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審判番号(事件番号) データベース 権利
異議200171906 審決 特許
無効200035269 審決 特許
異議199971260 審決 特許

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審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  H01J
審判 一部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  H01J
審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  H01J
管理番号 1002302
異議申立番号 異議1999-71254  
総通号数
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1996-08-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 1999-04-08 
確定日 1999-07-03 
異議申立件数
事件の表示 特許第2807201号「キャリヤーガス中のサンプル分子の検出方法と装置」の請求項1ないし4、6ないし7、21ないし26、28ないし29、46ないし47に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第2807201号の請求項1ないし4、6ないし7、21ないし26、28ないし29、46ないし47に係る特許を維持する。 
理由 1.本件特許発明
本件特許第2807201号(平成7年11月24日(優先権主張 1994年11月25日、ドイツ国)出願、平成10年7月24日設定登録。)の請求項1乃至4、6、7、21乃至26、28、29、46、47に係る特許発明は、特許明細書の記載及び図面の記載からみて、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1乃至4、6、7、21乃至26、28、29、46、47に記載された事項により特定されるとおりのものである。
2.申立ての理由の概要
申立人今坂藤太郎は、請求項1乃至4、24乃至26に係る各特許発明は、甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明と同一であり、又は甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであり、請求項6、7、28、29に係る各特許発明は、甲第1号証に記載された発明と同一であり、又は甲第1号証に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであり、請求項21、46に係る各特許発明は、甲第4号証又は甲第5号証に記載された発明と同一であり、又は甲第4号証又は甲第5号証に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであり、これら各特許発明は、特許法第29条第1項第3号の規定又は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同法第113条第1項第2号の規定により取り消すべきものである旨主張している。
申立人三菱重工業株式会社は、請求項1、23に係る各特許発明は、甲第1号証、甲第2号証、甲第3号証に記載された発明と同一であり、又は甲第1、2、3号証に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであり、請求項2、3、24、25に係る各特許発明は、甲第1、2号証に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであり、請求項4、26に係る各特許発明は、甲第1号証、甲第2号証、甲第9号証に記載された発明と同一であり、又は甲第1、2、9号証に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであり、請求項6、28に係る各特許発明は、甲第2号証、甲第4号証、甲第5号証に記載された発明と同一であり、又は甲第2、4、5号証に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであり、請求項7、29に係る各特許発明は、甲第2号証に記載された発明と同一であり、又は甲第2号証に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであり、請求項21、46に係る各特許発明は、甲第1号証、甲第7号証、甲第8号証に記載された発明と同一であり、又は甲第1、8、9号証に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであり、これら各特許発明は、特許法第29条第1項第3号の規定又は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同法第113条第1項第2号の規定により取り消すべきものであり、又、請求項22、47に係る各特許発明は、当業者が実施できる程度まで発明を開示していないものであるから、特許法第36条第4項の規定により特許を受けることができないものであるから、同法第113条第1項第4号の規定により取り消すべきものである旨主張している。
3.申立人が提出した甲各号証記載の発明
申立人今坂藤太郎が提出した甲第1号証乃至甲第5号証は、それぞれ申立人三菱重工株式会社が提出した甲第2号証、甲第3号証、甲第6号証、甲第7号証及び甲第8号証と同一であるから、申立人三菱重工株式会社が提出した甲第1号証乃至甲第9号証について以下記載する。
