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審判番号(事件番号) データベース 権利
無効200235443 審決 特許
無効200135480 審決 特許
異議199973920 審決 特許
異議200172607 審決 特許
審判199835415 審決 特許

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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性 無効とする。(申立て全部成立) E04G
管理番号 1012009
審判番号 審判1998-35008  
総通号数 10 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1994-04-05 
種別 無効の審決 
審判請求日 1998-01-08 
確定日 2000-01-26 
事件の表示 上記当事者間の特許第2132611号発明「工事用可搬式歩廊」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第2132611号発明の特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 1.経緯
本件特許第2132611号は、昭和58年7月31日に出願された特許願昭和58年140207号を、特許法第44条の規定によって平成4年8月31日に特許願平成4年第255498号として分割出願したものであって、平成6年8月3日に特公平6-58006号として出願公告され、その後平成8年5月16日に拒絶査定となり、査定不服審判(平成8年審判第10516号)時の平成8年7月29日に手続補正書が提出され、平成9年10月9日に特許登録されたものである。
2.請求人の請求の理由の概要
請求人は、本件特許の請求項1に係る発明(以下、本件特許発明という)についての特許を無効とすべき理由として概略次のように主張する。
(1)本件特許の平成8年7月29日付でなされた手続補正は、出願公告時の明細書に記載された目的の範囲を逸脱するものであるから要旨変更に相当し、特許法第42条の規定によりその補正がされなかった特許出願について特許がされたものとみなされることから、本件特許発明は、拒絶査定に示された理由(特許法第29条第2項)に該当し無効とされるべきである。
(2)前記手続補正が認められるとしても、本件特許発明は、証拠として提出した甲第4号証に甲第5号証乃至甲第12号証に記載されたものを組み合わせることにより、当業者が容易になし得た程度のものであるから、特許法第29条第2項に該当し無効とされるべきである。
3.被請求人の主張の概要
被請求人は、平成10年4月27日付審判事件答弁書において、理由(1)に対しては、平成8年7月29日付手続補正書で補正された特許請求の範囲の構成要件と効果はいずれも出願当初の明細書及び図面に記載された事項であり、これらはいずれも構成要件を単に減縮し且つ自明の事項であるから要旨を変更するものではない、また、理由(2)に対しては、本件特許発明と甲第4号証との相違点に係る構成要件に対応する部分的な構成は甲第5号証乃至甲第12号証に示されているが、甲第5号証乃至甲第12号証は甲第4号証に対して何の関連性もなく、9件の多数の刊行物を組み合わせること自体困難性があるのであって、甲第4号証に甲第5号証乃至甲第12号証を組み合わせて本件特許発明とすることは到底不可能である。そもそも、機械的な発明は分解すれば1つ1つの構成はおよそ公知技術であり、これらの公知技術をいかに組み合わせたかによって進歩性が認められべきである旨主張している。
4.請求の理由(1)について
請求の理由(1)は、本件特許発明の認定にかかわる事項であるから、まずこの理由から検討する。
請求人は、平成8年7月29日付手続補正書による補正(以下、本件補正という)は、要旨変更である旨主張するが、主張全体から特許法第17条の3第2項で準用する特許法第126条第2項でいう、「実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであってはならない」という要件を満たさない旨を主張する趣旨と解され、被請求人の主張もこれに対する反論と解されるので、以下、そのようなものとして検討する。
