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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B65H
審判 全部申し立て 特29条の2  B65H
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B65H
管理番号 1012568
異議申立番号 異議1999-72586  
総通号数 10 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1998-07-07 
種別 異議の決定 
異議申立日 1999-07-05 
確定日 2000-03-30 
異議申立件数
事件の表示 特許第2844335号「紙送り装置」の特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第2844335号の特許を維持する。 
理由 I.手続きの経緯
本件特許第2844335号は、出願日が昭和61年12月5日である実願昭61-188158号を平成9年11月19日に特許出願に変更したものであって、平成10年10月30日にその特許の設定登録がなされ、その後、アイ・アンド・ピー株式会社より特許異議の申立てがなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成11年11月26日に意見書の提出と共に訂正請求がなされたものである。

II.訂正の適否についての判断
(1)訂正の要旨
本件の訂正の要旨は、
(A)特許請求の範囲の請求項1の
「少なくとも一対の側フレームよりなるフレームと、該フレームの一端部寄りに前記一対の側フレーム間に配設されてこれら側フレームに回転自在に支承され、外周縁に外歯が形成された駆動プーリと、該駆動プーリの前記外歯と噛合する内歯が内周面に形成され、外周面に送りピンが所定ピッチで突設された無端帯状に形成され、前記一対の側フレーム間において前記内歯が前記駆動プーリの外歯に噛合する前記駆動プーリの一側外周面と前記フレームに備えたベルトガイドのガイド面とに沿って走行せしめられる送りベルトとを有する紙送り装置において、前記一対の側フレームのうち一方の側フレームに、前記駆動プーリに噛合して該駆動プーリの一側外周面に沿って前記送りベルトが走行せしめられる駆動側円弧状走行路の外周位置に、内側面を前記駆動側円弧状走行路に沿って断面を円弧状の平滑な筒面としたベルト規制片を形成し、かつ前記送りベルトをその内歯により前記駆動プーリの外歯に噛合せしめた状態において、前記送りベルトの送りピンの先端と、前記ベルト規制片に形成した前記断面を円弧状の平滑な筒面とした前記内側面との間の間隔を、前記送りベルトに形成した内歯の前記駆動プーリに形成した外歯に対する噛合寸法より小としたことを特徴とする紙送り装置。」
という記載を、
「一対の側フレームよりなるフレームと、該フレームの一端部寄りに前記一対の側フレーム間に配設されてこれら側フレームに回転自在に支承され、外周縁に外歯が形成された駆動プーリと、該駆動プーリの前記外歯と噛合する内歯が内周面に形成され、外周面に送りピンが所定ピッチで突設された無端帯状に形成され、前記一対の側フレーム間において前記内歯が前記駆動プーリの外歯に噛合する前記駆動プーリの一側外周面と前記フレームに備えたベルトガイドのガイド面とに沿って走行せしめられる送りベルトとを有する紙送り装置において、前記一対の側フレームのうち一方の側フレームに、前記駆動プーリに噛合して該駆動プーリの一側外周面に沿って前記送りベルトが走行せしめられる駆動側円弧状走行路の外周位置に、内側面を前記駆動側円弧状走行路に沿って断面を円弧状の平滑な筒面としたベルト規制片を形成し、かつ前記送りベルトをその内歯により前記駆動プーリの外歯に噛合せしめた状態において、前記送りベルトの送りピンの先端と、前記ベルト規制片に形成した前記断面を円弧状の平滑な筒面とした前記内側面との間の間隔を、前記送りベルトに形成した内歯の前記駆動プーリに形成した外歯に対する噛合寸法より小としたことを特徴とする紙送り装置。」
と訂正し、
(B)発明の詳細な説明の段落番号【0004】(特許掲載公報2頁左欄21〜22行)の
