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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C07H
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C07H
管理番号 1024048
異議申立番号 異議1999-72748  
総通号数 15 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1993-02-23 
種別 異議の決定 
異議申立日 1999-07-19 
確定日 2000-07-03 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第2848721号「結晶ラクチュロース三水和物とその製造法」の特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第2848721号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 
理由 (1)手続きの経緯
本件特許第2848721号は、平成3年8月9日に特許出願され、平成10年11月5日にその特許の設定登録がなされ、特許異議の申立てがあり、その後、取消理由が通知されたところ、その指定期間内である平成12年1月17日に訂正請求がなされたものである。
(2)訂正の可否についての判断
i)、訂正請求の内容
a,特許請求の範囲の請求項3における「ラクチュロースを種晶添加し、」を「ラクチュロース三水和物を種晶添加し、」と訂正する。
b、発明の詳細な説明の段落0010の「ラクチュロースを種晶添加し、」を「ラクチュロース三水和物を種晶添加し、」と訂正する。
ii)、訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
上記訂正aは、特許明細書中の実施例1における「三水和物30gを種晶添加し、」の記載等に基づいて、特許請求の範囲の請求項3における結晶ラクチュロース三水和物の製造法で添加する種晶をラクチュロース三水和物に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、訂正bは、上記訂正で特許請求の範囲を限定したことに伴い、発明の詳細な説明の記載を整合させようとするものであり、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであるし、これらの訂正a,bは願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内のものである
また、訂正a,bは、実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。
iii)、独立特許要件の判断
上記訂正後の発明、即ち訂正明細書に記載された請求項1〜3に係る発明は、後記(3)に記載したことから明らかなように独立して特許を受けることができるものである。
したがって、上記訂正請求は、特許法第120条の4第2項及び第3項で準用する第126条第2〜4項の規定に適合するので、当該請求を認める。
(3)特許異議の申立てについての判断
i)、本件発明
本件請求項1〜3に係る発明は、訂正明細書の記載からみて、その特許請求の範囲に記載された次のとおりのものである。
請求項1 C22H22O22・3H2Oの分子式を有する結晶ラクチュロース三水和物。
請求項2 次の理化学的性質を有する請求項1記載の結晶ラクチュロース三水和物、1)元素分析 炭素:水素:酸素のモル比率が12:28:14であること、2)分子量 氷点降下法で測定した分子量が396ダルトンであること、3)水分 カールフィッシャー法で測定した水分含量が13.6%(重量)であること、4)融解開始点 キャピラリー式で測定した融解開始点が58〜60℃であること、および、5)比旋光度 変旋光を示すが、平衡時1%(重量)水溶液を20℃で測定した比旋光度数が-43,1±0.3°であること。
請求項3 固形分中無水ラクチュロース換算でラクチュロースを70〜90%(重量)の割合で含有するラクチュロース・シロップを、このシロップに含まれている乳糖の水中糖比、および全固形分含量がそれぞれ10%(重量)以下および65〜75%(重量)の範囲に濃縮し、濃縮したシロップを2〜20℃の温度に冷却し、ラクチュロース三水和物を種晶添加し、撹拌して結晶ラクチュロース三水和物を生成させたのち、この三水和物を分離することを特徴とする結晶ラクチュロース三水和物の製造法。
