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審決分類 審判 審判種別コード:11 2項進歩性  A01H
審判 審判種別コード:11 特29条特許要件(新規)  A01H
審判 審判種別コード:11 特123条1項7号特許後の条約違反(明細書記載不備)  A01H
管理番号 1013956
審判番号 審判1989-15082  
総通号数 11 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1979-05-15 
種別 無効の審決 
審判請求日 1989-09-18 
確定日 2000-02-29 
事件の表示 上記当事者間の特許第1459061号発明「桃の新品種黄桃の育種増殖法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 I.本件特許第1459061号発明(以下、本件発明という。)は、昭和52年10月24日に特許出願され、出願公告(特公昭59-34330号公報参照)後の昭和63年9月28日にその特許の設定の登録がなされたものである。
II.本件審判請求については、請求人と被請求人のあいだで当事者適格が争われている。すなわち、被請求人は、本件審判請求に関し請求人が本件発明を実施する可能性を有するのみでは利害関係を有するとはいえず、請求人不適格として本件審判請求は却下されるべきであると答弁書で主張している。
そこで、まずこの点について検討する。
請求人が第一弁ぱく書において提出した甲第11号証(定款 社団法人日本果樹種苗協会)によれば、請求人社団法人日本果樹種苗協会は果樹種苗の生産又は流通に係る者等を会員とし、果樹品種の円滑な生産及び流通への協力等を行うことを事業内容とするものであることが、また、甲第12号証(定款 日本園芸農業協同連合会)によれば、請求人である日本園芸農業協同組合連合会(代表者 大塚清次郎)は、果樹等の販売事業を行う農業協同組合等を会員とし、会員若しくは会員の組合員の生産する物資の販売等を行うことを事業内容とするものであることが各々明白であるし、さらに請求人鳥丸萩夫は、職権調査によると果樹種苗等の育種、生産者であることが認められる。そうすると、請求人はいずれも本件発明の特許の存否に利害関係を有するものであるといえるから、被請求人の請求却下の主張は採用することができない。
III.よって、次に本件発明について、その特許を無効とすべき理由があるかどうかについて判断する。
1.本件発明の要旨
本件発明の要旨は、明細書および図面の記載からみて、その特許請求の範囲に記載された次のとおりのものと認める。
「従来周知の缶詰専用桃品種タスカンを種子親とし、これに花粉親として桃品種エルバーターを交配せしめて本発明者が改良育成した桃品種タスバーターを種子親とし、本発明者が偶発実生の黄肉の桃品種晩黄桃を交配せしめ、得た種子より発芽した植物を選抜淘汰の結果
本文に詳記し、図面に示すように葉縁がわずかに波立つが種子親タスバーター程には波立たない大きな披針形の葉を有し、花は、淡紅色の蕊咲きで、花粉多く自家受精の性質を有し、結実多く、果実は整った円形で、果皮強靱であり、色は黄色地に陽光面に紅暈を現し、外観きわめて美麗であり、果肉は黄色で、肉質きわめて緻密で繊維少なく、粘核であり、核の周囲に着色が少なく、微酸を含む甘味を有し、果頂と底部との味の差がなく、芳香を有する桃の新品種黄桃を育成し、これを常法により無性的に増殖する方法。」
2.請求人の主張
(1)本件発明は特許法第29条柱書の産業上利用することができる発明ではなく特許を受けることができないものであるから、その特許は、同法第29条の規定に違反してされたものであり同法第123条第1項第1号に該当し、無効にされるべきものである。
(2)本件発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その特許は、同法第29条の規定に違反してされたものであり同法第123条第1項第1号に該当し、無効にされるべきものである。
(3)本件発明は、特許法第29条第1項第1号、第2号に該当し、特許を受けることができないものであるから、その特許は同法第29条の規定に違反してされたものであり、同法第123条第1項第1号に該当し、無効とされるべきである。
(4)本件発明の特許は、特許法第123条第1項第2号および第5号に該当し、無効にされるべきである。
上記の事実を立証するため、請求人は
甲第1号証 特許庁産業別審査基準「植物新品種」
甲第2号証 特許、実用新案審査便覧 41.03A 理論上実施不能の発明
