• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 判定 同一 属さない(申立て不成立) C25F
管理番号 1012661
判定請求番号 判定請求1999-60012  
総通号数 10 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許判定公報 
発行日 1988-05-23 
種別 判定 
判定請求日 1999-02-23 
確定日 1999-12-16 
事件の表示 上記当事者間の特許第1905254号発明「合金鋼の表面清浄化処理方法」判定請求事件について、次のとおり判定する。 
結論 (イ)号図面及びその説明書に示す「合金鋼の表面清浄化処理方法」は、特許第1905254号発明の技術的範囲に属しない。 
理由 I.請求の趣旨
本件判定請求の趣旨は、イ号カタログ及びイ号取扱説明書で示されるイ号方法は、特許第1905254号発明の技術的範囲に属する、との判定を求めるものである。
II.本件発明の要旨
本件発明の要旨は、明細書の記載からみて、その特許請求の範囲に記載されたとおりのものであり、構成毎にA〜Eの符号を付して示せば、次のとおりである。
「A.硫酸、硝酸、燐酸、弗化水素酸の各ナトリウム又はカリウム塩の一種若しくは二種以上を基材とする中性乃至は中性に略々近い水溶液を電解液とし、
B.被処理合金鋼の表面と電導性材質よりなる対極との間には天然又は合成繊維よりなる織布若しくは不織布よりなる滞水性物質を隔膜として介した状態で、
C.第一工程として被処理合金鋼が直流電源の陰極となり該対極が陽極になる如く接続し、該合金鋼表面に電気化学的に苛性アルカリを生成する程度に通電してアルカリ洗滌した後、
D.引続き第2工程としては該極性を逆に切替えて通電することにより該合金鋼表面に同じく発生期の酸を生成させて酸洗滌する如くしたことを特徴とする
E.合金鋼の表面清浄化処理方法。」
III.イ号方法
請求人は、イ号方法に関する構成を示すものとして、甲第3号証(「イ号(マイトスケーラーMS-300型)カタログ」)、甲第5号証(「イ号(マイトスケーラーMS-300型)取扱説明書」)及び甲第6号証(「イ号装置に使用する電解液の計量証明書」)を提出している。
そして、上記甲第3号証である「イ号(マイトスケーラーMS-300型)カタログ」(以下、単に「イ号カタログ」という。)には、マイトスケーラーMS-300について、「4 電極クリーナー回路内蔵 スイッチの切替で、ステッシャーの汚れをクリーニング・・・6 電解液・クロスステッシャー一新 お客様のニーズに答え、電解液クロス・ステッシャーを改良」と記載され、また、MS-300セット内容として、「▲2▼SUS(A)1l ▲6▼リングクロス(大-20ヶ小-60ヶ)▲7▼ステッシャーNo3▲8▼ステッシャーNo2」が記載されている。
また、上記甲第5号証である「イ号(マイトスケーラーMS-300型)取扱説明書」(以下、単に「イ号取扱説明書」という。)には、「A.操作パネル面の各部」の欄に「▲8▼電極クリーナー切替スイッチ」が示され、「B.セット内容」〜「G.その他の機能」の欄には、「(16)電解液SUS(N)-6 2l (17)電解液SUS (A)ー6 1l (19)ステッシャー(電極)3種類 (23)ステッシャ用リング・クロス」
(「B.セット内容」の欄)、「(II)(23)のリング・クロスを(19)のステッシャーに下記の図の様に取り付けます。」(「C.ご使用になる前に」の欄)、「(I)母材を(21)アースコードのクリップで挟みます。・・・(III)(16)又は(17)電解液を(24)の電解液小分け容器に移し、ステッシャーに取り付けたりング・クロスを電解液にタップリ浸してから母材の溶接焼け(スケール)部に軽く当てますと、パネル面の▲10▼カレント・パワーメーターの指針が振れ出し、母材との接触部より気泡が発生し反応が始まります。*ステッシャーのあて方は・・・母材の研磨の様子(スケールの取れ具合)を見ながら作業を進め、スケールが取れれば順次ステッシャーを移動させます。・・・」(「D.焼け(スケール)取り作業」の欄)、「(2)電解研磨の作業時は、『電極クリーナー』スイッチを必ず『OFF』にして下さい。*ステッシャーの汚れが母材に移ります。」(「F.ご注意事項」の欄)、「(1)電極クリーナー機能 電解研磨の作業を続けますと、母材の焼け(スケール)がステッシャーに付着します、その汚れたステッシャーをきれいにします。
