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審決分類 審判 訂正 ただし書き1号特許請求の範囲の減縮 訂正する C12P
管理番号 1040270
審判番号 訂正2000-39106  
総通号数 20 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1985-06-20 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2000-09-14 
確定日 2000-12-11 
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第2594900号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第2594900号に係る明細書を本件審判請求書に添付された訂正明細書のとおり訂正することを認める。 
理由 1.手続きの経緯
本件特許2594900号は、1983年3月25日になされた英国出願8308235号を優先権主張の基礎として昭和59年3月23日に出願された特願昭59-501609号の特許出願に係り、平成8年12月19日に設定登録がなされたものであって、平成12年9月14日に本件訂正審判が請求されたものである。

2.訂正の趣旨及び内容
上記の訂正審判請求は、特許請求の範囲の減縮を目的として、特許請求の範囲の請求項1の記載における「単一宿主細胞」を「単一宿主酵母細胞」に、即ち同請求項1を
「1.単一宿主酵母細胞における、少なくともIgH鎖およびL鎖の可変ドメインからなる免疫学的機能を有するIgフラグメントまたはIg分子の製造方法であって、
(i)単一宿主酵母細胞を、少なくともIgH鎖の可変ドメインをコードする第一のDNA配列、および少なくともIgL鎖の可変ドメインをコードする第二のDNA配列で形質転換し、そして
(ii)前記第一および第二のDNA配列を独立に発現させ、前記H鎖およびL鎖を前記形質転換単一宿主酵母細胞中で別々の分子として製造することからなる方法。」
に訂正すると共に、当該訂正に伴い、同請求項8の記載における「単一宿主細胞がE.Coli、B.subtilisまたはS.cerevisiaeである」を「単一宿主酵母細胞がS.cerevisiaeである」に、同請求項10の記載における「宿主細胞」を「宿主酵母細胞」にそれぞれ訂正し、かつ同請求項6〜7、9、11及び14を削除し、当該削除に伴う各請求項番号の繰り上げ、及び引用する請求項番号の訂正を求めるものである。

3.訂正の適否
(1)「単一宿主細胞」として「単一宿主酵母細胞」を用いることについては願書に添付した明細書に記載されていた事柄であることから、上記の特許請求の範囲の請求項1,8及び10の訂正、及び同請求項6〜7、9、11及び14の削除は、願書に添付した明細書に記載された事項の範囲内において特許請求の範囲を減縮するものであり、また各請求項番号の繰り上げ、及び引用する請求項の番号の訂正は、願書に添付した明細書及び図面に記載された事項の範囲内において請求項の削除に伴う不明瞭な記載の釈明に相当するものであると認められる。
そして、これら訂正は、いずれも実質上、特許請求の範囲を拡張又は変更するものとは認められない。
そこで、以下上記訂正された特許請求の範囲に記載された発明が独立特許要件を満たしているか否かを検討する。

(2)独立特許要件
(2-1)訂正後の本件発明の要旨:
訂正後の本件発明の要旨は、前記訂正後の特許請求の範囲請求項1に記載されたとおりのものであると認められる。
即ち、訂正後の本件発明は、少なくともIgH鎖の可変ドメインをコードする第一のDNA配列、および少なくともIgL鎖の可変ドメインをコードする第二のDNA配列を用いて単一宿主酵母細胞を形質転換し、当該形質転換細胞中で前記第一および第二のDNA配列を独立に発現させて前記H鎖およびL鎖を別々の分子として製造することにより、少なくともIgH鎖およびL鎖の可変ドメインからなる免疫学的機能を有するIgフラグメントまたはIg分子を製造する方法に係る発明である。

(2-2)優先権主張の適否:
訂正後の本件発明が上記優先権主張の基礎となる英国出願明細書中に、完成された発明として記載されていたか否かを検討する。
優先明細書には、実施例3としてpre-λ遺伝子およびpre-μ遺伝子をBglIIで切断されたプラスミドpMA91中に挿入することが記載されているが、これらそれぞれの遺伝子を含有するベクターを用いて単一の酵母宿主細胞で両遺伝子を発現させて、免疫学的機能を有するIg分子又はIgフラグメント産生を確認した実施例はない。
そして、本件優先権主張日前には、上記pre-λ遺伝子、およびpre-μ遺伝子をそれぞれに含有したプラスミドpMA91を、両者ともに単一の酵母宿主内に導入しさえすれば、確実に両者とも発現し、しかもその両発現物が適切な形態に折り畳まれ、適切に結合して、Ig分子又はIgフラグメントとしての免疫学的機能を獲得できるといえるほどの技術常識が存在したとはいえないから、本件の優先明細書中には、単一の酵母宿主細胞を用いて免疫学的機能を有するIg分子又はIgフラグメントを製造する方法に係る訂正後の本件発明が、完成された発明として開示されていたとはいえない。
ところで、本件の我が国への出願時に単一酵母宿主細胞でのμおよびλ蛋白質の発現に関する実施例(特許公報第14頁右欄)が明細書中に追加されたが、当該実施例で用いられている発現ベクターは、μ遺伝子を含むプラスミドは優先明細書に記載されていた「pre-μ遺伝子を含有したpMA91(pMA91pre-μ)」であるものの、λ遺伝子を含むプラスミドとして用いたものは、優先明細書に記載されている「pre-λ遺伝子を含有したpMA91(pMA91pre-λ)」ではなく、pMA91pre-λから切り出したpre-λ遺伝子をプラスミドpLG89のHindIIIサイトに挿入したpLG89pre-λである。
そして、当該pLG89pre-λを作成するために使用したpLG89プラスミドが記載されている文献であるGene,25,(Nov.1983)p.179-188が本件優先権主張日後に頒布されたものであることからみて、上記実施例中のpLG89pre-λは本件優先権主張日前には入手できなかったプラスミドであるといえる。
してみれば、我が国出願時に追加された、本願優先権主張日以降に開発されたプラスミドを用いた実施例によりはじめて、単一酵母宿主細胞でμおよびλ蛋白質が発現し、かつその発現産物に特異的抗原結合活性(Ig分子もしくはIgフラグメントの免疫学的機能)が存在することが確認されたというべきである。
即ち、単一酵母宿主細胞を用いる訂正後の本件発明については、我が国の出願明細書においてはじめて完成された発明として開示されたものである。
したがって、訂正後の本件発明は優先明細書中に開示されていなかったのであるから、本願は優先権の利益を享受することができず、その基準日は現実の出願日である昭和59年3月23日である。

(2-3)本件出願日(昭和59年3月23日)以前の文献との比較:
本件出願前に頒布されたProc.Natl.Acad.Sci.USA vol.80.,6351-6355(1983)(以下、引用文献1という。)には、「2,4,6-トリニトロフェニールハプテン特異的なイムノグロブリンM(IgM)を産生するハイブリドーマSp6セルラインからクローニングした再構築イムノグロブリン重鎖(μ)遺伝子と軽鎖(κ)遺伝子を、トランスファーベクターpSV2-neoに挿入し、様々なプラズマサイトーマ、ハイブリドーマセルラインに導入した。μおよびκ遺伝子の導入は、五量体でハプテン特異的、機能的なIgMを生産する結果になった。」(第6351頁左欄1行〜7行)ことが記載され、具体的な実験例により単一の形質転換宿主細胞であるハイブリドーマ、又はプラズマサイトーマを用いて重鎖(μ)、軽鎖(κ)を別々に発現させて、両鎖の正常な結合が行われIgMの免疫学的機能を有する発現産物が取得できたことが確認されている。
しかしながら、当該引用文献1で用いられた単一の宿主細胞はハイブリドーマ、プラズマサイトーマのみであり、他の宿主細胞、例えば酵母細胞を用いることについては記載されておらず、そもそも当該ハイブリドーマ等は哺乳動物由来で本来イムノグロブリン(Ig)産生能があり、細胞自身に本来備わったIg産生機構が働くことが期待できる点で他の宿主細胞とは同列には論ずることはできないから、ハイブリドーマ等における上記成功例から直ちに酵母形質転換細胞を用いた場合でも同様に成功するとは期待できるものではない。
また、本件出願日前の文献であるGene,25,(Nov.1983)p.179-188(以下、引用文献2という。)には、本件明細書中に記載されるpLG89pre-λを作成するために使用したpLG89プラスミドを酵母(S.cerevisiae)での発現ベクターとして用いることについては記載されているものの、当該プラスミドを用いて酵母細胞内でIg分子もしくはそのフラグメントを発現することは記載されておらず、本件出願以前には、Ig分子又はIgフラグメントをコードする遺伝子を酵母宿主内に導入した場合に、適切に折り畳まれた形態で免疫学的機能を有するIg分子又はIgフラグメントとして発現できるといえるほどの技術常識が存在したとはいえない。
してみれば、少なくともIgH鎖の可変ドメインをコードする第一のDNA配列、および少なくともIgL鎖の可変ドメインをコードする第二のDNA配列を用いて単一の形質転換宿主細胞中でこれら第一および第二のDNA配列を独立に発現させて前記H鎖およびL鎖を別々の分子として製造する際の宿主細胞として酵母細胞を選択することは、当業者であっても、本件出願前に容易に想到できるものではない。
そして、訂正後の本件発明においては、その結果、単一の酵母宿主細胞を用いたにもかかわらず、何ら再構成手段を講じることなく、少なくともIgH鎖およびL鎖の可変ドメインからなる免疫学的機能を有するIgフラグメントまたはIg分子を、当該細胞の培養上清中に分泌できるという、上記各引用文献の記載からは予測できない効果が奏せられたものと認められる。
したがって、訂正後の本件発明は上記引用文献1及び2の記載に基づいては当業者が容易になし得たものであるとはいえない。

(2-4)まとめ:
また、訂正後の本件発明について、他の拒絶の理由を見いだせないから、訂正後の本件発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものである。

(3)してみれば、前記訂正は、特許法第126条の規定を全て満たすものである。

4.結論
したがって、本件訂正審判請求は認められるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
マルチチェインポリペプチドまたは蛋白質およびそれらの製造方法
【発明の詳細な説明】
本発明はマルチチェイン(multi chain)ポリペプチドまたは蛋白質、特にIgタイプの分子を組換えDNA技術により形質転換された単一宿主細胞中で製造する方法に関している。
近年の組換えDNA技術を基礎とする分子生物学における進歩は、異質性(外来性)ポリペプチドまたは蛋白質の生成をコードする異質DNA配列で形質転換された宿主細胞中にそれらを生成さす方法を提供した。
