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審決分類 審判 一部申し立て 4項(5項) 請求の範囲の記載不備  H04R
審判 一部申し立て 特29条の2  H04R
審判 一部申し立て 2項進歩性  H04R
管理番号 1041093
異議申立番号 異議2000-71555  
総通号数 20 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1998-08-11 
種別 異議の決定 
異議申立日 2000-04-18 
確定日 2000-12-27 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第2963917号「電気-機械-音響変換器及び携帯端末装置」の請求項1ないし25、27ないし33に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第2963917号の請求項1ないし25、27ないし33に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許第2963917号の請求項1ないし33に係る発明は、平成9年11月28日に特許出願され、平成11年8月13日にその発明について特許の設定がされ、その後、異議申立人 小野 浩一 及び 異議申立人 並木精密宝石株式会社 により特許異議の申立がなされ、取消しの理由が通知され、その指定期間内である平成12年10月2日に訂正請求がなされたものである。




2.訂正の適否についての判断
(1)訂正の内容
イ.訂正事項a
【特許請求の範囲】の【請求項1】において、
“振動板と、
前記振動板に対向して配置された磁気回路部材と前記磁気回路部材に取り付けられ、前記磁気回路部材より比重の大きい重りとを含む可動部材と、
前記可動部材を支持する少なくとも一つのサスペンションと、
前記振動板と前記サスペンションとを支持する支持部材と、
前記振動板と前記磁気回路部材との間に働く磁気駆動力を発生させる駆動手段とを具備する電気-機械-音響変換器。”
(特許公報第1頁1欄第2行目〜11行目)
を、
「振動すると音を発生する振動板と、 前記振動板に対向して配置された磁気回路部と前記磁気回路部に固着されていて前記磁気回路部より比重の大きい重りとを含む可動部材と、
前記可動部材を支持する少なくとも一つのサスペンションと、
前記振動板と前記サスペンションとを支持する支持部材と、
前記振動板と前記磁気回路部との間に働く磁気駆動力を発生させる駆動手段とを具備し、 前記駆動手段によって前記振動板又は前記可動部材を振動させることにより、前記振動板からは音を発生し、前記可動部材からは振動を発生するようにした電気-機械-音響変換器。」
に訂正する。

ロ.訂正事項b
【特許請求の範囲】の【請求項2〜4】において、
“磁気回路部材”を「磁気回路部」と訂正する。

ハ.訂正事項c
【特許請求の範囲】の【請求項7】において、
“前記重りが”を「前記重り及び前記サスペンションが」と訂正する。

ニ.訂正事項d
【特許請求の範囲】の【請求項20】において、
“実質的に”を削除するように訂正をする。

ホ.訂正事項e
「発明の詳細な説明」の段落【0008】に記載の
“本発明の電気-機械-音響変換器は、振動板と、前記振動板に対向して配置された磁気回路部材と前記磁気回路部材に取り付けられ、前記磁気回路部材より比重の大きい重りとを含む可動部材と、前記可動部を支持する少なくとも一つのサスペンションと、前記振動板と前記サスペンションとを支持する支持部材と、前記振動板と前記磁気回路部材との間に働く磁気駆動力を発生させる駆動手段を具備する。前記重りは、前記磁気回路部材の外側に配置されている。前記駆動手段は、前記磁気回路部材の磁気空隙に挿入され一端が前記振動板に接合されたボイスコイルである。他の観点の前記駆動手段は、前記磁気回路部材のセンターポールの外周に配置された励磁コイル及び前記磁気回路部材と磁気空隙を設けて配置された磁性体を有する電磁型の駆動手段である。”
を、
「本発明の電気-機械-音響変換器は、振動すると音を発生する振動板と、前記振動板に対向して配置された磁気回路部と前記磁気回路部に固着されていて前記磁気回路部より比重の大きい重りとを含む可動部材と、前記可動部材を支持する少なくとも一つのサスペンションと、前記振動板と前記サスペンションとを支持する支持部材と、前記振動板と前記磁気回路部との間に働く磁気駆動力を発生させる駆動手段を具備する。前記重りは、前記磁気回路部の外側に配置されている。前記駆動手段は、前記磁気回路部の磁気空隙に挿入され一端が前記振動板に接合されたボイスコイルである。他の観点の前記駆動手段は、前記磁気回路部のセンターポールの外周に配置された励磁コイル及び前記磁気回路部と磁気空隙を設けて配置された磁性体を有する電磁型の動手段である。」、
と訂正する。

ヘ.訂正事項f
「発明の詳細な説明」の段落【0014】【0045】に記載の“実質的に200Hz以上”を「200Hz以上」と訂正する。


(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
上記イ.の訂正事項aは、
発明を特定する事項である“振動板”を、これに含まれる、振動板の有する作用を明確にする「振動すると音を発生する振動板」に変更するもので、願書に添付された明細書(以下、〈特許明細書〉という。)の段落【0022】第3〜4行、段落【0029】第4行、段落【0043】第4行、段落【0072】第7〜8行等に記載が、
また“磁気回路部材”を、これに含まれる、発明の実施の形態に対応すべく「磁気回路部」に変更するもので、特許明細書の段落【0019】第22行と26行、段落【0020】第6行と9行、段落【0021】第3行と第8行等に記載が、
また“(重りが磁気回路部材に)取り付けられ”を、これに含まれる「(重りが磁気回路に)固着されていて」に変更するもので、特許明細書の段落【0026】第27〜28行に記載が、
さらに“具備する”を「具備し、前記駆動手段によって前記振動板又は前記可動部材を振動させることにより、前記振動板からは音を発生し、前記可動部材からは振動を発生するようにした」との訂正は、具備されている構成である“駆動手段”、“振動板”及び“可動部材”の各作用と相互関係を明確にするもので、“駆動手段”は特許明細書の段落【0008】第24〜26行、段落【0020】第4〜16行等に、“振動板”は前記したとおりに、及び“可動部材”は特許明細書の段落【0008】第16〜24行、段落【0020】第10行〜16行等に記載が夫々あるから、特許請求の範囲の減縮もしくは明瞭でない部分の釈明を目的とした訂正に該当する。

上記ロ.の訂正事項bは、
上記イ.の訂正事項と整合を図るものであるから、明瞭でない部分の釈明に該当する。

上記ハ.の訂正事項cは、
発明を特定する事項である“重りが空気抜き穴を有する”を、これに含まれる、空気抜き穴の形成箇所を明確にする「重り及びサスペンションが空気穴を有する」に変更するもので、特許明細書の段落【0024】第11〜13行、段落【0026】第17行〜21行、及び第3図〜6図等に記載があるから、特許請求の範囲の減縮もしくは明瞭でない部分の釈明を目的とした訂正に該当する。

上記ニ.の訂正事項dは、
“実質的に”を削除し、受話音を再生する電気信号の周波数を「200Hz以上」の周波数であると、下限値を限定して発明を明確にするもので、明瞭でない記載の釈明に該当する。

上記ホ.ヘ.の各訂正事項e、fは、
上記の各訂正事項a、dと整合を図るもので、明瞭でない記載の釈明を目的とした明細書の訂正に該当する。

そして、上記の各訂正事項a〜fは、いずれも、新規事項の追加に該当せず、実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものでない。


(3)むすび
以上のとおりであるから、上記各訂正は特許法第120条の4第2項及び同条第3項において準用する第126条第2項及び第3項の規定に適合するので、当該各訂正を認める。




3.特許異議の申立について
(1)申立ての理由の概要
特許異議申立人 小野 浩一 は、本件請求項1〜8、11〜13、15〜21に係る各発明(訂正前のその特許請求の範囲の各請求項記載された発明、以下「訂正前本件発明1〜8、11〜13、15〜21」という)は、証拠として甲第1〜甲第7号証
(甲第1号証:特開昭61-21699号公報、
甲第2号証:実願平 3- 44627号
(実開平 4-129199号)のマイクロフィルム、
甲第3号証:実願昭57-108719号
(実開昭59- 14491号)のマイクロフィルム、
甲第4号証:特開昭59- 94997号公報、
甲第5号証:実願昭59- 33600号
(実開昭60-145778号)のマイクロフィルム、
甲第6号証:特開平 3-274832号公報、
甲第7号証:特開平 9-233798号公報)
を提示して、甲各号証に記載の発明及び周知事項等に基づき当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に該当し特許を受けることができないもので、特許法第113条第1項第2号に該当する。
また、訂正前本件発明7、20、21の記載は不明確で、特許法第36条第6項に違反するもので特許法第113条第1項第4号に該当する。
よって、特許法第114条第2項第2号の規定により取り消すべきものである旨申立ている。

特許異議申立人 並木精密宝石株式会社 は、訂正前本件発明1〜25、27〜33は、証拠として甲第1〜甲第9号証
(甲第1号証:米国特許第5528697号明細書及び翻訳文、
甲第2号証:特開平 8-206599号公報、
甲第3号証:特開昭61- 21699号公報、
甲第4号証:特開平 7- 57159号公報、
甲第5号証:特開平 7-140984号公報、
甲第6号証:特開平 9-233798号公報、
甲第7号証:特開平 4-145874号公報、
甲第8号証:特開平 8-331694号公報、
甲第9号証:特開平 5-206989号公報)
を提示して、訂正前本件発明17は、甲第6号証に記載の発明と同一であるから特許法第29条の2の規定により、また、前記他の訂正前本件発明は、甲第1〜5、7〜9各号証に記載の発明及び周知事項等に基づき当業者が容易に発明をすることができたもので、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないもので、特許法第113条第1項第2号に該当する。
よって、特許法第114条祭2項第2号の規定により取り消すべきものである旨申立ている。


(2)本件請求項に係る発明
上記2.で示したように上記訂正が認められるから、訂正後の本件請求項1〜33に係る発明は、上記訂正に係る訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1〜33に記載された事項(以下、「本件発明1〜33」という。)に特定されるとおりのものである。


(3)当審が通知した取消理由の理由1に関して
当審が通知した取消理由で引用した刊行物1〜9及びイ〜ハには、要約すると、それぞれ以下のような発明が記載されている。
刊行物1:米国特許第5528697号明細書(異議申立人並木精密宝石株 式会社提示の甲第1号証で「甲第N-1号証」という。以下同様 )
・装置に提供される信号により、音声信号、低周波信号、又はその両者を 選択的に生成できる一体型装置である。(翻訳文第43〜44行)
・高周波をボイスコイルへ印加すると、ダイアフラムが振動し、ブザー音 を発する。低周波をボイスコイルへ印加すると、近接の磁気ユニットが 低周波でスプリング体上で動く。(翻訳文第72〜74行)
・用途はページャー等の携帯端末である。(翻訳文第124〜127行)
・低周波の体感振動をする可動体である磁気回路26、28、29全体が スプリングサスペンション27上に乗る構成がある。(第3〜5図)
・磁気駆動力を発生させる駆動手段としてのボイスコイル25、可聴音発 生用の振動板としてのダイアフラム24、該ダイアフラム24に対向し て配置されたポールピース26、リングマグネット28及びヨーク29 からなる磁気回路の可動部材としてのユニット30、該ユニット30を 支持するサスペンションとしてのスプリング体27、及び支持部材とし てのケース18とからなる電磁変換装置であって、配線19を介して
2.1及び2.7KHzをボイスコイルに印可すると、ダイアフラム
24の誘導振動に起因してブザー音を発生し、100〜200Hzを印 可すると、スプリング体27上のユニット30の振動に起因して低周波 振動を発生する。(翻訳文第138〜157行、第5図参照)
・ページャーのユーザーに警報するために前記振動及び前記可聴音の内少 なくとも一方を選択的に発生する。(翻訳文第261〜252行)
・磁気空隙に挿入され一端が振動板(ダイヤフラム16、24)に接合さ れたボイスコイル(21、25)を有する構成の記載がある。
(第4、5図)
・センターポール12の外周に配置されたアーマチュア(磁性体)13を 有する構成の記載がある。(第3図)

