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審決分類 審判 全部無効 1項3号刊行物記載 無効としない B41M
審判 全部無効 発明同一 無効としない B41M
管理番号 1035295
審判番号 審判1999-35585  
総通号数 18 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1995-06-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 1999-10-22 
確定日 2001-04-26 
事件の表示 上記当事者間の特許第2620208号発明「感熱転写シート」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯
本件出願は、平成6年10月25日に特許法第44条第1項の規定による特許出願〔原出願:特願昭59-266735号、原出願の出願日:昭和59年12月18日、原出願の出願公告日:平成5年11月18日〕として出願され、平成9年3月11日に特許の設定登録がなされ、その後、当審において、以下の手続きを経たものである。
無効審判請求 平成11年10月22日
答弁書 平成12年3月2日
弁駁書 平成12年6月2日
口頭審理陳述要領書(審判請求人) 平成12年8月4日
口頭審理陳述要領書(被請求人) 平成12年8月14日
口頭審理(特許庁小審判廷) 平成12年8月21日
上申書(被請求人) 平成12年9月19日
上申書(審判請求人) 平成12年12月6日

2.本件発明
本件発明の要旨は、本件明細書(甲第1号証参照)の記載からみてその特許請求の範囲第1項に記載される次のとおりのものである。
「基材フィルム面上にマット層を設け、且つ該マット層上にサーマルヘッドの熱により溶融し、マット層から剥離する熱溶融性インキ層を有している感熱転写シートであって、該マット層が樹脂とマット剤からなり、熱溶融性インキ層と同色になるように着色されていることを特徴とする感熱転写シート。」

3.請求人の求めた審決及び主張
審判請求人は、本件特許第2620208号を無効とする、審判費用は、被請求人の負担とする趣旨の無効審判を請求し、証拠方法として下記の書証をもって以下に示す2つの無効理由により本件特許は無効にされるべきであると主張する。

甲第1号証 特許第2620208号公報(本件特許公報)
甲第2号証 特開昭61-144393号公報(原出願公開公報)
甲第3号証 特願昭58-208306号(特開昭60-101083号)の願書に最初に添 付された明細書
甲第4号証 長倉三郎外編「理化学辞典第5版」1998年2月20日、株式会社
岩波書店、第1359頁
参考資料1 特開昭59-198194号公報
参考資料2 特開昭58-116193号公報
参考資料3 特開昭57-138984号公報
参考資料4 特開昭57-105382号公報
参考資料5 特開昭59-98898号公報
参考資料6 竹田稔外編「特許審決等取消訴訟の実務」、第137〜139頁、
第162〜170頁
参考資料7 特公平5-82317号公報(原出願公告公報)

4.無効理由1及び2
4.1 無効理由1
(1)本件特許発明(以下、「本件発明」という)は、原出願の発明(以下、適宜、「原発明」という)と同一である、
(2)あるいは、本件発明は、原出願の明細書(以下、適宜、「原明細書」という)に記載された事項の範囲外の事項を構成に欠くことのできない事項とするものであるから、本件発明が原明細書に包含された発明であるとはいえず、
(3)結局、本件発明は、2以上の発明を包含する特許出願の一部を新たな特許出願としたものではなく、分割出願の要件を満たしていないので、出願日の遡及は認められず、本件発明の出願日は、分割出願をした平成6年10月25日となるものである。
(4)そして、出願日が、平成6年10月25日とみなされる結果、本件発明は、昭和61年7月2日に出願公開された甲第2号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、本件特許は無効とされるべきものである。
4.2 無効理由2
本件発明は、本出願の日前の他の特許出願であって、本出願後に出願公開された特願昭58-208606号(特開昭60-101083号)の願書に最初に添付された明細書(甲第3号証、以下、適宜、「先願明細書」という)として提示された甲第3号証に記載された発明であって、特許法第29条の2第1項の規定に該当し、本件特許は無効とされるべきものである。

5.被請求人の求めた審決及び反論
被請求人は、本件請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とするとの審決を求め、証拠方法として下記の書証をもって請求人の主張する理由及び提出した証拠方法によっては本件発明の特許は無効とすることができないと主張する。

乙第1号証 特公平5-82317号公報(請求人の参考資料7と同じ、原出願公
告公報)
参考資料1 荒木正義編「グラビア印刷便覧」昭和56年7月25日、加工技術
研究会、第316頁
参考資料2 相原次郎外編「印刷インキ技術」1982年8月30日、株式会社シ
ーエムシー、第193及び194頁
参考資料3 紙業タイムス社出版部編「印刷用紙」昭和55年10月30日、
株式会社紙業タイムス社、第197及び198頁
参考資料4 紙業タイムス社編「オールペーパーガイド-紙の商品辞典
上巻・文化産業篇」、昭和58年12月1日、株式会社
紙業タイムス、第216及び217頁
参考資料5 紙加工便覧編集委員会編「最新 紙加工便覧」昭和63年
8月20日、株式会社テックタイムス、第633、634、657
及び719頁
参考資料6 特開昭54-7476号公報
参考資料7 特開昭56-60298号公報
参考資料8 特開昭56-86731号公報
参考資料9 特開昭59-224342号公報
参考資料10 紙パルプ用語辞典編さん委員会編「実用紙パルプ英和用語辞
典」昭和43年4月20日、紙パルプ資材調査会、第103頁
参考資料11 印刷インキ工業連合会「印刷インキハンドブック」昭和53
年6月、印刷インキ工業連合会、第174頁
参考資料12 特開昭52-5816号公報
参考資料13 特開昭52-150112号公報
参考資料14 特開昭57-98327号公報
参考資料15 特開昭58-161979号公報
参考資料16 特開昭59-187811号公報
参考資料17 特開昭60-6435号公報
参考資料18 特開昭60-139446号公報
参考資料19 竹田和彦著「特許の知識 第6版」1999年6月17日、ダイヤモン
ド社、第270〜273頁
参考資料20 特開昭60-212392号公報
参考資料21 特開昭61-84287号公報
参考資料22 特開昭51-143415号公報
参考資料23 特開昭52-86805号公報
参考資料24 特開昭54-79706号公報
参考資料25 特開昭58-107389号公報

