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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 H01B 審判 全部申し立て 1項1号公知 H01B 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 H01B |
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管理番号 | 1024531 |
異議申立番号 | 異議1999-73014 |
総通号数 | 15 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1992-10-16 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 1999-08-09 |
確定日 | 2000-07-24 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第2855869号「ビスマス系酸化物超電導線材の製造方法」の特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 訂正を認める。 特許第2855869号の特許を維持する。 |
理由 |
(1)手続の経緯 本件特許第2855869号発明に係る出願は、平成3年3月20日の出願であって、平成10年11月27日にその特許の設定登録がなされ、その後古河電気工業株式会社により特許異議の申立てがなされ、取消理由通知に対して、平成12年1月11日付けで訂正請求がなされ、訂正拒絶理由通知を兼ねた取消理由通知に対して、平成12年1月11日付けでなされた訂正請求が平成12年4月14日付けで取下られ、平成12年4月14日付けで訂正請求がなされたものである。 (2)訂正の適否についての判断 ア.訂正の内容 訂正事項a.特許請求の範囲の請求項1を次のとおりに訂正する。 「【請求項1】 組成比がBi+Pb:Sr:Ca:Cu=2.2:2:2:3を中心とし、それぞれ±5%の範囲内で、かつ0.3≦Pb≦0.4となる組成の粉末であって、Bi系の低温相と非超電導相の集合体からなる粉末を金属シースに充填するステップと、 前記粉末を充填した前記金属シースを塑性加工して線材化するステップと、 この線材を1次熱処理により高温相を生成するステップと、 熱処理後の線材を塑性加工または押圧加工するステップと、 加工後の線材を2次熱処理するステップとを備える、ビスマス系高温相酸化物超電導線材の製造方法。」 訂正事項b.本件明細書の段落番号【0009】を次のとおりに訂正する。 「【0009】 【課題を解決するための手段】 この発明の製造方法は、ビスマス系酸化物超電導体またはその原料の粉末を金属シースに充填するステップと、粉末を充填した金属シースを塑性加工して線材化するステップと、この線材を1次熱処理により高温相を生成するステップと、熱処理後の線材を塑性加工または押圧加工するステップと、加工後の線材を2次熱処理するステップとを備えており、金属シースに充填する粉末として、組成比がBi+Pb:Sr:Ca:Cu=2.2:2:2:3を中心とし、それぞれ±5%の範囲内で、かつ0.3≦Pb≦0.4となる組成の粉末であって、Bi系の低温相と非超電導相の集合体からなる粉末を用いることを特徴としている。」 イ.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否 上記訂正事項aは、特許請求の範囲の請求項1において、1次熱処理ステップにより高温相を生成することを限定するとともに、ビスマス系酸化物超電導線材をビスマス系高温相酸化物超電導線材に限定するものであり、また、この訂正は明細書段落番号【0014】の記載に基づいてなされたものであるから、特許請求の範囲の減縮に該当し、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 また、訂正事項bは、特許請求の範囲の請求項1の記載が訂正事項aのとおり訂正されたことに対応させて、明細書の発明の詳細な説明の記載を整合させるものであるから明りょうでない記載の釈明に該当し、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 ウ.