、本件発明1の「基材の厚み」の上限値以下である点で一致する。
(ウ)一致点
本件発明1と引用発明Aとは次の点で一致する。
「基材の両面にアクリル粘着剤層を有する両面粘着テープであって、
前記基材は、発泡体からなり、
前記基材の厚みが1500μm以下であり、
前記発泡体は、発泡倍率が15cm^(3)/g以下であり、気泡のアスペクト比(MDの平均気泡径/TDの平均気泡径)が0.9?3である
ことを特徴とする両面粘着テープ。」
(エ)相違点
本件発明1と引用発明Aとは次の点で相違する。
<相違点1>
発泡体について、本件発明1においては、「ホモポリプロピレン、プロピレン含有量が50重量%以上であるエチレン-プロピレンランダム共重合体又はプロピレン含有量が50重量%以上であるエチレン-プロピレンブロック共重合体の少なくとも1つからなるポリプロピレン系樹脂を30重量%以上含有」し、「示差走査熱量計により測定される結晶融解温度ピークが140℃以上であ」るのに対して、引用発明Aにおいては、「ポリエチレン系発泡体」である点。
<相違点2>
基材の厚さに関して、本件発明1においては、「基材の厚みが200μm以上」であるのに対し、引用発明Aにおいては、150μmである点。
イ 相違点についての判断
事案に鑑み、相違点1について検討する。
(ア)相違点1に係る本件発明1の構成を採用することは、前記(2)ウに摘記した甲B2の段落【0022】の「例えば、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、メタロセン触媒系直鎖状低密度ポリエチレン等のポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体等が挙げられる。」という記載、及び、段落【0023】の「ここに開示される技術における発泡体基材の好適例としては、耐衝撃性、防水性等の観点から、・・・ポリプロピレン系樹脂の発泡体から実質的に構成されるポリプロピレン系発泡体基材等が挙げられる。・・・ポリプロピレン系樹脂とは、プロピレンを主モノマーとする樹脂を指す。」との記載からみて、一応の示唆はされているといえる。
(イ)しかしながら、エチレンを主モノマーとするポリエチレン系樹脂を用いる引用発明Aと、プロピレンを主モノマーとするポリプロピレン系樹脂を30重量%以上用いる本件発明1とでは、その融点が異なることとなる。そうすると、成形時の温度も相違する。
(ウ)ポリエチレン系樹脂においては、例えば甲C3の段落【0039】に記載のように、130℃で溶融押出成形されるのに対して、ポリプロピレン系樹脂においては、甲C4の段落【0062】に記載されているように、185℃で溶融押出成形されることが技術常識であったと認められる。
(エ)温度が上昇すると発泡剤の反応速度が上昇することは技術常識であり、発泡条件と成形時の延伸条件をどのように調整すれば、本件発明1に係る気泡のアスペクト比の数値範囲内に収まるかは予測が不可能といえる。
(オ)なお、前記第4、2(1)イ(イ)において、本件先行判決は、気泡のアスペクト比は、基材の厚みの調整により、調整可能と判断したが、これは実施可能要件についてのものであって、本件特許明細書を参照した上で調整可能と判断したものであるので、進歩性に関する前記(エ)の判断と無関係である。
(カ)以上のとおり、本件発明1は引用発明A及び甲B2に記載された事項から、本件優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものといえない。この理由により、本件発明1は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明ということはできない。
ウ 申立人の主張に対して
(ア)申立人Bは、ポリプロピレンを含有する発泡体が耐熱性に優れていることは、本件優先日当時の当業者の技術常識(甲A6第86?87頁、甲B3【0017】【0026】【0030】、甲B4【0002】、甲B5【0003】、甲B6【0002】)であったから、引用発明Aにおいて、耐熱性の向上を動機付けとして、甲B3等に開示されたポリプロピレン系樹脂を採用することは自明であると主張する。
(イ)申立人Cは、ポリプロピレンを含有する発泡体が耐熱性に優れていることは、本件優先日当時の当業者の技術常識(甲C6)であったから、引用発明Aにおいて、耐熱性の向上を動機付けとして、ポリプロピレン系樹脂を採用することは自明であると主張する。