ii)、特許異議申立人の主張
これに対して、特許異議申立人は、甲第1号証(欧州特許出願公開0318630A1)、甲第2号証(1996年1月29日付けの Giuseppe BIMBIの宣誓供述書)、甲第3号証(1998年8月12日付けのデルフト工科大学のG.M.van Rosmalen教授のHatzmannに宛てた報告書)を提出し、本件請求項1〜3に係る発明は、a、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し、また、b,甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである、と主張している。
iii)、判断
a、特許法第29条第1項第3号違反について
a-1)、請求項1について
甲第1号証には高精製結晶ラクチュロースを製造する方法およびその方法で得られる生成物に関する記載があり、その請求の範囲には「ラクチュロース以外の炭水化物が2%未満で、98%を超える純度を有する結晶ラクチュロースの製造方法であって、以下の特徴を有する水溶液を結晶化することを特徴とする方法:a)水溶液中のラクチュロース濃度が50〜80%w/w、b)ラクトース濃度が該ラクチュロース濃度の5重量%未満、c)ガラクトース濃度が該ラクチュロース濃度の5%重量未満、d)その他の炭水化物の濃度が該ラクチュロース濃度の4重量%未満。」(請求の範囲1)が記載され、実施例2には、「以下の組成を有する1000kgのラクチュロース溶液を68%のラクチュロース濃度になるまで、真空下で濃縮する。ラクチュロース50%、ラクトース0.7%、ガラクトース0.9%、その他の糖0.3%、水 100%になるように調整。濃縮した溶液を35℃まで冷却し、その後1kgの結晶ラクチュロースを添加する。緩やかに撹拌しながら20時間かけて温度を15℃まで冷却し、この温度をさらに16時間維持する。遠心分離によって、373kgのウェット生成物(KF17%)を得た。これは、収率が61.7%および純度が98.3%の309.5kgの乾燥生成物に当たる。」ことが記載されている。
本件請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)と甲第1号証記載の発明とを対比すると、甲第1号証には、ラクチュロースの結晶を得たことが記載されており、両者は結晶ラクチュロースである点で共通するものの、本件請求項1に係る発明はラクチュロース三水和物に特定しているのに対して、甲第1号証にはラクチュロース三水和物は明示されていない。
この点について、特許異議申立人は、甲第1号証の実施例2に記載の結晶ラクチュロースの製造法は、本件明細書中に記載された三水和物の製法と類似しているし、該実施例の追試をしたところ、甲第2号証に示されるようにラクチュロース三水和物の結晶が得られたから、該三水和物の結晶は甲第1号証に記載されていたものである旨の主張をしているので、以下、甲第1号証の実施例2およびその追試を記載した甲第2号証について検討する。
本件発明の上記三水和物の製法と甲第1号証の実施例2(以下「引用実施例」という。)に記載の方法とを比較検討すると、ア)、原料のラクチュロースシロップに含まれる固形分中のラクチュロース含量は、本件発明では70〜90%であるのに対して、引用実施例では96.3%である点、イ)、濃縮液に添加する種晶が、本件発明ではラクチュロース三水和物であるのに対して、引用実施例では単にラクチュロース結晶であるとしている点、ウ)、種晶添加時の濃縮液の温度が、本件発明では2〜20℃であるのに対して、引用実施例では35℃である点で、両者は相違しており、さらに結晶化条件を詳細にみると、エ)、種晶添加後の冷却速度として、本件実施例では20℃又は15℃から5℃までに7日間を要して、或いは15℃から2℃までに4日間を要して、1時間当り0.06℃〜0.14℃程度でゆっくりと長時間をかけて冷却するものであるのに対して、引用実施例の冷却速度は35℃から15℃まで20時間を要して、つまり1時間当り1℃の冷却速度で急速に冷却するものあり、また、オ)、本件実施例では5℃又は2℃までゆっくりと冷却した後、3日後に結晶を分離したのに対して、引用実施例では、急速に15℃まで冷却した後、僅か16時間維持して結晶を分離するものである点で相違している。
