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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61J
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A61J
管理番号 1377750
異議申立番号 異議2020-700641  
総通号数 262 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-10-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-08-26 
確定日 2021-07-09 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6653355号発明「錠剤印刷方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6653355号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1、2について訂正することを認める。 特許第6653355号の請求項1、2に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6653355号(以下、「本件特許」という。)の請求項1、2に係る特許についての出願(特願2018-107477号)は、平成25(2013)年7月16日(国内優先権主張 平成24(2012)年7月19日、 平成24(2012)年7月19日)を国際出願日とする特願2014-525817号の一部を平成30(2018)年6月5日に新たな出願としたものであって、令和2年1月29日にその特許権の設定登録がされ、令和2年2月26日に特許掲載公報が発行された。その後、本件特許に対し、令和2年8月26日に特許異議申立人鈴木啓文(以下、「申立人」という。)より特許異議の申立てがなされた。当審は、令和2年12月18日付けで取消理由を通知した。特許権者により、その指定期間内である令和3年3月2日に意見書の提出及び訂正の請求(以下、「本件訂正」という。)がなされ、本件訂正に対して、申立人は、令和3年4月15日に意見書を提出した。

第2 本件訂正について
(1)訂正の内容
本件訂正の内容は、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1及び2について、それぞれ、
「前記第2の面が割線の形成された前記表面とは反対側の裏面である場合に、前記表面に形成された前記割線に対する所定方向に沿って前記第2の面に印刷処理を行う」と記載されているのを、
「前記第2の面が割線の形成された前記表面とは反対側の裏面である場合に、前記第2の面における前記表面に形成された前記割線と対応する部位を避けた領域に印刷処理を行う」に訂正するものである。

(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
ア 訂正の目的について
本件訂正は、請求項1及び2において、訂正前の「前記表面に形成された前記割線に対する所定方向に沿って前記第2の面に」との記載を、訂正後の「前記第2の面における前記表面に形成された前記割線と対応する部位を避けた領域に」と訂正するものであるが、訂正前の「前記表面に形成された前記割線に対する所定方向に沿って前記第2の面に」との記載は、本件特許明細書の【0124】の「例えば、印刷部位(符号)12は、錠剤1の割線11と対応する部位110に沿って印字されたものでもよい。」を表現しようとしたものと思われるところ、その意味するところが、必ずしも明瞭ではないため、当該「例えば、印刷部位(符号)12は、錠剤1の割線11と対応する部位110に沿って印字されたものでもよい。」を具体的に説明する【0124】の「具体的には、下方印刷装置44は、錠剤1における割線11の設けられた面と反対側の面102において、割線11と対応する部位110に対して一方側の領域113に第1の符号121を印刷すると共に、他方側の領域114に第2の符号122を印刷してもよい。」との記載、【0125】の「同様に、割線11がさまざまな位置(向き)の状態で、錠剤1が搬送ベルト251によって搬送されていても、上方印刷装置55は、割線11と対応する部位110を避けた状態で当該部位110を基準として、同じように印刷できる。」との記載に基づいて、「前記第2の面における前記表面に形成された前記割線と対応する部位を避けた領域に」と訂正し、印刷処理が行われる位置を明確にしたものであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

