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審決分類 審判 全部申し立て 発明同一  H01L
審判 全部申し立て 2項進歩性  H01L
審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備  H01L
管理番号 1012443
異議申立番号 異議1998-75365  
総通号数 10 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1994-07-15 
種別 異議の決定 
異議申立日 1998-11-04 
確定日 2000-03-21 
異議申立件数
事件の表示 特許第2751963号「窒化インジウムガリウム半導体の成長方法」の請求項1ないし請求項4に係る発明の特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第2751963号の請求項1ないし4に係る発明の特許を維持する。 
理由 (1)手続きの経緯
本件特許第2751963号は、平成5年5月7日に出願され(国内優先日平成4年6月10日及び平成4年11月4日)、平成10年2月27日にその設定登録がなされ、その後、中西みどり、シャープ株式会社、菊池信及び高木栄より特許異議の申立てがなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成12年2月23日に訂正請求がなされたものである。

(2)訂正請求の適否についての判断
i)訂正の内容
訂正請求の内容は、特許請求の範囲の請求項1の
「【請求項1】原料ガスとして、ガリウム源のガスと、インジウム源のガスと、窒素源のガスとを用い、有機金属気相成長法により、次に成長させる窒化ガリウム層または窒化ガリウムアルミニウム層よりも低温で成長させるバッファ層を介して、バッファ層よりも高温で成長させた該窒化ガリウム層または窒化ガリウムアルミニウム層の上に、窒化インジウムガリウム半導体を成長させることを特徴とする窒化インジウムガリウム半導体の成長方法。」
を、
「【請求項1】有機金属気相成長法により、次に成長させる窒化ガリウム層よりも低温で成長させるバッファ層を介して、バッファ層よりも高温で成長させた該窒化ガリウム層の上に、原料ガスとして、ガリウム源のガスと、インジウム源のガスと、窒素源のガスとを用い、同じく有機金属気相成長法により、窒化インジウムガリウム半導体を成長させることを特徴とする窒化インジウムガリウム半導体の成長方法。」
と訂正し、明細書の記載もこれに合わせて訂正するものである。

ii)訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
特許請求の範囲の訂正は、「窒化ガリウム層または窒化ガリウムアルミニウム層」を「窒化ガリウム層」のみに限定し、「原料ガスとして、ガリウム源のガスと、インジウム源のガスと、窒素源のガスとを用い、有機金属気相成長法により成長させる」層は、窒化インジウムガリウム半導体であることを明確にするものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするもの及び明りょうでない記載の釈明に該当し、また、明細書の訂正は、特許請求の範囲の訂正に合わせた訂正であるから、明りょうでない記載の釈明に該当し、共に新規事項の追加にも、実質的に特許請求の範囲を拡張・変更するものにも該当しない。

iii)独立特許要件の検討
取消理由通知は、請求項1の記載において、「原料ガスとして、ガリウム源のガスと、インジウム源のガスと、窒素源のガスとを用い、有機金属気相成長法により」成長させるのは、窒化インジウムガリウム半導体であると認められるが、窒化ガリウム層または窒化ガリウムアルミニウム層は、どのように成長させるのかが明りょうでない、というものであったが、上記訂正により、有機金属気相成長法により、窒化ガリウム層を成長させ、原料ガスとして、ガリウム源のガスと、インジウム源のガスと、窒素源のガスとを用い、同じく有機金属気相成長法により、窒化インジウムガリウム半導体を成長させる、ことが明確になった。
よって、取消理由通知で指摘した記載不備は解消したので、本件請求項1乃至請求項4に係る発明を、独立特許要件がないものとすることはできない。

iv)むすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求は、特許法第120条の4第2項及び同条第3項で準用する第126条第2項乃至第4項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