結局、本件発明の上記三水和物の製法と引用実施例に記載された製法とは、原料組成、種晶自体及び該種晶添加時の温度、さらには、結晶析出時の冷却速度及びその後の低温維持期間までも相違していることから、両者の製法の類似性をもって、同一の水和物結晶が通常は得られるとすることはできない。
次に、甲第2号証をみると、甲第1号証記載の上記引用実施例の追試をしたところ、その生成物である結晶について、KF値、融解開始点、比旋光度及びIRスペクトルの分析データが、本件特許発明のラクチュロース三水和物結晶の分析データと同様のものであるというので、その追試内容と上記引用実施例との対応関係を検討する。
先ず原料組成についてみると、追試ではラクチュロース50%、ラクトース0.87%、ガラクトース0.87%、その他の糖0.47%であり、上記引用実施例の原料組成と一致していないし、製造法の規模として上記引用実施例では1000kgを扱うのに対して、追試では88kgであり、35℃まで冷却したときに添加する種晶の量が引用実施例では1000gであるのに対して、追試では90gであり、また、両者は種晶として「結晶ラクチュロース」を加えたというが、その結晶の形状等は明記されていないから、同一の種晶粒子を使用したということはできず、さらに、両者は共に緩やかな攪拌下に20時間かけて15℃まで冷却したとしているが、その規模の異なる両者の攪拌条件も具体的に示されておらず、種晶及び析出結晶の懸濁状態が同様に保持されていたとすることもできない。
してみると、甲第2号証で示される追試は、甲第1号証の上記引用実施例に記載の製法と比較して、必ず同一の結晶のみが生じる同一の方法であるとまでは断定することができないものである。
一方、平成12年1月17日付けで特許権者が提出した実験成績証明書には、上記引用実施例の追試について次の内容が示されている。つまり、ラクチュロース49.5%、ラクトース0.73%、ガラクトース0.9%、その他の糖0.39%の組成の水溶液100kgをラクチュロース濃度68%まで濃縮した後、35℃まで冷却し、種晶として粒径100μmのラクチュロース結晶無水物を100g添加し、その後ゆっくりと攪拌しつつ、20時間を要して35℃から15℃まで冷却した後、16時間その温度に保持したが、実体顕微鏡検査及び屈折率測定を行った結果、ラクチュロースの結晶を確認できなかったとしている。そして、この実験成績証明書に記載された追試も、その原料組成、追試の規模、種晶の粒径等からみて、甲第2号証に記載の追試と同様に、上記引用実施例に記載の結晶化方法と類似の方法であるが、同一であると断定することができないものである。
ところで、甲第1号証の引用実施例には、種晶の具体的な形状、種晶の懸濁状態、撹拌条件等の細部については具体的に記載されていないことから、該実施例に対して多数の追試が想定されるのであり、これを考慮すると、その想定される多数の追試の中から、三水和物を生成し得る特別の条件を選択して三水和物の結晶が得られるとしても、その引用実施例で既に三水和物結晶が得られていたとまではいうことができない。
してみると、甲第2号証で示された追試の一例をもって、甲第1号証の引用実施例において既に三水和物が得られていたとまではいうことができない。
また、甲第3号証には、Inalco社のラクチュロース三水和物、ラクチュロース無水物並びにSolvay Dulphar社のラクチュロース無水物についてのX線回折の記録及び走査電子顕微鏡の記録に関して記載され、Solvay Dulphar社のラクチュロース無水物が三水和物から変換したものであるとする見解、Solvay Dulphar社で使用しているフラッシュ蒸発の系でその水分蒸発により局部的な過飽和を招き三水和物の結晶化が生じるとする見解等が述べられているが、これらは甲第1号証の上記引用実施例の方法に関するものではないし、また、ラクチュロース無水物の種結晶が必ずラクチュロース無水物の結晶を生成するものではない旨の見解も述べているが、これは無水物結晶を種晶として使用していることが、三水和物結晶が得られない根拠にならないというに止まり、甲第1号証の引用実施例で三水和物が得られる根拠を述べたものではない。
したがって、甲第2号証及び甲第3号証を組み合わせてみても、甲第1号証の引用実施例において、ラクチュロース三水和物が得られていたとすることはできないから、本件請求項1に係る発明は甲第1号証に記載された発明であるとすることはできない。
