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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H05K
管理番号 1378681
審判番号 不服2020-12326  
総通号数 263 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-11-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-09-02 
確定日 2021-10-07 
事件の表示 特願2015-224714「フレキシブルプリント配線板用電磁波シールドフィルムおよび電磁波シールドフィルム付きフレキシブルプリント配線板」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 5月25日出願公開、特開2017- 92417〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2015年(平成27年)11月17日の出願であって、その手続の経緯は、概略、以下のとおりである。
令和 1年 8月19日付け:拒絶理由通知
令和 1年10月28日 :意見書、手続補正書の提出
令和 2年 1月 9日付け:拒絶理由通知
令和 2年 3月12日 :意見書、手続補正書の提出
令和 2年 5月21日付け:令和2年3月12日提出の手続補正についての補正の却下の決定、拒絶査定
令和 2年 9月 2日 :審判請求書、手続補正書の提出
令和 3年 2月17日付け:当審における拒絶理由通知
令和 3年 4月 9日 :意見書、手続補正書の提出

第2 本願発明
本願の請求項1ないし5に係る発明は、令和3年4月9日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりである。

「【請求項1】
絶縁樹脂層と、
前記絶縁樹脂層に隣接する導電層と
を有するフレキシブルプリント配線板用電磁波シールドフィルムであって、
前記絶縁樹脂層が、前記絶縁樹脂層において前記導電層とは反対側の最表層となる第1の絶縁樹脂層と、前記第1の絶縁樹脂層以外の第2の絶縁樹脂層とを有し、
前記第1の絶縁樹脂層が、熱硬化性樹脂と硬化剤とを含む第1の塗料を塗布し、硬化させて形成された塗膜であり、
前記第2の絶縁樹脂層が、熱硬化性樹脂と硬化剤とを含む第2の塗料を塗布し、硬化させて形成された塗膜であり、
前記第1の絶縁樹脂層の厚さが、0.1μm以上30μm以下であり、
前記第2の絶縁樹脂層の厚さが、0.1μm以上30μm以下であり、
前記第1の絶縁樹脂層の25℃における貯蔵弾性率が、9×10^(9)Pa以上5×10^(11)Pa以下であり、
前記第2の絶縁樹脂層の25℃における貯蔵弾性率が、8×10^(8)Pa以上1×10^(10)Pa以下であり、
前記第1の絶縁樹脂層の25℃における貯蔵弾性率が、前記第2の絶縁樹脂層の25℃における貯蔵弾性率よりも高く、
前記導電層は、前記絶縁樹脂層に隣接する、物理蒸着、CVD又はめっきによって前記絶縁樹脂層の表面に形成された金属薄膜層と、前記導電層において前記絶縁樹脂層とは反対側の最表層となる、熱硬化性接着剤と導電性粒子とを含む異方導電性接着剤層とを有し、
前記異方導電接着剤層の厚さが3μm以上10μm以下である、フレキシブルプリント配線板用電磁波シールドフィルム。。」

第3 当審の拒絶理由の概要
令和3年2月17日付けで当審が通知した拒絶の理由のうち、本願発明については、次のとおりのものである。
本願発明は、本願の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された周知技術に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1:特開2006-319216号公報
引用文献2:特開2015-109404号公報

第4 引用文献の記載及び引用発明
1 引用文献1の記載
(1)引用文献1には、図面とともに、次の事項が記載されている(下線は、当審で付した。以下同じ。)。

「【0002】
フレキシブルプリント配線板(以下「FPC」ともいう。)は、ポリイミドフィルムやポリエステルフィルム等の可撓性絶縁フィルムの少なくとも一方の面に、接着剤を介するか、或いは接着剤を介することなく、プリント回路を有すると共に、必要に応じて、該プリント回路の上面に、回路部品搭載のための端子や、外部基板との接続のための端子を形成する部位に対応して開口を形成した可撓性絶縁フィルムを接着剤により接着するか、或いは、感光性絶縁樹脂の塗工、乾燥、露光、現像、熱処理等の工程により開口を形成する等の手法で表面保護層が形成されているものであり、小型化、高機能化が急速に進む携帯電話、ビデオカメラ、ノートパソコンなどの電子機器において、複雑な機構の中に回路を組み込むために多用されている。さらに、その優れた可撓性を生かして、プリンタヘッドのような可動部と制御部との接続にも利用されている。FPCが多用される電子機器においては、電磁波シールド対策が必須となっており、装置内で使用されるFPCにおいても、電磁波シールド対策を施したシールドフレキシブルプリント配線板(以下「シールドFPC」という。)が用いられるようになってきた。」

