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審決分類 審判 全部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備  E04B
審判 全部申し立て 2項進歩性  E04B
管理番号 1018314
異議申立番号 異議2000-71684  
総通号数 13 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1997-01-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2000-04-25 
確定日 2000-07-24 
異議申立件数
事件の表示 特許第2966768号「壁構造体」の請求項1ないし2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第2966768号の請求項1ないし2に係る特許を維持する。 
理由 (一)手続きの経緯
本件特許に係る出願は、平成7年7月10日の出願であって、平成11年8月13日に特許の設定登録がなされ、その後、中森繁雄から異議申立がなされたものである。
(二)本件特許発明
本件の請求項1及び2に係る発明は、特許明細書及び図面の記載からみて特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された次のとおりのものである。
【請求項1】内側を高温ガスが流れる壁構造体において、
(a)外壁と、
(b)該外壁の複数箇所において、外側に突出させて固定されたアンカーと、
(c)前記外壁の外側に配設された保温材と、
(d)前記アンカーの先端間に架設された胴縁と、
(e)該胴縁に固定された外装鉄板とを有するとともに、
(f)前記アンカーは、先端近傍において捩じられたツイストバー形状を有する平鋼から成るとともに、保温材内に配設される垂直部、並びに保温材から突出する変形吸収部及び水平部を備えることを特徴とする壁構造体。
【請求項2】前記アンカーの水平部と胴縁との間に防振材が配設される請求項1に記載の壁構造体。
(三)異議申立の理由の概要
理由1:請求項1及び2に係る発明は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていないから、その特許は特許法第113条第1項第4号の規定により取り消されるべきであると主張している。
理由2: 異議申立人は、証拠方法として甲第1〜7号証を提出し、請求項1及び2に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は特許法第113条第1項第2号の規定により取り消されるべきであると主張している。
(四)当審の判断
1.理由1について
(1)異議申立人は、請求項1に係る発明の「アンカーは、先端近傍における捩じられたツイストバー形状の平鋼から成るとともに、保温材中に配設される垂直部、並びに保温材から突出する変形吸収部及び水平部を備える」という構成の効果として、特許明細書の【0018】段落中の「この場合、アンカーの水平部と垂直部との間に変形吸収部が形成されるので、高温ガスの熱が外壁に伝わり、該外壁が熱膨張してもアンカー間を広げようとしたとき、前記変形吸収部が変形して熱膨張を吸収する。」と記載されているが、水平部と垂直部が2方向に弾性撓曲して熱膨張を吸収するというのであれば理解できるが、変形吸収部(ツイスト部分)が変形して熱膨張を吸収するという効果は、請求項1に係る発明の構成により達成できないものであるから、請求項1及び2に係る発明は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていないと主張している。しかし、請求項1に係る発明において、「アンカーは、先端近傍における捩じられたツイストバー形状の平鋼から成るとともに、保温材内に配設される垂直部、並びに保温材から突出する変形吸収部及び水平部を備える」という構成において、熱膨張によるアンカー間の距離の変位は、アンカーの垂直部と水平部のそれぞれの板面に直交する2方向への弾性撓曲に伴いアンカーのツイスト部分つまり変形吸収部も変形し吸収するものであるから、前記特許明細書の「変形吸収部(ツイスト部分)が変形して熱膨張を吸収する」という記載に矛盾はなく、異議申立人の理由1についての主張は採用することができない。
2.理由2について
(1)甲各号証の記載事項
甲第1号証:実願昭58-168385号(実開昭60-77891号公報)のマイクロフィルム(以下、「引用例1」という。)には、例えば、次のような記載がある。
ア)「一般に、ボイラ、ダクト、節炭器、空気予熱器等の機械は、第1図、第2図に示すように、300℃程度になる内壁4と外気温度の外壁5の中間部に保温材6を取付け、」明細書第2頁。
イ)「該伸び差吸収用サポート11には、内壁4が熱膨張により伸びるのでその内壁4側の固定点と外壁5側の固定点との間に6mm程度の変位が生じるために、前記サポート11自体が、第6図、第7図に示すように上下左右に変形し、前記熱膨張による内壁4と外壁5との伸び差を吸収する。」明細書第4頁〜第5頁。
ウ)「他方、第8図、第9図、第10図は第2実施例を示す。この実施例における外壁支持装置は、内壁4にプレート状の伸び差吸収用プレート11の一端を溶接し、それの他端にフレーム13をボルト14を介してセットし、さらに、該フレーム13に外壁5を取付け支持する。13aは前記フレーム13に開設した長孔で、前記ボルト14が貫通するようになっている。」明細書第5頁。
