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審決分類 審判 査定不服 1項2号公然実施 取り消して特許、登録 G21F
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 G21F
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G21F
審判 査定不服 1項1号公知 取り消して特許、登録 G21F
管理番号 1026644
審判番号 審判1998-19472  
総通号数 16 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1993-12-07 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 1998-12-16 
確定日 2000-11-17 
事件の表示 平成 3年特許願第199769号「放射性有機廃液の焼却装置」拒絶査定に対する審判事件〔平成 5年12月 7日出願公開、特開平 5-323098、平成 8年 3月 4日出願公告、特公平 8- 20556、請求項の数(1)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成3年5月10日に特許出願され、平成8年3月4日に出願公告(特公平8-20556号、請求項の数:5)され、異議申立人株式会社三翔事務機、および異議申立人鈴木善博より特許異議の申立がなされ、異議申立人株式会社三翔事務機の申立についてした、請求項2に係る放射性有機廃液の焼却装置の発明が特許法第29条第2項に規定により特許を受けることができないとの特許異議の決定に記載した理由により、本願は拒絶査定された。
そして、本件審判請求があり、平成10年12月16日付で旧特許法(平成2年法)第17条の3の規定による手続補正書が提出された。

2.本願発明
2-1.17条の3の規定による明細書の補正
(1)平成10年12月16日付の手続補正書による補正は、
(イ)特許請求の範囲の記載において、出願公告された請求項1〜請求項4を削除し、
(ロ)出願公告時の請求項5の「放射性有機廃液の焼却装置」の「上記送気管の蒸発室側に設けられ蒸発室内の気化ガスを送気管内へ送り込むように給気する第1段の給気手段、および上記送気管の燃焼室側に設けられ送気管内の気化ガスを燃焼室内へ送り込むように給気する第2段の給気手段よりなり、燃焼ガスの逆流を防止する多段式のジェット手段」を、「上記送気管の蒸発室側に設けられ蒸発室内の気化ガスを送気管内へ送り込むように作用する第1段の給気手段、および上記送気管の燃焼室側に設けられ送気管内の気化ガスを燃焼室内へ送り込むように作用する第2段の給気手段とにより、上記気化ガスの蒸発室側への逆流を防止し、気化ガスにおける逆火防止を図る多段式のジェット手段」と補正し、「多段式ジェット手段」において「気化ガスにおける逆火防止を図る」という事項を追加するとともに、請求項の番号を繰り上げ、
(ハ)それに伴い、発明の詳細な説明の記載についても補正するものである。

(2) 請求項の削除
請求項の削除は、特許請求の範囲の減縮に相当する。

(3) 逆火防止
出願公告された明細書において、「多段式ジェット手段」が「気化ガスにおける逆火防止を図る」ということは、直接的には記載されていないが、「気化ガスにおける逆火防止を図る」という事項は、出願公告された明細書に記載の、上記の第1段の吸気手段と第2段の吸気手段とによりなる「燃焼ガスの逆流を防止する多段式ジェット手段」の奏する作用を説明するものであり、出願公告された明細書に記載の「燃焼ガスの逆流を防止する多段式ジェット手段」が奏していた作用であると認められる。
そうすると、この事項の追加は、明りょうでない記載の釈明に相当する。

(4)そして、発明の詳細な説明の記載の補正は、いずれも、上記(イ)および(ロ)の補正に伴い、発明の目的、構成、効果についての記載を不明りょうでないものとする補正であると認められるものである。

(5) 補正の適法性
また、これらの補正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものでもない。
したがって、本件手続補正は、旧特許法第17条の3の規定に適合している。

