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審決分類 審判 全部申し立て 1項1号公知  C10M
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C10M
審判 全部申し立て 2項進歩性  C10M
審判 全部申し立て 特39条先願  C10M
審判 全部申し立て 1項2号公然実施  C10M
管理番号 1024311
異議申立番号 異議1999-73658  
総通号数 15 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1993-08-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 1999-09-29 
確定日 2000-07-24 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第2875923号「電解ドレッシング研削用研削油剤及び電解ドレッシング方法」の請求項1ないし4に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第2875923号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯

特許第2875923号は、平成4年2月14日に特許出願され、平成11年1月14日に設定登録されたものである。その後、小山憲一外1名より特許異議の申立てがなされ、当審において取消理由を通知したところ、平成12年5月23日付けで訂正請求がなされた。

2.訂正の適否

2-1 訂正請求の内容

本件訂正請求は、本件特許明細書及び図面を訂正明細書及び図面のとおり、次のように訂正することを求めるものである。

(1) 特許請求の範囲についての訂正

請求項1において、「炭酸塩を含有し」とあるのを、「全量を100重量部とした場合、炭酸塩(炭酸カリウムを除く)を5重量部以上含有し」と、また、請求項2及び4において、「炭酸塩を含有する」とあるのを、「全量を100重量部とした場合、炭酸塩(炭酸カリウムを除く)を5重量部以上含有する」と、それぞれ訂正する。

(2) 発明の詳細な説明についての訂正

(イ) 段落【0005】において、「本第1発明の電解ドレッシング研削用研削油剤(以下、単に、研削油剤という。)は、研削液の導電性物質として炭酸塩を含有し、」とあるのを、「本第1発明の電解ドレッシング研削用研削油剤(以下、単に、研削油剤という。)は、全量を100重量部とした場合、研削液の導電性物質として炭酸塩(炭酸カリウムを除く)を5重量部以上含有し、」と、また「上記研削液は、炭酸塩を含有する」とあるのを、「上記研削液は、全量を100重量部とした場合、炭酸塩(炭酸カリウムを除く)を5重量部以上含有する」と訂正する。
(ロ) 段落【0006】に記載された「炭酸カリウム」を削除する。
(ハ) 【表1】を全文訂正明細書に添付した表1のとおりに訂正する。すなわち、訂正前の実施例1を比較例7とし、実施例2〜6を実施例1〜5とする。
(ニ) 段落【0011】の「実施例3,6」を「実施例2,5」と訂正する。
(ホ) 【表2】を全文訂正明細書に添付した表2のとおりに訂正する。すなわち、訂正前の実施例1を比較例7とし、実施例2〜6を実施例1〜5とする。
(ヘ) 段落【0013】に記載された「実施例1〜6」を「実施例1〜5」と訂正する。

(3) 図面についての訂正

【図1】を全文訂正明細書に添付した図1のとおりに訂正する。すなわち、訂正前の実施例3を実施例2とし、実施例6を実施例5とする。

2-2 訂正の適否の検討

2-2-1 訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否

(1) 上記訂正請求の内容(1)は、請求項1に係る研削油剤、請求項2及び請求項4における研削油剤について、
(イ)炭酸カリウムを含有するものを除外するとともに、
(ロ)炭酸カリウム以外の炭酸塩を、全量を100重量部とした場合に5重量部以上含有することを必須の構成要件とする
ものであって、特許請求の範囲の減縮を目的としたものである。
このうち、前記(イ)の点は、「先行技術である甲第1号証及び甲第2号証の『ノリタケクールAFG-M』に炭酸カリウムが含まれていることから、これを除くための訂正」(平成12年5月23日付け訂正請求書3頁21〜24行参照)であるから、願書に添付した明細書及び図面に記載した事項の範囲内のものである。また、前記(ロ)の点は、炭酸塩の含有量の下限を、「全量を100重量部とした場合に5重量部」と規定するものであるが、願書に添付した明細書の【表1】には、炭酸アンモニウムを5重量部含有する実施例4、炭酸ナトリウムを10重量部含有する実施例2などが記載されているから、炭酸塩の含有量の下限を5重量部と規定することは、願書に添付した明細書及び図面に記載した事項の範囲内のものである。
そして、上記訂正の内容(1)は、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。