理論的には、適切なDNAコード配列が同定されそして宿主細胞を形質転換するのに用いうる限り、組換DNAのアプローチを、適切な宿主細胞中での、いずれの異質ポリペプチドまたは蛋白質の生産に応用しうるであろう。実際には、商業的に有用な生成物の生産に組換えDNAのアプローチをまず試みた時に、いずれかの特定のポリペプチドまたは蛋白質の生産にそれを応用することは、特殊な問題および難点を呈した。そして、いずれかの特定のポリペプチドまたは生成物の生産にこのアプローチを適用することの成否は容易に予知しうるものでなかった。
しかし、今や、多数の異質シングルチェイン(single chain)ポリペプチドまたは蛋白質か、組換えDNA技術により形質転換された宿主細胞により生産されている。そのような異質シングルチェインポリペプチドまたは蛋白質の例には、ヒトインターフェロン、ヒトインスリンのAおよびB鎖、ヒトおよびウシの生長ホルモン、ソマトスタチン、ウシプロキモシンおよびウロキナーゼがある。このような形質転換された宿主細胞は、産業規模の発酵技術を用いる産業規模で生産されうる異質ポリペプチドまたは蛋白質の標準品を再現性よく供給する。
指摘すべきこととして、これらのポリペプチドのあるもの、たとえばウロキナーゼは、宿主細胞により分泌されたあと2本鎖分子として現われる。しかし、そのような場合、分子は、1本のDNAの配列によりコードされる1本鎖ポリペプチドとして宿主細胞により合成され、これが宿主細胞中で切断されて2本鎖の構造となる。
ヒトおよび動物のシステム中において、マルチチェイン構造を有し、その構造において、それらの鎖が1本のDNA配列によりコードされる1本鎖ポリペプチドの切断に由来するものでない、いくつかのポリペプチドまたは蛋白質が知られている。そのような場合、鎖のそれぞれについての遺伝子は同じ染色体の異なる点に位置するかまたは異なる染色体上に存在する場合さえもある。これらの場合、ポリペプチド鎖は別々に合成し、それから組上げて完全な分子とする。これまで、単一の宿主細胞より組換えDNA技術により、そのようなマルチチェインポリペプチドが生産されたことはなかった。
そのようなマルチチェインポリペプチドまたは蛋白質の例に特に免疫グロブリンがある。
免疫グロブリンは、一般に抗体といわれ、細菌、ウィルスおよび外来蛋白質のような外来抗原によりチャレンジされた動物においてB-淋巴球により生成される蛋白質分子である。免疫グロブリンはヒトおよび動物の免疫系において不可欠の役割を担っている。免疫グロブリンは外来物質の特異的部分を認識し、それらに結合する。特異的部分はふつう抗原決定基または抗体結合サイトとして知られる。ある抗原物質は、ある数の異なる抗原決定基を有するようである。
第1図に典型的な免疫グロブリン(Ig)分子を示す。これを参照して説明する。Ig分子は約600アミノ酸残基の、2本の同じポリペプチド鎖(ふつう重鎖Hと称する)を有する。これらは相互にジスルファイド結合で結ばれている。そして、また、約220アミノ酸残基の、2本の同じより短かいポリペプチド鎖(ふつう軽鎖Lと称する)を含有し、これらは、示すように各重鎖の一方の端にジスルファイド結合している。
Ig分子が正しく折りたたまれると、各鎖は一定数の明瞭な球状域を形成する。これらはふつうドメイン(domain)として知られ、より直線状のポリペプチド鎖により連結される。L鎖は2個のそのようなドメインを有し、ひとつは、可変配列VLを有し、他は不変配列CLを有する。H鎖は、L鎖の可変ドメインVLに隣接して、ひとつの可変ドメインVHを有し、そして、3または4個の不変配列ドメインCH1-3または4を有する。
H鎖およびL鎖共にその上の可変ドメインは、それぞれに3個の超可変性領域(HV1-3)を含有し、それらは、Ig分子が正しく折りたたまれた時に相互に隣接して位置し抗原結合サイトを形成する。Ig分子が特異的である抗原決定基を認識し、それに結合するのはこの領域である。
Ig分子の不変ドメインは抗原決定基への結合にあづからず、Ig分子の抗原決定基への結合により引き金を引かれる作用を媒介する。この引き金は、Ig分子が抗原決定基に結合することでおこるアロステリック効果によりひかれると信ぜられる。不変ドメインは、Ig分子が補体を結合することを可能としたり、マスト細胞にヒスタミンを放出させたりしうる。
Igは、それらの含有するとされるH鎖不変ドメインの数に応じてクラスまたはサブクラスに分類しうる。マウスでは8個のそうしたH鎖が可能である。たとえばμH鎖を有するIg分子は、クラスIgMに属し、そしてγ1H鎖を有するものはクラスIgG1に属する。
Igはまた2個のL鎖(KおよびλL鎖と称する)の1個を含有しうる。それらは異なる不変ドメイン、および可変ドメインの異なったセットを有している。
Ig分子の構造およびそれの種々のドメインをコードする遺伝子の位置は、EarlyおよびHoodにより、Genetic Engineering,Principles and Methods,3巻,153-158頁(SetlowおよびHollaender編、Plenum Press)により詳しく論ぜられている。
Ig分子を選択された酵素で消化すると、一定数の免疫学的に機能するフラグメントを生ずることが知られている。2つのそのようなフラグメントはFabおよび(Fab’)2として知られる。Fabフラグメントは、第1図に示すように、H鎖のVHおよびCH1ドメインに連結して1個のL鎖を含有する。(Fab’)2フラグメントは、第1図に示すように、H鎖の小さい追加の部分により相互に連結されている2個のFabフラグメントより本質的に成立っている。これらのフラグメントおよび他の類似のフラグメントは、種々の試験および診断および医学的方法に有用でありうる。
Igを生産するために用いる主な方法は、感受性の動物を抗原物質で免疫して免疫反応をおこすことである。ふつうIgの収量を改良するのに2度免疫する。ついで動物から採血し、血清よりIgを採取する。
しかし、この方法による生成物は均質蛋白質でない。動物は種々のクラスのIgそしてまた抗原物質上の種々の抗原決定基のそれぞれの特異的のIgを生成する。それで血液はIgの不均質な混合物を含有することになる。そのような混合物より特定のクラスのそして望む特異性を有する特異的Igをうることは、非常に困難で面倒な精製操作を必要とする。
最近、kohlerおよびMilstein(Nature,256,495-479,1975)により最初に記載された技術により、ひとつのクラスに属しそしてひとつの特異性を有する均質Igを生産することが可能となった。この技術では、ひとつのIg‐生産性親細胞を癌細胞と融合させ、そのIgを生産するモノクローナルハイブリドーマ細胞とする。この技術で生成されるIgはふつうモノクローナル抗体として知られる。モノクローナルIgの性質は、親細胞の生成するIgのクラスおよび特異性で定まる。
最近、Ig分子のフラグメントを生成さすのに組換えDNA技術を用いようとする試みがある。たとえば、Amster等(Nucleic acid Research,8,No.9,1980,2055から2065頁)は、マウスIgL鎖をコードする2本鎖cDNA配列をプラスミド中にクローニングすることを記載している。このプラスミドで形質転換されたE.coli株は、L鎖の全不変ドメインおよび可変部の約40個のアミノ酸残基を含有すると思われる蛋白質を合成した。
KempおよびCowman(Proc.Natl.Acad.Sci.USA,78,1981,4520より4524頁)は、マウスH鎖フラグメントをコードするcDNA配列のクローニングおよびE.Coliの形質転換、それによるH鎖ポリペプチドフラグメントの合成を記載している。
これらの両方のケース共、ポリペプチドは融合蛋白質として生成され、Igポリペプチドのフラグメントは、追加の非Igポリペプチド配列および不完全の可変ドメインと融合している。それで、これらの研究で生成されたポリペプチド鎖は、相補的なH鎖またはL鎖と組合わさり、インタクトの抗原結合サイトおよび免疫学的機能を有するIg分子を提供しえないので、免疫学的機能をするポリペプチドとならない。
哺乳動物システムでも研究はなされている。たとえば、FalknerおよびZachau(Nature,298,1982,286から288頁)の報告によると、マウスL鎖をコードするcDNA配列をプラスミドにクローニングし、それを用いてゲノム性の真該細胞をトラスフェクションした。細胞は、一過性にL鎖を合成しえた。
RiceおよびBaltimore(Proc.Natl.Acad.Sci.USA,79,1982,7862から7865頁)は、機能的に再編成されたKL鎖Ig遺伝子を、ネズミ白血球ウィルスで形質転換された淋巴球セルラインにトランスフェクションした。細胞は連続的に遺伝子を発現しうるようになった。これら両方の場合共、哺乳動物細胞にトランスフェクションするに用いたK遺伝子は、骨髄腫細胞より得られそして生成Kポリペプチドは中間的免疫学的機能を有するものであった。
さらに別のアプローチを示すと、Valle等の1連のペーパー(Nature,291,1981,338-340;Nature,300,1982,71-74;およびJ.Mol.Biol.,160,1982,459-474)では、マウス骨髄腫ラインから分離された、IgのHまたはL鎖をコードするmRNAをアフリカツメガエルの卵細胞にミクロインジェクションしている。条件により完全なIg分子が形成された。しかしmRNAは骨髄腫細胞より得られIg分子の免疫学的機能は中間的であった。
それで、組換えDNA技術により機能的Igは生成され得なかったとみなしうる。
本発明の目的は、単一宿主細胞における、少なくともIgH鎖およびL鎖の可変ドメインからなる免疫学的機能を有するIgフラグメントまたはIg分子の製造方法を提供することにある。この方法は、
(i)単一宿主細胞を、少なくともIgH鎖の可変ドメインをコードする第一のDNA配列、および少なくともIgL鎖の可変ドメインをコードする第二のDNA配列で形質転換し、そして
(ii)前記第一および第二のDNA配列を独立して発現させ、前記H鎖およびL鎖を前記形質転換単一宿主細胞中で別々の分子として製造することを特徴とする方法である。
本発明は上記した型のIg分子および免疫学的に機能するIgフラグメントの生成に特に応用されうるが、それらに限定されるわけでない。しかし、本発明が他のマルチチェインポリペプチドまたは蛋白質の生成に応用されうることはもちろんである。
本発明に準ずるIg分子の生成物に関しては、機能的分子を生成するために宿主細胞を形質転換するに用いるDNA配列がIg分子の少なくともVLおよびVHドメインをコードする必要であろうことはもちろんである。さらに、これらのドメインは、2つのポリペプチド鎖が相互に折れたたまれた時に、あらかじめ定められた特異性を有する抗原結合サイトを形成するように、相補的である必要があろう。
なるべくは、Ig分子またはフラグメントは、完全なL鎖、およびH鎖UHドメインに加えて少なくCH1ドメインを含有するようにする。Ig分子がインタクトであるのがもっとも有利である。
本発明により、インタクトの可変ドメインを有する個々のH鎖およびL鎖を生成することが可能となった。これは従来は不可能であった。そこで、本発明の第3の特徴はインタクトの可変ドメインを有する、IgHまたはL鎖またはそれらのフラグメントを、組換えDNA技術の生成物として提供することである。