「本発明は、少なくとも一対の側フレームよりなるフレームと、」
という記載を、
「本発明は、一対の側フレームよりなるフレームと、」
と訂正しようとするものである。
(2)訂正の目的の適否、新規事項の追加及び拡張・変更の存否
前記訂正(A)は「フレーム」が「一対の側フレームよりなる」ものであって、他の構成を包含するものではないことを明りょうにするものである。この「一対の側フレームよりなるフレーム」は、発明の詳細な説明の段落番号【0011】(特許掲載公報3頁左欄33〜36行)に記載されていたものであり、この訂正は特許請求の範囲の減縮に該当し、新規事項の追加に該当せず、実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。
前記訂正(B)は特許請求の範囲の減縮に整合させるための訂正であって、明細書に記載された事項の範囲内の訂正であり、明りょうでない記載の釈明に該当する。
(3)独立特許要件の判断
1)先願に係る発明
本件請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)に対して、当審が通知した取消理由で引用した特願昭61-276878号(特開昭62-130954号、昭和61年11月21日出願、昭和62年6月13日公開)(以下、「先願発明」という)には概略以下の点が記載されている。
文書送りトラクターに関するものであり、
a)「本発明の目的は・・・ベルトをスプロケット上に抑止し、ベルトを正確に案内し、トラクター駆動モータの負荷となる追加の摩擦を最小とする機構を提供するにある。」(2頁右上欄8〜13行)
b)「本発明は穴明きウエブ即ち文書を送るトラクターであり、ピンが外方に突出しラグが内方に突出する無端ベルトを有する。トラクターはフレームに支承したスプロケットを有する。スプロケットはベルトのラグに係合する受けを有する。フレームはトラクターの両側に沿うベルトの移動経路を画成する。ピンは両側の少なくとも一方に沿ってウエブの穴に係合する。ベルトの移動経路はスプロケットを廻って延長する。抑止機構はスプロケットからピンの高さより僅かに大きい寸法だけ離れた円周方向のリテーナーを形成する部材を有する。この部材はトラクターの両側の延長部間に配置する。かくして円周方向のリテーナーは案内面を形成し、ピンの先端から僅かな間隔とした円周面とする。」(2頁左下欄1〜15行)
c)「ピンの先端のみがリテーナーに接触するため、ベルトに作用する抗力、スプロケット駆動モーターの負荷は最小である。・・・図に示す文書送りトラクターは側板12、14で形成されたフレーム10を有し、側板は分離面16に沿って接合される。・・・スプロケット26をフレーム10の側板を貫通する穴28に支承する。・・・ベルトはピン36を有しピンのピッチは文書の穴のピッチに等しい。ベルトにラグ40を設けスプロケット26の面の受け42に係合する。」(2頁左下欄18行〜右下欄18行、第1図、第2図参照)
d)「部材52、54はフレーム10の側板12、14と一体である。この部材はベルト34の経路の側板48、50の延長部間に配置する。剥離面58、59は紙の経路の下に横に突出する。部材52を形成するフレームの側板は面60を形成し、面60は凹面で円周方向でほぼ180°の円弧であり、ラグが側部48、50間でスプロケット26を離れようとする時にピン36を案内する。側板12、14はスプロケット26から反対の経路の端部で凸面の円周面55を形成する。ベルトは経路の反対側端部を廻る時に面55に案内される。部材52の少なくともスプロケット26を支承するフレーム端部でノッチ62を有する。ノッチは分離面16の凹部によって形成する。ノッチ62付の抑止面60は円周方向に一致するピンリテーナーを形成する。リテーナー60はスプロケットから外方にピン36の高さAより僅かに大きな寸法だけ離れる。ピンの先端はノッチ62から僅かに離れる。この間隔は1000分の数inとする。」(3頁左上欄7行〜右上欄5行)
e)「図示の通りピン36の先端は僅かに円周面60から離れ、ベルト34が面60に接触可能の唯一の部分であるため、ベルトに作用する抗力とスプロケット駆動モータの負荷とは最小である。」(3頁右上欄10〜14行)
