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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H03M
審判 査定不服 出願日、優先日、請求日 取り消して特許、登録 H03M
管理番号 1378277
審判番号 不服2020-15420  
総通号数 263 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-11-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-11-06 
確定日 2021-10-15 
事件の表示 特願2017-517333「レイヤードディビジョンマルチプレキシングを利用した放送信号フレーム生成方法」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 9月15日国際公開,WO2016/144010,平成30年 4月19日国内公表,特表2018-511188,請求項の数(4)〕について,次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は,特許すべきものとする。 
理由
第1 手続の経緯

本願は,2016年(平成28年)2月11日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2015年3月6日 韓国,2016年1月13日 韓国)を国際出願日とする出願であって,令和元年12月18日付けで拒絶理由通知がされ,令和2年3月18日に手続補正がされ,令和2年6月30日付けで拒絶査定(原査定)がされ,これに対し,令和2年11月6日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がされたものである。


第2 原査定の概要

原査定(令和2年6月30日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

1.(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

優先権主張について,韓国特許出願第10-2015-0031907号(出願日:2015年3月6日)に基づく優先権主張の効果は認められず,韓国特許出願第10-2016-0004462号(出願日2016年1月13日)に基づく優先権主張の効果のみが認められる。

・請求項 :1,3,9,11
・引用文献:1,2
・請求項 :2,4,6-8,10,12
・引用文献:1-3

2.(明確性)この出願は,特許請求の範囲の記載が下記の点で,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

・請求項5,13

「前記開始位置情報は,前記PLP識別情報および前記レイヤ識別情報のうちの前記PLP識別情報にのみ相当するインデックスを用いることによって,フォーループ(for loop)の前記フィジカルレイヤパイプのそれぞれに対して前記プリアンブルに含まれる」ことが記載されているが,「前記PLP識別情報にのみ相当するインデックス」の「相当する」がどの様な状態を意味するのか不明であるし,「フォーループ(for loop)の前記フィジカルレイヤパイプ」が何を意味するのか不明であるから,依然として発明の構成が明確でない。

<引用文献等一覧>
1.国際公開第2016/003221号
2.米国特許出願公開第2014/0198876号明細書
3.Jon Montalban et al., “Cloud Transmission: System Performance and Application Scenarios”, IEEE TRANSACTIONS ON BROADCASTING,2014年6月, Vol.60, No.2, pp.170-184


第3 本願発明

本願請求項1-4に係る発明(以下,それぞれ「本願発明1」-「本願発明4」という。)は,令和2年11月6日の手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-4に記載された事項により特定される発明である。

「【請求項1】
コアレイヤ信号およびエンハンストレイヤ信号を,互いに異なるパワーレベルで結合して,マルチプレキシングされた信号を生成するステップと,
前記マルチプレキシングされた信号のパワーを,前記コアレイヤ信号に相応するパワーに低下させるステップと,
前記コアレイヤ信号および前記エンハンストレイヤ信号を結合した後,前記コアレイヤ信号に相当するコアレイヤおよび前記エンハンストレイヤ信号に相当するエンハンストレイヤにともに適用されるインターリービングを行い,タイムインターリービングされた信号を生成するステップと,
フィジカルレイヤパイプ(Physical Layer Pipes;PLPs)の開始位置情報およびインジェクションレベル情報をシグナリングするためのL1シグナリング部分を含む放送信号フレームを生成するステップとを含み,
前記開始位置情報は,前記コアレイヤまたは前記エンハンストレイヤを識別するためのレイヤ識別情報とは独立してシグナリングされ,前記インジェクションレベル情報は,前記レイヤ識別情報と予め設定された値とを比較した結果に応じてシグナリングされ,
前記開始位置情報は,フィジカルレイヤパイプの1番目のデータセルに相応するインデックスと同一に設定されることを特徴とする放送信号フレーム生成方法。
【請求項2】
前記放送信号フレームを生成するステップは,
ブートストラップを生成するステップと,
前記L1シグナリング部分を生成するステップと,
前記タイムインターリービングされた信号に相応するスーパーインポーズドペイロードを生成するステップとを含むことを特徴とする請求項1に記載の放送信号フレーム生成方法。
【請求項3】
前記開始位置情報は,セルアドレッシングスキーム(cell addressing scheme)を用いて,前記フィジカルレイヤパイプの開始位置(start position)を指示(indicate)することを特徴とする請求項1に記載の放送信号フレーム生成方法。
【請求項4】
前記L1シグナリング部分は,
前記フィジカルレイヤパイプを識別するためのPLP識別情報と,
前記レイヤ識別情報とを含むことを特徴とする請求項1に記載の放送信号フレーム生成方法。」