刊行物2:特開平 8-206599号公報(「甲第N-2号証」)
・振動による信号警報装置であり、付加質量である重り120が磁気回路 である磁石110と共にサスペンションバネ310上に組み立てられ、 『振動モジュールの共振周波数は、バネ310と加振重量100の重量 により決定さので、重り120は磁石110を支持し、加振重量の重量 を調整する目的を有し、小型、薄型の振動モジュールを構成するために 、体積が小になっても必要な質量を確保できるようにするため、タング ステン合金、鉛合金等の比重が大きな金属材料により構成される。』
(段落【0016】)
・可動部材の上下の両側に2枚のサスペンション310を用いることが開 示されている。(第2、3図等参照)

刊行物3:特開昭61- 21699号公報(「甲第N-3号証」)
・電気振動変換器であって、磁気回路と、該磁気回路に形成されたボイス コイルとを含み、該磁気回路及びボイスコイルの何れか振動する側に副 振動体が弾性部材を介して設けられる。(第2頁左下欄第17〜20行 等参照)
・(体感振動装置のウエイト30が弾性部材31を介して取付けられ、) かなり低い周波数領域f0においては等価的にウェイト30の質量が磁 気回路の質量に直接付加された状態、すなわち弾性部材31が実質的に 存在しない状態にて振動するため、磁気回路及びウエイト30の各質量 の和とダンパ23のスティファネスとで決定される低音共振周波数:f 03が存在する。(第3頁右上欄1〜7行、第6図等参照)
・ウェイト30及び弾性部31は環状マグネット22の外周部に固着せし めれられている。(第3頁左下欄第10〜12行、第7図等参照)

刊行物4:特開平 7- 57159号公報(「甲第N-4号証」)
・携帯装置用無音警報用振動発止装置であり、ページャの構成がある。
(段落【0015】、第6図等参照)

刊行物5:特開平 7-140984号公報(「甲第N-5号証」)
・発音装置であり、振動の空間11が密封空間となるのを回避する孔15 側壁13と放音孔14からなる共鳴部としての第2の空間を設ける記載 がある。(段落【0021】【0028】、第2、3図等参照)

刊行物6:特開平 9-233798号公報(「甲第N-6号証」)
・ペイジャー用振動アクチュエータであり、一つの携帯端末(ペイジャー )用振動アクチュエータに着信体感振動信号、着信音声信号かつ会話信 号(受話音再生)をスイッチの切換で選択的に印可する構成がある。ま た、携帯端末がアンテナを有し着信信号のある間、着信を報知する振動 を発生する記載がある。(第13、14図、段落【0029】【003 0】等参照)

刊行物7:特開平 4-145874号公報(「甲第N-7号証」)
・振動子型アクチュエータの駆動回路であり、圧電振動子40の共振周波 数成分を検出して周波数発生器36の駆動出力信号の周波数を該検出し た共振周波数に一致するように帰還制御する構成がある。(第2頁左下 欄7行〜第3頁左上欄第15行、第3図等参照)

刊行物8:特開平 8-331694号公報(「甲第N-8号証」)
・移動体通信端末の呼出装置であり、圧電素子40の駆動用電極44に電 圧を印加する増幅回路50、圧電素子40の振動を電気信号として得る ための検出用電極46、及び検出用電極46に得られた共振用周波数成 分の電圧を増幅器50に帰還し、その帰還電圧が増幅されて再び駆動用 信号44に電圧を印可する自励発振構成の記載がある。(段落【002 3】〜【0025】、第2図等参照)

刊行物9:特開平 5-206989号公報(「甲第N-9号証」)
・通話装置であり、FM変調回路110への信号入力前に、不必要に大き な信号が入力されることを防ぐためリミッタ109により所定範囲の信 号レベルに抑える記載がある。(段落【0002】、第4図等参照)

刊行物イ:実願昭57-108719号のマイクロフィルム(異議申立人 小野浩一 提示の甲第3号証で「甲第O-3号証」という。 以下同様。)
・電気ー機械振動変換器であり、のり代部と円周方向に延設されたバネ部 とに分けたダンパー構成であり、このものには「第1図及び第2図に示 すものは外磁型電気ー機械振動変換器であり、このものは、図のように 、磁石1とヨーク2とにより磁気的空隙3が形成された磁気回路構成体 4と、その外周部に接着されることにより磁気回路構成体4と一体され たダンパー5とが格納され、直接外部に振動を伝達するケース6と、上 記磁石1とヨーク2とによって形成された磁気的空隙3内に位置される コイルを有する蓋体と、から構成されたものである。このものの場合に は、そのダンパー5が円周方向に、のり代部5a、5bと、バネ部5c とに分けられており、のり代部5bがケース6に形成された段部7に接 着されることによりダンパー5がケース6に固定されるようになってい るために、のり代部5bの分だけ電気ー機械振動変換器の柄がその半径 方向に大となっていた」との記載がある。(第2頁第12行〜第3頁第 8行、第1、2図)

刊行物ロ:特開昭59- 94997号公報(「甲第O-4号証」)
・ケース本体内の圧力による振動抑制を防止する為の通気孔を有するダン パー構成の電気ー機械振動変換器であって、このものには「ダンパーが 通気孔を有することにより密閉されたケース本体内の圧力に対して、ダ ンパーのコンプライアンスを上げる事が可能となるなど種々の効果を有 するものである」との記載がある。(第4頁左上欄第16〜20行)

刊行物ハ:実願昭59- 33600号のマイクロフィルム(「甲第O-5 号証」)
・電気振動変換器であり、磁気回路を構成する部材を支持するケースが、 彦定礎内に取り付けられたものとして、このものには「ケース内11に は同じく椀状上に形成されたヨーク12が配置されており、且つダンパ 13を介してケース11に取り付けられている」との記載がある。
(第5頁第4〜6行)

(4)対比・判断
《当審が通知した取消理由1に関して》
イ.本件発明2〜16、18、19、21〜25及び27〜33が引用する『独立形式請求項である本件発明1』と上記刊行物1〜3に記載の発明とを比較する。

ロ.刊行物1に記載の“配線19を介して2.1及び2.7KHzをボイスコイル25に印加すると、ダイアフラム24の誘導振動に起因してブザー音を発生する”は、本件発明1の「振動すると音を発生する振動板」に相当する。
同様に“スプリング体27上のユニット30の振動に起因して低周波振動を発振する”は、第5図の実施例を勘案すると、ユニット30がポールピース26とから磁気回路部を形成し、ダイヤフラム24(振動板)に対向して配置されたスプリング(27)上に設けられているから「振動板に対向して配置された磁気回路部と前記磁気回路部に固着されている可動部材と、前記可動部材を支持する少なくとも一つのサスペンション」に、
また、“ケース18”は「(振動板とサスペンションとを支持する)支持部材」に、
また、第5図の実施例には、ボイスコイル25を支持するダイアフラム24と、ポールピース26、リングマグネット28、ヨーク28の磁気回路とは対向配置された磁気的結合関係にあるから、当該構成は「振動板と磁気回路部との間に働く磁気駆動力を発生させる駆動手段とを具備」に、
また、“高周波をボイスコイルへ印加すると、ダイアフラムが振動し、ブザー音を発する。低周波をボイスコイルへ印加すると、近接の磁気ユニットが低周波でスプリング体上で動く”は「駆動手段によって振動板又は可動部材を振動させることにより、前記振動板からは音を発生し、前記可動部材からは振動を発生するようにした電気-機械-音響変換器」に、
夫々相当するから、両者は
「振動すると音を発生する振動板と、前記振動板に対向して配置された磁気回路部と前記磁気回路部に固着されている可動部材と、前記可動部材を支持する少なくとも一つのサスペンションと、前記振動板と前記サスペンションとを支持する支持部材と、前記振動板と前記磁気回路部との間に働く磁気駆動力を発生させる駆動手段とを具備し、前記駆動手段によって前記振動板又は前記可動部材を振動させることにより、前記振動板からは音を発生し、前記可動部材からは振動を発生するようにした電気-機械-音響変換器。」
で一致するものの、本件発明1は、磁気回路側に、
「磁気回路部に固着されていて前記磁気回路部より比重の大きい重りとを含む可動部材」
の構成があるのに対し、刊行物1には当該構成がない点で相違する。

ハ.そこで、前記相違点について検討する。
〈 刊行物2 〉
a.刊行物2には“重り120は磁石110を支持し、加振重量の重量を調整する目的を有し、小型、薄型の振動モジュールを構成するために、体積が小になっても必要な重量を確保できるようにするために、タングステン合金、鉛合金等の比重が大きな金属材料により構成される。”(段落【0016】)、“ケース410、ケース420の材質は非磁性体のものでなければならない”(段落【0028】)との記載、
また、電磁力はコイル220と磁石110の周囲の空隙間で発生しており、そして“磁石110”そのものは磁気回路部でないから、
“重り”の記載はあるものの、本件発明1でいう磁気回路部に固着される“重り”とは構成が相違する。

b.次に、刊行物2には“振動モジュールは、大きな振幅を発生させることを目的としている”(段落【0035】)との記載があり、本件発明1のものも「重りは大きな振幅を発生させる」目的を有している点で共通するように見られ、この視点から検討してみる。
刊行物2には“加振重量100は、単一の磁石110に、重り120を接着剤等で接合”(段落【0015】)して形成し“コイル220に端子510を通して供給される電流と磁石により電磁力を発生し、加振重量100の重量とバネ310により決定される周波数で、振動モジュールの縦軸方向に振動する”(段落【0014】)との記載があり、
また、前記電磁力による振動モジュールの縦軸方向振動について、“振動モジュールの共振周波数は、バネ310と加振重量100により決定されるので、重り120は磁石110を支持し加振重量の重量を調整する・・・・・本発明の振動モジュールの共振周波数は、前記のバネ310と加振重量100により約80Hz〜150Hzに調整した”(段落【0016】)、“振動モジュールは、大きな振幅を発生させることを目的としているため、ヒステリシスおよび、非線形が生じることを防ぐことは困難である。従って、ヒステリシスと、非線形に影響されない対策が必要となる。この対策として、前記ヒステリシスと非線形性に影響されない周波数領域である、ヒステリシスが生じる低周波側の周波数より低い周波数で駆動する”(段落【0035】)等の記載があることから、
“重り”とは、永久磁石単独では重量不足で大きな振幅発生を確保できないため、加振重量を得るがためのであって、このものに永久磁石を接合して確保しているというものである。
そして、加振重量を付加することは、これを支持するバネとの間に不可避に生ずるヒステリシス、及び非線形があるので、これを避けるために、ヒステリシスが発生する周波数より低い周波数で駆動制御するというものである。