「【0004】
シールドFPCは、可撓性絶縁フィルムをカバーフィルムとして用い、このカバーフィルムの片面にシールド層を設け、他面に剥離可能な粘着性を有する粘着性フィルムを貼り合わせて補強シールドフィルムを形成し、FPCの少なくとも一方の面側に導電性接着剤を用いて、加熱・加圧することで該シールドフィルムを貼付するとともに、該シールド層とFPCに設けられたグランド回路とを、導電性接着剤を介して電気的に接続した後、粘着性フィルムを剥離してなる。ここで、特段にシールド層とグランド回路との電気的接続を必要としない場合は、導電性接着剤に代えて、導電性が付与されていない通常の接着剤を用いて貼付すれば良い。FPCは直接リジッド配線板等に接続されたり、上記のフレックスリジッド基板やフレクスボード等のように部品搭載多層部がケーブル部と連続して形成されることもあり、この場合には必要に応じて、リジッド配線板や部品搭載多層部等の上にも上記と同様にしてシールド層を設けることで対処可能となる。」

「【0013】
また、本発明のシールドフィルムにおいては、上述のハード層およびソフト層のうち、少なくとも1層がコーティング層であってよい。これによると、シールドフィルムの厚さを薄くすることができると共に、柔軟性に優れたシールドフィルムを提供することができる。」

「【0019】
本発明のシールドフィルムにおいては、前記カバーフィルムの前記セパレートフィルム面側とは反対側の面に金属層を介して設けられた接着剤層が、導電性接着剤であってよい。これによると、確実にプリント配線板のグランド回路と金属層とが電気的に接続できる。」

「【0027】
更に、本発明のシールドプリント配線板の製造方法は、ベースフィルム上に形成された信号回路とグランド回路とを含むプリント回路のうち、グランド回路を被覆する絶縁材の一部が除去されて、該グランド回路が露出されている基体を用意し、該基体上に上述の接着剤層が導電性接着剤であるか、または異方導電性接着剤であるシールドフィルムを載置し、加熱・加圧して接着すると共に、上記グランド回路と金属層とを電気的に接続することを特徴とする。」

「【0031】
以下、図面に基づいて、本発明のシールドFPCの実施の形態の一例について説明する。図1は、本実施の形態のシールドFPCの製造方法の説明図であり、図2は、このシールドFPCを製造する際に用いるシールドフィルムの横断面図である。図1(a)は、ベースフィルム2上に形成され、信号回路3aとグランド回路3bからなるプリント回路3のうちグランド回路3bの少なくとも一部(非絶縁部)3cを除いて絶縁フィルム4により被覆してなる基体フィルム5上に、シールドフィルム1を載置し、プレス機P(PA,PB)で加熱hしつつ、加圧pしている状態を示す。」

「【0033】
シールドフィルム1は、ここでは図2(a)に示すものを用いている。図2(a)に示すように、シールドフィルム1は、セパレートフィルム6aと、セパレートフィルム6aの片面に形成された離型層6bと、シールドフィルム本体9とを備える。シールドフィルム本体9は、離型層6b上に耐摩耗性・耐ブロッキング性に優れた樹脂からなるハード層7aとクッション性に優れた樹脂からなるソフト層7bとを順次コーティングすることによって形成されたカバーフィルム7と、カバーフィルム7の離型層6bに接する面と反対の面に金属層8bを介して設けられた接着剤層8aとを有する。ここでは、導電性接着剤からなる接着剤層8aと金属層8bとでシールド層8が形成される。このシールド層8において、加熱hにより軟かくなった接着剤8a’は加圧pにより、絶縁除去部4aに矢印のように流れ込む(図1(a)参照)。また、セパレートフィルム6aに形成された離型層6bは、カバーフィルム7に対して剥離性を有するものであれば、特に限定されるものではなく、例えば、シリコンがコーティングされたPETフィルム等を使用することができる。なお、セパレートフィルム6aの片面にハード層7aおよびソフト層7bを成層する方法としては、コーティングが好ましいが、コーティング以外の層形成方法としてラミネート、押し出し、ディピングなどを用いてもよい。」