(ウ)申立人B、Cの主張するように、ポリエチレンに比べ、ポリプロピレンの融点が高く(甲C6)、耐熱性に優れた樹脂であったことは技術常識と認められるが、それゆえに、製造条件の設定に困難が生じることは、前記イ(エ)に指摘したとおりであり、また、ポリエチレンに比べ、ポリプロピレンの方が剛性が高い(甲C6)のであるから、前記第3、2(8)に摘記した本件特許明細書の段落【0074】に記載された「耐反発性」、すなわち、柔軟性が必要とされる両面粘着テープの基材にポリプロピレン系樹脂を用いることには阻害要因があるといえる。したがって、申立人の主張は採用できない。
3 前記2で検討した以外の進歩性についての判断
(1)甲B1(甲C3)、甲C1、甲C2を主引用例とする取消理由
ア 甲B1(甲C3)の記載事項
甲B1(甲C3)には次の記載がある。
(ア)「【請求項1】
気泡のアスペクト比1(MDの平均気泡径とCDの平均気泡径との平均P/VDの平均気泡径)が2?18であり、アスペクト比2(MDの平均気泡径/CDの平均気泡径)が0.25?4であり、かつMDの平均気泡径とCDの平均気泡径の平均Pが140μm以下である、架橋ポリオレフィン系樹脂発泡シート。
【請求項2】
重合触媒として四価の遷移金属を含むメタロセン化合物を用いて得られたポリオレフィン系樹脂を40質量%以上含有する、請求項1に記載の架橋ポリオレフィン系樹脂発泡シート。
【請求項3】
厚みが0.05?2mmである、請求項1又は2に記載の架橋ポリオレフィン系樹脂発泡シート。
【請求項4】
請求項1?3のいずれかに記載の架橋ポリオレフィン系樹脂発泡シートの少なくとも一面に、粘着剤層が積層されてなる粘着テープ。」
(イ)「【0007】
本発明によれば、優れた柔軟性、耐熱性を有し、かつ厚みを薄くし得る架橋ポリオレフィン系樹脂発泡シート、及びその発泡シートの少なくとも一面に粘着剤層が積層一体化されてなる、凹凸面の凹凸吸収性に優れると共に、例えば幅を2mm以下にスリット加工又は打ち抜き加工した場合でも十分なシール性能を有する粘着テープを提供することができる。」
(ウ)「【0011】
<ポリオレフィン系樹脂>
架橋発泡シートを構成するポリオレフィン系樹脂に特に制限はなく、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂等を用いることができる。 ポリエチレン系樹脂としては、例えば、直鎖状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、エチレンを50質量%以上含有するエチレン-α-オレフィン共重合体、エチレンを50質量%以上含有するエチレン-酢酸ビニル共重合体等が挙げられる。
エチレン-α-オレフィン共重合体を構成するα-オレフィンとしては、例えば、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン等が挙げられる。
【0012】
ポリプロピレン系樹脂としては、例えば、ポリプロピレン、プロピレンを50質量%以上含有するプロピレン-α-オレフィン共重合体等が挙げられる。プロピレン-α-オレフィン共重合体は、ブロック共重合体、ランダム共重合体、ランダムブロック共重合体のいずれであってもよい。
プロピレン-α-オレフィン共重合体を構成するα-オレフィンとしては、例えば、エチレン、1-ブテン、1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン等が挙げられる。
上記のポリオレフィン系樹脂は、単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。」
(エ)「【0039】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
実施例1
(1)メタロセン系直鎖状低密度ポリエチレン(エクソンモービル・ケミカル社製、商品名「EXACT3027」、密度:0.900g/cm^(3)、質量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn):2.0、融点:98℃、軟化点:85℃)100質量部、平均粒子径が2μmのアゾジカルボンアミド5質量部、2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール0.3質量部、及び酸化亜鉛1質量部からなる発泡性ポリオレフィン系樹脂組成物を押出機に供給して130℃で溶融混練し、幅が200mmでかつ厚さが0.8mmの長尺状の発泡性ポリオレフィン系樹脂シートに押出した。