本件補正は、出願公告後の補正であるから、特許法第17条の3第1項本文の要件とただし書きの要件(拒絶査定不服審判請求の日から30日以内の補正であって、査定の理由に示す事項について、特許請求の範囲の減縮、誤記の訂正、明りょうでない記載の釈明を目的とするもの)、及び同条第2項で準用する特許法第126条第2項(実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであってはならない)の要件を充足する必要がある。
以下順に検討する。
(1)査定不服審判の請求は平成8年6月27日であり、本件補正をした日は平成8年7月29日であるが、請求の日から30日目は平成8年7月27日で同日は土曜日であるから、本件補正は審判の請求の日から30日以内の補正であると認められる。
(2)補正の内容
▲1▼特許請求の範囲の変更
▲2▼明細書の段落番号【0010】の変更
▲3▼明細書の段落番号【0033】の変更
▲4▼明細書の段落番号【0034】の削除
▲5▼明細書の段落番号【0085】の変更
▲6▼明細書の段落番号【0100】の変更
▲7▼明細書の段落番号【0105】の変更
(3)補正の内容▲1▼(特許請求の範囲の変更)について
請求項1については、拒絶査定時の請求項1の記載
「被構築物の梁材等の水平支持材間に架設あるいは吊設されて作業者の歩行あるいは諸作業を可能にする歩廊において、
当該歩廊は主歩廊と主歩廊の一端あるいは両端に長さ調節自在に副わせて保持した副歩廊とからなり、
主歩廊と副歩廊は一対の枠体と枠体の内側間に連設された足場板とからなり、
主歩廊と副歩廊の枠体には折り畳み自在な門型の手摺が附設され、
主歩廊の足場板の一端には傾斜面が形成され、
主歩廊と副歩廊の各足場板の上面には滑り止めが設けられ、
各手摺は支柱と支柱に保持された横材とからなると共に各支柱の下端部分は各枠体に固着されたソケットに上下移動自在に挿入され、
更に副歩廊の各枠体端部には連結金物が取り付けられている
工事用可搬式歩廊。」

「被構築物の梁材等の水平支持材間に架設あるいは吊設されて作業者の歩行あるいは諸作業を可能にする歩廊において、
当該歩廊は主歩廊と主歩廊の一端あるいは両端に長さ調節自在に副わせて保持した副歩廊とからなり、
主歩廊と副歩廊は一対の枠体と枠体の内側間に連設された足場板とからなり、
副歩廊の枠体下端外側には上向きフック状の係合片からなる補強部が形成され、
主歩廊と副歩廊の枠体には各足場板上側短手方向に折り畳み自在な門型の手摺が附設され、
主歩廊の足場板の一端には傾斜面が形成され、
主歩廊と副歩廊の各足場板の上面には滑り止めが設けられ、
各手摺は支柱と支柱に保持された横材とからなると共に各支柱の下端部分は各枠体に固着されたソケットに上下移動自在に挿入され、
更に副歩廊の各枠体端部には連結金物がそれぞれ取り付けられ、
一方の連結金物の内側と他方の連結金物の外側には中央部より先端側の肉厚をやゝ薄くして段差部を形成している
工事用可搬式歩廊。」
と変更するものであり、
新たに構成要件の一部となった
補正▲1▼:「副歩廊の枠体下端外側には上向きフック状の係合片からなる補強部が形成され」た点、
補正▲2▼:折り畳み自在な門型の手摺が「各足場板上側短手方向に」折り畳まれる点、
補正▲3▼:副歩廊の各枠体端部には連結金物が「それぞれ」取り付けられた点、及び
補正▲4▼:連結金物の形状を「一方の連結金物の内側と他方の連結金物の外側には中央部より先端側の肉厚をやゝ薄くして段差部を形成」した点、
はいずれも拒絶査定の理由に示した事項に関する補正であって、特許請求の範囲を減縮するものと認められ、特許法第17条の3第1項を充足する。
また、上記補正▲1▼乃至▲4▼は、いずれも拒絶査定時の明細書に記載された範囲内(ちなみに、補正▲1▼の係合片に関しては段落番号【0093】及び第19図等に、補強部に関しては段落番号【0033】等に、補正▲2▼に関しては段落番号【0082】、【0087】等に、補正▲3▼に関しては段落番号【0044】及び第2図等に、補正▲4▼に関しては段落番号【0044】及び第2図等に、それぞれ開示されている)であって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには相当しないものであって、特許法第126条第2項を充足する。
