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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  G05D
審判 全部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備  G05D
管理番号 1012640
異議申立番号 異議1999-73985  
総通号数 10 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1992-12-16 
種別 異議の決定 
異議申立日 1999-10-25 
確定日 2000-03-13 
異議申立件数
事件の表示 特許第2885545号「カートの発進停止制御機構」の請求項1ないし5に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第2885545号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第2885545号の発明は、平成3年6月12日に出願され、平成11年2月12日に設定登録され、その後、平成11年10月25日に特許異議申立人小林脩による特許異議の申立て及び特許異議申立人三洋電機株式会社による特許異議の申立てがなされたものである。
2.特許異議申立ての理由の概要
2-1.特許異議申立人小林脩(以下、「異議申立人A」という。)の主張
2-1-1.本件の請求項1乃至5の記載は特許法第36条第5項第1号に規定された記載要件を満たしていないので、本件請求項1乃至5に係る発明の特許は特許法第113条第1項第4号の規定により取り消されるべきものである。(以下、「異議理由1」という。)
2-1-2.本件請求項1乃至5に係る発明の特許は、平成10年11月20日付けの手続補正書により追加された出願当初の明細書の要旨を変更する新規な事項について付与されたものであるから、本件出願は、特許法第40条の規定により、平成10年11月20日にしたものとみなされ、よって、本件請求項1乃至5に係る発明は、提出した甲第1号証(平成4年12月16日に公開された特開平4-364506号公報)に記載された事項に基づき当業者が容易に発明することができたものであって、本件請求項1乃至5に係る発明の特許は特許法第29条第2項に違反してなされたものであるから、特許法第113条第1項第2号の規定により取り消されるべきものである。(以下、「異議理由2」という。)
2-1-3.本件請求項1乃至3及び5に係る発明は、提出した甲第2号証(実願昭61-129664号(実開昭63-34464号)のマイクロフィルム)、甲第3号証(特開昭63-16311号公報)、甲第4号証(特開昭48-42284号公報)、甲第5号証(特開昭53-61992号公報)、甲第6号証(実願昭58-144941号(実開昭60-57805号)のマイクロフィルム)、甲第7号証(特開昭63-177726号公報)、甲第8号証(実願昭62-87128号(実開昭63-195401号)のマイクロフィルム)、甲第9号証(特開昭63-121556号公報)及び甲第10号証(特開昭62-214239号公報)に記載された事項に基づき当業者が容易に発明することができたものであって、本件請求項1乃至3及び5に係る発明の特許は特許法第29条第2項に違反してなされたものであるから、特許法第113条第1項第2号の規定により取り消されるべきものである。(以下、「異議理由3」という。)
2-2.特許異議申立人三洋電機株式会社(以下、「異議申立人B」という。)の主張
本件請求項1乃至5に係る発明は、提出した甲第1号証(マツダ興産株式会社発行の(i)カタログ「リモコン走行 乗用走行 グリーンライダー」及び(ii)「グリーンライダー611」取扱説明書」)、甲第2号証(1990年(平成2年)10月15日付け「日刊工業新聞」E(22)抜粋)、甲第3号証(実願昭58-144941号(実開昭60-57805号)のマイクロフィルム)、甲第4号証(特開昭48-42284号公報)、甲第5号証(特開昭53-61992号公報)、甲第6号証(特開昭63-177726号公報)、甲第7号証(特開昭63-121556号公報)、甲第8号証(特開昭54-65931号公報)、甲第9号証(特開昭63-296784号公報)、甲第10号証(実願昭56-81152号(実開昭57-194107号)のマイクロフィルム)、甲第11号証(実願昭63-49857号(実開平1-158559号)のマイクロフィルム)及び甲第12号証(特開昭62-214239号公報)に記載された事項に基づき当業者が容易に発明することができたものであって、本件請求項1乃至5に係る発明の特許は特許法第29条第2項に違反してなされたものであるから、特許法第113条第1項第2号の規定により取り消されるべきものである。(以下、「異議理由4」という。)