(2)次に、上記長尺状の発泡性ポリオレフィン系樹脂シートの両面に加速電圧800kVの電子線を5Mrad照射して発泡性ポリオレフィン系樹脂シートを架橋した後、この発泡性ポリオレフィン系樹脂シートを熱風及び赤外線ヒーターにより250℃に保持された縦型加熱炉内に連続的に送り込んで加熱、発泡させた。
(3)しかる後、得られた発泡シートを加熱炉から連続的に送り出した後、この発泡シートをその両面の温度が200?250℃となるように維持した状態で、発泡シートをそのCDに延伸させると共に、発泡性ポリオレフィン系樹脂シートの加熱炉への送り込み速度(供給速度)よりも速い巻取速度でもって発泡シートを巻き取ることによって発泡シートをMDに延伸させて、発泡シートの気泡をCD及びMDに延伸して変形させ、表1に示した幅、厚み、架橋度及び発泡倍率を有する架橋発泡シートを得た。
なお、発泡性ポリオレフィン系樹脂シート自身の重さで縦方向に伸びる傾向がある。そのため、上記発泡シートの巻取速度は、発泡によるMDへの膨張分を考慮しつつ調整した。
発泡シートの巻取速度と供給速度との比(巻取速度/供給速度)、並びに、架橋発泡シートのMD及びCDの延伸倍率を第1表に示す。
【0040】
実施例2
架橋発泡シートのCDの幅が1300mmとなるようにしたこと以外は実施例1と同様にして架橋発泡シートを得た。
発泡シートの巻取速度と供給速度との比(巻取速度/供給速度)、並びに、架橋発泡シートのMD及びCDの延伸倍率を第1表に示す。
【0041】
実施例3
厚さが0.6mmの長尺状の発泡性ポリオレフィン系樹脂シートに押出したこと、架橋発泡シートのCDの幅が640mmとなるようにしたこと以外は実施例1と同様にして架橋発泡シートを得た。
発泡シートの巻取速度と供給速度との比(巻取速度/供給速度)、並びに、架橋発泡シートのMD及びCDの延伸倍率を第1表に示す。
【0042】
実施例4
厚さが0.88mmの長尺状の発泡性ポリオレフィン系樹脂シートに押出したこと、アゾジカルボンアミドの粒径を5μmとし、アゾジカルボンアミドの添加量を5質量部の代りに3.5質量部としたこと、発泡性ポリオレフィン系樹脂シートの厚みが0.32mmとなるように押出したこと以外は実施例3と同様にして架橋発泡シートを得た。
発泡シートの巻取速度と供給速度との比(巻取速度/供給速度)、並びに、架橋発泡シートのMD及びCDの延伸倍率を第1表に示す。
【0043】
実施例5
厚さが1.00mmの長尺状の発泡性ポリオレフィン系樹脂シートに押出したこと、アゾジカルボンアミドの添加量を5質量部の代りに1.5質量部としたこと、発泡性ポリオレフィン系樹脂シートの厚みが0.32mmとなるように押出したこと、発泡シートの供給速度と巻取速度の比(供給速度/巻取速度)、並びに、架橋発泡シートのCDの幅が640mmとなるようにしたこと以外は実施例1と同様にして架橋発泡シートを得た。
発泡シートの巻取速度と供給速度との比(巻取速度/供給速度)、並びに、架橋発泡シートのMD及びCDの延伸倍率を第1表に示す。」
イ 甲C1の記載事項
甲C1には次の記載がある。
(ア)1頁左下欄4行?2頁左上欄2行
「2.【特許請求の範囲】
1) 湾曲状の車体面に折り曲げに対して復元能を有する高分子系外装部材を追従させて接着材料にて固定する方法において、該材料としてポリオレフィン系発泡体を支持体とする両面感圧接着型テープもしくはシートを用いることを特徴とする車体面への外装部材の固定方法。
2) ポリオレフィン系発泡体が0.5?1.7Kg/cm^(2)の25%圧縮硬さと0.05?0.8g/cm^(3)の見掛け密度を有するものである特許請求の範囲第1項記載の車体面への外装部材の固定方法。
3) ポリオレフィン系発泡体がポリエチレン系発泡体であつて0.5?1.7Kg/cm^(2)の25%圧縮硬さと0.05?0.8g/cm^(3)の見掛け密度を有するものである特許請求の範囲第2項記載の車体面への外装部材の固定方法。
4) ポリエチレン系発泡体が0.5?1.7Kg/cm^(2)の25%圧縮硬さと0.05?0.8g/cm^(3)の見掛け密度と60重量%以上の熱キシレン不溶解分とを有するものである特許請求の範囲第3項記載の車体面への外装部材の固定方法。
