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審決分類 |
審判 全部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備 C10L 審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備 C10L 審判 全部申し立て 2項進歩性 C10L |
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管理番号 | 1035434 |
異議申立番号 | 異議1998-70337 |
総通号数 | 18 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1996-06-25 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 1998-01-28 |
確定日 | 2000-12-11 |
異議申立件数 | 2 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第2634697号「燃料組成物」の請求項1ないし19の発明に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 訂正を認める。 特許第2634697号の請求項1ないし10に係る特許を維持する。 |
理由 |
1.手続きの経緯 本件特許第2634697号発明は、平成6年1月20日(国際出願日 1994年1月20日、優先権主張 1993年1月21日 イギリス)に特許出願され、平成9年4月25日に特許の設定登録がなされたものである。その後、山口七江及びオロナイトジャパン株式会社によって特許異議の申立がなされたため、当審において審理のうえ第1回取消理由を通知し、平成10年12月2日付けで訂正請求がなされた。ついで、当審において訂正拒絶理由を兼ねる第2回取消理由を通知したところ、先の訂正請求は取り下げられ、平成12年8月8日付で新たな訂正請求がなされた。 2.訂正の内容 本件訂正請求は、本件特許明細書を、訂正明細書のとおり、次の事項について訂正することを求めるものである。 〈訂正事項a〉特許請求の範囲を、次のとおりに訂正する。 「【請求項1】 イオウ濃度が0.05重量%以下である炭化水素留出ディーゼル燃料油を大割合で、不飽和モノカルボン酸と1価又は多価アルコールとのエステルからなる添加剤を小割合で含有するディーゼルエンジン用の燃料油組成物であって、該酸が炭素数2〜50であり、1価アルコールが炭素数1〜6のアルキルアルコールであり、多価アルコールがジオール又は3価アルコールであり、かつ多価アルコールのエステルにおいてはすべてのヒドロキシル基がエステル化されていない、ことを特徴とするディーゼルエンジン用の燃料油組成物。 【請求項2】 前記イオウ濃度が0.01重量%以下である請求項1記載の組成物。 【請求項3】 エステルが誘導される酸が、一般式R1COOH(式中、R1は炭素原子10〜30のヒドロカルビル基を表し、該ヒドロカルビル基が、二重結合を1〜3個有するアルケニル基である。)を有する請求項1又は2記載の組成物。 【請求項4】 前記酸が炭素原子を12〜22有する請求項3記載の組成物。 【請求項5】 前記アルコールがメタノールである請求項1〜4のいずれか1項記載の組成物。 【請求項6】 前記アルコールがグリセロールである請求項1〜5のいずれか1項記載の組成物。 【請求項7】 前記エステルがグリセロールモノオレエートである請求項6記載の組成物。 【請求項8】 前記燃料油中の添加剤の濃度が、燃料油の重量当り有効成分の重量で10〜10,000ppmの範囲である請求項1〜請求項7のいずれか1項記載の組成物。 【請求項9】 前記濃度が100〜200ppmである請求項8記載の組成物。 【請求項10】 請求項1〜9のいずれか1項記載のディーゼルエンジン用の燃料組成物を提供し、それによってエンジンの噴射ポンプ内に生じる摩耗速度を制御することを特徴とする圧縮点火エンジンの運転方法。」 〈訂正事項b〉発明の詳細な説明中の該当する個所を、訂正事項aの特許請求の範囲の訂正に整合するように訂正する。 3.訂正の適否 (1)訂正事項aは、(i)訂正前の請求項1における、(i-1)イオウ濃度を「0.2重量%以下」から『0.05重量%以下』に、(i-2)「ディーゼル燃料油」を『炭化水素留出ディーゼル燃料油』に、「燃料油組成物」を『ディーゼルエンジン用の燃料油組成物』に、また、(i-3)「炭素数2〜50のカルボン酸と炭素数1以上のアルコールとのエステル・・・(A)・・・でなく、かつ(B)・・・を含まない」を『不飽和モノカルボン酸と1価又は多価アルコールとのエステル・・・該酸が炭素数2〜50であり、1価アルコールが炭素数1〜6のアルキルアルコールであり、多価アルコールがジオール又は3価アルコールであり、かつ多価アルコールのエステルにおいてはすべてのヒドロキシル基がエステル化されていない』に限定し、(ii)訂正前の請求項4において、R1で表されるヒドロカルビル基を、特許明細書の6欄7〜12行に記載されたとおりの、「炭素原子10〜30」を有し「二重結合を1〜3個有するアルケニル基」に限定し、(iii)訂正前の請求項2、5、7〜9、11〜12を削除するとともに各請求項の番号を繰り上げ変更する訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。 (2)訂正事項bは、発明の詳細な説明を、訂正事項aと整合させるための訂正であるから、不明瞭な記載の釈明に該当する。 (3)前記訂正は、いずれも明細書に記載した事項の範囲内のものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものでもない。 (4)つぎに、訂正後における本件発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて以下に検討する。 (4-i)訂正後の本件発明は、2.に記載のとおりのものである。 (4-ii)本件の特許異議申立において、申立人山口七江(「申立人A」という。)