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審決分類 審判 判定 同一 属する(申立て不成立) H02J
管理番号 1024918
判定請求番号 判定2000-60025  
総通号数 15 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許判定公報 
発行日 1994-07-07 
種別 判定 
判定請求日 2000-02-24 
確定日 2000-09-25 
事件の表示 上記当事者間の特許第2667054号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 
結論 イ号図面及びその説明書に示す「誘導電力分配システム」は、特許第2667054号発明の技術的範囲に属する。 
理由 1.請求の趣旨
イ号図面及びその説明に示すシステムは、特許2667054号の請求項22の発明(以下、「本件特許発明」という)の技術的範囲に属しない、との判定を求める。

2.本件特許発明
本件特許発明は、特許権者 オークランド ユニサービシズ リミテッド(以下、「被請求人」という)が、平成11年2月12日付けで提出した訂正請求書に添付し、訂正の認められた明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項22に記載された事項により特定されるとおりのものである。
2-1.本件特許発明の構成
本件特許発明の構成を分説すると、次のようになる。
「(A)高周波電源(2109:第2図)(以下、「特許構成要件A」という。以降同様)と、
(B)該高周波電源に接続された一次導電路(10110,10111)(「特許構成要件B」)と、
(C)前記一次導電路(10110,10111)と結合して使用する1つ以上の電気装置(1104:第1図)であって、前記一次導電路(10110,10111)により発生する磁界から少くとも若干の電力を取り出し得るとともに、ピックアップ共振周波数を有する共振回路(L2,C2:第11図)を構成する少くとも1つのピックアップコイル(10115)を有し、且つ該ピックアップコイル(10115)に誘導される電力により駆動可能な少くとも1つの出力負荷(1105:第1図)を有する電気装置(1104)(「特許構成要件C」)と、
を備え、
(D)前記一次導電路(10110,10111)は、ほぼ平行に敷設され、終端が接続された一対の導体により形成され(「特許構成要件D」)、
(E)前記電気装置(1104)のピックアップコイル(10115)のコア(10102)をE字状に形成し、前記コア(10102)に前記ピックアップコイル(10115)を巻回し、前記一対の導体がそれぞれ、前記コアの両凹部で、かつそれぞれの凹部のほぼ中心に位置するように配置され(「特許構成要件E」)、
(F)前記ピックアップコイル(10115)のコア(10102)の両凹部に対向する面は、非導電性の材料または非鉄金属により形成されていること(「特許構成要件F」)
を特徴とする誘導電力分配システム。」
2-2.本件特許発明の目的及び効果
明細書の記載によれば、本件特許発明は「図10は、本実施例の実際の1次-空間-2次の関係を断面で示し、本図のスケールは、フェライト製のEビーム(10102)の背面に沿って約120mmである。且つ図1の片持梁モノレールもこの断面を基礎としている。
(10100)は、その代表的なものはI形断面形状のアルミニウム押出品であるところの強固な支持部材(10101)の組合せで車輪が走行できる上部に荷重支持面を有する。側面(10104)は延長部(10106),(10107)により支持部材の取付けに適するようになっており、側面(10105)は1次導体用の支持部材を支えるようになっている。また(10110)と(10111)とは、好ましくは、リッツ線の2本の平行1次導体である。これらは図9に関して示すように、隔離絶縁体(10112)と(10113)のダクト内に支持される。