第3 引用文献,引用発明等

1.引用文献1について

原査定の拒絶の理由に引用された,2016年1月7日に公開された国際公開第2016/003221号(以下,「引用文献1」という。当審訳としてファミリ文献の特表2017-527167号を参照。当審訳の下線は当審が付与。)には,




(当審訳:
[1] 本発明は,放送システムで使用される放送信号送/受信技術に関し,特に,2つ以上の信号をマルチプレキシング/デマルチプレキシングして送/受信する放送信号送/受信システムに関する。)




(当審訳:
[68] 図3に示されているように,コアレイヤデータおよびエンハンストレイヤデータはそれぞれ,互いに異なるBICM部を通過した後,結合器340を介して合わされる。すなわち,本発明において,レイヤードディビジョンマルチプレキシング(LDM)とは,多数の階層をパワーの差を利用して1つに結合して送信することを意味することができる。
[69] すなわち,コアレイヤデータはコアレイヤBICM部310を通過し,エンハンストレイヤデータはエンハンストレイヤBICM部320を通過した後,インジェクションレベルコントローラ330を経て結合器340で結合される。この時,エンハンストレイヤBICM部320は,コアレイヤBICM部310とは異なるBICMエンコーディングを行うことができる。すなわち,エンハンストレイヤBICM部320は,コアレイヤBICM部310より高いビット率に相応するエラー訂正符号化やシンボルマッピングを行うことができる。また,エンハンストレイヤBICM部320は,コアレイヤBICM部310より少ないロバストなエラー訂正符号化やシンボルマッピングを行うことができる。)




(当審訳:
[74] エンハンストレイヤBICM部320を通過したエンハンストレイヤデータは,インジェクションレベルコントローラ330を介してそのゲイン(またはパワー)が調節され,結合器340によってコアレイヤデータと結合される。)




(当審訳:
[82] 結合器340によって結合された信号は,コアレイヤ信号とエンハンストレイヤ信号との結合によって発生したパワー上昇分だけパワーを低下させるために,パワーノーマライザ345に提供されてパワー調節が行われる。すなわち,パワーノーマライザ345は,結合器340によってマルチプレキシングされた信号のパワーを,コアレイヤ信号に相応するパワーレベルに低下させる。結合された信号のレベルが1レイヤ信号のレベルより高いため,放送信号送/受信システムの残りの部分で振幅クリッピングなどを防止するために,パワーノーマライザ345のパワーノーマライジングが必要である。)




(当審訳:
[100] パワーノーマライジングされた信号は,チャネルで発生するバーストエラーを分散させるためのタイムインターリーバ350を通過する。)




(当審訳:
[103] 一方,インジェクションレベル情報を含むL1シグナリング情報は,シグナリング専用のBICMを含むL1シグナリング生成部360で符号化される。この時,L1シグナリング生成部360は,インジェクションレベルコントローラ330からインジェクションレベル情報IL INFOを受信して,L1シグナリング信号を生成することができる。)




(当審訳:
[105] 一般的に,L1シグナリングは,OFDM送信機の主要パラメータであるFFTサイズ,ガードインターバルサイズなどと,BICMの主要パラメータであるチャネルコードレート,モジュレーション情報などを含むことができる。このようなL1シグナリング信号はデータ信号と結合して,放送信号フレームを構成する。
[106] フレームビルダ370は,L1シグナリング信号とデータ信号とを結合して,放送信号フレームを生成する。)




(当審訳:
[図3]

)




(当審訳:
[117] 図5に示されたインジェクションレベルコントローラ330,440,460から提供されたインジェクションレベル情報は,L1シグナリング生成部360を経てフレームビルダ370の放送信号フレームに含まれて,受信機に送信される。すなわち,各階層のインジェクションレベルはL1シグナリング情報に盛り込まれて,受信機に伝達される。)

