ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 C22C 審判 全部申し立て 2項進歩性 C22C 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C22C 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C22C |
---|---|
管理番号 | 1378770 |
異議申立番号 | 異議2021-700253 |
総通号数 | 263 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2021-11-26 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2021-03-09 |
確定日 | 2021-10-07 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6751900号発明「金属線及びソーワイヤー」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6751900号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6751900号の請求項1?5に係る特許についての出願(以下、「本願」という。)は、平成30年1月29日に出願され、令和2年8月20日にその特許権の設定登録がされ、令和2年9月9日に特許掲載公報が発行された。その後、その請求項1?5(全請求項)に係る特許について、令和3年3月9日に特許異議申立人 金井 澄子(以下、「申立人」という。)は特許異議の申立てを行った。 第2 本件発明 特許第6751900号の請求項1?5の特許に係る発明(以下、「本件発明1」?「本件発明5」といい、まとめて「本件発明」ということがある。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 タングステンと、タングステンとは異なる1種類以上の金属との合金からなる金属線であって、 前記金属は、レニウム、イリジウム、ルテニウム又はオスミウムであり、 前記金属線におけるタングステンの含有率は、90wt%以上であり、 前記金属線における前記金属の含有率は、0.1wt%以上10wt%以下であり、 前記金属線の引張強度は、4000MPa以上であり、 前記金属線の弾性率は、350GPa以上450GPa以下であり、 前記金属線の線径は、60μm以下であり、 前記金属線の線軸に直交する断面における平均結晶粒度は、0.20μm以下である 金属線。 【請求項2】 カリウムがドープされたタングステンからなる金属線であって、 前記金属線におけるタングステンの含有率は、99wt%以上であり、 前記金属線におけるカリウムの含有率は、0.01wt%以下であり、 前記金属線の引張強度は、4000MPa以上であり、 前記金属線の弾性率は、350GPa以上450GPa以下であり、 前記金属線の線径は、60μm以下であり、 前記金属線の線軸に直交する断面における平均結晶粒度は、0.20μm以下である 金属線。 【請求項3】 前記金属線の引張強度は、4400MPa以上である 請求項1又は2に記載の金属線。 【請求項4】 前記金属線の引張強度は、5000MPaより大きい 請求項1又は2に記載の金属線。 【請求項5】 請求項1?4のいずれか1項に記載の金属線を備えるソーワイヤー。」 第3 申立理由の概要 申立人は、証拠方法として、次の甲第1号証?甲第18号証を提出し、以下の申立理由1?4により、本件請求項1?5に係る特許は取り消されるべきものである旨主張している。 甲第1号証:特許第6249319号公報 甲第2号証:JIS G 0551(2005) 鋼-結晶粒度の顕微鏡試験方法 甲第3号証:平成25年(行ケ)第10324号 審決取消請求事件判決 甲第4号証:図解 金属材料技術用語辞典 第2版、日刊工業新聞社、2000年1月30日、p.429-430 甲第5号証の1:E.S.Meieran and D.A.Thomas、Structure of Drawn and Annealed Tungsten Wire、TRANSACTIONS OF THE METALLURGICAL SOCIETY OF AIME、Volume233、1965年5月、p.937?943 甲第5号証の2:甲第5号証の1の抄訳 甲第6号証:社団法人日本金属学会、改訂6版金属便覧、丸善株式会社、平成12年5月30日、p.318-324 甲第7号証:第5章 強化機構、インターネット、URL:http://www.cis.kit.ac.jp/?morita/jp/class/FracStrength/5.pdf 甲第8号証の1:タングステン・モリブデン工業会、タングステン・モリブデン技術資料 改訂第3版、平成21年2月25日、p.194 甲第8号証の2:金井澄子、報告書(1)、2021年3月3日(作成日) 甲第9号証:陳樹繁 外4名、焼結タングステン線材の再結晶過程、日本金属学会誌、第53巻、第12号、1989年、p.1198-1207 甲第10号証:金井澄子、報告書(2)、2021年3月3日(作成日) 甲第11号証の1:特開2015-89672号公報 甲第11号証の2:金井澄子、報告書(3)、2021年3月3日(作成日) 甲第12号証:金井澄子、報告書(4)、2021年3月3日(作成日) 甲第13号証:粉体粉末冶金用語事典、(社)粉体粉末冶金協会 編、日刊工業新聞社、2001年5月30日 初版1刷発行、p.314-325 甲第14号証:山本博司、延性に富むタングステン線の製造冶金的研究、昭和49年2月25日 甲第15号証の1:DAVID B.SNOW、The