イ 新規事項の有無について
本件特許明細書の「【0018】
前記錠剤は、前記一方側を向いた面又は前記他方側を向いた面に当該錠剤を分割するための溝状の割線を有する場合がある。この場合、前記印刷機は、複数の錠剤を搬送方向に並んだ状態で前記搬送装置に供給する整列部を備える。そして、前記搬送装置は、前記第1の印刷装置及び前記第2の印刷装置の上流側に配置されて前記各錠剤の割線の方向を所定の方向にそれぞれ揃える割線方向揃え部を有することが好ましい。
【0019】
かかる構成によれば、複数の錠剤が割線を一定の方向(所定の方向)に向けて且つ搬送方向に並んだ状態で各印刷装置の印刷位置に供給される。このため、割線に対する所定位置への符号等の印刷を複数の錠剤に対して連続して行うことが容易になる。」との記載によれば、本件特許明細書には、錠剤がその一方の面に割線を有する場合において、割線に対する所定位置に印刷を行うことが記載されている。そして「【0025】
前記印刷機では、前記第1の印刷装置が、前記一方側を向いた面において、前記他方側を向いた面に設けられた割線と対応する部位を避けた領域に印刷可能であり、前記第2の印刷装置が、前記他方側を向いた面において、前記一方側を向いた面に設けられた割線と対応する部位を避けた領域に印刷可能であってもよい。
【0026】
かかる構成によれば、符号等が錠剤の割線と対応する部位を避けて印刷されることによって、錠剤が割線で分割されたときに印刷された符号等が分断されることを防ぐことができる。」との記載(下線は当審で付した。以下同様。)、「【0111】
上記実施形態に係る印刷機において、各印刷装置44、45及び各印刷制御部622、626は、錠剤1の割線11の向きに関わらず、割線11が設けられた面と反対側の面に印刷する構成である。しかしながら、本発明に係る印刷機は、かかる構成に限られない。例えば、印刷機は、割線11がさまざまな位置(向き)の状態で、錠剤1が搬送されていても、割線11が設けられた面と反対側の面において割線11と対応する部位110を避けた状態で、当該部位110を基準として同じように印刷できる構成であってもよい。かかる構成の印刷機の5つの具体例が、以下に説明されている。
【0112】
まず、割線11と対応する部位110を基準として同じように印刷できる印刷機の第1の具体例が、図15?図20を参酌して、以下に説明されている。」との記載、「【0124】
かかる構成によれば、割線11がさまざまな位置(向き)の状態で、錠剤1が搬送ベルト241によって搬送されていても、図19及び図20に示すように、下方印刷装置44は、割線11と対応する部位110を避けた状態で当該部位110を基準として、同じように印刷できる。例えば、印刷部位(符号)12は、錠剤1の割線11と対応する部位110に沿って印字されたものでもよい。具体的には、下方印刷装置44は、錠剤1における割線11の設けられた面と反対側の面102において、割線11と対応する部位110に対して一方側の領域113に第1の符号121を印刷すると共に、他方側の領域114に第2の符号122を印刷してもよい。
【0125】
同様に、割線11がさまざまな位置(向き)の状態で、錠剤1が搬送ベルト251によって搬送されていても、上方印刷装置55は、割線11と対応する部位110を避けた状態で当該部位110を基準として、同じように印刷できる。」との記載、「【0132】
かかる構成によれば、割線11がさまざまな位置の状態で、錠剤1が搬送ベルト241によって搬送されていても、割線位置揃え装置245は、錠剤1を回転させることで、割線11を所定の位置にすることができる。これにより、下方印刷装置44は、割線11の設けられた面と反対側の面の割線11と対応する部位110を避けた状態で当該部位110を基準として、錠剤1に対して同じように印刷できる。」との記載によれば、上記の割線に対する所定位置の具体例として、割線の存在しない面における、割線と対応する部位を避けた領域に印刷を行うこと、すなわち第2の面における、表面に形成された割線と対応する部位を避けた領域に印刷処理を行うことが開示されているといえる。
よって、本件訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものといえるから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項の規定を満たすものといえる。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
本件訂正は、上記イで指摘したとおり、錠剤がその一方の面に割線を有する場合において、割線に対する所定位置に印刷する際の具体例と解される、訂正前の請求項1及び2における「前記表面に形成された前記割線に対する所定方向に沿って」との記載を、本件訂正により「前記第2の面における前記表面に形成された割線と対応する部位を避けた領域」と明確化したものであって、何らかの発明特定事項を削除したり、新たに付加するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
よって、本件訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものとはいえないから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項の規定を満たすものといえる。

