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審決分類 審判 全部申し立て 1項1号公知  A47K
審判 全部申し立て 2項進歩性  A47K
審判 全部申し立て 1項2号公然実施  A47K
管理番号 1018248
異議申立番号 異議1998-72729  
総通号数 13 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1988-11-18 
種別 異議の決定 
異議申立日 1998-06-01 
確定日 1999-10-25 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第2684366号「ロール式トイレットペーパーの製造方法」の特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第2684366号の特許を維持する。 
理由 〔I〕手続きの経緯
本件特許第2684366号発明は、昭和62年5月11日に特許出願され、平成9年8月15日に特許権の設定の登録がなされた後、武井肇より特許異議の申立てがなされ、次いで取消理由通知がなされ、その指定期間内に平成10年12月15日付けで訂正請求がなされたものである。
〔II〕明細書の訂正請求について
1.訂正請求の趣旨及び訂正の内容
訂正請求の趣旨は、特許第2684366号の明細書を訂正請求書に添付した訂正明細書のとおり訂正することを求めるものである。
そして、その訂正の内容は、以下のとおりである。
訂正事項a
特許請求の範囲の記載
「(1)トイレットペーパーの紙管群から紙管供給装置により供給される当該紙管をトイレットペーパー巻き付け装置へ供給する間において、紙管の外面に液状の芳香剤を塗布し、塗布後2分以内に、前記トイレットペーパー巻き付け装置においてトイレットペーパーをその紙管に巻き始めることを特徴とするロール式トイレットペーパーの製造方法。」を、
「(1)トイレットペーパーの紙管群から紙管供給装置により供給される当該紙管をトイレットペーパー巻き付け装置へ供給する間において、液状の芳香剤を入れた密閉容器内に圧縮空気を供給し、その圧縮空気による圧送力により通路を通してその出口から対象の紙管の外面に前記芳香剤を塗布し、塗布後2分以内に、前記トイレットペーパー巻き付け装置においてトイレットペーパーをその紙管に巻き始めることを特徴とするロール式トイレットペーパーの製造方法。」と訂正する。
訂正事項b
明細書1頁11行(特許公報1欄10行)の「産業上の利用分」を、「産業上の利用分野」と訂正する。
訂正事項c
明細書1頁20行(特許公報2欄7行)の「ベンジン」を、「ベンゼン」と訂正する。
訂正事項d
明細書2頁4行(特許公報3欄12〜13行)の「紙管の外面に液状の芳香剤を塗布し、」を、「液状の芳香剤を入れた密閉容器内に圧縮空気を供給し、その圧縮空気による圧送力により通路を通してその出口から対象の紙管の外面に前記芳香剤を塗布し、」と訂正する。
訂正事項e
明細書2頁16行と17行(特許公報3欄29行と30行)との間に、「他方、液状の芳香剤は前述のように、揮発性であるがために、塗布装置として芳香剤の収容容器において液面を大気に開放させておくと、溶剤が揮発し芳香剤濃度が経時的に変化してしまい、製品個々間において目的の一定の蒸散速度が得られない。しかるに、本発明に従って液状の芳香剤の塗布にあたり、液状の芳香剤を入れた密閉容器内に圧縮空気を供給し、その圧縮空気による圧送力により通路を通してその出口から対象の紙管の外面に前記芳香剤を塗布するようにすると、芳香剤を密閉容器内に収容するから、芳香剤の蒸散を防止し経時的に芳香剤濃度を一定に保つことができ、もって製品個々間において目的の一定の蒸散速度が得られる。」を加える。
訂正事項f
明細書3頁5〜6行(特許公報4欄5行〜7行)の「第5図及び第6図では、以上の塗布法と異なり、芳香剤8を圧縮空気よりノズル11を介して紙管1の下面及び上面からスプレー塗布するものである。」を、
「第5図及び第6図に示す本発明例では、以上の塗布法と異なり、液状の芳香剤8を入れた密閉容器内に圧縮空気を供給し、その圧縮空気による圧送力により通路を通してその出口ノズル11を介して対象の紙管1の外面に下面側及び上面側からスプレー塗布するものである。」と訂正する。
訂正事項g
明細書5頁5行(特許公報6欄7行)の「できる。」の次に、「そして、製品個々間において目的の一定の蒸散速度を示すトイレットペーパーを得ることができる。」を加える。