全ての材料はプラスチックのように非導電性かアルミニウムのように非鉄金属であることが好ましい。もし鉄材料が1つ以上の1次導体かまたは車両の2次ピックアップコイルに隣接して位置しなければならないときは、数ミリメータの深さのアルミニウム被覆によりこの鉄材料をしゃ蔽することが有利であることが分っており、この結果として使用時発生する渦電流が磁束のそれ以上の透過を防ぐ役目をし、従って鉄材料内のヒステリシスによるエネルギーロスを最少にする。
ピックアップコイルのフェライトコア(10102)は、複数のフェライトブロックをE字形に重ね、中央の軸部にプレート(10117)をボルトで固定したものである。中央の軸部は好ましくは20mmの厚さで、且つピックアップコイルの全長は模式的に260mmである。また、複数のフェライトブロックのうちのどれか1つを積み重ねから取り除いて2次コイルの空冷を考慮することが好ましい。2次コイルには使用中に20Aの循環電流が流れるからである。ピックアップコイル(10115)は1つ以上の任意の附属コイル(10116)と共にフェライトコアの中央の軸部に巻回する。1次導体(10110)と(10111)からフェライトコアの中央の軸部への電磁結合は前記1次導体がフェライトにより完全に囲まれているので、比較的能率的である。
車両(図示せず)はフェライト(10102)の左側に存在しており、変化する磁束は実質的にフェライト(10102)の内部に閉じこめられるので、車両をボルト等(たとえ鋳鉄製でも)により直接フェライト(10102)に取り付けてもよい。
ピックアップコイルは1台の車両に1つ以上存在するが、これは1次誘導ループの設計周波数で共振する同調回路より成る。好ましくは、該ピックアップコイルはフェライト材より成るコアの中央脚を巻回する多数のリッツ線より成り、該コアは誘導結合の効果を増大する磁束集中機能を与える。共振電流は大電流であり、導体の巻数も多いので、使用時にコイルの付近に高磁界を生じる。好ましくは、共振コンデンサ(共振周波数を調整するために附加コンデンサユニットを用意してもよい)をコイルと並列接続し、コンデンサに整流手段(好ましくは急速電力整流ダイオード)を接続し、整流手段を負荷と直列に接続することである。さらに多くの電力を引き出すことができるので高Qピックアップコイルを有することが望ましいが、コイルのQの増加はその大きさと価格を増加する傾向があるのでその折衷案が必要である。さらに、高Qピックアップコイルは動作周波数の小さな変動に対する同調の問題を提起する。」(平成11年2月12日付け訂正請求書に添付された明細書第19頁第9行-第21頁第9行)、
また、平成10年7月21日付け取消理由通知において提示し、引用された刊行物11である「D.C.Whitiほか著、“SOME PROBLEMS RELATED TO ELECTRIC PROPULSION”1966.11.1発行,MASSACHUSETTS INSTITUTE OF TECHNOLOGY 第48頁FIGURE6-1(a)(b)等に対する、平成11年2月12日付け特許異議意見書によれば、
「本願発明は、
『一次導電路の導体とピックアップコイルの配置により、ピックアップコイルに効率よく起電力が誘起され、効率よく無接触で給電できるとともに、前記ピックアップコイルのコアの両凹部に対向する面は.非導電性の材料または非鉄金属により形成されていることにより、一次導電路の導体が発生する磁界により、添付参考図の如くコア側に磁路が形成され、よってエネルギーロスを防止でき、かつ外部への影響(磁界中の鉄片の加熱等)を防止でき、作業員の安全を確保でき(前記加熱された鉄片による火傷から作業員を守ることができる等)、さらにこの面上に金属体(鉄片など)が置かれたときでも一次導電路の導体が発生する磁界の金属体への影響が少ない、』という優れた効果を有しております。」(特許異議意見書第4頁第4-14行)、



「B.本件請求項22に係る発明と刊行物11との対比
本件請求項22に係る発明と刊行物11を比較しますと、刊行物11では、「コアの両凹部に対向する面をフェライト面としている、」のに対し、本件請求項22に係る発明では、『コアの両凹部に対向する面は、非導電性の材料または非鉄金属により形成されており、』この点で相違しております。