「【0037】
カバーフィルム7を構成するハード層7aはJIS L 0849に規定された学振形摩擦試験機による摩擦試験方法により、摩擦子の質量を500グラムとし、試験片台を毎分30回往復の速度で120mmの間を水平に往復運動させたとき、1000回往復運動させても擦り傷が生じない耐磨耗性を有する樹脂で形成され、ソフト層7bはJIS K 7244-4に規定された動的機械特性の試験方法により、周波数1Hz、測定温度範囲-50℃?150℃、昇温速度毎分5℃、として測定した弾性率が3ギガパスカル以下の樹脂からなる。後工程でセパレートフィルム6aをカバーフィルム7から剥離する必要があるため、ハード層7aはセパレートフィルム6a表面に形成された離型層6b上にコーティングされる。また、耐摩耗性に優れたハード層7aは、セパレートフィルム6aの剥離後に、保護層としての役割を果たし、カバーフィルム7の磨耗を防止する。また、ハード層7aは耐ブロッキング性に優れるため、回路部品搭載工程におけるリフロー工程等の加熱を要する工程中で、配線板を搭載して搬送する搬送用冶具や搬送ベルト等の他のものにくっつくこともない。カバーフィルム7のソフト層7b上に設けられた金属層8bは、下地となるカバーフィルム7がハード層7aの優れた硬度とソフト層7bのクッション効果によって、加熱・加圧されても亀裂・断裂等の破壊を生じない。また、シールドフィルム1をプリント回路3を含む基体フィルム5上に載置し、プレス機P(PA,PB)で加熱hしつつ加圧pする際に、ソフト層7bのクッション効果によってハード層7aへの圧力伝達が緩やかに行われるので、高硬度のハード層7aの割れが防止される。ハード層、ソフト層の樹脂としては熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、電子線硬化樹脂等を使用することができる。」

「【0039】
接着剤層8aは、接着性樹脂として、ポリスチレン系、酢酸ビニル系、ポリエステル系、ポリエチレン系、ポリプロピレン系、ポリアミド系、ゴム系、アクリル系などの熱可塑性樹脂や、フェノール系、エポキシ系、ウレタン系、メラミン系、アルキッド系などの熱硬化性樹脂で構成されている。また、これら接着性樹脂に金属、カーボン等の導電性フィラーを混合し、導電性を持たせた導電性接着剤を使用することもできる。また、導電性フィラーの量を少なくする等して異方性導電層を形成することもできる。耐熱性が特に要求されない場合は、保管条件等に制約を受けないポリエステル系の熱可塑性樹脂が望ましく、耐熱性もしくはより優れた可撓性が要求される場合においては、シールド層8を形成した後の信頼性の高いエポキシ系の熱硬化性樹脂が望ましい。また、そのいずれにおいても加熱・加圧時のにじみ出し(レジンフロー)の小さいものが望ましいことはいうまでもない。」

「【0041】
金属フィラー等の導電性フィラーの接着性樹脂への配合割合は、フィラーの形状等にも左右されるが、銀コート銅フィラーの場合は、接着性樹脂100重量部に対して10?400重量部とするのが好ましく、さらに好ましくは20?150重量部とするのがよい。400重量部を超えると、グランド回路(銅箔)3bへの接着性が低下し、シールドFPC10’の可撓性が悪くなる。また、10重量部を下回ると導電性が著しく低下する。また、ニッケルフィラーの場合は、接着性樹脂100重量部に対して40?400重量部とするのが好ましく、さらに好ましくは100?350重量部とするのがよい。400重量部を超えると、グランド回路(銅箔)3bへの接着性が低下し、シールドFPC10’の可撓性が悪くなる。また、40重量部を下回ると導電性が著しく低下する。金属フィラー等の導電性フィラーの形状は、球状、針状、繊維状、フレーク状、樹脂状のいずれであってもよい。」

「【0042】
接着剤層8aの厚さは、前述のように、金属フィラー等の導電性フィラーを混合した場合は、これらフィラーの分だけ厚くなり、20±5μm程度となる。また、導電性フィラーを混合しない場合は、1μm?10μmである。このため、シールド層8を薄くすることが可能となり、薄いシールドFPC10’とすることができる。」

