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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性 無効としない B29D
審判 全部無効 特許請求の範囲の実質的変更 無効としない B29D
審判 全部無効 3項(134条5項)特許請求の範囲の実質的拡張 無効としない B29D
管理番号 1017445
審判番号 審判1999-35249  
総通号数 13 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1995-01-06 
種別 無効の審決 
審判請求日 1999-05-27 
確定日 2000-05-24 
事件の表示 上記当事者間の特許第2524968号発明「プリント基板、リ―ドフレ―ム等の水切り用ロ―ルとその成形方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 1.手続きの経緯・本件発明
本件特許第2524968号の請求項1〜3に係る発明は、実願平1-120726号(平成1年10月16日出願)を原出願とする特許法第46条第1項規定の変更出願として出願(特願平6-128297号)され、平成8年5月31日にその特許の設定登録がなされたところ、トーヨーポリマー株式会社、井和工業株式会社、西村梅子の3名より特許異議の申立がなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成9年7月22日付けで訂正請求がなされ、訂正拒絶理由通知がなされ、その指定期間内である平成10年7月7日付けで手続補正がなされた後、再度訂正拒絶理由通知がなされ、それに対する特許異議意見書の主張が採用され、明細書の訂正が認容された上で特許維持の決定がなされたものである。
そして、本件請求項1〜3に係る発明は、上記平成10年7月7日付け手続補正書により補正された平成9年7月22日付け訂正請求書により訂正された本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項1〜3に記載された次のとおりのものと認める。
「【請求項1】プリント基板、リードフレーム等の物体(A)に回転させながら押し当てて同物体(A)の水分を吸い取る様にした水切り用ロールにおいて、回転軸(3)の外周にPVAをホルマール化反応させてPVFとしたPVAスポンジロール(2)が数十cm〜数mの長さに成形され、このPVAスポンジロール(2)は回転軸(3)に取付けられたままその外周面が切削されて同外周面の薄膜が除去されてPVAスポンジロール(2)の連続気孔が同外周面に露出され且つ回転軸(3)の中心線を基準として真円ロール状に成形されて、最外層に物体(A)の水分を吸い取る吸水面が形成され、このPVAスポンジロール(2)を切削時に装着されていた回転軸(3)に取付けたまま使用することを特徴とするプリント基板、リードフレーム等の水切り用PVAスポンジロール。
【請求項2】内面に剥型剤が塗布された成形型内に回転軸(3)をセットし、その成形型内にPVAスポンジ材料を流し込んでホルマール化反応させてPVFとした多数の連続気孔を有するPVAスポンジロール(2)を、同回転軸(3)の外周に長さ数十cm〜数mに成形し、そのスポンジロール(2)及び回転軸(3)を成形型から取り出し、当該スポンジロール(2)を回転軸(3)に取付けたままその外周面を切削して前記成形時にスポンジロール(2)の外周面にできた薄膜を除去して、スポンジロール(2)の連続気孔をその外周面に露出させると共にスポンジロール(2)を回転軸(3)の中心線を基準として真円ロール状に整形して、最外層に物体(A)の水分を吸い取る吸水面を形成し、このPVAスポンジロール(2)を切削時に装着されていた回転軸(3)に取付けたまま使用することを特徴とするプリント基板、リードフレーム等の水切り用PVAスポンジロールの成形方法。