は、甲第1〜13号証を提出して、a)本件の訂正前の請求項1の発明は、出願前に日本国内において公然と知られた発明であるから、特許法29条1項1号に規定する発明に該当すること(理由a)、b)本件の訂正前の請求項1〜8、11〜12、及び15〜17の発明は、甲第1号証に記載された事実からみて出願前に日本国内において公然実施された発明であり、特許法29条1項2号に規定する発明に該当すること(理由b)、c)本件の訂正前の請求項1〜8、11〜12、及び15〜17の発明は、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法29条1項3号に規定する発明に該当すること(理由c)、d)本件の訂正前の請求項1〜8、11〜12、及び15〜17の発明は、甲第1号証と甲第4〜11号証に記載された発明を組み合わせることによって当業者が容易に発明をすることができたものであるから、これらの発明は特許法29条2項の規定によって特許を受けることができないこと(理由d)、及び、e)本件明細書には記載不備があるから、本件明細書は特許法36条4項及び5項1号(平成2年法適用)の規定を満たしていないこと(理由e)、を理由に、本件の訂正前の請求項1〜17の発明に係る特許は取り消されるべきであると主張した。 また、申立人オロナイトジャパン株式会社(「申立人B」という。)は、甲第1〜10号証を提出して、f)本件の訂正前の請求項1〜19の発明は、甲第1〜10号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであること(理由f)、及び、g)本件明細書には記載不備があるから、本件明細書は特許法36条4項及び5項(平成2年法適用)の規定を満たしていないこと(理由g)、を理由に、本件の訂正前の請求項1〜19の発明に係る特許は取り消されるべきであると主張した。 (4-iii)当審における取消理由の概要は、本件の訂正前の請求項1〜19の発明は、刊行物1〜17、及び20に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、訂正前の各発明に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してなされたものであって取り消されるべきである(理由h)、というものである。 (4-iv)各証拠刊行物には次のとおりの事項が記載されている。 刊行物1(米国特許第4,920,691号明細書・・・申立人Bの甲第4号証)の「アブストラクト(要約)」には、「ディーゼル燃料エンジンのようなレシプロエンジンにおいて使用するための添加剤と液体炭化水素燃料組成物であって、基本的に燃料と二つの直鎖カルボン酸エステルの混合物(一方は、低い分子量を有し、他方は高い分子量を有するもの)からなるもの。添加剤の混合物は、エンジンの効率を高め、かつ汚染を防止 する。」と記載され、1欄の5〜8行には、 「本発明は、液体燃料のための添加剤に関し、そして特に、ディーゼル燃料のための添加剤で、燃料特性、燃料効率、そして該燃料を用いる車両の排出物制御を改良する添加剤に関する。」と、また、4欄の50〜53行には添加剤の添加量について、「添加剤混合物(A+B)の合計濃度は、燃料100万部当り約100部から約1000部であることが好ましい。」と記載され、さらに、5〜6欄の表には、エステルの例として、メチルカプリレート、メチルカプレート、メチルラウレート、メチルミリステート、メチルパルミテート、メチルステアレート、メチルオレエート、トリメチルプロパンのトリカプリレート、ペンタエリスリトールのテトラオレエートなどが記載されている。 刊行物2(特公昭61‐41956号公報・・・申立人Aの甲第4号証)には、水酸基を有する窒素化合物と直鎖状飽和脂肪酸とのエステルからなる燃料油用流動性向上剤が記載されている(2欄24行〜3欄26行)。 刊行物3(特公平2‐10197号公報・・・申立人Aの甲第6号証)には、「トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールおよびジペンタエリスリトールから選ばれた少なくとも1種の多価アルコールとベヘン酸とから構成され、多価アルコールのヒドロキシル基が一分子当り平均0.5個以上遊離の形で存在している部分エステルからなる燃料油用流動性向上剤。」が記載されている(特許請求の範囲)。 刊行物4(特開昭60‐127392号公報・・・申立人Aの甲第7号証)には、「(A)アルカントリオールのポリオキシアルキレンエーテル(該エーテルの平均分子量は250〜6000である)と炭素数14〜30の直鎖飽和脂肪酸および必要により他のカルボン酸との完全エステル;および必要により(B)アルケニルコハク酸の含窒素誘導体、・・・およびジイソシアネート化合物とジアルキルアミンとの反応物からなる群より選ばれる化合物を含有することを特徴とする燃料油用流動性改良添加剤。」が記載されている(特許請求の範囲)。 刊行物5(特開昭62‐109892号公報・・・申立人Aの甲第8号証)には、多価カルボン酸と炭素数14〜30の直鎖飽和アルコールのポリオキシアルキレンエーテルとのエステルからなる燃料油用流動性改良剤が記載されている(特許請求の範囲等)。 刊行物6(特公平4‐46998号公報・・・申立人Aの甲第9号証)には、「(1)アルコール性水酸基を2個以上有する含窒素化合物と、(2)炭素数18以上の直鎖飽和脂肪酸を20〜90モル%含むカルボン酸混合物とのエステルからなる燃料油用流動性向上剤。」が記載されている(特許請求の範囲)。 刊行物7(特開昭61‐207495号公報・・・申立人Aの甲第10号証)には、「少なくとも1個のC12〜C22不飽和炭化水素基と他の飽和炭化水素基を持つポリオキシアルキレングリコール誘導体であって、・・・アルキレン基の炭素数が1〜4個であるポリオキシアルキレンエステル、ポリオキシアルキレンエーテル、ポリオキシアルキレンエーテル/エステル誘導体或いは、それらの混合物からなることを特徴とする石油中間留出燃料油用低温流動性改良剤。」が記載され(特許請求の範囲)、ポリグリコール誘導体の具体例として、ジ(オレイル、ベヘニルエステル)等が例示されている(3頁の表-2)。 刊行物8(特公昭62‐49920号公報・・・申立人Aの甲第11号証)には、「少なくとも2個のC10〜C30鎖状飽和アルキル基と、分子量100〜5000のポリオキシアルキレングリコールであって、該ポリオキシアルキレングリコールのアルキレン基が1〜4個の炭素原子を含むものとを有するポリオキシアルキレンエステルまたはポリオキシアルキレンエーテルまたはポリオキシアルキレンエステル/エーテルあるいはそれらの混合物を含有する120〜500℃の沸点範囲を有する留出燃料油用低温流れ改良添加剤。」が記載され(特許請求の範囲1)、実施例として、ポリエチレングリコールのベヘン酸ジエステル等が示されている(実施例21)。 刊行物9(米国特許第2993773号明細書・・・申立人Aの甲第12号証)には、ガソリン、ジェット燃料等の炭化水素燃料を用いる内燃機関及びジェットエンジン中の付着物の形成を防止する方法として、炭化水素燃料に、(1)アルケニル基上に3-31の炭素原子を有するアルケニルコハク酸及びその無水物からなる群から選択されるメンバーと(2)アルコールとのエステルを、0.001-2.0重量%添加することからなる方法が記載され(クレーム1)、これらの添加剤の性能テストにおいて、イオウ濃度が0.017%のガソリンが使用されたことが示されている(15欄42行〜71行))。 