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審決分類 |
審判 審判種別コード:11 2項進歩性 A23L |
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管理番号 | 1031568 |
審判番号 | 審判1990-6611 |
総通号数 | 17 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 1984-05-17 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 1990-04-20 |
確定日 | 2001-01-29 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第1526973号「嗜好食品の製造法」の特許無効審判事件についてされた平成6年10月19日付け審決に対し、東京高等裁判所において審決取消の判決(平成7年(行ケ)第18号、平成8年4月23日判決言渡)、並びに最高裁判所において上告棄却の判決(平成8年(行ツ)第185号、平成12年2月18日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 |
結論 | 特許第1526973号に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。 |
理由 |
I.手続の経緯 本件特許第1526973号に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、昭和57年11月4日に出願され(特願昭57-193611号)、平成1年3月6日付で出願公告(特公平1-13340号)され、平成1年10月30日に特許の設定の登録がなされたものである。 その後、平成2年4月21日に本件特許に対して特許の無効の審判が請求され、平成6年10月19日、上記請求は成り立たないとする審決がなされたところ、東京高等裁判所において審決取消の判決(平成7年(行ケ)第18号、平成8年4月23日判決言渡)、並びに最高裁判所において上告棄却の判決(平成8年(行ツ)第185号、平成12年2月18日判決言渡)があった。 II.本件発明 本件発明は、その明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲に記載された次のとおりのものと認める。 「潰擂魚肉に澱粉、調味料等を加えて混練して薄板状に成形する混練物を加熱し、乾燥して魚肉シートを作り、上記魚肉シートの間に適宜厚を有するチーズを挟んで食品素材を形成し、上記食品素材を上下より加熱されたロースター板で適宜に加圧しチーズの上下表面部を融解させてチーズに魚肉シートを付着し、上記加熱付着された食品素材を水分含有率約33〜38%になるまで冷却した後、所定形状に裁断して製品となし、上記製品の所定量に脱酸素剤を入れて包装する事を特徴とする嗜好食品の製造法。」 III.当事者の主張 (1)請求人の主張 請求人は、「第1526973号特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする」との審決を求め、証拠として下記の甲第1号証の1乃至甲第8号証を提出して、本件発明は、甲各号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定に違反してなされたものであるから、同法123条1項1号の規定によって無効とすべきである旨主張している。 記 甲第1号証の1 実開昭57-117993号公報 甲第1号証の2 実願昭56-4812号(実開昭57-117993号)のマイクロフィルム 甲第2号証 特公昭54-36667号公報 甲第3号証 月刊「PACKS 2月号」-日報 昭53.2.1発行 甲第4号証の1 甲第1号証の出願に対する刊行物等提出書 甲第4号証の2 同・添付書類(甲第1号証の1に同じ) 甲第4号証の3 同・添付書類(特公昭46-16939号公報) 甲第4号証の4 同・添付書類(特公昭48-2336号公報) 甲第4号証の5 同・添付書類(特開昭54-113464号公報) 甲第4号証の6 同・添付書類(特開昭49-44336号公報) 甲第4号証の7 同・添付書類(特公昭50-39139号公報) 甲第5号証 甲第1号証の出願に対する拒絶理由通知書 甲第6号証 同・拒絶査定 甲第7号証 「食品加工通信教育講座 珍味食品科課程(第2分冊)」財団法人日本食品加工研究会 甲第8号証 相磯和嘉監修「食品微生物学」医歯薬出版株式会社、昭和51年5月15日 (2)被請求人の主張 被請求人は、「本件審判の請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする」との審決を求め、乙第1号証乃至乙第3号証を提出している。 