2.訂正の適否
(1)訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び拡張・変更の存否について
▲1▼訂正事項aについて
この訂正は、特許請求の範囲の第1項における「紙管の外面に液状の芳香剤を塗布し」を、「液状の芳香剤を入れた密閉容器内に圧縮空気を供給し、その圧縮空気による圧送力により通路を通してその出口から対象の紙管の外面に前記芳香剤を塗布し」とし、紙管の外面への芳香剤の塗布方法を限定するものであるから、この訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、この訂正は、願書に添付した明細書の3頁5〜6行(特許公報4欄5〜6行)の記載「第5図及……スプレー塗布するものである。」並びに第5図及び第6図の記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、しかも実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
▲2▼訂正事項b及びcについて
これらの訂正は、誤記の訂正を目的とするものであって、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、しかも実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
▲3▼訂正事項dについて
この訂正は、特許請求の範囲の訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るものであり、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。
そして、この訂正は、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、しかも実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
▲4▼訂正事項e〜gについて
これらの訂正は、特許請求の範囲の訂正に伴い、発明の詳細な説明の記載を明りょうにするもので、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。
そして、この訂正は、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、しかも実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
(2)独立特許要件について
▲1▼訂正後の発明
訂正後の発明は、訂正明細書の特許請求の範囲の第1項に記載された次のとおりのものである。「トイレットペーパーの紙管群から紙管供給装置により供給される当該紙管をトイレットペーパー巻き付け装置へ供給する間において、液状の芳香剤を入れた密閉容器内に圧縮空気を供給し、その圧縮空気による圧送力により通路を通してその出口から対象の紙管の外面に前記芳香剤を塗布し、塗布後2分以内に、前記トイレットペーパー巻き付け装置においてトイレットペーパーをその紙管に巻き始めることを特徴とするロール式トイレットペーパーの製造方法。」
▲2▼刊行物の記載事項
当審で通知した取消理由において引用した刊行物1である、「International Journal of Cosmetic Science 2,271-281(1980),p.271-281『The perfuming of paper-technical and safety problems』の欄(異議申立人が提出した甲第1号証)には、その280頁18〜40行(訳文のp.280l.18〜40の欄参照。)に、トイレットティッシュのトイレットロールコア群からトイレットロールコア供給装置により供給されるトイレットロールコアをトイレットティッシュ巻き取り機へ供給する間において、トイレットロールコアの外面に液状の香料をジェットから放出あるいは供給し、その後直ちにトイレットティッシュ巻き取り機においてトイレットティッシュをそのトイレットロールコアに巻き始めるロール式トイレットティッシュの製造方法、が記載されている。
▲3▼対比・判断
訂正後の発明と刊行物1に記載された発明とを対比すると、刊行物1に記載された発明の「トイレットティッシュ」は、訂正後の発明の「トイレットペーパー」に相当し、以下同様に、「トイレットロールコア」は「紙管」に、「トイレットロールコア供給装置」は「紙管供給装置」に、「トイレットティッシュ巻き取り機」は「トイレットペーパー巻き付け装置」に、「香料」は「芳香剤」に、「放出あるいは供給」は「塗布」に、それぞれ相当するから、両者は、
