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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H04N
審判 全部申し立て 2項進歩性  H04N
管理番号 1378763
異議申立番号 異議2021-700438  
総通号数 263 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-11-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-05-10 
確定日 2021-10-12 
異議申立件数
事件の表示 特許第6783355号発明「映像復号化装置、映像符号化装置およびビットストリームの送信方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6783355号の請求項に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6783355号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?3に係る特許についての出願は、2012年(平成24年)1月31日(パリ条約に基づく優先権主張外国庁受理 2011年1月31日 韓国特許庁、2011年3月3日 韓国特許庁、2011年5月27日 韓国特許庁、2011年7月1日 韓国特許庁、2012年1月31日 韓国特許庁)を国際出願日とする特願2013-551919号の一部を平成28年2月8日に出願した特願2016-021985号の一部を平成29年8月29日に出願した特願2017-164566号の一部を令和1年6月28日に特願2019-122135号として出願したものであって、令和2年10月23日にその特許権の設定登録(特許公報発行日 令和2年11月11日)がされ、令和3年5月10日に特許異議申立人ユニファイド パテンツ エルエルシーにより請求項1?3に対して特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明
本件特許の請求項1?3に係る発明(以下「本件発明1?3」等という。)は、本件特許の特許請求の範囲の請求項1?3に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。(符号A1?F1、A2?F2、A3?F3は合議体が付した。以下、構成A1?F3等という。)

(本件発明1)
【請求項1】
A1 参照ピクチャを格納するための参照ピクチャバッファと、
B1 前記参照ピクチャ及び前記参照ピクチャの動きベクトルを利用して、予測ブロックを生成するための動き補償部と、
を含み、
C1 前記参照ピクチャの前記動きベクトルは、所定のレンジでクリップされ、
D1 前記クリップされた動きベクトルは、前記予測ブロックを生成するための、予測された動きベクトルとして用いられ、
E1 前記参照ピクチャの前記動きベクトルは、
E1-1 現在ブロックと同じ位置に存在するブロック、
E1-2 および前記現在ブロックに空間的に対応する位置に存在するブロック
E1-3 から選択された前記参照ピクチャ内のブロックの動きベクトルである
F1 ことを特徴とする映像復号化装置。

(本件発明2)
【請求項2】
A2 参照ピクチャを格納するための参照ピクチャバッファと、
B2-1 前記参照ピクチャ及び前記参照ピクチャの動きベクトルを利用して、予測ブロックを生成するための動き補償部と、
B2-2 現在ブロックから前記予測ブロックを引いて、残差ブロックを生成するための減算器と、
B2-3 前記残差ブロックの量子化された変換係数を符号化することによってビットストリームを生成するためのエントロピー符号化部と、
を含み、
C2 前記参照ピクチャの前記動きベクトルは、所定のレンジでクリップされ、
D2 前記クリップされた動きベクトルは、前記予測ブロックを生成するための、予測された動きベクトルとして用いられ、
E2 前記参照ピクチャの前記動きベクトルは、
E2-1 現在ブロックと同じ位置に存在するブロック、
E2-2 および前記現在ブロックに空間的に対応する位置に存在するブロック
E2-3 から選択された前記参照ピクチャ内のブロックの動きベクトルである
F2 ことを特徴とする映像符号化装置。

(本件発明3)
【請求項3】
F3 映像符号化装置により実行されるビットストリームの送信方法であって、
A3 参照ピクチャを格納するステップと、
B3-1 前記参照ピクチャと、前記参照ピクチャの動きベクトルとを用いて予測ブロックを生成するステップと、
B3-2 前記予測ブロックに基づいて符号化されたビットストリームを映像復号化装置に送信するステップと、
を備え、
C3 前記参照ピクチャの前記動きベクトルは、所定のレンジでクリップされ、
D3 前記クリップされた動きベクトルは、前記予測ブロックを生成するための、予測された動きベクトルとして用いられ、
E3 前記参照ピクチャの前記動きベクトルは、
E3-1 現在ブロックと同じ位置に存在するブロック、
E3-2 および前記現在ブロックに空間的に対応する位置に存在するブロック
E3-3 から選択された前記参照ピクチャ内のブロックの動きベクトルである、
F3 方法。


第3 特許異議申立書に記載された取消理由
特許異議申立に記載された取消理由の概要は、以下のとおりである。

1.取消理由
(1)取消理由1
本件発明1?3は、甲第1号証に記載された発明と同一であり、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許1?3は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきである。

(2)取消理由2
仮に本件発明1?3と、甲第1号証記載の発明との間に相違点があったとしても、本件発明1?3は、甲第1号証に記載された発明に基づいて、または甲第1号証に記載された発明と周知技術に記載された発明に基づいて、出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許1?3は同法第113条第2号に該当し、取り消すべきである。

2.証拠方法
(1) 甲第1号証:国際公開第WO98/59496号公報
(2) 甲第2号証:インプレス標準教科書シリーズ 改訂三版 H.264/AVC教科書、第1版、2009年1月1日発行、株式会社インプレスR&D、p.86-87、p.128-131
(3) 甲第3号証:如澤裕尚著、「MPEG-4の符号化効率」、テレビジョン学会映像メディア部門冬季大会講演予稿集、1996年12月4日、p.39-44
(4) 甲第4号証:大塚吉道、内藤整、猪俣秀樹著、「HDTV高圧縮技術?MPEG-2低ビットレート化の検討?」、社団法人映像情報メディア学会技術研究報告、2002年3月20日、p.25-30
(5) 甲第5号証:特表2009-533901号公報
(6) 甲第6号証:再公表特許公開WO2008/136178号公報
(特許異議申立書114頁 「6 証拠方法」)