したがって、刊行物11では、本件請求項22に係る発明特有の、『ピックアップコイルのコアの両凹部に対向する面は、非導電性の材料または非鉄金属により形成されていることにより、一次導電路の導体が発生する磁界が遮断され、よってエネルギーロスを防止でき、かつ外部への影響を防止でき、作業員の安全を確保できる、』という優れた効果を期待できません。
さらに刊行物11では、コアの両凹部に対向する面をフェライト面としているため、このフェライト面にも磁路が形成されることから、この面上に金属体が置かれると、金属体は一対の導体が発生する磁界の影響を大きく受けるのに対し、本件請求項22に係る発明では、非導電性の材料または非鉄金属により形成される面上に金属体が置かれたときでも一次導電路の導体が発生する磁界の金属体への影響が少なく、効果が全く相違しております。
また刊行物11には、磁界の外部への影響および安全性について、何ら示唆されておりません。
したがって、本件請求項22に係る発明がこのような刊行物11から容易に想到し得たとは到底考えられないのであります。」(特許異議意見書第10頁第27行-第11頁第17行)
というものである。

3.イ号システムの構成
イ号システムは、判定請求人 株式会社椿本チエイン(以下、「請求人」という)が、平成12年2月24日付けで提出した判定請求書に添付されたイ号図面及びイ号説明書から、その構成を分説すると次のようになると認められる。
「(a)高周波電源(図示せず)(以下、「イ号構成要件a」という。以降同様)と、
(b)該高周波電源に接続された一次導電路(10110,10111)(「イ号構成要件b」)と、
(c)前記一次導電路と結合して使用する1つ以上の電気装置(図示せず)であって、前記一次導電路により発生する磁界から少くとも若干の電力を取り出し得るとともに、ピックアップ共振周波数を有する共振回路(図示せず)を構成する少くとも1つのピックアップコイル(10115)を有し、且つ該ピックアップコイル(10115)に誘導される電力により駆動可能な少くとも1つの出力負荷(図示せず)を有する電気装置(「イ号構成要件c」)と、
を備え、
(d)前記一次導電路は、ほぼ平行に敷設され、終端が接続された一対の導体により形成され(「イ号構成要件d」)、
(e)前記電気装置のピックアップコイルのコア(10102)をE字状に形成し、前記コアに前記ピックアップコイルを巻回し、前記一対の導体がそれぞれ、前記コアの両凹部で、かつそれぞれの凹部のほぼ中心に位置するように配置され(「イ号構成要件e」)、
(f)前記ピックアップコイルのコアの両凹部に対向する面は、フェライトゴム(120)により形成されていること(「イ号構成要件f」)
を特徴とする誘導電力分配システム。」。
そして、判定請求書に添付されたイ号説明書によると、「(10100)はアルミ二ウム押出品のレールであり、モータ(出力負荷に相当する)を備える搬送装置(電気装置に相当する)を懸架すると共に、一次導電路(絶縁被覆導体)をその長さ方向の複数位置において支承する絶縁支持材(10112,10113)を支持している。
レール(10100)は断面形状がI字状をなす長尺物であり、その縦片の部分が前記搬送装置に設けられたE型のコア(10102)のEの字の開□側に対向し、Eの字の凹部の略中央に一次導電路(10110,10111)が配置されるようにしてある。レールの上辺の下面及び下辺の上面には上下方向寸法数mm程度のツバ(10106,10107)が全長に亘って形成されている。
レールの縦辺部のコア側には全長に亘ってシート状のフェライトゴム(120)が貼着してある。
フェライトゴムは
フェライト:ゴム重量比(7〜8):(3〜2)
抵抗率 :1×106 (Ω・cm)
初透磯率 :12
厚み :1mm
レールの縦辺の内法寸法は130mm
である。
絶縁支持材(10112,10113)はレ一ルの縦辺部のフェライトゴム上にに固定してある。絶縁支持材(10112,10113)はレ一ルの長手方向に約300mmピッチで設けられている。