【請求項3】内面に剥型剤が塗布された成形型内にPVAスポンジ材料を流し込んでホルマール化反応させてPVFとした多数の連続気孔を有するPVAスポンジロール(2)を、中心に軸差込み孔が形成されるように形成し、成形型から取り出されたPVAスポンジロール(2)の軸差込み孔に回転軸(3)を貫通固定し、そのスポンジロール(2)を回転軸(3)に取付けたままその外周面を切削して前記成形時にその外周面にできた薄膜を除去して、当該スポンジロール(2)の連続気孔をその外周面に露出させると共にそのスポンジロール(2)を回転軸(3)の中心線を基準として真円ロール状に整形して、最外層に物体(A)の水分を吸い取る吸水面を形成し、このPVAスポンジロール(2)を切削時に装着されていた回転軸(3)に取付けたまま使用することを特徴とするプリント基板、リードフレーム等の水切り用PVAスポンジロールの成形方法。」

2.請求人の主張
これに対して、請求人・井和工業株式会社は、甲第1号証(特開昭51-25764号公報)、甲第2号証(平成10年9月1日付け訂正拒絶理由通知書)、甲第3号証(平成10年11月17日付け特許異議意見書)、甲第4号証(「プラスチックフォームハンドブック」(昭和48年2月28日、日刊工業新聞社発行)、209〜211頁及び262〜263頁)、甲第5号証(特開昭62-256635号公報)、甲第6号証(米国特許第4046942号明細書)、甲第7号証(原出願(実願平1-120726号)の願書に最初に添附した明細書)、甲第8号証(特公昭32-5945号公報)、甲第9号証(特開昭64-16618号公報)、甲第10号証(特開昭56-56837号公報)及び甲第11号証(訂正前の本件特許第2524968号公報)を提出し、
1)異議申立を受けてなされ、認容された前記明細書の訂正は、願書に添付した明細書に記載された事項の範囲を逸脱し、実質上特許請求の範囲を拡張するものであるから特許法第120条の4第2項ただし書き(同法第120条の4第3項で準用する同法第126条第2項)に違反する結果、本件特許は、同法第123条第1項第8号により無効とすべきである、
2)そうではないとしても、本件特許発明は、甲第1〜11号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その特許は、同法第123条第1項第2号により無効とすべきである、
と主張する。

3.被請求人の主張
被請求人は、請求人の主張する理由及び提出された証拠のいずれによっても本件特許を無効にすることはできない、と主張する。

4.当審の判断
4の1.無効理由1)について
請求人は、本件請求項1に係る発明の構成を
「A.プリント基板、リードフレーム等の物体(A)に回転させながら押し当てて同物体(A)の水分を吸い取る様にした水切り用ロールにおいて、
B.回転軸(3)の外周にPVAをホルマール化反応させてPVFとしたPVAスポンジロール(2)が数十cm〜数mの長さに成形され、
C.このPVAスポンジロール(2)は回転軸(3)に取付けられたままその外周面が切削されて同外周面の薄膜が除去されてPVAスポンジロール(2)の連続気孔が同外周面に露出され
D.且つ回転軸(3)の中心線を基準として真円ロール状に成形されて、最外層に物体(A)の水分を吸い取る吸水面が形成され、
E.このPVAスポンジロール(2)を切削時に装着されていた回転軸(3)に取付けたまま使用することを特徴とするプリント基板、リードフレーム等の水切り用PVAスポンジロール。」
に分節し、前記訂正の結果たる構成要素C、D、Eは、いずれも「願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内」(特許法第120条の4第3項で準用する同法第126条第2項)のものとはいえず、該訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張する違法なものである、と主張する。
そこで、先ず構成要素Cについて検討すると、上記訂正の適否判断の基準となる「願書に添付した明細書又は図面」とは特許明細書を指し、本件に即していえば、その内容は甲第11号証(特許第2524968号公報)に示されている。