要するに、ここでの“重り”とは加振重量を確保するためのもので、本件発明1の“磁気回路部”の重量に相当するものと解され、本件発明1がより大きな振動を発生する目的で“前記磁気回路部より比重の大きい重り”を固着していくものものとはそもそも別離の技術的思想のものである。

c.したがって、刊行物2を刊行物1に組み合わせることで本件発明1の上記相違点を解消することは当業者が容易に想到できるものでない。


〈 刊行物3 〉
a.刊行物3には、副振動体(ウェイト)を弾性部材を介在して磁気回路に設ける記載がある(第5図、第7図)ことから、この点を検討してみる。
当該刊行物の技術分野は“スピ-カの如く空気伝搬による楽音伝達をなす音響装置による効果のみならず、可聴域よりさらに低い領域の低音をも特殊な電気振動変換器により人体の接触する部材の機械振動に変換してこれを直接体感させる事により豊かな臨場感を聴取者に与える”(第1頁左下欄第19〜右上欄5行)電気振動変換器であって、“当該電気振動変換器は例えば椅子などのフレームに取り付けて使用される”(第1頁右下欄第8〜9行)もので、振動の発生はあるが、音の発生はないものである。

b.副振動体が、弾性部材を介在して設けられる理由として、
“(低音共振周波数)f0よりかなり低い周波数領域においては等価的にウェイト30の質量が磁気回路の磁気回路の質量に直接付加された状態、すなわち弾性部材31が実質的に存在しない状態にて振動するため、・・・・・低音共振周波数:f03が存在する。また、周波数が上記f0よりかなり高い領域においては、・・・・・低音共振周波数:f04が存在する”(第3頁右上欄第1〜13行)、この結果、“低音共振周波数が2ヶ所に設定されることによって、該両低音共振周波数の間を見かけの帯域として有効帯域を広げることが可能となっている”(第3頁右上欄第14〜17行)”
さらに、
“副振動体たるウェイト30の質量や弾性部材31のスティファネスを適宜変えることによって、・・・・両低音共振周波数における共振尖度を下げることができ、故に過渡応答性を良好とすることが出来る”(第3頁右上欄第18行〜同頁左下欄3行)
との記載があり、要するに、磁気回路に付加された副振動体の質量は、弾性部材のスティファネスと密接不可分のものであり、ウェイトの質量や弾性部材のスティフネスを適宜変更することで、
・低音共振周波数の値を十分低くするという条件
・二つの低音共振周波数における共振尖度を下げるという条件
を満たすようにして、過渡応答特性を良好にするというものである。

要するに、本件発明1が「磁気回路部に固着されて磁気回路部より比重の大きい重りを設け」ることで、可動部材による振動の共振周波数尖度を上げるように設定するものとは目的・構成が相違する。

c.したがって、刊行物3を刊行物1に組みあわせることで本件発明1の上記相違点を解消することは課題の共通性等がなく当業者が容易に想到することができるものでない。

ニ.そして、上記ロ.に記載の相違点は、当審が取消理由で通知した他の刊行物、また取消理由で採用しなかった両異議申立人が提示した刊行物の何れにも記載されていない。


《当審が通知した取消理由2に関して》
イ.本件発明20に記載の「実質的」なる用語は、訂正により削除されたので特許を受けようとする発明は明確になった。

ロ.本件発明21に記載の「実質的」なる用語は、その技術的意味は関連する明細書段落【0052】等参酌するに、
“電気ー機械ー音響変換器の機械振動系は、その共振周波数で最も大きく振動するものが、その共振周波数は電気ー機械ー音響変換器の製造時のバラツキ、携帯端末装置への取り付け条件により変化するもである、そして実体的には検出器によって検出された共振周波数は必ず検出誤差を含み、設定誤差だけ設定目標からずれる”との記載があり、このとは当業者において自明の事項と認められる。
そして、ここでの「実質的」とは、電気信号の周波数と機械振動系の共振周波数が含まれ得る検出誤差及び設定誤差等の電気信号の周波数に含まれ得る誤差の範囲内で機械振動系の振動を十分大きくできる程度に一致するように選択するとの意味で解されるもので、これ以外に解されるものでないから、必ずしも不明確であるとは言えない。

ハ.本件発明7には「実質的」なる用語はなく、不明確な事項は存在しない。



《異議申立の理由で、取消理由通知で不採用とした根拠》
イ.異議申立人小野浩一が提示した甲第1号証は、取消理由通知の刊行物3(甲第N-3号証)に対応する。

ロ. 同 甲第2号証に記載の技術的事項は、 同 刊行物1(甲第N-1号証)に実質的に包含される。

ハ. 同 甲第6号証のブザー・アラーム切換装置は、取消理由通知の刊行物1(甲第N-1)に開示された技術でカバーされる。

ニ. 同 甲第7号証及び甲第1号証との組み合せで、訂正前本件発明15〜21は当業者が容易に想到し得るので特許法第29条第2項に該当する旨の申立をしているが、甲第7号証は本件発明の優先権主張の基礎がされた出願後に公知になったもので、申立の根拠が明確でない。

ヘ.異議申立人並木精密宝石株式会社が甲第6号証(甲第N-6号証)を提示して、訂正前特許発明17は29条の2第1項の規定に該当する旨の申申立は、上位概念での発明思想は同じであるとしても、訂正前特許発明1に係る具体的構成の開示がなく先願明細書に記載された発明と同一であるとすることは相当の乖離がある。



(5)むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立の理由及び証拠によっては、訂正後の独立請求項である本件請求項1に係る発明を取り消すことはできない。また、当該請求項1を引用している本件請求項2ないし25及び27〜33に係る発明の特許は、本件請求項1に係る発明が上記のとおりであるから取り消すことはできない。