第4 当審の判断
当審においては、まず本件発明2について判断し、その後本件発明1、3について判断する。

1.取消理由1について
(1)甲第1号証及び甲1発明
甲第1号証には、動画像符号化及び復号化装置に関して以下の記載がある。(下線は合議体が付した。)

(1-1) 「したがって、その様な場合、符号量の増加を避けるために、従来より、複数の動き補償方法の中から、符号化対象小ブロックの予測誤差が最小となる動き補償方法を選択して動きベクトルの符号化を行う方法が知られている。ここで、そのような符号化方法の例として、平行移動モデルと、平行移動+拡大/縮小モデルの、異なる2種類の動きモデルをそれぞれ想定した2つの動き補償方法をもち、いずれか一方の動き補償方法を選択して符号化を行う符号化方法をあげる。
ここで、図9(a)および(b)に、それぞれ、平行移動動きモデルと、平行移動+拡大/縮小動きモデルの例を示す。図9(a)に示す平行移動動きモデルは、被写体の動きを平行移動成分(x、y)で表現する動きモデルである。また、図9(b)に示す平行移動+拡大/縮小動きモデルは、被写体の動きを平行移動成分(x、y)だけでなく、被写体の拡大または縮小した量を示すパラメータzを加えて、(x,y,z)で表現する動きモデルである。図9(b)に示す平行移動+拡大/縮小動きモデルの例では、動きベクトルのパラメータzは、縮小を表す値となる。」(2頁15?29行)

(1-2) 「以下、グローバル動き補償を用いた符号器の構成及び処理の流れを図11により簡単に説明する。
始めに、符号化対象画像31はグローバル動き検出器34に入力され、ここで画面全体に対するグローバル動きパラメータ35が求められる」(4頁21行?25行)

(1-3) 「さて、グローバル動き検出器34で求められたグローバル動きパラメータ35は、フレームメモリ32に蓄積された参照画像33と共にグローバル動き補償器36に入力される。グローバル動き補償器36は、グローバル動きパラメータ35から求められる画素毎の動きベクトルを参照画像33に作用させ、グローバル動き補償予測画像37を生成する。
一方、フレームメモリ32に蓄積された参照画像33は、入力画像31と共にローカル動き検出器38に入力される。ローカル動き検出器38では、16画素×16ラインのマクロブロック毎に、入力画像31と参照画像33との間の動きベクトル39を検出する。ローカル動き補償器40は、マクロブロック毎の動きベクトル39と参照画像33からローカル動き補償予測画像41を生成する。これは従来のMPEG等で用いられている動き補償方法そのものである。
次に、符号化モード選択器42では、グローバル動き補償予測画像37とローカル動き補償予測画像41のうち、入力画像31との誤差が小さくなる方をマクロブロック毎に選択する。グローバル動き補償が選択されたマクロブロックでは、ローカル動き補償を行わないため、動きベクトル39は符号化されない。符号化モード選択器42で選択された予測画像43は減算器44に入力され、入力画像31と予測画像43と間の差分画像45はDCT部46でDCT係数47に変換される。次に、DCT係数47は、量子化器48で量子化インデックス49に変換される。量子化インデックス49は量子化インデックス符号化器57、符号化モード選択情報56は符号化モード符号化器58、動きベクトル39は動きベクトル符号化器59、グローバル動きパラメータ35はグローバル動きパラメータ符号化器60で個別に符号化された後、多重化されて符号化器出力となる。」(5頁21行?6頁15行)

(1-4) 「そこで、平行移動動きモデルの動きベクトルと、平行移動+拡大/縮小動きモデルの動きベクトルの間の相関について、図10に示す動きベクトルを参照して考える。図10において、符号化対象小ブロックBoaとBobの動き補償を行うにあたり、符号化対象小ブロックBoaは、参照フレームに含まれる小ブロックBraを参照して、平行移動動きモデルを想定した動き補償方法により動き補償を行い、符号化対象小ブロックBobは、参照フレームに含まれる小ブロックBrbを参照して、平行移動+拡大/縮小動きモデルを想定した動き補償方法により動き補償を行うものとする。
この場合、図10の動きベクトルva(注:正しくはvaの上に→;以下同じ)=(xa,ya)は平行移動動きモデル、vb(注:正しくはvbの上に→;以下同じ)=(xb,yb,zb)は平行移動+拡大/縮小動きモデルとなる。この時、符号化対象小ブロックBobの動き補償では、参照フレームに含まれる小プロックBrbを拡大して参照している。したがって、図10に示す動きベクトルva、vbでは、平行移動成分がほぼ同じ値となり、冗長性があることを示している。
しかしながら従来の方法では、ある動きモデルの動きベクトルから、その動きベクトルとは異なる動きモデルの動きベクトルを予測していないため、動きモデルが異なる動きベクトル間における冗長性を削減できなかった。」(8頁2?19行)

