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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01J
管理番号 1016156
審判番号 審判1999-3751  
総通号数 12 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1988-08-10 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 1999-03-18 
確定日 1999-11-29 
事件の表示 昭和62年特許願第22396号「シヤドウマスク用合金板及びシヤドウマスク」拒絶査定に対する審判事件〔(平成8年3月29日出願公告、特公平8-34088)、特許請求の範囲に記載された発明の数(2)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許をすべきものとする。 
理由 I.手続きの経緯
本願は、昭和62年2月4日の特許出願である。
原審において平成8年3月29日に出願公告されたところ、特許異議申立人水谷房枝、同日本鋼管株式会社及び同須賀京子からそれぞれ特許異議の申立てがあり、平成10年12月15日に日本鋼管株式会社の特許異議の申立てについて理由ありとの決定がされ、同日その決定の理由によって拒絶査定された。
その後、平成11年3月18日に審判の請求がされ、当審において平成11年10月22日にその後発見した拒絶の理由が通知され、同通知において指定された期間内の平成11年10月22日に手続補正書が提出された。
II.原査定の理由
原査定の拒絶の理由となった特許異議の申立ての決定の理由は、
特許請求の範囲の第1項及び第2項に記載された発明は、いずれも、「特開昭61-64853号公報」(甲第1号証)に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、
というものである。
III.特許請求の範囲に記載された発明
本願の特許請求の範囲の第1項及び第2項に記載された発明は、平成7年10月3日付け手続補正書、出願公告後の平成9年3月10日付け手続補正書、同じく平成11年4月15日付け手続補正書及び同じく平成11年10月22日付け手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の第1項及び第2項に記載された下記のとおりである。
なお、出願公告後の平成9年3月10日付け手続補正書、平成11年4月15日付け手続補正書及び平成11年10月22日付け手続補正書による補正は、いずれも、特許法(特許法等の一部を改正する法律(昭和62年法律第27号)をもって改正される前の特許法)第64条又は同法第17条の3の規定により適法にされたものであり、各条第2項の規定によりそれぞれ準用する同法第126条第2項の規定にも適合する。
記(特許請求の範囲)
(1)Fe-Ni系アンバー合金板の板面におけるX線回折積分強度の関係hおよびgが、
h=I{111}+I{200}+I{220}/IFe{110}+IFe{200}≧20
g=I{200}+I{111}/I{220}≧2

を満たすことを特徴とするシャドウマスク用合金板
(2)Fe-Ni系アンバー合金板の板面におけるX線回折積分強度の関係hおよびgが、
h=I{111}+I{200}+I{220}/IFe{110}+IFe{200}≧20
g=I{200}+I{111}/I{220}≧2