独立特許要件の判断 本件訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明は、上記(2)ア.訂正事項aに記載したとおりのビスマス系高温相酸化物超電導線材の製造方法にあるものと認める。 (引用刊行物) 訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明(以下、「本件発明」という)に対して、当審が通知した取消理由で引用した刊行物1(Appl.Phys.Lett.,Vol.54,No.16,17 April 1989 p.1582-1584、以下、「刊1」という。)には、 (1-1)「Bi0.8Pb0.2Sr0.8Ca1.0Cu1.4とBi1.84Pb0.34Sr1.91Ca2.03Cu3.06のカチオン比からなる2種類の粉末から出発した。これらの粉末は2つの異なる方法で準備された。一つは800℃で12時間仮焼したもの、他は仮焼後840℃で40時問焼結されたペレットをすりつぶしたものである。これらの粉末は外径6mm、内径4mmの銀管に詰められた。これらをスエージングと溝ロール圧延により外径1mmまで冷間加工した。その後、0.5mm厚のテープにまで圧延され3cmに切り出された。ついで、焼成と中間冷間加工の複合工程が行われた。」(1582頁左欄29行目〜右欄2行目)、 (1-2)「公称組成Bi1.84Pb0.34Sr1.91Ca2.03Cu3.06OXのケースにおいては、テープは最初に835℃×80hで熱処理し835℃の熱処理と冷間圧延の複合工程を繰り返した。図2は上記テープのJcを示している。835℃×80h[S(80)]で熱処理したテープのJcは660A/cm2であった。最大のJc=3050A/cm2冷間加工は835℃×80hで熱処理後、冷間圧延し835℃で30h熱処理したもの[S(80)+R+S(30)]で得られた。しかしながら、これ以上熱処理、冷間加工を行うとJcは劣化した。この劣化の原因はテープ中のhigh-Tc相の分解によると考えられる。」(1583頁左欄12行目〜右欄5行目)との記載がある。 同刊行物2(Cryogenics 1990 vol.30 No.7 1990年7月 p.581〜585、以下、「刊2」という。)には、 (2-1)「出発組成が、Bi1.72Pb0.34Sr1.83Ca1.97Cu3.13OXからなる仮焼粉が高純度酸化物と炭酸塩を用いた簡便な固相法から製造され、800℃、40時間空気中で熱処理される。この段階での粉末は(Bi,Pb)2Sr2CaCu2OXの80K相とCa2PbO4相とCuO相とからなる。(Bi,Pb)2Sr2Ca2Cu3OXの110K相は、これら3相を部分溶融させることで生成できた。銀シーステープの最終熱処理での部分溶融反応は大粒子化と、良い粒子間結合を生じ、臨界電流密度Jctを向上させる。このような混合相は、テープの準備として好ましい。前記仮焼粉は銀管の中に詰められ、数ミリメートルの径まで引き落とされる。(中略) その後0.5mmのテープ状に冷間で圧延され、845℃で50時間熱処理される。その後サンプルは圧延され845℃で50時間熱処理される。・・・臨界電流密度Jctは直流4端子法により測定された。」(582頁6〜35行目)との記載がある。 同刊行物3(Advances in Superconductivity III Proceedings of the 3rd International Symposium on Superconductivity(ISS’90),November 6-9,1990,Sendai 1991年発行 p.651-654、以下、「刊3」という。)には、 (3-1)「Bi(1.6+0.2X)Pb0.4Sr(1.6-0.1Y)Ca(2.0+0.04Y)Cu(2.8+0.06Y)OZの組成において、x、yを変えることができるように高純度のBi2O3、PbO,SrCO3,CaCO3とCuO粉末を秤量した。本論文では我々はx=0と1即ちBi1.6とBi1.8のモル比について考察する。十分に混合した後仮焼を1023Kで12時間行い2212相と不純物相からなる酸化物粉末を用意した。これらの粉末は銀管に詰められ、スエージング加工により縮径され、冷間圧延された。このテープは初めに1108K、100時間又は1113Kで100時間熱処理された。そして、再度圧延され1回目の熱処理と同じ温度で50時間熱処理された。」