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審決分類 審判 判定 同一 属する(申立て不成立) D02G
管理番号 1024926
判定請求番号 判定2000-60040  
総通号数 15 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許判定公報 
発行日 1989-09-25 
種別 判定 
判定請求日 2000-03-30 
確定日 2000-10-02 
事件の表示 上記当事者間の特許第2764911号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 
結論 イ号物品は、特許2764911号の請求項1に係る発明の技術的範囲に属する。 
理由 1.請求の趣旨
本件判定の請求の趣旨は、イ号物品は、特許2764911号の請求項1に係る発明の技術的範囲に属しない、との判定を求めるものである。

2.特許2764911号の請求項1に係る発明(以下、「本件特許発明」という。)
本件特許発明は、その特許明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりのものであり、これを構成要件ごとに分説すると次のとおりである。

A.下記物性のポリアリーレンサルファイド繊維のみからなることを特徴とする高巻縮・低収縮性ステープル繊維不織布。
B.複屈折率:0.150〜0.300
C.巻縮数:10個以上/25mm
D.巻縮率:10%以上
E.乾熱(160℃)収縮率:3%以下
F.伸度:30%以上

3.イ号物品
これに対し、イ号物品の構成は、分説すると次のとおりである。

A.下記物性のポリアリーレンサルファイド繊維のみからなるステープル繊維不織布。
B.複屈折率:0.2
C.巻縮数:11〜13個/25mm
D.巻縮率:16〜17%
E.乾熱(160℃)収縮率:0.3〜0.7%
F.伸度:58〜63%

なお、かかるイ号物品の製造方法について、請求人は次のとおりであるとしている。
「また、かかるイ号物品の原料たるポリアリーレンサルファイド繊維の製造方法は次のとおりである。
メルトフローレート(島津製作所製メルトフローテスターを用いASTM D 1238-70の規格に従って測定した値)220g/10分のポリアリーレンサルファイドを常法により紡糸温度320℃で溶融紡糸し、トウ状に集束し、98〜100℃で3.59倍に湿式延伸し、その後、緊張熱処理を行うことなく、延伸トウ(単繊維繊度2デニール)を37℃、押込圧2kg/cm2で常法に従って巻縮を付与し、更に常法に従って所定長(51mmまたは76mm)のステープルに切断する。
ここで、イ号物品の原料たるポリアリーレンサルファイド繊維の製造方法においては、延伸後の緊張熱処理は一切行っていない。
このようにして製造されたポリアリーレンサルファイド繊維は、請求人の顧客において、常法により不織布とされる。」(請求書第4頁12〜23行)

4.請求人の主張(特許請求の範囲の解釈について)
請求人の主張するところは、請求書の下記の抜粋のとおりである。
「(5)本件特許発明と、イ号物品との技術的対比
上記のとおり、本件特許発明と、イ号物品とは文言上一致する。
しかしながら、前記したとおり、本件の出願審査において、出頭人は、「・・更に熱処理を160〜180℃で1〜10秒間緊張下で行ない、その後巻縮を付与することによって得ることができるのであります。」と主張しており、延伸後の「緊張熱処理」は必須であり、これによりはじめて本件発明の目的とするPAS繊維が得られると理解されるのである。
さらに、出願人は公知例である甲第2号証(引例2)および甲第3号証(引例3)に記載された発明との同一性を回避すべく、これら引例に記載の熱固定温度(ヒートセット温度)では、本件発明の目的とする物性の繊維を得ることはできない旨も意見書に主張している。
したがって、上記審査経過を参酌すれば本件特許発明において用いるポリアリーレンサルファイド繊維は、延伸後に緊張熱処理して得られるものに限定して解釈されるべきである。
なお、ここで被請求人は、160〜180℃で1〜10秒間の緊張熱処理は本件特許発明の必須要件ではなく、好ましい範囲条件に過ぎないと主張するかもしれない。
しかしながら、甲第2号証(引例2)、甲第3号証(引例3)には180℃以上の緊張熱処理が記載されており、さらに、審査過程では引用されてはいない甲第4号証(特開昭57‐143518号)には次のとおり、150〜260℃の緊張熱処理が記載されているのである(念のため、甲第4号証においては「二段目以降の延伸」と表現されてはいるが、延伸倍率をみると「1.0倍から1.5倍」とあり、実態は本件特許発明における緊張熱処理と全く同一であることを付記しておく)。