有利には、本発明に準ずるIg分子またはそれの機能的フラグメントは、臨床的または産業的に重要な抗原決定基に対する結合サイトを定める、VLおよびVHドメインにより形成される可変域を有するようにする。そのような分子を生成するに必要なDNAコード配列は、望む特異性を有する、天然に存在するか、またはハイブリドーマ(モノクローナル)Ig‐生成性の細胞に由来しうる。
Ig分子またはフラグメントの不変ドメインは、もしそれが存在するならば、可変域と同じセルラインに由来しうる。しかし、不変ドメインは特異的に改変されうる。あるいは、部分的にまたは完全に省略しうるし、または、異なるクラスのIgを生成するセルラインに由来するものとし、そうして、望む性質のIg分子またはフラグメントとなしうる。
たとえば、望む特異性を有するモノクローナル抗体よりのものと同じ可変ドメイン(VHおよびVL)を有しそして望む性質、たとえばヒトへの適合性または補体結合サイトを提供するような、別のモノクローナル抗体よりの不変ドメインを有するIg分子を生成させうる。
不変ドメインのアミノ酸配列のそのような改変は、適当な変異または部分合成そして相当するDNAコード配列適切な領域の置き代えまたは部分的または完全な置換で達成されうる。不変ドメインの置換は、和合性の、組換えDNA配列により得られる。
本発明は、免疫精製、イムノアッセイ、細胞化学的ラベリングおよびターゲッティング法および診断または治療に有用なIg分子またはフラグメントの生成に用いうる。たとえば、Ig分子またはフラグメントはインターフェロンまたはファクターVIIIのような血液凝固因子といった治療活性のある蛋白質に結合させうるので、蛋白質の免疫精製またはアッセイに用いるためのアフィニティクロマトグラフィーの媒体となしうる。
不変域のひとつに付着した別のペプチド結合を有するIg分子を宿主細胞により合成させうる。それらのさらに加えたペプチド結合は細胞毒性でも酵素的でもありうる。別様には、そのような結合は、細胞または組織のような生物学的基体またはクロマトグラフィー媒体のような非生物学的基体にIg分子を付着さすのに有用でありうる。そのようなペプチド結合は、本明細書では構造性ペプチド結合と称することにする。
さらに、Ig分子と共に合成されうるよりむしろ、すでにこの方面で技術で知られているように、ふつうのペプチド化学の方法で、細胞毒性、酵素的または構造性ペプチド結合をIg分子に付着さすことも考慮される。
Ig分子またはフラグメントはまた治療剤そのものを含有しうる。たとへばD血液群抗原に特異的のIg分子またはフラグメントは、新生児の溶血性の病気の予防に有用でありうる。
本発明のマルチチェインポリペプチドまたは蛋白質の生成には任意の適当な組換えDNA技術を用いうる。ポリペプチドまたは蛋白質の鎖のそれぞれをコードするDNA配列を含有するプラスミドのような代表的な発現ベクターを構築する。
1本より多くの鎖をコードするDNA配列を含有する単一ベクターを構築しうることはもちろんである。たとへば、IgのHおよびL鎖をコードするDNA配列を、同じプラスミドの異なる位置に挿入しうることはもちろんである。
別様には、それぞれの鎖をコードするDNA配列を個別的にプラスミドに挿入し、それぞれに特定の鎖をコードする、一定数の構築プラスミドを生成させうる。なるべくは配列を挿入するプラスミドは和合性とする。
構築されたプラスミド(単または複数)を用いて宿主を形質転換し、ポリペプチドまたは蛋白質の鎖のそれぞれをコードするDNA配列を宿主細胞が含有するようにする。
細菌システムにおいてクローニングするに用いうる適当な発現ベクターには、Col El,pcR1,pBR322,pACYC184およびRP4,ファージDNAまたはそれらのいずれかの誘導物といったプラスミドがある。
酵母システムにおいてクローニングするのに用いるためには、適当な発現ベクターは、2ミクロンオリジンにもとづくプラスミドである。
適当な哺乳動物遺伝子プロモーター配列を含有するプラスミドならいずれも、哺乳動物システム中にクローニングするのに用いうる。そのようなベクターには、たとへばpBR322、ウシ乳頭腫ウイルス、レトロウイルス、DNAウイルスおよびワクシナウイルスに由来するプラスミドがある。
異質マルチチェインポリペプチドまたは蛋白質の発現に用いうる適当な宿主細胞には、E.coliまたはB.subtilisのような細菌、放線菌、S.cereuisiaeのような酵母、昆虫または哺乳動物セルラインのような真核細胞がある。適当な細菌性宿主細胞には、E.coli HB101、E.coli X1776、E.coli X2882、E.coli PS410、E.coli MRC1、E.coli RV 308、E.coli E103SおよびE.coli Bがある。
本発明はさらに、本発明のマルチチェインポリペプチドまたは蛋白質を生成さすに用いるための構築されたベクターおよび形質転換された宿主細胞に関する。
同じ宿主細胞中で個々の鎖を発現させたあと、それらを採取して、活性型の完全なマルチチェインポリペプチドまたは蛋白質、たとへばあらかじめ定めた免疫学的機能のあるIg分子が得られる。
本発明の有利な形として、個々の鎖は宿主細胞により処理されて完全なポリペプチドまたは蛋白質となり、それらは有利には宿主より分泌されるであろう。
しかし、個々の鎖が不溶な、または膜に結合した形で生成されうる。それで個個の鎖を可溶化し、溶液中で鎖をふたたび折りたたませ活性のあるマルチチェインポリペプチドまたは蛋白質を形成させる。不溶または膜結合型に発現されたポリペプチド鎖を可溶化するための適当な操作は、我々の特許願(蛋白質の採取、Protein Recovery,Agent’s Ref.GF 402120および402121)に記載されている。
組上げられて完全なマルチチェインポリペプチドまたは蛋白質を形成するような別々のポリペプチドの2個またはそれより多くを発現するように宿主細胞を形質転換しうることを本特許願が始めで示したことを理解されたい。それぞれの宿主細胞より単一鎖異質ポリペプチドまたは蛋白質の生成のみに関連する従来法において、本発明の内容は明らかにされなかったし、示唆されていなかった。
本発明は、図面を参照しながら、例を用いて記載してゆく。
第1図は、代表的なインタクトのIg分子を図解したものである。
第2図は、E.coli中にλL鎖を直接に合成するためのプラスミドの構築を示す。
第3図は、E.coli中にμH鎖を直接に合成するためのプラスミドの構築を示す。
第4図は、開始コドンのまわりのμmRNA配列を図示する。
第5図は、開始コドンのまわりの改変された2次構造を有するプラスミドの構築を示す。
第6図は、E.coli Bよりのμ蛋白質の発現および分布を示すポリアクリルアミドゲルである。
第7図は、E.coli BおよびE.coli HB101中のμ蛋白質のパルスチェイスオートラジオグラムを示すポリアクリルアミドゲルである。
第8図は、E.coli中のλ遺伝子発現の結果を示すポリアクリルアミドゲルである。
第9図は、可溶性および不溶性細胞分画のあいだの組換えλL鎖ポリペプチドの分配を示すポリアクリルアミドゲルである。
第10図は、E.coli E1.03Sよりのλ蛋白質の発現および分布を示すポリアクリルアミドゲルである。
第11図は、E.coli Bにより発現されたμおよびλ蛋白質のDEAE Sephacel上の分画の結果を示す。
第12図は、再構成されたIg分子の特異的ハプテン結合を示す。
第13図は、再構成されたIg分子のハプテン結合のヘテロクリット(heteroclitic)性を示す。
以下の例では、E.coliおよびS.cerevisiaeを宿主細胞に用い、抗原決定基4-ヒドロキシ-3-ニトロフェニルアセチル(NP)を認識しそして結合するモノクローナル抗体に由来するIgLおよびH鎖ポリペプチドの生成を記載する。ここで組換えDNAを用いて、宿主細胞に両方のポリペプチド鎖を発現させた。
本発明が、以降に記載する具体的方法および構成に限定されぬことはもちろんである。
ラムダ-L鎖発現プラスミドの構築
第2図は、λL鎖発現プラスミドを構築するために用いる方法を模式的に示す。真核性シグナルペプチドを欠くがアミノ末端にメチオニンイニシエーター残基(met-ラムダ)を含有する遺伝子の直接的発現によりE.coli中にラムダ遺伝子を発現さすことにした。met-ラムダの細菌的合成に用いるアプローチとして、cDNAクローンの制限フラグメントよりインビトローで遺伝子を再構築し、そして細菌プラスミドpCT54中に挿入するための合成DNAフラグメントを用いることである(Emtage等、Proc.Natl.Acad.Sci.USA.,80,3671から3675,1983)。このベクターは、E.coli trp プロモーター、オペレーターおよびリーダーリボゾーム結合サイトを含有する。さらにリボゾーム結合サイトより14ヌクレオチド下流には、イニシエーターATGがあり、すぐにEcoRIおよびHind IIIサイトおよびバクテリオファージT7よりのE.coli RNAポリメラーゼのためのターミネーターがある。
L鎖の材料には、pBR322のPst Iサイト中にクローン化された完全長λ1L鎖cDNAを含有するプラスミドpABλ1-15を用いた。このλ1L鎖は、4-ヒドロキシ-3-ニトロフェニルアセチル(NP)ハプテンを結合する、S43と称するモノクローナル抗体に由来する。pCT54のHind IIIサイト中に挿入するためのHind IIIサイト3’をラムダ-遺伝子の末端に創出するために、PstIを用いてpABλ1-15よりcDNAを切り出した。接着末端は、DNAポリメラーゼのKlenowフラグメントを用い配列5’-CCAAGCTTGG-3’の合成Hind IIIリンカー分子をリゲーションさせて平滑末端とした。DNAはHind IIIで消化しそして850bpラムダ-遺伝子をゲル電気泳動で分離し、Hind IIIで切断したpAT153にクローン化してプラスミドpATλ1-15とした。pATλ1-15よりラムダ-遺伝子3’末端を、Hind IIIによりそして部分的SacI消化により630bp SacI-Hind III フラグメント(第2図の2)として分けた。Hind III接着末端は、引き続く反応においてこの末端での望ましからぬリゲーションを防ぐために、フラグメントを分離するあいだにウシ小腸アルカリホスファターゼで脱リン酸化した。
HinfI 制限サイトは、コドン7および8とラムダ-配列とのあいだに位置する。ラムダ-遺伝子の5’末端は、148bpのHinfIからsacIへのフラグメント(第2図の1)として分離した。
2つのオリゴデオキシヌクレオチドは、コドン1-8を恢復し、そしてイニシエーターATGならびにBclIおよびHinfI接着末端を提供するようにデザインした。2つの化学的に合成されたオリゴヌクレオチドは、遺伝子の組立てを容易にするようにしたもので、つぎの配列を有する。
R45 5’-pGATCAATGCAGGCTGTTGTG 3’
R44 3’ CCGACAACACTGAGTCCTTAp-5’
pCT54はBcl1およびHind IIIの両方で切り生ずる直線状分子を分離し、2個のオリゴデオキシリボヌクレオチドリンカーR44およびR45、およびフラグメント1および2の両方と混合し、T4リガーゼを用いてリゲーションさせた(第2図)。この混合物を用いてE.coli DHI を形質転換しアンピシリン抵抗性とした。pCT54中の組換えクローンは、pATλ1-15インサートに由来するニック-トランスレーションプローブヘ、ニトロセルロース上のレプリカプレートされたコロニーよりのDNAをハイブリダイゼーションさせて同定した。