(2) 上記訂正の内容(2)、(3)は、特許請求の範囲の訂正に伴い、それと整合させるために発明の詳細な説明及び図面を訂正しようとするものであって、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。そしてこの訂正は、願書に添付した明細書及び図面に記載した事項の範囲内のものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。

2-2-2 独立特許要件

(1) 訂正後の特許請求の範囲

訂正後の特許請求の範囲は、次のとおりである。
「【請求項1】 全量を100重量部とした場合、炭酸塩(炭酸カリウムを除く)を5重量部以上含有し、砥粒を保持するメタルボンドの表出部を電解作用により溶出させて砥粒を突出させると共に、該表出部に不導体皮膜を形成させることができることを特徴とする電解ドレッシング研削用研削油剤。
【請求項2】 電解ドレッシング研削液中にメタルボンド砥石を浸漬し、該砥石に含まれる砥粒を電解ドレッシングにより突出させる電解ドレッシング方法において、上記研削液は、全量を100重量部とした場合、炭酸塩(炭酸カリウムを除く)を5重量部以上含有する電解ドレッシング研削用研削油剤を水で希釈した水希釈液であり、電解時間の経過により該砥石表出部に不導体皮膜が形成されて電解電流が低下し、それにより過剰な電解が抑制されることを特徴とする電解ドレッシング方法。
【請求項3】 上記不導体皮膜の形成により生じる電解電流の低下は、電解開始時の電流値に対してその19〜27%の電流値まで低下する請求項2記載の電解ドレッシング方法。
【請求項4】 電解ドレッシング研削液中にメタルボンド砥石を浸潰し、該砥石に含まれる砥粒を電解ドレッシングにより突出させる電解ドレッシング方法において、上記研削液は、全量を100重量部とした場合、炭酸塩(炭酸カリウムを除く)を5重量部以上含有する電解ドレッシング研削用研削油剤を水で希釈した水希釈液であり、電解時間の経過により該砥石表出部に不導体皮膜が形成されて電解電流が低下し、それにより過剰な電解が抑制され、その後、該不導体皮膜を剥離させ、次いで、再度電解ドレッシングを行うことを特徴とする電解ドレッシング方法。」

(2) 当審で通知した取消理由について

(2)-1 取消理由の概要

当審で通知した取消理由の概要は、刊行物である下記の、
・引用例1 理研シンポジウム「鏡面研削の最新技術動向」講演資料、平成3年3月5日発行(特許異議申立人が提出した甲第1号証)
・引用例2 特開平1-188266号公報(同甲第2号証)
・引用例3 ノリタケクールAFG-M成分定量分析結果(同甲第3号証)
を引用し、本件の請求項1〜4に係る発明は、その特許出願前に頒布された刊行物である引用例1、引用例2に記載された発明であると認められるから、本件の請求項1〜4に係る発明の特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してなされたものである、というものである。

