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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A23B
審判 全部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備  A23B
審判 全部申し立て 2項進歩性  A23B
管理番号 1031928
異議申立番号 異議2000-72277  
総通号数 17 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1993-07-02 
種別 異議の決定 
異議申立日 2000-05-31 
確定日 2000-11-08 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第2990914号「表面処理剤」の特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第2990914号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第2990914号の請求項1に係る発明についての出願は、平成3年12月17日に特許出願され、平成11年10月15日にその特許の設定登録がなされ、その後、横浜油脂工業株式会社より特許異議の申立てがなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成12年9月29日に訂正請求がなされたものである。

2.訂正の適否についての判断
2-1 訂正の内容
特許請求の範囲の請求項1に記載された「食品の表面処理剤」を「果実又は野菜の表面処理剤」と訂正する。

2-2 訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記訂正は、「食品」をその下位概念である「果実又は野菜」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、果実又は野菜に関連する記載として、願書に添付した明細書の発明の詳細な説明には「本発明は、果実や野菜類などの食品の表面処理剤に関する………」(段落【0001】)及び「本発明の処理剤に適用しうる食品としては、イチゴ、ミニトマト、サクランボ、ブドウ、………等の果実や、山椒、しそ、きゅうり等の野菜類を挙げることができる。」(段落【0019】)と記載されていることから、上記訂正は、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、また実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものではない。

2-3 むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第120条の4第2項及び同条第3項において準用する第126条第2、3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.特許異議申立てについて
3-1 本件発明
平成12年9月29日付けで提出された訂正明細書の請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】10〜70重量%のエタノール、0.5〜20重量%のゼラチン(但し、70〜130ブルームのゼリー強度を有するもの。)、0.05〜5重量%の抗菌性物質及び適当量の水を含有することを特徴とする果実又は野菜の表面処理剤。」
3-2 異議申立ての理由の概要
異議申立人 横浜油脂工業株式会社は、下記の甲第1号証及び甲第2号証を提出して、
(1)本件の請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し、特許を受けることができない、また、本出願前に日本国内において、横浜油脂工業株式会社によって製造され、販売されていたイチゴ表面処理剤「ベリックー1」の組成を包含する同一組成物の発明であるから、同法第29条第1項第1号に該当し、特許を受けることができない、
(2)本件の請求項1に係る発明は、表面処理剤「ベリックー1」のパンフレットの記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない、
(3)本件請求項1に記載された発明は、発明の詳細な説明に記載されたものと相違するから、本件請求項1に記載された発明の特許は、同法第36条に規定する要件を満たしていない、
旨主張している。

甲第1号証:特開昭48ー26943号公報
甲第2号証:三共フーヅ株式会社の証明書及び「ベリックー1」のパン フレット

3ー3 甲各号証記載の発明
甲第1号証には、「カゼインとゼラチンの少なくとも一つ、酸性物質、水、アルコール、必要に応じ更に防腐剤と酸化防止剤を原料とし、カゼインとゼラチンを水に溶解後、アルコールを添加して調整した酸性物質0.5%〜20%程度、ゼラチン・カゼインの合計が0.5%〜30%程度、アルコール5%〜90%程度を含有する溶液またはさらに防腐剤、酸化防止剤を含有する溶液を食品表面に被覆したのち乾燥することを特徴とした食品の加工処理法。」(特許請求の範囲)、「ここでいう固型状食品とは、ある定った形態をとり得るものならばどの様なものでもよく、たとえば鮮魚などの水産物、竹輪、蒲鉾、丸干、味醂干等水産加工品、果実、野菜などの農産物、米菓、パン等農産加工品、ウィンナーソーセージ、ベーコン、焼肉等の畜産加工品、チョコレート、砂糖製品、カカオ製品、コーヒー、柑橘類でもよい。」(1頁左下欄末行〜右下欄5行)、「本発明に於いて酸性物質としては、クエン酸、…………ソルビン酸などが挙げられる。なおソルビン酸は保存剤としての作用をも有するので都合がよい。」(1頁右下欄14行〜19行)、及び「前述の浸漬液に食品を浸漬し、浸漬液を食品に噴霧塗布などして食品表面を覆ったのち、これらを乾燥処理する。かくして表面に被膜が生じ、このようにして得た加工処理品は光沢を増強し、更に防黴、防腐、酸化防止等食品の品質保持ないし品質向上の目的が達せられる。」(2頁右上欄8行〜12行)と記載され、更に実施例1には、ゼラチンを水に加熱溶解し、これにクエン酸、エチルアルコールを加えて、ゼラチン4%、クエン酸4%、水40%、エチルアルコール52%の組成の浸漬液を調製することが記載されている。
甲第2号証のパンフレットには、イチゴ表面処理剤として開発された製品「リンダ Berickー1」は、エタノール40.0%、香料0.3%、及び食品素材59.7%の成分組成からなること、及び前記製品の特長として、「・表面に付着した異物の洗浄効果があります。 ・雑菌類に対する殺菌、静菌効果があります。 ・乾燥を防ぎ、光沢(つや)を維持します。 ・カビの発生を遅らせます。 ・天然物を使用しているので、まったく無害な製品です。」と記載されている。