コアのレール内に位置する部分の高さ寸法は100mm、上側凹部の上面から下側凹部の下面までの高さ方向寸法は80mmである。
フェライトゴムは高さ100mmのものがコアの高さ位置に合せて貼着してある。」(イ号説明書第1頁第26行-第2頁第22行)と記載されている。

4.本件特許発明及びイ号システムについての当事者の主張
本件特許発明が特許請求の範囲の請求項22に記載された事項により特定されるとおりのものであって、その構成が上記2-1.のとおりである点、本件特許発明の特許構成要件A乃至Fが、それぞれイ号システムのイ号構成要件a乃至fに対応する点、そして、本件特許発明の特許構成要件A乃至Gに対して、イ号システムのイ号構成要件a乃至gが充足している点について、請求人及び被請求人の間に争いはない。
しかしながら、本件特許発明の特許構成要件Fとイ号システムのイ号構成要件fとの関係について、請求人及び被請求人は次のとおり主張している。
4-1.請求人の主張1
判定請求書において請求人は「本件発明のコアの凹部に対向する面は実施例ではアルミニウム製のレール(支持部材10101)となっており、これによって「一次導電路の導体が発生する磁界によりコア側に磁路が形成され、よってエネルギーロスを防止できかつ外部への影響(磁界中の鉄片の加熱等)を防止できる、」(特許異議意見書第5頁12〜14行)効果が奏されるのである。前記鉄片の加熱防止については本件公報第」7欄第12〜19行に「もし鉄材料が…エネルギーロスを最小にする。」と記載されている。
而してイ号システムにおいてはコア(10102)の凹部に対向する面、すなわちレール(10100)のI字の縦辺部分はフェライトゴムで構成されている。
このフェライトゴムは前述の如き抵抗率を有しているから良導体であるとは言えないまでも非導電性であると言うことはできない。また前述の構成を有するから非鉄金属であるとは言えず、フェライトがより多く含まれている点に鑑みれば、鉄であると見做すされるとしても、非鉄金属であるとは見做せない。
そしてフェライトゴムは前述の如き初透磁率を有するから-次導電路(10110,10111)を流れる電流による磁束はフェライトゴム中を流れることになり、磁気的振舞は本件発明と相違する。」(判定請求書第5頁第3-20行)、
「I 甲第1号証にはイ号システムの構成要件a〜fに対応するものとして以下に対比して示すように、イ〜ヘが存在する。
a 高周波電源 イ 平衡電圧供給源
b 一次導電路 ロ 2線電送ライン
c 電気装置 ハ 出力巻線に連なる負荷及び誘導ピッ
クアップを備える装置
d 一次導電路 ニ 2線電送ラインは平行で整合ライン
平行・終端接続 終端を有して接続
e コア/コイル ホ 誘導ピックアップ/出力巻線
f フェライトゴム ヘ フェライト面
そしてピックアップコイルはE字状をなし、その凹部の中央に電送ラインが配置されている。電送ラインは導電接地面上のフェライト板に立設された絶縁部材に支持されている。
このようにイ号システムは本件出願前に公知の甲第1号証に開示された非接触給電システムと同一又は略同一である。
相違するのは(誘導接地面上の)フェライト板と(レール上の)フェライトゴムだけである。
以上を総括するとイ号システムは公知の甲第1号証の構成と同一又は略同一であり、イ号システムは公知技術を採用したにすぎないものであると言うことができる。」(判定請求書第5頁22行-第6頁第12行)、
「即ちイ号システムのコアの両凹部に対向する面は
非導電性の材料又は非鉄金属
ではない
フェライトゴム
により形成されている。
本件発明に言う「対向する面」がコアの両凹部に正対する部分に限らず、その上下のコア脚部に対抗する部分も含めたより広い範囲を含むとしてもこれらの部分もフェライトゴムで形成されているから本件発明とイ号システムとの構成上の差異は明らかである。
