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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B32B
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  B32B
審判 全部申し立て 2項進歩性  B32B
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B32B
管理番号 1377760
異議申立番号 異議2020-700111  
総通号数 262 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-10-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-02-26 
確定日 2021-07-15 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6565419号発明「化粧シート、及び化粧板」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6565419号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?10〕について訂正することを認める。 特許第6565419号の請求項1、3?10に係る特許を維持する。 特許第6565419号の請求項2に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6565419号の請求項1?10に係る特許についての出願は、平成27年7月24日の出願であって、令和元年8月9日にその特許権の設定登録がされ、令和元年8月28日に特許掲載公報が発行された。
本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。

令和 2年 2月26日 :特許異議申立人藤江桂子(以下「申立人」と
いう。)による請求項1?10に係る特許に
対する特許異議の申立て
令和 2年 6月26日付け:取消理由通知
令和 2年 8月24日 :特許権者による訂正請求書及び意見書の提出
令和 2年 9月30日付け:訂正拒絶理由通知
令和 2年12月22日付け:取消理由通知(決定の予告)
令和 3年 3月 5日 :特許権者による訂正請求書及び意見書の提出
令和 3年 4月15日 :申立人による意見書の提出

第2 訂正の適否
1.訂正の内容
上記令和3年3月5日提出の訂正請求書による訂正の請求を、以下「本件訂正請求」といい、訂正自体を「本件訂正」という。
本件訂正の内容は、訂正箇所に下線を付して示すと、次のとおりである。

(1)訂正事項1
本件訂正前の請求項1に記載された
「シート基材上に形成された絵柄模様層と、前記絵柄模様層上に形成された第1の表面保護層と、前記第1の表面保護層上に部分的に形成された第2の表面保護層と、前記第2の表面保護層上に部分的に形成された第3の表面保護層とを備え、前記第1の表面保護層と前記第2の表面保護層とが異なる光沢を有し、前記第3の表面保護層は、前記第2の表面保護層の75%以下の面積を被覆し、前記第2の表面保護層の厚みの4倍以上の厚みを有することを特徴とする」を、
「シート基材上に形成された絵柄模様層と、前記絵柄模様層上に形成された第1の表面保護層と、前記第1の表面保護層上に部分的に形成された第2の表面保護層と、前記第2の表面保護層上に部分的に形成された第3の表面保護層とを備え、
前記絵柄模様層は、前記シート基材の表面に、前記表面全体を覆い絵柄の下地色となる柄インキ層と、前記下地色以外の絵柄を表す導管インキ層と、がこの順に積層されて形成され、
前記第1の表面保護層は、前記第1の表面保護層を通して前記絵柄模様層の絵柄を透視できる程度に透明または半透明な材料で形成され、
前記第2の表面保護層は、前記第1の表面保護層の前記導管インキ層の印刷インキと対向する部分を被覆する層であり、
前記第2の表面保護層は、前記第2の表面保護層および第1の表面保護層を通して、前記絵柄模様層の絵柄を透視できる程度に透明または半透明な材料で形成され、
前記第1の表面保護層と前記第2の表面保護層とが異なる光沢を有し、
前記第3の表面保護層は、前記第2の表面保護層の75%以下の面積を被覆し、前記第2の表面保護層の厚みの4倍以上の厚みを有し、
前記第2の表面保護層の厚みは0.7μm以上6.0μm未満であり、前記第3の表面保護層の厚みは30μm以上120μm未満であり、
前記第2の保護層は、前記導管インキ層を構成する印刷インキが表現する導管の長手方向に垂直な面における断面形状が三角形である部分、前記断面形状が台形である部分、および前記断面形状が階段状である部分が混在していることを特徴とする」に訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項3?10も同様に訂正する)。

(2)訂正事項2
本件訂正前の請求項2を削除する。

(3)訂正事項3
本件訂正前の請求項3に記載された「請求項1または2に記載の」を、「請求項1に記載の」に訂正する(請求項3の記載を直接的又は間接的に引用する請求項4?10も同様に訂正する)。

(4)訂正事項4
本件訂正前の請求項4に記載された「請求項1から3のいずれか1項に」を、「請求項1または3に」に訂正する(請求項4の記載を直接的又は間接的に引用する請求項5?10も同様に訂正する)。

(5)訂正事項5
本件訂正前の請求項5に記載された「請求項1から4のいずれか1項に」を、「請求項1、3、4のいずれか1項に」に訂正する(請求項5の記載を直接的又は間接的に引用する請求項7?10も同様に訂正する)。

(6)訂正事項6
本件訂正前の請求項6に記載された「請求項1から4のいずれか1項に」を、「請求項1、3、4のいずれか1項に」に訂正する(請求項6の記載を直接的又は間接的に引用する請求項7?10も同様に訂正する)。

(7)訂正事項7
本件訂正前の請求項7に記載された「前記第3の表面保護層は、平均粒径30μm以上の合成樹脂ビーズまたは無機化合物のフィラーを含むことを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の化粧シート。」を、
「前記第3の表面保護層は、平均粒径30μm以上の合成樹脂ビーズを含むことを特徴とする請求項1、3?6のいずれか1項に記載の化粧シート。」に訂正する(請求項7の記載を直接的又は間接的に引用する請求項8?10も同様に訂正する)。

(8)訂正事項8
本件訂正前の請求項9に記載された「エンボス加工による凹凸形状が施されたことを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載の化粧シート。」を、
「エンボス加工による凹凸形状が施され、前記凹凸形状は、前記シート基材、前記絵柄模様層、および前記第1の表面保護層の、前記第1の表面保護層上に前記第2の表面保護層が形成されていない部分を凹部とすることで形成されたことを特徴とする請求項1、3?8のいずれか1項に記載の化粧シート。」に訂正する (請求項9の記載を引用する請求項10も同様に訂正する)。

