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審決分類 審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備  B29B
管理番号 1027547
異議申立番号 異議2000-70396  
総通号数 16 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1991-08-07 
種別 異議の決定 
異議申立日 2000-01-20 
確定日 2000-08-16 
異議申立件数
事件の表示 特許第2941320号「長繊維強化成形用ポリオレフィン樹脂組成物およびその製造法」の特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第2941320号の請求項1ないし9に係る特許を維持する。 
理由 1.本件発明
本件特許第2941320号の請求項1乃至9に係る発明(平成1年12月8日出願、平成11年6月18日設定登録)は、特許明細書の記載からみて、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1乃至9に記載された次のとおりのものである。「【請求項1】オレフィン系重合体(A)を含有してなるサイジング剤で一旦サイジング処理された強化用繊維束の連続物を引きながら、ポリオレフィン(B1)98〜50重量部と不飽和カルボン酸またはその誘導体で変性された変性オレフィン系重合体(B2)2〜50重量部から主としてなる樹脂成分(B)を該繊維束中に含浸させ、組成物中5〜80重量%の強化用繊維(C)を含有させることを特徴とする長繊維強化成形用ポリオレフィン樹脂組成物の製造法。(以下、「本件第1発明」という。)
【請求項2】ポリオレフィン(B1)がポリエチレンまたはポリプロピレンである請求項1記載の長繊維強化成形用ポリオレフィン樹脂組成物の製造法。(以下、「本件第2発明」という。)
【請求項3】変性オレフィン系重合体(B2)が、エチレンおよび/またはプロピレンを主たるポリマー構成単位とするオレフィン系重合体に無水マレイン酸をグラフト重合することにより変性されたものである請求項1または2記載の長繊維強化成形用ポリオレフィン樹脂組成物の製造法。(以下、「本件第3発明」という。)
【請求項4】変性オレフィン系重合体(B2)が、エチレンおよび/またはプロピレンを主体とするオレフィンと(メタ)アクリル酸グリシジルエステルまたは無水マレイン酸とを共重合することにより変性されたものである請求項1または2記載の長繊維強化成形用ポリオレフィン樹脂組成物の製造法。(以下、「本件第4発明」という。)
【請求項5】強化用繊維(C)がガラス繊維である請求項1〜4のいずれか1項記載の長繊維強化成形用ポリオレフィン樹脂組成物の製造法。(以下、「本件第5発明」という。)
【請求項6】強化用繊維束の連続物をクロスヘッドを通して引きながら、押出機からクロスヘッドに供給される繊維成分(B)の溶融物で含浸する請求項1〜5のいずれか1項記載の長繊維強化成形用ポリオレフィン樹脂組成物の製造法。(以下、「本件第6発明」という。)
【請求項7】請求項1〜6のいずれか1項記載の長繊維強化成形用ポリオレフィン樹脂組成物の製造法によって得られ、強化用繊維(C)が樹脂中において実質上その全てが少なくとも2mm以上の長さを有し且つ互いにほぼ平行な状態で配列していることを特徴とする長繊維強化成形用ポリオレフィン樹脂組成物。(以下、「本件第7発明」という。)
【請求項8】樹脂組成物が2〜50mmのペレット状であり、強化用繊維(C)が該ペレットの長さ方向に実質上ペレットと同一長さで配列している請求項7記載の長繊維強化成形用ポリオレフィン樹脂組成物。(以下、「本件第8発明」という。)
【請求項9】請求項8記載の長繊維強化成形用ポリオレフィン樹脂組成物を成形してなり、繊維が1mm以上の重量平均繊維長で分散してなる成形品。(以下、「本件第9発明」という。)」
2.特許異議申立理由
特許異議申立人チッソ株式会社は、『本件公報第5頁第9欄(上記特許異議申立人が提出した特許異議申立書では「第7欄」と記載されているが、「第9欄」の誤記であると認められる。)23〜27行目に、「また、含浸させる樹脂成分(B)として、ポリオレフィン(B1)と不飽和カルボン酸またはその誘導体を有機過酸化物とともに溶融混練したものを用い、繊維束の含浸を行うとともにポリオレフィン(B1)の一部と不飽和カルボン酸またはその誘導体の反応を行わせてもよい。」なる記載があるが、本件請求項1に記載の繊維に含浸させる樹脂成分(B)は前記(B1)及び(B2)の溶融混合物であることから、かかる含浸方法に用いる樹脂成分は同一の溶融混練装置において(B1)の一部と不飽和カルボン酸またはその誘導体を反応(グラフト重合)させて(B2)を合成して得られる、(B1)の未反応部分と(B1)の反応生成物である(B2)とからなる溶融混合物であると解するのが相当である。