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審決分類 審判 全部無効 発明同一 無効としない C04B
管理番号 1014511
審判番号 審判1998-35469  
総通号数 11 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1990-06-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 1998-09-29 
確定日 2000-04-20 
事件の表示 上記当事者間の特許第2131511号発明「顆粒状ウイスカーおよびその製造方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 I.手続の経緯・本件特許発明

1.手続の経緯
特許第2131511号発明(請求項の数2)は、昭和63年12月19日に出願され、平成4年12月11日に出願公告(特公平4-78600号)され、異議決定を経て、平成9年8月15日に特許の設定の登録がされたところ、請求人大塚化学株式会社より請求項1、2に係る発明の特許について特許無効の審判の請求がされた。
そして、当審において、当事者双方から提出されている書類は次のとおりである。
〈請求人側〉
審判請求書(平成10年9月29日付)
口頭審理陳述要領書(平成11年9月24日付)
上申書(平成11年11月10日付)
〈被請求人側〉
答弁書(平成11年1月8日付)
口頭審理陳述要領書(平成11年9月8日付)

2.本件特許発明
本件特許発明は、願書に添付した明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「1.繊維径0.1〜10μm、繊維長5〜200μmのチタン酸カリウムウィスカー、炭化ケイ素ウィスカー及び窒化ケイ素ウィスカーから選ばれたウィスカーのみ、又は該ウィスカーと加水分解により無機物表面に付着する有機金属とのみから成り、顆粒の直径が0.1〜10mmで嵩比重が0.2〜1.0kg/lであり、材料へ混合したとき元の繊維状になり材料中に分散する分散性を有することを特徴とするほぼ球形の顆粒状ウィスカー。
2.繊維径0.1〜10μm、繊維長5〜200μmのウィスカー粉末に水又は水と有機金属の混合液を加えて加湿し、混合攪拌して一次凝集体を形成し、次いでこの一次凝集体に転がり運動を与えて顆粒化し、顆粒の直径が0.1〜10mmで嵩比重が0.2〜1.0kg/lの顆粒体を製造することを特徴とする顆粒状ウィスカーの製造方法。」
(以下、請求項1及び請求項2に係る発明をそれぞれ「本件発明1」及び「本件発明2」という。)

II.請求人の主張及び証拠方法

請求人大塚化学株式会社は、「特許第2131511号の明細書の特許請求の範囲第1項及び同第2項に係る発明についての特許を無効とする、審判費用は、被請求人の負担とする。」との審決を求め、その理由として、本件発明1、2は、本件特許に係る出願(以下、「本件出願」という。)の出願の日前の出願であって、その出願後に出願公開された特願昭63-58027号の出願の願書に最初に添付した明細書又は図面(以下、「引用例」という。)に記載された発明と同一であり、しかも、本件出願の発明者がその出願前の出願に係る上記の発明をした者と同一でなく、また、本件出願の時にその出願人がその出願前の出願に係る上記特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものであり、本件発明1、2の特許は特許法第123条第1項第2号に該当するから、無効とすべき旨主張し、この主張を立証する証拠方法として、下記の甲第1〜6号証を提示している。

甲第1号証:特開平1-230670号公報
甲第2号証:「フィラーハンドブック」株式会社大成社、昭和60年11月25日発行、第230〜232頁
甲第3号証:粉体工学会編「粉体工学便覧」、
日刊工業新聞社、昭和61年2月28日発行、第596〜599頁
甲第4号証:特公平7-30211号公報
甲第5号証:日本粉体工業協会編「造粒便覧」、オーム社、昭和56年7月20日発行、第56〜57頁
甲第6号証:化学工学協会編「改訂四版 化学工学便覧」、丸善株式会社、昭和53年10月25日発行、第1035〜1039頁