a-2)、請求項2について
請求項2に係る発明は、請求項1に係る結晶ラクチュロース三水和物の理化学的性質を限定するものであり、結晶ラクチュロース三水和物が上記a-1で述べたように甲第1号証に記載されているとはいえないのであるから、同様の理由により請求項2に係る発明も甲第1号証に記載されているとはいえない。
a-3)、請求項3について
請求項3に係る発明は、請求項1に係る結晶ラクチュロース三水和物の製造法であるのに対して、上述のように、甲第1号証記載の方法では、結晶ラクチュロース三水和物は得られていないし、その原料組成も相違し、さらに種晶にラクチュロース三水和物を使用しているともいえないのであるから、請求項3に係る発明が甲第1号証に記載された発明であるとすることはできない。
b)、特許法第29条第2項違反について、
b-1),請求項1に係る発明について
上記a-1で述べたように、甲第1号証記載の方法によれば結晶化条件を格別選択することなく三水和物が得られるとはいえないものであるし、また、三水和物結晶を得ようとすることは何ら記載されていないのであるから、結晶化条件を種々検討してラクチュロース三水和物を得ることが当業者にとって容易になし得たとすることはできない。
また、本件請求項1に係る結晶ラクチュロース三水和物は、本件特許明細書の表1の記載等からみて、長期保存安定性等に優れた効果を奏するものであると認められる。
したがって、本件請求項1に係る発明が、当業者にとって容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。
b-2),請求項2に係る発明について
請求項2に係る発明は、請求項1に係る結晶ラクチュロース三水和物について理化学的性質を限定したものであるから、上記b-1で述べた理由と同様の理由により請求項2に係る発明も当業者が容易に発明をすることができたものではない。
b-3),請求項3に係る発明について
請求項3に係る発明は、請求項1に係る結晶ラクチュロース三水和物の製造法であるところ、上記b-1で述べたように、甲第1号証の記載から結晶ラクチュロース三水和物を得ることは容易になし得たとすることができないものであるから、同様の理由により、請求項3に記載の発明が甲第1号証に記載された発明から容易になし得た発明であるとすることはできない。
(4)むすび
以上のとおり、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件請求項1〜3に係る特許を取り消すことができない。
また、請求項1〜3に係る特許について、他に取消理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
結晶ラクチュロース三水和物とその製造法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 C12H22O11・3H2Oの分子式を有する結晶ラクチュロース三水和物。
【請求項2】 次の理化学的性質を有する請求項1記載の結晶ラクチュロース三水和物、
1)元素分析
炭素:水素:酸素のモルヒ率が12:28:14であること、
2)分子量
氷点降下法で測定した分子量が396ダルトンであること、
3)水分
カールフィッシャー法で測定した水分含量が13.6%(重量)であること、
4)融解開始点
キャピラーリー式で測定した融点開始点が58〜60℃であること、および
5)比旋光度
変旋光を示すが、平衡時1%(重量)水溶液を20℃で測定した比旋光度が-43.1±0.3°であること。
【請求項3】固形分中無水ラクチュロース換算でラクチユロースを、70〜90%(重量)の割合で含有するラクチュロース・シロップを、このシロップに含まれている乳糖の水中糖比、および全固形分含量がそれぞれ10%(重量)以下および65〜75%(重量)の範囲に濃縮し、濃縮したシロップを2〜20℃の温度に冷却し、ラクチュロース三水和物を種晶添加し、撹拝して結晶ラクチュロース三水和物を生成させたのち、この三水和物を分離することを特徴とする結晶ラクチュロース三水和物の製造法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
この発明は、ビフィズス菌の増殖促進作用を有するラクチュロースの新規な結晶三水和物とその製造法に関するものである。
