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審決分類 審判 全部無効 特123条1項8号訂正、訂正請求の適否 無効としない E06B
審判 全部無効 2項進歩性 無効としない E06B
審判 全部無効 発明同一 無効としない E06B
管理番号 1040312
審判番号 審判1999-35412  
総通号数 20 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1994-01-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 1999-08-06 
確定日 2001-06-11 
事件の表示 上記当事者間の特許第2564242号発明「折り畳み式網戸」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 1.手続きの経緯
出願(実願平3-58582号) 平成3年6月28日
出願公開(実開平5-3591号) 平成5年1月19日
出願変更(特願平5-96626号)平成5年3月31日
出願公開(特開平6-17585号)平成6年1月25日
登録(特許第2564242号) 平成8年9月19日
特許異議申立(2件) 平成9年6月11日
及び平成9年6月18日
取消理由通知 平成10年1月12日
訂正請求書 平成10年3月31日
特許維持の決定 平成11年1月28日
無効審判の請求 平成11年8月6日
答弁書 平成11年11月22日
弁ぱく書 平成12年5月1日
口頭審理(特許庁審判廷にて) 平成12年9月14日
口頭審理陳述要領書(請求人) 平成12年9月14日
口頭審理陳述要領書(被請求人) 平成12年9月14日
陳述要領書(被請求人) 平成12年10月13日
2.本件特許発明
本件特許発明は、平成10年3月31日付けで訂正された訂正明細書及び特許査定時の図面の記載からみて特許請求の範囲の請求項1〜7に記載された次のとおりのものである。
【請求項1】多数のプリーツを施すことによりアコーディオン式に伸縮自在となしたネットの基端を、網戸枠の一側辺の縦枠を構成する収納ケース内に横開き式に開閉自在に固定すると共に、該ネットの先端に開閉操作用の操作框を取り付け、該ネットには操作框と収納ケースとの間で常に緊張状態に保持される紐を挿通し、該ネットに、それを収納ケースから引き出してネット張設開口部を閉鎖した状態において、該ネットが上記プリーツによりジグザグ状を保持する長さをもたせた、ことを特徴とする折り畳み式網戸。
【請求項2】請求項1に記載のものにおいて、
多数のプリーツを施すことによりアコーディオン式に伸縮自在となした通風性のあるネットを、収納ケースから引き出してネット張設開口部を閉鎖したときの各プリーツの折角が60〜90度になるような長さに形成した、ことを特徴とする折り畳み式網戸。
【請求項3】請求項1に記載のものにおいて、
収納ケース内に、一端を操作框に連結してネットに挿通した紐を常に緊張状態に保持するための手段を設け、操作框を常時開放方向に付勢した、ことを特徴とする折り畳み式網戸。
【請求項4】請求項3に記載のものにおいて、
ネットに挿通した紐を常に緊張状態に保持するための手段として、収納ケース内にスプリングを駆動源とする巻取ローラを設け、該巻取ローラに一端を操作框に連結した紐の他端を巻き付けて、ネットを常時開放方向に付勢する手段を備えた、ことを特徴とする折り畳み式網戸。
【請求項5】請求項1に記載のものにおいて、
アコーディオン式に伸縮自在となしたネットの先端に取り付けた操作框と、該ネットの中間位置に取り付けた振れ止め板との上端に、それぞれランナーを取り付け、これらのランナーを上枠のレール上に転動自在に載置することにより、該ネットを上枠に開閉自在に吊下した、ことを特徴とする折り畳み式網戸。
【請求項6】請求項1に記載のものにおいて、
アコーディオン式に伸縮自在となしたネットの基端を、該ネットを収納する収納ケースの内底に固定し、該収納ケースと操作框の間に折り畳んだ状態にあるネットの収納域を形成した、ことを特徴とする折り畳み式網戸。
【請求項7】請求項3に記載のものにおいて、
アコーディオン式に伸縮自在となしたネットの基端を、該ネットを収納する収納ケースの内底に固定し、該収納ケースと操作框の間に折り畳んだ状態にあるネットの収納域を形成し、折り畳んだときのネットの重なり厚さを、収納ケースの深さより大きくした、ことを特徴とする折り畳み式網戸。
3.請求人の主張及び提出した証拠方法