すなわち、甲第4号証第2頁右上欄第10〜16行には、「二段目以降の延伸は工程の操業性を向上し、糸条の熱特性を改善するため、糸条を加熱しながらおこなう。通常の加熱温度は100〜270℃の間であるが、好ましくは150から260℃の間で全倍率が一段目の倍率の1.0倍から2.0倍でとくに1.0倍から1.5倍の間で延伸すると好ましい特性を有する糸条を製造できる。」と記載されている。ここで、参考までにこの甲第4号証に対応する公告公報である甲第5号証(特公昭64‐3961号)における上記記載の対応部分を見ると、より明確に、「二段目以降の延伸または定長熱処理は工程の機械的特性を向上し、糸条の熱特性を改善するため、糸条を加熱しながらおこなう。加熱温度は150から260℃の範囲である。二段延伸する場合は、全倍率が一段目の倍率の1.0倍超過から2.0倍でとくに1.0倍超過から1.5倍の間で延伸すると好ましい特性を有する糸条を製造できる。」(甲第5号証第2頁第3欄第36〜42行)と記載されている。
してみれば、本件特許発明は、甲第2〜4号証で従来知られていた100〜270℃、好ましくは150〜260℃での緊張熱処理の条件から、160〜180℃で1〜10秒間の条件を選択した点のみが唯一の特徴であると解するのが相当である。
したがって、もし被請求人が160〜180℃で1〜10秒間の緊張熱処理が必須ではないと主張することは、とりもなおさず、被請求人自ら本件特許発明が前記した甲第2〜4号証に記載の発明との同一性を認めること、ひいては本件特許が無効であることを自白するに等しいことに帰結するのである。
本件特許が無効ではないとの前提にたてば、前記したとおり、本件特許発明において用いるポリアリーレンサルファイド繊維は、延伸後に特定条件の緊張熱処理をして得られるものに限定して解釈されるべきである。
(6)イ号物品が本件特許発明の技術的範囲に属しないとの説明
前記したとおり、本件特許の審査経過を参酌すれば本件特許発明において用いるポリアリーレンサルファイド繊維は、延伸後に特定条件の緊張熱処理をして得られるものに限定して解釈されるべきであり、そうでなければ、甲第2〜4号証に記載された、公知技術との同一性を回避できないことになる。
してみれば、本件特許発明が公知例と異なるとの前提にたてば、ポリアリーレンサルファイド繊維は延伸後に特定条件の緊張熱処理をして得られるものに限定して解釈されるべきであり、延伸後に緊張熱処理を一切行わないで得られたポリアリーレンサルファイド繊維からなるイ号物品は、本件特許発明の技術的範囲に属しないものである。」(請求書第4頁下6行〜第6頁19行)

5.被請求人の主張(本件特許発明とイ号物品との技術的対比)
被請求人の主張するところは、判定事件答弁書の下記の抜粋のとおりである。
「1.本件特許発明について
本件特許発明の技術的構成は、甲第1号証(本件特許公報)の「特許請求の範囲」の「請求項1」の記載に徴し、下記A乃至Fの6個の構成要件、すなわち
A.下記物性のポリアリーレンサルファイド繊維のみからなることを特徴とする高巻縮・低収縮性スデープル繊維不織布。
B.複屈折率:0.150〜0.300
C.巻縮数:10個以上/25mm
D.巻縮率:10%以上
E.乾熱(160℃)収縮率:3%以下
F.伸度:30%以上
を有機的に結合してなる不織布であることは、請求人も自認している。
そして本件特許発明は、かかる構成を採用することによって、明細書に記載するような効果、すなわち、「繊維としての強度その他の諸特性に優れている他、耐熱性および耐薬品性に優れており、寸法安定性にも優れているので、該ステープル繊維のみからなる不織布は、例えば工業用フィルター、抄紙用カンバス、電気絶縁材料あるいは防護服等過酷な条件下でも使用に耐え得る不織布繊維製品の素材として有効に活用できる。」という効果(甲第1号証第6欄26行〜32行)をはじめて奏することができるようにしたものである。
いま、これをより具体的に説明すると、上記構成要件のB及びFの範囲から外れると、ステープル繊維として必要な強度や伸度が得られないばかりでなく、寸法安定性に欠けるという欠点が生じ、本発明で意図する様な性能の不織布か得られなくなる(同号証第3楓第41〜45行)。また、構成要件C及びDの範囲から外れると繊維の巻縮が不足して繊維間の交絡が十分に行われず、後工程たとえばカード工程で巻き付き等のトラブルを発生する原因となる(同第3棚最終行〜第4欄第3行)。また構成要件Eの範囲から外れると不織布としたときに寸法安定性の悪いものとなり、例えばバグフィルター等の製品にして用いた場合、吊り下げた状態で長時間保つと熱により徐々に変形してしまう(同第4欄第3〜7行)。
このように本件特許の特許請求の範囲の請求項1に記載する発明は、構成要件B〜Fの物性を有するポリアリーレンサルファイド繊維のみからなるステープル繊維不織布(構成要件A)に係る「物の発明」である。
2.請求人の主張の内容
請求人は、本件特許発明とイ号物品は文言上一致することを認めた上で、審査経過を参酌すると本件特許発明に係るポリアリーレンサルファイド繊維(以下「PAS繊維」という。)は延伸後に緊張熱処理をして得られるものに限定して解釈されるべきであり、従って延伸後に緊張熱処理を一切行わないで得られたPAS繊維からなるイ号物品は本件特許発明の技術的範囲に属しないと主張する。