トイレットペーパーの紙管群から紙管供給装置により供給される紙管をトイレットペーパー巻き付け装置へ供給する間において、液状の芳香剤を塗布し、トイレットペーパー巻き付け装置においてトイレットペーパーをその紙管に巻き始めるロール式トイレットペーパーの製造方法、
である点で一致するものの、以下の点で相違する。
相違点1
訂正後の発明は、塗布後2分以内に、トイレットペーパーを紙管に巻き始めるのに対し、刊行物1に記載された発明は、塗布後直ちにトイレットペーパーを紙管に巻き始める点。
相違点2
芳香剤の塗布方法が、訂正後の発明は、液状の芳香剤を入れた密閉容器内に圧縮空気を供給し、その圧縮空気による圧送力により通路を通してその出口から対象の紙管の外面に前記芳香剤を塗布するのに対し、刊行物1に記載された発明は、紙管の外面に液状の芳香剤をジェットから放出あるいは供給する点。
上記相違点について検討する。
相違点1について検討すると、芳香剤は一般的に、揮発性であるから、塗布した後、できるだけ早くペーパーを巻き付けた方が、蒸散が抑制されると考えられる。そして、訂正明細書中の表3の評価をみても、2分後と10分後の間に明らかな違いはなく、2分後とすることに意義は認められないから、訂正後の発明のように、塗布後2分以内にトイレットペーパーを巻き付けるようにすることは、当業者が設計上適宜なし得たことである。
相違点2について検討すると、刊行物1に記載された発明は、液状の芳香剤をジェットから放出あるいは供給することにより塗布しているが、「液状の芳香剤を入れた密閉容器内に圧縮空気を供給し、その圧縮空気による圧送力により通路を通してその出口から塗布する」という訂正後の発明の構成を示唆するものとは認められない。
そして、訂正後の発明は、この構成を備えることにより、訂正明細書に記載された作用、効果を奏するものである。
したがって、訂正後の発明は、刊行物1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
よって、訂正後の発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものである。
(3)まとめ
以上のとおりであるから、訂正事項a及びbの訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律116号)附則6条1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法120条の4第2項ただし書各号に掲げるいずれかの事項を目的とし、同条3項で準用する126条2〜4項の規定に適合するので、本件訂正請求を認める。
〔III〕特許異議の申立てについて
1.本件発明の要旨
本件発明の要旨は、訂正明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の第1項に記載されたとおりのものと認める。(上記〔II〕2.(2)▲1▼参照。)
2.特許異議の申立ての理由の概要
異議申立人は、甲第1〜第5号証を提出して、以下の理由により、本件発明の特許は取り消されるべきである旨主張している。
(1)理由1
本件発明は、甲第1及び第2号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものである。
(2)理由2
本件発明は、その出願前に公然知られた発明又は公然実施をされた発明であるから、特許法29条1項の規定により特許を受けることができないものである。(甲第3及び第4号証)
(3)理由3
本件発明は、産業上利用することができる発明ではなく、特許法29条柱書に規定する要件を満たしておらず、特許を受けることができないものである。
甲第1号証:前記刊行物1参照。
甲第1号証の訳文
甲第2号証:「新・紙加工便覧」、昭和55年11月15日、株式会社紙業タイムス社発行、254〜259頁
甲第3号証:「エリエール 綜合カタログ」
甲第4号証:「紙業タイムス」、1994年12月16日発行、40〜41頁
甲第5号証:長谷川香料株式会社が作製した香り付きトイレットペーパー香り強度評価結果
3.特許異議の申立ての理由についての判断
(1)理由1について、
甲第1号証(刊行物1)に記載された事項は、上記〔II〕2.(2)▲2▼に記載したとおりである。
甲第2号証には、トイレットワインダーの加工速度は500〜600m/分であることが記載されている。