しかしながら、同一溶融混練装置において(B1)及び不飽和カルボン酸またはその誘導体が均一に溶融混練されていることから、不飽和カルボン酸またはその誘導体を(B1)に対して選択的に反応させて(B1)の未反応部分と(B1)の反応部分とに明確に区分することは、本件特許出願時の技術常識を参酌すると困難であると思料される。すなわち、本件公報にはポリオレフィンの一部分が変性された変性オレフィン系重合体の具体的製造方法は何ら記載されておらず、かかる製造方法は周知のものでもない。したがって、発明の詳細な説明には、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易にその実施をすることができる程度に、その発明の目的、構成及び効果が記載されていない。したがって、本件明細書の発明の詳細な説明の記載に不備があり、請求項1〜9に係る発明の特許は、特許法第36条第3項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたことから、請求項1〜9に係る発明の特許はいずれも同法第113条第1項第4号の規定により取り消されるべきものである。』旨主張している。
3.当審の判断
本件第1発明は繊維束中に含浸させる樹脂成分(B)を「ポリオレフィン(B1)98〜50重量部と不飽和カルボン酸またはその誘導体で変性された変性オレフィン系重合体(B2)2〜50重量部から主としてなる樹脂成分(B)」としている。
ところで、本件特許明細書には上記特許異議申立人が記載不備であると指摘した上記箇所の記載の他に、上記請求項2、請求項3、請求項4、の記載、本件特許公報における第5欄第16行〜第6欄第5行の「不飽和カルボン酸またはその誘導体で変性された変性オレフィン系重合体(A3)としては、オレフィンの単独重合体または2種以上のオレフィンの共重合体、例えばポリオレフィン(A1)として上記で例示した重合体等に不飽和カルボン酸またはその誘導体をグラフト重合したもの、オレフィンから選ばれた1種または2種以上と不飽和カルボンン酸またはその誘導体から選ばれた1種または2種以上を共重合したもの及びこれに更に不飽和カルボン酸またはその誘導体をグラフト重合したものが挙げられる。ここで、変性のため使用される不飽和カルボン酸としては、例えばマレイン酸、フマル酸、イタコン酸、アクリル酸、メタクリル酸等が挙げられる。また不飽和カルボン酸の誘導体としてはこれらの酸無水物、エステル、アミド、イミド、金属塩等があり、その具体例としては無水マレイン酸、無水イタコン酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸グリシジル、マレイン酸モノエチルエステル、マレイン酸ジエチルエステル、フマル酸モノメチルエステル、フマル酸ジメチルエステル、アクリルアミド、メタクリルアミド、マレイン酸モノアミド、マレイン酸ジアミド、フマル酸モノアミド、マレイミド、N-ブチルマレイミド、メタクリル酸ナトリウム等を挙げることができる。これらの不飽和カルボン酸およびその誘導体のうち、好ましいのはアクリル酸およびメタクリル酸のグリシジルエステルおよび無水マレイン酸であり、これにより変性された好ましい変性オレフィン系重合体(A3)としては、エチレンおよび/またはプロピレンを主たるポリマー構成単位とするオレフィン系重合体に無水マレイン酸をグラフト重合することにより変性したもの、エチレンおよび/またはプロピレンを主体とするオレフィンと(メタ)アクリル酸グリシジルエステルまたは無水マレイン酸とを共重合することにより変性したものが挙げられる。かかる変性オレフィン系重合体(A3)は、ポリマー構成単位の0.1〜40重量%が、上記の如き不飽和カルボン酸またはその誘導体からなるものが好ましく、特にこれらの成分がランダム共重合あるいはブロック共重合によりポリマー主鎖中に導入される場合には3〜40重量%、グラフト重合による場合には0.1〜10重量%が好ましい。」、本件特許公報における第7欄第17行〜第8欄第18行の「本発明において、上記の如くサイジング処理された強化用繊維に含浸される樹脂成分(B)について説明する。本発明においてはかかる樹脂成分(B)としてポリオレフィン(B1)を主体とするものが用いられる。特に好ましくは樹脂成分(B)としてポリオレフィン(B1)を主体とし、これと不飽和カルボン酸またはその誘導体で変性された変性オレフィン系重合体(B2)を併用したものであり、これにより、前述した特定のサイジング処理を施した強化用繊維による補強効果を相乗的に高めることができ、機械的強度等が飛躍的に向上する。ここでポリオレフィン(B1)としては、前記ポリオレフィン(A1)と同様、オレフィンの単独重合体および2種以上のオレフィンの共重合体から選ばれたものがいずれも使用可能である。これらのポリオレフィンは2種以上混合して使用してもよい。これらのポリオレフィンのうち、本発明においては、樹脂の押し出し加工性、成形性、得られた組成物の諸特性等から考えて、ポリエチレンもしくはポリプロピレンを主体とするものが好ましく、特に好ましくはポリプロピレンを主体とするものである。