ラムダ-cDNAにハイブリダイゼーションしそして予期される制限フラグメントパターンを示したクローンを同定した。このプラスミド(pCT5419-1と称する)をClaIサイトより配列を決めると、第4コドンでCTGからATGに変わり、この点でのアミノ酸がバリンよりメチオニンに変わったことを除いて、予期された配列を有した。
この部分の配列はつぎのようである。
...GATTGATCA.ATG.CAG.GCT.GTT.ATG.ACT.CAG.GAA.TCT.GCA.CTC.ACC.ACA.TCA
met gIn aIa val met thr gln glu ser ala leu thr thr ser
リボゾーム結合に重要な、ShineおよびDalgarno配列のあいだのpCT54中の制限酵素サイト(AAGG)およびATGは、発現率を決めるに重要なパラメーターであるSD-ATG距離の調整を可能とする。SD-ATG距離を減少さすには、プラスミドをClaIまたはBclIで切りS1ヌクレアーゼで消化して平滑末端を有する種とする。ClaIで切ったDNAの2μgを、標準緩衝条件を用いて30℃で30分S1ヌクレアーゼの200単位で消化した。溶液をフェノールで除蛋白し、エタノール沈殿でDNAを採取した。このDNAをT4DNAリガーゼ再リゲーションし、E.coli HB 101株を形質転換し、ClaIまたはBclIサイトを失なったある数のプラスミドを生成させた。ClaIサイトを失なったプラスミドは、イニシエーターATGのまわりの領域で配列を定めた。
....AAGGGTATTGATCAATG CAG....プラスミド pNP 3
SD met glu
....AAGGGTTTGATCAATG CAG プラスミド pNP 4
SD met glu
高レベルの発現を達成するためには、いくつかの別のアプローチも行なった。第1に、Bal31エクソヌクレアーゼでcDNAの3’未翻訳領域のより多くを除いた1連の構築物を得た。第2にλcDNAを含有するコピー数の高いプラスミドを構築した。このプラスミドは、パール(par)機能(Meacock,P.A.およびCohen,S.N.,Cell,20,529-542,1980)を、高コピー数とあわせて有した。第3に、pNP3プラスミドは、プロテアーゼを欠如するドミナントとして作用するプラスミド(Grossman,A.D.等、Cell,32,151-159,1983)とあわせて、ある数のプロテアーゼ欠如株またはHB101の形質転換に用いた。
μH鎖発現プラスミドの構築
NP結合性のモノクローナル抗体B1-8に由来する完全長μH鎖cDNAをpBR322のPstIサイトにクローン化しpABμ-11と称するプラスミドとした(Bothwell等、Cell,24,.625-637,1981)。高レベルの発現を達成するには真核性リーダを欠くμcDNAをpCT54中に再構築した。μH鎖発現プラスミドの構築は、第3図に示した。2つの化学的に合成されたオリゴヌクレオチドは、これを容易にした。これらは、つぎの配列を有する。
R43 5’ GATCAATGCAGGTTCAGCTGCA 3’
R46 3’ TTACGTCCAAGTCG 5’
これらはT4DNAリガーゼを用いてBclI切断pCT54にリゲーションした。生ずるプラスミドはpCT54Pstと称した。pCT54中のBclIサイトとATGとのあいだの配列をおき代えて内部PstIサイトを供給し、そしてpAB-115’よりPstIサイトまでコドン+1までの配列を再創出するためにデザインした。pCT54PstはPstIで短時間切り、アルカリホスファターゼで処理し、1%アガロースゲルより完全長DNAグラスを分離した。同様にしてpABμ-11をPstIで短時間切り、アガロースゲル電気泳動を用いて完全長μインサートを分離した。標準条件でT4DNAリガーゼを用いてμcCNAを完全長pCT54PstフラグメントとリゲーションさせそしてpCT54μと称するプラスミドを同定した。これは制限酵素分析で完全長μインサートを含有することが示された。5’リンカー領域のまわりのプラスミドの配列定め予期された配列
5’....TGATCAATGCAGGTTCAGCTGCAGGGGGGGGATGGGATGGAG....3’
を有することが分った。このことは、それがまさに完全長クローンであることを示す。pCT54μの完全PstI消化で1.4Kbフラグメントが遊離した。これは0.8%アガロースゲル電気泳動およびガラス粉末分離により精製した。このものは、標準条件でT4 DNAリガーゼを用いPstI切断pCT54Pst(上記をみよ)とりゲーションさせ、それでHB101を形質転換した。pNP1と称するプラスミドを分離した。これは制限エンドヌクレアーゼパターン分析で、適切な配向で1.4KbμcDNAフラグメントを含有することが示された(第3図)。pNP1は発現のための適切な5’末端より成立つプラスミドで、他方pCT54は、適切な3’末端を含有した。完全長遺伝子は、プラスミド中でひとつそしてμ遺伝子中でひとつ切断するAvaIでpNP1およびpCT54μの両方を切断することによりpCT54中に再構築した。両方の消化物は1%アガロゲルに処し、pNP1より1.9kbフラグメントをそしてpCT54μより3.65kbフラグメントを分離した。3.65pCT54μフラグメントをアルカリホスファターゼ処理してから、DNAの2つの片は相互にリゲーションさせそしてHB101を形質転換した。pNP2と称するプラスミドを固定した。これは正しい制限エンドヌクレアーゼパターンを示した。イニシエーターATGのまわりの領域でそれの配列を定めたところ、予期された配列
5’..TTGATCAATGCAGGTTCAGCTGCAGCAGCCTGGGGCTGAGCTTGTGAAG...3’
を有することが分った。ベクターpCT54は、S-D配列(AAGG)と開始コドンとのあいだに2つの制限サイト(Bcl 1およびCla 1)を含有し、これら2つの配列要素のあいだの距離を変えうるように構築した。大部分のE.coli mRNAはS-D配列とAUGのあいだに6-11ヌクレオチド有するので、pNP2中の距離は、Cla 1サイドでの改変により減少させえた。pNP2はCla 1で切断しS1とインキュベートした。S1ヌクレアーゼの量は、酵素による“ニブリングnibbling”の結果として1から2個の余分の塩基対をある数のDNA分子が失なうように調節した。このDNAをT4 DNAリガーゼで再リゲーションし、E.coli株 HB101を形質転換することにより、Cla 1サイトを失なったプラスミドを含むコロニーのいくつかを得た。4個のプラスミドpNP223、pNP261、pNP9およびpNP282のまわりの開始コドンを決定し、下記の表1、パートAに示した。これらの構築物のE.coliB中の発現を3回の実験で調べ、μ蛋白質の濃度はELISAで測定し、pNP9に対して、標準化したμ濃度の尺度としての相対的単位(ru)で表わした。結果は表1に示す。
誘導を行なうのに、KH2PO4(3g/l)、Na2HPO4(6g/l)、Nacl(0.5g/l)、Difcoビタミンアッセイカサミノ酸(30g/l)、NH4Cl(4g/l)、グリセロール(16g/l)、プロリン(0.5g/l)、Difco酵母エキス(1g/l)、CaCl2・6H2O(0.022g/l)、MgSO4・7H2O(0.025g/l)、チアミン(0.01g/l)およびカルベニシリン(0.19/l)より成立つ誘導培地に、1度培養の細胞を1対50に希釈した。培養物は37℃で振り、遠心採取した。
Patel等の記載(Nucleic Acid Research,10,5605から5620,1982)に本質的に準じてELISA分析を行なった。アフィニティ精製ヒツジ抗マウスIgM(Tago)およびアフィニティ精製ヒツジ抗

マウスIgM(Tago)のパーオキシダーゼ複合物を用い、3,3’、5,5’-テトラメチルベンジジン(Miles)を基質に用いた。細菌細胞ペレットは9M尿素(BRL)中で2分間煮沸し、ELISAにじかに加えた。ウエルはすべて2.25M尿素、10mM Tris-HCl pH7.8、150mM NaCl、0.05% NP 40および0.5%カゼイン(Hammarsten,B.D.H)を含有するようにした。
ヌクレアーゼS1を用いてS-DからATGまでの距離を変えると、親プラスミドpNP2に比してμ発現のレベルが増加することが分ったが、その程度は少ない(pNP9と比較せよ)。pNP9およびpNP261におけるようにS-DからAUGまでの至適距離は9-10ヌクレオチドであった。
2次構造の解析
Dr.Royer Stadenの開発したコンピュータープログラムHAIRGUを用いてヘアピンループを同定した。Trioco等記載(Nature NB, 246,40-41,1973)に記載のようにΔG値を計算した。pNP2およびpNP9(pNP2のS1誘導物のひとつ)によりコードされるmRNAに可能の2次構造の解析は、一連の可能なヘアピンループを明らかにした。S-D配列および開始コドンを2次構造に取り込むと翻訳の開始を阻止することがありうるので、リボゾーム結合サイトを含むこのmRNAの領域に留意した。開始コドンのUおよびGを含むヘアピンループが形成されることが分った(第4図をみよ。)このヘアピンループはコード配列中に完全に形成されΔG=-7.6kcalである。S-D配列をおおってしまうような2次構造はまったく見出だされなかった。また、上記のヘアピンループを相互に排除する、より低いΔGを有する構造もなかった。リボゾーム結合領域中の可能な2次構造を変えるようにデザインされた変化によりμ蛋白質の発現が影響されるとかどうかみるために、我々はμmRNAのこの領域を変異さすために合成オリゴヌクレオチドを用いた。pNP2中のμの平滑化されたClaIサイトと5’Pstサイトとのあいだに対のオリゴヌクレオチドを挿入してプラスミドを構築した(第5図をみよ)。しかし、これを達成するためのクローニングの戦略は、pNP2中に4個のPstサイトが存在するので多段階となった。ClaIおよびPstIサイトを欠くベクターpACYC184CMをまず構築するのに、pACYC184をそれに独特のClaIサイトで切断し、T4DNAポリメラーゼを用いて接着末端をみたし、再リゲーションした。ついでPACYC184CMをBamHIで切り、そして、5’μ配列を有するpNP2よりのBamHIフラグメントを、挿入して、pCMμとした(第4図をみよ)。ベクターpCMμはClaIで完全に切り、ヌクレアーゼS1で平滑とし、ついでPstIで切った。切ったプラスミドはアガロースゲル電気泳動で精製し、オリゴヌクレオチドの対(100倍モルとする)と別々にリゲーションさせた。用いたオリゴヌクレオチドの対は、R131およびR132(pNP11);R196およびR197(pNP12)およびR202およびR203(pNP14)であった。それらは下記の配列を有する。
TGCACATATGCAAGTGCAACTGCA(R131),GTTGCACTTGCATATGTGCA(R132),
GCTGAACCTGCATATGTGCA(R196),TGCACATATGCAGGTTCAGCTGCA(R197),
GTTGCACTTGCATTGATC(R202),GATCAATGCAAGTGCAACTGCA(R203).