請求人は、本件補正で新たに構成要件の一部となった上記補正▲1▼乃至▲4▼は、拒絶査定時の発明の技術思想と機能的、作用的に何ら関係しない技術的事項であり、目的を逸脱するものであり、上記補正▲1▼の「補強部」及び▲4▼の「段差部」に関しては、拒絶査定時の明細書に記載されていない効果を追加したものであって、新たな構成を実質的に追加したに等しい旨主張するが、上記補正▲1▼乃至▲4▼は、上述したようにいずれも拒絶査定時の明細書に記載された範囲内の事項であり、効果として補正した事項は、上記補正▲1▼乃至▲4▼と限定したことによって生じる効果であって、いずれも拒絶査定時の明細書に記載された事項から当業者が容易に理解できる事項であり、拒絶査定時の発明が奏する効果に付随する効果を一層明確にしたものであって、新たな別の目的又は効果を付加したことにはならないことから、目的を逸脱した補正とすることはできず、特許請求の範囲を実質的に拡張し、又は変更するものとすることはできない。
(4)補正の内容▲2▼乃至▲7▼について
補正の内容▲2▼は、補正した特許請求の範囲と整合されるための補正であり、補正の内容▲3▼乃至▲5▼は、いずれも特許請求の範囲を補正し新たに構成要件の一部となった構成に関する明細書の補正であって、補正の内容▲6▼、▲7▼の効果の補正は、いずれも拒絶査定時の明細書に記載された事項から当業者が容易に理解できる範囲内であり、補正の内容▲2▼乃至▲7▼はいずれも明りょうでない記載の釈明に相当するものと認められる。
(5)したがって、本件補正は、適法な補正であって、請求人の主張は採用できない。
5.本件特許発明の認定
上記4.で検討したように本件補正は適法なものであるから、本件特許の請求項1に記載された発明(本件特許発明)は、平成8年7月29日付手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認められる。
【請求項1】
被構築物の梁材等の水平支持材間に架設あるいは吊設されて作業者の歩行あるいは諸作業を可能にする歩廊において、
当該歩廊は主歩廊と主歩廊の一端あるいは両端に長さ調節自在に副わせて保持した副歩廊とからなり、
主歩廊と副歩廊は一対の枠体と枠体の内側間に連設された足場板とからなり、
副歩廊の枠体下端外側には上向きフック状の係合片からなる補強部が形成され、
主歩廊と副歩廊の枠体には各足場板上側短手方向に折り畳み自在な門型の手摺が附設され、
主歩廊の足場板の一端には傾斜面が形成され、
主歩廊と副歩廊の各足場板の上面には滑り止めが設けられ、
各手摺は支柱と支柱に保持された横材とからなると共に各支柱の下端部分は各枠体に固着されたソケットに上下移動自在に挿入され、
更に副歩廊の各枠体端部には連結金物がそれぞれ取り付けられ、
一方の連結金物の内側と他方の連結金物の外側には中央部より先端側の肉厚をやゝ薄くして段差部を形成している
工事用可搬式歩廊。
6.請求の理由(2)について
請求人は、甲第4号証乃至甲第12号証を証拠として提出して、本件特許発明は、甲第4号証記載の足場板に甲第5号証乃至甲第12号証に記載された発明を組み合わせることにより、当業者が容易に発明できたものである旨主張するので以下検討する。
6-1 引用例の記載事項
(1)甲第4号証(実願昭48-28593号(実開昭49-132627号)のマイクロフィルム)
甲第4号証には、伸縮布枠に関する考案が記載されており、建築現場などで組立てられるH鋼などを利用して設ける仮設通路用の布枠Aとして、第1図及び第2図に示したように、布枠Aは左方枠1及び右方枠2とから構成されており、「左方枠1は、左方縦枠1Aの上下端に断面C型鋼あるいは角筒状部材による前後枠1Bが固定され、かつその表面には適当網目を有する網体1Cあるいは板体が張設されていると供に、上記左方縦杆にはフック1Dが突設されている。また上記右方枠体2は右方縦杆2Bの両端部に内方へ向け上記左方枠の前後枠内に摺動する前後枠2Bを固定し、上記右方縦杆2Aには[状の枠体と揺動自在に連結し、上記枠体2Cには網目を有する網体あるいは板体2Dが張設されていると共に上記縦杆2Bには外方へ向けフック2Eが突設されている。そこで本願の布枠AはH鋼などに長手方向とは直交する方向をもって取付けられた受け棒4Gに上記枠の左右のフック1D、2Eを係止し取付ける。この場合伸縮自在に構成されているから上記受け棒4G、4Gの間隔が不同であっても取付ることができる。」(2頁11行〜3頁14行)と記載されている。