(9)訂正事項9
本件訂正前の請求項10に記載された「請求項1から9のいずれか1項に記載の」を、「請求項1、3?9のいずれか1項に記載の」に訂正する。

2.一群の請求項について
本件訂正前の請求項1?10について、請求項2?10は、本件訂正前の請求項1の記載を直接的又は間接的に引用するものであって、上記訂正事項1?2によって訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、本件訂正請求は、一群の請求項〔1?10〕について請求されたものである。

3.訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的について
訂正事項1は、本件訂正前の請求項1の「絵柄インキ層」の構成、「第1の表面保護層」の材料、「第2の表面保護層」の位置、材料、厚み及び断面形状、並びに「第3の表面保護層」の厚みについて限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件特許明細書等」という)に記載した事項の範囲内の訂正であること
(ア)訂正事項1のうち、「絵柄インキ層」の構成を限定した事項は【0013】の記載に、「第1の表面保護層」の材料を限定した事項は【0014】の記載に、「第2の表面保護層」の位置及び材料を限定した事項は【0017】の記載に、「第2の表面保護層」の厚みを限定した事項は【0018】の記載に、「第3表面保護層」の厚みを限定した事項は【0021】の記載に、それぞれ基づくものである。

(イ)まず、訂正事項1のうち、「第2の表面保護層」の断面形状を限定した事項における、「前記導管インキ層を構成する印刷インキが表現する導管の長手方向に垂直な面」について検討する。「導管」は、「物をみちびき送る管。」又は「(ふつう「道管」と書く)被子植物の維管束の木部を構成する組織。細胞(道管要素という)は円柱形または多角柱形で、縦に連なり、根から吸収した水分や養分を上部に送るもの。大部分の末端壁は消失して長い管状となる。」[株式会社岩波書店 広辞苑第六版]を意味するところ、「物をみちびき送る管」又は「長い管状」であれば長手方向が存在することは明らかであるから、本件特許明細書等の【0013】に記載された「導管インキ層」が「長手方向」を有することは自明である。以上の点を踏まえ、本件特許明細書等の図1?3を見れば、当該図1?3に図示された「導管インキ層(2b)」は、その長手方向に垂直な断面を示すものである。
次に、訂正事項1のうち、「第2の表面保護層」の断面形状を限定した事項における、「断面形状が三角形である部分、前記断面形状が台形である部分、および前記断面形状が階段状である部分が混在している」ことについて検討する。「導管の長手方向に垂直な面」を断面とする図1?3を参照すると、「第2の表面保護層」について、「断面形状が三角形である部分、前記断面形状が台形である部分、および前記断面形状が階段状である部分が混在している」ことが看取される。
そうすると、訂正事項1のうち「第2の表面保護層」の形状を限定した事項は、【0013】及び図1?3の記載に基づくものである。

(ウ)上記(ア)、(イ)から、訂正事項1は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。

ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項1は、本件訂正前の請求項1の発明特定事項をさらに限定するものであり、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)訂正事項2について
訂正事項2は、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項2を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当し、本件特許明細書等に記載された事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(3)訂正事項3?6、9について
訂正事項3?6、9は、訂正事項2に伴い、請求項の引用関係の整合を図るために、削除された請求項2を引用しないものとするものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
また、訂正事項3?6、9は、本件特許明細書等に記載された事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(4)訂正事項7について
訂正事項7は、本件訂正前の請求項7の「第3の表面保護層」が含むものについて択一的記載の要素を削除し、また、訂正事項2に伴い、請求項の引用関係の整合を図るために、削除された請求項2を引用しないものとするものであるから、特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
訂正事項7は、本件特許明細書等に記載された事項の範囲内においてするものである。
訂正事項7は、本件訂正前の請求項7の発明特定事項をさらに限定するものであり、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(5)訂正事項8について
ア 訂正の目的について
訂正事項8は、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項9の「エンボス加工により施された凹凸形状」について限定し、また、訂正事項2に伴い、請求項の引用関係の整合を図るために、削除された請求項2を引用しないものとするものであるから、特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

イ 本件特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項8のうち「エンボス加工により施された凹凸形状」について限定した事項は、本件特許明細書の【0032】に「例えば、図4に示すように、化粧シート20にエンボス加工による凹凸形状が施され、凹凸形状により、触感による立体感をより感じさせる構成としてもよい。」と記載され、図4も参照すれば、本件特許明細書等に記載された事項の範囲内においてするものである。

ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項8は、本件訂正前の請求項9の発明特定事項をさらに限定するものであり、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

4.小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項並びに第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-10〕について訂正することを認める。