(1-5) 「また、前述したMPEG-4では、動きベクトルを効率良く符号化するため、予測符号化が用いられている。例えば、図11の動きベクトル符号化器59の動作は次のようになっている。すなわち、図13に示すように、現在ブロックのベクトルMVは、左ブロックの動きベクトルMV1、真上ブロックの動きベクトルMV2、右斜め上ブロックのMV3の3つを参照し、これらの中央値(メディアン)を予測値としている。現在ブロックのベクトルMVの予測値をPMVとすると、PMVは次式(7)で定義される。
PMV=median(MV1,MV2,MV3)……(9)
ただし、参照ブロックがフレーム内符号化モードの場合には動きベクトルが存在しないので、該当位置のベクトル値を0として中央値を求める。また、参照ブロックがグローバル動き補償で予測されている場合にも動きベクトルが存在しないので、該当位置のベクトル値を0として中央値を計算する。たとえば、左ブロックがローカル動き補償、真上ブロックがグローバル動き補償、右斜め上ブロックがフレーム内の場合、MV2=MV3=0とする。また、3つの参照ブロックが全てグローバル動き補償の場合、MV1=MV2=MV3=0となり、これらの中央値も0であるので予測値は0となる。この場合、現在ブロックの動きベクトルは予測符号化しないことと等価であり、符号化効率が低下してしまう。」(8頁21行?9頁9行)

(1-6) 「また、MPEG-4では、ローカル動きベクトルの大きさの範囲(レンジ)として[表1]の7通りが定義されており、それぞれfcodeというビットストリーム中の符号語でどのレンジを用いたかを復号器に指示する。



ところが、MPEG-4におけるグローバル動きパラメータは-2048?+2047.5の広い範囲を取り得るため、グローバル動きベクトルから求められる動きベクトルも-2048?+2047.5の値を取り得る。しかし、ローカル動きベクトルのレンジはそれよりも小さく、予測が大きくはずれる場合が起こる。例えば、fcode=3で、現在ブロックの動きベクトルが(Vx,Vy)=(+48,+36.5)、グローバル動きベクトルから求められた予測ベクトルが(PVx,PVy)=(+102,+75)の場合、予測誤差は(MVDx,MVDy)=(-54,-38.5)となり、その絶対値は元の(Vx,Vy)より大きくなってしまう。予測誤差(MVDx,MVDy)に割り当てられる符号語の語長は、絶対値が小さいほど短い。したがって、動きベクトル予測により符号量が逆に増大してしまうという欠点があった。
よって、本発明の目的は、動きベクトルの発生符号量を抑え、動きベクトル予測の効率を向上させる動きベクトル予測符号化方法および動きベクトル復号方法、予測符号化装置および復号装置、並びに、動きベクトルの予測符号化プログラムおよび復号プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体を提供することにある。」(9頁11行?10頁13行)

(1-7) 「また、ローカル動き補償が選択された符号化対象小ブロックの動きベクトルをグローバル動きパラメータから予測するにあたり、該予測ベクトルの大きさが予め規定された範囲を超える場合に、該予測ベクトルをその予め規定された範囲内にクリップする。もしくは、ローカル動き補償が選択されたブロックの動きベクトルをグローバル動きパラメータから予測するにあたり、該予測ベクトルの大きさが予め規定された範囲を超える場合に、該予測ベクトルを0とする。」(12頁3?8行)

(1-8) 「また、グローバル動きパラメータから得られる予測ベクトルが、ローカル動きベクトルのレンジを超えた場合にその最小値または最大値にクリップするため、たとえば、fcode=3(動きベクトルのレンジは-64?+63.5画素)で、現在ブロックの動きベクトルが(Vx,Vy)=(+48,+36.5)、グローバル動きパラメータから求められた予測ベクトルが(PVx,PVy)=(+102,+75)の場合、予測ベクトルは(PVx,PVy)=(+63.5,+63.5)にクリップされる。予測誤差(MVDx,MVDy)=(-15.5,-27)となり、従来の方法の(-54,-38.5)に比べ絶対値は小さくなる。動きベクトルの差分に割り当てられる符号語は、絶対値が小さいほど短い語長であるので、トータルの符号量は削減することができる。
また、予測ベクトルを0クリアしてしまう方法の場合、たとえば、fcode=3(動きベクトルのレンジは-64?+63.5画素)で、現在ブロックの動きベクトルが(Vx,Vy)=(+48,+36.5)、グローバル動きパラメータから求められた予測ベクトルが(PVx,PVy)=(+102,+75)の場合、予測ベクトルは(PVx,PVy)=(0,0)にクリアされる。予測誤差は(MVDx,MVDy)=(+48,+36.5)となり、クリップ方式の(-15.5,-27)よりは絶対値が大きくなるものの、従来の方法の(-54,-38.5)に比べ絶対値は小さくなる。
さらに他の例として、fcode=1(動きベクトルのレンジは-16?+15.5画素)で、現在ブロックの動きベクトルが(Vx,Vy)=(+3,+1.5)、グローバル動きパラメークから求められた予測ベクトルが(PVx、PVy)=(+102,+75)の場合を考える。クリップ方式では、予測ベクトルは(PVx,PVy)=(+15.5,+15.5)となり、予測誤差(MVDx,MVDy)=(-12.5,-14)となる。一方、0クリア方式では、予測ベクトルは(PVx,PVy)=(0,0)となり、予測誤差(MVDx,MVDy)=(+3,+1.5)となる。この例では、クリップ方式よりも0クリア方式の方が、絶対値を小さくすることができる。」(13頁19行?14頁18行)