(3)特許異議申立について
(本件発明)
本件特許第2751963号の請求項1乃至請求項4に係る発明は、訂正された特許明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1乃至請求項4に記載された、
「【請求項1】有機金属気相成長法により、次に成長させる窒化ガリウム層よりも低温で成長させるバッファ層を介して、バッファ層よりも高温で成長させた該窒化ガリウム層の上に、原料ガスとして、ガリウム源のガスと、インジウム源のガスと、窒素源のガスとを用い、同じく有機金属気相成長法により、窒化インジウムガリウム半導体を成長させることを特徴とする窒化インジウムガリウム半導体の成長方法。
【請求項2】前記原料ガスのキャリアガスとして窒素を用いることを特徴とする請求項1に記載の窒化インジウムガリウム半導体の成長方法。
【請求項3】前記窒化インジウムガリウム半導体を600℃より高い温度で成長させることを特徴とする請求項1または2に記載の窒化インジウムガリウム半導体の成長方法.
【請求項4】前記窒化インジウムガリウム半導体成長中、インジウム源のガスのインジウムのモル比を、ガリウム1に対し、0.1以上にすることを特徴とする請求項1乃至3の内のいずれか1項に記載の窒化インジウムガリウム半導体の成長方法。」
である。

(特許異議申立人の主張の概要)
特許異議申立人中西みどりは、甲第1号証として特開平3-203388号公報、甲第2号証として特開平2-291111号公報を提示して、本件請求項1乃至請求項4に係る発明は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである旨、主張しており、特許異議申立人シャープ株式会社は、甲第1号証として特開平3-218625号公報、甲第2号証としてAppl.Phys.Lett.,Vol59,NO.18,28 0ctober l991 を提示して、本件請求項1及び請求項3に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であり、あるいはその発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項第3号または第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件請求項2乃至請求項4に係る発明は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項規定により特許を受けることができないものである旨、主張しており、特許異議申立人菊池信は、甲第1号証として特開平3-203388号公報、甲第2号証として特公昭62-29397号公報、甲第3号証として特開平2-229476号公報を提示して、本件請求項1乃至請求項4に係る発明は、甲第1号証乃至甲第3号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件明細書にバッファ層に関して、その目的、厚さなどの構成、それが奏する効果について記載されていないから、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない旨、主張しており、特許異議申立人高木栄は、甲第1号証として特開平4-209577号公報、甲第2号証としてAppl.Phys.Lett.59(18),28 0ctober l991 、甲第3号証としてJAPANESE JOURNAL OF APPLIED PHYSICS VOL.30,NO.10A,OCTOBER,1991、甲第4号証としてJAPANESE JOURNAL OF APPLIED PHYSICS VOL.30,NO.12A,DECEMBER,1991を提示して、本件請求項1乃至請求項3に係る発明は、甲第1号証に記載された発明と同一であって、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものであり、また、本件請求項1乃至請求項4に係る発明は、甲第2号証乃至甲第4号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである旨、主張している。