(2)-2 引用例の記載の概要

(2)-2-1 引用例1について
(イ) 「ELID研削までの技術の流れとELID研削法の体系」に、ELID研削法という電解ドレッシング方法が、1987年頃から理化学研究所において研究されていることが示されている。
(ロ) 93頁左欄2-1には、ELID研削が「加工中もメタルボンド砥石の砥粒突出を維持する研削法である」旨の記載があり、同2-2には、「ボンドの主成分である鉄がイオン化すると共に、酸化鉄を主とした絶縁被膜を形成する。図2のように適切な砥粒突出に達した後は、この被膜がボンドの過溶出を抑え、砥粒突出の自動調整を行う(ELIDサイクル)」との記載がある。さらに、同頁の図2には、このELIDサイクルが模式的に示され、その中で、「砥粒磨耗→被膜磨耗→自生(膜厚の減少から導電性が回復)」との記載がある。また、94頁左欄4-2-1[1]には、「時間の経過と共に,パルス,直流電源では砥石面に酸化物と思われる被膜が生じ電流の低減が見られた(表3)。交流でも薄い被膜が生成され、褐色を帯びると共に電流が低下した。」との記載があり、さらに表3には、ドレス初期の電流(5.0A)に対してE1id電流が1.3A,0.2A,0.2Aに低下した結果が示されている。そして、93頁右欄の表2には、研削液として、ノリタケクールAFG-Mを50倍に希釈して用いた旨が記載されている。
(ハ) 95頁左欄2-2にはELID研削機構として、「ボンドの主成分である鉄がイオン化すると共に、酸化鉄を主とした絶縁被膜を形成する。図3のように適切な砥粒突出に達した後は、この被膜がボンドの過溶出を抑え、砥粒突出の自動調整を行う(ELIDサイクル)」の記載がある。さらに、図3にはELID研削におけるドレス機構が示され、その中で、「磨耗→被膜除去→ドレス再開」の記載がある。また、96頁左欄4-2-1[2]には、「電解電流が良好に低下・不導体被膜の形成が認められた(図9)」との記載があり、図9には、ドレス初期の電流(9〜10A)に対して30分経過後に約2Aに低下した結果が示されている。95頁右欄の表2には、研削液として、ノリタケクールAFG-Mを50倍に希釈して用いた旨が記載されている。
(ニ) 97頁左欄図3にはELID鏡面研削法の機構が開示されており、その中で、「磨耗→被膜除去→ドレス再開」の記載がある。97頁右欄の2-4には、「ELID環境の中でも、研削液の変動が深刻である。研削液は研削屑などによる経時変化や、希釈水の影響を受ける」こと、3-4には、これまでELID研削試験には水溶性研削液であるAFG-M[ノリタケカンパニ]を用いてきたこと、表3には、研削液として、ノリタケクールAFG-Mを50倍に希釈して用いた旨が記載されている。
(ホ) 101頁左欄図2にELID鏡面研削法の機構が開示されており、その中で、「磨耗→被膜除去→ドレス再開」の記載がある。また、同右欄表1に、研削液として、ノリタケクールAFG-Mを50倍に希釈している旨が開示されている。
(ヘ) 139頁左欄図2にELID鏡面研削機構が開示されており、その中で、「被膜磨耗→自生(膜厚の減少から導電性が回復)」の記載がある。また、同右欄表2に、研削液として、ノリタケクールAFG-Mを50倍に希釈して用いた旨が記載されている。

(2) -2-2 引用例2について
引用例2は、導電性砥石の電解ドレッシング方法および装置に関するものであり、
(イ)2頁右下欄第2行〜7行には、
「導電性を有する砥石を、被加工物の研削加工中に弱導電性の液体と介在させて、前記砥石と液体とに電圧を印加して、その間の電解効果により、前記砥石をドレッシング、すなわち砥石の適切な砥粒突き出し量を獲得することを特徴とする。」
と記載され、
(ロ)3頁右上欄5行〜右下欄第2行には、
「クーラント(研削液)は弱導電性であるので、電源から砥石とクーラント間に通電すると電解効果により砥石表面の金属部が溶解し、非導電性のダイヤモンド砥粒が突出する。」
「第4A図は、本発明の第1のプロセスを示し、CIFB-D砥石を第5B図の表面状態から強い電解効果によってドレッシングを行った断面形状を示す模式図である。導電性金属部は電解によって溶解し、一方、非導電性のダイヤモンド砥粒はそのまま残留して、研削可能な突き出し量が得られている。」
「第4B図は、本発明の第2のプロセスを示すものであり、研削加工の過程で砥粒突き出し量が減退しつつ研削屑が砥粒間に蓄積し目詰まりを生じた模式図である。本プロセスでは研削加工の進行と共に、弱い電解効果により研削屑を除去し、研削加工が終了するまで運転を停止させることなく、実加工中でしかも自動的にドレッシングを行うことができる。」
と記載され、
(ハ)4頁表には、研削液として、
「ノリタケクールAFG-M、50倍」を用いた旨が記載され、
(ニ)4頁右下欄6行〜7行には、
「クーラントは市販のものを使用し、なんら特別な電解液を混合していない。」と記載されている。

(2)-2-3 引用例3について
引用例3には、引用例1及び2に開示された研削油剤「ノリタケクールAFG-M」を、神奈川県産業技術総合研究所で分析、試験した成分定量分析結果が記載されている。

