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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H02M
管理番号 1022269
審判番号 審判1997-14523  
総通号数 15 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1990-06-05 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 1997-09-01 
確定日 2000-06-21 
事件の表示 昭和63年特許願第299590号「電力変換回路」拒絶査定に対する審判事件[平成2年6月5日出願公開、特開平2-146265]について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 【1】本願発明
本願は、昭和63年11月29日の出願であって、その発明を特定するために必要な事項は、当審における平成11年10月14日付の拒絶理由通知に基づき平成11年12月28日付手続補正書により補正された全文補正明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1乃至11に記載された「電力変換装置」にあるものと認められるところ、当該請求項1に記載された発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。
「(1)「直流電圧を供給する直流電源手段」と、
「その主電流の飽和特性を利用できる第1の可制御スイッチング手段」と、
「前記直流電源手段の両出力端子間に前記第1の可制御スイッチング手段と共に直列接続されるインダクタンス手段」と、
「前記第1の可制御スイッチング手段にオン信号を供給するオン信号供給手段」と、
「どの主アームの構成要素としても使われることなく、前記第1の可制御スイッチング手段の両主端子間電圧を検出し、その大きさが電圧所定値より大きい限り、前記オン信号の供給を妨げて前記第1の可制御スイッチング手段をオフ制御する電圧検出手段」、
を有することを特徴とする電力変換回路。」
【2】引用刊行物
(1) これに対して、当審における前記拒絶の理由に引用された実公昭53-27285号公報(以下、「引用例1」という。)には、「DC-DCコンバータ」に係る発明が開示され、その実施例と共に図面の第2図乃至第3図を参酌すると、以下の記載が認められる。
「発振トランジスタに始動電流を供給するとともに発振開始後は上記発振トランジスタのベース電流を制御することにより上記発振トランジスタのコレクタ電流の飽和点を制御する始動用トランジスタを備えたDC-DCコンバータにおいて、上記発振用トランジスタのコレクタあるいはコレクタ巻線と上記始動用トランジスタのベースとの間にダイオードを接続してなるDC-DCコンバータ。」(第1頁左欄「実用新案登録請求の範囲」)
「以下第2図の一実施例により説明する。この図において1,4〜12,14はそれぞれ第1図の1,4〜12,14と同様であるので説明は省略する。20はコレクタ巻線12と出力巻線14とからなるトランス、21はダイオード、23はコンデンサである。
この場合トランジスタ8のベース電流、コレクタ電流、続いてトランジスタ1のベース電流と流れて発振が開始する。
トランジスタ1のコレクタ電流が飽和した時点でコレクタ巻線12に誘起していた電圧が落ちだし、そして逆転する。以上はリンギング発振の基本動作であるがコレクタ巻線12の中間に適当な巻線でタップをだし、ダイオード21を通しトランジスタ8のベースに接続することによりコレクタ巻線12の電圧が逆転した時にダイオード21が導通しトランジスタ8のベースが引き上げられトランジスタ8はOFFする。
トランジスタ8がOFFすればトランジスタ1も当然OFFし、ダイオード4および10がONしてえ出力コンデンサ5および11を充電する。充電が終り、ダイオード4および10がOFFし、コレクタ巻線12の電圧が逆転すると、ダイオード21がカットオフになることからトランジスタ1はまたONする。ただ以上の構成だけであると、トランジスタ1のON-OFFの切れが悪く効率が若干悪いが、コンデンサ23によって過渡的に、出力巻線14(コレクタ巻線12と極性逆)より帰還をかけることによりトランジスタ1のON-OFFの切れは改善でき、このコンデンサ23により効率は第1図の従来のもの差がない。
なおダイオード21の接続はコレクタ巻線12の中間タップでなくとも第3図のようにトランジスタ1のコレクタでも良い。」(第1頁右欄第13行〜第2頁左欄第9行)
