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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01M
管理番号 1019346
審判番号 審判1999-4519  
総通号数 14 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1989-10-04 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 1999-03-25 
確定日 2000-05-19 
事件の表示 昭和63年特許願第 76724号「鉛蓄電池用極板の製造法」拒絶査定に対する審判事件[平成 1年10月 4日出願公開、特開平 1-248470、平成 7年 9月20日出願公告、特公平 7- 87099]について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.本願の経緯
本願は、昭和63年3月30日に出願し、平成7年9月20日に出願公告され、同年12月18日に日本電池株式会社から特許異議の申立を受けたところ、原審ではその特許異議の申立を理由があるものと決定し、特許異議の決定に記載した理由により本願を拒絶したものであって、その後、審判請求の後当審において平成11年12月7日付で拒絶理由通知がなされたものである。
2.本願発明
本願発明の要旨は、特許法第64条の規定による平成8年8月5日付手続補正書および同法第159条第2項で準用する同法第64条の規定による平成12年2月22日付手続補正書によって出願公告後補正された明細書および図面の記載からみて、特許請求の範囲第1項および第2項に記載された次のものと認める。
(1)鉛の低級酸化物から焼成された、外部が鉛丹で内部が一酸化鉛で構成されている鉛丹粒子を粉砕して、内部の前記一酸化鉛が前記鉛丹と構造的に連結したままで表面に露出した状態の粉末と鉛粉とを混合し、水、硫酸と共に混練したペーストを用いることを特徴とした鉛蓄電池用極板の製造法。
(2)粉砕・混合する鉛丹の鉛丹化率が50%以上90%以下である請求項1記載の鉛蓄電池用極板の製造法。
ただし、特許請求の範囲第1項の「・・・露出した状態の粉末と鉛粉とを混合し・・・」の「鉛粉」とは、本願明細書の実施例中の「ついでこの鉛丹と酸化度70%の鉛粉とを混合して」(本願公告公報第4欄5〜6行)の記載からみて、金属状態の鉛の意味ではなく鉛の低級酸化物の意味であると認める。

3.本願発明と引用例1に記載された発明との対比・判断
上記当審拒絶理由通知で引用したところの引用例1(「STORAGE BATTERIES」、第4版、p.21、26-41(本願と同じ出願人である松下電器産業株式会社が出願した特願昭62-153669号=特公平8-15081号=平成11年審判第369号において特許異議申立人日本電池株式会社が提出した甲第1号証および平成9年8月8日付弁駁書に添付した参考資料1を参照。)には、以下の(A)、(B)、(C)の記述があり、また、引用例1が本願の出願前に頒布された刊行物であることは、発行者であるGeorge Wood Vinalが、第4版は、1955年(本願の出願日より30年以上も前である昭和30年)にカナダで著作権を得たとしている(引用例1の2頁のCopyrightに関する記載を参照。)ことから疑うまでもないことである。
(A)「鉛丹、通称ミニアム、Pb3O4」この鉛の高級酸化物は上述の調質されたリサージと混同されてはならない。化学式に相当する真の鉛丹は400〜500℃の温度でリサージのさらなる酸化によって作られる。しかしながら、酸化が完全であることはめったになく、比較的粗大な粒子は低級酸化物の核を残している。いわゆる電池用鉛丹は普通約25%のリサージを含有している。(第21頁の28〜34行)
(B)鉛丹、Pb3O4は、リサージよりもこれらの溶液とはるかに反応しにくいが、電池用鉛丹は、普通約25%のリサージを含んでいる。硫酸と混合されると、二酸化鉛と水が硫酸鉛とともに形成されるにつれてペーストは黒化する。今日では、ある種の極板は鉛丹のみによって作られるが、最も広く知られている種類の蓄電池、すなわち自動車用蓄電池では、鉛丹は約20%までの未か焼の酸化物とブレンドされる。(第31頁25〜32行)
(C)「成分の混合」入念に秤量され、混合機で混合された乾燥材料は、普通は希硫酸である溶液とともにペーストにされる。・・・しかし、より一般的な手順は、幾分強めの酸溶液(特殊グレードで比重1.200から1.400)を添加するに先立って酸化物にかなりの量の水を加えることである。(第32頁10〜17行)