そして、該甲号証には構成要素Cに関し、「前記の外周面の薄膜を削り取る方法は種々考えられるが、例えば回転軸3を旋盤に取付けて回転させながら、スポンジロール2の外周面をグラインダ……などの研磨材により研磨して行なう」(段落【0035】)旨、明記されており、構成Cは、スポンジロール外周面の薄膜の「削り取り」、すなわち「切削」を、上記例示の「回転軸3を旋盤に取付けて回転させながら、スポンジロール2の外周面を……研磨して行なう」、すなわち、「このPVAスポンジロール(2)は回転軸(3)に取付けられたままその外周面が切削され」る態様(その結果、「同外周面の薄膜が除去されてPVAスポンジロール(2)の連続気孔が同外周面に露出され」ることは必然自明の事項である。)に限定しただけにすぎず、何ら願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲を逸脱するものではない。
次に、構成要素Dについて、甲第11号証には「この削り取りにより回転軸3の外周に形成されたスポンジロール2を回転軸2の中心線を基準として真円ロール状に整形して、同中心線から偏心しないようにする」(段落【0034】)旨が記載されているから、構成要素Dの前半の「且つ回転軸の中心線を基準として真円ロール状に成形されて」なる構成は、当該願書に添付した明細書の記載から直接的かつ一義的に導き出されるものであり、同後半の「最外層に物体(A)の水分を吸い取る吸水面が形成され」との部分も、先行する構成要素C等から導き出される必然自明の事項を記載しただけであって、構成要素Cと同様、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものといえる。
最後の構成要素Eについて、前記のとおり、甲第11号証(=願書に添付した明細書又は図面)には「回転軸3を旋盤に取付けて回転させながら、スポンジロール2の外周面を……研磨して行なう」ことが記載されているところ、該「回転軸(3)の外周に長さ数十cm〜数mのスポンジロール(2)が成形され」(訂正前の特許請求の範囲の請求項1)、回転軸(3)とスポンジロール(2)とは予め一体化したものである以上、外周面の「研磨」、すなわち「切削」後のスポンジロール(2)は、元来「切削時に装着されていた回転軸(3)に取付けたまま使用する」ものであることは当業者に自明と解され、同じく、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲を逸脱するものではない。
そして、訂正前の請求項1(甲第11号証中の特許請求の範囲の請求項1参照)に対し、更なる構成上の限定を付す上記構成要素C〜Eに係る訂正は、特許請求の範囲の減縮(特許法第120条の4ただし書き第1号)に相当し、かつ、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内でなされた適法なものと認められる。
なお、念のため付言すると、上記構成要素C〜Eに係る訂正が適法と判断される根拠となった、願書に添付した明細書又は図面(=甲第11号証)中の記載事項は、変更出願に係る本件特許出願の原出願たる実願平1-120726号の願書に最初に添付した明細書(=甲第7号証)中の「このスポンジロール1は従来と同様に、内面に剥型剤が塗布された円筒状または円柱状の型に、液状の材料が流し込まれて成形される。このとき、同ローラ1内部に……回転軸3を予め差込んでおき、同ローラ1と一体に成形されるようにしても良い。」(甲第7号証7頁15行〜8頁1行)、「このスポンジローラ1はその外表面2の薄膜が削り取られている。このようにすることによって同ローラ1の外表面2に所望とする大きさの連続気孔が剥き出しになる。この外表面2の薄膜を削り取る方法は、……この実施例では同ローラ1を旋盤に取付け、外表面2を……研磨して行ってある。」(同8頁2〜9行)との記載、並びに、当該考案のスポンジロールの使用状態を示す説明図に相当する第2図a〜c(該図によれば、スポンジローラ1は回転軸3に取付けられたまま使用されているところ、前記のとおり、該回転軸3は、予めローラ1と一体に成形されていてよいのであるから、そうしたローラ1を旋盤に取付け外表面2を研磨する原考案において、わざわざ該一体化した回転軸を取り外して他の何らかの回転軸を介して旋盤加工を施し、その後、再度、当初の回転軸を差し込むという無駄、かつ不自然な構成を採用することは考え難い。)等から、当業者に自明な事項と解される。