III.被請求人の主張及び証拠方法

被請求人は、「本件審判請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする」との審決を求め、その理由として、請求人の主張する理由及び提出された証拠方法によっては、本件発明1、2の特許を無効とすることはできない旨主張している。
また、被請求人は、以下の乙第1号証及び乙第2号証を提出している。
乙第1号証:「日経ニューマテリアル別冊 材料選択ガイド 1992年版-材料の潮流と実用材料データ集」日経BP社1992年1月20日発行、第243頁
乙第2号証:財団法人日本塗料検査協会が平成11年9月2日に報告した「試験結果報告書」

IV.請求人が提出した証拠の記載

審判請求人が提出した甲第1〜6号証には、以下の事項が記載されている1.甲第1号証(引用例)
(1-1)「平均繊維径が0.1〜1.0μmであり、平均アスペクト比が50〜300であり、吸油量が400ml/100g以上である無機質繊維を造粒することにより得られる平均径が0.5〜5mmであり、嵩比重が0.15〜0.4である造粒繊維と、溶融状態の熱可塑性樹脂とを混練機内で混練することを特徴とする熱可塑性樹脂組成物の製造方法。 」(特許請求の範囲)
(1-2)「本発明における無機質繊維としては、繊維状マグネシウムオキシサルフェート、チタン酸カリウム繊維、水酸化マグネシウム繊維、酸化マグネシウム繊維、石膏繊維、ガラス繊維、炭化ケイ素繊維、ケイ酸カルシウム繊維、炭素繊維などを用いることができる。特に繊維状マグネシウムオキシサルフェート、水酸化マグネシウム繊維、酸化マグネシウム繊維などのマグネシウム系繊維が好ましい。」(第2頁左下欄第5〜13行)
(1-3)「本発明において、前記無機質繊維の吸油量は、400ml/100g以上であり、好ましくは、450ml/100gである。吸油量が400ml/100g未満の場合には、前記造粒繊維の絡み合いが強固になり、繊維の絡み合いが充分に解れなくなる。本発明では、前記平均繊維径、アスペクト比および吸油量につき特定の値を有する無機質繊維を適宜の方法によって造粒することにより得られる特定の平均径および嵩比重を有する造粒繊維を使用する。」(第2頁右下欄第18行〜第3頁左上欄第8行)
(1-4)「造粒についての適宜の方法として、たとえば、所定量の水を入れた攪拌槽に、前記無機質繊維を投入し、攪拌下に無機質繊維の絡み合いである凝集体を解砕し、水分を分離後、ゲル状になった解砕繊維を、その径が0.3〜5mmである穴より押出して粒状化し、これをオーブン中で乾燥して目的の造粒繊維を製造する方法を挙げることができる。本発明において、造粒についての方法は、無機質繊維を水中で攪拌し、繊維の絡み合いである凝集体を解砕し、繊維の絡み合いを解く工程を有しているのが好ましい。」(第3頁左上欄第9〜20行)
(1-5)「以下の実施例・比較例で使用した造粒繊維は次のようにして製造した。
造粒繊維Aの製造 20lの攪拌槽に、水10lと平均繊維径が0.6μm、アスペクト比が100、吸油量が510ml/100g、および嵩比重が0.06である繊維状マグネシウムオキシサルフェート(原料)を1kg投入し、3時間かけて攪拌し、凝集体を解砕し、その後水分を分離してから、ゲル状の繊維を直径3mmの穴から押出し、粒状化し、これを200℃のオーブン中で1時間かけて乾燥し、これによって目的の造粒繊維Aを得た。
…(中略)…
造粒繊維Bの製造 前記造粒繊維Aの製造において、平均繊維径が0.4μm、アスペクト比が50、吸油量が380ml/100g、および嵩比重が0.08である繊維状オキシサルフェート(原料)を使用し、攪拌時間を3時間から10分間に変更し、第1表に示す繊維状マグネシウムオキシサルフェートを用いて造粒した以外は、前記造粒繊維Aの場合と同様にして、造粒繊維Bを製造した。
造粒繊維Cの製造 前記造粒繊維Aの製造において、平均繊維径が0.04μm、アスペクト比が40、吸油量が320ml/100g、および嵩比重が0.09である繊維マグネシウムオキシサルフェート(原料)を使用し、水による解砕を行なわずに、水2lを加えて、ゲル状にした後、同第1表に示す繊維状マグネシウムオキシサルフェートを用い、同様にして押出し、粒状化し、これを200℃のオーブン中で1時間乾燥し、目的の造粒繊維Cを得た。
各造粒繊維A、B、Cの性状を第1表に示す。