3-4 当審の判断
<異議申立人の主張(1)について> 甲第1号証には、エチルアルコール 5〜90%程度、ゼラチン 0.5〜30%程度、酸性物質 0.5〜20%程度、及び適当量の水を含有してなる食品の表面処理剤が記載され、そこには適用できる食品として、果実及び野菜が他の多数の食品と共に例示され、さらに前記酸性物質として、本件発明の「抗菌性物質」に相当するソルビン酸を使用することも記載されている。
しかしながら、甲第1号証には、ゼラチンとして70〜130ブルームのゼリー強度を有するものを用いることについての記載はなく、まして「70〜130ブルーム」という低ブルームのゼリー強度を有するゼラチンを含む表面処理剤が、熱に弱い果実や野菜に有効であることを教示する記載は何もない。
この点について、異議申立人は、
(i)甲第1号証には、表面処理液中のゼラチンのゼリー強度に関する記載はなく、ましてゼリー強度が70〜130ブルーム以外のゼラチンを使用する記載も全くないから、甲第1号証の処理液が70〜130ブルームのゼリー強度を有するゼラチンを包含することは明らかであり、甲第1号証に記載の表面処理液は、請求項1に係る発明の表面処理剤と実質的に同一であって、両者は区別できない、
(ii)多種多様なゼラチンが知られている状況下において、使用対象物や適用条件に応じて多種類のゼラチンの中から最も適切なゼラチンを選択使用することは当業者の常套手段であり、従って、.使用対象等に応じて好適ゼラチンを選択使用することに新規性も特許性も認められない、
旨主張しているので、以下この点について検討する。
甲第1号証には、どの程度加水分解したゼラチンを用いるのか、言い換えるとどの程度のブルーム値を有するゼラチンを用いるのか具体的に何も記載されていないことを考えると、甲第1号証においては、市販されているごく普通のゼラチンを使用するものと解するのが妥当である。
特許権者が提示した宮城化学工業株式会社の「標準銘柄ゼラチン一覧表」の記載によれば、市販されているゼラチンの殆どは150ブルーム以上のものであり、本件発明で特定する「70〜130ブルームのゼリー強度を有するゼラチン」が、市販されているごく普通のゼラチンであるとは認められない。(異議申立人は、70〜130ブルームのゼリー強度を有するゼラチンが、特殊なものではなく、市販されているごく普通のものであることを立証する証拠方法を何も提出していない。)
してみると、本件発明で特定する「70〜130ブルームのゼリー強度を有するゼラチン」が、甲第1号証に記載のゼラチンと実質的に同一のものであるということはできず、上記主張(i)を採用することはできない。
また、上記主張(ii)についても、甲第1号証には、丸干イワシ、めざし、シシャモ、ミンチボール、ウィンナーソーセージ、天ぷら、蒲鉾、焼竹輪、食パン等を表面処理剤で処理することが実施例に具体的に記載されているが、これら食品のすべては野菜や果実と異なり、熱に強い食品である。
したがって、これらの記載から、対象とする食品の種類に応じてゼリー強度の異なるゼラチンを選択すべきであるとの技術的思想を導き出すことはできず、まして、熱によって商品価値が損なわれる果実や野菜に対しては、比較的低い温度においてゼラチンが析出したり、沈殿したりしないように、低ブルームのゼラチンを用いる必要があるという本件発明の技術的思想を導き出すことは困難である。
そうであるなら、加水分解の少ない高分子量のゼラチンから強く加水分解され、低分子化されたゼラチンまで多種多様なゼラチンが本件出願前に知られていたとしても、果実又は野菜に対して70〜130ブルームという特定のゼリー強度を有するゼラチンを使用することは、当業者の常套手段であるということはできず、上記主張(ii)を採用することはできない。
異議申立人の上記主張(i)及び(ii)を検討するも、本件発明は、甲第1号証に記載された発明であるとすることはできない。