(2)-3 対比・判断

(2)-3-1 本件請求項1〜4に係る発明(訂正明細書の請求項1〜4に係る発明)と引用例1記載の発明との同一性について

引用例1の記載よりみて、引用例1に記載されたELID研削法は電解ドレッシング研削法であると認められ、また、同引用記載のELID研削法によれば、砥粒を保持するメタルボンドの表出部を電解作用により溶出させて砥粒を突出させると共に、該表出部に不導体皮膜を形成させることができるものと認められる。
そうすると、引用例1において研削液に用いるノリタケクールAFG-Mは、「砥粒を保持するメタルボンドの表出部を電解作用により溶出させて砥粒を突出させると共に、該表出部に不導体皮膜を形成させることができることを特徴とする電解ドレッシング研削用研削油剤」に他ならない。
しかしながら、引用例3の記載に照らせば、ノリタケクールAFG-Mは炭酸カリウムを4〜5%程度含むことは明らかである。これに対して、訂正後の請求項1〜4に係る発明においては、研削油剤として炭酸カリウムを含有するものは除外されているから、ノリタケクールAFG-Mは、請求項1に係る研削油剤、請求項2及びこれを引用する請求項3並びに請求項4における研削油剤のいずれにも該当しない。すなわち、本件請求項1〜4に係る発明と引用例1記載の発明とは、研削油剤中に炭酸カリウムを含有するか否かの点で相違する。
したがって、本件請求項1〜4に係る発明は、引用例1に記載されたものということはできない。

(2)-3-2 本件請求項1〜4に係る発明(訂正明細書の請求項1〜4に係る発明)と引用例2記載の発明との同一性について

引用例2の記載よりみて、同引用例には、砥粒を保持するメタルボンドの表出部を電解作用により溶出させて砥粒を突出させる電解ドレッシング研削法が記載されていると認められる。
しかしながら、同引用例において研削液に用いられたノリタケクールAFG-Mが、炭酸カリウムを4〜5%程度含む点において、訂正後の請求項1に係る研削油剤、請求項2及びこれを引用する請求項3並びに請求項4における研削油剤と相違することは、前記(2)-3-1で述べたとおりである。
したがって、本件請求項1〜4に係る発明は、引用例2に記載されたものということはできない。

(3) 特許異議申立人が主張する取消理由について

特許異議申立人は、証拠として甲第1号証〜甲第3号証(上記取消理由における引用例1〜3)を提出し、
(イ)本件訂正前の請求項1〜4に係る発明は、その出願前に頒布された甲第1号証〜甲第3号証に記載された発明であり、その出願前に日本国内において公然知られた発明であり、又はその出願前に日本国内において公然実施をされた発明であるから、本件請求項1〜4に係る特許は特許法第29条第1項に違反してなされたものであり、
(ロ)本件訂正前の請求項1〜4に係る発明は、甲第1号証〜甲第3号証に記載された発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、本件請求項1〜4に係る特許は特許法第29条第2項に違反してなされたものであり、
(ハ)本件訂正前の請求項1〜4に係る発明は、先願である特願昭63-12305号(甲第2号証参照。なお、同号証は、特願昭63-12305号の公開公報である。)に係る発明と同一であるから、本件請求項1〜4に係る発明は、特許法第39条第1項の規定に違反してなされたものである、
旨を主張している。