(1-9)





上記記載から、甲第1号証には以下の発明(以下、甲1発明という。)が記載されているものと認められる。(符号は本件発明2の符号に対応させた。)

(甲1発明)
a2、b2-1 グローバル動き補償を用いた符号器を備え、(1-2)
符号化対象画像31はグローバル動き検出器34に入力され、ここで画面全体に対するグローバル動きパラメータ35が求められ、(1-2)
グローバル動き検出器34で求められたグローバル動きパラメータ35は、フレームメモリ32に蓄積された参照画像33と共にグローバル動き補償器36に入力され、グローバル動き補償器36は、グローバル動きパラメータ35から求められる画素毎の動きベクトルを参照画像33に作用させ、グローバル動き補償予測画像37を生成し、
フレームメモリ32に蓄積された参照画像33は、入力画像31と共にローカル動き検出器38に入力され、ローカル動き検出器38では、マクロブロック毎に、入力画像31と参照画像33との間の動きベクトル39を検出し、ローカル動き補償器40は、マクロブロック毎の動きベクトル39と参照画像33からローカル動き補償予測画像41を生成し、符号化モード選択器42では、グローバル動き補償予測画像37とローカル動き補償予測画像41のうち、入力画像31との誤差が小さくなる方をマクロブロック毎に選択し、(1-3)
b2-2、b2-3 符号化モード選択器42で選択された予測画像43は減算器44に入力され、入力画像31と予測画像43と間の差分画像45はDCT部46でDCT係数47に変換され、DCT係数47は、量子化器48で量子化インデックス49に変換され、量子化インデックス49は量子化インデックス符号化器57、動きベクトル39は動きベクトル符号化器59で個別に符号化された後、多重化されて符号化器出力となるものであって、(1-3)
c2、d2 ローカル動き補償が選択された符号化対象小ブロックの動きベクトルをグローバル動きパラメータから予測するにあたり、該予測ベクトルの大きさが予め規定された範囲を超える場合に、該予測ベクトルをその予め規定された範囲内にクリップする、もしくは、該予測ベクトルを0とするものであり、(1-7)
グローバル動きパラメータから得られる予測ベクトルが、ローカル動きベクトルのレンジを超えた場合にその最小値または最大値にクリップする、もしくは予測ベクトルを0クリアしてしまう(1-8)ものであり、
e2 動きベクトル符号化器59の動作は、現在ブロックのベクトルMVは、左ブロックの動きベクトルMV1、真上ブロックの動きベクトルMV2、右斜め上ブロックのMV3の3つを参照し、これらの中央値(メディアン)を予測値としている、(1-5)
f2 動きベクトルの発生符号量を抑え、動きベクトル予測の効率を向上させる動きベクトル予測符号化装置(1-6)。

(2)本件発明2と甲1発明との対比
本件発明2と甲1発明とを対比する。

(a) 甲1発明の構成a2、b2-1における「フレームメモリ32に蓄積された参照画像33」から、甲1発明には「参照画像33」を蓄積した「フレームメモリ32」が備えられており、当該「フレームメモリ32」は本件発明2の構成A2の「参照ピクチャを格納するための参照ピクチャバッファ」に相当する。

(b1) 甲1発明の構成a2、b2-1において「グローバル動きパラメータ35は、フレームメモリ32に蓄積された参照画像33と共にグローバル動き補償器36に入力され、グローバル動き補償器36は、グローバル動きパラメータ35から求められる画素毎の動きベクトルを参照画像33に作用させ、グローバル動き補償予測画像37を生成」すること、「フレームメモリ32に蓄積された参照画像33は、入力画像31と共にローカル動き検出器38に入力され、ローカル動き検出器38では、マクロブロック毎に、入力画像31と参照画像33との間の動きベクトル39を検出し、ローカル動き補償器40は、マクロブロック毎の動きベクトル39と参照画像33からローカル動き補償予測画像41を生成」すること、「グローバル動き補償予測画像37とローカル動き補償予測画像41のうち、入力画像31との誤差が小さくなる方をマクロブロック毎に選択」することから、当該「グローバル動き補償器36」及び「ローカル動き補償器40」は、参照画像及び動きベクトルから動き補償予測画像を生成するものであり、本件発明2の構成B2-1の「前記参照ピクチャ及び前記参照ピクチャの動きベクトルを利用して、予測ブロックを生成するための動き補償部」に相当する。

(b2) 甲1発明の構成b2-2、b2-3において、「符号化モード選択器42で選択された予測画像43は減算器44に入力され」、「入力画像31と予測画像43と間の差分画像45」が得られるものといえる。
そうすると、当該「減算器44」は「入力画像31と予測画像43の差分画像45」を生成するものであり、本件発明2の構成B2-2の「現在ブロックから前記予測ブロックを引いて、残差ブロックを生成するための減算器」に相当する。

