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審決分類 審判 判定 利用 属する(申立て成立) B43K
管理番号 1035961
判定請求番号 判定2000-60126  
総通号数 18 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許判定公報 
発行日 1999-10-12 
種別 判定 
判定請求日 2000-09-12 
確定日 2001-02-26 
事件の表示 上記当事者間の特許第2960062号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 
結論 (イ)号図面及びその説明書に示す「筆記具」は、特許第2960062号発明の技術的範囲に属する。 
理由 (1)請求の趣旨
イ号図面及びその説明書に示す「ボールペン」は、特許第2960062号の請求項1,2及び6に係る発明(以下、「本件発明1,2及び6」という。)の技術的範囲に属する、との判定を求めたものである。
(2)本件発明
本件発明1,2及び6は、その特許明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲に記載されたとおりのものであり、これを構成要件ごとに分説すると次のとおりである。
(請求項1)
A:転写ボールを抱持するチップが先端に具備されてなる筆記具に於いて、
B:剪断減粘性で且つ色調の異なる複数のインクが互いの界面を軸方向へ連続接触させた状態でインクタンク内に充填され、
C:チップ先端の転写ボールに対して前記複数のインクが連続的に供給されるように構成してなる
D:ことを特徴とする筆記具。
(請求項2)
請求項1記載の筆記具において、
E:インクタンク内に、インクの消耗に追随して移動するインク追随体を充填してなる
F:ことを特徴とする筆記具。
(請求項6)
請求項1乃至5いずれかに記載の筆記具において、
G:インクタンクが、透明並びに透視可能な材料からなる
H:ことを特徴とする筆記具。
そして、本件発明は、次の作用効果を奏するものである。
剪断減粘性で且つ色調の異なる複数のインクを紙面に転写し得ることから、一度の筆記で色彩感覚や立体感が得られるマーブル調筆記にて筆跡を描くことができる。しかも、インクタンク内に収容されている色調の異なる複数のインクによりインクタンク全体の外観的装飾効果(美的効果)が得られ、ひいては商品としてのデザインの向上が図られる等、今までにはない装飾性に優れた画期的な筆記具を提供することができる。(本件明細書段落0034)
(3)イ号物件
請求人の主張するイ号物件は、本件請求書のイ号図面及びその説明書に記載のとおりであり、それを構成要件ごとに分説すると、以下のとおりである。
A1:転写ボール4を抱持するボールペンチップ3を先端に具備したボールペンである。
B1:水性顔料ゲルインク(剪断減粘性水性顔料インク)で且つ色調の異なる2色のインクla,lbが、螺旋状であるが、互いの界面10を軸方向へ連続接触させた状態でインク筒1内に充填されている。
C1:前記ボールペンチップ3先端の転写ボール4に対して前記2色のインクla,lbが連続的に供給されている。
D1:ボールペンである。
そして、
E1:インク筒1内に、インクの消耗に追随して移動するシール材7が充填されている。
F1:ボールペンである。
また、
G1:インク筒1が透明なプラスチック材で成形されており、外方より透視可能である。
H1:ボールペンである。
そして、イ号物件は、次の作用効果を奏するものである。
筆跡の色が2色であって興趣に富み、また、インク筒内のインクが興趣に富んだ模様を構成して見た目に美しい印象を与えるボールペンとなる。
なお、被請求人は、イ号物件のものの出願であるとしている特願平10-207113号(特開2000-25380号公報)を、乙第1号証として提出している。
(4)イ号物件が本件発明の技術的範囲に属するか否かについて
被請求人は本件発明とイ号物件について次のような主張をしている。
1.被請求人は、イ号物件を「チュ・チュ」なる商品名で販売し、1998年7月8日に特許出願(特開2000-25380号公報(乙第1号証))した発明に基づいて製造されているとしている(答弁書第2頁7〜9行)。上記商品は、1998年7月9〜11日に東京ビッグサイトにおいて開催された国際文具見本市「ISOT’98」に出品し、かつその直後に販売を開始したので、本件発明の出願時(1998年10月14日)において、イ号物件は日本国内において公然知られたものであり、イ号物件が本件発明の技術的範囲に属するかどうかを判断するには、本件発明の国内優先の基礎となっている特願平10一19283号の特許願(優先日1998年1月30日 以下、「原出願」という・・乙第3号証)に記載された発明を検討することが必要である旨主張するとともに、請求人のイ号物件と本件の請求項1の発明との対比が、本件発明の出願時点を基準に行っていることに対して、原出願の請求項1の発明と本件の請求項1の発明とは、異なる部分(本件の請求項1の発明には新たな事項が追加されている)があり、本判定請求書は、イ号物件と対比する発明を誤ったものと言わなければならない、と主張(答弁書第3頁1行〜第4頁4行)し、原出願の請求項1とイ号物件を対比している。