記 乙第1号証:昭和57年7月28日付「チーズ鱈細菌検査結果」 乙第2号証:昭和57年5月20日付「チーズ鱈試食アンケート集計結果」 乙第3号証:特開平3-195474号公報 IV.当審の判断 甲第1号証の2には、次の事項が記載されている。 「魚の冷凍すり身を原料とし、これに食塩、砂糖、でんぷん、化学調味料、味醂、水等を添加しサイレントカッターで混練する工程に次いで混練した練肉を電化焼器で厚焼し加熱しながら扁平板状に成形する工程を経て、これを温風乾燥機で水分20%程度まで乾燥する乾燥工程に次いでローラーで軽く圧延する工程、次いで方形に裁断する工程により練肉の乾燥シートを得、次いでこの乾燥シートにソルビトール液と天然多糖類水溶液を混合したペースト状の粘着物を塗布した後スライスチーズを挟む工程を経てチーズにくずれない程度に軽くプレスして密着させる工程に次いで裁断工程により一口大の大きさの長方形のサンドイッチ状としこれを数個の所定単位で包装工程により包装するチーズを挟んだ魚肉練乾製品の製造法。」 本件発明と甲第1号証の2に記載された発明とを対比すると、両者は、潰擂魚肉に澱粉、調味料等を加えて混練して薄板状に成形する混練物を加熱し、乾燥して魚肉シートを作り、上記魚肉シートの間に適宜厚を有するチーズを挟んで食品素材を形成し、チーズに魚肉シートを付着した後、所定形状に裁断して製品となし、上記製品を包装する点、で一致し、 (1)前者が、食品素材を上下より加熱されたロースター板で適宜に加圧しチーズの上下表面部を融解させてチーズに魚肉シートを付着させるのに対し、後者が、乾燥シートにソルビトール液と天然多糖類水溶液を混合したペースト状の粘着物を塗布した後スライスチーズを挟む工程を経てチーズにくずれない程度に軽くプレスして密着させる点、 (2)前者が、加熱付着された食品素材を水分含有率約33〜38%になるまで冷却するのに対し、後者が、水分含有率を調整していない点、 (3)前者が、脱酸素剤を入れて包装するのに対し、後者が、脱酸素剤を入れずに包装する点、で相違する。 上記相違点(1)について検討する。 甲第4号証の4には、「展開して剥皮した生いかを調味料にα澱粉、CMC、ソルビット液を加えた調味液に浸漬し、次にこの調味したいかの一部を重ねて板状にして乾燥し、この乾燥したものを焼成した後圧伸機で延展し、この延展したものを上下に重ね、中間にチーズを挿入して加圧加熱し、次に切断機で細く裁断することを特徴とするチーズを挟んだのしいかの製造方法。」(特許請求の範囲の項)、「圧伸機にかけて延展したのしいかの中間にチーズを挟んで加熱、加圧することによりチーズが融けてのしいかの凹凸面に喰い込み、重ね合されたのしいかがチーズを介して強固に結合される。しかものしいかが硬化しないから結合は一層確実に成される。したがって次にこれを切断機で細片にした場合もいか、チーズ、いかの三層が分離することがない。(1欄34行乃至2欄4行)、及び「いかの耳の部分を原料とした本発明の実施の一例を詳述する。 1.胴体より分離した生いかの耳を50〜60℃にボイルして剥皮し、この剥皮したいかの耳100gを次に配合の調味料に浸漬する。(中略) 5.こののしいか2,2を上下にして中間に破砕したプロセスチーズを挿入し、この上下を金属板製耐熱鉄板で挟んで加圧加熱する。圧力0.5〜0.4Kg/cm3 温度120〜150℃ 6.次にこれを切断機で5mm幅の細長片に切断する。厚さは上下ののしいか2夫々2mm、チーズ3が4mmである。」(2欄10行乃至3欄30行)が記載されている。 上記記載によれば、甲第4号証の4に記載の発明においては、延展したのしいかを上下に重ね、中間にチーズを挿入し加圧加熱し、次に切断機で細く裁断することによって、いか、チーズ、いかの三層が強固に結合し、分離することがないチーズを挟んだのしいかを製造するものであるから、製造された食品は、魚肉シートの間にチーズを挟んで形成されたものであり、チーズが完全に溶け出すものではないと認められる。 甲第4号証の5には、「(1)上下層がいか層からなり、その中間にチーズ層が介在されて、構成されることを特徴とするチーズいか。