そこで検討すると、上記理由(イ)については、上記(2)-3で述べたとおり、甲第1号証〜甲第3号証に記載されたノリタケクールAFG-Mは、炭酸カリウムを4〜5%程度含む点において、訂正後の本件請求項1に係る研削油剤、請求項2及びこれを引用する請求項3並びに請求項4に係る発明の研削油剤と相違するから、本件請求項1〜4に係る発明は、甲第1号証〜甲第3号証刊行物に記載された発明ではない。同様の理由により、これらの証拠からは、本件請求項1〜4に係る発明は、その出願前に日本国内において公然知られ、又はその出願前に日本国内において公然実施をされた発明であると認めることはできない。
また、上記理由(ロ)については、砥粒を保持するメタルボンドの表出部を電解作用により溶出させて砥粒を突出させると共に、該表出部に不導体皮膜を形成させることができることを特徴とする電解ドレッシング研削において、研削液として、全量を100重量部とした場合、炭酸カリウム以外の炭酸塩を5重量部以上含有するものを用いることは、甲第1号証〜甲第3号証のいずれによっても教示ないし示唆されるものではないから、本件請求項1〜4に係る発明は、甲第1号証〜甲第3号証に記載された発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものと認めることはできない。
上記理由(ハ)については、特願昭63-12305号(特公平6-75823号公報参照)の発明は、次のとおりである。
「供給された弱導電性の研削液を受ける液受け部、鋳鉄をボンド材とするメタルボンド砥石であって、この砥石の研削作業面全体が前記液受け部で受けた研削液中に湿潤され、前記作業面が一時的に部分的に被加工面と接触するメタルボンド砥石、前記メタルボンド砥石の研削作業面を前記被加工物に対して相対的に移動して、前記研削作業面を前記被加工物の研削面上で摺動させる手段、及び前記メタルボンド砥石を陽極とし、前記研削液に湿潤された電極を陰極として、前記摺動が行われている間に、パルス直流電圧を印加するパルス直流電源を備えることを特徴とする研削加工装置。」(前記公告公報の特許請求の範囲参照)
また、前記先願に係る特許明細書には、実施例において研削液としてノリタケクールAFG-Mの50倍希釈液を用いた旨が記載され(前記公告公報3頁の表参照)、「クーラントは市販のものを使用し、何ら特別な電解液を混合していない」(同公告公報6欄17〜19行参照)ことも記載されている。
しかし、上記(2)-3で述べたとおり、先願発明の実施例で用いているノリタケクールAFG-Mは、炭酸カリウムを4〜5%程度含む点において、訂正後の請求項1に係る研削油剤、請求項2及びこれを引用する請求項3並びに請求項4に係る発明の研削油剤と相違するから、その余の点について論じるまでもなく、本件訂正後の請求項1〜4に係る発明は、先願である特願昭63-12305号の発明と同一ではない。

なお、特許異議申立人は、平成10年5月19日付けで提出された刊行物等提出書に添付された資料1、資料2、資料4及び資料5に言及し、これらの資料から、市販の研削油である「ノリタケクールAFG-M」が炭酸塩を含有することは、本件特許の出願時に公然知られうる状態にあったことが示される旨を述べている(特許異議申立書12頁)。しかし、すでに述べたとおり、ノリタケクールAFG-Mは、炭酸カリウムを4〜5%程度含む(特許異議申立人も、前記資料4及び5から、ノリタケクールAFG-Mが4.5重量%の炭酸カリウムを含むことは明らかであると述べているとおりである。)点において、訂正後の本件請求項1に係る研削油剤、請求項2〜請求項4に係る発明の研削油剤と相違するから、前記刊行物等提出書に添付された資料1、資料2、資料4及び資料5を考慮しても、上記した特許異議申立人が主張する取消理由に対する判断は左右されない。

(4) 独立特許要件についてのまとめ

以上のとおりであるから、訂正後の特許請求の範囲の請求項1〜4に係る発明はいずれも、特許出願の際独立して特許を受けることができたものである。

2-3 訂正の適否についての結論

したがって、本件訂正請求は、特許法第120条の4第2項の規定及び同条第3項において準用する特許法第126条第2項から第4項の規定に適合するものであるから、当該訂正を認める。

3.特許異議申立てについての判断

特許異議申立人小山憲一外1名は、証拠として甲第1号証(理研シンポジウム「鏡面研削の最新技術動向」講演資料、平成3年3月5日発行)、甲第2号証(特開平1-188266号公報)及び甲第3号証(ノリタケクールAFG-M成分定量分析結果)を提出し、訂正前の請求項1〜4に係る発明の特許は、特許法第29条第1項、同条第2項及び第39条第1項の規定に違反してなされたものであり、取り消されるべき旨主張している。
しかしながら、上記2-2-2(独立特許要件)に記載したとおりの理由により、特許異議申立人の主張はいずれも採用できない。