の記載があるから,

「コアレイヤデータおよびエンハンストレイヤデータはそれぞれ,互いに異なるBICM部を通過した後,結合器340を介して合わされ,
すなわち,コアレイヤデータはコアレイヤBICM部310を通過し,エンハンストレイヤデータはエンハンストレイヤBICM部320を通過した後,インジェクションレベルコントローラ330を経て結合器340で結合され,
エンハンストレイヤBICM部320を通過したエンハンストレイヤデータは,インジェクションレベルコントローラ330を介してそのゲイン(またはパワー)が調節され,結合器340によってコアレイヤデータと結合され,
結合器340によって結合された信号は,コアレイヤ信号とエンハンストレイヤ信号との結合によって発生したパワー上昇分だけパワーを低下させるために,パワーノーマライザ345に提供されてパワー調節が行われ,すなわち,パワーノーマライザ345は,結合器340によってマルチプレキシングされた信号のパワーを,コアレイヤ信号に相応するパワーレベルに低下させ,
パワーノーマライジングされた信号は,チャネルで発生するバーストエラーを分散させるためのタイムインターリーバ350を通過し,
インジェクションレベル情報を含むL1シグナリング情報は,シグナリング専用のBICMを含むL1シグナリング生成部360で符号化され,L1シグナリング生成部360は,インジェクションレベルコントローラ330からインジェクションレベル情報IL INFOを受信して,L1シグナリング信号を生成することができ,
L1シグナリングは,OFDM送信機の主要パラメータであるFFTサイズ,ガードインターバルサイズなどと,BICMの主要パラメータであるチャネルコードレート,モジュレーション情報などを含むことができ,
フレームビルダ370は,L1シグナリング信号とデータ信号とを結合して,放送信号フレームを生成し,
各階層のインジェクションレベルはL1シグナリング情報に盛り込まれて,受信機に伝達される,
放送システムで使用される放送信号送信技術。」(以下,「引用発明1」という。)

が記載されていると認められる。

2.引用文献2について

また,原査定の拒絶の理由に引用された米国特許出願公開第2014/0198876号明細書(以下,「引用文献2」という。下線は当審が付与。)には,

「[0001] The present invention relates to a broadcast signal transmitting apparatus for transmitting a broadcast signal, a broadcast receiving apparatus for receiving a broadcast signal, and a method of transmitting and receiving a broadcast signal and, most particularly, to an apparatus and method for transmitting and receiving a mobile broadcast signal.

(当審訳:
[0001] 本発明は,放送信号を送信する放送信号送信装置,放送信号を受信する放送受信装置,放送信号を送受信する方法,特にモバイル放送信号を送受信する方法に関する。)

「[0128] According to an embodiment of the present invention, the present invention may encode video data by using an SVC (Scalable Video Coding) method, thereby dividing the encoded video data into video data of the base layer (or base layer video data) and video data of the enhancement layer (or enhancement layer video data). Herein, the SVC method is merely exemplary. And, therefore, other arbitrary video coding methods having scalability may also be used herein.」
(当審訳:
[0128] 本発明の実施形態によれば,本発明は階層映像符号化方法を使用して映像データを符号化し,それにより,符号化された映像データをベース層の映像信号(又はベース層映像データ)と拡張層の映像信号(又は拡張層映像データ)に分割する。階層映像符号化法は単に例示的である。従って,スケーラビリティを有する他の任意の映像符号化も使用することができる。)

「[0134] According to an embodiment of the present invention, a signal frame may refer to any one of a T2 frame, an FEF transmitting a mobile broadcasting signal (i.e., NGH frame), a T2 frame transmitting base layer video data, and an FEF transmitting enhancement layer video data. In the description of the present invention, the signal frame and the transmission frame will be used to have the same meaning.」
(当審訳:
[0134] 本発明の実施形態によれば,信号フレームはT2フレーム,モバイル放送信号(すなわちNGHフレーム)を送信するFEF,ベース層映像データを送信するT2フレームと,拡張層映像データを送信するFEFのいずれか1つを示し得る。本発明の説明では,信号フレームと送信フレームは同じ意味として使用される。)