5) ポリオレフィン系発泡体がポリエチレンとエチレン-酢酸ビニル共重合物の混合物の群から選ばれた1つで酢酸ビニル含有物が30重量%以下であるポリオレフィン系組成物の発泡体からなる特許請求の範囲の第1?2項の各れかに記載の車体面への外装部材の固定方法。
6) ポリオレフィン系発泡体がポリエチレンとエチレン-酢酸ビニル共重合物の混合物の群から選ばれた1つで酢酸ビニル含有量が30重量%以下であるポリオレフィン系組成物の発泡体からなり、0.5?1.7Kg/cm^(2)の25%圧縮硬さと0.05?0.8g/cm^(3)の見掛け密度と60重量%以上の熱キシレン不溶解分とを有する特許請求の範囲第1項、2項及び5項の各れかに記載の車体面への外装部材の固定方法。」
(ウ)2頁右下欄下3行?3頁左上欄5行
「しかして、従来、サイドモールに代表される外装部材の固定に用いられている両面感圧接着型テープもしくはシートの支持体としての発泡体は、クロロプレンゴム又はブチルゴムを主体とするゴム系発泡体で、一部特定のポリウレタン系発泡体がある。中でも主流は耐油性、耐熱性などが考慮されてクロロプレンゴム発泡体が用いられているのが現状である。」
(エ)5頁左上欄12?20行
「実施例1
厚み1.0mm、25%圧縮硬さ1.0Kg/cm^(2)、見掛け密度0.14g/cm^(3)、引張強さ26Kg/m^(2)、伸び250%、圧縮永久歪6.5%(評価方法は何れもJIS K6767による)の低密度ポリエチレン発泡体シートの両面にコロナ放電処理を施し、次いでこの発泡体シートの両面にアクリル系粘着剤組成物の塗膜を0.05mmの厚みとなるように形成し、両面感圧接着型シートを得る。」
(オ)5頁右下欄11?15行
「実施例2
厚み1.05mm、25%圧縮硬さ0.6Kg/cm^(2)、見掛け密度0.07g/cm^(3)、引張強さ4Kg/cm^(2)、伸び195%の低密度ポリエチレン発泡体シートの両面にコロナ放電処理を施し、以下実施例1と同様の両面感圧接着型シートを得る。」
(カ)5頁右下欄13?20行
「 実施例3
厚み1.05mm、25%圧縮硬さ1.12Kg/cm^(2)、見掛け密度0.25g/cm^(3)、引張強さ45Kg/cm^(2)、伸び350%のポリエチレン系発泡体シート〔低密度ポリエチレン:エチレン-酢酸ビニル共重合体(酢酸ビニル含有量15重量%)=7:3(重量比)〕の両面に実施例1と同様に感圧接着剤層を形成して、両面感圧接着型シートを得る。」
ウ 甲C2の記載事項
甲C2には次の記載がある。
(ア)「【請求項1】
自動車を構成する部品の固定に使用する粘着テープであって、前記粘着テープが発泡体基材(A)の少なくとも一方の面に粘着剤層(B)を有するものであり、前記粘着剤層(B)が、アクリル重合体エマルジョン(b-1)とオキサゾリン架橋剤(b-2)とを含有するアクリル粘着剤を用いて形成された粘着剤層であることを特徴とする粘着テープ。
・・・
【請求項6】
電子料金収受システムの車載器と自動車の内装材とが、請求項1?4のいずれか1項に記載の粘着テープによって固定された自動車。
【請求項7】
カーナビゲーションシステムの車載器と自動車の内装材とが、請求項1?4のいずれか1項に記載の粘着テープによって固定された自動車。」
(イ)「【技術分野】
【0001】
本発明は、もっぱら自動車を構成する部品の固定に使用可能な粘着テープに関する。
【背景技術】
【0002】
粘着テープは、例えばOA機器、家電製品、自動車等の分野で部品を固定する用途で使用されている。なかでも、発泡体基材の両面に粘着剤層を有する粘着テープは、段差追従性及び接着性に優れることから、例えば自動車車体の曲面部にエンブレム等の部品を固定する用途等で好適に使用されている。」
(ウ)「【発明の効果】
【0011】
本発明の粘着テープは、水性粘着剤を使用していることから人体や環境への悪影響を低減することができる。また、本発明の粘着テープは、微細な凹凸表面を有する基材(中芯)に対して優れた密着性を有し、かつ、常温及び高温環境下における優れたせん断接着力及び接着保持力を有することから、例えば自動車等のボディにエンブレム等の部品を固定する用途、電子料金収受システム(エレクトロニック トール コレクション システム、いわゆるETC)車載器やカーナビゲーションシステム等の車載器を固定する用途等で好適に使用することができる。」
(エ)「【0018】