刊行物10(米国特許第3,273,981号明細書・・・申立人Bの甲第2号証)には、潤滑性を改良した、ガソリン、航空ターボ燃料、ケロシン、ディーゼル燃料、潤滑油、あるいは鉱物潤滑油等の炭化水素液体として(1欄20〜25行)、「カルボン酸基の間に1分子当り約9〜42の炭素原子を持つポリカルホン酸、及び、1分子当り約3から約8の炭素原子と約3から約6の水酸基を有する多価アルコールと炭素数12〜22の脂肪酸との部分エステルを溶解状態で含む沸点が華氏50〜750度の範囲にある炭化水素中留分。」(クレーム1)、あるいは、「該ポリカルボン酸がリノール酸の二量体で、該部分エステルがソルビタン・モノオレエートである請求項1に規定された炭化水素中留分。」(クレーム7)が記載されている。 刊行物11(英国特許第1,505,302号明細書・・・申立人Bの甲第3号証)には、「ガソリンもしくはディーゼル燃料に入れると腐食防止及び/又はエンジン摩耗低減に有効な成分(a)、そして(a)とは異なる成分であって、5〜7の環炭素原子を有する飽和環状アルコールと炭素原子数が5までの低級脂肪酸とのエステル(b)とを含み、成分(a)は(b)に溶解状態にあるガソリンもしくはディーゼルエンジン燃料添加剤。」が記載され(クレーム1)、実施例1には、(a)成分としてトリエタノールアミン1モルとテクニカルオレイン酸2モルの縮合物、(b)成分としてギ酸、酢酸、またはプロピオン酸のシクロペンチルまたはシクロヘキシルエステルを添加したディーゼル燃料が示されている。 刊行物12(刊行物1と重複) 刊行物13(特公平3-34519号公報・・・申立人Bの甲第5号証)には、「一般式(1)(式省略)で示されるアルケニルコハク酸30〜50重量%とアルケニル基の炭素数が10〜18のアルケニルコハク酸と多価アルコールとのエステル70〜50重量%からなる燃料油の防錆添加剤。」(特許請求の範囲1)、「燃料油に0.0005〜0.03重量%を混合することを特徴とする・・・燃料油の防錆添加剤。」(同5)、あるいは「燃料油が日本工業規格(JIS)K2202-1980に記載の自動車ガソリン及び/または日本工業規格(JIS)K2204-1980に記載の軽油である・・・燃料油の防錆添加剤。」(同6)が記載されている。 刊行物14(特公平1-29519号公報・・・申立人Bの甲第6号証)には、「ディーゼル軽油100重量部に対し必須成分として、(A)一般式(式省略)で表されるポリオキシエチレン化合物を0.01〜2.0重量部、および、(B)一般式(式省略)で表されるソルビタンエステルを(A)成分の0.05〜2.0重量倍だけ添加してなるディーゼル軽油組成物。」が記載されている。 刊行物15(特公平3-9956号公報・・・申立人Bの甲第7号証)には、「(A)水酸基を有する含窒素化合物と直鎖状飽和脂肪酸のエスデル、(B)オレフィン、エチレン性不飽和カルボン酸アルキルおよび飽和脂肪酸ビニルから選ばれた1種または2種以上の単量体の重合物、および(C)カルボン酸アミン塩、カルボン酸多価アルコールエステル、カルボン酸アルキロールアミドおよびポリオキシアルキレンエーテルから選ばれた油溶性界面活性剤からなる燃料油用流動性向上剤。」が記載され、6頁の表3には、軽油による低温流動性試験において用いた(C)成分の油溶性界面活性剤として、ソルビタントリラウレート、あるいはグリセリンジヤシ油脂肪酸エステル等が示されている(表3)。 刊行物16(米国特許第2,527,889号明細書・・・申立人Bの甲第8号証)には、「ディーゼルエンジン燃料が塩水に汚染されることにより引き起こされるディーゼルエンジンの燃料系における金属部材の腐食を防ぐことのできる腐食防止特性を持つディーゼル燃料であって、約0.02〜3.0重量%の腐食防止剤を含んでおり、その腐食防止剤は、約80〜99重量%のグリセリンとグリコールから選ばれた多価アルコールと脂肪酸とのエステルを含み、そのエステルは少なくとも1個のエステル化されていないヒドロキシ基と約1.0〜20重量%の脂肪酸を含み、かつ脂肪酸エステル及び脂肪酸の酸残基は1分子当たり少なくとも約10の炭素原子を有していて、実質的に金属石けんを含有していないディーゼル燃料。」が記載され(クレーム1)、実施例VIには、ディーゼルエンジン燃料(セタン価50)99.76重量%、グリセリン・モノオレイン酸エステル0.15重量%、ジエチレングリコール・モノラウリン酸エステル0.075重量%、硫化オレイン酸0.015重量%からなるディーゼルエンジン燃料が記載されている。 刊行物17(PETROTECH 第10巻第7号(1987)、40〜45頁、「最近の燃料油添加剤」・・・申立人Bの甲第10号証)には、ディーゼルエンジンを搭載した小型自動車において、撚料の節約が問題とされていること(41頁左欄)、及び、高ワックス軽油用の流動性向上剤として多価アルコールに炭素数20程度の高級脂肪酸をエステル化した成分が開発されたことが記載され(43頁左欄2〜4行)、45頁表5には、硫黄分が0.14〜0.48%の軽油市販品が掲載されている。 刊行物18(Lubricity of Low Sulfur Diesel Fuels(1993年10月)1頁左欄第12〜18行、及び同右欄第2〜8行・・・申立人Aの甲第2号証)には、「燃料のイオウを低下させるために用いる水素処理は、燃料の潤滑性を減少させる可能性がある。燃料の製造者及び燃料注入装置の供給者は、これらの新たな燃料の導入にあたって、装置の消耗が増加する可能性に重大な関心を払ってきた。」(1頁左欄5〜11行)、「低イオウ燃料は、1985年から南カリフォルニアで製造販売されているが、特に問題は現れていない。それにも拘わらずこの地域外では、関心が払われている。それゆえ、このような燃料で、イオウ濃度が0.05%より遙かに低い燃料を用いて実車テストを行い、燃料注入ポンプに対する効果を評価した。」(1頁左欄12〜18行)、「1985年にカリフォルニア大気保護委員会は、南海岸大気保護管理領域において販売される自動車用ディーゼル油のイオウ濃度を500ppm、または0.05wt%と決定した。1993年の10月の初めから、高速道路用ディーゼル油は全国規模で、ロサンゼルスと同じ厳しいイオウ濃度基準が適用される。」(1頁右欄2〜8行)、等の記載がなされている。 刊行物19(DIESEL FUEL LUBRICITY(1995)1頁右欄30〜34行及び2頁の表1.・・・申立人Aの甲第3号証)には、「諸外国の関連する燃料の規格を選んで表1にまとめた。1991年及び1992年には、スウェーデンでは、燃料にいくつかの階級を設けて、多くの燃料油の性質を、イオウ及び芳香族化合物の含量を含めて、規制している。」