このリゲーション混合物を用いてHB101を形質転換した。各対のオリゴヌクレオチドのひとつをプローブに用い、ニトロセルロースフィルター上でのコロニーハイブリダイゼーションにより組換えクローンを見出だした。陽性クローンの配列を定めた。正しいヌクレオチド配列を有していた。クローン化オリゴヌクレオチドを含有するμ配列は、Eco RV-Bgl IIフラグメントに切った。それをEco RV-Bgl II切断pNP2にリゲーションさせ完全長μ遺伝子を再構築した(第5図をみよ)。3個の異なるプラスミドをこれらの操作で創出した。上記表1に示すヌクレオチド配列を有するpNP11、pNP12およびpNP14である。
構築物pNP11において、pNP2の有害な可能性のあるヘアピンループは、縮重(degenerate)位中の3個のコドンの残基を変え、異なるS-DからAUGまでの配列を導入することにより消失させた。これらの変化は、S-DとAUGとのあいだの領域をμコード配列の5’末端と塩基対形成させ、ΔG=-7.8Kcalのヘアピンループを形成させる。これはpNP2の値と同じ位で、しかも、AUGおよびS-D配列を露出させたままに残す(第5図をみよ。)唯一の他の相互に排除するヘアピンループはΔG=-2.3、-3.6および+0.4Kcalのものである。
pNP12構築物はpNP11のS-DからAUGまでの配列を留保するがpNP2のコード配列を有し、それでpNP2のヘアピンループを形成しうる(第4図をみよ)。最後のμ構築物はpNP14で、これは、pNP9のS-DからAUG配列を有するが、pNP11の5’コード配列を有する。それでpNP12のヘアピンループは形成しえなかった。pNP14構築物は、S-DまたはμAUGを埋め込むような2次構造を有しない。
異なるmRNA2次構造を有する構築物よりのμ蛋白質の発現
プラスミドpNP9、pNP11、pNP12およびpNP14を含有するE.coliB株を誘導培地に発育させ、試料を採取しELISA分析に処したpNP9に比しpNP11を含有するE.coliB細胞中でμの濃度は6か7倍に増加した(表1、パートbをみよ)。pNP11のS-DからAUGまでの配列を有するがpNP9のコード配列を有するプラスミドpNP12は、pNP9に比してμ発現は2倍のみの上昇であった。
pNP9のS-DからAUGまでの配列を有するがpNP11の5’μコード配列を有するプラスミドpNP14は、pNP9とは3個の残基においてのみ異なるのみであるがpNP9におけるよりも90倍以上のμ蛋白質を発現することが分った。
プラスミドpNP8もまた構築し、それよりμを発現させた。やはり、trp Eのアミノ末端53個のアミノ酸とμのカルボキシル末端503個のアミノ酸とを含有するtrp E-μ融合蛋白質の部分としてのtrpプロモーターより発現させた。このような融合遺伝子を作った理由は、効率のよい細菌リボゾーム結合サイトよりの方が、効率の不明のものよりも、μが翻訳されるであろうからである。それで、pNP8より生成されたtrp E-μの量を異なる構築物より生成されたμの量と比較して、リボゾーム結合効率の相対的な評価をした。pNP8中のtrp E-μ遺伝子を誘導し、生成物をELISAで定量したところ、pNP8およびpNP14を含有する株におけるμ発現が非常に似ていることが分った(表1、パートB)。開始コドンが2次構造中に取り込まれてしまうと翻訳の開始を阻止するという仮設を調べ、開始コドンを遊離さすことで開始率を増加させようと、pNP11、pNP12およびpNP14のリボゾーム結合サイト(RBS)配列をデザインした。pNP11において、3個のコドンの縮重位での5’μコード配列を変えることによりpNP2およびpNP9のRBSヘアピンルートが消失された。さらに、S-DからAUGまでの配列を変えてこの領域と5’コード配列との塩基対形成を可能とした。これらの変化の結果として、ステムの底の部分にS-D配列を有するヘアピンのループにおいて開始コドンが露出される(第4図をみよ)。このヘアピンループのΔGはpNP9ヘアピンループのΔGに大体等しいpNP11を含有する株はpNP9に比して6から7倍のμを生成した。このことが、開始コドンの露出でなく、むしろS-DからATGまでの配列の変化によるのかどうかをみるために、対照としてpNP12を構築した。このものは、pNP11のS-DからAUGまでの配列を有したが、pNP9の5’μコード配列を保留した。それでpNP11のRBSヘアピンループを形成しえないが、pNP9の不利な可能性のあるループを形成する。pNP12より発現されるμのレベルは、pNP9に比して2倍上昇したのみであった。この増加は恐らくS-DからAUGまでの距離の変化、開始コドン対し5’にすぐμがあること、S-DからAUGまでの配列がGを多く有しないことのそれぞれが有利に影響したためであろう。それゆえに、pNP11よりの発現の増加は、有利なmRNA2次構造によるであろう。pNP9のRBSヘアピンループはおそらく翻訳を阻止するように作用し、他方、別のヘアピンループは開始コドンを露出させ、発現を増加さすのであろう。
pNP9のS-DからAUGまでの配列を有しながらpNP11のコード配列を有するプラスミドpNP14を構築した。それで、発現プラスミドpNP14は、pNP9と3個の残基のみにおいて異なった。それらは、縮重位における3個である。しかも、pNP14を含有する株は、pNP9を含有するものより90倍以上を発現した。発現におけるこの増加は、3個の残基の変化がコドンの利用を至適とすることで説明できない。というのも、強く発現されるE.coli遺伝子におけるそれらの存在の頻度より判断して、より有利でないコドンを導入することになっているからである。
この発現の増加は、pNP9中のRBSヘアピンループの消失でもっとも良く説明される。観察された発現増加の程度および導入された残基の変化がほとんどないことは、結果を、mRNAの安定性の変化で説明することをむづかしくする。
本来のtrp ERBSよりtrp E-μ融合蛋白質をコードするpNP8の発現も調べてみた。そしてpNP14とほぼ同じレベルに発現することが分った。このことは、翻訳の開始を指示する効率において、pNP14のRBSはtrp Eのそれと同等であることを示していよう。pNP8の本来のtrp E RBSおよびpNP14のそれは、それらのRBS配列の使用を阻害する2次構造を有しないことが分った。
E.coliにおけるμ蛋白質の発現
μ発現プラスミドpNP11を含有するE.coli B細胞を誘導条件で培養し、可溶性および不溶性抽出物を調製し、SDS-PAGEにより分析した。不溶性分画よりの蛋白質を含有するレーンにおいてゲルをCoomassieblueで染色したあと新しいバンドを見出だした(第6図、レーン2をみよ)。このバンドは、pCT70を有する細胞よりの同じ分画よりの蛋白質を含有するマイナスの対照のレーンには見られなかった(第6図、レーン3)。この新しいバンドは、62.5Kdの非グリコシル化μの実際の分子量の5%以内だけ少ない分子量の蛋白質に対応する位置に移動した。レーンの2本分をニトロセルローズに移し、Westernブロットした。染色されたゲルおよびブロットオートラジオグラムを並べてみて、この新しいバンドがIgMと抗原的に関連していることが分った(第6図、レーン4および8)。pCT70を含有する細胞よりの抽出物にバンドは見出だされなかった(第6図、レーン5および7)。可溶性分画にはわづか少量のμが見出だされた(第6図、レーン6)。
HB101に比してE.coli Bにおいてμの発現はおおいに増加したことが分った。パルスチェイス分析では、最初のラベル時間のあとにみられた(第7図、レーン1)のと同じレベルのμ蛋白質が60分のチェイスのあとに検出された(第7図、レーン3)。HB101では、しかし、最初のラベル時間のあとに検出された量(第7図、レーン5)に比して、10分間のチェイスのあとごく僅かのμ蛋白質(第7図、レーン7)が見出だされ、30分間後にはまったく見出だされなかった(第7図、レーン8)。
パルスチェイス分析のためには、上記のように誘導を設定した。ただし、用いた培地はつぎのようである。プロリン(0.3g/L)、ロイシン(0.1g/L)、Difcoメチオニン分析培地(5g/L)、グルコース(60mg/L)、チアミン(10mg/L)、Cacl2(22mg/L)、MgSO4(0.25g/L)およびカルベニシリン(0.1g/L)。対数発育期に、細胞を30μCi/mlのL-〔35S〕メチオニンで2分間パルスラべし、それから未ラベルメチオニン(100μg/ml)を加え、示した時間のあいだ誘導した。
pNP14を含む誘導E.coliB細胞は、位相差顕微鏡で調べると、封入体を含有していた。
E.coliにおけるλL鎖の発現
調べるプラスミドを含有するE.coli HB101またはRV308の新鮮な1ml1夜培養物を、カルベニシリンを100μg/mlに加えたL-ブロス(Maniatis等,Molecular Cloning, Cold Spring Harbor Labo‐ratory,1982)に発育させた。
この培養物を、グルコース、ビタミンB1、カルベニシリン、ロイシンおよびプロリンを補充したM9倍地(Maniatis,1982,上記引用)で1:100に希釈し、5-6時間37℃で振とうした。そこで35S-メチオニンを加え5から20分処理した。細胞は遠心採取し、1%SDS中2分間煮沸して溶解させ、2%Triton X-100、50mM Tris pH8、0.15M NaClおよび0.1mM EDTAより成立つ緩衝液を加えて希釈した。ラベルされたE.coli抽出物の試料に抗血清を加えて免疫沈降を行なった。4℃で1夜インキュベートしてから、免疫複合物を、Staphylococcus aureus固定セルに結合させて分離した。10%グリセロール、3%SDS、および5%メルカプトエタノールを含有する60mM Tris pH6.8緩衝液中で煮沸して複合物を解離させた。そして遊離された蛋白質は10%または12.5%アクリルアミド/SDSゲル上で分析した(Laemmli, UK, Nature,227,680-685,1970)。ゲルはCoomassie Brillian blueで染色し蛋白質のバンドを可視化し、他方、ラベルされた蛋白質は、Fuji-RXフィルム上で、1Mサリシル酸ナトリウムを用いるフルオルグラフィで検出した。