請求人は「特許第2564242号発明の特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求めている。
(1)その理由として、本件特許は前記手続きの経緯から明らかなように平成3年6月28日出願の実願平3-58582号の実用新案登録出願をもとの出願として、その公開(平成5年1月19日)後の平成5年3月31日に特許法第46条第1項の規定による変更出願として出願され、その後、特許の設定登録がなされたものである。
しかし本件特許発明は、変更出願としては、下記(4)に示す理由により不適法な発明について特許の設定登録がされたものであって、その出願日は遡及せず、平成5年3月31日に出願されたものとして、扱うべきであり、そうなると、本件発明の特許は、以下の理由により特許法第123条1項2号の規定に該当し無効とすべきであると主張している。
(A)平成5年3月31出願の本件特許の請求項1〜7にかかる発明はその出願前に頒布された実開平5ー3591号公報に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し、特許を受けることができないものである。
(B)本件特許の請求項1、請求項2ならびに請求項6に係る発明は、その出願日前に出願され、その出願後に公開された特願平3-345386号(特開平5-179875号)の出願当初の明細書ならびに図面に記載された発明と同一のものであって、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものである。
(2)また先の異議申立の際の訂正請求による訂正後の請求項1〜7に係る発明は上記(A)、(B)の理由によって特許出願の際独立して特許を受けることができなかったものであるから、上記訂正は特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる特許法第120条の4の第2項および同第3項で準用する特許法第126条第2ないし4項の規定に適合していない。
したがって本件特許の請求項1〜7に係る発明は特許法第123条第1項第8号の規定により無効とされるべきものであると主張している。
(3)そして審判請求人は、以上の無効理由を主張するとともに、証拠方法として以下の甲第1〜3号証を提出している。
甲第1号証:実開平5-3591号公報及び実願平3-58582(実開平5-3591号)のCDーROM(本件特許出願のもとの出願の明細書及び図面)
甲第2号証:特開平6-17585号公報
(本件特許出願の公開公報であり、変更された出願の 明細書及び図面)
甲第3号証:特開平5-179875号公報
(審判請求時に甲第7号証であったが、口頭審理の際甲第3号証に変更された)
なお審判請求時に提出された甲第3乃至6号証、甲第8乃至14号証は、全て参考資料に変更された。
(4)本件特許は、変更出願として不適法のため、出願日は遡及が認められないと主張する理由。
請求人は本件特許出願は、変更出願として不適法な出願であるとして、以下列挙する技術的事項にその要因があると主張している。
(イ)「操作框と収納ケースとの間で常に緊張状態に保持される紐」に関して。
もとの出願の明細書または図面には、このような規定は一切見あたらない。この規定が、甲第1号証の記載からみて技術的に自明でもない。
これに関連する技術的事項として、もとの出願の明細書または図面において、「巻取ローラに紐を巻き付けて該紐の先端を前記操作框に固定することにより、前記ネットを常時解放方向に付勢させ、・・・・」(段落【0007】)とあるのに対し、
変更された出願の明細書、または図面においては、「操作框と収納ケースとの間で、常に緊張状態に保持される紐」と、常時開放方向への付勢とは技術的概念が同義でない「緊張状態」の事項が加えられ、しかもそれと呼応して、「・・・ネットに操作框10と収納ケース5との間で常に緊張状態に保持される紐15を挿通しているので、簡単な構造でネットの張設状態を安定的に保持し、防虫効果を有効に発揮させることができる。」(段落【0018】)や、
「・・・ネットには操作框と収納ケースとの間で常に緊張状態に保持される紐を挿通しているので、簡単な構造でネットの張設状態を安定的に保持し、防虫効果を有効に発揮させることができる」(段落【0020】)の作用効果の記載が加えられている。
これらは、もとの出願の明細書または図面に記載されたものから自明なものでなく、もとの出願の明細書または図面に開示された技術的事項を実質的に変更したものである。