と記載され(1頁右欄30〜34行)、表1には、スウェーデンにおいて、1991年から、イオウ濃度が10ppm及び50ppmの規格が導入されていたことが示されている。 刊行物20(JIS K 2204-1992)には、軽油規格の改正経緯について、1989年12月22日の中央公害対策審議会答申の中で、”軽油中の硫黄分については、ディーゼルトラック、バスに排気ガス再循環が採用される前までに0.2質量%を目途として低減を進め、長期的にはトラップオキシダイザなどの後処理装置が実用化される前までに0.05質量%を目途として計画的に低減を進めることが必要である”と位置づけられたこと、今回(1992年)の改正は、答申に基づく1991年3月27日付の環境庁告示を受けて、関係団体の合意の下に実施されるものであり、規制実施時期が最も早い軽量及び中量の新型車の施行時期(1993年10月1日)に合わせ、12か月前の1992年10月1日精油所出荷分から、軽油の硫黄分を0.2質量%以下とすることが合意されたことに基づく改正であること(3頁「2. 今回(1992年)改正の経緯」の項)、また、1992年の主な改正点が硫黄分(質量%)を0.5以下から0.20以下とすること(同「3. 今回(1992年)の主な改正点」の項)が記載され、さらに、4頁の「4.3 1988年の検討経過、改正理由及び改正点」の項には、1988年当時、低温流動性向上剤を添加した軽油と添加していない軽油が存在していたことが示されている。 申立人Aの甲第5号証(特開平1‐190791号公報)には、「水酸基を有する含窒素化合物と直鎖状飽和脂肪酸と架橋化剤とからなる架橋エステルを含有する燃料油用流動性向上剤。」が記載されている(特許請求の範囲)。 申立人Aの甲第13号証(特開昭62‐148595号公報)には、自動車内燃機関の燃料消費を少なくする方法として、ガソリン沸点範囲を有する液体炭化水素に、約0.001〜2.0重量%の炭素原子約12〜30個を有する不飽和モノカルボン酸とグリコール若しくは三価アルコールとのエステルを添加することからなる方法が記載され(特許請求の範囲)、例1には、グリセロールモノオレエート(55重量%)とグリセロールジオレエート(45重量%)からなる添加剤を用いた燃料消費テストの結果が示されている。 申立人Bの甲第1号証(「カ一ク・オスマー化学大辞典」、257〜258、及び260頁、丸善株式会社 昭和63年11月20日第2刷発行)の260頁、日本の軽油の規格を掲載する表3には、「硫黄分はいずれも0.05wt%以下」とする注)が付されている。 申立人Bの甲第9号証(申立人Aの甲第13号証) (4-v)上記取消理由のうち、理由a〜d、f、及びh(29条1項及び2項違反)について検討する。 a)訂正後の請求項1の発明(以下、「本件発明」という。)について a-1)イオウ濃度 ディーゼル燃料油(軽油)のイオウ濃度(硫黄分)について記載された刊行物17〜20、及び申立人Bの甲第1号証のうち、刊行物17及び20には、本件発明における『0.05重量%以下』の数値は示されていない。また、申立人Bの甲第1号証には「0.05wt%以下」の記載があるが、刊行物20によれば、甲第1号証が発行された昭和63年当時の軽油の硫黄分規格は「0.5質量%以下」であったことが明らかであるから、甲第1号証の「0.05wt%以下」の記載は誤記であるものと認められる。 しかし、本件の優先日後に頒布された刊行物18及び19の記載によれば、スウェーデン及び南カリフォルニアの限定地域においては、イオウ濃度が『0.05重量%以下』に該当する軽油規格が本件の優先日より前に現に実施されていたことが、事実として認められる。 a-2)エステル添加剤 刊行物2〜6、9、11、13、及び申立人Aの甲第5号証に記載されたエステル添加剤は、本件発明の構成要件であるエステル添加剤とは、酸構成部分が相違する。また、刊行物7及び8のエステル添加剤は、本件発明の構成要件である『多価アルコールのエステルにおいてはすべてのヒドロキシル基がエステル化されていない』とする要件と合致せず、刊行物10及び14のエステル添加剤は本件発明のエステル添加剤における『多価アルコールがジオール又は3価アルコール』の要件と合致しない。したがって、これらの刊行物には、本件発明におけるエステル添加剤が記載されていないし、示唆する記載も見いだせない。 つぎに、刊行物1及び16の添加剤は、2種類のエステル成分から、刊行物15の添加剤は3種類の成分からなるものであって、そのうちの1成分として本件発明におけるエステル添加剤に相当するものが示されているが、混合物として特有の作用効果があるものとして記載されたこれらの刊行物の添加剤において、そのうちの1成分を単独で用いるという着想を直ちに容易とすることはできない。 刊行物17には、記載された多価アルコールエステルの脂肪酸が不飽和脂肪酸であることの示唆はない。 また、申立人Aの甲第13号証は、自動車内燃機関の燃料消費を低減させるために、ガソリンに不飽和モノカルボン酸エステルを添加したものであるところ、ガソリンとディーゼル燃料油は組成において、また油性能において相違するから、ディーゼル燃料油に当該エステルを添加することを直ちに容易とすることはできない。 a-3)イオウ濃度が『0.05重量%以下』のディーゼル燃料油とエステル添加剤の組み合わせの容易性、及び、作用効果の予測性 (i)a-1)に示したとおり、イオウ濃度が『0.05重量%以下』に該当するディーゼル燃料油が本件の優先日より前に現に販売されていたことが事実として認めれるが、その販売地域は世界的にはむしろ限定された地域であることからみて、エステル添加剤について記載された刊行物1〜17において対象として想定される燃料油が、必然的に、イオウ濃度が『0.05重量%以下』のディーゼル燃料油となり得るものとは認められない。 (ii)しかも、a-2)に示したとおり、刊行物1〜17には、本件発明の構成要件であるエステル添加剤について記載されていないか、混合物添加剤の1成分として記載されるに止まるから、混合物添加剤の1成分を意図を持って単独で添加剤とする着想が容易であるものとすることはできない。 (iii)本件発明においては、特定のエステル添加剤を特にイオウ濃度が『0.05重量%以下』のディーゼル燃料油に添加することによって、ディーゼルエンジンの潤滑性を向上させ摩耗を減少させるという効果を奏するものであることが明細書に記載され、また、特許異議意見書においても明らかに裏付けられた。そして、上記証拠刊行物のいずれにも、このようなディーゼル燃料油と添加剤との関係について示唆するところがないから、結局、本件発明は、上記各証拠刊行物に記載された発明に該当しないばかりでなく、各証拠刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることもできない。また、上記証拠刊行物を参酌しても、本件発明が、その優先日より前に公然と知られていた、または、公然実施されていたとすべき根拠は見いだせない。 b)訂正後の請求項2〜9の発明について 訂正後の請求項2〜9の発明は、同請求項1の発明をさらに限定し具体化した発明であるから、同請求項1の発明が本件の優先日より前に公然と知られていた、または、公然実施されていた、または、各証拠刊行物に記載された発明でなく、さらに、各証拠刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでない以上、同請求項2〜9の発明も、上記と同じ理由により、本件の優先日より前に公然と知られていた、または、公然実施されていた、または各証拠刊行物に記載された発明とすることはできず、また、各証拠刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることもできない。 c)訂正後の請求項10の発明について 訂正後の請求項10の発明は、同請求項1〜9の発明に係るディーゼルエンジン用の燃料油組成物を用いる圧縮点火エンジンの運転方法であるから、同請求項1〜9の発明が本件の優先日より前に公然と知られていた、または、公然実施されていた、または、各証拠刊行物に記載された発明でなく、また、各証拠刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでない以上、同請求項10の発明も、上記と同じ理由により、本件の優先日より前に公然と知られていた、または、公然実施されていた、または、各証拠刊行物に記載された発明であるものとすることはできず、また、各証拠刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることもできない。 (4-vi)取消理由e及びg(36条4項及び5項違反)について 申立人Aが本件明細書を記載不備とする理由は、(i)訂正前の請求項1における「炭素数2〜50のカルボン酸」に相当する発明の詳細な説明は、本件特許公報5欄44行に記載された一般式であるところ、式中のヒドロカルビル基R1は「炭素原子を2〜5有する」ものであるから、請求項1に記載された発明は、発明の詳細な説明に記載されていないこととなる、(ii)同一般式中のR1は「炭素原子を2〜5有する」ヒドロカルビル基との記載と、6欄7〜9行の「好ましくは、酸がモノカルボン酸のときヒドロカルビル基は炭素原子を10(例えば12)〜30有するアルキル基又はアルケニル基」との記載は矛盾しているから、本件明細書は当業者が容易に実施できる程度に記載されていない、(iii)6欄27〜34行には、「例えば、アルコールは、以下の式で一般化することができる。」として、一般式R2(OH)yが掲載され、「R2は炭素原子が10個まであるような炭素原子を1以上有するヒドロカルビル基」と記載されていながら、同42〜47行には、「多価アルコールの例として、・・・炭素原子を2〜90、・・・有する脂肪族の、・・・アルコールが挙げられる。」として矛盾する記載があるから、本件明細書は当業者が容易に実施できる程度に記載されていない、というものであり、申立人Bが本件明細書を記載不備とする理由は、(iV)訂正前の請求項3、4、9〜11、及び17〜19の発明については、発明の詳細な説明中に実施例等の詳しい説明がないから、本件明細書は当業者が容易に実施できる程度に記載されていない、というものである。 しかし、(i)及び(ii)について、カルボン酸に関する発明の詳細な説明は、訂正によって、請求項1の発明と整合するものとなった。訂正前においては、発明の詳細な説明中に「炭素数2〜50のカルボン酸」との記載そのものは存在していないが、発明の詳細な説明に記載された酸の一般式は、「例えば」として酸を例示するものであるから、当該一般式が請求項1の発明におけるカルボン酸を規定するほどのものとは認めがたい。カルボン酸のヒドロカルビル基が「炭素原子を2〜5有する」ものに限られているわけでないことは、前記(ii)における明細書の引用部分、すなわち、好ましいヒドロカルビル基として、炭素原子10〜30のものを挙げていることからも明らかである。したがって、訂正前の発明の詳細な説明中に、「炭素数2〜50のカルボン酸」が実質的に記載されていないとまですることはできない。 また、(iii)については、アルコールを例示する一般式は、訂正によって削除された。訂正前においては、申立人が指摘したとおりの明瞭でない部分があり解釈の余地がないではないが、この明瞭でない記載があったからといって、本件の請求項1の発明を当業者が容易に実施できないとまですることはできない。 (iv)については、訂正前の請求項9〜11、17、及び19は、訂正によって削除された。また、訂正前の請求項3に対応する訂正後の請求項2の発明、同請求項4に対応する請求項3の発明は、実施例等に説明がなされているし、訂正前の請求項18に対応する訂正後の請求項10の発明は、訂正後の請求項1〜9のいずれか1項のディーゼルエンジン用の燃料油組成物を使用することを特徴とする発明であって、圧縮点火エンジンの運転方法自体は当業者に周知であるから、その運転方法について詳しい説明がなくても、当業者が当該発明を実施することに格別の支障があるものとは認められない。 したがって、申立人が指摘する明細書の記載不備に関する主張は、いずれも採用することができない。 (4-vii)したがって、上記各証拠刊行物の存在に拘わらず、本件の訂正後の請求項1〜10の発明は、特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであり、明細書の記載不備もない。 (5)以上のとおり、上記訂正は、特許法120条の4 2項の規定に適合し、また、同3項で準用する同126条2項から4項の規定に適合するから、適法なものとして認めることとする。 4.特許異議の申立て 本件の特許異議申立における申立人の主張は、〈3.(4-ii)〉に記載のとおりであるところ、訂正後の本件請求項1〜10の発明が当該理由によって取り消すことができないことは、〈3.(4-V)及び(4-Vi)〉に記載のとおりである。 5.むすび 以上のとおり、上記訂正は適法なものとして請求のとおりに認められ、また、訂正された本件の請求項1〜10の発明に係る特許は、特許異議申立ての理由、及び当審において通知した取消理由によって、取り消すことができない。 