甲第1号証(『日本化学会編、第4版 実験化学講座8「分光III」』 (平成5年6月25日、丸善株式会社発行)には、下記の事項が記載されている。
「c.検出感度の向上
SN比を上げるためには,信号強度を大きくする努力とともにノイズの軽減化を図らなければならない。
(i)ノズルからの距離 ノズルからの距離が長くなるほど分子の内部状態温度は低下し、多原子分子や錯体のスペクトルを測定するうえでは有利となるが,逆にジェットの膨張によりレーザー光と相互作用する分子数が少なくなる.したがって,良好なSN比を得るためには,これらの相反する要素を考慮しながら最適な条件をみつけなければならない.経験的にはピンホール型のノズルを用いる場合,ジェットとレーザービームが相互作用する領域として,吹き出し口径(D)で測った吹き出し口からの距離(X/D)を10〜50の間にとることが多い.この場合には分子衝突を完全に無視することはできず,これによるスペクトル線の広がりに注意する必要がある.」 (第149頁11行乃至21行)
「ノズル通過後のエンタルピーhとの間に保存則が成り立ち,エンタルピー減少が運動エネルギーに変換される. ・・・中略・・・M>1ならば,超音速流といわれる.Mはノズル出口からの距離xとノズル開口D0の比の関数として与えられ,・・・中略・・・
ところで,x/D0が大きくなるとMが増大し,Tが低下する傾向があるが,同時にρが低下することに注意する必要がある.ある程度ρが低下すると,超音速流体としての性質を失い,Mはある値(究極マッハ数MT)以上に増大しなくなる.そのため温度も凍結温度TF以下には低下しない.それでも,実際の系においてTFは極低温1〜0.5K以下になることは容易である.」 (第132頁2行乃至第133頁3行)
「ノズルを上下させて,集光点がオリフィスから5〜30mm下流になるようにする.」 (第137頁3行乃至4行)
甲第2号証(『Progress in Quantum Electronics』,Vol.14,No.2(1990)”)には、下記の事項が記載されている。
「7.5.超音速分子ジェット分光分析学
ガス状のサンプルがピンホールから真空中へ膨張される場合、・・・中略・・・音速は温度の減少に伴って減少するため分光速度が音速を越える。・・・中略・・・
7.5.1.理論的根拠及び装置
分子がキャピラリーから真空中へ漏れる時、・・・中略・・・ここでXはノズルからの距離、Dはノズルの直径、Aは定数(例えばヘリウム又はアルゴンについては3.26)を表す。冷却されたスペクトルを得るためには、X/D>10でのサンプル分子下流を検出する必要がある。X/D=40では、分子は数Kへと冷却される。・・・中略・・・一般的な作動条件(・・・)では、Xmは26mmと計算される。マッハ・ディスクの後ろでは、分子温度は分子の衝突によって急速に上昇する。それ以降、分光分析測定は10-15mmで行わなければならなくなる。・・・中略・・・パルスノズルが使用されており、・・・中略・・・この試みは、多光子イオン化分光分析の場合には他の分子とのイオン衝突を減らすために低真空圧(・・・)が要求されるので特に重要である。」(第217頁第3行乃至末行)
また、図69には、パルスノズルから噴射した分子流のイオン化領域内にレーザ光を照射してイオン化し、質量分析装置で測定する装置がみてとれる。(第223頁図69)
甲第3号証(『Applied Spectroscopy Reviews, 25巻』1989年 Marcek Dekker Inc.発行)には、下記の事項が記載されている。
「この包絡内で、分子流は等エントロピー状態で発達し、最終的に、衝突が本質的に減じられ、冷却が最大となっている「自由分子流」の状態へ到達する。自由分子流ゾーンはほぼ理想的な分光媒体を作り出す[21]。」(第93頁20行乃至23行)
「自由流れ領域が始まる位置を近似的に決定する為に、MTを(2)式に代入することができる。最も分解されたスペクトルはこの点(典型的にはノズル下流のノズル直径の50倍)で得られる。・・・中略・・・この式は単原子分子の噴出において、経験的にPO/P2が15〜15,000の範囲で成立する。実際には、マッハディスクの位置は最大に冷却された地点より遠くに位置することが望ましい。これは大容量排気システムにて真空チャンパー圧力P2を十分に低く維持することで達成できる。実際には真空チャンパー内にはマッハディスクが存在しないようにすることが可能である。パルスノズルでシステムからの全ガス排気量を低減することができる。」(第94頁17行乃至30行)
甲第4号証(『分光研究』VOL.39 NO.3、社団法人日本分光学会 平成2年(1990年)発行)には、下記の事項が記載されている。
[2.2.1超音速自由噴流の熱力学的考察理想気体を断熱膨張した前後の,1モル当りのエンタルピーをHO,Hとすると, ・・・中略・・・MT=30が得られる。」(第190頁左欄下から3行乃至右欄29行)
「3.パルス超音速分子線源
先に述べたように、定常的な超音速分子線源からの気体の噴出量は,非常に多い.・・・中略・・・そこで,パルス的に気体を噴出させるパルス分子線源が用いられる.分子線をパルス化することにより,有効排気速度を飛躍的に上げることが可能となる. ・・・中略・・・特に,飛行時間型(TOF)質量分析法と分子線とを組み合わせる場合には,分子線をパルス化する必要がある.」(第194頁「3.パルス超音速分子線源」の項)
甲第5号証(「大学院物理化学」上巻、株式会社講談社サイエンティフィック、1992年4月10日発行)には、下記の事項が記載されている。
「また分子流が最終マッハ数に到達する前に,マッハディスクができると加熱や圧縮が起こり,・・・中略・・・連続的な定常流としてのジェットは,ジェットの動力学を研究するためには必要不可欠なものであるが,光源としては時間幅が数ナノ秒程度のパルスレーザーを用いる場合が多いので,レーザーと同期して開閉するパルス動作のノズルを利用することによって,比較的小容量の排気装置でもじゅうぶんな冷却効果を得ることができる.