6. 当審の判断
6.1 無効理由1についての判断
6.1.1 原明細書の記載
原出願の分割時の出願公告明細書(分割後の明細書でもある)に相当するものとして提出される乙第1号証(審判請求人の参考資料7と同じ)には、次のことが記載されている。
(a)「1 ベースフイルム面上にマツト層を設け、且つ該マツト層上にマツト層から剥離する熱溶融性インキ層を有している感熱転写シートであつて、該マツト層が下記の成分A,B,C
A 熱可塑性樹脂、またはOH基、またはCOOH基を有する熱可塑性樹脂にアミノ基を2個以上有する化合物またはジイソシアネートを加えた樹脂、
B 無機顔料の微粉末からなるマット剤、
C 導電性粉体
からなり、該マツト層の平均マツト深度が0.15〜2μであり、且つ該マツト層の表面抵抗値が109Ω以下であることを特徴とする感熱転写シート。」(特許請求の範囲第1項)、
(b)「5 熱溶融性インキ層とマツト層とが同色であることを特徴とする特許請求の範囲第1項記載の感熱転写シート。」(特許請求の範囲第5項)、
(c)「ところが、一般にサーマルプリンターで記録された印字または画像は光沢がある。光沢のある印字は美麗である反面、判読性の点からは好ましくないため、ツヤ消し印字を行うことが望まれている。
ベースフイルムとしてプラスチツクでなく紙を用いれば、印字の光沢度は低くなるが、なお不十分であり、またプラスチツクとくにポリエステルは薄膜化が可能(1.6μ程度まで)であることと、強度が高いことから、最近では主流を占めつつある。このことからも、ツヤ消し印字に対する要求は強い。」(第3欄第14〜25行)、
(d)「また、サーマルヘツドによつて加熱印字された部分のインキが抜けることによつて、読み取りが可能となり、機密情報漏洩の危険性がある。」(第3欄第31〜33行)、
(e)「〔発明が解決しようとする問題点〕
本発明の目的は、上記の従来の感熱転写シートの欠点を改善し、つや消し印字、帯電防止または機密漏洩防止の機能を与える感熱転写シートを提供することにある。」(第3欄第34〜38行)、
(f)「本発明の特徴をなすマツト層は、つぎの特性をそなえなければならない。〔(5)については必要に応じて〕
(1)耐熱性があること・・・マツト層がサーマルヘツドの熱で軟化または溶融すると、第一には熱エネルギーの損失となり、感度低下をひきおこし、第二にはベースフイルムとマツト層間の剥離が起つて、マツト層がインキ表面に付着して行くためツヤ消し効果が減少し、第三にはマツト層と熱溶融性インキ層間の接着の度合が変化し、マツト層にタツクネスが生じた場合にはインキのリボン残りのため転写ムラが出るといつた問題がある。
(2)熱離型性があること・・・マツト層と熱溶融性インキ層間で、加熱時に剥離性がよいことが必要である。
(3)薄膜であること・・・好ましい膜厚は0.2〜3μである。好ましい平均マツト深度0.15〜2μを確保する上でも、0.2μ以上の厚さが必要である。3μを超えると熱感度が低くなる。
(4)帯電防止性があること・・・ベースフイルムがプラスチックである場合は、特に静電気の発生を防ぐ必要がある。表面抵抗が109Ω以下ならば、リボン取り扱い上、まとわりつき、ゴミ付着などの不具合は経験上生じない。
(5)熱溶融性インキ層の色と同色であること・・・機密情報漏洩防止の必要がある場合に有効な手段である。
上記のような特性を得るため、マツト層はつぎの材料で構成する。
A 樹脂
・ガラス転移点が60℃以上の合成樹脂が適当である。代表例は、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、フエノール樹脂、フツ素樹脂、ポリイミド樹脂、メチルメタクリレート樹脂、フツ化ビニリデン樹脂、フツ化ビニリデン-テトラフツ化エチレン共重合体樹脂、ポリフツ化ビニル樹脂、アクリロニトリル-スチレン共重合体樹脂などである。
・OH基またはCOOH基を有する熱可塑性樹脂に、アミノ基を2個以上有する化合物またはジイソシアネートもしくはトリイソシアネートを加えた樹脂も好適である。
OH基またはCOOH基を有する熱可塑性樹脂は、ポリエステル樹脂、塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体、ポリエーテル樹脂、ポリブタジエン樹脂、アクリルポリオール、OH基をもつウレタンもしくはエポキシのプレポリマー、ニトロセルロース樹脂、セルロースアセテートプロピオネート樹脂、セルロースアセテートブチレート樹脂、酢酸セルロース樹脂からえらぶとよい。これらの樹脂は、OH基またはCOOH基をその重合単位中に有するもののほか、末端や側鎖に有するものであってもよい。
上記のOH基またはCOOH基を有する熱可塑性樹脂に加えるジイソシアネートの例は、パラフエニレンジイソシアネート、1-クロロ-2,4-フエニルジイソシアネート、2-クロロ-1,4-フエニルジイソシアネート、2,4-トルエンジイソシアネート、2,6-トルエンジイソシアネート、1.5-ナフタレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネートおよび4,4´-ビフエニレンジイソシアネートであり、トレイソシアネートの例は、トリフエニルメタントリイソシアネートおよび4,4´,4´-トリメチル-3,3´,2´-トリイソシアネート-2,4,6-トリフエニルシアヌレートである。また、アミノ基を2個以上有する化合物の例は、メラミン、メチル化メラミン、メチル化メチロールメラミン、ブチル化メラミン、ブチル化メチロールメラミン、ジシアンジアミド、グアニジン、ビグアニド、ジアミノメラミン、グアニルメラミン、尿素、ビウレツト、アンメリン、アシメリド、ブチル化尿素およびメチル化尿素であり、グアナミン類であるホルモグアナミン、アセトグアナミン、ベンゾグアナミン、フエニルアセトグアナミン、メトキシグアナミンおよびN-メチロールアクリルアミド共重合体ポリマーも使用できる。
上記のアミノ基を2個以上有する化合物を用いるときは、硬化触媒として、リン酸アンモン、トリエタノールアミン、アセトアミド、尿素、ピリジン、パラトルエンスルホン酸、スルフアニル酸、ステアリン酸グアニジン、炭酸グアニジンなどを使用する。
ジイソシアネート、トリアソシアネートおよびアミノ化合物は、単独で、または2種以上混合して、OH基またはCOOH基を有する熱可塑性樹脂100重量部に対し、5〜40重量部、好ましくは10〜20重量部添加する。これらは架橋剤として、マツト層を適度に硬化させるとともに、マツト層のプラスチツクフイルムへの接着力を増大させる。
B 熱離型剤または滑剤
加熱時にマツト層と熱溶融インキ層との剥離性を高める物質には、加熱により溶融してこの性能を発揮するものと、固体粉末のままではたらくものとがある。
前者のグループに属するものはポリエチレンワツクス、パラフインワツクスのようなワツクス類、高級脂肪酸のアミド、エステルおよび塩、高級アルコールやレシチンなどのリン酸エステルである。後者のグループにはテフロン、ポリフツ化ビニルなどのフツ素樹脂、グアナミン樹脂、窒化ホウ素、シリカ、木粉、タルクなどが含まれる。二つのグループのものを併用してもよいことはもちろんである。
使用量は、マツト層中の10〜50重量%を上記の熱離型剤または滑剤が占めるようにする。
C マツト剤
下記のような無機顔料を適量使用する。
シリカ、タルク、炭酸カルシウム、沈降性硫酸バリウム、アルミナ、酸性白土、クレー、炭酸マグネシウム、カーボンブラツク、酸化スズ、チタンホワイトなど。
一部は前述の熱離型剤または滑剤と重複するものもあり、それらはBおよびCの作用を兼ねそなえているわけである。
D 導電性粉体
ニツケル、鉄、銅、銀、アルミニウム、金、カドミウム、コバルト、クロム、マグネシウム、モリブデン、鉛、パラジウム、白金、ロジウム、スズ、タンタル、チタン、タングステン、亜鉛、ジルコニウム等の金属粉またはこれらの金属粉の酸化物またはカーボンブラツク、グラフアイトのような導電性カーボンなどが使用される。
E 着色剤
シアン、マゼンタ、イエロー、ブラツクを形成する着色剤のほかに、他の種々な色の着色剤をも用いることができる。即ち、マツト層は、着色剤として、カーボンブラツクまたは各色の染料、顔料をマツト層に与えようとする色に応じて選んで添加される。」(第4欄第33行〜第7欄第33行)、
(g)「〔作用〕
導電性粉体をマツト層に含有させることにより、感熱転写シートに帯電防止性能を付与できる。さらに、マツト層を有しているので、つや消しされた見やすい文字や図形を印字することができる。
また、熱溶融性インキ層と同色になるようにマツト層にあらかじめ適当な着色剤を含有させることによって、機密情報漏洩防止の機能をもたせることができる。」(第8欄第17〜26行)、
(h)「〔実施例〕
(マツト層インキI)
○ ポリエステル樹脂 6重量部
(東洋紡「バイロン200」)
○ 塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体樹脂 7重量部
(UCC製「ビニライトVAGH)
○ 導電性カーボン 5重量部
(ライオンアクゾ株式会社:ketjenBLACK)
○ メチルエチルケトン 30重量部
○ トルエン 23重量部
・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
(マツト層インキII)
○ メチルメタクリレート樹脂 10重量部
(三菱レイヨン「ダイナアナールBR-88」)
○ 酸化錫 5重量部
(三菱金属「T-1」)
○ ポリエチレンワックス 2重量部
(旭電化「マークFC-113」30%トルエン分散液)
○ 黄色顔料(大日精化2400) 4重量部
○ トルエン 20重量部
○ メチルエチルケトン 20重量部

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
実施例1
ベースフイルムとして厚さ6μのポリエチレンテレフタレート(東レ)を用い、前記マツト層インキIをグラビア印刷法によりコート量1g/m2で塗布した。このマツト層インキIの上に、前記の熱溶融性インキIを100℃に加温したホツトメルト法によりロールコート法で、5μの厚さに塗布して感熱転写インキ層とした。
実施例2
ベースフイルムとして厚さ6μのポリエチレンテレフタレート(東レ)を用い、前記プライマー層インキをグラビア印刷法によりコート量0.5g/m2で塗布した。このプライマー層の上に、前記マツト層インキIIをグラビア印刷法により、コート量1g/m2で塗布した。さらにこのマツト層インキIIの上に前記の熱溶融性インキIIを100℃に加熱したホツトメルト法によりロールコート法で、5μの厚さに塗布して感熱転写インキ層とした。・・・・・・・・・・・。
比較例1
実施例1において、マツト層インキIを設けていない感熱転写シート。
比較例2
実施例2において、マツト層インキIIを設けていない感熱転写シート。」(第8欄第27行〜第10欄第18行)、
(i)「上記の実施例1〜2、比較例1〜2の感熱転写シートをスリットしてリボン状にし、それぞれ市販のプリンターにて印字した。
被転写体 上質紙(三菱製紙「特異菱」四六判/72Kg)
サーマルヘツド 薄膜型サーマルヘツド
印字エネルギー 1mJ/ドツト(4×10-4cm2) 」(第10欄第19〜25行)、
(j)「(Table.1)一般に印字に必要なツヤ消しは、記録用紙の光沢の度合いや判読の条件によっても異なるが、光沢計で測定したときの光沢度がおおよそ30以上(明細書原本では、30以下となっており、以下、これを30以下と読み替える)であれば、常に十分なレベルであるといえる。・・・・・・

光沢度は印字部の光沢をクロスメータ(村上色釈研究所)「GM-3M」を用いて、測定角60°で、それぞれ測定した。」(第10欄第29行〜第11欄第13行)ことが記載されている。
そして、上記の記載を含む乙第1号証の記載からみて、原発明の要旨は、その特請求の範囲第1項に記載される次のとおりのものと認められる。
「ベースフイルム面上にマツト層を設け、且つ該マツト層上にマツト層から剥離する熱溶融性インキ層を有している感熱転写シートであつて、該マツト層が下記の成分A,B,C
A 熱可塑性樹脂、またはOH基、またはCOOH基を有する熱可塑性樹脂にアミノ基を2個以上有する化合物またはジイソシアネートを加えた樹脂、
B 無機顔料の微粉末からなるマット剤、
C 導電性粉体
からなり、該マツト層の平均マツト深度が0.15〜2μであり、且つ該マツト層の表面抵抗値が109Ω以下であることを特徴とする感熱転写シート。」