Recrystallization of Commercially Pure and Doped Tungsten Wire Drawn to High Strain、METALLURGICAL TRANSACTIONS、VOLUME 10A、No.7、1979年7月、p.815?821 甲第15号証の2:甲第15号証1の抄訳 甲第16号証:照明及び電子機器用のタングステン線 JIS H 4461、日本規格協会、平成14年3月20日 第1刷発行 甲第17号証の1:トクサイ製品総合カタログ、株式会社トクサイ 甲第17号証の2:甲第17号証の1の第7頁の図の説明 甲第17号証の3:甲第17号証の1の刊行物発行日証明書 甲第18号証:パナソニック ライティングデバイス株式会社 技術部 一課 井口敬寛 作成実験成績証明書 1 申立理由1(新規性) 本件発明1?5は、甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないから、本件発明1?5に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。 2 申立理由2(進歩性) 本件発明1?5は、甲第1号証に記載された発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであって特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないから、本件発明1?5に係る特許は、同法第113号第2号に該当し取り消されるべきものである。 3 申立理由3(サポート要件) 本件発明1?5は、発明の詳細な説明に記載されたものではないから、本件発明1?5に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。 4 申立理由4(実施可能要件) 本件発明1?5について、発明の詳細な説明の記載は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでないから、本件発明1?5に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。 第4 甲第1号証の記載事項 甲第1号証には以下の事項が記載されている。 (1ア)「【請求項1】 レニウムとタングステンとの合金からなる金属線を備え、 前記金属線のレニウムの含有率は、0.1wt%以上10wt%以下であり、 前記金属線の弾性率は、350GPa以上450GPa以下であり、 前記金属線の引張強度は、3500MPa以上であり、 前記金属線の線径は、60μm以下である ソーワイヤー。 【請求項2】 カリウムがドープされたタングステンからなる金属線を備え、 前記金属線のカリウムの含有率は、0.005wt%以上0.010wt%以下であり、 前記金属線の弾性率は、350GPa以上450GPa以下であり、 前記金属線の引張強度は、3500MPa以上であり、 前記金属線の線径は、60μm以下である ソーワイヤー。 【請求項3】 前記金属線の引張強度は、5000MPa以下である 請求項1又は2に記載のソーワイヤー。 【請求項4】 請求項1?3のいずれか1項に記載のソーワイヤーを備える切断装置。 【請求項5】 さらに、前記ソーワイヤーにかかる張力を緩和する張力緩和装置を備える 請求項4に記載の切断装置。」 (1イ)「【0001】 本発明は、ソーワイヤー及び当該ソーワイヤーを備える切断装置に関する。」 (1ウ)「【0004】 ワイヤーソーでは、ワイヤーの線径分の削りカスが発生する。上記従来のマルチワイヤーソーでは、ピアノ線からなるワイヤーを利用しているが、ピアノ線の細線化は難しく、現状では線径が60μmより小さいピアノ線の製造は難しく、かつ、ピアノ線の弾性率は150GPa?250GPaであるため、細径化できたとしてもスライス時にタワミが発生する。このため、細径化されたピアノ線は、ワイヤーソーのスライスに不向きである。 【0005】 そこで、本発明は、ピアノ線より細く、かつ、ピアノ線の約2倍の弾性率を有し、ピアノ線と同等以上の引張強度を有するソーワイヤー及び当該ソーワイヤーを備える切断装置を提供することを目的とする。」 (1エ)「【0009】 本発明によれば、ピアノ線より細く、かつ、ピアノ線の約2倍の弾性率を有し、ピアノ線と同等以上の引張強度を有するソーワイヤー及び当該ソーワイヤーを備える切断装置を提供することができる。」 (1オ)「【0030】 [ソーワイヤー] 本実施の形態に係るソーワイヤー10は、レニウム(Re)とタングステン(W)との合金(ReW)からなる金属線を備える。本実施の形態では、ソーワイヤー10は、金属線そのものである。 【0031】 ソーワイヤー10は、タングステンを主成分として含有し、所定の割合でレニウムを含有している。ソーワイヤー10のレニウムの含有率は、0.1wt%以上10wt%以下である。例えば、レニウムの含有率は、0.5wt%以上5wt%以下であってもよく、一例として3wt%であるが、1wt%でもよい。レニウムの含有率を高めることで、ソーワイヤー10の引張強度が大きくなる。一方で、レニウムの含有率が高すぎる場合には、ソーワイヤー10の細線化が難しくなる。 【0032】 ReW合金からなる金属線は、線径φが小さくなるほど、引張強度が強くなる。すなわち、ReW合金からなる金属線を利用することで、線径φが小さく、かつ、引張強度が高いソーワイヤー10を実現することができ、インゴット20のロスを抑制することができる。 【0033】 具体的には、ソーワイヤー10の引張強度は、3500MPa以上である。例えば、ソーワイヤー10の引張強度は、3500MPa以上5000MPa以下であるが、これに限らない。例えば、ソーワイヤー10の引張強度は、4000MPa以上でもよい。 