「【0043】
金属層8bを形成する金属材料としては、アルミニウム、銅、銀、金などを挙げることができる。金属材料は、求められるシールド特性に応じて適宜選択すればよいが、銅は大気に触れると酸化しやすいという問題があり、金は高価であることから、安価なアルミニウム又は信頼性の高い銀が好ましい。膜厚は、求められるシールド特性と可撓性に応じて適宜選択されるが、一般に0.01?1.0μmとするのが好ましい。0.01μmを下回るとシールド効果が不十分となり、逆に1.0μmを超えると可撓性が悪くなる。金属層8bの形成方法としては、真空蒸着、スパッタリング、CVD法、MO(メタルオーガニック)、メッキなどがあるが、量産性を考慮すれば真空蒸着が望ましく、安価で安定した金属薄膜を得ることができる。また、金属層は、金属薄膜に限られず、金属箔を用いてもよい。」

「【0062】
(1)摩擦試験 試験片:表1に示す実施例1?3、比較例1?3に記載のカバーフィルム7を有するシールドフィルムを図7(a)に示すように、CCL20に貼着し、加熱・加圧して作成した幅50mm、長さ140mmのシートを用いた。ここで、CCL20は銅箔21に接着剤22を介してポリイミドフィルム23を貼り合わせたものである。各層の厚さは、ハード層7aが2μm、ソフト層7bが3μm、金属層8bが0.15μm、導電性の接着剤層8aが20μm、銅箔21が18μm、接着剤22が17μm、ポリイミドフィルム23が25μmである。 試験方法:摩擦試験は、図5に示すように、JIS L 0849:2004に規定された学振形摩擦試験機50を用いて行った。摩擦子51の質量を500グラムとし、上記試験片52を載置した試験片台53を毎分30回往復の速度で120mmの間を水平に往復運動させ、試験片表面52aに擦り傷が生じないかどうか(耐磨耗性)について試験した。結果は表1において、擦り傷が生じないものを○、生じたものを×とした。」

「図1



「図2



(2)引用文献1の記載から次のことがいえる。
ア.段落【0002】【0031】には、電磁波シールド対策を施したシールドフレキシブルプリント配線板に用いるシールドフィルム1が記載されている。
イ.段落【0033】には、シールドフィルム1がカバーフィルム7とシールド層8を有すること、カバーフィルム7がハード層7aとソフト層7bにより形成されること、シールド層8が接着剤層8aと金属層8bにより形成されることが記載されている。そして、段落【0004】によれば、カバーフィルム1が絶縁フィルムであることがわかる。
また、図1及び図2によれば、シールド層8がカバーフィルム7に隣接すること、ハード層7aがカバーフィルム7においてシールド層8とは反対側の最表層となること、及び、ソフト層7bがハード層7aとシールド層8の間に設けられることが見てとれる。
さらに段落【0033】【0037】には、金属層8bがカバーフィルム7のソフト層7b上に設けられること、及び、接着剤層8aがカバーフィルム7に金属層8bを介して設けられることが記載されている。
ウ.段落【0037】には、ハード層7aとソフト層7bが熱硬化性樹脂であることが記載されている。また、段落【0033】には、ハード層7aとソフト層7bがコーティングにより形成されることが記載されている。
エ.段落【0062】には、ハード層7aの厚さが2μmであり、ソフト層7bの厚さが3μmであることが記載されている。
オ.段落【0037】には、ソフト層7bはJIS K 7244-4に規定された動的機械特性の試験方法により、測定温度範囲-50℃?150℃として測定した弾性率が3ギガパスカル以下の樹脂からなることが記載されている。
カ.段落【0033】【0037】には、ハード層7aは耐摩耗性、耐ブロッキング性に優れ、優れた硬度を有する樹脂からなり、ソフト層7bはクッション性に優れた樹脂からなることが記載されている。
キ.段落【0043】には、金属層8bがアルミニウム、銅、銀、金などの金属材料により形成され、真空蒸着、スパッタリング、CVD方、メッキなどにより形成される金属薄膜であることが記載されている。
ク.段落【0033】【0039】には、接着剤層8aが導電性接着剤からなり、熱硬化性樹脂に導電性フィラーを混合した異方性導電層であることが記載されている。また、段落【0041】には、導電性フィラーの形状が球状であることが記載されている。
ケ.段落【0042】には、接着剤層8aの厚さは導電性フィラーを混合した場合に20±5μm程度であることが記載されている。