3.特許異議申立についての判断
3-1.異議理由1について
異議申立人Aは、請求項1乃至5の記載が特許法第36条第5項第1号に規定された記載要件を満たしていないとする根拠として、請求項1に記載の発明に係る下記(1)乃至(3)の事項については、「発明の詳細な説明」に記載の実施例を詳細に検討してみても、その根拠となる記載が全く不明である旨を述べている。
(1)ステアリングハンドルを操作しない乗車走行時には停止発進操作が可能であること。
(2)手動操向と自動操向を切換える手動自動切替え機構を設けること。
(3)該手動自動切替え機構により手動操向に切換えた場合にはステアリングハンドルによる走行が可能であること。
そこで、上記(1)乃至(3)の事項が発明の詳細な説明に記載されているか否かについて以下検討する。
まず、(1)の事項については、異議申立人Aは関連する段落【0027】をみても何ら記載されていない旨を主張している。
しかしながら、明細書の段落【0040】における「上記カートにキャディーやプレーヤーが乗車した場合には、無線操縦器の操作を行うことなく、アクセルペダル8の操作のみで、発進停止を行うことができ、かつカートは誘導線に沿った自動操向状態とすることが出来たのである。」との記載によれば、ステアリングハンドルを操作しない乗車走行時には停止発進操作が可能であることが認められ、上記(1)の事項は発明の詳細な説明に記載されているものと認められる。
次に、(2)の事項及び(3)の事項については、関連する段落【0012】、段落【0027】及び図13のフローチャートの記載をみると、手動自動切替えレバー4によって手動走行と自動走行を切換えるものであることは認められるが、手動操向と自動操向を切換えものであるか否かは不明である旨を主張している。
しかしながら、図13のフローチャートの記載によれば、自動時にのみステアリング操作モードが存在することから、手動自動切替えレバー4による手動と自動の切替えが、手動操向と自動操向の切替えとなっているものと解するのが自然であり、「誘導線に沿って無線操向が可能な、エンジン駆動のカートであり」(特許第2885545号公報の段落【0005】第6乃至7行)、「カート道の下に誘導線が埋設されている。」(同公報の段落【0009】第6乃至7行)、「地中の誘導線を検出する自動操向センサー機構16が左右に揺動可能に配置されている。」(同公報の段落【0010】第7乃至8行)、「また該ステアリングハンドル11の基部近傍に、手動自動切替え機構であるレバー4が配置されている。」(同公報の段落【0012】第5乃至7行)、「前述の如く自動操向センサー機構16が配置されている。また、前車輪14の間に、左右のナックルアーム38・37が配置されており、ステアリングハンドル11と操向モータMoにより操向操作される。」(同公報の段落【0013】第5乃至9行)及び「また、エンジンによる操向駆動方式でありながら、誘導線に沿った自動操向が可能であり、 ・・・(中略)・・・ また、手動自動切替え機構を構成する手動自動切替えレバー4により、手動操向に切替えた場合に初めて、ステアリングハンドル11による操作が可能となるのである。このように手動自動切替え機構の手動自動切替えレバー4により手動に切換えることにより、業務終了後に車庫に収納する際の手動操向ができるのである。」(同公報の段落【0039】第11乃至23行)との記載を併せ考えると、手動操向と自動操向を切換える手動自動切替え機構を設け、該手動自動切替え機構により手動操向に切換えた場合にはステアリングハンドルによる操作が可能であることが認められ、上記(2)及び(3)の事項は発明の詳細な説明に記載されているものと認められる。
また、異議申立人Aは、請求項4の記載が特許法第36条第5項第1号に規定された記載要件を満たしていないとする根拠として、請求項4における「自動操向中に、前後進切替えレバーにより後進に変速した場合には、自動操向を停止し、緊急ブレーキ機構により停止すべく構成した」という事項は発明の詳細な説明に記載されていない旨を述べている。