(I)▲6▼スイッチを▲7▼『鏡面仕上』側に入れ、そして▲8▼『電極クリーナー』スイッチを入れて下さい。 *電流が逆に流れ、ステッシャーの汚れが母材に移りステッシャーがクリーニングされます。この時、母材には廃材等を利用して下さい。 *電極クリーナー機能使用後は、▲8▼『電極クリーナー』スイッチを『OFF』に戻し『電極クリーナー表示灯』が消灯していることを確認して下さい。」(「G.その他の機能」の欄)と、記載されている。
また、上記甲第6号証である「イ号装置に使用する電解液の計量証明書」には、マイト工業株式会社製電解液「SUS A」の計量結果について記載され、これによれば、pHは8.2(22℃)、Na含有量は35g/l、SO4含有量は55.7gso4/l、Na2SO4含有量は8.2%であることが示されている。
そして、平成11年7月22日に当審で行った口頭審理において、被請求人は、イ号カタログ及びイ号取扱説明書に示される「マイトスケーラーMS-300型」の実演とともに技術説明を行い、また、請求人は、その場において電解液及び電解処理操作時の電極近傍のpH測定を行い、その結果、マイトスケーラーMS-300型を使用した電解処理操作においては、
(i)電解液SUS(A)の成分は、「イ号計量証明書」に示されたとおりであり、電解液SUS (A)のpHは約7である。
(ii)ステッシャーの材質は、合金鋼の一種であるステンレス鋼である。
(iii)リングクロスは、滞水性物質である。
(iv)電解液のpHについて、電解処理操作時の陽極近傍のpHは約3〜4、また、陰極近傍のpHは約10〜11である。
ことが認められ、そして、上記(i)〜(iv)については両当事者間に争いはない(平成11年7月22日付け口頭審理調書参照)。
そこで、上記各事項から、イ号方法の構成について検討するに、まず、「イ号取扱説明書」の「D.焼け(スケール)取り作業」の欄の記載によれば、ステッシャーに取り付けたリング・クロスを電解液にタップリ浸し、母材の溶接焼け(スケール)部に当てると、母材との接触部より気泡が発生し反応が始まることが、また、「G.その他の機能」の欄の記載によれば、電解研磨作業によって母材の焼け(スケール)が付着し汚れたステッシャーは、電極クリーナー機能によって、ステッシャーの汚れが母材に移りクリーニングされる旨説明されていることから、マイトスケーラーMS-300型を使用した電解処理操作によって、母材からのスケール除去を行えると同時に、ステッシャーのクリーニングを行うことができることが認められる。
ところで、「イ号取扱説明書」の「D.焼け(スケール)取り作業」の欄には、「ステッシャーに取り付けたリング・クロスを母材の溶接焼け(スケール)部に当てると、母材との接触部より反応が始まり、ステッシャーのあて方は母材の研磨の様子(スケールの取れ具合)を見ながら作業を進める」旨説明され、また、「F.ご注意事項」の欄には、「電解研磨の作業時は、ステッシャーの汚れが母材に移らないよう『電極クリーナー』スイッチを必ず『OFF』にする」旨、さらに、「G.その他の機能」の欄には、「『電極クリーナー』スイッチを入れると、電流が逆に流れ、ステッシャーの汚れが母材に移りステッシャーがクリーニングされる。この時、母材には廃材等を利用する。」旨説明されていることから、マイトスケーラーMS-300型を使用した電解処理操作においては、ステッシャーは、母材の焼け(スケール)取り作業を行う電解研磨時には、母材からの焼け(スケール)を付着させる対極となり、そして、ステッシャーに生じる汚れは、母材の電解研磨時に、母材の焼け(スケール)が付着することによって生じたものであるといえる。