(2) また、同じく当審における前記拒絶の理由に引用された実願昭61-137107号(実開昭63-44693号)のマイクロフィルム(以下、「引用例2」という。)には、「スイッチング・レギュレータ」が開示され、その実施例及び第1図乃至第2図の記載を参酌すると、以下の記載が認められる。
「上記コンデンサC1、抵抗R1およびトランジスタQ2は1次巻線Taの電圧VDに基づいて電界効果トランジスタQ1のON/OFF状態を保持する状態保持手段21を構成し、上記抵抗R7、R8、帰還増幅器IC、トランジスタQ5、フォトカプラPC、抵抗R4、R5、R6、トランジスタQ4、コンパレータCO、抵抗R3、およびトランジスタQ3は電界効果トランジスタQ1を流れる電流による電圧降下VSを出力電圧VOと比較し電界効果トランジスタQ1のON時間を制御するON時間制御手段22を構成している。」(公開明細書第10頁第1〜12行)
「電界効果トランジスタQ1がOFFした瞬間、バイアス巻線Tbの電圧は巻き始め側がプラスとなるので、ダイオードDは導通し、電界効果トランジスタQ1のON時間TON中に変圧器Tに蓄積されたエネルギーがダイオードDを通して出力側に供給さる。このときの出力電流IOは、第2図(f)に示すように、1次電流IDの大きさに対応しており、この出力電流IOが放出されると、変圧器Tの1次巻線Taの電圧、すなわちドレイン電圧VDは、第2図(c)に示すように、入力電圧Viより高い値から約入力電圧Viの大きさまで低下する。このドレイン電圧VDの低下によりトランジスタQ2がOFFとなり、この時点から電界効果トランジスタQ1のゲートGのチャージアップが開始されて、初期状態にもどる。」(同第15頁第2〜17行)
「電界効果トランジスタQ1のON/OFF保持を変圧器Tの1次巻線Taの電圧VDに基づいてコンデンサC1、抵抗R1およびトランジスタQ2により行っているため、変圧器Tからバイアス巻線を省くことができ、変圧器Tを簡単な構造とすることができる。したがって、変圧器Tのコスト、ひいてはスイッチング・レギュレータのコストを低減することができる。」(同第16頁第13〜20行)
【3】本願発明と引用例1又は2記載の発明との対比・判断
(対比)
本願発明と前記引用例1又は2に記載された発明(引用例1[特に第3図に係わるもの、参照]で代表し、以下「引用例発明」という。)とを対比すると、両者は何れも直流電圧をスイッチング用のトランジスタでオン・オフ制御するものであるから、「電力変換回路」といえるものである。
そして、引用例発明における「発振トランジスタ(1)」は、「コレクタ電流が飽和した時点でコレクタ巻線12に誘起していた電圧が落ちだし、そして逆転する。」との記載が認められる(前記摘記した引用例1の第1頁右欄第22〜24行)ことから、本願発明における「主電流の飽和特性を利用できる第1の可制御スイッチング手段」に相当し、また引用例発明における「コレクタ巻線(12)」、「抵抗(7)(9)及びトランジスタ(8)」及び「ダイオード(21)、トランジスタ(8)及び抵抗(7)(9)からなるもの」は、それぞれ本願発明における「インダクタンス手段」、「オン信号供給手段」及び「電圧検出手段」に相当するものと認められる。
なお、引用例発明における前記「ダイオード(21)、トランジスタ(8)及び抵抗(7)(9)からなるもの」は発振トランジスタ(1)などの主アームと独立して構成されており、本願発明の「電圧検出手段」と同様構成であるから、「どの主アームの構成要素としても使われることなく」構成されているといえるものであり、また引用例発明における前記「トランジスタ(8)」はそのベースが所定の電圧値を超えるとオフとなることにより「発振トランジスタ(1)」の駆動電流(ON電流)・電圧を遮断・停止させるように機能するものであるから、本願発明と同様に「オン信号の供給を妨げて」オフ制御するものといえるものである。
したがって、本願発明と引用例発明とは、
「直流電圧を供給する直流電源手段と、
その主電流の飽和特性を利用できる第1の可制御スイッチング手段と、
前記直流電源手段の両出力端子間に前記第1の可制御スイッチング手段と共に直列接続されるインダクタンス手段と、
前記第1の可制御スイッチング手段にオン信号を供給するオン信号供給手段と、
どの主アームの構成要素としても使われることなく、前記第1の可制御スイッチング手段の電圧を検出し、その大きさが電圧所定値より大きい限り、前記オン信号の供給を妨げて前記第1の可制御スイッチング手段をオフ制御する電圧検出手段、
を有する電力変換回路。」
で一致し、次の点で相違するものと認められる。