そこで、上記事項が発明の詳細な説明に記載されているか否かについて検討すると、実施例として直接的な記載は見当たらないが、「自動操向中に、前後進切替えレバーにより後進に変速した場合には、自動操向を停止し、緊急ブレーキ機構により停止すべく構成したものである。」(同公報の段落【0007】第7乃至10行)との記載が発明の詳細な説明中になされており、また図13のフローチャートにおける自動の場合の停止信号監視モードである図17のサブルーチンにおいて急停止のモードに分岐する監視条件の一つとして前後進切替えレバーにより後進に変速した場合が加えられることは容易に理解できることであるから、異議申立人Aの主張する上記事項は発明の詳細な説明に記載があるものと認められる。
したがって、本件の請求項1乃至5の記載は特許法第36条第5項第1号に規定された記載要件を満たしていないとは認められず、異議申立人Aが主張する異議理由1について取消理由があるものとすることはできない。
3-2.異議理由2について
異議申立人Aは、本件出願は、特許法第40条の規定により、平成10年11月20日にしたものとみなされ、よって、本件請求項1乃至5に係る発明は、提出した甲第1号証(平成4年12月16日に公開された特開平4-364506号公報)に記載された事項に基づき当業者が容易に発明することができたものであって、本件請求項1乃至5に係る発明の特許は特許法第29条第2項に違反してなされたものであるから、特許法第113条第1項第2号の規定により取り消されるべきものであるとする根拠として、本件請求項1乃至5に係る発明の特許は、平成10年11月20日付けの手続補正書により追加された出願当初の明細書の要旨を変更する下記(1)及び(2)の新規な事項について付与されたものである旨を述べている。
(1)座席とステアリングハンドルとを有し、無人走行と、ステアリングハンドルを操作しない乗車走行とを可能としたこと。
(2)手動操向と自動操向を切換える手動自動切替え機構を設け、該手動自動切替え機構により手動操向に切換えた場合には、ステアリングハンドル11による操作を可能としたこと。
そこで、上記(1)及び(2)の事項が明細書の要旨を変更する新規な事項であるか否かについて以下検討する。
まず、(1)の事項については、異議申立人Aは関連する出願当初の明細書の段落【0027】及び図13のフローチャートをみても何ら記載されておらず、新規な事項である旨を主張している。
しかしながら、出願当初の明細書における「またエンジン室6の上には座席10が配置されており」(段落【0011】第1行)及び「座席10の前部に操向コラム5が立設されており、該操向コラム5からステアリングハンドル11が斜め方向に突出されている。」(段落【0012】第1乃至2行)との記載並びに図1及び図2の記載によれば、座席とステアリングハンドルを有していることが出願当初の明細書に記載されていることが認められ、また、出願当初の明細書における「エンジン式カートでありながら、キャディやプレーヤーが乗車しない場合には、無人操向をすることが可能となったのである。」(段落【0039】第4乃至5行)及び「上記カートにキャディーやプレーヤーが乗車した場合には、無線操縦器の操作を行うことなく、アクセルペダル8の操作のみで、発進停止を行うことができ、かつカートは誘導線に沿った自動操向状態とすることが出来たのである。」(段落【0040】第1乃至4行)との記載によれば、無人走行と、ステアリングハンドルを操作しない乗車走行とが可能であることが出願当初の明細書に記載されていることが認められるから、上記(1)の事項が明細書の要旨を変更する新規な事項であるとは認めることができない。
次に、(2)の事項については、異議申立人Aは関連する出願当初の明細書の段落【0012】及び段落【0027】の記載を参照しても、手動自動切替えレバー4が手動操向と自動操向を切換える手動自動切替え機構であるか否かは不明である旨を主張している。