本明細書において、結晶ラクチュロース三水和物は、C12H22O11・3H2Oの分子式を有する物質(以下三水和物と記載するとがある)であり、無水ラクチュロースは、従来知られている無水の結晶ラクチュロース(以下無水物と記載することがある)である。
【0002】
【従来の技術】
ラクチュロース(4-0-β-D-ガラクトピラノシル-D-フラクトフラノース)は、ビフィズス菌増殖促進因子として公知の物質であり、乳糖にロブリー・ドブリュイン転位を行って製造される天然に存在しない二糖類である。このラクチュロースは、水に対する溶解度が高いために、安定な粉末を得るのが困難であり、通常シロップ状で利用されている。しかしながら、繁雑な工程で粉末化、または結晶化した製品も市販されている。
【0003】
ラクチュロースの結晶を得る方法としては、アルコール類(メタノール、エタノール等)を用いた晶析法が知られている。この方法では、高純度のラクチュロース結晶が得られるが、最終製品中に相当量のアルコール類が残存し、しかも高純度のラクチュロース結晶を得るためには、原料シロップからラクチュロース以外の糖類を除去してラクチュロース純度を高くしなければならないこと、及びアルコール類を用いるために複雑な装置、処理が必要になること、等の問題がある。アルコール類を使用せずにラクチュロースの結晶または粉末を得る方法も開発されている[特開平2-200693号公報(以下発明1と記載する)、特開平1-153692号公報(以下発明2と記載する)、および特開昭61-104800号公報(以下発明3と記載する)]。
【0004】
発明1は、高純度に精製したラクチュロース・シロップを、高濃度に濃縮し、少量のラクチュロースを添加して結晶を生成させ、得られた結晶を減圧乾燥し、乾燥物を粉砕してラクチュロース粉末を得る方法である。
発明2は、ラクチュロース濃度が50〜80%(重量。以下特に断りのない限り同じ)、乳糖濃度がラクチュロース濃度の5%以下、ガラクトース濃度がラクチュロース濃度の5%以下、およびその他の炭水化物の濃度がラクチュロース濃度の4%以下であるラクチュロース水溶液からラクチュロースを結晶させ、分離する方法である。
【0005】
発明3は、固形分中60%以上のラクチュロースを含むラクチュロース水溶液を濃縮し、得られた濃縮物を60〜110℃に保ちつつ、これに結晶種を加えて濃縮物の最終固形分を94〜98%に調整して、練合し、得られた固化物を粉砕する方法である。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記従来の方法のうち、発明1は、精製ラクチュロース・シロップの全固形分を粉末化するので、シロップの精製度以上に純度を高くすることはできない。
また、発明2の方法の場合には、固形分中のラクチュロース濃度が94.3%以上でなければならず、通常得られるラクチュロース・シロップを極めて高純度に精製する必要がある。
【0007】
さらに、これら従来の発明により得られるラクチュロースの結晶は、それらの分析結果からいずれも無水物である。無水物は、高湿度の環境下で保存した場合、吸湿して固化、潮解を生じ、長期間保存した場合には、褐変、分解するので、製品を充填する容器、および保存条件には特別の配慮が必要であった。
以上のように、従来ラクチュロースの結晶は無水ラクチュロースであり、結晶水を有する安定なラクチュロースの結晶(水和物)については、文献に未記載であり、従来知られていなかった。
【0008】
この発明は、以上の通りの事情に鑑みてなされたものであり、アルコール等の有機溶媒を含まず、高純度であり、吸湿等がなく、長期間の保存によっても安定なラクチュロースの結晶とその製造法を提供することを目的としている。
【0009】
【課題を解決するための手段】
この発明の発明者等は、安定なラクチュロースの結晶について研究した結果、ラクチュロースの新規な三水和物が存在すること、およびこの新規な三水和物が通常の低いラクチュロース純度のシロップから容易に得られることを発見し、しかもこの結晶が極めて安定であること、および有用であることを確認し、この発明を完成した。
【0010】
すなわち、この発明は上記の課題を解決するものとして、C12H22O11・3H2Oの分子式を有する結晶ラクチュロース三水和物を提供する。
またこの発明は、固形分中無水ラクチュロース換算でラクチュロースを70〜90%(重量)の割合で含有するラクチュロース・シロップを、このシロップに含まれている乳糖の水中糖比、および全固形分含量がそれぞれ10%(重量)以下および65〜75%(重量)の範囲に濃縮し、濃縮したシロップを2〜20℃の温度に冷却し、ラクチュロース三水和物を種晶添加し、擬絆して結晶ラクチュロース三水和物を生成させたのち、この三水和物を分離することを特徴とする結晶ラクチュロース三水和物の製造法を提供する。