pNP3および他のプラスミドを含有するHB101細胞を誘導条件でOD600=0.6まで発育させた。存在する蛋白質は上記に実質的に準ずる特異的免疫沈降でしらべた。結果を第8図に示す。ここに、レーン1および2は、それぞれpCT54-19およびpNP3よりの抽出物を正常ウサギ血清で免疫沈降させたものである。レーン3、4および5は抽出物をウサギ抗ラムダ血清で沈降させたもので、pNP4(レーン3)、pNP3(レーン4)およびpCT54-19(レーン5)を表わす。MOPC104Eよりの未ラベルラムダ蛋白質の位置は、第8図の左側に示してある。プラスミドのすべてがウサギ抗マウスλL鎖血清と反応しそしてマウス骨髄腫MOPC104Eよりの標準λ1L鎖と同じに移動した。しかし、pNP3がこの蛋白質をもっとも多く生成した(第8図のレーン4をレーン3および5と比較せよ)。正常のウサギ血清を用いる対照免疫沈降では、そのようなバンドは見出だされなかった(第8図、レーン1および2)。35S‐メチオニンの短時間パルスを用いついで過剰のコールドメチオニンを用いるチェイシングで、組換えλL鎖は約20分の半減期を有することを示した。
イン ビントロー転写/翻訳(Pratt等、Nucleic Acids Research, 9, 4459-447,1981)は、λL鎖標品と同じに移動する蛋白質をpNP3がコードしていることを示した。この25Kd生成物は、イン ビトローでβ‐ラクタマーゼに匹敵する比率で合成されており、このことは全E.coli蛋白質の0.5%のレベルでイン ビボーで合成されていることを示す。この数字は、式

により算出された、イン ビボー合成組換えλ生成物のパーセント(0.4-2%)とよく一致する。
細胞の破壊に用いた操作はつぎのようである(Emtage,J.S.等,Proc. Natl.Acad.Sci.,80,3671-3715,1983)。誘導条件で発育させたE.coli HB101/pNP3を採取し、130g/mlのリゾチームを含有する0.05M Tris pH8、0.233M NaCl、5%グリセロールに再懸濁させ、4℃か室温で20分インキュベートした。ナトリウムデオキシコレートを加えて最終濃度0.05%とし、E.coliの湿重量gあたり10μgのDNAアーゼ1(牛すい臓より)を加えた。溶液を15℃で30分インキュベートすると溶液の粘度は著しく減少した。抽出物は遠心した(小容量(1ml)で10,000×gで15分、より大量では1時間)、溶解部および不溶部とした。
免疫沈降のためには、溶解分画を上記のTriton含有緩衝液中で希釈し、不溶分画は1%SDS中で煮沸し可溶化してからTriton含有緩衝液中で希釈した。pNP3またはpNP4を含有するHB101細胞は誘導条件でインキュベートし、〔35S〕メチオニンでパルスラベルし、可溶性および不溶性分画に分けナトリウムドデシルスルフェートポリアクリルアミドゲル電気泳動で分析した。結果は第9図に示す。ここでレーン1および3は、正常ウサギ血清およびウサギ抗ラムダ血清でそれぞれ免疫沈降されたHB101-pNP3よりの可溶分画に相当する。レーン2および4は、正常ウサギ血清およびウサギ抗ラムダ血清で免疫沈降させたHB101‐pNP3より不溶性分画を示す。レーン5および7は、正常ウサギおよびウサギ抗ラムダ血清でそれぞれ免疫沈降されたHB101‐pNP4よりの不溶性分画に相当する。レーン9はHB101‐pNP3よりの可溶性分画に対応する。レーン10はHB101‐pNP3よりの可溶性分画に対応する。MOPC104Eよりの未ラベルラムダ蛋白質の位置は第9図の左側に示してある。pNP3を用いてそのような操作を行なうと、組換えλL鎖蛋白質は、可溶分画(第9図、レーン3)よりむしろ不溶分画(第9図、レーン4)に存在した。可溶性または不溶性分画のいずれでも正常のウサギ血清を用いて免疫沈降させた場合に、λ1L鎖標品と同じに移動する25Kdバンドは存在しなかった。おそらく、この特別の例におけるようにIgL鎖のすべてが分画に分れるであろう。特異的免疫沈降が存在しないと、pNP3を含有するHB101の抽出物から新規蛋白質バンドは見出だせないし、λ蛋白質の蓄積も見出だされない。しかし、K12株E103sでpNP3を誘導した時には劇的な差があった。この株では、ELISAで測定して、λ蛋白質は誘導中蓄積し細胞が定常期に達し(第10図、レーン3-5)、HB101におけるより約150倍のレベル達することが分った。これらの細胞は封入体を含有し、光学顕微鏡で屈折性にみえる。これは外来蛋白質を高レベルに発現している特徴的現象であった。組換えλ蛋白質の全E.coli蛋白質中でのパーセントは、蛋白質をゲル電気泳動で分け、Coomassie blueで染め、染色されたゲルをJoyce‐Loeblクロモスキャン(chromoscan)3で走査することで得られた。この方法で、λが存在する主要蛋白質で(第10図、レーン5)、全E.coli蛋白質の13%を占めた。λ蛋白質はHB101中で20分の半減期であったがE103s中で非常に高いレベルに蓄積し、ラムダー蛋白質が後者の材料でずっと安定なことを示した。細胞を溶解させpNP3を含有するHB101またはE103sを遠心したあと、λL鎖は不溶分画に検出された(第10図、レーン7および10)が可溶分画にないこと(第10図、レーン6)がCoosmasie blue染色で分った。主なCoosmassie blue染色バンドのλ蛋白質としての同定なウエスターン プロット分析で確かめられた(第10図、レーン8-10)。このような免疫反応性バンドの存在はpNP3含有細胞に特異的であった。プロキモシン(prochymosin)発現プラスミドであるpCT70含有細胞よりの抽出物を同じ分析に処してもバンドは検出されなかった。このより感受性の技術は、可溶性分画に少量のλ蛋白質が存在することを示した(第10図、レーン9)。完全長蛋白質より小型の顕著の反応性蛋白質がいくつかみいだされた。これらは、λ蛋白質の蛋白分解、転写の早すぎる終結または翻訳の内部からの開始によるのかもしれない。
同一細菌細胞中でのμおよびラムダポリペプチドの発現
発現プラスミド中のIgμおよびλ遺伝子のそれぞれを同じE.coli細胞中に入れて形質転換しIgμおよびλポリペプチドの合成を行なわせた。プラスミドの不和合性を克服し第2の抗生物質抵抗性マーカーを与えるために、Hind III-BamHIフラグメントにおいて、pNP3よりtrpプロモーターおよびλ配列を切り出し、pACYC184のHindIII-BamHIフラグメントに挿入した。生ずるプラスミドpACYCλはE.coliの発育をきわめて貧弱とした。この弱い発育は、RNAポリメラーゼが複製の原点まで読みすごされてしまうためと考えられた。しかし、発育の阻害は、プラスミドpACYCλのHind IIIサイトにバクテリオフアージT7翻訳ターミネーターをクローニングすることで除かれるように見えた。
このターミネーターは両方の配向において機能した。生ずるプラスミドpACλT7-1はクロラムフェニコール抵抗性遺伝子を有し、Igμ発現プラスミドである。pNP14上のpBR322由来オリジンと相容れるカリジンを有した。同じE.coli B中での両方のプラスミドによる形質転換は2段階で達成された。まずpNP14を導入しついでpACλ7-1を順次に導入する形質転換で、アンピシリンおよびクロラムフェニコールに抵抗性のクローンを与えた。
このダブル形質転換クローンに由来するE.coli B細胞は封入体の存在を示し、溶解のあと、染色されたゲル上に不溶不画の2つの新規ポリペプチドバンドを示した。これらの2つのバンドは、Westernブロッティングにより、免疫学的活性でIgμおよびIgλおよびおよびそれら期待される分子量に対応した。それでダブル形質転換されたクローンは、異質異伝子の両方を発現した。このことは、今まで示されたことがない。不溶性分画中にλL鎖の存在することは、それにより蛋白質が濃縮され、E.coliの可溶性蛋白質の全体より分けられるので精製に有用であった。
λL鎖をさらに精製するために、細胞残渣を10mMトリス‐HCl pH8.0、25%ホルムアミド、7M尿素、1mM EDTAおよび2mMジチオスレイトールに溶解した。このものを、9M尿素、10mMトリス‐HCl pH8.0、1mM EDTAおよび2mMDTT中で平衡させたDEAE Sephacelカラム(Pharmacia)(1×25cm 5ml/時流速)に移した。DEAE Sephacelカラムは、平衡用緩衝液中0-150mMのNaClのグラジエントで展開した。溶出されるλL鎖免疫反応性のピーク部分(蛋白質の主要ピークに相当)を希釈して、2.25M尿素、10mMトリス‐HCl pH8.0、1mM EDTA、2mM DTTとしオクチルセフアロースカラム(Pharmacia)(2.5×10cm)に移した。2.25-9Mの尿素グラジエントで溶出した。ピークを集め重炭酸アンモニウムに対し透析し、凍結乾燥した。この段階のあと、組換えλ蛋白質に相当するCoomassie blue染色性物質のただひとつのバンドをSDS-PAGEで可視化した。
陰イオン交換クロマトグラフィーおよびクロマトフォーカシング(Pharmacia)で、ペレットより9M尿素で可溶化したものを精製してμH鎖を得た。
μおよびλの同時発現が機能的IgMの形成に導びくどうかをみることに大きな興味が持たれた。そのために、Igμおよびλポリペプチドの両方を含有するE.coliより抽出物を得、それらの抗原結合性をみた。ハプテン化されたウシ血清アルブミン(NIP‐カプロエート‐BSA)に結合するμ鎖を検出する2サイトサンドイッチELISAを用いた。
NIP結合アッセイにおいて、ウシ血清アルブミン(BSA)を10mMリン酸塩緩衝液中pH7.5で当モル量のNIP‐cap‐N‐ヒドロキシ‐スクシンイミドと反応させた。生ずるNIP‐cap‐BSAは、G‐50 Sephadexカラム上で遊離NIP‐capと分けた。