(甲各号証の記載内容)
特許異議申立人中西みどりの提示した甲第1号証には、
「窒化処理した基板と、この基板上に形成したバッファ層と、このバッファ層上に形成したGaxIn1-xN層(0≦x≦1)のpn接合構造とを備え、前記バッファ層がAlN層およびAlN/GaN歪超格子層およびAlzGa1-zN層(0≦z≦1)のうちの少なくとも一層である半導体発光素子。」(特許請求の範囲請求項1)、
「第2図に示すように、有機金属気相(MOVPE)装置Yは、キャリアガス20として、H2またはN2を用い、原料ガスとして、III族にはTMA(トリメチルアルミニウム)10、TMG(トリメチルガリウム)11、TMI(トリメチルインジウム)12を用い、V族にはNH3を用いた。」(公報第3頁右上欄第6行〜第11行)、
「バッファ層としてAlN/GaN歪超格子層を採用した場合、・・・格子緩和しやすく、格子欠陥をほとんど吸収し、・・・結晶性は飛躍的に向上する。・・・バッファ層としてAlN層2を形成した場合に比べて2倍以上の明るさを有した。」(公報第4頁左下欄第13行〜右下欄第8行)、
「窒化処理された基板上に、バッファ層としてAlN層およびAlN/GaN歪超格子層およびAlzGa1-zN層(0≦z≦1)のうちの少なくとも一層を形成した後に、この表面にGaxIn1-xN層(0≦x≦1)を形成することによって、窒素を充分に含む高品質、かつ結晶性の良いGaxIn1-xN層を形成することができ、pn接合構造を容易に形成することができる。その結果、・・・高効率の青色の半導体発光素子を得ることができる。」(公報第4頁右下欄第13行〜第5頁左上欄第4行)と記載されている。
同じく、甲第2号証には、
「有機金属化合物ガスを用いた化合物半導体薄膜を気相成長させる装置において、化合物半導体薄膜の成長する基板まで、反応ガスを導く導入ガス管を有し、前記導入ガス管の前記基板に面する吹出口は、前記基板の幅方向に沿って長く前記基板の高さ方向に短く偏平していることを特徴とする気相成長装置。」(特許請求の範囲)、
「本装置は、特に、サファイア基板上に窒化ガリウム系化合物半導体(AlxGa1-xN;x=0を含む)を気相成長させる装置に最適である。」(公報第2頁右上欄第11行〜第13行)、
「次に温度を400℃まで低下させて、・・・AlNのバッファ層51が約250Åの厚さに形成された。次に、TMAの供給を停止して、試料温度を1150℃に保持し、・・・N型のGaNから成るN層52を成長させた。」(公報第3頁右下欄最終行〜第4頁左上欄第12行)と記載されている。
また、特許異議申立人シャープ株式会社の提示した甲第1号証には、
「マグネシウム(Mg)、亜鉛(Zn)或いは炭素(C)などのアクセプタ不純物を添加した
((Ga1-xAlx)1-yInyN:0≦x<1、0≦y<1)
よりなる窒化ガリウム系化合物半導体結晶に電子線照射処理を行い、添加したアクセプタ不純物を活性化させp形窒化ガリウム系化合物半導体
((Ga1-xAlx)1-yInyN:0≦x<1、0≦y<1)
よりなる結晶を得ることを特徴とする半導体結晶の作製方法。」(特許請求の範囲請求項1)、
「結晶成長用基板、例えばサファイアを結晶成長部に設置したのち・・・基板を600℃程度まで降温し、トリメチルアルミニウム(TMA)およびアンモニアを成長装置内に導入し、・・・緩衝層として窒化アルミニウムを約50nm程度堆積する。その後TMAの供給のみを止め、基板温度を1030℃程度まで昇温する。次にMgが添加された
(Ga1-xAlx)1-yInyN(0≦x<1、0≦y<1)
の結晶を作製する場合は、TMA、トリメチルガリウム(TMG)、トリメチルインジウム(TMI)およびビスシクロペンタジエニルマグネシウムを所定量供給する。」(公報第3頁右上欄第3行〜第18行)、