また、本件特許請求項7、20及び21に係る発明は、上記したとおり不明確でないから取り消すことはできない。

そして、他に訂正後の前記各本件請求項に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
電気-機械-音響変換器及び携帯端末装置
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 振動すると音を発生する振動板と、
前記振動板に対向して配置された磁気回路部と前記磁気回路部に固着されていて前記磁気回路部より比重の大きい重りとを含む可動部材と、
前記可動部材を支持する少なくとも一つのサスペンションと、
前記振動板と前記サスペンションとを支持する支持部材と、
前記振動板と前記磁気回路部との間に働く磁気駆動力を発生させる駆動手段とを具備し、
前記駆動手段によって前記振動板又は前記可動部材を振動させることにより、前記振動板からは音を発生し、前記可動部材からは振動を発生するようにした電気-機械-音響変換器。
【請求項2】 前記重りが前記磁気回路部の外側に配置された請求項1に記載の電気-機械-音響変換器。
【請求項3】 前記駆動手段が、前記磁気回路部の磁気空隙に挿入され一端が前記振動板に接合されたボイスコイルである請求項1に記載の電気-機械-音響変換器。
【請求項4】 前記駆動手段が、前記磁気回路部のセンターポールの外周に配置された励磁コイル及び前記磁気回路部と空隙を設けて配置された磁性体を有する電磁型の駆動手段である請求項1に記載の電気-機械-音響変換器。
【請求項5】 前記少なくとも一つのサスペンションは、前記可動部材の前記振動板側に設けられた第1のサスペンションと前記振動板の反対側に設けられた第2のサスペンションとである請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の電気-機械-音響変換器。
【請求項6】 各前記第1及び第2のサスペンションは、一方の支持端から他方の支持端へ少なくとも一つの腕を円周方向に延ばした形状であり、
前記第1のサスペンションと前記第2のサスペンションとは腕の方向が互いに反対となるように配置されている請求項5に記載の電気-機械-音響変換器。
【請求項7】 前記重り及び前記サスペンションが空気抜き穴を有する請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の電気-機械-音響変換器。
【請求項8】 前記支持部材が空気抜き穴を有する請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の電気-機械-音響変換器。
【請求項9】 前記サスペンション、前記振動板及び前記支持部材により囲まれた空室と、前記支持部材に設けられた前記空気抜き穴と、によりヘルムホルツの共鳴器が構成されている請求項8に記載の電気-機械-音響変換器。
【請求項10】 前記支持部材に設けられた前記空気抜き穴の出口側に、音響ポートが設けられている請求項9に記載の電気-機械-音響変換器。
【請求項11】 請求項1乃至請求項10のいずれかに記載の電気-機械-音響変換器を内蔵する携帯端末装置。
【請求項12】 前記支持部材が携帯端末装置の外側ケースあるいは携帯端末装置の回路基板に取り付けられている請求項11に記載の携帯端末装置。
【請求項13】 前記外側ケースが空気穴を有し、前記振動板側が前記空気穴に向けられている請求項12に記載の携帯端末装置。
【請求項14】 前記支持部材に設けられた前記空気抜き穴の出口側に、音響ポートが設けられ、前記外側ケースが少なくとも一つの空気穴を有し、前記音響ポートが前記空気穴に結合されている請求項12に記載の携帯端末装置。
【請求項15】 請求項1乃至請求項10のいずれかに記載の電気-機械-音響変換器、
前記電気-機械-音響変換器に少なくとも二つの電気信号を入力する電気信号発生装置、及び
前記電気信号発生装置から前記電気-機械-音響変換器に入力される電気信号を切り替える切替手段を具備する携帯端末装置。
【請求項16】 前記電気信号発生装置が、着信を知らせるための振動を引き起こす電気信号と、着信を知らせるための音を発生させる電気信号と、を出力する請求項15に記載の携帯端末装置。
【請求項17】 前記電気信号発生装置が、着信を知らせるための振動を引き起こす電気信号と、着信を知らせるための音を発生させる電気信号と、受話音を再生するための電気信号と、を出力する請求項15に記載の携帯端末装置。
【請求項18】 前記着信を知らせるための振動を引き起こす電気信号の周波数が200Hz以下の周波数である請求項16または請求項17に記載の携帯端末装置。
【請求項19】 前記着信を知らせるための振動を引き起こす電気信号の周波数が130Hz近傍の周波数である請求項16または請求項17に記載の携帯端末装置。
【請求項20】 前記受話音を再生するための電気信号の周波数が200Hz以上の周波数である請求項17に記載の携帯端末装置。
【請求項21】 前記電気信号発生装置が出力する電気信号の周波数を、前記可動部材と前記サスペンションとにより構成される機械振動系の共振周波数と実質的に一致するように選択した請求項15に記載の携帯端末装置。
【請求項22】 前記電気信号発生装置が出力する電気信号の周波数を、前記電気-機械-音響変換器の振動板の振動の共振周波数と実質的に一致するように選択した請求項15に記載の携帯端末装置。
【請求項23】 前記電気信号発生装置が出力する電気信号の周波数を、前記電気-機械-音響変換器のヘルムホルツの共鳴器の共鳴周波数と実質的に一致するように選択した請求項15に記載の携帯端末装置。
【請求項24】 請求項1乃至請求項10のいずれかに記載の電気-機械-音響変換器、
前記電気-機械-音響変換器の共振周波数を検出する検出手段、及び
前記検出手段により検出した周波数の電気信号を出力する電気信号発生装置を具備する携帯端末装置。
【請求項25】 前記検出手段は、前記可動部材と前記サスペンションで構成される機械振動系の共振周波数を検出する請求項24に記載の携帯端末装置。
【請求項26】 請求項1乃至請求項10のいずれかに記載の電気-機械-音響変換器、
前記電気-機械-音響変換器の共振周波数を含む電気信号を出力する電気信号発生装置、
前記電気-機械-音響変換器の共振周波数における信号の到来を検出する検出手段、及び
前記検出手段から入力される信号を増幅して前記電気-機械-音響変換器に出力する増幅手段を具備する携帯端末装置。
【請求項27】 請求項1乃至請求項10のいずれかに記載の電気-機械-音響変換器、
前記電気-機械-音響変換器の共振周波数における信号の到来を検出する検出手段、及び
ノイズと前記検出手段から入力される信号を増幅して前記電気-機械-音響変換器に入力する増幅手段を具備する携帯端末装置。
【請求項28】 請求項1乃至請求項10のいずれかに記載の電気-機械-音響変換器、
着信信号を受信するアンテナ、
前記着信信号を信号処理して電気信号を出力する受信信号処理手段、
前記電気-機械-音響変換器の共振周波数における信号の到来を検出する検出手段、及び
受信信号処理手段から入力される信号及び前記検出手段から入力される信号を増幅し前記電気-機械-音響変換器に入力する増幅手段を具備する携帯端末装置。
【請求項29】 請求項1乃至請求項10のいずれかに記載の電気-機械-音響変換器、
着信信号を受信するアンテナ、
前記着信信号を信号処理して電気信号を出力する電気信号処理手段、
前記電気-機械-音響変換器の共振周波数における信号の到来を検出する検出手段、及び
前記受信信号処理手段の出力信号からの出力信号が到来している間、ノイズ及び前記検出手段の出力を増幅して電気-機械-音響変換手段に入力する増幅手段を具備する携帯端末装置。
【請求項30】 前記電気-機械-音響変換器の共振周波数の少なくとも一つを通過させるローパスフィルタが前記検出手段と前記増幅手段との間に設けられた請求項26乃至請求項29のいずれかに記載の携帯端末装置。
【請求項31】 前記電気-機械-音響変換器の共振周波数の少なくとも一つを通過させるハイパスフィルタが前記検出手段と前記増幅手段の間に設けられた請求項26乃至請求項29のいずれかに記載の携帯端末装置。
【請求項32】 前記電気-機械-音響変換器の共振周波数の少なくとも一つを通過させるバンドパスフィルタが前記検出手段と前記増幅手段の間に設けられた請求項26乃至請求項29のいずれかに記載の携帯端末装置。
【請求項33】 前記検出手段の出力を制限するリミッターが前記検出手段の出力側に設けられた請求項26乃至請求項29のいずれかに記載の携帯端末装置。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、電気信号により振動あるいは発音の動作をする電気-機械-音響変換器と、これを取り付けた携帯端末装置に関する。携帯端末装置とは、例えば携帯電話機、ペイジャ、送受信機付コンピュータ等、使用者が携帯しながらまたは使用者の近辺に置きながら、離れた他の装置との通信を行う装置のことである。
【0002】
【従来の技術】
従来、携帯電話機等の携帯端末装置では着信を知らせる手段として、ベル音を発生する小型発音体と振動を引き起こす回転軸に偏芯して重りを取り付けたマイクロモータがそれぞれ個別に取り付けられて、使用されてきた。さらに、通話相手の話を受聴するためには、受話用のスピーカを取り付ける必要があった。
そこで、携帯端末装置の小型、軽量化を図るため、部品点数の削減を目的として、発音と振動とを一つの電気-機械-音響変換器で実現する手段が考案され、実開平5-85192号公報に開示されている。
【0003】
従来技術における図20の電気-機械-音響変換器は、次のように構成されている。円形の振動板101の外周部が、ケース102に取り付けられている。そして、ケース102には底板105があり、ヨーク103は底板105に固定されている。サスペンション106は、ケース102に支持されており、マグネット104は、サスペンション106で支持されている。そして、ボイスコイル107は、ヨーク103の内周面とマグネット104の外周面で形成される磁気ギャップに挿入され一端が振動板101に固定されている。ヨーク103とマグネット104は磁気回路部を構成し、サスペンション106とマグネット104は機械振動系を構成する。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
上記電気-機械-音響変換器では、ボイスコイル107に電気信号が加えられると、ボイスコイル107と磁気回路部との間には、作用・反作用の力が働く。仮にボイスコイル107に働く力を作用の力とすると、その力によって、ボイスコイル107が取り付けられている振動板101が振動する。また、磁気回路部に働く反作用の力によって、サスペンション106で支持されたマグネット104が振動し、サスペンション106を介してケース102に振動が伝わり、ケース102は振動する。なお、ボイスコイル107に加える電気信号の周波数が機械振動系の共振周波数と一致した場合に、機械振動系の振動は最も大きくなる。
【0005】
しかし、機械振動系の振動の大きさは、機械振動系を構成するマグネット104とサスペンション106の質量に比例し、しかも後者の質量は小さいため、実質マグネット104の質量のみで定まる。マグネット104の質量はあまり大きくないので図20の電気-機械-音響変換器では、ボイスコイル107に加える電気信号の周波数が機械振動系の共振周波数と一致させた場合においても、機械振動系の振動を十分なものにすることはできなかった。このため、質量が150g近くある携帯電話機にこの電気-機械-音響変換器を取り付けた場合、使用者に十分強力な振動により着信を知らせることは困難であった。
【0006】
また、振動のみを取り出す電気-機械-音響変換器として、特公昭62-33800号公報に開示されているものがある。これは、磁気回路部全体をサスペンションで支持することによって、機械振動系の質量を大きくし、大きな振動を取り出せるようにしたものであった。しかし、携帯端末装置に取り付ける電気-機械-音響変換器は、非常に小型なものが望まれたため、この電気-機械-音響変換器は、実用的なものとはならなかった。また、この電気-機械-音響変換器の構成では、着信を音によって知らせることはできなかった。
【0007】
本発明は上記問題点を解決することを課題に、大きな振動を得ることができ、音も同時に発生することのできる、小形の電気-機械-音響変換器を実現することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明の電気-機械-音響変換器は、振動すると音を発生する振動板と、前記振動板に対向して配置された磁気回路部と前記磁気回路部に固着されていて前記磁気回路部より比重の大きい重りとを含む可動部材と、前記可動部材を支持する少なくとも一つのサスペンションと、前記振動板と前記サスペンションとを支持する支持部材と、前記振動板と前記磁気回路部との間に働く磁気駆動力を発生させる駆動手段を具備する。前記重りは、前記磁気回路部の外側に配置されている。前記駆動手段は、前記磁気回路部の磁気空隙に挿入され一端が前記振動板に接合されたボイスコイルである。他の観点の前記駆動手段は、前記磁気回路部のセンターポールの外周に配置された励磁コイル及び前記磁気回路部と磁気空隙を設けて配置された磁性体を有する電磁型の駆動手段である。
上記電気-機械-音響変換器の機械振動系は可動部材とサスペンションにより構成されており、機械振動系の振動の大きさは機械振動系の質量と加速度の積に比例する。ここで、上記電気-機器-音響変換器では、磁気回路部材に重りを取り付けることにより可動部材を構成しているため、従来の電気-機械-音響変換器に比べ、可動部材の質量が大きい。従って、上記電気-機器-音響変換器は、同一寸法の従来の電気-機械-音響変換器に比べ大きな振動を発生する。また、上記駆動手段は、可動部材を振動させるとともに振動板も振動させるため、この電気-機械-音響変換器は音を発生する。
【0009】
【0010】
さらに他の観点の電気-機械-音響変換器は、前記サスペンションが、前記可動部材の前記振動板側に設けられた第一のサスペンションと前記振動板の反対側に設けられた第二のサスペンションとを含むものである。さらに他の観点の電気-機械-音響変換器は、各前記第1及び第2のサスペンションは、一方の支持端から他方の支持端に少なくとも一つの腕を円周方向に延ばした形状であり、前記第1のサスペンションと前記第2のサスペンションとは腕の方向が互いに反対となるように配置されているものである。
可動部材を上下2カ所のサスペンションで支持しているため、振動時における可動部材の傾きを抑えることができる。
【0011】
さらに他の観点の電気-機械-音響変換器は、前記重りが、少なくとも一つの空気抜き穴を有するものである。さらに他の観点の電気-機械-音響変換器は、前記支持部材が、空気抜き穴を有するものである。
重り又は支持部材に空気抜き穴を設けることにより、可動部材又は振動板の振動時にサスペンションと支持部材と振動板とに囲まれた空室の室圧の上昇が防がれる。従って、空室の室圧の上昇による可動部材または振動板の振動が抑制されることが防がれる。
【0012】
さらに他の観点の電気-機械-音響変換器は、前記サスペンションと前記振動板と前記支持部材とにより囲まれた空室と前記支持部材に設けられた前記空気抜き穴によりヘルムホルツの共鳴器を構成するものである。
さらに他の観点の電気-機械-音響変換器は、さらに前記支持部材に設けられた前記空気抜き穴の外側に音響ポートを備えたものである。
ヘルムホルツの共鳴器を構成することにより、電気-機械-音響変換器は大きな音を発生することができる。