(651頁下から10行目-652頁2行目)との記載があり、また、刊3の図2、4から、yは-2,-1,0,1又は2であり、x=0 y=1を代入すると、Bi1.6 Pb0.4 Sr1.5Ca2.04 Cu2.86、すなわちBi+Pb:Sr:Ca:Cu=2.0:1.5:2.04:2.86 となることが読みとれる。 (なお、異議申立人は刊3を引用して、刊3に記載されている事項は、1990年11月にISTEC主催の国際会議で発表されたものであり、本件特許の出願前に公然知られた発明であると主張するところ、発行日が明確でないところからみて、異議申立人の主張を裏付ける証拠方法としては十分ではないにしても、刊3の全記載内容からすると、1990年11月にISTEC主催の国際会議において、刊3に記載された事項が発表されたことの蓋然性が高いと認められるので、当審における判断の対象に加えることとした。) 刊行物4(高温超電導の応用 高温超電導応用展開プログラム報告 平成2年9月10日 丸善発行 p.7,126〜127、以下、「刊4」という。)には、(Bi,Pb)2Sr2Ca2Cu3OV が高温相であり、Bi2Sr2CaCu2OVが低温相であることが記載されている。 (対比・判断) (特許法第29条第1項第3号について) 本件発明と刊1に記載された発明とを対比する。 本件発明は金属シースに充填する粉末の組成比がBi+Pb:Sr:Ca:Cu=2.2:2:2:3を中心とし、それぞれ±5%の範囲内で、かつ0.3≦Pb≦0.4となっているから、本件発明の金属シースに充填する粉末の組成比の具体的な数値範囲を求めると、本件発明の粉末の組成比はBi+Pb:Sr:Ca:Cu=2.09〜2.31:1.9〜2.1:1.9〜2.1:2.85〜3.15となるので、刊1の発明の粉末の組成Bi1.84Pb0.34Sr1.91Ca2.03Cu3.06OXは、本件発明と組成比が重複し、また、この粉末を金属シースに充填するステップと、前記粉末を充填した前記金属シースを塑性加工して線材化するステップと、この線材を1次熱処理するステップと、熱処理後の線材を塑性加工または押圧加工するステップと、加工後の線材を2次熱処理するステップとを備える、ビスマス系高温相酸化物超電導線材の製造方法である点で両者は一致するが、本件発明は金属シースに充填する粉末がBi系の低温相と非超電導相の集合体からなる粉末であり、また、線材を1次熱処理により高温相を生成するステップとを備えるのに対し、刊1にはこの点が記載されていない点で相違する。 したがって、本件発明は、刊1に記載された発明であると認めることができない。 (特許法第29条第2項について) 本件発明と刊1に記載された発明とを対比すると、両者は、上記相違点で相違し、その余で一致する。 そこで、相違点について刊行物2〜4に記載のものを検討すると、刊2に記載された粉末は、Bi系の低温相と非超電導相(Ca2PbO4相とCuO相)の集合体からなっている点で本件発明と一致するが、刊2に記載された粉末の組成比(Bi1.72Pb0.34Sr1.83Ca1.97Cu3.13OX)は、本件発明の粉末組成比と相違しており、また、刊2に記載のものは、2次熱処理を最終熱処理とした場合には、その熱処理を部分溶融で行うことによりビスマス系高温相酸化物(110K相)を生成するものであるから、1次熱処理により高温相を生成する本件発明と製造条件が相違するものであり、また、刊3に記載された発明の粉末の組成比は、Bi+Pb:Sr:Ca:Cu=2.0:1.5:2.04:2.86であるから、本件発明の組成の範囲外のものであり、本件発明と相違し、また、刊3には1次熱処理により高温相を生成する点が記載されておらず、また、刊4には、ビスマス系酸化物の高温相と低温相が記載されているにすぎない。また、刊1〜4には、本件発明の構成要件である、ビスマス系高温相酸化物超電導線材の製造において、組成比がBi+Pb:Sr:Ca:Cu=2.2:2:2:3を中心とし、それぞれ±5%の範囲内で、かつ0.3≦Pb≦0.4となる組成の粉末であって、Bi系の低温相と非超電導相の集合体からなる粉末を充填した金属シースの線材を1次熱処理により高温相を生成する点が記載も示唆もされていない。 そして、本件発明は、高い臨界電流密度及び臨界電流を有する超電導線材を製造することができるという明細書に記載の顕著な作用効果を奏するものである(本件明細書段落【0017】)。 したがって、本件発明は、刊1〜4に記載される発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。 (特許法第36条第5項について) 上記訂正により、2回目の取消理由で指摘した明細書の記載不備は解消したものと認められる。 以上のことから、本件発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものである。 エ.むすび 以上のとおりであるから、上記訂正請求は、特許法第120条の4第2項及び同条第3項で準用する第126条第2-4項の規定に適合するので、当該訂正を認める。 (3)特許異議申立について ア.本件発明 本件発明は、上記(2)のア.訂正事項aに記載したとおりのビスマス系高温相酸化物超電導線材の製造方法にあるものと認める。 イ.申立ての理由の概要 本件発明に対して、特許異議申立人古河電気工業株式会社は、甲第1〜4号証(それぞれ、刊1〜4に同じ)を提出して、本件発明は、甲第1及び2号証に記載された発明であり、また、本件発明は、甲第3号証から明らかなように、本件特許の出願前に公然知られた発明であるから、特許法第29条第1項第1号及び第3号の規定に該当し、また、本件発明は、甲第1、2及び4号証に記載された発明並びに甲第3号証から明らかな本件特許の出願前に公然知られた発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであって、特許を取り消すべきであると主張している。 ウ.判断 甲第1〜4号証には前記(2)ウ.(引用刊行物)に記載したとおりのことが記載され、前記(2)ウ.(対比・判断)(特許法第29条第1項第3号)及び(特許法第29条第2項)に記載した理由により、本件発明は、甲第1及び2号証に記載された発明であると認められず、また、本件発明は、甲第3号証から明らかな本件特許の出願前に公然知られた発明であると認められない。また、前記(2)ウ.(対比・判断)(特許法第29条第2項)に記載した理由により、本件発明は、甲第1、2及び4号証に記載された発明並びに甲第3号証から明らかな本件特許の出願前に公然知られた発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであると認めることができない。 エ.むすび 以上のとおりであるから、特許異議申立人が提出した証拠及び理由によっては、本件発明に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件発明に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 ビスマス系酸化物超電導線材の製造方法 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 組成比がBi+Pb:Sr:Ca:Cu=2.2:2:2:3を中心とし、それぞれ±5%の範囲内で、かつ0.3≦Pb≦0.4となる組成の粉末であって、Bi系の低温相と非超電導相の集合体からなる粉末を金属シースに充填するステップと、 前記粉末を充填した前記金属シースを塑性加工して線材化するステップと、 この線材を1次熱処理により高温相を生成するステップと、 熱処理後の線材を塑性加工または押圧加工するステップと、 加工後の線材を2次熱処理するステップとを備える、ビスマス系高温相酸化物超電導線材の製造方法。 【発明の詳細な説明】 【0001】 【産業上の利用分野】 この発明は、ビスマス系酸化物超電導線材の製造方法に関するものである。 【0002】 【従来の技術】 ビスマス系酸化物超電導材料は、110K程度の高い臨界温度を有することが知られている。このようなビスマス系酸化物超電導材料を金属被覆して、塑性加工してテープ状に加工し、次いで熱処理することによって、高い臨界電流密度を有する線材が得られることが知られている。 【0003】 特に、塑性加工と熱処理とを複数回繰返すことにより、臨界電流密度がさらに高められることが知られている。 【0004】 また、ビスマス系酸化物超電導体には、臨界温度が110Kのものと、臨界温度が80Kおよび10Kのものとがあることが知られている。さらに、110K相の超電導体を製造しようとするとき、非超電導相が一部において現れることも知られている。 【0005】 ビスマス系酸化物超電導体において、上述した110K相は、Biまたは(Bi,Pb):Sr:Ca:Cuの組成比が2:2:2:3といわれている2223相を有しており、80K相は、この組成比がほぼ2:2:1:2である2212相を有していることが知られている。 