6.1.2 本件発明が原発明と同一であるか否かについて
本件発明の要旨は、前記2.で示したとおりのものであり、また、原発明の要旨は、上記6.1.1で示したとおりのものである。
6.1.2.1 判断〈その-1〉
そこで、本件発明と原発明とを対比する。
原発明のベースフイルムは、本件発明の基材フィルムに相当し、また、原発明のマツト層を構成する成分Aである「熱可塑性樹脂、またはOH基、またはCOOH基を有する熱可塑性樹脂にアミノ基を2個以上有する化合物またはジイソシアネートを加えた樹脂」、同成分Bである「無機顔料の微粉末からなるマツト剤」は、本件発明のマット層の「樹脂」、「マット剤」に、それぞれ、含まれるものであり、そして、原発明の感熱転写シートにおいて、その熱溶融性インキ層は、マツト層から剥離するものであり、また、通常、サーマルヘッドの熱により溶融するものであり、よって、両者は、
「基材フィルム面上にマット層を設け、且つ該マット層上にサーマルヘッドの熱により溶融し、マット層から剥離する熱溶融性インキ層を有している感熱転写シートであって、該マット層が樹脂とマット剤からなる感熱転写シート」である点で共通する。
一方、本件発明は、マット層が、「熱溶融性インキ層と同色になるように着色されている」という構成を、更に、具備するものであるが、原発明ではその構成が示されず、また、その構成が周知・慣用で自明な事項であるということもできない。
そして、本件発明の上記要旨と本件明細書の記載とからみると、本件発明は、熱溶融性インキ層を有する感熱転写シートにおいて、マット層につき、当該着色に関する構成を採用することにより、マット層が熱溶融性インキ層と同色になるように着色され、機密情報漏洩防止の機能を保有させるという目的を達成することができたものであるが、これに対し、原発明では、その要旨とその明細書の記載とからみると、マット層につき、それに用いる成分Aの樹脂、同成分Bのマット剤、同成分Cの導電体、その平均マット深度、その表面抵抗に関する構成を採用することにより、熱溶融性インキ層を有する感熱転写シートに、つや消し印字、帯電防止機能を保有させるという目的を達成することができたものであるものの、本件発明のように、機密情報漏洩防止についての機能までも意図するものでない。
なお、乙第1号証の前記(e)においては、発明の目的として機密漏洩防止の機能についても触れられるが、原発明の要旨には、それに対応する、ないしは、それを意図するような規定が何も盛り込まれていないのであり、したがって、原発明では、もともと、機密漏洩防止の機能についてまで配慮するようなものではないと解される。
そして、マット層が、「熱溶融性インキ層と同色になるように着色されている」ものとする技術は、機密情報漏洩防止について密接な関連があるが、原発明の目的であるつや消し印字、帯電防止の達成とは直接の関係のないことが明らかなところである。
してみれば、マット層が、「熱溶融性インキ層と同色になるように着色されている」ものとする技術が、原発明に含まれるとする根拠もない。
したがって、本件発明は、マット層が、「熱溶融性インキ層と同色になるように着色されている」ものである点で、原発明に対して、別異の発明を構成するものである。

6.1.2.2 判断〈その-2〉
原発明と本件発明とを対比すると、両者は、共に、
「ベースフイルム面上にマツト層を設け、且つ該マツト層上にマツト層から剥離する熱溶融性インキ層を有している感熱転写シートであって、該マツト層が樹脂及びマット剤を含有する感熱転写シート」である点で共通する。
しかし、原発明は、マツト層の樹脂として、「熱可塑性樹脂、またはOH基、またはCOOH基を有する熱可塑性樹脂にアミノ基を2個以上有する化合物またはジイソシアネートを加えた樹脂」を採用し、マット層のマット剤として、「無機顔料の微粉末からなるマツト剤」を採用し、マット層に、別途、「導電性粉体」を用い、更に、マット層につき、「平均マツト深度を0.15〜2μであり、且つ表面抵抗値を109Ω以下」とする構成を具備するものであるが、本件発明では、これらの構成が示されないものであり、また、これらの構成の内、少なくとも、マット層に導電性粉体を用いること、その表面抵抗を109Ω以下とすることは、感熱転写シートの分野において周知・慣用で自明な事項であるということもできない。
そして、原発明では、その要旨とその明細書の記載とからみると、マット層につき、導電性粉体、表面抵抗値に関する上記構成を採用することにより、熱溶融性インキ層を有する感熱転写シートに帯電防止機能を持たせるという目的を達成することができたものであるが、これに対し、本件発明では、その上記要旨と本件明細書の記載とからみると、樹脂とマット剤とからなるマット層を設け、かつ、該マット層を熱溶融インキ層と同色になるように着色することにより、熱溶融インキ層を有する感熱転写シートに、つや消し印字、機密情報漏洩防止の機能を持たせるという目的を達成することができたものであるものの、帯電防止についての機能までも意図するものでない。
なお、本件明細書(甲第1号証)の段落0004には、発明の目的として帯電防止機能についても触れられるものであるが、本件発明の要旨には、それに対応する、ないしは、それを意図するような規定が何も盛り込まれていないのであり、したがって、本件発明では、もともと、帯電防止の機能についてまで配慮するようなものではないと解される。
そして、マット層につき、導電性粉体、表面抵抗に関する上記構成を採用することは、帯電防止とは密接な関係にあるが、本件発明が目的とするところの、つや消し印字や機密情報漏洩防止の達成とは直接関連がないことは明らかである。
してみれば、少なくとも、導電性粉体、表面抵抗に関する上記技術が本件発明に含まれるとする根拠もない。
したがって、原発明は、少なくとも、マット層に、別途、「導電性粉体」を用い、更に、マット層につき、「平均抵抗値を109Ω以下」とする発明であるという点で、本件発明に対して、別異の発明を構成するものである。

6.1.2.3 判断〈その-3〉
審判請求人は、
(1) 本件発明は、原発明と重複するすべての技術的事項を対象として分割出願とし、この際原出願の発明からは何らの技術的事項も削除されなかったものであるから、原出願の一部を分割出願としたものでない旨主張する。
確かに、マット層の機能、マット層の材料の説明に関する記載(前掲(f)の箇所)及び実施例の記載につき、原出願と、分割出願である本件明細書の記載との間に、実質上同じ記載があるが、そのことのみから、両出願の発明の異同を云々できるものではなく、したがって、本件発明の分割出願の要件を満たしていないとまでいえない。
そもそも、本件発明と原発明とが同一であるか否かについては、特許請求の範囲に記載される発明の要旨に基づき、判断すべきものである。
そして、この観点から、両発明につき、対比、検討を行ったところ、上記6.1.2.1及び6.1.2.2で示されるとおり、両発明は同一ではなく、したがって、本件発明は、原出願の一部を分割出願としたものでないとはいえないものである。
また、審判請求人は、
(2) 本件発明と、原発明の特許請求の範囲第5項に記載されたもの(原特許実施態様)とを対比して、原発明は、マット層が導電性粉体からなる点、マット層の表面抵抗値が特定の値以下である点で、本件発明と異なるが、本件明細書には、マット層は必要に応じて導電性粉体を含有することが望ましいこと、マット層の表面抵抗値が109Ω以下であれば帯電防止性を有するため好ましいことが記載されており、そうすると、原特許実施態様は、本件発明の代表的実施態様である中核部分を具体的に特定したものにすぎないことになるから、本件発明と実質的に同一であるといえる旨、主張する。
しかし、原発明の要旨は、その明細書の特許請求の範囲第1項に記載されるとおりのものであって、審判請求人が対比に当たり引用する原出願の特許請求の範囲第5項に記載のものは、そもそも、原発明の要旨には当たらないものである。
そして、前記6.1.2.2で示されるように、本件発明は、熱溶融インキ層を有する感熱転写シートにおいて、樹脂とマット剤とからなるマット層を設け、かつ、マット層を熱溶融インキ層と同色になるように着色することによって、つや消し印字、機密情報漏洩防止の機能を保有するという目的を達成できたものであって、導電性粉体を含有すること又は表面抵抗値を109Ω以下とすることは、本件発明の目的とは直接の関連がなく、本件発明で意図しないものである。
そうすると、本件明細書には当該導電性粉体を含有すること又は表面抵抗値を109Ω以下とする技術が記載されており、そのことからは、本件発明に対して、このような導電性粉体又は表面抵抗に関する技術を組み合わせることが技術的に可能であることが示されるとしても、それ以上の意味はなく、本件発明の目的からみる限り、その技術が本件発明に含まれるとまでいえるものではない。
してみると、当該導電性粉体を含有すること又は表面抵抗値を109Ω以下とすることが、本件発明に含まれるとすることができず、当然のこととして、本件発明は原発明と同一であるとすることができない。
また、審判請求人は、
(3) 本件発明および原発明の両発明より、いずれも、下位概念に相当する方の構成要件を選択し、すなわち、
(a1)熱溶融性インキ層がサーマルヘッドの熱により溶融し、
(b1)マット層を構成する樹脂が所定のものであり、
(c1)マット剤が無機顔料の微粉末からなり、
(d1)マット層が導電性粉体を含み、
(e1)マット層の平均マット深度が所定の範囲であり、
(f1)マット層の表面抵抗値が所定の範囲であり、
(g1)マット層が熱溶融性インキ層と同色になるように着色されており、これ以外の本件発明と原発明との間に相違がない構成要件はそのままであるような感熱シート、という共通発明を把握することが可能である。
本件発明および原発明は、いずれも上記共通発明をその一部として包含する発明である。しかも、上記共通発明というのは、本件発明においても原発明においても、好適かつ典型的な実施態様として実施例に記載されている、いわば発明の中核に相当するものである。このように共通発明において重複する以上、同一というべきである、と主張する。
しかし、そもそも、本件発明と原発明とが同一であるか否かについて判断する場合には、特許請求の範囲に記載される発明の要旨に基づき、判断すべきものである。
そして、この観点から、両者を対比、検討すると、マット層が導電性粉体を含有しその表面抵抗値が所定の範囲であることが、本件発明の構成に含まれるものでなく、また、マット層が熱溶融性インキ層と同色になるように着色されることが原発明の構成に含まれないものであって、このことは上記6.1.2.1及び6.1.2.2に記載したとおりであり、したがって、少なくとも、この二つの点で、元来、両発明には共通する下位概念が存在しないものである。
ところで、明細書の発明の詳細な説明の項(実施例の記載も含む)及び実施態様項の記載には、大別すると、発明の要旨そのものの裏付けをなす記載と、その発明には含まれないがその周辺の技術の説明をなす記載とがあるが、この周辺の技術の説明をなす記載は、発明につき直接説明するものではないが、発明の利用性ないしは効果を補足説明する、又は、公開された場合には技術情報としての利用価値を高めるという意義を有するものである。
そして、本件明細書(発明の詳細な説明の項、実施態様項)においては、マット層が導電性粉体を含有しその表面抵抗値が所定の範囲であることに関する記載は、その発明の要旨においてマット層につき導電性ないしは電気抵抗性に関し何も規定されないことからみると、本件発明の周辺の説明をなす記載に該当するものであり、一方、原明細書においては、マット層が熱溶融性インキ層と同色になるように着色されることに関する記載は、原発明の要旨において両層の着色につき何も規定されないことからみると、原発明の周辺の技術の説明をなす記載に該当するものに他ならない。このように、発明の要旨からだけから判断しても、本件発明と原発明とは互いに別異の発明を構成するものである。
審判請求人の主張は、発明の要旨に充分配慮することなく、それぞれの明細書の実施態様ないしは実施例という欄の記載のみから共通発明を独自に構築し、そのうえで、両発明を対比するものであって、その主張は、合理性を欠くものである。
以上のとおりであり、本件発明及び原発明については、いずれを、先願発明又は後願発明であると仮定して対比・判断してみても、両者が、同一であるということにはならない。
したがって、本件発明は原発明と同一であり本件の出願は分割の要件を満たしていない、とはいえない。

