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審決分類 |
審判 補正却下の決定 判示事項別分類コード:13 C21D |
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管理番号 | 1014593 |
審判番号 | 審判1996-20636 |
総通号数 | 11 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1988-10-14 |
種別 | 補正却下の決定 |
確定日 | 2000-03-22 |
事件の表示 | 昭和62年特許願第79570号「常温遅時効で焼付け硬化性を有する熱延薄鋼板の製造方法」拒絶査定に対する審判事件について,次のとおり決定する。 |
結論 | 平成9年1月10日付けの手続補正を却下する。 |
理由 |
I.本件補正 平成9年1月10日付の手続補正(以下、「本件補正」という。)は、出願公告された本願明細書の記載を下記(イ)〜(ニ)のとおりに補正しようとするものである。 (イ)明細書の特許請求の範囲を、 「1.C :0.02〜0.10wt%、 Mn:0.5〜1.2wt%、 P :0.045〜0.10wt%、 Al:0.02〜0.05wt%および N :0.005〜0.020wt% を含有する組成になる鋼を、Ar3-20℃以上の温度で熱間圧延し、ついで平均冷却速度:30〜70℃/sの速度で冷却したのち、150〜450℃の温度範囲で巻取り、実質的にフェライト・パーライト組織とすることを特徴とする、常温遅時効で焼付け硬化性を有する熱延薄鋼板の製造方法。」と訂正する。 (ロ)明細書第4頁10〜11行(公告公報コラム3第28〜29行)の「良好な加工性を有する高張力熱延薄鋼板」を「良好な加工性を有する、実質的にフェライト・パーライト組織からなる高張力熱延薄鋼板」に訂正する。 (ハ)明細書第4頁第18行〜第5頁第8行(公告公報コラム3第37〜47行)を、 「すなわちこの発明は、 C :0.02〜0.10wt%(以下単に%で記す)、 Mn:0.5〜1.2wt%、 P :0.045〜0.10wt%、 Al:0.02〜0.05wt%および N :0.005〜0.020wt% を含有する組成になる鋼を、Ar3-20℃以上の温度で熱間圧延し、ついで平均冷却速度:30〜70℃/sの速度で冷却したのち、150〜450℃の温度範囲で巻取り、実質的にフェライト・パーライト組織とすることから成る、常温遅時効で焼付け硬化性を有する熱延薄鋼板の製造方法である。」と訂正する。 (ニ)明細書9頁15行および第16行の間(公告公報コラム5第24行および第25行の間)に、「とはいえ、冷却速度があまりに速すぎると、マルテンサイトが生成し、強度レベルが高くなりすぎる不利が生じるので、冷却速度の上限は70℃/sとする。」を加入する。 II.補正の内容 本件補正の具体的な内容を検討すると、上記補正事項(イ)は、出願公告時の本願明細書の特許請求の範囲に、「平均冷却速度:30℃/s以上」と記載されていたものを「平均冷却速度:30〜70℃/s」と補正(以下、補正事項(イ-1)という。)し、かつ、出願公告時の本願明細書の特許請求の範囲には、熱延薄鋼板の金属組織について特に限定されていなかったものを、その金属組織を「実質的にフェライト・パーライト組織」と限定する補正(以下、補正事項(イ-2)という。)であるといえる。 また、上記補正事項(ロ)及び(ハ)は、本願明細書の発明の詳細な説明の欄の記載内容を、特許請求の範囲の記載内容と整合させる補正である。 さらに、上記補正事項(ニ)は、補正事項(イ-1)、(イ-2)に関連し、その技術的根拠を本願明細書の発明の詳細な説明に追加する補正であるといえる。 したがって、本件補正は、特許請求の範囲の減縮を目的とする補正事項(イ-1)、(イ-2)及び明りょうでない記載の釈明を目的とする補正事項(ニ)をその内容として含む補正であるといえる。 III.補正の適否についての判断 次に、本件補正の適否について検討するに、まず、出願公告時の本願明細書及び図面には、上記補正事項(イ-1)、(イ-2)、(ニ)に関連し、「冷却中におけるAlNの析出を抑制すると共に細粒なフェライト組織とすることで良好な焼付け硬化性を得るためには、冷却速度を制御することが肝要であり、具体的には仕上げ圧延後、巻取るまでの冷却速度を平均30℃/s以上の速度とする必要がある。また巻取り温度については、AlNの析出を抑えると共に、Cの適度の析出を促し、さらに適正な細粒のフェライト組織とするためには、適正な温度範囲が存在する。」