エ)「第10図に示すように、伸び差吸収用サポート11とフレーム13を長孔(13a)にボルト14を貫通してセットすることにより、そのセット面で両者はスライドし、内壁4と外壁5との間の熱膨張による左右方向の伸び差を吸収する。なお、それらの間の熱膨張による上下方向の伸び及び風圧により外壁に加わる力の支持、並びに外壁5の自重のサポート方法は第5図に示した第1実施例のサポート11による支持方向の場合と同様である。」明細書第6頁。
前記ア)〜エ)の記載事項と図面の記載からみて、引用例1には、ボイラ、ダクト等の300℃程度になる内壁にプレート状の伸び差吸収用プレートの一端を溶接し、伸び差吸収用プレートの他端にスライド可能にフレームを連結し、フレームに外壁を取り付け支持し、内壁と外壁との間に保温材を配置し、内壁の熱膨張による伸び差吸収用プレートの内壁と外壁との固定点の上下左右方向の変位を、伸び差吸収用プレートの変形とフレームのスライドにより吸収する外壁支持装置が記載されている。
甲第2号証:実願昭54-17002号(実開昭55-117504号公報)のマイクロフィルム(以下、「引用例2」という。)には、例えば、次のような記載がある。
オ)「壁面等に当接、配置されている無機質繊維マットよりなる断熱層が、薄い板バネの如き可撓弾性を有し、かつ基端を該壁面に固定されている取付具によって裏面から表面に向つて貫通されており、該取付具は断熱層内において、少なくとも、角度90度だけ位相を異にした2方向への弾性撓曲性を有せしめられており、かつ断熱層外に突出している先端部分において、少なくとも断熱層を表面側から係止していることを特徴とする壁面等における断熱層の取付構造。」明細書第1頁。
カ)「取付具3は、第2図に示される如き構造であり、基端4をビス5で壁面1に固定されており、その主体部6は、断熱層2を、裏面7から表面8に向かって貫通し、その先端9は断熱層2の表面8外に突出せしめられている。断熱層2内に位置する前記主体部6は、図示実施例の場合、壁面1の外面に直交する水平板部10と、該部10に対して直交方向に捩回された垂直板部11との2部分よりなり、水平板部10は、その弾性撓曲方向が矢印(イ)方向であり、垂直板部(11)は、その弾性撓曲方向が矢印(ロ)方向となり、両方向が互に直交する方向となるように形成されている。」明細書第4頁〜第5頁。
キ)「また断熱層中に位置する取付具部分は、少なくとも角度90度だけ位相を異にした2方向への弾性撓曲性を有せしめられており、図示例では、水平板部10は矢印(イ)方向へ弾性撓曲でき、垂直板部11は矢印(ロ)方向へ弾性撓曲できるので、第1図に示されるように、モルタル層15が塗着、形成されたのち、該層15に収縮が生じた際には、ラス網12を係止している取付具3の先端9が、その収縮方向に沿って自由に変位し、モルタル層15と断熱層2および取付具3との三者の挙動を同一のものたらしめ、モルタル層15のクラック発生を最小限にとどめうるものである。」明細書第8頁〜第9頁。
前記オ)〜キ)の記載事項と図面の記載からみて、引用例2には、壁面に断熱層を取付けための取付具は、薄い板バネの如き可撓弾性を有し、その基端を壁面に固定され、断熱層を貫通し、その先端は断熱層外に突出し、先端にラス網を係止することにより断熱層を支持し、ラス網上にモルタルを塗着してなる壁面への断熱層取付構造において、取付具は、壁面の外面に直交する水平板部と、該水平板部に対して直交方向に捩回された垂直板部との2部分よりなり、モルタルの固化に伴う収縮による上下左右方向の変位を取付具の水平板部と垂直板部の互いに直交する2方向の弾性撓曲により吸収するようにした壁面への断熱層取付構造が記載されている。
甲第3号証:実願昭50-166425号(実開昭52-78323号公報)のマイクロフィルム(以下、「引用例3」という。)には、例えば、次のような記載がある。 ク)「又、本考案のものは、第5図に示す如く、一般工場等の壁面を構成する波形スレート板(20)の連結枠(21)にパイプ(16)の縦支環部(22)を設けた支持杆(23)を取付けて、波形スレート板(20)に沿ってパイプ(16)を複数縦設し、該パイプ(16)に前記した如きL形係止杆(18)付きのクランプ(17)を取付けることによって、このL形係止杆(18)を用いて極めて容易に波形スレート板(20)の内側に本考案のものを連結構成することが出来、波形スレート板(20)の内側に防音壁を構成することが出来るのである。」明細書第9頁。
甲第4号証:実開昭54-27496号公報(以下、「引用例4」という。)には、振動側壁と、これに対向する内張壁との間に設けられる防振連結具であって、一方の壁に溶接で取付けられる第1部材と、他方の壁に位置変換可能に取付けられる第2部材と、これら両部材を連結する防振ゴムとからなることを特徴とする防振連結具が記載されている。
甲第5号証:実開昭54-27493号公報(以下、「引用例5」という。)には、下位デッキに防振ゴムを介して敷設した底壁と、この底壁にその下端を支持させた防音側壁と、防音側壁の上部間に設けた防音天壁とから形成した船舶居住区において、前記防音側壁は、下位デッキから立設した側板に、防振ゴムを有する防振連結具を介して支持すべく構成し、さらに、防音天壁は、上位デッキから懸垂したロッドに防振ゴムを介して支持すべく構成したことを特徴とする船舶居住区の防音構造が記載されている。