本件発明と甲第1号証に記載された発明との一致点、相違点は、上記〔II〕2.(2)▲3▼に記載したとおりである。
相違点1についての検討は、上記〔II〕2.(2)▲3▼に記載したとおりである。
相違点2で挙げた「液状の芳香剤を入れた密閉容器内に圧縮空気を供給し、その圧縮空気による圧送力により通路を通してその出口から塗布する」という本件発明の構成については、甲第2号証には記載されておらず、示唆もされていない。
そして、本件発明は、この構成を備えることにより訂正明細書に記載された作用、効果を奏するものと認められる。
したがって、本件発明は、甲第1及び第2号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
(2)理由2について
甲第3号証のカタログの発行日が明らかではないが、同号証の「エリエールトイレットティシュー」の欄に、「さわやかな香り(香水入り)トイレットにさわやかな香りをお届けできるのは、エリエールだけです。(紙管に香水を塗布しています)」と記載され、また同欄に、「トイレットティシュー香水入り」を表示したエリエールトイレットティシュー包装体が写真で示されている。
そして甲第4号証の40頁に「トイレットティシュー香水入り」の表示をしたエリエールトイレットティシューの包装体の上市が1979年〜1980年(昭和54〜55年)であったことが示されている。
これら甲第3及び第4号証によると、紙管に香水を塗布したトイレットティシューが、エリエールトイレットティシューとして、昭和54年頃に上市されたことが推測される。
しかしながら、上記トイレットティシューは、紙管の外面に香水を塗布してあるのか、不明であるばかりでなく、ロール式トイレットペーパーの製造方法に係る本件発明の「トイレットペーパーの紙管群から紙管供給装置により供給される当該紙管をトイレットペーパー巻き付け装置へ供給する間において、液状の芳香剤を入れた密閉容器内に圧縮空気を供給し、その圧縮空気による圧送力により通路を通してその出口から対象の紙管の外面に前記芳香剤を塗布し、塗布後2分以内に、前記トイレットペーパー巻き付け装置においてトイレットペーパーをその紙管に巻き始める」という構成を何ら示唆していない。
したがって、本件発明は、出願前に公然知られた発明又は公然実施をされた発明とすることはできない。
なお、異議申立人は、「本件特許権者が本件特許公報4欄〜5欄にかけて表2の説明として『紙管の内側に香料を塗布した比較例においては、その芳香の強さは、ペーパー巻き付けから1週間後でほとんど臭わない程度まで、2週間後では全く臭わない程度まで弱くなった』と記載していることから、甲第3号証のものは当然に何人にも本件特許と同じく紙管の外面に香料を塗布したものであることが伺えるところである。」(異議申立書7頁7〜13行)と主張しているが、甲第3号証のものが上市されたと推測される昭和54年よりもかなり後に出願された本件発明が、紙管の内面に芳香剤を塗布することによる問題点を解決しようとするものであることを考えると、甲第3号証のものが、紙管の外面に香料を塗布したものであると、直ちに認めることはできない。
したがって、異議申立人の主張は採用しない。
(3)理由3について
異議申立人は、本件特許公報4欄19行〜6欄3行の(実験例)の記載は、出願当初の明細書中には全く記載されておらず、平成8年10月21日付の補正によって加入されたものであり、実験例)の加入は本件発明の作用効果の本質に係わり、本件発明の要件B(紙管の外面に液状の芳香剤を塗布)及び要件C(塗布後2分以内に……紙管に巻き始める)の作用効果の内容に大きな変更を与えるものであるから、要旨を変更するものとして当然に却下されるべきものであり、従って本件発明は特許法第29条柱書きに規定する産業上利用することができる発明をその出願時に完成していたものとはいえないから、本件発明は特許法29条柱書きの規定を満たしていない旨主張している。
さらに、(実験例)の記載は、異議申立人側が実施した実験成績書(甲第5号証)を参照してみれば明らかなように、本件発明の作用効果の裏付けとして真実性に乏しく、産業上利用することができる発明とは言えない旨主張している。(異議申立書7頁22行〜8頁20行)
そこで検討すると、出願当初の明細書の特許請求の範囲には、紙管の外面に液状の芳香剤を塗布すること、塗布後2分以内にトイレットペーパーを巻き始めることが記載されており、平成8年10月21日付けの手続補正は、特許請求の範囲に記載された発明における上記要件B及びCにより奏される作用、効果を裏付けるための実験結果を加えたものであり、明細書の要旨を変更するものとは認められない。そして、上記実験結果が出願時に提出されていなかったからといって、出願時に発明が完成していなかったとすることはできない。