また、この布枠A自体に取り付けられているのではないが、第3図及び第4図には、この布枠Aの長手方向に沿って両側に、支柱4Bと単管4Cとからなる門型の手摺が設けられていることが記載されている。
(2)甲第5号証(実願昭55-185645(実開昭57-109146号)のマイクロフィルム)
甲第5号証には、鋼製足場板固定治具に関する考案が記載されており、その第3図に、鋼製足場板1の両側面縁部にC型部材2が一体に設けられているものが示され、そのC型部材2に固定治具本体3を係合させることにより、足場板を枠組足場8のパイプ5に固定する構造が記載されている。
ここで、C型部材2は足場板1の枠体であり、その下端外側は上向きにフック状となっており、このフック状部分は枠体を補強する機能を有することは明らかであり、また、この上向きフック状部分に固定治具本体3を係合させるのであるから、このフック状部分は、係合片としての機能をも有すると認められる。
(3)甲第6号証(実公昭52-1476号公報)
甲第6号証には、可動式建築用足場に関する考案が記載されており、「本考案は、建築工事に於いて、主に左官あるいは外装仕上げ作業等に利用する建築用足場板に関する」(1欄29行〜30行)ものであるとして、「一対の両足載せ台1a,lbからなる足載せ台1を伸縮自在に構成する」(1欄17行〜18行)とともに、「足載せ台1上面を平滑にするために足載せ台8aの一端部に巾方向に沿って設けた面取部」(3欄1行〜3行)6を有する構成が開示され、第2図に、その面取部6が傾斜していることが示されている。また、足載せ台1aは、第1図及び第2図に示されるように、一対のH型の側板部材2,2を補強板2bによって一体化し、両側板部材2,2間に足載せ板2aをかけわたして固定した構成とされ、その側板部材2,2が、他方の足載せ台1bのコの字型の対向側板8,8内を摺動する構成とされている。
なお、「足載せ板2a,8aの表面をゴム等のすべりにくいもので形成することにより、スリップが防止され、より安全に足場による作業が行われるものである。」(4欄16行〜19行)と記載されている。
(4)甲第7号証(実公昭58-5801号公報)
甲第7号証には、仮設用通路または階段の手摺に関する考案が記載されており、「工事現場等において用いられる架設用の通路あるいは階段の手摺」(1欄35行〜36行)として、「四方の布枠1、根太2によって方形の通路枠を形成し、その通路面にはエキパンドメタル3が展設してあり、長手方向の布枠1の両端には下方に開口したフック溝4を有する係止部5が突設してある。また、長手方向の2つの布材1に沿って手摺6が立上っている。」(2欄18行〜24行)構造が開示されている。そして、その係止部5は、第6図に示すように、二つの布枠1をこれらの中心が一致するように連結するために、内側と外側にずれて配置されている。また、布枠1の外側には手摺受8が取り付けられるとともに、この手摺受のブラケット9には上下方向に長い開口部をもつ孔10が形成されており、「手摺6の下部支柱12の下端部を、ピン13が孔10の下端位置になるまで降げて、手摺受本体7内に挿入して手摺6を直立固定できる。また、支柱12を、ピン13が孔10の上端位置になるまで引上げて支柱12の下端を手摺受本体7より上方の位置となし、手摺6をピン13を中心として容易に回動し通路側に倒すことができる。」(3欄10行〜17行)と記載されている。
(5)甲第8号証(英国特許第1375962号明細書)