【0034】 また、ソーワイヤー10の弾性率は、350GPa以上450GPa以下である。なお、弾性率は、縦弾性係数である。つまり、ソーワイヤー10は、ピアノ線の約2倍の弾性率を有する。 【0035】 ソーワイヤー10の線径φは、60μm以下である。例えば、ソーワイヤー10の線径φは、40μm以下でもよく、30μm以下でもよい。ソーワイヤー10の線径φは、具体的には20μmであるが、10μmでもよい。なお、ダイヤモンド粒子を付着させる場合には、ソーワイヤー10の線径φは、例えば10μm以上であってもよい。ソーワイヤー10は、線径φが均一である。ソーワイヤー10の線径φが60μm以下であるので、ソーワイヤー10は、柔軟性を有し、十分に屈曲させやすい。このため、ソーワイヤー10をガイドローラー2間に容易に巻きつけることができる。」 (1カ)「【0037】 「ソーワイヤーの製造方法」 以下では、上記特徴を有するソーワイヤー10の製造方法について、図3を用いて説明する。図3は、本実施の形態に係るソーワイヤー10の製造方法を示す状態遷移図である。 【0038】 まず、図3の(a)に示すように、タングステン粉末11a及びレニウム粉末11bを所定の割合で準備する。・・・ 【0039】 次に、タングステン粉末11a及びレニウム粉末11bの混合物に対してプレス及び焼結(シンター)を行うことで、タングステン及びレニウムの合金からなるReWインゴットを作製する。インゴットを周囲から鍛造圧縮して伸展するスエージング加工を、ReWインゴットに対して行うことで、図3の(b)に示すように、ワイヤー状のReW線12を作製する。・・・ 【0040】 次に、図3の(c)に示すように、伸線ダイスを用いた線引き加工を行う。 【0041】 具体的には、まず、図3の(c1)に示すように、ReW線12をアニールする。・・・ 【0042】 次に、図3の(c2)に示すように、伸線ダイス30を用いてReW線12の線引き、すなわち、伸線を行う。・・・ 【0043】 次に、図3の(c3)に示すように、ダイス交換を行う。・・・ 【0044】 ReW線13の線径が所望の線径φ(具体的には、60μm以下)になるまで、図3の(c1)?(c3)を繰り返し行う。このとき、図3の(c2)で示す線引き工程は、対象となるReW線の線径に応じて、伸線ダイス30又は31の形状及び硬さ、使用する潤滑剤、並びに、ReW線の温度などを調整することで行われる。 【0045】 図3の(c1)で示すアニール工程も同様に、対象となるReW線の線径に応じて、アニール条件を調整する。具体的には、ReW線の線径が大きい程、高い温度でアニールし、ReW線の線径が小さい程、低い温度でアニールする。例えば、ReW線の線径が大きい場合、具体的には、1回目の線引き加工のときのアニール工程では、1400℃?1800℃の温度でアニールする。所望の線径になる最終線引き加工のときの最終アニール工程では、1200℃?1500℃の温度で加熱する。・・・ 【0046】 また、線引き加工の繰り返しの際に、アニール工程は省略されてもよい。例えば、最終アニール工程は省略されてもよい。具体的には、最終アニール工程を省略し、潤滑剤並びに伸線ダイスの形状及び硬さを調節してもよい。」 (1キ)「【0060】 本変形例に係るソーワイヤーは、ReW合金の代わりに、カリウム(K)がドープされたタングステンからなる金属線を備える。本変形例に係るソーワイヤーは、金属線そのものである。 【0061】 ソーワイヤーは、タングステンを主成分として含有し、所定の割合でカリウムを含有している。ソーワイヤーのカリウムの含有率は、0.005wt%以上0.010wt%以下である。」 (1ク)「【0063】 本変形例に係るソーワイヤーの引張強度、弾性率及び線径φなどはそれぞれ、実施の形態に係るソーワイヤー10と同じである。」 第5 当審の判断 1 申立理由1(新規性)、申立理由2(進歩性)について 1-1 本件発明1について (1)甲第1号証に記載された発明の認定 (ア)上記第4(甲第1号証の記載事項)の(1オ)より、「ソーワイヤー」は、レニウムとタングステンとの合金からなる「金属線」を備え、「ソーワイヤー」はタングステンを主成分として含有し、レニウムの含有率が0.1wt%以上10wt%以下であり、「ソーワイヤー」は「金属線」そのものである。 そうすると、「金属線」におけるタングステンの含有率は90wt%以上99.9wt%以下であると認められる。 (イ)上記第4(甲第1号証の記載事項)の(1オ)より、「金属線」の「引張強度」は4000MPa以上であり、「金属線」の「弾性率」は350GPa以上450GPa以下であり、「金属線」の「線径」は60μm以下である。 (ウ)以上より、甲第1号証には次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。 (引用発明1) 「レニウムとタングステンとの合金からなる金属線であって、 前記金属線におけるタングステンの含有率は90wt%以上99.9wt%以下であり、 前記金属線における前記レニウムの含有率は、0.1wt%以上10wt%以下であり、 前記金属線の引張強度は4000MPa以上であり、 前記金属線の弾性率は、350GPa以上450GPa以下であり、 前記金属線の線径は、60μm以下である 金属線」 (2)本件発明1と引用発明1との対比 (ア)引用発明1の「レニウムとタングステンとの合金からなる金属線」は、本件発明1の「タングステンと、タングステンとは異なる1種類以上の金属との合金からなる金属線であって、前記金属は、レニウム、イリジウム、ルテニウム又はオスミウムであり」に相当する。 (イ)引用発明1の「前記金属線におけるタングステンの含有率は90wt%以上99.9wt%以下であり」は、本件発明1の「前記金属線におけるタングステンの含有率は、90wt%以上であり」に相当する。 (ウ)すると、本件発明1と引用発明1とは、 「タングステンと、タングステンとは異なる1種類以上の金属との合金からなる金属線であって、前記金属は、レニウム、イリジウム、ルテニウム又はオスミウムであり、前記金属線におけるタングステンの含有率は、90wt%以上であり、前記金属線における前記金属の含有率は、0.1wt%以上10wt%以下であり、前記金属線の引張強度は、4000MPa以上であり、前記金属線の弾性率は、350GPa以上450GPa以下であり、前記金属線の線径は、60μm以下である金属線」の点で一致し、次の点で相違する。 <相違点1> 「金属線の軸線に直交する断面における平均結晶粒度」について、本件発明1では「0.20μm以下」であるのに対して、引用発明1では不明である点。 (3)相違点1が実質的な相違点か否かについての検討 a 「金属線」の「平均結晶粒度」について、本願の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「本件明細書等」という。)には以下の事項が記載されている。「・・・」は記載の省略を意味する。 (a)「【0004】 しかしながら、ピアノ線には、弾性率及び硬度が低いという問題がある。また、ピアノ線には、細線化が難しいという問題もある。このため、ピアノ線に代わる金属線として、引張強度、弾性率及び硬度のいずれも高く、かつ、細い金属線が求められる。 【0005】 そこで、本発明は、引張強度、弾性率及び硬度のいずれも高く、かつ、細い金属線及びソーワイヤーを提供することを目的とする。」 (b)「【0040】 また、金属線10の線軸に直交する断面における平均結晶粒度は、0.20μm以下である。平均結晶粒度は、金属線10の線軸に直交する断面において、単位面積当たりのReW合金の結晶数の平均値に基づく値である。平均結晶粒度が小さいほど、各結晶の大きさが小さくなる、すなわち、結晶数が多いことを意味する。 【0041】 ここで、平均結晶粒度と引張強度との関係について、図3?図6を用いて説明する。 【0042】 図3?図5はそれぞれ、引張強度が3800MPa、4000MPa、4400MPaの金属線10の断面図である。各図における金属線10は、線径φが60μmであり、レニウムの含有率が0.1wt%である。・・・ 【0043】 平均結晶粒度は、複数の対象範囲における結晶粒度を平均化することで算出される。結晶粒度は、例えば、金属線10の断面において600nm×600nmの面積の範囲を対象として、面積計量法で計測することができる。具体的には、結晶粒度は、以下の式(1)で算出される。 【0044】 (1) 結晶粒度=(対象面積/結晶数)^(1/2) 【0045】 なお、式(1)において、“X^(1/2)”は、Xの平方根を表している。 【0046】 図3?図5に示される3本の金属線10の各々について、5つの対象範囲A?Eの各々に含まれる結晶数を計数した。計数結果に基づいて、結晶数の平均値及び平均結晶粒度を算出した。計数結果及び算出結果を以下の表1に示す。 【0047】 【表1】 【0048】 なお、結晶数は、対象範囲内に完全に入っているものを1個、少なくとも一部が対象範囲からはみ出ているものを1/2個として計数される。図3?図5の各々において、“A”?“E”に続く数値が結晶数を表している。 【0049】 図6は、本実施の形態に係る金属線10の引張強度と平均結晶粒度との関係を示す図である。図6において、横軸は金属線10の引張強度[MPa]を表し、縦軸は平均結晶粒度[μm]を表している。 【0050】 表1及び図6に示されるように、平均結晶粒度が小さいほど、引張強度が大きくなっていることが分かる。本実施の形態では、金属線10における平均結晶粒度が0.20μm以下であるので、金属線10の引張強度は、4000MPa以上になる。つまり、金属線10の引張強度がピアノ線と同等以上にすることができる。また、金属線10の平均結晶粒度は0.16μm以下であってもよく、金属線10の引張強度が4400MPa以上になる。」 (c)「【0051】 [金属線の製造方法] 以下では、上記特徴を有する金属線10(ソーワイヤー2)の製造方法について、図7を用いて説明する。図7は、本実施の形態に係る金属線10の製造方法を示す状態遷移図である。 【0052】 まず、図7の(a)に示すように、タングステン粉末11a及びレニウム粉末11bを所定の割合で準備する。具体的には、タングステン粉末11aとレニウム粉末11bとを合わせた全体重量のうちの0.1%以上10%以下の範囲でレニウム粉末11bを準備し、残りをタングステン粉末11aとする。・・・ 【0053】 次に、タングステン粉末11a及びレニウム粉末11bの混合物に対してプレス及び焼結(シンター)を行うことで、タングステン及びレニウムの合金からなるReWインゴットを作製する。周囲から鍛造圧縮して伸展するスエージング加工を、ReWインゴットに対して行うことで、図7の(b)に示すように、ワイヤー状のReW線12を作製する。・・・ 【0054】 次に、図7の(c)に示すように、伸線ダイスを用いた線引き加工を行う。 【0055】 具体的には、まず、図7の(c1)に示すように、ReW線12をアニールする。具体的には、バーナーで直接的にReW線12を加熱するだけでなく、ReW線12に電流を流しながら加熱する。アニール工程は、スエージング加工又は線引き加工によって生じる加工歪を除去するために行われる。 【0056】 次に、図7の(c2)に示すように、伸線ダイス30を用いてReW線12の線引き、すなわち、伸線を行う。なお、前段のアニール工程によって、ReW線12が加熱されて柔らかくなっているので、伸線を容易に行うことができる。ReW線12が細線化されることで、その断面積当たりの強度が高くなる。つまり、線引き工程によって細線化されたReW線13は、ReW線12よりも断面積当たりの引張強度が高い。