甲第3号証 特許庁編 審査基準の手引き〔改訂第11版〕昭和52年 社団法人発明協会 第24頁及び第36頁
甲第4号証 特許庁産業別審査基準「有機化合物」
甲第5号証 昭和52年特許願第127198号の昭和52年7月19日付手続補正書
甲第6号証 昭和52年特許願第127198号の特許異議答弁書
甲第7号証 特開昭54-60132号公報
甲第8号証の1 植物の新品種の保護に関する国際条約(翻訳文)
甲第8号証の2 上記の条約原文
甲第9号証 種苗法及び種苗法施行令を提出し、且つ、証人 山田喜和の尋問を求めている。
3.当審の判断
(1)上記(1)の理由について
上記(1)の理由の詳細は、甲第1号証ないし甲第3号証に基づく以下に示す(a)〜(d)のとおりのものである。
(a) 遺伝学上の通念によれば、
特定の種子親と特定の花粉親とを交配させたとしても、全く同一の特性を有する新種を確実に再現させることは殆んど不可能に近いことになり、すなわち、最初に見出だされた新種植物の特性は単なる発見に過ぎず、反復可能性が殆んど無きに等しい(甲第1号証参照)。従って、本件発明の育成方法により同じ種子親と花粉親とを交配させたとしても、必ず同じ特性の新種が得られるという保証はない。従って、理論上実施不能の発明である(甲第2号証参照)。
(b) 本件発明の明細書に記載される育種経過によると、まず昭和27年に得た実生苗130本からその1年後の昭和28年に「両親の中間形質を供えていると思われるもの」3種を選抜したとあるが、どのような形質を確認して選抜を行ったかの客観的な記述もなく、専ら発明者の主観に従って「中間形質を供えていると思われるもの」を選抜している。つまり、発明者以外の者が同じ選抜を行った場合、その結果が異なる場合もあり得ることになり、特許法第29条に規定される産業上利用できる発明ないしは同法第2条に規定される自然法則を利用した技術思想の創作が行われたとはいえない。
(c) 昭和29年に行われた第1回の選抜の段階では、実生苗は2年生であり、通常栽培の場合には果実をつけていない状態である。仮定的に、果実をつけていたとすると、それは特殊な育成法を用いた筈であるが、本件発明の明細書にはそのような記載は全く見られない。
たとえ、高接法を使用したとしても、本件発明の明細書にはどのような木に高接したのか開示されていない。
ところで、明細書記載の育種経過によると、育成者は両親品種の果実に関する形質の良いところをあわせ持つ品種を得るために、果実以外の形質において両親の中間形質を供えていると思われるものを選抜したことは明らかである。ところが、遺伝学の教えるところによれば、生物体の諸形質は通常それぞれ独立して遺伝することから、例えば葉の形態をみて中間形を選抜したとしても、果実の形質については全く淘汰圧が働いていないことから、育種家が目標としていた果実において両親の良いところをあわせ持つ中間形が必ず得られるという理論は成立しない。つまり、本件発明の方法は、遺伝学の基本法則に従って創作されたのではなく、たとえ発明者が本件発明の方法によって所期の目的を達成し得たとしても、それは単なる偶然に過ぎず、再現性は全く期待できない。すなわち、本件発明は、反復可能性も創作性も備えていない(甲第1号証参照)。
(d) 本件発明の明細書の記載によれば、発明者はその育種経過の中で昭和35年以降本品種の均等性、安定性、永続性について検討を加えたとし、果実の精密調査のデータとして5個体を供試して得たpH、リンゴ酸含量、糖度の測定結果を載せているが、5個体という数字は供試個体数として余りにも小さく、どの部分から採取された供試個体か、さらに他品種との比較、年次間の変動、分散値等、他の個体群(品種)との区別性、均等性、安定性、永続性を判定するために必要な事項も一切記載されていない。従って、本件発明の品種の区別性、均等性、安定性、永続性等については、実証がなく、創作手段が具体的に開示されているとは到底いえない(甲第3号証、特に36頁参照)。
そこで、上記(a)〜(d)の理由について検討する。
(a)について
本件発明は、前記発明の要旨から明らかなとおり、特定の親品種を交配せしめ、得た種子より発芽した植物を選択淘汰して所望の特性を有する桃品種を育成し、これを常法により無性的に増殖する方法であって、品種の創成手段として交配を利用するものである。
そして、交配による品種の改良は、当業界における周知の手法であり、このことは、被請求人の提出した乙第1号証(櫛渕欽也著「新しい育種技術」株式会社養賢堂 1987年 第6頁)、乙第3号証(同書第23頁)をあげるまでもない。