(3)上記(1)及び(2)から、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。
「絶縁フィルムであるカバーフィルム7と、カバーフィルム7に隣接するシールド層8とを有し、電磁波シールド対策を施したシールドフレキシブルプリント配線板に用いるシールドフィルム1であって、
カバーフィルム7はコーティングにより形成される熱硬化性樹脂であるハード層7aとソフト層7bより形成され、
ハード層7aはカバーフィルム7においてシールド層8とは反対側の最表層にあり、ソフト層7bはハード層7aとシールド層8の間に設けられ、
シールド層8はカバーフィルム7のソフト層7b上に設けられた金属層8bと、カバーフィルム7に金属層8bを介して設けられた接着剤層8aにより形成され、
ハード層7aの厚さが2μmであり、ソフト層7bの厚さが3μmであり、
ソフト層7bはJIS K 7244-4に規定された動的機械特性の試験方法により、測定温度範囲-50℃?150℃として測定した弾性率が3ギガパスカル以下の樹脂からなり、
ハード層7aは耐摩耗性、耐ブロッキング性に優れ、優れた硬度を有する樹脂からなり、ソフト層7bはクッション性に優れた樹脂からなり、
金属層8bはアルミニウム、銅、銀、金などの金属材料により形成され、真空蒸着、スパッタリング、CVD方、メッキなどにより形成される金属薄膜であり、
接着剤層8aは熱硬化性樹脂に球状の導電性フィラーを混合した異方性導電層であり、厚さが導電性フィラーを混合した場合に20±5μm程度である、
電磁波シールド対策を施したシールドフレキシブルプリント配線板に用いるシールドフィルム1。」

第5 対比
1 本願発明と引用発明とを対比すると、次のことがいえる。
ア.引用発明の「カバーフィルム7」は、「熱硬化性樹脂であるハード層7aとソフト層7bより形成され」る「絶縁フィルム」であるから、本願発明の「絶縁樹脂層」に相当する。
また、引用発明の「シールド層8」は、「アルミニウム、銅、銀、金などの金属材料により形成され」た「金属層8b」と「熱硬化性樹脂に球状の導電性フィラーを混合した異方性導電層」である「接着剤層8a」により形成されるから、本願発明の「導電層」に相当する。
さらに、引用発明の「シールドフィルム1」は、「電磁波シールド対策を施したシールドフレキシブルプリント配線板に用いる」から、本願発明の「フレキシブルプリント配線板用電磁波シールドフィルム」に相当する。

イ.引用発明の「ハード層7a」は、「カバーフィルム7においてシールド層8とは反対側の最表層」にある「熱硬化性樹脂」であるから、本願発明の「前記絶縁樹脂層において前記導電層とは反対側の最表層となる第1の絶縁樹脂層」に相当する。また、引用発明の「ソフト層7b」は、「ハード層7aとシールド層8の間に設けられ」る「熱硬化性樹脂」であり、カバーフィルム1においてハード層7a以外の絶縁樹脂層となるから、本願発明の「前記第1の絶縁樹脂層以外の第2の絶縁樹脂層」に相当する。
よって、引用発明の「ハード層7a」と「ソフト層7b」は、本願発明の「第1の絶縁樹脂層」と「第2の絶縁樹脂層」にそれぞれ相当する。

ウ.引用発明の「ハード層7aの厚さが2μmであり、ソフト層7bの厚さが3μmであ」ることは、本願発明の「前記第1の絶縁樹脂層の厚さが、0.1μm以上30μm以下であり、前記第2の絶縁樹脂層の厚さが、0.1μm以上30μm以下であ」ることに含まれる。

エ.「JIS K 7244-4」は動的貯蔵弾性率の測定に適する規格であるから、引用発明の「ソフト層7bはJIS K 7244-4に規定された動的機械特性の試験方法により、測定温度範囲-50℃?150℃として測定した弾性率が3ギガパスカル以下の樹脂からな」ることは、ソフト層7bの25℃における貯蔵弾性率が3ギガパスカル(3×10^(9)Pa)以下であることを含む。
よって、引用発明の「ソフト層7bはJIS K 7244-4に規定された動的機械特性の試験方法により、測定温度範囲-50℃?150℃として測定した弾性率が3ギガパスカル以下の樹脂から」なることは、本願発明の「前記第2の絶縁樹脂層の25℃における貯蔵弾性率が、8×10^(8)Pa以上1×10^(10)Pa以下であ」ることに含まれる。
なお、本願発明の「第2の絶縁樹脂層の25℃における貯蔵弾性率」の下限値及び上限値の規定について、本願の明細書(特に、段落【0017】、【表1】)を参照しても、当該下限値及び上限値を境にして、当業者が予測し得ない格別顕著な効果がある旨の記載も示唆もされていないから、当該下限値及び上限値に臨界的意義があるとは認められない。