(b3) 甲1発明の構成b2-2、b2-3において、「入力画像31と予測画像43と間の差分画像45はDCT部46でDCT係数47に変換され、DCT係数47は、量子化器48で量子化インデックス49に変換され、量子化インデックス49は量子化インデックス符号化器57」で「符号化された後」「符号化器出力となる」ものである。
そうすると、当該「量子化インデックス符号器57」は、「差分画像45」を「DCT係数47」に変換した後、「量子化器48」で変換された「量子化インデックス49」を符号化することで、「符号化器出力」とするものであり、本件発明2の構成B2-3の「前記残差ブロックの量子化された変換係数を符号化することによってビットストリームを生成するためのエントロピー符号化部」に相当する。

(c)(d) 甲1発明の構成c2、d2において、「ローカル動き補償が選択された符号化対象小ブロックの動きベクトルをグローバル動きパラメータから予測するにあたり、該予測ベクトルの大きさが予め規定された範囲を超える場合に、該予測ベクトルをその予め規定された範囲内にクリップする、もしくは、該予測ベクトルを0とする」ものであり、「グローバル動きパラメータから得られる予測ベクトルが、ローカル動きベクトルのレンジを超えた場合にその最小値または最大値にクリップする、もしくは予測ベクトルを0クリアしてしまう」ものであるから、甲1発明のローカル動き補償やグローバル動き補償における動きベクトルは、所定の範囲(レンジ)でクリップされるものであり、かつクリップされた動きベクトルは、予測ベクトルとして用いられることから、甲1発明の構成c2、d2は、本件発明2の構成C2と同様に「前記参照ピクチャの前記動きベクトルは、所定のレンジでクリップされ」るものであり、かつ構成D2と同様に「前記クリップされた動きベクトルは、前記予測ブロックを生成するための、予測された動きベクトルとして用いられ」るといえる。

(e) 甲1発明の構成e2について「現在ブロックのベクトルMV」は、「左ブロックの動きベクトルMV1、真上ブロックの動きベクトルMV2、右斜め上ブロックのMV3の3つを参照し、これらの中央値(メディアン)を予測値としている」ことから、予測された動きベクトルとして用いられるベクトルであって、本件発明2の構成C2、D2を踏まえた構成E2?E2-3における「前記参照ピクチャの前記動きベクトル」と、現在ブロックに対する所定の位置に存在するブロックから選択されたブロックの動きベクトルである点、において、一応共通する。

一方、本件発明2の構成E2は構成E2-1?E2-3を有する、すなわち、「前記参照ピクチャの前記動きベクトルは、現在ブロックと同じ位置に存在するブロック、および前記現在ブロックに空間的に対応する位置に存在するブロックから選択された前記参照ピクチャ内のブロックの動きベクトルである」、のに対して、
甲1発明の構成e2における「左ブロックの動きベクトルMV1、真上ブロックの動きベクトルMV2、右斜め上ブロックのMV3」は、参照ピクチャの動きベクトルではなく、現在ブロックと同じ位置に存在するブロック、および前記現在ブロックに空間的に対応する位置に存在するブロックから選択された前記参照ピクチャ内のブロックの動きベクトルではない点において相違する。

(f) 甲1発明の構成f2の「動きベクトル予測符号化装置」は、本件発明2の構成F2の「映像符号化装置」に相当する。

以上のことから、本件発明2と甲1発明との一致点、相違点は以下のとおりである。

(一致点)
A2 参照ピクチャを格納するための参照ピクチャバッファと、
B2-1 前記参照ピクチャ及び前記参照ピクチャの動きベクトルを利用して、予測ブロックを生成するための動き補償部と、
B2-2 現在ブロックから前記予測ブロックを引いて、残差ブロックを生成するための減算器と、
B2-3 前記残差ブロックの量子化された変換係数を符号化することによってビットストリームを生成するためのエントロピー符号化部と、
を含み、
C2 前記参照ピクチャの前記動きベクトルは、所定のレンジでクリップされ、
D2 前記クリップされた動きベクトルは、前記予測ブロックを生成するための、予測された動きベクトルとして用いられ、
E2’ 予測された動きベクトルとして用いられるベクトルは、現在ブロックに対する所定の位置に存在するブロックから選択されたブロックの動きベクトルである、
F2 ことを特徴とする映像符号化装置。

(相違点)
予測された動きベクトルとして用いられるベクトルであり、現在ブロックに対する所定の位置に存在するブロックから選択されたブロックの動きベクトルに関して、
本件発明2は、構成E2の「参照ピクチャの動きベクトル」であって、構成E2-1?E2-3を有する、すなわち、参照ピクチャの動きベクトルは、
E2-1 現在ブロックと同じ位置に存在するブロック、
E2-2 および前記現在ブロックに空間的に対応する位置に存在するブロック
E2-3 から選択された前記参照ピクチャ内のブロックの動きベクトルである、
のに対して、
甲1発明における、予測値を構成するための3つのベクトルである、「左ブロックの動きベクトルMV1、真上ブロックの動きベクトルMV2、右斜め上ブロックのMV3」は、「参照ピクチャの動きベクトル」ではなく、構成E2-1から構成E2-3の「現在ブロックと同じ位置に存在するブロック、および前記現在ブロックに空間的に対応する位置に存在するブロックから選択された前記参照ピクチャ内のブロックの動きベクトル」でもない点。