【0013】
本発明の携帯端末装置は、前記電気-機械-音響変換器が内部に取り付けられているものである。
他の観点の携帯端末装置は、前記支持部材が携帯端末装置の外側ケースあるいは携帯端末装置の回路基板に取り付けられているものである。
さらに他の観点の携帯端末装置は、前記外側ケースが空気穴を有し、前記振動板側が前記空気穴に向けられているものである。
さらに他の観点の携帯端末装置は、前記外側ケースが空気穴を有し、前記音響ポートが前記空気穴に結合されているものである。
前記電気-機械-音響変換器を携帯端末装置に取り付けることにより、一つのユニット(電気-機械一音響変換器)を備えることのみで振動及び音を発生する電気-機械-音響変換器を実現することができる。
【0014】
さらに他の観点の携帯端末装置は、上述の電気-機械-音響変換器、前記電気-機械-音響変換器に少なくとも二つの電気信号を入力する電気信号発生手段、及び前記電気信号発生装置から前記電気-機械-音響変換器に入力される電気信号を切り替える切替手段、を具備する。
さらに他の観点の携帯端末装置は、前記電気信号発生装置が着信を知らせるための振動を引き起こす電気信号と着信を知らせるための音を発生させる電気信号とを出力するものである。さらに他の観点の携帯端末装置は、前記電気信号発生装置が着信を知らせるための振動を引き起こす電気信号と着信を知らせるための音を発生させる電気信号と受話音を再生するための電気信号を出力するものである。
さらに他の観点の携帯端末装置は、前記着信を知らせるための振動を引き起こす電気信号の周波数が200Hz以下、特に130Hz近傍の周波数である。前記受話音を再生するための電気信号の周波数が200Hz以上の周波数である。
さらに他の観点の携帯端末装置は、前記電気信号発生装置が出力する電気信号の周波数を、前記可動部材と前記サスペンションとにより構成される機械振動系の共振周波数と実質的に一致するように選択したものである。他の観点では、前記電気信号発生装置が出力する電気信号の周波数を、前記振動板の振動の共振周波数と実質的に一致するように選択したものである。さらに他の観点では、前記電気-機械-音響発生装置が出力する電気信号の周波数を、前記ヘルムホルツの共鳴器の共鳴周波数と実質的に一致するように選択したものである。
このように携帯端末装置を構成することにより、着信を知らせるための振動と着信を知らせるための音、あるいは着信を知らせるための振動と着信を知らせるための音と受話音の再生と、を切り替えることのできる携帯端末装置を実現することができる。
【0015】
さらに他の観点の携帯端末装置は、上述の電気-機械-音響変換器、前記電気-機械-音響変換器の共振周波数を検出する検出手段、及び前記検出手段により検出した周波数の電気信号を出力する電気信号発生装置を具備する。
さらに他の観点の携帯端末装置は、前記検出手段が、前記可動部と前記サスペンションで構成される機械振動系の共振周波数を検出するものである。
以上のように、携帯端末装置を構成することにより、電気-機械-音響変換器の製造時のバラツキ、携帯端末装置への取付条件の変化して電気-機械-音響変換器の共振周波数が変化した場合にも、電気-機械-音響変換器から常に大きな振動及び音を得ることができる。
【0016】
さらに他の観点の携帯端末装置は、上述の電気-機械-音響変換器、前記電気-機械-音響変換器の共振周波数を含む電気信号を出力する電気信号発生装置、前記電気-機械-音響変換器の共振周波数における信号を検出する検出手段、及び、前記検出手段から入力される信号を増幅して前記電気-機械-音響変換器に出力する増幅手段、を具備する。
さらに他の観点の携帯端末装置は、上述の電気-機械-音響変換器、前記電気-機械-音響変換器の共振周波数における信号を検出する検出手段、及びノイズと前記検出手段から入力される信号を増幅して前記電気-機械-音響変換器に入力する増幅手段、を具備する。
さらに他の観点の携帯端末装置は、上述の電気-機械-音響変換器、着信信号を受信するアンテナ、前記着信信号を信号処理して電気信号を出力する受信信号処理手段、前記電気-機械-音響変換器の共振周波数における信号を検出する検出手段、及び受信信号処理手段から入力される信号及び前記検出手段から入力される信号を増幅し前記電気-機械-音響変換器に入力する増幅手段、を具備する。
さらに他の観点の携帯端末装置は、上述の電気-機械-音響変換器、着信信号を受信するアンテナ、前記着信信号を信号処理して電気信号を出力する受信信号処理手段、前記電気-機械-音響変換器の共振周波数における信号を検出する検出手段、及び前記受信信号処理手段の出力信号に基に、ノイズ及び前記検出手段の出力を増幅して電気-機械-音響変換手段に入力する増幅手段を具備する。
以上のように携帯端末装置を構成することにより、携帯端末装置の置かれる環境変化により電気-機械-音響変換器の共振周波数が変化した場合でも、極めて安定した発振出力を有する携帯端末装置が実現できる。
【0017】
さらに他の観点の携帯端末装置は、前記電気-機械-音響変換器の共振周波数の少なくとも一つを通過させるローパスフィルタが前記検出手段と前記増幅手段との間に設けられたものである。
さらに他の観点の携帯端末装置は、前記電気-機械-音響変換器の共振周波数の少なくとも一つを通過させるハイパスフィルタが前記検出手段と前記増幅手段の問に設けられたものである。
さらに他の観点の携帯端末装置は、前記電気-機械-音響変換器の共振周波数の少なくとも一つを通過させるバンドパスフィルタが前記検出手段と前記増幅手段の問に設けられたものである。
以上のように携帯端末装置を構成することにより、対象としていない電気-機械-音響変換器の共振周波数での自励発振を防ぐことができる。
【0018】
さらに他の観点の携帯端末装置は、前記検出手段の出力を制限するリミッターが前記検出手段の出力側に設けられたものである。
以上のように携帯端末装置を構成することにより、増幅手段及び電気-機械-音響変換器への過大入力を防ぐことができる。
【0019】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。
《実施例1》
第1の実施例における電気-機械-音響変換器について、図1及び図2を用いて説明する。但し、図1は電気-機械-音響変換器の平面図であり、図2は図1の電気-機械-音響変換器のII-II’断面の断面図である。
電気-機械-音響変換器は、以下のように構成される。
例えば厚さ10μmから50μm程度のチタン材よりなる振動板1が外周部でプラスチック等よりなるリング状の支持部材2に取り付けられている。ヨーク3は軟鉄等の強磁性体であって、短円筒状の外周部と円板状の底面部を有する。マグネット4は、フェライト等の永久磁石であって、円板状の形状をしており、ヨーク3の底面部に固着されている。強磁性体のプレート5は、マグネット4の振動板8側に固着されている。重り6がヨーク3の底面と外周面を取り囲むように固着されている。
サスペンション7は、実質的に円周に平行な方向の円弧状の3本の腕7c、7d及び7eを有する。サスペンション7の一端7aが重り6に固定され、その他端7bが支持部材2に固定されている。ヨーク3、マグネット4及びプレート5は磁気回路部9を構成し、そのヨーク3の内周面とプレート5の外周面で磁気ギャップ11が形成されている。そして、円筒状のボイスコイル8がこの磁気ギャップ11に挿入され、ボイスコイル8の一端は振動板1に取り付けられている。重り6と磁気回路部9は支持部材2に対して相対的に動作する可動部10を構成し、サスペンション7と可動部10は機械振動系を構成する。
【0020】
以上のように構成された電気-機械-音響変換器について、その動作を、ボイスコイル8に入力される電気信号が交流の電流である場合を例にして説明する。
ボイスコイル8に交流の電流が入力される。ボイスコイルの8に交流の電流が流れることにより、ボイスコイル8と磁気回路部9との間に駆動力が発生する。この駆動力の大きさはボイスコイル8に入力される交流の電流に応じて変化する。従って、交流の電流に応じて変化する力が、サスペンション7に支持された重り6と磁気回路部9からなる可動部10に働き、可動部10は、振動する。特に、ボイスコイル8に入力される電流の周波数が、この機械振動系の共振周波数と一致する場合に、可動部10は大きく振動する。この可動部10の振動がサスペンション7から支持部材2につたわり、支持部材2は振動する。このように、電気-機械-音響変換器は振動を発生する。
【0021】
ここで、電気-機械-音響変換器の機械振動系の振動の大きさは、可動部10の質量と加速度の積に比例する。第1の実施例では、磁気回路部9に重り6を取り付けることによって、可動部10を構成している。このため、機械振動系の質量は大きくなり、第1の実施例の電気-機械-音響変換器は、同じ寸法の従来の電気-機械-音響変換器より大きな振動を発生することができる。
特に、磁気回路部9に取り付ける重り8の材料として、例えば銅、タンタル、タングステン等の高比重材料を使用した場合、電気-機械-音響変換器の寸法を大きくせずに機械振動系の質量を大きくすることができる。従って、第1の実施例の電気-機械-音響変換器は、同じ寸法の従来の電気-機械-音響変換器よりより大きな振動を発生することができる。
そして、支持部材2を、例えば携帯端末装置の筐体に固定すればその筐体を振動させて呼び出し等の作用を行うことができる。
【0022】
一方、ボイスコイル8にも、交流の電流に応じて変化する力が働き、この力によってボイスコイル8が取り付けられた振動板1は振動し、振動板1から音が発生する。このように、電気-機械-音響変換器は音を発生する。
【0023】
第1の実施例のように電気-機械-音響変換器を構成することにより、同一のユニットで振動と音を発生する電気-機械-音響変換器を実現することができる。
【0024】
《実施例2》
第2の実施例における電気-機械-音響変換器について、図3及び図4を用いて説明する。但し、図3は電気-機械-音響変換器の平面図であり、図4は図3の電気-機械-音響変換器のIV‐IV’断面の断面図である。
第2の実施例の電気-機械-音響変換器の構造については第1の実施例における電気-機械-音響変換器と異なる点についてのみ説明する。なお、第1の実施例と同じ構成部品については、同じ番号を付し、第1の実施例の説明が適用できるため重複した記載は省略する。
第2の実施例の電気-機械-音響変換器では、重り6’に軸方向の空気抜き穴6aが設けられ、サスペンション7’に空気抜き穴7aが設けられている点である。
第2の実施例の電気-機械-音響変換器の動作は、第1の実施例の電気-機械-音響変換器と実質的に同じであるため、詳細な説明は省略する。
【0025】
第2の実施例の電気-機械-音響変換器は、第1の実施例の電気-機械-音響変換器の効果に加え、重り6’に空気抜き穴6aが設けられ、サスペンション7’に空気抜き穴7aが設けられているため、振動板1と可動部10の間にできる空室の室圧が振動板1または可動部10の振動により上昇することが防がれる。従って、空室の室圧の上昇により可動部10または振動板1の振動が抑制されることを防ぐことができる。
【0026】
《実施例3》
第3の実施例における電気-機械-音響変換器について、図5及び図6を用いて説明する。但し、図5は電気-機械-音響変換器の平面図であり、図6は図5の電気-機械-音響変換器のVI-VI’断面の断面図である。
電気-機械-音響変換器は、以下のように構成される。
例えば厚さ0.1mmから0.2mm程度のパーマロイ等の高透磁率材料である振動板20が、その外周部でプラスチック等の支持部材21に取り付けられている。強磁性体のプレート22は、振動板20と対向する位置に配置されており、中央部にセンターポール22’を有する形状である。マグネット23は、フェライト等の永久磁石であって、リング状の形状をしており、プレート22に固着されている。励磁コイル24は、プレート22のセンターポール22’とマグネット23との間に挿入され、これらに取付けられている。重り18は、プレート22とマグネット23の外周面上に取付けられており、重り18には、軸方向の空気抜き穴19が設けられている。サスペンション25及び26は、同じ形状であり、実質的に円周に平行な方向の円弧状の3個の腕を有し、第2の実施例と同様に空気抜き穴を有する。サスペンション26は、一端が重り18の振動板20と反対側に取付けられ他端が支持部材21に取付けられている。サスペンション25は、サスペンション26と腕の方向が平面図(図5)において互いに反対方向となるように、一端が重り18の振動板20側に取付けられ他端が支持部材21に取付けられている。プレート22とマグネット23と励磁コイル24は磁気回路部27を構成し、重り18と磁気回路部27は支持部材21に対して相対的に動作する可動部28を構成する。また、サスペンション25及び26と可動部28は機械振動系を構成する。なお、サスペンション25の輪郭線は正確にはサスペンション26の輪郭線の直下にあって平面図では表示できないので図示の便宜上若干ずらして表示している。
【0027】
以上のように構成された電気-機械-音響変換器について、その動作を、励磁コイル24に入力される電気信号が交流の電流である場合を例にして説明する。
励磁コイル24に交流の電流が入力される。励磁コイル24に入力される電流が交流であるため、振動板20と磁気回路部27との間の電磁力による吸引力の大きさが、交流の電流に応じて変化する。この交流の電流に応じて大きさが変化する吸引力がサスペンション25及び26に支持された重り18と磁気回路部27からなる可動部28に加わり、可動部28は、振動する。特に、励磁コイル24に入力される電流の周波数がこの機械振動系の共振周波数と一致する場合に、可動部28は大きく振動する。この可動部28の振動がサスペンション25及び26から支持部材21につたわり、支持部材21が振動する。このように、電気-機械-音響変換器は振動を発生する。
【0028】
電気-機械-音響変換器の機械振動系の振動の大きさは、可動部28の質量と加速度の積に比例する。第3の実施例では、磁気回路部27に重り18を取り付けることによって、可動部28を構成している。このため、機械振動系の質量は大きくなり、第3の実施例の電気-機械-音響変換器は、同じ寸法の従来の電気-機械-音響変換器より、大きな振動を発生することができる。
特に、磁気回路部27に取り付ける重り18の材料として、例えば銅、タンタル、タングステン等の高比重材料を使用した場合、電気-機械-音響変換器の寸法を大きくせずに機械振動系の質量を大きくすることができる。従って、第3の実施例の電気-機械-音響変換器は、同じ寸法の従来の電気-機械-音響変換器よりより大きな振動を発生することができる。
そして、支持部材21を、例えば携帯端末装置の筐体に固定すればその筐体を振動させて呼び出し等の作用を行うことができる。
【0029】
一方、振動板20にも、上記吸引力の反作用の力として励磁コイル24に入力される交流の電流に応じて大きさの変化する吸引力が働き、この吸引力によって振動板20が振動し、振動板20は音を発生する。このように、電気-機械-音響変換器は音を発生する。
【0030】
第3の実施例のように電気-機械-音響変換器を構成することにより、同一のユニットで振動と音を発生する電気-機械-音響変換器を実現することができる。
【0031】
また、サスペンション25及び26によって可動部28の上下を支持しているため、可動部28の振動に傾きが生じることを防ぐことができる。特に、サスペンション25及び26の腕の方向が互いに反対方向となるようにして可動部28の上下を支持している。この場合には、可動部28の振動に傾きが生じることを効果的に防ぐことができる。