したがって、「イ号カタログ」及び「イ号取扱説明書」によって示されるイ号方法は、符号a〜eを付してその構成を記せば、
「a.電解液としては、硫酸ナトリウムを成分として含有し、pHが8.2あるいは約7であるSUS Aを使用し、
b.ステッシャーにリングクロスを取り付けた状態で、しかも、滞水性物質であるリングクロスに電解液を含浸させた状態で、スケール部を有する母材に当接せしめ、
c.第1工程として、ステッシャーが直流電源の陰極となり、また、スケール部を有する母材からなる対極が陽極になる如く接続して通電し、母材を電解研磨すると同時にステッシャーにスケールを付着せしめ、
d.次に第2工程として、母材には廃材等を利用し、電極クリーナー機能により、『電極クリーナー』スイッチを入れて電流を逆に流すことにより、スケールが付着したステッシャーをクリーニングする如くしたことを特徴とする
e.スケールの付着した母材及びステッシャーの表面清浄化処理方法。」であるといえる。
IV.本件発明とイ号方法との対比
本件発明とイ号方法を対比するに、まず、イ号方法が「e.スケールの付着した母材及びステッシャーの表面清浄化方法」に関するものであることは前記のとおりであり、また、ステッシャーの材質が、合金鋼の一種であるステンレス鋼であることは、平成11年7月22日付け口頭審理の技術説明によりこれを認めることができるから、イ号方法は、「e.スケールの付着した母材及び合金鋼の表面清浄化方法」であるといえる。
ただ、イ号方法は、「スケールの付着した母材の表面清浄化方法」をも含むものであるとはいえ、合金鋼(ステッシャー)を処理の対象としてイ号方法を捉えた場合には、イ号方法と本件発明とは、少なくとも「E.合金鋼の表面清浄化方法」に関するものであるという点で、両者共通する。
次に、イ号方法の構成a〜dと、本件発明の構成A〜Dとを対比させつつ、検討する。
(1)構成aと構成Aとの比較;
イ号方法において使用する電解液は、硫酸ナトリウムを成分として含有し、しかも、そのpHは約7〜8.2であって中性乃至は中性に略々近い水溶液であるといえるから、イ号方法におる構成aは、本件発明における構成Aに一致する。
(2)構成bと構成Bとの比較;
平成11年8月18日付で請求人が提出した弁ぱく書第2頁19〜23行の記載「*1 隔膜とは、甲第3号証、甲第5号証における「リングクロス」であり、本件特許記載に該当する合成繊維よりなる織布で滞水性物質である。材質はアラミド繊維で、アラミドとは、主鎖に芳香族環をもつポリアミドである。芳香族のジアミンとジカルボン酸クロリドから界面重縮合や低温溶液重縮合により合成される。」によれば、イ号方法の構成bにおけるリングクロスは、合成繊維よりなる織布で滞水性物質であるといえるから、本件発明の「天然又は合成繊維よりなる織布若しくは不織布よりなる滞水性物質」に相当する。
しかしながら、イ号方法の構成bにおいては、スケール部を有する母材(以下、「スケールを有する母材」という。)に、リングクロスを取り付けた状態でステッシャーを当接せしめる、即ち、本件発明の構成Bの表現に即していえば、スケールを有する対極に滞水性物質の隔膜を介して被処理合金鋼を当接せしめる、のに対して、本件発明の構成Bにおいては、スケールを有すものを対極として用いることを要件とはしていない。
したがって、イ号方法の構成bは、「被処理合金鋼の表面と電導性材質よりなる対極との間には天然又は合成繊維よりなる織布若しくは不織布よりなる滞水性物質を隔膜として介する」点で、本件発明の構成Bに一致するものの、イ号方法の構成bは、これに加えて、スケールを有する母材を対極として用いることをその要件とする点(以下、「相違点1」という。)で、本件発明の構成Bと相違する。
(3)構成cと構成cとの比較;