(3)判断
上記相違点について検討するに、
「参照ピクチャの動きベクトルが、現在ブロックと同じ位置に存在するブロック、および前記現在ブロックに空間的に対応する位置に存在するブロックから選択された前記参照ピクチャ内のブロックの動きベクトルであること」は、甲第1号証には何ら記載はなく、単なる周知慣用技術や、自明の事項ということもできない。
したがって、本件発明2と甲1発明は実質的に同一の発明ということはできない。

なお、特許異議申立人は、特許異議申立書の「4 申立ての理由」の「(4)具体的理由」の「ウ 取消理由1」のうち、「(イ)本件発明2について」の「a 甲1発明2との対比」の「(h-3)甲1発明2に記載の発明との対比」において、上記(1-1)、(1-5)を引用するとともに、上記(1-1)に関連する図9及び図10について、以下のとおり説示している。(特許異議申立書78頁7行?81頁15行)

「これらの部分には、図9及び図10に、平行移動モデル、及び拡大/縮小動きモデルとして、同一の被写体が移動し、又は拡大縮小する構成が記載されており、同じ被写体の現在のマクロブロックに対応する位置の参照ブロックのマクロブロックの動きベクトルを用いることが記載されている。
例えば、同じ被写体が移動していない場合、若しくは、1マクロブロック以内の範囲を移動する場合には、参照フレーム(参照ピクチャ)の動きベクトルは、現在ブロックと同じ位置に存在するブロックの動きベクトルとなる。また、図9(a)のように同じ被写体が拡大縮小することなく1マクロブロック以上平行移動する場合には、参照フレーム(参照ピクチャ)の動きベクトルは、現在ブロックに空間的に対応する位置に存在するブロックの動きベクトルとなる。
すなわち、甲1発明明細書(決定注:「甲1発明明細書」は、甲第1号証のことを指すものと認められる)には、「参照ピクチャの動きベクトルは、現在ブロックと同じ位置に存在するブロック、および現在ブロックに空間的に対応する位置に存在するブロックから選択された参照ピクチャ内のブロックの動きベクトルである」に関する発明が記載されている」

しかしながら、甲第1号証の図9に記載される、平行移動モデル、及び拡大/縮小動きモデルとして、同一の被写体が移動し、または拡大縮小するという構成は、同一の被写体が移動していない場合、若しくは、1マクロブロック以内の範囲を移動する場合(換言すれば、同一の被写体がほぼ移動していない場合)に、参照ピクチャ中の同一の被写体が現在ピクチャとほぼ同じ位置に存在していることを示しているにすぎない。
そして、甲第1号証の(1-1)、(1-5)、図9は、参照ピクチャの同一の被写体の動きベクトルを用いて現在ピクチャの被写体の動きを予測することを示すものではなく、現在ブロックと同じ位置に存在するブロックおよび同じ被写体の現在のマクロブロックの空間的に対応する位置に存在するブロックから選択された参照ピクチャ内のブロックの動きベクトルを用いて現在ブロックの動きを予測することを示唆するものでもない。

加えて、甲第1号証の図10に関連して、上記(1-4)の記載を参照するに、当該記載からは、符号化対象小ブロックBoaの動き補償に用いられる動きベクトルvaと符号化対象小ブロックBobの動き補償に用いられる動きベクトルvbは平行移動成分がほぼ同じ値になり、冗長性があることから、vaとvbの冗長性を削減するために、動きベクトルvbからva(または動きベクトルvaからvb)を予測するという示唆があることが把握できるにすぎない。
そして、これは、ブロックBoaやブロックBobの参照ピクチャ内において、BoaやBobと同じ位置にあるブロックや空間的に対応する位置にあるブロック、から選択されたブロックの動きベクトルを用いて動きベクトルvaやvbを予測することを示唆するものではない。

結局、甲第1号証の上記(1-1)、(1-4)、(1-5)、図9及び図10記載の事項は、上記相違点を充足するものではない。

2.取消理由2について
また、特許異議申立人は、特許異議申立書の「4 申立ての理由」の「(4)具体的理由」の「ウ 取消理由1」のうち、「(イ)本件発明2について」の「a 甲1発明2との対比」の「(h-2)周知技術の説明」において、以下のとおり説示している。(特許異議申立書75頁1行?78頁6行。なお、下線は合議体が付した。)

「(h-1)で述べた通り、当該構成要件Eの「現在ブロックと同じ位置に存在するブロック、および前記現在ブロックに空間的に対応する位置に存在するブロック」は、本件特許明細書の【0058】?【0060】に記載された従来技術であるHEVC規格(及びそれと同じ技術内容が規定されているH.264/AVC規格)に記載されているcollocated blockの内容を、記載したものであって、周知技術である。
例えば、周知技術を示すH.264/AVCの規格を説明する基本書である甲第2号証の以下に示す128?131頁にも記載の通りである。