甲第8号証には、延長可能な作業プラットフォームに関する発明が記載されており、1頁16行〜31行には「直立構造体上で建築作業あるいは修復作業を行うためには、作業員または道具を運ぶため構造体の面に沿って縦方向に間隔をおいて作業プラットフォームを組み立てるか吊り下げる必要がある。・・・本発明は、その一つの目的として、広範囲なさまざまな長さの間隙を橋渡しするのに使用できる標準的なテレスコープ状に延長可能なプラットフォームを提供することである」(甲第8号証の抄訳1頁7行〜14行参照)、1頁74行〜93行には「図3から解るように・・・複数の荷重受けパネル22、22a等が、二つの側部フレーム部材13と14との間に取り付けられていて・・・荷重受けパネル22は、好ましくは、強力な繊維板材料からつくられていて、プラットフォームの全体的な強度と剛性とを増すために容易に交換可能である。・・・図3から解るように、圧延鋼からつくられた側部フレーム部材24は、逆U字状のランナー部材26と、ランナー部材26の内側面に溶接されたL字形のフランジ27とを含んでなる。・・・複数の繊維板パネル29が、ボルトまたはリベットによりL字形のフランジ27に取り付けられ、強固な荷重受け表面を形成している。」(同抄訳2頁8行〜23行参照)と記載されており、プラットホームは吊りさげて用いられることもあること、プラットフォームの主要部分11の側部フレーム部材13,14の間に複数の荷重受けパネル22,22aが設けられ、外側部分12の側部フレーム部材23,24の間にパネル29が設けられていることが開示されている。
(6)甲第9号証(特公昭54-2506号公報)
甲第9号証には、多段伸縮作業台の手摺構造に関する発明が記載されており、「基台6には支持枠10に支持された固定手摺杆9が折りたたみ自在に立設され、この支持枠10は縦杆11,11と中央部を連結する横杆12とよりなり、縦杆11,11の下端は基台6の側壁に固設されたブラケット13に軸支14,14されている。前記固定手摺杆9内には摺動手摺杆15が摺動自在に嵌合され、また横杆12内には摺動横杆16が摺動自在に嵌合されている」(2欄32行〜3欄2行)構成のものが開示されている。そして、第3図には、これら手摺が折りたたまれた状態のものが示されている。
(7)甲第10号証(実公昭50-36823号公報)
甲第10号証には、広域足場板に関する考案が記載されており、その第7図には、二つの足場板を接合金具8によって連設した構成が記載され、接合金具のみを示した第6図(ロ)の平面図において、この接合金具は、足場板の端部に取り付けられる右側の部分に対して、垂直方向に設けられパイプ等に引っ掛ける部分は、図面において上方に偏位した状態で設けられており、この接合金具を枠体の端部に設けて2つの足場板を連接した状態を示す第7図において、2つの足場板の中心を一致させるように連設させる技術思想が開示されていると認められる。
(8)甲第11号証(米国特許第3889779号明細書)
甲第11号証には、長さ調整自在の歩廊に関する発明が記載されており、第1の歩廊部分と第2の歩廊部分とからなる伸縮自在な歩廊において、「手摺は、第1の歩廊部分に付設されるが、その組み立てを容易にするために上記歩廊部分に屈折可能に取り付けられている。すなわち、手摺20は歩廊の表面側に屈折可能に取り付けられ、かつ手摺21は歩廊の裏面側に屈折可能に取り付けられている。このようにすることにより、運搬の際にコンパクトに折り畳むことができる。」(5欄32行〜42行)(甲第11号証の抄訳6頁7行〜12行参照)と記載されている。
(9)甲第12号証(実公昭54-9176号公報)
甲第12号証は、パイプの連結具に関する考案が記載されており、第1図、第3図および第4図には、連結具を構成する部材の中央部より先端側の肉厚をやゝ薄くして段差部を形成しておき、この部材を互いに連結した場合には、互いの段差部が接合して直線状、つまり中心を一致させることが記載されている。
6-2 本件特許発明と甲第4号証(以下、引用例1という。)に記載された事項との対比・判断
(1)本件特許発明と引用例1とを対比すると、引用例1において、布枠Aは、建築現場などで組み立てられるH鋼などを利用して設けられる架設通路用の布枠であるから、被構築物の梁材等に設けられて作業者の歩行あるいは諸作業を可能にする歩廊に相当するものであり、布枠Aは、左方枠体1及び右方枠体2から構成されており、右方枠体2の前後枠2Bは左方枠体1の前後枠1B内を摺動して伸縮自在となっており、受け棒4G、4Gの間隔が不同であっても取付ることができるものであるから、左方枠体1及び右方枠体2は、本件特許発明の主歩廊及び副歩廊にそれぞれ相当するものである。また、引用例1の左方枠体1及び右方枠体2は、一対の前後枠1B、1B、2B,2Bの間に適当網目を有する網体1Cあるいは板体が張設されていることから、この網体は本件特許発明の足場板に相当し、網体の上面は滑り止めの機能を有するものと認められる。更に、右方枠体1の各前後枠2Bの端部にはフック2Eが取り付けられており、受け棒4Gと連結されるようになっている。