第3 訂正後の本件発明
上記第2のとおり本件訂正が認められたことから、本件特許の請求項1、3?10に係る発明(以下「本件発明1」等という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1、3?10に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】
シート基材上に形成された絵柄模様層と、前記絵柄模様層上に形成された第1の表面保護層と、前記第1の表面保護層上に部分的に形成された第2の表面保護層と、前記第2の表面保護層上に部分的に形成された第3の表面保護層とを備え、
前記絵柄模様層は、前記シート基材の表面に、前記表面全体を覆い絵柄の下地色となる柄インキ層と、前記下地色以外の絵柄を表す導管インキ層と、がこの順に積層されて形成され、
前記第1の表面保護層は、前記第1の表面保護層を通して前記絵柄模様層の絵柄を透視できる程度に透明または半透明な材料で形成され、
前記第2の表面保護層は、前記第1の表面保護層の前記導管インキ層の印刷インキと対向する部分を被覆する層であり、
前記第2の表面保護層は、前記第2の表面保護層および第1の表面保護層を通して、前記絵柄模様層の絵柄を透視できる程度に透明または半透明な材料で形成され、
前記第1の表面保護層と前記第2の表面保護層とが異なる光沢を有し、
前記第3の表面保護層は、前記第2の表面保護層の75%以下の面積を被覆し、前記第2の表面保護層の厚みの4倍以上の厚みを有し、
前記第2の表面保護層の厚みは0.7μm以上6.0μm未満であり、前記第3の表面保護層の厚みは30μm以上120μm未満であり、
前記第2の保護層は、前記導管インキ層を構成する印刷インキが表現する導管の長手方向に垂直な面における断面形状が三角形である部分、前記断面形状が台形である部分、および前記断面形状が階段状である部分が混在していることを特徴とする化粧シート。
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
前記第1の表面保護層は、ウレタン結合を有する熱硬化型樹脂とシリカ粒子とを含むことを特徴とする請求項1に記載の化粧シート。
【請求項4】
前記第2の表面保護層は、ウレタン結合を有する熱硬化型樹脂を含むことを特徴とする請求項1または3のいずれか1項に記載の化粧シート。
【請求項5】
前記第3の表面保護層は、ウレタン結合を有する熱硬化型樹脂を含むことを特徴とする請求項1、3、4のいずれか1項に記載の化粧シート。
【請求項6】
前記第3の表面保護層は、電離放射線硬化型樹脂を含むことを特徴とする請求項1、3、4のいずれか1項に記載の化粧シート。
【請求項7】
前記第3の表面保護層は、平均粒径30μm以上の合成樹脂ビーズを含むことを特徴とする請求項1、3?6のいずれか1項に記載の化粧シート。
【請求項8】
前記合成樹脂ビーズは、アクリル樹脂ビーズであることを特徴とする請求項7に記載の
化粧シート。
【請求項9】
エンボス加工による凹凸形状が施され、前記凹凸形状は、前記シート基材、前記絵柄模様層、および前記第1の表面保護層の、前記第1の表面保護層上に前記第2の表面保護層が形成されていない部分を凹部とすることで形成されたことを特徴とする請求項1、3?8のいずれか1項に記載の化粧シート。
【請求項10】
請求項1、3?9のいずれか1項に記載の化粧シートを基板に貼りあわせてなることを特徴とする化粧板。」

第4 取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由について
1.取消理由の概要
本件訂正前の請求項1?10に係る特許に対して、当審が令和2年12月22日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。

取消理由1(サポート要件)
本件特許は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

(1)請求項1?10には、発明の詳細な説明に記載された、発明の課題を解決するための手段が反映されておらず、請求項1?10に係る発明は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えることとなる。

(2)請求項9、10は、「エンボス加工による凹凸形状が施された」ものであり、「エンボス加工による凹凸形状が施され」る部位について特定がなされていないから、出願時の技術常識に照らしても、本件発明9の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。

取消理由2(明確性)
本件特許は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

(1)請求項1に記載された「第2の表面保護層」及び「第3の表面保護層」の「厚さ」について、層のどの部分を「厚さ」として測定しているのか、その比較の基準が不明である。

(2)請求項2には「前記第3の表面保護層の表面は、前記接触式粗さ計で測定した最大高さRmax値が30μm以上である」と記載されているが、「第3の表面保護層」の構成が不明である。

(3)請求項7には「平均粒径30μm以上の合成樹脂ビーズまたは無機化合物のフィラー」と記載されているが、「平均粒径30μm以上の」が「合成樹脂ビーズ」のみを修飾しているのか、「合成樹脂ビーズ」及び「無機化合物のフィラー」の双方を修飾しているのかが不明である。

取消理由3(実施可能要件)
本件特許は、発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

(1)請求項1に記載された「第2の表面保護層」の「厚さ」について、厚さの変化する「第2の表面保護層」のどの部分を基準に「第2の表面保護層の厚み」を計測するのかについて、発明の詳細な説明に記載されていない。

(2)請求項2の「前記接触式粗さ計で測定した最大高さRmax値が30μm以上である」という構成を実施することはできない。

取消理由4(進歩性)
本件特許の請求項1?10に係る発明は、引用文献1に記載された発明、引用文献2に記載された事項、及び周知技術に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

[引用文献等一覧]
1.特開2008-87156号公報(甲第1号証。以下「甲1」ともいう。他も同様。)
2.国際公開第2008/129667号(甲2)
3.特開昭61-293854号公報(甲4)
4.国際公開第2015/105168号(甲5)

2.当審の判断
(1)取消理由1(サポート要件)について
ア 発明の課題を解決するための手段について
(ア)本件発明の課題に関して、本件特許明細書等の発明の詳細な説明には、次のように記載されている。なお、下線は、理解の便宜のため当審が付した。
「【背景技術】
【0002】
従来、化粧シートとしては、例えば、特許文献1、2に記載の技術がある。この特許文献1に記載の技術では、絵柄模様層上に形成された第1の表面保護層と、第1の表面保護層上に部分的に形成された第2の表面保護層とを備え、第2の表面保護層は、第1の表面保護層と異なる光沢を有する。これにより、化粧シートの表面に光沢差を設け、人間の目の錯覚を利用して、視覚的に立体感を感じさせるようになっている。
また、特許文献2に記載の技術では、化粧シートの最表面の表面保護層に、10%?20%表出している無機粒子または合成樹脂粒子を含む。これにより、化粧シートの表面に高低差を設けて、触感による立体感を感じさせるようになっていた。
・・・
【0004】
しかし、上記特許文献1に記載の技術では、化粧シートの表面の凹凸が比較的小さいため、触感による立体感を感じさせることが困難であった。一方、上記特許文献2に記載の技術では、繊細な光沢表現ができず、視覚的に立体感を感じさせることが困難であった。
本発明は、上記のような点に着目したもので、視覚的な立体感と触感による立体感とを有する化粧シート、及び化粧板を提供することを目的としている。」
以上の記載によれば、発明の詳細な説明に記載された課題は、「視覚的な立体感と触感による立体感とを有する化粧シート、及び化粧板を提供すること」と解される。