2.上記のように被請求人は、イ号物件と原出願の請求項1に記載の発明とを対比しているが、本件発明の実質的な出願日が原出願の出願日(平成10年1月30日)なのか、本件発明の出願日(平成10年10月14日)なのかによってイ号物件の本件発明に対する公知性が異なり、イ号物件が本件発明の技術的範囲に含まれるのか否かに影響を与えるのでこの点を含めて検討する。(後述の構成要件Bについて参照)
本件発明が原出願に記載された発明でないと被請求人が主張する点は、特に本件発明の構成要件Bの「互いの界面を軸方向へ連続接触させた状態」の「連続」という表現が原出願の請求項1に記載がないということを根拠にしている。しかし、本件発明が原出願の明細書及び図面に記載されているか否かは、原出願の明細書及び図面全体から判断されるものであり、この観点から本件明細書の発明の詳細な説明及び図面をみれば、図7及びこれに関連する詳細な説明の記載の追加、図9、10の区画壁の部分が変更されている点で原出願の明細書に記載されていない事項が含まれているものの、その他の実施例等の記載については実質的に変わるところはなく、本件発明に関する記載でいえば、その構成要件Bの「連続」の表現以外は原出願に記載されていたものと認められる。したがって、とりあえず先に上記構成要件B以外の本件発明の構成要件について対比検討し、その後構成要件Bについて対比検討する。
・構成要件Aについて
イ号物件の構成要件A1の「転写ボール4を抱持するボールペンチップ3を先端に具備したボールペン」は、「ボールペン」が筆記具の一種であるので、本件発明の構成要件Aを充足する。
・構成要件Cについて
イ号物件の構成要件C1の「前記ボールペンチップ3先端の転写ボール4に対して前記2色のインクla,lbが連続的に供給されている」は、本件発明の構成要件Cの「複数のインク」が、本件発明の構成要件Bを参照すれば「色調の異なる」ものであるので、本件発明の構成要件Cを充足する。
・構成要件Dについて
イ号物件の構成要件D1は、上記構成要件Aで検討したとおりであるので、本件発明の構成要件Dを充足する。
・構成要件Eについて
イ号物件の構成要件E1の「インク筒1内に、インクの消耗に追随して移動するシール材7が充填されている」は、「シール材7」がインクの消耗に追随して移動するものであり、本件発明の「インク追随体」に相当するものであることは明らかであるので、本件発明の構成要件Eを充足する。
・構成要件Fについて
イ号物件の構成要件F1は、上記構成要件Aで検討したとおりであるので、本件発明の構成要件Fを充足する。
・構成要件Gについて
イ号物件の構成要件G1の「インク筒1が透明なプラスチック材で成形されており、外方より透視可能である。」は、「インク筒1」及び「透明なプラスチック材で成形」が本件発明の「インクタンク」及び「透明並びに透視可能な材料からなる」に各々含まれることは明らかであるので、本件発明の構成要件Gを充足する。
・構成要件Hについて
イ号物件の構成要件H1は、上記構成要件Aで検討したとおりであるので、本件発明の構成要件Hを充足する。
・構成要件Bについて
本件発明の構成要件Bと原出願の対応する請求項1の部分と比較すると、「互いの界面を軸方向へ接触させた状態」が「互いの界面を軸方向へ連続接触させた状態」とされ、本件発明の構成要件Bに「連続」が付け加えられているものの、その他に表現的な相違点はあるが、この点を除けば先に検討したとおり他の記載事項は実質的に同じである。また、このことは被請求人も認めているので、答弁書でいう原出願の請求項1に関する当該部分を除く主張は、本件発明に対する主張として取り扱う。
1)構成要件Bの「剪断減粘性で且つ色調の異なる複数のインク」について(以下、「構成要件B-1」という。)
(請求人の主張)
イ号物件の水性顔料ゲルインク(剪断減粘性水性顔料インク)は、本件特許発明の「剪断減粘性」、すなわち静的には高い粘性を有し、転写ボールの回転により粘性が低下する特性を有する点で同一であり、また、2色のインクを充填する点も、本件特許発明における前記特定事項「色調の異なる複数のインクを充填する」に内在し同一である。