4.むすび

以上のとおりであって、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件の請求項1〜4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件の請求項1〜4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
電解ドレッシング研削用研削油剤及び電解ドレッシング方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 全量を100重量部とした場合、炭酸塩(炭酸カリウムを除く)を5重量部以上含有し、砥粒を保持するメタルボンドの表出部を電解作用により溶出させて砥粒を突出させると共に、該表出部に不導体皮膜を形成させることができることを特徴とする電解ドレッシング研削用研削油剤。
【請求項2】 電解ドレッシング研削液中にメタルボンド砥石を浸漬し、該砥石に含まれる砥粒を電解ドレッシングにより突出させる電解ドレッシング方法において、上記研削液は、全量を100重量部とした場合、炭酸塩(炭酸カリウムを除く)を5重量部以上含有する電解ドレッシング研削用研削油剤を水で希釈した水希釈液であり、電解時間の経過により該砥石表出部に不導体皮膜が形成されて電解電流が低下し、それにより過剰な電解が抑制されることを特徴とする電解ドレッシング方法。
【請求項3】 上記不導体皮膜の形成により生じる電解電流の低下は、電解開始時の電流値に対してその19〜27%の電流値まで低下する請求項2記載の電解ドレッシング方法。
【請求項4】 電解ドレッシング研削液中にメタルボンド砥石を浸漬し、該砥石に含まれる砥粒を電解ドレッシングにより突出させる電解ドレッシング方法において、上記研削液は、全量を100重量部とした場合、炭酸塩(炭酸カリウムを除く)を5重量部以上含有する電解ドレッシング研削用研削油剤を水で希釈した水希釈液であり、電解時間の経過により該砥石表出部に不導体皮膜が形成されて電解電流が低下し、それにより過剰な電解が抑制され、その後、該不導体皮膜を剥離させ、次いで、再度電解ドレッシングを行うことを特徴とする電解ドレッシング方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、電解ドレッシング研削用研削油剤に関し、更に詳しく言えば、特にメタルボンド砥石等の導電性砥石を電解効果によってドレッシングする、いわゆる電解ドレッシング研削用研削油剤に関するものである。
本発明は機械加工分野において、セラミックス等の硬脆材料或いは金属等の研削加工等に利用される。
【0002】
【従来の技術】
近年、ファインセラミックス或いは難加工金属材料を機械加工する場合、ダイヤモンド、CBN(立方晶窒化ホウ素)等の超砥粒が利用されている。この種の超砥粒は、通常、強固なメタルボンドにより結合、保持されたメタルボンド砥石として使用されるが、その強い結合力ゆえに、ドレッシング加工をすることが困難であった。
メタルボンド砥石のドレッシング加工を可能にする方法としては、研削加工中に、砥石と弱導電性の研削液に電圧を印加し、その問の電解作用によって砥石のメタルボンドを、イオンとして溶出させ、砥粒の突き出し量を得る電解ドレッシング法が提案されている(特開平1-188266号公報)。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
そして、通常、弱導電性の研削液として市販の水溶性研削油剤が使用されている。しかし、上記従来の電解ドレッシング法においては、市販の研削油剤で電解を行うことを考慮していないため、電解速度が遅く砥粒の突き出し量が不十分となり焼き付きを生じるという欠点がある。また、逆に電解速度が早過ぎては砥石の保持力が弱くなり、砥粒の脱落を起こして消耗が著しくなるが、この電解ドレッシング法ではこの電解速度を調節できず、そのためこのような著しい消耗を生じうるという欠点もある。
従って、これらの欠点を解決して、適切な砥粒突き出し量を確保するためには、電解条件、即ち、電解電圧、電解電流、電極間の距離等を調整することによって最適条件を求める必要がある。しかし、研削条件、即ち、砥石径、その面積、回転速度、切り込み、送り速度等の条件が変動すれば、それによって最適条件も変化するため、電解条件もそのたびに見直さなければならないという問題がある。
【0004】
本発明は、上記欠点を克服するものであり、自律的なドレッシング量の制御を可能とする電解ドレッシング研削用研削油剤を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、砥石の電解ドレッシングを行う場合に、電解量の最適化について鋭意検討を重ねた結果、ある種の物質を導電性物質として用いることにより、電解量を自律的に制御できることを見出して、本発明を完成するに至ったのである。即ち、本第1発明の電解ドレッシング研削用研削油剤(以下、単に、研削油剤という。)は、全量を100重量部とした場合、研削液の導電性物質として炭酸塩(炭酸カリウムを除く)を5重量部以上含有し、砥粒を保持するメタルボンドの表出部を電解作用により溶出させて砥粒を突出させると共に、該表出部に不導体皮膜を形成させることができることを特徴とする。
また、本第2発明の電解ドレッシング方法は、電解ドレッシング研削液中にメタルボンド砥石を浸漬し、該砥石に含まれる砥粒を電解ドレッシングにより突出させる電解ドレッシング方法において、上記研削液は、全量を100重量部とした場合、炭酸塩(炭酸カリウムを除く)を5重量部以上含有する電解ドレッシング研削用研削油剤を水で希釈した水希釈液であり、電解時間の経過により該砥石表出部に不導体皮膜が形成されて電解電流が低下し、それにより過剰な電解が抑制されることを特徴とする。