2-2.本願発明
本願の請求項1に係る発明は、前記平成10年12月16日付手続補正書により補正された明細書および図面の記載から見て、その特許請求の範囲の請求項1の記載事項により構成される次のとおりのものである。(以下。「本願発明」という。)
【請求項1】
「 廃液タンクに貯蔵された放射性有機廃液を定量ポンプ等により燃焼室内に導入し、これを燃焼処理する放射性有機廃液の焼却装置において、
貯蔵された放射性有機廃液の撹拌機を有するとともに、加熱用ヒータを付設してなる廃液タンクと、
上記廃液タンクから引き出されその経路中に定量ポンプを有する送流管を介して上記廃液タンクと連通されるとともに、導入された放射性有機廃液を滴下させつつ気化ガスとして蒸発させる蒸発室と、
上記蒸発室から引き出される送気管を介して上記蒸発室と連通されるとともに、蒸発室より導入された気化ガスを燃焼処理する燃焼室と、
上記送気管の蒸発室側に設けられ蒸発室内の気化ガスを送気管内へ送り込むように作用する第1段の給気手段、および上記送気管の燃焼室側に設けられ送気管内の気化ガスを燃焼室内へ送り込むように作用する第2段の給気手段とにより、上記気化ガスの蒸発室側への逆流を防止し、気化ガスにおける逆火防止を図る多段式のジェット手段と、
上記燃焼室と煙道を介して連接され、かつコンデンサよりなる捕集手段と、
上記捕集手段により結露分離された凝縮水を集水するとともに、残余の気体分を排気する気液分離室と、
を有することを特徴とする放射性有機廃液の焼却装置。」

3.原査定の拒絶理由
原査定は、出願公告時の請求項2に係る放射性有機廃液の焼却装置の発明が、特許法第29条第2項に規定により特許を受けることができないというものであったが、同請求項は前記手続補正により削除された。

4.その他の拒絶理由
4-1.異議申立人株式会社三翔事務機の申立理由について
(1)当該異議申立人は、本願各発明は、下記の甲第1号証〜甲第5号証に基づき当業者が容易に想到し得る発明であるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、また、本願各発明は、甲第4号証〜甲第13号証に示すように、その出願前に既に新規性を喪失しているものであり、特許法第29条第1項各号の規定により特許を受けることができないものであると、申し立てている。

甲第1号証:特開昭59-32897号公報
甲第2号証:実開昭58-137249号全文明細書
甲第3号証:実開昭59一200997号公報
甲第4号証:放射線防護用設備・機器ガイド-1988/89年版 〔社団法人 日本アイソトープ協会発行 〕
甲第5号証:昭和60年度 放射線安全管理者及び放射線管理実務担当者のための研修資料 国立大学アイソトープセンター
甲第6号記証:開設十周年記念誌〔富山医科薬科大学放射性同位元素実験施設運営委員会発行 〕
甲第7号証:ISOTOPE NEWS 5 MAY-19 8 6/NO.383〔社団法人 日本アイソトープ協会発行 〕
甲第8号証:WBI-3100N/3200N 放射性有機廃液焼却装置に関するカタログ〔若井由理学機器株式会社発行 〕
甲第9号証:WBI-3100N型 放射性有機廃液焼却装置に関するカタログ〔若井由理学機器株式会社発行 〕
甲第10号証:WBI-3100N型 放射性有機廃液焼却装置に関するカタログ〔若井田理学機器株式会社発行 〕
甲第11号証:WBI-3100型 放射性有機廃液焼却装置に関するカタログ〔若井田理学機器株式会社発行 〕
甲第12号証:物品供給契約書
甲第13号証:物品供給契約書