また、樹脂成分(B)として、かかるポリオレフィン(B1)と併用するのが好ましい変性オレフィン系重合体(B2)としては、前記変性オレフィン系重合体(A3)として詳述したものがいずれも使用できる。これらの変性オレフィン系重合体は2種以上混合して使用することも可能である。本発明において、繊維束に含浸する樹脂成分(B)として、かかる変性ポリオレフィン系重合体(B2)をポリオレフィン(B1)と併用する場合においては、ポリオレフィン(B1)98〜50重量部に対し変性ポリオレフィン系重合体(B2)を2〜50重量部の(「に」と記載されているが「の」の誤記であると認められる。)割合で用いるのが好ましく、これにより、前述した繊維のサイジング処理の作用と相まって強化用繊維束に対する樹脂の含浸性、密着性が一段と良くなり、強度が飛躍的に向上した組成物が得られる。特に好ましいのはポリオレフィン(B1)95〜70重量部に対し変性ポリオレフィン系重合体(B2)5〜30重量部の割合である。また、本発明において、ポリオレフィン(B1)と変性ポリオレフィン系重合体(B2)を併用する場合においては、その主たるポリマー構成単位が同一である組合せをするのが好ましい。その具体例としては、(B1)成分がポリエチレンで(B2)成分がエチレンとメタクリル酸グリシジルの共重合体あるいは無水マレイン酸をグラフトさせたエチレン・ブテン-1共重合体の組合せ、(B1)成分がポリプロピレンで(B2)成分が無水マレイン酸をグラフトさせたポリプロピレンの組合せ等が挙げられる。また、ポリオレフィン(B1)と併用するのが好ましい重合体の別の例としては、塩素化又はクロロスルホン化されたポリオレフィンが挙げられる。かかる重合体の配合量等については、上記変性ポリオレフィン系重合体(B2)と同様に考えればよい。」、本件特許公報における第9欄第13行〜第22行の「これらの引き抜き成形における樹脂の含浸操作は1段で行うのが一般的であるが、これを2段以上に分けて行ってもかまわない。特に繊維束に含浸させる樹脂成分(B)としてポリオレフィン(B1)と変性オレフィン系重合体(B2)を併用した場合には、これらを所定の割合で混合した溶融物を用いた1段の含浸操作で含浸する方法、含浸操作を2段以上にわけ、各含浸工程ではポリオレフィン(B1)と変性オレフィン系重合体(B2)の任意の(「に」と記載されているが「の」の誤記であると認められる。)割合とした樹脂で含浸し、最終的に所望の組成物とする方法等がいずれも可能である。」、及び、本件特許公報における第9欄第28行〜第32行の「上記の如き引抜き成形を用いた本発明の樹脂組成物の製造法において、繊維束に含浸させるための溶融樹脂の温度は、240〜320℃とするのが好ましく、ポリオレフィン(B1)としてポリプロピレンを主体とするものを用いる場合にあっては、上記温度は特に好ましい。」が記載されているとともに、実施例及び比較例も示されており、したがって、変性ポリオレフィン系重合体の具体的製造方法は開示されているといえる。そして、上記特許異議申立人が本件特許明細書の記載不備であると指摘した上記箇所の記載は、末尾が「反応を行わせてもよい。」という記載になっていることからも判るように、本件発明における上記繊維束中に含浸させる樹脂成分を製造するための一例を示したにすぎないものである。
したがって、本件特許明細書の全体の記載を見ると、本件特許明細書は、上記特許異議申立人が主張するように、「発明の詳細な説明にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易にその実施をすることができる程度に、その発明の目的、構成及び効果が記載されていないものである」とすることはできない。
4.むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由によっては、本件第1発明〜本件第9発明の特許を取り消すことはできない。
また、他に本件第1発明〜本件第9発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2000-07-25 
出願番号 特願平1-319436
審決分類 P 1 651・ 531- Y (B29B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 野村 康秀芦原 ゆりか平井 裕彰  
特許庁審判長 三浦 均
特許庁審判官 船岡 嘉彦
中島 次一
登録日 1999-06-18 
登録番号 特許第2941320号(P2941320)
権利者 ポリプラスチックス株式会社
発明の名称 長繊維強化成形用ポリオレフィン樹脂組成物およびその製造法  
代理人 持田 信二  
代理人 古谷 馨  
代理人 古谷 聡  
代理人 溝部 孝彦  

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