• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部無効 2項進歩性 無効とする。(申立て全部成立) E04H
管理番号 1006782
審判番号 審判1997-18718  
総通号数
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1980-08-02 
種別 無効の審決 
審判請求日 1997-10-29 
確定日 1999-10-12 
事件の表示 上記当事者間の特許第1407659号発明「側壁用型枠」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第1407659号発明の特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 I.手続の経緯・本件発明
本件特許第1407659号発明(以下、「本件発明」という。)は、昭和54年1月30日に特許出願され、出願公告(特公昭62ー13465号公報参照)後の昭和62年10月27日にその特許の設定の登録がなされたものであり、本件発明は、出願公告された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の第1項及び第2項に記載された次のとおりのものと認める。
「1.折曲可能な防水性材料からなる連続する帯状の表面体と、この表面体の裏面にその長さ方向に沿い所望間隔に固着した表面体の幅方向に延びるチヤンネル部材と、この各チヤンネル部材に係脱可能に組付けられ、かつ上記表面体を地上に立設するバー状の保持部材と、上記表面体の裏面側にその全長にわたり張り巡らされ、かつロツドにより上記保持部材に固定された可撓性シートとからなり、上記隣接の保持部材により分離されかつ上記可撓性シートおよび表面体により区画されたポケツト内にコンクリートを充填できるようにしたことを特徴とする側壁用型枠。
2.表面体がフアイバーグラスまたはステンレス板からなつていることを特徴とする特許請求の範囲第1項記載の側壁用型枠。」
II.請求人の主張及び提示した証拠方法
審判請求人・角田興業株式会社は、本件特許の請求項1及び2に係る発明についての特許は、以下の理由により、無効とする、審判の費用は被請求人の負担とする、との審決を求めている。
すなわち、本件特許の請求項1及び2に係る発明は、その特許の出願前に米国において頒布された刊行物である甲第1号証(米国特許第3468088号明細書)に記載された発明であり、又は甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第1項第3項に該当するか又は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、同法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきである、と主張している。
III.被請求人の主張
これに対して、被請求人は、答弁書を提出し、本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求めている。
すなわち、本件発明は、甲第1号証に記載された発明でないばかりでなく、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえないから、特許法第29条第1項第3項に該当せず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものでもないから、本件審判請求には理由がないと主張している。
IV.甲第1号証の記載事項
審判請求人の提示した甲第1号証には、
「本発明の目的は、組立てられる木製または金属製の型枠のセットアップ費用を削除し、硬質の型枠の使用を不要とし、比較的フレキシブルな型枠を使用してその型枠によって形成されるキャビティ内にコンクリートを注入し硬化した後にもその型枠をそのまま残しておくことができるようにし、比較的簡単で経済的な方法で本分野における問題を解決して新たな結果をもたらす、新たなコンクリート壁構造構築手順を提供することである。」(第1欄第47行〜第56行)、
「水泳プールの壁は、強化コンクリートのような材料から水泳プールの底面を形成するのに先立って窪み内に配備されるファイバーガラスシートの連続した長さを用いることによつて形成することができる。」(第2欄第52行〜第56行)、