また、重り18に空気抜き穴19を設けているため、振動板20と可動部28の間の空室の室圧が可動部28または振動板20の振動により上昇することが防がれる。従って、室圧の上昇による可動部28または振動板20の振動が抑制されることを防ぐことができる。
【0032】
なお、第3の実施例では、可動部を支持するサスペンションを2カ所に設けられている場合である。これを第1及び第2の実施例の電気-機械-音響変換器に適用した場合にも、同様に、可動部の振動に傾きが生じることを効果的に防ぐことができる。
【0033】
《実施例4》
第4の実施例における電気-機械-音響変換器について、図7及び図8を用いて説明する。但し、図7は電気-機械-音響変換器の平面図であり、図8は図7の電気-機械-音響変換器のVIII-VIII’断面の断面図である。なお、第1の実施例の電気-機械-音響変換器と同一の部品については、同一番号を付す。
電気-機械-音響変換器は、以下のように構成される。
例えば厚さ10μmから50μm程度のチタン材よりなる振動板1が、その外周部でプラスチック等の支持部材32に取り付けられている。そして、支持部材32には空気抜き穴33が設けられている。ヨーク3は軟鉄等の強磁性体で短円筒状の外周部と円板状の底面部を有する。マグネット4は、フェライト等の永久磁石であって、円板状の形状をしており、ヨーク3の底面部に固着されている。強磁性体のプレート5は、マグネット4の振動板1側に取り付けられている。重り6はヨーク3の底面と外周面を取り囲むように取り付けられている。サスペンション31は、周辺部付近にロール部31’を設けた円板状の形状をしており、ロール部31’の内側が重り6に固定されロール部31’の外側が支持部材32に固定されている。ヨーク3、マグネット4及びプレート5は磁気回路部9を構成し、そのヨーク3の内周面とプレート5の外周面で磁気ギャップが形成されている。そして円筒状のボイスコイル8がこの磁気ギャップに挿入され、ボイスコイル8の一端は振動板1に取り付けられている。重り6と磁気回路部9は支持部材32に対して相対的に動作する可動部10を構成し、サスペンション31と可動部10は機械振動系を構成する。
【0034】
以上のように構成された電気-機械-音響変換器について、その動作を、ボイスコイル8に入力される電気信号が交流の電流である場合を例に説明する。
第1の実施例と同様に、ボイスコイル8に交流の電流が入力されると、ボイスコイル8と磁気回路部9の間に駆動力が発生する。この駆動力は、交流の電流により変化する。交流の電流に応じて変化する駆動力が重り6と磁気回路部9とからなる可動部10に加わり、可動部10は振動をする。特に、ボイスコイル8に入力される電流の周波数がこの機械振動系の共振周波数と一致する場合に、可動部10は大きく振動する。この可動部10の振動は、サスペンション31から支持部材32につたわり、支持部材32は振動する。このように、電気-機械-音響変換器は振動を発生する。
また、第1の実施例と同様に、電気-機械-音響変換器は振動板1が振動することにより音を発生する。
【0035】
機械振動系の振動の大きさは、可動部10の質量と加速度の積に比例する。第4の実施例では、磁気回路部9に重り6を取り付けることによって、可動部10を構成している。このため、機械振動系の質量は大きくなり、第4の実施例の電気-機械-音響変換器は、同じ寸法の従来の電気-機械-音響変換器より大きな振動を発生することができる。
特に、磁気回路部9に取り付ける重り6の材料として、例えば銅、タンタル、タングステン等の高比重材料を使用した場合、電気-機械-音響変換器の寸法を大きくせずに機械振動系の質量を大きくすることができる。従って、第4の実施例の電気-機械-音響変換器は、同じ寸法の従来の電気-機械-音響変換器に比べより大きな振動を発生することができる。
そして、支持部材32を、例えば携帯端末装置の筐体に固定すれば、その筐体を振動させて呼び出し等の作用を行うことができる。
【0036】
第4の実施例のように支持部材32に空気抜き穴33を設けることによって、振動板1と可動部10との間の空室の室圧が振動板1または可動部10の振動により上昇することが防がれる。従って、空室の室圧の上昇により可動部10または振動板1の振動が抑制されることを防ぐことができる。
また、サスペンション31には、第1乃至第3の電気-機械-音響変換器のサスペンションにあったような円弧状の腕は設けられておらず、第2又は第3の実施例の電気-機械-音響変換器のように空気抜き穴が設けられていないため、第4の実施例のようなサスペンション31を用いることによりサスペンションの形状をより簡単な形状にすることができる。
また、支持部材32に設けられた空気抜き穴33の大きさを調節することにより、振動板1とサスペンション31の間にできる空室と支持部材32に設けられた空気抜き穴33とによりヘルムホルツの共鳴器が構成される。そして、ボイスコイル8に入力される電気信号の周波数がヘルムホルツの共鳴器の共鳴周波数に実質的に一致するように選べば、音響共振が得られ、大きな音を得ることができる。
【0037】
なお、第4の実施例では、駆動手段としてボイスコイル8を用いた場合であるが、第3の実施例に示した励磁コイルを用いた場合においても同様の効果が得られる。
【0038】
《実施例5》
第5の実施例における電気-機械-音響変換器について、図9を用いて説明する。但し、図9は電気-機械-音響変換器の断面図である。
電気-機械-音響変換器の構成及び動作については第4の実施例の電気-機械-音響変換器と異なる点について説明する。なお、第1及び第4の実施例と同一部品には同一番号を付し、第1及び第4の実施例の説明が適用できるため重複した説明は省略する。
第4の実施例の電気-機械-音響変換器に対し、第5の実施例の電気-機械-音響変換器では、さらに、支持部材32の空気抜き穴33の外側に、所定の長さの、例えばプラスチック等の、音響ポート34が設けられている。振動板1とサスペンション31との間にできる空室と音響ポート34とによりヘルムホルツの共鳴器が構成される。そして、ボイスコイル8に入力される電気信号の周波数が、ヘルムホルツの共鳴器の共鳴周波数に実質的に一致するように選べば、音響共振が得られ、音響ポート34から大きな音が得られる。
【0039】
なお、第5の実施例では、駆動手段としてボイスコイル8を用いた場合であるが、第3の実施例で示した励磁コイルを用いた場合においても、励磁コイルに入力する電気信号の周波数を、ヘルムホルツの共鳴器の共鳴周波数にすれば、音響共振が得られ、音響ポートから大きな音を得ることができる。
【0040】
第5の実施例の電気-機械-音響変換器では、支持部材32の空気抜き穴33の外側に音響ポート34を設けているため、空気抜き穴33の大きさが変化した場合でも音響ポート34の長さを調整することにより音響共振が得られる。従って、第5の実施例の電気-機械-音響変換器は、第4の実施例の電気-機械-音響変換器に比べより実用的である。
【0041】
《実施例6》
第6の実施例は、第1乃至第5の実施例において説明した電気-機械-音響変換器を取り付けた携帯端末装置に関するものであり、携帯電話機を例にとり、図10を用いて説明する。なお、図10は電気-機械-音響変換器を取り付けた携帯電話機の一部破断斜図である。
電気-機械-音響変換器を取り付けた携帯電話機は以下のように構成される。音孔38が設けられた携帯電話機本体36の外側ケース39に、第1乃至第5の実施例で説明した電気-機械-音響変換器37が、振動板側が外側ケース39の音孔38に対向するように、支持部材で取り付けられている。
【0042】
以上のように構成された携帯電話機について、その動作を説明する。
携帯電話機が呼出信号を受信した場合に、電気-機械-音響変換器37に、電気-機械-音響変換器37の可動部とサスペンションから構成される機械振動系の共振周波数に近い周波数成分を含む電気信号が入力される。上記実施例で説明したように、電気-機械-音響変換器37の機械振動系から最も大きな振動が得られ、支持部材が大きく振動する。そして、支持部材の振動により、携帯電話機の外枠ケース39が加振され、携帯電話機本体36が振動する。このようにして、携帯電話機を持つ使用者は、携帯電話本体36の振動により、着信を知ることができる。
【0043】
また、人の聴覚にとって感度の良い可聴域の周波数の電気信号が電気-機械-音響変換器に入力された場合、上記実施例で説明したように、電気-機械-音響変換器37の振動板が振動し音を発生する。このようにして、使用者は呼出音により着信を知ることができる。
さらに、電気-機械-音響変換器37に、音声帯域の周波数の電気信号が入力されれば、電気-機械-音響変換器37は受話音を再生するスピーカとして動作する。
【0044】
従って、例えば携帯電話機に複数の電気信号の周波数を発生する装置と電気信号を切り換える装置を付加すれば、携帯電話機に必要な着信報知用の振動の発生、呼出音の発生及び受話音の再生が一つの電気-機械-音響変換器を持つ携帯電話機で可能となる。
【0045】
振動は周波数帯域により体感感度が異なり、200Hz以下の低い周波数帯域に高感度な周波数域が存在する。特に周波数として130Hz付近の周波数帯域が体感効果が高いため、着信報知用の振動を発生させる電気信号の周波数としてはこの周波数帯域を利用するのが望ましい。また、より人の耳にはこの振動の周波数より高い周波数の帯域の音が感度が高いので、着信報知用の音を発生させる電気信号の周波数としては、1kHz以上の周波数帯域を利用することが望ましい。また、音の明瞭度の観点から、受話音に利用する電気信号の周波数帯域としては、200Hz以上の周波数帯域であることが望ましい。
【0046】
《実施例7》
第7の実施例は第5の実施例において説明した電気-機械-音響変換器を取り付けた携帯端末装置に関するものであり、携帯電話機を例に、図11を用いて説明する。なお、図11は電気-機械-音響変換器を取り付けた携帯電話機の断面図である。
電気-機械-音響変換器を取り付けた携帯電話機は以下のように構成される。音孔42が設けられた携帯電話機本体40の外側ケース43に、電気-機械-音響変換器41が、振動板側が外側ケース43の音孔42に対向するように、前記支持部材で取り付けられている。そして、電気-機械-音響変換器41に設けられた音響ポート34の出口側が、外側ケース43に設けられた穴44の入り口に結合されている。
【0047】
以上のように構成された携帯電話機について、その動作を説明する。
携帯電話機が呼出信号を受信した場合に、電気-機械-音響変換器41に、電気-機械-音響変換器41の可動部とサスペンションから構成される機械振動系の共振周波数に近い周波数成分を含む電気信号が入力される。上記実施例で説明したように、機械振動系から最も大きな振動が得られ、支持部材が大きく振動する。そして、支持部材の振動により携帯電話機の外枠ケース43が加振され、携帯電話機本体40が振動する。このようにして、携帯電話機を持つ使用者は、携帯電話機本体40の振動により、着信を知ることができる。
【0048】
また、人の聴覚にとって感度の良い可聴域の電気信号を電気-機械-音響変換器に入力されるた場合、上記実施例で説明したように電気-機械-音響変換器の振動板が振動し音を発生する。このようにして、使用者は呼出音により着信を知ることができる。
さらに、電気-機械-音響変換器41に、音声帯域の周波数の電気信号が入力されると、電気-機械-音響変換器41は受話音を再生するスピーカとして動作を行う。
【0049】
従って、例えば携帯電話機に複数の電気信号の周波数を発生する装置と電気信号を切り換える装置を付加すれば、携帯電話機に必要な着信報知用の振動の発生、呼出音の発生及び受話音の再生が一つの電気-機械-音響変換器を持つ携帯電話機で可能となる。
【0050】
特に、呼出音の発生に利用する電気信号の周波数をヘルムホルツの共鳴器の共鳴周波数に実質的に一致するように選べば、第6の実施例の携帯電話機に比べ、音響ポート34から大きな呼出音を得ることができる。さらに、呼出音を発生させるための電気信号の入力電圧を小さくできるため、バッテリの消耗を抑えることができる。
【0051】
《実施例8》
第8の実施例における電気-機械-音響変換装置について、電気-機械-音響変換器に電気信号を加えるブロック図である図12を用いて説明する。
図12のブロック図の回路は、携帯電話機等の携帯端末装置に取り付けた電気-機械-音響変換器45、電気-機械-音響変換器45の機械振動系の共振周波数を検出する検出器47、検出器47で検出した周波数の電気信号を電気-機械-音響変換器45に出力する第1の電気信号発生装置46a、可聴帯域の周波数の電気信号を電気-機械-音響変換器45に出力する第2の電気信号発生装置46b、及び第1及び第2の電気信号発生装置の電気信号を切り替えるスイッチSW1を備える。
【0052】
検出器47は電気-機械-音響変換器45の機械振動系の共振周波数を検出し、検出した周波数の値を第1の電気信号発生装置46aに入力する。第1の電気信号発生装置46aが電気-機械-音響変換器45に接続されるようにスイッチSW1が切り替えられ、第1の電気信号発生装置46aは、検出器47から入力された周波数の電気信号を電気-機械-音響変換器45に入力する。
このようにして、電気-機械-音響変換器45の機械振動系の共振周波数と実質的に一致する周波数の電気信号が、第1の電気信号発生装置46aから電気-機械-音響変換器45に入力される。
最も大きな振動を得ることの出来る機械振動系の共振周波数は、電気-機械-音響変換器45の製造時のバラツキ、携帯端末装置への取付条件により変化する。しかし、機械振動系の共振周波数が変化した場合においても、電気-機械-音響変換器45に入力される電気信号の周波数が機械振動系の共振周波数に補正されるため、電気-機械-音響変換器45からは常に大きな振動を得ることができる。
【0053】
第2の電気信号発生装置46bと電気-機械-音響変換器45を接続するようにスイッチSW1が切り替えられた場合、第2の電気信号発生装置46aから電気-機械-音響変換器45に信号が入力される。電気-機械-音響変換器45は、入力された電気信号に応じて音(呼出音、音声等)を発生する。なお、呼出音は一つの種類に限らず、第2の電気信号発生装置46bは、電気-機械-音響変換器45がさまざまな音色、メロディー音を発生するような電気信号を出力することが好ましい。
【0054】
《実施例9》
第9の実施例における携帯端末装置について、電気-機械-音響変換器に電気信号を入力するブロック図である図13を用いて説明する。
図10のブロック図の回路は、着信を知らせる受信信号と、送信者の音声等の受話音信号と、を含む着信信号を受信するアンテナ48、アンテナ48が受信着信信号を処理する受信信号処理部49、受信信号処理部49により処理された受話音信号を再生する小型スピーカであるレシーバ50、電気信号を出力する電気信号発生装置51、電気信号を増幅する増幅器52、受信信号処理部49からの信号によりオンとオフが制御されるスイッチSW2、増幅器52から電気信号が入力される上記実施例で説明した電気-機械-音響変換器45、電気-機械-音響変換器45の共振周波数で急峻に変化する電気-機械-音響変換器45の電気インピーダンスを検出し共振周波数における電気信号を増幅器52に出力する検出器53を備える。なお、電気信号発生装置51は、少なくとも一つの電気-機械-音響変換器45の共振周波数を含む電気信号を出力し、出力される電気信号の電圧レベルは、増幅器52で増幅された場合においてさえ、電気-機械-音響変換器45を駆動して実質的な発音や振動が発生しない程度の電圧レベルである。
【0055】