第1表
造粒前の繊維状マグネシウムオキシ 造粒繊維の性状
サルフェートの性状
平均繊維径 アスペクト比 吸油量 嵩比重 平均径 嵩比重
造粒繊維A 0.6μm 100 510ml/100g 0.06 3mm 0.21
造粒繊維B 0.4μm 50 380ml/100g 0.08 3mm 0.30
造粒繊維C 0.4μm 40 320ml/100g 0.09 3mm 0.40
(第4頁右下欄第3行〜第5頁右上欄末行)

(1-6)実施例1、2及び比較例1では、造粒繊維Aを、比較例2では造粒繊維Bを、比較例3では造粒繊維Cを、比較例4では未造粒の繊維Dをそれぞれポリプロピレンに混練したこと(第5頁左下欄第6行〜第6頁右上欄第5行参照)

2.甲第2号証
チタン酸カリが繊維状で、且つ、安定なものであるため、プラスチック強化フィラーとして使用して各種プラスチックスの物性を改善すること(第230頁〜第232頁の「2.2.4 チタン酸カリ」の項参照)

3.甲第3号証
(3-1)粉粒体を造粒することの効用としては、重力流動・機械的流動の円滑化、輸送容量の低減、発塵の防止、容器内での付着・凝集の防止等があること(第598頁の表8.2参照)
(3-2)代表的な造粒形式としては、転動造粒、流動層造粒、撹拌造粒、解砕造粒、圧縮成型、押出し成形及び溶融造粒があること(第597頁の表8.1参照)。

4.甲第4号証(甲第1号証に係る出願の特許出願公告公報)
記載事項は甲第1号証について摘記した事項に同じ。

5.甲第5号証
造粒方法としては、転動型造粒法、流動層造粒法、押出し型造粒法、圧縮型造粒法、解砕型造粒法及び噴射型造粒法があること(第56頁の「3・2・1 造粒の基本的操作」の項及び表1・3・1参照)。