ミクロタイタープレート(96ウエルNunc Immuno Plate 1)を、炭酸ナトリウム/重炭酸ナトリウム0.1M、pH9.6緩衝液(被覆緩衝液)中10μg/ml NIP‐BSAの溶液の100μlで被覆した。
被覆されたプレートは、被覆緩衝液(ブロッキング緩衝液)中0.5%カゼインの100μlを加え37℃で1時間インキュベートして、非特異的結合に対しブロックした。
被覆されたブロックされたプレートは150mM NaCl、0.05%NP40、20mM Tris‐HCl、pH7.8-緩衝液(洗浄緩衝液)で3度洗った。
洗ったプレートを振って過剰の洗浄緩衝液を除き、試料をそれらの緩衝液または代表的には0.5%カゼイン含有洗浄緩衝液(試料用緩衝液)に加えて最終容量100μlとした。
NIP‐BSAへの結合の性質を示すために、試験試料にはNIPまたはNPを種々の濃度(NIPは60から0.3μM、NPは600から3μM)に加えた。
試料を含むプレートは37℃で1時間インキュベートしそれから洗浄用緩衝液で3度洗った。
洗ったプレートには試料用緩衝液中抗μ‐パーオキシダーゼ複合物(1:1000希釈、TAGO社)の100μlを接種し、37℃で1時間インキュベートした。プレートは洗浄緩衝液で3度洗った。
洗ったプレートには、0.1M酢酸ナトリウム-くえん酸塩、pH6.0、0.1mg/mlテトラメチルベンジジン、13mM H2O2(パーオキシダーゼ基質)の100μlを接種し室温で1時間インキュベートした。25μlの2.5M H2SO4を加えて反応を止めた。
ミクロタイタープレートを、630nmをリファレンスとして450nmでプレートリーダー(Dynatech)で読む。A450と標準蛋白質、Bl‐8抗‐NIP IgMのレベルと関連づけた。
このアッセイはBl-8IgMの60pgに対する感受性を示した抽出物は可溶性および不溶性物質として調製した。不溶物は溶解に用いたのと同じ緩衝液に8M尿素を含めたもので可溶化した。ついで希釈してアッセイに用いた。
Igμおよびλの活性を知るために不溶物を抽出し、ジスルファイドの交換がより高い頻度でおこるような緩衝液の条件で透析した。
H鎖およびL鎖の両方を発現するようなE.coliよりの機能的抗体の生成は、細胞を溶解し、上清を遠心により清澄化することにより達成した。不溶物は洗い、音波処理(3分間、3回)し、最後に9M尿素、50mMグリシン-NaOH pH10.8、1mM EDTAおよび20mM2-メルカプエタノールに溶解した。この抽出物は、100mM KCl、50mMグリシン-NaOH pH10.8、5%グリセロール、0.05mM EDTA、0.5mM還元グルタチオンおよび0.1mM酸化グルタチオンの20容量倍を3回交換しながら40時間透析した。透析物は30,000gで15分遠心して澄明化しDEAE Sephacelにじかに加え、10mM Tris‐HCl、0.5mM EDTA、pH8.0中0-0.5M KCl直線グラジエントで展開した。
精製Igμおよびλは上記のように処理した。しかし、陰イオン交換クロマトグラフは行なわなかった。調製物は最後にリン酸塩緩衝水溶液、5%グリセロール、0.01%ナトリウムアジドおよび0.5mM EDTA pH7.4に対し透析した。
このように処理した材料をアッセイした結果、ある程度の活性が示された。このようにして得られた活性のレベルはあまり低くて詳しい研究はできなかったので、透析物は陰イオン交換クロマトグラフィーで精製した(第11図)。その結果、バックラウンドのBSAに対する結合より著しく高いNIP‐Cap‐BSA結合活性が分離できた(第11図)。分画をIgμレベルについてアッセイし、Bl‐8IgM相当量で表わすと、活性は2つのピークを示した。これは、Westernブロティングによる完全長Igμと関連しなかった。第1のピークはIgμのフラグメントであろう。完全長Igμおよび蛋白質の大部分からNIP‐Cap‐BSA結合活性を分けてみると、低い効率で生成される特定の分子種にハプテン結合活性が含まれることが分った。
E.coli中のIgμ発現より得られる不溶物を処理すると、類似のIgM蛋白プロフィールが得られたがNIP‐Cap‐BSA結合活性はなかった。このことは、得られた活性が、合併された免疫グロブリンの発現によるのであって、ある種のE.coli因子がIgμH鎖単独によるのでないことを示した。
ハプテン(NIP‐cap‐BSA)結合の特性についてさらに研究した。もとの抗体とまったく似た具合に、試料のを希釈すると、ハプテン結合性は減少した(第12図)。未希釈および希釈試料の両方において、遊離ハプテンは結合活性の大部分を阻止した。IgMおよびハプテン結合の両方に対してBl‐8抗体を標準に用いて、組上げられた抗体の比活性は1.4×104グラム/グラムIgM当量であった。この値は活性の回収効率のよくないことを示す。しかし恐らくは、上記したように、これらの分画における完全長Igμを過当評価しているので比活性を低く評価していることもありうる。
組換え抗体のヘテロクリット(heteroclit)性
遊離NIP‐capおよびNP‐capの存在での、組上げられた抗体をBl-8IgMと比較してNIP‐cap‐BSAへの結合特異性を詳しく調べた(第13図)。Bl‐8IgMおよび組上げられた抗体共に、NIP‐cap‐BSA結合を阻止するのにNP‐capが NIP‐capがより高い濃度を要した。
50%阻止におけるNIPとNPとのモル比によりヘテロクリット性が示された。表2に示すように、50%阻止(I50)におけるNIPおよびNPの濃度は、Bl‐8および組上げられた抗体の両方について類似していた。NPI50/NIP I50比も似ていた(表2)。
表2 抗体のNIP‐cap‐BSA固体相への結合を50%阻止するハプテン濃度(I50),
SD=標準偏差

インタクトの可変ドメインを有するμおよびλ蛋白質を発現しうるのみならず、同じ細胞中の和合性のプラスミド上にμおよびλ蛋白質の両方を発現できることが示された。後者のことはこれまでに明らかにされなかったし、示唆されもしなかった。さらに、μおよびλ蛋白質の両方を発現した。E.coli細胞より機能的Ig分子を導びくことが可能であると分った。
かくして、本発明方法により、組換えDNA技術により機能的Ig分子を生成することが示された。
酵母のための発現プラスミドの構築
酵母(Saccharomyces cerevisiae)中での発現に用いるためのプラスミドはpBR322および酵母2ミクロンプラスミドを基礎としている。プラスミドは、ヨーロッパ特許願EP 0 073 635の主題で、この内容も参考として引用する。酵母ホスホグリセレートキナーゼ遺伝子(PGK)は転写の開所のために必要な5’配列を与えそして、上記ヨーロッパ特許願に記載のプラスミドpMA3013中の独特のBgl IIサイトに遺伝子を挿入しうる。このプラスミドは以降pMA91とあらためて命名することにする。
a) met-mu(μ)
Bgl IIおよびBcl Iは相容れる5’‐GATC末端を与える。pNP2よりのmet‐μ遺伝子は部分的Bcl Iフラグメントにおいて切り、pMA91の独特のBgl IIサイトにリゲーションした。
b) Pre-mu(μ)
完全長pre‐μcDNAを含有するプラスミドpCT54uをHind IIIで消化した。これはμcDNAの3’サイドを切る。4ヌクレオチドすべての存在でT4DNAポリメラーゼと共にインキュベーションすることによりHind IIIサイトをBcl Iサイトに変えた。上記に得たDNAに内部Bcl Iを含有するTTTTGATCAAAAの配列のリンカーR107をリゲーションした。リゲーションのあと生ずるDNAの1部をBcl IおよびAcc Iで消化しμAcc I-Bcl Iフラグメントを生ずる混合物よりゲル電気泳動で分けた。生ずるDNAの別の1部をMbo IIで消化し、接着末端Bcl IおよびMbo IIを有する化学合成オリゴヌクレオチドリンカーR121およびR112とリゲーションさせた。
R121 5’ GATCAATGGGATGGAGCTGT 3’
R112 5’ TTACCCTACCTCGAC 3’
リゲーション反応を終結させ生ずるDNAはAcc Iで消化しμMbo II-Acc Iフラグメントとし、これは、5%ポリアクリルアミドゲル上ゲル電気泳動で生ずる混合物より分けた。
得た2つのμフラグメントは相互にリゲーションしBcl Iで消化して望まぬリゲーション生成物を除き、そのあとで生ずるpre‐μDNAをBgl IIで切ったプラスミドpMA91にリゲーションした。
生ずるリゲーション混合物で、E.coli株HB101をアンピシリン抵抗性に形質転換した。形質転換されたコロニーを分けたところ、予期される消化パターンを示すプラスミドを含有した。このプラスミドよりの挿入DNAの5’末端の配列を決めたところpre‐μcDNAに予期される配列を有した。
c) met‐ラムダ(λ)
met‐λDNAをプラスミドpMA91のBgl IIサイトにクローン化した。プラスミドpCT54クローン1をHind IIIで切りmet‐λcDMAの3’サイドとした。この切断サイトを、pNP2について前記したようにBcl Iサイトに変えた。そのあとプラスミドDNAをBcl Iサイトでλ遺伝子の5’で切り生ずるλDNAをpMA91のBgl IIサイトヘクローン化した。
d) Pre‐ラムダ(λ)
つぎのように、pre‐λをpMA91中に再構築した。プラスミドpCT54をBcl IおよびHind IIIで消化し、生ずるベクターDNAをゲル電気泳動で分け、2つの合成オリゴヌクレオチドR162およびR163およびプラスミドpATλ1-15よりの2つのフラグメント
R162 5’ GATCAATGGCCTGGATT 3’
R163 5’ GTGAAATCCAGGCCATT 3’