(2)レールの縦辺面に対するフェライトゴムの貼着は積極的にこの部分に磁路を設けることによって一次導電路とコア(従ってまたピックアップコイル)との電磁的結合を高めることを目的としている。以下に説明するように本件発明のようにアルミニウムのレールを露出したままの場合の結合度は0.579であったところ、イ号システムの結合度は0.580であった。
一方それとは逆に、本件発明と異なりフェライトゴムを取付けたことにより鉄損は増加している。即ち本件発明に相当するものでは35.2Wであったところイ号システムでは36.0Wであった。
このようにイ号システムには構成上の差異により本件発明とは異なる作用を営み、本件発明の効果を奏するものではない。」(判定請求書第6頁第16行-第7頁第6行)、
「コア凹部はフェライトゴムだけではなく、その移動にともない絶縁支持具にも対向する。
絶縁支持具の頂部及び1次導電路の被覆は絶縁樹脂製である。然るところ、同様の給電システムにおいて導体を絶縁材料で支持することは甲第1号証及び甲第2号証(特開昭49-112310号公報:目崎栄子の特許異議申立の甲第2号証)の第3図において示されたように公知の技術である。
なお導電路として絶縁材料で被覆したものを用いることは甲第2号証を引くまでもなく周知、慣用の技術である。換言すればコアに対向する導体が非導電性材料で支持され被覆されていること自体は公知乃至周知のことである。したがって、構成要件Fを付加する補正で特許された本件発明の構成要件Fは一次導電路支持具及び被覆材料を規定するものではない。」(判定請求書第9頁第17行-第10頁第3行)(なお、「甲第1号証」とは、取消理由通知で引用された刊行物11と同一のものである)
「以上のようにイ号システムは公知技術を利用したにすぎないものであり、また本件発明と構成上相違し、しかもその相違する構成要件Fは特許異議申立に対抗するための訂正請求において付加されたものであり、特許成立に係る重要な要件であり、この相違に基づく作用、効果(結合度及び鉄損)の差異も顕著であるから、請求の趣旨のとおりの判定を求める。」(判定請求書第10頁第5-9行)
と主張している。
4-2.被請求人の主張
平成12年6月1日付け判定事件答弁書において被請求人は「(1)フェライトゴムの抵抗率に着目した主張に対する考察
イ号システムにおけるシート状のフェライトゴムの抵抗率は、その性状説明から1×106Ω・cmであり、乙第1号証に記載の表7・1(「種々な材質の抵抗率と温度係数」)より明らかなように、このような値の抵抗率(表7・1の表記に合わせると、ρ20=1×1012)を有する材質は、「絶縁物」に種別されるものである。
したがって、イ号システムにおけるフェライトゴムは「絶縁物」、即ち「非導電性の材料」であることは明らかであり、上述の「このフェライトゴムは前述の如き抵抗率を有しているから良導体であるとは言えないまでも非導電性であると言うことはできない。」との主張は、”牽強付会”と思料される。
(2)フェライトゴムの含有成分に着目した主張に対する考察
鉄および鉄合金を取り扱う冶金学の分野においては、「非鉄金属」なる用語は”鉄や鉄合金以外の金属の総称”を指すものとして定義付けられていることは周知の事項である。請求人は「フェライトゴム」を定義付けするに際し、上述の如く「(フェライトゴムは、)前述の構成を有するから非鉄金属であるとは言えず、フェライトがより多く含まれている点に鑑みれば、鉄であると見做されるとしても、非鉄金属であるとは見做せない。」としている。
しかしながら、「非鉄金属」や「鉄」なる用語は「金属」そのものに対する用語として使われるものであり、ゴムを含有する「フェライトゴム」を定義付けの対象とする場合、上述のような記載表現をもって定義付けを行うことは不適切なものであり、客観性のない怒意的なものであると思料される。
(3)フェライトゴムの初透磁率に着目した主張に対する考察
請求人は「レールの縦辺面に対するフェライトゴムの貼着は積極的にこの部分に磁路を設けることによって一次導電路とコア(従ってまたピックアップコイル)との電磁的結合を高めることを目的としている。」とし、判定請求書第9頁の表2において、結合度Kと鉄損WIに関しての対比を行い、「このようにイ号システムには構成上の差異により本件発明とは異なる作用を営み、本件発明の効果を奏するものではない。」(判定請求書第7頁第5行目〜6行目参照)及び「この相違に基づく作用、効果(結合度及び鉄損)の差異も顕著である」(判定請求書第10頁第8行目〜9行目参照)と主張している。