(中略)(4)のしいか等の調味乾燥したいかにチーズを載せてその上にさらに上記同様のいかを重ねてサンドイッチ状にし、これらを上下から加熱した鉄板で加圧して適度にそれらいかにチーズを滲み込ませると同時に両者を密着させ、これらを冷却させることを特徴とするチーズいかの製造方法。」(特許請求の範囲の項)、及び「本発明に係るチーズいかの一実施例をその製造方法と共に順次説明する。第一工程においてのしいかにチーズを載せてその上にさらにのしいかを重ねてサンドイッチ状にする。(中略)チーズの厚みは2〜4mmとする。第二工程で、前工程で得たサンドイッチ状チーズいかを上下から加熱した鉄板で加圧して適度にのしいかにチーズを滲み込ませると同時に両者を密着させる。鉄板は市販されているロースターに付設されているものを使用することができる。鉄板の加熱温度は180度前後である。そして、その加圧はチーズの層位が破壊されない程度の軽圧を選定する。その際の加圧時間は、5分前後が適当である。」(1頁右下欄13行〜2頁右上欄3行)が記載されている。 上記記載によれば、甲第4号証の5に記載の発明においては、いかにチーズを載せてその上にさらに同様のいかを重ねてサンドイッチ状にし、これらを上下から加熱加圧していか、チーズ、いかを互いに密着させて三層構造の食品としたものであって、製造された食品は、魚肉シートの間にチーズを挟んで形成されたものであり、チーズが完全に溶け出すものではないと認められる。 そうすると、甲第4号証の4及び甲第4号証の5に記載の発明は、いずれも魚肉シートであるのしいかの間に適宜の厚さを有するチーズを挟んで、この上下を金属板製耐熱鉄板乃至ロースターに付設された鉄板で適度に加圧加熱し、チーズを完全に融解させることなく、のしいか、チーズ、のしいかの三層を密着結合させた構成のものであり、甲第4号証の4及び甲第4号証の5にチーズの上下表面部のみを融解させることが明示されていなくとも、当業者であれば、甲第1号証の2に記載された発明において、これらの甲号証記載事項に基づいて、魚肉シートとチーズとの本来の形態と旨味を生かすべく、チーズの上下表面部を融解させて魚肉シートにチーズを付着させる構成とすることは容易に想到し得たものというべきである。 したがって、相違点(1)に係る本件発明の構成は、甲第4号証の4及び甲第4号証の5記載の発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものである。 次に、相違点(2)について検討するに、甲第1号証の2には、原料である魚の冷凍すり身に食塩等を添加し、混練した練肉を圧焼加熱した後「これを温風乾燥機で水分20%程度までに乾燥する」(2頁9〜10行)ことが記載されており、この種の嗜好食品で用いられるチーズは通常プロセスチーズであることは明らかであり、また、甲第3号証によれば、AGELESS適用代表食品例の表が記載されており、この表からプロセスチーズの水分含有量は40%程度であると認められる。 そして、甲第1号証の2記載の発明は、魚肉シートに「粘着物を塗布した後スライスチーズを挟む工程Hを経てチーズのくずれない程度に軽くプレスして密着させる工程Iに次いで裁断工程Jにより一口大の大きさの長方形のサンドイッチ状としこれを数個の所定単位で包装工程Kにより包装されて出荷するもの」(2頁14〜20行)であるから、水分含有率の調整をすることなく、密着後の工程での雰囲気からの吸湿、脱水が多少あることを考慮しても、原材料の水分がそのままに近い状態で保持されるものと認められる。 そうであれば、甲第1号証の2記載の発明における製品の水分含有率は魚肉シートとチーズとの中間である20〜40%の範囲内であると推認される。 また、甲第7号証によれば、珍味食品の製造法について「普通、腐敗細菌の発育する最小限度の水分量は40〜50%である。したがって35〜40%程度まで水分を減ずれば長期間貯蔵することができる。」(2頁6〜7行)と記載されており、甲第4号証の7記載の発明における乾燥ねり製品は、水分40%以下に乾燥するものであり、その実施例には水分32%の帯状ねり製品が開示されている。 ところで、本件発明は、従来の嗜好食品における、のしいかの間にチーズを挿入して耐熱鉄板で挟んで5分間前後の加圧時間をもって温度120〜180℃の加熱を加えるため、チーズはのしいかから溶け出して製品となり得ないおそれがあり、また、のしいか自体も高温な加熱によって乾燥され、製品の食感が硬く食味を劣化させる等の欠点を改良することを技術的課題(目的)とし、その解決のために水分含有率を約33〜38%に維持することを構成要件としたものである。 