また平成12年9月14日付けの請求人提出の陳述要領書においても以下の点を主張している。
もとの出願の明細書または図面においては、紐の一端は操作框に固定しているものに限られる。しかるに変更された出願の明細書または図面では、固定点が特定されていない。固定点が特定されていない以上強く押された場合、ネットとともに変形して(積極的変形性)、容易に回復できる(回復性)ようにすることは、全く自明でない。操作框と収納ケースとの間が緊張状態であれば容易に、回復性を実現することは、もとの出願の明細書または図面には一切開示も示唆もされていなく、またもとの出願の明細書または図面からみて、自明でなく、要旨を変更するものに該当する。
(ロ)「容易に回復できるように変形する」ことに関して。
変更された出願の明細書または図面においての、
「容易に回復できる程度にネットが変形する」(段落【0005】、【0006】)、
「ネットが容易に変形するため、・・・容易に回復させることができる」(段落【0010】)、
「ネット(2)が紐(15)と共に容易に変形するため・・・・容易に回復させることができる」(段落【0019】、【0021】)等は、
ネットの変形性と変形後の回復性を、ネットが有しているということを表しており、もとの出願の明細書または図面には、「ネットが風圧等の作用によってみだりに変形することがないように」すること、そして作用効果でもその変形抑止性が記載されているだけであって、このような変形性も回復性も全く記載も示唆もされていなく、もとの出願の明細書の記載内容からも自明ではない。よって発明の必須の要件としての「ネット」そのものについて、技術的事項を変更するものであり、このような変更は、要旨の変更である。
(ハ)「掛け金具と受け金具の構造」について。
変更された出願の明細書及び図面の図1および図3に符号21、22、23とその説明が加えられているが、これらの金具等とその配置構造は網戸の停止のためのものであって、網戸としての特有の開閉動作とそれに伴う特有の作用効果を規定する本質的要因となるものである。
しかしながら、もとの出願の明細書または図面において、一切の開示も示唆もされていない事項であり、もとの出願の明細書または図面の記載から自明でもない。よってこの技術的事項の付加は要旨の変更に相当するものである。
(ニ)「プリーツのジグザグの保持」について。
「変更された出願の明細書には、本件請求項1に係る発明の構成要件としてのネットについて『ネットを張設開口部を閉鎖した状態において、該ネットがプリーツによりジクザグ状を保持する長さを持たせた』と規定されている。そして、変更された出願の明細書中には、【作用】について、『上記プリーツによりジクザグ状を保持させ、該プリーツによる補強効果によってネットの強度を高め、それによって、張設時に通常の風にはなびかない程度の形状保持性をもたせる』(段落【0010】)とのことが、
【実施例】では、『該ネット2には、上記閉鎖状態においてプリーツによりジクザグ状を保持するに必要な長さをもたせている。』(段落【0015】)、
『上記プリーツによりジクザグ状を保持させ、該プリーツによる補強効果によってネット2の強度を高めることができる。これによって、ネット2には、張設時に通常の風にはなびかない程度の形状保持性をもたせる』(段落【0018】)とのことが、
【発明の効果】では、『ネットの長さを、収納ケースから引き出した閉鎖状態においても各プリーツの折角がジクザグ状を保持するように形成したので、プリーツによる補強効果によってネットの強度が高くなり、通常の風にはなびかない程度の形状保持性をもたせることができる。』(段落【0020】)とのことが記載として新たに加えられている。
しかしながら、もとの出願の明細書には、プリーツネットに関しては、【請求項1】に『建物開口部を閉鎖したときの各プリーツの折角が60〜90度になるような長さに形成した』 との規定がなされ、【課題を解決するための手段】の欄でも、『該ネットを、収納ケースから引き出して建物開口部を閉鎖したときの各プリーツの折り角が60〜90度になるような長さに形成したことを特徴とするものである。』(段落【0007】)とのことが、
【作用】の欄では、『また、前記ネットの長さを、該ネットを収納ケースから引き出した閉鎖状態において各プリーツの折角が60〜90度になるような大きさに形成したから、プリーツによる補強効果によってネットの強度が高くなり、風圧等の作用により該ネットが不必要にネット面に垂直な方向に膨出、変形してアコーディオン式の折り畳み状態が崩れるのが防止される。』(段落【0009】)とのことが、