(本願公告公報第5欄19行〜第6欄2行参照)と記載され、また、表2には、No.1A鋼、No.4B鋼、No.7D鋼、No.8E鋼、No.11G鋼の冷却速度は、それぞれ40℃/s、40℃/s、70℃/s、30℃/s、50℃/sであって、これらは、適合例、即ち、T.SとElの関係が良好であり、さらにΔY.Elは0で、しかもBHは5kgf/mm2以上の良好な焼付け硬化性を呈していた(本願公告公報第4頁表2及び第7欄27〜29行参照)旨記載されている。 そして、出願公告時の本願明細書及び図面の上記記載からすれば、本願発明の目的の一つである良好な焼付け硬化性を得るためには、平均冷却速度を30℃/s以上に制御し細粒なフェライト組織とする必要があることが開示され、さらに、その具体的な冷却速度として、30℃/s〜70℃/sの冷却速度範囲のものが開示されていることは、これを認めることができる。 ところで、補正事項(ニ)によれば、冷却速度の上限を70℃/sとする技術的な理由は、冷却速度があまりに速すぎると、マルテンサイトが生成し、強度レベルが高くなりすぎる不利が生じると説明されており、この説明によれば、70℃/sという冷却速度は、マルテンサイトの生成を防止しかつ高強度化を避けるために設定された冷却速度の上限値であると解されるところ、出願公告時の本願明細書及び図面には、前記のとおり、良好な焼付け硬化性或いは細粒なフェライト組織を得ることができる一具体例として70℃/sという冷却速度が示されているにすぎない。 そうであれば、マルテンサイトの生成を防止し、かつ高強度化を避けるために、70℃/sを平均冷却速度の上限値と定めることは、70℃/sという平均冷却速度の数値に新たな技術的意義を付加したことに他ならず、一方、熱延薄鋼板等の金属材料の製造に際し、如何なる金属組織が形成されるかは、単に冷却条件のみによって決定されるものではなく、処理対象となる金属材料の成分組成、加工条件及び熱処理条件等種々の条件に影響されるものであることは当業者の一般的な技術常識であるから、平均冷却速度の上限値を70℃/sに設定することによって、マルテンサイトの生成を防止し、高強度化を避けるということは、出願公告時の本願明細書及び図面に開示されていたものと認められないばかりか、本願発明の目的・効果を変更するものであるから、補正事項(イ-1)は、実質上特許請求の範囲を変更する補正であると認めざるをえない。 また、補正事項(イ-2)として、金属組織について特に限定のなかった出願公告時の特許請求の範囲に、その金属組織を「実質的にフェライト・パーライト組織」と限定する補正をしているが、出願公告時の本願明細書中には、金属組織に関しては、単に細粒なフェライト組織とすることが記載されていたのみであり、そして、細粒なフェライト組織という金属組織が、直ちに、「フェライト・パーライト組織」のことを意味するものとはいえないから、補正事項(イ-2)は、出願公告時の本願明細書及び図面に記載されていた技術事項であるとはいえず、かかる技術事項を本願発明の構成として付加することは、実質上特許請求の範囲を変更する補正であると認められる。 なお、補正事項(イ-2)が、70℃/sという平均冷却速度の上限値以下で冷却することによりマルテンサイトの生成を防止するという補正事項(ニ)をその根拠とするものであるとしても、マルテンサイトの生成を防止することが、直ちに「実質的にフェライト・パーライト組織」の形成につながるものでないことは、当業者の技術常識からして明らかである。 したがって、補正事項(イ-1)及び補正事項(イ-2)をその内容として含む本件補正は、実質上特許請求の範囲を変更するものであると認められる。 IV.まとめ 以上のとおり、本件補正は、実質上特許請求の範囲を変更するものであって、特許法第17条の3第2項で準用する同法第126条第2項の規定に違反するので、同法第159条第1項で準用する同法第54条第1項の規定により却下すべきものである。 よって、結論のとおり決定する。 |
決定日 | 2000-01-14 |
出願番号 | 特願昭62-79570 |
審決分類 |
P
1
93・
13-
(C21D)
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前審関与審査官 | 中村 朝幸 |
特許庁審判長 |
影山 秀一 |
特許庁審判官 |
雨宮 弘治 池田 正人 |
発明の名称 | 常温遅時効で焼付け硬化性を有する熱延薄鋼板の製造方法 |
代理人 | 杉村 興作 |
代理人 | 杉村 暁秀 |