また、異議申立人側が実施した実験成績書である甲第5号証によると、実験が、本件発明とは異なる条件(トイレットペーパーの中芯のコアーを引き抜き、コアーの外表面に一定量の香料を添加した後、市販のトイレットペーパーに再挿入)のもとでなされており、甲第5号証の実験結果から直ちに、本件発明の作用、効果が真実性に乏しいものということはできない。
したがって、異議申立人の主張は、採用できない。
4.むすび
以上のとおりであるから、異議申立人の主張する理由及び提出した証拠方法によっては、本件発明の特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
ロール式トイレットペーパーの製造方法
(57)【特許請求の範囲】
(1)トイレットペーパーの紙管群から紙管供給装置により供給される当該紙管をトイレットペーパ一巻き付け装置へ供給する間において、
液状の芳香剤を入れた密閉容器内に圧縮空気を供給し、その圧縮空気による圧送力により通路を通してその出口から対象の紙管の外面に前記芳香剤を塗布し、
塗布後2分以内に、前記トイレットペーパー巻き付け装置においてトイレットペーパーをその紙管に巻き始めることを特徴とするロール式トイレットペーパーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
〔産業上の利用分野〕
本発明は芳香剤を塗布したトイレットペーパーの製造方法に関する。
〔従来の技術〕
従来、トイレ内に芳香を付与する手段としては、液体又は固体の芳香剤を設置する手段が採られているが、芳香が消失した時、芳香剤の補充等の手間がかかるものであった。そこで近年、トイレットペーパーの紙管に芳香剤を塗布することにより簡易に芳香が得られるトイレットペーパーの製法が提案されている。
かかる製法の一例としては、紙管内面に芳香性を有するマイクロカプセルを塗布する方法(実開昭55-77493号)や紙管内面に芳香を加えたパラジクロールベンゼンをコーティングする方法(実開昭56-111890号)などがある。
〔発明が解決しょうとする問題点〕
しかしながら、上記従来技術においてはいずれも紙管の内面に芳香剤を塗布するものであるから、コスト上多少なりとも有利に製造するためには紙管の原紙の状態で芳香剤を塗布し、その後紙管に加工する必要がある。ところが、この方法は芳香剤の塗布後製品に至るまでにかなりの時間がかかり、その間に芳香が消散してしまう。また、紙管内面はペーパー巻取時にトイレットロールを支える芯棒により強い摩擦力を受けるためこれによっても芳香効果が消散する。
本発明は以上の事情を考慮してなされたもので、その主たる目的は、長期に亘って適度な芳香を発散するトイレットペーパーの製法を提供することにある。
〔問題点を解決するための手段〕
上記問題点を解消し本発明の目的を達成するための手段は、トイレットペーパーの紙管群から紙管供給装置により供給される当該紙管をトイレットペーパー巻き付け装置へ供給する間において、
液状の芳香剤を入れた密閉容器内に圧縮空気を供給し、その圧縮空気による圧送力により通路を通してその出口から対象の紙管の外面に前記芳香剤を塗布し、
塗布後2分以内に、前記トイレットペーパー巻き付け装置においてトイレットペーパーをその紙管に巻き始めることを特徴とするものである。
〔作用〕
本発明では、紙管の外面に芳香剤を塗布するため、紙管のストック場所から当該紙管を巻き付け装置へ供給して巻き付ける前において芳香剤を塗布できるとともに、塗布がきわめて容易となる。また、芳香剤の塗布直後、すなわち2分以内にトイレットペーパーを巻き付けるため、しかも紙管の外面に芳香剤を塗布することによりその外面をトイレットペーパーにより被覆するので、芳香剤の消散が殆どなくゆっくりした蒸散速度となり、長期に亘り適度な芳香が維持できる。一般に、この種の芳香剤は溶剤に溶解されており、溶剤が揮発した後も芳香剤成分が残留するものの、溶剤の揮発時に同伴されて蒸散する割合が高く、この意味で塗布後に2分以内にトイレットペーパーにより被覆することが重要である。