【0006】 【発明が解決しようとする課題】 ビスマス系酸化物超電導体を、安価な液体窒素(77.3K)を冷却媒体として、安定して使用するためには、臨界温度の高い110K相である2223相をできるだけ多く生成させることが望ましい。 【0007】 また、超電導体を線材として使用する場合には、高い臨界電流密度だけではなく、高い臨界電流を得る必要がある。 【0008】 この発明の目的は、110K相である2223相にできるだけ近い組成を用い、110K相を得るときにできる非超電導相を少なくし、高い臨界電流密度と臨界電流を得ることのできる、ビスマス系酸化物超電導線材の製造方法を提供することにある。 【0009】 【課題を解決するための手段】 この発明の製造方法は、ビスマス系酸化物超電導体またはその原料の粉末を金属シースに充填するステップと、粉末を充填した金属シースを塑性加工して線材化するステップと、この線材を1次熱処理により高温相を生成するステップと、熱処理後の線材を塑性加工または押圧加工するステップと、加工後の線材を2次熱処理するステップとを備えており、金属シースに充填する粉末として、組成比がBi+Pb:Sr:Ca:Cu=2.2:2:2:3を中心とし、それぞれ±5%の範囲内で、かつ0.3≦Pb≦0.4となる組成の粉末であって、Bi系の低温相と非超電導相の集合体からなる粉末を用いることを特徴としている。 【0010】 この発明において、1次熱処理の時間は、100〜250時間であることが好ましい。また金属シースに充填される粉末は、最大粒径が2.0μm以下であり、平均粒径が1.0μm以下であることが好ましい。 【0011】 また、この発明において金属シースに充填される粉末としてのビスマス系超電導体またはその原料は、一般的には、多結晶体または超電導相と非超電導相との集合物からなる。 【0012】 この発明において用いられる金属シースの材質としては、ビスマス系酸化物超電導体と反応せず、かつ低抵抗の金属または合金が用いられることが好ましい。このようなものとして、銀もしくは銀合金が挙げられる。 【0013】 【発明の作用効果】 本発明者らは、上記組成比の粉末を用いることにより、110K相生成のための熱処理後において、非超電導相、主にCa-Cu-O系の生成を少なくすることのできることを見出だした。この発明は、この事実に基づくものである。 【0014】 高い臨界電流密度を得るためには、高温相を粒成長させることが必要であり、金属シースには、主にBi系の低温相と非超電導相の集合体を充填する。このような集合体を用いることによって、熱処理後に高温相を生成させることができる。 【0015】 一般的にBi系高温相は、CaやCuを多めに配合するとできやすいことが知られている。そこで、従来はCaを少し多めに配合して、高温相の生成をさせていた。しかしながら、高温相の成分比を分析により求めた結果、Bi+Pb:Sr:Ca:Cu=2.18:1.97:1.95:3:3.00であることが分かり、この発明の組成比である、Bi+Pb:Sr:Ca:Cu=2.2:2:2:3が高温相の生成には妥当であることが分かった。 【0016】 金属シースに充填する粉末は、最大粒径が2.0μm以下であり、平均粒径が1.0μm以下である微粉末が好ましいことが分かった。このような微粉末を用いることにより、反応を非常に活性化することができ、高温相を生成しやすくなるものと思われる。 【0017】 この発明に従えば、110K相の生成のための熱処理後において、非超電導相の生成を体積比で10%以下、大きさで2μm以下の厚み(マトリックスのa-b面方向)にすることができる。この結果、超電導相の割合が増えるとともに、熱処理の間の加工による欠陥発生を防止することができ、結晶成長を促進させることができる。したがって、この発明に従えば、高い臨界電流密度および臨界電流を有する超電導線材を製造することができる。 【0018】 この発明において、1次熱処理の時間は、100時間以上が好ましい。これは、熱処理の時間が100時間未満であると、高温相の生成またはその粒成長が未完成の状態にあるからである。また熱処理時間は250時間以下であることが好ましい。これは250時間を越えると、異相の凝集が特性に影響を及ぼしてくるようになり、逆に臨界電流密度の低下を招くからである。 