「第1図に示すように、サファイア基板1上に、故意に不純物を添加しない
(Ga1-xAlx)1-yInyNの単結晶層(n形、0≦x<1、0≦y<1))2を形成し、次いでアクセプタ、本例ではMgを添加した
(Ga1-xAlx)1-yInyN(0≦x<1、0≦y<1)単結晶層3を形成する。」(公報第4頁左下欄第5行〜第11行)と記載されている。
同じく、甲第2号証には、
「InGaN膜は(0001)サファイア基板上に縦型コールドウォール反応炉を用いたMOCVD法により成長させた。サファイア基板は有機溶剤及び硫酸により処理している。原料ガスはトリエチルガリウム(TEG)、トリメチルインジウム(TMI)と純化したアンモニアである。バブリング及びキャリアガスはともに窒素である。」(第2251頁左欄第33行〜第38行)、
「インジウムのモル比とIII族流量比(TMI/TMG+TMI)の関係を図1に示す。・・・この図はインジウムのモル比は流量比により直線的に変化することを示す。」(第2251頁右欄第11行〜第19行)と記載されている。
また、特許異議申立人菊池信の提示した甲第1号証は、特許異議申立人中西みどりの提示した甲第1号証であるから、前記事項が記載されており、
同じく、甲第2号証には、
「所定の基板に単結晶膜を形成するへテロ・エピタキシャル成長方法において、前記単結晶膜を形成する物質と同じ物質の多結晶または非晶質の膜を前記基板上に前記単結晶膜の成長温度より低い温度で、500Å程度までの厚さ付着した後、前記単結晶膜を前記成長温度で気相成長することを特徴とするへテロ・エピタキシャル成長方法。」(特許請求の範囲)、
「例えば、単結晶が成長しないような低めの温度におけるCVD法で基板上にあらかじめ薄い膜を付着し、その後温度を上げてエピタキシャル成長させれば、同一のCVD用装置内で処理できるので、より清浄な単結晶膜を成長させることができる。前述の薄い膜の膜厚は10Å〜500Åの範囲にあればよい。」(公報第3頁左欄第19行〜右欄第6行)と記載されている。
同じく、甲第3号証には、
「有機金属化合物ガスを用いてサファイア基板上に窒化ガリウム系化合物半導体(AlxGa1-xN;x=0を含む)を気相成長させる方法において、サファイア基板上に、成長温度400〜900℃で膜厚100〜500Åに成長され、・・・窒化アルミニウム(AlN)から成るバッファ層を設け、前記バッファ層上に窒化ガリウム系化合物半導体(AlxGa1-xN;x=0を含む)を成長させることを特徴とする室化ガリウム系化合物半導体の気相成長方法。」(特許請求の範囲請求項1)、
「単結晶のサファイア基板60上に、成長温度650℃で、・・・AlNのバッファ層61を形成した。次に、・・・サファイア基板60の温度を970℃に保持し、・・・GaNから成るN層62を形成した。」(公報第5頁左上欄第2行〜第12行)と記載されている。
また、特許異議申立人高木栄の提示した甲第1号証には、
「In1-x-yGaxAlyN(0≦x≦1:0≦x+y≦1)薄膜を少なくとも一層を含む、基板、バッファ層、クラッド層または低抵抗層、発光層を備える半導体発光素子において、前記基板はMnO、ZnO、MgAl2O4、MgO、CaOのいずれかであり、かつ基板上に接して形成されたバッファ層はIn1-x-yGaxAlyN(0≦x≦1:0≦x+y≦1)よりなることを特徴とする半導体発光素子。」(特許請求の範囲請求項1)、