その限定解釈されるべき理由として請求人が述べるところは、次の2点である。
[第1点]:出願人が平成8年8月19日付で提出した意見書の記載内容、殊に「・・更に熱処理を160〜180℃で1〜10秒間緊張下で行ない、その後巻縮を付与することによって得ることができるのであります。」(意見書3頁1行〜6行)と主張している点を取りあげて、この記載内容から延伸後の「緊張熱処理」は必須であり、これによりはじめて本件発明の目的とするPAS繊維が得られると理解されること(請求書4頁26行〜5頁1行)。
[第2点]:出願人は同意見書にて、公知例である甲第2号証(引例2)および甲第3号証(引例3)に記載された発明との同一性を回避すべく、これらの引例に記載の熱固定温度(ヒートセット温度)では、本件発明の目的とする物性の繊維を得ることはできない旨を主張していること(請求書5頁2行〜5行)。
しかしながら、本件特許発明の技術的範囲を上記のように限定解釈する請求人の主張は何の正当な根拠もなく、本件特許権者たる被請求人として到底容認することができないものである。その理由を以下、項を改めて述べる。
3.請求人が主張する限定解釈論は失当であることについて
(1)本件特許発明は、前述の如く構成要件B〜Fの物性を有するPAS繊維のみからなるステープル繊維不織布(構成要件A)という「物の発明」である。
そして、物の発明に関する技術的範囲の届否は、対象物品か当該物の発明の構成要件をすべて充足するか否かにより決せられる。
したがって、「物の発明」である本件特許発明の技術的範囲についても、イ号物品が本件特許発明の構成要件をすべて充足するか否かで決すればよいのである。
それゆえ、本件判定事件においては、イ号物品がいかなる製法で製造されていようとも、本件特許発明の構成要件A乃至Fを悉く充足する以上は(上述の如く請求人はこのことを自認している)、イ号物品は本件特許発明の技術的範囲に属するのである。その製法の如何、緊張熱処理の有無は何ら問題とならない。
以上が、「物の発明」たる本件特許発明の技術的範囲を検討する場合の基本原則である。勿論、この原則にも例外が全くないというわけではない。特許権侵害訴訟に関して判例が示してきた意識的限定の理論や包袋禁反言の原則がこれである。
しかし、本件判定事件において請求人が主張している上記第1点及び第2点は、いずれも判例の認める意識的限定論や包袋禁反言則とは似て非なるものである。
(2)先ず、上記第1点について述べると、請求人が指摘する意見書の3頁5行、6行には、なるほど、本件特許発明に係る不織布を構成するPAS繊維は所定の条件で延伸し、更に160〜180℃で1〜10秒間緊張下の熱処理をし、その後巻縮を付与することにより得ることかできる旨が記載されている。
しかし、かかる記載は、同頁1行〜3行に「本願出願当初の明細書の第5頁15行〜第6頁12行(補正後の明細書第3頁第15〜28行)に記載しております様に、」との断り書きがあるように、そもそも本件特許明細書の記載を転記したにすぎないものである。すなわち、前頁(第2頁)下から3行〜最下行の「各物性の総合によってバグフィルター用などとして優れた性能を示す不織布を得ることに成功した」ことに関連して、そのような不織布を構成するPAS繊維は如何にして製造するかを明細書の記載を根拠にして説明したに過ぎないものである。
そもそも明細書の「発明の詳細な説明」の欄には、本件特許発明の如く物の発明にあっては、その物が製造できるような発明の実施の形態を当業者が発明の実施をすることができる程度に記載しなければならないことは今更述べるまでもない。かかる点に鑑みて、本件特許明細書の発明の詳細な説明中に、本件発明に係る不織布用PAS繊維の製造例が説明されているに過ぎないのである。
したがって、上記のような記載が意見書中にあるからといって、これにより出願人は本件特許発明のPAS繊維は延伸後の「緊張熱処理」を施したものに限られると意識的に限定したことになる、と解釈できる筈はない。
よって、上記請求人の理由の第1点は理由がないことか明らかである。
(3)次に、上記第2点について述べると、確かに、出願人は、公知例である甲第2号証(引例2)および甲第3号証(引例3)に記載の熱固定温度 (ヒートセット温度)では、本件発明の目的とする物性の繊維を得ることはできない旨を意見書中で述べたが、それは熱固定温度の相違それ自体により、「甲第2号証(引例2)および申第3号証(引例3)に記載された発明との同一性を回避」するために述べたものではない。そもそも、甲第2号証(引例2)に記載のPAS繊維の伸度(破断点伸び)は、すべて本件特許発明の構成要件Fで規定する伸度(30%以上)を下回るものしか得られておらず(実施例4:17%、実施例5:16%、実施例6:11%、実施例7:10%)、しかも同引例に記載のいずれの繊維も巻縮処理を施したものではないから巻縮数(構成要件C)及び巻縮率(構成要件D)をも満足しない。また、甲第3号証(引例3)にはPASマルチフィラメントに係る発明が記載されているのみであって、ステープル繊維(構成要件A)の記載はなく、しかも同引例に記載のいずれの繊維も巻縮処理を施したものではないから本件特許発明の構成要件C及びDを充足しない。