パルス動作のノズル部の例を図4.5に示した.」(第173頁14行乃至第174頁7行、図4.5)
甲第6号証(「化学」50巻 4号(1995)発行)は、本願の優先日後に発行された文献にすぎないものである。
甲第7号証(『Rapid Communication in Mass Spectrometry,Vol.7,183-185(1993)』)には、下記の事項が記載されている。
「超音速分子ビーム中における共鳴増強多光子イオン化によって測定した・・・中略・・・このことは、ポリ塩素化ダイベンゾダイオキシン及びダイベンゾフランについてのさらなる仕事を促進するものである。」(第183頁概説の項)
「実験
我々の実験装置の原理については別紙に記載されている。・・・中略・・・リフレクトロン飛行時間型質量分析計と自家製のイオン源及び自家製の注入装置(以下で説明する)から構成されている。・・・中略・・・質量スペクトルはデジタル・オシロスコープ(・・・)を用いて得、10-20のレーザー照射について平均した。」 (第183頁右欄6行乃至27行)
「結果
図1及び図2は、ダイベンゾダイオキシン、ダイベンゾフラン・・・中略・・・これら3種物質の飛行時間型質量スペクトルを図3に示す。・・・中略・・・これはREPMIの別の重要な特徴、即ち「軟イオン化」の可能性を示すものである。」 (第183頁右欄下から4行乃至184頁左欄17行)
甲第8号証(「Chemoshere」Vo1.29,Nos9-11(1994)」には、下記の事項が記載されている。
「要約
レーザー励起型共鳴増強多光子イオン化(REMPI)と飛行時間型質量スペクトル(TOF)との結合は微量有機物質の検出に有用な手段であることが示されている。・・・中略・・・最後に、環境分析分野においてのレーザー質量スペクトルの可能性について検討されている。」(第1877頁下から7行乃至最下行)
「実験
実験装置については別紙(5,7,8)に詳しく記載されている。・・・中略・・・反射飛行時間型質量スペクトルは、イオン源、無電界ドリフト領域、開始エネルギー分配補償用イオンミラー、多チャンネルプレート検出器(MCP)、他にエレクトロニクス、コンピューター、イオン信号を記録しプロセスするオシロスコープから構成される(5)。」(第1878頁下から3行乃至第1879頁9行)
甲第9号証(特開平6-233919号公報)には、レーザー照射による同位体分離法に関して、下記の事項が図面とともに記載されている。
「レーザー光はパルスノズルのオリフィスの下流10〜40mm、より好適には15〜20mmの範囲に照射すると良い結果が得られる。この領域ではCOガスは断熱膨張効果により極低温状態に冷却されている。」(第8欄16行乃至20行)
4.対比・判断
【申立人三菱重工業株式会社の主張について】
甲第1号証乃至甲第5号証及び甲第7号証乃至甲第9号証には、上記「3.申立人が提出した甲各号証記載の発明」の項で摘記したように、分光分析における超音速流体の学術的考察、パルスノズルの使用、一般的な質量分析装置等の技術事項が記載されているにすぎないものであって、請求項1に係る特許発明の技術事項である「ノズルを通って真空中で膨張するキャリヤーガスによってキャリヤーガスの分散流が発生し、キャリヤーガス流のイオン化ゾーンにおいてサンプル分子が光子を吸収して選択的にイオン化され、サンプル分子イオンが生成し、サンプル分子イオンは引力電場によって質量分析計に引き込まれ、質量分析計で測定されるキャリヤーガス流中のサンプル分子を検出する方法であって、キャリヤーガス流の連続体ゾーン、分子ビームゾーン、及び連続体ゾーンと分子ビームゾーンの間の境界が求められ、サンプル分子が、連続体ゾーンと分子ビームゾーンの間の境界付近でイオン化されること」、及び、請求項23に係る特許発明の技術事項である「真空中へのキャリヤーガスの膨張によってキャリヤーガスの発散流を発生させるノズル、キャリヤーガス流のイオン化ゾーンにおいてサンプル分子が光子を吸収して選択的にイオン化されてサンプル分子イオンを生成させる手段、質量分析計、及び引き込み電極によって質量分析計内にサンプル分子イオンを引き込む引力電場発生手段を含むキャリヤーガス中のサンプル分子を検出するための装置であって、イオン化ゾーンが、キャリャーガス流について求められる連続体ゾーンと分子ビームゾーンの間の、境界付近に配置されたこと」については、上記甲各号証には記載されておらず、示唆する記載も認めることができない。