【実施例】では、『ここで、ネット2を収納ケース5から引き出した閉鎖状態において、風圧等の作用により該ネット2が不必要にネット面に垂直な方向に膨出、変形してアコーディオン式の折り畳み状態が崩れるのを防止するため、該ネット2を、前記閉鎖状態において各プリーツの折角θが鋭角即ち60〜90度になるような長さに形成しておくことが好ましく、このように折角θを鋭角に設定することにより、プリーツによる補強効果を高めてネット2の強度を大きくすることができる。』、(段落【0014】)とのことが、
【考案の効果】では、『また、該ネットの長さを、該ネットを収納ケースから引き出した閉鎖状態において各プリーツの折角が60〜90度になるような大きさに形成したので、プリーツによる補強効果によってネットの強度が高くなり、風圧等の作用により該ネットが不必要にネット面に垂直な方向に膨出、変形してアコーディオン式の折り畳み状態が崩れるのを確実に防止することができる。』(段落【0016】)とのことが記載されているにすぎない。
つまり、もとの出願の明細書においては、『プリーツの折角60〜90度』という特有の技術的事項についてその特有の作用効果との関係が終始一貫して記載されているにすぎないのである。
もとの出願の明細書または図面には、変更後の出願の明細書中に記載されている『プリーツがジクザグ状を保持』すればよいとのこと、このことによって、形状保持性を持たせることができるとのことは一切開示も示唆もされていない。そしてプリーツにおける風等による変形を抑止することのできる形状保持性は、ネットそのものの素材やプリーツを付与するための加工法に大きく左右されることが当業者にとって常識的に理解されることであり、そもそももとの出願の考案における60〜90度の折角であることがよいとの根拠は乏しいことを勘案すれば、前記のような変更後の出願の明細書中において新たに加えられた事項は、何ら技術的に自明な事項ではないことは明白である。自明であると認めるに足るいかなる根拠もない。
してみると、変更後の出願の明細書中の前記の事項は、『折角60〜90度』という要件を削除したものであって、実質的にもとの出願の技術的事項を変更した、いわゆる要旨変更に相当するものである。」(審判請求書第17頁第3行〜第19頁第11行)
また口頭審理陳述要領書において
「もとの出願の明細書では、各プリーツの折角が60〜90度になるような長さに形成されていると記載され、この角度の範囲以外について、さらには「ジグザグ状」であればよいとの記載は一切なされていないのに対し、変更後の出願の明細書では「ジグザグ状」であればよいとしているのである。
そして、「ジグザグ状」であれば、補強効果によって、ネットの強度を高め、
ア,通常の風にはなびかない程度の形状保持性を持たせ(変形抑止性)、
イ,ネットを強く押した場合には、ネットが容易に変形し(積極的な変形性)、
ウ,容易に回復させる(回復性)
ことを可能としていると記載されている。
しかし、このようなア,イ,ウ,特にイ,ウ,の作用効果を示す「ジグザグ状」のネットは、もとの出願からは全く自明でない。
このことは常識的にも明らかである。もとの出願では、ア,の変形抑止性を実現するために60〜90度と特定しているのであり、60〜90度であればイ,ウ,の作用効果が奏せられるとも、
さらにはジグザグ状であればそれらのイ,ウ,の効果が奏せられるとも一切記載されていないのである。
すでに請求人が指摘したように、ア,変形抑止性と、イ,積極的変形性ならびに、ウ,容易回復性とは常識的に矛盾し、相反する作用効果である。このような相反する作用効果を、ジグザグ状のプリーツネットであればおのずと実現されるとのことはもとの出願には開示も示唆もない。」(平成12年9月14日付け口頭審理陳述要領書第3頁第26行〜第4頁第19行)
4.被請求人の主張
被請求人は、「本件審判請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。」との審決を求めており、その答弁書において請求人が本件特許は変更出願として、不適法であるとしてあげた理由に対して、被請求人は以下のような反論をし、本件特許発明は、変更出願として、適法に特許されたものであって、出願日の遡及によって平成3年6月28日に出願されたものと見なされるものである。
よって甲第1号証及び甲第2号証の刊行物は、いずれも本件特許出願日以降のものであって、それらは本件特許発明と対比するまでもないものである。
(イ')「操作框と収納ケースとの間で常に緊張状態に保持される紐」に関して。
もとの出願の明細書または図面に記載されているのは、