しかしながら、食味が水分含有量と関連すること、本件発明の嗜好食品のような食品において乾燥しすぎるとぱさぱさすることは、いずれも日常生活において誰もが経験している事項であって、嗜好食品において、乾燥しすぎないように留意し、ソフトな食感を得ようとすることは、当業者であれば当然配慮することであり、その場合において、食味と保存性が両立するように水分含有率を選択することも食品分野における当業者が当然に解決すべき周知の技術的課題にすぎない。 しかも、嗜好食品における水分含有率についての本出願当時の技術水準は上記のとおりであるから、周知の上記技術的課題を解決するため、従来周知の嗜好食品における水分含有率範囲から実験によって好ましいソフト(柔軟)な食感を得るのに適する範囲を確認することは、格別困難なこととはいえない。 したがって、本件発明において水分含有率を33〜38%に数値限定したことには技術的意義は見いだせるものの、甲第1号証の2記載の発明において、この数値を選択することは当業者が実験によって容易に定めることができたというべきである。 相違点(3)について、甲第3号証には、特定の脱酸素剤を用いると、水分40%程度のプロセスチーズは勿論のこと、水分58〜59%の魚肉ソーセージ、更には水分70%以上を有する魚肉やちくわ、はんぺん等の水産練製品に対してもカビ防止、生菌抑制、風味保存等の効果を発揮することが開示されており、甲第7号証には、「普通、腐敗細菌の発育する最小限度の水分量は40〜50%である。したがって35〜40%程度まで水分を減ずれば長期間貯蔵することができる。」及び「カビの発生を完全に阻止するには水分含量を13%程度の水分を有しているので、長期の貯蔵には冷蔵法や不活性ガス(窒素ガスなど)封入、或いは密封容器中に乾燥剤を入れるなどの方法を併用することが必要である。」と記載されており、また、甲第8号証には、図IV.“アジ肉の水分と腐敗との関係” のグラフ中に、加熱乾燥した魚のアジ肉の水分を「40.56%」にするとほとんど腐敗が起こらず、「36.01%」にすると更によい結果となり、長期貯蔵ができることが開示されている。 これらのことから、水分含有率が高いと保存性が悪くなり、それを解決するためには、包装する際脱酸素剤を封入することは、本件特許発明の出願前周知であり、かつ普通に採用されていた技術と認められる。 してみると、食品素材の水分含有率を、上記のような値にすれば保存性が悪くなることは明らかであるので、甲第1号証の2に記載された発明において、包装の際脱酸素剤を封入することは、当業者が容易に想到し得ることと認める。 したがって、本件発明は、甲第1号証の2,甲第3号証,甲第4号証の4,甲第4号証の5,甲第4号証の7,甲第7号証,及び甲第8号証に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものである。 V.むすび 以上のとおりであるから、本件発明に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してなされたものであるから同法123条1項1号の規定により無効にすべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 1994-09-30 |
結審通知日 | 1994-10-18 |
審決日 | 1994-10-19 |
出願番号 | 特願昭57-193611 |
審決分類 |
P
1
11・
121-
Z
(A23L)
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最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 高木 茂樹 |
特許庁審判長 |
徳廣 正道 |
特許庁審判官 |
田中 倫子 佐伯 裕子 大高 とし子 田中 久直 |
登録日 | 1989-10-30 |
登録番号 | 特許第1526973号(P1526973) |
発明の名称 | 嗜好食品の製造法 |
代理人 | 浅賀 一樹 |
代理人 | 浅賀 一樹 |
代理人 | 浅賀 一樹 |
代理人 | 浅賀 一樹 |
代理人 | 千葉 太一 |
代理人 | 千葉 太一 |
代理人 | 浅賀 一樹 |
代理人 | 浅賀 一樹 |
代理人 | 浅賀 一樹 |
代理人 | 浅賀 一樹 |
代理人 | 浅賀 一樹 |
代理人 | 浅賀 一樹 |
代理人 | 浅賀 一樹 |
代理人 | 浅賀 一樹 |
代理人 | 浅賀 一樹 |
代理人 | 浅賀 一樹 |
代理人 | 浅賀 一樹 |
代理人 | 浅賀 一樹 |
代理人 | 浅賀 一樹 |
代理人 | 浅賀 一樹 |
代理人 | 浅賀 一樹 |