なお、イ号物件は着色剤として「顔料」を使用した水性顔料ゲルインク(剪断減粘性水性顔料インク)であるが、本件特許発明の構成Bにおいて、着色剤の種類を何ら特定するものではない。ボールペン用のインク、特に多色水性ボールペン用のインクとして、着色剤に顔料を使用した水性顔料ゲルインク(剪断減粘性水性顔料インク)が当業者において知られていることに鑑みれば(甲第4号証参照)、本件特許発明から当該水性顔料インクが除外されるべき根拠はなく、本件特許発明の前記特定事項「剪断減粘性で且つ色調の異なる複数のインク」に内在し同一である。(判定請求書第5頁4〜16行)
(被請求人の主張)
請求項1で使用する剪断減粘性インキは、その化学的・物理的特性がなんら規定されていないが、イ号物件は、着色剤に顔料が使用され、それぞれの粘度が45mPa・S以上であり、各インキの比重差が0.05以内の色の異なる複数の水性インキを使用する。かかるインキを使用することによって「再現性」を得ることができる。(答弁書第7頁24〜28行)
(当審の判断)
イ号物件のインキは剪断減粘性を有する水性インク(水性顔料ゲルインク)であると、イ号図面及びその説明書に記載されているが、被請求人がイ号物件のものの出願であるとしている特願平10-207113号(特開2000-25380号公報・・乙1号証)には、そのインクが剪断減粘性を有する水性インクである旨の明示的な記載はなく、着色剤に顔料が使用され、それぞれの粘度が45mPa・S以上であり、各インキの比重差が0.05以内の色の異なる複数の水性インキを使用するものであることが記載されているのみである。しかし、剪断減粘性とは、非筆記時には高粘性、筆記時には低粘性という特性であり(特開平9-267593号公報・・甲第4号証 段落0004)、イ号物件のものも粘度の高いものである以上、剪断減粘性のものでなければ筆記時にかすれなどを生じ滑らかに書けないことは自明であるので、筆記時には低粘性のものと考えるのが自然であること、被請求人もイ号物件のものが剪断減粘性のものでないとの主張はしていない点からみて、各インキの粘度及び比重差が限定されているとしても、上記イ号物件(乙1号証)のものは「剪断減粘性で且つ色調の異なる複数のインク」であるとすることができる。
したがって、上記本件発明の構成要件B-1を充足している。
2)構成要件Bの「複数のインクが互いの界面を軸方向へ連続接触させた状態で充填」について(以下、「構成要件B-2」という。)
(請求人の主張)
イ号物件は、インク筒1又はインク注入機の充填ノズル(注入針)を回転させながら2色のインクla,lbを充填して、「螺旋状」に注入したものである。それに対し、本件特許発明の構成Bは、「複数のインクが互いの界面を軸方向へ連続接触させた状態」であることを特定事項としているものであって、インクの充填方法について何ら特定しているものではない。そこで、イ号物件のインク充填状態をみると、2色のインクla,lbは、螺旋状であるが、「互いの界面10を軸方向、すなわちインク筒1のシール材7側から転写ボール4方向へ向けて、連続接触させた状態で充填されている」ものである。したがって、イ号物件の「インクの螺旋状充填」であっても、本件特許発明の前記特定事項を具備しているので当該特定事項と同一である。(判定請求書第5頁19行〜第6頁1行)
(被請求人の主張)
1.請求項1(原出願)の「互いの界面を軸方向へ接触させた状態」(本件発明の構成要件Bでは、「互いの界面を軸方向へ連続接触させた状態」)は、界面は捩れなどの乱れ現象が生じてその状態に再現性がなく、目視できる界面は軸方向に部分的に接触した状態である。再現性がないとは、界面の状態が種々に変化してコントロールできないことである。これに対してイ号物件は、目視できる界面がインキの先端部から尾端部にかけて軸万向に直線状や螺旋状に連続的に再現性よく接触したものであり、この点において構成が全く異なる。本判定請求事件におけるキーワードは「再現性」である。(答弁書第7頁16〜23行)
2.原出願の、図1と図5は一つの実施例の時系列的な説明図であり、図1は製造の一過程であるインキを充填した直後の状態を示す図であり、図5が完成したボールペンを示す図であることは明白である。つまり、インキタンクに色調の異なる複数のインキを充填した直後は、図1に示すように、界面が波形状に接触した状態であるが、実際には、この状態から更に、図5に示すように、インキの境界が入り乱れて再現性のない状態となり、このことにより美的効果が得られることが理解される。(答弁書第6頁第16〜22行)
(当審の判断)
上記(4)2.で述べたように、本件発明の構成要件Bの「連続」の表現以外は原出願に記載されていたものと認められる。この「連続」という用語が本件発明において用いられていることが適切であるか最初に検討する。