(イ)視覚的な立体感に関して、発明の詳細な説明には、「第2の表面保護層4は、・・・第1の表面保護層3の一部(例えば、導管インキ層2bの印刷インキと対向する部分)を被覆する層である。また、第2の表面保護層4は、第2の表面保護層4、第1の表面保護層3を通して、絵柄模様層2の絵柄を透視できる程度に透明または半透明な材料(樹脂)で形成されている。・・・第2の表面保護層4は、・・・、第1の表面保護層3とにより、化粧シート20の表面1Sに光沢差を設け、人間の目の錯覚を利用して、視覚的に立体感を感じさせることができる。」(【0017】)、「なお、第2の表面保護層4の厚みは、例えば、0.7μm以上6.0μm未満とするのが好ましい。より好ましくは、1μm以上2μm未満とする。これにより、第2の表面保護層4の各部に光沢(艶)の高低を持たせることができ、第2の表面保護層4の各部に光沢差を設け、視覚による立体感をより適切に感じさせることができる。」(【0018】)、「第3の表面保護層5は、・・・第2の表面保護層4の75%よりも大きな面積を覆わないため、第1の表面保護層3と第2の表面保護層4との光沢差による、繊細なグロス/マット意匠を打ち消す事がない。」(【0022】)と記載されている。
そして、本件発明1は、「前記第1の表面保護層は、前記第1の表面保護層を通して前記絵柄模様層の絵柄を透視できる程度に透明または半透明な材料で形成され、前記第2の表面保護層は、前記第1の表面保護層の前記導管インキ層の印刷インキと対向する部分を被覆する層であり、前記第2の表面保護層は、前記第2の表面保護層および第1の表面保護層を通して、前記絵柄模様層の絵柄を透視できる程度に透明または半透明な材料で形成され、前記第1の表面保護層と前記第2の表面保護層とが異なる光沢を有し、前記第3の表面保護層は、前記第2の表面保護層の75%以下の面積を被覆」すること、及び「前記第2の表面保護層の厚みは0.7μm以上6.0μm未満であ」ることが特定されており、発明の詳細な説明の上記記載を参照すると、本件発明1は、当該特定事項により視覚的な立体感を有することができる。

(ウ)触感による立体感に関して、発明の詳細な説明には、「第3の表面保護層5は、第2の表面保護層4の75%以下の面積を被覆し、第2の表面保護層4の4倍以上の厚みを有するため、第2の表面保護層4と第3の表面保護層5とに高低差を設けることができ、触感による立体感を感じさせることができる。・・・また、第3の表面保護層5の表面を、接触式粗さ計で測定した最大高さRmax値を30μm以上としたため、触感による立体感をより適切に感じさせることができる。」(【0022】)と記載されている。
そして、本件発明1は、「前記第3の表面保護層は、前記第2の表面保護層の75%以下の面積を被覆し、前記第2の表面保護層の厚みの4倍以上の厚みを有」すること、及び「前記第3の表面保護層の厚みは30μm以上120μm未満であ」ることが特定されており、発明の詳細な説明の上記記載を参照すると、本件発明1は、当該特定事項により触感による立体感を有することができる。

イ 「エンボス加工による凹凸形状が施され」る部位について
本件訂正後の本件発明9では、「エンボス加工による凹凸形状が施され」る部位について、「前記凹凸形状は、前記シート基材、前記絵柄模様層、および前記第1の表面保護層の、前記第1の表面保護層上に前記第2の表面保護層が形成されていない部分を凹部とすることで形成された」と特定されている。
すなわち、「第2の表面保護層が形成されていない部分を凹部」としているため、「凹部」は、「前記第2の表面保護層」が被覆している「前記導管インキ層の印刷インキと対向する部分」には設けられないため、絵柄を「視覚的な立体感と触感による立体感とを有する」ように構成することができる。

ウ 小括
よって、本件発明1、3?10は、発明の詳細な説明に記載した範囲内のものである。

(2)取消理由2(明確性)について
ア 請求項1に記載された「第2の表面保護層」及び「第3の表面保護層」の「厚さ」について
「第3の表面保護層」の「厚さ」に関して、本件特許明細書等には、「第3の表面保護層5の厚みとしては、例えば、第3の表面保護層5の表面を、接触式粗さ計で測定した最大高さRmax値を用いることができる。」(【0021】)と記載されており、「第1の表面保護層」を基準とした「第3の表面保護層」の最も高い部分の高さを、「第3の表面保護層」の「厚さ」としていることが理解できることから、「第3の表面保護層」の「厚さ」は明確である。
「第2の表面保護層」の「厚さ」についても、同様に、明確である。

イ 本件訂正により、本件補正前の請求項2は削除されたので、請求項2に係る取消理由は解消した。

ウ 本件訂正により、「無機化合物のフィラー」の記載が削除されたことにより、「平均粒径30μm以上の」記載が「合成樹脂ビーズ」を修飾していることが明確となった。

エ 小括
よって、本件発明1、3?10は、明確である。

オ 付言
申立人は、令和3年4月15日提出の意見書において、「訂正発明1における「前記第2の保護層」は当該記載以前に記載がない(前記がされていない)から、不明確である。」(13ページ6?7行)と述べている。
まず、請求項1の「第2の」という修飾語について着目すると、「前記第2の保護層」という記載よりも前には、「第2の表面保護層」という記載があるのだから、「前記第2の」は「第2の表面保護層」の「第2」を指すことに他ならず、このことは、本件特許明細書等の「第2の表面保護層4は、第1の表面保護層3上に部分的に形成され、第1の表面保護層3の一部(例えば、導管インキ層2bの印刷インキと対向する部分)を被覆する層である。」(【0017】)という記載、及び図1?3において符号(4)でその断面形状が示されていることとも整合する。