以上のように構成された携帯端末装置の動作について説明する。アンテナ48が、送信側の携帯端末装置から送信された着信信号を受信する。その受信した着信信号が受信信号処理部49に出力される。受信信号処理部49は、この着信信号を信号処理し、着信を知らせる受信信号に応答して信号Cを発生し、スイッチSW2に入力する。信スイッチSW2は、信号Cにより制御されてオンになり、電気信号発生装置51と電気-機械-音響変換器45とが接続される。電気信号発生装置51が出力する電気信号が増幅器52に入力される。増幅器52は、入力された電気信号を増幅し、増幅した電気信号を電気-機械-音響変換器45に入力する。検出器53は、電気一機械一音響変換器45の共振周波数で急峻に変化する電気インピーダンスを検出し、電気インピーダンスが急峻に変化した電気信号、即ち共振周波数における電気信号を、増幅器52に入力する。この信号が更に増幅器52で増幅される。これを繰り返すことによって、電気-機械-音響変換器45は振動及び発音のいずれかの周波数または両者の周波数で自励的に発振する。
【0056】
携帯端末装置の使用者が着信を知り、受信可能状態に操作すると、受信信号処理部49は信号Cを発振することをやめ、スイッチSW2はオフになる。受信信号処理部49は、受話音信号を処理し、処理した受話音信号をレシーバ50に入力する。そして、レシーバ50は受話音を再生する。
【0057】
以上のように、電気-機械-音響変換器45の置かれる環境変化により、電気-機械-音響変換器45の共振周波数に変動があった場合でも、電気信号発生装置51からの発振は継続して行われるため、新たに電気-機械-音響変換器45の共振周波数が検出器53により検出される。この結果、電気-機械-音響変換器45の振動及び発音のいずれかの新たな共振周波数または振動及び発音の両方の新たな共振周波数で自励的に発振する。従って、電気-機械-音響変換器45から常に安定した発音及び振動を取り出すことができる携帯端末装置を実現する
ことができる。
【0058】
次に、図13の検出器53の詳細を、検出器53を説明するための図である図14を用いて説明する
ブリッジ回路54は、ブリッジ用負荷インピーダンス素子Z2、Z3及びZ4、及び電気-機械-音響変換器45のボイスコイルの電気インピーダンスを等価的に表したインピーダンス素子Z1を有する。各インピーダンス素子Z1、Z2、Z3及びZ4のインピーダンスは、電気-機械-音響変換器45の共振周波数から離れた周波数成分を有する電気信号に対して、ブリッジ回路54の出力端子B1及びB2からの出力が微少(望ましくは0)になるように選定されている。ブリッジ回路54の出力がオペアンプ55に入力され、オペアンプ55の出力がリミッタ56に入力される。リミッタ56の出力が増幅器52に入力される。
【0059】
電気-機械-音響変換器45の共振周波数の電気信号が増幅器52から電気-機械-音響変換器45に入力されると、インピーダンス素子Z1のインピーダンス値が急激に変化し、ブリッジ回路54の平衡状態がくずれ、オペアンプ55からの出力が増大する。オペアンプ55の出力がリミッタ56に入力され、リミッタ56からスイッチSW2を経て増幅器52に入力される。これを繰り返すことにより、電気-機械-音響変換器45は振動及び発音のいずれかの周波数または両方の周波数で自励的に発振する。
【0060】
リミッタ56を検出器53の出力側に設けることにより、検出器53からの出力レベルを制限することができ、増幅器52及び電気-機械-音響変換器45への過大入力を防ぐことができる。なお、リミッター56を必ず設ける必要はない。
【0061】
《実施例10》
第10の実施例における携帯端末装置について、電気-機械-音響変換器に電気信号を入力するブロック図である図15を用いて説明する。
携帯端末装置の回路構成及び動作については、第9の実施例と異なる点を説明する。なお、第9の実施例と同一部品には同一番号を付し、第9の実施例の説明が適用できるため省略する。
第10の実施例の携帯端末装置は電気信号発生装置51を備えず、増幅器52及び検出器53を含む回路内の熱雑音等のノイズを利用する。熱雑音等のノイズは広帯域の周波数成分を含み、一般的に電気信号のレベルに比べ低い。
【0062】
第9の実施例と同様に、スイッチSW2に受信信号処理部から信号Cが入力され、この信号Cにより制御されてスイッチSW2はオンになる。熱雑音等のノイズが増幅器52により増幅され、電気-機械-音響変換器45に入力される。電気-機械-音響変換器45にノイズが入力された後、第9の実施例と同様に、電気-機械-音響変換器45に入力される信号が正帰還によってさらに増幅されて、電気-機械-音響変換器45は振動及び発音のいずれかの周波数または両方の周波数で自励的に発振する。
【0063】
第10の実施例の場合、第9の実施例の技術的利点に加え、電気信号発生装置を削減することができる利点がある。そのため、携帯端末装置のコストダウンが図られるとともに、携帯端末装置の小形化が図られる。
【0064】
《実施例11》
第11の実施例における携帯端末装置について、電気-機械-音響変換器に電気信号を入力するブロック図である図16を用いて説明する。
携帯端末装置の回路構成及び動作については、第9及び第10の実施例と異なる点を説明する。なお、第9及び第10の実施例と同一部品には同一番号を付し、第9及び第10の実施例の説明が適用できるため重複する記載は省略する。
第11の実施例の携帯端末装置では、ローパスフィルタ57とハイパスフィルタ58が増幅器52と検出器53の間に設けられ、検出器53の出力を切り替えるスイッチSW3が備えられている。
電気-機械-音響変換器45は、周波数が低く呼出用の振動を発生させる第1の共振周波数と、周波数が高く可聴周波数の音発生させる第2の共振周波数の、少なくとも2つの共振周波数を有する。
【0065】
使用者が、振動による着信呼出と音による着信呼出の一方または両方を携帯端末装置に取り付けられたスイッチを利用して選択する。受信信号処理部49は、これに応じて信号Dを発生し、信号DをスイッチSW3に入力する。
使用者が、振動による着信呼出を選択した場合、スイッチSW3は受信信号処理部49から入力される信号DによりA側に切り替わり、検出器53の出力がローパスフィルタ57に入力される。ローパスフィルタ57は、第2の共振周波数の信号を通さず、第1の共振周波数の信号を増幅器52に通す。このようにして、第1の共振周波数の成分のみが正帰還により増幅されるため携帯端末装置は着信呼出のための振動を発生する。
使用者が音による着信呼出を選択した場合、スイッチSW3は受信信号処理部49から入力される信号DによりB側に切り替わり、検出器53の出力がハイパスフィルタ58に入力される。ハイパスフィルタ58は、第1の共振周波数の電気信号を通さず第2の共振周波数の電気信号を増幅器52に通す。このようにして第2の共振周波数の成分のみが増幅されるため、携帯端末装置は着信呼出のための音を発生する。
使用者が振動及び音の両方による着信呼出を選択した場合、スイッチSW3は受信信号処理部49から入力される信号Dに応じてA側及びB側に交互に切り替わる。検出器53の出力がローパスフィルタ57とハイパスフィルタ58に交互に入力される。この場合、携帯端末装置は着信呼出用の音と振動を交互に発生する。
【0066】
なお、ローパスフィルタ57及びハイパスフィルタ58の両方を用いる代わりに、第1の共振周波数と第2の共振周波数の両方を通過させるローパスフィルタ若しくはハイパスフィルタの一方のみを利用してもよい。この場合には、着信呼出用の振動及び音を同時に発生させることができる。
また、電気-機械-音響変換器が3個以上の共振周波数を有し、他の2つの共振周波数に囲まれた共振周波数を用いる場合には、ローパスフィルタ57またはハイパスフィルタ58に代えてバンドパスフィルタを用いてもよい。この場合には、対象となっていない共振周波数での自励発振を防ぐことができる。
【0067】
以上の構成により、対象となっていない共振周波数での自励発振を防ぐことができ、振動による着信呼出と、音による着信呼出とを、容易に選択することができる携帯端末装置を実現することができる。
【0068】
《実施例12》
第12の実施例における携帯端末装置ついて、電気-機械-音響変換器に電気信号を入力するブロック図である図17を用いて説明する。
携帯端末装置の回路構成及び動作については、第9乃至第11の実施例と異なる点を説明する。なお、第9乃至第11の実施例と同一部品については、同一番号を付し、第9乃至第11の実施例の説明が適用できるため重複した記載は省略する。
第12の実施例では、検出器53とスイッチSW3の間にリミッター59が設けられている。
リミッター59を検出器53の出力側に設けることにより、検出器53からの出力を所定レベルに制限することができ、増幅器52と電気-機械-音響変換器45への過大入力による増幅器52と電気-機械-音響変換器45を含む携帯端末装置の損傷を防ぐことができる。
【0069】
《実施例13》
第13の実施例における携帯端末装置について、電気-機械-音響変換器に電気信号を入力するブロック図である図18を用いて説明する。
携帯端末装置の回路構成及び動作については、第9乃至第12の実施例と異なる点を説明する。なお、第9乃至第12の実施例と同一部品については、同一番号を付し、第9乃至第12の実施例の説明が適用できるため重複した記載は省略する。
第13の実施例では、受信信号処理部49とレシーバ50の間にスイッチSW4が設けられている。
【0070】
使用者は、携帯端末装置に設けられたスイッチにより、再生音をレシーバ50もしくは電気-機械-音響変換器45のいずれから出力させるかを選択する。
使用者が、レシーバ50から再生音を出力させることを選択した場合、受信信号処理部49からスイッチSW4に入力される信号Eにより、スイッチSW4はA’側にスイッチする。レシーバ50は、受信処理回路部49から入力された受話音信号を音に変換する。
使用者が、電気-機械-音響変換器45から再生音を出力させることを選択した場合、受信信号処理部49からスイッチSW4に入力される信号Eにより、スイッチSW4はB’側にスイッチする。増幅器52は、受信信号処理部49から入力された受話音信号を所定の調整された増幅率で増幅し、電気-機械-音響変換器45に出力する。電気-機械-音響変換器45は、増幅器52から入力される信号を音に変換する。
通常、レシーバは、人の耳に付けた状態で再生されるため、レシーバから再生される音圧は低く、携帯端末装置を耳からはなした状態では受話音をきくことができない。また、レシーバの音圧は、耳の損傷につながるため、大きくすることは法的に規制されている。第14の実施例の携帯端末装置では受話音の再生を電気-機械-音響変換器で行うことができるようにしているため、耳から離した状態でも受話音を聞くことができる。
なお、レシーバ50と電気-機械-音響変換器45で再生する信号は受話音に限られず、音楽信号や伝言メッセージでもよい。
【0071】
《実施例14》
第14の実施例における携帯端末装置について、電気-機械-音響変換器に電気信号を入力するブロック図である図19を用いて説明する。
第15の実施例の携帯端末装置では、第13の実施例と異なり、受信信号処理部49から出力される受話音信号がスイッチSW4を経由して直接、電気-機械-音響変換器45に入力される。
受信信号処理部49は、電気-機械-音響変換器45から再生される音圧レベルが使用者が聞くことができるレベルに、受話音信号を増幅して、増幅した信号をスイッチSW4を介して電気-機械-音響変換器45に入力する。従って、第14の実施例と異なり増幅器52の増幅率の調整が不要となる。
なお、上記実施例では携帯電話機を例にへの適用で説明したが、例えばコンピュータゲーム機の操作部に応用すれば、手元で振動と音が再生され、より臨場感のあるゲームを楽しむことができる。
【0072】
【発明の効果】
以上のように本発明の電気-機械-音響変換器を構成すれば、磁気回路部材に重りを取り付けているため、電気-機械-音響変換器の機械振動系の質量が大きくなる。従って、同一寸法の従来の電気-機械-音響変換器より大きな振動を発生する電気-機械-音響変換器が実現することができる。
また、駆動手段により可動部が振動させられるとともに、振動板も振動させられて音を発生するため、振動と音の両方を発生する電気-機械-音響変換器が実現できる。
【0073】
本発明の電気-機械-音響変換器を携帯端末装置に取付けることにより、振動により使用者に着信を知らせる機能、音により使用者に着信を知らせる機能、及び音声等の受話音を再生する機能を有する携帯端末装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】
第1の実施例における電気-機械-音響変換器の平面図。
【図2】
図1の電気-機械-音響変換器のII‐II’断面の断面図。
【図3】
第2の実施例における電気-機械-音響変換器の平面図。
【図4】
図3の電気-機械-音響変換器のIV-IV’断面の断面図。
【図5】
第3の実施例における電気-機械-音響変換器の平面図。
【図6】
図5の電気-機械-音響変換器のVI-VI’断面の断面図。
【図7】
第4の実施例における電気-機械-音響変換器の平面図。
【図8】
図の電気-機械-音響変換器のVIII-VIII’断面の断面図。
【図9】
第5の実施例における電気-機械-音響変換器の平面図。
【図10】
第6の実施例における電気-機械-音響変換器を取り付けた携帯電話機の一部破断斜図。
【図11】
第7の実施例における電気-機械-音響変換器を取り付けた携帯電話機の断面図。
【図12】
第8の実施例における電気-機械-音響変換器に電気信号を入力するブロック図。
【図13】
第9の実施例における電気-機械-音響変換に電気信号を入力するブロック図。
【図14】
図13の検出器を説明するための図。
【図15】
第10の実施例における電気-機械-音響変換器に電気信号を入力するブロック図。
【図16】
第11の実施例における電気-機械-音響変換器に電気信号を入力するブロック図。
【図17】
第12の実施例における電気-機械-音響変換器に電気信号を入力するブロック図。
【図18】
第13の実施例における電気-機械-音響変換器に電気信号を入力するブロック図。
【図19】
第14の実施例における電気-機械-音響変換器に電気信号を入力するブロック図。
【図20】
従来の電気-機械-音響変換器の断面図。
【符号の説明】
1 振動板
2 支持部材
3 ヨーク
4 マグネット
5 プレート
6、6’ 重り
7、7’ サスペンション
8 ボイスコイル
9 磁気回路部
10 可動部
18 重り
19 空気抜き穴
20 振動板
21 支持部材
22 プレート
22’センターポール
23 マグネット
24 励磁コイル
25、26 サスペンション
27 磁気回路部
28 可動部
31 サスペンション
31’ロール部
32 支持部材
33 空気抜き穴
34 音響ポート
36 携帯電話機本体
37 電気-機械-音響変換器
38 音孔
39 外側ケース
40 携帯電話機本体
41 電気-機械-音響変換器
42 音孔
43 外側ケース
44 穴
45 電気-機械-音響変換器
46a 第1の電気信号発生装置
46b 第2の電気信号発生装置
47 検出器
SW1、SW2、SW3、SW4 スイッチ
48 アンテナ
49 受信信号処理部
50 レシーバ
51 電気信号発生装置
52 増幅器
53 検出器
56、59 リミッタ
57 ローパスフィルタ
58 ハイパスフィルタ
101 振動板
102 ケース
103 ヨーク
104 マグネット
105 底板
106 サスペンション
107 ボイスコイル
 
