• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H05B
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  H05B
審判 全部申し立て 2項進歩性  H05B
管理番号 1012134
異議申立番号 異議1999-74524  
総通号数 10 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1999-12-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 1999-12-01 
確定日 2000-03-13 
異議申立件数
事件の表示 特許第2900938号「有機薄膜ELパネル及びその製造方法」の特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第2900938号の請求項1ないし請求項6に係る特許を維持する。 
理由 1.本件発明
本件特許第2900938号(以下「本件特許」という。)は、平成10年6月8日の出願であって、平成11年6月2日に特許権の設定登録がなされたものである。
そして、本件特許の請求項1ないし6に係る発明は、明細書及び図面の記載からみてその特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された以下のものと認める。
「請求項1
少なくとも一方が透明または半透明の対向する一対の電極間に正孔輸送層、有機発光層を積層した基板からなる有機薄膜ELパネルにおいて、
前記基板を封止する封止キャップの内側に導電パターンが形成され、該導電パターンと基板上の陰極端子とが互いの両端に電気的に接続されており、かつ前記基板と前記封止キャップとが光硬化性絶縁樹脂により固定されていることを特徴とする有機薄膜ELパネル。
請求項2
少なくとも一方が透明または半透明の対向する一対の電極間に正孔輸送層、有機発光層を積層した基板からなる有機薄膜ELパネルにおいて、
前記基板を封止する封止キャップの内側に導電パターンを形成し、該パターンと前記基板上の陰極端子の互いの両端を電気的に接続し、かつ光硬化性絶縁樹脂により封止を行うことを特徴とする有機薄膜ELパネルの製造方法。
請求項3
少なくとも一方が透明または半透明の対向する一対の電極間に正孔注入層、正孔輸送層、有機発光層を積層した基板からなる有機薄膜ELパネルにおいて、
前記基板を封止する封止キャップの内側に導電パターンが形成され、該導電パターンと基板上の陰極端子とが互いの両端に電気的に接続されており、かつ前記基板と前記封止キャップとが光硬化性絶縁樹脂により固定されていることを特徴とする有機薄膜ELパネル。
請求項4
少なくとも一方が透明または半透明の対向する一対の電極間に正孔注入層、正孔輸送層、有機発光層を積層した基板からなる有機薄膜ELパネルにおいて、
前記基板を封止する封止キャップの内側に導電パターンを形成し、該パターンと前記基板上の陰極端子の互いの両端を電気的に接続し、かつ光硬化性絶縁樹脂により封止を行うことを特徴とする有機薄膜ELパネルの製造方法。
請求項5
少なくとも一方が透明または半透明の対向する一対の電極間に正孔輸送層、有機発光層、電子輸送層を積層した基板からなる有機薄膜ELパ
ネルにおいて、
前記基板を封止する封止キャップの内側に導電パターンが形成され、該導電パターンと基板上の陰極端子とが互いの両端に電気的に接続されており、かつ前記基板と前記封止キャップとが光硬化性絶縁樹脂により固定されていることを特徴とする有機薄膜ELパネル。
請求項6
少なくとも一方が透明または半透明の対向する一対の電極間に正孔輸送層、有機発光層、電子輸送層を積層した基板からなる有機薄膜ELパネルにおいて、
前記基板を封止する封止キャップの内側に導電パターンを形成し、該パターンと前記基板上の陰極端子の互いの両端を電気的に接続し、かつ光硬化性絶縁樹脂により封止を行うことを特徴とする有機薄膜ELパネルの製造方法。」
2.申立ての理由の概要