「[0137] FIG.2 illustrates an exemplary structure of a signal frame over a physical layer according to an embodiment of the present invention. The signal frame includes a P1 signaling information region (or part), an L1 signaling information region, and a PLP region. More specifically, the P1 signaling information region may be allocated to a foremost portion of the corresponding signal frame, and, then, the L1 signaling information region and the PLP region may be sequentially allocated after the P1 signaling information region. In the description of the present invention, only the information being included in the L1 signaling information region may be referred to as L1 signaling information, or signaling information being included in the P1 signaling information region and signaling information being included in the L1 signaling information region may be collectively referred to as the L1 signaling information.」
(当審訳:
[0137] 図2は,本発明の実施形態による物理層上の信号フレームの例示的な構造を示す。信号フレームは,P1シグナリング情報領域(の一部),L1シグナリング情報領域,とPLP領域を含む。より具体的には,P1シグナリング情報領域は,対応する信号フレームの最前部に割り当てられ,L1シグナリング情報領域,PLP領域はP1シグナリング情報領域の後に順次割当られる。本発明の実施形態では,L1シグナリング情報領域に含まれる情報のみをL1シグナリング情報と呼び,あるいは,P1シグナリング情報領域に含まれる情報とL1シグナリング情報領域に含まれる情報をまとめてL1シグナリング情報と呼ぶ場合がある。)

「[0144] More specifically, L1 signaling information includes information required by the broadcasting signal receiver for processing a PLP within a signal frame, and the L2 signaling information includes information that can be commonly applied to multiple PLPs. Accordingly, the broadcasting signal receiver may use P1 signaling information included in a P1 signaling information region, so as to decode an L1 signaling information region, thereby acquiring information on the structure of PLP included in the signal frame and information a frame structure. Most particularly, the broadcasting signal receiver may be capable of knowing through which PLP each of the service components being included in the corresponding service is being transmitted by referring to the L1 signaling information and/or the L2 signaling information. Additionally, the BICM module of the broadcasting signal transmitter may encode signaling information associated with a broadcast service and may transmit L1/L2 signaling information, so that the broadcasting signal receiver can perform decoding. Moreover, the MICM decoder of the broadcasting signal receiver may decode the L1/L2 signaling information.

(当審訳:
[0144] より具体的には,L1シグナリング情報は,信号フレーム内でPLPを処理するために放送信号受信機によって必要とされる情報を含み,L2シグナリング情報は,複数のPLPに共通して適用され得る情報を含む。したがって,放送信号受信機は,P1シグナリング情報領域に含まれるP1シグナリング情報を用いて,L1シグナリング情報領域を復号し,信号フレームに含まれるPLPの構造に関する情報とフレーム構造に関する情報を取得することができる。最も具体的には,放送信号受信機は,L1シグナリング情報及び/又はL2シグナリング情報を参照することにより,対応するサービスに含まれる各サービス構成要素がどのPLPにより送信されているかを知ることができる場合がある。さらに,放送信号送信機のBICMモジュールは,放送サービスに関連する信号情報を符号化することができ,放送信号受信機が復号を実行できるようにL1/L2シグナリング情報を送信することができる。さらに,放送信号受信機のMCIMデコーダは,L1/L2シグナリング信号情報を復号することができる。)

「[0647] The L1 signaling information includes L1-pre-signaling information and L1-post-signaling information. The L1-post-signaling information then includes Configurable L1-post-signaling information, Dynamic L1-post-signaling information, Extension L1-post-signaling information, and CRC information, and may further include L1 padding data.」
(当審訳:
[0647] L1シグナリング情報には,L1プレシグナリング情報,L1ポストシグナリング情報が含まれています。L1ポストシグナリング情報は,構成可能L1ポストシグナリング情報,動的L1シグナリング情報,拡張L1ポストシグナリング情報とCRC情報が含まれ,さらにL1パディングデータが含み得ます。)

「[0733] The fields being included in the dynamic L1-post-signaling information of FIG.50 will hereinafter be described in detail.」
(当審訳:
[0733] 図50の動的L1ポストシグナリング情報に含まれているフィールドについて以下に詳細に説明する。)

「[0744] The PLP_START field is assigned with 22 bits and may indicate a starting position of OFDM cells of the current PLP.」
(当審訳:
[0744] PLP_STARTフィールドには22ビットが割り当てられ,現在のPLPのOFDMセルの開始位置を示し得る。)