6.1.3 本件発明が、原出願明細書に記載されていない発明であるか否かについて
6.1.3.1 判断
(1) 原出願の分割時の出願公告明細書として提出された乙第1号証には、前記(a)で示したとおり、「ベースフイルム面上にマツト層を設け、且つ該マツト層上に・・・熱溶融性インキ層を有している感熱転写シートであって、・・・感熱転写シート。」と記載され、そこには、基材フィルム面上にマット層を設け、且つ該マット層上に熱溶融性インク層を有する感熱転写シートに関する発明が記載されており、次に、乙第1号証に記載のものは、前記(d)、(i)で示されるとおり、サーマルヘッドにより熱転写するものであるが、その場合、熱溶融性インク層はサーマルヘッドの熱で、通常、溶融するものであり、このことに加え、同じく前記(f)で示されるとおり、「熱離型性があること・・・マツト層と熱溶融インキ層間で、加熱時に剥離性がよいことが必要である。」(第5欄第2〜4行)と記載されるので、熱溶融性インク層はサーマルヘッドの熱により溶融し、マット層から剥離するものである。
このように、乙第1号証には、「基材フィルム面上にマット層を設け、且つ該マット層上にサーマルヘッドの熱により溶融し、マット層から剥離する熱溶融性インキ層を有している感熱転写シート」に関する発明が、実質上、記載されるものである。
(2) 次に、乙第1号証に関する前記(e)で示したとおり、「本発明の目的は、上記の従来の感熱転写シートの欠点を改善し、つや消し印字、帯電防止または機密漏洩防止の機能を与える感熱転写シートを提供することにある。」と記載され、そして、同じく前記(g)で示されるように、「導電性粉末をマツト層に含有させることにより、感熱転写シートに帯電性性能を付与できる。さらに、マツト層を有しているので、つや消しされた見やすい文字や図形を印字することができる。また、熱溶融性インキ層と同色になるようにマツト層にあらかじめ適当な着色剤を含有させることによって、機密情報漏洩防止の機能をもたせることができる。」と記載され、これらのことからすると、乙第1号証には、つや消しされた見やすい文字や図形を印字するために、感熱転写シートにマット層を設けること、及び、機密情報漏洩防止を達成するために、熱溶融性インキ層と同色になるようにマット層にあらかじめ適当な着色剤を含有させることが、実質上、記載されるものである。
そして、この場合、当該記載は、導電性粉末をマット層に含有させ帯電性性能を付与することとは、独立して、把握できるものである。
(3) したがって、上記(1)及び(2)を総合すると、原明細書(乙第1号証)には、
「基材フィルム面上にマット層を設け、且つ該マット層上にサーマルヘッドの熱により溶融し、マット層から剥離する熱溶融性インキ層を有している感熱転写シートであって、該マット層が熱溶融性インキ層と同色になるように着色されている感熱転写シート」に関する発明が、実質上、記載され、また、そのマット層は、つや消しされた見やすい文字や図形を印字するために設けられるものであることが記載される。

次に、このようにつや消しされた見やすい文字や図形を印字するために設けられているマット層につき、そこで必要とする成分について検討する。
(4) 乙第1号証には、前記(c)で示されるとおり、「ところが、一般にサーマルプリンターで記録された印字または画像は光沢がある。光沢のある印字は美麗である反面、判読性の点からは好ましくないため、ツヤ消し印字を行うことが望まれている。ベースフイルムとしてプラスチツクでなく紙を用いれば、印字の光沢度は低くなるが、なお不十分であり、・・・ツヤ消し印字に対する要求は強い。」及び、前記(j)で示されるとおり、「(Table.1)一般に印字に必要なツヤ消しは、記録用紙の光沢の度合いや判読の条件によっても異なるが、光沢計で測定したときの光沢度がおおよそ30以下であれば、常に十分なレベルであるといえる。・・・光沢度は印字部の光沢を・・・それぞれ測定した。」と記載され、このように、乙第1号証においては、つや消しとは、光沢又は光沢度を低い状態にすることをいうものであり、そして、そこに記載される文字や図形(以下、適宜、「文字等」という)がつや消しされていれば、その文字等の表面における光沢ないしは光沢度が低くされているものである。
そして、その光沢ないしは光沢度については、鏡面の反射等により日常的に経験するように、当該表面において一定の角度での反射光量が多い場合には、それが高く、逆に、当該面における一定の角度での反射光量が少なく、同一方向にまとまった反射光量が得られない場合には、光沢ないしは光沢度が低くなるものである。
そしてまた、表面における光の反射が一定の角度での反射光量が少ない場合には、その反射光が妨げられて、散乱ないしは拡散しているものであって、その反射面には、それの原因となる凹凸が存在するものである。
以上のように、経験則及び光の反射の原理からみると、つや消しされた、換言すれば、光沢ないしは光沢度が低くされた文字等の表面には、凹凸が形成されていることは明らかなことである。

そして、このつや消しされた、又は、光沢ないしは光沢度が低くされた文字等の表面には、凹凸が形成されることは、乙第1号証に記載される発明の属する分野の技術常識からみても、明らかなことである。
すなわち、
被請求人の引用した参考資料1には、「PETフィルムはもともと透明で、光沢の優れたものであり,一般用途にはその特色を生かしてそのまま表面平滑なものが使用されている。・・・。接着の向上,艶消しを目的として表面に凹凸を与えるマット加工や・・・透明性低下をはかるフイルムも出されているが,包装用途としては少ない。」(第316頁右欄第8〜15行)と、PETフィルムは光沢の優れたものであって、表面平滑なものであるが、艶消しを目的として、表面に凹凸を与えることが、実質上、記載される。
同じく参考資料2には、「(4)インキの光沢
・・・グロスニス
上刷ニスをかけず,インキ自体の光沢を増したいときに加える混合用のグロスニスで,上刷ニスの組成から体質顔料を除いた樹脂ワニスに相当する。・・・。それ以上の光沢を望む場合は,むしろはじめからグロスインキとして組成を考えた方が印刷適性上良好なものが得られる。
・・・マットニス
上刷ニスやグロスニスが光沢向上を目的とするのと反対に,マットニスは光沢を低下させマット効果を得るために使用され,インキに混合したり,上刷りしたりされる。マット効果は光沢の場合と逆に,印刷面が粗面に形成されることが条件となるので,マットニスには,親油性の低い体質顔料(クレーや炭酸カルシウムなど)を加えたり,乾きをおくらせて浸透を増したりする。」(第193頁末行〜第194頁第5行)と、光沢を低下させるマット効果は、印刷面が粗面に形成されることが条件となることが、実質上、記載され、粗面になるということは、表面があらされ、そこに何等かの凹凸が存在するものである。
同じく参考資料3には、「2.3.2グロスとマット
非塗工紙では,ペーパーマシンの出口に設置してあるマシンカレンダーの段数あるいは荷重を調節して,いわゆる“ツヤ”“ラフ”などをつくり分けている。これは,印刷光沢よりはむしろ視威的な“肌”あるいは“かさ”を目的とする場合が多い。非塗工紙の表面の平滑度をマシンカレンダーによって変えても,光沢,とくに印刷光沢にはそれほどの大きな差は生じない。
しかし塗工紙ではスーパーカレンダー処理によって白紙および印刷面の光沢は大きく向上する。これは,微粒の顔料と適正な接着剤,補助剤より成る塗工層がスーパーカレンダーで“のばされ”て,高度の光沢度と平滑度とを持った面が得られるからである。
非塗工紙の光沢度は10程度である。これに塗工しただけでは,平滑度はかなり向上するが光沢度はそれほど上がらない。しかし,スーパーカレンダー処理すると,たとえばコート紙では光沢度は50くらいになる。これに印刷すると,ベタ面の印刷光沢は70くらいになる。
一方,マットコート紙の白い光沢は10〜20程度で非塗工紙と大差ない。これに同様のベタ印刷をしても印刷光沢の上昇はほんのわずかで、印刷面もしっとりとした沈みをみせている。この沈んだ印刷光沢(ここにマットコート紙の特徴がある)は,印刷面の微妙な凹凸によって形成されている。すでに述べたように,この沈みは,細かな凹凸面での光の散乱反射によるものである。
非塗工紙のベタ印刷面も測定器で図るとマットコート紙のそれに近い光沢度であるが,いかんせん大きな凹凸であるので均一な散乱反射は得られない。また,さらにマクロな不均一性(地合ムラ)によって,印刷濃度の濃淡が目立つ。
しかし,非塗工紙でも,特殊印刷用紙に属するもののなかには,非常に地合がよく,かつ特殊の填料・薬品を配合して表面を比較的ミクロな凹凸状態に仕上げた高級印刷用紙がある。これらの紙では,マットコート紙的な落ち着いた印刷光沢が得られる。