・・・ 【0057】 次に、図7の(c3)に示すように、線引き後のReW線13に対して電解研磨を行うことにより、ReW線13の表面を滑らかにする。・・・ 【0058】 次に、図7の(c4)に示すように、ダイス交換を行う。・・・ 【0059】 ReW線13の線径が所望の線径φ(具体的には、60μm以下)になるまで、図7の(c1)?(c4)を繰り返し行う。このとき、図7の(c2)で示す線引き工程は、対象となるReW線の線径に応じて、伸線ダイス30又は31の形状及び硬さ、使用する潤滑剤、並びに、ReW線の温度などを調整することで行われる。 【0060】 図7の(c1)で示すアニール工程も同様に、対象となるReW線の線径に応じて、アニール条件を調整する。アニール工程によって、タングステン線の表面には、酸化物が付着する。アニール条件を調整することで、付着する酸化物量を調整することができる。 【0061】 具体的には、ReW線の線径が大きいほど、高い温度でアニールし、ReW線の線径が小さいほど、低い温度でアニールする。例えば、ReW線の線径が大きい場合、具体的には、1回目の線引き加工のときのアニール工程では、1400℃?1800℃の温度でアニールする。所望の線径になる最終線引き加工のときの最終アニール工程では、1200℃?1500℃の温度で加熱する。なお、最終アニール工程では、ReW線への通電を行わなくてもよい。 【0062】 また、線引き加工の繰り返しの際に、アニール工程は省略されてもよい。例えば、最終アニール工程は省略されてもよい。具体的には、結晶粒度を小さくするため、最終アニール工程を省略し、潤滑剤並びに伸線ダイスの形状及び硬さを調節してもよい。例えば、最終アニール工程を省略することで、平均結晶粒度を小さくすることができる。また、伸線加工時のワイヤーの加熱温度を低くすればするほど、平均結晶粒度を更に小さくすることができる。・・・」 (d)「【0065】 [効果など] 以上のように、本実施の形態に係る金属線10は、タングステンを含む金属線であって、金属線10におけるタングステンの含有率は、90wt%以上であり、金属線10の引張強度は、4000MPa以上であり、金属線10の弾性率は、350GPa以上450GPa以下であり、金属線10の線径φは、60μm以下であり、金属線10の線軸に直交する断面における平均結晶粒度は、0.20μm以下である。 【0066】 このように、金属線10は、タングステンを含有しているので、弾性率及び硬度が高い。また、タングステンを含む金属線10は、細線化するほど、引張強度が増加して切れにくくなる。金属線10の線径φが60μm以下であり、かつ、金属線10における平均結晶粒度が0.20μm以下であるので、金属線10の引張強度が4000MPa以上に高められている。」 (e)「【図6】 」 b 上記a(a)より、本件発明1の金属線は、引張強度、弾性率及び硬度のいずれも高く、かつ、細くすることを課題としている。 上記a(b)より、本件発明1の金属線の「平均結晶粒度」を小さくするほど、引張強度が大きくなる。具体的には、「平均結晶粒度」を0.20μm以下にすることで、引張強度は4000MPa以上になる。 上記a(c)より、最終アニール工程を省略することで、「平均結晶粒度」を小さくすることができ、また、伸線加工時のワイヤーの加熱温度を低くすればするほど、「平均結晶粒度」を更に小さくすることができる。 c 甲第4号証には、多結晶金属および合金の変形応力(σ)と結晶粒径(d)との関係をホールペッチの式で表すことができ、多結晶金属および合金の強度は結晶粒の大きさに依存し、室温においては結晶粒が細かいほど強度は大きくなることが示されている(第429頁右欄?第430頁左欄)。 また、甲第6号証には、多結晶金属の強化機構には、「固溶強化」、「粒子分散強化(析出強化を含む)」、「転位強化」、「結晶粒微細化強化」の4種類の強化機構が知られていることが記載されている(第318頁右欄?第324頁左欄)。 d 一方、甲第1号証には、「平均結晶粒度」が「0.20μm以下」であることは記載されていないし、「平均結晶粒度」を小さくするために、伸線加工時の加熱温度を制御することは記載されていない。 また、本件発明1と引用発明1は、金属線を製造する際に、インゴットに対してスエージング加工を行うことでワイヤー状にし、線引き加工によって細線化しているが、本件発明1と引用発明1のスエージング加工と線引き加工の加工条件が同一であるかどうかは不明である。 そうすると、本件発明1と引用発明1は金属線の製造工程において、スエージング加工及び線引き加工時に導入される転位の量が同じであるとは限らない。 そのため、仮に、本件発明1と引用発明1の間で、強化機構のうち、「固溶強化」と「析出強化」に差異がないとしても、「転位強化」が同じであるとは限らないから、引張強度が「4000MPa以上」の点で同一だとしても、「平均結晶粒度」が同程度であるということはできない。 よって、引用発明1の金属線における「平均結晶粒度」は、本件発明1と同様に「0.20μm」以下であるとはいえず、相違点1は実質的な相違点である。 (4)相違点1に係る容易想到性についての検討 a 甲第13号証には、以下の事項が記載されている。 「タングステン加工は延性-脆性遷移温度以上,再結晶温度以下の冷間で行う.加工ひずみ回復のため,加工途中適時熱処理をする.線ならびに棒は,焼結体を回転する一対のハンマーダイスで叩いて径2?3mmまで伸展(スエージング)した後,線引きして製造する.スエージング温度は1400?1800Kとする.線引き温度は600?1400Kとし、線径の小さくなるほど加工温度を低くする.」(第314頁左欄) 「冷間加工したタングステンを焼鈍すると,1300K付近から繊維組織の中にサブグレインの形成が見られ,さらに高温でひずみのない再結晶粒を形成する.