そして、上記(A)の「化学式に相当する真の鉛丹は400〜500℃の温度でリサージのさらなる酸化によって作られる。しかしながら、酸化が完全であることはめったになく、比較的粗大な粒子は低級酸化物の核を残している。いわゆる電池用鉛丹は普通約25%のリサージを含有している」の記述、および、(B)の「電池用鉛丹は、普通約25%のリサージを含んでいる」という記述の「含んでいる(contains)」という表現からして、引用例には、鉛の低級酸化物であるリサージ(PbO=一酸化鉛)から焼成され、鉛丹化が十分でなく不純物としてリサージ(PbO)を約25%含んでおり、外部が鉛丹で内部にリサージの核を残している鉛丹を蓄電池用に使用すること、すなわち、その結果として鉛丹(Pb3O4)化率が75%程度の鉛丹を蓄電池用に使用することが記載されていると認められる。
また、上記(B)の「最も広く知られている種類の蓄電池、すなわち自動車用蓄電池では、鉛丹は約20%までの未か焼の酸化物とブレンドされる」という記述から、普通の鉛蓄電池では、鉛丹(Pb3O4)に、未か焼で鉛丹化していない鉛酸化物(リサージ=PbO)を混合して鉛蓄電池用極板を製造することが記載されており、上記(C)の「混合機で混合された乾燥材料は、普通は希硫酸である溶液とともにペーストにされる」および「より一般的な手順は、幾分強めの酸溶液を添加するに先立って酸化物にかなりの量の水を加えることである」という記述から、鉛丹などの乾燥材料を水および硫酸と共に混練しペーストとすることが記載されている。
そうすると、引用例1には、鉛の低級酸化物であるリサージから焼成され、鉛丹化が十分でなく不純物としてリサージを25%含んでおり、外部が鉛丹で内部にリサージ(PbO=一酸化鉛)の核を残している鉛丹化率が75%程度の鉛酸化物と未か焼で鉛丹化していない鉛酸化物(リサージ=PbO)からなる鉛粉を、水および硫酸と共に練合したペーストを用いる鉛蓄電池用極板の製造法が記載されていると認められるが、引用例1には、その鉛丹を粉砕して使用することについては特に記載するところがない。
しかしながら、上記当審拒絶理由通知で引用したところの本願の出願より35年も前に頒布された刊行物である引用例2(田川博著、「電池及び蓄電池」、共立出版(株)、昭和28年12月1日初版発行、p90-97(本願において特許異議申立人日本電池株式会社が提出した甲第1号証を参照。)には、「第3節、活物質原料の製造」として、「格子に充填して活物質となすためペーストの原料に用いられる鉛の酸化物には、亜酸化鉛、一酸化鉛(リサージ)、鉛丹(四三酸化鉛)等がある。以下これらの酸化物の製法と性質について述べる。」(第90頁末行から第91頁2行)と記載され、「3.光明丹」として、「光明丹は空気を送入しつつ、鉛粉を約450℃の温度に数時間保つことによって製造することが出来る。Pb3O480%程度のものをつくるのが普通である。鉛粉を一度黄色一酸化鉛迄焼いてしまうと、光明丹にするのに時間がかかるので、鉛粉をアスベスト・コンベアー上にて、低い温度で自己燃焼せしめつつ、一応低級酸化物のマシコットとなし、これを更に撹拌装置と恒温装置を有する炉内に挿入して、空気を送りつつ酸化せしめる。冷却後、粉砕機にかけられて、適度の粒度のものに調整される。」(第96頁下から7〜2行)と記載されており、これらの記載から、鉛蓄電池用原料として、光明丹(Pb3O4=鉛丹)を、製造後粉砕機で粉砕して使用することは、当分野における常套手段であると認められる。
そうすると、引用例1には、鉛丹を粉砕して使用することについては特に記載するところがないとしても、引用例1に記載されているところの「鉛の低級酸化物であるリサージから焼成され、鉛丹化が十分でなく不純物としてリサージを25%含んでおり、外部が鉛丹で内部にリサージ(PbO=一酸化鉛)の核を残している鉛丹化率が75%程度の鉛酸化物」は、使用の前に粉砕されており、その結果として、内部のリサージ(PbO=一酸化鉛)の核は表面に露出した状態になっていて、その状態で使用されるものと解されるし、また、その内部のリサージ(PbO=一酸化鉛)の核が表面に露出した状態になっている部分は、もともと外部の鉛丹部分に囲まれてそれと構造的に連結していたものであるから、粉砕後も当然外部の鉛丹部分と構造的に連結したままの状態となっていると解されるから、本願の特許請求の範囲第1項および第2項に記載された発明と引用例1に記載された発明との間には相違するところが認められない。
4.平成12年2月22日付意見書における請求人の主張についての判断