4 時間ダイレクト・モード
図5-20に、時間ダイレクト・モードの考え方を示します。ダイレクト・モードでは、L1予測で最も小さい参照ピクチャ番号の参照ピクチャが重要な意味をもちます。これを「アンカー・ピクチャ」と呼ぶことにします。通常は、表示順序で符号化対象ピクチャの後方の一番近い参照ピクチャが、アンカー・ピクチャになります。また、符号化対象ブロックと同じ空間位置にある、アンカー・ピクチャのブロックを、「アンカー・ブロック」と呼ぶことにします。
時間ダイレクト・モードでは、まずアンカー・ブロックの動き情報を調べ、アンカー・ブロックのL0動きベクトルをmvCol(MV of the Co-located block、同一のブロックの動きベクトル)とします。もし、アンカー・ブロックにL0の動きベクトルがなく、L1の動きベクトルをもっているならばL1の動きベクトルをmvColとします。
時間ダイレクト・モードのL0の参照ピクチャはmvColが参照するピクチャであり、時間ダイレクト・モードのL1の参照ピクチャはアンカー・ピクチャになります。アンカー・ブロックが、画面内符号化されていて動き情報をもたない場合は、動きベクトルの大きさは0とし、時間ダイレクト・モードのL0の参照ピクチャは、L0の参照ピクチャの中で参照ピクチャ番号が0のもの(通常は、表示順序で符号化対象ピクチャの直前に表示される参照ピクチャ)とします。








この周知技術を示す甲第2号証の128?131頁の記載、特に図5-20?22によればCo-located blockの動きベクトルmvColが指し示す参照ピクチャのブロックは、「同じ位置に存在するブロック、および前記現在ブロックに空間的に対応する位置に存在するブロック」であることが記載されており、これは2003年に規格化されたH.264/AVCにおいて既に規定されている技術事項である。」

しかしながら、甲第2号証に示されるmvColは、「表示順序で符号化対象ピクチャの後方の一番近い参照ピクチャ」である「アンカー・ピクチャ」に対して、「符号化対象ブロックと同じ空間位置にある、アンカー・ピクチャのブロック」である「時間ダイレクトモード」での「アンカー・ブロック」の「L0動きベクトル」または「L1の動きベクトル」であるmvCol(MV of the Co-located block、同一のブロックの動きベクトル)であるにすぎない。
そして、「時間ダイレクトモードのL0の参照ピクチャはmvColが参照するピクチャであり、時間ダイレクトモードのL1の参照ピクチャはアンカー・ピクチャにな」るにすぎない。

そうすると、甲第2号証に示されるmvColは、本件発明2の構成E2,E2-1の「参照ピクチャの動きベクトル」であって、「現在ブロックと同じ位置に存在するブロック」を示すものではあるが、構成E2の前提となる、構成D2の「予測ブロックを生成するための、予測された動きベクトル」ではないし、上記相違点の構成E2-2、E2-3を充足するものでもない。

さらに、特許異議申立人は、特許異議申立書の「4 申立ての理由」の「(4)具体的理由」のうち、「エ 取消理由2」において、以下のとおり説示している。(特許異議申立書111頁13行?113頁23行)

「仮に、本件発明1?3と甲1発明が相違すると判断されたとしても、その相違点は、単なる設計変更もしくは周知技術の単なる寄せ集めであって新たな効果を奏するものではない。また、同じ動画像の符号化/復号化の技術分野におけるものであれば組み合わせることに阻害要因も無い。
例えば周知技術を示す資料として以下がある。これらの周知技術には、いずれも本件発明(決定注:「本件発明」は本件発明1?3を総称したものと認められる。)と同じ動画像の符号化/復号化に関連する技術が開示されている。
甲第2号証:インプレス標準教科書シリーズ 改訂三版 H.264/AVC教科書、第1版、2009年1月1日発行、株式会社インプレスR&D、p.86-87、p.128-131
甲第3号証:如澤裕尚著、「MPEG-4の符号化効率」、テレビジョン学会映像メディア部門冬季大会講演予稿集、1996年12月4日発行、p.39-44
甲第4号証:大塚吉道、内藤整、猪俣秀樹著、「HDTV高圧縮技術?MPEG-2低ビットレート化の検討?」、社団法人映像情報メディア学会技術報告、2002年3月20日、p.25-30
甲第5号証:公表特許 特表2009-533901号公報
甲第6号証:再公表特許公開WO2008/136178号公報

なお、映像符号化・復号化の技術領域において、動きベクトルの範囲を制限して(すなわちクリップして)、処理負荷を低減し、またメモリ容量を削減することは、本件特許の優先日以前において周知の技術である。
そもそも、MPEG-2の時代から、ピクチャ内の動きベクトルの範囲を示すf_codeというフラグが規格として規定されており、このf_codeによって規定された動きベクトルの範囲を調整することが可能であって、結果として、動きベクトルの容量を削減できることは、広く知られていた事項である。
例えば、甲第3号証の40頁には、「VM2.0からf_codeを用いた動きベクトルのレンジ拡大が盛り込まれた.f-codeはMPEG-1,2にも用いられている技術で,動きベクトルのレンジを画像に合わせて柔軟に変更できる利点がある.(中略)表2に示されるように,NewsやCoastは動き量が小さいため,f_code=1で十分である.f_codeを大きくすると逆に性能が低下している.これは,付加ビットを加えなくても表現できるレンジの動きであるにも関らず,f-codeを2または3とすることによって本来不要なビットが各ベクトル成分に付加されるためである.」と記載されている。
すなわち、甲第3号証によれば、f_codeで規定されるレンジを広く取りすぎるとかえって必要な容量が増え、符号化効率が下がることが課題であるとしており、表2に示すようにNews等の動き量の少ない画像に対しては、レンジを絞ることで発生符号量を低減できることが記載されている。
又、甲第4号証の29?30頁には、「一方、MPEG-2では動きベクトルの探索範囲を「f_code」で定義することができ、ピクチャ単位で切り替えることが可能である。本研究では、符号化前処理の段階で簡易的に符号化を行ない、動きベクトルの分布に基づいて適応的にf_codeを切り替える手法を提案する。」と記載されており、f_code制御条件を、符号化において各ピクチャのベクトルの統計を測定し、80%のベクトル数をカバーするf_codeの範囲に制限して符号化を行う実験を行っている。その結果、この可変f_codeではベクトル情報量を低減することができている。
その他、甲第5号証では、【0063】?【0081】において、動きベクトルの探索範囲を切り替え、動き予測の計算コストを削減することが記載されている。
また、甲第6号証では、【図15】【0140】?【0148】において、動きベクトルの探索範囲を縦方向、横方向に制限をかけることでメモリ容量を削減することが記載されている。
以上説明した通り、映像符号化・復号化の技術領域において、動きベクトルの範囲を制限して(すなわちクリップして)、処理負荷を低減し、またメモリ容量を削減することは周知技術であって、技術的な優位性は無い。」