しかしながら、出願当初の明細書における「カート道に沿って誘導線を敷設し、該誘導線に沿って自動操向を可能としたカートであり、該カートを搭載したエンジンにより走行駆動し、かつ無人走行と乗車走行を可能とした構成」(段落【0007】第1乃至3行)、「地中の誘導線を検出する自動操向センサー機構16が左右に揺動可能に配置されている。」(段落【0010】第5乃至6行)、「また該ステアリングハンドル11の基部近傍に、手動自動切替え機構であるレバー4が配置されている。」(段落【0012】第3乃至5行)及び「前述の如く自動操向センサー機構16が配置されている。また、前車輪14の間に、左右のナックルアーム38・37が配置されており、ステアリングハンドル11と操向モータMoにより操向操作される。」(段落【0013】第4乃至6行)との記載によれば、自動時に自動操向されることが認められ、しかも、同明細書の図13のフローチャートにおいて、自動時にのみステアリング操作モードが存在することを併せ考えると、手動自動切替えレバー4が手動操向と自動操向を切換える手動自動切替え機構となっているものと解するのが自然であり、上記(2)の事項が明細書の要旨を変更する新規な事項であるとは認めることができない。
したがって、本件請求項1乃至5に係る発明の特許が、平成10年11月20日付けの手続補正書により追加された出願当初の明細書の要旨を変更する新規な事項について付与されたものとは認められないから、本件特許発明の出願日は平成3年6月12日となり、異議申立人Aが主張する異議理由2についてはその前提において失当であり、取消理由があるものとすることはできない。
3-3.異議理由3及び異議理由4について
本件請求項1乃至5に係る発明の特許が、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるか否か以下検討する。
3-3-1.本件発明
本件請求項1乃至5に係る発明は、明細書及び図面の記載からみて、請求項1乃至5に記載された次の事項によって特定されるとおりのものである。
【請求項1】カート道に沿って誘導線を敷設し、該誘導線に沿って自動操向を可能としたカートであり、該カートは搭載したエンジンにより走行駆動され、かつ座席とステアリングハンドルとを有し、無人走行と、ステアリングハンドルを操作しない乗車走行とを可能とし、乗車した状態でも停止発進操作を可能とし、更に、該カートから離れた位置の無線操縦器により、エンジンの自動起動と停止発進操作を可能とし、手動操向と自動操向を切換える手動自動切替え機構を設け、該手動自動切替え機構により手動操向に切換えた場合には、ステアリングハンドル11による操作を可能とし、自動操向に切替えた場合に、誘導線から機体が外れたときには、緊急ブレーキ機構により停止すべく構成したことを特徴とするカートの発進停止制御機構。
【請求項2】請求項1記載のカートの発進停止制御機構において、該カートから離れた位置の無線操縦器により、エンジンの自動起動を可能とし、更に乗車した状態で、アクセルペダルの操作によっても、エンジンの自動起動を可能としたことを特徴とするカートの発進停止制御機構。
【請求項3】請求項1記載のカートの発進停止制御機構において、駐車ブレーキ機構は、エンジンの起動と連動して、エンジンの回転数が一定回転に上昇すると自動的に解除され、またカートの停止により自動的に駐車ブレーキ状態に制動されるべく構成したことを特徴とするカートの発進停止制御機構。
【請求項4】請求項1記載のカートの発進停止制御機構において、自動操向中に、前後進切替えレバーにより後進に変速した場合には、自動操向を停止し、緊急ブレーキ機構により停止すべく構成したことを特徴とするカートの発進停止制御機構。
【請求項5】請求項1記載のカートの発進停止制御機構において、無線操縦器による自動起動の場合に、エンジンが起動しない場合には、一定時間を置いて再度起動操作を繰り返し、数回繰り返しても起動出来ない場合には、停止モードにより緊急停止状態をとり、エラーモードにより警報を発することを特徴とするカートの発進停止制御機構。
3-3-2.証拠として提出された刊行物
(1)マツダ興産株式会社発行の(i)カタログ「リモコン走行 乗用走行 グリーンライダー」及び(ii)「グリーンライダー611」取扱説明書」(異議申立人Bが甲第1号証として提出した刊行物(以下、「刊行物1」という。))には、その記載によれば、「コースに沿って設定されたカート道に走行ループ線を埋設し、該走行ループ線に沿って自動操向を可能としたカートであり、該カートは搭載したモーターにより走行駆動され、かつステップとハンドルとを有し、無人走行と、ハンドルを操作しない乗車走行とを可能とし、乗車した状態でも停止発進操作を可能とし、更に該カートから離れた位置のリモコン装置により、停止発進操作を可能とし、前進/後進スイッチ及び自動スイッチを設け、前進/後進スイッチにより手動運転に切換えた場合には、ハンドルによる操作を可能とし、無人走行中、ルートを外れた場合に、自動的に停止すべく構成したカート」が開示されている。