次に、甲第2号証には、商品名「ベリックー1」で示される表面処理剤をイチゴに適用することにより、イチゴ表面の乾燥を防ぎ、光沢を維持し、カビの発生を抑制できることが記載されているが、該表面処理剤の成分組成をみると、そこには「エタノール40.0%、香料0.3%、食品素材59.7%」と記載されているのみであって、前記食品素材にどのような成分が含まれているのか不明である。
この点について、異議申立人は、前記「ベリックー1」に用いられているゼラチンは、本異議申立人の測定によれば、ゼリー強度が90〜100ブルーム程度であって、本件発明の表面処理剤は、「ベリックー1」の組成を包含する同一組成物である旨主張しているが、かかる主張を客観的に裏付ける実験成績証明書を提出していない以上、異議申立人の上記主張は採用しない。
してみると、甲第2号証のパンフレットに示されるイチゴ表面処理剤「ベリックー1」が、本件特許の出願前に製造、販売されていたとしても、本件発明は、その出願前に公然知られた発明であるとすることはできない。

<異議申立人の主張(2)について>
先に述べたとおり、甲第2号証には、イチゴ表面処理剤の成分組成について「エタノール40.0%、香料0.3%、食品素材59.7%」と記載されているのみで、前記食品素材中にどのような成分が含まれているのか何も記載されていない。
したがって、本件発明は、表面処理剤「ベリックー1」のパンフレットの記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

<異議申立人の主張(3)について>
異議申立人は、明細書に記載不備がある理由として、
ア.請求項1に係る発明は、被膜剤をゼラチンに限定しているにもかかわらず、明細書の発明の詳細な説明の段落【0010】には、寒天その他の被膜剤物質が列挙されている、
イ.請求項1に係る発明は、エタノール含量を「10〜70重量%」と限定しているが、明細書の発明の詳細な説明の段落【0009】には、「50重量%より多い量では次第に被膜剤等の溶解性の低下、アルコール浸潤等の食品への影響、コストなどの面で好ましくない。」と記載されている、
点を挙げている。
そこで検討すると、アについては、寒天その他の被膜剤物質が多数列挙されている箇所の後に、「この中でもゼラチンが好ましい。」【0011】と記載され、請求項1に係る発明は、数ある使用可能な被膜剤の中で特に好ましいゼラチンに限定したものと解されることから、上記アの点に記載不備はない。
また、イについても、明細書の発明の詳細な説明の段落【0009】には、「当該エタノールの含量には基本的に制限はないが、10〜70重量%が好ましい。」と記載されており、異議申立人が指摘する上記箇所は、特に好ましいエタノール含量を説明した箇所と解することができるので、上記イの点にも記載不備はない。