しかしながら、これら各甲号証には、上記相違点、すなわち、
「参照ピクチャの動きベクトルが、現在ブロックと同じ位置に存在するブロック、および前記現在ブロックに空間的に対応する位置に存在するブロックから選択された前記参照ピクチャ内のブロックの動きベクトルであること」
についての記載は見当たらない。

したがって、甲第2号証から甲第6号証には、上記相違点について記載されているということはできず、甲1発明に甲第2号証から甲第6号証に記載された事項を適用したとしても、上記相違点に係る本件発明2の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものであるとはいえず、特許異議申立人の主張は採用できない。

3.本件発明2についてのまとめ
したがって、本件発明2は甲1発明と同一の発明ではなく、甲1発明及び甲第2号証から甲第6号証記載の事項に基づいて当業者が容易になし得たものであるとはいえない。

4.本件発明1、3について
本件発明1は、本件発明2の「映像符号化装置」から構成B2-2の「減算器」、B2-3の「エントロピー符号部」を除いた「映像符号化装置」とサブコンビネーションをなすところの「映像復号化装置」として、特定したものである。

そして、上記「映像符号化装置」とサブコンビネーションをなすところの「映像復号化装置」である本件発明1と、甲1発明とサブコンビネーションをなすところの「映像復号化装置」に関する発明(以下、甲1発明2という。)とを対比検討すると、両者はやはり上記相違点で相違するといえる。

上記1.(3)によれば、当該相違点は甲第1号証には何ら記載はなく、単なる周知慣用技術や、自明の事項ということもできないから、本件発明1と甲1発明は実質的に同一の発明ということはできない。

また、上記2.によれば、甲第2号証から甲第6号証によっては、上記相違点を充足することはできず、甲1発明及び甲第2号証から甲第6号証に記載された事項を適用したとしても、当該相違点に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。

したがって、本件発明1は甲1発明2と同一の発明ではなく、また、甲1発明2及び甲第2号証から甲第6号証記載の事項に基づいて当業者が容易になし得たものであるとはいえない。

また、本件発明3は、本件発明2の「映像符号化装置」という物のカテゴリの発明に対して、予測ブロックの生成に関して、予測ブロックを生成するための構成B2-1のうちの「動き補償部」、減算及びエントロピー符号化を行うための構成B2-2、B2-3を除くとともに、構成B3-2の「前記予測ブロックに基づいて符号化されたビットストリームを映像復号化装置に送信するステップ」を付加した「映像符号化装置によりビットストリームの送信方法」という方法のカテゴリの発明として特定したものである

そして、本件発明3についても本件発明2と同様の理由により、甲1発明に対して「予測ブロックに基づいて符号化されたビットストリームを映像復号化装置に送信するステップ」を付加した「ビットストリームの送信方法」という方法のカテゴリとして特定した発明(以下、甲1発明3という)と実質的に同一の発明ということはできず、また、甲1発明3及び甲第2号証から甲第6号証に記載の事項に基づいて当業者が容易になし得たものであるとはいえない。

5.当審における判断のまとめ
以上1?4のとおり、本件発明1?3に係る特許について、特許法第29条第1項第3号または特許法第29条第2項の規定に反してなされたものであり、取り消されるべきものであるという取消理由1、2(同法第113条第2号)は存在しない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立書に記載された特許異議申立の取消理由1、2及び証拠によっては、本件発明1?3に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1?3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2021-09-27 
出願番号 特願2019-122135(P2019-122135)
審決分類 P 1 651・ 113- Y (H04N)
P 1 651・ 121- Y (H04N)
最終処分 維持  
前審関与審査官 坂東 大五郎  
特許庁審判長 清水 正一
特許庁審判官 五十嵐 努
川崎 優
登録日 2020-10-23 
登録番号 特許第6783355号(P6783355)
権利者 エレクトロニクス アンド テレコミュニケーションズ リサーチ インスチチュート
発明の名称 映像復号化装置、映像符号化装置およびビットストリームの送信方法  
代理人 赤岡 明  
代理人 竹本 如洋  
代理人 関根 毅  
代理人 中村 行孝  
代理人 吉田 昌司  
代理人 宮嶋 学  

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