すなわち、特定の親植物を交配させれば、その親植物の遺伝子の組みかえは一定の法則(メンデルの法則)に従って起こり、何通りかの組みかえのうちの一つとして確率的にあるいは統計的に必ず目的とする特性を有する植物が反復して得られることは育種学上周知のことである。してみれば、本件発明に係る育成方法は理論上その反復可能性が認められるものである。請求人は甲第1号証、甲第2号証によってその主張を裏付けしようとしているが、これらの記載からは本件発明が理論上実施不能であることの根拠は何ら見出だすことができない。
(b)について
本件発明の明細書には、育種経過として以下の記載がなされている。
「この新品種″黄桃″の育種は、昭和27年(1952年)〜昭和42年(1967年)にかけて、発明者の農場である東京都世田谷区上北沢1-14-18において実施した。
昭和27年(1952年)に、まず本件発明者が昭和15年(1940年)に、当時朝鮮慶尚南道蔚山郡長生浦に在住時代に、その土地において缶詰用果実の研究改良の一環として、黄桃の改良を志し、米国の缶詰専用黄桃品種″タスカン″にこれも米国の黄肉種の桃品種″エルバーター″を交配して育成し、本発明者が命名した″タスバーター″種を種子親として採用し、これに、やはり本発明者が昭和15年頃、上記朝鮮で発見した偶発実生より選抜淘汰し、発明者が命名した″晩生黄桃″を花粉親として交配した。
同昭和27年(1952年)に交配種子約150粒を得て、これを播種し、これより実生苗130本を得た。
昭和28年(1953年)
上記実生苗より、両親の中間形質を供えていると思われるもの約3種を選び、20本ずつ計60本を実生砧木に切接ぎして供試苗とした。昭和29年(1954年)〜昭和33年(1958年)の間、各系統の形質を比較し乍ら、前記両親の中間形質のものの選抜をくり返し行った。」(特公昭59-34330号公報第1頁右欄〜第2頁左欄)
さらに、本件発明の明細書には、育種目標、種子親の来歴および特性、花粉親の来歴および特性、交配により得られた新品種の特性並びに親品種及び新品種の所在地が明記されており、さらに明細書を精査するに、本件発明における交配後の選抜淘汰の手段については何ら特殊な方法を用いるものではないことも明白である。
そうすると、本件発明を実施する過程、すなわち、育種目標の設定→交配親の選定→交雑採種→播種育苗→主要形質の選抜育成→増殖のうち、交雑採種から増殖の一連の過程は、果樹の育種における通常の手法により実施できるものと解される。そして桃において交雑育種は最も広く行われている方法であり、その選抜法、繁殖法、特性検定法も本件発明の出願前周知であるところからみて、本件発明の明細書の記載から当業者がこれを実施することが可能であり、さらに上述の如く理論的に一定の確率で目的とする品種を得ることができるものといえる。
請求人の指摘する育種経過の記載は、いわゆる具体的な実施例ないし実験例に相当するものであり、この部分は完全ではないが、明細書全体の記載並びに周知技術から本件発明を当業者が容易に実施できる程度の内容を読み取ることができるものであり、この記載をもって本件発明の反復可能性、産業上の利用性、創作性までを否定することはとうていできない。
そして、甲第3号証は、突然変異による変種作物の作出方法が反復可能性を欠き、自然法則を利用するとはいえないとの記載がなされているが、本件発明が突然変異を利用するものであるとする根拠を示すものではないから、交配を利用する本件発明の成立性を否定する根拠とはなりえない。
(c)について
実生個体を早く結実させるために、既存の成木に高接する方法がとられること、この方法により特性の識別を早期に行うことができることは本件発明の出願前周知である。このことは、被請求人が提出した乙第4号証(永沢勝雄著「果物のたどってきた道」日本放送出版協会、1976年第58頁)にも記載されている。
そして本件発明の明細書の育種経過の欄にも「上記実生苗より、両親の中間形質を供えていると思われるもの約3種を選び、20本ずつ計60本を実生砧木に切接ぎして供試苗とした。」と記載され、昭和29年以降の選抜が接木の手法によるものであることが明瞭であり、さらに、桃を接木する際に使用する台木の種類も周知である。
そうすると、昭和29年以降の選抜は果実の形質が育種目標にかなったものか否かによって行われたものであることは当業者にとって自明のことであり、請求人の掲げた(c)の理由は当を得ないものである。なお、上記の結論は甲第1号証をみても左右されるものではない。
(d)について