イ号方法の構成Cにおける、「スケールを有する母材」及び「ステッシャー」は、それぞれ、本件発明の構成Cにおける「対極」及び「被処理合金鋼」に対応するものではあるが、前記IV(2)で既に相違点1として挙げたように、イ号方法では、スケールを有する母材を必ず対極とする必要があるのに対して、本件発明では、特段、スケールを有するものを対極として用いるとはされていない点(前記IV(2)の「相違点1」に相当する。)で、両者は相違する。
加えて、イ号方法の構成cでは、ステッシャーにスケールを付着せしめることを要件とするのに対して、本件発明の構成Cでは、被処理合金鋼にスケールを付着せしめることを要件としていない点(以下、「相違点2」という。)で両者はさらに相違する。
一方、本件発明の構成cは、「合金鋼表面に電気化学的に苛性アルカリを生成する程度に通電してアルカリ洗滌する」点を要件として備えるのに対して、イ号取扱説明書の「D.焼け(スケール)取り作業」の欄の「ステッシャーに取り付けたリング・クロスを・・・母材の溶接焼け(スケール)部に軽く当てますと、・・・母材との接触部より気泡が発生し反応が始まります。」との説明からでは、イ号方法の構成cで、苛性アルカリが生成する程度に通電され、ステッシャーがアルカリ洗滌される反応が生じているか否かは直ちに明らかであるとはいえない。
しかしながら、ステッシャーを陰極として電解した際に、陰極近傍の電解液がアルカリ性(pHは約10〜11)に変化することは、口頭審理における技術説明により明らかであり、そして、ステッシャーがアルカリ性の電解液中に晒されているとすれば、その結果として、洗浄作用の程度に差はあるにしても、ステッシャーがアルカリ洗滌される反応は必然的に生じるものといえる。
したがって、イ号取扱説明書における「気泡が発生し反応が始まります。」との説明は、表現こそ違え、本件発明の構成Cにおける「合金鋼表面に電気化学的に苛性アルカリを生成する程度に通電してアルカリ洗滌する」に相当するといえる。
よって、イ号方法の構成Cは、「第一工程として被処理合金鋼が直流電源の陰極となり該対極が陽極になる如く接続し、該合金鋼表面に電気化学的に苛性アルカリを生成する程度に通電してアルカリ洗滌した後」という点で、本件発明の構成Cに一致するが、前記相違点1、相違点2において、本件発明の構成Cと相違する。
(4)構成dと構成Dとの比較;
イ号方法における構成d「次に、電極クリーナー機能により、『電極クリーナー』スイッチを入れて電流を逆に流すことにより、ステッシャーをクリーニングする」は、本件発明の構成D「引続き第2工程としては該極性を逆に切替えて通電することにより該合金鋼表面を洗滌する」に対応するといえる。
しかしながら、イ号方法の構成dにおいては、ステッシャーをクリーニングする際の対極として廃材等を利用することを要件としていることから、第1工程で使用した(ステッシャーの)対極はそのまま第2工程で対極として用いられることはなく、第2工程では、(ステッシャーの)対極は必ず廃材に交換されるのに対して、本件発明の構成Dでは、対極を交換することを特に要件としていない点(以下、「相違点3」という。)で両者は相違する。
一方、本件発明の構成Dは、「発生期の酸を生成させて酸洗滌する」点を要件とするものであるのに対して、イ号方法においてかかる要件が満足されているか否か、直ちに明らかであるとはいえないが、口頭審理における技術説明において、ステッシャーを陽極として電解した際に、陽極近傍の電解液のpHがほぼ中性から酸性(pH約3〜4)に変化していることが認められるから、イ号方法の構成dにおいても、本件発明の構成Dの要件である「発生期の酸を生成させて酸洗滌する」に相当する反応が生じているといえる。
してみれば、イ号方法の構成dは、「引続き第2工程としては該極性を逆に切替えて通電することにより該合金鋼表面に同じく発生期の酸を生成させて酸洗滌する如くしたことを特徴とする」点で、本件発明の構成Dに一致するが、前記相違点3において、本件発明の構成Dと相違する。
V.当審の判断
そこで、前記相違点1〜相違点3について、以下、検討する。
(1)相違点1について