しかしながら、表2に示される結合度及び鉄損を対比してもその数値に顕著な差異が見出せず,イ号システムにおいては、一次導電路を流れる電流による磁束はフェライトゴム中を流れることから、その磁気的振舞に若干の相違はあるも、効果(結合度及び鉄損)については、本件特許発明と略同様なものと思料される。」(判定事件答弁書第6頁第27行-第8頁第2行)、
「イ号システムにおいては、ピックアップコイルのコアの両凹部に対向する面にはフェライトゴムが貼着されていることから、上述の”(1)フェライトゴムの抵抗率に着目した主張に対する考察”の項で述べたように、フェライトゴムは「非導電性の材料」そのものであり、結局のところ、イ号システムの構成要件fは「ピックアップコイルのコアの両凹部に対向する面は、非導電性の材料により形成されている」こととなる。
したがって、イ号システムは本件特許発明の構成要件A乃至Fをすべて充足することとなり、本件特許発明の技術的範囲に属することは明らかである。」(判定事件答弁書第8頁第4-11行)、
「以上の通りであって、イ号システムは本件特許発明の構成要件A乃至Fをすべて充足するものあり、その技術的範囲に属するものであるから、速やかに「本件判定請求は成り立たない。」との判定を下されるよう、茲に本書を提出する次第である。」(判定事件答弁書第8頁第13-16行)
と主張している。
4-3.請求人の主張2
平成12年7月25日付け弁駁書において請求人は「1)乙第1号証の表7-1の抵抗率の欄に記載された10-8は金属についてのみ適用され、絶縁物には適用されないものである。以下まずそれを立証する。
甲第8号証の白雲母及び金雲母に注目すると、
白雲母の抵抗率(体積固有抵抗):1014〜1017{Ω・cm}
=1012〜1015{Ω・m}
金雲母の抵抗率 :1013〜1015{Ω・cm}
=1011〜1013{Ω・m}
であり、これらの数値は乙第1号証の表7-1の雲母の欄のそのままの数値とオーダが一致する。表7-1の数値に10-8を乗じた数値とはオーダが一致しない。
もう一つ例を挙げる。表7-1のベークライトの数値に10-8を乗じた場合、1〜1×104{Ω・cm}となるが、甲第4号証の右上のチャートに明らかな如くベークライトがSiより低抵抗率ということになり、絶縁物に10-8を乗じることの誤りが明白である。
従って、イ号のフェライトゴムの抵抗率1×106{Ω・cm}は1×104{Ω・m}であり、乙第1号証の表7-1にある絶縁物の何れよりも少なくとも2桁以上低いものであり、フェライトゴムが絶縁物であるということはできない。
2)請求人の主張の要旨は「フェライトゴムは非鉄金属であるとは言えない」というにある。この主張は決して被請求人が述べるように「フェライトゴムを金属の用語で定義付けしている」のではない。
請求人の主張のように、「金属」の用語で定義付けるべきものではない「フェライトゴム」を、「(非鉄)金属ではない」と記述しているだけであり、このように記述することは何ら不適切なことではない。
そして請求人は、仮に含有成分に着目しても「非鉄金属である」とはみなせない、と述べただけであり、この点についても定義付けしているわけではなく、当然の否定的叙述をしているだけであるから、不適切であると言われる理由はない。
3)結合度の差異は徴差であることは否めないが、鉄損は明らかな相違を有しており、これが略同様であるとの主張は失当である。
このように、1)〜3)の被請求人の主張は何れも失当であるから、イ号が本件発明の構成要件のA〜Fを備えるとの主張は成り立たない。」(弁駁書第2頁第12行-第3頁第11行)
と主張している。

5.対比及び判断
本件特許発明とイ号システムとを対比すると、前述のとおり各特許構成要件A乃至Fは、イ号構成要件a乃至fにそれぞれ対応していると認められ、イ号構成要件a乃至eは特許構成要件A乃至Eを充足していると認められ、請求人と被請求人とにも争いはない。