オ.引用発明の「金属層8b」は、「カバーフィルム7のソフト層7b上に設けられ」、「真空蒸着、スパッタリング、CVD方、メッキなどにより形成される金属薄膜」であるから、本願発明の「前記絶縁樹脂層に隣接する、物理蒸着、CVD又はめっきによって前記絶縁樹脂層の表面に形成された金属薄膜層」に相当する。

カ.引用発明の「接着剤層8a」は、金属層8bと共にシールド層8を形成する層であり、「カバーフィルム7に金属層8aを介して設けられ」るから、シールド層8においてカバーフィルム7とは反対側の最表層となる。
また、引用発明の「接着剤層8a」に用いられる「熱硬化性樹脂」は、本願発明の「熱硬化性接着剤」に相当する。そして、引用発明の「導電性フィラー」は、「球状」であるから、本願発明の「導電性粒子」に相当する。
よって、引用発明の「カバーフィルム7に金属層8bを介して設けられ」、「熱硬化性樹脂に球状の導電性フィラーを混合した異方性導電層である接着剤層8a」は、本願発明の「熱硬化性接着剤と導電性粒子とを含む異方導電性接着剤層」に相当する。

キ.本願発明では、「前記第1の絶縁樹脂層が、熱硬化性樹脂と硬化剤とを含む第1の塗料を塗布し、硬化させて形成された塗膜であり、前記第2の絶縁樹脂層が、熱硬化性樹脂と硬化剤とを含む第2の塗料を塗布し、硬化させて形成された塗膜であ」るのに対して、引用発明にはその旨の特定がない点で相違する。

ク.本願発明では「前記第1の絶縁樹脂層の25℃における貯蔵弾性率が、9×10^(9)Pa以上5×10^(11)Pa以下であ」るのに対して、引用発明にはその旨の特定がない点で相違する。

ケ.本願発明では「前記第1の絶縁樹脂層の25℃における貯蔵弾性率が、前記第2の絶縁樹脂層の25℃における貯蔵弾性率より高」いのに対して、引用発明にはその旨の特定がない点で相違する。

コ.本願発明では、「前記異方導電接着剤層の厚さが3μm以上10μm以下である」のに対して、引用発明の「接着剤層8aの厚さは、導電性フィラーを混合した場合に20±5μm程度である」点で相違する。

2 したがって、上記アないしコによれば、本願発明と引用発明とは、次の(一致点)および(相違点)を有する。

(一致点)
「絶縁樹脂層と、
前記絶縁樹脂層に隣接する導電層と
を有するフレキシブルプリント配線板用電磁波シールドフィルムであって、
前記絶縁樹脂層が、前記絶縁樹脂層において前記導電層とは反対側の最表層となる第1の絶縁樹脂層と、前記第1の絶縁樹脂層以外の第2の絶縁樹脂層とを有し、
前記第1の絶縁樹脂層の厚さが、0.1μm以上30μm以下であり、
前記第2の絶縁樹脂層の厚さが、0.1μm以上30μm以下であり、
前記第2の絶縁樹脂層の25℃における貯蔵弾性率が、8×10^(8)Pa以上1×10^(10)Pa以下であり、
前記導電層は、前記絶縁樹脂層に隣接する、物理蒸着、CVD又はめっきによって前記絶縁樹脂層の表面に形成された金属薄膜層と、前記導電層において前記絶縁樹脂層とは反対側の最表層となる導電性接着剤層とを有する、 フレキシブルプリント配線板用電磁波シールドフィルム。」

(相違点1)
本願発明では、「前記第1の絶縁樹脂層が、熱硬化性樹脂と硬化剤とを含む第1の塗料を塗布し、硬化させて形成された塗膜であり、前記第2の絶縁樹脂層が、熱硬化性樹脂と硬化剤とを含む第2の塗料を塗布し、硬化させて形成された塗膜であ」るのに対して、引用発明にはその旨の特定がない点。
(相違点2)
本願発明では、「前記第1の絶縁樹脂層の25℃における貯蔵弾性率が、9×10^(9)Pa以上5×10^(11)Pa以下であ」るのに対して、引用発明にはその旨の特定がない点。
(相違点3)
本願発明では、「前記第1の絶縁樹脂層の25℃における貯蔵弾性率が、前記第2の絶縁樹脂層の25℃における貯蔵弾性率より高」いのに対して、引用発明にはその旨の特定がない点。
(相違点4)
本願発明では、「異方性導電性接着剤層の厚さが3μm以上10μm以下である」のに対して、引用発明の「接着剤層8aの厚さは、導電性フィラーを混合した場合に20±5μm程度である」点。