図III-66グロス調とマット調印刷用紙の光の反射の違い 」(第197頁下から第7行〜第198頁末行)と、マットコート紙の光沢度は10〜20程度で、すなわち、低く、これに同様のベタ印刷をしても印刷光沢の上昇はほんのわずかで、沈んだ印刷光沢をみせており、これは、印刷面の微妙な凹凸によって形成されていることが、実質上、記載され、また、上記図III-66の記載につき、同参考資料4の「マット塗工紙は,白紙面,印刷面いずれも低光沢でしっとりした視感・触感を与える。塗工紙の主流は光沢を充分に高めたグロス系であるが,書籍本文用には光沢が嫌われるので」(第216頁右欄第7〜9行)のグロスとは光沢が高められた状態であり及びマットとは低光沢であるとの記載を参照すると、その図III-66では、高い光沢ないしは高い光沢度のグロス調印刷用紙は表面が平滑で反射光が鏡面反射をするが、低い光沢ないしは低い光沢度のマット調印刷用紙には微細な凹凸があり、反射光が散乱することが示されるものである。
同じく参考資料4には、「マットフィルム ・・・透明,光沢の良いフィルムに対して表面を粗にしたフィルムをいう。フィルム成型時,インラインでエンボス加工してあるロールを用い,熱圧着することにより得られるが、フイルム原反をオフラインで,熱圧着することによっても得られる。」(第216頁右欄下から第5行〜第217頁左欄第2行)と、光沢の良いフイルムに対するマットフィルムは、表面をエンボス加工してあるロールを用い熱圧着により、粗にしたフィルムをいうことが、実質上、記載されており、そして、光沢の良いフィルムに対するものとは光沢の低いフィルムを云い、また、エンボス加工されたロールを用いて熱圧着すれば、そのフィルムの表面に何等かの凹凸が形成されるものである。
上記参考資料1〜4で示されるとおり、つや消しされた、換言すれば、光沢ないしは光沢度が低くされている文字等の表面には、凹凸が形成されており、このことは、乙第1号証に記載される発明の属する印刷分野の技術常識からみても、明らかなことである。

(5) そして、乙第1号証では、前記(f)で示されるように、「(2)熱離型性があること・・・マツト層と熱溶融インキ層間で、加熱時に剥離性がよいことが必要である。」(第5欄第2〜4行)と記載され、そこでの感熱転写シートにおいては、熱転写時には、熱溶融性インク層はマット層から剥離するものであり、そして、乙第1号証では、前記(h)で示されるように、熱溶融性インク層は、塗布によりマット層の上に形成されるのであるから、マット層に密着して存在しており、そのため、熱溶融性インク層は剥離するまではマット層と密着して存在するものである。
そしてまた、熱溶融性インキ層が熱転写によりマット層から剥離したもの、すなわち、文字等、の表面には凹凸が存在しているのであるから、その熱溶融性インク層とその表面が密着するところのマット層においても、その表面に、熱溶融性インク層と裏腹ないしは相互補完関係にある凹凸を形成しているはずである。この場合、マット層及び熱溶融性インク層のいずれにおいても、特殊な材料ないしは特殊な処理が施されるものではなく、このことはいうまでもなく、したがって、他の方法により、インク層に凹凸が形成されるものであると解することはできない。
このように、マット層表面に凹凸が存在し、それが、つや消しされた、又は光沢ないしは光沢度が低くされている文字等を形成し得るものであることが明らかなことである。

(6) そこで、以上のことを基に、乙第1号証の記載を更にみると、前記(f)で示されるマット層の特性とマット層を構成する材料につき記載される箇所(第4欄第33行〜第7欄第33行)の記載によれば、マット層を構成する成分として、樹脂、熱離型剤または滑剤、マット剤、導電性粉体、着色剤が示される。
このうち、表面に凹凸を有し、つや消しされた、又は、光沢ないしは光沢度が低くされている文字等を形成しうるマツト層に関し、そのマット層を構成するところの必須成分について、検討する。
まず、マット剤成分についてみると、前掲した被請求人の引用した参考資料1の「・・・艶消しを目的として表面に凹凸を与えるマット加工や・・・」、同じく参考資料2の「・・・マットニスは光沢を低下させマット効果を得るために使用され、・・・」、同じく参考資料3には、「・・・マットコート紙的な落ち着いた印刷光沢が得られる・・・」、同じく参考資料4の「マット塗工紙は低い光沢でしっとりした視感・感触を与える。・・・」の記載、及び、被請求人の引用した参考資料10の「mat art paper(マットアートペーパー)ツヤ消しアート紙」(第103頁第1行)の記載に示されるように、マット剤のマットとは、つや消し、又は、光沢ないしは光沢度が低くされること(この段落では、適宜、「つや消し等」という)と密接な関係を有するものであり、したがって、マット剤とは、そのような、つや消し等と密接な関係を有する成分に該当することが解る。
そこで、マット剤のつや消し等との関係について、前記明細書の(h)及び(j)の実施例とそれを評価する記載をみると、その実施例1及び2では、マット層につき、同(f)においてマット剤として例示されるカーボンブラック、酸化スズにそれぞれ対応するところの導電性カーボン(商品名:ketjenBLACK)、酸化錫(商品名:T-1)を各5重量部を用いた場合には、Table1で示されるように、光沢度が、それぞれ、15、18となり、マット層を設けないことからマット剤を用いない比較例1及び2のものに比べその数値が著しく低くされることが示されており、これらのことからみると、マット剤とは、つや消し等を発現する成分であることが明らかとなる。
なお、該導電性カーボンは導電性粉体及び着色剤として、実質上、例示され、また、該酸化錫は導電性粉体としても例示されるのであるから、これらのものは、導電性粉体及び着色剤の作用、又は、導電剤の作用を兼ねたマット剤成分であると解される。
このように、マット剤成分は、つや消し等と密接な関係を有するものであり、また、つや消し等を発現する成分であることが明らかなものである。
このようなマット剤成分について、更に、乙第1号証の記載をみると、そこには、マット剤成分の具体例が記載され、それによると、
「シリカ、タルク、炭酸カルシウム、沈降性硫酸バリウム、アルミナ、酸性白土、クレー、炭酸マグネシウム、カーボンブラツク、酸化スズ、チタンホワイトなど。」の無機顔料(前記(f)の抜粋)が示されるものであるが、これら無機顔料は、全て、粉末状の形状を保有する材料である(必要ならば、甲第4号証を参照)ことが明らかである。そして、マット層の表面には、前記したとおり、凹凸が存在するものであるが、これらマット剤成分をマット層に用いた場合には、そのマット剤成分の粉末状の形状がマット層表面に反映され、そこに、凹凸形状が生ずることになり、このことは、マット剤成分の形状及びマット層表面の凹凸形状からみて、自ずと明らかになるものである。そして、前記したとおり、マット層の表面のこの凹凸は、つや消し、又は、光沢ないしは光沢度が低くされた文字等の形成に寄与できるものであり、このような理由により、マット剤成分はつや消し等と密接な関係を有し、また、つや消し等を発現することができるものであることが解り、他の理由は、想定することができないものである。
この場合、マット剤成分としては、このような無機顔料に限られる必要はなく、他の材料を用いても、同じように粉末状であって、そこでの実施例で示されるような使用態様で用いられる限り、程度の差はあれ、マット層上に凹凸の表面形状を形成し、つや消し、又は、光沢ないしは光沢度が低くされた文字等の形成に寄与できるものであり、このことは、上記するように、マット剤成分の形状とマット層表面の形状からみて明らかなことである。また、そのものが無機顔料に限られないことは、乙第1号証においてマット剤成分は無機顔料のみに限定されると記載されないことからみても明らかなことである。
してみれば、その表面に凹凸を有し、つや消し、又は、光沢ないしは光沢度が低くされた文字等を形成するために設けられるマット層につき、マット剤成分は必要不可欠なものであり、そのマット剤の構成材料は、特段限定されるものではないことが解る。
次いで、樹脂成分についてみると、前記(f)で示されるように、「耐熱性があること・・・マツト層がサーマルヘツドの熱で軟化または溶融すると、第一には熱エネルギーの損失となり、感度低下をひきおこし、第二にはベースフイルムとマツト層間の剥離が起つて、マツト層がインキ表面に付着して行くためツヤ消し効果が減少し、・・・といつた問題がある。」(第4欄第36行〜第5欄第1行)と記載され、このようにつや消しの観点からベースフィルムとマット層間の剥離が起ってはならないとしているのであり、したがって、マット層はそこでの構成成分を層中に保持し、ベースフィルム側にその層構造を維持しなければならないものであるが、上記成分中、樹脂成分は、これに適う唯一の成分であり、この点で、マット層の形成に寄与できるものである。
そして、樹脂としては、上記(f)で示されるように、「ガラス転移点が60℃以上の合成樹脂、またはOH基、またはCOOH基を有する熱可塑性樹脂にアミノ基を2個以上有する化合物またはジイソシアネートを加えた樹脂」に限られるものでなく、樹脂であれば種類を問わず、通常、構成成分を保持し、マット層構造を維持しうるものであり、したがって、上記の例示される樹脂以外の樹脂でも、程度の差はあれ、つや消し、又は、光沢ないしは光沢度が低くされた文字等を形成するところのマット層の形成に寄与しうるものである。また、そのものが特定の樹脂に限られないことは、乙第1号証において樹脂成分が特定の樹脂のみに限定されると記載されないことからみても明らかなことである。
してみれば、つや消し、又は、光沢ないしは光沢度が低くされた文字等を形成するために設けられるマット層につき、この樹脂成分は、必要不可欠なものであり、その構成材料は、特段限定されるものではないことが解る。
次に、これ以外の成分についてみてみると、熱離型剤または滑剤成分については、前記(f)に「B 熱離型剤または滑剤 加熱時にマツト層と熱溶融インキ層との剥離性を高める物質には、加熱により溶融してこの性能を発揮するものと、固体粉末のままではたらくものとがある」と記載されるように、マット層と熱溶融性インク層との剥離性を高めるための成分であり、また、導電性粉体成分については、前記(g)に「導電性粉体をマツト層に含有させることにより、感熱転写シートに帯電防止性能を付与できる」と記載されるように、帯電防止性能の付与のために用いられるものであり、そして、着色剤成分については、前記(f)に「即ち、マツト層は、着色剤として、カーボンブラツクまたは各色の染料、顔料をマツト層に与えようとする色に応じて選んで添加される」と記載されるように、マット層の着色のために用いられるものであって、何れの成分も、つや消し等と直接関連するものでなく、これら成分が、マット剤として兼用されない限り、つや消し、又は、光沢ないしは光沢度が低くされた文字等を形成するために設けられるマット層の形成に直接関与するものではなく、したがって、これら成分が必要不可欠なものとはいえない。
また、上記(f)には、更に、マット層に関し、表面抵抗が109Ω以下とする数値限定が記載されているが、その数値は、そこに、「帯電防止性があること・・・ベースフイルムがプラスチックである場合は、特に静電気の発生を防ぐ必要がある。表面抵抗が109Ω以下ならば、リボン取り扱い上、まとわりつき、ゴミ付着などの不具合は経験上生じない」と記載されるように、帯電防止性と関連があるものの、つや消し、又は、光沢ないしは光沢度が低くされた文字等を形成するために設けられるマット層の形成に直接関与するものでなく、この数値に関する規定は必要不可欠なものではない。
更に、上記(f)には、マット層の膜厚、平均マット深度についても記載されるが、これらは、「好ましい」数値として示されるのであるからマット層につき必ず具備しなければならない要件ではなく、したがって、これらの数値も、必要不可欠のものではない。
(7) 上記(4)〜(6)で検討したとおり、つや消しされた又は光沢ないしは光沢度が低くされた文字等を印字するために設けられるマツト層の構成成分が、その構成材料が限定されないところの樹脂成分とマット剤成分との二成分で充足することは、明らかなことである。