2)本件請求項1に係る発明と先願に係る発明との対比・判断
訂正後の本件発明と先願発明とを対比すると両者は「一対の側フレームよりなるフレームと、該フレームの一端部寄りに前記一対の側フレーム間に配設されてこれら側フレームに回転自在に支承され、外周縁に外歯が形成された駆動プーリと、該駆動プーリの前記外歯と噛合する内歯が内周面に形成され、外周面に送りピンが所定ピッチで突設された無端帯状に形成され、前記一対の側フレーム間において前記内歯が前記駆動プーリの外歯に噛合する前記駆動プーリの一側外周面に沿って走行せしめられる送りベルトとを有する紙送り装置において、前記一対の側フレームに、前記駆動プーリに噛合して該駆動プーリの一側外周面に沿って前記送りベルトが走行せしめられる駆動側円弧状走行路の外周位置に、内側面を前記駆動側円弧状走行路に沿って断面を円弧状としたベルト規制片を形成し、かつ前記送りベルトをその内歯により前記駆動プーリの外歯に噛合せしめた状態において、前記送りベルトの送りピンの先端と、前記ベルト規制片に形成した前記断面を円弧状とした前記内側面との間の間隔を、前記送りベルトに形成した内歯の前記駆動プーリに形成した外歯に対する噛合寸法より小としたことを特徴とする紙送り装置。」で一致し、(イ)後者には「ベルトガイド」がない点、(ロ)ベルト規制片が、前者では一対の側フレームのうち一方の側フレームにのみ設けられ、断面が円弧状の平滑な筒面であるのに対し、後者では2つの側板(本件発明の「側フレーム」に相当)のそれぞれに一体に設けて両者を分離面に沿って接合し、内面にノッチを有する点で相違する。
そこで、先ず相違点(ロ)について検討すると、本件発明は前記構成を有することにより、送りベルトや用紙の走行の邪魔にならず、送りピンの先端の走行を規制することなく、・・・送りベルトの内歯が駆動プーリの外歯との噛合状態から開放されることはなく、駆動プーリに対する送りベルトの滑りの発生が阻止され、かつベルトジャンピングの発生も阻止され、・・・駆動プーリの駆動トルクを送りベルトに確実に伝達させることができ、さらに送りベルトに設けた前記送りピンの先端と前記規制片の内側面である断面を円弧状とした平滑な筒面との衝突による摩擦抵抗は小であるから、前記送りベルトの浮き上がり阻止時にも駆動プーリに対する駆動抵抗が少く、浮上がり阻止時にも駆動プーリに対する駆動抵抗が少く、かつベルトジャンピングの発生も阻止して紙送り装置の耐久性を向上せしめる、という優れた効果を奏するものである。(発明の詳細な説明の段落番号【0008】乃至【0010】・特許掲載公報2頁右欄32行〜3頁左欄26行)
これに対し、先願発明はノッチ62が分離面16によって分離される一対の側板12、14にそれぞれ形成されているものであって、ピン36aは分離面16を最高点とするノッチ内に納まるものであるから(記載c及びd、第1図、第2図)、無端ベルトの浮き上がり時や左右に振れた時には、ピン36aの両側がノッチ62に接触するので、摩擦抵抗が大きくなる。
したがって、本件発明と先願発明は構成の違いに加えて、作用効果が異なるものであるから同一とはいえず、本件請求項1に係る発明は特許出願の際独立して特許を受けることができない発明とすることはできない。
また、他に特許出願の際独立して特許を受けることができない発明とする理由もない。
(4)むすび
以上のとおりであるから、前記訂正請求は、特許法第120条の4第2項及び同第3項で準用する第126条第2〜4項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

III.特許異議の申立てについての判断
(1)本件発明
本件請求項1に係る発明は、平成11年11月26日付けで提出された訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりのものである。(具体的にはII-(1)-(A)の記載参照。)
(2)申立ての理由の概要
申立人アイ・アンド・ピー株式会社は証拠として甲第1号証・特願昭61-276878号(特開昭62-130954号、昭和61年11月21日出願、昭和62年6月13日公開)(当審が通知した取消理由で引用した発明に同じ)を提出し、本件の請求項1に係る発明に対する特許は以下の取り消し理由を有していると主張している。