6.甲第6号証
造粒方法としては、転動型、振動型、圧縮成型型、焼結型、混合型、流動型、解砕型等があること(第1037頁の表13・22)。

V.対比・判断

1.本件発明1について
(1)本件発明1の構成
本件発明1の顆粒状ウィスカーは、その構成を便宜的にその構成毎に分説して示すと次のとおりである。
A.繊維径0.1〜10μm、繊維長5〜200μmのチタン酸カリウムウィスカー、炭化ケイ素ウィスカー及び窒化ケイ素ウィスカーから選ばれたウィスカーのみ、又は該ウィスカーと加水分解により無機物表面に付着する有機金属とのみから成り、
B.顆粒の直径が0.1〜10mmで嵩比重が0.2〜1.0kg/lであり、
C.材料へ混合したとき元の繊維状になり材料中に分散する分散性を有することを特徴とするほぼ球形の顆粒状ウィスカー。
(2)引用例記載の発明
引用例記載の発明の構成を、上記「IV.1.(1-1)〜(1-5)」で摘記したところに基づき、また、上記で分説した本件発明1と対比して示すと次のとおりである。
a.平均繊維径が0.1〜1.0μmであり、平均アスペクト比が50〜300であり、吸油量が400ml/100g以上である無機質繊維(例:繊維状マグネシウムオキシサルフェート、チタン酸カリウム繊維、水酸化マグネシウム繊維、酸化マグネシウム繊維、石膏繊維、ガラス繊維、炭化ケイ素繊維、ケイ酸カルシウム繊維、炭素繊維など)からなり、
b.顆粒の平均径が0.5〜5mmであり嵩比重が0.15〜0.4
c.である造粒繊維
(3)本件発明1と引用例記載の発明との対比
(3-1)本件発明の前記構成「C」の点について
本件発明1と引用例記載の発明とを、まず、本件発明1の上記「構成C」と引用例記載の発明の上記構成「c」とについて対比する。
本件発明1の構成「C」は、「材料へ混合したとき元の繊維状になり材料中に分散する分散性を有することを特徴とするほぼ球形の顆粒状ウィスカー」というものである。
一方、引用例の記載を検討するに、引用例には、造粒繊維を「ほぼ球形」のものとすることについての具体的な記載及び示唆はなく、従って、本件発明の「材料へ混合したとき元の繊維状になり材料中に分散する分散性を有することを特徴とするほぼ球形の顆粒状ウィスカー」の構成については具体的な記載及び示唆はない。
また、引用例において、造粒方法及び造粒物の形状に関連する記載としては、「造粒についての適宜の方法として、たとえば、所定量の水を入れた攪拌槽に、前記無機質繊維を投入し、攪拌下に無機質繊維の絡み合いである凝集体を解砕し、水分を分離後、ゲル状になった解砕繊維を、その径が0.3〜5mmである孔より押出して粒状化し、これをオーブン中で乾燥して目的の造粒繊維を製造する方法を挙げることができる。本発明において、造粒についての方法は、無機質繊維を水中で攪拌し、繊維の絡み合いである凝集体を解砕し、繊維の絡み合いを解く工程を有しているのが好ましい。」(前記「IV.1(1-4)」参照)との記載があり、また、引用例において実施例及び比較例として示されている造粒繊維A〜Cも上記のように押出して粒状化することによって製造されている(但し、造粒繊維Cは解砕工程を経ていない)。
上記のように、引用例には、凝集体を解砕して水分を分離して得られるゲル状物を押出造粒する方法のみが造粒方法として具体的に記載されているのであり、他の造粒方法については具体的な記載及び示唆がない。そして、この押出造粒によって得られたものは「ほぼ球形」のものであるとすることはできない。
これに対して、本件発明1は、「材料へ混合したとき元の繊維状になり材料中に分散する分散性を有するほぼ球形の顆粒状ウィスカー」を構成要件とするものであって、このような性質を有するほぼ球形の顆粒状ウイスカーは、本件特許明細書に「撹拌する混合機中で繊維状の微細なウイスカー粉末を水で加湿して、混合撹拌して一次凝集体をつくる。この後この一時凝集体である粉体に転がり運動を与えて二次凝集をつくる。例えば傾斜回転皿を用いて粒状化し、この後乾燥させ、顆粒化したウイスカー粉末を得る。傾斜回転皿に代えてインペラーを有する混練機で二次凝集体を得ることもできる。」(特許公報第3欄第32〜39行)と記載されているように、傾斜回転皿やインペラーを有する混練機を使用することによって得られることが認められるところ、引用例には、このような手段によって造粒繊維を得ることについては具体的な記載がないことは前記したとおりである。
そうすると、引用例には、「材料へ混合したとき元の繊維状になり材料中に分散する分散性を有することを特徴とするほぼ球形の顆粒状ウィスカー」については記載及び示唆がないとせざるを得ない。
この点について、請求人は、造粒方法として引用例記載のものにおいて造粒方法を押出造粒に限定解釈すべき理由はない旨及び甲第3、5、6号証を挙げて、転動造粒法(これは「傾斜回転皿」を用いる造粒法に相当する)等の造粒方法は本件特許に係る出願前に周知のものである旨をそれぞれ主張している(平成11年9月24日付口頭審理陳述要領書第3頁第11〜26行参照)