「0009】(実施例1)図2は本発明の第一の実施例を説明する図であって、発光素子の断面を示す。この発光素子はMnO(111)基板1の上に成長した膜厚500ÅのアンドープGaAlNバッファ層2、膜厚5μmのSnドープn型低抵抗GaAlN層3、膜厚0.5μmのZnドーピングにより半絶縁化したGaAlN発光層4、前記発光層上に設けた半絶縁層の電極5、及び低抵抗層3上に設けたn型抵抗層のオーミック電極6からなる。」(公報第3頁左欄第19行〜第27行)、
「【00010】(実施例2)図3は本発明の第二の実施例を説明する図であって、発光素子の断面を示す。この発光素子はMgO(111)基板10の上に成長した膜厚500ÅのアンドープInGaNバッファ層11、膜厚5μmのSnドープn型IGaAlNクラッド層12、膜厚0.5μmのアンドープInGaN活性層13、膜厚2μmのMgドープp型InGaAlNクラッド層14、p型クラッド層のオーミック電極15、n型クラッド層のオーミック電極16からなる。」(公報第3頁左欄第34行〜第42行)、
「【0011】(実施例3)図4は本発明の第三の実施例を説明する図であって、発光素子の断面を示す。この発光素子は低抵抗ZnO(111)基板17の上に成長した膜厚500ÅのアンドープAlNバッファ層18、膜厚5μmのSnドープn型InGaAlNクラッド層19、膜厚0.5μmのアンドープInGaN活性層20、膜厚2μmのMgドープp型InGaAlNクラッド層21、p型クラッド層のオーミック電極22、n型クラッド層のオーミック電極23からなる。」(公報第3頁右欄第8行〜第16行)、
「【0012】次に本発明の素子の作製方法について説明する。図5は、原料ガスとしてIII族有機金属とNH3を用いる場合について、本発明の半導体発光素子の作製方法を実施するための成長装置の一例を示すものである。石英反応管32の内部に成長基板30を保持するカーボン・サセプタ31を収め・・・石英反応管32に対して有機金属ガス導入管35、NH3ガス導入管36、H2ガス及びN2ガス導入管37、及び排気口38を設ける。34は熱電対を示す。
【0013】この装置で、本発明の半導体発光素子用の多層膜構造を作製するには、・・・カーボン・サセプタ31を500〜600℃に加熱し、・・・トリメチルインジウム(TMIn)、トリメチルガリウム(TMGa)及びトリメチルアルミニウム(TMAl)のうち必要な原料を・・・導入管37より石英反応管32へ供給し、成長基板上にIn1-x-y GaxAlyN(0≦x≦1、0≦x+y≦1)バッファ層を堆積する。・・・
【0014】これに続けて、必要な膜厚を堆積したIn1-x-y GaxAlyN(0≦x≦1、0≦x+y≦1)バッファ層をNH3雰囲気中600〜1300℃の温度で1〜60分保持した後、600〜1300℃に基板温度を設定し上記と同様の手順で発光素子用の多層膜構造(例えばクラッド層、活性層)を作製する。」(公報第3頁右欄第37行〜第4頁左欄第19行)と記載されている。
同じく、甲第2号証は、特許異議申立人シャープ株式会社の提示した甲第2号証であるから、前記事項が記載されている。
同じく、甲第3号証には、サファイア基板の上に、原料ガスとして、ガリウム源のガスと、窒素源のガスとを用い、有機金属気相成長法により、次に成長させる窒化ガリウム層よりも低温で成長させる窒化ガリウムのバッファ層を介して、バッファ層よりも高温で該窒化ガリウム層を成長させることが記載されている。
同じく、甲第4号証には、原料ガスとして、ガリウム源のガスと、窒素源のガスとを用い、有機金属気相成長法により、次に成長させる窒化ガリウム層よりも低温で成長させる窒化ガリウムのバッファ層を介して、バッファ層よりも高温で該窒化ガリウム層を成長させることが記載されている。すなわち、L1998頁右欄第9行〜第21行には、まず、基板上に510℃でGaNバッファ層を成長させ、ついで、1035℃でnGaN層及びpGaN層を順次成長させることが記載されている。