イ号方法の構成bにおいて「スケールを有する母材」を対極となすこと、或いは、構成c(第1工程)において「スケールを有する母材」を陽極(対極)とし、また、ステッシャーを陰極として電解処理を行うこと、の目的とするところは、「イ号取扱説明書」の「D.焼け(スケール)取り作業」の欄の、「ステッシャー・・・を母材の溶接焼け(スケール)部に当てると、母材との接触部より反応が始まり、ステッシャーのあて方は母材の研磨の様子(スケールの取れ具合)を見ながら作業を進める」旨の説明からも明らかなように、「スケールを有する母材」からのスケールの除去にあり、そして、「イ号取扱説明書」の「G.その他の機能」の欄の、「(1)電極クリーナー機能 電解研磨の作業を続けますと、母材の焼け(スケール)がステッシャーに付着します」との説明によれば、母材からスケールが除去されたその結果として、ステッシャーには母材からのスケールが付着することになるものである。
つまり、イ号方法の構成b、構成c(第1工程)において「スケールを有する母材」を対極として用いるのは、イ号方法が、ステッシャーばかりでなく「スケールを有する母材」の表面清浄化(スケール除去)をも、その一つの目的としているからであって、そして、イ号方法の第1工程で母材からスケールが除去されたその結果として、ステッシャーには母材からのスケールが付着することになる。
一方、本件特許明細書の記載、「〈問題点を解決するための手段〉本発明は・・・合金鋼表面に発生した酸化スケールや付着した汚染物質を・・・電解液を用いて直流による電解処理により除去するに当たり、・・・」(本件公告公報第3欄17〜22行)、「〈作用〉被処理材表面の電解による陽極溶解処理に先立って、第1工程として、被処理材を陰極とし対極を陽極とする電解処理を行うことによって被処理材面とスケール等付着物との間に多量の水素ガスが発生して、密着していたこれら付着物が該素材面から剥離し易い状態にされると共に、水素ガスによる還元作用により酸化スケールが還元されて次の第2工程で除去され易くなり、更に該素材面に電気化学的に発生する苛性アルカリ成分によって上記付着物が溶解分離せしめられる作用が認められる。」(本件公告公報第3欄30〜41行)、「本発明の実施例に先立つ比較例として、・・・溶接部を伴ない且つ全面に赤錆を発生させたSUS304材よりなる試片を陽極とし、同じく304材の対極とともに・・・電解した・・・。また同じくSUS430材の上記と同様の試片についても同様の条件で電解処理した・・・」(本件公告公報第4欄17〜30行)、「〈実施例〉実施例1 上記比較例におけると同一の電解液、電圧、装置及び同様の試片により、先ず試片を直流電源の陰極側に接続し、試片と同材の陽極・・・」(本件公告公報第4欄35〜39行)によれば、本件発明において表面の清浄化を行う対象は、あくまでも、表面に酸化スケールの発生したあるいは表面に汚染物質の付着した合金鋼などであって、被処理合金鋼の対極の表面清浄化をも目的とするものとは認められない。そして、表面清浄化の対象である該被処理合金鋼は、少なくとも第1工程に供する以前に既にその表面にスケール、汚染物質が存在する合金鋼であり、一方、その対極については、SUS304材、SUS403材等の被処理合金鋼と同種の合金鋼が用いるとされているだけであって、本件発明の第1工程において、敢えてスケールが付着したものを対極として用いる技術的必然性があるものとはいえない。
したがって、本件発明の第1工程においては、対極からのスケール除去の反応は生じ得ないばかりか、被処理合金鋼へのスケールの付着が生じることもない。
そうであれば、イ号方法の構成b、構成c(第1工程)において「スケールを有する母材」を対極として用いることは、イ号方法の目的の一つである「スケールを有する母材」の表面清浄化(スケール除去)を達成する上での必須の技術的要件であるから、相違点1は、イ号方法と本件発明との実質的な構成上の相違に該当する。
(2)相違点2について
イ号方法の第1工程(構成c)においては、「スケールを有する母材」を対極として用いることにより、「スケールを有する母材」からスケールが除去され、同時に、ステッシャーにスケールが付着し、さらには、前記IV(3)で既に述べた、ステッシャーがアルカリ洗滌を受けるような反応が生じている。