(a)収納ケース内にはスプリングを駆動源とする巻取ローラを設け、(b)巻取ローラに紐を巻き付けて、(c)この紐の先端を操作框に固定することにより、(d)ネットを常時開放方向に付勢させる。・・・・しかしながら、少なくとも上記(a)〜(d)の記載がもとの出願の明細書または図面に存在すれば、「常に緊張状態に保持される紐」については、実質的に記載されていたと認定されてしかるべきである。(答弁書第3頁下から7行〜第4頁第2行)
また「操作框と収納ケースとの間で常に緊張状態に保持される紐」について直接表現する記載がもとの出願の明細書または図面になくても、上記(a)〜(d)の技術内容から、当業者が客観的に判断すれば、「自明な事項」の範囲内であるとして、当然にそれが記載されていたと認定されるべきである。(答弁書第4頁第16行〜19行)
また「常に緊張状態に保持される紐」は、もとの出願の明細書または図面の記載から自明の事項であり、その他の記載も、もとの出願の明細書の【考案が解決しようとする課題】、【課題を解決するための手段】、【作用】、 【考案の効果】等の記載から自明の事項であり、従って乙1号証の審査基準で指摘されているような「発明の構成に関する技術的事項」が内容的、実質的に変更されたものではない。(答弁書第5頁第12行〜17行)
(ロ')「容易に回復できる程度にネットが変形する」ことに関して。
もとの出願の明細書の段落【0006】あるいはその明細書の記載から自明の事項と言えるものである。「・・・・特に多数のプリーツをジグザグ状に施すことによりアコーデオン式に伸縮自在とした防虫ネット」がそれらの性質を備えていることは、もとの出願の明細書または図面からみて自明のことである。
(ハ')「掛け金具と受け金具の構造」について。
当該補正は本件発明の特許請求の範囲に影響を及ぼさないものであり、要旨変更の範疇に入らないものである。また操作框に解放方向の付勢力を付与しておく場合も含めて、各種の網戸において、操作框とネットの張設時にその操作框が当接する部材間に掛け金具と受け金具を設けておくことは、もとの出願の出願前に極めて一般的な技術常識として知られたことであり、もとの出願の明細書または図面の記載から自明であるということができるものである。
(ニ')「プリーツのジグザグ状の保持」について。
ネットに多数のプリーツを施すことによりアコーデオン式に伸縮自在とし、該ネットによってネット張設開口部を閉鎖した状態において、該ネットが上記プリーツによりジグザグ状を保持するようにすれば本件特許発明の効果は自明のことであり、要旨を変更したものではない。
5.当審の判断
本件無効審判請求で提出された甲第1号証及び甲第3号証は、日付上では、本件特許出願の出願後に頒布された刊行物であり、本件特許の出願日は、その日付通りの、もとの出願がなされた日なのか、あるいは、出願が変更された時点にまで繰り下がるのかで、提出されたこれらの証拠類の取り扱いが大きく異なることから、請求人、被請求人間で争点になっている出願日の認定について検討する。
(イ)「操作框と収納ケースとの間で常に緊張状態に保持される紐」に関して。
請求人が指摘しているような「紐が水平移動せずに、操作框だけが水平方向に移動する」という技術思想も、当該文言上だけからでは含まれると解される余地がないわけではないが、この点は特許請求の範囲の記載からは、一義的に明確に理解することができないので、それ以外の記載をも考慮して、技術的意味を明らかにすべきであろう。
そこで変更された出願の明細書または図面には、「ネットには操作框と収納ケース間で常に緊張状態に保持される紐を挿通し、該ネットにそれを収納ケースから引き出してネット張設開口部を閉鎖し・・・」(段落【0007】)、
「収納ケースの深さより大きくしておくと、ネットをスプリング等の力で折り畳んだ時の重なり厚さが収納ケースの深さより大きいので該ネットの開放時に操作框が収納ケースに勢いよく衝突することがない」(段落【0009】)、
「スプリングの付勢力で常時開放方向(折り畳まれる方向)に付勢されており、操作框10でネット2を収納ケース5から引き出し建物開口部を閉鎖すると紐15,15を介して巻取ローラ16,16のスプリングにエネルギーが蓄積され、ネット2を折り畳んで開放するときこのスプリングに蓄積されたエネルギーにより紐15,15を介してネット2が自動的に折り畳まれる」(段落【0014】)、