他方、液状の芳香剤は前述のように、揮発性であるがために、塗布装置として芳香剤の収容容器において液面を大気に開放させておくと、溶剤が揮発し芳香剤濃度が経時的に変化してしまい、製品個々間において目的の一定の蒸散速度が得られない。しかるに、本発明に従って液状の芳香剤の塗布にあたり、液状の芳香剤を入れた密閉容器内に圧縮空気を供給し、その圧縮空気による圧送力により通路を通してその出口から対象の紙管の外面に前記芳香剤を塗布するようにすると、芳香剤を密閉容器内に収容するから、芳香剤の蒸散を防止し経時的に芳香剤濃度を一定に保つことができ、もって製品個々間において目的の一定の蒸散速度が得られる。
〔実施例〕
以下本発明を図面を参照しながら実施例によりさらに詳説する。
第1図は本発明に係るトイレットペーパー製造方法の概要説明図である。一般にロール式トイレットペーパーを製造する際は同図において、長尺の紙管1群を多数本ストックするとともに供給する紙管供給装置2から、供給される紙管1は紙管搬送ライン3を介して、ペーパー巻き付け装置5まで搬送され原反ロール6より供給されるトイレットペーパー6Aを紙管1を中芯として巻き付ける。
その後、この長尺のトイレットペーパーは図示しない裁断装置により所定の製品長さサイズに裁断する。本発明では、ペーパー6Aを巻き付ける直前において芳香剤塗布装置4により紙管1の外面に芳香剤を塗布する。
このための芳香剤塗布装置の具体例を示したのが、第2図〜第6図である。第2図の例では、塗布用ベルト又はロープを芳香剤液8中に浸漬後、紙管1の上面に一定時間接触させ該紙管の外面に連続的に芳香剤を塗布するものである。第3図は同様の操作を紙管の下面より行うものである。第4図はロール転写式の塗布装置であり芳香剤液8を一旦ロール9に付着させ、これをさらにロール9’に付着させ、余分な付着分はドクターブレード10で払拭した後、ロール9’により紙管1の外面に芳香剤を塗布するものである。
第5図及び第6図に示す本発明例では、以上の塗布法と異なり、液状の芳香剤8を入れた密閉容器内に圧縮空気を供給し、その圧縮空気による圧送力により通路を通してその出口ノズル11を介して対象の紙管1の外面に下面側及び上面側からスプレー塗布するものである。
本発明で用いる紙管供給装置2は傾斜した台の上に長尺の紙管1群が貯えられており、紙管1を搬送ライン3に供給するごとに次の紙管が自動的に供給される構造になっている。
また巻き付け装置5はトイレットペーパーの原反ロール6から所定の長さだけ巻き付けた後、裁断する図示しないカッターが付属している。他方で、原反ロール6からのトイレットペーパー6Aを巻き付け後において、1ロール分ごとスリッターにより短尺に横断されるために、少なくとも1ロール分中に芳香剤があるように、長尺の紙管1の段階で実質的に全長に渡って芳香剤液を塗布することが必要である。
以下、実験例を示し、本発明の効果を明らかにする。
(実験例)
香料の塗布位置を紙管の内側と外側とで変えた場合、および香料塗布後に紙管にペーパーを巻き始めるまでの時間を変化させた場合について、それぞれトイレットロールを製造し、これらトイレットロールの芳香の強さを、20名のモニターにより表1に示す4段階評価により評価した。尚、芳香の強さの評価は、ペーパー巻付け直後、1週間後、および2週間後に行った。

まず、香料の塗布位置を紙管の内側(比較例)と外側(本発明例)とで変えた場合の実験結果を表2に示す。尚、本実験においては、本発明例および比較例ともに、香料塗布後、直ちにペーパーを巻き付けた。また、表中の値は、いずれも、20名のモニターの評価の平均値である。

表2より明らかなとおり、本発明にしたがって、紙管の外側に香料を塗布し、かつ香料塗布後直ちにペーパーを巻き付けることにより製造されたトイレットロールは、長期に亘り、適度な芳香を維持することができる。一方、紙管の内側に香料を塗布した比較例においては、その芳香の強さは、ペーパー巻き付けから1週間後で殆ど臭わない程度まで、2週間後では全く臭わない程度まで弱くなった。
次に、香料塗布後に紙管にペーパーを巻き始めるまでの時間を変化させた場合の実験結果を第3表にしめす。尚、本実験における全てのサンプルは、紙管の外側に香料を塗布したものである。また、表中の値は、いずれも、20名のモニターの評価の平均値である。

表3から明らかなとおり、本発明のように、香料塗布後、紙管にペーパーを巻き始めるまでの時間が2分以内であると、長期に亘り、適度な芳香を維持することができる。
〔発明の効果〕
以上の通り、本発明によれば、極めて容易に長期に亘り、蒸散が抑制された適度な芳香を発散するトイレットペーパーを得ることができる。そして、製品個々間において目的の一定の蒸散速度を示すトイレットペーパーを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