【0011】
この発明の三水和物は次のようにして製造することができる。
出発物質として用いるラクチュロース・シロップは、公知の方法(例えば、特許第874,954号等)により製造された物であってもよく、市販品であってもよい。通常、ラクチュロース・シロップは、水分の他、45〜55%のラクチュロース、2〜8%のガラクトース、2〜5%の乳糖、および2〜8%のその他糖類を含んでおり、固形分中のラクチュロース純度は70〜90%である。この発明の方法においては、この通常のラクチュロース・シロップを何ら精製することなく、そのまま出発物質として使用することができる。なお、固形分中のラクチュロース濃度が70%未満の場合、ラクチュロース以外の物質が結晶し易くなり、三水和物の分離が困難となり、望ましくない。
【0012】
ラクチュロース・シロップには溶解度の低い乳糖が含まれているので、三水和物を得るためには、乳糖の結晶を可及的に排除するのが望ましい。そのためにラクチュロース・シロップに含まれている乳糖の水中糖比[乳糖含量/(乳糖含量+水分含量)]を10%以下、全固形分濃度を65〜75%に濃縮する。全固形分濃度が65%未満の場合には、ラクチュロースが過飽和とならないため三水和物の析出がないか、または析出しても収量が低い。逆に全固形分濃度が75%を超える場合、ラクチュロース・シロップの粘度が高くなり、取扱いが困難となる。
次いで濃縮ラクチュロース・シロップを2〜20℃の温度に冷却し、ラクチュロースを種晶添加し、攪拌して結晶を析出させる。結晶を析出させるには、可及的に低い温度が望ましく、しかも徐冷して大きな結晶を析出させるのが望ましい。種晶添加(シーディング)するラクチュロースは、三水和物を使用する。
【0013】
充分結晶を生成させ、のち三水和物を公知の方法(例えば、遠心濾過法、デカンテーション法等)で分離する。分離した三水和物を水洗し、不純物を除去するが、三水和物は溶解度が高いので、可及的少量の冷水で行うのが望ましい。
次いで水洗した三水和物を乾燥する。加温した場合、三水和物が溶解して結合し、塊となって乾燥が困難となる。従って、例えば流動乾燥、真空乾燥等により室温で乾燥し、三水和物を得る。
【0014】
以上のようにして得られた三水和物は、次に示す理化学的性質を有する他、水に溶解するとき吸熱するので、口に入れたとき冷感を有し、更に高湿度の環境においても長期間安定である。
この発明の三水和物は次の理化学的性質を有する。
(1)分子式
C12H22O11・3H2Oの分子式を有する。
(2)元素分析
炭素:水素:酸素のモル比率が12:28:14である。
(3)分子量
氷点降下法で測定した分子量が396ダルトンである。
(4)水分
カールフィッシャー法で測定した水分含量が13.6%(重量)である。
(5)融点開始点
キャピラリー式で測定した融点開始点が58〜60℃である。
(6)比旋光度
変旋光を示すが、平衡時1%(重量)水溶液を20℃で測定した比旋光度が-43.1±0.3°である。
(7)呈色反応
フェーリング試験 陽性
アンモニア試験* 陽性
レゾルシン試験 陽性
ニンヒドリン試験 陰性
*:アンモニア試験は、イギリス薬局方記載の方法[ブリティッシュ・ファーマコピア(British Pharmacopeia)、第1巻、328ページ、オフィス・オブ・ザ・ブリティッシュ・ファーマコピア・コミッション(Office of the British Pharmacopeia Commission)、1988年]に従い、結晶ラクチュロース三水和物の5%(W/V)溶液5mlを9Mアンモニア5mlとともに水槽中で80℃に10分間加熱して行った。
(8)ラクチュロースの定性および定量
第22改正アメリカ薬局方記載の方法[ザ・ユナイテッド・ステーツ・ファーマコピア(The United States Pharmacopeia;twenty-second revision)、571ページ、ユナイテッド・ステーツ・ファーマコピア・コンベンション(United States Pharmacopeia Convention,Inc.)、1990年]による液体クロマトグラフ法および日本薬局方外 医薬品成分規格記載の方法(厚生省監修、 旧本薬局方外医薬品成分規格1986」、1124ページ.、薬業時報社、1986年)によるガスクロマトグラフ法で試験した結果、いずれも無水物と同一のカラム保持時間を示し、その定量値はいずれも86.4%であった。