(3)小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1及び2について訂正することを認める。

第3 本件特許発明
上記のとおり本件訂正が認められたから、本件特許の請求項1及び2に係る発明(以下「本件発明1及び2」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】
表面に割線が形成された錠剤に対して印刷処理を行う錠剤印刷方法であって、
搬送されている錠剤の第1の面を撮像する第1の工程と、
前記錠剤の前記第1の面とは反対側の第2の面を撮像する第2の工程と、
前記第1の工程および前記第2の工程のうち少なくとも一方にて取得された画像データに基づいて、前記第1の面および前記第2の面のうちいずれの面に割線があるかを判定する工程と、
前記第2の面が割線の形成された前記表面とは反対側の裏面である場合に、前記第2の面における前記表面に形成された前記割線と対応する部位を避けた領域に印刷処理を行う第3の工程と、を備える、ことを特徴とする錠剤印刷方法。
【請求項2】
表面に割線が形成された錠剤に対して印刷処理を行う錠剤印刷装置であって、
搬送されている錠剤の第1の面を撮像する第1の撮像部と、
前記錠剤の前記第1の面とは反対側の第2の面を撮像する第2の撮像部と、
前記第1の面および前記第2の面の撮像データのうち少なくとも一方に基づいて、前記第1の面および前記第2の面のうちいずれの面に割線があるかを判定する判定部と、
前記第2の面が割線の形成された前記表面とは反対側の裏面である場合に、前記第2の面における前記表面に形成された前記割線と対応する部位を避けた領域に印刷処理を行う印刷部と、を備える、ことを特徴とする錠剤印刷装置。」

第4 取消理由通知に記載した取消理由について
(1)取消理由の概要
請求項1及び2に係る特許に対して、当審が令和2年12月18日に特許権者に通知した取消理由の要旨は、請求項1及び2に係る「前記表面に形成された前記割線に対する所定方向に沿って」との発明特定事項の意味するところが明確でなく、特定しようとする発明が明確でない、というものである。

(2)当審の判断
上記第2(2)イで指摘したとおり、訂正前の請求項1及び2に係る「前記表面に形成された前記割線に対する所定方向に沿って」との記載が特定しようとしていた、割線に対する具体的な印刷位置は、本件訂正により、「前記第2の面における前記表面に形成された割線と対応する部位を避けた領域」であることが明確となった。
したがって、特許請求の範囲の請求項1及び2の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件に適合するものである。

第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
(1)申立人は、特許異議申立書において、特許請求の範囲に関し、以下Aの第1?第5の理由により、本件特許を取り消すべきである旨主張するが、それらの主張は以下Bに示したとおり、いずれも採用できない。

A 申立人の主張する第1?第5の理由
(a)第1の理由(構成要件1-A,2-Aに関する不備:分説は、申立人が特許異議申立書第3?4頁で示したものである。以下同様。)(特許異議申立書第9?12頁)
ア 請求項1及び2の「表面に割線が形成された錠剤」との記載では、両面割線錠を除外しているか明らかでないところ、発明の詳細な説明には、両面割線錠についての実施例は存在せず、また、両面に割線がある場合には「異常」とすることが記載されているから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たさない。
イ 発明の詳細な説明には、両面割線錠の両面に印刷を行うことは記載されておらず、当業者から見て明確かつ十分に記載されていないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たさない。
(b)第2の理由(構成要件1-E、2-Eに関する不備)(特許異議申立書第12?18頁)
ア 請求項1及び2の記載では、第2の面が裏面である場合に第2の面に印刷すると特定されているだけで、第2の面が裏面である場合の第1の面への印刷、第2の面が表面である場合の第1の面、第2の面への印刷が排除されていない。しかし発明の詳細な説明には、割線のある面、すなわち表面に印刷することは記載されていないから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たさない。
イ 発明の詳細な説明には、割線のある面に印刷を行うことは記載されておらず、当業者から見て明確かつ十分に記載されていないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たさない。
(c)第3の理由(構成要件1-E、2-Eに関する不備)(特許異議申立書第18?19頁)
ア 請求項1及び2の「所定方向」との記載は明確でなく、いずれの方向も含みうる記載である。しかし、発明の詳細な説明には、割線のない裏面に、割線に対応する部位を避けながら印刷する態様しか開示されていない。よって、請求項1及び2は、例えば裏面の割線に対応する部位に渡って印刷する態様も含みうるから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たさない。
イ 請求項1及び2は、例えば裏面の割線に対応する部位に渡って印刷する態様も含みうるところ、発明の詳細な説明には、どのようにそのような態様で印刷するのか、当業者から見て明確かつ十分に記載されていないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たさない。
(d)第4の理由(構成要件1-D、2-Dに関する不備)(特許異議申立書第19?21頁)
ア 請求項1及び2の「少なくとも一方」との記載は、「両方」を含むことが明らかであるが、発明の詳細な説明には、両方の画像データを用いて、割線を検出する態様についての記載がない。よって、請求項1及び2は発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものであるから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たさない。
イ 発明の詳細な説明には、両方の画像データを用いて、割線を検出する態様についての記載がないから、どのようにそのような態様を実施するのか、当業者から見て明確かつ十分に記載されていないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たさない。
(e)第5の理由(構成要件1-D、2-Dと1-E、2-Eの関係)(特許異議申立書第21?22頁)
ア 請求項1及び2には「割線に対する所定方向に沿って」「印刷処理を行う」と記載されているが、割線の方向の特定に関する記載がないため、どのように「割線に対する所定方向に沿って」「印刷処理を行う」ことができるのか不明であり、発明の課題を解決するための手段が反映されておらず、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たさない。
イ 割線の方向を特定することなく、「割線に対する所定方向に沿って」「印刷処理を行う」ことができる態様は発明の詳細な説明に記載されておらず、当業者から見て明確かつ十分に記載されていないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たさない。