(8) この他、つや消しされた又は光沢ないしは光沢度が低くされた文字等を印字するために設けられているマツト層の構成成分が、樹脂成分とマット剤成分との二成分で足りることは、転写分野の技術常識からみても明らかである。
すなわち、(イ)被請求人の提出した参考資料23には、「シート状基材に順次離型層、保護層、金属蒸着層および接着層を設けてなる構造を基本とする転写用シートにおいて、シート状基材の離型層と接する面に艶消し加工を施した合成樹脂を使用し、必要に応じて離型層および保護層のうち少なくとも一層に艶消し剤を配合してなる艶消し調転写用シート。」(特許請求の範囲)、「シート状基材1としてポリエステルなどの合成樹脂の離型層と接する面に艶消し加工したものを用いる。艶消しの方法は種々考えられるが、例えば次の方法を採ることができる。・・・。平滑な表面を有するシートの表面に艶消し剤を含有し且つシートに密着の良好な樹脂を塗装し、その表面に凹凸を形成させる。たとえば,メラミン樹脂ニトロセルロースに艶消し剤として,二酸化珪素を加えシートに塗装する。このように艶消し加工したシート状基材の表面に離型層・保護層・金属蒸着層・接着層の順で形成させる。」(第1頁右下欄第18行〜第2頁右上欄第9行)、「まず、この製法で得られた転写用シートの使用方法を第2図、第3図により説明する。第2図の示す転写シートの接着剤面を被転写物にあわせ、上から熱板6で押圧することにより、接着剤が熱軟化し被転写物7の表面に接着する。ここで熱板を除去する。第3図に示すように、転写シートを取り除くと離型層2がシート状基材から剥れ熱板の当たつた部分のみが被転写物と接着する。転写塗膜の表面は、基材の凹凸構造が転写される。この表面で光を散乱し艶消し効果を持つものが得られる。」(第2頁右下欄第1〜11行)と記載され、
そこでは、シート状基材に順次離型層、保護層、金属蒸着層および接着層を設けてなる艶消し調転写用シートにおいて、シート状基材の離型層と接する面に艶消し剤を含有し且つシートに密着の良好な樹脂を塗装し、これにより層を形成し、その表面に凹凸を形成させること、該樹脂として、例えば、メラミン樹脂ニトロセルロースを用い、該艶消し剤として、例えば、二酸化珪素を用いること、そして、艶消し調転写用シートの使用時には、熱転写により該離型層がシート基材から剥がれ、転写した塗膜の離型層の表面には、基材の凹凸構造が転写され、この表面が光を散乱し艶消し効果を持つことが、示されるものである。
(ロ)同じく参考資料24には、「光沢を有する基体シート上に該基体シートと接着性を有し熱移行性又は溶剤ブリード性の着色剤と艶消し剤とを含む非転写性図柄層を設け、該非転写性図柄層上に基体シート及び該非転写性図柄層と剥離性を有し、加熱時又は剥離層印刷時に前記着色剤により着色可能な剥離層を設け、その上に金属蒸着層を設け、更にその上に接着層を設けてなることを特徴とする転写材。」(特許請求の範囲第2項)、
「非転写性図柄層に使用する樹脂バインダーとしては耐熱性を有し、基体シートと十分な接着性を有する樹脂を選択して使用するのが好ましい。これらの樹脂としては酢酸セルロース、酢酸酪酸セルロース、プロピオン酸セルロース、エチルセルロース等の繊維素樹脂、硬化性ウレタン樹脂、エポキシ樹脂等が使用できる。
非転写性図柄層に混入することのできる艶消剤としては0.5〜3μ程度の粒子径をもつシリカ、カオリン、炭酸マグネシウム等の体質顔料を使用することができる。」(第2頁左下欄第3〜13行)、
「実施例2
表面光沢のセロハン(600番)に下記組成(ニ)のインキを用いて艶消し状非転写性図柄層を設け、次に実施例(1)と同様のインキを全面にグラビア印刷し剥離層を設けた後、アルミニウム蒸着を行い金属蒸着層を設け、更に実施例(1)と同様のインキをグラビア印刷し接着層を全面に設け転写材を得た。・・・・・・・・・・この転写材を実施例1と同様にスチロール成型物に転写したところ、図柄部分が艶消し状青色金属光沢を有し、他の部分が艶状銀光沢を有する転写絵付ができた。」(第3頁左下欄第9行〜同頁右下欄第8行)と記載され、これと、転写材の転写工程を示す第4図の記載を併せみると、
そこでは、光沢を有する基体シート上に、非転写性図柄層、剥離層、金属蒸着層を順次設けて転写材を形成すること、該非転写性図柄層に、シリカ、カオリン、炭酸マグネシウム等の体質顔料、及び、酢酸セルロース、酢酸酪酸セルロース、プロピオン酸セルロース、エチルセルロース等の繊維素樹脂、硬化性ウレタン樹脂、エポキシ樹脂等の基体シートと十分な接着性を有する樹脂を用いることにより、非転写性図柄層上の図柄に応じた艶消し状金属光沢を有する図柄部分を剥離層上に転写絵付けできることが示されるものであり、この他、そこでの第3図及び第4図をみると、つや消し状非転写性図柄層の剥離層と接する面に凹凸形状が形成されていることが解る。
(ハ)同じく参考資料25には、「基体シート上に、(1)該基体シートから剥離容易で耐水性を有する剥離層を設ける工程、(2)艶消し状の金属光沢を要する部分に体質顔料を含有する水溶性樹脂層を設ける工程、(3)任意の色に着色された金属光沢を現出する部分を染色する為に、染料と溶媒とからなる染料溶液を用いて着色層を設ける工程、(4)洗浄により前記水溶性樹脂層及び該水溶性樹脂層上の前記着色層を除去し乾燥する工程、(5)金属薄膜層を設ける工程、(6)接着剤層を設ける工程、よりなることを特徴とする金属光沢模様を現出する転写材の製造法。」(特許請求の範囲)、
「該水溶性樹脂層は本発明の特徴とする層であり、該水溶性樹脂層を設けることによって該水溶性樹脂層内の体質顔料が、前記剥離層2或いは金属薄膜用プライマー層10表面に凹凸を形成せしめ、この凹凸によって艶消し状の金属光沢を呈する部分Bが得られるものである。・・・前記体質顔料としては、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、シリカ、酸化チタン、亜鉛華、白鉛華等を用いることができる。又、該水溶性樹脂層8は、・・・防染層としての働きを要求される為、染料溶液の組成により染色されにくいものを適宜使用する必要がある。このような水溶性樹脂としてはポリビニルアルコールやメチルセルロース等の水溶性セルロース系樹脂等を挙げることができる。」(第2頁右下欄第8行〜第3頁左上欄第7行)と記載され、
そこでは、金属光沢模様を現出する転写材において、基体シートに、水溶性樹脂層を設け、該水溶性樹脂層に体質顔料を配合することにより、これに接する層である剥離層或いは金属薄膜用プライマー層表面に凹凸を形成せしめ、この凹凸によってつや消し状の金属光沢を呈する模様を現出させることができること、該体質顔料としては、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、シリカ、酸化チタン、亜鉛華、白鉛華等を用いることができ、該水溶性樹脂としては、ポリビニルアルコールや水溶性セルロース系樹脂等を用いることができることが、示されるものであり、この場合、剥離層或いは金属薄膜用プライマー層表面に凹凸を形成しているのであるから、これと裏腹ないしは相互補完関係にある水溶性樹脂層表面にはそれに対応する凹凸が存在することは明らかである。
以上の参考資料23〜25で記載されるように、転写ないしは熱転写により図柄等の装飾を施す場合には、基材シート側に、装飾層(積層体)に接して配設される中間層として、実質上、樹脂成分及び艶消し剤ないしは体質顔料成分との両成分だけを用いて構成されるものを用いることにより、つや消し、又は、光沢ないしは光沢度の低くされた装飾を転写することができるものであり、この中間層は、つや消し、又は、光沢ないしは光沢度の低くされたものを転写する点で、乙第1号証に記載の感熱転写シートの中間層に相当するところのマット層と同じ働きをなすものである。
この場合、参考資料23〜25に記載される中間層の表面に存在する凹凸は、そこでの記載からみて明らかなように、つや消し、又は、光沢ないしは光沢度の低くされたものを転写することに寄与するものであるが、その凹凸は、そこに用いられる成分からみて、艶消し剤ないしは体質顔料の粉状性により生ずるものと解され、したがって、その凹凸を形成する材料としては、体質顔料ないしはそこで例示される艶消し剤に限定されるものではなく、他の材料においても、それが粉状体であって、これら参考資料に記載される使用態様に準じて用いられる限り、程度の差はあれ、つや消し、又は、光沢ないしは光沢度の低いものの転写に寄与できるものであると解される。また、その中間層で用いられる樹脂は、これら参考資料においては、シートへの密着の良好なもの、バインダー、接着剤という目的で用いられているものであって、基体シート上に中間層を維持するために用いられることが明らかであり、そして、樹脂であればその種類を問わず、通常、そのように維持する機能を有するものであり、したがって、参考資料23〜25で記載される以外の樹脂であっても、特殊な目的で用いない限り、中間層の形成に利用できるものである。
してみれば、乙第1号証に記載の発明が属する転写分野の技術常識からみても、つや消しされた、又は、光沢ないしは光沢度の低くされた文字等を印字するために設けられているマツト層の構成成分が、樹脂成分とマット剤成分との二成分で足りることは明らかなことであり、この場合、樹脂成分とマット剤成分それぞれの構成材料が限定されないことも、これまた、明らかなことである。