この電解ドレッシング方法において、電解時間が経過すると、メタルボンド表出部に不導体皮膜が形成されることにより、本第3発明のように、電解電流が電解開始時の電流値に対してその19〜27%の電流値まで低下する。
その後、本第4発明のように、形成した不導体皮膜が剥離することにより、再度電解ドレッシングを行うことができる。
【0006】
上記「炭酸塩」としては、使用する砥石表面に経時的に不電導性の皮膜を形成できるものであればよく、その範囲においては特に制限はない。この炭酸塩としては、例えば、水に対する溶解性を考慮して、炭酸リチウム、炭酸水素リチウム、炭酸水素カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸リチウムナトリウム、炭酸リチウムカリウム、炭酸ナトリウムカリウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸バリウム、炭酸銅、炭酸亜鉛、炭酸モノエタノールアミン、炭酸ジエタノールアミン、炭酸トリエタノールアミン、炭酸モノプロパノールアミン、炭酸ジプロパノールアミン及び炭酸トリプロパノールアミン等からなる群がら選ばれる1種又は2種以上の炭酸塩を単独に又は混合して使用することができる。
【0007】
本発明の研削油剤には、上記の必須成分を水に溶解又は分散させて組成されるが、その他の任意成分として、一般の研削油剤に用いられている添加剤を適宜添加することができる。即ち、各種ノニオン系、アニオン系の界面活性剤、エタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等の有機溶剤等、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アルカノールアミン等の塩基、トリアジン系、イソトリアジン系等の防腐剤、シリコーン系等の消泡剤、又はベンゾトリアゾール、メルカプトベンゾチアゾール等の非鉄金属防食剤等を、適宜添加することができる。
また、本発明の研削油剤は、通常、水で5〜500倍に希釈して使用する。
【0008】
【作用】
本発明において、電解ドレッシング中に砥石表面の鉄原子或いは電解によって砥石表面より溶出した鉄イオンは酸化される。そして、本発明において使用される炭酸塩が、上記砥石表面に不電導性の皮膜(不導体皮膜という。)を生成させる。そして、この不導体皮膜が充分に生成する前、即ち電解の初期においては、大きな電流が流れて電解ドレッシングが進行する。しかし、時間の経過とともに不電体皮膜が生成し、電解電流が低下することとなり、そのため過剰な電解が抑制される。
しかも、この不導体皮膜は、砥石母地のメタルボンドに比較すれば、はるかに軟らかいので、被加工物との接触で容易に剥離し、研削の障害とならない。更に、研削によって砥粒が摩滅するに従い、砥石表面の不導体皮膜が剥離され、砥石表面の導電性が回復する。この導電性の回復によって、再度電解ドレッシングが進行するようになり、常に最適な砥粒突き出し量が確保される。その結果として、自律的にドレッシング量の制御が実現される。
【0009】
【実施例】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。尚、下記の実施例及び比較において組成の数値は、特記しない限り重量部を示す。
表1に実施例及び比較例の各組成を示す。表中の「ノニオン系界面活性剤」としてはポリオキシエチレンアルキルエーテル(EO付加:9モル)、また、「ポリエチレングリコール」としては分子量400のものをそれぞれ用いた。
【0010】
【表1】
【0011】
本発明の電解ドレッシング研削用研削油剤の性能を明らかにするため、性能試験(電流値、皮膜生成の有無、電解量)を行った。性能試験方法及びその条件を下記に記載し、その試験結果を表2に示す。尚、図1には、実施例2、5及び比較例2、4の電流値の変化をグラフとして示した。
(電解試験)
試料:50倍水希釈液
陽極:鋳鉄ファイバボンドダイヤモンド砥石
陰極:銅板
電極面積:30×50mm
電極間距離:1mm
尚、「皮膜生成の有無」は目視により判断した。そして、皮膜生成の評価の表示は、○:皮膜生成、×:皮膜生成なしを示す。「電解量(g)」は、電解前と電解後の陽極の重量差により求めた。
【0012】
【表2】
【0013】
これらの結果によれば、比較例1は電流値が高く電解量も非常に多いが、皮膜は全く生成せず、電流値の低下もない。比較例2及び3は、電流は流れるものの砥石の電解は全く進行していない。比較例4及び5は、電流値の低下は認められるが僅かであり、電解量も少ない。比較例6は、無機塩が含まれていないため、電流値が初期から低く電解も進行していない。一方、実施例1〜5のいずれにおいても、所望の不動体皮膜の生成が認められ、経時的に電流値が低下することにより、自律的な電解量の制御が実現されている。
尚、本発明においては、前記具体的実施例に示すものに限られず、目的、用途に応じて本発明の範囲内で種々変更した実施例とすることができる。
【0014】
【発明の効果】
本発明の研削油剤を用いて電解ドレッシングを行うと、砥石表面に経時的に不導体皮膜を生成し、電解量が低下する。この不導体皮膜は、砥石母地に比較して容易に剥離されるので、電解が再開される。以上より、本発明の研削油剤を用いることにより、自律的なドレッシング量の制御が可能となる。
【図面の簡単な説明】
実施例において所定の研削油剤を使用して電解ドレッシング加工を行った時の電流値の変化を示すグラフである。