(1)電圧検出手段が、本願発明にあっては、第1の可制御スイッチング手段の両主端子間電圧を検出し、その大きさが所定値より大きい限り、前記オン信号の供給を妨げて前記第1の可制御スイッチング手段をオフ制御するように構成されるものであるのに対し、引用例発明にあっては、発振トランジスタ(1)のコレクタからダイオード(21)を通してトランジスタ(8)のベース接続し、該トランジスタ(8)をオフ制御することによりオン信号の供給を妨げて前記発振トランジスタ(1)をオフ制御するように構成するものであって、この検出する電圧が発振トランジスタ(1)の両主端子間電圧であるとの明示がない点、
(判断)
以下、相違点について検討する。
相違点(1)について、本願発明において電圧検出手段が検出する電圧は、主電流が飽和した時などに第1の可制御スイッチング手段にかかる電圧を検出することができるものであればその目的を達成することができるものであり、また電圧を検出する具体的手段としてFET等のトランジスタの両主端子間にかかる電圧を検出することは周知の技術的事項である。
そして、引用例発明(引用例1)においても、ダイオード(21)を発振トランジスタ(1)のコレクタとトランジスタ(8)のベースとの間に接続するものであって、該引用例1には「コレクタ巻線12の電圧が逆転した時にダイオード21が導通しトランジスタ8のベースが引き上げられトランジスタ8はOFFする。トランジスタ8がOFFすればトランジスタ1も当然OFFし」(同公報第1頁右欄第27〜32行)と記載されており、またその具体的構成(引用例1の第3図参照)においても、該ダイオード(21)と抵抗(9)の直列接続体が発振トランジスタ(1)の両主端子間に接続されて前記電圧を検出するものであるから、本願発明における電圧検出手段により検出する電圧と同様の電圧を検出するものと認められる。
したがって、本願発明における電圧検出手段として、第1の可制御スイッチング手段の両主端子間電圧を検出し、その大きさが所定値より大きい限り、オン信号の供給を妨げて前記第1の可制御スイッチング手段をオフ制御するように構成することは、当業者が容易になし得ることと認められる。
また、本願発明における作用効果も、引用例1乃至2に記載のものから当業者が容易に予測し得る程度のものであって格別のものとは認められない。
【4】審判請求人の主張について
審判請求人は、本願発明について平成11年12月28日付意見書及び平成12年2月3日付上申書において、概要(1)「本願第1〜第4、第7の各発明は、電圧検出手段を『どの主アームの構成要素としても使わずに』構成要素として組み入れているので『そのままの構成でも電源電圧の大きさが電圧所定値を越えると自動的に動作停止し、その電源電圧の大きさがその電圧所定値より小さくなると自動的に再起動することができる』という本願発明独特の効果を持ちます。」、(2)「本願第1、第3の各発明の様に「電源電圧と(1次側)巻線の電圧の和」を直に直流的に検出すると、その電圧検出手段がオンしっ放しになるのではないかという思い込みみたいなものが当業者に有ったと思います。」との本願発明に係る構成及び作用効果を主張している。
しかしながら、当該主張(1)については、前記判断において検討したとおりのものであり、その作用効果も当業者が予測し得るものであって格別のものとは認められず、また主張(2)における「電源電圧と(1次側)巻線の電圧の和」を直に直流的に検出する(なお、この点の構成は請求項1に規定されていないが)旨の主張も、引用例1における具体的構成のものと格別の差異を見いだすことができないので、審判請求人の当該主張はいずれも採用することができない。
また、その余の主張によっても前記当審における拒絶の理由を撤回すべき事由は見当たらない。
【5】まとめ
以上のとおりであるから、本件特許請求の範囲の請求項1に記載された発明は、引用例1、2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものと認められるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、特許請求の範囲の請求項2乃至11について論及するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2000-04-04 
結審通知日 2000-04-14 
審決日 2000-04-25 
出願番号 特願昭63-299590
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H02M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山本 穂積安池 一貴  
特許庁審判長 吉村 宅衛
特許庁審判官 大森 蔵人
川端 修
発明の名称 電力変換回路  

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