発泡体基材(A)としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体等のオレフィン系樹脂を用いて得られる発泡体基材、ポリスチレンを用いて得られる発泡体基材、ポリウレタンを用いて得られる発泡体基材、ポリ塩化ビニルを用いて得られる発泡体基材、アクリル系ゴムを用いて得られる発泡体基材、その他のエラストマー等を用いて得られる発泡体基材等を使用することができる。なかでも、前記発泡体基材としては、被着体の曲面部に対してより一層優れた接着力を備えた粘着テープを得るうえで、ポリオレフィン系樹脂を用いて得られた発泡体基材を使用することが好ましく、ポリエチレンを用いて得られた発泡体基材を使用することがより好ましく、四価の遷移金属を含むメタロセン化合物を用いて得られたポリエチレン系樹脂を前記ポリオレフィン系樹脂の全量に対して40質量%以上含有する発泡体基材を使用することが、三次曲面に形成された被着体に対して良好な基材追従性及び接着性を付与するうえで、さらに好ましい。
【0019】
前記発泡体基材(A)としては、発泡体基材の長さ方向に細長く伸びた構造であるものを使用することが、被着体の三次元曲面に対して優れた追従性と接着性とを備えた粘着テープを得るうえでより好ましい。」
(オ)「【0111】
(実施例1)
・・・
【0117】
<両面粘着テープ(1)の製造>
前記の水分散型アクリル系粘着剤組成物(1)を、ナイフコーターを用いて、剥離ライナー上に、乾燥後の厚さが80μmとなるように塗工し、100℃で5分間乾燥することによって、前記剥離ライナー上に粘着剤層が形成された積層シートを2枚形成した。
【0118】
次に、発泡体基材としてボラーラXL-H#05002(黒)[積水化学工業株式会社製、厚さ200μm、発泡倍率5倍、ポリエチレン製発泡体]の両面に、前記積層シートを、60℃に加温したラミネートロールを用いて貼り合わせたのち、40℃環境下で72時間養生することで、粘着テープを製造した。」
(カ)実施例2?17
当審注:摘記は省略するが、発泡体基材は前記(オ)と同じポリエチレン製発泡体が用いられている。
エ 検討
前記ア?ウに摘記したように、これらの甲号証には、具体的な樹脂としては、ポリエチレン発泡体及びポリエチレン-酢酸ビニル共重合体の発泡体が記載されているだけである。そして、ポリプロピレンを用いることの示唆があったとしても、ポリプロピレン系樹脂を用いることが困難であることは、前記2(5)イに示したとおりである。
オ したがって、甲B1(甲C3)、甲C1、甲C2を主引用例とする取消理由はいずれも理由がない。
(2)甲A1(C4)を主引用例とする申立理由
ア 甲A1(C4)の記載事項
甲A1には次の記載がある。
(ア)「【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、このような従来の架橋ポリオレフィン系樹脂発泡体の問題点を解決するためになされたものであり、高い耐熱性と良好な柔軟性とを兼ね備えた架橋ポリオレフィン系樹脂発泡体及びその製造方法を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明の架橋ポリオレフィン系樹脂発泡体は、ポリプロピレン系樹脂を30重量%以上含有するポリオレフィン系樹脂を架橋発泡してなり、かつ、厚さが1mm以上であるとともに全体の架橋度が65%以下であり、さらに、両面から500μm深さまでの各表層部の架橋度が、両面の表層部を除いた中層部の架橋度よりも3%以上高いことを特徴とする。」
(イ)「【0017】
上記ポリプロピレン系樹脂の示差走査熱量計により測定される結晶融解温度ピークは特には限定されないが、低くなると得られる架橋ポリオレフィン系樹脂発泡体の耐熱性が低下するので、145℃以上が好ましく、より好ましくは147℃以上であり、さらに好ましくは149℃以上であり、さらに好ましくは152℃以上である。また、結晶融解温度ピークの上限は、通常175℃であり、好ましくは170℃である。
【0018】
尚、本発明でいう示差走査熱量計により測定される結晶融解温度ピークは、ポリプロピレン系樹脂100mgを示差走査熱量計を用いて大気中において昇温速度10℃/分の条件下で測定された際のピーク温度をいう。また、上記示差走査熱量計は、例えば、セイコーインスツルメンツ社製の商品名「220C」が市販されている。」
(ウ)「【0061】