したがって、上記したところに反する請求人の主張1)は、妥当なものとはいえない。
4の2.無効理由2)について
a.甲各号証の記載内容
甲第1〜11号証中、本件特許発明に係る特許出願(遡及出願日;平成1年10月16日)前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に相当する甲第1、4〜6及び8〜10号証には、各々、以下の記載がなされている。
甲第1号証 ア.「プリント板製造の際に適用される乾燥工程において、化学処理後の基板面の水滴を、基板の熱乾燥工程前に設けられたスポンジローラにより吸収させることを特徴とするプリント板の脱水乾燥方法。」(特許請求の範囲)、
イ.「本発明の目的は、……短時間で水分を完全に除去する簡単なプリント基板洗浄後の乾燥方法を提供することにある。…図において10は脱水室、20は乾燥室である。被乾燥基板1は送りローラ11によって脱水室10に送り込まれる。脱水室においては先ずスポンジローラ12、13により基板に附着している水洗処理後の水分の大半がスポンジローラに吸収される。この吸収された水分はスポンジローラを絞りローラ14で加圧することにより絞り出される」(2頁左上欄1〜13行)、
ウ.本発明方法を実施する装置を示す略示説明図に相当する図(2頁左下欄)。
甲第4号証 エ.「ビニロンフォームは、ポリビニルアルコールを原料とするもので、親水性があることから海綿にもっとも類似した性能を持つフォームといわれている。ビニロンフォームは、……各種吸水ローラ……などに使用されている。……。ビニロンフォームの製法は、ポリビニルアルコール水溶液にアルデヒドおよび酸触媒を加えたとき、アセタール化反応の進行とともにポリビニルアセタールが不溶化、析出して気泡組織が形成される原理に基づくものである。このときの化学反応は、アルデヒドとしてホルムアルデヒドを用いた場合は……ポリビニルホルマールが生成される。」(209頁下から10行〜210頁2行)、
オ.「ポリビニルアルコール(PVA)フォームは、PVA水溶液にアルデヒドと酸を加えて反応、発泡させて得られるスポンジ状物であり、PVAスポンジあるいはビニロンスポンジともよばれる。一般にアルデヒドとしてホルムアルデヒドが用いられるので、原料としてはポリビニルホルマールを考えればよい。PVAフォームは連続気泡構造を持ち、強度が大きく、耐水性、耐薬品性にすぐれている。なかでも最大の特長は乾燥時には硬質ないし半硬質フォームの性状をもっているが、湿潤時には水が可塑剤として働き、独特の軟質フォームの性状を示すことにある。しかもこの性質は完全に可逆性を示す。」(262頁最下行〜263頁7行)。
甲第5号証 カ.「ゴム又はプラスチックから成る予め仕上げられたフォーム素材の表面に存在する皮膜を摩耗により除去するに当り、フォーム素材を低温冷却処理に曝すことを特徴とする、水冷多管式熱交換器の管内部を清掃するための、連続気泡で弾性-成形可能のクリーニング材の製法。」(特許請求の範囲)、
キ.「本発明は、……特に球状クリーニング材を製造する方法に関する。」(1頁右下欄10〜15行)、
ク.「実施例 実験では球状のフォーム素材70kg、すなわち約25000片を……装着ドラムに充填し、液体窒素で約-130℃に低温冷却し、30分間ドラム内で回転させた。……クリーニング材は完全に脱皮された。」(3頁左上欄8〜12行)。
甲第6号証 ケ.「この発明は、フラールを用いて織物ウエブを絞る又は染色するためのフォローワーまたはイントレイナーを製造する方法に関する。更に、この発明は、フラールにおけるイントレイナーに関して、スポンジを適用した無端状のイントレイナーに関する。」(1欄4〜9行)、
コ.「この発明の目的は、縫い目や継ぎ目が無く、耐久性と吸水性の大きい無端状のイントレイナーを提供することである。」(3欄19〜23行)、