(2)実願昭61-129664号(実開昭63-34464号)のマイクロフィルム(異議申立人Aが甲第2号証として提出した刊行物(以下、「刊行物2」という。))には、明細書第1頁第16行乃至第2頁第12行、第4頁第4行乃至15行の記載によれば、(a)誘導線に沿って自動操向するゴルフカートにおいて、乗車走行をも可能とした発明が開示され、第4頁第10乃至13行の記載によれば、(b)上記のゴルフカートが自動操向による無人走行を可能とし、かつ操向ハンドル(14)を操作しない自動操向による乗車走行を可能にされていることが開示されている。
(3)特開昭63-16311号公報(異議申立人Aが甲第3号証として提出した刊行物(以下、「刊行物3」という。))には、第1頁右下欄第11乃至14行、第2頁左上欄第12乃至17行、第2頁右上欄第11乃至14行、第2頁左下欄第12乃至17行、第2頁右下欄第10乃至11行、第3頁右上欄第3乃至5行、第3頁右下欄第7乃至10行、第4頁右上欄第2行乃至左下欄第13行、第1図、第2図及び第3図の記載によれば、(a)スアリングハンドルを有し、自動操向による無人走行とステアリングハンドルを操作しない乗車走行を可能とし、(b)手動操向と自動操向を切換える自動手動切替え機構を設け、手動操向に切換えた場合には、ステアリングハンドルによる操作を可能とした電動カートが開示されている。
(4)特開昭48-42284号公報(異議申立人Aが甲第4号証として、また、異議申立人Bが甲第4号証として提出した刊行物(以下、「刊行物4」という。))には、第1頁左下欄第17行乃至右下欄第10行、第1頁左下欄第11乃至12行及び第2頁右上欄第8乃至12行の記載によれば、駆動源としてエンジンを搭載したゴルフカートであって、離れた位置の無線操縦器により停止発進操作が可能なゴルフカートが開示されている。
(5)特開昭53-61992号公報(異議申立人Aが甲第5号証として、また、異議申立人Bが甲第5号証として提出された刊行物(以下、「刊行物5」という。))には、第1頁右欄第2乃至6行、第2頁左上欄第3乃至11行、第4頁左上欄第17行乃至右上欄第1行及び第4頁左下欄第6乃至7行及び第5頁左上欄第14行乃至右上欄第11行の記載によれば、無線操縦によるエンジンの起動と停止発進操作を可能としたエンジン駆動の車両が開示されている。
(6)実願昭58-144941号(実開昭60-57805号)のマイクロフィルム(異議申立人Aが甲第6号証として、また、異議申立人Bが甲第3号証として提出した刊行物(以下、「刊行物6」という。))には、明細書第4頁第12行乃至第5頁第14行及び第8頁第16行乃至第9頁第13行の記載によれば、エンジンを駆動源とした車両であって、誘導経路に沿って自動操向により無人走行し、誘導経路から車体が外れた場合にブレーキ機構により緊急停止すると共にエンジンを停止する車両が開示されている。
(7)実願昭62-87128号(実開昭63-195401号)のマイクロフィルム(異議申立人Aが甲第8号証として提出した刊行物(以下、「刊行物7」という。))には、明細書第6頁第19行乃至第7頁第7行及び第8頁第15行乃至第9頁第5行の記載によれば、座席とステアリングハンドルを有し、誘導線に沿って自動操向による無人走行と乗車走行が可能なエンジンを搭載した車両が開示されている。
(8)特開昭63-177726号公報(異議申立人Aが甲第7号証として、また、異議申立人Bが甲第6号証として提出した刊行物(以下、「刊行物8」という。)には、第1頁左欄第5乃至8行、第3頁左上欄第7乃至9行、第3頁左下欄第2行乃至右下欄第15行及び第4頁右上欄第8乃至11行の記載によれば、座席を有してエンジンにより走行駆動される車両であって、エンジンを無線操縦により停止し、電磁ブレーキを操作して制動をかけ、かつ走行の各操作を無線操縦する構成を備えており、無線による無人走行とステアリングハンドルを操作しない乗車走行が可能であり、かつ乗車走行時に停止発進操作ができる車両が開示されている。