(3)取消理由3(実施可能要件)について
ア 「表面保護層」の「厚さ」に関して、本件特許明細書等には、「第3の表面保護層5の厚みとしては、例えば、第3の表面保護層5の表面を、接触式粗さ計で測定した最大高さRmax値を用いることができる。」(【0021】)と記載されている。「第2の表面保護層」と「第3の表面保護層」とは、いずれも「第1の表面保護層」上に部分的に形成されたものであるから、「第2の表面保護層」の「厚さ」についても、「第3の表面保護層」の「厚さ」と同様の方法により計測できることが理解できる。

イ 本件訂正により、本件補正前の請求項2は削除されたので、請求項2に係る取消理由は解消した。

ウ 小括
よって、本件特許の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1、3?10を実施できる程度に記載されたものである。

(4)取消理由4(進歩性)について
ア 引用文献の記載事項
(ア)引用文献1には、次の記載がある。
「【請求項1】
基材上に少なくとも、着色層と、該着色層を被覆する保護層と、該保護層上に多数の第1盛上部から形成された第1盛上層と、該第1盛上層上に多数の第2盛上部から形成された第2盛上層とがこの順に積層されてなる化粧シート。
【請求項2】
前記着色層が絵柄層である請求項1に記載の化粧シート。
【請求項3】
前記第1盛上部が不定型な形状であり、かつ前記第2盛上部が不定型な形状の絵柄である請求項1又は2に記載の化粧シート。
【請求項4】
前記第1盛上部の高さが1?20μmである請求項1?3のいずれかに記載の化粧シート。
【請求項5】
前記保護層に対する第1盛上部の占有面積が50?99%である請求項1?4のいずれかに記載の化粧シート。
【請求項6】
前記第2盛上部の高さが30?90μmである請求項1?5のいずれかに記載の化粧シート。
【請求項7】
前記保護層に対する第2盛上部の占有面積が10?90%である請求項1?6のいずれかに記載の化粧シート。
【請求項8】
前記絵柄層が抽象柄である請求項2?7のいずれかに記載の化粧シート。
【請求項9】
前記基材と着色層との間に着色ベタ層を有する請求項1?8のいずれかに記載の化粧シート。」
「【0001】
本発明は、建築物の内装,外装,家具,建具の表面化粧、車両の内装等に用いられる化粧シートに関し、特に、耐汚染性や触感、マット感、光沢感等を有する意匠性に優れた化粧シートに関する。」
「【0007】
本発明の化粧シート1は、図1に示すように、基材5上に少なくとも、着色層3と、着色層3を被覆する保護層4と、保護層4上に多数の第1盛上部9から形成された第1盛上層10と、第1盛上層10上に多数の第2盛上部6から形成された第2盛上層7とがこの順に積層されてなる化粧シート1である。
また、図1に示すように、本発明の化粧シート1は、基材5と着色層3との間に着色ベタ層2を有していても良い。
【0008】
本発明で用いられる基材5としては、通常化粧シートの基材として用いられるものであれば、特に限定されず、各種の紙類、プラスチックフィルム、プラスチックシート、金属箔、金属シート、金属板、木材などの木質系の板、窯業系素材等を用途に応じて適宜選択することができる。これらの材料はそれぞれ単独で使用してもよいが、紙同士の複合体や紙とプラスチックフィルムの複合体等、任意の組み合わせによる積層体であってもよい。
これらの基材、特にプラスチックフィルムやプラスチックシートを基材として用いる場合には、その上に設けられる層との密着性を向上させるために、所望により、片面又は両面に酸化法や凹凸化法などの物理的又は化学的表面処理を施すことができる。・・・
【0009】
基材5として用いられる各種の紙類としては、薄葉紙、クラフト紙、チタン紙などが使用できる。これらの紙基材は、紙基材の繊維間ないしは他層と紙基材との層間強度を強化したり、ケバ立ち防止のため、これら紙基材に、更に、アクリル樹脂、スチレンブタジエンゴム、メラミン樹脂、ウレタン樹脂等の樹脂を添加(抄造後樹脂含浸、又は抄造時に内填)させたものでもよい。例えば、紙間強化紙、樹脂含浸紙等である。・・・
【0010】
プラスチックフィルム又はプラスチックシートとしては、各種の合成樹脂からなるものが挙げられる。合成樹脂としては、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリメチルペンテン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂、エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート-イソフタレート共重合樹脂、ポリメタクリル酸メチル樹脂、ポリメタクリル酸エチル樹脂、ポリアクリル酸ブチル樹脂、ナイロン6又はナイロン66等で代表されるポリアミド樹脂、三酢酸セルロース樹脂、セロファン、ポリスチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂、又はポリイミド樹脂等が挙げられる。」
「【0013】
本発明において、着色ベタ層2は、本発明の化粧シートの意匠性を高める目的で所望により設けられる、隠蔽層、あるいは全面ベタ層とも称されるものである。着色ベタ層2は基材5上の表面の色を整えることで、基材5自身が着色していたり、色ムラがあるときに形成して、基材5の表面に意図した色彩を与えるものである。・・・
【0014】
本発明において、着色層3は基材5に装飾性を与えるものであり、種々の模様をインキと印刷機を使用して印刷することにより形成され、着色層3は絵柄層であると好ましく、絵柄層が抽象柄であると好ましい。模様としては、木目模様、大理石模様(例えばトラバーチン大理石模様)等の岩石の表面を模した石目模様、布目や布状の模様を模した布地模様、タイル貼模様、煉瓦積模様等があり、これらを複合した寄木、パッチワーク等の模様もある。これらの模様は通常の黄色、赤色、青色、及び黒色のプロセスカラーによる多色印刷によって形成される他、模様を構成する個々の色の版を用意して行う特色による多色印刷等によっても形成される。