したがって、本件特許発明と引用例1に記載されたものとは、
「被構築物の梁材等に設けられて作業者の歩行あるいは諸作業を可能にする歩廊において、
当該歩廊は主歩廊と主歩廊の一端あるいは両端に長さ調節自在に副わせて保持した副歩廊とからなり、
主歩廓と副歩廊は一対の枠体と枠体の内側間に設けられた足場板とからなり、
主歩廊と副歩廊の各足場板の上面には滑り止めが設けられ、
更に副歩廊の各枠体端部には連結金物がそれぞれ取り付けられている
工事用可搬式歩廊。」
において一致し、次の点で相違していると認められる。
相違点1:本件特許発明の歩廊は、被構築物の梁材等の水平支持材間に架設あるいは吊設されているのに対し、引用例1のものは、梁材の上に設けられている点、
相違点2:本件特許発明の歩廊足場板は、一対の枠体と枠体の内側間に連設されているのに対し、引用例1のものは左方枠体の足場板は一対の枠体間に連設されているものの、右方枠体の足場板は枠体間に連接されていない点、
相違点3:本件特許発明の副歩廊の枠体下端外側には上向きフック状の係合片からなる補強部が形成されているのに対し、引用例1の枠体には補強部が設けられていない点、
相違点4:本件特許発明の主歩廊と副歩廊の枠体には各足場板上側短手方向に折り畳み自在な門型の手摺が附設されていると共に、各手摺は支柱と支柱に保持された横材とからなると共に各支柱の下端部分は各枠体に固着されたソケットに上下移動自在に挿入されているのに対し、引用例1に記載されたものの布枠Aには手摺が設けられていない点、
相違点5:本件特許発明の主歩廊の足場板の一端には傾斜面が形成されているのに対し、引用例1に記載されたものの足場板には傾斜面が形成されていない点、
相違点6:本件特許発明の副歩廊の各枠体端部に取り付けられた連結金物は、一方の連結金物の内側と他方の連結金物の外側には中央部より先端側の肉厚をやゝ薄くして段差部を形成しているのに対し、引用例1の連結金物はそのような形状となっていない点
(2)以下、各相違点について検討する。
▲1▼相違点1について
本件特許発明のように、歩廊を被建築物の梁材等の水平支持材間に架設あるいは吊設することは、仮設用の歩廊において周知の技術的事項であって、この点に技術的意義があるとは認められない(必要なら、架設する点については甲第5号証を、吊設する点については甲第8号証を参照のこと)。
▲2▼相違点2について
本件特許発明のように、歩廊の足場板を一対の枠体間に連設することは、甲第4号証の左方枠体にも示されるように仮設用の歩廊において周知の技術的事項であり、また、本件特許発明のように主副複数の歩廊を有するものにおいて、歩廊の足場板を一対の枠体間に連設することは、甲第8号証や甲第11号証に記載されているように仮設用の歩廊において周知の技術的事項であって、この点に技術的意義があるとは認められない。
▲3▼相違点3について
本件特許発明のように、歩廊の枠体の下端外側に上向きフック状の係合片からなる補強部を形成することは、甲第5号証に記載されており、この補強部を本件特許発明のように特に副歩廊に形成したように限定したことは、本件特許発明においても主歩廊の枠体の下側外側に上向きフック状の係合片からなる補強部を形成していることから、特に技術的意義があるとは認められず、上記相違点に係る本件特許発明の構成は、引用例1に記載された歩廊の枠体の構造に換えて甲第5号証に記載された枠体の構造を適用することにより、当業者が容易に想到できたことである。
▲4▼相違点4について
引用例1に記載されたものには、布枠A自体ではないものの第3図に示されるように手摺が設けられており、一方、本件特許発明のように、歩廊の枠体に足場板上側短手方向に折り畳み自在な門型の手摺を設けると共に、手摺を支柱と支柱に保持された横材とから構成し、更に各支柱の下端部分を枠体に固着されたソケットに上下移動自在に挿入させることは、甲第7号証の手摺受本体7が本件特許発明のソケットに相当することから甲第7号証に記載されており、この場合、本件特許発明のように主副複数の歩廊を有する場合においては、手摺の支柱の他端部は主副の各歩廊の枠体に固着されたソケットに挿入されるようにすることは当然であるから、引用例1に記載された手摺の構造に換えて、甲第7号証に記載された手摺の構造を適用することにより上記相違点に係る本件特許発明の構成とすることは、当業者が容易に想到できたことである。