サ.「成形スポンジ中に貫通孔を形成させるために、……水溶性の充填剤がスポンジの出発原料中に混入され、スポンジの硬化後に水洗、除去される。水洗工程後、イントレイナー製品を完成させるために、硬化工程で形成された無孔または僅少の孔を有する外皮または表面層を、最小限イントレイナーの作用面から、除去することが本質的に必要である」(4欄48〜53行)、
シ.「環状モールドの外筒壁1を取り外した後、硬化により形成された外皮は、図5に示されるように、旋盤加工によって、洗浄後のスポンジから除去される。この目的のために、内筒壁2は、旋盤の駆動部と芯押し台11との間に嵌め込んだ軸12に軸方向に取り付けられ、工具によって削られる。特にポリビニルアルコールで形成した場合のように、無端状のイントレイナーとして形成されたスポンジ材料が、湿った状態で柔らかく乾燥した状態で硬いものである場合には、図5に示される方法でスポンジを切削すると、非常に滑らかな多孔性の表面が得られる」(6欄14〜26行)、
ス.「織物ウェブ20は……染浴23を通過し、フラールで絞られる。図6のフラールは、この発明の方法で得られた無端イントレイナー26が架けられ、各々、アイドルローラ27、28とペアでイントレイナー26に張力を保つ絞りローラ24、25からなる。この発明のイントレイナー26を用いることにより、図6の絞りフラールは、染浴を出た織物ウェブ20から水分を絞り出すことができる。」(6欄41〜61行)、
セ.本発明のある工程で用いられる環状モールド又はその部分を示す第5図及び本発明で得られたイントレイナー自体を利用した装置を示す第6図。(図面2頁)。
甲第8号証 ソ.「芯軸の周面に生ゴムと所要添加剤の混和物を接着し其上面にスポンヂ用ゴムと所要添加剤の混和物を貼着した後其上全面を布帛にて被包し次に両端に鉄板を添当し之を蒸気加硫罐内に入れて低圧にて長時間かけて極めて緩慢に発泡加硫せしめる事を特徴とする染色加工用スポンヂゴム転子形成法。」(特許請求の範囲)、
タ.「金属製芯軸の周面にスポンヂゴムを被纏せしめて成るスポンヂゴム転子は染色加工に於て水洗転子搾水転子、布送転子等に用いられるのであるが、……本発明はこのスポンヂ転子の製造法に関する改良であって」(1頁左欄6〜12行)、
チ.「加硫完了後罐より取出し鉄板5及び布帛4を除去し、表面を旋盤にて所要の寸法に研磨し仕上げる……事によって芯軸にスポンヂゴムを纏着したスポンヂゴム転子が形成されるのである。」(1頁左欄34行〜右欄3行)。
甲第9号証 ツ.「型キャビテイ内部に予め、芯金を設置し、この状態で反応射出成形法により、発泡剤を含む化学的に活性な組成物原液を射出することにより、型内で発泡を伴う硬化反応を進行させ、この芯金を中心軸として周囲部に発泡層が形成された芯金つき発泡体に導電性複合材を押出成形によって得たパイプ状筒体を、熱収縮性を利用して、強固に固着して積層構造体とすることを特徴とするシームレス非帯電性ローラの製造方法。」(特許請求の範囲の請求項2)。
甲第10号証 テ.「シャフト或いはブッシングの外形より若干小さい内径を有する未乾燥ポリビニルアセタールスポンジ筒にシャフト或いはブッシングの外形より若干大きな外径を有する割型を挿入し、乾燥した後前記割型を抜きとることにより乾燥したポリビニルアセタールスポンジ筒を得、次に外周面に水中硬化型接着剤を塗布したシャフト或いはブッシングを前記乾燥したポリビニルアセタールスポンジ筒の内径部に挿入し、水中に浸漬してポリビニルアセタールスポンジ筒を収縮させると同時に接着剤を硬化させることによりシャフト或いはブッシングとポリビニルアセタールスポンジ筒とを固着せしめることを特徴とするポリビニルアセタールスポンジロールの製造方法。」(特許請求の範囲)。
b.対比・判断
請求項1に係る発明について