本件発明は交配を利用して植物を育種し、無性的に増殖する方法であってその再現性が理論的に認められるものであるし、また、通常交配から品種の確立までに10〜20数年を必要とするが、本件発明の明細書には目的とする新品種の特性の均等性、安定性、永続性の確認に17年の歳月を費やしたことが記載されており、さらに、新品種の特性が詳記され、育種目標の1つである甘味、酸味のバランスについては、
定性的記載のみならず精密調査による定量的データも示されていること、新品種の所在も明らかにされ本件発明の確認並びに本種の特性確認のため役立てることが宣言されていることから見て、本件発明で得られる品種の区別性、均等性、安定性、永続性が出願時には確認されていたとするのが自然である。従って、甲第3号証、特に第36頁をみても(d)の理由は採用できない。
請求人は上記(1)の理由を裏付けするために証人 山田喜和の尋問を申請しているが、その尋問事項をみると、いずれも証人が意見、見解を述べるものであり、その内容は請求人がすでに述べている主張のくり返しにすぎない。従って、上記証人について尋問を行っても本件発明が特許法第29条第1項柱書の産業上利用できる発明に該当するものでないことを立証する証言が得られるはずはなく、従って、当該証人尋問は行わない。
(2)上記(2)の理由について
上記(2)の理由の詳細は以下のものである。すなわち「一般的に方法の発明にあっては、具体的方法が明らかにされていることが必要とされ、単なる課題または着想の提出に止まり、どのようにしてこれを解決するかわからないもの、きわめて漠とした解決手段にすぎないためどのようにしてこれを具体化するかわからないものは、発明としての具体性を欠くものであるから、発明とすることはできないとされる(甲第4号証参照)。そして、このような場合の多くは、発明未完成に該当する。
しかるに、
本件発明の重要な構成要件である花粉親としての「晩黄桃」に関し、願書に最初に添付した明細書(以下、出願当初の明細書という。)にはその入手手段が具体的に記載されておらず、出願から5年後の昭和57年7月19日付け提出の手続補正書(甲第5号証)によりその具体的事項が補正され、さらにその3年後の特許異議申立てに対する昭和60年3月4日付け提出の答弁書(甲第6号証)において「なお育成過程を思い出したので…」と説明されている事実およびその記載内容からすれば、この補正は品種に属する植物の創成手段が明らかになっていない明細書にその創成手段を加える補正に該当し、それ故前記補正は出願時の明細書の要旨を変更するものであり(特許法第41条)、他方出願当初の発明は明らかに発明未完成である。
そうとすると、出願当初の明細書の要旨を変更する本件発明は、その特許出願がこの補正について手続補正書を提出した時にしたものと看做され(特許法第40条)、従って本件発明は、その手続補正書の提出日前に公開された本件発明の出願公開公報(甲第7号証)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。」
というものである。
そこで本件発明の出願当初の明細書を検討するに、花粉親である「晩黄桃」については、
「本発明者が昭和15年頃、上記朝鮮で発見した偶発実生より選抜淘汰し、発明者が命名した″晩生黄桃″を花粉親として交配した。
この両品種の採用理由は、種子親♀とした″タスバーター″は、酸味が強いが、果実が大きい特徴を有しており、これに花粉親♂として採用した″晩生黄桃″は、果実は甘いが外観が悪く、酸味が少ないという欠点があったので、この両者の優秀な形質を利用するのが目的であった。」(第3頁第5行〜第13行)
「B 花粉親品種
(a) 晩生黄桃
来歴-前述したように、本発明者が、昭和15年(1940年)朝鮮慶尚南道蔚山郡において、作出したが、父母不明の偶発実生の黄肉種の桃を選抜淘汰して作出したものであり、終戦時芽接した苗を持帰ったものである。
特性-
樹勢:普通
葉 :葉縁に波打ちがなく東洋系と思われる。
花 :普通咲き・花粉多く開花期は普通、色は淡紅色である。
果実:形特に変った点はない。中果。果色は地肌黄色に赤色の暈を現し美しい。
果肉は黄色で肉質繊密、味は糖度多く、酸味少く、甘味のみが感ぜられる。
熟期:8月上旬〜中旬
その他:熟すると軟化するので、缶詰用としては不向きである。」
(第9頁第6行〜第10頁第4行)と記載されており、晩黄桃がどのような来歴を持ち、どのような特性を有するものであるかが特定されている。そして、育種経過の記載(第2頁第12行〜第4頁第14行)から見ても、昭和27年に該品種を花粉親として本件発明が実施されたことが明らかである。