純タングステンは1300?1500Kで一次再結晶し、引き続き、1500?1800Kで二次再結晶による粒の粗大化が見られる.純タングステンの二次再結晶粒は比較的丸い石垣状となる.微量のカリウムを添加したドープタングステンは1300?2000Kで一次再結晶し、2000?2500Kで二次再結晶する.ドープタングステンの二次再結晶粒は加工方向に伸びた長大結晶となる.ドープタングステンでは加工度の大きくなるほど再結晶温度は高く,また再結晶粒よりも長大となる.再結晶により強度は著しく低下する.」(第316頁右欄) 「タングステンは再結晶により機械的強度が著しく低下するため、再結晶温度以下で冷間加工で行われる.」、「加工により繊維組織が発達し、材料の硬度ならびに引張強度は高くなる.加工によってひずみが蓄積され加工硬化が進むため,所定の加工度ごとにひずみ除去の焼鈍を行う.」(第325頁左欄?右欄) 「タングステンの伸線は再結晶温度以下、延性-脆性遷移温度以上の冷間で行う.加工温度は600?1400Kである.」(第325頁右欄) b 甲第14号証には、直径55μmのフィラメント素線の加熱温度と結晶粒の幅の関係が示されるとともに(図8.8)、伸線直後の繊維の幅が0.4μmであることが記載されている(第129頁)。 また、甲第15号証の1には、直径0.18mmのドープタングステン線において、アニール温度が800℃以下のときは、縦方向の組織の壁の間隔が0.20μmより小さいことが記載されている(第815頁右欄、第818頁Fig.4)。 c そうすると、引用発明1を伸線加工で製造するにあたり、甲第13号証の記載を参酌することによって、再結晶による機械的強度が著しく低下することを防ぐために、伸線加工を再結晶温度以下(1300K以下)で行うことは、当業者が容易に想到し得たことであるといえるとしても、金属線の「平均結晶粒度」を「0.20μm以下」とするような温度で伸線加工を行うことまでは、当業者が容易に想到し得たとはいえない。 また、甲第14号証及び甲第15号証の1には、伸線加工の条件によって、タングステン線の「平均結晶粒度」を0.20μm以下にできることが記載されているといえるが、甲第14号証及び甲第15号証の1に記載されたタングステン線の「引張強度」及び「弾性率」は不明であるし、どのような条件で伸線加工を行うことで、「平均結晶粒度」を「0.20μm以下」にしているのかも不明であるから、甲第13号証に加えて、甲第14号証と甲第15号証の1の記載を参酌したとしても、引用発明1の「金属線」において、「平均結晶粒度」を「0.20μm以下」とすることが、当業者にとって容易になし得ることであるとはいえない。 (5)申立人の主張について a 申立人は特許異議申立書において、金属線の「平均結晶粒度」は、甲第2号証に記載されているように、一般的な評価方法であるから、引用発明1の金属線の「平均結晶粒度」について、当業者はいつでも評価できるため、本件発明1は引用発明1であることを主張している。 しかしながら、金属線の「平均結晶粒度」は一般的な評価方法によって当業者が評価できるとしても、引用発明1の「金属線」における「平均結晶粒度」を上記一般的な評価方法で評価した際に、「0.20μm以下」になるとまではいえないから、金属線の「平均結晶粒度」が一般的な評価方法で知り得るとしても、本件発明1が引用発明1であるとはいえない。 b また、申立人は特許異議申立書において、甲第11号証に記載されているように、「平均結晶粒度が0.20μm以下」のタングステン線は公知であり、何ら格別なものではないことを主張している。 しかしながら、甲第11号証に記載されたタングステン線の「平均結晶粒度」が0.20μmであったとしても、引用発明1は、甲第11号証のタングステン線とは「引張強度」及び「弾性率」が異なるのであるから、引用発明1の「平均結晶粒度」が0.20μm以下であるとは認められない。 (6)本件発明1についての小括 以上より、相違点1は実質的な相違点であるから、本件発明1は引用発明1であるとはいえない。また、本件発明1は引用発明1に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 1-2 本件発明2について (1)甲第1号証に記載された発明の認定 (ア)上記第4(甲第1号証の記載事項)の(1キ)より、「ソーワイヤー」は、カリウムがドープされたタングステンからなる「金属線」を備え、「ソーワイヤー」はタングステンを主成分として含有し、カリウムの含有率が0.005wt%以上0.010wt%以下であり、「ソーワイヤー」は「金属線」そのものである。 そうすると、「金属線」におけるタングステンの含有率は99.99wt%以上99.995wt%以下であると認められる。 (イ)上記第4(甲第1号証の記載事項)の(1ア)、(1オ)、(1ク)より、「金属線」の「引張強度」は4000MPa以上であり(段落【0033】)、「金属線」の「弾性率」は350GPa以上450GPa以下であり(段落【0034】)、「金属線」の「線径」は60μm以下である(段落【0035】)。 (ウ)以上より、甲第1号証には次の発明(以下、「引用発明1A」という。)が記載されていると認められる。 (引用発明1A) 「カリウムがドープされたタングステンからなる金属線であって、 前記金属線におけるタングステンの含有率は、99.99wt%以上99.995wt%以下であり、 前記金属線におけるカリウムの含有率は、0.005wt%以上0.010wt%以下であり、 前記金属線の引張強度は4000MPa以上であり、 前記金属線の弾性率は、350GPa以上450GPa以下であり、 前記金属線の線径は、60μm以下である 金属線」 (2)本件発明2と引用発明1Aとの対比 (ア)引用発明1Aの「前記金属線におけるタングステンの含有率は、99.99wt%以上99.995wt%以下であり」は、本件発明2の「前記金属線におけるタングステンの含有率は、99wt%以上であり」に相当する。 (イ)引用発明1Aの「前記金属線におけるカリウムの含有率は、0.005wt%以上0.010wt%以下であり」は、本件発明2の「前記金属線におけるカリウムの含有量は、0.01wt%以下であり」に相当する。 (ウ)すると、本件発明2と引用発明1Aとは 「カリウムがドープされたタングステンからなる金属線であって、 前記金属線におけるタングステンの含有率は、99wt%以上であり、 前記金属線におけるカリウムの含有率は、0.01wt%以下であり、 前記金属線の引張強度は4000MPa以上であり、 前記金属線の弾性率は、350GPa以上450GPa以下であり、 前記金属線の線径は、60μm以下である 金属線」の点で一致し、次の点で相違する。 <相違点1A> 「金属線の軸線に直交する断面における平均結晶粒度」について、本件発明2では「0.20μm以下」であるのに対して、引用発明1Aでは不明である点。 (3)相違点の検討 相違点1Aは相違点1と実質的に同一である。 そうすると、上記1-1と同様の理由により、相違点1Aは実質的な相違点であるから、本件発明2は引用発明1Aであるとはいえない。 また、上記1-1と同様の理由により、本件発明2は、引用発明1Aに基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 1-3 本件発明3?5について 本件発明3?5は、本件発明1又は2の技術的事項をすべて含み、さらに限定を加えるものであるから、上記1-1及び1-2と同じ理由により、引用発明1又は引用発明1Aであるとはいえない。 また、上記1-1及び1-2と同じ理由により、本件発明3?5は、引用発明1又は引用発明1Aに基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 2 申立理由3(サポート要件)について (1)本件明細書等には、以下の事項が記載されている。 ア 「【0004】 しかしながら、ピアノ線には、弾性率及び硬度が低いという問題がある。また、ピアノ線には、細線化が難しいという問題もある。このため、ピアノ線に代わる金属線として、引張強度、弾性率及び硬度のいずれも高く、かつ、細い金属線が求められる。 【0005】 そこで、本発明は、引張強度、弾性率及び硬度のいずれも高く、かつ、細い金属線及びソーワイヤーを提供することを目的とする。」 イ 「【0050】 表1及び図6に示されるように、平均結晶粒度が小さいほど、引張強度が大きくなっていることが分かる。本実施の形態では、金属線10における平均結晶粒度が0.20μm以下であるので、金属線10の引張強度は、4000MPa以上になる。つまり、金属線10の引張強度がピアノ線と同等以上にすることができる。また、金属線10の平均結晶粒度は0.16μm以下であってもよく、金属線10の引張強度が4400MPa以上になる。」 ウ 「【0065】 [効果など] 以上のように、本実施の形態に係る金属線10は、タングステンを含む金属線であって、金属線10におけるタングステンの含有率は、90wt%以上であり、金属線10の引張強度は、4000MPa以上であり、金属線10の弾性率は、350GPa以上450GPa以下であり、金属線10の線径φは、60μm以下であり、金属線10の線軸に直交する断面における平均結晶粒度は、0.20μm以下である。 【0066】 このように、金属線10は、タングステンを含有しているので、弾性率及び硬度が高い。また、タングステンを含む金属線10は、細線化するほど、引張強度が増加して切れにくくなる。金属線10の線径φが60μm以下であり、かつ、金属線10における平均結晶粒度が0.20μm以下であるので、金属線10の引張強度が4000MPa以上に高められている。」 (2)上記ア?ウより、本件発明は、引張強度、弾性率及び硬度のいずれも高く、かつ、細い金属線及びソーワイヤーを提供することを課題としている。 そして、金属線の平均結晶粒度を0.20μm以下にすることで、引張強度を4000MPa以上とし、更に、金属線がタングステンを含有することで、弾性率及び硬度を高め、本件発明の課題を解決している。 そうすると、本件発明は本件明細書等に記載された発明である。 3 申立理由4(実施可能要件)について (1)本件明細書等には、以下の事項が記載されている。 ア 「【0051】 [金属線の製造方法] 以下では、上記特徴を有する金属線10(ソーワイヤー2)の製造方法について、図7を用いて説明する。図7は、本実施の形態に係る金属線10の製造方法を示す状態遷移図である。 【0052】 まず、図7の(a)に示すように、タングステン粉末11a及びレニウム粉末11bを所定の割合で準備する。具体的には、タングステン粉末11aとレニウム粉末11bとを合わせた全体重量のうちの0.1%以上10%以下の範囲でレニウム粉末11bを準備し、残りをタングステン粉末11aとする。・・・ 【0053】 次に、タングステン粉末11a及びレニウム粉末11bの混合物に対してプレス及び焼結(シンター)を行うことで、タングステン及びレニウムの合金からなるReWインゴットを作製する。周囲から鍛造圧縮して伸展するスエージング加工を、ReWインゴットに対して行うことで、図7の(b)に示すように、ワイヤー状のReW線12を作製する。・・・ 【0054】 次に、図7の(c)に示すように、伸線ダイスを用いた線引き加工を行う。 【0055】 具体的には、まず、図7の(c1)に示すように、ReW線12をアニールする。具体的には、バーナーで直接的にReW線12を加熱するだけでなく、ReW線12に電流を流しながら加熱する。アニール工程は、スエージング加工又は線引き加工によって生じる加工歪を除去するために行われる。 