4.むすび
以上のとおりであるから、異議申立人の主張する理由及び提出した証拠方法によっては、本件請求項1に係る発明の特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
表面処理剤
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 10〜70重量%のエタノール、0.5〜20重量%のゼラチン(但し、70〜130ブルームのゼリー強度を有するもの。)、0.05〜5重量%の抗菌性物質及び適当量の水を含有することを特徴とする果実又は野菜の表面処理剤。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、果実や野菜類などの食品の表面処理剤に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
イチゴなどの果実等は、収穫後の保存環境によってその品質が大きく変動し、艶のある色調が劣化したり、組織劣化の浸潤が内部に進行し、黒っぽくなったり、またカビの発生や乾燥によって商品価値が低下する。
【0003】
これを防止する方法として、CA貯蔵、冷凍貯蔵等が検討されているが、おのおのコストの面、解凍後に物性及びテクスチャーか劣化すること等から問題があり、現状では冷蔵保存が大勢をしめている。
【0004】
しかしながら、冷蔵保存では大規模な冷蔵庫の確保が容易ではなく、運搬、流通過程においては冷蔵トラック等を利用しうる場合を除いて果実等の保存性に保障があるわけではない。
【0005】
また、最近天然由来のゼラチン等をアルコールや水に溶解させ、これにイチゴを浸潰し、イチゴの表面に膜を形成させることによってイチゴの保存性を高める方法が開発されている。この方法は、イチゴの保存性に関し冷蔵保存に代わる方法としてそれなりの成果を上げている。
【0006】
しかしながら、上記方法で得られたイチゴの鰭好性や静菌性等は、必ずも満足するものではない。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
従って、本発明の目的は、冷蔵保存によらず、しかも従来の表面処理剤よりも嗜好性、静菌性等に優れた食品の表面処理剤を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、10〜70重量%のエタノール、0.5〜20重量%の被膜剤、0.05〜5重量%の抗菌性物質、及び適当量の水を含有する表面処理剤に果実などを浸潰させることにより従来の表面処理剤よりも嗜好性や静菌性等に優れた食品が得られることを見出し、ようやく本発明を完成した。
【0009】
以下、本発明を詳述する。
本発明に係る表面処理剤(以下「本発明処理剤」という)におけるエタノールの役割は、食品表面の殺菌、乾燥の促進が主である。この役割にかなえば当該エタノールの含量には基本的に制限はないが、10〜70重量%が好ましい。特に好ましくは35〜45重量%である。30重量%未満では次第に食品表面の殺菌が不充分となり、50重量%より多い量では次第に被膜剤等の溶解性の低下、アルコール浸潤等の食品への影響、コストなどの面で好ましくない。
【0010】
本発明処理剤で使用しうる被膜剤としては、ゼラチンや寒天、キトサン、アルギン酸類、ローカストビーンガム、アラビアゴム、トラガントゴム、ペクチン、プルラン、デキストランなどの天然ポリサッカライド、カルボキシメチルセルロースやメチルセルロース等の合成又は半合成ポリサッカライド等を挙げることができ、更にマルチトール等の還元糖、ソルビット、ブドウ糖、マルトースなどの糖類も挙げることができる。即ち、食品に使用しうる被膜形成能を有するものなりー般に何であっても用いることができる。
【0011】
この中でもゼラチンが好ましい。特にゼラチンを加水分解処理して、低分子化してゼリー強度を下げたものが好ましい。ここにゼリー強度とはゼラチンゲルの強さ(固さ)を表すもので、例えばブルーム式ゼリー強度計のプランジャーを押し込むのに要する散弾の重さ等で表現される。ゼラチンのゼリー強度はー般には300〜50ブルームである。本発明の場合には、70〜130ブルーム程度のゼリー強度のものが好ましい。このようなゼラチンは、表面処理剤の粘性を抑えることができることから食品表面への濡れを高めることができ、より高い殺菌効果やむらのない膜形成を可能にしうるからである。