してみれば、出願当初の明細書には本件発明において使用する花粉親の入手手段が明記されていなくとも、上記した花粉親の特性並びに育種経過と、出願当初の明細書のその余の部分の記載とを総合すれば、本件発明の方法は全体としては具体性を備えたものといえる。そして、
請求人が提出した甲第4号証、甲第5号証並びに甲第6号証を検討しても、花粉親の入手手段が出願当初から明記されていなければそのことだけでたゞちに創成手段を開示したことにならないとすることはできない。
そうすると、昭和57年7月19日付手続補正書により「晩生黄桃」の原木及びこれより穂木を採り接木して成木となったものの所在地を示し、本件発明の確認のために役立て得るとの宣言を追加する補正は、本件発明に使用する花粉親の入手手段を明らかにし、本件発明を当業者が容易に実施できることをさらに明確にしたものであるから、要旨を変更する補正には当たらない。
よって、本件発明の出願日は、その現実の出願日である昭和52年10月24日であり、それ以降に公開された甲第7号証に基づいて本件発明を当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
(3)上記(3)の理由について
上記(3)の理由は上記(1)の理由の中で言及されているのであるが、その詳細は、
「本件発明の明細書には、育種経過の冒頭において、「この新品種“黄桃”の育種は、昭和27年(1952年)〜昭和42年(1967年)にかけて、発明者の農場である東京都世田谷区上北沢1-14-18において実施した」ことが明記されており、
また、明細書の育種経過の記載によれば、
本件発明の対象である植物新品種が完成されたのは特許出願の17年前であって、これは明らかに特許法第29条第1項第1号にいう「特許出願前に日本国内において公然に知られた発明」を対象としたものであり、少なくとも同法第1項第2号の「特許出願前に日本国内において公然実施された発明」に該当するものであることは明らかである。」というものである。
そこで検討するに、本件発明の明細書には、本件発明が、いつ、どこで実施されたかは確かに明記されているが、それをもってただちに本件発明が、出願前に公然と知られた発明あるいは公然と実施された発明に該当するとはいえないし、また被請求人の答弁書における主張の内容が請求人がいう「その事実を自白する」ものであるともいえない。
すなわち、請求人は、本件発明が何時、何処で、誰によって公然と知られるに至ったのか、あるいは実施が公然と知られうる状態でなされたのかについて、上記明細書の記載事実のほかに根拠を示して主張するものではないからその主張は具体的な裏付けを欠くものであって採用することができない。
(4)上記(4)の理由について
請求人は、本件発明の明細書中に
「なお、本発明の実施には、特許法第2条第3項第3号の規定により、特許請求の範囲に記載された育種増殖法の使用のみならず、前記方法で育成された後代の本植物新品種に属する植物の生産、使用、販売も含まれることはいうまでもない。」
との記載があることを根拠に本件発明が新品種自体を対象とするものであると主張しているが、本件発明は、発明の要旨として認定したとおりの方法にほかならず、新品種自体であると解釈する余地はない。しかも、明細書の発明の詳細な説明の項の特許法第2条第3項第3号の規定が本件発明の実施に適用される旨の記載は、本件発明が新品種自体にあることを示す根拠になり得ない。
したがって、本件発明の特許は、甲第9号証を参酌しても、甲第8号証の1及び2の「植物新品種の保護に関する国際条約」に違反するものではない。
4.結論
以上のとおりであるから、請求人が主張する理由及び提出する証拠方法によっては、本件発明の特許を無効とすることはできない。
よって結論のとおり審決する。
 
審理終結日 1991-11-22 
結審通知日 1991-12-03 
審決日 1991-12-16 
出願番号 特願昭52-127193
審決分類 P 1 11・ 51- Y (A01H)
P 1 11・ 1- Y (A01H)
P 1 11・ 121- Y (A01H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鵜飼 健平木 祐輔  
特許庁審判長 須藤 阿佐子
特許庁審判官 森田 ひとみ
小澤 和英
登録日 1988-09-28 
登録番号 特許第1459061号(P1459061)
発明の名称 桃の新品種黄桃の育種増殖法  
代理人 池谷 欽一  
代理人 加藤 英一  
代理人 中村 英夫  
代理人 浜田 治雄  

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