しかるに、造粒方法として転動造粒法等が周知のものであったとしても、上記したように、引用例には適宜な造粒方法として具体的には押出造粒法のみが記載されているのであって、「材料へ混合したとき元の繊維状になり材料中に分散する分散性を有するほぼ球形の顆粒状ウィスカー」を製造するための前記したような本件特許明細書記載の具体的な製造方法(特許公報第3欄第32〜39行)については開示がなく、また、甲第3、5、6号証を参照しても、ウイスカー材料を「材料へ混合したとき元の繊維状になり材料中に分散する分散性を有するほぼ球形の顆粒状」とするための前摘示のような、具体的な方法が周知であったことを認めることはできないから、上記周知技術を勘案したとしても、引用例には「材料へ混合したとき元の繊維状になり材料中に分散する分散性を有することを特徴とするほぼ球形の顆粒状ウィスカー」についての記載又は示唆があったとすることはできない。
(3-2)引用例記載の発明の「吸油量」の構成の点について
引用例記載の造粒繊維は、前記「IV.1(1-1)」の摘記事項によると、溶融状態の熱可塑性樹脂と混練されることを目的とするものであり、また、前記「IV.1(1-3)」の摘記事項には、「吸油量が400ml/100g未満の場合には、前記造粒繊維の絡み合いが強固になり、繊維の絡み合いが充分に解れなくなる。本発明では、前記平均繊維径、アスペクト比及び吸油量につき特定の値を有する無機質繊維を適宜の方法によって造粒することにより得られる特定の平均径および嵩比重を有する造粒繊維を使用する。」と記載されていることから、引用例においては、吸油量が400ml/100g未満のものは繊維の解れが充分でないため、引用例記載の発明の範囲外とされているものとするのが相当である。
そうすると、引用例には、使用し得る繊維として、チタン酸カリウム繊維及び炭化ケイ素繊維等の繊維が例示されているが、これらの繊維のうち吸油量が400ml/100g以上のものが引用例に記載された発明の範囲内のものであって、吸油量が400ml/100g未満のものは引用例に記載された発明の範囲外であるというべきである。
そこで検討するに、本件発明1の顆粒状ウイスカーは、このような繊維の吸油量についての限定はなく、また、本件発明1の顆粒状ウイスカーはプラスチックに限らず、ゴム、塗料、金属、セラミックなど各種材料の補強剤として使用されるものである(本件特許公報第1欄第19〜23行参照)。
ところで、本件発明1において、吸油量についての限定がない。
この点について、被請求人は、乙第1号証及び乙第2号証を挙げて、本件発明1のウイスカーの材質であるチタン酸カリウムウィスカー、炭化ケイ素ウィスカー及び窒化ケイ素ウィスカーはいずれも吸油量は400ml/100gに満たないものである旨主張している。
そこで、乙第1号証及び乙第2号証を参照するに、乙第1号証及び乙第2号証にはある種のチタン酸カリウムウイスカーについてその吸油量が270ml/100g以下であることが、また、乙第2号証には、ある種のチタン酸カリウムウイスカー、炭化ケイ素ウイスカー及び窒化ケイ素ウイスカーについてその吸油量が140ml/100g以下であることがそれぞれ示されている。
乙第1号証及び乙第2号証はチタン酸カリウムウィスカー、炭化ケイ素ウィスカー及び窒化ケイ素ウィスカーの全てが400ml/100g未満であることを立証するものではないが、本件発明1が引用例記載の発明と同一であるとするには、本件発明1において使用されるウイスカーである、チタン酸カリウムウイスカー、炭化ケイ素ウイスカー又は窒化ケイ素ウイスカーが吸油量が400ml/100g以上のものであること、又は、400ml/100g以上である場合があることが明らかにされなければならないとするのが相当である。
しかるに、請求人も、チタン酸カリウムウイスカー、炭化ケイ素ウイスカー及び窒化ケイ素ウイスカーの中には吸油量が400ml/100g以上のものが存在することを立証しているものではない。
そうすると、本件発明1において使用されるウイスカーである、チタン酸カリウムウイスカー、炭化ケイ素ウイスカー又は窒化ケイ素ウイスカーが吸油量が400ml/100g以上のものであること又は400ml/100g以上である場合があることは証拠上は明らかにされていないとせざるを得ず、本件発明1で使用するチタン酸カリウムウイスカー、炭化ケイ素ウイスカー及び窒化ケイ素ウイスカーは吸油量が400ml/100g以上であるとすることができない。
してみれば、吸油量が400ml/100g以上のものである又は、400ml/100g以上である場合があると認定することができないチタン酸カリウムウイスカー、炭化ケイ素ウイスカー及び窒化ケイ素ウイスカーを使用する本件発明1は、吸油量が400ml/100gである繊維を使用することを要する引用例に記載された発明と同一であるとすることはできない。
(4)まとめ
本件発明1と引用例記載の発明とは、少なくとも上記した「構成C」の構成の点及び/又は上記した「吸油量」についての構成の点において構成が相違するから、本件発明1は引用例に記載された発明と同一であるとすることはできない。