なお、着色層3は、基材上前面に設けられていても、図1に示すように部分的に設けられたものであってもよい。
着色層3に用いる絵柄インキとしては、着色ベタ層2に用いるインキと同様のものを用いることができる。
着色層3の厚さについては特に制限はないが、通常1?30μm程度、好ましくは1?20μmの範囲である。
【0015】
本発明において、保護層4としては、着色層3を保護する材質であれば特に限定されないが、例えば、熱硬化性樹脂等の公知の硬化性塗料を用途等に応じて適宣採用することができる。
前記熱硬化性樹脂としては、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、アルキド樹脂、フェノール樹脂、アクリル樹脂等が挙げられる。
保護層4の厚さについては特に制限はないが、通常1?20μm程度、好ましくは1?10μmの範囲である。
【0016】
本発明の化粧シート1には、保護層4上に第1及び第2盛上層からなる2段盛上が形成されている。
2段盛上は、保護層4上に多数の第1盛上部9から形成された第1盛上層10と、第1盛上層10上に多数の第2盛上部6から形成された第2盛上層7とがこの順に積層されることにより、化粧シートの耐汚染性が改善され、さらに、2段盛上の輪郭が表され豊かな絵柄表現が可能となり、また、表面層上の絵柄が形成された部分とこれが形成されていない部分との間に光沢差が生じることから、化粧シートの装飾性もしくは意匠性が高められる。
【0017】
第1盛上層10及び第2盛上層7の材料としては、特に限定されず、例えば、着色ベタ層2に用いるインキや保護層4で挙げた前記熱硬化性樹脂又は電離放射線もしくは紫外線硬化性樹脂組成物を用いることができる。
前記電離放射線もしくは紫外線硬化性樹脂組成物とは、電磁波又は荷電粒子線の中で分子を架橋、重合させ得るエネルギー量子を有するもの、すなわち、紫外線又は電子線などを照射することにより、架橋、硬化する樹脂組成物を指す。具体的には、従来電離放射線もしくは紫外線硬化性樹脂組成物として慣用されている重合性モノマー及び重合性オリゴマーないしはプレポリマーの中から適宜選択して用いることができる。」
「【0023】
第1盛上部9の高さは1?20μmであると好ましく、この範囲内であれば、耐汚染性や触感、マット感、光沢感等を有する意匠性の効果が十分に得られる。
保護層4に対する第1盛上部9の占有面積は50?99%であると好ましく、この範囲内であれば、耐汚染性や触感、マット感、光沢感等を有する意匠性の効果が十分に得られる。」
「【0025】
第2盛上部6の高さは30?90μmであると好ましく、この範囲内であれば、耐汚染性や触感、マット感、光沢感等を有する意匠性の効果が十分に得られる。
保護層4に対する第2盛上部6の占有面積は10?90%であると好ましく、この範囲内であれば、耐汚染性や触感、マット感、光沢感等を有する意匠性の効果が十分に得られる。」
「【0027】
本発明の化粧シート1は、各種基板に貼着して化粧板として使用することができる。被着体となる基板は、特に限定されず、プラスチックシート、金属板、木材などの木質系の板、窯業系素材等を用途に応じて適宜選択することができる。・・・」
「【0035】
実施例1?2
基材5として、米秤量30g/m^(2)の建材用紙間強化紙を用い、その片面にアクリル樹脂と硝化綿をバインダーとし、チタン白、弁柄、黄鉛を着色剤とするインキを用いて、塗工量5g/m^(2)の(全面ベタ)層をグラビア印刷にて施して着色ベタ層2とした。その上に硝化綿をバインダーとし、弁柄を主成分とする着色剤を含有するインキを用いて、木目模様の着色層3をグラビア印刷にて形成した。
次いで、これらインキ層の上に、アクリルポリオールとイソシアネートからなるウレタン樹脂(大日本インキ化学工業(株)製「UC」)を55質量%及び平均粒子径約2μmであるシリカ粒子を22.5質量%となるように酢酸エチル(溶剤)に溶解又は分散して得た熱硬化性樹脂組成物を塗工量5g/m^(2)でグラビア印刷にて塗工し保護層4とした。
その後、アクリル樹脂を主成分とした盛り上げ用のインキ(大日精化工業(株)製、商品名:KKBキュアUセミマットメヂウム)を用いて、図3に示す不定型な形状の絵柄の版型を用いて第1盛上層10(第1盛上層10のボロノイ50%)及び第2盛上層7(不定型な絵柄形状)からなる2段盛上層を形成した。第1盛上層10に相当する版深は表1に示すとおりである。また、保護層4に対する第1盛上部9、第2盛上部6の非導管部に相当する版型の占有面積は表1に示すとおりである。
このようにして得られた化粧シート1の保護層4上における、第1盛上部9及び第2盛上部6の占有面積を測定した結果を表1に示す。また、前記(2)?(4)の評価をした結果を表2に示す。
なお、表1において、最大高さとは、盛上部の最大の高さであり、高さピークとは、盛上部の高さ分布をヒストグラム(図5参照)で表した際に、占有面積が最大となる高さのことである。」
「【0037】
【表1】


「【図1】



(イ)以上を総合すると、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているといえる。
「基材上に少なくとも、絵柄層である着色層と、該着色層を被覆する保護層と、該保護層上に多数の第1盛上部から形成された第1盛上層と、該第1盛上層上に多数の第2盛上部から形成された第2盛上層とがこの順に積層されてなり、基材と着色層との間に、表面の色を整える着色ベタ層を有しており、着色層は基材に装飾性を与えるものであり、第1盛上層と、第1盛上層上に形成された第2盛上層とによる2段盛上により、表面層上の絵柄が形成された部分とこれが形成されていない部分との間に光沢差が生じ、表面層上の絵柄が形成された部分とこれが形成されていない部分との間に光沢差が生じ、第1盛上部の高さは1?20μmであり、保護層に対する第1盛上部の占有面積は50?99%であり、第2盛上部の高さは30?90μmであり、保護層に対する第2盛上部の占有面積は10?90%である化粧シート。」