【発明の実施の形態】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0062】
(実施例1?4及び比較例1?3)
表1に示した所定配合量の、ポリプロピレン系樹脂(エチレン-プロピレンランダム共重合体:住友化学社製、商品名「AD571」、密度0.90g/cm^(3)、MFR0.5g/10分)及び直鎖状低密度ポリエチレン(東ソー社製、商品名「ZF231」、MFR2g/10分、密度0.917g/cm^(3))からなるポリオレフィン系樹脂100重量部に、アゾジカルボンアミド(熱分解型発泡剤)13重量部及びジビニルベンゼン(架橋助剤)3重量部を添加し、さらに2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール(酸化防止剤)0.3重量部、ジラウリルチオプロピオネート(酸化防止剤)0.3重量部、及びメチルベンゾトリアゾール(金属害防止剤)0.5重量部を添加して得た組成物を、単軸押出機により、温度185℃で溶融混練して、表1に示した厚さの原反シートとして押出した。
【0063】
次に、得られたシートの両面に、表1に示した所定の加速電圧及び照射線量の電子線を、第1の照射と第2の照射に分けて2回照射した。
その後、得られた発泡性ポリオレフィン系樹脂架橋シートを、炉内温度250℃の縦型熱風式発泡炉に供給し、進入速度1.7m/秒、巻取速度6.2m/秒で連続的に延伸しつつ加熱発泡させ、目的とする架橋ポリオレフィン系樹脂発泡体を得た。」
(エ)「【0067】
【表1】


(オ)「【0071】
(スタンピング成形性)
架橋ポリオレフィン系樹脂発泡体から150mm×150mmの成形用サンプルを切り出し、測定用サンプルを油圧プレス間に水平に載置した。その後、測定用サンプルの下側面に、200℃の溶融ポリプロピレン系樹脂(MFR20g/10分)20gを供給して、直ちに温度20℃に保持された油圧プレスにより、圧力4.9MPaで5秒間押圧し、続いて圧力0.98MPaで50秒間押圧するとともに油圧プレス内に通水し、架橋ポリオレフィン系樹脂発泡体を冷却した。その後、得られた成形体を油圧プレスから取り外し、成形体表面を目視により観察して以下の通り評価し、その結果を表1に示した。
○:表面に凹凸や発泡体破れが見られず、外観は良好であった。
×:表面に凹凸、又は発泡体破れが生じた。
【0072】
(柔軟性)
○:指で押した場合、若干の底つき感があり、押した後に厚さが十分に回復した×:指で押しても底つき感がないか、又は押した後に厚さが回復しなかった。」
引用発明の認定
前記ア(ウ)に摘記した甲A1に記載の実施例1から、次の発明(以下「甲A1発明」という。)が認定できる。
「エチレン-プロピレンランダム共重合体:住友化学社製、商品名「AD571」60重量部及び直鎖状低密度ポリエチレン40重量部からなるポリオレフィン系樹脂100重量部にアゾジカルボンアミド(熱分解型発泡剤)13重量部及びジビニルベンゼン(架橋助剤)3重量部を添加し、さらに2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール(酸化防止剤)0.3重量部、ジラウリルチオプロピオネート(酸化防止剤)0.3重量部、及びメチルベンゾトリアゾール(金属害防止剤)0.5重量部を添加して得た組成物を、単軸押出機により、温度185℃で溶融混練して、押出した原反シートに、電子線照射をした後、加熱発泡させた架橋ポリオレフィン系樹脂発泡体」
ウ 対比
本件発明1と甲A1発明とを対比すると、少なくとも次の点で相違する。
<相違点α>
本件発明1は、「基材の両面にアクリル粘着剤層を有する両面粘着テープ」であるのに対して、甲A1発明においては、基材そのものである点。
エ 相違点についての判断
甲A1発明の用途に関して、前記ア(オ)に摘記した甲A1の段落【0071】には、スタンピング成型に用いることが記載されているが、両面粘着テープの基材とすることは記載も示唆もされていない。また、甲A1発明を両面粘着テープの基材とすることが当業者にとって容易であると認めるに足りる証拠はない。したがって、相違点αに係る本件発明1の構成が当業者が容易に想到し得たということはできない。
(3)進歩性についての小括