を満たすシャドウマスク用合金板に電子ビーム通過孔が設けられたことを特徴とするシャドウマスク。
IV.引用刊行物の記載
原査定の拒絶の理由となった特許異議の申立ての決定の理由において引用した「特開昭61-64853号公報」(甲第1号証、以下、「引用刊行物」という)には、特許請求の範囲の第1項お第2項に記載された発明の構成に関連する記載として下記のものがある。
(ア)「本発明は、例えばカラー受像管に用いられるシャドウマスク、フレーム、インナーシールド、バイメタル等の管内部品を成形性良く製造可能な管内部品用素材とその製造方法に関する」(第1頁右下欄17行から20行まで)
(イ)「その目的とするところは、リムド鋼やAlキルド鋼よりも熱膨張率が低く、またこれらの各鋼に近い良好なエッチング特性と成形性を有する管内部品用素材とその製造方法を提供するものである」(第2頁左下欄14行から18行まで)
(ウ)「管内部品用素材のエッチング性で問題となるのは、その結晶粒度と金属組織の均一性であると云える。」(第4頁左上欄8行から10行まで)
(エ)「しかして、本発明では25〜45wt%のNi、0.3〜10wt%のCr、残部Feおよび不可避不純物を含む合金を溶解し、これに圧延・焼鈍を施した後最終冷延を圧延率40%以上、好ましくは80%以上で行った後、500〜1200℃、好ましくは900〜1100℃で焼鈍処理し、その後圧延率30%以下、好ましくは20%以下で調整圧延し、必要に応じて歪取り焼鈍を加えて結晶粒度が8〜12となるようにしている。」(第4頁左上欄11行から19行まで)
(オ)「また管内部品用素材をなす金属に、フェライト、マルテンサイト、オーステナイト等の組織がそれぞれ存在すると、これらの各組織のエッチング速度が異なることから、孔づまり等が生じる虞れがある。これ故、一般的には単一組織化することが望ましいが、その単一組織化処理が困難であることがあるので上記オーステナイト組織が80%以上を占めるようにすれば実用上十分である。具体的には前述した製造方法によって管内部品用素材の結晶粒度を8〜12とし、且つオーステナイト組織が80%以上となるように調整圧延することによって、第4図(a)に示す如き形状性に優れた所謂きれいな孔をエッチング処理によって効果的に得ることが可能となる」(第4頁右上欄20行から左下欄13行まで)
(カ)「36%NiとFeを主成分とし、Crを3wt%または8wt%含み、附随的成分としてCを0.05wt%、Siを0.02wt%、およびPとSとをそれぞれ0.001wt%づつ含む合金のインゴットを準備した。しかる後、この合金インゴットを用いて上記[実施例-1]と同様にしてシャドウマスクを形成した。」(第5頁左下欄7行から13行まで)
(キ)第5頁右下欄中央には表が掲載され、この表には「No.」の欄の▲1▼から▲4▼までの4つの試料について、「結晶粒度」、「金属組織」、「エッチング性」、「成形性」が示されている。
(ク)「尚、上記表において、金属組織はX線回折法によって測定されたオーステナイト組織の割合いを示しており、エッチング性の良否はそのマスク面において99%以上の開孔があり、その孔内壁がガサ穴になっていない場合を良、99%以上の開孔があっても、その孔内壁がガサ穴になっている場合にはやや不良としている。」(第5頁右下欄下より5行から第6頁1行まで)
V.対比・判断
1.特許請求の範囲の第1項に記載された発明
特許請求の範囲の第1項に記載された発明と引用刊行物に記載された発明とを対比すると、特許請求の範囲の第1項に記載された発明の下記の構成(以下「構成A」という)は、引用刊行物に記載されておらず、また、引用刊行物に記載された事項から導き出すこともできない。
記(構成A)
「g=I{200}+I{111}/I{220}≧2ただし、I{111}、I{200}、I{220}は各々Fe-Ni系アンバー合金の{111}面、{200}面、{220}面のX線回折積分強度。」
そして、特許請求の範囲の第1項に記載された発明は、上記構成Aにより、明細書に記載された「シャドウマスクを製造する場合、電子ビーム通過孔を形成するが、形状のそろった孔を設ける」(明細書第6頁20行から第7頁2行まで、公告公報第3頁左欄30行から31行まで)との効果を得るものである。
したがって、特許請求の範囲の第1項に記載された発明は引用刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである、とすることはできない。
(引用刊行物の記載の考察)
特許請求の範囲の第1項に記載された発明は、「形状のそろった孔を設けるためには、合金板の板面の結晶方位をそろえていた方が好ましい」(明細書第7頁1行から3行まで、公告公報第3頁左欄31行から32行まで)及び「孔の形状が不均一となる{220}結晶面の集積度合を小さくする方が好ましい」(明細書第7頁10行から11行まで、公告公報39行から40行まで)との知見のもとに、「{200}結晶面と{111}結晶面とが{200}結晶面よりも集積している度合(g)」(明細書第7頁4行から9まで、公告公報第3頁左欄33行から38行まで)を定義し、定義した集積度合を上記構成Aのように特定したものである。
引用刊行物は、「管内部品用素材のエッチング性で問題となるのは、その結晶粒度と金属組織の均一性である」(上記(ウ))として、「25〜45wt%のNi、0.3〜10wt%のCr、残部Feおよび不可避不純物を含む合金を用い、この合金を溶解し、圧延・焼鈍を施し、最終冷延(圧延率40%以上、好ましくは80%以上)をし、焼鈍処理(500〜1200℃、好ましくは900〜1100℃)し、調整圧延(圧延率30%以下、好ましくは20%以下)し、歪み取り焼鈍(必要に応じて)を加える」(上記(エ))との一連の工程からなる製造方法によって、「管内部品用素材の結晶粒度を8〜12とし、且つオーステナイト組織が80%以上なるようにすることによって、形状性に優れた所謂きれいな孔をエッチング処理によって効果的に得る」(上記(オ))ものである。
すなわち、引用刊行物には、少なくとも「最終冷延後の焼鈍処理(500〜1200℃、好ましくは900〜1100℃)と、その後の調整圧延(圧延率30%以下、好ましくは20%以下)」との工程により、「結晶粒度が8〜12、オーステナイト組織が80%以上となる」ことは記載されているが、この工程を結晶面の集積度合の観点から考察した記載はなく、また示唆する記載もない。
したがって、引用刊行物の記載から、「孔の形状が不均一となる{200}結晶面の集積度合を小さくする」との特許請求の範囲の第1項に記載された発明の課題を導き出すことはできず、さらに結晶面の集積度合を特定する上記構成Aを導き出すこともできない。
2.特許請求の範囲の第2項に記載された発明
特許請求の範囲の第2項に記載された発明は、同第1項に記載された発明のシャドウマスク用合金板に電子ビーム通過孔を設けてシャドウマスクとしたものであり、同第1項に記載された発明の構成をさらに限定したものである。そして、同第1項に記載された発明についての判断は上記のとおりである。
したがって、特許請求の範囲の第2項に記載された発明は、同第1項に記載された発明についての上記判断の理由と同じ理由により、上記引用刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである、とすることはできない。
VI.むすび
以上のとおり、「本願の特許請求の範囲の第1項及び第2項に記載された発明は引用刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである」とは言えないから、「本願の特許請求の範囲の第1項及び第2項に記載された発明は、いずれも、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない」という理由で本願は拒絶すべきものであるとした原査定は妥当でない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 1999-11-11 
出願番号 特願昭62-22396
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H01J)
最終処分 成立  
前審関与審査官 小松 徹三  
特許庁審判長 新宮 佳典
特許庁審判官 平井 良憲
柏木 悠三
発明の名称 シャドウマスク用合金板及びシャドウマスク  
代理人 外川 英明  

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