つまり、イ号方法の第1工程において生じる反応を本件発明に即していえば、対極からのスケール除去、被処理合金鋼へのスケール付着、被処理合金鋼のアルカリ洗滌の各反応が、同時に進行しているといえる。
ところで、本件特許明細書の記載、「〈問題点を解決するための手段〉本発明は・・・合金鋼表面に発生した酸化スケールや付着した汚染物質を・・・電解液を用いて直流による電解処理により除去するに当たり、・・・」(本件公告公報第3欄17〜22行)、「〈作用〉被処理材表面の電解による陽極溶解処理に先立って、第1工程として、被処理材を陰極とし対極を陽極とする電解処理を行うことによって被処理材面とスケール等付着物との間に多量の水素ガスが発生して、密着していたこれら付着物が該素材面から剥離し易い状態にされると共に、水素ガスによる還元作用により酸化スケールが還元されて次の第2工程で除去され易くなり、更に該素材面に電気化学的に発生する苛性アルカリ成分によって上記付着物が溶解分離せしめられる作用が認められる。・・・斯かる前処理を行った後、・・・」(本件公告公報第3欄30〜第4欄3行)によれば、本件発明における表面清浄化の対象である被処理合金鋼は、少なくとも第1工程に供する以前に既にその表面にスケール、汚染物質が存在する合金鋼であり、そして、第1工程においては、被処理合金鋼に密着していたスケール等付着物が剥離し易い状態にされ或いは酸化スケールが還元され、さらには、苛性アルカリによって付着物が溶解分離せしめられる作用が生じるものであるから、結局、本件発明における第1工程は、あくまでも被処理合金鋼の表面清浄化処理のための前処理工程であって、表面清浄化を行うべき被処理合金鋼の表面に敢えてスケールを付着させる工程であるとはいえない。
そうであれば、本件発明の第1工程においては、対極からのスケール除去の反応は生じ得ないばかりか、被処理合金鋼へのスケールの付着が生じることもない。
したがって、イ号方法の第1工程と、本件発明の第1工程とは、陰極とされた被処理合金鋼にアルカリ洗滌反応が生じる点で共通するとはいえ、対極からのスケール除去反応の有無及びその結果としての被処理合金鋼へのスケール付着反応の有無の点から、第1工程全体の反応として或いは被処理合金鋼表面における反応として、両者、明らかに異なる反応が生じていると言わざるを得ない。
よって、相違点2は、イ号方法の第1工程において、対極としてスケールを有する母材を用い、かつ、該スケールを有する対極(母材)の清浄化をも行うことに基づく、イ号方法と本件発明の実質的な構成上の相違に該当する。
(3)相違点3について
イ号方法の第2工程(構成d)では、本件発明でいう被処理合金鋼に相当するステッシャーを陽極として電解するに際し、その対極を廃材等に交換するが、その技術的な理由は、イ号方法では、スケールを有する母材をその第1工程で清浄化することを一つの目的としていることによる。即ち、第1工程によって清浄化された母材を、そのまま第2工程における対極として使用すれば、ステッシャーからのスケールによって再び対極にスケールが付着することになり、これを防ぐために、第2工程で対極を廃材等に交換する工程が必要とされるといえる(「イ号取扱説明書」の「D.焼け(スケール)取り作業」の欄及び「F.ご注意事項」の欄参照)。
しかるに、本件発明においては、清浄化の対象は被処理合金鋼であって、本件特許明細書の記載を考慮したとしても、第1工程で使用された対極の清浄化については特に意図されておらず、したがって、第1工程に引続き行う第2工程で、特に対極を交換する必要が生じるものではない。
よって、相違点3は、スケールを有する母材の清浄化、第1工程によるスケールを有する母材からのスケール除去及び第2工程における母材へのスケール再付着防止というイ号方法の目的を達成する上で必要とされる構成であって、イ号方法と本件発明との実質的な構成上の相違に該当する。
(4)まとめ