また、他に本件の請求項1〜10の発明に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 燃料組成物 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 イオウ濃度が0.05重量%以下である炭化水素留出ディーゼル燃料油を大割合で、不飽和モノカルボン酸と1価又は多価アルコールとのエステルからなる添加剤を小割合で含有するディーゼルエンジン用の燃料油組成物であって、 該酸が、炭素数2〜50であり、1価アルコールが炭素数1〜6のアルキルアルコールであり、多価アルコールがジオール又は3価アルコールであり、かつ多価アルコールのエステルにおいてはすべてのヒドロキシル基がエステル化されていない、 ことを特徴とするディーゼルエンジン用の燃料油組成物。 【請求項2】 前記イオウ濃度が0.01重量%以下である請求項1記載の組成物。 【請求項3】 エステルが誘導される酸が、一般式R1COOH(式中、R1は炭素原子10〜30のヒドロカルビル基を表し、該ヒドロカルビル基が、二重結合を1〜3個有するアルケニル基である。)を有する請求項1又は2記載の組成物。 【請求項4】 前記酸が炭素原子を12〜22有する請求項3記載の組成物。 【請求項5】 前記アルコールがメタノールである請求項1〜4のいずれか1項記載の組成物。 【請求項6】 前記アルコールがグリセロールである請求項1〜5のいずれか1項記載の組成物。 【請求項7】 前記エステルがグリセロールモノオレエートである請求項6記載の組成物。 【請求項8】 前記燃料油中の添加剤の濃度が、燃料油の重量当り有効成分の重量で10〜10,000ppmの範囲である請求項1〜請求項7のいずれか1項記載の組成物。 【請求項9】 前記濃度が100〜200ppmである請求項8記載の組成物。 【請求項10】 請求項1〜9のいずれか1項記載のディーゼルエンジン用の燃料油組成物を提供し、それによってエンジンの噴射ポンプ内に生じる摩耗速度を制御することを特徴とする圧縮点火エンジンの運転方法。 【発明の詳細な説明】 本発明は、例えばディーゼルエンジンの潤滑性を向上させ、摩耗を減少させるのに有用な燃料組成物に関する。 先行技術にはディーゼルエンジン燃料のための添加剤としてエステルが記載されている。例えば、US-A-2,527,889号には、ディーゼルエンジン燃料中の主な耐蝕性添加剤としてポリヒドロキシアルコール・エステルが記載され、GB-A-1,505,302号には、ディーゼルエンジン燃料添加剤として、例えばグリセロール・モノエステル及びグリセロール・ジエステルを含むエステルの組合せが記載されており、この組合せによって、燃料噴射装置、ピストンリング、及びシリンダーライナーの摩耗を減少させることを含む利点をもたらすことが記載されている。 しかし、GB-A-1,505,302号は、燃焼室及び排気装置における酸性燃焼生成物、及び残留物による腐蝕及び摩耗という運転上の欠点を克服することに関する。これらの欠点はある運転環境下における不完全燃焼による、とこの文献には記載されている。この文献の発行時に利用できる代表的なディーゼル燃料は、例えば、燃料の重量をベースとして、元素としてのイオウを0.5〜1重量%含んでいた。 ディーゼル燃料中のイオウ含量は、環境の理由、即ち、二酸化イオウの排気を減少させるために、さまざまな国において、低下しており、かつ低下させるであろう。このように、加熱油及びディーゼル燃料のイオウ含量は、最大値で0.2重量%とCECで調和しつつあり、第2ステージでは、ディーゼル燃料中の最大含量が0.05重量%となるであろう。最大値0.05%への完全な転換は、1996年中に必要となるであろう。 イオウ含量を低下させることに加えて、低イオウ含量燃料を調製する方法により、ポリ芳香族(polyaromatic)成分及び極性成分のような燃料中の他の成分の含量をも減少させる。燃料中のイオウ成分、ポリ芳香族成分、及び極性成分のうち1以上の成分含量を減少させると、その燃料の使用に際し新たな問題が生じる。即ち、エンジンの噴射系を潤滑させる燃料の能力が減少し、例えば、エンジンの燃料噴射ポンプがエンジンの寿命の比較的早い時期に壊れるようになり、その破壊は、例えば高圧ロータリー・ディストリビュータ、インラインポンプ及びユニット・インジェクター、並びにインジェクターのような高圧燃料噴射系において生じる。そのような激しい破壊は、GB-A-1,505,302号に記載された腐蝕摩耗とは全く異なる摩耗によるものである。 既述のように、そのような破壊は、エンジンの寿命の早い時期に起こり得る。一方、GB-A-1,505,302号に言及した摩耗の問題は、エンジン寿命の遅い時期に起こる。低イオウ含量ディーゼル燃料を適用することにより生じる問題は、例えばヴァイ(D.Wei)及びスパイク(H.Spikes)のWear、111巻、2号、217頁(1986年);並びにカプロッティ(R.Caprotti)、ボビントン(C.Bovington)、フォーラー(W.Fowler)、及びタイラー(M.Taylor)のSAE論文9292183;並びにSAE燃料及び潤滑剤会議(SAE fuels and Lubes.meeting)1992年10月、サンフランシスコ、USAに記載されている。 イオウ含量が低い燃料の使用による上記摩耗の問題は、燃料にある添加剤を供給することにより少なくなるか、又は処理できることが現在見出された。 このように、本発明の第1の面は、イオウ濃度が0.05重量%以下である炭化水素留出ディーゼル燃料油を大割合で、不飽和モノカルボン酸と1価又は多価アルコールとのエステルからなる添加剤を小割合で含有するディーゼルエンジン用の燃料油組成物であって、 該酸が炭素数2〜50であり、1価アルコールが炭素数1〜6のアルキルアルコールであり、多価アルコールがジオール又は3価アルコールであり、かつ多価アルコールのエステルにおいてはすべてのヒドロキシル基がエステル化されていない、 ことを特徴とするディーゼルエンジン用の燃料油組成物である。 本発明の第2の面は、エンジン運転中のエンジンの噴射系の摩耗速度を制御するための圧縮点火(ディーゼル)エンジンにおける燃料としての、本発明の第1の面で記載した燃料油組成物の使用である。 本発明の第3の面は、本発明の第1の面で記載した燃料組成物をエンジンの燃料として供給し、それによってエンジンの噴射系の摩耗速度を制御する、圧縮点火(ディーゼル)エンジンの運転方法である。 本明細書の実施例は、本発明の燃料油を用いると、摩耗を減少させる本発明の添加剤の効力を例示するものである。 いかなる理論によっても制限されないが、圧縮点火内燃機関での燃料組成物の使用において、その添加剤の効力は、エンジンの運転条件の範囲で、噴射系の表面、特に互いが動きながら接触しているインジェクタポンプの表面に、少なくとも添加剤の1分子層又は多分子層を形成できることであると考えられた。また、添加剤が欠いている組成物と比較すると、その組成物は、2以上の装填体(loadedbody)が非流体力学潤滑条件で相対的に動く、いかなる試験でも摩耗の減少、摩擦の減少、又は電気接触抵抗の増加のうち1以上を起こさせるようなものであると考えられた。 本発明の特徴をさらに詳しく記述する。 