【0012】
また、糖類も被膜形成能を有する限り用いることができるが、特にマルチトール等の糖を還元した糖アルコールが好ましい。糖アルコールは菌の栄養源とならず、細菌の繁殖やカビの発生を防止することができるからである。
【0013】
上記被膜剤は、二種以上を組み合わせて用いることもできる。本発明処理剤における被膜剤の含量は、食品の種類と状態、被膜剤の種類、抗菌性物質の種類等により異なるが、0.5〜20重量%の範囲内で充分である。好ましくは1〜5重量%である。なお、0.5重量%未満又は20重量%より多い量であってもよいが、0.5重量%未満では食品表面への膜形成に必要な充分な量の被膜剤を供給することが困難となり、20重量%より多い量では膜厚が大きくなりすぎて見た目や艶に支障をきたすため好ましくない。
【0014】
本発明処理剤で使用しうる抗菌性物質としては、バニリン、ケイ皮酸等の香料、グリセリン(モノ、ジ、トリ)脂肪酸工ステル、ソルビン酸、安息香酸等の合成抗菌剤、ポリリジン、しらこたん白等の天然系保存料等を挙げることができるが、食品に使用しうる抗菌性物質ならー般に何であっても使用することができる
【0015】
グリセリン脂肪酸エステルとしては、カプリル酸(炭素数8)、カプリン酸(炭素数10)、ラウリン酸(炭素数12)等のグリセリンエステル等を挙げることができる。上記抗菌性物質は、二種以上を組み合わせて用いることもできる。
これらの抗菌性物質は、アルコールの殺菌作用を促進する働きをも有する。
【0016】
被膜剤として使用することができるキトサンは、抗菌性物質としても適用することができる。抗菌性物質、特に高分子であるポリリジン、しらこたん白等は被膜の補助剤としての効果をも有する。
【0017】
本発明処理剤における抗菌性物質の合量は、食品の種類と状態、抗菌性物質の種類、被膜剤の種類等により異なるが、0.05〜5重量%で充分である。好ましくは、0.1〜0.5重量%である。0.05重量%未満又は5重量%より多い量であってもよいが、0.05重量%未満においては、抗菌力が充分に発揮されず、5重量%より多い量ではコスト面や風味への影響等が懸念されるため好ましくない。
【0018】
本発明処理剤を食品に適用することにより、食品表面に被膜が形成されるが、上記抗菌性物質はその被膜により食品表面又は内部に止まり充分に抗菌作用を発揮することができる。これにより抗菌性物質の使用量を減らすことができる。
本発明で使用する水は精製水が好ましいが、食用に供しうる水ならー般的に何であってもよく、例えば水道水や地下水であってもよい。
【0019】
本発明の処理剤に適用しうる食品としては、イチゴ、ミニトマト、サクランボ、ブドウ、スダチ、カポス等の果実や、山椒、しそ、きゅうり等の野菜類を挙げることができる。特に全粒果実が好ましい。本発明の処理剤は、その他の食品、例えばウインナーソーセージ等への適用も制限されるものではない。
【0020】
本発明の処理剤は、例えば、適当な温度に加温した精製水に被膜剤を溶解し、冷却後適宜抗菌性物質とエタノールを加えて製することができる。
本発明処理剤は、適用する食品を室温で数分(1〜10分)間浸潰して使用するのがー般的である。
【0021】
【実施例】
以下に本発明を実施例及び試験例により、更に詳しく説明する。
実施例1
約50〜60℃に加温した精製水に、加水分解したゼラチン(宮城化学工業社製)(ゼリー強度、95ブルーム)を9.2g加え混合溶解し、次いでこれにカプリン酸モノグリセライド(太陽化学社製)0.48gを加え、更にマルチトール(東和化成工業社製)14.4gを加えて混合溶解した後、エタノール180g及びバニラエキス0.4gを加え、そこに精製水を加えて全量を500gとした後、混合した。
【0022】
試験例1-1 イチゴの試食官能検査(1)
実施例1の本発明処理剤、他社品A剤又は他社品B剤の各1リットル(約20℃)に、アメリカ産輸入イチゴ30粒(約350g)を投入し、5分間の浸債処理を各々行った。そして1日間放置したものについて4点順位法により、それらの嗜好性を官能検査した。
【0023】
ここで比較のために用いた他社品A剤は、横浜油脂工業社製「ベリック2」であり、他社品B剤は、同社製「ベリック1」である。
本試験結果を表1に示す。
【0024】
【表1】