【図面】

 
訂正の要旨 訂正の要旨
特許第2875923号の明細書及び図面を、訂正請求書に添付された訂正明細書及び図面のとおり、次のように訂正する。
(1)特許請求の範囲についての訂正
請求項1において、「炭酸塩を含有し」とあるのを、「全量を100重量部とした場合、炭酸塩(炭酸カリウムを除く)を5重量部以上含有し」と、また、請求項2及び4において、「炭酸塩を含有する」とあるのを、「全量を100重量部とした場合、炭酸塩(炭酸カリウムを除く)を5重量部以上含有する」と、特許請求の範囲の減縮を目的として、それぞれ訂正する。
(2)発明の詳細な説明についての訂正
明細書の発明の詳細な説明について、明りょうでない記載の釈明を目的として、次のとおり訂正する。
(イ)段落【0005】において、本第1発明の電解ドレッシング研削用研削油剤(以下、単に、研削油剤という。)は、研削液の導電性物質として炭酸塩を含有し、」とあるのを、「本第1発明の電解ドレッシング研削用研削油剤(以下、単に、研削油剤という。)は、全量を100重量部とした場合、研削液の導電性物質として炭酸塩(炭酸カリウムを除く)を5重量部以上含有し、」と、また「上記研削液は、炭酸塩を含有する」とあるのを、「上記研削液は、全量を100重量部とした場合、炭酸塩(炭酸カリウムを除く)を5重量部以上含有する」と訂正する。
(ロ)段落【0006】に記載された「炭酸カリウム」を削除する。
(ハ)【表1】を全文訂正明細書に添付した表1のとおりに訂正する。すなわち、訂正前の実施例1を比較例7とし、実施例2〜6を実施例1〜5とする。
(ニ)段落【0011】の「実施例3,6」を「実施例2,5」と訂正する。
(ホ)【表2】を全文訂正明細書に添付した表2のとおりに訂正する。すなわち、訂正前の実施例1を比較例7とし、実施例2〜6を実施例1〜5とする。
(へ)段落【0013】に記載された「実施例1〜6」を「実施例1〜5」と訂正する。
(3)図面についての訂正
【図1】を、明りょうでない記載の釈明を目的として、全文訂正明細書に添付した図1のとおりに訂正する。すなわち、訂正前の実施例3を実施例2とし、実施例6を実施例5とする。
異議決定日 2000-06-07 
出願番号 特願平4-61348
審決分類 P 1 651・ 121- YA (C10M)
P 1 651・ 112- YA (C10M)
P 1 651・ 4- YA (C10M)
P 1 651・ 113- YA (C10M)
P 1 651・ 111- YA (C10M)
最終処分 維持  
前審関与審査官 鈴木 恵理子  
特許庁審判長 嶋矢 督
特許庁審判官 胡田 尚則
谷口 操
登録日 1999-01-14 
登録番号 特許第2875923号(P2875923)
権利者 新東ブレーター株式会社 ユシロ化学工業株式会社
発明の名称 電解ドレッシング研削用研削油剤及び電解ドレッシング方法  
代理人 小島 清路  
代理人 小島 清路  
代理人 小島 清路  

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