このように、引例2および引例3に記載の発明は、本件特許発明に係る高巻縮・低収縮性ステープル繊維不織布に用いる本件構成要件B〜Fを有するPAS繊維を開示するものではないから、本件特許発明で用いるPAS繊維との同一性は既に構成要件対比の段階で完全に否定されている。
したがって、これらの引例2及び引例3との同一性を回避するために、出願人が、わざわざ、これら各引例に記載の熱固定温度(ヒートセット温度)を持ち出して議論する必要などある筈はないのである。
意見書中の熱固定温度(ヒートセット温度)についての陳述は、審査官が引例2及び3を引用するに当たり、拒絶理由通知において引例2中の熱固定温度に関する具体的な記載箇所を指摘すると共に、引例3中の「延伸及び熱固定することによって得られるマルチフィラメント」の諸物性の記載箇所を指摘していた関係上、各引例に具体的に記載されている熱固定温度(ヒートセット温度)では本件発明の如き数値的に限られた優れた物性の繊維を得ることはできない旨を説明したにすぎないのである。
以上の説明から明らかな如く、本件特許発明と引例2の発明及び引例3の発明とは、既に構成要件対比の段階で相違することか明白であるから、「引例2及び引例3に記載された発明との同一性を回避」して特許を取得するために、これら両引例の発明と熱固定温度(ヒートセット温度)に相違があることを強調しなければならないという事情は全く存在しない。すなわち、本件特許発明は、熱固定温度が引例2及び引例3のそれと相違することを強調しなければこれら両引例と同一であるとして新規性が否定されざるを得ないような状況下において、熱固定温度の相違を強調してこれら両引例との同一性を回避することによって特許を取得したものでないことは明白である。
そもそも、判例理論により認められている包袋禁反言の法理が適用されるには、「出願人が特許異議答弁書等、何人も閲覧、謄写、謄本の交付等を請求しうる書類(いわゆる包袋)において特許請求の範囲の記載の意義を限定するなどの陳述を行い、それが特許庁審査官ないし審判官に受け入れられて特許を付与された場合であって、かつ右陳述を行わなければ例えば特許異議申立人主張の公知技術(いわゆる引用例)との関係で新規性又は進歩性を欠くとして特許出願につき拒絶査定を受けた可能性が高く、出願人においてかかる陳述をする必要性があったものと客観的に認められる場合。」に限られるものである(大阪地裁平6(ワ)2090号、平成8年9月26日判決言渡し)。
したがって、本件特許発明は、上述のとおり請求人が指摘する熱固定温度に関する意見書の記載がなくとも十分に引例2及び引例3との相違が認められ特許を取得し得たものであるから、包袋禁反言の法理が適用される余地はない。
(4)以上により明らかな如く、本件特許発明を構成するPAS繊維は延伸後に緊張熱処理をして得られるものに限定解釈されるべきものとする請求人の主張は、根拠が全くないものである。
したがって、本件判定事件においては、「物の発明」の基本原則に戻り、イ号物品は本件特許発明の構成要件A乃至Fを悉く充足する以上、本件特許発明の技術的範囲に属すると言わざるを得ないのである。
4.甲第4号証について
請求人は、審査経過では引用されていない甲第4号証を提出し、本件特許発明は甲第2〜4号証に記載された発明を考慮すると、従来知られていた100〜270℃、好ましくは150〜260℃での緊張熱処理の条件から160〜180℃で1〜10秒間の条件を選択した点のみが唯一の特徴である旨を主張する。
しかしながらかかる請求人の主張は、何故本件特許発明の特徴が160〜180℃で1〜10秒間の条件で緊張熱処理した点のみであるのか理解し難く、失当である。
甲第4号証は、工程の操業性を向上し、糸条の熱特性を改善するために2段目の延伸を1段目の1.0〜2.0倍の延伸比で1段目よりも高い温度で延伸するPAS繊維の製造法に関する発明である。しかしなから同号証に記載された当該製造法により得られたPAS繊維の伸度は本件構成要件Fで規定する範囲を下回るものである(第3頁第1表及び第2表ご参照)のみならず、巻縮されていないマルチフィラメントのみしか記載されていない(本件構成要件CおよびDが相違する)。もとより本件構成要件B〜Fを満足するPASステープル繊維を不織布とする記載もない。
よって本件審査過程で引用された甲第2号証および甲第3号証に甲第4号証を加えたとしても本件特許の有効性に何ら影響が生じるものではなく、ましてや請求人の上記主張に帰結されようはずがない。
なお、甲第4号証は、本件特許に対する特許異議申立で甲第2号証として提出されたものであるが、特許異議決定謄本(平成11年2月19日付)にて同号証が一蹴されて特許が維持されていることを述べておく。」(判定事件答弁書第4頁9行〜第10頁20行)

6.職権による審査段階での経緯の確認
(1)本件特許出願の願書に最初に添付した明細書の特許請求の範囲の記載は次のとおりである。
「ポリアリーレンサルファイドからなり、
複屈折率:0.150〜0.300
巻縮数:10個以上/25mm
巻縮率:10%以上