本発明処理剤で表面処理したイチゴは、他のものに比べ有意に良かった。
【0025】
試験例1-2 イチゴの試食官能検査(2)
実施例1の本発明処理剤、他社品A剤又は他社品B剤の各1リットルに、奈良県産イチゴ30粒(約500g)を投入し、2分間の浸債処理を各々行った。そして1日放置したものについて4点順位法により、それらの嗜好性を官能検査した。
【0026】
本試験結果を表2に示す。
【0027】
【表2】

本発明処理剤で表面処理したイチゴは、他のものに比べ有意に良かった。
【0028】
試験例2 カビの発生状況
試験例1-1及び試験例1-2と同様にして処理したイチゴを無菌シャーレに封入し、5℃で数日間おき、カビの発生状況を観察した。本試験結果を表3に示す。
【0029】
【表3】

本発明処理剤で表面処理したイチゴは、他のものに比べカビの発生が1〜3日遅延した。
【0030】
試験例3 艶の消失状況
試験例1-1及び試験例1-2と同様にして処理したイチゴを無菌シャーレに封入し、5℃で数日間おき、艶の消失状況を観察した。本試験結果を表4に示す
【0031】
【表4】

本発明処理剤で表面処理したイチゴは、他のものに比べ艶が消失するのに時間を要した。
【0032】
試験例4 保存中の生菌数の変化
試験例1-1及び試験例1-2と同様にして処理したイチゴを無菌シャーレに封入し、5℃(試験例1-1処理)又は10℃(試験例1-2処理)で数日間おき、生菌数の変化を観察した。本試験結果を表5に示す。なお、試験例1-1処理のときはBacillus cereus及びBacillus sp.を主体に若干の酵母が認められ、試験例1-2処理のときはFlavobacterium sp.、Vibrio sp.、Enterobacteriaceae、及びBaci11us sp.が認められた。
【0033】
【表5】

6日目の結果で比べると、本発明処理剤で表面処理したイチゴは、無処理のものと比べ1/100〜1/1000であり、他社品に比べ1/2〜1/100であった。
【0034】
試験例5 浸漬時間別のイチゴ付着菌の殺菌効果
実施例1の本発明処理剤1リットルに、奈良県産イチゴ80粒(約500g)を投入し、30秒間、1分間、2分間、又は5分間の浸漬処理を行い、イチゴ付着菌の殺菌効果を検討した。本試験結果を表6に示す。
【0035】
【表6】

浸漬時間が長い程、残存細菌数は減少した。
【0036】
試験例6 冷蔵保存中の乾燥減量
実施例1の本発明処理剤と他社品Bで表面処理したイチゴを10℃の冷蔵庫に保存し、毎日秤量して次式により乾燥減量を計算した。本試験結果を図1に示す。
【0037】
【数1】

本発明処理剤で表面処理したイチゴは、被膜効果が高く、他のものより乾燥減量が防止された。
【0038】
試験例7 標準菌に対する殺菌力試験
前培養した供試菌株を、20℃に保った各表面処理剤希釈液に5分間接触させた後、肉エキス培地に植菌して30℃で48時間培養した時の菌の増殖の有無を調べた。本試験結果を表7に示す。
【0039】
【表7】

いずれの菌においても本発明処理剤は他の表面処理剤よりも1〜2割程度強い抗菌力を有していた。
【図面の簡単な説明】
【図1】 無処理又は他社品Bで表面処理したイチゴと本発明処理剤で表面処理したイチゴの乾燥減量の推移を示す。
横軸は保存日数(日)を、縦軸は乾燥減量(%)を、それぞれ表す。
●は本発明処理剤で表面処理したイチゴの、○は無処理のイチゴの、△は他社品Bで表面処理したイチゴの乾燥減量推移を表す。
 
訂正の要旨 <訂正の要旨>
特許請求の範囲の請求項1において「食品の表面処理剤」とあるところを、「果実又は野菜の表面処理剤」と訂正する。
異議決定日 2000-10-11 
出願番号 特願平3-353822
審決分類 P 1 651・ 113- YA (A23B)
P 1 651・ 121- YA (A23B)
P 1 651・ 534- YA (A23B)
最終処分 維持  
特許庁審判長 田中 久直
特許庁審判官 大高 とし子
藤田 節
登録日 1999-10-15 
登録番号 特許第2990914号(P2990914)
権利者 日本新薬株式会社
発明の名称 表面処理剤  
代理人 河野 尚孝  
代理人 山本 亮一  
代理人 嶋崎 英一郎  
代理人 荒井 鐘司  

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