請求項1に係る発明(以下、「発明1」という。)と甲第1号証記載の発明(以下、甲第n号証を「甲n」、該甲号証記載の発明を「甲n発明」という。)とを対比すると、後者に係る「プリント板の脱水乾燥方法」(前記ア〜ウ参照)で用いる「スポンジローラ」に着目した場合、該「スポンジローラ」は「プリント基板、リードフレーム等の物体(A)に回転させながら押し当てて同物体(A)の水分を吸い取る様にした水切り用ロール」に相当するから、両者は、「プリント基板、リードフレーム等の物体(A)に回転させながら押し当てて同物体(A)の水分を吸い取る様にした水切り用ロール」(=構成要素A)に係る点で一致するものの、甲1には、発明1のその余の必須の構成(=構成要素B〜E)について記載されていない。
もっとも、吸水ローラ素材としてのポリビニルホルマールの有用性を示す甲4発明に従い、甲1発明のスポンジローラ(=スポンジロール)として、「回転軸(3)の外周にPVAをホルマール化反応させてPVFとしたPVAスポンジロール(2)が数十cm〜数mの長さに成形され」(=構成要素B)たものを想到することまでは、当業者が容易になし得ることといえる。
しかしながら、残る甲5、6、8、9、10のいずれにも、発明1の他の必須の構成である「このPVAスポンジロールは回転軸に取付けられたままその外周面が切削されて同外周面の薄膜が除去されてPVAスポンジロールの連続気孔が同外周面に露出され」「且つ回転軸の中心線を基準として真円ロール状に成形されて、最外層に物体の水分を吸い取る吸水面が形成され、」「このPVAスポンジロールを切削時に装着されていた回転軸に取付けたまま使用する」(=順次、前述の構成要素C、D、E)旨について、記載も示唆もされていない。
ここで、請求人は「構成要素Cは、甲5や甲6によって周知である」(審判請求書6頁5〜11行)と主張する。
しかしながら、先ず甲5について、前記のとおり、甲5発明は「水冷多管式熱交換器の管内部を清掃するためのクリーニング材」に係り、甲1の「スポンジローラ」とは産業上の利用分野も構成も全く相違するから、甲5の記載内容を甲1発明と結びつける技術的必然性はない。
そして、そもそも、低温冷却処理により球状クリーニング材の脱皮を行うだけの甲5発明の構成(前記カ〜ク参照)は、「このPVAスポンジロールは回転軸に取付けられたままその外周面が切削されて同外周面の薄膜が除去されてPVAスポンジロールの連続気孔が同外周面に露出され」るという、問題の構成要素Cを何ら教示するものではない。
次に、甲6には、イントレイナーのようなスポンジ成形体の表面の無孔または僅少な孔を有する層を旋盤で研削し、その表面を滑らかで多孔性のものとして吸水性の向上した製品を製造する方法が記載されている(前記ケ〜セ参照)ものの、このイントレイナーは無端帯状をなしロールとは無関係である上、前記旋盤による表面層の研削は、成型内型を外さずに成型内型を支持回転させることにより行うだけにとどまるから、結局、甲6も「スポンジロール(2)は回転軸(3)に取付けられたままその外周面が切削され」ることについてまで教示するものとはいえない。
なお、請求人は、構成要素Cに関し甲8、特にその記載チを引用し、「従来から回転軸にスポンジが形成されたまま旋盤で削られていたことは明白である」(同8頁15〜16行)とも主張する。
しかしながら、前記のとおり、甲8に係る「スポンヂゴム転子」(=ロール)は搾水転子として用いられる(前記タ参照)ことから、その外周面に連続気孔が露出されて吸水面が形成されているとは解されず、結局、請求人指摘の甲8の「旋盤による研磨仕上げ」(前記チ参照)は、その製造方法に起因し水切り用スポンジロール表面に存在する薄膜を除去することにより、該ロールの諸特性を改善することを目的とする発明1とは相違した、甲8発明独自の技術目的に沿うものというだけであって、何ら構成要素Cを示唆するものではない。
そして、他に構成要素Cが導き出せるとする格別の根拠が見出せない一方、発明1は、構成要素A+B+C+D+Eを必須の構成とすることにより、水分が吸着されやすくなり、物体の段差部や凹凸に追随して変形しやすくなるとともに、PVAスポンジロールの外周面が回転軸の中心線を基準として偏心せず、PVAスポンジロールを回転軸に取付けたまま使用するので、物体にむらなく均一に押当て可能な水切り用スポンジロールを得ることができるという、特許明細書中に記載された顕著な効果を奏するものと認められる。