特許異議申立人古江恵実子は、「本件特許の請求項1ないし請求項6に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条の2の規定に違反してなされたものであり、同法第113条第1項第2号の規定により取り消されるべきものであり、さらに請求項3および請求項4に係る発明は、正孔注入層について具体的構成が何ら記載されていないので、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていないので、特許法第36条第4項または第6項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第1項第4号の規定により取り消されるべきものである。」と、主張し、以下の証拠方法を提出している。
甲第1号証:特願平9-198349号(特開平11-40370号公報)
3.対比・判断
1)第29条の2違反について
本件特許発明の出願日前の出願であって、その出願後に出願公開された上記特願平9-198349号の願書に最初に添付した明細書又は図面(以下「先願明細書」という。)(甲第1号証)には、有機ELディスプレイに関し以下の事項が記載されている。
a)「【請求項1】陽極と陰極の間に発光を司る物質が存在し、電気エネルギーにより発光する素子が定められた形状に配列されたディスプレイであって、陰極若しくは陽極がその外側に配置された基板上に形成された電極パターンと電気的に接続されていることを特徴とする有機ELディスプレイ。
【請求項2】透明電極、正孔輸送層、発光層、必要に応じて電子輸送層、そして陰極からなる発光素子が定められた形状に配置され、陰極側に電極パターンが形成された基板を配置して該電極パターンと陰極とが電気的に導通するように接続することを特徴とする請求項1記載の有機ELディスプレイ。」
b)「【請求項8】発光素子が形成された基板と電極パターンが形成された基板を張り合わせることにより、発光素子を封止することを特徴とする請求項2記載の有機ELディスプレイ。」
c)「【0015】有機電界発光素子は、通常、1)正孔輸送層/発光層、2)正孔輸送層/発光層/電子輸送層、3)発光層/電子輸送層、そして、4)以上の組合わせ物質を一層に混合した形態のいずれであってもよい。・・・N,N’-ジフェニル-N,N’-ビス(1-ナフチル)-1,1’-ビフェニル-4,4’-ジアミン(α-NPD)・・・ビス(m-メトキシフェニルカルバゾール)、ビス(p-メトキシフェニルカルバゾール)・・・これらの化合物は、積層または混合しても使用できる。」
d)「【0023】本発明において外側に形成された電極パターンは、通常有機EL素子が形成される基板以外の基板上(以後背面基板と表記する)に作られる。従って、最終的には有機EL素子を作り込んだ基板と電極パターンを形成した背面基板とを電気的導通を取りながら張り合わせる格好になる。背面基板の材質は電極パターンが作製できれば特に限定されないが、一例を挙げるとアルミナ、窒化珪素、炭化珪素などのセラミックス基板、ソーダライムガラス、無アルカリガラスなどのガラス基板、」
e)「【0024】本発明における背面基板は、電極パターンの支持体である他に有機EL素子を封止するための遮蔽板の役割を持たせることができる。」
f)「【0027】・・・封止する手段としては、エポキシ樹脂、シアノアクリレート系樹脂、アクリル若しくはエポキシ系光硬化性樹脂などが好適な例として示されるが、これらに限定されるものではない。
【0028】有機EL素子の陰電極と背面基板に形成された電極パターンの電気的接続法は特に定まったものはないが、単に対面電極パターンを有機EL素子の陰電極に接触させる・・・通常は両電極間の導通を取るための緩衝層として、基板の片方若しくは両方に導電性突起を設けるとよい。」
g)「【0036】実施例1
(1)有機EL素子基板の作製
縦18cm、横23cmの無アルカリガラス(コーニング社製7059)の片面を研磨して板厚を1.1±0.05mm(ダイヤルゲージ測定時)に調整した。このガラス基板を洗浄後、ITOをスパッタリング法によって135nmの膜