「ファイバーガラス製の連続シートが23で示され、チャンネル部材24が適宜間隔を置いて壁23に予め取付けられている。チャンネル24の表面には蟻溝25が形成されている。
本発明によれば、H形型枠支持部材26がチャンネル24内に配置される。H形部材26は一対の外向きフランジ手段27を有し、該外向きフランジ手段27はチャンネル部材24に形成された一対の内向きフランジ手段28に嵌合される。H形支持部材26は部材26の全長に延びるポケット又は溝が形成された一対の内向きフランジ29を有する。連続長さの比較的フレキシブルな型枠手段またはシート30が壁構造の全長に沿って張り巡らされて位置している。シートの一部分はH部材のポケット内に位置し、ロッド手段31がその中にシート30を保持させるためポケットに挿入される。シート30は壁の全周の周りに位置させ、隣接するH部材26間に張られ、ロッド31により各H部材26内に保持される。キャビティがH部材、壁部材23及びフレキシブル型枠手段30に囲まれ形成されている。
コンクリート又は適宜材料が符号32で示されるポケットに注がれる。ポケットに注がれたコンクリート重量物は、図3の充満したラインヘフレキシブル型枠手段30を膨らますことになる。コンクリートの硬化後、シート材料はロッド31を取り除くことによって必要ならば取り除くことができるが、シート材料を壁構造から除去することは必須ではない。
水泳プールの壁は、本発明に基づき、比較的硬いファイバーガラス壁部材23を窪み内に配備し、事前に取り付けられているチャンネル部材中に一連のH形部材を設置し、比較的フレキシブルなシート部材30を隣接するH形部間に延在するように所定の位置に設置して、H形部材のポケット内にロッド部材を挿入することによってそれを所定位置に保持し、H形部材、壁部材23及びシート部材30によつて形成されるキャビティ内にコンクリート材料を充填することによつて形成することができる。完成された水泳プール構造物は鉄網で強化されたコンクリートにより形成された水泳プール底部を有する。保持ロッド34がコンクリート底部を打つ前に所定の位置に壁23の底部分を保持するため利用される。ロッド34は壁23の底部分に形成された孔を通して延び、窪みの側面の中に延びている。」(第2欄第67行〜第3欄第48行及びFig1〜4)、
「本発明の装置を具現し、本発明の方法に基づいて構築される壁構造は、非常に速く、比較的少ない費用で形成することができる。こうして、本発明では、従来知られている通常のコンクリート型枠をセットアップするのに通常必要とされるよりはるかに少ない時間で且つ容易に型枠のセットアップが可能であり、型枠材に多くのお金を掛ける必要なく、壁または強化壁を構築する新たな装置及び方法が提供される。」(第6欄第25行〜第34行)及び
「壁部材23は帯状に連続し、折曲可能となっており、チヤンネル部材24は壁部材23の長さ方向に沿い所望間隔に固着され、壁部材23の幅方向に延びている。」(Fig.1,3,4)との事項が記載されており、これらの記載事項を考え合わせると、
甲第1号証には、
「折曲可能なフアイバーグラスからなる連続する帯状の壁部材23と、この壁部材23の裏面にその長さ方向に沿い所望間隔に予め固着し、壁部材23の幅方向に延びるチヤンネル部材24と、この各チヤンネル部材24に係脱可能に組付けられ、かつ上記壁部材23を保持ロッド34により壁部材23の底部分に形成された孔を通して、窪みの側面の中に延びて、壁部材23の底部分を保持すると共に壁部材23を立設するH形型枠支持部材26と、上記壁部材23の裏面側にその全長にわたり張り巡らされ、かつロツド部材31により上記H形型枠支持部材26に保持固定された比較的フレキシブルなシート部材30とからなり、上記隣接のH形型枠支持部材26により分離されかつ上記比較的フレキシブルなシート部材30および壁部材23により区画されたキャビティ内にコンクリートを充填することに形成される水泳プールの壁等の壁構造。」という発明が記載されていると認められる。
V.当審の判断
そこで、本件発明の第1項に係る事項と甲第1号証記載の発明とを比較すると、
甲第1号証記載の発明の「壁部材」、「H形型枠支持部材」、「ロツド部材」、「フレキシブルなシート部材」及び「キャビティ」は、夫々本件発明の第1項に係る事項の「表面体」、「保持部材」、「ロツド」、「可撓性シート」及び「ポケツト」に相当すると共に、甲第1号証記載の発明の「水泳プールの壁等の壁構造」は、キャビティ内にコンクリートを充填する前の構造において、本件発明の第1項に係る事項の側壁用型枠と同様の水泳プールの壁等の壁構造用型枠に相当するものと言うことができる。