【0056】 次に、図7の(c2)に示すように、伸線ダイス30を用いてReW線12の線引き、すなわち、伸線を行う。なお、前段のアニール工程によって、ReW線12が加熱されて柔らかくなっているので、伸線を容易に行うことができる。ReW線12が細線化されることで、その断面積当たりの強度が高くなる。つまり、線引き工程によって細線化されたReW線13は、ReW線12よりも断面積当たりの引張強度が高い。・・・ 【0057】 次に、図7の(c3)に示すように、線引き後のReW線13に対して電解研磨を行うことにより、ReW線13の表面を滑らかにする。・・・ 【0058】 次に、図7の(c4)に示すように、ダイス交換を行う。・・・ 【0059】 ReW線13の線径が所望の線径φ(具体的には、60μm以下)になるまで、図7の(c1)?(c4)を繰り返し行う。このとき、図7の(c2)で示す線引き工程は、対象となるReW線の線径に応じて、伸線ダイス30又は31の形状及び硬さ、使用する潤滑剤、並びに、ReW線の温度などを調整することで行われる。 【0060】 図7の(c1)で示すアニール工程も同様に、対象となるReW線の線径に応じて、アニール条件を調整する。アニール工程によって、タングステン線の表面には、酸化物が付着する。アニール条件を調整することで、付着する酸化物量を調整することができる。 【0061】 具体的には、ReW線の線径が大きいほど、高い温度でアニールし、ReW線の線径が小さいほど、低い温度でアニールする。例えば、ReW線の線径が大きい場合、具体的には、1回目の線引き加工のときのアニール工程では、1400℃?1800℃の温度でアニールする。所望の線径になる最終線引き加工のときの最終アニール工程では、1200℃?1500℃の温度で加熱する。なお、最終アニール工程では、ReW線への通電を行わなくてもよい。 【0062】 また、線引き加工の繰り返しの際に、アニール工程は省略されてもよい。例えば、最終アニール工程は省略されてもよい。具体的には、結晶粒度を小さくするため、最終アニール工程を省略し、潤滑剤並びに伸線ダイスの形状及び硬さを調節してもよい。例えば、最終アニール工程を省略することで、平均結晶粒度を小さくすることができる。また、伸線加工時のワイヤーの加熱温度を低くすればするほど、平均結晶粒度を更に小さくすることができる。・・・」 イ 「【0073】 (変形例) 続いて、上記の実施の形態の変形例について説明する。以下では、上記の実施の形態との相違点を中心に説明し、共通点の説明を省略又は簡略化する。 【0074】 本変形例に係る金属線は、ReW合金の代わりに、カリウム(K)がドープされたタングステンからなる。つまり、金属線は、カリウムがドープされた純タングステン線である。金属線におけるタングステンの含有率(純度)は、例えば、99wt%以上であり、99.9wt%以上であってもよい。・・・ 【0080】 なお、カリウムがドープされたタングステン線は、タングステン粉末11a及びレニウム粉末11bの代わりに、カリウムがドープされたドープタングステン粉末を利用することで、ReW合金線と同様の製造方法により製造することができる。」 (2)記載事項アより、本件発明1のReW線は、伸線加工時のワイヤーの加熱温度を低くする程度によって、平均結晶粒度を小さくすることができるものであり、引張強度が4000MPa以上であれば、平均結晶粒度が0.20μm以下となるわけではないことを理解できる。そのため、平均結晶粒度を0.20μm以下となるように、伸線加工時のワイヤーの加熱温度を調節することは、当業者は過度の試行錯誤を要することなく実施することができるといえる。 また、記載事項イには、本件発明2のカリウムドープタングステン線は、本件発明1のReW線と同様の製造方法により製造できることが記載されている。 そして、本件明細書等には、本件発明に係る実施例の少なくとも1つが詳細に記載されていれば十分であり、必ずしも全ての実施例について詳細な記載は必要とされない。当業者であれば、記載事項アの記載を参照すれば、本件発明2に相当する記載事項イの変形例についても実施することは可能であるといえ、この点について、甲第18号証で説明されているように、本件発明2は実際に実施可能である。 したがって、本件明細書等は、本件発明2を実施することができる程度に記載されていないとはいえない。 (3)本件発明3?5についても、本件発明1,2と同様に、記載事項ア、イを参照し、当業者が実施可能であるといえる。 よって、本件明細書等は本件発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているといえる。 第6 むすび したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?5に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1?5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2021-09-27 |
出願番号 | 特願2018-12955(P2018-12955) |
審決分類 |
P
1
651・
536-
Y
(C22C)
P 1 651・ 537- Y (C22C) P 1 651・ 113- Y (C22C) P 1 651・ 121- Y (C22C) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 相澤 啓祐 |
特許庁審判長 |
池渕 立 |
特許庁審判官 |
平塚 政宏 佐藤 陽一 |
登録日 | 2020-08-20 |
登録番号 | 特許第6751900号(P6751900) |
権利者 | パナソニックIPマネジメント株式会社 |
発明の名称 | 金属線及びソーワイヤー |