乾熱(160℃)収縮率:3%以下
であることを特徴とする高巻縮・低収縮性ステープル繊維。」
(2)平成8年5月22付け拒絶理由通知書の特許法第29条第2項の規定に係る記載事項
「引用文献:
1.実願昭60-35552号(実開昭61-150890号)のマイクロフィルム
2.特開昭61-75812号公報
3.特開昭61-152828号公報
引用文献1には延伸処理及びクリンプ付与がなされたポリフェニレンサルファイドステープル繊維が記載されており、フィルター等の材料として有用であることが記載されている。繊維をフィルター等の各種用途に用いるにあたって、延伸に引き続きヒートセットすること等により、繊維の熱的特性、特に繊維の収縮率を減じたり、繊維に高度の結晶性を与えたりすることは、引用文献2の記載(公報第5頁右下欄〜同第6頁左下欄等参照)や引用文献3の記載(公報第4頁右下欄〜同左上欄参照)から当業者が容易になし得ることである。」
(2-1)引用文献1の記載事項
1)「エンボスロール等に撚り部分的に熱圧着された不織布であって、該不織布はポリフェニレンサルファイド延伸延伸処理及びクリンプ付与がなされたステープル繊維のみからなることを特徴とする耐熱性及び耐薬品性に優れた不織布。」(実用新案登録請求の範囲)
2)「本考案においては、原料繊維は溶融紡糸され、延伸処理及びクリンプを付与されたPPS繊維を使用する。該繊維は・・クリンプ数5〜50山/25mm・・のものが適当である。」(第7頁2〜8行)
3)「〔実施例〕・・これにより得られた不織布は・・破断伸度30%であって・・」(第8頁下8行〜第9頁5行)
(2-2)引用文献2の記載事項
1)「1.・・の溶融粘度及び・・の重量平均相対分子量・・ポリアリーレンスルフィドの繊維及びフィラメント。」(特許請求の範囲第1項)
2)「8.延伸した後、繊維をヒートセットプロセスに付すことを特徴とする特許請求の範囲第1項記載の繊維及びフィラメント。」(特許請求の範囲第8項)
3)「好ましくは、熱的特性を改良するために、特に沸騰水中での且つ熱の影響下の収縮を減じるために、延伸プロセスに続いてヒートセットプロセスを伴うことが可能である。・・ヒートセットは・・好ましくは張力下にポリアリーレンスルフィドの融点より低い、好ましくは融点より100℃まで、特に好ましくは50℃まで低い温度で行うことができる。ヒートセットのための滞留時間は1秒乃至10分、好ましくは10秒乃至200秒である。この耐熱処理プロセス・・において、高度の結晶性を有する繊維を製造することができる。」(第5頁右下欄下6行〜第6頁左上欄10行)
4)「実施例4・・モノフィラメントを2分の滞留時間で加熱したコデット上で260℃で張力下に耐熱処理した・・破断点伸び 17%・・熱風収縮240℃ <0.2%・・」(第7頁右上欄2行〜左下欄11行)
5)「実施例5・・延伸し、次いで275℃で張力下に且つ2分の滞留時間で耐熱処理した。・・破断点伸び 16%・・」(第7頁右下欄6〜19行)
6)「実施例6・・延伸し、次いで1分の滞留時間で張力下に260℃で耐熱処理した。・・破断点伸び 11%・・」(第8頁左上欄5行〜右上欄2行)
7)「実施例7・・延伸し、次いで1分の滞留時間で張力下に260℃で耐熱処理した。・・破断点伸び 10%・・」(第8頁右上欄8行〜左下欄4行)
(2-3)引用文献3の記載事項
1)「・・平滑剤と・・界面活性剤・・とを含む組成物またはこの組成物の・・水性エマルジョンを用いて、溶融紡糸したポリアリーレンスルフィドマルチフィラメントを処理した後、延伸および熱固定処理をすることを特徴とする、ポリアリーレンスルフィド延伸マルチフィラメントの製造法。・・」(特許請求の範囲、第1項)
2)「アリーレンスルフィドポリマーを溶融紡糸、油剤処理、延伸及び熱固定することによって得られる延伸マルチフィラメントは、耐熱性、高強度、高弾性率・・などの特質を活かし・・」(第4頁右下欄下1行〜第5頁左上欄7行)
3)「熱処理条件は、下記のとおりである。 延伸速度:50〜300m/分 延伸温度(熱板表面):90〜110℃ 熱固定温度(熱板表面):200〜250℃」(第6頁左上欄14〜17行)
(3)平成8年8月19日付け意見書の記載事項(抜粋)
「(1)本願発明は、本書と同時に提出した手続補正書によって補正した全文訂正明細書の特許請求の範囲からも明らかであります様に、「下記物性のポリアリーレンサルファイド繊維のみからなることを特徴とする高巻縮・低収縮性ステープル繊維不織布。複屈折率:0.150〜0.300 巻縮数:10個以上/25mm 巻縮率:10%以上 乾熱(160℃)収縮率:3%以下 伸度:30%以上」
上記本願発明では、明細書にも詳述しております様に、ポリアリーレンサルファイド(PAS)繊維が耐熱性、耐酸化性、耐燃性、耐薬品性などの優れた性質を有することを確認した上で、この繊維には ・寸法安定性に欠ける、 ・得られる繊維は剛直で脆く従って巻縮処理に付すには不向きである、 ・繊維表面が平滑で帯電性を有しているため、取扱い性に難があり、繊維化後の諸工程たとえば紡織・編技術等によって編・織物や不織布として仕上げる過程で色々なトラブルが生じ易いといった問題があり、PAS繊維の有する上記特性を活かした満足のいく性能の不織布が得られないという状況に鑑み、寸法安定性に富むと共に高巻縮性で且つ低収縮性を示し、しかも繊維化後の諸工程においてもトラブルを生ずることのない優れたステープル繊維不織布を得ることのできる技術として開発されたものであります。