(9)酸性、塩基性、中性の別
中性
(10)赤外線吸収スペクトル
図1に示すとおりである。図1はニジョルに分散し、測定した赤外線吸収スペクトルである。図1の横軸は波数、縦軸は吸収を示す。3600〜3200cm-1(νOH)と1200〜1000cm-1(γCO)に糖類一般の複雑な吸収を示し、無水物とは1200〜900cm-1の領域の吸収スペクトルに差異が認められる。
(11)溶解性
水に易溶。メタノールに可溶、ただし速やかに無水物が析出する。エタノールに不溶、ただし速やかに無水物となり、溶解する。アセトン、エチルエーテル、ベンゼンに不溶。
(12)色調
無色または白色
この発明の三水和物は、従来公知の無水物と同様の用途を有しており、便秘改善剤、肝性脳症治療剤、肝性昏睡治療剤、高アンモニア血症等の医薬品に、ビフィズス菌増殖因子として食品、医薬品に、ノンカロリー甘味剤、虫歯予防甘味剤、低甘味剤等として食品に、そのまま、他の成分と混合して粉状、または錠剤等として使用することができる。このような用途にこの発明の三水和物を使用した場合、吸湿性がないので、通常の保存状態では製品品質の劣化がなく、無水物よりも優れた保存安定性を示す。
【0015】
次に試験例を示してこの発明を詳しく説明する。
(試験例1)
この試験は、水への溶解時の性状を調べるために行った。
実施例2と同一の方法により製造した三水和物、およびこの三水和物をメタノールから2回再結晶して得られた無水物(融点167〜169℃)各5gを25.0℃に維持された雰囲気下に保存し、のち正確に25.0℃に調整した水50mlに添加し、攪拌して溶解し、完全に溶解した時の液温を測定した。その結果、三水和物溶液は23.3℃であり、無水物溶液は25.2℃であった。無水物は溶解時わずかに発熱するのに対して三水和物は吸熱し、三水和物は明らかに無水物とは異なった性質を有していることが判明した。このことは、三水和物を口に入れたとき冷感を伴う甘味を感じるという独特の性質である。
(試験例2)
この試験は、高湿度下での安定性を調べるために行った。
【0016】
試験例1と同一の試料各1gを秤量ビンに精秤し、30℃または25℃において相対湿度100%、93%、または81%で2〜100時間保持し、吸湿による重量の増加率(%)および外観を観察した。その結果は表1に示したとおりである。
表1から明らかなように、三水和物は無水物に比して高湿度においても安定であり、30℃および25℃、相対湿度81%において無水物は吸湿して次第に潮解したのに対して、三水和物はわずか1%吸湿したのみで平衡状態に達し、安定な状態を維持した。従って、この発明の三水和物は、従来公知の無水物よりも、高湿度において極めて安定であることが認められた。
【0017】
【表1】

【0018】
次に実施例を示してこの発明をさらに詳細かつ具体的に説明するが、この発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0019】
【実施例】
実施例1
市販のラクチュロース・シロップ(森永乳業社製。固形分中のラクチュロース73.5%、乳糖4.4%、ガラクトース10.7%、およびその他の糖類11.4%)を、乳糖の水中糖比9.9%、および全固形分71.5%に濃縮し、濃縮液10kgを20℃に冷却し、三水和物30gを種晶添加し、攪拌しながら7日間を要して5℃まで徐々に冷却し、三水和物の結晶を生成させた。10日後、上澄液の固形分含量が68.9%に低下した結晶を含む液から、濾布式遠心分離機(国産遠心器社製)で結晶を分離し、5℃の冷水で結晶を水洗し、三水和物約1.4kgを得た。この三水和物を真空乾燥機(ヤマト科学社製)を用いて25℃で16時間乾燥し、粉末状の三水和物約1.34kgを得た。
【0020】
得られた粉末状三水和物の理化学的性質は次のとおりであった。
1)水分
カールフィッシャ法による水分 13.7%
室温、五酸化二リン上で失われる水分 0.1%
2)ラクチュロース定量値
前記と同一の液体クロマトグラフ法による定量値 84.9%
室温、五酸化二リン上で乾燥した乾燥物中 98.4%
3)融点開始点
前記と同様の方法による測定値 57〜60℃
4)比旋光度
室温、五酸化二リン上で乾燥した乾燥物の1%水溶液を20℃で測定(平衡時)-43.0°
実施例2