(取消理由1)本件発明は甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に違反して特許されたものである。
(取消理由2)本件発明は甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである。
(取消理由3)本件発明は本件の出願の日前にされた他の出願であって、本件の出願後に出願公開された前記出願の願書に最初に添付した明細書及び図面に記載された発明と同一であるから特許法第29条の2の規定に違反して特許されたものである。
(3)申立人が提出した甲第1号証記載の発明
甲第1号証記載の発明については前記II-(3)-1)の記載参照。
(4)本件請求項1に係る発明と申立人が提出した甲第1号証記載の発明との対比・判断
1)取消理由1及び2について
申立人の取消理由1及び2の根拠は、本件発明の構成要件のうち、(イ)「少なくとも一対の側フレーム」の「少なくとも」という事項、(ロ)「断面を円弧状の平滑な筒面としたベルト規制片」の「円弧状の平滑な筒面」という事項、はいずれも本件の原出願の当初明細書及び図面にはない記載であるから、出願日の遡及は認められず、本件特許出願の出願日は出願変更の日である平成9年11月19日であり、甲第1号証刊行物の頒布日以降であるというにある。
そこで検討するに、(イ)の点は平成11年11月26日付けで提出された訂正請求において「少なくとも」の文言が削除されており、この訂正は前記II-(2)記載のとおり認められるものである。(ロ)の点については、ベルト規制片は紙の送りピンと接してベルトの移送を円滑におこなわしめるものであるから、両部材の摩擦抵抗を極力少なく設計しようとするのが通常の常識であり、ベルト規制片の内面を「平滑」なものとするのは紙送り装置の技術常識に基づく自明な事項の付加といえ、また、原出願当初より変更のない第1図及び第2図を参酌すると、第2図の側断面図において、一方の側フレーム9からベルト規制片23が垂直に起立して形成され、その断面は紙面上において二次元的に円弧状をしており、「断面が、内側面が円弧状をしている線」を、紙面に垂直な軸に沿ってその形状をその高さ方向に辿ってみると「その二次元的には円弧状の線は、立体的にかつ形状的に、三次元的には筒面を形成している」ことになるから、本件発明において構成要件を「円弧状の筒面」としたのはベルト規制片の構成を明りょうにしたものであって、明りょうでない記載の釈明に該当する。以上のとおりであるから、(ロ)の点は原出願の当初明細書及び図面に記載された事項の範囲内のものであり、本件の出願日は原出願の昭和61年12月5日まで遡及が認められるものである。 したがって、本件の出願日が特許への出願変更の日であることを根拠とする取消理由1及び2は理由のないものである。
2)取消理由3について
本件発明と甲第1号証に記載された発明との対比・判断は前記II-(3)-2)記載のとおりであり、本件発明は特許法第29条の2の規定に違反して特許されたものではない。
(5)むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件特許請求の範囲の請求項1に係る発明に対する特許を取り消すことはできない。 また、他に本件特許請求の範囲の請求項1に係る発明に対する特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2000-03-01 
出願番号 特願平9-333730
審決分類 P 1 651・ 121- YA (B65H)
P 1 651・ 113- YA (B65H)
P 1 651・ 16- YA (B65H)
最終処分 維持  
前審関与審査官 菅野 あつ子芝 哲央清水 康司  
特許庁審判長 佐藤 久容
特許庁審判官 森林 克郎
鈴木 美知子
登録日 1998-10-30 
登録番号 特許第2844335号(P2844335)
権利者 東海興業株式会社
発明の名称 紙送り装置  
代理人 福村 直樹  
代理人 鈴木 昌明  

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