(9) 上記(4)〜(7)、また、(8)で示されるとおり、乙第1号証には、つや消し印字を達成するために、感熱転写シートにマツト層を設けることが記載されるが、そのマット層を構成するためには、原則、その構成材料が限定されないところの樹脂とマツト剤との二成分を用いれば足りることが明らかとなるものである。

(10) そして、上記(1)〜(3)で示したとおり、乙第1号証には、
「基材フィルム面上にマット層を設け、且つ該マット層上にサーマルヘッドの熱により溶融し、マット層から剥離する熱溶融性インキ層を有している感熱転写シートであって、該マット層が熱溶融性インキ層と同色になるように着色されている感熱転写シート」が、実質上、記載されるものであり、そのうえ、つや消しされた見やすい文字や図形を印字するために設けられるマット層が、樹脂とマット剤の二成分を用いることで足りることが示されるのであるから、結局、原明細書(乙第1号証)には、本件発明が、実質上、全て、記載されるものである。

(11) また、本件発明は、分割時の明細書に記載されるだけでなく、原出願の願書に最初に添付された明細書にも記載されている必要があるが、該願書に最初に添付された明細書に相当する甲第2号証には、分割時の出願公告明細書に当たる乙第1号証における、前記(a)〜(j)に対応する事項が、実質上、記載されるものである。
すなわち、甲第2号証の特許請求の範囲第1項及び第5項の記載は乙第1号証の(a)及び(b)に対応し(但し、上記特許請求の範囲第1項の記載でマツト層に関する記載事項が異なるものの、感熱転写シートの層の基本構成においては同じことが記載されている)、同第2頁左上欄第2〜13行の記載は同(c)に対応し、同第2頁左上欄第17〜末行の記載は同(d)に対応し、同第2頁右上第1〜5行の記載は同(e)に対応し、同第2頁左下欄第17行〜第4頁右上欄第5行は同(f)に対応し、同第4頁左下欄第13行〜右下欄第1行は同(g)に対応し、同第4頁右下欄第2行〜第5頁左下欄第14行は同(h)に対応し、同第5頁左下欄第15〜末行は同(i)に対応し、同第5頁右下欄第3行〜第6頁左上欄第3行は同(j)に対応する。
そして、該願書に最初に添付された明細書の以上の記載を基に技術常識を考慮して判断すると、上記した理由と同じ理由により、そこにも、本件発明が、実質上、記載されているものである。
(12) してみれば、本件発明は、原出願の明細書に、実質上、記載された発明であって、本件発明は、原出願の明細書に記載された事項の範囲外の事項を構成に欠くことのできない事項とするものであるとはいえず、したがって、本件発明が原明細書に包含された発明でないとはいえない。

6.1.4 上記6.1.2及び6.1.3の箇所に記載したとおり、本件発明は、原出願の明細書(乙第1号証)に記載される原発明と同一であるとはいえず、また、原出願の明細書に記載されていない発明であるということができない。
そして、本件出願は、出願の分割に関する他の要件も充足するものであって、本件発明の出願は、適法に分割出願されたものであり、したがって、もとの特許出願の日である昭和59年12月18日に出願したものとみなされるものである。
してみれば、審判請求人の提示する昭和61年7月2日に出願公開されたところの甲第2号証は、本件出願前に頒布された刊行物には該当しないものであり、したがって、本件発明が、審判請求人のいうように、甲第2号証に記載された発明であって特許法第29条第1項第3号に該当するということはできない。

6.2 無効理由2について
6.2.1 先願明細書の記載
先願明細書として提出された甲第3号証には、
(a)「プラスチック製のベースフィルムの一方の面に熱溶融性インキ層を有する熱転写シートにおいて、熱溶融性インキ層をベースフィルム上にマット層を介して設けたことを特徴とするツヤ消し印字を与える感熱転写シート。」(特許請求の範囲第1項)、
(b)「本発明の目的は、この要望にこたえてツヤ消し印字を与える感熱転写シートを提供することにある。」(第2頁右上欄第6〜8行)、
(c)「本発明の特徴をなすマット層は、次の特性をそなえなければならない。
1)ツヤ消し能力・・・ ・・・高いツヤ消し効果を得るためには、平均マット深度が0.15〜2μの範囲にあることが望ましい。・・・・
2)耐熱性があること・・・ ・・・マット層がサーマルヘッドの熱で軟化または溶融すると、第一には熱エネルギーの損失となり、感度低下をひきおこし、第二にはベースフィルムとマット層間の剥離が起って、マット層がインキ表面に付着して行くためツヤ消し効果が減少し、第三にはマット層と熱溶融性インキ層間の接着の度合いが変化し、マット層にタックネスが生じた場合にはインキのリボン残りのため転写ムラが出るといった問題がある。
3)熱離型性があること・・・ ・・・マット層と熱溶融性インキ層間で、加熱時に剥離性がよいことが必要である。」(第2頁左下欄第7行〜同頁右下欄第9行)、
(d)「上記のような特性を得るため、マット層はつぎの材料で構成する。
A)樹脂・・・・
B)熱離型剤または滑剤・・・・
C)マット剤
前記した好ましい平均マット深度0.15〜2μを実現するために、下記のような無機顔料を適量使用する。
シリカ、タルク、炭酸カルシウム、沈降性硫酸バリウム、アルミナ、酸性白土、クレー、炭酸マグネシウム、カーボンブラック、酸化スズ、チタンホワイトなど。・・・。
ベースフィルム上のマット層の形成は、上記構成材料を適宜の溶剤に溶解または分散させ、コーティングに適した粘度に調整した上で、常用のコーティング手段を用いてベースフィルムに適用することにより行なう。」(第2頁右下欄第15行〜第4頁左上欄第14行)、
(e)「上記の感熱転写シートをスリットしてリボン状にし、下記の条件の感熱転写に使用した。
サーマルヘッド 薄膜型
印字エネルギー 0.6mJ/ドット
(1ドットの面積は4×10-4cm2)
被転写体 上質紙(三菱製紙「特黄菱」四六判/72Kg)」(第5頁右上欄第19行〜同頁左下欄第6行)ことが記載されている。
甲第4号証には、「無機顔料・・・・無機質の着色粉末。」(第1359頁007欄第1〜3行)ことが記載されている。
審判請求人の提示した参考資料2には、
「基材上に接着剤を含む中間層を形成する工程と、この後、該中間層上にインク層を形成する工程とを含む熱転写インクシートの製造法において、前記中間層形成工程と、前記インク層形成工程の間に、前記中間層を加熱処理する工程を設けたことを特徴とする熱転写インクシートの製造法。」(特許請求の範囲)、
「本発明は熱転写インクシートの製造法に係り、特に、インク層接着の目的で中間層を有する熱転写シートの製造法に関する。」(第1頁左下欄第13〜15行)、
「基材(コンデンサペーパ16μm厚)1に5μm厚で中間層(ポリアミド樹脂とカーボンブラック粉末を4:5《重量比》でトルエン:アセトン(1:1)の溶剤中でボールミル混合したもの)2´をバーコーター塗布する。・・・次にインク(ポリエチレングリコール《#4000》、染料《アゾ系》、カーボンブラック粉末を5:1:4《重量比》でトルエン:アセトン(1:1)の溶剤中でボールミル混合したもの)を20μmの厚さでバーコータ塗布し、インク層3を形成する。」(第2頁左上欄第19行〜同頁右上欄第11行)ことが記載されている。
同参考資料3には、
「プラスチックフィルム,薄葉紙あるいは金属箔よりなる基材とインク層および両者を接着させるための中間層よりなる熱転写インクシートにおいて、中間層とインク層を塗布した後に基材側よりインクシートを加熱し、インク層を熔融した後空冷固化してなることを特徴とした熱転写インクシートの製造方法。」(特許請求の範囲)、
「本発明は、インク層がはがれることなく均一な印字品質を得ることのできるくり返し転写可能な熱転写インクシートを得るための製造方法に関する。」(第1頁左下欄第13〜16行)、
「図は本発明に係る熱転写インクシートの断面図で、これは基材である12μmのコンデンサペーパー1に、熱溶融性ポリアミド接着剤にカーボンブラック微粉末を分散させた中間層2を6μmの厚さで塗布する。その上にインク材にカーボンブラックを分散させたインク層3を30μmの厚さで塗布する。インク塗布後10分後にブロアー4により120℃の熱風でコンデンサペーパーの基材側からインクシートを10秒加熱する。加熱後5分間放置してこの熱転写シートは完成する。」(第2頁左上欄第7〜16行)ことが記載されている。
同参考資料4には、
「1.基材とインク層とを有するインクシートにおいて、該基材と該インク層との間に微粉末を含む接着層を設けたことを特徴とする、インクシート。
2.前記接着層が、接着材および前記インク層中の微粉末と同種の微粉末とから成ることを特徴とする、特許請求の範囲第1項記載のインクシート。
3.前記微粉末が、カーボンブラックであることを特徴とする、特許請求の範囲第1項又は第2項記載のインクシート。」(特許請求の範囲)、
「本発明は、インクシートに関し、更に詳しくは基材とインク層との間に接着層を設けることにより印刷適性およびくり返し特性を向上せしめたインクシートに関する。」(第1頁左下欄第17〜末行)、
「すなわち、本発明は、微粉末を含む接着層を中間層としてインクシート内に設けることによってインク層と該中間層との界面でのひずみを緩和し、且つインク層と基材との密着力を高めんとするものである。本発明にあっては、接着層に添加される微粉末はインク層中の微粉末と同種類の微粉末であることが特に好ましい。この理由は、接着層とインク層との界面で両者に含まれた微粉末の物理的、化学的性質が同一であるために、互になじみ易く、その結果両者の密着力を向上させることによる。」(第2頁左上欄第3〜13行)、
「インク層を構成するインク材は、たとえば以下の如くして得る。染料(#151、日本化薬(製))1g、ポリエチレングリコール(#4000、日本油脂(製))5g、カーボンブラック(東海カーボン社(製))4gをトルエン20cc.中で8時間ボールミル中で混練することによって得られる。得られたインク材をインク材Aと略す。・・・。かかる接着剤層用素材は、例えばポリアミド樹脂(#1300ヘンケル社(製))1.6gおよびカーボンブラック(東海カーボン社(製))2gをトルエン28cc.と共にボールミル中で6時間混練して得られる。得られた接着剤用素材を接着剤用素材Bと略す。・・・。インクシートSの製造は、例えば以下の如くして行なう。基材1たるコンデンサー紙(16μm)10×10cmに前述の接着剤用素材Bを10μm厚となるようにバーコーター塗布し送風乾燥して接着層2を形成する。次に、前記のインク材Aをバーコーターによって接着層2上に30μmの厚さに塗布し放置乾燥してインク層3を形成する。」(第2頁右上欄第1行〜同頁左下欄第11行)ことが記載されている。
同参考資料5には、
「常温において固相で加熱により可逆的に液相になるインクによるインク層と、このインクと同色で不透明な材料を含有または塗布したベースフイルム層とからなることを特徴とする熱転写記録用インクフイルム。」(特許請求の範囲)、
「本発明は、・・・、記録情報跡の判読を防止することができる熱転写記録用インクフイルムを得ることを目的とする。」(第1頁右下欄第15〜18行)ことが記載されている。