また、本件発明の第1項に係る事項の「防水性材料」とは、具体的には、「フアイバーグラスまたはステンレス板」を意味しており、甲第1号証記載の発明の「フアイバーグラス」と同一の材料であるから、甲第1号証記載の発明の「フアイバーグラス」も「防水性材料」に相当するものと言い換えることができるものである。
よって、両者は、
「折曲可能な防水性材料からなる連続する帯状の表面体と、この表面体の裏面にその長さ方向に沿い所望間隔に固着した表面体の幅方向に延びるチヤンネル部材と、この各チヤンネル部材に係脱可能に組付けられ、かつ上記表面体を地上に立設するバー状の保持部材と、上記表面体の裏面側にその全長にわたり張り巡らされ、かつロツドにより上記保持部材に固定された可撓性シートとからなり、上記隣接の保持部材により分離されかつ上記可撓性シートおよび表面体により区画されたポケツト内にコンクリートを充填できるようにしたことを特徴とする側壁用型枠」
である点で一致しており、
本件発明の第1項に係る事項は、保持部材が各チヤンネル部材に係脱可能に組付けられ、かつ上記表面体を地上に立設するものである、すなわち実施例に記載されているように保持部材の下端を地中に打ち込むことによつて表面体が窪みの底面上に垂直に保持されるのに対して、甲第1号証記載の発明は保持部材とは別の保持ロッドが表面体の底部分に形成された孔を通して、窪みの側面の中に延びて、表面体を保持している点で相違している。
しかしながら、本件発明の出願前、コンクリートを打設前に、水泳プールの壁体に組付けられた杭等の部材を地中に垂直に打ち込み、水泳プールの壁体を垂直状態に立設維持することは、周知の手段である(必要なら、特開昭47ー14947号公報、特開昭50ー97134号公報を参照されたい。)ばかりでなく、一般的に土木・建築技術として、例えば壁体、堰板等の立設体を垂直に立設維持するため、垂直体にバー状の保持部材を組付け、この保持部材を地中に打ち込むことは、普通に実施されている手段にすぎないものと認められる(必要なら、実願昭48ー84017号(実開昭50ー31732号)のマイクロフィルム、実願昭48ー7809号(実開昭49ー113426号)のマイクロフィルム、特開昭49ー67468号公報を参照されたい。)。
さすれば、上記相違点において、甲第1号証記載の発明の保持ロッドにより壁部材(表面体)を保持するに代え、H形型枠支持部材(保持部材)を、本件発明の第1項に係る事項の保持部材のように、その下端を地中に打ち込み、壁部材(表面体)を垂直に保持することは、当業者であれば必要に応じて容易に想到できることにすぎないと言うことができる。
よって、本件発明の第1項に係る事項は、甲第1号証により当業者が容易に発明をすることができたものである。
また、本件発明の第2項は、本件発明の第1項を引用する実施態様項であり、本件発明の第2項に限定された事項である「表面体がフアイバーグラスまたはステンレス板からなつていること」は、甲第1号証には、壁部材の材料としてフアイバーグラスが記載されており、そして、その他の事項は、本件発明の第1項を引用するものであるから、上記本件発明の第1項に係る事項に対してした判断と同様、本件発明の第2項に係る事項も、甲第1号証から当業者が容易に発明をすることができたものである。
VI.むすび
したがって、本件発明は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第89条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 1998-06-25 
結審通知日 1998-07-07 
審決日 1998-07-22 
出願番号 特願昭54-8697
審決分類 P 1 112・ 121- Z (E04H)
最終処分 成立  
前審関与審査官 伊波 猛  
特許庁審判長 樋口 靖志
特許庁審判官 白樫 泰子
蓮井 雅之
登録日 1987-10-27 
登録番号 特許第1407659号(P1407659)
発明の名称 側壁用型枠  
代理人 門間 正一  
代理人 大島 陽一  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