即ち本願発明では、不織布を構成する繊維としての配向度を高めて優れた強度や寸法安定性を確保するための要件として複屈折率や伸度を特定し、且つ繊維間の交絡を十分に行なってカード工程での巻き付き等のトラブルを防止する為の要件として巻縮数および巻縮率を特定し、更には不織布としての寸法安定性を高める為の要件として乾熱収縮率を特定し、それら各物性の総合によって、バグフィルター用などとして優れた性能を示す不織布を得ることに成功したものであります。
そしてこの様な特性の不織布を構成するPAS繊維は、本願出願当初の明細書の第5頁第15行〜第6頁第12行(補正後の明細書第3頁第15〜28行)に記載しております様に、延伸温度をPASのガラス転移温度±20℃、好ましくは±10℃の範囲とし、且つ延伸倍率を 2.0〜4.0 、より好ましくは2.5 〜3.5の範囲とし、更に熱処理を160〜180℃で1〜10秒間緊張下で行ない、その後巻縮を付与することによって得ることができるのであります。
(2)(略)
(3)次に、本願発明とご引例1〜3を対比し、本願発明がこれらのご引例から容易に想到し得る様なものでないことを明らかにさせて頂きます。
(3‐1)先ずご引例1(実願昭60-35552号)には、ご指摘の通り延伸処理およびクリンプ処理(即ち巻縮処理)を施したPPS繊維よりなる不織布を用いたフィルターが開示されております。しかしながらこのご引例は、明細書の記述からも明らかであります様に、「PPS繊維が強度的に劣り剛直性および表面平滑性が高いという特性の故に満足のいく保形性が得られない(明細書第3頁第13〜20行など)」という問題を解消する為の手段として、実用新案登録請求の範囲で規定する如く「エンポスロール等により部分的に熱圧着」する考案であります。
確かにこのご引例では、用いられるPPS繊維として延伸処理され且つ巻縮処理されたものを用いることが示されておりますが、それにも拘らず確保することのできない保形性を「エンボスロール等による部分熱圧着」によって改善するところに技術思想としての特徴を有する技術として位置付けることができます。
これに対し本願発明は、前述の如くPAS繊維そのものの物性、即ち「複屈折率が0.150 〜0.300 、巻縮数が10個以上/25mm、巻縮率が10%以上、乾熱(160℃)収縮率が3%以下、伸度が30%以上」といった特性を規定することにより、このご引例で規定する様なエンボス加工による部分熱処理などによることなく、カード通過性やフィルター性能の向上を図る発明であり、技術思想として全く異なっております。しかもこのご引例には、本願発明で意図する上記の様な特性を得るために、不織布を構成するPAS繊維の複屈折率、巻縮数、巻縦率、乾熱(160℃)収縮率、伸度などを具体的にどの様に設定すれば良いかといったことは全く開示されておらず、もとよりそれら各物性の具体的値を示唆し得る様な記述も全く為されていないのでありますから、たとえ当業者と雖もこのご引例から本願発明の上記構成と作用効果を想到することは断じて容易なことでないと考えます。
(3‐2)またご引例2(特開昭61-75812号)は、その特許請求の範囲第1項からも明らかであります様に、特定範囲の溶融粘度と重量平均分子量を有し且つ両者の関係の特定されたPASを原料とするPAS繊維とフィラメントを開示するものでありますが、本願発明で意図する様な目的の下で前述の様な各物性を特定するという思想は全く存在しません。
尚このご引例には、ご指摘の通り延伸に引き続いてヒートセットすることにより繊維の熱的特性や収縮率、結晶性等を制御し得ることが記載されております。
ところがこのヒートセット温度は、審査宮殿の指摘される公報第5頁右下欄〜同第6頁左上欄の記述を見ますと、「PASの融点(280℃以上)より100℃までの温度(即ち180℃以上)」(実施例4では260℃)であり、本願発明で好ましい熱処理温度として採用される「160〜180℃」とは明らかに異なり、その結果として、実施例に挙げられたPAS繊維の伸びはいずれも本願発明で規定する「30%以上」といった値を全て下回る伸び率しか得られておりません(ちなみに実施例4では17%、実施例5では16%、実施例6では11%、実施例7では10%)。加うるにこのご引例には、本願発明で重要な特性として規定する「巻縮数および巻縮率」については、その具体的数値はもとより、巻縮処理を施すこと自体に技術的示唆を与える様な記述すら存在せず、複屈折率についても同様であります。