上記(1)〜(3)で述べたように、イ号方法と本件発明の構成についての相違点1〜相違点3は、単なる実施態様的要件、単なる付加的要件、単なる表現上の差異等に基づく相違ではなく、実質的な構成上の相違であると認められるから、イ号方法が、本件発明の構成を備えているとはいえない。
VI.請求人の主張について
請求人は、判定請求書中で、「対極(ステッシャー)の表面に付着している汚れは、電解時必然的に生成する苛性アルカリによりアルカリ洗浄作用を受けており、」(第2ページ▲4▼c.の欄)、「電極たるステッシャーは、陰極としての作用により苛性アルカリを発生しており、アルカリ洗浄作用を受けている。このことは、正に▲3▼本件特許発明の説明の項の(3)に述べた「第一工程」に相当するものである。」(第4ページ▲4▼cの説明の欄)、「イ号・・・の「電極クリーナー」スイッチを「ON」の状態で電解処理する・・・直前の上記スイッチは、「OFF」の状態に維持されており、電極(ステッシャー)は、陰極側にて通常の電解処理が実施されるものであるから、該電極(ステッシャー)は前述のアルカリ洗浄作用を受けていることに相違なく、」(第9ページ▲6▼の欄)と主張しており、これは、要するに、「イ号方法の第1工程で、ステッシャーはアルカリ洗滌を受けているのであるから、イ号発明の第1工程と本件発明の第1工程は実質的に相違ない同一の工程である。」との主張であると認められる。
そこで検討するに、イ号方法の第1工程においては、IV(3)で既に述べたように、確かに、ステッシャーはアルカリ洗滌作用を受けるにしても、それと同時に、母材からのスケールが付着する反応が生じ、結局は、ステッシヤーにスケールが付着蓄積することになるのであり、一方、本件発明の第1工程では、被処理合金鋼に密着していた付着物が剥離し易い状態になり、次工程で除去され易くなり、また、溶解分離せしめられる(本件公告公報第3欄30〜41行の記載事項参照)のであって、少なくともスケールが被処理合金鋼に付着蓄積していくものではないから、ステッシャー・被処理合金鋼に対するスケール・付着物の作用・状態からすれば、本件発明の第1工程は被処理合金鋼の表面清浄化のための前処理工程であり、逆に、イ号発明の第1工程は、該工程で付着蓄積したスケールを次工程で除去することが必要になるステッシャーの汚染工程である、と解するのが相当である。
したがって、イ号方法の第1工程及び本件発明の第1工程で、アルカリ洗滌という共通の反応が生じていたとしても、ステッシャー表面、被処理合金鋼表面において生じる反応の全てが一致するわけではない以上、イ号方法の第1工程と本件発明の第1工程とが、実質的に同一の工程であるとすることはできない。
よって、請求人の上記主張は採用しない。
なお、イ号図面及びイ号取扱説明書に示される「電極クリーナー回路」が、本件特許発明の間接侵害に当たるや否やについて、当事者はそれぞれ主張・反論しているが、そもそも判定請求とは、「特許発明の技術的範囲については、特許庁に対し、判定を求めることができる。」とのもとになされるものであって、所謂間接侵害の有無を判定の中で判断することは予定されているものではないから、この点に関する当事者の主張等については、判断する必要を認めない。
VII.むすび
以上のとおり、イ号方法は、本件特許発明が構成要件とする事項を全て備えているとはいえないから、本件特許発明の技術的範囲に属しない。
よって、結論のとおり判定する。
 
判定日 1999-11-24 
出願番号 特願昭61-264655
審決分類 P 1 2・ 1- ZB (C25F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中村 朝幸  
特許庁審判長 影山 秀一
特許庁審判官 池田 正人
雨宮 弘治
登録日 1995-02-08 
登録番号 特許第1905254号(P1905254)
発明の名称 合金鋼の表面清浄化処理方法  
  • この表をプリントする

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