6.2.2 対比、判断
本件発明と甲第3号証に記載された発明とを対比する。
甲第3号証に記載された感熱転写シートに関する発明は、ベースフィルム上に熱溶融性インク層をマット層を介して設けるものであり、このベースフィルムは、本件発明の基材フィルムに相当するものである。
次に、甲第3号証に記載されるものでも、サーマルヘッドにより熱転写するものであり、その場合、熱溶融性インク層はサーマルヘッドの熱で、通常、溶融するものであり、このことに加え、前記(c)で示されるように、「熱離型性があること・・・ ・・・マツト層と熱溶融性インキ層間で、加熱時に剥離性がよいことが必要である。」(第2頁右下欄第7〜9行)と記載されるので、熱溶融性インク層はサーマルヘッドの熱により溶融し、マット層から剥離するものである。
また、甲第3号証に記載されるものでは、そのマット層は、樹脂及びマット剤を含むものである。
よって、両者は、「基材フィルム面上にマット層を設け、且つ該マット層上にサーマルヘッドの熱により溶融し、マット層から剥離する熱溶融性インキ層を有している感熱転写シートであって、該マット層が樹脂とマット剤からなる感熱転写シート」である点で共通する。
一方、本件発明は、更に、該マット層が、「熱溶融性インキ層と同色になるように着色されている」という構成を具備するものであるが、甲第3号証には、そのことが記載されない点で両者は相違する。
そこで、この相違点につき検討する。
本件明細書によれば、該マット層として、熱溶融性インキ層と同色になるように着色を施したものを用いることにより、つや消しされた見やすい文字や図形を印字できるだけでなく、機密情報漏洩防止の機能を併せ持つ感熱転写シートを提供できたというものである。
これに対して、甲第3号証では、ツヤ消し印字を与える感熱転写シートを提供することをその目的とする発明が記載されているが、そこでは、機密情報漏洩防止に関して記載されるところは何もない。
ただ、甲第3号証では、マット剤として他の無機顔料と並んでカーボンブラックが、偶々、例示されるものの、そこでは、機密情報漏洩防止に関連してマット層を着色することに配慮するものではなく、或いは、他の目的でマット層を着色することに配慮するものでなく、このように、着色につき何も記載されないのである。
したがって、そのマット層で用いるカーボンブラックは、熱溶融性インク層との色との関連で用いられるとまでいえるものではなく、当然のこととして、マット層を熱溶融性インク層と同色となすことが導き出せない。
(1) 審判請求人は、マット剤として無機顔料が用いられ、甲第4号証をみると、その無機顔料というのは無機質の着色粉末であるから、甲第3号証に記載のものは、マット層を着色するところの技術思想が含まれている旨主張する。
しかし、甲第3号証での発明は、ツヤ消し印字を与える感熱転写シートを提供することを目的とするものであり、そして、前記(c)で示されるように、「高いツヤ消し効果を得るためには、平均マット深度が0.15〜2μの範囲にあることが望ましい。」こと、及び、前記(d)で示されるように、「好ましい平均マット深度0.15〜2μを実現するために、下記のような無機顔料を適量使用する。」と記載され、その無機顔料は、そのツヤ消し効果を得るところの所定の平均マット深度の数値を実現するために、用いられているものである。
そうすると、該無機顔料は、好ましい平均マット深度を得るために、その顔料が保有するところの粉末性に着目して用いているといえるとしても、そのことと関係のない特定の着色を得ることについてまで配慮して使用するものであるということができない。
したがって、甲第3号証に記載において、マット剤としてカーボンブラックを用いたとしても、マット層を黒色にする態様を選択して用いるものであるとまでいうことができず、そのうえ、甲第3号証の実施例において熱溶融性インク層にカーボンブラックを用いており、且つ、熱溶融性インク層に着色剤としてカーボンブラックを用いることは周知のことであるとしても、着色剤はカーボンブラックに限られるものではないので、マット層にカーボンブラックを用いた場合に同時に熱溶融性インク層にもカーボンブラックを採用することまでが甲第3号証に記載されているということができない。
してみれば、マット層を熱溶融性インク層と同色となすことが導き出せるものではなく、審判請求人の主張は採用できない。
(2) また、審判請求人は、参考資料2〜4を引用して、ベースフィルム上に中間層を介してインキ層を設けた感熱転写シートにおいて、中間層とインキ層の双方にカーボンブラックを使用することは甲第3号証の出願当時から普通に行われていたのである旨、主張する。
しかし、参考資料2〜4に記載の中間層は、ツヤ消し機能を有するものではなく、したがって、ツヤ消し機能を有するマット層につきカーボンブラックを用いることを示唆するものではない。むしろ、それら中間層は、インク層を接着するために設けられるもので、本件発明のように、感熱転写時においてマット層と熱熔融性インク層とが容易に剥離することを意図しておらず、元来、両層間のその剥離に起因する機密情報漏洩が問題として生じてくる虞の少ないものである。そのうえ、これら参考資料2〜4では、中間層を積極的に着色することについても何も記載されない。してみれば、参考資料2〜4において、中間層とインキ層の双方にカーボンブラックを使用することが示されているとしても、ツヤ消しされた見やすい文字や図形を印字できるマット層に対して、機密情報漏洩防止の機能を付与するために、熱溶融性インキ層と同色になるように着色することが導き出せるものではない。
(3) 更に、審判請求人は、基材をインク層と同色に着色することにより記録情報跡の判読を防止するという技術思想は、甲第3号証の出願当時に、該参考資料5において、既に知られていたものである旨、主張する。
しかし、この参考資料5に記載の技術は、マット層の着色について教示するものではなく、この記載を考慮しても、甲第3号証に記載のものから、マット層に対して、機密情報漏洩防止の機能を付与するために、熱溶融性インキ層と同色になるように着色することが導き出せるものではない。
また、上記(1)〜(3)の審判請求人の主張と証拠を併せてみても、つや消しされた見やすい文字や図形を印字できるだけでなく、機密情報漏洩防止の機能を併せ保有するところの上記の構成を導き出すことができない。
してみれば、、本件発明は、マット層が、「熱溶融性インキ層と同色になるように着色されている」という点で、甲第3号証に記載される発明に対して別異の発明を構成する。

したがって、本件発明は、先願明細書に記載された発明と同一であるということはできない。

7. 以上のとおりであり、審判請求人の主張する理由及び証拠方法によっては、本件特許を無効とすることができない。
 
審理終結日 2001-02-26 
結審通知日 2001-03-01 
審決日 2001-03-23 
出願番号 特願平6-284072
審決分類 P 1 112・ 161- Y (B41M)
P 1 112・ 113- Y (B41M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山口 由木菅野 芳男  
特許庁審判長 高梨 操
特許庁審判官 植野 浩志
多喜 鉄雄
登録日 1997-03-11 
登録番号 特許第2620208号(P2620208)
発明の名称 感熱転写シート  
代理人 吉澤 弘司  
代理人 高橋 誠一郎  
代理人 赤尾 直人  
代理人 朝日 伸光  
代理人 藤野 育男  
代理人 竹島 智司  
代理人 岡部 讓  
代理人 花村 太  
代理人 内田 亘彦  
代理人 産形 和央  
代理人 蛭川 昌信  
代理人 内田 亘彦  
代理人 越智 隆夫  
代理人 赤尾 直人  
代理人 加藤 伸晃  
代理人 蛭川 昌信  
代理人 岡部 正夫  
代理人 臼井 伸一  
代理人 本宮 照久  
代理人 高梨 憲通  

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