即ちこのご引例は、分子量や溶融粘度の特定されたPASを原料とする新たなPAS繊維またはフィラメントの製法が開示されているとしても、本願発明で用いられるPAS繊維とは物性において明らかに異なるものであり、本願発明で意図する様な特性のPAS繊維不織布を得るという目的のもとで、その原料となるPAS繊維の特性を前述の様に規定するという思想は全く存在しないのであります。従って、このご引例から本願発明の前記構成と作用効果を予測することもまた、当業者と雖も断じて容易なことではないと考えます。
(3‐3)更にご引例3(特開昭61-152828号)は、その特許請求の範囲からも明らかであります様に、PAS繊維を溶融紡糸する際に用いる油剤として「特定の平滑剤と鉱油を含む水性エマルジョン」を使用するところにその特徴を有する発明であり、やはり本願発明とは技術思想を全く異にしております。
尚、審査宮殿は本号証の第4頁右下欄〜第5頁左上欄を摘出され、この部分には「延伸および熱固定することによって耐熱性や強度等の特性を改善し得る」旨の記述があることを指摘されているものかと思料します。ところが、このご引例の第6頁左上欄第17行には、「熱固定温度:200〜250℃」と記載されており、本願発明で「伸度:30%以上」という特注を確保する為の好ましい熱処理温度として採用される 「160〜180℃」とは明らかに異なり、こうした熱固定温度では、本願発明で規定する上記伸度を満足することはできません。
即ちこのご引例には、「延伸や熱固定が耐熱性や強度等の特性に影響を及ぼす」といった周知の事実が記述されているに止まり、PAS繊維不織布としてのカード通過性やフィルター性能、寸法精度などを改善する為に、伸度等を含めた物性を具体的に如何なる値に調整するかといったことは全く記載されておりません。加うるにこのご引例にも、本願発明で重要な特性として規定する「巻縮数および巻縮率」については、その具体的数値はもとより、巻縮処理を施すこと自体に技術的示唆を与える様な記述すら存在せず、複屈折率についても同様であります。
(3‐4)(以下、略)」

7.甲第4号証(特開昭57-143518号公報)の記載事項
(なお、請求人が提示した甲第5号証(特公昭64-3961号公報)は甲第4号証に対応する公告公報であるので、その記載事項については省略する。)
(1)「芳香族サルファイド系重合体を溶融紡糸した後二段以上の多段で延伸するに際して、一段目の延伸を未延伸糸の自然延伸比以上の倍率で行い、次いで一段目倍率の1.0倍から2.0倍の範囲の全延伸倍率になるようにかつ一段目の延伸温度以上で二段延伸することを特徴とする芳香族サルファイド繊維の製造方法」(特許請求の範囲)
(2)「二段目以降の延伸は工程の操業性を向上し、糸条の熱特性を改善するため、糸条を加熱しながらおこなう。通常の加熱温度は100〜270℃の間であるが、好ましくは150〜260℃の範囲で全倍率が一段目の倍率の1.0倍から2.0倍で特に1.0倍から1.5倍の間で延伸すると好ましい特性を有する糸条を製造できる。」(第2頁右上欄10〜16行)
(3)第2頁左下欄〜第3頁右下欄記載の実施例1及び2に係る「第1表」及び「第2表」の「二段延伸糸」の「伸度(%)」の欄には、「13」から「24」にわたる数値が記載されている。

8.当審の判断
(1)本件特許発明とイ号物品との対比
以下の点は、当事者の間に争いがない。
本件特許発明とイ号物品とは、ともに「ポリアリーレンサルファイド繊維のみからなるステープル繊維不織布」であり、その「ポリアリーレンサルファイド繊維」の物性に係る「複屈折率」、「巻縮数」、「巻縮率」、「乾熱(160℃)収縮率」、及び、「伸度」のいずれの条件の数値限定においても、イ号物品は本件特許発明に係る構成要件を充足している。
(2)争点についての検討(請求人主張の点)
(2-1)請求人は、上記4.「(5)」のとおり「上記審査経過を参酌すれば本件特許発明において用いるポリアリーレンサルファイド繊維は、延伸後に緊張熱処理して得られるものに限定して解釈されるべきである」と主張している。
審査段階での経緯は、上記6.記載のとおりである。
被請求人は、上記6.(3)「(1)」記載のとおり、意見書において「そしてこの様な特性の不織布を構成するPAS繊維は、本願出願当初の明細書の第5頁第15行〜第6頁第12行(補正後の明細書第3頁第15〜28行)に記載しております様に、延伸温度をPASのガラス転移温度±20℃、好ましくは±10℃の範囲とし、且つ延伸倍率を 2.0〜4.0 、より好ましくは2.5 〜3.5の範囲とし、更に熱処理を160〜180℃で1〜10秒間緊張下で行ない、その後巻縮を付与することによって得ることができるのであります。」と記載している。しかし、このことは、本件特許明細書記載の事項を繰り返し述べたものにすぎない。また、前記製造方法以外の方法によっては、本件特許発明に係る「ステープル繊維不織布」、即ち、「物」を得ることはできないとまで、明言しているものと解釈すべき根拠がない。