そして、請求項1に係る特許発明及び請求項23に係る特許発明は、特許明細書中に記載された格別な作用効果を奏するものと認める。
したがって、請求項1に係る特許発明及び請求項23に係る特許発明は、上記甲各号証に記載された発明と同一であると認めることができないばかりでなく、上記甲各号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとも認めることができない。
また、請求項2,3,4,6,7及び21に係る各特許発明は、請求項1に係る特許発明の上記技術事項を含むものであり、請求項24,25,26,28,29及び46に係る各特許発明は、請求項23に係る特許発明の上記技術事項を含むものであるから、同様に、上記甲各号証に記載された発明と同一であると認めることができないばかりでなく、上記甲各号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとも認めることができない。
さらに、請求項22に係る特許発明の「本質的に非導電性材料で作成されたノズルを使用すること」及び請求項47に係る特許発明の「ノズル(40)が、本質的に非導電性材料から作成されたこと」という記載について検討すると、ノズルの材料として、適当な非導電性材料を選択して使用することは、当業者であれば容易に実施できる程度の技術事項と認められるから、特許明細書の発明の詳細な説明に非導電性材料の具体的な材料が特定されて記載されていないからといって、特許法第36条第4項の規定に違反するものとは認めることができない。
【申立人今坂 藤太郎の主張について】
甲第1号証乃至甲第5号証の記載事項については、上記「3.申立人が提出した甲各号証記載の発明」の項でそれぞれ、甲第2号証、甲第3号証、甲第6号証、甲第7号証及び甲第8号証として摘記したとおりのものであるから、上記【申立人三菱重工業株式会社の主張について】の項で対比・判断したとおり、請求項1乃至4,6,7,21,23乃至26,28,29,46に係る各特許発明は、甲第1,2,4,5号証に記載された発明と同一であると認めることができないばかりでなく、上記甲第1,2,4,5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとも認めることができない。
5.むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては本件特許発明についての特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許発明についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 1999-06-24 
出願番号 特願平7-305939
審決分類 P 1 652・ 121- Y (H01J)
P 1 652・ 536- Y (H01J)
P 1 652・ 113- Y (H01J)
最終処分 維持  
前審関与審査官 田邊 英治  
特許庁審判長 村本 佳史
特許庁審判官 柏木 悠三
島田 信一
登録日 1998-07-24 
登録番号 特許第2807201号(P2807201)
権利者 ドイチェ フォルシュングスアンシュタルト フュア ルフトーウント ラウムファールト エー.ファウ.
発明の名称 キャリヤーガス中のサンプル分子の検出方法と装置  
代理人 吉田 維夫  
代理人 田中 重光  
代理人 光石 忠敬  
代理人 光石 俊郎  
代理人 西山 雅也  
代理人 戸田 利雄  
代理人 田中 康幸  
代理人 石田 敬  

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