B 当審の判断
申立人の主張する第1?第5の理由について以下検討する。
(a)第1の理由及び(b)第2の理由について
本件特許請求の範囲の請求項1及び2の「表面に割線が形成された錠剤・・・前記第1の面および前記第2の面のうちいずれの面に割線があるかを判定する工程・・・前記第2の面が割線の形成された前記表面とは反対側の裏面である場合に、前記第2の面における前記表面に形成された前記割線と対応する部位を避けた領域に印刷処理を行う」との記載について検討すると、割線が形成された面を「表面」、その反対側の面を「裏面」と定義していることが理解できる。そうすると、両面に割線がある錠剤の場合には、両面ともに「表面」となってしまい、「前記第2の面が割線の形成された前記表面とは反対側の裏面である場合」は存在しないことになり、請求項1及び2の記載は不合理なものとなってしまう。
また、請求項1及び2の前記記載においては、撮像された「前記第1の面および前記第2の面のうちいずれの面に割線があるかを判定」し、「前記第2の面が前記割線の形成された前記表面とは反対側の裏面である場合に、」、すなわち割線が形成されていない「第2の面」に「印刷処理を行う」ことを特定していると解することができる。
そして、本件特許明細書をみても、「【0029】
本発明に係る印刷機における一実施形態が、図1?図8を参酌して、以下に説明されている。なお、本実施形態において、印刷される対象物は、分割するための溝状の割線11を一方の面に有する錠剤1である。」との記載、「【0071】
次に、本実施形態に係る印刷機を用いた錠剤1の製造方法が、図7を参酌して、以下に説明されている。なお、印刷される対象物は、分割するための割線11を一方側の面に有する錠剤1である。」との記載、「【0083】 また、本実施形態に係る印刷機において、搬送装置23は、分割するための割線11を一方側の面及び他方側の面の何れか一方に有する錠剤1を搬送する。」との記載、「【0095】
次に、図9に示す印刷機を用いた錠剤1の製造方法が、図10を参酌して、以下に説明されている。なお、印刷される対象物は、分割するための割線11を一方側の面に有する錠剤1である。」との記載によれば、いずれの実施形態も割線を一方側の面にのみ有する錠剤に関するものであることが理解できる一方、割線を両方の面に有する錠剤についての実施形態に関する記載は見当たらない。
また、本件特許明細書の「【0015】
かかる構成によれば、割線検査部は、第1の割線判定部及び第2の割線判定部の双方の割線判定部の判定結果が異なる際に、正常と判定する。一方、第1の割線判定部及び第2の割線判定部の双方の割線判定部の判定結果が同じ際に、異常と判定する。これにより、印刷機は、前記双方の割線判定部が共に割線有り(又は、割線無し)と判定した際、例えば、割線判定部の判定結果が誤りである際や、両側の面に割線を有する錠剤(又は、両側の面に割線を有しない錠剤)が搬送された際に、当該錠剤を異常と判定できる。」との記載、「【0069】
割線検査部629は、下方割線判定部622aの判定結果と上方割線判定部626aの判定結果とに基づいて、各割線判定部622a,626aの判定結果を検査する。具体的には、割線検査部629は、双方の割線判定部622a,626aの判定結果が異なる(「割線有り」と「割線無し」である)際に、「正常」と判定する。一方、割線検査部629は、双方の割線判定部622a,626aの判定結果が同じ(「割線有り」と「割線有り」、又は「割線無し」と「割線無し」である)際に、「異常」と判定する。」との記載、「【0085】
また、本実施形態に係る印刷機によれば、割線検査部629は、双方の割線判定部622a,626aの判定結果が異なる際に、「正常」と判定する。一方、割線検査部629は、双方の割線判定部622a,626aの判定結果が同じ際に、「異常」と判定する。これにより、印刷機は、双方の割線判定部622a,626aが共に「割線有り(又は、割線無し)」と判定した際、例えば、割線判定部622a,626aの判定結果が誤りである際、及び両側に割線11を有する錠剤1(又は、両側に割線11を有しない錠剤1)が搬送された際に、当該錠剤1を異常と判定する。」との記載は、いずれも両側の面に割線を有する錠剤を異常と判断している一方、本件特許明細書には、当該両側の面に割線を有する錠剤を正常であると判断している記載は見あたらない。そうすると、本件特許明細書においては、両側の面に割線を有する錠剤は異常なものとして扱っていることが理解できる。
以上のことを勘案すると、本件発明1及び2は、表面(第1の面)に割線が形成された錠剤において、割線が形成されていない裏面(第2の面)上の、前記割線と対応する部位を避けて印刷することにより、錠剤が前記割線で分割された際に、裏面に印刷された符号等が分断されることを防ぐものといえる。すなわち、本件特許請求の範囲の請求項1及び2の「表面に割線が形成された錠剤」という記載は、その表面のみに割線が形成されたものであって、両面に割線が形成されたものは含まれないと解するべきである。
よって、申立人のいう第1及び第2の理由は、本件特許請求の範囲の請求項1及び2の「表面に割線が形成された錠剤」が、両面に割線が形成された錠剤を含むことを前提としたものであるから、その前提において失当であって、採用することができない。