「FIG.50



の記載があるから,

「ベース層の映像信号と拡張層の映像信号に分割された映像データを放送する放送信号を送受信する方法であって,
信号フレームは,P1シグナリング情報領域(の一部),L1シグナリング情報領域,とPLP領域を含み,
L1シグナリング情報は,信号フレーム内でPLPを処理するために放送信号受信機によって必要とされる情報を含み,
L1シグナリング情報には,L1プレシグナリング情報,L1ポストシグナリング情報が含まれ,L1ポストシグナリング情報は,構成可能L1ポストシグナリング情報,動的L1シグナリング情報,拡張L1ポストシグナリング情報とCRC情報が含まれ,さらにL1パディングデータが含み得,
動的L1シグナリング情報に含まれているPLP_STARTフィールドには22ビットが割り当てられ,現在のPLPのOFDMセルの開始位置を示し得る
方法。」(以下,「引用発明2」という。)

が記載されていると認められる。

3.引用文献3について

原査定の拒絶の理由に引用されたJon Montalban et al., “Cloud Transmission: System Performance and Application Scenarios”, IEEE TRANSACTIONS ON BROADCASTING,2014年6月, Vol.60, No.2, pp.170-184(以下,「引用文献3」という。)には,

「III. Hierarchical Spectrum Reuse
A straightforward limitation of a very robust system working on negative SNR values is the net bitrate capacity. Because of the robustness provided by the product code, the Cloud Txn system allows the use of hierarchical spectrum re-use, or spectrum overlay technology. With this approach, it is possible to inject on the same channel a second digital stream (Stream B), where Stream B could be a DVB-T2 signal or some other signal formats [16]. It should be noted that in principle, there is not any restriction for the second layer choice. Nevertheless, if the second layer is based on OFDM, with the same FFT size, symbol period and pilot pattern as the high-layer, the receiver implementation will simplify significantly. In this work, it is assumed that the second layer (Stream B) is DVB-T2 signal, which has the same RF channel bandwidth, is frequency locked, and clock synchronized with the upper layer Cloud Txn signal (Stream A).
The spectrum efficiency of the Stream B can be around 2 to 8 bit/s/Hz with an SNR threshold of 6-30 dB depending on the selected DVB-T2 mode [17] (T2 limited to 256QAM).The combined multi-layer system spectrum efficiency will be about 2.5-8.5 bit/s/Hz. For a 6MHz TV band, the total expected data rates are in the range of 15 to 50 Mbps, with about 2-3 Mbps very robust data for mobile service and the rest for fixed multiple HDTV services or even UHDTV-4k service if HEVC coders are used [18]. It should be mentioned that injection levels between data streams are flexible, as well as the modulation and channel coding applied on each data stream for different reception robustness requirements.Fig.2 shows a Cloud Transmission system diagram. At the transmitter, the signals of different streams are superimposed with specific injection levels, after being separately formatted and encoded. A third data Stream C can be further injected at e.g., 5 dB, below the Stream B. In this case, Stream C has also the same RF channel bandwidth as that of the other streams (A and B), and is frequency locked and clock synchronized with the other layers.」
(当審訳:
III.階層化スペクトル再利用
負のSNR値で動作している非常に堅牢なシステムの直接的な制限は,正味のビットレート容量です。製品コードによって提供される堅牢性により,Cloud Txnシステムでは,階層的なスペクトルの再利用,またはスペクトルオーバーレイテクノロジーを使用できます。このアプローチでは,同じチャネルに2番目のデジタルストリーム(ストリームB)を注入することができ,ここで,ストリームBはDVB-T2信号やその他の信号形式の可能性があります[16]。なお,原則として,第2層の選択に制限はありません。それでも,第2層がOFDMに基づいており,高位層と同じFFTサイズ,シンボル周期,パイロットパターンを使用している場合,レシーバーの実装は大幅に簡素化されます。この作業では,第2層(ストリームB)が同じRFチャネル帯域幅を持つDVB-T2信号であり,周波数がロックされ,上位層のCloud Txn信号(ストリームA)とクロック同期されていると想定しています。
ストリームBのスペクトル効率は,選択したDVB-T2モード(T2は256QAMに制限)に応じて,6?30dBのSNR閾値で約2?8ビット/秒/Hzになります[17]。組み合わせ多層システムのスペクトル効率は,約2.5?8.5ビット/秒/Hzになります。6MHz TV帯域の場合,予想される合計データレートは15?50Mbpsの範囲であり,約2?3Mbpsのモバイルサービス用の非常に堅牢なデータと残りの固定の複数HDTVサービスまたはHEVC符号化を使用した場合のUHDTV-4kサービスです[18]。データストリーム間の注入レベルは柔軟であり,さまざまな受信ロバスト性要件のために各データストリームに適用される変調とチャネル符号化に注意する必要があります。図2にクラウド伝送システム図を示します。送信機では,異なるストリームの信号は,個別にフォーマットおよび符号化された後,特定の注入レベルで重ね合わされます。3番目のデータストリームCは,ストリームBの下にたとえば5dBでさらに注入できます。この場合,ストリームCも他のストリーム(AおよびB)と同じRFチャネル帯域幅を持ち,周波数がロックされ,他のレイヤーとクロック同期します。)