第6 判断
1 上記相違点について判断する。
(1)相違点1について
例えば引用文献2(段落【0028】を参照。)に記載されるとおり、「電磁波シールドフィルムの基材層として、熱硬化性樹脂と硬化剤とを含む塗料を塗布し、硬化させて形成された塗膜を用いる技術」は周知技術である。
そして、引用発明の「ハード層7a」と「ソフト層7b」は「コーティングにより層形成される熱硬化性樹脂」であるから、熱硬化性樹脂を用いて「ハード層7a」と「ソフト層7b」を形成する具体的な手法として、当該周知技術を適用して、相違点1に係る構成を採用することは当業者が容易になし得たことである。

(2)相違点3について
上記「第5」「1」「イ.」で説示したとおり、引用発明の「ハード層7a」と「ソフト層7b」は、本願発明の「第1の絶縁樹脂層」と「第2の絶縁樹脂層」にそれぞれ相当する。
ここで、引用発明の「ハード層7a」は「耐摩耗性、耐ブロッキング性に優れ、優れた硬度を有する樹脂」であるのに対して、「ソフト層7b」は「クッション性に優れた樹脂」であるから、ハード層7aがソフト層7bより硬いこと、すなわち、ハード層7aの貯蔵弾性率がソフト層7bの貯蔵弾性率より高いことは明らかである。
よって、相違点3は実質的な相違ではない。

(3)相違点2について
本願発明の第1の絶縁樹脂層の25℃における貯蔵弾性率の「9×10^(9)Pa」という下限値及び「5×10^(11)Pa」という上限値について検討すると、本願の明細書(特に、段落【0016】、【表1】)を参照しても、当該下限値及び上限値を境にして、当業者が予測し得ない格別顕著な効果がある旨の記載も示唆もされていないから、当該下限値及び上限値に臨界的意義があるとは認められない。
そして、引用発明のハード層7aの25℃における貯蔵弾性率は、3ギガパスカル以下であるソフト層7bの弾性率よりも高く設計されているものであるところ、具体的にどの程度とするかは、ハード層7aに求められる耐摩耗性、耐ブロッキング性、硬度などに応じて定められる設計的事項であるから、引用発明の「ハード層7a」の25℃における貯蔵弾性率を、相違点2に係る構成となすことは、当業者が容易になし得た事項であると認められる。