また、被請求人は、同じく、引用文献2記載の発明に関して、「ところがこのヒートセット温度は、審査官殿の指摘される公報第5頁右下欄〜同第6頁左上欄の記述を見ますと、「PASの融点(280℃以上)より100℃までの温度(即ち180℃以上)」(実施例4では260℃)であり、本願発明で好ましい熱処理温度として採用される「160〜180℃」とは明らかに異なり、その結果として、実施例に挙げられたPAS繊維の伸びはいずれも本願発明で規定する「30%以上」といった値を全て下回る伸び率しか得られておりません(ちなみに実施例4では17%、実施例5では16%、実施例6では11%、実施例7では10%)。」と記載している。しかし、上記6.(2)(2-1)記載のとおり、引用文献2記載の「ポリアリーレンスルフィドの繊維及びフィラメント」は、本件特許発明に係る「ポリアリーレンサルファイド繊維」の物性の「伸度」のみならず、「複屈折率」等の条件を満足するものではなく、そもそも「物」として相違していることから、前記のとおり被請求人が「ヒートセット温度」等の製造条件に言及しているとしても、前記言及が本件特許発明に係る「物」の製造方法を限定する趣旨であるとは解することはできない。
また、被請求人は、同じく、引用文献3記載の発明に関して、「このご引例の第6頁左上欄第17行には、「熱固定温度:200〜250℃」と記載されており、本願発明で「伸度:30%以上」という特注を確保する為の好ましい熱処理温度として採用される 「160〜180℃」とは明らかに異なり、こうした熱固定温度では、本願発明で規定する上記伸度を満足することはできません。」と記載している。しかし、上記6.(2)(2-2)記載のとおり、引用文献3記載の「ポリアリーレンスルフィド延伸マルチフィラメント」についても、同様に、本件特許発明に係る「ポリアリーレンサルファイド繊維」に係る物性を満足するものではなく、そもそも「物」として相違していることから、前記のとおり被請求人が「熱固定温度」等の製造条件に言及しているとしても、前記言及が本件特許発明に係る「物」の製造方法を限定する趣旨であるとは解することはできない。
(2-2)請求人が提示した上記甲第4号証(及び、甲第5号証)記載の発明に係る「芳香族サルファイド繊維の製造方法」では、本件特許発明に係る「伸度」に係る条件を満足するものが得られておらず、また、同じく「複屈折率」等についても記載するところがないから、そもそも本件特許発明に係る「ポリアリーレンサルファイド繊維」は記載されていない。従って、その上記甲第4号証(及び、甲第5号証)記載の製造条件を、本件特許発明に係る特許請求の範囲の解釈に当たり考慮する必要はないものと認められる。
(3)まとめ
従って、請求人の「本件特許発明において用いるポリアリーレンサルファイド繊維は、延伸後に緊張熱処理して得られるものに限定して解釈されるべきである」との上記主張は、採用すべき理由乃至根拠を見出せない。そして、イ号物品に係る「ここで、イ号物品の原料たるポリアリーレンサルファイド繊維の製造方法においては、延伸後の緊張熱処理は一切行っていない」点については、イ号物品が本件特許発明に係る「物」の技術的範囲に属するか否かの判断において考慮する必要を認めない。
よって、上記(1)のとおり、イ号物品は、本件特許発明の「物」としての構成要件を全て充足している。

9.むすび
以上のとおりであるから、イ号物品は、本件特許発明の技術的範囲に属する。
よって、結論のとおり判定する。
 
別掲 [イ号物品及びその説明]
「イ号物品の技術的構成は、本件特許発明に即して記載すると次のとおりのものである。
「A.下記物性のポリアリーレンサルファイド繊維のみからなるステープル繊維不織布。
B.複屈折率:0.2
C.巻縮数:11〜13個/25mm
D.巻縮率:16〜17%
E.乾熱(160℃)収縮率:0.3〜0.7%
F.伸度:58〜63%」
また、かかるイ号物品の原料たるポリアリーレンサルファイド繊維の製造方法は次のとおりである。
メルトフローレート(島津製作所製メルトフローテスターを用いASTM D 1238-70の規格に従って測定した値)220g/10分のポリアリーレンサルファイドを常法により紡糸温度320℃で溶融紡糸し、トウ状に集束し、98〜100℃で3.59倍に湿式延伸し、その後、緊張熱処理を行うことなく、延伸トウ(単繊維繊度2デニール)を37℃、押込圧2kg/cm2で常法に従って巻縮を付与し、更に常法に従って所定長(51mmまたは76mm)のステープルに切断する。
ここで、イ号物品の原料たるポリアリーレンサルファイド繊維の製造方法においては、延伸後の緊張熱処理は一切行っていない。
このようにして製造されたポリアリーレンサルファイド繊維は、請求人の顧客において、常法により不織布とされる。」
 
判定日 2000-09-08 
出願番号 特願昭63-62627
審決分類 P 1 2・ 1- YB (D02G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 出口 昌哉菊地 則義  
特許庁審判長 藤井 彰
特許庁審判官 石井 克彦
蔵野 雅昭
登録日 1998-04-03 
登録番号 特許第2764911号(P2764911)
発明の名称 高巻縮・低収縮性ステープル繊維  
代理人 内田 敏彦  
代理人 内田 修  
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