▲5▼相違点5について
本件特許発明のように主副複数の歩廊を有するものにおいて、主歩廊の足場板の一端に傾斜面を設けることにより、主副歩廊の接続部に段差を生じさせないようにすることは、甲第6号証にも記載されている(甲第6号証に記載された面取部6は傾斜した面であることは明らかであり、「足載せ台1上面を平滑にするために」設けられたものである)ように、本件特許発明の出願日前に周知の技術手段にすぎず、この点に技術的意義があるとは認められない。
▲6▼相違点6について
本件特許発明のように歩廊の各枠体端部に連結金物をそれぞれ取り付け、隣接する歩廊同志を接続したときに、各歩廊の中心を一致させるようにすることは、甲第10号証の第6図及び第7図に記載されており、この場合、本件特許発明のように連結金物に段差部を形成することにより中心を一致させるようにすることは、機械の技術分野において2つの部材を接合する場合に周知の技術手段にすぎない(例えば、甲第12号証参照)ことから、引用例1に記載されたものの副歩廊である右方枠体の端部に設けられた連結金物であるフック(2E)に換えて、甲第10号証の第6図及び第7図に記載された接合金具(8)を適用することにより、本件特許発明の上記相違点に係る構成とすることは、両者が共に歩廊の足場板の連結に関するものであることから、当業者が容易に想到できたことである。
また、上記相違点1乃至6としたことによって生じる作用効果は、いずれも各相違点に関する公知技術や周知技術が奏する作用効果と同じであって、格別顕著なものとは認められない。
6-3 被請求人の主張に対して
被請求人は、甲第4号証の発明に対して、甲第5号証乃至甲第12号証の発明は何の関連性もなく、9件の多数の刊行物を組み合わせること自体困難性があるのであって、甲第4号証に甲第5号証乃至甲第12号証を組み合わせて本件特許発明とすることは到底不可能であり、そもそも、機械的な発明は分解すれば1つ1つの構成はおよそ公知技術であり、これらの公知技術をいかに組み合わせたかによって進歩性が認められべきである旨主張するが、甲第5号証乃至甲第11号証に記載された事項は足場板や作業台に関するものであって、本件特許発明の歩廊と密接に関連する技術分野に属するものであり、また、甲第12号証は、機械分野において周知の技術手段であることを立証するものであり、本件特許発明の甲第4号証との相違点に係る構成はいずれも甲第5号証乃至甲第12号証に開示された事項であって、上記6-2に記載したように、組み合わせに技術的意義が認められず、当該相違点に係る構成とすることは当業者にとって容易に想到できた事項であるから、相違点の過多にかかわらず進歩性は認められない。
6-4 請求理由(2)のまとめ
したがって、本件特許発明は、甲第4乃至8号証及び甲第10乃至12号証に記載された、本件特許発明の出願前に公知の刊行物に記載されたもの及び周知の技術的事項から当業者が容易に発明できたものであり、特許法第29条第2項に該当する。
7.結論
以上のように、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであり、特許法第123条第1項に該当するので、無効とする。
また、審判に関する費用については、特許法第169条第2項で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
 
審理終結日 1999-11-15 
結審通知日 1999-11-30 
審決日 1999-12-02 
出願番号 特願平4-255498
審決分類 P 1 112・ 121- Z (E04G)
最終処分 成立  
前審関与審査官 山田 忠夫小山 清二丸山 亮  
特許庁審判長 田中 弘満
特許庁審判官 鈴木 公子
小野 忠悦
登録日 1997-10-09 
登録番号 特許第2132611号(P2132611)
発明の名称 工事用可搬式歩廊  
代理人 天野 泉  
代理人 志賀 正武  

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