(2)上記甲第1〜4,6,7号証刊行物について
上記甲第1〜4,6,7号証刊行物は、いずれも本願出願前に日本国内において頒布された刊行物であると認められる。
しかしながら、上記甲第1号証刊行物には、放射性有機廃液を気化器(2)で気化したガスが、気化器から上方に延びる細管(20)を上昇し、触媒を備える燃焼室(4)に繋がる移送管(17)の下端部の内部に挿入された細管の上端に設けた混合筒(16)により、移送管に供給された空気が、混合筒の空気流入孔(14)から混合筒(16)内の気化ガスに引っ張られジェット流となって気化ガスと第一混合を、更に混合筒上部からでたガスが移送管端部(18)と混合筒(16)の間を上昇してきた空気と第二の混合を行う焼却装置が記載されているものの、本願発明の、「送気管の蒸発室側に設けられ蒸発室内の気化ガスを送気管内へ送り込むように作用する第1段の給気手段、および上記送気管の燃焼室側に設けられ送気管内の気化ガスを燃焼室内へ送り込むように作用する第2段の給気手段とにより、上記気化ガスの蒸発室側への逆流を防止し、気化ガスにおける逆火防止を図る多段式のジェット手段」という、空気供給を二箇所において二段階で行うことは記載されていない。また、その燃焼室も触媒を使用する接触式の燃焼を行う燃焼室であって、気化ガスの逆流のよる逆火の問題を示唆するものではない。
また、高熱板上で有機廃液を気化する燃焼装置が記載されている上記甲第2号証、耐熱性物質からなる加熱体を焼却炉本体内の下部に設け、その上に滴下した放射性有機廃液を瞬間的にガス化燃焼させる焼却装置が記載されている甲第3号証、ならびに、廃液タンクに攪拌機およびヒーターが設けられ、燃焼原理が「気化ジェット燃焼方式」であるという説明を含む若井田理学機器(株)の「放射性有機廃液焼却装置WBI-3100N型」の公告頁が記載されている上記甲第4号証にも,設置機器として同社製の「WBI-3100」が昭和61年度に設置されたことが記載されているだけの上記甲第6号証、および現在市販されている炉の仕様一覧の中に、同社製の「WBI-3100」が名称、形式、価格、廃液処理能力、「気化燃焼式」とある燃焼方式および種類、装置重量、装置寸法および付帯設備と共に記載され、その問題点が指摘されている上記甲第7号証にも、「送気管の蒸発室側に設けられ蒸発室内の気化ガスを送気管内へ送り込むように作用する第1段の給気手段、および上記送気管の燃焼室側に設けられ送気管内の気化ガスを燃焼室内へ送り込むように作用する第2段の給気手段とにより、上記気化ガスの蒸発室側への逆流を防止し、気化ガスにおける逆火防止を図る多段式のジェット手段」については、記載も示唆もない。

(3)上記甲第5号証について
上記文書には、「昭和60年度 放射線安全管理者及び放射線管理実務担当者のための研修資料 国立大学アイソトープセンター」という表示があるものの、発行者、発行日等の記載は全くない文書である。
この文書を提出した異議申立人 株式会社三翔事務機は、代理人も選定しておらず、かつ原審の特許異議の決定時において所在不明であり、その代表者も転居先不明のため、その異議決定書の送付は3度の再送手続の後、官報公告により行われたもので、上記甲第5号証の文書の入手経緯を同異議申立人から確認することはできなかった。そこで、当審において、文部省学術情報課に依頼し、調査を行ったが、個別の国立大学に「○○大学アイソトープ総合センター」等の名称が付された組織はあるが、「国立大学アイソトープセンター」という機関、組織は存在しないこと、昭和60年度に「放射線安全管理者及び放射線管理実務担当者のための研修」が名古屋大学で国公立大学、私立大学から合計40名参加し、開催されたということは確認できたものの、当該文書に氏名の掲載されている名古屋大学関係者2名の現在の所在、連絡先等も不明であって、当該文書がその研修といかなる関係にあり、誰が作成し、どのような形で配布等されたものであるのか、確認することはできなかった。
したがって、この甲第5号証文書については、本願出願前に頒布された刊行物と認めることはできない。

(4)甲第8〜11号証カタログと甲第12,13号証物品供給契約書について
また、いずれも若井田理学機器株式会社製の放射性有機廃液焼却装置のカタログである上記甲第8号証(WBI-3100N/3200N)、甲第9号証刊行物(WBI-3100N型)、甲第10号証(WBI-3100N型)および甲第11号証(WBI-3100型)には、「多段・気化ジェット燃焼方式」という記載があるものもあるが、それが具体的にはどのような燃焼方式であるのか教示する記載もないし、またそれらのカタログの頒布日も明らかではない。
さらに、同社製放射性有機廃液焼却装置の「WBI-3200N(ガス式)」の支出負担行為担当官と産業化学株式会社との間の「物品供給契約書」である上記甲第12号証および同社製放射性有機廃液焼却装置の「WBI-3200」の東京農工大学支出負担行為担当官東北大学事務局長と株式会社大島商会との間の「物品供給契約書」である上記甲第13号証にも、当然のことながら、放射性有機廃液焼却装置の「多段・気化ジェット燃焼方式」について具体的に教示するところはない。