【0019】 【実施例】 Bi2O3、PbO、SrCO3、CaCO3、およびCuOの各粉末を、Bi:Pb:Sr:Ca:Cu=1.8:0.4:2.0:X:3.0(X=1.8、2.0、または2.2)となる、3種類の組成比を持つものと、Bi:Pb:Sr:Ca:Cu=1.6:0.4:2.0:2.0:3.0の組成比を持つものとを秤量し、混合した。これらの試料を順に▲1▼〜▲4▼とした。次に、800℃で20時間熱処理を施した後、粉砕し、次いで860℃で2時間の熱処理を行ない、充填用粉末にした。 【0020】 これらの得られた粉末を、それぞれ、最大粒径が2.0μm、平均粒径が1.0μmとなるように粉砕した。 【0021】 その後、得られた粉末を、それぞれ、外径6.0mm、内径4.0mmの銀パイプに充填し、次いで、直径1.0mmになるまで伸線加工した。次にこの線材を、厚さ0.17mmになるまで圧延加工し、プレスを行なった。 【0022】 その後、1次熱処理として、それぞれ845℃で50時間、100時間、150時間、200時間、250時間、および300時間の熱処理を行ない、その後再びプレスを行ない、2次熱処理として、840℃、50時間の熱処理を行なった。 【0023】 このようにして得られた各線材について、それぞれ、77.3Kの温度下で、零磁場における臨界電流の測定を行なった。表1に、得られたJcおよびIcの値を示す。表1において、上段の値はJcを示し、その単位は104A/cm3であり、下段はIcを示し、その単位はAである。 【0024】 【表1】 【0025】 表1の結果から明らかなように、この発明に従う酸化物超電導線材は、JcおよびIcにおいて優れていることが分かる。 【図面】 |
訂正の要旨 |
訂正の要旨 本件訂正請求の要旨は、特許第2855869号の明細書を、本件訂正請求書に添付された訂正明細書のとおりに訂正しようとするものであって、具体的に下記のように訂正しようとするものである。 訂正事項a 本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項の第1項の記載を、特許請求の範囲の滅縮を目的として、 「【請求項1】 組成比がBi+Pb:Sr:Ca:Cu=2.2:2:2:3を中心とし、それぞれ±5%の範囲内で、かつ0.3≦Pb≦0.4となる組成の粉末であって、Bi系の低温相と非超電導相の集合体からなる粉末を金属シースに充填するステップと、 前記粉末を充填した前記金属シースを塑性加工して線材化するステップと、 この線材を1次熱処理により高温相を生成するステップと、 熱処理後の線材を塑性加工または押圧加工するステップと、 加工後の線材を2次熱処理するステップとを備える、ビスマス系高温相酸化物超電導線材の製造方法。」 と訂正する。 訂正事項b 本件明細書の段落番号【0009】を、明りょうでない記載の釈明を目的として、 「【0009】 【課題を解決するための手段】 この発明の製造方法は、ビスマス系酸化物超電導体またはその原料の粉末を金属シースに充填するステップと、粉末を充填した金属シースを塑性加工して線材化するステップと、この線材を1次熱処理により高温相を生成するステップと、熱処理後の線材を塑性加工または押圧加工するステップと、加工後の線材を2次熱処理するステップとを備えており、金属シースに充填する粉末として、組成比がBi+Pb:Sr:Ca:Cu=2.2:2:2:3を中心とし、それぞれ±5%の範囲内で、かつ0.3≦Pb≦0.4となる組成の粉末であって、Bi系の低温相と非超電導相の集合体からなる粉末を用いることを特徴としている。」と訂正する。 |
異議決定日 | 2000-06-26 |
出願番号 | 特願平3-56687 |
審決分類 |
P
1
651・
113-
YA
(H01B)
P 1 651・ 121- YA (H01B) P 1 651・ 111- YA (H01B) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 小山 満 |
特許庁審判長 |
三浦 悟 |
特許庁審判官 |
金澤 俊郎 柿澤 惠子 |
登録日 | 1998-11-27 |
登録番号 | 特許第2855869号(P2855869) |
権利者 | 住友電気工業株式会社 |
発明の名称 | ビスマス系酸化物超電導線材の製造方法 |
代理人 | 深見 久郎 |
代理人 | 仲村 義平 |
代理人 | 伊藤 英彦 |
代理人 | 伊藤 英彦 |
代理人 | 仲村 義平 |
代理人 | 森田 俊雄 |
代理人 | 森田 俊雄 |
代理人 | 深見 久郎 |