(9)特開昭63-121556号公報(異議申立人Aが甲第9号証として、また、異議申立人Bが甲第7号証として提出した刊行物(以下、「刊行物9」という。)には、第1頁左欄第18行乃至右欄第7行、第4頁右下欄第4乃至18行及び第5頁左上欄第12乃至15行の記載によれば、座席とステアリングハンドルを有して手動操作が可能なゴルフカートであって、乗車した状態で、アクセルペダルの操作によってエンジンの自動起動を可能とし、駐車ブレーキ機構は、エンジンの起動と連動して、エンジンの回転数が一定回転に上昇すると自動的に解除され、また、エンジンの回転数が一定回転以下、即ちカートの停止により自動的に駐車ブレーキ状態に制動されるようにしたゴルフカートが開示されている。
(10)特開昭54-65931号公報(異議申立人Bが甲第8号証として提出した刊行物(以下、「刊行物10」という。))には、座席とステアリングハンドルとを有して手動操作が可能なゴルフカートであって、駐車ブレーキ機構はエンジンの起動と連動して、エンジンの回転数が一定回転に上昇すると自動的に解除され、また、エンジンの回転数が一定回転以下、即ちカートの停止により自動的に駐車ブレーキ状態に制動されるゴルフカートが開示されている。
(11)特開昭63-296784号公報(異議申立人Bが甲第9号証として提出した刊行物(以下、「刊行物11」という。))には、第2頁左上欄第16行乃至右上欄第10行の記載によれば、装置を自動運転中に誤って操作してはならない操作を行ったときに装置を停止させることが開示されている。
(12)実願昭56-81152号(実開昭57-194107号)のマイクロフィルム(異議申立人Bが甲第10号証として提出した刊行物(以下、「刊行物12」という。))には、明細書第6頁第17行乃至第7頁5行及び第7頁第11乃至14行の記載によれば、前進走行中のゴルフカートを誤って後進の選択操作しても、誤操作による事故の発生を防止し、安全性を保つために、制御装置の後進への動作移行を禁止することが開示されている。
(13)特開昭62-214239号公報(異議申立人Aが甲第10号証として、また、異議申立人Bが甲第12号証として提出した刊行物(以下、「刊行物13」という。)には、第1頁右欄第10乃至11行及び第3頁右下欄第8行乃至第4頁左上欄第11行の記載によれば、無線操縦器によるエンジン起動の際、エンジンが起動しない場合に警報を発して一定時間(10秒間)を置いて再度起動操作を繰り返し、数回(4回以上)繰り返しても起動できない場合はエンジンの起動操作を停止することが開示されている。
(14)実願昭63-49857号(実開平1-158559号)のマイクロフィルム(異議申立人Bが甲第11号証として提出した刊行物(以下、「刊行物14」という。))には、第4頁第5乃至16行及び第6頁第12行乃至第7頁第2行の記載によれば、無線操縦器による自動起動の際、エンジンが起動しない場合には、一定期間をおいて再度起動操作を繰り返し、数回繰り返しても起動できない場合には、停止モードにより緊急停止状態をとり、エラーモードにより警報を発することが開示されている。
3-3-3.対比・判断
(請求項1について)
本件請求項1に係る発明と前記刊行物1に記載された発明(以下、「引用発明」という。)とを対比するに、両者に使用されている用語について技術的意味を考慮すると、引用発明における「走行ループ線」、「リモコン装置」、「前進/後進スイッチ及び自動スイッチを設け」、「前進/後進スイッチにより手動運転に切換えた場合」及び「無人走行中」は、本件請求項1に係る発明の「誘導線」、「無線操縦器」、「手動自動切替え機構を設け」、「手動自動切替え機構により手動操向に切換えた場合」及び「自動操向に切替えた場合」にそれぞれ相当することは明らかである。
また、引用発明における「ハンドル」については、カタログ中の「クラブハウス周辺など必要に応じて、キャディさんが乗ったままハンドル操作をしながら、自由に走行することができます。」との記載及び取扱説明書第10頁右上の「走行ループ線上まで人が乗車した状態で使用します。」との記載によれば、ハンドルにより操舵することは明らかであり、本件請求項1に係る発明の「ステアリングハンドル」に相当するものと認められる。
さらに、引用発明における「ルートを外れた場合に、自動的に停止すべく構成した」については、異常時に停止させるにあたり緊急停止させることが通常の手法であることから、本件請求項1に係る発明の「誘導線から機体が外れたときには、緊急ブレーキ機構により停止すべく構成した」に相当するものと認められる。