添加剤 上述のように、単一の添加剤であれ、添加剤の混合物であれ、添加剤は、エンジンのある表面に少なくとも部分的な層を形成することができると考えられる。これは、形成した層が接触表面の必ずしも全てでなくてもよいことを意味する。このように、例えば10%以上、又は50%以上のような接触表面の面積の一部だけでもカバーするのがよい。そのような層の形成、及び接触表面にそのような層がカバーされる度合は、例えば電気接触抵抗(electrical contact resistance)又は電気キャパシタンス(electrical capacitance)を測定することにより示することができる。 本発明による摩耗の減少、摩擦の減少、又は電気接触抵抗の増加のうち1以上を例示するために用いることができる試験の例として、本明細書で後に述べるシリンダー上の球潤滑評価法(Ball On Cylinder Lubricant Evaluator)及び高速往復運動リグ試験(High Frequency Reciprocating Rig test)がある。 酸、アルコール、及びエステルを以下にさらに詳しく述べる。 (i)酸 エステルが誘導される酸は、炭素数2〜50の不飽和、直鎖又は分岐鎖のようなモノカルボン酸である。例えば、一般式R1COOHで表される(式中、R1は炭素原子10〜30のヒドロカルビル基を表し、該ヒドロカルビル基が、二重結合を1〜3個有するアルケニル基である。)。 『ヒドロカルビル』は、炭素と水素を含む基を意味し、この基は炭素原子を経て分子の残りと結合する。それは直鎖又は分岐鎖であるのがよく、その鎖はO、S、N、もしくはPのような1以上のヘテロ原子によって割り込まれてもよい。好ましくは、ヒドロカルビル基は炭素原子を10(例えば12)〜30有するアルケニル基である。アルケニル基は二重結合を1以上、例えば二重結合を1、2、又は3個有するのがよい。不飽和カルボン酸の例として、オレイン酸、エライジン酸、パルミトレイン酸、ペトロセリン酸(petroselic acid)、リシノレイン酸(riconoleic acid)、エレオステアリン酸、リノール酸、リノレン酸、エイコサン酸、ガロレイン酸(galoleic acid)、エルカ酸、ヒポガエン酸(hypogeic acid)のような炭素原子を10〜22有するものがある。 (ii)アルコール エステルが誘導されるアルコールは、トリヒドロキシアルコールのようなモノ又はポリヒドロキシアルコールがよい。1価アルコールの例として、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、及びブチルアルコールのような炭素原子を1〜6有する低級アルキルアルコールが挙げられる。 多価アルコールの例として、分子内にヒドロキシ基を2〜3有し、かつ炭素原子を2〜90、好ましくは2〜30、より好ましくは2〜12、最も好ましくは2〜5有する脂肪族の、不飽和の、直鎖又は分岐鎖アルコールが挙げられる。より好ましい例として、多価アルコールは、グリコールもしくはジオール、又はグリセロールのような3価アルコールがよい。 (iii)エステル エステルはそれのみ、又は1以上のエステルの混合物が用いられ、炭素、水素、及び酸素のみから成るのがよい。エステルは分子量が200以上であるか、又は炭素原子を少なくとも10個有するか、又はその両方であるのが好ましい。 用い得るエステルの例として、上記で例示した不飽和モノカルボン酸の低級アルキルエステル、例えばメチルエステルのようなものが挙げられる。そのようなエステルは、例えば植物又は動物が供給源の天然油脂の鹸化及びエステル化、又はそれらを低級脂肪族アルコールでエステル交換することによって得ることができる。 用い得る多価アルコールのエステルとしては、ヒドロキシ基のすべてはエステル化されていないものが挙げられる。特別な例として、3価アルコールと1以上の上述の不飽和カルボン酸とから調製されるエステル、例えばグリセロールモノエステル、及びグリセロールジエステル、例えばグリセロールモノオレエート、グリセロールジオレエート、グリセロールモノステアレートが挙げられる。そのような多価エステルは、先行技術に記載されたエステル化により調製できるか、及び/又は市販入手可能である。 エステルは1以上のフリーのヒドロキシ基を有するのがよい。 燃料油 イオウ濃度は、0.05重量%以下、例えば0.01重量%以下が好ましく、0.005重量%と同じほど低いか、又は0.0001重量%、又はそれ以下がよい。先行技術には、炭化水素留出燃料のイオウ濃度を減少させる方法が記載されており、そのような方法には、例えば溶媒抽出、硫酸処理、及び水素脱硫(hydrodesulphurisation)が含まれる。 『トリサイクリック芳香族(tricyclic aromatic)』の語により、3つの芳香族環が一緒に融合した固定した系を意味する。燃料にはそのような成分を1重量%未満で含むのが好ましい。 『極性成分』の例として、O、S、又はNを含むもの、及びエステル、及びアルコールような化合物が挙げられる。 上記の摩耗の問題は、燃料の極性成分の濃度が減少すると徐々にもっと激しくなることがわかった。例えば、250ppm以下、例えば200ppmのような濃度で特に激しく、極性成分の濃度がそれぞれ170ppm及び130ppmである燃料中では特に激しい。そのような極性成分の濃度は、高速流体クロマトグラフィー(時々HPLCと呼ばれる)により簡便に測定できる。 本発明を適用できる中間留出燃料油は、一般に約100℃〜約500℃、例えば約150℃〜約400℃の範囲内で沸騰する。燃料油は、常圧蒸留もしくは真空蒸留、又は分解ガス油、又は直留と熱的及び/又は触媒的に分解した蒸留物とのあらゆる比率のブレンド物を含有することができる。最も一般的な石油留出物は、灯油、ジェット燃料、ディーゼル燃料、加熱油、及び重燃料油であり、ディーゼル燃料が上記の理由から本発明の実施において好ましい。加熱油は、直留常圧留出物であるのがよく、又は加熱油は、真空ガス油、もしくは分解ガス油、もしくはその両者を例えば35重量%までの量で含むのがよい。 燃料油中、本発明の添加剤の濃度は、燃料の重量あたり重量で250,000ppmまでがよく、例えば1〜1000ppm(有効成分)のような10,000ppmまでがよく、好ましくは10〜500ppm、より好ましくは10〜200ppmがよい。 添加剤は、当業界で既知の方法によって、燃料油バルクへ組み込むことができる。簡便なのは、添加剤を、燃料油と相溶性のある液体担体溶媒(liquid carrer)と添加剤との混合物を有する濃縮物の形態で組み込むのがよい。そのような濃縮物は、添加剤を3〜75wt%含むのが好ましく、より好ましくは3〜60wt%、最も好ましくは10〜50wt%含むのがよく、油中の溶液中であるのが好ましい。