ラクチュロース・シロップ(森永乳業社製。固形分中のラクチュロース85.6%、乳糖3.1%、ガラクトース5.2%、およびその他の糖類6.1%)を、乳糖の水中糖比6.9%、および全固形分70.6%に濃縮し、濃縮液10kgを15℃に冷却し、三水和物30gを種晶添加し、攪拌しながら7日間を要して5℃まで徐々に冷却し、三水和物の結晶を生成させた。10日後、上澄液の固形分含量が67.5%に低下した結晶を含む液から、濾布式遠心分離機(国産遠心器社製)で結晶を分離し、5℃の冷水で結晶を水洗し、三水和物約1.55kgを得た。この三水和物を流動造粒乾燥機(大川原製作所製)を用いて30℃で4時間流動乾燥し、粉末状の三水和物約1.48kgを得た。
【0021】
得られた粉末状三水和物の理化学的性質は次のとおりであった。
1)水分
カールフィッシャ法による水分 14.0%
室温、五酸化二リン上で失われる水分 0.4%
2)ラクチュロース定量値
前記と同一の液体クロマトグラフ法による定量値 85.8%
室温、五酸化二リン上で乾燥した乾燥物中 99.7%
3)融点開始点
前記と同様の方法による測定値 58〜60℃
4)比旋光度
室温、五酸化二リン上で乾燥した乾燥物の1%水溶液を20℃で測定(平衡時)-42.8°
実施例3
ラクチュロース・シロップ(森永乳業社製。固形分中のラクチュロース88・5%、乳糖3.0%、ガラクトース3.7%、およびその他の糖類4.8%)を、乳糖の水中糖比5.6%、および全固形分66.2%に濃縮し、濃縮液10kgを15℃に冷却し、三水和物100gを種晶添加し、攪拌しながら4日間を要して2℃まで徐々に冷却し、三水和物の結晶を生成させた。7日後、上澄液の固形分含量が63.5%に低下した結晶を含む液から、濾布式遠心分離機(国産遠心器社製)で結晶を分離し、5℃の冷水で結晶を水洗し、三水和物約1.11kgを得た。この三水和物を流動造粒乾燥機(大川原製作所製)を用いて25℃で4時間流動乾燥し、粉末状の三水和物約1.05kgを得た。
【0022】
得られた粉末状三水和物の理化学的性質は次のとおりであった。
1)水分
カールフィッシャ法による水分 14.0%
室温、五酸化二リン上で失われる水分 0.5%
2)ラクチュロース定量値
前記と同一の液体クロマトグラフ法による定量値 85.8%
室温、五酸化二リン上で乾燥した乾燥物中 99.8%
3)融点開始点
前記と同様の方法による測定値 58〜60℃
4)比旋光度
室温、五酸化二リン上で乾燥した乾燥物の1%水溶液を20℃で測定(平衡時)-42.9°
【0023】
【発明の効果】
この発明によって奏せられる効果は次のとおりである。
(1)この発明の新規な三水和物は、高湿度の環境下で極めて安定である。
(2)この発明の新規な三水和物は、水に溶解するとき吸熱するので、冷感を伴う独特の甘味を呈する。
(3)この発明の方法は、ラクチュロース・シロップを精製する必要がないので、製造工程が極めて簡単である。
(4)この発明の方法は、有機溶媒を使用しないので、安全な製品が得られる。
(5)この発明の方法により、高純度の三水和物を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】
この発明の三水和物の赤外線吸収スペクトル図である。
 
訂正の要旨 特許第2848721号の明細書中、特許請求の範囲の減縮を目的として、
a,特許請求の範囲の請求項3における「ラクチュロースを種晶添加し、」を「ラクチュロース三水和物を種晶添加し、」と訂正し、
明りょうでない記載の釈明を目的として、
b、発明の詳細な説明の段落0010の「ラクチュロースを種晶添加し、」を「ラクチュロース三水和物を種晶添加し、」と訂正する。
異議決定日 2000-06-06 
出願番号 特願平3-200928
審決分類 P 1 651・ 121- YA (C07H)
P 1 651・ 113- YA (C07H)
最終処分 維持  
前審関与審査官 中木 亜希  
特許庁審判長 加藤 孔一
特許庁審判官 深津 弘
内藤 伸一
登録日 1998-11-06 
登録番号 特許第2848721号(P2848721)
権利者 森永乳業株式会社
発明の名称 結晶ラクチュロース三水和物とその製造法  
代理人 西澤 利夫  
代理人 平木 祐輔  
代理人 西澤 利夫  
代理人 石井 貞次  
代理人 大屋 憲一  
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