以上から、本件発明1は甲A1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということができない。本件発明2?7は、本件発明1を包含し、更に特定事項を追加するものであるから、本件発明1と同様に甲A1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということができない。
したがって、本件発明1?7に係る特許は、特許法第113条第2号に該当するということはできず、取り消すことはできない。
4 記載要件についての当審の判断
(1)前記第5、1(2)イ(ウ)の申立人Bの主張について
ア 特許権者の提出した乙第1号証(エドワード・P・ムーア・Jr.編著、ポリプロピレンハンドブック)の288頁の図6.6によると、ポリプロピレンに対してコモノマーとしてエチレンを4.2wt%以上含有するエチレン-プロピレンコポリマーの融点が140℃以下となることが示されている。
イ しかしながら、ここでいう融点は、「示差走査熱量計により測定される結晶融解温度ピーク」とは異なると解される。この点、本件先行判決の30頁において「本件特許請求の範囲には、複数のピークが生じる場合に、特定のピークを選択する旨の記載や、全てのピークが140℃以上であることの記載が存在しないところ、上記のとおり、実施例1?7の発泡体は、比較例2、3と同じ直鎖状低密度ポリエチレンを20?60重量%で含有するから、【表1】に記載された141.5?147.4℃(140℃以上)の結晶融解温度ピーク以外に、140℃未満の結晶融解温度ピークを含むであろうことは、当業者であれば、上記イの技術常識により、容易に理解することができる。このことは、原告による実施例2の追試結果の図(甲8)や甲10の図4とも符合する。」と認定されているとおり、融点は降下するとしても、その融点とは別に、プロピレン成分及びエチレン成分のそれぞれのピークが検出されると認められるから、申立人Bの主張は採用できない。
(2)前記第5、1(2)イ(エ)の申立人Bの主張について
前記第3、2(3)に摘記したように本件特許明細書の段落【0037】には、電子性架橋処理以外に「ポリオレフィン樹脂組成物を形成する際に予め有機過酸化物を配合しておき、その後、ポリオレフィン樹脂組成物を加熱して有機過酸化物を分解させる方法等が挙げられる。」と記載されていることから、電子線架橋処理が必須とする申立人Bの主張は採用できない。
(3)前記第5、1(3)イ(エ)の申立人Cの主張について
申立人は、「140℃以上」という特定では、本件発明の課題が解決できない範囲を含んでいると主張するが、課題が解決できない具体例を示していないから、申立人Cの主張は採用できない。
(4)前記第5、1(3)イ(オ)の申立人Cの主張について
申立人は、「15cm^(3)/g以下」という特定では、本件発明の課題が解決できない範囲を含んでいると主張するが、課題が解決できない具体例を示していないから、申立人Cの主張は採用できない。
(5)前記第5、1(3)イ(カ)の申立人Cの主張について
ア 前記第4、1(3)に摘記したように本件先行判決は、「商品名AD571以外のポリプロピレン系樹脂を使用した場合であっても、本件特許明細書の記載や技術常識に照らし、本件発明1の両面接着テープが課題を解決できるものと認識できる。」と判断している。
この判断は、訂正前の請求項1に係る発明におけるポリプロピレン系の範囲を明確とした本件発明1に同様に当てはまるから、この主張は、本件先行判決の拘束力により採用することはできない。
イ 申立人Cは、AD571のプロピレン含有量が不明だというが、前記(2)ア(ウ)に摘記した甲A1の段落【0062】に、「ポリプロピレン系樹脂(エチレン-プロピレンランダム共重合体:住友化学社製、商品名「AD571」、密度0.90g/cm^(3)、MFR0.5g/10分)」と記載され、「ポリプロピレン系樹脂」というのであるから、プロピレン成分が50重量%以上含むものと推認できる。この点でも申立人Cの主張は採用できない。
(6)前記第5、1(3)イ(キ)の申立人Cの主張について
ア 甲C8によると、AD571は「Block」と表記され、MFRが0.6とされていることから、前記第3、2(5)で摘記した本件特許明細書の段落【0056】の「ポリプロピレン系樹脂(エチレン-プロピレンランダム共重合体:住友化学社製、商品名「AD571」、密度0.90g/cm^(3)、MFR0.5g/10分)」とは食い違いがあることは申立人Cの主張するとおりである。