請求人は、上記意見書において、「引用例2の第95頁第26行目から第27行目には、「いずれにしても、リサージは焼結して塊状となるので、適当の粉砕機を用いて活物質原料に適した粒度に粉砕せねばならない。」と記載されており、ここでも引用例2の「粉砕」は「活物質原料に適した粒度」とするためのものとしか記載されていません。よってこの記載は鉛酸化物の焼成中には酸化物の一時粒子同士が凝集していわゆる二次粒子を形成するので、粉砕によってこの凝集を解いて「適度な粒子のものとする」ことを示唆するものです。したがって、引用例2での「粉砕」はあくまで二次粒子から一次粒子への粉砕であり、一次粒子自体を粉砕して内部の組成物を露出させることを示唆しておりません。また、一次粒子の粉砕についても粉砕が進行することにより内部の一酸化鉛の核と鉛丹の外層の分離が進行するものであり、もちろんこのような場合には本願特有の作用効果を奏することは出来ません。よって、粉砕にも種々の段階があり、引用例1と引用例2の記載からは本願発明の粉砕、すなわち、「粒子自体が破断して内部(一酸化鉛)が表面に露出し、かつ内部の一酸化鉛と外層の鉛丹との構造的な連結が維持された粉砕」を一義的に導きだされるものではありません。」(上記意見書の第2頁下から3行目から第3頁13行)と主張している。
しかしながら、引用例2の第95頁26行から27行の「いずれにしても、リサージは焼結して塊状となるので、適当の粉砕機を用いて活物質原料に適した粒度に粉砕せねばならない。」という記載は、リサージすなわち一酸化鉛についての記載であって、光明丹すなわち鉛丹についての記載ではないから、引用例2の上記記載は、「引用例2での「粉砕」はあくまで二次粒子から一次粒子への粉砕である」という上記主張の根拠にはならないものである。
また、引用例2には、光明丹(鉛丹)の粉砕に関して、一次粒子自体を粉砕して内部の組成物を露出させることを積極的に示す記載はないとしても、光明丹(鉛丹)の粉砕に関して、一次粒子自体の粉砕はしないということや粉砕によって内部の組成物を露出させることは避けるべきであるとかいうことを示す記載もないのであるから、引用例2の光明丹(鉛丹)の粉砕に関する記載は、一次粒子自体を粉砕して内部の組成物を露出させることを排除しているものではない。
さらに、光明丹(鉛丹)の粉砕を過度に行えば、終いには内部の一酸化鉛の核と鉛丹の外層が分離してしまうことはあり得るとしても、引用例2の「3.光明丹」の項には、鉛丹は、冷却後、粉砕機にかけられて、適当の粒度のものに調整されるとしか記載されていないのであるから、引用例2の光明丹の粉砕に関する記載は、粉砕によって内部の一酸化鉛の核と鉛丹の外層が分離することを示しているわけではない。
そして、引用例1と引用例2の記載から、文章上、「粒子自体が破断して内部(一酸化鉛)が表面に露出し、かつ内部の一酸化鉛と外層の鉛丹との構造的な連結が維持された粉砕」が一義的に導きだされるか否かに拘わらず、引用例1に記載されているところの「鉛の低級酸化物であるリサージから焼成され、鉛丹化が十分でなく不純物としてリサージを25%含んでおり、外部が鉛丹で内部にリサージ(PbO=一酸化鉛)の核を残している鉛丹化率が75%程度の鉛酸化物」は、使用の前に粉砕されており、その結果として、内部のリサージ(PbO=一酸化鉛)の核は表面に露出した状態になっていて、その状態で使用されるものと解されるし、また、その内部のリサージ(PbO=一酸化鉛)の核が表面に露出した状態になっている部分は、もともと外部の鉛丹部分に囲まれてそれと構造的に連結していたものであるから、粉砕後も当然外部の鉛丹部分と構造的に連結したままの状態となっていると解されることは上記3の項で既に述べたところである。
したがって、請求人の上記意見書における上記主張は、上記3の項の判断を覆すものではない。
5.結び
したがって、本願の特許請求の範囲第1項および第2項に記載された発明は、本願の出願前に頒布された刊行物である引用例1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものである。
よって結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2000-03-13 
結審通知日 2000-03-16 
審決日 2000-03-28 
出願番号 特願昭63-76724
審決分類 P 1 8・ 113- WZ (H01M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 北村 明弘鈴木 正紀  
特許庁審判長 荻島 俊治
特許庁審判官 能美 知康
影山 秀一
発明の名称 鉛蓄電池用極板の製造法  
代理人 岩橋 文雄  
代理人 内藤 浩樹  
代理人 坂口 智康  

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