A.特許法第29条第1項第3号及び第2項に関して
a.本件の請求項1に係る発明について
(対比・判断)
本件の請求項1に係る発明(以下、本件発明という。)と特許異議申立人中西みどりの提示した甲第1号証及び甲第2号証、特許異議申立人シャープ株式会社の提示した甲第1号証及び甲第2号証、特許異議申立人菊池信の提示した甲第1号証乃至甲第3号証、特許異議申立人高木栄の提示した甲第2号証乃至甲第4号証(以下、甲各号証という。)に記載された発明とを対比すると、甲各号証には、本件発明の構成要件である、
「バッファ層よりも高温で成長させた窒化ガリウム層の上に、窒化インジウムガリウム半導体を成長させること」について記載されていないし、示唆されてもいない。
そして、本件発明は、上記構成要件を具備することにより、明細書に記載の
「本発明の成長方法によると従来では不可能であったInGaN層の単結晶を成長させることができる。また、GaN層を成長させる前にサファイア基板上で低温でバッファ層を成長させることにより、その上に成長させるGaN層の結晶性がさらに向上するため、InGaNの結晶性もよくすることができる。」という作用効果を奏するものである。
よって、本件発明は、甲各号証に記載された発明と同一の発明ではなく、また、甲各号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

これに関し、特許異議申立人中西みどりは、甲第2号証には、バッファ層よりも高温で成長させた窒化ガリウム層が記載されており、この技術を甲第1号証に適用すれば、上記構成要件となる旨、主張しており、特許異議申立人シャープ株式会社は、甲第1号証のx及びyの値を適当に定めれば上記構成要件となる旨、主張しており、特許異議申立人菊池信は、甲第2号証及び甲第3号証には、バッファ層よりも高温で成長させた単結晶膜が記載されており、この技術を甲第1号証に適用すれば、上記構成要件となる旨、主張しており、特許異議申立人高木栄は、甲第3号証には、バッファ層よりも高温で成長させた窒化ガリウム層が記載されており、また、甲第4号証には、バッファ層と最上層との間に中間層(nGaN)を介在させることが記載されているから、この技術を甲第2号証に適用すれば、上記構成要件となる旨、主張している。
しかしながら、特許異議申立人中西みどりの提示した甲第2号証、特許異議申立人菊池信の提示した(甲第2号証及び)甲第3号証、特許異議申立人高木栄の提示した甲第3号証には、基板上にバッファ層を介して結晶性のよいGaN層を成長させることは開示されているが、そのGaN層の上に窒化インジウムガリウム半導体を成長させることについて記載されていないし、示唆されてもいない。
また、特許異議申立人中西みどりの提示した甲第1号証、特許異議申立人菊池信の提示した甲第1号証、特許異議申立人高木栄の提示した甲第2号証には、窒化インジウムガリウム半導体を、基板上に、バッファ層を介して、または直接成長させることが開示されているのみで、バッファ層及び窒化ガリウム層を介して窒化インジウムガリウム半導体を成長させることについては記載されていない。
してみれば、これらの証拠を各々組み合わせても、「バッファ層よりも高温で成長させた窒化ガリウム層の上に、窒化インジウムガリウム半導体を成長させること」という構成要件を導き出すことは容易とはいえない。
さらに、特許異議申立人シャープ株式会社の提示した甲第1号証に記載されている、故意に不純物を添加しない(Ga1-xAlx)1-yInyNの単結晶層(0≦x<1、0≦y<1)2、及び、Mgを添加した((Ga1-xAlx)1-yInyN:0≦x<1、0≦y<1)単結晶層3において、単結晶層2ではx=y=0、単結晶層3ではx=0、y≠0の組み合わせとすれば本件発明と同じ構成になるが、例示されているのは、共にx=y=0のp形GaN単結晶とn形GaN単結晶との組み合わせのみであり、両単結晶においてx及びyが異なる値をとることは記載されていないこと、GaN層の上に窒化インジウムガリウム半導体を成長させることについて記載されていないことから、該証拠に前記x及びyの値の組み合わせは開示ないし示唆されていないし、該証拠に基づいて前記x及びyの値の組み合わせを容易に想到し得るとすることはできない。
よって、各特許異議申立人の主張は採用できない。