しかし、特許構成要件Fとイ号構成要件fとの関係において、
ピックアップコイルのコアの両凹部に対向する面について、本件特許発明は非導電性の材料または非鉄金属により形成されているのに対し、イ号システムはフェライトゴムにより形成されている点で相違していると認められ、請求人と被請求人との間にも争いがある。
そこで、イ号構成要件fが特許構成要件Fを充足しているか否かについて検討する。
まず、イ号構成要件fが特許構成要件Fを充足するためには、
フェライトゴムは非導電性の材料であること(以下、「充足要件1」という)、または、
フェライトゴムは非鉄金属であること(以下、「充足要件2」という)
のいずれかを満たせばよいと認められ、請求人および被請求人との争いについても、整理すると前記充足要件1,2についてのみにあると認められる。
5-1.充足要件1について
イ号構成要件fにおけるフェライトゴムは、「非導電性の材料であるか否か」、すなわち、「”導電性、すなわち、電気を通し易い、導電率が低い材料であるか”、”非導電性、すなわち、電気を通し難い、導電率が高い材料であるか”」について検討すると、
請求人の主張によれば、「イ号のフェライトゴムの抵抗率1×106{Ω・cm}は1×104{Ω・m}であり、良導体と見なせないまでも絶縁物であるということはできない。」というものであり、
一方、被請求人の主張によれば、「イ号システムにおけるシート状のフェライトゴムの抵抗率は、その性状説明から1×106Ω・cmであり、乙第1号証に記載の表7・1(「種々な材質の抵抗率と温度係数」)より明らかなように、このような値の抵抗率(表7・1の表記に合わせると、ρ20=1×1012)を有する材質は、「絶縁物」に種別されるものである。」というものである。
ここで、材料の性質を抵抗率に基づいて分類すると、乙第1号証、甲第4号証(「電気・電子工学大百科事典」第6巻第123頁、1983年株式会社電気書院発行)並びにその他文献(例えば、「電気材料」[改訂4版]鳳誠三郎著、昭和57年共立出版発行(第36頁表1・14)等参照)から、材料と常温における抵抗率との関係は、
導体とは、10-8〜10-4[Ω・m]
半導体とは、10-4〜106[Ω・m]
絶縁物とは、106〜1016[Ω・m]
であることが、公然知られた技術的事項となっている。
当該公然知られた技術的事項によると、イ号システムのフェライトゴムは、その抵抗率が1×104[Ω・m]であることから、絶縁物であるということはできないものの、導電性の材料であるか、非導電性の材料であるかという点でみると、絶縁物に近い抵抗率を有する材料であると解することが妥当と認められるので、イ号システムのフェライトゴムは、電気を通し難い、導電率が高い材料、すなわち、非導電性の材料であると認められ、イ号構成要件fは特許構成要件Fを充足している。
5-2.充足要件2について
上記5-1.充足要件1における検討より、充足要件2について検討するまでもなくイ号構成要件fは特許構成要件Fを充足することとなった。
したがって、イ号システムのイ号構成要件a乃至fは本件特許発明の特許構成要件A乃至Fのすべてを充足している。

6.むすび
以上のとおりであるから、イ号システムは、本件特許発明の技術的範囲に属する。
よって、結論のとおり判定する。
 
別掲
 
判定日 2000-09-11 
出願番号 特願平4-504164
審決分類 P 1 2・ 1- YB (H02J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 杉田 恵一  
特許庁審判長 松野 高尚
特許庁審判官 山本 春樹
近藤 聡
登録日 1997-06-27 
登録番号 特許第2667054号(P2667054)
発明の名称 誘導電力分配システム  
代理人 河野 英仁  
代理人 河野 登夫  
代理人 森本 義弘  

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