イ 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と引用発明とを対比する。
引用発明の「基材」は「シート基材」に相当し、以下同様に、「保護層」は「第1の表面保護層」に、「第1盛上層」及び「第1盛上部」は「第2の表面保護層」及び「第2の保護層」に、「第2盛上層」及び「第2盛上部」は「第3の表面保護層」に、「着色ベタ層」は「柄インキ層」に相当する。
引用発明の「着色ベタ層」が「基材上の表面の色を整える」ことは、本件発明1の「柄インキ層」が「前記シート基材の表面に、前記表面全体を覆い絵柄の下地色となる」ことに相当する。
引用発明の「着色層」と本件発明1の「導管インキ層」とは、「着色層」である限りで一致する。
引用文献1の「着色ベタ層2は基材5上の表面の色を整えることで、基材5自身が着色していたり、色ムラがあるときに形成して、基材5の表面に意図した色彩を与える」(【0013】)ものであり、「着色層3は基材5に装飾性を与えるものであり、種々の模様をインキと印刷機を使用して印刷することにより形成され、着色層3は絵柄層であると好ましく、絵柄層が抽象柄であると好ましい」(【0014】)の記載から、「着色ベタ層」と「着色層」とにより、絵柄模様が形成されるといえるから、引用発明における「基材と着色層との間に、表面の色を整える着色ベタ層を有して」いることと、本件発明1の「前記絵柄模様層は、前記シート基材の表面に、前記表面全体を覆い絵柄の下地色となる柄インキ層と、前記下地色以外の絵柄を表す導管インキ層と、がこの順に積層されて形成され」ていることとは、「絵柄模様層は、シート基材の表面に、表面全体を覆い絵柄の下地色となる柄インキ層と、下地色以外の絵柄を表す着色層と、がこの順に積層されて形成され」る限りで一致する。
引用発明において、「第1盛上層10と、第1盛上層10上に形成された第2盛上層7とによる2段盛上により、表面層上の絵柄が形成された部分とこれが形成されていない部分との間に光沢差が生じ」るものであることは、引用文献1の図1を参照すると、「2段盛上」が「着色層」と対向する部分に設けられていることから、引用発明における「第1盛上層10と、第1盛上層10上に形成された第2盛上層7とによる2段盛上」が、「表面層上の絵柄が形成された部分とこれが形成されていない部分との間に光沢差が生じ」るものであることと、本件発明1の「前記第2の表面保護層は、前記第1の表面保護層の前記導管インキ層の印刷インキと対向する部分を被覆する層であ」ることとは、「第2の表面保護層は、第1の表面保護層の着色層の印刷インキと対向する部分を被覆する層であ」る限りで一致する。

したがって、本件発明1と引用発明1とは、次の点で一致し、相違する。
[一致点]
「シート基材上に形成された絵柄模様層と、前記絵柄模様層上に形成された第1の表面保護層と、前記第1の表面保護層上に部分的に形成された第2の表面保護層と、前記第2の表面保護層上に部分的に形成された第3の表面保護層とを備え、
前記絵柄模様層は、前記シート基材の表面に、前記表面全体を覆い絵柄の下地色となる柄インキ層と、前記下地色以外の絵柄を表す着色層と、がこの順に積層されて形成され、
前記第1の表面保護層は、前記第1の表面保護層を通して前記絵柄模様層の絵柄を透視できる程度に透明または半透明な材料で形成され、
前記第2の表面保護層は、前記第1の表面保護層の前記着色層の印刷インキと対向する部分を被覆する層である化粧シート。」
[相違点1]
「着色層」に関して、本件発明1は「導管インキ層」であるのに対して、引用発明は「着色層」であり導管インキについて不明である点。
[相違点2]
本件発明1は、「前記第2の表面保護層は、前記第2の表面保護層および第1の表面保護層を通して、前記絵柄模様層の絵柄を透視できる程度に透明または半透明な材料で形成され」るのに対して、引用発明は、「第1盛上部」及び「第1盛上層」がそのようなものであるのか不明である点。
[相違点3]
本件発明1は、「前記第1の表面保護層と前記第2の表面保護層とが異なる光沢を有し」ているのに対し、引用発明はその点不明である点。
[相違点4]
本件発明1は、「前記第3の表面保護層は、前記第2の表面保護層の75%以下の面積を被覆し」ているのに対し、引用発明は、「保護層に対する第1盛上部の占有面積は50?99%であり」、「保護層に対する第2盛上部の占有面積は10?90%」であり、「第2盛上部」が「第1盛上部(第1盛上層)」のどの程度の面積を被覆するものであるかについて不明である点。
[相違点5]
本件発明1は、「前記第3の表面保護層は」、「前記第2の表面保護層の厚みの4倍以上の厚みを有し」、「前記第2の表面保護層の厚みは0.7μm以上6.0μm未満であり、前記第3の表面保護層の厚みは30μm以上120μm未満であ」るのに対し、引用発明は、「第1盛上部の高さは1?20μmであり」、「第2盛上部の高さは30?90μmであ」る点。
[相違点6]
本件発明1は、「前記第2の保護層は、前記導管インキ層を構成する印刷インキが表現する導管の長手方向に垂直な面における断面形状が三角形である部分、前記断面形状が台形である部分、および前記断面形状が階段状である部分が混在している」のに対して、引用発明は、第1盛上部(第1盛上層)の断面形状が不明である点。