厚に形成し、その時の抵抗値は15Ω/□であった。このITO基板を縦方向に300μmピッチ(ライン幅250μm)のストライプを640本形成した。本ITO基板に感光性ポリイミド中に絶縁化処理を施した炭素粉末を分散したペーストをスピンコートし、140℃においてプリベーク後、ITOストリップ間にITOに2μmかかる見当で露光、現像、本キュアを施すことによって絶縁性樹脂ブラックマトリックスを形成した。この様にして調整されたITO基板は、界面活性剤、超純水、イソプロピルアルコール、メタノールの順に洗浄を行った。素子形成の前にUV-オゾン洗浄を施して真空蒸着機の中に取り付け、3×10-4Paまで減圧した。基板を回転させながら基板温度は常温にて銅フタロシアニンを20nm蒸着し、続いてビス(m-メチルフェニルカルバゾール)を100nm、トリス(8-ヒドロキシキノリノラト)アルミニウム錯体を100nmいずれも表示領域全面にわたって蒸着した。次に陰電極を作製するために真空を破ることなく陰極用マスクに切り替えた。陰極用マスクは、ニッケルが含まれる材質でパネルの横方向に300μmピッチ(ライン幅250μm)で480本形成出来るように抜いてあるものであるが、これだけだとマスクの形状を保てないので電極が断線しないように補強線が入れてある。マスクは、基板の裏側から磁石で固定する事によって蒸着面との密着性を上げて蒸着電極の短絡を防止している。この様な状態に固定できたらまずリチウムを加熱して真空容器内をリチウム蒸気の雰囲気にして、膜厚モニターで0.5nmの膜厚になるまで有機層を晒してリチウムをドーピングする。続いてアルミニウムも抵抗加熱法によって200nmの膜厚の陰電極を作製した。以上の工程でまず有機EL素子側の基板ができあがった。
【0037】
(2)背面基板の作製
研磨された1mm厚のアルミナ基板(縦16cm、横25cm)上に感光性導電ペーストを用いた電極パターンと突起を形成した。まず感光性導電ペーストは、溶媒であるγ-ブチロラクトン中に40%のメタクリル酸(MAA)、30%のメチルメタクリレート(MMA)および30%のスチレン(St)からなる共重合体にMAAに対して0.4当量のグリシジルメタクリレート(GMA)を付加反応させたポリマー(8g)を混合し、攪拌しながら80℃まで加熱してすべてのポリマーを均質に溶解させた。ついで溶液を室温まで冷却し、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルフォリノ-1-プロパノンと2,4-ジエチルチオキサントンをポリマーとモノマーとの総和に対して20%添加した光重合開始剤を加えて溶解させた。その後、溶液を400メッシュのフィルターを通過し、濾過して有機ビヒクルを作製した。次に紫外線吸光剤であるスダン(0.01g)を秤量し、イソプロピルアルコール(IPA)に溶解させた溶液に分散剤を加えてホモジナイザで均質に攪拌した。そして、この溶液中に導電性粉末(球状、平均粒子径3.3μm、比表面積0.82m2 /gのAg粉末)を86gを添加して均質に分散・混合後、ロータリーエバポレータを用いて、150〜200℃の温度で乾燥し、IPAを蒸発させた。こうして紫外線吸光剤の膜で導電性粉末の表面を均質にコーティングした(いわゆるカプセル処理した)粉末を作製した。前記有機ビヒクルに紫外線吸光剤でカプセル処理した導電性粉末、トリメチロールプロパントリアクリレート(3g)、ジブチルフタレート(DBP、7g)、2,4-ジエチルチオキサントン(1.8g)、p-ジメチルアミノ安息香酸エチルエステル(EPA,0.9g)、ポリマーに対して4%の酢酸2-(2-ブトキシエトキシ)エチルに溶解させたSiO2 (濃度15%)、ガラスフリット(重量組成比:二酸化ケイ素(1.5)、酸化アルミニウム(3.6)、酸化ホウ素(61.3)、酸化バリウム(19.1)、酸化カリウム(9.8)、酸化ナトリウム(4.7))(3g)および溶媒を3本ローラで混合・分散してペーストを作製した。
【0038】
本ペーストを325メッシュのスクリーンを用いてアルミナ基板上にベタに印刷し、80℃で40分間保持して乾燥した。乾燥後の塗布膜の厚みは13μmであった。この塗布膜を有機EL素子基板に形成された陰電極と同じパターン形状で重なり合うようにクロムマスクを用いて、上面から500mW/cm2 の出力の超高圧水銀灯で紫外線露光した。次に25℃に保持したモノエタノールアミンの0.5重量%の水溶液に浸漬して現像し、その後スプレーを用いて未露光部を水洗浄した。これを空気中、580℃で15分間焼成を行い、電極導体膜を作製した。焼成後の電極膜厚は8μm、比抵抗は3.2μΩ・cmであった。