第1図は本発明の概要説明図、第2図、第3図はベルト(ロープ)式塗布装置、第4図はロール式塗布装置、第5図、第6図は噴霧式塗布装置を示す図示である。
1…紙管、2…紙管供給装置、3…搬送ライン、4…芳香剤塗布装置、5…トイレットペーパー巻き付け装置、6…原反ロール、6A…トイレットペーパー、7…ベルト(ロープ)、8…芳香剤(液)、9、9’…塗布ロール、10…ドクターブレード、11…スプレーノズル。
 
訂正の要旨 〔訂正の要旨〕
特許第2684366号の明細書を、特許請求の範囲の減縮を目的として下記(a)のとおり、誤記の訂正を目的として下記(b)、(c)のとおり、明りょうでない記載の釈明を目的として下記(d)〜(g)のとおり訂正する。
(a)特許請求の範囲の記載
「(1)トイレットペーパーの紙管群から紙管供給装置により供給される当該紙管をトイレットペーパー巻き付け装置へ供給する間において、紙管の外面に液状の芳香剤を塗布し、塗布後2分以内に、前記トイレットペーパー巻き付け装置においてトイレットペーパーをその紙管に巻き始めることを特徴とするロール式トイレットペーパーの製造方法。」を、「(1)トイレットペーパーの紙管群から紙管供給装置により供給される当該紙管をトイレットペーパー巻き付け装置へ供給する間において、液状の芳香剤を入れた密閉容器内に圧縮空気を供給し、その圧縮空気による圧送力により通路を通してその出口から対象の紙管の外面に前記芳香剤を塗布し、塗布後2分以内に、前記トイレットペーパー巻き付け装置においてトイレットペーパーをその紙管に巻き始めることを特徴とするロール式トイレットペーパーの製造方法。」と訂正する。
(b)明細書1頁11行(特許公報1欄10行)の「産業上の利用分」を、「産業上の利用分野」と訂正する。
(c)明細書1頁20行(特許公報2欄7行)の「ベンジン」を、「ベンゼン」と訂正する。
(d)明細書2頁4行(特許公報3欄12行〜13行)の「紙管の外面に液状の芳香剤を塗布し、」を、「液状の芳香剤を入れた密閉容器内に圧縮空気を供給し、その圧縮空気による圧送力により通路を通してその出口から対象の紙管の外面に前記芳香剤を塗布し、」と訂正する。
(e)明細書2頁16行と17行(特許公報3欄29行と30行)との間に、「他方、液状の芳香剤は前述のように、揮発性であるがために、塗布装置として芳香剤の収容容器において液面を大気に開放させておくと、溶剤が揮発し芳香剤濃度が経時的に変化してしまい、製品個々間において目的の一定の蒸散速度が得られない。しかるに、本発明に従って液状の芳香剤の塗布にあたり、液状の芳香剤を入れた密閉容器内に圧縮空気を供給し、その圧縮空気による圧送力により通路を通してその出口から対象の紙管の外面に前記芳香剤を塗布するようにすると、芳香剤を密閉容器内に収容するから、芳香剤の蒸散を防止し経時的に芳香剤濃度を一定に保つことができ、もって製品個々間において目的の一定の蒸散速度が得られる。」を加える。
(f)明細書3頁5〜6行(特許公報4欄5行〜7行)の「第5図及び第6図では、以上の塗布法と異なり、芳香剤8を圧縮空気よりノズル11を介して紙管1の下面及び上面からスプレー塗布するものである。」を、
「第5図及び第6図に示す本発明例では、以上の塗布法と異なり、液状の芳香剤8を入れた密閉容器内に圧縮空気を供給し、その圧縮空気による圧送力により通路を通してその出口ノズル11を介して対象の紙管1の外面に下面側及び上面側からスプレー塗布するものである。」と訂正する。
(g)明細書5頁5行(特許公報6欄7行)の「できる。」の次に、「そして、製品個々間において目的の一定の蒸散速度を示すトイレットペーパーを得ることができる。」を加える。
異議決定日 1999-09-22 
出願番号 特願昭62-113932
審決分類 P 1 651・ 121- YA (A47K)
P 1 651・ 111- YA (A47K)
P 1 651・ 112- YA (A47K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 藤井 靖子  
特許庁審判長 幸長 保次郎
特許庁審判官 阿部 綽勝
鈴木 公子
登録日 1997-08-15 
登録番号 特許第2684366号(P2684366)
権利者 大王製紙株式会社
発明の名称 ロール式トイレットペーパーの製造方法  
代理人 永井 義久  
代理人 永井 義久  

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