(イ)判断
まず、相違点6について検討すると、相違点6に係る本件発明1の構成、すなわち、「第2の保護層」の「断面形状が三角形である部分、前記断面形状が台形である部分、および前記断面形状が階段状である部分が混在している」点については、引用文献1?4及び甲3に記載されておらず、また本件特許に係る出願の出願前において周知技術であるともいえない。
したがって、引用発明において、相違点6に係る本件発明1の構成とすることを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。
よって、相違点1?5を検討するまでもなく、本件発明1は、当業者が引用発明に基いて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

ウ 本件発明3?10について
本件発明3?10は、本件発明1の特定事項を全て含み、さらに限定を加えるものであるから、上記(2)で検討したのと同じ理由により、当業者が引用発明に基いて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

エ 小括
以上のとおりであるから、本件発明1、3?10に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。

第5 取消理由通知(決定の予告)に採用しなかった特許異議申立理由について
1.特許異議申立理由中、取消理由通知(決定の予告)に採用しなかったものは、概略以下のとおりである。

申立理由(新規性)
本件訂正前の請求項1?7、9、10に係る発明は、甲第1号証(引用文献1)に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、同法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、その特許は、同法第113条第2号に該当するから、取り消されるべきものである。

2.当審の判断
引用文献1に記載された発明と本件発明1とは、上記第4の2.(4)イ(ア)で示したとおり、[相違点1]?[相違点6]の点で相違し、また、上記第4の2.(4)イ(イ)で示したとおり、[相違点6]は実質的な相違点である。
そうすると、本件発明1、及び本件発明1の特定事項を全て含み、さらに限定を加える本件発明3?10は、引用文献1に記載された発明ではない。

第6 むすび
以上のとおり、取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由、及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、本件発明1、3?10に係る特許を取り消すことはできない。さらに、他に請求項1、3?10に係る特許を取り消すべき理由は発見しない。
また、請求項2に係る特許は、本件訂正により削除されたため、申立人による特許異議の申立てについて、請求項2に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート基材上に形成された絵柄模様層と、前記絵柄模様層上に形成された第1の表面保護層と、前記第1の表面保護層上に部分的に形成された第2の表面保護層と、前記第2の表面保護層上に部分的に形成された第3の表面保護層とを備え、
前記絵柄模様層は、前記シート基材の表面に、前記表面全体を覆い絵柄の下地色となる柄インキ層と、前記下地色以外の絵柄を表す導管インキ層と、がこの順に積層されて形成され、
前記第1の表面保護層は、前記第1の表面保護層を通して前記絵柄模様層の絵柄を透視できる程度に透明または半透明な材料で形成され、
前記第2の表面保護層は、前記第1の表面保護層の前記導管インキ層の印刷インキと対向する部分を被覆する層であり、
前記第2の表面保護層は、前記第2の表面保護層および前記第1の表面保護層を通して、前記絵柄模様層の絵柄を透視できる程度に透明または半透明な材料で形成され、
前記第1の表面保護層と前記第2の表面保護層とが異なる光沢を有し、
前記第3の表面保護層は、前記第2の表面保護層の75%以下の面積を被覆し、前記第2の表面保護層の厚みの4倍以上の厚みを有し、
前記第2の表面保護層の厚みは0.7μm以上6.0μm未満であり、前記第3の表面保護層の厚みは30μm以上120μm未満であり、
前記第2の保護層は、前記導管インキ層を構成する印刷インキが表現する導管の長手方向に垂直な面における断面形状が三角形である部分、前記断面形状が台形である部分、および前記断面形状が階段状である部分が混在していることを特徴とする化粧シート。
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
前記第1の表面保護層は、ウレタン結合を有する熱硬化型樹脂とシリカ粒子とを含むことを特徴とする請求項1に記載の化粧シート。
【請求項4】
前記第2の表面保護層は、ウレタン結合を有する熱硬化型樹脂を含むことを特徴とする請求項1または3に記載の化粧シート。
【請求項5】
前記第3の表面保護層は、ウレタン結合を有する熱硬化型樹脂を含むことを特徴とする請求項1、3、4のいずれか1項に記載の化粧シート。
【請求項6】
前記第3の表面保護層は、電離放射線硬化型樹脂を含むことを特徴とする請求項1、3、4のいずれか1項に記載の化粧シート。
【請求項7】
前記第3の表面保護層は、平均粒径30μm以上の合成樹脂ビーズを含むことを特徴とする請求項1、3?6のいずれか1項に記載の化粧シート。
【請求項8】
前記合成樹脂ビーズは、アクリル樹脂ビーズであることを特徴とする請求項7に記載の化粧シート。
【請求項9】
エンボス加工による凹凸形状が施され、前記凹凸形状は、前記シート基材、前記絵柄模様層、および前記第1の表面保護層の、前記第1の表面保護層上に前記第2の表面保護層が形成されていない部分を凹部とすることで形成されたことを特徴とする請求項1、3?8のいずれか1項に記載の化粧シート。
【請求項10】
請求項1、3?9のいずれか1項に記載の化粧シートを基板に貼りあわせてなることを特徴とする化粧板。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-07-06 
出願番号 特願2015-146492(P2015-146492)
審決分類 P 1 651・ 536- YAA (B32B)
P 1 651・ 537- YAA (B32B)
P 1 651・ 113- YAA (B32B)
P 1 651・ 121- YAA (B32B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 増田 亮子  
特許庁審判長 藤原 直欣
特許庁審判官 藤井 眞吾
石井 孝明
登録日 2019-08-09 
登録番号 特許第6565419号(P6565419)
権利者 凸版印刷株式会社
発明の名称 化粧シート、及び化粧板  
代理人 宮坂 徹  
代理人 廣瀬 一  
代理人 宮坂 徹  
代理人 廣瀬 一  

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