担体液体の例として、炭化水素溶媒を含む有機溶媒、例えばナフサ、灯油、及び加熱油のような石油フラクション;芳香族炭化水素;ヘキサン及びペンタンのようなパラフィン炭化水素;及び2-ブトキシエタノールのようなアルコキシアルカノールが挙げられる。担体液体は、もちろん、添加剤との、及び燃料との相溶性を考慮して選択しなければならない。 補助添加剤 本発明の添加剤は、単一で、又は1以上の添加剤の混合物で用いることができる。それらは当業界で知られているような1以上の補助添加剤、例えば以下のものと組合せて用いることができる。例えば、洗浄剤、酸化防止剤(燃料の分解を避けるため)、腐蝕防止剤、曇り防止剤(dehazer)、乳化破壊剤、金属失活剤、消泡剤、セタン価向上剤(cetane improver)、補助溶媒、包装適合剤(packagecompatibiliser)、及び中間留出低温流れ向上剤である。 実施例 以下の実施例は本発明を例示する。次の材料及び方法が用いられ、結果は以下の通りであった。 添加剤 D:グリセロールモノオレエート 燃料 用いた燃料(I及びIIで示す)は次の性質を有するディーゼル燃料であった。 I S含量 <0.01%(wt/wt) 芳香族含量 <1%(wt/wt) セタン数 55.2〜56.1 低温フィルタ曇り点温度(CFPPT) -36℃ 95%沸点 273℃ II S含量 <0.01%(wt/wt) 芳香族含量 測定せず セタン数 測定せず 低温フィルタ曇り点温度(CFPPT) -41℃ 95%沸点 263℃ 試験 添加剤Dを燃料I及びIIに溶解し、得られた組成物を以下のものを用いて試験した。 ・シリンダー上の球潤滑評価(Ball On Clylinder Lubricant Evaluator)(即ち BOCLE)試験で、これは『磨耗及び摩耗装置』(Friction and wear devices,第2版(2nd Ed))、280頁(American Society of Lubrication Engineers,Park Ridge III.USA);並びに、タオ(F.Tao)及びアップルドーン(J.Appledorn)、ASLE trans.、11巻、345-352頁(1968年)に記載されている。 ・高速往復運動リグ(High Frequency Reciprocating Rig)(即ち HFRR)試験で、これはヴァイ(D.Wei)及びスパイク(H.Spikes)、Wear、111巻、2号、217頁(1986年);並びにカプロッティ(R.Caprotti)、ボビントン(C.Bovington)、フォーラー(W.Fowler)、及びタイラー(M.Taylor)、SAE 論文922183;並びに『SAE 燃料及び潤滑剤会議』(SAE fuels and Lubes.meeting)1992年10月、サンフランシスコ、USAに記載されている。 双方の試験は燃料の潤滑性を測定するものであると知られている。 結果 以下の表は結果を示す。 (A)BOCLE試験 結果を摩耗傷直径(wear scar diameter)で示す。よって、低い値は、高い値より摩耗が少ないことを示す。全ての試験を室温で行った。 (B)HFRR試験 結果を摩耗傷直径として表す。さらに、摩擦係数を測定した。示されるような異なる温度で試験を行った。燃料Iにおいて添加剤Dの濃度は200ppm(wt/wt)であった。燃料IIにおいて、添加剤Dの濃度を括弧内に示す。 この結果から添加剤Dを用いることにより潤滑性が向上したことがわかる。 |
訂正の要旨 |
訂正の要旨 〈訂正事項a〉特許請求の範囲を、次のとおりに訂正する。 「【請求項1】 イオウ濃度が0.05重量%以下である炭化水素留出ディーゼル燃料油を大割合で、不飽和モノカルボン酸と1価又は多価アルコールとのエステルからなる添加剤を小割合で含有するディーゼルエンジン用の燃料油組成物であって、該酸が炭素数2〜50であり、1価アルコールが炭素数1〜6のアルキルアルコールであり、多価アルコールがジオール又は3価アルコールであり、かつ多価アルコールのエステルにおいてはすべてのヒドロキシル基がエステル化されていない、ことを特徴とするディーゼルエンジン用の燃料油組成物。 【請求項2】 前記イオウ濃度が0.01重量%以下である請求項1記載の組成物。 【請求項3】 エステルが誘導される酸が、一般式R1COOH(式中、R1は炭素原子10〜30のヒドロカルビル基を表し、該ヒドロカルビル基が、二重結合を1〜3個有するアルケニル基である。)を有する請求項1又は2記載の組成物。 【請求項4】 前記酸が炭素原子を12〜22有する請求項3記載の組成物。 【請求項5】 前記アルコールがメタノールである請求項1〜4のいずれか1項記載の組成物。 【請求項6】 前記アルコールがグリセロールである請求項1〜5のいずれか1項記載の組成物。 【請求項7】 前記エステルがグリセロールモノオレエートである請求項6記載の組成物。 【請求項8】 前記燃料油中の添加剤の濃度が、燃料油の重量当り有効成分の重量で10〜10,000ppmの範囲である請求項1〜請求項7のいずれか1項記載の組成物。 【請求項9】 前記濃度が100〜200ppmである請求項8記載の組成物。 【請求項10】 請求項1〜9のいずれか1項記載のディーゼルエンジン用の燃料組成物を提供し、それによってエンジンの噴射ポンプ内に生じる摩耗速度を制御することを特徴とする圧縮点火エンジンの運転方法。」 〈訂正事項b〉発明の詳細な説明中の該当する個所を、訂正事項aの特許請求の範囲の訂正に整合するように訂正する。 |
異議決定日 | 2000-11-20 |
出願番号 | 特願平6-516655 |
審決分類 |
P
1
651・
121-
YA
(C10L)
P 1 651・ 534- YA (C10L) P 1 651・ 531- YA (C10L) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 船岡 嘉彦 |
特許庁審判長 |
嶋矢 督 |
特許庁審判官 |
谷口 操 山田 泰之 |
登録日 | 1997-04-25 |
登録番号 | 特許第2634697号(P2634697) |
権利者 | エクソン ケミカル パテンツ インコーポレイテッド |
発明の名称 | 燃料組成物 |
代理人 | 竹内 英人 |
代理人 | 今城 俊夫 |
代理人 | 竹内 英人 |
代理人 | 宍戸 嘉一 |
代理人 | 宍戸 嘉一 |
代理人 | 大塚 文昭 |
代理人 | 小川 信夫 |
代理人 | 中村 稔 |
代理人 | 村社 厚夫 |
代理人 | 箱田 篤 |
代理人 | 中村 稔 |
代理人 | 大塚 文昭 |
代理人 | 箱田 篤 |
代理人 | 今城 俊夫 |
代理人 | 小川 信夫 |
代理人 | 柳川 泰男 |
代理人 | 村社 厚夫 |