イ 前記(2)ア(ウ)に摘記した甲A1の段落【0062】にも、本件特許明細書と同様の記載があることを考慮すると、前記アの食い違いが、本件特許明細書の誤りを証明したものということはできない。
ウ 仮に、本件特許明細書におけるAD571という商品名に誤りがあったとしても、当業者が本件明細書の記載に基づいて、本件発明を実施することは可能であると推認できる。
エ いずれにせよ、前記アの食い違いは、本件特許を取り消すべき理由とはならない。
(7)小括
以上から、本件特許明細書及び特許請求の範囲の記載に記載要件違背があるということはできないから、特許法第113条第4号の規定に該当するといえず、本件発明1?7に係る特許を取り消すことはできない。

第6 むすび
1 前記第2のとおり、本件訂正を認める。
2 前記第4で検討したように、本件第1次決定の理由により、本件発明1?7に係る特許を取り消すことはできない。
3 前記第5で検討したように、本件発明1?7に係る特許が新規性又は進歩性を欠如するということはできず、本件特許明細書の特許請求の範囲及び発明の詳細な説明が、記載要件を満たさないということもできないから、本件発明1?7に係る特許を取り消すべきといえない。また、他に本件発明1?7に係る発明を取り消すべき理由を発見しない。
4 よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の両面にアクリル粘着剤層を有する両面粘着テープであって、
前記基材は、発泡体からなり、
前記基材の厚みが200μm以上1500μm以下であり、
前記発泡体は、示差走査熱量計により測定される結晶融解温度ピークが140℃以上であり、発泡倍率が15cm^(3)/g以下であり、気泡のアスペクト比(MDの平均気泡径/TDの平均気泡径)が0.9?3であり、ホモポリプロピレン、プロピレン含有量が50重量%以上であるエチレン-プロピレンランダム共重合体又はプロピレン含有量が50重量%以上であるエチレン-プロピレンブロック共重合体の少なくとも1つからなるポリプロピレン系樹脂を30重量%以上含有する
ことを特徴とする両面粘着テープ。
【請求項2】
前記発泡体は、前記ポリプロピレン系樹脂を30?90重量%含有するポリオレフィン発泡体であることを特徴とする請求項1記載の両面粘着テープ。
【請求項3】
前記ポリプロピレン系樹脂は、プロピレン含有量が50重量%以上であるエチレン-プロピレンランダム共重合体であることを特徴とする請求項1又は2記載の両面粘着テープ。
【請求項4】
前記発泡体は、厚さ方向の25%圧縮強度が50?1000kPaであることを特徴とする請求項1、2又は3記載の両面粘着テープ。
【請求項5】
総厚みが220?2000μmであることを特徴とする請求項1、2、3又は4記載の両面粘着テープ。
【請求項6】
請求項1、2、3、4又は5記載の両面粘着テープからなることを特徴とする車載部品固定用両面粘着テープ。
【請求項7】
請求項1、2、3、4又は5記載の両面粘着テープからなることを特徴とする車載用ヘッドアップディスプレイカバー固定用両面粘着テープ。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-06-28 
出願番号 特願2017-514589(P2017-514589)
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (C09J)
P 1 651・ 537- YAA (C09J)
P 1 651・ 121- YAA (C09J)
P 1 651・ 536- YAA (C09J)
最終処分 維持  
前審関与審査官 小久保 敦規  
特許庁審判長 天野 斉
特許庁審判官 門前 浩一
小出 輝
登録日 2018-07-20 
登録番号 特許第6370477号(P6370477)
権利者 積水化学工業株式会社
発明の名称 両面粘着テープ、車載部品固定用両面粘着テープ、及び、車載用ヘッドアップディスプレイカバー固定用両面粘着テープ  
代理人 原 悠介  
代理人 藤野 睦子  
代理人 特許業務法人 安富国際特許事務所  
代理人 田口 昌浩  
代理人 小松 陽一郎  
代理人 原 悠介  
代理人 田口 昌浩  
代理人 小松 陽一郎  
代理人 藤野 睦子  
代理人 特許業務法人安富国際特許事務所  

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