そうすると、特に甲8をもってする構成要素D、Eの想到容易性についての請求人の主張の適否について判断するまでもなく、発明1は、甲1、4、5、6、8、9並びに10記載の各発明に基づいて当業者に想到容易ということはできない。
請求項2に係る発明について
請求項2に係る発明(以下、「発明2」という。)と甲1、4、5、6、8、9、10の各発明とを対比すると、詳しくは発明1についての検討で述べたとおり、甲各号証のいずれにも、発明2の必須の構成である、
「PVAスポンジロールを回転軸に取付けたままその外周面を切削して成形時にスポンジロールの外周面にできた薄膜を除去して、スポンジロールの連続気孔をその外周面に露出させると共にスポンジロールを回転軸の中心線を基準として真円ロール状に整形して、最外層に物体の水分を吸い取る吸水面を形成し、このPVAスポンジロールを切削時に装着されていた回転軸に取付けたまま使用する」
ことが記載も示唆もされていない。
請求人は、「内面に剥型剤が塗布された成形型内に回転軸(3)をセットし、その成形型内にスポンジ材料を流し込むことは、甲9に開示されており、周知である」(同10頁8〜10行)と主張するのであるが、そのとおりとしても、当該流し込みは上記発明2の必須の構成とは何ら関係のない技術事項というほかはない。
一方、発明2は、該必須の構成の採用により、発明1について既述の優れた特性を有する水切り用スポンジロールの成形方法を提供するという、特許明細書記載の顕著な効果を奏するものと認められる。
したがって、発明2は、甲1、4、5、6、8、9並びに10記載の各発明に基づいて当業者に想到容易ということはできない。
請求項3に係る発明について
請求項3に係る発明(以下、「発明3」という。)と甲1、4、5、6、8、9、10の各発明とを対比すると、甲各号証のいずれにも、発明3の必須の構成である、
「PVAスポンジロールを回転軸に取付けたままその外周面を切削して成形時にスポンジロールの外周面にできた薄膜を除去して、スポンジロールの連続気孔をその外周面に露出させると共にスポンジロールを回転軸の中心線を基準として真円ロール状に整形して、最外層に物体の水分を吸い取る吸水面を形成し、このPVAスポンジロールを切削時に装着されていた回転軸に取付けたまま使用する」
ことが記載も示唆もされていない。
請求人は、発明3の想到容易性に関し甲10を引用し、「スポンジロールの軸差し込み孔に回転軸を挿入して貫通固定することは、例えば甲10で開示もされており、極ありふれた技術である」(同11頁1〜4行)旨主張するが、発明2についての検討で甲9について述べたのと同様、当該挿入、貫通固定も、上記発明3の必須の構成を教示するものとはいえない。
一方、発明3は、該必須の構成の採用により、発明1について既述の優れた特性を有する水切り用スポンジロールの成形方法を提供するという、特許明細書記載の顕著な効果を奏するものと認められる。
したがって、発明3もまた、甲1、4、5、6、8、9並びに10記載の各発明に基づいて当業者に想到容易ということはできない。

5.むすび
以上のとおりであるから、請求人が主張する理由及び証拠方法によっては、本件請求項1〜3に係る発明についての特許を無効とすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2000-02-25 
結審通知日 2000-03-21 
審決日 2000-04-03 
出願番号 特願平6-128297
審決分類 P 1 112・ 854- Y (B29D)
P 1 112・ 855- Y (B29D)
P 1 112・ 121- Y (B29D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 三浦 均岡田 和加子  
特許庁審判長 小林 正巳
特許庁審判官 喜納 稔
石井 克彦
登録日 1996-05-31 
登録番号 特許第2524968号(P2524968)
発明の名称 プリント基板、リ―ドフレ―ム等の水切り用ロ―ルとその成形方法  
代理人 橋本 克彦  
代理人 小林 正治  

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