甲第6号証:実開昭55-82406号公報(以下、「引用例6」という。)には、建屋にとりつけた防音パネルの下端に、防音基礎帯の突出部の側面との間に少許の空隙を形成する消音部材を取り付けたことを特徴とする消音装置が記載されている。
甲第7号証:特開昭52-100201号公報(以下、「引用例7」という。)には、防音材より形成された防音板を有する複数個のパネルを、発振源をおおう建屋などの外面に防振具を介して取付けることを特徴とする防音方法が記載されている。
(2)対比
先ず、請求項1に係る発明と引用例1記載の発明を対比する。
引用例1記載の発明における、「内壁」は、内側に高温ガスが流れる壁構造体であるから、請求項1に係る発明における、「外壁」に対応するものであり、引用例1記載の発明における、「外壁」、「伸び差吸収用プレート」及び「フレーム」は、請求項1に係る発明における、「外装鉄板」、「アンカー」及び「胴縁」にそれぞれ対応するものであるから、請求項1に係る発明と引用例1記載の発明は、次の一致点において両者の構成は一致し、次の相違点1において両者の構成は相違する。
一致点:内側を高温ガスが流れる壁構造体において、外壁と、該外壁の複数箇所において、外側に突出させて固定されたアンカーと、前記外壁の外側に配設された保温材と、前記アンカーの先端間に架設された胴縁と、該胴縁に固定された外装鉄板とを有する壁構造体。
相違点1:請求項1に係る発明においては、アンカーは、先端近傍における捩じられたツイストバー形状の平鋼から成るとともに、保温材中に配設される垂直部、並びに保温材から突出する変形吸収部及び水平部を備え、水平部の先端に胴縁が固着されるのに対して、引用例1記載の発明においては、アンカーはプレート状であり、アンカーの先端に胴縁をスライド自在に連結する点。
次に、請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明を引用する形式のものであるから、請求項2に係る発明と引用例1記載の発明は、前記相違点1において両者の構成は相違し、さらに、次の相違点2において両者の構成は相違する。
相違点2:請求項2に係る発明においては、アンカ先端と胴縁との間に防振材が配設されるのに対して、引用例1記載の発明においては、前記構成を有しない点。
(3)判断
前記相違点について検討する。
先ず、相違点1について検討する。
引用例2記載の発明における、「取付具は、薄い板バネの如き可撓弾性を有し、壁面の外面に直交する水平板部と、該部に対して直交方向に捩回された垂直板部との2部分よりなる」は、請求項1に係る発明における、「アンカーは、先端近傍における捩じられたツイストバー形状の平鋼から成るとともに、垂直部、変形吸収部及び水平部を備える」に対応するものであり、引用例2記載の発明における、取付具は、相対的に変位する部材間を連結し、相対的変位を取付具の変形により吸収するものであるから、その機能においても、請求項1に係る発明におけるアンカーに対応するものである。
しかし、請求項1に係る発明におけるアンカーは、「保温材中に配設される垂直部、並びに保温材から突出する変形吸収部及び水平部を備え」という構成を具備するものであり、前記構成により、明細書【0035】段落中の「さらに、アンカーの垂直部だけが保温材を貫通し、前記変形吸収部及び水平部は保温材から突出するので、該保温材の切込加工が容易になる。」という効果を奏するものであるから、引用例1に記載の発明に引用例2に記載の発明を適用して、前記相違点1にあげた請求項1に係る発明の構成のようにすることは当業者が容易になしえるものとは認めることができない。
また、引用例3〜7には、前記相違点1にあげた請求項1に係る発明の構成に関する直接の記載も、前記構成を示唆する記載もない。
したがって、請求項1に係る発明は、引用例1〜7記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとは認めることができない。
そして、請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明を引用する形式のものであるから、相違点2について検討するまでもなく、前記相違点1についての判断で示したと同様の理由により、請求項2に係る発明は、引用例1〜7記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認めることができない。
(五)むすび
以上のとおりであるから、異議申立人の主張する理由及び提出した証拠方法によっては、本件請求項1及び2に係る発明の特許を取り消すことはできない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2000-07-03 
出願番号 特願平7-173595
審決分類 P 1 651・ 121- Y (E04B)
P 1 651・ 534- Y (E04B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 辻野 安人  
特許庁審判長 片寄 武彦
特許庁審判官 宮崎 恭
小野 忠悦
登録日 1999-08-13 
登録番号 特許第2966768号(P2966768)
権利者 住友重機械工業株式会社 大正泰熱株式会社
発明の名称 壁構造体  

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