【0039】
得られた電極上に各発光画素の中心位置と一致する所に中心がある高さ3μmの円柱を前記陰極パターンを形成する方法と同様の方法で640×480個作製した。
【0040】
(3)張り合わせ工程
アルゴン雰囲気下、有機EL基板の画素と背面基板の突起が合わさるように背面基板を陰極側に重ねて周囲をエポキシ樹脂で封止し、パネル全面には反射防止フィルムを貼り付けた。
【0041】
以上の工程を経たパネルは、プローブピンコネクターで駆動回路との導通をとりデュアルスキャン法にて線順次駆動文字表示を行ったところ、輝度計(トプコン社製、BM-8)で測定した最大輝度ムラは15%以内に抑えられた。また、本パネルは背面基板を用いて封止されていることから、大気中3ヶ月を経過して保存しても同電流値での輝度低下は5%であった。」
そこで、先願明細書に記載された発明と、本件の請求項1ないし6に記載された発明とを対比する。
先願明細書の「背面基板は、電極パターンの支持体である他に有機EL素子を封止するための遮蔽板の役割を持たせることができる。」なる記載より、背面基板が遮蔽板としても機能することが認められる。
しかしながら、その場合においても、有機EL素子の陰電極と背面基板に形成された電極パターンは電気的に接続されるので、背面基板に形成された電極パターンと有機EL素子の陰電極は両者合わせて1対の電極を形成するものであるから、本件各請求項でいう一対の電極とは別体に導電パターンを形成した「封止キャップ」とは構成が異なるものと認められる。
しかも、「封止キャップの内側に導電パターンが形成され、該導電パターンと前記基板上の陰極端子とが互いの両端を電気的に接続され」る構成に関しては、記載も示唆もない。
したがって、本件請求項1ないし6に係る発明が、先願明細書に記載された発明と同一であるとすることはできない。
2)第36条第4項または6項違反について
異議申立人は、特許異議申立書において、本件特許明細書は、a)「本件特許明細書の発明の詳細な説明の欄には、「正孔注入層」という語についての説明は一切な(い)」こと及び、b)「正孔注入層を用いた実施例すら記載されていないのである。正孔注入層についても使用可能な材料の種類、正孔注入層を用いる効果、使用の実例など詳細かつ具体的な説明が(ない)」ことから、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていないと主張している。
しかしながら、本件特許明細書の発明の詳細な説明の課題を解決するための手段の項に「正孔注入層」なる記載があることから、上記主張a)は成り立たない。
また、上記主張b)に関してであるが、正孔注入層を構成する材料自体は本件出願前周知・慣用の技術であり、「正孔注入層」なる記載から、当業者が周知・慣用の材料を選択することにより容易に実施できるものと認められるので、実施例の記載がないからといって、拒絶をするまでには至らない。
したがって、請求項3および請求項4に関する発明が、特許法第36条第4項または第6項の規定に違反しているとすることはできない。
4.むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件発明についての特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2000-02-22 
出願番号 特願平10-159584
審決分類 P 1 651・ 536- Y (H05B)
P 1 651・ 121- Y (H05B)
P 1 651・ 537- Y (H05B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 渋谷 善弘今関 雅子  
特許庁審判長 岡田 幸夫
特許庁審判官 大里 一幸
長崎 洋一
登録日 1999-03-19 
登録番号 特許第2900938号(P2900938)
権利者 日本電気株式会社
発明の名称 有機薄膜ELパネル及びその製造方法  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