(c)第3の理由及び(e)第5の理由について
本件訂正により、「所定方向」及び「割線に対する所定方向に沿って」との記載は存在しないものとなったから、第3及び第5の理由は、その前提を欠くものであって、採用することができない。

(d)第4の理由について
本件特許明細書には、「【0059】
下方割線判定部622aは、下方撮像装置43で撮像された画像から、割線11の有無を判定する。具体的には、下方割線判定部622aは、記録されている基準画像情報と下方撮像装置43で撮像された画像情報とを比較し、「割線有り」か「割線無し」かを判定する。」との記載、「【0065】 上方割線判定部626aは、上方撮像装置54によって撮像された画像から、割線11の有無を判定する。具体的には、上方割線判定部626aは、記録されている基準画像情報と上方撮像装置54によって撮像された画像情報とを比較し、「割線有り」か「割線無し」かを判定する。」との記載のように、錠剤の第1の面を撮像した画像データあるいは当該第1の面と反対側の第2の面を撮像した画像データのいずれかと、それぞれについて予め記録されている基準画像データとを比較し、いずれの面に割線があるかを判定することは記載されているものの、錠剤の第1の面を撮像した画像データ及び当該第2の面を撮像した画像データの両方を用いて、いずれの面に割線があるかを判定する態様は明示的には記載されていない。
しかしながら、上記第1及び第2の理由に対して指摘したとおり、本件特許請求の範囲の請求項1及び2でいう「表面に割線が形成された錠剤」とは、その表面のみに割線が形成されたものであって、両面に割線が形成されたものは含まれないのであるから、錠剤の第1の面を撮像した画像データ及び当該第2の面を撮像した画像データの両方を比較することにより、いずれの面に割線があるかを判定できること及びそのような判定をどのようすれば実施することができるか(例えば、上記基準画像情報の代わりに他方の面の画像データを用いることにより、いずれの面に割線があるかを判定できること。)は、当業者にとって自明の事項といえるから、第4の理由も当を得たものではなく、採用することができない。