2.本件発明2について
(1)本件発明2の構成
本件発明2は、ウイスカー粉末を加湿して一次凝集体とする工程と、この一次凝集体に転がり運動を与えて顆粒化する工程とを有するものである。
(2)本件発明2と引用例記載の発明との対比
上記「IV.1(1-3)〜(1-5)」で摘記したところによると、引用例には、造粒繊維は適宜の方法によって得られること(上記「IV.1(1-3)」参照)、適宜の方法としては、所定量の水を入れた攪拌槽に、無機質繊維を投入し、攪拌下に無機質繊維の絡み合いである凝集体を解砕し、水分を分離後、ゲル状になった解砕繊維を、その径が0.3〜5mmである孔より押出して粒状化するという方法が使用できること(上記「IV.1(1-4)」参照)、造粒についての方法は、無機質繊維を水中で攪拌し、繊維の絡み合いである凝集体を解砕し、繊維の絡み合いを解く工程を有しているのが好ましいこと(上記「IV.1(1-4)」参照)及び実施例においては押出造粒法を採用したことがそれぞれ記載されている。
そうすると、引用例中に具体的な造粒法として開示されているのは押出造粒法についてのみである。
そして、この押出造粒法は、本件発明2の、一次凝集体を得て、これに転がり運動を与えて顆粒化するという工程を備えるものではない。
また、引用例には、造粒繊維は「適宜の方法によって得られる」との記載があり、これは他の造粒方法も採用できることを示唆するものではあるが、引用例には、転動造粒法等の他の造粒方法については具体的な記載がないことは前述のとおりであり、また、周知技術を示す文献として挙げられている甲第3、5、6号証によれば転動造粒法等の他の造粒方法が造粒物の製造方法として周知のものであることを認めることはできるにしても、甲第3、5、6号証によっては、顆粒状ウイスカーの製造方法として、ウイスカー粉末に水又は水と有機金属の混合液を加えて加湿し、混合攪拌して一次凝集体を形成し、次いでこの一次凝集体に転がり運動を与えて顆粒化するという構成の点までもが本件特許に係る出願前に周知であったことを認めることはできない。
(3)まとめ
上記のとおりであるから、本件発明2は引用例に記載された発明と同一であるとすることはできず、本件発明2の特許は特許法第29条の2の規定に違反してされたものとすることはできない。

VI.むすび

以上のとおりであるから、請求人の主張する理由及びその提出した証拠によっては、本件特許を無効とすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2000-01-26 
結審通知日 2000-02-15 
審決日 2000-03-02 
出願番号 特願昭63-318532
審決分類 P 1 112・ 161- Y (C04B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 真々田 忠博  
特許庁審判長 酒井 正己
特許庁審判官 野田 直人
新居田 知生
登録日 1997-08-15 
登録番号 特許第2131511号(P2131511)
発明の名称 顆粒状ウイスカーおよびその製造方法  
代理人 小原 健志  
代理人 藤井 淳  
代理人 小杉 佳男  
代理人 三枝 英二  
代理人 掛樋 悠路  
代理人 山田 正紀  

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