そうすると、両者は「カート道に沿って誘導線を敷設し、該誘導線に沿って自動操向を可能としたカートであり、乗車部とステアリングハンドルとを有し、無人走行と、ステアリングハンドルを操作しない乗車走行とを可能とし、乗車した状態でも停止発進操作を可能とし、更に、該カートから離れた位置の無線操縦器により、停止発進操作を可能とし、手動操向と自動操向を切換える手動自動切替え機構を設け、該手動自動切替え機構により手動操向に切換えた場合には、ステアリングハンドルによる操作を可能とし、自動操向に切替えた場合に、誘導線から機体が外れたときには、緊急ブレーキ機構により停止すべく構成したことを特徴とするカートの発進停止制御機構。」で一致し、次の点で相違するものと認められる。
(1)カートを走行駆動するのに、本件請求項1に係る発明がエンジンにより走行駆動されるのに対して、引用発明ではモーターにより走行駆動される点。
(2)乗車部として、本件請求項1に係る発明が座席を有しているのに対して、引用発明ではステップを有している点。
(3)カートから離れた位置の無線操縦器により、本件請求項1に係る発明がエンジンの自動起動と停止発進操作を可能としているのに対して、引用発明では停止発進操作を可能としている点。
そこで、上記相違点について以下検討する。
相違点(1)について;
カートを搭載したエンジンにより走行駆動することは、刊行物4、刊行物9及び刊行物10に記載があるように周知であり、しかも、自動操向される車両を搭載したエンジンにより走行駆動することも、刊行物4、刊行物6及び刊行物7に記載があるように周知であるから、引用発明においてモーターに代えてエンジンにより走行駆動するように構成することは、当業者が容易に想到しえたものと認められる。
相違点(2)について;
カートの乗車部として座席を有することは、刊行物9及び刊行物10に記載があるように周知であり、引用発明においてステップに代えて座席を有するように構成することは、当業者が容易に想到しえたものと認められる。
相違点(3)について;
はじめに、本件請求項1に係る発明において、「エンジンの自動起動と停止発進操作」に係る定義はなされてはいないが、明細書中には、「図17において示す如く、停止モード1はソフトブレーキ機構であるが、 ・・(中略)・・ この場合には、アクセルアクチュエータ39によりスロットルを全閉にし、ブレーキ解除アクチュエータ60は作動せずに、制動アクチュエータ3により徐々に自動制動機構46を作動させる。同時にスタータ/発電機とエンジン点火ユニットと燃料ポンプ68を停止する。 ・・(中略)・・ また、次の場合には、図19の緊急ブレーキ機構を作動させる。 ・・(中略)・・ 同時にスタータ/発電機とエンジン点火ユニットと燃料ポンプ68を停止する。」(段落【0032】及び段落【0033】)、「次に、図21において自動起動の場合のフローチャートを説明する。まず、図22の起動信号検出モードにより、起動信号が発信されているかどうかを判断し、 ・・(中略)・・ 起動状態を確認する。そして起動していれば、発車信号をONにする。 ・・(中略)・・ 次に制動アクチュエータ3をブレーキ解除の方向に操作する。」(段落【0036】)、「即ち、無線操縦器による発車信号によりエンジンEの起動をも可能とした」(段落【0039】第2乃至3行)及び「また、停車中は無線操縦器により停止することにより、自動的にエンジンEが停止し駐車ブレーキが掛かる」(段落【0039】第6乃至8行)との記載並びに図13及び図21の記載が認められる。よって、これらの記載によれば「エンジンの自動起動と停止発進操作」とは、無線操縦器からの操作によるカートの発進を指示する信号によりエンジンの起動を可能とし、停止することにより自動的にエンジンを停止するものであって、単にエンジンの起動及び停止を行う操作とカートの停止及び発進を行う操作とが個別に行われるものを意味するものとは認められない。すなわち、無線操縦器からの操作でカートの発進を指示する信号によりカートを発進させる際、該信号に応じてカートの停車中に停止していたエンジンを自動的に起動し、無線操縦器からの操作でカートの停止を指示する信号によりカートを停止することに応じてエンジンを自動的に停止することを意味するものと認められる。