「ネットを比較的強く押した場合などには、ネットが紐と共に容易に変形するため・・・・・」(段落【0019】、【0021】)等の記載及び図面の記載からみて、紐の一端は操作框に固定され、他端は、収納ケース内の紐を常に緊張状態を保持するための手段に連結されて紐と操作框が連動して動くことにより、紐は操作框と収納ケースとの間で常に緊張状態に保持されていることから、操作框と収納ケースとの間で常に緊張状態に保持される紐とは、紐と操作框が連動しながら操作框と収納ケースとの間で常に緊張状態に保持される紐と解釈するのが自然であり、特に段落【0019】、【0021】の「ネットを比較的強く押した場合にはネットが紐と共に容易に変形するため・・・・」の説明からも明らかなように、変形の際、紐が網戸面に対して直角方向にも自由に動くことを排除するものでないことから、請求人が審判請求書中の第2図で説明している左右網戸枠間に水平にピンと張った紐にそって操作框だけが水平方向に移動するものや、被請求人が操作框と収納ケースとの間で常に緊張状態に保持される紐は、周知技術であるとして、平成12年10月13日付けの陳述要領書の乙第1号証として提出した特開昭62-148791号公報に記載されているような左右の網戸枠間に紐が常時ピンと張ったまま水平移動するものは含まれていないことは明らかであり、この限りにおいて、変更された出願の明細書及び図面に記載されたものは、もとの出願の明細書または図面に記載された事項の範囲を逸脱しているものではない。
よって被請求人が平成12年10月13日付けの陳述要領書の第2頁の第2行〜4行において、「請求人が説明図によって主張する態様を含め各種の状態でネット等のスクリーンに常に緊張状態に保持される紐を挿して・・・」の主張によるところの審判請求書中の説明図2の態様は変更された出願の明細書または図面に記載された事項に含まれないことは明らかであることから当該主張は採用できない。
(ロ)「容易に回復できるように変形する」ことに関して。
もとの出願の明細書の「風圧等の作用により該ネット2が不必要にネット面に垂直な方向に膨出変形してアコーデオン式の折り畳み状態が崩れるのを防止する」(段落【0014】)、
「風圧等の作用により該ネットが不必要にネット面に垂直な方向に膨出変形してアコーディオン式の折り畳み状態が崩れるのを確実に防止する」(段落【0016】)の記載から明らかなように、不必要に変形しないというのは、全く変形しないというのではなく、ある程度の変形はするということであり、変形してもアコーディオン式の折り畳み状態が崩れるのを確実に防止することができるということであり、しかも素材がネットであることから、多数のプリーツをジグザグ状に施すことによりアコーディオン式に伸縮自在とした防虫ネットが「容易に回復できるようにネット等が変形する」性質を備えていることは、もとの出願の明細書または図面の記載からみて自明のことである。
(ハ)「掛け金と受け金具の構造」について。
操作框10は閉鎖時に框受け9に係止するため、操作框10に掛け金具21、操作子22、框受け9に受け金具23を設けることは、本件出願前に、当該技術分野において周知技術であり、もとの出願の明細書および図3に開示された技術的事項からも自明なことであり、請求人の主張は採用できない。
(ニ)「プリーツのジグザグの保持」について。
もとの出願の明細書の段落【0009】の作用において、「ネットの長さを、該ネットを収納ケースから引き出した閉鎖状態において各プリーツの折角が60〜90度になるような大きさに形成したからプリーツによる補強効果によってネットの強度が高くなり・・・・・」の記載を含む明細書の記載内容及び図3からみて、もとの出願の明細書または図面にはネットがネット張設開口部を閉鎖した状態において、プリーツによりカーテンの断面がぎざぎざに屈曲した線状つまりジグザグ状を保持する長さをもたせた点が開示されていると認められる。
またもとの出願の明細書の段落【0014】には、「プリーツの折角が鋭角即ち60〜90度になるような長さに形成しておくことが好ましく・・・・」とあり、
しかもこの折角は、比較的自由度のあるプリーツの折角であること、
さらに当該技術分野の常識からみて、折角60〜90度を提示された角度は数字上のさほど厳密性を求められているものではないこと等を総合的に勘案すると、変更された出願の明細書に記載された「ジグザグ状を保持する長さをもたせた」は、もとの明細書の記載内容の範囲内であると認められ、請求人が主張する「各プリーツの折角が60〜90度になるような長さに形成されていると記載され、この角度の範囲以外について、さらにはジグザグ状であればよいとの記載は一切なされていない・・・」との主張の根拠は認められない。
またもとの出願の明細書または図面の「ネットが風圧等の作用によってみだりに変形することがないようにした・・・」(段落【0006】)、