訂正の要旨 (3) 訂正の要旨
(3-1) 特許請求の範囲の請求項1
「振動板と、
前記振動板に対向して配置された磁気回路部材と前記磁気回路部材に取り付けられ、前記磁気回路部材より比重の大きい重りとを含む可動部材と、
前記可動部材を支持する少なくとも一つのサスペンションと、
前記振動板と前記サスペンションとを支持する支持部材と、
前記振動板と前記磁気回路部材との間に働く磁気駆動力を発生させる駆動手段とを具備する電気-機械-音響変換器。」
を、
「振動すると音を発生する振動板と、
前記振動板に対向して配置された磁気回路部と前記磁気回路部に固着されていて前記磁気回路部より比重の大きい重りとを含む可動部材と、
前記可動部材を支持する少なくとも一つのサスペンションと、
前記振動板と前記サスペンションとを支持する支持部材と、
前記振動板と前記磁気回路部との間に働く磁気駆動力を発生させる駆動手段とを具備し、
前記駆動手段によって前記振動板又は前記可動部材を振動させることにより、前記振動板からは音を発生し、前記可動部材からは振動を発生するようにした電気-機械-音響変換器。」、
と訂正する。
(3-2) 特許請求の範囲の請求項2から請求項4までにおいて、「磁気回路部材」を「磁気回路部」と訂正する。
(3-3) 特許請求の範囲の請求項7において、「前記重りが」を「前記重り及び前記サスペンションが」と訂正する。
(3-4) 特許請求の範囲の請求項20において、「実質的に」を削除するように訂正する。
(3-5) 明細書段落[0008]第2行から第H行まで(特許第2963917号公報に掲載された特許明細書の段落[0008]第1行から第15行まで)の
「本発明の電気-機械-音響変換器は、振動板と、前記振動板に対向して配置された磁気回路部材と前記磁気回路部材に取り付けられ、前記磁気回路部材より比重の大きい重りとを含む可動部材と、前記可動部材を支持する少なくとも一つのサスペンションと、前記振動板と前記サスペンションとを支持する支持部材と、前記振動板と前記磁気回路部材との間に働く磁気駆動力を発生させる駆動手段を具備する。前記重りは、前記磁気回路部材の外側に配置されている。前記駆動手段は、前記磁気回路部材の磁気空隙に挿入され一端が前記振動板に接合されたボイスコイルである。他の観点の前記駆動手段は、前記磁気回路部材のセンターポールの外周に配置された励磁コイル及び前記磁気回路部材と磁気空隙を設けて配置された磁性体を有する電磁型の駆動手段である。」
を、
「本発明の電気-機械-音響変換器は、振動すると音を発生する振動板と、前記振動板に対向して配置された磁気回路部と前記磁気回路部に固着されていて前記磁気回路部より比重の大きい重りとを含む可動部材と、前記可動部材を支持する少なくとも一つのサスペンションと、前記振動板と前記サスペンションとを支持する支持部材と、前記振動板と前記磁気回路部との間に働く磁気駆動力を発生させる駆動手段を具備する。前記重りは、前記磁気回路部の外側に配置されている。前記駆動手段は、前記磁気回路部の磁気空隙に挿入され一端が前記振動板に接合されたボイスコイルである。他の観点の前記駆動手段は、前記磁気回路部のセンターポールの外周に配置された励磁コイル及び前記磁気回路部と磁気空隙を設けて配置された磁性体を有する電磁型の駆動手段である。」、
と訂正する。
(3-6) 明細書段落[0014]第13行及び段落[0045]第8行(特許第2963917号公報に掲載された特許明細書の段落[0014]第17行及び段落[0045]第11行)の「実質的に200Hz以上」を「200Hz以上」と訂正する。
異議決定日 2000-12-11 
出願番号 特願平9-329137
審決分類 P 1 652・ 16- YA (H04R)
P 1 652・ 532- YA (H04R)
P 1 652・ 121- YA (H04R)
最終処分 維持  
前審関与審査官 菅澤 洋二  
特許庁審判長 江畠 博
特許庁審判官 小池 正彦
橋本 恵一
登録日 1999-08-13 
登録番号 特許第2963917号(P2963917)
権利者 松下電器産業株式会社
発明の名称 電気-機械-音響変換器及び携帯端末装置  
代理人 内藤 浩樹  
代理人 坂口 智康  
代理人 加藤 伸晃  
代理人 岡部 正夫  
代理人 朝日 伸光  
代理人 内藤 浩樹  
代理人 岩橋 文雄  
代理人 東島 隆治  
代理人 東島 隆治  
代理人 坂口 智康  
代理人 岩橋 文雄  
代理人 吉澤 弘司  

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