b.本件の請求項2乃至請求項4に係る発明について
本件の請求項2乃至請求項4に係る発明は、本件発明の構成要件をすべて含み、さらに構成要件を付加したものであるから、本件発明と同様に、甲各号証に記載された発明と同一の発明ではなく、また、甲各号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

B.特許法第29条の2に関して
a.本件の請求項1に係る発明について
(対比・判断)
本件発明と特許異議申立人高木栄の提示した甲第1号証(以下、先願明細書という。)に記載された発明(以下、先願発明という。)とを対比する。
先願明細書には、有機金属気相成長法により、基板上にIn1-x-yGaxAlyN(0≦x≦1:0≦x+y≦1)からなるバッファ層を形成し、その上に、それより高温でIn1-x-yGaxAlyN(0≦x≦1:0≦x+y≦1)からなるクラッド層または低抵抗層、発光層を備える半導体発光素子が記載されているので、両者は、
「有機金属気相成長法により、次に成長させるIn1-x-yGaxAlyN(0≦x≦1:0≦x+y≦1)層よりも低温で成長させるバッファ層を介して、バッファ層よりも高温で成長させた該In1-x-yGaxAlyN(0≦x≦1:0≦x+y≦1)層の上に、原料ガスとして、ガリウム源のガスと、インジウム源のガスと、窒素源のガスとを用い、同じく有機金属気相成長法により、In1-x-yGaxAlyN(0≦x≦1:0≦x+y≦1)を成長させることを特徴とするIn1-x-yGaxAlyN(0≦x≦1:0≦x+y≦1)の成長方法。」
である点で一致しているが、
In1-x-yGaxAlyN(0≦x≦1:0≦x+y≦1)が、本件発明では、バッファ層の上に成長させるのが窒化ガリウム層であり、さらにその上に成長させるのが窒化インジウムガリウム半導体であるのに対し、先願発明では特に限定されておらず、実施例においては、実施例1ではSnドープGaAlN低抵抗層及びZnドープGaAlN発光層、実施例2及び実施例3では共にSnドープInGaAlNクラッド層及びアンドープInGaN活性層である点、で相違している。
そして、本件発明では、「バッファ層よりも高温で成長させた窒化ガリウム層の上に、窒化インジウムガリウム半導体を成長させること」により、明細書に記載の「本発明の成長方法によると従来では不可能であったInGaN層の単結晶を成長させることができる。また、GaN層を成長させる前にサファイア基板上で低温でバッファ層を成長させることにより、その上に成長させるGaN層の結晶性がさらに向上するため、InGaNの結晶性もよくすることができる。」という作用効果を奏するものであるから、窒化ガリウム層の上に、窒化インジウムガリウム半導体を成長させることに関して記載も示唆もない先願明細書に記載された発明と、本件発明とは実質的に同一の発明ではない。

b.本件の請求項2乃至請求項4に係る発明について
本件の請求項2乃至請求項4に係る発明は、本件発明の構成要件をすべて含み、さらに構成要件を付加したものであるから、本件発明と同様に、先願発明と実質的に同一の発明ではない。

C.特許法第36条に関して
特許異議申立人菊池信は、本件明細書にバッファ層に関して、その目的、厚さなどの構成、それが奏する効果について記載されていないから、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない旨、主張しているが、特許請求の範囲、請求項1には、「有機金属気相成長法により、次に成長させる窒化ガリウム層よりも低温で成長させるバッファ層を介して、バッファ層よりも高温で成長させた該窒化ガリウム層」と記載されており、明細書の【0016】〜【0022】には、実施例1として、「温度を510℃まで下げ、・・・GaNバッファ層を約200オングストローム成長する。」、「温度が1030℃になったら、・・・GaN層を2μm成長させる。」と記載されており、当業者ならば、この記載に基づいて、請求項1に係る発明を容易に実施できるものと認められる。また、明細書の【0028】【作用効果】の欄に、「GaN層を成長させる前にサファイア基板上で低温でバッファ層を成長させることにより、その上に成長させるGaN層の結晶性がさらに向上するため、InGaNの結晶性もよくすることができる。」と記載されており、バッファ層が奏する効果についても記載されている。
よって、本件特許は、特許法第36条第4項の規定に違反してなされたものではない。

(むすび)
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件の請求項1乃至請求項4に係る発明の特許を取り消すことはできない。
また、他に本件の請求項1乃至請求項4に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2000-03-01 
出願番号 特願平5-106555
審決分類 P 1 651・ 531- YA (H01L)
P 1 651・ 121- YA (H01L)
P 1 651・ 161- YA (H01L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 門田 かづよ  
特許庁審判長 豊岡 静男
特許庁審判官 河原 英雄
小林 邦雄
登録日 1998-02-27 
登録番号 特許第2751963号(P2751963)
権利者 日亜化学工業株式会社
発明の名称 窒化インジウムガリウム半導体の成長方法  
代理人 豊栖 康弘  
代理人 小池 隆彌  
代理人 石井 久夫  
代理人 木下 雅晴  

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