(4)相違点4について
ア.当該相違点4に係る構成は、補正により追加されたものであるところ、以下に述べるように周知の技術事項である。
イ.国際公開2013/077108号には、絶縁層2と金属層3と異方導電性接着剤層4とを順次設けてなり、金属層3により電磁波を遮蔽することができるシールドフィルム1(段落【0022】【0024】)に用いられる異方導電性接着剤層4について、熱硬化性樹脂である接着剤に導電性フィラーが添加されて形成されること(段落【0026】)、プリント配線板10のグランド回路6bと金属層3とを電気的に接続すること(段落【0035】)、及び、シールドフィルム1をフレキシブルプリント配線板に適用する場合、厚みの下限は3μmがより好ましく厚みの上限は9μmがより好ましいこと(段落【0026】)が記載されている。
ウ.国際公開2014/192494号には、絶縁層3と金属薄膜4と接着層5とが順に積層された電磁波シールドフィルム1(段落【0029】)に用いられる接着剤層5について、熱硬化性樹脂である接着性樹脂に導電性フィラーを含有させた異方導電性接着剤層とすることができること(段落【0040】、【0049】、【0052】)、フレキシブルプリント配線板6のプリント回路8のグランド回路8bと金属薄膜4とを電気的に接続すること(段落【0055】、【0056】)、及び、シールドフィルム1をフレキシブルプリント配線板に適用する場合、厚みの下限は3μmがより好ましく厚みの上限は9μmがより好ましいこと(段落【0052】)が記載されている。
エ.特開2015-138813号公報には、絶縁層と導電層と接着層を含む電磁波シールド性フィルム(段落【0010】)に用いられる接着層について、熱硬化性樹脂と導電性フィラーHを含有する異方導電性接着剤層(段落【0013】、【0018】、【0019】)を用いることで、プリント配線板のグラウンド回路と導電層とを電気的に接合できること(段落【0018】)、及び、厚みはより好ましくは2μm?10μmであること(段落【0017】)が記載されている。
オ.よって、上記イないしエによれば、「絶縁層と金属層と異方導電性接着剤層とを備え、プリント配線板に用いられる電磁波シールドフィルムにおいて、熱硬化性樹脂と導電性フィラーを含み、プリント配線板のグランド回路を金属層とを電気的に接続する異方導電性接着剤層として、厚みが3μm以上10μm以下の異方導電性接着剤層を用いること」は周知技術である。
カ.ここで、引用発明の「接着剤層8a」はプリント配線板のグランド回路と金属層とを電気的に接続するから(引用文献1の段落【0019】【0027】)、当該「接着剤層8a」と上記周知技術に係る「異方導電性接着剤層」は、プリント配線板のグランド回路と金属層とを電気的に接続するために用いられる点で作用・機能が共通する。また、引用発明の「接着剤層8a」と上記周知技術に係る「異方導電性接着剤層」は、共に、熱硬化性樹脂と導電性フィラーを含むことから構成する材料も共通する。
そして、引用発明がシールドフィルムの厚さを薄くすることも目的としていること(段落【0013】)に鑑みれば、「接着剤層8a」に上記周知技術を採用して相違点4に係る構成をなすことを当業者が容易になし得たことである。
キ.請求人の主張について
請求人は、令和3年4月9日付け意見書において、「引用文献1には、『接着剤層8aの厚さは、前述のように、金属フィラー等の導電性フィラーを混合した場合は、これらフィラーの分だけ厚くなり、20±5μm程度となる。また、導電性フィラーを混合しない場合は、1μm?10μmである。このため、シールド層8を薄くすることが可能となり、薄いシールドFPC10’とすることができる。』(段落[0042])と記載されています(下線は請求人が付与しました)。そうすると、引用文献1に記載されたシールドフィルムにおいて、接着剤層8a(本願請求項1における導電性接着剤層に相当する)に導電性フィラー(本願請求項1における導電性粒子に相当する)を混合する場合の接着剤層8aの厚さは20±5μmであるのだから、3μm以上10μm以下とすることは考えられません。さらにいえば、引用文献1(段落[0042])には、接着剤層8aに導電性フィラーを混合しない場合に接着剤層8aの厚さを1μm?10μmという薄さにできるのであって、導電性フィラーを混合する場合に接着剤層8aの厚さを1μm?10μmという薄さにはできないということが記載されているに等しいといえます。」と主張している。
しかしながら、上記イないしオにおいて説示したとおり、本願の出願時において、「絶縁層と金属層と異方導電性接着剤層とを備え、プリント配線板に用いられる電磁波シールドフィルムにおいて、熱硬化性樹脂と導電性フィラーを含み、プリント配線板のグランド回路を金属層とを電気的に接続する異方導電性接着剤層として、厚みが3μm以上10μm以下の異方導電性接着剤層を用いること」は周知技術であるから、導電性フィラーを混合する場合においても、接着剤層の厚みを10μm以下とすることができたものである。
また、上記カにおいて説示したとおり、引用発明の「接着剤層8a」と周知技術の異方導電性接着剤層は、作用・機能が共通し、また、構成する材料も共通する。
そして、引用発明は、シールドフィルムの厚さを薄くすることも目的とするから(段落【0013】)、「接着剤層8a」として、上記周知技術の厚さを採用することは当業者が容易になし得たことである。
また、引用文献1の上記段落【0042】の記載は、厚み10μm以下の導電性フィラーを含む異方導電性接着剤層の適用を妨げるものでもない。
よって、請求人の主張は採用することができない。

(5)したがって、上記(1)ないし(4)によれば、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明することができたものである。

第7 むすび
以上のとおり、本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1に記載された発明及び周知技術に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2021-07-28 
結審通知日 2021-08-03 
審決日 2021-08-18 
出願番号 特願2015-224714(P2015-224714)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H05K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鹿野 博司  
特許庁審判長 酒井 朋広
特許庁審判官 永井 啓司
須原 宏光
発明の名称 フレキシブルプリント配線板用電磁波シールドフィルムおよび電磁波シールドフィルム付きフレキシブルプリント配線板  
代理人 川越 雄一郎  
代理人 西澤 和純  
代理人 伏見 俊介  

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