そうすると、無線操縦器により「エンジンの自動起動と停止発進操作を可能とする」ことは、前記刊行物2乃至14の何れにも記載されておらず、また、周知・慣用技術であるとも認められないことから、本件請求項1に係る発明の前記相違点(3)に係る構成は当業者が容易に想到しえたものとは認めることができない。
なお、異議申立人Aは、無線操縦器によりエンジンの自動起動と停止発進操作を可能とすることは刊行物4及び5に記載されている旨を主張しているが、刊行物4には無線操縦器による車両の発進停止については記載されているものの、無線操縦器によるエンジンの起動及び停止に係る構成については何ら記載されておらず、また、刊行物5には無線操縦器によりエンジンを起動させる旨の記載はされているものの、無線操縦器からの操作による車両の発進を指示する信号によりエンジンを自動的に起動することについては何ら記載されていないので、異議申立人Aの当該主張は採用することができない。
また、異議申立人Bは、刊行物1にはカートから離れた位置の無線操縦器により、駆動力の自動起動を可能としたことが記載されているとして、前記相違点(3)に係る構成を一致するものとしているが、エンジンはモーターと異なり、駆動力を得ることができる状態とするために走行停止の状態でエンジンを起動する必要があるのであって、このような起動をする必要のないモーターを走行駆動用に用いた引用発明がエンジンの自動起動に相当する構成を備えているものとは認められず、前記相違点(3)に係る構成を一致するものとした異議申立人Bの論拠は前提において失当である。
そして、本件請求項1に係る発明は、前記相違点(3)に係る構成を採用することにより、明細書中に記載の「無線操縦器による発車信号によりエンジンEの起動をも可能としたので、エンジン駆動式カートでありながら、キャディーやプレーヤーが乗車しない場合には、無人操向をすることも可能となったのである。また、停車中は無線操縦器により停止することにより、自動的にエンジンEが停止し駐車ブレーキが掛かるので、エンジンEを停止しておくことができて、暴走の危険性のない安全な無人操向のエンジン駆動カートとすることが出来たのである。」(段落【0039】第1乃至5行)という格別な効果を奏するものと認められる。
したがって、本件請求項1に係る発明は、刊行物1乃至14に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものとは認められない。
(請求項2乃至5について)
本件請求項2乃至5に係る発明は、いずれも本件請求項1を引用するものであって、これに係る発明の構成を基本構成としてすべて包含するものであるから、本件請求項1に係る発明における理由と同旨の理由により、刊行物1乃至14に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものとは認められない。
(全請求項について)
以上のとおり、本件請求項1乃至5に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものとは認められず、異議理由3及び異議理由4について理由があるものとすることはできない。
4.まとめ
以上のとおりであるから、特許異議申立人小林脩及び特許異議申立人三洋電機株式会社による特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件請求項1乃至5に係る発明の特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1乃至5に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2000-02-14 
出願番号 特願平3-140415
審決分類 P 1 651・ 121- Y (G05D)
P 1 651・ 534- Y (G05D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 本庄 亮太郎  
特許庁審判長 吉村 宅衛
特許庁審判官 西川 一
槙原 進
登録日 1999-02-12 
登録番号 特許第2885545号(P2885545)
権利者 ヤンマーディーゼル株式会社
発明の名称 カートの発進停止制御機構  
代理人 矢野 寿一郎  
代理人 山口 隆生  

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