「Fig.2



の記載があるから,

「異なるストリームの信号は,個別にフォーマットおよび符号化された後,特定の注入レベルで重ね合わされる。」(以下,「引用文献3記載技術」という。)

ことが記載されていると認められる。


第4 対比・判断

1.本願の優先権について

韓国特許出願第10-2015-0031907号(出願日:2015年3月6日)には,ATSC3.0のLDMフレームを含むフレーミング構造が記載されており,LDMフレームにコア層と拡張層が存在する場合は,両方の層で同じFFTサイズ,タイムインターリーバ,フレーム長を使用すること,コア層と比較して拡張層の注入レベルを示す4ビットのインジェクションレベルフィールドがあること,現在のATSC3.0フレーム内の関連するPLPの開始位置を示すPLP開始フィールドがあることは記載されている。
しかし,本願発明1に関する
(1)どのようなステップによりタイムインターリービングされた信号を生成するか
(2)どのような場合に前記インジェクションレベル情報をシグナリングするか
(3)PLP開始位置情報をどのような値とするか
ということについては記載されていない。

したがって,韓国特許出願第10-2015-0031907号(出願日:2015年3月6日)に基づく優先権主張の効果は認められず,韓国特許出願第10-2016-0004462号(出願日2016年1月13日)に基づく優先権主張の効果のみが認められる。

2.本願発明1について

(1)対比

上記1.に記載したように,本願発明1については,韓国特許出願第10-2016-0004462号(出願日2016年1月13日)に基づく優先権主張の効果のみが認められるから,本願発明1と引用発明1とを対比する。

ア.引用発明1は,「すなわち,コアレイヤデータはコアレイヤBICM部310を通過し,エンハンストレイヤデータはエンハンストレイヤBICM部320を通過した後,インジェクションレベルコントローラ330を経て結合器340で結合され」るから,「コアレイヤ信号およびエンハンストレイヤ信号を,互いに異なるパワーレベルで結合して,マルチプレキシングされた信号を生成」しているといえる。

イ.引用発明1は,「結合器340によって結合された信号は,コアレイヤ信号とエンハンストレイヤ信号との結合によって発生したパワー上昇分だけパワーを低下させるために,パワーノーマライザ345に提供されてパワー調節が行われ,すなわち,パワーノーマライザ345は,結合器340によってマルチプレキシングされた信号のパワーを,コアレイヤ信号に相応するパワーレベルに低下させ」ているから,「前記マルチプレキシングされた信号のパワーを,前記コアレイヤ信号に相応するパワーに低下させ」ているといえる。

ウ.引用発明1は,「パワーノーマライジングされた信号は,チャネルで発生するバーストエラーを分散させるためのタイムインターリーバ350を通過し」ている。「パワーノーマライジングされた信号」は,「前記コアレイヤ信号および前記エンハンストレイヤ信号を結合した後」の信号であるから,「タイムインターリーバ350」で「インターリービングを行い,タイムインターリービングされた信号を生成」していることは明らかであるから,「前記コアレイヤ信号および前記エンハンストレイヤ信号を結合した後,前記コアレイヤ信号に相当するコアレイヤおよび前記エンハンストレイヤ信号に相当するエンハンストレイヤにともに適用されるインターリービングを行い,タイムインターリービングされた信号を生成」しているといえる。

エ.引用発明1は,「インジェクションレベル情報を含むL1シグナリング情報」が生成され,「L1シグナリング信号とデータ信号とを結合して,放送信号フレームを生成」しているから,「インジェクションレベル情報をシグナリングするためのL1シグナリング部分を含む放送信号フレームを生成」しているといえる。