とリゲーションさせた。これらのフラグメントは、pATλ1-15をFok IおよびHind IIIで消化し、5’300塩基対Fok Iフラグメントおよび3’600塩基対Fok I-Hind IIIフラグメントを電気泳動で分けた。生ずるリゲーション混合物でE.coli株HB101を形質転換してアンピシリン抵抗性とし、予知される正しい制限酵素消化パターンを有するプラスミド含有細菌コロニーを分けた。挿入されたDNAの5’末端の配列を決めたところpre‐λcDNAの予期された配列を有していた。このプラスミドをHind IIIで消化し、生ずるHind III切断末端を、T4ポリメラーゼで平滑化しそしてR107リンカーとリゲーションさすことによりBcl Iサイトに変えた。生ずるプラスミドをBcl Iで消化し、ゲル電気泳動で、Bcl Iフラグメント上でpre‐λcDNAを分けた。このBcl IフラグメントをBgl I切断pMA91にリゲーションし、pre‐λcDNAの完全長を含有するpMA91プラスミドを得た。
酵母における免疫グロブリンの発現
上記のように調製したpre‐λおよびpre‐μ含有pMA91誘導プラスミドを用いて、Saccharomyces cerevisiae酵母宿主生物を形質転換した。形質転換された細胞によりpre‐λおよびpre‐μ遺伝子が発現された。
Saccharomyces cerevisiae株MD46をpMA91pre‐λまたはpMA91pre‐μで形質転換すると、Westernブロットで検出されうる発現免疫反応性蛋白質を生ずるコロニーを与えた。プラスミドpMA91pre‐λを含有する酵母細胞は抗λ抗血清と反応し、細菌により合成されたマチュア(mature)λとポリアクリルアミドゲル上で同じに移動する蛋白質を生成した。同様に、pMA91pre‐μを含有する酵母細胞は、抗μ血清と反応しそして細菌により合成されたマチュアμ蛋白質とポリアクリルアミドゲル上で同じに移動する蛋白質を生成した。これらの観察は、pre‐λおよびpre‐μ共に、酵母宿主細胞の環境中で相当するマチュア蛋白質に加工されていることを示唆する。
さらにμ蛋白質生成物(しかし、λ蛋白質でない)はグリコシル化されることも示された。15μg/mlのツニカマイシシンの存在または非存在で細胞をインキュベートした。この化合物は、蛋白質のN-連結グリコキシル化を特異的に阻止する。ツニカマイシンなしでインキュベートされた細胞に由来する細胞抽出物は、Westernブロッティングでみて、より高い分子量バンドを示した。ツニカマイシンの存在でインキュベートした細胞からの抽出物は、そのような高分子量バンドを示さなかった。
細胞をガラスビードで溶解し可溶性および不溶性分画をみたところ、μおよびλ蛋白質は不溶分画に限られて存在していた(Westernブロッティングによる)。
分 泌
インキュベーションしたあと酵母細胞を遠心して集め上清の1mlを取り、BSA被覆0.2μMilliporeフィルターを通し、残存する細胞由来のものを除いた。濾過上清についてμおよびλ蛋白質についてのELISA分析をした。pMA91pre‐λを含む細胞よりの上清のみが、検出しうるレベルの免疫グロブリン蛋白質を示した。ミニマル培地中で細胞をOD660=0.2まで発育させ、ついで遠心しYPABで再懸濁させOD666=1.0から1.5で採取すると、上清中のλ蛋白質の検出量は増加した。それでλ蛋白質は酸母細胞より分泌されるがμ蛋白質はそうでない。
細胞内の存在
インキュベーションのあと、pMA91pre‐μを含有する細胞はスフェロプラストに変え、5%酢酸/95%エタノール(v/v)中で固定し、フルオルセイン複合ヒツジ抗マウスμとインキュベートした。固定細胞を蛍光顕微鏡で調べた。μ蛋白質はスフエロブラストの周縁そして特に空胞中に存在した。
同じ細胞中でのμおよびλ蛋白質の双方の発現
同じ宿主細胞中に両方の遺伝子を発現さすには、形質転換に用いるための許容されうるプラスミドを提供する必要がある。pre‐λ遺伝子を、pMA91pre‐λよりHind IIIフラグメント上で切り出し、プラスミドpLG89のHind IIIサイトに挿入した(Griti L., Davies J. Gene,25,179-188,1983)。このプラスミドはura3マーカーを含有し、形質転換された宿主細胞を選択するのに用いられる。便宜なura3-宿主細胞はS.cerevisiae株X4003-5Bである。pMA91pre‐μおよびpLG89pre‐λの両方でこの株を形質転換した。ura3およびleu2マーカーの両方をあわせて含有するコロニーを発育させた。形質転換された細胞をインキュベーションしたあと、ELISA法で、X4003-5Bの同じ培養物中にλおよびμ蛋白質の両方が検出された。発現の程度は、MD46細胞中でそれぞれの遺伝子としてX4003-5Bでλ遺伝子のみで得られたのと同程度であった。
さらに、イン ビボーでのλおよびμ蛋白質の組上げをチェックするためにつぎの操作を用いた。

5mMのホウ酸塩緩衝液pH8.0またはリン酸塩緩衝液pH5.8に再懸濁させた(洗浄剤たとへば0.5%TritonXを加えるかまたは加えない)。懸濁細胞は、上記緩衝液中でガラスビードと共に回転かくはんし不溶物は遠心除去した。遠心したあと、上清の1部をNIP結合性についてアッセイした(組上げE.coliμおよびλ蛋白質について前記した通り)。上清に特異的抗原結合活性が検出され、この活性は遊離NIP(特異的抗原)により特異的に競合消失された。これらの結果はX4003-5B細胞中にμおよびλ蛋白質が発現され、イン ビボーで機能的免疫グロブリンに組上げられることを示す。
上記の実験で、形質転換された細胞をインキュベートするに用いた培地は、酵母ミニマル培地(1リットル中、6.7gDIFCO酵母窒素塩基(アミノ酸なし)、10gグルコースおよびヒスチジン、トリプトファン、メチオニンおよびアデニンの各200mg含有)である。λ蛋白質のみを発現さす時には、培地はさらに200mg/lのロイシンを含有した。μ蛋白質のみを発現さす時には、培地はさらに200mg/lのウラシルを含有した。
(57)【特許請求の範囲】
1.単一宿主酵母細胞における、少なくともIgH鎖およびL鎖の可変ドメインからなる免疫学的機能を有するIgフラグメントまたはIg分子の製造方法であって、
(i)単一宿主酵母細胞を、少なくともIgH鎖の可変ドメインをコードする第一のDNA配列、および少なくともIgL鎖の可変ドメインをコードする第二のDNA配列で形質転換し、そして
(ii)前記第一および第二のDNA配列を独立に発現させ、前記H鎖およびL鎖を前記形質転換単一宿主酵母細胞中で別々の分子として製造することからなる方法。
2.第一および第二のDNA配列が異なるベクターに存在する請求の範囲第1項の方法。
3.第一および第二のDNA配列が単一のベクターに存在する請求の範囲第1項の方法。
4.ベクターがプラスミドベクターである請求の範囲第2項の方法。
5.ベクターがプラスミドベクターである請求の範囲第3項の方法。
6.単一宿主酵母細胞がS.cerevisiaeである請求の範囲第1項の方法。
7.lgH鎖およびL鎖が宿主酵母細胞中で発現し、免疫学的機能を有するlg分子またはlgフラグメントとしてそこから分泌する請求の範囲第1項〜第6項のいずれか1つの方法。
8.第一および第二のDNA配列がそれぞれ完全なH鎖およびL鎖をコードする請求の範囲第1項〜第7項のいずれか一つの方法。
9.第一および第二のDNA配列が少なくとも一つの不変ドメインをコードし、この不変ドメインはそれが付着する可変ドメインと同じ供給源に由来する請求の範囲第1項〜第8項のいずれか一つの方法。
10.第一および第二のDNA配列が1種以上のモノクロナル抗体産生ハイブリドーマに由来する請求の範囲第1項〜第9項のいずれか一つの方法。
 
訂正の要旨 a.特許請求の範囲の請求項1における「単一宿主細胞」なる記載を、特許請求の範囲の減縮を目的として、「単一宿主酵母細胞」に訂正する。
b.特許請求の範囲の請求項6を、請求項1の訂正に伴い、削除する。
c.特許請求の範囲の請求項7を、請求項1の訂正に伴い、削除する。
d.特許請求の範囲の請求項8を、請求項6及び7の削除に伴い請求項6に繰り上げるとともに、「単一宿主細胞がE.coli、B.subtilisまたはS.cerevisiaeである」なる記載を、請求項1の訂正に伴い特許請求の範囲の減縮を目的として、「単一宿主酵母細胞がS.cerevisiaeである」に訂正する。更に、「請求の範囲第7項の方法」なる記載を、請求項7の削除に伴い「請求の範囲第1項の方法」に訂正する。
e.特許請求の範囲の請求項9を、請求項8の訂正に伴い、削除する。
f.特許請求の範囲の請求項10を、請求項6、7及び9の削除に伴い請求項7に繰り上げるとともに、「請求の範囲第1項〜第9項のいずれか1つの方法」なる記載を「請求の範囲第1項〜第6項のいずれか一つの方法」に訂正する。更に、「宿主細胞」なる記載を、請求項1の訂正に伴い特許請求の範囲の減縮を目的として、「宿主酵母細胞」に訂正する。
g.特許請求の範囲の請求項11を、削除する。
h.特許請求の範囲の請求項12を、請求項6、7、9及び11の削除に伴い請求項8に繰り上げるとともに、「請求の範囲第1項〜第11項のいずれか一つの方法」なる記載を「請求の範囲第1項〜第7項のいずれか一つの方法」に訂正する。
i.特許請求の範囲の請求項13を、請求項6、7、9及び11の削除に伴い請求項9に繰り上げるとともに、「請求の範囲第1項〜第12項のいずれか一つの方法」なる記載を「請求の範囲第1項〜第8項のいずれか一つの方法」に訂正する。
j.特許請求の範囲の請求項14を、削除する。
k.特許請求の範囲の請求項15を、請求項6、7、9、11及び14の削除に伴い請求項10に繰り上げるとともに、「請求の範囲第1項〜第14項のいずれか一つの方法」なる記載を「請求の範囲第1項〜第9項のいずれか一つの方法」に訂正する。
審理終結日 2000-11-01 
結審通知日 2000-11-14 
審決日 2000-12-07 
出願番号 特願昭59-501609
審決分類 P 1 41・ 851- Y (C12P)
最終処分 成立  
前審関与審査官 平田 和男内田 俊生  
特許庁審判長 徳廣 正道
特許庁審判官 田村 明照
佐伯 裕子
登録日 1996-12-19 
登録番号 特許第2594900号(P2594900)
発明の名称 マルチチエインポリペプチドまたは蛋白質およびそれらの製造方法  
代理人 浅村 皓  
代理人 浅村 皓  
代理人 浅村 肇  
代理人 浅村 肇  

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