4-2.異議申立人鈴木善博の申立理由
(1)当該異議申立人は、本願各発明は下記の甲第1号証乃至甲第6号証に基づいて当業者が容易に想到し得えた発明であり、進歩性を有しないもので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、と主張している。

甲第1号証:特開昭59-32897号公報
甲第2号証:実開昭58-137249号全文明細書
甲第3号証:実開昭59-200997号公報
甲第4号証:特開昭63-18298号公報
甲第5号証:特開昭58-213300号公報
甲第6号証:特開昭56-2881号公報

(2)上記甲第1〜6号証について
上記甲第1〜3号証は、前記4-1における甲第1〜3号証と同じ刊行物であり、前記4-1(2)に記載した如く、本願発明の、「送気管の蒸発室側に設けられ蒸発室内の気化ガスを送気管内へ送り込むように作用する第1段の給気手段、および上記送気管の燃焼室側に設けられ送気管内の気化ガスを燃焼室内へ送り込むように作用する第2段の給気手段とにより、上記気化ガスの蒸発室側への逆流を防止し、気化ガスにおける逆火防止を図る多段式のジェット手段」という、空気供給を二箇所において二段階で行うことは記載されていない。また、その燃焼室も、気化ガスの送気管を介しての逆流のよる逆火の問題を示唆するものではない。
また、有機廃液ではない放射性ほう酸廃液の仮焼処理装置の発明について記載した上記甲第4号証にも、使用済みイオン交換樹脂やその再生廃液等の有機廃液ではない放射性廃棄物の無機粉体化と容器への無機質固化材との充填処理につき記載されている上記甲第5号証、および使用済み溶剤を平皿上で蒸発させ回収する溶剤回収装置につき記載されている上記甲第6号証にも、同様に、放射性有機廃液焼却装置である本願発明の、蒸発室と燃焼室を結ぶ「送気管の蒸発室側に設けられ蒸発室内の気化ガスを送気管内へ送り込むように作用する第1段の給気手段、および上記送気管の燃焼室側に設けられ送気管内の気化ガスを燃焼室内へ送り込むように作用する第2段の給気手段とにより、上記気化ガスの蒸発室側への逆流を防止し、気化ガスにおける逆火防止を図る多段式のジェット手段」という、空気供給を送気管の二箇所において二段階で行うことは記載されていない。

4-3.検討
本願発明は、上記の空気供給を送気管の二箇所において二段階で行う多段式のジェット手段の採用により、気化ガスの蒸発室側への逆流を防止し、気化ガスにおける逆火防止を図るという放射性有機廃液焼却装置において安全に焼却処理を行うことができる効果を奏するものである。

そして、以上みてきたように、上記異議申立人らが提出している、本願発明において採用している特定の「多段式のジェット手段」につき記載も示唆もするところのないこの出願前に日本国内において頒布された各甲号証を組み合わせてみても、それらの記載に基づき当業者が容易に想到し得た発明であるとも、また、この出願前に販売されていたことは認められる若井田理学機器株式会社製の放射性有機廃液焼却装置が存在しても、提出された証拠によっては、異議申立人株式会社三翔事務機の主張の如く、本願発明が、その販売の事実等によって出願前に既に新規性を喪失しているものであり、特許法第29条第1項各号の規定により特許を受けることができないものであるということもできない。

5.むすび
したがって、本願の請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内において公然知られた、あるいは公然実施をされた発明であるとも、また日本国内において頒布された上記の甲号証刊行物に記載された発明であるとも認められないし、そして、それら甲号証刊行物に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものということもできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2000-10-24 
出願番号 特願平3-199769
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G21F)
P 1 8・ 111- WY (G21F)
P 1 8・ 112- WY (G21F)
P 1 8・ 113- WY (G21F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 矢沢 清純長井 真一  
特許庁審判長 後藤 千恵子
特許庁審判官 伊坪 公一
植野 浩志
発明の名称 放射性有機廃液の焼却装置  

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