したがって,本願発明1と引用発明1との間には,次の一致点,相違点があるといえる。

一致点
「コアレイヤ信号およびエンハンストレイヤ信号を,互いに異なるパワーレベルで結合して,マルチプレキシングされた信号を生成するステップと,
前記マルチプレキシングされた信号のパワーを,前記コアレイヤ信号に相応するパワーに低下させるステップと,
前記コアレイヤ信号および前記エンハンストレイヤ信号を結合した後,前記コアレイヤ信号に相当するコアレイヤおよび前記エンハンストレイヤ信号に相当するエンハンストレイヤにともに適用されるインターリービングを行い,タイムインターリービングされた信号を生成するステップと,
インジェクションレベル情報をシグナリングするためのL1シグナリング部分を含む放送信号フレームを生成するステップとを含む
ことを特徴とする放送信号フレーム生成方法。」

相違点
(相違点1)
本願発明1は,「フィジカルレイヤパイプ(Physical Layer Pipes;PLPs)の開始位置情報およびインジェクションレベル情報をシグナリングするためのL1シグナリング部分」を含む放送信号フレームを生成し,前記開始位置情報が,「前記コアレイヤまたは前記エンハンストレイヤを識別するためのレイヤ識別情報とは独立してシグナリングされ」て,「フィジカルレイヤパイプの1番目のデータセルに相応するインデックスと同一に設定される」のに対し,引用発明1は「インジェクションレベル情報をシグナリングするためのL1シグナリング部分」を含む放送信号フレームを生成するが,「フィジカルレイヤパイプ(Physical Layer Pipes;PLPs)の開始位置情報」の記載が無く,そのような値に設定されるのかの記載も無い点。
(相違点2)
本願発明1は,「前記インジェクションレベル情報は,前記インジェクションレベル情報は,前記レイヤ識別情報と予め設定された値とを比較した結果に応じてシグナリングされる」ものであるのに対し,引用発明1は,どのような時にシグナリングされるか記載が無い点。

(2)相違点についての判断

相違点1について

引用発明2には,PLPの開始位置情報がL1シグナリングに含まれることが記載されているが,どのような値に設定するかについての記載は無いから,「前記開始位置情報は,フィジカルレイヤパイプの1番目のデータセルに相応するインデックスと同一に設定される」ことは,当業者であっても,引用発明1,引用発明2に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

相違点2について

引用発明2にはインジェクションレベル情報についての記載は無いから,インジェクションレベル情報が「前記インジェクションレベル情報は,前記レイヤ識別情報と予め設定された値とを比較した結果に応じてシグナリングされる」ことは,当業者であっても,引用発明1,引用発明2に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

3.本願発明2について

本願発明2も,本願発明1と同一のステップを備えるものであり,引用文献3記載技術にも,PLPの開始位置情報がL1シグナリングに含まれることが記載されているが,どのような値とするかについての記載は無く,インジェクションレベル情報についての記載も無いから,本願発明1と同じ理由により,当業者であっても,引用発明1,引用発明2及び引用文献3記載技術に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

4.本願発明3-4について

本願発明3-4も,本願発明1と同一のステップを備えるものであるから,本願発明1-2と同じ理由により,引用発明1,引用発明2及び引用文献3記載技術に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。


第5 原査定についての判断

1.進歩性について

上記第4に記載したとおり,本願発明1-4は,引用文献1に記載された発明,引用文献2に記載された発明及び引用文献3に記載された技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明できたものではない。

2.明確性について

令和2年11月6日の補正により,「前記開始位置情報は,前記PLP識別情報および前記レイヤ識別情報のうちの前記PLP識別情報にのみ相当するインデックスを用いることによって,フォーループ(for loop)の前記フィジカルレイヤパイプのそれぞれに対して前記プリアンブルに含まれる」ことが記載されている請求項は削除された。

3.まとめ

したがって,原査定を維持することはできない。


第6 むすび

以上のとおり,本願発明1-4は,当業者が引用発明1及び引用発明2,引用文献3に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものではなく,特許請求の範囲の記載は明確である。
したがって,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2021-09-30 
出願番号 特願2017-517333(P2017-517333)
審決分類 P 1 8・ 03- WY (H03M)
P 1 8・ 121- WY (H03M)
最終処分 成立  
前審関与審査官 北村 智彦  
特許庁審判長 伊藤 隆夫
特許庁審判官 衣鳩 文彦
吉田 隆之
発明の名称 レイヤードディビジョンマルチプレキシングを利用した放送信号フレーム生成方法  
代理人 関根 毅  
代理人 中村 行孝  
代理人 朝倉 悟  
代理人 吉田 昌司  

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