(2)申立人の意見書における主張について
申立人は、令和3年4月15日付けの意見書において、本件訂正により、訂正後の請求項1及び2において、「前記割線に対する所定方向に沿って」との記載が削除され、「前記割線と対応する部位を避けた領域に」との記載に変更されたことにより、割線に対する印刷処理の方向を特定しないものとなっており、特許請求の範囲を実質上変更したものであって、本件訂正は訂正要件を満たさないものであると主張する。
しかしながら、本件訂正が、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは上記第2(2)ウに説示したとおりである。
本件特許明細書には「【0124】
かかる構成によれば、割線11がさまざまな位置(向き)の状態で、錠剤1が搬送ベルト241によって搬送されていても、図19及び図20に示すように、下方印刷装置44は、割線11と対応する部位110を避けた状態で当該部位110を基準として、同じように印刷できる。例えば、印刷部位(符号)12は、錠剤1の割線11と対応する部位110に沿って印字されたものでもよい。具体的には、下方印刷装置44は、錠剤1における割線11の設けられた面と反対側の面102において、割線11と対応する部位110に対して一方側の領域113に第1の符号121を印刷すると共に、他方側の領域114に第2の符号122を印刷してもよい。
【0125】
同様に、割線11がさまざまな位置(向き)の状態で、錠剤1が搬送ベルト251によって搬送されていても、上方印刷装置55は、割線11と対応する部位110を避けた状態で当該部位110を基準として、同じように印刷できる。」と記載されていることからみて、訂正前の「前記割線に対する所定方向に沿って」との特定事項は、それに続く「具体的には」、「同様に」として記載されている印刷の態様と同じく、印刷の方向を特定しようとするものではなく、印刷する位置を特定したものと解するべきである。
よって、申立人の意見書における上記主張は、当を得たものではなく、採用することができない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件発明1及び2に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1及び2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に割線が形成された錠剤に対して印刷処理を行う錠剤印刷方法であって、
搬送されている錠剤の第1の面を撮像する第1の工程と、
前記錠剤の前記第1の面とは反対側の第2の面を撮像する第2の工程と、
前記第1の工程および前記第2の工程のうち少なくとも一方にて取得された画像データに基づいて、前記第1の面および前記第2の面のうちいずれの面に割線があるかを判定する工程と、
前記第2の面が割線の形成された前記表面とは反対側の裏面である場合に、前記第2の面における前記表面に形成された前記割線と対応する部位を避けた領域に印刷処理を行う第3の工程と、を備える、ことを特徴とする錠剤印刷方法。
【請求項2】
表面に割線が形成された錠剤に対して印刷処理を行う錠剤印刷装置であって、
搬送されている錠剤の第1の面を撮像する第1の撮像部と、
前記錠剤の前記第1の面とは反対側の第2の面を撮像する第2の撮像部と、
前記第1の面および前記第2の面の撮像データのうち少なくとも一方に基づいて、前記第1の面および前記第2の面のうちいずれの面に割線があるかを判定する判定部と、
前記第2の面が割線の形成された前記表面とは反対側の裏面である場合に、前記第2の面における前記表面に形成された前記割線と対応する部位を避けた領域に印刷処理を行う印刷部と、を備える、ことを特徴とする錠剤印刷装置。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-06-30 
出願番号 特願2018-107477(P2018-107477)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (A61J)
P 1 651・ 536- YAA (A61J)
最終処分 維持  
前審関与審査官 佐藤 智弥  
特許庁審判長 千壽 哲郎
特許庁審判官 栗山 卓也
内藤 真徳
登録日 2020-01-29 
登録番号 特許第6653355号(P6653355)
権利者 フロイント産業株式会社
発明の名称 錠剤印刷方法  
代理人 特許業務法人藤本パートナーズ  
代理人 特許業務法人藤本パートナーズ  

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