「巻取ローラに紐を巻き付けて該紐の先端を前記操作框に固定することにより、前記ネットを常時開放方向に付勢させ」(段落【0007】)、
「紐がネットを縫うように挿通し」(図1,図3)、
「プリーツによる補強効果によってネットの強度が高くなり、風圧等の作用により該ネットが不必要にネット面に垂直な方向に膨出、変形してアコーデオン式折り畳み状態が崩れるのを確実に防止することができる」(段落【0016】)等の記載を含む明細書及び図面の記載、さらに当該技術分野の技術常識を総合的に勘案すると、
プリーツによりネットのジグザグを保持させれば、
プリーツによる補強効果が生じて、形状保持性をもたせることができることは、技術的常識であって、請求人の主張するところの形状保持性は、ネットそのものの素材やプリーツを付与するための加工法に左右されることは言うまでもないところであるが、同一素材で比較した場合、プリーツによるジグザグ状を施したほうが、形状保持力が高まることは、改めて言うまでもないことである。
また形状保持力が高まったとしても、素材がネットであるため、しかも多数のプリーツをジグザグ状に施すことによりアコーディオン式に伸縮自在とした防虫ネットは、開閉方向の長さに余裕があるため、さらにネットに挿通した紐が巻取ローラにより出入り自在に張設されていることから、ネットを比較的に強く押した場合には、ネットが容易に変形し、しかも容易に回復することは自明のことにすぎない。よって変更された出願の明細書に記載された「張設時に通常の風にはなびかない程度の形状保持性をもたせる」や「ネットを比較的強く押した場合などには、ネットが紐と共に容易に変形するため、網戸自体が破損することなく容易に回復させることができる」は、もとの出願の明細書または図面の開示内容から自明の技術的事項にすぎない。
以上のとおり請求人が、もとの出願の明細書または図面に記載されていないと主張する変更された出願の明細書または図面における上記(イ)〜(ニ)の技術的事項は、上述のとおり、全てもとの出願の明細書または図面に開示されているものと認められる。
またその他、変更出願として不適法になされたものであるとする根拠も見出せない。
よって、変更された出願は、もとの出願時にされたものと認められる。
そうすると請求人によって提出された甲第1号証及び甲第3号証は、本件特許の出願後に出願され公開された刊行物であるから、これらの刊行物は、その記載内容を吟味するまでもなく、本件請求項1〜7に係る発明の新規性進歩性を否定する証拠方法とは認められない。
また異議申立時の訂正請求による訂正後の請求項1〜7に係る発明については、適法な変更出願に対して訂正されたものであり、訂正後の請求項1〜7に係る発明は、独立して特許を受けることができないとする理由もないことから、請求人が上記3.(1)〜(5)で述べているように特許法第123条第1項第2号または第8号の規定により無効とされるべきとする主張は採用できない。
また他に、本件請求項1〜7に係る発明を出願の際独立して特許をうけることができない発明とすべき理由を発見しない。
6.まとめ
以上の通りであるから請求人の主張する理由および提出した証拠によっては、本件請求項1〜7に係る発明の特許を無効とすることができない。
よって本件審判の請求は、理由がないものとし、審判費用については、特許法第169条第2項の規定により準用する民事訴訟法第61条の規定を適用して、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2001-03-30 
結審通知日 2001-04-13 
審決日 2001-04-24 
出願番号 特願平5-96626
審決分類 P 1 112・ 121- Y (E06B)
P 1 112・ 831- Y (E06B)
P 1 112・ 161- Y (E06B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山田 忠夫  
特許庁審判長 佐田 洋一郎
特許庁審判官 鈴木 憲子
鈴木 公子
登録日 1996-09-19 
登録番号 特許第2564242号(P2564242)
発明の名称 折り畳み式網戸  
代理人 林 宏  
代理人 内山 正雄  
代理人 後藤 正彦  
代理人 有賀 信勇  
代理人 内山 正雄  
代理人 後藤 正彦  
代理人 西澤 利夫  
代理人 林 宏  

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