本件明細書の段落0008には、「互いの界面を軸方向へ連続接触させた状態でインクタンク1内に充填され(図1の状態)」と記載されているように、本件明細書の図1(原出願明細書においても図1)のものは互いの界面を軸方向へ「連続」接触させた状態のものと認められる。この点に関して、被請求人は上記のように「図1は製造の一過程であるインキを充填した直後の状態を示す図であり、図5が完成したボールペンを示す図であることは明白である。」と主張しているが、本件明細書には段落0008において、「図1乃至図5は本発明の請求項1及び3に係る本発明筆記具の実施の一例を示し、」と記載され、また、図面の簡単な説明の欄には、「図1 請求項1ないし2、6に係る本発明筆記具の実施の一例を示した縦断面図」と記載されている点からみて、図1記載のものは製造の一過程のものではなく、実施例であることが明確に示されている。
したがって、「連続」という用語が本件発明を表現する用語として不適切であるとすることはできず、本件発明の実質的な出願日は、その優先権主張日である平成10年1月30日とみることができ、イ号物件はそれ以前に公知であるとすることはできない。
ただ、段落0015には、「図1乃至図3においてはインクタンク1内に充填された2色のインクM1,M2が軸方向へ互いの界面6を波形状に接触させた状態で収容されているが、実際には更に捩じれた状態で互いの界面6が接触する等の乱れ現象が生じるものであり、この乱れ現象は同じ充填条件で行っても種々変化するものである。つまり、全く同じ収容状態で2色のインクM1,M2がインクタンク1内に充填されることはなく、個々のインクタンク1によってその収容形態に変化が生じるものであり、再現性がないものである。」と記載されており、被請求人はこの記載と図5の記載を根拠にして、上記の主張を展開しているものであるが、「剪断減粘性」のインクは非筆記時には高粘度ではあるものの、充填ごとに収容形態が変化し、使用すれば当初の充填状態とは異なってくることも十分に予想され、その結果として図5のような充填状態になることもあることが認められる。この点に関して、イ号物件とされる乙第1号証のインクは、そのインクの境界線がはっきりするもので、このような乱れ現象が起きにくいものであることは認められるものの、その化学的・物理的特性が規定されているものであることによるものであって、イ号物件のものも、剪断減粘性のインクを使用して筆跡の色が2色(本件発明の云い方でいえばマーブル調筆記)を達成することができるものである点で、本件発明のものとかわるところは認められない。
そして、充填形態がイ号物件のものは螺旋状ではあるが、インクの互いの界面を連続接触させており、該インクがペン先の方向に向かって充填されているものであるから、本件発明のように「複数のインクが互いの界面を軸方向へ連続接触させた状態で充填」されているものであることにかわりはなく、上記本件発明の構成要件B-2を充足する。
・作用効果について
本件発明の作用効果は、上記(2)本件発明に記載されているとおりであり、イ号物件の作用効果は、上記(3)イ号物件に記載されているとおりである。したがって、イ号図面及びその説明書に記載してある作用効果は、本件発明のものと実質的に変わらない。ただ、被請求人は、イ号物件である乙第1号証のものの剪断減粘性インクはその化学的・物理的特性が規定されていることにより外観的装飾効果(美的効果)の具体的内容(イ号物件のものは「あっ、不思議だなあ」という強烈な印象をユーザーに与える)に明確な差がある点、及びイ号物件のもののマーブル調筆記は確実性、及び品質が高い点で作用効果が異なると主張しているが、イ号物件である乙第1号証のもののインクの化学的・物理的特性が規定されるものであったとしても、これらの作用・効果は剪断減粘性インクを用いることを前提とした効果であって、剪断減粘性インクを用いることによる作用効果は、本件発明のものもイ号物件のものも上記のように実質的に相違しない。
したがって、イ号物件は、本件請求項1,2及び6に係る発明の構成要件の全てを充足しているということができる。
(5)むすび
以上のとおりであるから、イ号物件は、本件請求項1,2及び6に係る発明の技術的範囲に属する。
 
別掲
 
判定日 2001-02-07 
出願番号 特願平10-292358
審決分類 P 1 2・ 2- YA (B43K)
最終処分 成立  
前審関与審査官 砂川 充  
特許庁審判長 村山 隆
特許庁審判官 白樫 泰子
鈴木 寛治
登録日 1999-07-30 
登録番号 特許第2960062号(P2960062)
発明の名称 筆記具  
代理人 細井 貞行  
代理人 石渡 英房  
代理人 早川 政名  
代理人 長南 満輝男  
代理人 田原 寅之助  

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